説明

特定ダニ検出用マイクロアレイ、及び特定ダニ検出方法

【課題】ミナミツメダニ及びイエダニを特異的に検出する方法の提供。
【解決手段】特定の塩基配列を有するプローブ及び該塩基配列に対して相補的な塩基配列を有するプローブからなる群より選択される少なくとも1種のプローブを固定化した特定ダニ検出用マイクロアレイ。また、特定の塩基配列からなるプライマー及び別の特定の塩基配列からなるプライマーを備えたPCRプライマー対と、試料のゲノムDNAと、核酸合成酵素と、核酸合成基質とを含有するPCR反応液を用いて、試料中に含まれるミナミツメダニ及び/又はイエダニのゲノムDNAにおける一定の領域をPCR法により増幅し、上記マイクロアレイに、増幅して得られたDNAを接触させ、固定化されたプローブに結合させる、両ダニの検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト刺咬性ダニの検出、識別を行うためのマイクロアレイに関し、特にミナミツメダニ(Chelacaropsis moorei)及びイエダニ(Ornithonyssus bacoti)を検出するための特定ダニ検出用マイクロアレイ、及び特定ダニ検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミナミツメダニやイエダニなどのヒト刺咬性ダニは、重篤な皮膚炎を引き起こす原因となるダニである。
これらのダニが、一定の環境中に存在しているか否かの検出及び同定は、従来はダニの専門家が環境中から採取された物質を顕微鏡観察することにより行われていた。このため、その検出及び同定に長期間を要し、またその検出精度が、担当者の技量により左右されてしまうという問題があった。
【0003】
一方、DNAマイクロアレイを使用して、その環境中から得られたDNA中に特定のダニのDNAが存在するか否かを判断することにより、ダニを短時間で正確に検出し、同定することが可能である。
例えば、特許文献1及び2には、所定のプライマーを用いてダニ等のDNAを増幅し、増幅したDNA断片を所定のプローブにハイブリダイズさせることによって、特定のダニ等を検出する方法が記載されている。
これらの検出方法によれば、ダニの専門知識がなくても、ダニの検出を短時間で正確に行うことが可能である。
【0004】
【特許文献1】特開2007−202462号公報
【特許文献2】特開2008−35773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの先行技術文献に記載のプライマー対を用いた場合、ミナミツメダニとイエダニのゲノムDNAを的確に増幅させることは困難であった。従来のプライマー対は、ミナミツメダニとイエダニに対しては相同性が低いため、適していなかったと考えられる。また、ミナミツメダニとイエダニを特異的に検出するためのプローブは、まだ見いだされてはいなかった。
このように、従来の方法では、ミナミツメダニ及びイエダニを特異的に検出することができなった。
【0006】
そこで、本発明者らは鋭意研究した結果、ミナミツメダニ及びイエダニを効率的に増幅させ得る新規なプライマー対の開発、及びこれらのダニを特異的に検出し得るプローブの開発に成功し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、ミナミツメダニ及びイエダニを特異的に検出するためのプローブを固定化した特定ダニ検出用マイクロアレイ、及び新規プライマー対を用いてこれらのダニのDNAを増幅し、このマイクロアレイを用いて特定ダニを検出する特定ダニ検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特定ダニ検出用マイクロアレイは、配列番号1〜8のいずれかに示す塩基配列を有するプローブ、及び、配列番号1〜8のいずれかに示す塩基配列に対して相補的な塩基配列を有するプローブからなる群より選択される少なくとも1のプローブを固定化した構成としてある。
【0008】
また、本発明の特定ダニ検出方法は、配列番号9に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーを備えたPCRプライマー対と、試料のゲノムDNAと、核酸合成酵素と、核酸合成基質とを含有するPCR反応液を用いて、試料中に含まれる、ミナミツメダニ(Chelacaropsis moorei)、及び/又は、イエダニ(Ornithonyssus
bacoti)のゲノムDNAに含まれるrDNAにおける18SrDNA−ITS1−5.8SrDNA−ITS2−28SrDNA領域をPCR法により増幅し、配列番号1〜8のいずれかに示す塩基配列を有するプローブ、及び、配列番号1〜8のいずれかに示す塩基配列に対して相補的な塩基配列を有するプローブからなる群より選択された少なくとも1のプローブを固定化したマイクロアレイに、増幅して得られたDNAを接触させ、固定化されたプローブに結合させることにより特定する方法としてある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ミナミツメダニ及びイエダニを特異的に検出するための特定ダニ検出用マイクロアレイ、及び特定ダニ検出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の検出対象であるミナミツメダニ及びイエダニ、並びに偽陽性反応の確認に用いるコナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ及びケナガコナダニを示す図である。
【図2】実施例で使用した特定ダニ検出用マイクロアレイに固定化されたダニの種類毎のプローブの配置を示す図である。
【図3】実施例で使用した特定ダニ検出用マイクロアレイに固定化されたダニの種類毎のプローブのDNAにおける配置を示す図である。
【図4】実施例1〜3及び参考例1〜3における特定ダニの検出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
[検出対象のダニ]
本実施形態の検出対象のダニであるミナミツメダニは、蛛形綱(蜘蛛類)、ダニ目、前気門亜目、ツメダニ科に属し、学名Chelacaropsis moorei Bakerのヒト刺咬性ダニであり、重篤な皮膚炎を引き起こす原因となるものである。
また、本実施形態の検出対象のダニであるイエダニは、蛛形綱(蜘蛛類)、ダニ目、中気門亜目、オオサシダニ科に属し、学名Ornithonyssus bacoti (Hirst)のヒト刺咬性ダニであり、同様に重篤な皮膚炎を引き起こす原因となるものである。
【0012】
また、本実施形態では、特定ダニ検出用マイクロアレイの偽陽性反応の有無を確認するため、次の3種類のダニを使用している。
コナヒョウヒダニは、蛛形綱(蜘蛛類)、ダニ目、無気門亜目、チリダニ科に属し、学名Dermatophagoides farinae Hughesである。ヤケヒョウヒダニは、蛛形綱(蜘蛛類)、ダニ目、無気門亜目、チリダニ科に属し、学名Dermatophagoides pteronyssinus (Trouessart)である。ケナガコナダニは、蛛形綱(蜘蛛類)、ダニ目、無気門亜目、コナダニ科に属し、学名Tyrophagus putrescentiae (Schrank)である。これらは、いずれもアレルゲン性のダニであり、従来からマイクロアレイを使用して検出可能であった。以上のダニの写真、名称、及び分類を図1に示す。
【0013】
[特定ダニ検出用マイクロアレイ]
本実施形態において使用するマイクロアレイは、検出対象の特定ダニを検出するための、配列番号1〜8のいずれかに示す塩基配列を有するプローブ等を、基板上に固定化し得るものであれば特に限定されるものではなく、例えばスポット型DNAマイクロアレイ、合成型DNAチップなどを用いることが可能である。
【0014】
また、本実施形態において使用するプローブは、上記に限定されるものではなく、配列番号1〜8に示す塩基配列において1又は数個の塩基が欠損、置換又は付加されたプローブを用いることができる。また、配列番号1〜8に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるプローブを用いることもできる。さらに、これらのプローブや、配列番号1〜8に示す塩基配列からなるプローブに対して相補的な塩基配列を有するプローブを用いることもできる。
【0015】
なお、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、配列番号1で表される配列からなるDNAに対し高い相同性(相同性が90%以上、好ましくは95%以上)を有するDNAが、配列番号1で表される配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ハイブリダイズする条件が挙げられる。通常、完全ハイブリッドの溶解温度(Tm)より約5℃〜約30℃、好ましくは約10℃〜約25℃低い温度でハイブリダイゼーションが起こる場合をいう。ストリンジェントな条件については、J.Sambrookら,Molecular Cloning,A Laboratory Mannual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、特に11.45節「Conditions for Hybridization of Oligonucleotide Probes」に記載されている条件等を使用することができる。
【0016】
これらのプローブのうち、配列番号1〜4により特定されるものは、ミナミツメダニを検出するためのプローブであり、配列番号5〜8により特定されるものは、イエダニを検出するためのプローブである。
また、配列番号1〜4により特定される少なくともいずれかのプローブと、配列番号5〜8により特定される少なくともいずれかのプローブとを共にマイクロアレイに固定化することで、ミナミツメダニ及びイエダニの両方を検出可能なマイクロアレイとすることができる。
【0017】
これらのプローブの塩基配列は、次のような方法で決定した。
まず、ミナミツメダニとイエダニのそれぞれについて、ダニ虫体50匹を試料とし、CTAB法(Cetyl Trimethyl Ammonium Bromide)を用いてこれらのゲノムDNAを抽出した。
【0018】
そして、PCR法(Polymerase Chain Reaction)により、ミナミツメダニとイエダニのrDNAにおける18SrDNA−ITS1−5.8SrDNA−ITS2−28SrDNA領域を増幅し、電気泳動を行った。ミナミツメダニの増幅産物は1623bp、イエダニの増幅産物は546bpであった。これらを、ゲルから切り離して精製した。
PCR反応液において、フォワードプライマーは、配列番号9により特定される塩基配列からなるものを用い、リバースプライマーは、配列番10により特定される塩基配列からなるものを用いた。
【0019】
次に、精製されたミナミツメダニとイエダニの増幅産物を用いて、TAクローニング法で配列決定のための試料を調整し、DNAシークエンスによりその塩基配列を決定した。BLAST検索の結果、いずれの配列もそれぞれの亜種のものと高い相同性を示した。
次に、primer3、及びBLASTを用いて、ITS領域からプローブの配列を設計した。なお、primer3は、投入した配列に対し、各種のパラメーターを設定することでプローブやプライマーに適した配列を抽出するweb上の無償プログラムである(URL: http://frodo.wi.mit.edu/)。
このようにして、配列番号1〜8の塩基配列からなるプローブを設計し、BLASTを使用してその配列の特異性を確認した。
【0020】
本実施形態で使用する特定ダニのDNA検出用のプローブと特定ダニのDNA増幅用のプライマーは、いずれも20mer程度の長さであり、DNA合成装置により合成できる
本実施形態では、配列番号1〜8の配列からなるプローブ、及び配列番号9,10の配列からなるプライマー対として、いずれもDNA合成装置により合成したものを使用している。
【0021】
本実施形態の特定ダニ検出用マイクロアレイは、特定ダニ検出用のプローブを用いて、既存の一般的な方法で製造することができる。
例えば、本実施形態の特定ダニ検出用マイクロアレイとして、貼り付け型のDNAマイクロアレイを作成する場合は、DNAスポッターによりプローブをスライドガラス上に固定化することによって、作成することができる。また、合成型DNAチップを作成する場合は、光リソグラフィ技術により、ガラス基板上で一本鎖オリゴDNAを合成することによって、作成することができる。
【0022】
[特定ダニ検出方法]
次に、本実施形態の特定ダニ検出方法について説明する。
(1)特定ダニのゲノムDNAにおける対象領域の増幅
まず、採取したミナミツメダニ及び/又はイエダニを含む試料からのゲノムDNAの抽出は、CTAB法やDNA抽出装置を用いる方法など、一般的な手法により行うことができる。
次に、配列番号9に示す塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号10に示す塩基配列からなるリバースプライマーを備えた特定ダニ増幅用プライマー対と、試料のゲノムDNA(DNA抽出液)と、核酸合成酵素と、核酸合成基質と、その他の所定の試薬とを混合し、PCR反応液を作成する。PCR反応液は、プライマー対と試料のゲノムDNA以外は、一般的なものを使用して作成することができる。
【0023】
配列番号9により特定される塩基配列は、特開2007−202462号において、既に公開されているものである(同明細書における配列番号56)。
従来は、このフォワードプライマーと既存のダニユニバーサルリバースプライマー(同明細書における配列番号57)とからなるプライマー対を用いた場合、ミナミツメダニとイエダニのゲノムDNAを的確に増幅させることができなかった。
そこで、本発明者らは、配列番号10により特定される塩基配列からなる新規なリバースプライマーを共通配列から設計した。
上記フォワードプライマーとこのリバースプライマーとからなるプライマー対を用いることで、ミナミツメダニとイエダニのゲノムDNAにおける上記DNA領域を効率的に増幅させることが可能となった。
【0024】
また、本実施形態で使用される特定ダニ増幅用プライマー対は、上記に限定されるものではなく、配列番号9に示す塩基配列において1又は数個の塩基が欠損、置換又は付加されたプライマー及び配列番号10に示す塩基配列において1又は数個の塩基が欠損、置換又は付加されたプライマーを備えたプライマー対を用いることができる。また、配列番号9に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマー及び配列番号10に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマーを備えたプライマー対を用いることもできる。
【0025】
PCR反応液は、例えばAmpdirect(R)(株式会社島津製作所製)に規定の処方に従って作成することができる。
核酸増幅装置によるPCRの反応条件は、高い増幅効果を得るため、次のようなものにすることが好ましい。
(a)DNA鎖の乖離(DNA変性)工程 93〜97℃ 20〜40秒
(b)プライマーの対合(アニーリング)工程 46〜60℃ 10〜50秒
(c)DNA合成工程 70〜74℃ 50〜70秒
【0026】
具体的には、PCR反応条件を、例えば次のようなものにすることができる。
(i)95℃ 10分、(ii)94℃ 30秒、(iii)46〜60℃ 30秒、(iv)72℃ 60秒((ii)〜(iv)を40サイクル)、(v)72℃ 7分、(vi)4℃(∞)
以上の条件で核酸増幅装置によりDNAの増幅を行うことで、試料中に含まれる、ミナミツメダニ、及び/又は、イエダニのゲノムDNAに含まれるrDNAにおける18SrDNA−ITS1−5.8SrDNA−ITS2−28SrDNA領域を増幅して、その増幅産物を得ることができる。
【0027】
(2)マイクロアレイによるハイブリダイズ及び蛍光検出
次に、このようにして得られたPCR増幅産物を、本実施形態の特定ダニ検出用マイクロアレイ上に滴下し、ミナミツメダニ検出用、又はイエダニ検出用のプローブにハイブリダイスさせる。そして、ハイブリダイスしたPCR増幅産物の標識の蛍光を検出する。
【0028】
具体的には、例えば次のように行うことができる。
まず、PCR増幅産物に所定の緩衝液を混合し、94℃で5分間加温することで、二本鎖DNAを一本鎖に乖離させる。これを氷上にて急冷し、マイクロアレイに滴下する。
次に、高湿を保持可能な密閉容器にマイクロアレイを収め、45℃で1時間静置する。その後、所定の緩衝液によりハイブリダイスしなかったPCR産物をマイクロアレイから洗い流す。
そして、マイクロアレイを標識検出装置にかけて標識の検出を行い、試料中に特定ダニが存在するか否かを検出する。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の特定ダニ検出用マイクロアレイ、及び特定ダニ検出方法を用いて、ミナミツメダニとイエダニを検出した実施例と、本発明の特定ダニ検出用マイクロアレイ、及び特定ダニ検出方法によりヒョウヒダニ類等で偽陽性反応がでないことを確認した参考例について説明する。
【0030】
(実施例1)
PCR反応液として、Ampdirect(R)(株式会社島津製作所製)を使用し、次の組成のものを20μL作成した。
1.5×Ampdirect(R)Plus 4.0μL
2.5×Amp Addition−1 4.0μL
3.5×Amp Addition−2 4.0μL
4.500μM dNTPmixture(核酸合成基質 dCTP;400μM,dATP,dTTP,dGTP;500μM each) 2.0μL
5.フォワードプライマー(配列番号9:北海道システム・サイエンス株式会社により合成)(10pmol/μl) 1.0μL
6.リバースプライマー(配列番号10:北海道システム・サイエンス株式会社により合成)(10pmol/μl) 1.0μL
7.NovaTaq HotStart Polymerase No.71091−3(核酸合成酵素 Novagen(R)社製) 0.2μL
8.鋳型DNA(ミナミツメダニから抽出したもの 一般的に増幅可能なレベルの適量を含む) 1.0μL
9.1m MCy5−dCTP(PA55021)(標識成分 GEヘルスケア株式会社製) 0.2μL
10.HO(PCR反応液が合計で20μLになるまで加水)
【0031】
検出対象の特定ダニであるミナミツメダニは、財団法人日本環境衛生センターから入手したものを使用し、CTAB法によりゲノムDNAを抽出して、上記鋳型DNAとして使用した。なお、以下の実施例及び参考例におけるイエダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、及びケナガコナダニも同センターから入手したものを使用した。
【0032】
上記PCR反応液を使用して、核酸増幅装置(TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(R) Gradient タカラバイオ株式会社製)により、次の条件でDNAの増幅を行った。
1.95℃ 10分
2.94℃ 30秒
3.56℃ 30秒
4.72℃ 60秒(2〜4を40サイクル)
5.72℃ 7分
6.4℃保持 ∞
【0033】
マイクロアレイには、ジーンシリコン(R)(東洋鋼鈑株式会社製)を使用し、図2及び図3に示すように、スポット1〜8にはミナミツメダニを特定するためのプローブ(配列番号1〜4、及びその相補鎖)を、スポット9〜16にはイエダニを特定するためのプローブ(配列番号5〜8、及びその相補鎖)を、スポット17〜20にはコナヒョウヒダニを特定するためのプローブ(特開2008−35773号公報 配列番号62、64、及びその相補鎖 配列番号63、65)を、スポット21〜24にはヤケヒョウヒダニを特定するためのプローブ(特開2008−35773号公報 配列番号66、68、及びその相補鎖 配列番号67,69)を、スポット25〜28にはケナガコナダニを特定するためのプローブ(特開2008−35773号公報 配列番号70、72、及びその相補鎖 配列番号71,73)を、それぞれ固定化したものを用いた。
【0034】
次に、PCR増幅産物に緩衝液(3×SSC(クエン酸−生理食塩水)に0.3%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を添加)を混合して94℃で5分間加温し、氷上にて急冷してマイクロアレイに滴下した。
このマイクロアレイを密封容器(TaKaRa Hybridization Chamber5 タカラバイオ株式会社製)に収納してから、恒温槽(WATER BATH INCUBATOR BT-23 ヤマト科学株式会社製)に収め、45℃で1時間静置した。次に、上記緩衝液を用いてハイブリダイスしなかったPCR産物をマイクロアレイから洗い流した。
そして、マイクロアレイを標識検出装置(GenePix Personal 4100A Axon Instrument社製)にかけて検出光量を測定した。その結果を図4に示す。この検出光量は、レーザー光で励起して標識成分(Cy5)を発光させ、それを検出器内に取り付けた光電子増倍管(Photomultiplier Tube;PMT)の受光面にて光量を電気信号に置換し、それを数値化することで測定した。
【0035】
図4に示すように、ミナミツメダニ検出用のプローブが固定化されたスポット3,5に強い光量が検出され、同じくスポット1,2,4,7においても比較的強い光量が検出されている。
これにより、本発明の特定ダニ検出用マイクロアレイによって、ミナミツメダニを検出し得ることが確認された。
【0036】
ここで、配列番号1〜4に示される塩基配列を有するプローブ(以下、これを主鎖と称する)及びその相補鎖の少なくともいずれか一方に強い光量の検出が確認される場合、PCR増幅産物には、主鎖とハイブリダイズするDNA断片と相補鎖とハイブリダイズするDNA断片の双方が含まれているはずであり、本来は主鎖及び相補鎖の双方について、同様に強い光量が検出されるようにも考えられる。
しかしながら、実際には、ダニや真菌類では、ITS1の主鎖とITS2の相補鎖の反応が鈍くなるという傾向が見られる。これは、PCR増幅産物のDNA断片が、そのGC含有量や断片の長さなどに応じて特有の立体構造をとる結果、ハイブリダイズのしやすさなどに違いが生じるためであると推測される。なお、プライマーを変えて、ITS1とITS2の一方を増幅すれば、それぞれにおける弱い反応が強まる場合が多い。
【0037】
本実施例では、図3に示すように、特定ダニ検出用マイクロアレイにおいて、ミナミツメダニ、イエダニを検出するためのプローブとして、ITS1、ITS2のそれぞれにつき、2箇所からプローブを作成しているため、その反応は、次のようになる傾向がある。なお、〇は強い反応を、△は弱い反応を示す。
ITS1(1)主鎖△ ITS1(1)相補鎖○ ITS1(2)主鎖△ ITS1(2)相補鎖 〇
ITS2(1)主鎖○ ITS2(1)相補鎖△ ITS2(2)主鎖○ ITS2(2)相補鎖 △
【0038】
また、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ケナガコナダニについては、ITS1、ITS2のそれぞれにつき、1箇所からプローブを作成しているため、その反応は、次のようになる傾向がある。
ITS1主鎖△ ITS1相補鎖○ ITS2主鎖○ ITS2相補鎖 △
【0039】
なお、ミナミツメダニのITS1(1)及びITS1(2)のプローブ間では反応の強度に違いが見られることに加え、ミナミツメダニのITS1(2)については、主鎖の方が相補鎖よりも強く反応しており、上記傾向と異なる結果となっている。これは、ミナミツメダニのPCR増幅産物の塩基配列が1623bpと非常に長いため、短いイエダニ(546bp)などと比較して、その配列自体による立体構造をとりやすいと推定されるが、そういった鎖長や配列自体の特徴によるものと考えられる。
【0040】
(実施例2)
PCR反応液における鋳型DNAとして、イエダニから抽出したものを1.0μL用いた点以外は、実施例1と同じ条件で、PCR反応を行い、PCR増幅産物を得た。
このPCR増幅産物を使用して、実施例1と同様にして、マイクロアレイによるハイブリダイズ及び蛍光検出を行った。その結果を図4に示す。
【0041】
図4に示すように、イエダニ検出用のプローブが固定化されたスポット10,12,13,15に強い光量が検出され、同じくスポット9,11においても比較的強い光量が検出されている。
これにより、本発明の特定ダニ検出用マイクロアレイによって、イエダニを検出し得ることが確認された。
【0042】
(実施例3)
PCR反応液における鋳型DNAとして、ミナミツメダニ、イエダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ケナガコナダニから抽出したものをそれぞれ1.0μL用いた点以外は、実施例1と同じ条件で、PCR反応を行い、PCR増幅産物を得た。
このPCR増幅産物を使用して、実施例1と同様にして、マイクロアレイによるハイブリダイズ及び蛍光検出を行った。その結果を図4に示す。
【0043】
図4に示すように、ミナミツメダニ検出用のプローブが固定化されたスポット3,5に強い光量が検出され、同じくスポット1,2,4,7においても比較的強い光量が検出されている。また、イエダニ検出用のプローブが固定化されたスポット10,13,15に強い光量が検出され、同じくスポット9,11,12においても比較的強い光量が検出されている。
これにより、5種類のダニのゲノムDNAが混合されたPCR反応液を用いてPCR増幅産物を得た場合でも、本発明の特定ダニ検出用マイクロアレイによって、ミナミツメダニ及びイエダニを検出し得ることが確認された。
【0044】
(参考例1)
PCR反応液における鋳型DNAとして、コナヒョウヒダニから抽出したものを1.0μL用いた点以外は、実施例1と同じ条件で、PCR反応を行い、PCR増幅産物を得た。
このPCR増幅産物を使用して、実施例1と同様にして、マイクロアレイによるハイブリダイズ及び蛍光検出を行った。その結果を図4に示す。
【0045】
図4に示すように、コナヒョウヒダニ検出用のプローブが固定化されたスポット18,19に強い光量が検出されている。しかしながら、ミナミツメダニ検出用のプローブが固定化されたスポット1〜8及びイエダニ検出用のプローブが固定化されたスポット9〜16においては、反応が見られなかった。
これにより、本発明の特定ダニ検出用マイクロアレイは、コナヒョウヒダニについて、偽陽性反応がでないことが確認された。
【0046】
(参考例2)
PCR反応液における鋳型DNAとして、ヤケヒョウヒダニから抽出したものを1.0μL用いた点以外は、実施例1と同じ条件で、PCR反応を行い、PCR増幅産物を得た。
このPCR増幅産物を使用して、実施例1と同様にして、マイクロアレイによるハイブリダイズ及び蛍光検出を行った。その結果を図4に示す。
【0047】
図4に示すように、ヤケヒョウヒダニ検出用のプローブが固定化されたスポット23に強い光量が検出され、同じくスポット22においても比較的強い光量が検出されている。しかしながら、ミナミツメダニ検出用のプローブが固定化されたスポット1〜8及びイエダニ検出用のプローブが固定化されたスポット9〜16においては、反応が見られなかった。
これにより、本発明の特定ダニ検出用マイクロアレイは、ヤケヒョウヒダニについて、偽陽性反応がでないことが確認された。
【0048】
(参考例3)
PCR反応液における鋳型DNAとして、ケナガコナダニから抽出したものを1.0μL用いた点以外は、実施例1と同じ条件で、PCR反応を行い、PCR増幅産物を得た。
このPCR増幅産物を使用して、実施例1と同様にして、マイクロアレイによるハイブリダイズ及び蛍光検出を行った。その結果を図4に示す。
【0049】
図4に示すように、ケナガコナダニ検出用のプローブが固定化されたスポット26,27に強い光量が検出され、同じくスポット25,28においても比較的強い光量が検出されている。しかしながら、ミナミツメダニ検出用のプローブが固定化されたスポット1〜8及びイエダニ検出用のプローブが固定化されたスポット9〜16においては、反応が見られなかった。
これにより、本発明の特定ダニ検出用マイクロアレイは、ケナガコナダニについて、偽陽性反応がでないことが確認された。
【0050】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、実施例では、ミナミツメダニ、イエダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、及びケナガコナダニ検出用のプローブを固定化したマイクロアレイを使用しているが、本発明の特定ダニ検出用マイクロアレイは、これに限定されるものではなく、配列番号1〜8の塩基配列により特定される、ミナミツメダニ及び/又はイエダニを検出するためのプローブを配置したものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ミナミツメダニ及び/又はイエダニを、短期間で検出する必要がある場合等に好適に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1〜8のいずれかに示す塩基配列を有するプローブ、及び、配列番号1〜8のいずれかに示す塩基配列に対して相補的な塩基配列を有するプローブからなる群より選択される少なくとも1のプローブを固定化した特定ダニ検出用マイクロアレイ。
【請求項2】
以下の(1)〜(3)のいずれかのプローブを固定化し、ミナミツメダニ(Chelacaropsis moorei)を検出するための請求項1記載の特定ダニ検出用マイクロアレイ。
(1)配列番号1〜4に示す塩基配列において1又は数個の塩基が欠損、置換又は付加されたプローブ。
(2)配列番号1〜4に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるプローブ。
(3)(1)又は(2)のプローブに対して相補的な塩基配列を有するプローブ。
【請求項3】
以下の(4)〜(6)のいずれかのプローブを固定化し、イエダニ(Ornithonyssus bacoti)を検出するための請求項1又は2記載の特定ダニ検出用マイクロアレイ。
(4)配列番号5〜8に示す塩基配列において1又は数個の塩基が欠損、置換又は付加されたプローブ。
(5)配列番号5〜8に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるプローブ。
(6)(4)又は(5)のプローブに対して相補的な塩基配列を有するプローブ。
【請求項4】
配列番号1〜4のいずれかに示す塩基配列を有するプローブを固定化したスポットと、配列番号5〜8のいずれかに示す塩基配列を有するプローブを固定化したスポットとを、それぞれ少なくとも1個ずつ配置した
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の特定ダニ検出用マイクロアレイ。
【請求項5】
配列番号9に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーを備えたPCRプライマー対と、試料のゲノムDNAと、核酸合成酵素と、核酸合成基質とを含有するPCR反応液を用いて、前記試料中に含まれる、ミナミツメダニ(Chelacaropsis moorei)、及び/又は、イエダニ(Ornithonyssus bacoti)のゲノムDNAに含まれるrDNAにおける18SrDNA−ITS1−5.8SrDNA−ITS2−28SrDNA領域をPCR法により増幅し、
配列番号1〜8のいずれかに示す塩基配列を有するプローブ、及び、配列番号1〜8のいずれかに示す塩基配列に対して相補的な塩基配列を有するプローブからなる群より選択された少なくとも1のプローブを固定化したマイクロアレイに、増幅して得られたDNAを接触させ、前記固定化されたプローブに結合させることにより特定する
ことを特徴とする特定ダニ検出方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−50335(P2011−50335A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203353(P2009−203353)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)刊行物名 大会講演要旨集 2009年度(平成21年度)大会[福岡] 発行所 社団法人 日本農芸化学会 発行日 2009年3月5日 (2)研究集会名 日本農芸化学会2009年度大会 主催者名 社団法人 日本農芸化学会 開催日 平成21年3月27日〜29日
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】