説明

特に制御付自動車ブレーキシステム用マスターシリンダ

本発明は、ハウジング2内を移動可能で捕捉ばね34,35を有する第1,第2ピストン3,4を備える、特に制御付ブレーキシステム用のマスターシリンダに関する。ばね34,35は、第1端部で少なくとも部分的にピストン3,4で支えられ、第2端部でピストン3,4に対して移動可能なスリーブ44,45で支えられる。ピストン3,4に対するスリーブの動きは、ピストン3,4に設けられたピン38,39と、ピン38,39の自由端に配置されたストップワッシャ43,50とで制限される。ブレーキを急激に解除したときの衝撃音の発生を防止するため、本発明は、第1ピストン3のストップワッシャ50にスリーブ44の緩衝当接のための手段を設けることを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジング内を移動可能で捕捉ばね(captive spring)を有する第1および第2ピストンを備え、前記ばねの第1端部が少なくとも間接的にピストンを支え、その第2端部がピストンに対して移動可能なスリーブを支え、このスリーブのピストンに対する移動が、ピストンに設けられたピンおよびストップワッシャで制限され、このストップワッシャはピンの自由端に配置される、特に制御付自動車ブレーキシステム用のマスターシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
この形式のマスターシリンダは、例えば特許文献1に記載されている。この公知のマスターシリンダは、捕捉ばねが第1ピストンを作動方向に対してその初期位置に戻すように付勢しているため、ブレーキを解除に解除すると、第1ピストンのスリーブがストップワッシャに急激に衝突する点で不都合であると考えられている。この場合、望ましくない衝撃音が発生し、マスターシリンダに固定された制動力ブースタを介して車両の乗員室に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】DE102004057137A1
【発明の概要】
【0004】
したがって、本発明の目的は、上述の公知のマスターシリンダの不都合な点を改善したマスターシリンダを提供することにある。
【0005】
この目的を達成する本発明は、第1ピストンのストップワッシャがスリーブの緩衝当接(damped abutment)のための手段を設けられる。これにより、特に急激にブレーキを解除したときに発生する厄介な衝撃音を効果的に防止することができる。
【0006】
ストップワッシャの装着を簡略化するため、ストップワッシャの両側に前記手段が設けられることが好ましい。したがって、組立てに際し、ストップワッシャがピンの回りに正確な方法で取り付けられているか否かについて注意を払う必要がない。
【0007】
本発明の有益な実施形態によると、ストップワッシャは、両側に周囲溝を有し、前記手段はそれぞれの周囲溝に配置される弾性環状部材として設けられる。
【0008】
ストップワッシャは、このストップワッシャの両側の溝を接続する、複数の軸方向に配向された内孔を有することが好ましい。これにより、2つの環状部材が互いに接続され、捕捉された態様でストップワッシャに取り付けられる。
【0009】
軸方向に配向された孔が中高形状(crowned configuration)に形成される場合には、環状部材の材料の固定を改善することができる。
【0010】
本発明の有益な形態では、第1ピストンの規定されたストロークが確保され、この場合、環状部材は、マスターシリンダが非作動位置にあるときに、スリーブのカラーがストップワッシャに直接載置されるように形成される。
【0011】
このため、環状部材のそれぞれは、周部リップと周部凹部とを有し、この周部リップは、カラーの当接前にストップワッシャの側面を超えて突出し、カラーが当接すると、凹部内に移動可能であることが有益である。
【0012】
環状部材は、ストップワッシャ上に加硫処理(vulcanized)されることが好ましい。
【0013】
前記手段が設けられる場合でも、ストップワッシャは精密金属スタンピング材として設けられ、ストップワッシャの安定性を確保することができる。
【0014】
本発明の他の特徴、利点および応用可能性は、従属形式の請求項、および、図面を参照する実施形態に関する以下の説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、公知のマスターシリンダの長手方向断面を示す図である。
【図2】図2は、環状部材を加硫処理した、本発明によるマスターシリンダのストップワッシャを立体的に表示した図である。
【図3】図3は、一部を断面で示す、図2のストップワッシャを立体的に表示した図である。
【図4】図4は、環状部材を省略して一部を断面で示す、図2のストップワッシャを立体的に表示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、公知のマスターシリンダ1を断面図で示し、このマスターシリンダは、例えばスリップ防止制御(ASR)及び/又は電子安定プログラム(ESP)を備えた制御付ブレーキシステムに使用され、プランジャタイプのタンデム構造を有する。
【0017】
マスターシリンダ1は、ハウジング2内を移動可能な第1および第2ピストン3,4と、環状シール部材5,6とを備え、これらのシール部材は、ハウジング2の環状溝23,24内に設けられ、動的に負荷される内側シールリップ26,27および静的に負荷される外側シールリップ28,29を有する。動的に負荷される内側シールリップ26,27は、第1シール面でピストン3,4に当接し、静的に負荷される外側シールリップ28,29は第2シール面で環状溝30,31のベースに当接する。ピストン3,4の外面30,31は、案内面として作用する。
【0018】
図1に示すマスターシリンダ1の非駆動状態では、第1,第2圧力室7,8は、ハウジング2内の圧力媒体通路32,33および戻り室11,12、および、第1,第2ピストン3,4の一端36,37に設けられたポット状(pot-shaped)壁部21,22内の制御孔9,10を介して、非加圧の圧力媒体リザーバ(図示しない)に接続される。その形状により、マスターシリンダ1は、4から24個の横方向孔9,10をピストン3,4の周部に有する。この実施形態では、ピストン3,4は、圧縮ばね34,35で付勢されている。
【0019】
圧縮ばね34,35は、ポット状壁部21,22内に少なくとも一部が配置されている。中央ピン38,39が壁部21,22の中央部を通って突出し、壁部21,22から軸方向に出る前に終端する。この端部40,41には、スリーブ44,45のためのストッパ42,43を設けられており、このスリーブ44,45は、限度(limit)内で入れ子状にスリーブ44,45を引込できるように、カラー46,47と共に作用する。すなわち、圧縮ばね34,35を有するスリーブ44,45は、駆動されたときにピストンの内部に押込まれる。明らかなように、ストッパ42,43は、ピン38,39にリベット止め、特に首振り状にリベット止め(wobble-riveted)された環状ストップワッシャであるのが好ましい。スリーブ44,45の反対側端部は、板状のカラー48,49を有し、これに、圧縮ばね34,35が支えられる。
【0020】
マスターシリンダ1を駆動するため、第1ピストンが駆動方向Aに移動される。このとき、第1ピストン3の動きが圧縮ばね34を介して第2ピストン4に伝達される。横方向孔9,10がシール部材5,6の領域内に入ると、すなわち孔の側部制御エッジを通過すると直ちに、いわゆるマスターシリンダ1の自由移動が終了する(covered)。これは、圧力媒体が、横方向孔9,10を介して戻り室11,12から圧力室7,8に移動することができなくなるからである。圧力室7,8と圧力媒体リザーバとの間の接続が遮断され、圧力室7,9内に圧力が形成される。
【0021】
マスターシリンダ1のタンデム状に配置された2つのピストン3,4は、実質的に構造および作用が同じであり、したがって、以下では、第1ピストン3についてのみ説明する。
【0022】
ASR又はESPが介入したときに、ピストン3が非駆動又は駆動の状態で、圧力室7を介して圧力媒体リザーバからホイールブレーキの方向に圧力媒体を引込む必要があり、これは、ポンプで実行することが好ましく、ホイールブレーキの方向又はマスターシリンダの方向に圧送するため(再循環原理)、このポンプの入口はマスターシリンダ1の圧力室7,8、又は、ホイールブレーキに選択的に接続可能である。このため、マスターシリンダ1が非駆動状態にあるときにASRが介入すると、圧力媒体が圧力媒体リザーバから圧力媒体通路32と戻り室11と横方向孔9と圧力室7とを介して引き込まれる。マスターシリンダ1が駆動状態にあるときにESPが介入すると、圧力媒体は、シール部材5の外側シールリップ28を超えて追加的に流れ、このシールリップ28は内側シールリップ26の方向の吸引圧力で折り曲げられ、これにより、外側シールリップ28のシール面は環状溝23のベースに当接しなくなる。特に、マスターシリンダ1が非駆動位置にあって、ASR又はESPが介入したときに、ポンプに対して充分な圧力媒体を迅速に利用可能とするため、マスターシリンダ1の自由移動は可能な限り短く維持しなければならないが、横方向孔9の絞り抵抗を可能な限り小さくすることが必要である。
【0023】
図1から明らかなようにピストン3,4の内面13,14に形成され、横方向孔9,10の絞り抵抗を減少するそれぞれ溝15,16内に、横方向孔9,10が開口する。
【0024】
図2,3および4は、本発明によるマスターシリンダ1のストップワッシャを、一部断面とした立体図で示してある。本発明によるマスターシリンダ1は、図1に示す公知のマスターシリンダとその作用および構造において、基本的には、相違するものではなく、したがって、作用および構造の説明の繰返しを避けるために、以下では本発明による相違についてのみ説明する。
【0025】
不利であると考えられている、ブレーキの急激解除時の衝撃音を効果的に防止するため、本発明によるマスターシリンダ1の第1ピストン3のストップワッシャ50は、スリーブ44の緩衝当接(damped abutment)のめの手段を有する。
【0026】
特に、図3から明らかに、これらの緩衝当接手段は、ストップワッシャ50の両側53,54に配置された周部環状部材51,52として形成されている。
【0027】
原則として、図1に示す解除位置でスリーブ44のカラー46が当接する側にのみ、緩衝手段を設けることで充分である。しかし、ストップワッシャ50の装着を簡略化するため、ストップワッシャ50の両側53,54に環状部材51,52が設けられる。これにより、ピン38に対するストップワッシャ50の誤った取付けを防止することができる。
【0028】
図4は、環状部材51,52を装着する前のストップワッシャ50を示す。ストップワッシャ50は両側53,54に周部溝55,56を有し、軸方向に配向した複数の孔57がこれらの溝55,56を接続している。環状部材51,52は、例えば加硫処理により、溝55,57内に成形(mold)されている。ゴム材料が加硫処理されると、孔57が充填され、これにより、両側53,54の環状部材51,52が互いに接続され、ストップワッシャ50に捕捉された状態に強固に固定される。
【0029】
ゴム材料の固定を改善するため、図4に示すように、孔57は中高の断面形状(crowned profile)を有してもよい。
【0030】
図3は、特に、環状部材51,52が、マスターシリンダ1の非駆動位置(解除位置)で、第1ピストン3の規定されたストロークを確保するため、スリーブ44のカラー46がストップワッシャに直接載置可能に形成された状態を示す。このため、環状部材51,52のそれぞれは、周部リップ58,59と周部凹部60,61とを有し、周部リップ58,59は、カラー46に当接する前にストップワッシャ50の側面62,63を超えて突出し、カラー46に当接したときに、凹部60,61内に移動可能である。この場合、凹部60,61は、リップ58,59が凹部内に容易に移動できるような寸法に形成される。
【0031】
ストップワッシャ50が精密金属製打抜き材(precision metal stamping)で形成される場合は、溝55,56および孔57に係わらず、その安定性を確保することができる。
【0032】
図1から明らかなように、第2ピストン4のスリーブ45は解除位置でストップワッシャ43に当接しないため、上述のストップワッシャ50は、第1ピストン3に限定される。
【0033】
参照符号のリスト
1 マスターシリンダ
2 ハウジング
3 ピストン
4 ピストン
5 シール部材
6 シール部材
7 圧力室
8 圧力室
9 制御孔
10 制御孔
11 戻り室
12 戻り室
13 内面
14 内面
15 内側溝
16 内側溝
17 本体
18 制御部材
19 外面
21 壁部
22 壁部
23 環状溝
24 環状溝
26 内側シールリップ
27 内側シールリップ
28 外側シールリップ
29 外側シールリップ
30 外面
31 外面
32 圧力媒体通路
33 圧力媒体通路
34 圧縮ばね
35 圧縮ばね
36 端部
37 端部
38 ピン
39 ピン
40 端部
41 端部
42 ストッパ
43 ストッパ
44 スリーブ
45 スリーブ
46 カラー
47 カラー
48 カラー
49 カラー
50 ストップワッシャ
51 環状部材
52 環状部材
53 側部
54 側部
55 溝
56 溝
57 孔
58 リップ
59 リップ
60 凹部
61 凹部
62 側面
63 側面
A 駆動方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(2)内を移動可能で捕捉ばね(34,35)を有する第1および第2ピストン(3,4)を備え、前記ばね(34,35)の第1端部が少なくとも関節的にピストン(3,4)を支え、その第2端部がピストン(3,4)に対して移動可能なスリーブ(44,45)を支え、このスリーブのピストン(3,4)に対する移動が、ピストン(3,4)に設けられたピン(38,39)およびストップワッシャ(43,50)で制限され、このストップワッシャ(43,50)はピン(38,39)の自由端に配置される、特に制御付自動車ブレーキシステム用のマスターシリンダ(1)であって、
前記第1ピストン(3)のストップワッシャ(50)は、スリーブ(44)の緩衝当接のための手段を有することを特徴とするマスターシリンダ。
【請求項2】
前記手段は、ストップワッシャ(50)の両側(53,54)に設けられることを特徴とする請求項1に記載のマスターシリンダ(1)。
【請求項3】
前記ストップワッシャ(50)は、両側(53,54)に周部溝(55,56)を有し、前記手段は、それぞれ前記周部溝(55,56)に配置される弾性環状部材(51,52)として設けられることを特徴とする請求項2に記載のマスターシリンダ。
【請求項4】
前記ストップワッシャ(50)は、ストップワッシャ(50)の両側(53,54)の溝(55,56)を接続する、軸方向に配向された複数の孔(57)を有することを特徴とする請求項3に記載のマスターシリンダ(1)。
【請求項5】
軸方向に配向された孔(57)は、中高形状を有することを特徴とする請求項4に記載のマスターシリンダ(1)。
【請求項6】
前記環状部材(51,52)は、マスターシリンダ(1)の非駆動位置で、スリーブ(44)のカラー(46)がストップワッシャ(50)に直接載置可能であるように形成されていることを特徴とする請求項5に記載のマスターシリンダ(1)。
【請求項7】
前記環状部材(51,52)は、それぞれ周部リップ(58,59)と周部凹部(60,61)とを有し、この周部リップ(58,59)は、前記カラー(46)の当接前にストップワッシャ(50)の側面(62,63)を超えて突出し、カラー(46)の当接の際に前記凹部(60,61)内に移動可能であることを特徴とする請求項6に記載のマスターシリンダ(1)。
【請求項8】
前記環状部材(51,52)は、ストップワッシャ(50)に加硫処理されていることを特徴とする請求項3から7のいずれか1つに記載のマスターシリンダ(1)。
【請求項9】
前記ストップワッシャ(50)は、精密金属スタンピング材として形成されることを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載のマスターシリンダ(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−500894(P2013−500894A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522079(P2012−522079)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059956
【国際公開番号】WO2011/012431
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(500030596)コンチネンタル・テベス・アーゲー・ウント・コンパニー・オーハーゲー (126)
【Fターム(参考)】