説明

状態推定装置及び状態推定方法

【課題】推定処理の途中で、必要なモデルを判別して、不要なモデルのカルマンフィルタの処理結果がフィルタ全体の推定精度に与える悪影響を抑制することができるようにする。
【解決手段】統合処理部10がカルマンフィルタ処理部3−1〜3−3から出力された各モデルの状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(j)のうち、モデル構成判定部8により使用すると判別されたモデルの状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(j)を、モデル確率計算部6により計算されたモデル確率μk(j)に応じた統合加重で統合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、観測装置により観測された観測値に基づいて、動特性を有するシステムの状態値を推定する状態推定装置及び状態推定方法に関し、特に、化学、鉄鋼などのプラント、自動車、各種モータなどの制御機器、画像、音声、レーダなどの信号処理機器、医療分野における生体計測機器、衛星や飛翔体などの移動体追跡システム、GPS(Global Positioning System)や慣性航法装置を応用した測位システム、通信システム、経済予測システムなどの広範な分野に応用される状態推定装置及び状態推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
システムの状態量の動特性を表す運動方程式と、状態量と観測量の関係を表す観測方程式(以下、上記の運動方程式と観測方程式を併せて、「状態方程式」と称する)とに基づいて、観測量の時系列データからシステムの状態量を推定する最適フィルタ方式として、カルマンフィルタがよく知られている。
上記の状態方程式は、システムの動特性と観測系の性質を数学的に表現した数式モデルに相当する。
ただし、カルマンフィルタは、この数式モデルが時間的に変動せず一定であるか、もしくは、その変動が確定的で事前に既知であることを前提としている。
【0003】
実際の応用場面では、モデルが時間とともに変動し、また、その変動の程度やタイミングが未知である場合も多い。
したがって、このような場面では使用することができないカルマンフィルタの弱点を克服するフィルタ方式として、事前に想定される複数のモデルに対応するカルマンフィルタを並列に動作させる多重モデル方式のフィルタが各種提案されている。
その中でも、推定精度と演算負荷のバランスから最も有効とされるのが、IMM(Interacting Multiple Model)フィルタである(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
IMMフィルタでは、例えば、以下に示すような状態方程式を使用する。アンダーラインを付している変数はベクトルであることを示している。
【数1】

【0005】
式(1)はシステムの運動方程式であり、式(2)は観測方程式である。
また、kはp次元状態ベクトル、kはq次元観測ベクトル、rkはシステムのモデル変数、kはシステム雑音ベクトル、kは観測雑音ベクトルを表している。
また、係数行列A(),B(),H(),G()はrkの既知の行列関数である。なお、kはサンプリング時刻(以下、単に時刻と称する)tkを表すインデックスである。
【0006】
状態ベクトルkは、システムの動的挙動を規定する複数の状態変数を含むベクトルである。
例えば、モータの制御機器においては、コイルに流れる電流値や、モータシャフトの回転位置、速度などで構成される。
また、衛星の追跡システムにおいては、衛星の位置、速度、姿勢角などで構成される。
また、ある種の経済予測システムにおいては、収入、税率、失業率、経済成長率などが含まれ、生体計測機器の例では、血糖値、脈拍、呼吸数、体温などが含まれる。
【0007】
観測ベクトルkは、何らかの観測系で得られる複数の観測量で構成されたベクトルであり、状態ベクトルkと式(2)の関係で関連付けられている。
観測ベクトルkの時系列データに基づいて状態ベクトルkを推定することがフィルタ処理の目的となる。
また、システム雑音ベクトルk、観測雑音ベクトルkは、互いに独立な白色ガウス雑音であると仮定する。
【0008】
モデル変数rkは、複数の数式モデル(状態方程式)を識別する変数に相当する。即ち、モデル変数rkが変わると、係数行列A(),B(),H(),G()の値が変わることによって、式(1)、式(2)は別の運動方程式、観測方程式を表すことになる。
モデル変数rkは、時刻tkにおいて、s個の離散的状態(S={1,2,・・・,s}で表す)のいずれかをとり、その値は、確率的に推移すると仮定する。
【0009】
この推移においては、一次マルコフ連鎖を仮定し、時刻tkにおいて、システムがいずれの離散的状態にあるかの確率は、時刻tk-1の離散的状態のみに依存するものとする。
そこで、下記の式(3)に示すように、時刻tk-1でシステムが離散的状態iであったときに時刻tkで状態jに推移する確率pijを予め規定する。ただし、定義により、下記の式(4)が成立する。
【数2】

【0010】
IMMフィルタは、上記の状態方程式の記述に基づいて、s個のカルマンフィルタからなるフィルタバンクを構成し、以下のように処理を実行する。
まず、初期時刻t0に対するs個のモデルj(j=1,2,・・・,s)のモデル確率の初期値μ0(j)と、各モデルに対応するカルマンフィルタの状態ベクトル推定値の初期値0|0(j)ハットと、推定誤差共分散行列の初期値P0|0(j)とを設定して、フィルタ処理を開始する。
サンプリング時刻毎の処理ループに入ると、最初に、以下の混合処理を行う。ただし、以下では、時刻tkにおける処理を示すものとする。
【0011】
混合処理では、各モデルのカルマンフィルタが前時刻tk-1で算出した状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットと推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)を互いに交換して、次式のような重み付け統合を行う。式(7)のmijは混合加重である。また、Tは行列の転置を表している。
【数3】

【0012】
次に、式(5)のmk-1|k-1(j)ハットと、式(6)のPmk-1|k-1(j)をモデルj(j=1,2,・・・,s)のフィルタの入力とし、カルマンフィルタのアルゴリズムにしたがって予測処理と更新処理を実行する。
これにより、各モデルの状態ベクトル予測値k|k-1(j)ハットと、予測誤差共分散行列Pk|k-1(j)と、更新後の状態ベクトル推定値k|k(j)ハットと、推定誤差共分散行列Pk|k(j)とが得られる。
【0013】
次に、上記の状態ベクトル予測値k|k-1(j)ハットと、予測誤差共分散行列Pk|k-1(j)を使用し、以下の手順にしたがって各モデルのモデル確率を更新する。
まず、以下の式(9)、式(10)にしたがって、各モデルの残差ベクトルk(j)チルダと、残差共分散行列Dk(j)を算出する。
【数4】

【0014】
式(10)の右辺第2項のRkは観測誤差共分散行列である。
残差ベクトルk(j)チルダは、状態ベクトル予測値から求められた観測ベクトルの予測値と、実際に取得された観測ベクトルとの差を表すベクトルである。
この残差ベクトルk(j)チルダは、平均零ベクトルと残差共分散行列Dk(j)の多変量ガウス分布にしたがって実現すると仮定すれば、式(11)により算出される確率密度Λk(j)はモデルjの尤度を表すものとなる。
なお、モデルjの尤度Λk(j)は現時刻tkの観測ベクトルkを受けた結果として、各モデルのフィルタがどの程度適合しているかを測る指標値となる。
この尤度Λk(j)を使用する式(12)にしたがって、現時刻tkに対応するモデル確率μk(j)が算出される。
式(12)と式(8)により逐次的に計算されるモデル確率μk(j)は、前時刻tk-1のモデル確率μk-1(j)及びモデル間の推移pijと、現時刻tkの尤度Λk(j)から推論された「モデルjが正しい確率」であり、下記の式(13)が成立する。
【数5】

【0015】
最後に、IMMフィルタは、各モデルのカルマンフィルタの出力である状態ベクトル推定値k|k(j)ハットと、推定誤差共分散行列Pk|k(j)とを上記のモデル確率μk(j)で重み付け統合した値を時刻tkの処理結果として外部に出力し、時刻tkの処理を終了する。
【数6】

【0016】
上記のIMMフィルタを搭載している従来の状態推定装置は、以下のように構成されている。
(1)予め用意されているモデルのカルマンフィルタ処理を実施して、当該モデルの状態ベクトル推定値k|k(j)ハットと推定誤差共分散行列Pk|k(j)を更新する複数のカルマンフィルタ処理部
(2)複数のカルマンフィルタ処理部により更新された状態ベクトル推定値k|k(j)ハットと推定誤差共分散行列Pk|k(j)から、式(9)〜式(11)によって、各モデルのモデル尤度Λk(j)を計算するモデル尤度計算部
(3)モデル尤度計算部により計算されたモデル尤度Λk(j)から、式(12)によって、各モデルのモデル確率μk(j)を計算するモデル確率計算部
(4)複数のカルマンフィルタ処理部により更新された状態ベクトル推定値k|k(j)ハットと推定誤差共分散行列Pk|k(j)を、式(14)〜式(15)によって、モデル確率計算部により計算されたモデル確率μk(j)に応じた統合加重で統合する統合処理部
(5)複数のカルマンフィルタ処理部により更新された状態ベクトル推定値k|k(j)ハットと推定誤差共分散行列Pk|k(j)を、式(5)〜式(8)によって、モデル確率計算部により計算されたモデル確率μk(j)に応じた混合加重で混合し、混合後の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(j)ハットと推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(j)を複数のカルマンフィルタ処理部に出力する混合処理部
【0017】
上記のIMMフィルタを搭載している従来の状態推定装置は、複数のモデルに対応するカルマンフィルタを並列動作させることによって、システムの動特性や観測系の性質が変動する場合でも、状態量を推定することができる。
また、事前に設定したモデルの中に、システムや観測系の性質を正確に描写したものが存在しなくても、それに近いモデルのフィルタ出力ほど高いモデル確率で重み付けされて統合処理されることにより、近似的にシステム状態量を計算することができる。
【0018】
【非特許文献1】IEEE Transaction on Automatic Control,Vol. 33,No.8,pp.780−783,August 1988
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来の状態推定装置は以上のように構成されているので、推定処理の開始から終了に至るまで、予め固定的に設定されたs個のモデルのカルマンフィルタの処理結果が統合され、その統合結果がフィルタ全体の推定結果として得られる。しかし、実際には、推定処理に必要となるモデルの数や種類が時間の経過に伴って変動する場合があり、ある時刻において、無用なモデルのカルマンフィルタを使用すると、観測雑音の影響で、そのモデルのモデル確率が零より大きな値となるため、式(14)、式(15)の統合処理に影響を与えて、推定精度の劣化を招くことがある。また、式(5)〜式(8)の混合処理において、無用なモデルのカルマンフィルタの処理結果が、他のモデルのカルマンフィルタの入力に影響を与えるため、結果的にフィルタ全体の推定精度の劣化を引き起こすことがある課題があった。
【0020】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、推定処理の途中で、必要なモデルを判別して、不要なモデルのカルマンフィルタの処理結果がフィルタ全体の推定精度に与える悪影響を抑制することができる状態推定装置及び状態推定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明に係る状態推定装置は、モデル確率算出手段により算出されたモデル尤度から必要なモデルを判別するモデル判別手段を設け、統合処理手段が複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列のうち、モデル判別手段により必要であると判別されたモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列をモデル確率算出手段により算出されたモデル確率に応じた統合加重で統合するようにしたものである。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、モデル確率算出手段により算出されたモデル尤度から必要なモデルを判別するモデル判別手段を設け、統合処理手段が複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列のうち、モデル判別手段により必要であると判別されたモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列をモデル確率算出手段により算出されたモデル確率に応じた統合加重で統合するように構成したので、不要なモデルのカルマンフィルタの処理結果がフィルタ全体の推定精度に与える悪影響を抑制することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による状態推定装置を示す構成図である。図1では、モデル数がs=3の場合の例を示している。言うまでもないが、他のモデル数の場合にも同様に構成することができる。
図において、観測装置1は例えばセンサなどの計測手段であり、時刻tkの観測ベクトルkを状態推定装置に出力する。
【0024】
混合処理部2は推定値記憶部4−1〜4−3から前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットと推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)を読み出し、式(5)〜式(8)にしたがって、前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットと推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)を前時刻tk-1のモデル確率μk-1(j)に応じた混合加重で混合する処理を実施する。ただし、j=1,2,・・・,sである。
なお、混合処理部2は混合処理手段を構成している。
【0025】
カルマンフィルタ処理部3−1は混合処理部2により混合されたモデル(1)の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(1)ハット及び推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(1)と、観測装置1から出力された観測ベクトルkとを入力して、モデル(1)のカルマンフィルタ処理を実施し、モデル(1)の状態ベクトル推定値の更新値k|k(1)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(1)を推定値記憶部4−1及び統合処理部10に出力する。
カルマンフィルタ処理部3−2は混合処理部2により混合されたモデル(2)の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(2)ハット及び推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(2)と、観測装置1から出力された観測ベクトルkとを入力して、モデル(2)のカルマンフィルタ処理を実施し、モデル(2)の状態ベクトル推定値の更新値k|k(2)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(2)を推定値記憶部4−2及び統合処理部10に出力する。
【0026】
カルマンフィルタ処理部3−3は混合処理部2により混合されたモデル(3)の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(3)ハット及び推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(3)と、観測装置1から出力された観測ベクトルkとを入力して、モデル(3)のカルマンフィルタ処理を実施し、モデル(3)の状態ベクトル推定値の更新値k|k(3)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(3)を推定値記憶部4−3及び統合処理部10に出力する。
なお、カルマンフィルタ処理部3−1〜3−3はカルマンフィルタ処理手段を構成している。
推定値記憶部4−1〜4−3はカルマンフィルタ処理部3−1〜3−3から出力された状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(j)を記憶するメモリである。
【0027】
モデル尤度計算部5はカルマンフィルタ処理部3−1〜3−3から状態ベクトル予測値k|k-1(j)ハット、予測誤差共分散行列Pk|k-1(j)及び観測ベクトルkを収集して、式(9)〜式(11)によって、各モデルのモデル尤度Λk(j)を計算する処理を実施する。
モデル確率計算部6はモデル尤度計算部5により計算されたモデル尤度Λk(j)から、式(12)によって、各モデルのモデル確率μk(j)を計算する処理を実施する。
なお、モデル尤度計算部5及びモデル確率計算部6からモデル確率算出手段が構成されている。
モデル確率記憶部7はモデル確率計算部6により計算された各モデルのモデル確率μk(j)を記憶するメモリである。
【0028】
モデル構成判定部8はモデル尤度計算部5により計算されたモデル尤度Λk(j)と統合処理部10より統合された状態ベクトル推定値k|kハットから、次時刻tk+1で使用するモデル(必要なモデル)の集合S’(S’⊂S={1,2,・・・,s})を決定し、そのモデルの集合S’をモデル構成判定結果としてモデル構成記憶部9に格納する処理を実施する。
なお、モデル構成判定部8はモデル判別手段を構成している。
モデル構成記憶部9はモデル構成判定結果S’を記憶するメモリである。
【0029】
統合処理部10はカルマンフィルタ処理部3−1〜3−3から出力された各モデルの状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(j)のうち、前時刻tk-1のモデル構成判定部8の処理により現時刻tkで使用すると判別されたモデルの状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(j)を、モデル確率計算部6により計算されたモデル確率μk(j)に応じた統合加重で統合する処理を実施する。
なお、統合処理部10は統合処理手段を構成している。
【0030】
図2はこの発明の実施の形態1による状態推定装置の混合処理部2を示す構成図であり、図において、混合加重計算部11はモデル確率記憶部7に記憶されている前時刻tk-1のモデル確率μk-1(j)から、式(7)〜式(8)によって、混合加重mijを計算する処理を実施する。
混合計算部12−1は推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットを混合加重mijで混合して、モデル(1)の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(1)ハットをカルマンフィルタ処理部3−1に出力するとともに、推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)を混合加重mijで混合して、モデル(1)の推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(1)をカルマンフィルタ処理部3−1に出力する。
【0031】
混合計算部12−2は推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットを混合加重mijで混合して、モデル(2)の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(2)ハットをカルマンフィルタ処理部3−2に出力するとともに、推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)を混合加重mijで混合して、モデル(2)の推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(2)をカルマンフィルタ処理部3−2に出力する。
混合計算部12−3は推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットを混合加重mijで混合して、モデル(3)の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(3)ハットをカルマンフィルタ処理部3−3に出力するとともに、推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)を混合加重mijで混合して、モデル(3)の推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(3)をカルマンフィルタ処理部3−3に出力する。
【0032】
図3はこの発明の実施の形態1による状態推定装置の統合処理部10を示す構成図であり、図において、統合加重調整部21はモデル構成記憶部9に記憶されている前時刻tk-1のモデル構成判定結果S’を参照して、現時刻tkで使用するモデルを認識し、現時刻tkで使用するモデルの統合加重の総和が1になるように(使用しないモデルの統合加重は0とする)、モデル確率計算部6により計算されたモデル確率μk(j)に応じた各モデルの統合加重μ’(j)を計算する処理を実施する。
統合計算部22はカルマンフィルタ処理部3−1〜3−3から出力された各モデルの状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハットを統合加重μ’(j)で統合して、統合後の状態ベクトル推定値k|kを出力するとともに、カルマンフィルタ処理部3−1〜3−3から出力された各モデルの推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(j)を統合加重μ’(j)で統合して、統合後の推定誤差共分散行列Pk|kを出力する。
図4はこの発明の実施の形態1による状態推定方法を示すフローチャートである。
【0033】
次に動作について説明する。
最初に、モデル確率記憶部7にモデル確率の初期値μ0(j)(j=1,2,・・・,s)が設定され、また、推定値記憶部4−1〜4−3に各モデルの状態ベクトル推定値の初期値0|0(j)ハットと、推定誤差共分散行列の初期値P0|0(j)が設定される。
その後、観測装置1から時刻tk(k≧1とする)の観測ベクトルkが得られると、以下のフィルタ処理を開始する。
【0034】
まず、混合処理部2の混合加重計算部11は、モデル確率記憶部7に記憶されている前時刻tk-1のモデル確率μk-1(j)を式(7)〜式(8)に代入して、混合加重mijを計算する(ステップST1)。ただし、i=1,2,・・・,sである。
混合処理部2の混合計算部12−1〜12−3は、混合加重計算部11が混合加重mijを計算すると、推定値記憶部4−1〜4−3から前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットと推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)の読み出しを行う。
【0035】
混合計算部12−1〜12−3は、前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットと混合加重mijを式(5)に代入して、前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットを混合し、混合後の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(j)ハットをカルマンフィルタ処理部3−1〜3−3に出力する(ステップST2)。
また、混合計算部12−1〜12−3は、前時刻tk-1の推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)と、前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットと、混合後の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(j)ハットと、混合加重mijとを式(6)に代入して、前時刻tk-1の推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)を混合し、混合後の推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(j)をカルマンフィルタ処理部3−1〜3−3に出力する(ステップST3)。
【0036】
カルマンフィルタ処理部3−1は、混合処理部2により混合されたモデル(1)の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(1)ハット及び推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(1)と、観測装置1から出力された観測ベクトルkとを入力して、モデル(1)のカルマンフィルタ処理を実施し、モデル(1)の状態ベクトル推定値の更新値k|k(1)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(1)を推定値記憶部4−1及び統合処理部10に出力する(ステップST4)。
また、カルマンフィルタ処理部3−1は、モデル(1)の状態ベクトル予測値k|k-1(1)ハット及び予測誤差共分散行列Pk|k-1(1)と、観測ベクトルkとをモデル尤度計算部5に出力する。
【0037】
カルマンフィルタ処理部3−2は、カルマンフィルタ処理部3−1と並列にモデル(2)のカルマンフィルタ処理を実施する。
即ち、カルマンフィルタ処理部3−2は、混合処理部2により混合されたモデル(2)の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(2)ハット及び推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(2)と、観測装置1から出力された観測ベクトルkとを入力して、モデル(2)のカルマンフィルタ処理を実施し、モデル(2)の状態ベクトル推定値の更新値k|k(2)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(2)を推定値記憶部4−2及び統合処理部10に出力する(ステップST4)。
また、カルマンフィルタ処理部3−2は、モデル(2)の状態ベクトル予測値k|k-1(2)ハット及び予測誤差共分散行列Pk|k-1(2)と、観測ベクトルkとをモデル尤度計算部5に出力する。
【0038】
カルマンフィルタ処理部3−3は、カルマンフィルタ処理部3−1,3−2と並列にモデル(3)のカルマンフィルタ処理を実施する。
即ち、カルマンフィルタ処理部3−3は、混合処理部2により混合されたモデル(3)の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(3)ハット及び推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(3)と、観測装置1から出力された観測ベクトルkとを入力して、モデル(3)のカルマンフィルタ処理を実施し、モデル(3)の状態ベクトル推定値の更新値k|k(3)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(3)を推定値記憶部4−3及び統合処理部10に出力する(ステップST4)。
また、カルマンフィルタ処理部3−3は、モデル(3)の状態ベクトル予測値k|k-1(3)ハット及び予測誤差共分散行列Pk|k-1(3)と、観測ベクトルkとをモデル尤度計算部5に出力する。
【0039】
モデル尤度計算部5は、カルマンフィルタ処理部3−1〜3−3から状態ベクトル予測値k|k-1(j)ハット、予測誤差共分散行列Pk|k-1(j)及び観測ベクトルkを受けると、その状態ベクトル予測値k|k-1(j)ハットと観測ベクトルkを式(9)に代入して、各モデルの残差ベクトルk(j)チルダを算出する。
また、モデル尤度計算部5は、その予測誤差共分散行列Pk|k-1(j)を式(10)に代入して、各モデルの残差共分散行列Dk(j)を算出する。
モデル尤度計算部5は、各モデルの残差ベクトルk(j)チルダと残差共分散行列Dk(j)を算出すると、各モデルの残差ベクトルk(j)チルダと残差共分散行列Dk(j)を式(11)に代入して、各モデルのモデル尤度Λk(j)を計算する(ステップST5)。
【0040】
モデル確率計算部6は、モデル尤度計算部5が各モデルのモデル尤度Λk(j)を計算すると、そのモデル尤度Λk(j)を式(12)に代入して、各モデルのモデル確率μk(j)を計算し、そのモデル確率μk(j)をモデル確率記憶部7に格納するとともに、そのモデル確率μk(j)を統合処理部10に出力する(ステップST6)。
【0041】
モデル構成判定部8の処理内容は、下記の実施の形態3,4で詳述するが、モデル構成判定部8は、モデル尤度計算部5により計算されたモデル尤度Λk(j)と統合処理部10より統合された状態ベクトル推定値k|kハットから、次時刻tk+1で使用するモデル(必要なモデル)の集合S’(S’⊂S={1,2,・・・,s})を決定し、そのモデルの集合S’をモデル構成判定結果としてモデル構成記憶部9に格納する(ステップST7)。
【0042】
統合処理部10は、カルマンフィルタ処理部3−1〜3−3から出力された各モデルの状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(j)のうち、前時刻tk-1のモデル構成判定部8の処理により現時刻tkで使用すると判別されたモデルの状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(j)を、モデル確率計算部6により計算されたモデル確率μk(j)に応じた統合加重で統合する。
【0043】
即ち、統合処理部10の統合加重調整部21は、モデル構成記憶部9に記憶されている前時刻tk-1のモデル構成判定結果S’を参照して、現時刻tkで使用するモデルを認識する。
統合加重調整部21は、下記の式(16)に示すように、現時刻tkで使用しないモデルの統合加重を0とし、現時刻tkで使用するモデルの統合加重の総和が1になるように、モデル確率計算部6により計算されたモデル確率μk(j)に応じた各モデルの統合加重μ’(j)を計算する(ステップST8)。
【数7】

【0044】
統合処理部10の統合計算部22は、統合加重調整部21が各モデルの統合加重μ’(j)を計算すると、その統合加重μ’(j)とカルマンフィルタ処理部3−1〜3−3から出力された各モデルの状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハットを下記の式(17)に代入して、各モデルの状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハットを統合し、統合後の状態ベクトル推定値k|kを出力する(ステップST9)。
また、統合計算部22は、各モデルの統合加重μ’(j)と、各モデルの推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(j)と、各モデルの状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハットと、統合後の状態ベクトル推定値k|kとを下記の式(18)に代入して、各モデルの推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(j)を統合し、統合後の推定誤差共分散行列Pk|kを出力する(ステップST10)。
【数8】

【0045】
なお、この実施の形態1では、現時刻tkで使用しないモデルのカルマンフィルタの処理結果を統合処理部10での統合処理に使用しないようにしているが、使用しないモデルのカルマンフィルタの処理自体は継続して実行している。
その理由は、上記カルマンフィルタの出力より得られるモデル尤度を継続的に監視するなどして、使用再開の判断を行えるよう配慮したものである。
また、一旦処理を停止してしまうと、処理を再開する際、初期値から動作を開始する必要があり、処理結果が収束するまでの間に、フィルタ全体の推定精度に影響を与えることがあるからである。
【0046】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、モデル確率計算部6により計算されたモデル尤度Λk(j)と統合処理部10より統合された状態ベクトル推定値k|kハットから、次時刻tk+1で使用するモデルを判別するモデル構成判定部8を設け、統合処理部10がカルマンフィルタ処理部3−1〜3−3から出力された各モデルの状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(j)のうち、前時刻tk-1のモデル構成判定部8の処理により現時刻tkで使用すると判別されたモデルの状態ベクトル推定値の更新値k|k(j)ハット及び推定誤差共分散行列の更新値Pk|k(j)を、モデル確率計算部6により計算されたモデル確率μk(j)に応じた統合加重で統合するように構成したので、不要なモデルのカルマンフィルタの処理結果がフィルタ全体の推定精度に与える悪影響を抑制することができる効果を奏する。
【0047】
実施の形態2.
図5はこの発明の実施の形態2による状態推定装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
混合処理部30は推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハット及び推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)のうち、前時刻tk-1のモデル構成判定部8の処理により現時刻tkで使用すると判別されたモデルの状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハット及び推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)を、モデル確率計算部6により計算されたモデル確率μk(j)に応じた混合加重で混合する処理を実施する。
なお、混合処理部30は混合処理手段を構成している。
【0048】
図6はこの発明の実施の形態2による状態推定装置の混合処理部30を示す構成図であり、図において、混合加重計算部31はモデル確率記憶部7に記憶されている前時刻tk-1のモデル確率μk-1(j)から、式(7)〜式(8)によって、混合加重mijを計算する処理を実施する。
混合加重調整部32はモデル構成記憶部9に記憶されている前時刻tk-1のモデル構成判定結果S’を参照して、現時刻tkで使用するモデルを認識し、現時刻tkで使用するモデルの混合加重の総和が1になるように(使用しないモデルの統合加重は0とする)、混合加重計算部31により計算された混合加重mijを調整する処理を実施する。
混合計算部33−1は推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットを調整後の混合加重m’ijで混合して、モデル(1)の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(1)ハットをカルマンフィルタ処理部3−1に出力するとともに、推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)を調整後の混合加重m’ijで混合して、モデル(1)の推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(1)をカルマンフィルタ処理部3−1に出力する。
【0049】
混合計算部33−2は推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットを調整後の混合加重m’ijで混合して、モデル(2)の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(2)ハットをカルマンフィルタ処理部3−2に出力するとともに、推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)を調整後の混合加重m’ijで混合して、モデル(2)の推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(2)をカルマンフィルタ処理部3−2に出力する。
混合計算部33−3は推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットを調整後の混合加重m’ijで混合して、モデル(3)の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(3)ハットをカルマンフィルタ処理部3−3に出力するとともに、推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)を調整後の混合加重m’ijで混合して、モデル(3)の推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(3)をカルマンフィルタ処理部3−3に出力する。
【0050】
次に動作について説明する。
混合処理部30以外は、上記実施の形態1と同様であるため、混合処理部30の処理内容のみを説明する。
混合処理部30の混合加重計算部31は、モデル確率記憶部7に記憶されている前時刻tk-1のモデル確率μk-1(j)を式(7)〜式(8)に代入して、混合加重mijを計算する。
【0051】
混合処理部30の混合加重調整部32は、混合加重計算部31が混合加重mijを計算すると、前時刻tk-1のモデル構成判定部8の処理により現時刻tkで使用すべきでないと判別されたモデルの前時刻tk-1におけるカルマンフィルタの処理結果が、現時刻tkにおけるカルマンフィルタの混合計算に入力されるのを阻止するため、混合加重計算部31により計算された混合加重mijを調整する。
【0052】
即ち、混合加重調整部32は、モデル構成記憶部9に記憶されている前時刻tk-1のモデル構成判定結果S’を参照して、現時刻tkで使用するモデルを認識する。
混合加重調整部32は、下記の式(19)に示すように、現時刻tkで使用しないモデルの混合加重を0とし、現時刻tkで使用するモデルの混合加重の総和が1になるように、混合加重計算部31により計算された混合加重mijを調整する。
混合加重調整部32は、調整後の混合加重m’ijを混合計算部33−1〜33−3に出力する。ただし、i=1,2,・・・,sである。
【数9】

【0053】
混合計算部33−1〜33−3は、前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットと、混合加重調整部32により調整された混合加重m’ijを下記の式(20)に代入して、前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットを混合し、混合後の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(j)ハットをカルマンフィルタ処理部3−1〜3−3に出力する。
また、混合計算部33−1〜33−3は、前時刻tk-1の推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)と、前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハットと、混合後の状態ベクトル推定値mk-1|k-1(j)ハットと、調整後の混合加重m’ijとを下記の式(21)に代入して、前時刻tk-1の推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(j)を混合し、混合後の推定誤差共分散行列Pmk-1|k-1(j)をカルマンフィルタ処理部3−1〜3−3に出力する。
【数10】

【0054】
なお、この実施の形態2では、現時刻tkで使用しないモデルの前時刻tk-1におけるカルマンフィルタの処理結果を混合処理部30での混合処理に使用しないようにしているが、使用しないモデルのカルマンフィルタの処理自体は継続して実行している。
その理由は、上記カルマンフィルタの出力より得られるモデル尤度を継続的に監視するなどして、使用再開の判断を行えるよう配慮したものである。
また、一旦処理を停止してしまうと、処理を再開する際、初期値から動作を開始する必要があり、処理結果が収束するまでの間に、フィルタ全体の推定精度に影響を与えることがあるからである。
【0055】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、推定値記憶部4−1〜4−3に記憶されている前時刻tk-1の状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハット及び推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)のうち、前時刻tk-1のモデル構成判定部8の処理により現時刻tkで使用すると判別されたモデルの状態ベクトル推定値k-1|k-1(j)ハット及び推定誤差共分散行列Pk-1|k-1(j)を、モデル確率計算部6により計算されたモデル確率μk(j)に応じた混合加重で混合するように構成したので、上記実施の形態1よりも更に、不要なモデルのカルマンフィルタの処理結果がフィルタ全体の推定精度に与える悪影響を抑制することができる効果を奏する。
【0056】
実施の形態3.
図7はこの発明の実施の形態3による状態推定装置のモデル構成判定部8を示す構成図であり、図において、状態量によるモデル構成判定部41は統合処理部10より統合された状態ベクトル推定値k|kハットに含まれている状態変数の値を調べて、使用するモデルを判別する処理を実施する。
モデル尤度によるモデル構成判定部42はモデル尤度計算部5により計算されたモデル尤度Λk(j)に基づいて使用するモデルを判別する処理を実施する。
モデル構成決定部43はモデル構成判定部41,42の判別結果を統合して、最終的に使用するモデルを判別する処理を実施する。
【0057】
次に動作について説明する。
状態量によるモデル構成判定部41は、統合処理部10から統合後の状態ベクトル推定値k|kハットを入力し、その状態ベクトル推定値k|kハットに含まれている状態変数の値を調べて、使用するモデルを判別する。
モデル構成判定部41の判別処理は、特に状態変数の値に応じて、どのようなモデルのカルマンフィルタが必要であるかを事前知識として有している場合に有効である。
【0058】
図8は状態ベクトルkが2つの状態変数x1k,x2kで構成されているとき、2つの状態変数x1k,x2kの値に応じて、使用するモデルを判別している例を示す説明図である。
図8では、以下に示すようなモデルの選択ルールを表している。ただし、a,bは閾値である。
1k<a AND x2k<b → モデル(1)(2)(3)を使用
1k<a AND x2k≧b → モデル(1)(2)を使用
1k≧a AND x2k<b → モデル(2)(3)を使用
1k≧a AND x2k≧b → モデル(2)を使用
なお、上記の選択ルールは、一例であり、AND条件の代わりにOR条件を使用したり、あるいは、例えば、状態変数x1k,x2kの和や積をとるなど、状態変数x1k,x2kに対して、何らかの演算を施したりして、その結果の範囲に対する条件などでルールを作成してもよい。
【0059】
モデル尤度によるモデル構成判定部42は、モデル尤度計算部5から各モデルのモデル尤度Λk(j)を入力し、そのモデル尤度Λk(j)が所定の閾値より低い場合、当該モデルを不要なモデルと判別し、そのモデル尤度Λk(j)が所定の閾値より高い場合、当該モデルを必要なモデルと判別する。
ただし、モデル尤度Λk(j)は、観測雑音の影響を受けて変動するため、時間平滑化を行ってから使用するものとする。即ち、時間平滑化後のモデル尤度Λk(j)バーを所定の閾値と比較して、必要なモデルか否かを判別する。
【0060】
この時間平滑化の処理としては、例えば、下記の式(22)のように、過去N時刻分のモデル尤度Λk(j)の移動平均を求めたり、あるいは、式(23)のように、一次の低域通過フィルタを通すことによって実現することができる。ただし、これらの平滑化処理は、当然ながら、モデル番号毎に独立に実行する。式(23)の右辺のαは、0<α<1を満たすように選択された平滑化ゲインである。
【数11】

【0061】
モデル構成決定部43は、モデル構成判定部41,42の判別結果を入力し、モデル番号毎に、そのモデルのカルマンフィルタを次時刻において使用するか否かの最終判定を行う。
判定基準としては、状態量によるモデル構成判定部41と、モデル尤度によるモデル構成判定部42の両方で使用すると判別されたモデルを、最終的に使用するモデルとするAND条件や、いずれか一方で使用すると判別されたモデルを、最終的に使用するモデルとするOR条件を用いることが考えられる。
また、状態量によるモデル構成判定部41の判別結果と、モデル尤度によるモデル構成判定部42の判別結果に優先度を設定し、優先度の高い方の判別結果が使用するモデルとされていれば、そのモデルを使用するようにしてもよい。
さらに、上記優先度が時刻や運用条件によって変動せず、予め固定的に設定できる場合は、当初から状態量によるモデル構成判定部41、モデル尤度によるモデル構成判定部42のいずれか必要な方のみを動作させ、モデル構成決定部43の処理を省略することにより装置を簡素化できることは言うまでもない。
【0062】
なお、この判定基準は、各モデルに共通でもよいし、また、各モデル毎に独立に設定してもよい。
さらに、あるモデルについての判別結果が、時刻毎に頻繁に入れ替わるのを防ぐ目的で、連続して何回か同じ判別結果が得られた場合に限り、「使用/不使用」の判別結果を反転させることができるとする条件を加味することも考えられる。
【0063】
以上で明らかなように、この実施の形態3によれば、モデル尤度計算部5により計算されたモデル尤度Λk(j)と統合処理部10より統合された状態ベクトル推定値k|kハットから、使用するモデルを判別するように構成したので、的確なモデルを使用することができるようになり、その結果、状態推定精度を高めることができる効果を奏する。
【0064】
実施の形態4.
図9はこの発明の実施の形態4による状態推定装置のモデル構成判定部8を示す構成図であり、図において、図7と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
モデル確率調整部44はモデル構成決定部43により最終的に使用すると判別されたモデルのモデル尤度Λk(j)(または、時間平滑化後のモデル尤度Λk(j)バー)を正規化し、正規化後のモデル尤度Λk(j)にしたがってモデル確率記憶部7に記憶されているモデル確率μk(j)を変更する処理を実施する。
【0065】
次に動作について説明する。
モデル確率調整部44は、モデル構成決定部43により決定された現時刻のモデル構成判定結果が前時刻のモデル構成判定結果と異なり、あるモデルの使用が中止されたり、逆にあるモデルの使用が新たに開始された場合に、モデル確率記憶部7に記憶されているモデル確率μk(j)を変更するものである。
ここで、式(12)と式(8)によって逐次的に計算されるモデル確率μk(j)は、過去から現時刻に至るまでのモデル尤度Λk(j)の情報を含んでいる。このため、モデル構成が変更された場合には、過去の情報を極力排除し、最近のモデル尤度の情報のみでモデル確率を再設定することが、フィルタ全体の収束性を高めるために有効である。
ただし、各時刻のモデル尤度は、観測雑音の影響を受けて変動する可能性があるため、式(22)や式(23)によって時間平滑化されたモデル尤度Λk(j)バーを用いることが望ましい。
【0066】
そこで、モデル確率調整部44では、モデル尤度によるモデル構成判定部42から時間平滑化されたモデル尤度Λk(j)バーを入力し、下記の式(24)に示すように、モデル構成決定部43により最終的に使用すると決定されたモデル群に対して、モデル尤度Λk(j)バーを正規化することよってモデル確率μk(j)を計算し、そのモデル確率μk(j)をモデル確率記憶部7に格納する。
【数12】

【0067】
以上で明らかなように、この実施の形態4によれば、モデル構成決定部43により最終的に使用すると判別されたモデルのモデル尤度Λk(j)を正規化し、正規化後のモデル尤度Λk(j)にしたがってモデル確率記憶部7に記憶されているモデル確率μk(j)を変更するように構成したので、モデル構成の変更が生じた場合にも、フィルタ出力に過渡応答が生じて収束が遅れるのを抑制することができるようになり、この結果、上記実施の形態1,2よりも、更に、推定精度を高めることができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】この発明の実施の形態1による状態推定装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による状態推定装置の混合処理部2を示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1による状態推定装置の統合処理部10を示す構成図である。
【図4】この発明の実施の形態1による状態推定方法を示すフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態2による状態推定装置を示す構成図である。
【図6】この発明の実施の形態2による状態推定装置の混合処理部30を示す構成図である。
【図7】この発明の実施の形態3による状態推定装置のモデル構成判定部8を示す構成図である。
【図8】状態ベクトルkが2つの状態変数x1k,x2kで構成されているとき、2つの状態変数x1k,x2kの値に応じて、使用するモデルを判別している例を示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態4による状態推定装置のモデル構成判定部8を示す構成図である。
【符号の説明】
【0069】
1 観測装置、2 混合処理部(混合処理手段)、3−1〜3−3 カルマンフィルタ処理部(カルマンフィルタ処理手段)、4−1〜4−3 推定値記憶部、5 モデル尤度計算部(モデル確率算出手段)、6 モデル確率計算部(モデル確率算出手段)、7 モデル確率記憶部、8 モデル構成判定部(モデル判別手段)、9 モデル構成記憶部、10 統合処理部(統合処理手段)、11 混合加重計算部、12−1〜12−3 混合計算部、21 統合加重調整部、22 統合計算部、30 混合処理部(混合処理手段)、31 混合加重計算部、32 混合加重調整部、33−1〜33−3 混合計算部、41 状態量によるモデル構成判定部、42 モデル尤度によるモデル構成判定部、43 モデル構成決定部、44 モデル確率調整部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め用意されているモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列と観測装置により観測された観測値を入力して当該モデルのカルマンフィルタ処理を実施して、当該モデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列を更新する複数のカルマンフィルタ処理手段と、上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列から各モデルのモデル尤度を算出し、上記モデル尤度から各モデルのモデル確率を算出するモデル確率算出手段と、上記モデル確率算出手段により算出されたモデル尤度から必要なモデルを判別するモデル判別手段と、上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列のうち、上記モデル判別手段により必要であると判別されたモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列を上記モデル確率算出手段により算出されたモデル確率に応じた統合加重で統合する統合処理手段とを備えた状態推定装置。
【請求項2】
予め用意されているモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列と観測装置により観測された観測値を入力して当該モデルのカルマンフィルタ処理を実施して、当該モデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列を更新する複数のカルマンフィルタ処理手段と、上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列から各モデルのモデル尤度を算出し、上記モデル尤度から各モデルのモデル確率を算出するモデル確率算出手段と、上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を上記モデル確率算出手段により算出されたモデル確率に応じた統合加重で統合する統合処理手段とを備えた状態推定装置において、上記統合処理手段により統合された状態推定値から必要なモデルを判別するモデル判別手段を設け、上記統合処理手段が上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を統合する際、上記モデル判別手段により必要であると判別されたモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列だけを統合することを特徴とする状態推定装置。
【請求項3】
予め用意されているモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列と観測装置により観測された観測値を入力して当該モデルのカルマンフィルタ処理を実施して、当該モデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列を更新する複数のカルマンフィルタ処理手段と、上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列から各モデルのモデル尤度を算出し、上記モデル尤度から各モデルのモデル確率を算出するモデル確率算出手段と、上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を上記モデル確率算出手段により算出されたモデル確率に応じた統合加重で統合する統合処理手段と、上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を上記モデル確率算出手段により算出されたモデル確率に応じた混合加重で混合し、混合後の状態推定値及び推定誤差共分散行列を上記複数のカルマンフィルタ処理手段に出力する混合処理手段とを備えた状態推定装置において、上記モデル確率算出手段により算出されたモデル尤度から必要なモデルを判別するモデル判別手段を設け、上記混合処理手段が上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を混合する際、上記モデル判別手段により必要であると判別されたモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列だけを混合することを特徴とする状態推定装置。
【請求項4】
予め用意されているモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列と観測装置により観測された観測値を入力して当該モデルのカルマンフィルタ処理を実施して、当該モデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列を更新する複数のカルマンフィルタ処理手段と、上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列から各モデルのモデル尤度を算出し、上記モデル尤度から各モデルのモデル確率を算出するモデル確率算出手段と、上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を上記モデル確率算出手段により算出されたモデル確率に応じた統合加重で統合する統合処理手段と、上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を上記モデル確率算出手段により算出されたモデル確率に応じた混合加重で混合し、混合後の状態推定値及び推定誤差共分散行列を上記複数のカルマンフィルタ処理手段に出力する混合処理手段とを備えた状態推定装置において、上記統合処理手段により統合された状態推定値から必要なモデルを判別するモデル判別手段を設け、上記混合処理手段が上記複数のカルマンフィルタ処理手段により更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を混合する際、上記モデル判別手段により必要であると判別されたモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列だけを混合することを特徴とする状態推定装置。
【請求項5】
モデル判別手段は、モデル確率算出手段により算出されたモデル尤度と統合処理手段により統合された状態推定値から必要なモデルを判別することを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の状態推定装置。
【請求項6】
モデル判別手段は、必要なモデルのモデル尤度を正規化し、正規化後のモデル尤度にしたがってモデル確率算出手段により算出されたモデル確率を変更することを特徴とする請求項1、請求項3または請求項5記載の状態推定装置。
【請求項7】
予め用意されているモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列と観測装置により観測された観測値を入力して当該モデルのカルマンフィルタ処理を実施して、当該モデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列を更新する複数のカルマンフィルタ処理ステップと、上記複数のカルマンフィルタ処理ステップで更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列から各モデルのモデル尤度を算出し、上記モデル尤度から各モデルのモデル確率を算出するモデル確率算出ステップと、上記複数のカルマンフィルタ処理ステップで更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を上記モデル確率算出ステップで算出されたモデル確率に応じた統合加重で統合する統合処理ステップとを備えた状態推定方法において、上記モデル確率算出ステップで算出されたモデル尤度と上記統合処理ステップで統合された状態推定値から必要なモデルを判別するモデル判別ステップを設け、上記統合処理ステップが上記複数のカルマンフィルタ処理ステップで更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を統合する際、上記モデル判別ステップで必要であると判別されたモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列だけを統合することを特徴とする状態推定方法。
【請求項8】
予め用意されているモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列と観測装置により観測された観測値を入力して当該モデルのカルマンフィルタ処理を実施して、当該モデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列を更新する複数のカルマンフィルタ処理ステップと、上記複数のカルマンフィルタ処理ステップで更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列から各モデルのモデル尤度を算出し、上記モデル尤度から各モデルのモデル確率を算出するモデル確率算出ステップと、上記複数のカルマンフィルタ処理ステップで更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を上記モデル確率算出ステップで算出されたモデル確率に応じた統合加重で統合する統合処理ステップと、上記複数のカルマンフィルタ処理ステップで更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を上記モデル確率算出ステップで算出されたモデル確率に応じた混合加重で混合し、混合後の状態推定値及び推定誤差共分散行列を上記複数のカルマンフィルタ処理ステップに出力する混合処理ステップとを備えた状態推定方法において、上記モデル確率算出ステップで算出されたモデル尤度と上記統合処理ステップで統合された状態推定値から必要なモデルを判別するモデル判別ステップを設け、上記混合処理ステップが上記複数のカルマンフィルタ処理ステップで更新された状態推定値及び推定誤差共分散行列を混合する際、上記モデル判別ステップで必要であると判別されたモデルの状態推定値及び推定誤差共分散行列だけを混合することを特徴とする状態推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−31096(P2009−31096A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194570(P2007−194570)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】