説明

狭隘部の溶接方法

【課題】溶接部が各種構造部材等に覆われる等狭隘な部分であっても、溶接の強度を容易に向上させることができる狭隘部の溶接方法を提供する。
【解決手段】一方の部材1に対して他方の部材2を当接させ、これら部材の当接部を主溶接法により溶接する一方、当該主溶接法による溶接部の少なくとも一部が前記各部材又は第三の部材により囲まれて狭隘部内に位置する場合における前記一部の溶接方法であって、前記狭隘部内に露出する前記溶接部の少なくとも一部をレーザ溶接法により仕上げ溶接することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走行路の床版を構成するデッキプレート等を製作する場合に用いて好適な溶接方法であって、デッキプレートの本体に対し補強用リブを取り付ける場合等に適した狭隘部の溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、鋼板等の金属の溶接方法に関しては各種の溶接方法が知られているが、建築構造物や橋の走行路等に使用される金属鋼板の溶接には、地震や走行車両の荷重に耐え得るために強度の高い溶接方法が用いられる。
しかしながら、このような構造物を設計する場合には、所定の強度を得ようとしても必要な溶接部が構造物の各種構成部材に覆われるので、溶接が困難な箇所が生ずることが多い。従って、従来この種の構造物は、溶接強度を十分に得る等の観点から、構造物を溶接の行い易い形状に構成するようにしている。
例えば、下記に示す特許文献1の床版に対する溶接方法は、走行路の床版を構成するデッキプレートの下面に断面がチャンネル状のリブを溶接するに際して、アーク溶接等により外部から両者を溶接すると共に、チャンネル状のリブの開口部より内部から溶接するものである。
【特許文献1】特開2007−77749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記特許文献1に記載される溶接方法は、リブの内部を溶接するために、開口部を溶接機や溶接棒を挿入配置可能な大きさ、形状とする必要があり、リブ全体を大形に構成しなければならなかった。換言すれば、上記の溶接方法は、狭隘な溶接箇所を有する構造物に適用し難いという問題を有しており、リブ全体を小形化した場合には、リブ内部の溶接を省略する等して溶接強度を犠牲にせざるを得ないという問題があった。
【0004】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、溶接部が各種構造部材等に覆われる等狭隘な部分であっても、溶接の強度を容易に向上させることができる狭隘部の溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用する。
すなわち、この発明は、一方の部材に対して他方の部材を当接させ、これら部材の当接部を主溶接法により溶接する一方、当該主溶接法による溶接部の少なくとも一部が前記各部材又は第三の部材により囲まれて狭隘部内に位置する場合における前記一部の溶接方法であって、前記狭隘部内に露出する前記溶接部の少なくとも一部をレーザ溶接法により仕上げ溶接することを特徴とするものである。
【0006】
また、請求項2に係る発明においては、前記仕上げ溶接により、前記一方の部材と他方の部材との間に隅肉部を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、一方の部材に対して他方の部材を溶接する一方、この場合の溶接部の少なくてもその一部が狭隘な部分に位置する場合にもその部分をレーザ溶接法によって仕上げ溶接するので、その一部が狭隘な部分に位置していてもレーザを的確に照射することができ、仕上げ溶接を良好に行うことができる。
【0008】
また、一方の部材と他方の部材の狭隘部の仕上げ溶接を隅肉部が形成されるように溶接するので、一方の部材と他方の部材との溶接部について十分な強度を確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の一実施形態について説明する。
図1は、この発明による狭隘部の溶接方法を適用して溶接を行う溶接対象を示すものである。この溶接対象は、橋の走行路の床版を構成するデッキプレートDであって、デッキプレート本体1の下面1bに複数のリブ2を備えたものである。デッキプレート本体1は、車両等が走行する際にデッキプレート本体1の上面1aから相当量の負荷が加わるため、デッキプレート本体1の下面1bに補強用のリブ2が複数設けられて、デッキプレート本体1のたわみ・変形等が生じない構造とされている。
【0010】
この場合、デッキプレート本体1の下面にリブ2を溶接する際には、各リブの間隔Lが狭いものとなっているので、各リブ間に形成される空間Sが狭隘な部分となっている。このため、空間S(狭隘部)におけるデッキプレート本体1とリブ2との間の溶接部に溶接棒等を至らせるのは困難であり、通常の溶接方法を用いることができないので、この発明による溶接方法を採用して溶接部に所定の強度を得ようとするものである。
【0011】
図2は、この発明による溶接方法により、デッキプレート本体1にリブ2を溶接する場合の方法を示している。なお、上記図1に示すデッキプレートDは床版に設置された状態を示しているが、この図2は、デッキプレートDを製作する場合の図であって、デッキプレートDについて図1と上下を逆にして示している。また、デッキプレートDは、工場において予め製作されて工事現場に搬送されるものである。
【0012】
図において、符号10は、主溶接装置であり、符号20は、副溶接装置である。
主溶接装置10は、アーク溶接法を採用したものであり、溶接装置本体11と溶接棒12とを備え、溶接装置本体11からリード線13及び端子14を介して溶接棒12に電源を供給する構成となっており、本体1にはアース線15が接続されている。
他方、副溶接装置20は、空間Sにおけるデッキプレート本体1とリブ2との間を仕上げ溶接するものであって、レーザ溶接法を採用したものであり、レーザ光Bを発生させる光源21と、レーザ光Bを集光する凸レンズ22とを備える。
【0013】
デッキプレート本体1に対してリブ2を溶接する際には、主溶接装置10の溶接装置本体11を起動してアークによって溶接棒12を溶融させながら、それをデッキプレート本体1とリブ2との間に補給させ、デッキプレート本体1とリブ2とをアークによって溶融させ、デッキプレート本体1とリブ2との間に隅肉を形成させつつ、デッキプレート本体1とリブ2とを溶接する。
【0014】
すなわち、溶接装置本体11を起動させると、デッキプレート本体1と溶接棒12に印加された電圧により、低電圧・高電流の放電現象(アーク)が形成され、局所的な高温を得ることにより、デッキプレート本体1とリブ2との間に溶融金属の溶湯ができ、この溶融部分が時間の経過と共に空間S側に順次浸透して行く。さらに、溶融した金属が固化してデッキプレート本体1とリブ2が一体となり、順次リブの長手方向に溶接棒12を移動させることによって両者が完全に一体化する。
【0015】
ここで、主溶接装置10により溶接するのは、図3にP1で示すリブ2の一方の側であるが、この主溶接装置10による溶融部はリブ2の他方の側P2にも形成され、これが固化して他方の側P2にも溶融部が形成される。但し、この場合、直接溶接されるのは、作業側だけであるので、隅肉部が得られるのはこの一方の側P1だけであり、反対側P2の強度は不十分な状態となっている。つまり、空間Sにおける溶接部には、アークが掛かってないのでビートの凹凸が激しい不自然な形状となるばかりでなく、強度的に不十分なものとなる。
【0016】
次に、図2、図3に示すように、デッキプレート本体1や隣接するリブ2に囲まれる狭い空間(狭隘部)Sにおいて、この空間Sに露出する接続部をレーザ溶接法を採用した副溶接装置20によって溶接する。すなわち、副溶接装置20のレーザ光Bの発射部を各リブ2の開口付近に臨ませた状態からレーザ光Bをデッキプレート本体1とリブ2との間の角部における不十分な溶接部に照射して溶接するものである。
この副溶接装置20により、デッキプレート本体1とリブ2との間を、主溶接装置10と同様にリブ2の長手方向に順次溶接していく。ここでの溶接は仕上げ溶接であり、溶接時間等を適切にとることにより、デッキプレート本体1とリブ2との間の角部に図4に示すように隅肉部を形成する。これにより、ビートの不自然な形状(凹凸)が解消し、デッキプレート本体1とリブ2との間の強度は十分なものとなる。
【0017】
そして、上記のように一つのリブ2をデッキプレート本体1に溶接した後に、そのリブ2と所定の間隔を空けた上で新たなリブ2をデッキプレート本体1の下面1bに当接させて、上記と同様に溶接することで必要な数のリブ2をデッキプレート本体1に順次溶接していくことが可能となる。
【0018】
図5は、この発明の別の実施の形態を示す図である。
上記の実施の形態においては、主溶接装置10と副溶接装置20とを独立した各溶接装置として説明したが、主溶接装置10と副溶接装置20とを同期させて、連動して動作させるように構成することで、より迅速かつスムーズな溶接が可能となる。
なお、図5において、図1〜図4と同一の構成要素と同一の部分については同一符号を付し、説明を省略する。
【0019】
図に示す溶接装置30は、主溶接装置10と副溶接装置20とを同期かつ連動して駆動させるように構成したものであり、デッキプレートDを製造する際に、工場内においてこの溶接装置30を駆動してデッキプレートDを製造するものである。
この図に示す溶接装置30は、主溶接装置10と副溶接装置20とがレール31上を制御装置32によって同期して走行し、かつ溶接状態が制御されるようになっている。すなわち、この溶接装置30においては、主溶接装置10が一定時間先行して溶接を開始し、これに遅れて副溶接装置20が溶接を開始することにより、前述した実施の形態と同様に、一方が溶接された後に、他方がレーザ溶接されて順次仕上げが自動的になされるように、制御装置32によって制御されるようになっている。
【0020】
この実施の形態においても、前述した実施の形態と同様の効果が得られる一方、主溶接装置10と副溶接装置20とが同期して、連動して動作するので、より迅速かつスムーズな溶接が可能となる。
【0021】
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下の変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、主溶接装置10がアーク溶接の場合について説明したが、アーク溶接に限られず、レーザ溶接方法、レーザ・アークハイブリッド溶接方法、プラズマ溶接方法、ガス溶接方法等他の溶接方法を用いることができる。さらに、主溶接装置10がレーザ溶接方法を採用する場合には、この主溶接装置10が副溶接装置20を兼ねることにより、副溶接装置20を省略することができる。
(2)上記実施形態では、リブ2間に狭隘部が形成される場合について説明したが、リブ2のみならずそれ以外の各種部材(第三の部材)で狭隘部が形成された場合にもこの発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の一実施形態における溶接対象のデッキプレートDを示す図である。
【図2】この発明の一実施形態におけるデッキプレート本体1にリブ2を溶接する場合の方法を示す図である。
【図3】この発明の一実施形態におけるデッキプレート本体1とリブ2とのレーザ溶接前の溶接状態を示す図である。
【図4】この発明の一実施形態におけるデッキプレート本体1とリブ2とのレーザ溶接後の溶接状態を示す図である。
【図5】この発明の別の実施形態に係る溶接装置30の正面図である。
【符号の説明】
【0023】
1…デッキプレート本体
2…リブ
10…主溶接装置
20…副溶接装置
B…レーザ
D…デッキプレート
S…空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の部材に対して他方の部材を当接させ、これら部材の当接部を主溶接法により溶接する一方、当該主溶接法による溶接部の少なくとも一部が前記各部材又は第三の部材により囲まれて狭隘部内に位置する場合における前記一部の溶接方法であって、
前記狭隘部内に露出する前記溶接部の少なくとも一部をレーザ溶接法により仕上げ溶接することを特徴とする狭隘部の溶接方法。
【請求項2】
前記仕上げ溶接により、前記一方の部材と他方の部材との間に隅肉部を形成することを特徴とする請求項1に記載の狭隘部の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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