説明

特に加熱グレージングユニットを製造するための、熱特性を有する多層を備えた基板

本発明は、「n個」の金属機能層(40、80、120)、特に銀系機能層または金属合金含有銀系機能層と「(n+1)個」の反射防止膜(20、60、100、140)とが交互になっており、ここで、nは3以上の整数であり、各反射防止膜が少なくとも1つの反射防止層(24、64、104、144)を含み、このため、機能層(40、80、120)はそれぞれ、2つの反射防止膜(20、60、100、140)間に位置する薄膜多層を備える基板(10)、特に透明ガラス基板であって、各機能層(80、120)の厚さeが、基板(10)の方向において前に位置する機能層の厚さより小さく、e=α ex−1(ここで、xは、基板(10)からの機能層の列数であり、x−1は、基板(10)の方向において前に位置する機能層の列数であり、αは、0.5≦α<1、好ましくは0.55≦α≦0.95、または0.6≦α≦0.95である数である。)であり、また、基板から1番目の金属機能層の厚さが、10≦e≦18nm、好ましくは11≦e≦15nmであることを特徴とする、基板に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に、ガラス等の硬質無機材料から製造される透明基板に関し、前記基板は、日射および/または長波長の赤外線に作用し得る幾つかの機能層を含む、薄膜多層でコーティングされる。
【0002】
本発明は、より具体的には、「n個」の金属機能層、特に銀系または金属合金含有銀系機能層と「(n+1)個」の反射防止膜とが交互になっている(ここで、nは3以上の整数であり、このため、機能層はそれぞれ2つの反射防止膜間に位置する。)薄膜多層を備える基板、特に透明ガラス基板に関する。コーティングはそれぞれ、少なくとも1つの反射防止層を含み、各コーティングは、好ましくは複数の層、少なくとも1つの層から成るか、または各層が反射防止層である。
【0003】
本発明は、より具体的には、断熱および/または日射防護グレージングユニットを製造するための基板の使用に関する。これらのグレージングユニットは、特に、空調負荷を低減し、および/または過剰な過熱(「太陽光制御」グレージングと呼ばれる。)を低減し、および/または建築物および車両の車室でのグレージングされた表面の使用が益々増えることによってもたらされる、外部へ放散されるエネルギー量(「low−E」または「低放射」グレージングと呼ばれる。)を低減する目的で、建築物と車両の両方に装備することを意図してもよい。
【0004】
これらの基板は、特に、電子部品に組み込まれ、多層は、電流を伝導するための電極(照明装置、ディスプレイ装置、ボルタパネル(voltaic panel)、エレクトロクロミックグレージング等)として作用し、または例えば、加熱されたグレージングユニット、特に、加熱された車両フロントガラスのような特定の機能性を有するグレージングユニットに組み込まれてもよい。
【0005】
本発明の意味の範囲内で、幾つかの機能層を有する多層は、少なくとも3つの機能層を含む多層を意味することが理解される。
【背景技術】
【0006】
幾つかの機能層を有する多層が公知である。
【0007】
この型の多層では、機能層はそれぞれ、2つの反射防止膜間に位置し、各膜は一般に、窒化物型材料、特に、窒化ケイ素または窒化アルミニウムおよび/または酸化物型材料から作製された、幾つかの反射防止層を含む。光学的観点から、機能層の側面に位置するこれらの膜の目的は、この機能層の「反射を防止する」ことである。
【0008】
しかしながら、非常に薄い遮断膜(blocker coating)は、1つのもしくはそれぞれの反射防止膜と隣接した機能層との間、即ち、基板の方向において機能層の下に位置する遮断膜と、基板の反対側の機能層に位置する遮断膜との間に位置し、該コーティングは、上部の反射防止膜の堆積時と、曲げおよび/または焼き戻しによる任意の高温熱処理時におけるこの層の劣化を防止する場合がある。
【0009】
幾つかの機能層を有する多層は、例えば、国際特許出願WO2005/051858の先行技術から公知である。
【0010】
前述の文献に開示された、3つまたは4つの機能層を有する多層では、すべての機能層の厚さは実質的に同一である。即ち、基板に最も近い第1の機能層の厚さは、第3の機能層の厚さと実質的に同一である第2の機能層の厚さと実質的に同一であるか、または、第4の機能層がある場合、該第1の機能層の厚さは、第4の機能層の厚さと実質的に同一である。例えば、前述の文献の実施例11および12を参照されたい。
【0011】
さらに、前述の文献は、欧州特許出願EP645352の教示によって、基板に最も近い第1の機能層の厚さが、第2の機能層の厚さよりも薄く、該第2の機能層の厚さは、第3の機能層の厚さより小さい例を、実施例14に開示する。
【0012】
この欧州特許出願EP645352は、基板から増加する厚さで位置する3つの金属機能層を有する多層により、外部反射において(即ち、薄膜多層を支持する側と反対の基板側で)、中間色を得ることが可能となることを教示する。
【0013】
しかしながら、出願WO2005/051858の実施例14の構成は、積層グレージングユニットにとってまったく十分でないと考えられる。
【0014】
基板から増加する厚さを有する3つの金属機能層の位置決めにより、実際に、外部反射においてより中間の色を獲得することが可能となると考えられるが、さらに、同一の銀の全厚さを有する実施例14ならびに実施例11および12の両方における多層の表面抵抗を改善することができ、この結果、関連する特性を改善すること(エネルギー反射の増加、特に一定の光透過における多層のシート抵抗の増加)ができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2005/051858号
【特許文献2】欧州特許出願公開第645352号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の目的は特に、多層を統合するグレージングユニットのための、非常に低いシート抵抗を有する多層であって、該多層が、高エネルギー反射および/または非常に低い放射率を示すことができ、および/または多層に電気的に接続された2つのバスバー間に電流を流すことによって加熱することができ、また、高い光透過率および比較的中間色で、特に積層構造である、多層を提供することである。また、これらの特性は、曲げおよび/または焼き戻しおよび/またはアニーリングによる1つの(またはこれより多い)高温加熱処理後に得られるのが好ましく、または、これらの特性は、多層への1つの(またはこれより多い)該加熱処理の有無を問わず、制限された範囲内に維持される多層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従って、本発明の一つの主題は、最も広い趣旨において、請求項1に記載の基板、特に、透明ガラス基板にある。この基板は、「n個」の金属機能層、特に、銀系機能層または金属合金含有銀系機能層と「(n+1)個」の反射防止膜とが交互になっている(ここで、nは3以上の整数であり、各反射防止膜が少なくとも1つの反射防止層を含み、このため、機能層はそれぞれ、2つの反射防止膜間に位置する。)薄膜多層を備える。従って、多層の各機能層(即ち、少なくとも、基板から第2列目および第3列目の機能層)の厚さeは、基板の方向において前に位置する、機能層の厚さより小さく、e=α ex−1(ここで、xは、基板からの機能層の列数であり、x−1は、基板の方向において前に位置する機能層の列数であり、αは、0.5≦α<1、好ましくは0.55≦α≦0.95、または0.6≦α≦0.95である数である。)である。
【0018】
本発明の意味の範囲内で、用語「列」は、基板からのそれぞれの機能層の、整数での番号付けを意味することが理解される。即ち、基板に最も近い機能層は、第1列目の機能層であり、基板から次に離れた機能層は、第2列目の機能層であるなどである。
【0019】
基板から1番目の金属機能層(第1列目の機能層)の厚さは、10≦e≦18nm、好ましくは11≦e≦15nmである。
【0020】
従って、0.55≦α≦0.95の場合、基板から1番目の金属機能層の厚さは、10≦e≦18nm、好ましくは11≦e≦15nmである。また、0.6≦α≦0.95の場合、基板から1番目の金属機能層の厚さは、10≦e≦18nm、好ましくは11≦e≦15nmである。
【0021】
さらに、0.6≦α≦0.9で、基板から1番目の金属機能層の厚さが、10≦e≦18nm、好ましくは11≦e≦15nmであり、または、0.6≦α≦0.85で、基板から1番目の金属機能層の厚さが、10≦e≦18nm、好ましくは11≦e≦15nmであり得る。
【0022】
さらにまた、本発明の実質的な目的が、低いシート抵抗を有する多層に到達することであるという事実により、特に、11≦e≦15nmである場合、金属機能層の全厚さは、好ましくは30nmより大きく、特に、30から60nmである。または、この全厚さは、3つの機能層を有する薄膜多層において35から50nmであるか、または、この全厚さは、4つの機能層を有する薄膜多層において40から60nmである。
【0023】
好ましくは、αの値は、上述の式が適用される多層の第2列目以上のすべての機能層で異なる(少なくとも0.02異なる。)。
【0024】
ここで、本発明の主題である厚さの分布の減少が、多層のすべての層の分布の減少ではなく(反射防止層を考慮する。)、機能層の厚さの分布の減少のみであることを観察することが重要である。
【0025】
基板から減少する厚さの機能層を有する本発明による多層内では、機能層は、すべて異なる厚さである。しかしながら、多層内の機能層の厚さの分布によって、一定の機能層の厚さを有するか、または基板から増加する厚さの機能層を有する構造よりも、きわめて驚くほど良好なシート抵抗を得ることができる。
【0026】
他に指定のない限り、本明細書に言及される厚さは、物理的なまたは事実上の厚さである(光学的な厚さではない。)。
【0027】
さらに、層の垂直位(例えば、下に/上に)が言及される場合、該層上の多層と共に、底部において、支持基板が水平に位置すると常に考えられ、層が別の層上に直接堆積されることが明示される場合、これらの2つの層の間に位置する1つの(またはこれより多い)層がないことを意味する。ここで、機能層の列は、多層を支持する基板(多層が堆積される面上の基板)から常に規定される。
【0028】
上で規定された、少なくともそれぞれの反射防止膜に含まれる反射防止層は、通常550nmで測定された、1.8から2.5、好ましくは1.9から2.3の光学指数、即ち、高いと考えられ得る光学指数を有する。
【0029】
1つの特定の変形例において、基板から1番目の機能層の下にある、第1の反射防止膜の最後の層は、結晶性(即ち、非晶質でない)酸化物系、特に酸化亜鉛系の湿潤層であり、場合により、アルミニウム等の少なくとも1つの他の元素を用いてドープされ、1番目の機能層の下にある、この第1の反射防止膜は、平滑層を含み、該平滑層は、非晶質の混合酸化物で作製され、該平滑層は、上にある湿潤層に接している。
【0030】
この特定の変形例において、該平滑層の厚さは、好ましくは、該第1の反射防止膜の厚さの約1/6、および該1番目の機能層の厚さの約半分に相当する。
【0031】
別の特定の変形例において、該反射防止膜はそれぞれ、少なくとも1つの窒化ケイ素系の層を含み、場合により、アルミニウム等の少なくとも1つの他の元素を用いてドープされ、好ましくは、各反射防止膜はそれぞれ、少なくとも1つの窒化ケイ素系の層を含み、場合により、アルミニウム等の少なくとも1つの他の元素を用いてドープされる。
【0032】
この別の特定の変形例において、機能層の下にあるそれぞれの反射防止膜の最後の層は、結晶性酸化物系、特に酸化亜鉛系の湿潤層であり、場合によりアルミニウム等の少なくとも1つの他の元素を用いてドープされる。
【0033】
しかしながら、この別の特定の変形例において、機能層の下にある少なくとも1つの反射防止膜、好ましくは機能層の下にあるそれぞれの反射防止膜は、少なくとも1つの平滑層を含み、該平滑層は非晶質の混合酸化物で作製され、該平滑層は上にある湿潤層に接している。
【0034】
それぞれの機能層の厚さは、好ましくは8から20nmであり、または10から18nmであり、より好ましくは11から15nmである。
【0035】
本発明による多層は、低いシート抵抗を有する多層であり、1平方当たりシート抵抗Rオームが、曲げ、焼き戻しもしくはアニーリングによる任意の加熱後、好ましくは1平方当たり1オーム以下であるか、または加熱処理前、1オーム以下である。これは、このような処理が一般にシート抵抗を低減する効果を有するためである。
【0036】
さらに本発明は、本発明による少なくとも1つの基板を導入し、場合により少なくとも1つの他の基板と組み合わせるグレージングユニットに関する。特に、二重グレージング、三重グレージングの多重グレージングユニット、または積層グレージング型、特に、加熱積層グレージングユニットを製造することを可能にするための、薄層多層の電気的接続のための手段を含む、積層グレージングに関する。多層を支持する該基板は、場合により曲げおよび/または焼き戻しされる。
【0037】
グレージングユニットの基板はそれぞれ、透明かまたは着色してもよい。少なくとも1つの基板は、特に、バルク着色ガラス(bulk−tinted glass)で作製してもよい。採色型の選択は、製品が完成すると、グレージングに望ましい光透過のレベルおよび/または比色外観に依存する。
【0038】
本発明によるグレージングユニットは、ガラス/薄膜多層/シート/ガラス型の構造を有するために、特に、少なくとも1枚の熱可塑性ポリマーと少なくとも2つのガラス型の硬質基板とを組み合わせて、積層構造を有していてもよい。該ポリマーは特に、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン/酢酸ビニル(EVA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、またはポリ塩化ビニル(PVC)に基づくものであってもよい。
【0039】
グレージングユニットは、次の型の構造を有していてもよい:ガラス/薄膜多層/ポリマーシート/ガラス。
【0040】
本発明によるグレージングユニットは、薄膜多層を破損することなく、加熱処理に供することができる。従って、該グレージングユニットは、場合により曲げられ、および/または焼き戻される。
【0041】
多層を備える単一の基板から成る場合、グレージングは曲げられるか、および/または焼き戻されてもよい。このようなグレージングは、「単一的な」グレージングと呼ばれる。グレージングが特に車両用グレージングユニットを形成する目的で曲げられる場合、薄膜多層は、少なくとも部分的に非平面の面上にあるのが好ましい。
【0042】
また、グレージングは、多重グレージングユニット、特に二重グレージングユニット、少なくとも曲がっているか、および/または焼き戻される多層を支持する基板であってもよい。これは、介在するガス充填空間に面するように載置される多層のための、多重グレージング構造において好ましい。積層構造では、多層を支持する基板がポリマーシートに接していてもよい。
【0043】
また、グレージングは、ガス充填空間によって対で分離した、3枚のガラスから成る三重グレージングユニットであってもよい。三重グレージング構造では、入射方向の日光が、面数が増える順で面を通過すると考える場合、多層を支持する基板が面2および/または面5の上にあってもよい。
【0044】
グレージングが、単一的なグレージング、二重グレージング、三重グレージングの多重グレージング、または積層グレージング型である場合、少なくとも多層を支持する基板は、曲げガラスか、または強化ガラスで作製されてもよく、多層の堆積前後に、この基板が曲げられるか、または焼き戻されることが可能である。
【0045】
また、本発明は、高エネルギー反射するグレージングユニット、および/または非常に低い放射率を有するグレージングユニット、および/またはジュール効果によって加熱した透明コーティングを有する加熱グレージングユニットを製造するための、本発明による基板の使用に関する。
【0046】
さらに、本発明は、エレクトロクロミックグレージングユニット、照明装置、ディスプレイ装置、または光起電力パネルの透明電極を製造するための、本発明による基板の使用に関する。
【0047】
本発明による基板は、特に、高エネルギー反射する基板、および/または非常に低い放射率を有する基板、および/または加熱グレージングユニットの加熱透明コーティングの製造のために使用されてもよい。
【0048】
本発明による基板は、特に、エレクトロクロミックグレージングユニット(このグレージングユニットは、単一的なグレージングか、または二重グレージング、三重グレージングもしくは積層グレージング型である。)、照明装置、表示画面、もしくは光起電力パネルの透明電極を製造するために使用されてもよい(ここで、用語「透明な」は、前の段落において「不透明でない」という意味で理解される。)。
【0049】
本発明による多層によって、同一の機能層の厚さの合計において、機能層の厚さが、多層においてほぼ同一の場合より、または機能層の厚さが、基板から増加する厚さの順で位置する場合より、低いシート抵抗を得ることが可能である。
【0050】
実際、多層の十分な抵抗への各機能層の寄与が一律でないことが明らかになった。驚くことに、第1の機能層が、多層の十分な抵抗に半分近く寄与することが見出された。第1の機能層が厚いほど、多層のシート抵抗は、同じ機能層の厚さの合計を有する多層と比較して低くなる。このために、α<1、好ましくはα≦0.95である。
【0051】
これをもたらすために、本発明によって示されるように、基板から減少する機能層の厚さの分布は、多層の非常に低いシート抵抗を得ることを可能にする。一方、角度の関数としての反射における色の変化の獲得は、厚さの分布が増加するに従って確かに悪くなるが、これにもかかわらず、角度の関数としての反射における色の変化の獲得は、許容し得る。
【0052】
しかしながら、1つの機能層から基板方向の次の機能層までの、または基板からの対向面の機能層での厚さの相違が、あまり大きくないことが重要である。このために、α≧0.5、好ましくはα≧0.55、またはα≧0.6である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明による3つの機能層を有する多層であって、透明ガラス基板上に堆積されている構造を示す。
【図2】本発明による4つの機能層を有する多層であって、透明ガラス基板上に堆積される構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明の詳細および有利な特徴は、添付図面によって示される次の非限定的な実施例から明らかになる。
【0055】
図1は、本発明による3つの機能層を有する多層であって、それぞれの機能層は、下方の遮断膜を備えないが、上方の遮断膜(overblocker coating)を備え、また、該多層は、任意の保護コーティングを備える。
【0056】
図2は、本発明による4つの機能層を有する多層であって、それぞれの機能層は、下方の遮断膜を備えるが、上方の遮断膜を備えず、また、該多層は、任意の保護コーティングを備える。
【0057】
図1および2では、種々の層の厚さの寸法は、理解を促すため、正確に守られない。
【0058】
図1は、3つの機能層40、80、120を有する多層構造であって、透明ガラス基板10上に堆積されている構造を示す。
【0059】
機能層40、80、120はそれぞれ、2つの反射防止膜20、60、100、140の間に位置する。この結果、基板から1番目の機能層40は、反射防止膜20と60の間に位置する。第2の機能層80は、反射防止膜60と100の間に位置し、第3の機能層120は、反射防止膜100と140の間に位置する。
【0060】
これらの反射防止膜20、60、100、140はそれぞれ、少なくとも1つの誘電体層24、26、28;62、64、66、68;102、104、106、108;142、144を含む。
【0061】
場合により、機能層40、80、120のそれぞれの一方は、下にある反射防止膜と機能層の間に位置する下方の遮断膜(図示せず)上に堆積してもよく、また、それぞれの機能層の他方は、機能層とこの層の上にある反射防止膜の間に位置する上方の遮断膜(overblocker coating)55、95、135の下に直接堆積してもよい。
【実施例】
【0062】
第一の実施例は、国際特許出願WO2005/051858の実施例14に従って、および国際特許出願WO2007/101964の教示に従って、基板10から1番目の反射防止膜20に挿入された混合錫酸化亜鉛で作製された平滑層26、第1の金属機能層の下にあり、一方が、基板10に直接堆積されることが明らかな窒化ケイ素で作製されたバリヤ層(符号24)および酸化亜鉛で作製された湿潤層28の間にあるコーティングを用いて行う。
【0063】
3つの実施例を、以下のように1から3の番号を付けて行った。3つの実施例をすべて、次の構造の積層グレージングユニットに導入した:多層を支持するガラス基板/PVB中間層シート/ガラス基板。
【0064】
以下の表1は、多層を支持する基板(表の最後の行)に関して、この位置の関数としての、積層構造の各層および各成分の材料と厚さを概説し、2番目のカラムの数は、図1の符号に相当する。
【0065】
【表1】

【0066】
以下のすべての実施例において、薄膜多層は、SAINT−GOBAIN社によって市販される、1.6mmの厚さを有する透明ソーダ石灰ガラスで作製された、基板上に堆積される。
【0067】
機能層40、80、120の下にある、反射防止膜20、60、100はそれぞれ、アルミニウムドープ結晶性酸化亜鉛系の最後の湿潤層28、68、108を含み、これらは、真上に堆積された機能層40、80、120に接している。
【0068】
表1から分かるように、第1の機能層40の下にある、第1の反射防止膜20、および第3の機能層120の下にある、第3の反射防止膜100は、非晶質混合酸化物で作製された、平滑層26、106を含み、それぞれの平滑層26、106は、それぞれの上にある湿潤層28、108に接している。
【0069】
平滑層26の厚さe26は、該第1の反射防止膜20の厚さの約1/6、および該第1の機能層40の厚さの約半分に相当する。
【0070】
平滑層106の厚さe106は、平滑層26の厚さe26と同一である。
【0071】
また、機能層80の下にある、他の反射防止膜60も、図1のように、非晶質混合酸化物で作製された少なくとも1つの平滑層66を含み、上にある湿潤層68に接している。しかしこれは、使用される堆積チャンバのカソードための空間の有効性の理由により、実施例1から3の事例ではない。
【0072】
反射防止膜20、60、100、140はそれぞれ、アルミニウムドープシリコン窒化物系の層24、64、104、144を含む。これらの層は、加熱処理時の酸素に対する障壁効果を得るために重要である。
【0073】
図1では、多層が任意の保護層200によって完成することが観察されたが、該保護層は、実施例1から3には示されていない。
【0074】
3つの実施例それぞれにおいて、スパッタリング(スパッタリングとは、「マグネトロンスパッタリング」をいう。)によって堆積された層の堆積条件は、以下のとおりである。
【0075】
【表2】

【0076】
機能層の厚さの分布が支持基板から減少している(e>e>e、ここで、e=α e、およびe=α´e)ので、実施例1は、本発明による実施例である。
【0077】
α=0.87、およびα´=0.85。ここで、これらは、実質的に0.02以内で異なる。
【0078】
機能層の厚さの分布が支持基板から増加している(e<e<e、ここで、e=β e、およびe=β´e)ので、実施例2は、本発明による実施例ではない。
【0079】
β=1.18、およびβ´=1.15。これらは同一ではない。
【0080】
機能層の厚さの分布が多層において一定である(e=e=e)ので、実施例3は、本発明による実施例ではない。
【0081】
さらに、これらの3つの多層には、焼き戻しすることができるという利点がある。
【0082】
実施例1の全機能層の厚さの合計は、実施例2の全機能層の厚さの合計および実施例3全機能層の厚さの合計と同一である。即ち、実施例1のe+e+e=実施例2または実施例3のe+e+e=39nmである。
【0083】
これらの3つの実施例が同じ機能層の厚さの合計を有するので、これらは通常同じシート抵抗を有し、このため、同じエネルギー反射およびエネルギー移動特性を有する。
【0084】
しかしながら、これは観察されたものではない。表3は、実施例1から3における、加熱処理(640°での曲げ)後の多層を支持する各基板の測定されたシート抵抗、および多層を支持する基板を統合する、完全な積層グレージングユニットの測定された主な光学特性を概説する。
【0085】
【表3】

【0086】
これらの基板において、
Rは、加熱処理(曲げ)後の1平方当たりのオームでの多層のシート抵抗を示し、
は、10°の観測器のA光源下で測定された%での可視範囲の光透過を示し、
R0およびbR0は、10°の観測器のD65光源下で測定され、従って、グレージングユニットに対して実質的に垂直に測定されたLABシステムでの反射aおよびbにおける色を示し、
60およびb60は、10°の観測器のD65光源下で測定された、およびグレージングユニットに対して実質的に垂直方向に60°の角度により測定された、LABシステムでの反射aおよびbにおける色を示す。
【0087】
従って、実施例3が、多層のシート抵抗、および光透過の点では十分であるが、光反射が比較的高く、また、反射および角度で色安定性を示さないことが観察される。0°で測定された明度と、60°で測定された明度の相違が非常に大きく、また、a60の値が非常に高い。
【0088】
実施例2は、実施例3よりも良好な光学特性、特に、60°の反射でより明白でない色(a60、より低い。)を有するが、光透過が低下し、シート抵抗が1オーム/1平方より高く、許容することができない。
【0089】
実施例1は、多層のシート抵抗の改善、実施例3および明らかに実施例2に対する光透過の改善、実施例3よりも低い光反射、および、実施例3よりも角度の関数としての反射において良好な色安定性を示す。
【0090】
これらの実施例のそれぞれの機能層40は、他の機能層80、120等よりも良好な品質であることが測定された。即ち、該機能層は、低い粗さであり、他のものよりも良好に結晶化する。
【0091】
銀層の大きな全厚さ(このため、低いシート抵抗が得られる。)、および良好な光学特性(特に、可視範囲での光透過)により、本発明による多層でコーティングされた基板を使用して、透明電極基板を製造することがさらに可能である。
【0092】
この透明電極基板は特に、実施例1の窒化ケイ素層144を、導電層(特に、10Ω.cm未満の抵抗を有する。)および特に酸化物系層に置換することにより、有機発光デバイスに適していると考えられる。この層は例えば、酸化スズで作製するか、場合によりAlもしくはGaとドープされた酸化亜鉛系、混合酸化物系、特に、インジウムスズ酸化物ITO系、インジウム酸化亜鉛IZO、場合により(例えば、Sb、Fで)ドープされた、錫酸化亜鉛SnZnOであってもよい。この有機発光デバイスを、照明装置またはディスプレイ装置(画面)の製造に使用してもよい。
【0093】
図2は、4つの機能層40、80、120、160を有する多層構造であって、透明ガラス基板10上に堆積される構造を示す。
【0094】
機能層40、80、120、160はそれぞれ、2つの反射防止膜20、60、100、140、180の間に位置する。このため、基板から1番目の機能層40は、反射防止膜20と60の間に位置し、2番目の機能層80は、反射防止膜60と100の間に位置し、3番目の機能層120は、反射防止膜100と140の間に位置し、4番目の機能層160は、反射防止膜140と180の間に位置する。
【0095】
これらの反射防止膜20、60、100、140、180はそれぞれ、少なくとも1つの誘電体層24、26、28;62、64、66、68;102、104、106、108;144、146、148;182、184を含む。
【0096】
場合により、機能層40、80、120、160のそれぞれの一方は、下にある反射防止膜と機能層の間に位置する、下方の遮断膜35、75、115、155上に堆積してもよく、また、それぞれの機能層の他方は、機能層と上にある反射防止膜の間に位置する、上方の遮断膜(図示せず)の下に直接堆積してもよい。
【0097】
図2では、多層が任意の保護層200、特に、酸素においてサブ化学量論的である酸化物系によって完成することが観察される。
【0098】
機能層40、80、120、160の下にある、反射防止膜20、60、100、140はそれぞれ、アルミニウムドープ結晶性酸化亜鉛系の最後の湿潤層28、68、108、148を含み、これらは、真上に堆積された機能層40、80、120、160に接している。
【0099】
機能層40、80、120、160の下にある、反射防止膜20、60、100、140はそれぞれ、さらに、非晶質混合酸化物で作製された、平滑層26、66、106、146を含み、それぞれの平滑層26、66、106、146は、それぞれの上にある湿潤層28、68、108、148に接している。
【0100】
反射防止膜20、60、100、140、180はそれぞれ、アルミニウムドープシリコン窒化物系の層24、64、104、144、184を含む。これらの層は、加熱処理時の酸素障壁効果を得るために、大きい。
【0101】
一般に、透明電極基板は、加熱グレージングユニット、および特に加熱積層フロントガラス用の加熱基板として適切であり得る。
【0102】
また、エレクトロクロミックグレージング用、ディスプレイスクリーン用、他に光電池用、特に透明光電池の前面もしくは後面用の透明電極基板としても適切であり得る。
【0103】
本発明は、実施例によって上記に述べられている。しかしながら、当業者が、特許請求の範囲によって規定されるような特許の範囲から逸脱することなく、本発明の種々の変形例を実施することができることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
「n個」の金属機能層(40、80、120)、特に、銀系機能層または金属合金含有銀系機能層と「(n+1)個」の反射防止膜(20、60、100、140)とが交互になっており、ここで、nは3以上の整数であり、各反射防止膜が少なくとも1つの反射防止層(24、64、104、144)を含み、このため、機能層(40、80、120)はそれぞれ、2つの反射防止膜(20、60、100、140)間に位置する薄膜多層を備える基板(10)、特に、透明ガラス基板であって、
各機能層(80、120)の厚さeが、基板(10)の方向において前に位置する、機能層の厚さより小さく、e=α ex−1
(ここで、
xは、基板(10)からの機能層の列数であり、
x−1は、基板(10)の方向において前に位置する機能層の列数であり、
αは、0.5≦α<1、好ましくは0.55≦α≦0.95、または0.6≦α≦0.95である数である。)
であり、また、
基板から1番目の金属機能層の厚さが、10≦e≦18nm、好ましくは11≦e≦15nmである
ことを特徴とする、前記基板。
【請求項2】
αの値が、第2列目以上のすべての機能層で異なることを特徴とする、請求項1に記載の基板(10)。
【請求項3】
基板から1番目の機能層(40)の下にある、第1の反射防止膜(20)の最後の層が、結晶性酸化物系、特に酸化亜鉛系の湿潤層(28)であり、場合によりアルミニウム等の少なくとも1つの他の元素を用いてドープされること、および、該1番目の機能層(40)の下にある第1の反射防止膜(20)が、平滑層(26)を含み、該平滑層が非晶質の混合酸化物で作製され、該平滑層が上にある湿潤層(28)に接していることを特徴とする、請求項1または2に記載の基板(10)。
【請求項4】
平滑層(26)の厚さe26が、第1の反射防止膜(20)の厚さの約1/6、および前記1番目の機能層(40)の厚さの約半分に相当することを特徴とする、請求項3に記載の基板(10)。
【請求項5】
金属機能層の全厚さが、好ましくは30nmより大きく、特に、30から60nmであり、または該全厚さが、3つの機能層を有する薄膜多層において35から50nmであり、または該全厚さが、4つの機能層を有する薄膜多層において40から60nmであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の基板(10)。
【請求項6】
反射防止膜(20、60、100、140)がそれぞれ、少なくとも1つの窒化ケイ素系の層(24、64、104、144)を含み、場合により、アルミニウム等の少なくとも1つの他の元素を用いてドープされることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の基板(10)。
【請求項7】
機能層(40、80、120)の下にある、それぞれの反射防止膜の最後の層が、結晶性酸化物系、特に酸化亜鉛系の湿潤層(28、68、108)であり、場合によりアルミニウム等の少なくとも1つの他の元素を用いてドープされることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の基板(10)。
【請求項8】
機能層(40、80、120)の下にある、少なくとも1つの反射防止膜が少なくとも1つの平滑層(26、66、106)を含み、該平滑層が非晶質の混合酸化物で作製され、該平滑層(26、66、106)が上にある湿潤層(28、68、108)に接していることを特徴とする、請求項7に記載の基板(10)。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の少なくとも1つの基板(10)を導入し、場合により少なくとも1つの他の基板と組み合わせるグレージングユニット、特に、二重グレージング、三重グレージングの多重グレージングユニット、または積層グレージング型、特に積層グレージングであって、
加熱積層グレージングユニットを製造することを可能にするための、薄層多層の電気的接続のための手段を含み、多層を支持する該基板が、場合により曲げおよび/または焼き戻しされる、
前記グレージングユニット。
【請求項10】
加熱グレージングユニットの加熱透明コーティング、または、エレクトロクロミックグレージングユニット、照明装置、ディスプレイ装置、もしくは光起電力パネルの透明電極を製造するための、請求項1から8のいずれか一項に記載の基板の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−502366(P2013−502366A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525193(P2012−525193)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051732
【国際公開番号】WO2011/020974
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】