説明

特にスペーサー分子を介してS−S架橋により結合することによって基材に共有結合したシステイン化合物を含む抗菌剤

本発明は、システイン化合物が、特に、スペーサー分子を介してS−S架橋により基材に結合することにより、基材に共有結合している抗菌剤に関する。スペーサーは、1つまたは複数のヘテロ原子、例えば、O、S、N、PおよびSiにより随意に中断される炭素鎖を含み、当該炭素鎖は、1つまたは複数のアルキル基、好ましくは1〜5個の炭素原子を有する低級アルキル基、あるいはヒドロキシル基またはアルコキシ基で随意に置換されている。本発明はまた、本発明の抗菌剤でコーティングされた基材に関する。本発明の抗菌剤は優れた抗菌性を有し、種々の機器(医療機器、食品取扱に使用される機器、等)の表面および基材をコーティングして、微生物の蓄積および/または成長および/または増殖および/または生存、ならびに/あるいはバイオフィルムの形成、を防止または抑制するために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、抗菌剤に関する。また、微生物と接触する、かつ/あるいは微生物が蓄積および/または付着しないようにするのが望ましい機器に関する。基材または機器表面には本発明の抗菌剤が存在する。
【0002】
〔技術背景〕
例えば医療、食品取扱いおよび食品保存の様々な状況および用途において、使用される機器および製品を、微生物が成長または増殖しないようにしておくことは非常に重要である。特に、病院の患者と接触する医療機器に関しては、汚染された機器が、多くの患者の健康に深刻な影響を及ぼすような態様の疾患および微生物の伝播に関与し得るので、上述のことが極めて重要であるといえる。
【0003】
例えば、潜在的に有害な微生物と接触する機器および製品が、細菌、および/またはウイルス、真菌等の他の微生物を抑制または殺傷して、疾患の伝播を防止することができれば、非常に好都合であろう。
【0004】
目的は、その後バイオフィルムに発展する可能性がある初期のコロニー形成を防止することである。コロニー形成の初期段階は、微生物の抑制または殺傷のいずれかにより抑止される。
【0005】
このような防護を確立するために、元素AgおよびNiのイオン等の金属イオンを機器の表面に付与することが知られている。適切な速度でAgイオンを周囲に放出させ、それによって微生物の蓄積を防止する目的で、Agを合金として利用することが多い。
【0006】
しかし、この解決策に関する1つの課題として、当該表面に金属または合金が付着することが挙げられる。また、抗菌効果の調整は容易でない。さらに、金属イオンでコーティングされた表面が細胞毒性効果を有する可能性がある。
【0007】
米国特許出願公開第6475434号は、感染性微生物によって形成され、構成されたバイオフィルムを除去するための、また、医療機器をコーティングしてバイオフィルムの形成を防止するためのバイオフィルム浸透性組成物を開示している。当該組成物は、成分の1つとして選択される、システインおよびシステインのアナログまたは誘導体を含有する。システインまたはシステイン関連成分の役割は明らかでないが、システインまたはシステイン関連成分は、リファマイシン、テトラサイクリン、ペニシリン等の既知の抗菌剤と組み合わされて、特にコーティング用途に使用されている。特に、米国特許出願公開第6475434号の実施例2および3に示されているように、試験されたシステイン成分(N−アセチルシステイン)は、試験された抗生物質と組み合わせない限り、効果を示さない。さらに、バイオフィルム防止のために、すべて成分が、機器に含浸させ、また、製造中に機器材料と混合する形で利用されている。次いで、これらの成分は、機器材料に付着・浸透することによって物理的に結合することになるが、このことは、これらの成分の作用のかなりの部分が、これらの成分が周囲に放出される際に生じることを意味している。特に医療用途では、上記コンセプトは、抗菌効果、細胞毒性効果および免疫原性効果の間のバランスの厳密な調整を必要とする。拡散が時間および温度に依存するので、コーティングされた機器の保管および耐久性もまた重大な問題となる。
【0008】
N−アセチルシステインが溶解状態で細菌増殖に影響を及ぼす可能性があることが、Olofssonら(Applied and Environmental Microbiology、August 2003;69(8)、4814−4822)に記載されている。N−アセチルシステインのその他の作用は、多種の細菌について、ステンレス鋼表面上への細菌の付着を減少させること、またはステンレス鋼表面上のバイオフィルムの剥離を促進することであった。
【0009】
本発明の主な目的は、機器表面において、安定的かつ長期的に、個々の微生物の蓄積および/または付着を防止し、または少なくとも実質的に減少させる能力を有する抗菌剤を提供することである。
【0010】
この目的は、本発明の第1の態様、すなわち共有結合したシステイン化合物を保持する基材を含む抗菌剤において、本発明者らにより実現される。
【0011】
特に、本発明は、システイン化合物がスペーサー分子を介してS−S架橋により基材に結合している抗菌剤を提供する。スペーサーは、1つまたは複数のヘテロ原子、例えば、O、S、N、PまたはSiによって随意に中断される炭素鎖を含み、この炭素鎖は、1つまたは複数のアルキル基、好ましくは1〜6個の炭素原子を有する低級アルキル基、あるいはヒドロキシル基またはアルコキシ基で随意に置換されている。以下に挙げる例において、システイン化合物はS−S架橋を介してスペーサーの末端位置に結合しているが、これが本発明の好ましい実施形態である。しかし、システインの作用が周囲に向けられる限り、スペーサー鎖は他の位置に存在してもよい。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によれば、基材に結合しているシステイン含有リガンドは下記一般式を有する。
(1) R−X−L−S−S−(システイン成分)
[式中、
は、可溶性または不溶性の基材、例えば固体表面または可溶性の有機分子もしくはポリマーであり、
Xは、基材およびLの間のカップリング反応から生じた結合基であり、
Lは、(CH(mは1〜20、好ましくは1〜12、1〜8または1〜6である)、(CHCHO)(CHまたは(CH(CH)CHO)(CH(nは1〜1000、好ましくは1〜100または3〜50であり、pは1〜20、好ましくは1〜12、1〜10または1〜6である。)からなる群より選択されるスペーサー分子であり、(CH2)セグメントは、ジスルフィド架橋に結合し、また、ブロックコポリマー中の(CHCHO)セグメントおよび/または(CH(CH)CHO)セグメントの間に随意に存在し、
システイン成分は、システイン、あるいはシステインによって付与される抗菌活性と実質的に同じか、それに匹敵する抗菌活性を提供するシステインアナログまたはシステイン誘導体、を含むシステイン化合物の残基を表す。]
システイン化合物のチオール基に由来する1個のS、およびスペーサー分子に由来する1個のS、を含むS−S架橋を介してシステイン化合物が結合している、本発明の一実施形態は、その優れた抗菌活性により、少なくともいくつかの用途において特に重要であることが認められている。
【0013】
したがって、機器の表面に共有結合した抗菌剤が提供される。この抗菌剤は、共有結合しているシステインの驚くべき有利な作用により、個々の微生物に対して高度かつ長期的な効果を有し(以下の実施例を参照されたい)、その結果、個々の微生物の付着および蓄積を防止し、または実質的に抑制する。このように、本発明は、表面または基材が抗菌性/抗細菌性を有することが望ましいすべての用途において大きな可能性を提供するものである。本発明の剤は細胞毒性を有しないと思われ、これにより多くの様々な用途で使用可能になることが本発明者らにより示されたが、これは、本発明のさらなる本質的な利点である。
【0014】
本発明の一態様では、微生物が蓄積および/または付着しないようにしておくのが望ましい種々の機器が、本発明の抗菌剤で完全または部分的にコーティングされる。
【0015】
別の態様では、本発明は、基材および/または機器表面上で微生物が成長および/または増殖するのを防止するための、本発明の抗菌剤の使用に関する。
【0016】
米国特許出願公開第6475434号とは対照的に、本発明は、システインまたはシステイン関連成分を基材に共有結合させる方法を提供する。本発明の主な用途は、固体の機器に抗菌コーティングを施すことである。このコンセプトにより、抗菌剤は永続的に表面に結合し、抗菌効果は、放出薬剤との反応ではなく面接触により発生するが、このことは、生物環境に悪影響が生じる危険性を大いに低下させるであろう。これは、システインが放出薬剤として提供される先行技術の方法と比較した主な相違点である。また、共有結合により、表面は、表面濃度および化学構造の点でさらに特定することができる。したがって、表面に結合したシステインまたはシステイン関連成分それ自体だけでなく、少なくともいくつかの用途では、システインまたはシステイン関連成分を表面に結合させるジスルフィド結合もまた、抗菌効果に関する本コンセプトの独創的な特微の1つである。さらに、現場および保管場所の双方において、活性薬剤の拡散・漏出が大きな問題となる表面と比較して稠性および耐久性に優れた表面が、共有結合によって提供される。
【0017】
「抗菌剤」は、共有結合したシステイン成分を有するように修飾された基材を含み、少なくとも1種の特定の微生物の蓄積、成長および/または増殖を防止し、または少なくとも実質的に防止する効果を有する。この効果は、例えば、当技術分野で既知の方法により、例えば、本明細書の実施例で使用されている方法により観察することができる。
【0018】
「システイン成分」は、システイン、あるいは抗菌効果を有するシステインアナログまたはシステイン誘導体、例えば、ホモシステインまたはN−置換システイン(N−アセチル−L−システイン、N−アルキルシステイン等)、の残基を含む。
【0019】
「基材」(R)は、システイン成分の結合により抗菌性を獲得するように官能化することが可能な、可溶性または不溶性の任意の製品、機器、分子またはポリマーを含む。特に大きな関心の対象となるのは、ヒトまたは動物の体、特に感受性の高い組織および体液の内部で、またはこれらと接触した状態で使用される医療機器のような固体の製品である。可能な用途のリストは広範囲にわたり(以下を参照されたい)、例えば、体外用途に使用されるインプラント、チューブ、ドレナージカテーテル等、ならびにドレナージ(例えば、耳または水頭症)、透析、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工皮膚、透析装置、人工心肺装置、縫合材料、創傷ケア器具、歯科用製品、非経口投与、薬物送達、ステント、ポンプ(例えば、インスリン用)、補聴器、シリンジ、縫合材料、ペースメーカー等が含まれる。
【0020】
「防止」あるいは「抑制」は、本発明の剤が存在する位置で、微生物の成長および/または増殖および/または蓄積を阻止し、または実質的に減少させ、かつ/あるいは微生物の生存可能性を実質的に減少させることが可能であることを含む。
【0021】
本発明の主な可能性は、微生物に接触する可能性があり、微生物が蓄積および/または増殖しないようにすること、ならびに/あるいは生存する微生物の貯蔵庫として役立つこと、が望ましい固体機器上に抗菌性の表面を与えることを可能にする点にある。微生物の存在が多かれ少なかれ危険になり得る医療および食品取扱用途で使用される多くの機器が、本発明の可能性を明らかにする。これを可能とするために、本発明者らは、物質システインをうまく使用した。本発明者らにより、本明細書で説明・主張されるように、共有結合したシステインが予想外に強い抗菌効果を示すことが明らかにされた。N−アセチルシステイン、ホモシステイン等のシステインアナログおよびシステイン誘導体に関しても同様に抗菌効果が示された。
【0022】
エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのポリマーまたはオリゴマー、すなわちポリ(エチレンオキシド)またはポリ(エチレングリコール)は容易に水に溶け、さらに、ポリ(エチレンオキシド)はタンパク質に反発する性質を有し、これらは、特に表面に関連して使用される場合に、本発明の抗細菌作用を増強する。
【0023】
システイン成分に応じて異なるが、下記構造は、使用される適切なリガンドの例である。
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
式(2)において、置換基R、Rは、水素、あるいは1〜20個、好ましくは1〜12個、より好ましくは1〜6個の炭素原子を有するアルキル、の任意の組合せであり、qは、前述のLセグメントのメチレン成分のmおよびpと同じ範囲、すなわち1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜6である。q=1およびR=R=Hの場合、システイン成分は、システインホモログおよびシステイン誘導体と同様に、1つの硫黄をジスルフィド結合に与えるチオール基を介して結合するシステイン残基になる。システインのアミノ基のR、Rを直接アルキル化するだけでなく、システイン成分の窒素を含むアミド結合を介してアルキルを結合させてもよく、例えば、Rが水素、Rがメチル基である場合、システイン成分はアセチルシステインになる。
【0026】
式(3)において、R、R、Rは、正に荷電した第四級アミノ基を生じさせるアルキル置換基である。この場合、R、R、R置換基のアルキル鎖中の炭素原子数を任意に組み合わせて、1〜25個、好ましくは1〜18個の範囲で変化させてもよい。さらに、qは、前述のLセグメントのメチレン成分のmおよびpと同じ範囲、すなわち1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜6である。
【0027】
pHに依存して、荷電したイオン性基は、(2)ではプロトン化されたアミノ基として、また、(2)および(3)ではカルボキシレート基として存在してもよい。
【0028】
基材Rおよびリガンドの間の結合−X−は、Rの官能基および各リガンドの間の化学反応によって得られる。Rが化学官能基Yを有し、反応でXを生じさせる官能基Zをリガンドが有する場合、副生成物が省略された主要なカップリング反応を次のように書き表すことができる。
【化3】

【0029】
YおよびZの選択ならびに反応条件に応じて、得られるX基は、アミド、第二級アミン、エステル、エーテル、ヒドラジン、ウレタン、尿素、カーボネート等になる。有機化学において十分に確立された特異的かつ効率的な多数の反応が利用可能である。それゆえ、Y、ZおよびX基、ならびに本明細書に示した反応は例であり、本発明を限定するものではない。
【0030】
【表1】

【0031】
およびリガンドの間で反転するが、例(a)〜(p)のY基およびZ基をRおよびリガンドの間で入れ替えて、同じX結合を生じさせてもよい。例えば、(a)の官能基をY=NHおよびZ=COOHに入れ替えた場合、X結合はHNOCになる。例(e)および(f)において、シッフ塩基として一般に知られている最初に得られたイミンは、NaCNBHで還元されて第二級アミン結合になる。選択性および収量を増加させるために中間ステップを使用することが多い。よく知られている例として、(a)のカルボキシル基(Y)を、アミノ基(Z)を用いたアミド形成前に、カルボジイミドおよび/またはN−ヒドロキシコハク酸イミドで活性化することが挙げられる。アミン基をジスクシンイミジルカーボネートで活性化し、他のアミン基と尿素結合を形成させてもよい。
【0032】
カルボキシル基およびアミノ基に加えて、ヒドロキシル基もまた、次のような多くのカップリング反応に有用である。
・(h)のZ基(φはベンゼン環を示す。)を生成するカーボネート、または(m)および(n)のようなトレシル基、に誘導体化した後に行うカップリング反応
・アミンおよび/またはチオールのような求核剤とカップリング反応させるために、トシルカーボネート基もしくはスクシンイミジルカーボネート基への誘導体化、またはBrもしくはCNBrを用いた処理、によりヒドロキシル基を活性化した後に行うカップリング反応
・2つのヒドロキシル基をホスゲンで結合して、カーボネート結合を形成させるカップリング反応
【0033】
本明細書中で触れた反応やその他のカップリング反応のカップリング化学に関する概括的な説明が文献(Herman S.ら、J.Bioact.Compat.Pol.1995、10、145−187参照)に見出される。
【0034】
表1の例において、R・は、エチレン性、アクリル性またはメタクリル性の二重結合を始めとする(これらに限定されない。)不飽和基との反応に利用可能なフリーラジカルを有する固体基材を表す。反応性の炭素−炭素結合に結合した「リガンド−L−S−S−(システイン成分)」を有するモノマーを使用することによって、基材に共有結合し、側鎖基として上記リガンドを有するオリゴマー鎖またはポリマー鎖を得ることができる。オリゴマー鎖またはポリマー鎖中のこれらの側鎖基の濃度は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルまたはアクリルアミドを始めとする(これらに限定されない。)適切なモノマーを用いた共重合によって調整することができる。他の方法としては、フリーラジカルを提供する表面に容易に結合するが連鎖成長が非常に低下した、マレイン酸、無水マレイン酸、チグリン酸またはアリルアミンのようなモノマーを使用することが挙げられる。したがって、これらのモノマーから生じた官能基、すなわち無水物、カルボキシルまたはアミンは、基材上の非常に薄い表面層に限定される。この方法によって、リガンドの各カップリングが、基本的に表面上の官能基への直接的な末端付加によって生じ、その結果、当該リガンドがグラフト重合に関与する場合に得られる構造と比較して異なる構造がもたらされる。
【0035】
Y基がシステイン成分のアミノ基またはカルボキシル基とではなく、リガンドのZ基と選択的に反応すれば、R−Yとのカップリング反応が(4)に従って生じる。
【0036】
Y基が、下記式:
(5) Z−L−S−S−(システイン成分)
によって表されるリガンドのZ基とのみ反応するのではなく、システイン成分のアミノ基および/またはカルボキシル基とも反応する可能性がある場合は、これらの基を、必要に応じてそれぞれ置換およびエステル化により保護してもよい。アミノ基は、ターシャリーブチルオキシカルボニル(t−BuO)を始めとする置換基により保護することができる。もちろん、これは、アミノ基がアルキル化されて、式(2)および(3)に示した第三級アミンまたは第四級アミンになっていない場合にのみ必要になる。システイン成分のカルボキシル基はメチル化によって保護することができる。式(4)におけるようにR−YおよびZ−リガンドの間のカップリング反応によりX結合リガンドを得た後、t−BuO基およびエステルメチル基を、それぞれ酸およびアルカリによる加水分解によって除去し、Z−リガンドの元の構造を回復させてもよい。これらの選択肢により、式(2)〜(4)およびに式(5)に示され、また、種々のZ官能基と共に利用可能なZ−リガンドは、官能化された表面を単一ステップで修飾するためのキット構成要素として使用される、本発明の独立の要素をなす。基材の官能基Yがフリーラジカルであり、リガンドの官能基Zが反応性の不飽和炭素−炭素結合である前述の例も、本発明のこの態様に包含される。
【0037】
官能基Yが固体基材に結合している場合、基材表面上の当該部位でリガンドを合成させてもよい。これは、副生成物だけでなく未反応のY基が中間ステップで除去されるという利点を有する。
【0038】
この方法では、第1ステップにおいて、R−Y表面を、下記一般組成を有する化合物と反応させる。
(6) Z−L−S−S−R
[式中、Lは前記と同義であり、置換基Rは、チオールとの反応で容易に置換され、チオール化合物との新たなジスルフィド結合を生じる。]
【0039】
第1のカップリングステップは次のように表すことができる。
【化4】


また、続くステップは次のように表すことができる。
【化5】

【0040】
の一般的な例としてはピリジニルが挙げられるが、ダンシルもまた使用される。また、(6)のジスルフィド結合は、チオールとの反応でジスルフィド結合を生ずるチオ硫酸基に由来するものでもよい。
【0041】
さらに、本質的に前記と同じ化学構造を得るための代替手段があり、この代替手段もまた本発明の範囲内にある。この場合、チオールセグメントまたはチオール基−L−SHはカップリング基Xを介してRに結合し、LおよびXは前記と同義であり、−SHは末端のチオール基である。これは、酸化剤の存在下でシステイン成分のチオール基とのみ反応し、システイン成分とジスルフィド結合を形成する。
【化6】

【0042】
式(9)に概略的に示されるように、最後に式(9)に従ってシステイン成分が結合すると、Rに共有結合した抗菌性リガンドが得られる。
【0043】
プラスチック、ゴム、セルロース化合物等のポリマー材料の表面の官能化は、例えばカルボキシル、アミン等の官能基を保持する化合物のグラフト化または吸着によって実現することができる。基材への共有結合を生じさせるグラフト化は、表面の官能化を必要とする。フリーラジカルと反応することが可能な化合物は、UV照射、電子線照射、γ線照射またはガスプラズマによる活性化中またはその後にグラフト化される。これらの方法により、フリーラジカルをポリマー基材に生成させ、基材上のグラフト重合を開始させることができる。固体のポリマー基材を表面修飾するためのこれらの方法は、表1の例(q)に示されている。この過程において、グラフト化は通常、グラフト重合として知られている基材表面からの連鎖成長を伴う。
【0044】
フリーラジカルグラフト重合において頻繁に使用されるモノマーとしては、ビニルピロリドンだけでなく、アクリル酸、メタクリル酸、およびそれらのエステルまたはアクリルアミド、のようなアクリル酸化合物が挙げられる。例えば、カルボキシル、アミノ、ハロゲン等の官能基を含むモノマーのグラフト重合により、共有結合した官能基を固体表面に与えて、抗菌性リガンドを共有結合させてもよい。本発明にも包含されるグラフト重合の特殊な用途は前述したが、そこでは、Zが、反応性の不飽和炭素−炭素結合を含むフリーラジカル反応性基である場合に、式(6)に表した抗菌性リガンドをグラフト重合させることができる。これによって、グラフト重合した鎖における側鎖基として抗菌性リガンドが生成する。側鎖基の濃度および位置は、適切なビニルモノマーまたはアクリルモノマーを用いたグラフト共重合によって調整することができる。しかし、前述のように、抗菌性リガンドは、基材に直接末端結合させてもよい。この場合、基材の官能化は、無水マレイン酸、マレイン酸およびトリフル酸のような、連鎖成長がわずかな不飽和化合物、またはアリルアミンのような自己停止性モノマー、を用いた単分子グラフト化により、第1ステップにおいて行われる。この方法により、官能基を表面に生成させて、化学カップリングにより抗菌性リガンドを直接、末端結合させることができる。式(6)のビニルリガンドまたはアクリルリガンドが例えば立体化学的な理由で重合しない場合にも、ビニルリガンドまたはアクリルリガンドは、末端反応により基材上のフリーラジカルと直接結合する。
【0045】
基材それ自体が、ポリエステル(PET)、ポリアミド(Nylon(商標)、Nomex(商標)、Kevlar(商標))またはポリアクリレート(PMMA)のような加水分解性プラスチック材料である場合、表面の官能化は、塩基性溶液または酸性溶液中での加水分解により得られる。ポリエステルはカルボキシル基およびヒドロキシル基を、また、ポリアミドはカルボキシル基およびアミン基を生じさせ、これらは、カップリングまたは吸着による次の修飾において使用することができる。
【0046】
ステンレス鋼のような金属の基材は、放射線処理およびプラズマ処理により、カルボキシル基で官能化された表面とすることができる。ステントのような医療製品は、シランガスプラズマおよびアクリル酸に曝露することによりカルボキシル化される。金および銀の表面は、チオール化合物およびジスルフィド化合物に対する金および銀の反応性を利用してグラフト化することができるが、カルボキシルまたはアミンのような他の基も保持するであろう。金属基材についても、表面のフリーラジカルグラフト化は、フリーラジカルとの反応で共有結合を形成可能なモノマーに曝露している間に導電性基材をカソード分極させることによって実現することができる。表面グラフト化は、開始、成長およびモノマーの点で固体ポリマー基材に対するグラフト化と類似し、表1中の例にも示されている。
【0047】
ポリマー基材の表面修飾が吸着によって行われる場合、化学酸化、コロナ処理または酸化ガスプラズマにより基材の前処理を行って、表面層に親水基およびイオン性基を形成させることが多い。その一例は、過マンガン酸塩または過硫酸塩で酸化させたポリマー基材上にポリエチレンイミンを吸着させることである。得られるアミノ表面は、ポリアクリル酸、硫酸デキストラン、ヘパリン等の負荷電ポリマーの適切なpHでの吸着のみならず、化学カップリング反応にも使用することができる。イオンで荷電した状態にあるそのような高分子電解質は、最外層に興味深い特性を有する交互層に吸着することが多い。特に、金属表面のカルボキシル化は、ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸の吸着によって行われることが多い。金属表面は、次いで、上述のように、化学カップリングによって、あるいは例えばポリエチレンイミンもしくはポリアリルアミンのイオン吸着によってアミン化することができる。
【0048】
吸着を実現させる他の方法のうち、基材の予備的官能化を全く必要としない方法としては、疎水性および親水性のブロックまたはセグメントを両方とも有し、基材表面に選択的に吸着し、それを官能化するブロックコポリマーを使用することが挙げられる。そのようなブロックコポリマーの典型例としては、ポリエチレングリコール−ポリプロピレン(Pluronics)の他、ポリアクリレート−ポリスチレン、ポリアクリレート−ポリエチレン、ポリブタジエン−ポリスチレン、ならびにアミノまたはカルボキシル官能基を含んでもよい他のブロックコポリマーが挙げられる。
【0049】
定義上、本発明の「抗細菌性リガンド−L−S−S−(システイン成分)」は、常に、基材Rに共有結合している。
【0050】
しかし、Rの定義には有機化合物および高分子化合物が包含されるので、Rは、後に共有結合または吸着により固体基材に結合可能なポリマーも包含することになる。
【0051】
固体基材上への本発明の抗菌剤の共有結合に代わる選択肢は、吸着による固体基材への抗菌剤の付着を包含するRの定義によって明確になる。この場合、Rは、例えば、ポリエチレンイミンもしくはポリアクリル酸のようなイオン性ポリマー;またはポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールのような、疎水性/親水性ブロックを有するブロックコポリマー;またはポリスチレン、ポリエチレン等とのブロックコポリマー中のポリアクリレート、を始めとする可溶性基材である。システイン成分は、本明細書に記載のようにさらなるステップにおいて固体基材上に固定される可溶性基材に共有結合する。
【0052】
このように、表面修飾、ならびに抗菌剤を結合させるために使用される後の化学カップリングまたは吸着は、多くの様々な方法により行うことができる。さらに、基材は、合成または天然のポリマー、ならびに金属および無機物を含む、有機材料または無機材料である。それゆえ、本明細書および以下の実施例で示される方法、化学反応および基材は、本発明に包含される抗細菌性の剤および表面を得るための説明的なものに過ぎず、限定的なものではない。
【0053】
L−システイン等の本発明の剤の表面濃度は、10−11〜10−4モル/cm、好ましくは10−9〜10−5モル/cmである。
【0054】
臨床的または技術的に重要な微生物の抑制を確立するために、本発明によれば、多量の曝露(開始培養物中400000cfu/mlの力価)から開始するアッセイで、放出可能な付着生存細菌に関して、100倍の抑制が達成されるのが好ましい。これは、生物の特異性および曝露の程度/力価に一部依存する。試験条件は、実際の臨床的状況において予想されるものをはるかに上回る。
【0055】
成長および/または増殖を防止するために本発明を利用することができる微生物の例としては、様々な種のブドウ球菌(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、および他のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌である腐性ブドウ球菌等)、エンテロコッカス、ナイセリア(髄膜炎菌、淋菌)、連鎖球菌(緑連菌、溶血性および非溶血性、B群およびD群、肺炎球菌)、クロストリジウム(ウェルシュ菌、ボツリヌス菌)、巨大菌から選択される(これらに限定されない。)種々のグラム陽性菌と、ならびに種々のエンテロバクター、大腸菌、クレブシエラ、プロテウス、カンピロバクター、エルシニア、シゲラ、サルモネラ、ヘモフィルス(インフルエンザ)、バクテロイデス(フラジリス、ビビウス)、シュードモナス(緑膿菌、セパシア)、レジオネラ(ニューモフィラ)から選択される(これらに限定されない。)種々のグラム陰性菌と、の両者を包含する嫌気性細菌および好気性細菌が挙げられる。さらに、種々のマイコプラズマ、カンジダ、および種々の真菌が挙げられる。細菌の好ましい例として、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌、グラム陰性菌である大腸菌、またはグラム陽性菌である巨大菌が挙げられる。
【0056】
本発明は、コロニー形成または感染による問題を引き起こす可能性がある様々な用途の表面上における微生物の増殖を防止または抑制するために使用することができる。本発明は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌(グラム陰性菌の大腸菌、またはグラム陽性菌の黄色ブドウ球菌および巨大菌)の両者に対して有効であることが本明細書に示されている。医療部門および病院環境におけるカテーテルのコロニー形成および感染に関して、数種の微生物が記載されている。これらの微生物には、下記のグラム陽性菌およびグラム陰性菌が含まれるが、これらに限定されない。種々の真菌もまた、特に(移植、または他の免疫抑制療法等を受けている)免疫低下患者においてしばしば問題となる。本発明は、人工機器(カテーテル、トラキオストミ(trachiostomi)チューブ等)における感染、コロニー形成またはバイオフィルム形成が医療において問題となる可能性がある場合に利用することができる。カテーテルにより感染することが知られ、または記載され、かつ本発明を利用することができる微生物の例は、以下に挙げるとおりである(これらに限定されない)。ブドウ球菌(例えば、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、および腐性ブドウ球菌等の他のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌);連鎖球菌(緑連菌、溶血性および非溶血性、B群およびD群、肺炎球菌);エンテロコッカス、フェカリス;クロストリジウム(ウェルシュ菌、ボツリヌス菌);種々のエンテロバクター、大腸菌、クレブシエラ(肺炎杆菌)、エンテロバクター・クロアカ、エンテロバクター・エロゲネス、プロテウス(ミラビリス)、カンピロバクター、エルシニア、シゲラ、サルモネラ、ヘモフィルス(インフルエンザ)、ナイセリア(髄膜炎菌および淋菌)、バクテロイデス(バクテロイデスおよびフソバクテリウム)、シュードモナス(緑膿菌、セパシア)、レジオネラ(ニューモフィラ)、セラチア菌、アシネトバクター、モルガネラ・モルガニー、ステノトロホモナス、シトロバクター、コリネバクテリア、セパシア菌、アシネトバクター;種々のマイコプラズマ(鶏マイコプラズマ等);さらにカンジダ、カンジダ・トロピカリス、カンジダ・パラプシローシス、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、アスペルギルス・フミガーツス、トリコスポロン、ブラストシゾミセス、ステノトロホモナス・マルトフィリア、マラセジア、セパシア菌、アスペルギルス等の真菌。
【0057】
本発明の多くの用途において、基材は、(a)ヒトまたは動物の体外で適用可能な体外医療機器、ヒトまたは動物の体内で適用可能な体内医療機器、等の医療機器、(b)食品機器、ならびに(c)他の機器、から選択される機器、装置および/または表面、の一部である。下記用途の例は、本発明の可能性を明らかにするためのものにすぎず、限定するものではない。
【0058】
医療機器(a)としては、以下から選択される用途のものが挙げられる。
・火傷用の人工皮膚または被覆物
・透析(透析装置に接続されたチューブ)
・耳ドレナージ(腔、創または膿瘍からのドレナージ、または耳の内部におけるドレナージ)
・耳インプラント(耳の内部におけるインプラント)
・補聴器(内部に留置された聴覚機器)
・人工心肺装置用チューブ(人工心肺装置に接続されたチューブ)
・水頭症ドレナージ(脳領域/脳室からのドレナージ)
・シリンジ(使い捨てのシリンジ)
・ストミス(stomis)(ストミ(stomi)デバイス)
・縫合材料(縫合器具)
・創傷ケア(ばんそうこう等の創傷ケア器具)
・カテーテル(使い捨てカテーテル器具および永久的カテーテル器具、例えば中心静脈カテーテル(CVC)、末梢静脈カテーテル(PVC)、末梢挿入中心カテーテル、導尿カテーテルおよび腹膜カテーテル)
・歯科用製品(口腔領域に埋め込まれた製品)
・体内インプラント(骨、プロパラドンティ(pro paradontit)(口腔領域に埋め込まれた製品))
・インスリンポンプ(インスリンポンプに接続されたチューブ)
・神経ガイドライン(神経用ガイド装置)
・ペースメーカー(ペースメーカーおよびその周辺機器)
・手術後のドレナージ(手術後のドレナージ器具)
・ヒトの体内の部位および/または器官および腔からのドレナージ(膿瘍、ネフロストミ(nephrostomi)等)
・体内/腔内のステント(例えば、脈管系および血管、器官および組織、腸管系、胆管等において、様々な管腔を開いた状態に保つために使用されるステント)
・液剤、溶液、輸液剤の非経口投与、薬物送達のために使用されるチューブまたは器具
【0059】
食品用機器(b)としては、以下から選択される用途のものが挙げられる。
・新鮮な食品に対する接触表面、あるいは食品加工で使用される基材または機器(細菌源に接触する可能性のある表面)
・薬剤パッケージ(開口部を無菌状態に保つため)(感受性の高い薬剤のパッケージング)
・搾乳器(搾乳作業中に細菌源にさらされる機器)
・散水器(微生物がコロニーを形成する可能性のある散水器および他の給水器、例えば、食料品店のマウスピース)
・水産業におけるローラー鋼(水産製品の生産量を高めるために水産業で使用されるローラー)
【0060】
その他の機器(c)としては、以下から選択される用途のものが挙げられる。
・コンタクトレンズ(通常のコンタクトレンズ)
・眼内レンズ
・化粧品のパッケージ製品(種々の化粧品のためのパッケージ)
・水タンク(水道水または再循環水を含む水タンク)
・給水管(水道水または再循環水を輸送する管)
・空気調節機器、空冷装置、水冷装置
・保管材料の表面で細菌が増殖することが好ましくない、製品または材料の保管用の他の機器
【0061】
これらのすべての用途において、本発明の抗菌剤は、上述のように、機器の表面に結合されて抗菌効果を奏する。
【0062】
好ましい実施形態において、抗菌剤はカテーテル表面に結合し、その結果、微生物の成長および/または増殖を防止することが可能なカテーテルが提供される。通常、カテーテルの内側表面および/または外側表面が本発明の剤でコーティングされる。カテーテル表面のコーティング工程は、カテーテルの押出し成形中もしくはその後に、あるいは別のステップとして、特定のカテーテルの組み立て前もしくはその後に、さらに組み込んでもよい。処理済みカテーテル試料について、周囲条件下で数年間保管後、抗菌効果が持続することが示されている。本発明で使用可能なカテーテルは、カテーテルの民間の供給会社、例えばRehau社、Habia社、Vygon社、Teknofluor社、Optinova社、Baxter社等から提供される。
【0063】
さらに他の態様において、本発明は、
抗菌剤で機器の表面を処理するために使用される部品のキットであって、
(a)式:Z−L−S−S−(システイン成分)[式中、L、mおよびシステイン成分は上記と同義であり、Zは、上で定義した化合物Yと反応して、上で定義した化学カップリング残基Xを生じさせることができるリガンド官能基である。]を有する、請求項1に記載の抗菌剤の前駆物質と、
(b)当該前駆物質を表面に共有結合させるために必要な試薬と、
を個別に含み、キットを使用するための説明書をさらに含むキットを提供する。必要な試薬は、(上で概説したように)YおよびZのカップリング反応を行ってXを得るために必要な試薬であり、これは、YおよびZの特性に応じて異なる。各状況でどのような試薬が必要であるかは、当業者であれば分かるであろう。
【0064】
ここに、目的の表面を本発明の抗菌剤で処理して表面に抗菌性を付与するために使用可能なキットが提供される。
【0065】
以下、本発明を、実施例を通じてさらに説明する。これらの実施例は、説明のみを目的とするものであり、何ら本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0066】
〔方法〕
修飾表面上での細菌増殖の抑制の分析:
細菌株:
下記の分析を、次の3つの異なる細菌株を用いて行った(用途はこれらの細菌株に限定されない)。グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌の臨床分離株(敗血症患者から分離)(臨床分離株B5381)、グラム陽性菌である巨大菌(Bm11株)、グラム陰性菌である大腸菌(D21株)。ここで選択された細菌は、臨床上重要な問題となる細菌を始めとするグラム陽性菌およびグラム陰性菌の両者を含む。
【0067】
力価測定のための細菌培養物の調製:
下記の説明は、官能性表面における細菌増殖の抑制を評価するために曝露源として使用される約400000〜800000cfu/mlの種々の細菌培養物の力価を測定することを目的とするが、それに限定されるものではない。LB培地(Luria Bertani broth)に特定の細菌株を接種した(この培地に限定されない)。選択した株を選択培地の寒天平板上に前日にプレーティングし、37℃で一晩増殖させた。いくつかのコロニーを平板からこすり落とし、これを用いて培地に接種し、その後、光学濃度0.4まで増殖させた。培養物を同じLB培地で希釈して、約400000〜800000cfu/mlの初期力価にした。階段希釈液をプレーティングし、適切な希釈液中のコロニーを数えることによって、細菌数を測定した(一般に、平板上で数えるのに適切な細菌数は30〜300である)。
【0068】
ディスクの前処理:
下記の実施例で述べるように、1時間、1.5時間、2.5時間、一晩、2日間または7日間の異なる期間、下記a)〜c)中でインキュベートすることによって、選択された状況下でディスクを前処理した。インキュベーションは、滅菌エッペンドルフチューブ中、37℃で回転(200rpm)させることによって行った。
a)リン酸緩衝生理食塩水(PBS)
b)ウシ胎仔血清(FCS)
c)滅菌LB培地
【0069】
種々の細菌株への官能性表面の曝露:
円形ディスクの形状の表面修飾基材を滅菌エッペンドルフチューブ中に置いた。各ディスク(直径5mmまたは9mm)を所定量(それぞれ500μlまたは1000μl)の初期培養物中に置いた。これらのチューブを「チューブ1」と呼ぶ。初期培養物中のディスクを、37℃で2.5時間、回転(200rpm)させながらインキュベートした。
【0070】
同じ容量の初期培養物を、基準試料として、並行してインキュベートした(これを「インキュベーション後培養物」と呼ぶ)。これを、ディスクに曝露されなかった場合に開始培養物(ディスクがインキュベートされる培養物)の力価がどのレベルまで増加するかを測定するために使用した。対照試料(抑制のレベルを比較するために使用されたディスクと同じディスク)を滅菌LB培地でインキュベートし、続いて、陰性対照として同様に処理してコンタミネーションを除去した。
【0071】
官能性表面への生存細菌の付着の分析のためのアッセイ:
インキュベーション(ここで説明しているケースでは2.5時間)後、滅菌ピンセットを用いて各チューブからディスクを取り出した。同時に、ディスクがインキュベートされた培養物を別の滅菌エッペンドルフチューブに移し、その力価を上述のように測定した。ピンセットおよびディスクを約4mlの滅菌PBS溶液の入ったチューブに浸し、次いで、ディスクをPBSの入った第2のチューブに入れ、「チューブ2」とした。その後、滅菌ピンセットでディスクをチューブ2から取り出した。この処置は、ディスクをインキュベートした細菌培養物に由来する少量の余分な細菌懸濁液を除去し、それにより、ディスク表面に直接付着していなかった細菌を除去するためである。
【0072】
洗浄したディスクを1mlのPBSが入ったエッペンドルフチューブ(「チューブ3」と呼ぶ。)に入れ、10分間、ボルテックス回転装置で激しく振盪させた。付着していた生存細菌(前のステップで除去されなかったもの)は、表面からPBS溶液中に分離された。この溶液を「洗浄液1」とし、力価を測定した。
【0073】
次いで、上記と同様にして、ディスクを、約4mlの滅菌PBSが入ったチューブに浸して滅菌ピンセットで取り出し、その後、約2mlの滅菌PBSが入った他のチューブに入れた。ディスクを滅菌ピンセットで直ちに取り出し、新しいエッペンドルフチューブに移し、ここに1mlの滅菌PBSを加え、上述のボルテックス処置を繰り返した。PBS溶液を滅菌エッペンドルフチューブに移し(この溶液を「洗浄液2」と呼ぶ)、力価を測定した。
【0074】
ディスクを短時間、滅菌クリネックスタオルに置いて、少量の余分な洗浄液2を除去し、続いてLB培地の滅菌寒天平板上に置き、37℃で一晩、インキュベートした。細菌コロニーの出現、ディスクの縁の周囲の細菌増殖を観察した。
【0075】
種々の培養物および洗浄溶液中の細菌力価の測定:
LB培地および選択した希釈液中で希釈を行い(下記参照)、コロニーを分析し、その数を数えた。
【0076】
100μlの容量の下記懸濁液の段階希釈液を広げた。
1.インキュベーション培養物(OD約0.4)に希釈する前の初期培養物
2.(400000〜800000cfu/mlと測定された)初期のインキュベーション培養物;1:100、1:1000、および1:10000
3.インキュベーション後培養物(基準となるものと、ディスクと共にインキュベートしたもの);1:1000、1:10000、1:100000
4.陰性対照(初期細菌培養物なしの培地)
5.洗浄液1;1:10および1:100
6.洗浄液2;1:1
【0077】
〔実施例1〕
直径5mm、厚さ1mmの平らな形状をしたポリカプロラクトン(PCL;UC787)試料を、パルス発生器(6.5MeV/75Hz/4μ秒/60mA)を用いて1Mradの線量まで前照射した。試料は、次いで、下記のように直接グラフト化してもよく、また、グラフト化前に液体窒素中で保存してもよい。
【0078】
照射後、あるいは液体窒素中で断続的に保存した後、PCL試料を、アクリル酸(20w%)および0.1w%のモール塩の水溶液中に入れ、サーモスタットで30℃に調温した。攪拌も兼ねる不活性ガスのパージによって、溶液から酸素を取り除いた。アクリル酸溶液中で2分後、試料を約30℃の大量の水道水で洗浄した。そして、さらに脱イオン水中で保存した後、表面修飾を行った。合計面積5cmを有する多くの試料、および非グラフト化基準試料を、所定量の0.01MのNaOHと共に周囲温度で6時間保存した。電位差滴定後、表面濃度が(1.8±0.2)×10−5モルCOOH/cmと測定された。
【0079】
〔実施例2〕
脱イオン水中の1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシ−スクシンイミド(NHS)(シグマ社)の別々の溶液を0℃で混合して、EDC 0.3MおよびNHS 0.075Mの濃度を有する溶液を調製した。
【0080】
実施例1によるアクリル酸グラフト化PCL試料をHEPES緩衝液(pH7.4)中で洗浄し、20mlのEDC/NHS溶液に浸した。振盪による10分間の攪拌の後、試料を脱イオン水中ですすぎ、0.1Mホウ酸緩衝液(pH8.5)を溶媒とする0.04M 2−(2−ピリジニルジチオ)エチルアミン塩酸塩(PDEA)の溶液を加えた。15分間の攪拌の後、試料を脱イオン水中ですすぎ、1M NaClを含有する0.1Mギ酸緩衝液(pH4.3)を溶媒とする0.5M L−システイン(シグマ社)の溶液を加えた。1M NaClおよび脱イオン水で洗浄した後、試料を空気中で乾燥させ、デシケーター中で保存した。ESCA(XPS)を用いた表面分析により測定したところ、窒素は6.8原子%であった。
【0081】
〔実施例3〕
実施例1に従って、低密度ポリエチレン(LDPE)の試料を、2.5Mradの線量まで前照射した。4分間、50℃としたこと以外は実施例1と同様の条件で、アクリル酸でグラフト化した後、カルボキシル化の値は(2.7±0.2)×10−5モルCOOH/cmであった。PDEAおよびL−システインのアクリル酸グラフト化LDPEへのカップリング反応を実施例2のPCLと同様にして行い、ESCAを用いた表面分析により、窒素の値として6.0原子%の値が得られた。
【0082】
〔実施例4〕
2mmの外径を有するポリウレタンカテーテル(Vygon(登録商標))を20mmの長さに切り取り、実施例1に従って1Mradの線量まで前照射した。グラフト化を、実施例2に従って行った。
【0083】
〔実施例5〕
アミン官能性表面上へのカップリングは実施例2の手順と同様である。相違点は、PDEA内のアミン基がカルボキシル基に置き換えられて、2−(2−ピリジルジチオ)−エチルカルボン酸(PDEC)が得られる点である。この化合物を表面上のアミン基と反応させると、カルボキシル基は、アミン表面との反応前にEDC/NHSで別々に活性化される。次いで、実施例2と同様に、L−システインとのカップリングを行う。
【0084】
〔実施例6〕
EDC/NHSで活性化した後、L−システインを、システイン内のアミン基を介してカルボキシル化PCL表面に直接カップリングさせた点を除いて、実施例1および2に従って基準表面を作製した。すなわち、PDEAとのカップリングステップを行わず、実施例2でPDEAとのカップリング時に得られるジスルフィド結合を除外した。
【0085】
〔実施例7〕
L−システインの代わりにアセチルシステインを、実施例2に記載の手順と同様に結合させた点を除いて、実施例1〜3に従って基準表面を作製した。
【0086】
〔実施例8〕
L−システインの代わりにホモシステインを、実施例2に記載の手順と同様に結合させた点を除いて、実施例1〜3に従って基準表面を作製した。
【0087】
〔実施例9〕
グラム陰性菌である大腸菌(D21株)の培養物中の細菌増殖の抑制について、500μlのLB培地中でPCLディスクを用いて試験した。ディスクは、下記のものと結合したものであった。
a)実施例1および2の、アクリル酸グラフト化PCLにカップリングしたL−システイン(「Cys−ディスク」と呼ぶ。)
b)実施例1のアクリル酸グラフト化PCL
【0088】
培養物の初期力価は513000cfu/mlであり、培養物のインキュベーション後力価(基準、ディスクなし)は28000000cfu/mlであった。
【0089】
Cys−ディスクと共にインキュベートされた培養物では、インキュベーション後培養物(ディスクなし)と比較して、インキュベーション中、培地において増殖が125倍抑制された。アクリル酸ディスクと共にインキュベートされた培養物では、インキュベーション後培養物(ディスクなし)と比較して、抑制が認められなかった。
【0090】
付着細菌について試験し、ディスクへの生存細菌の付着について分析したところ、Cys−ディスクでは、アクリル酸のみを有するディスクと比較して、生存細菌の数の100倍の抑制が示された。
【0091】
LB寒天上に置かれたディスクの縁の周囲の細菌増殖は、アクリル酸のみを有するディスクでは観察されたが、Cys−ディスクでは観察されなかった。
【0092】
〔実施例10〕
黄色ブドウ球菌(B5381、臨床分離株)の培養物中の細菌増殖の抑制について、1000μlの細菌培養物中でPEディスクを用いて試験した。ディスク上の官能性表面は次のとおりである。
a)実施例3の、アクリル酸グラフト化ディスクに結合したL−システイン(PBS中、1.5時間の予洗/プレインキュベーション済み)
b)実施例3の、アクリル酸グラフト化ディスクに結合したL−システイン(PBS中、2日間の予洗/プレインキュベーション済み)
c)実施例3の、アクリル酸グラフト化ディスクに結合したL−システイン(PBS中、7日間の予洗/プレインキュベーション済み)
d)実施例3のアクリル酸グラフト化ディスク
【0093】
インキュベーション培養物の初期力価は400000cfu/mlであり、インキュベーション後力価は10000000cfu/mlであった。
【0094】
1.5時間予洗したCys−ディスクと共にインキュベートされた培養物において、25倍の細菌増殖の抑制が示され、7日間予洗したCys−ディスクと共にインキュベートされた培養物において、17倍の細菌増殖の抑制が示された。
【0095】
細菌の付着について試験したところ、2日間および7日間予洗したCys−ディスクでは、生存細菌がアクリル酸ディスクの約50分の1であった。
【0096】
要約すると、Cys−カップリングによる抑制は少なくとも7日間持続するものと考えられる。
【0097】
〔実施例11〕
グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌(B5381、臨床分離株)の培養物中の細菌増殖の抑制について、LB培地培養物1000μl中でポリエチレン(PE)ディスクを用いて試験した。官能性表面は次のとおりである。
a)実施例3の、アクリル酸グラフト化ディスクに結合したL−システイン(「Cys−ディスク」と呼ぶ。)
b)実施例3のアクリル酸グラフト化ディスク(アクリルディスクと呼ぶ。)
c)実施例3の電子線照射ディスクのみ(「EBディスク」と呼ぶ。)
【0098】
並行して、培養物中に溶解したL−システインを用いて2つの対照実験(50μg/mlおよび5μg/ml)を行い、分析した。
【0099】
初期培養物を、アッセイ法に関して記載した培養物の10倍(400万cfu/ml超)に設定した。これにより、細菌に高度に曝露させた場合の生存細菌の付着の効果の評価が可能になる。
【0100】
Cys−ディスクの培養物では、インキュベーション後培養物と比較して、増殖が8分の1であった。EBディスクでは、インキュベーション後培養物と比較して、有意な低下が示されなかった。溶解したL−システインを含有する培養物では、抑制が見られなかった。
【0101】
細菌付着の分析において、Cys−ディスクでは、生存する付着細菌が、アクリル酸ディスクと比較して40分の1〜25分の1であり、EBディスクと比較して27分の1〜21分の1であった。
【0102】
ディスクの縁の周囲の細菌増殖は、アクリル酸ディスクおよびEBのディスクのみに見られた。生存する黄色ブドウ球菌のディスク上への付着に対するCys−カップリングの効果は、系が抑制されているにもかかわらず、依然として明白かつ有意であった。
【0103】
〔実施例12〕
大腸菌(D21株)の培養物中の細菌増殖の抑制について、1000μlの細菌LB培地培養物中でPEディスクを用いて試験した。試験した表面は次のとおりである。
a)実施例3の、アクリル酸グラフト化ディスクに結合したL−システイン(「Cys−ディスク」と呼ぶ。)
b)実施例3および7の、アクリル酸グラフト化ディスクに結合したN−アセチル−システイン(「アセチル−Cys−ディスク」と呼ぶ。)
c)実施例3のアクリル酸グラフト化ディスク(「アクリル酸」ディスクと呼ぶ。)
【0104】
ディスクはすべて、PBS中で一晩プレインキュベートした。
【0105】
培養物の初期力価は1000000cfu/mlであり、培養物(ディスクなし)のインキュベーション後力価は50000000cfu/mlであった。
【0106】
インキュベーション中、Cys−ディスクでは、インキュベーション後培養物(ディスクなし)と比較して、培地中の増殖が45倍抑制された。アセチル−Cys−ディスクでは、培地中で10倍の抑制が示された。アクリル酸ディスクが存在する培養物中では、抑制が認められなかった。
【0107】
細菌の付着について調査したところ、Cys−ディスクでは、生存細菌がアクリル酸ディスクの70分の1であり、アセチルシステインディスクでは、生存細菌がアクリル酸ディスクの7分の1であった。
【0108】
ディスクの縁の周囲の細菌増殖は、すべてのアクリル酸ディスクの周囲で認められ、アセチル−Cys−ディスクの周囲では部分的に認められた。他方、Cys−ディスクの周囲では、細菌が観察されなかった。
【0109】
〔実施例13〕
大腸菌(D21株)の培養物における細菌増殖の抑制について、1000μlの細菌培養物中でPEディスクを用いて試験した。ディスクは、下記のものと結合したものであった。
a)実施例3の、アクリル酸グラフト化ディスクに結合したL−システイン(「Cys−ディスク」と呼ぶ。)
b)実施例3および6の、アクリル酸グラフト化PEディスクにアミノ基を介して結合したL−システイン(「アミノ結合Cys−ディスク」と呼ぶ。)
c)実施例3のアクリル酸グラフト化ディスク(「アクリル酸ディスク」と呼ぶ。)
【0110】
ディスクはすべて、滅菌LB培地中で一晩プレインキュベートした。
【0111】
培養物の初期力価は680000cfu/mlであり、培養物(ディスクなし)のインキュベーション後力価は32000000cfu/mlであった。
【0112】
インキュベーション中、Cys−ディスクでは、インキュベーション後培養物(ディスクなし)と比較して、培地中の細菌増殖が26倍抑制された。アミノ結合Cys−ディスクおよびアクリル酸ディスクでは、培地中の抑制が示されなかった。
【0113】
細菌の付着について試験したところ、Cys−ディスクでは、生存する付着細菌がアクリル酸ディスクの140分の1〜100分の1であったが、アミノ結合Cys−ディスクでは、アクリル酸ディスクと比較して、生存する付着細菌の数の減少が示されなかった。
【0114】
ディスクの縁の周囲の細菌増殖について洗浄処置後にLB寒天平板上で分析したところ有意な細菌増殖は、すべてのアミノ結合ディスクおよびアクリル酸ディスクで認められたが、Cys−ディスクでは認められなかった。
【0115】
〔実施例14〕
黄色ブドウ球菌(B5381、臨床分離株)の培養物中の細菌増殖の抑制について、高い細菌濃度を有する1000μlのLB培地細菌培養物中でPEディスクを用いて試験した。
【0116】
ディスク上の官能性表面は次のとおりである。
a)実施例3の、アクリル酸グラフト化ディスクに結合したL−システイン(「Cys−ディスク」と呼ぶ。)
b)実施例3の、アクリル酸グラフト化ディスクに結合したホモシステイン(「ホモシステインディスク」と呼ぶ。)
c)実施例3のアクリル酸グラフト化ディスク(「アクリル酸ディスク」と呼ぶ。)
【0117】
培養物の初期力価は4000000cfu/mlであり、培養物(ディスクなし)のインキュベーション後力価は80000000cfu/mlであった。
【0118】
Cys−ディスクでは、ディスクなしのインキュベーション後培養物と比較して、培地における増殖が13倍抑制された。ホモシステインディスクでは、培地中の抑制が20倍であった。
【0119】
極度の曝露条件下の生存細菌の付着について試験したところ、Cys−ディスクでは、アクリル酸ディスクと比較して、生存する付着細菌が約10分の1〜4分の1であり、ホモシステインディスクでは、アクリル酸ディスクと比較して、生存細菌が4分の1〜2分の1であった。システインディスクおよびホモシステインディスクのいずれについても、抑制された条件であるにもかかわらず、検出可能な効果が得られた。
【0120】
〔実施例15〕
3年以上保管された表面修飾カテーテルを使用して、抗細菌効果の長期的な持続性および安定性について試験した。
【0121】
大腸菌D21の培養物中の細菌増殖の抑制について、1000μlのLB培地細菌培養物中でVygonポリウレタンカテーテル(実施例4)を用いて試験した。これらのシステイン修飾されたカテーテル試料は、基準表面(実施例4の、EB照射、アクリル酸グラフト化表面)と共に周囲条件下で3年間保管された。実験前に、これらのカテーテル(長さ20mm)を2つに切り、長さ10mmの2本のカテーテルを得た。ディスク上の官能性表面は次のとおりである。
d)実施例4の、アクリル酸グラフト化Vygonカテーテルに結合したL−システイン(「Cys−カテーテル」と呼ぶ。)(PBS中、2時間の予洗/プレインキュベーション済み)
e)EB照射Vygonカテーテル(実施例1の一部、および実施例4)(PBS中、2時間の予洗/プレインキュベーション済み)
【0122】
カテーテル試料なしの場合、インキュベーション培養物の初期力価は264000cfu/mlであり、インキュベーション後力価は52000000cfu/mlであった。
【0123】
Cys−カテーテル(2時間の予洗済み)と共にインキュベートされた培養物では、ディスクなしのインキュベーション後培養物と比較して、細菌増殖が34倍抑制された。
【0124】
EB照射Vygonカテーテル(2時間の予洗済み)(対照材料)と共にインキュベートされた培養物では、カテーテルなしのインキュベーション後培養物と比較して、抑制が示されなかった。
【0125】
細菌の付着について試験したところ、Cys−カテーテルでは、EB照射Vygonカテーテルと比較して、生存細菌が130分の1であった。
【0126】
要約すると、製品を長期間保管しても、表面修飾の抗細菌性には重大な影響がない。
【0127】
〔実施例16〕
黄色ブドウ球菌(B5381、臨床分離株)の培養物中の細菌増殖の抑制について、800μlのLB培地細菌培養物中でポリウレタンカテーテル表面を用いて試験した。ディスクはPBS中で1〜5時間予洗した。これらのカテーテルを5×4mmに切り分け、実施例1に従って1Mradの線量まで前照射した。グラフト化を、実施例2に従って行った。
【0128】
ディスク上の官能性表面は次のとおりである。
a)PDEA結合アクリル酸グラフト化試料を、基本的に実施例1および2に記載の手順に従って、次の修正を加えて作製した。すなわち、グラフト化を5分間行い、グラフト化後、超音波浴洗浄を15分間行う。
b)(a)で得られたPDEA試料を使用して、実施例2に記載の手順に従ってL−システインを結合させた。
【0129】
抗細菌効果を試料(a)および(b)について比較して、システインの結合前にPDEA成分が有意に影響する可能性を調べた。培養物の初期力価は800000cfu/mlであり、培養物(ディスクなし)のインキュベーション後力価は19000000cfu/mlであった。試料タイプ(a)および(b)の間で、インキュベーション後力価の差は認められなかった。生存細菌の付着について試験したところ、Cys−アクリル酸試料(b)では、PDEA結合アクリル酸試料(a)と比較して、生存する付着細菌が約35分の1であった。この実験により、Cys−成分が抗細菌効果に必須であることが確認された。
【0130】
〔実施例17〕
黄色ブドウ球菌(B5381)の培養物中の細菌増殖の抑制について、500μlのLB培地細菌培養物中でポリウレタン(PUR)ディスクを用いて試験した。これらの試料を5×5mmの正方形のディスクに切った。
【0131】
ディスク上の官能性表面は次のとおりである。
(a)PUR試料を1MradまでEB照射し、35℃で3分間、アクリル酸でグラフト化し、温かい水道水およびMilliQ水で十分に洗浄し(15分間の超音波洗浄浴を含む)、次いで、実施例1および2に記載の手順に従って、PDEAと、そして最終的にL−システインと結合させた。これらの試料を「PDEA−Cys」と呼ぶ。
【0132】
(b)次のようにして表面を作製した。乾燥溶媒中で、等モル量のトリエチルアミンを有するPDEAを、等モル量のアクリロイルクロリドと反応させた。生成物である2−(2−ピリジニルジチオ)エチルアクリルアミド(「PDEAm」と呼ぶ。)をジエチルエーテル中の沈殿反応により精製した。この沈殿反応を、無色透明な濾液が得られるまで繰り返した。わずかに黄色い生成物を真空下で乾燥させた。5mlのMilliQ水中に2.2mmol(0.5g)のPDEAmおよび16.1mmol(1g)のアクリル酸を含む溶液を10分間、アルゴンでパージすることにより脱気し、サーモスタットで35℃に調温した。EB照射PUR試料(a)を保管場所の液体窒素から取り出し、アルゴン気流が攪拌装置としても機能する溶液中に浸した。グラフト化反応を8分後に中断し、温かい水道水およびMilliQ水中で試料を十分に洗浄した(15分間の超音波洗浄浴を含む)。L−システインを、実施例1および2に記載の手順に従って結合させた。試料を真空下で乾燥させた。これらの試料を「PDEAm−Cys」と呼ぶ。
【0133】
PDEA−Cys(a)およびPDEAm−Cys(b)を比較した。培養物の初期力価は500000cfu/mlであり、培養物(ディスクなし)のインキュベーション後力価は20000000cfu/mlであった。
【0134】
PDEA−Cys(a)では、ディスクなしの培養物と比較して、インキュベーション後力価が45倍抑制された。
【0135】
PDEAm−Cys(b)では、ディスクなしの培養物と比較して、インキュベーション後力価が50倍抑制された。
【0136】
上述の方法を用いて生存細菌の付着について試験したところ、PDEA−Cys(a)およびPDEAm−Cys(b)で、生存細菌のコロニー形成数が等しく抑制された。ディスクの縁の周囲の細菌増殖について洗浄処置後にLB寒天平板上で分析したところ、細菌増殖はいずれの試料でも認められなかった。
【0137】
〔実施例18〕
グラム陽性菌である巨大菌(Bm11株)の培養物中の細菌増殖の抑制について、500μlのLB培地細菌培養物中でPCLディスクを用いて分析した。官能性表面は次のとおりである。
a)実施例1および2の、アクリル酸グラフト化PCLに結合したL−システイン(「Cys−ディスク」と呼ぶ。)
b)実施例1のアクリル酸グラフト化PCL
【0138】
培養物の初期力価は292000cfu/mlであり、培養物(ディスクなし)のインキュベーション後力価は9850000cfu/mlであった。
【0139】
Cys−ディスクを有するチューブについては、ディスクと共にインキュベートされた培養物で、インキュベーション中、基準インキュベーション後培養物(ディスクなし)と比較して、細菌増殖が13.5倍抑制された。アクリル酸のみを有するディスクでは、ディスクなしの対照と比較して、培養物中の細菌増殖の抑制が示されなかった。
【0140】
生存細菌の付着について試験したところ、Cys−ディスク上では、アクリル酸ディスクと比較して、生存細菌が13分の1〜10分の1であった。
【0141】
洗浄処置後にディスクをLB平板上に置いて一晩インキュベートしたところ、ディスクの縁の周囲の細菌増殖は、アクリル酸と結合したディスクで見られたのみであった。
【0142】
〔実施例19〕
健常な供血者に由来する末梢血単核球(PBMC)中で種々の官能基ディスクをインキュベートして、細胞毒性について試験した。
【0143】
試験した試料は次のとおりである。
a)Cys−ディスク(実施例2)
b)アクリル酸ディスク(実施例1)
c)電子線照射ディスク(実施例1の一部)(「EBディスク」と呼ぶ。)
d)対照細胞(いかなるディスクも存在しない状態でインキュベートされたもの)
【0144】
24時間、48時間および69時間後に測定した。
【0145】
PBMC中18時間のインキュベーション後の死細胞の量は、すべてのディスクタイプおよび対照で4%〜7%であり、Cys−ディスク、アクリル酸ディスク、EBディスク、またはディスク不存在下でインキュベートされた対照細胞、の間で有意差が示されなかった。これは、ディスクがPBS中で予洗されたか否かに関係なく認められた。
【0146】
48時間のインキュベーション後、洗浄されていないCys−ディスクおよびアクリル酸ディスクにおいて、死細胞の割合は10%〜15%であった。ディスク不存在下の対照細胞と比較して、洗浄されたCys−ディスク、アクリル酸ディスク、EBディスクの間で死細胞の数に著しい差はなかった(5〜6%)。
【0147】
マイトジェンであるフィトヘマグルチニン(PHA)で刺激することにより、T細胞の増殖について検討した。健常な供血者に由来するPBMCを単離し、細胞をPHA(シグマ社、セントルイス、MO、米国)で3回刺激した。刺激後2日目に、1μCiのメチル−3H−チミジン(アマシャム社、ライフサイエンス)で培養物をパルス標識した。翌日、メーカーの使用説明書に従ってプレートハーベスター(Harvester 996、Tomtec社、ハムデン、コネチカット、米国)を用いて細胞をフィルター上に採取し、自動カウンター(1450 MicroBeta Trilux、WALLAC社、スウェーデン)で細胞数を数えた。結果はカウント毎分(cpm)として表した。T細胞の増殖における差はいかなるディスクタイプおよび対照の間にも見られなかった。
【0148】
PBMCに由来する単球の、マクロファージに分化する能力に、種々のディスクへの曝露がマイナスの影響を及ぼすかどうかを調べるために、下記の試験を行った。
【0149】
2mM L−グルタミン、100U/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシン(ギブコBRL社、グランドアイランド、NY)、10%AB血清を含有するイスコフ改変培地中に10〜18×10細胞/mlの濃度の細胞が存在するペトリ皿(Primaria、ファルコン、ベクトンディッキンソン社)に、健常な供血者に由来するPBMCをプレーティングして、37℃で一晩インキュベートした。非付着細胞は翌日除去した。培養物を十分に洗浄し、単球が豊富な細胞を、24時間アロ上清を加えて刺激した。アロ上清は次のようにして調製した。様々な供血者に由来するPBMCを混合し、イスコフ完全培地中で24時間インキュベートした。その後、上清を回収し、遠心分離により浄化し、これを使用して個々の単球培養物を刺激した。刺激後2〜3日目に、培養物をイスコフ培地で洗浄し、その後、L−グルタミン、ペニシリンおよびストレプトマイシンが添加された、60% AIM−V培地、30% イスコフ改変培地および10% AB血清(完全60/30培地)中で培養した。培地は、3〜4日毎に新鮮な完全60/30培地に交換した。
【0150】
対照細胞または種々のタイプのディスクに曝露された細胞の間で有意差は見られなかった。すなわち、良好ないし健常なマクロファージ培養物がすべてのペトリ皿で認められた。
【0151】
〔実施例20〕
細胞毒性の分析は、単に上部に置くか、または血液寒天中にディスクを押し込んで、血液寒天上にディスクを置くことにより種々のディスクタイプの溶血作用を測定することによっても行った。
【0152】
試験した試料は次のとおりである。
a)未洗浄Cys−ディスク(実施例3)
b)LB培地で前処理したCys−ディスク(実施例3)
c)ウシ胎仔血清(FCS)で前処理したCys−ディスク(実施例3)
d)Cys−カテーテルVygon(実施例4)
【0153】
溶解領域の直径を、37℃で一晩インキュベートした後に測定した。陽性対照を各血液寒天平板の中心に置いた。検査時、ディスクを除去し、ディスク位置の下および周囲の面積を分析した。
【0154】
分析したディスクタイプのいずれについても溶解は認められなかった。
【0155】
洗浄されていないCys−ディスクについて、ディスクの縁から約4〜5mmの部分に黄色が認められた。LB培地またはウシ胎仔血清(FCS)で前処理したディスクについて、ディスクの縁に最も近い部分に非常に弱い色の変化が認められた。
【0156】
要するに、Cys−ディスクは、ヒトの血液細胞に対する有意な細胞毒性効果を有していない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
共有結合したシステイン化合物を保持する基材を含む抗菌剤。
【請求項2】
システイン化合物が、スペーサー分子を介してS−S架橋により基材に結合し、
スペーサーが、1つまたは複数のヘテロ原子、例えば、O、S、N、PおよびSi、により随意に中断される炭素鎖を含み、
当該炭素鎖が、1つまたは複数のアルキル基、好ましくは1〜6個の炭素原子を有する低級アルキル基、あるいはヒドロキシル基またはアルコキシ基で随意に置換されている、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
下記式を有する、請求項1または2に記載の抗菌剤。
基材−X−L−S−S−(システイン成分)
[式中、
Lは、(CH(mは1〜20、好ましくは1〜12、1〜8または1〜6である)、(CHCHO)(CHまたは(CH(CH)CHO)(CH(nは1〜1000、好ましくは1〜100または3〜50であり、pは1〜20、好ましくは1〜12、1〜10または1〜6である。)からなる群より選択されるスペーサー分子であり、(CHセグメントは、ジスルフィド架橋に結合し、(CHCHO)セグメントまたは(CH(CH)CHO)セグメントの間に随意に位置し、
Xは、基材およびLの間のカップリング反応から生じた結合基であり、
システイン成分は、システイン、システインアナログまたはシステイン誘導体を含むシステイン化合物の残基を表す。]
【請求項4】
前記基材が不溶性または可溶性である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗菌剤。
【請求項5】
下記式を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗菌剤。
(1) R−X−L−S−S−(システイン成分)
[式中、
は、基材、例えば有機化合物、ポリマー、または固体基材であり、
Xは、化学カップリング反応によって得られた化学基であり、
Lは、(CHまたは(CHCHO)(CHであり、
mは1〜8、nは1〜100、pは1〜10であり、
(CHセグメントは、(CHCHO)と共に存在する場合、(CHCHO)セグメントおよびジスルフィド結合の間に位置する。]
【請求項6】
−L−S−S−(システイン成分)が下記構造の1つを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗菌剤。
【化1】


[式中、R、Rは、水素、あるいは1〜25個、好ましくは1〜18個または1〜6個の炭素原子を有するアルキル、好ましくはメチル、の任意の組合せであり、qは1〜20、好ましくは1〜12または1〜6である。]
【化2】


[式中、R、R、Rは、1〜25個、好ましくは1〜18個または1〜6個の炭素原子を有するアルキル置換基、特にメチル、の任意の組合せであり、qは1〜20、好ましくは1〜12、1〜10または1〜6の間の値を有する。]
【請求項7】
請求項6の式(2)に記載のRまたはRの一方が、システイン成分の窒素を含むアミド結合を介して結合していてもよい、請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗菌剤。
【請求項8】
前記基材が固体の表面である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗菌剤。
【請求項9】
グラム陽性菌および/またはグラム陰性菌の成長および/または増殖を防止または抑制するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗菌剤。
【請求項10】
グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、グラム陰性菌である大腸菌(Escherichia coli)、またはグラム陽性菌である巨大菌(Bacillus megaterium)、の成長および/または増殖を防止または抑制するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の抗菌剤。
【請求項11】
微生物と接触する、かつ/あるいは微生物が蓄積および/または付着しないようにしておくのが望ましい基材であって、表面が、請求項1〜10のいずれか一項に記載の抗菌剤でコーティングされていることを特徴とする基材。
【請求項12】
前記基材が、(a)ヒトまたは動物の体外で適用可能な体外医療機器、ヒトまたは動物の体内で適用可能な体内医療機器、等の医療機器、(b)食品機器、ならびに(c)コンタクトレンズ、化粧品のパッケージ製品、新鮮水タンク、給水管、および保管材料の表面で細菌が増殖するのが望ましくない、製品もしくは材料の保管のための機器、等の他の機器、から選択される機器、装置および/または表面、の一部である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の基材。
【請求項13】
前記機器が、火傷用の人工皮膚;透析装置;耳ドレナージ;耳インプラント;補聴器;人工心肺装置用チューブ;水頭症ドレナージ;シリンジ;ストミス;創傷ケア器具;縫合材料;カテーテル;歯科用製品;液剤、溶液、輸液剤の非経口投与、薬物送達のために使用されるチューブまたは器具;体内インプラント(骨、プロパラドンティ);インスリンポンプ;神経ガイドライン;ペースメーカー;体内からのドレナージ(手術後の膿瘍、腔、器官);管腔内ステント(器官および組織内の血管および管腔)、から選択される、請求項12に記載の基材。
【請求項14】
基材および/または表面上で微生物の成長および/または増殖を防止または抑制するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の抗菌剤の使用。
【請求項15】
抗菌剤で機器の表面を処理するために使用される部品のキットであって、
(a)式:Z−L−S−S−(システイン成分)[式中、L、mおよびシステイン成分は上記と同義であり、Zは、化合物またはフリーラジカルと反応して、化学カップリング残基Xを生じさせることができるリガンド官能基である。]を有する、請求項1に記載の抗菌剤の前駆物質と、
(b)当該前駆物質を表面に共有結合させるために必要な試薬と、
を個別に含み、キットを使用するための説明書をさらに含むキット。
【請求項16】
抗菌機器を製造するための方法であって、
i)機器を提供するステップと、
ii)機器の表面の官能基に、あるいは続いて機器の表面上に固定される可溶性基材に、リガンド−L−S−S−(システイン化合物)を共有結合させるステップと、
を含む方法。


【公表番号】特表2008−533197(P2008−533197A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−502947(P2008−502947)
【出願日】平成18年3月21日(2006.3.21)
【国際出願番号】PCT/SE2006/000350
【国際公開番号】WO2006/101438
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(507304937)シタコート アーベー (1)
【Fターム(参考)】