説明

球体の製造方法および製造装置

【課題】 真球度が高くかつ球径の均一な微小球体を簡易に製造する。
【解決手段】 不活性ガスを満たしたチャンバ1の上端部内に電極2A,2Bが突出して接近対向している。電源3から電極2A,2B間にパルス電源が供給されて、電極2A,2B間にアーク放電が生じる。材料体5は材料供給装置6によってチャンバ1の頂部から電極2A,2B間に供給される。材料体5は、製品となる所定径の微小球体の体積にほぼ等しい体積のチップ状のものが順次電極間に供給されて、アーク放電によって瞬時に溶解され、自己の表面張力によって球状となる。その後、通電を停止すると冷却されて凝固し、自重によってチャンバ1の底部へ落下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は球体の製造方法および製造装置に関し、特に、アーク放電を使用してミクロンサイズからミリサイズに至るまでの、マイクロボールベアリング、触媒、あるいは焼結原料等に利用可能な広範な球体を簡易に製造できる球体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の球体の製造方法として、特許文献1には、陽極とした略円柱形状の合金体を不活性ガス中で回転させ、この合金体の端面に負電極を対向させて両者の間にアーク放電を生じさせて合金体を溶融させ、遠心力で飛散した合金滴を雰囲気中で冷却させて微小球状の合金チップを得る方法が示されている。
【特許文献1】特開2001−230052
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の製造方法では、得られる球体の粒径は例えば0.1〜1.0mmと大きなバラつきを有し(上記特許文献1)、これを目的に応じてフィルタリングしても、未だ十分な球径の均一度は得られず、かつ真球度も未だ不十分であるという問題があった。
【0004】
そこで本発明は真球度が高くかつ球径の均一な球体を簡易に製造する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本第1発明の製造方法では、製品となる所定径の球体の体積にほぼ等しい体積の材料体(5)をアーク放電(7)中に供給し、溶融して自己の表面張力で球状となった上記材料体(5)を冷却凝固させて球体を得る。
【0006】
本第1発明においては、所定体積の材料体が順次電極間に供給されて、電極間のアーク放電によって瞬時に溶解されて、自己の表面張力によって球状となる。その後、電極への通電が停止されると材料体は冷却されて凝固する。このようにして得られた球体は真球度が高い上に、球径も均一である。このような本第1発明の製造方法は、特に直径3mm以下の微小球体の製造に好適である。
【0007】
本第2発明の製造方法では、上記アーク放電(7)を液中で生じさせ、上記材料体(5)を液中で冷却凝固させる。
【0008】
本第2発明においては、アーク放電時にピンチ効果によって高温のアーク柱が生じるから、高融点の材料体であっても容易に溶解される。また、アーク柱および加熱された材料体周囲の液体が蒸発してガスバリヤを形成することにより、材料体の溶解温度が均一化する。さらに、溶解した材料体は、自己の表面張力に加えて、液圧を受けることによって真円度の高い球状となる。電極への通電を停止すると、溶解して微小球状となった材料体は周囲の液体によってその全表面が均一かつ急速に冷却されるから、材料体の表面に耐食性や耐摩耗性に優れたアモルファス層が形成される。
【0009】
本第3発明の製造装置は、チャンバ(1)と、チャンバ(1)内に対向して位置させられて、アーク放電を生じる電極(2A,2B)と、これら電極(2A,2B)間に、製品となる所定径の球体の体積にほぼ等しい体積の材料体(5)を供給する材料供給手段(6)とを具備している。
【0010】
上記材料供給手段(6)は例えば、連続するワイヤ状の材料体(5)を、製品となる所定径の球体の体積にほぼ等しい体積となる長さでノッチ(51)を入れて電極(2A,2B)間に供給するものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、真球度が高くかつ球径の均一な球体を簡易に製造することができる。このような球体をフィルタの分離膜に使用すれば、空孔率が一定の、薄く、したがって圧損の小さい、目詰まりのし難い分離膜を実現することができる。また、熱電変換素子や太陽電池素子の材料で製造された上記球体を平面状に並べてガラス質保護膜等で覆ったものを使用すれば、効率的な熱電変換や光電変換が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1実施形態)
図1には本発明の製造方法を実施するための装置の概略構成を示す。図1において、不活性ガスを満たしたチャンバ1の上端部内には、対向する側壁から棒状電極2A,2Bが突出して接近対向している。不活性ガスは図略の冷却器によって冷却されている。電極2A,2Bは電源3に接続されており、当該電源3から電極2A,2B間に直流、交流、ないしパルス電源が供給されて、電極2A,2B間にアーク放電が生じるようにしてある。なお、エネルギー効率の点からは電源としてパルス電源を使用するのが望ましい。上記電源3の作動は制御装置4によって制御されている。チャンバ1内で以下に説明する方法で製造された球体の製品は、チャンバ1底部の排出口11より排出され取り出される。材料体5は材料供給装置6によってチャンバ1の頂部から上記電極2A,2B間に供給される。この供給は材料体5が金属材である場合には例えばマグネットコンベアで行うことができる。なお、材料体5としては、金属材に限られず、セラミクス等の非金属材、導電性材料から半導体材料、鉛、スズ等の低融点材料からモリブデン、タングステン等の高融点材料まで広く使用できる。また、一種の粉体、ないし多種の成分の粉体をブレンドしたものを焼結して材料体5としても良い。
【0013】
材料体5は、製品となる所定径の球体の体積にほぼ等しい体積のチップ状のものが順次電極間に供給されて、アーク放電によって瞬時に溶解され、自己の表面張力によって球状となる。その後、通電を停止して冷却凝固させる。この過程を図2で説明する。無通電状態の電極2A,2B(図2(1))に通電してアーク放電7を生じさせると同時に材料体5を供給し(図2(2))、アーク熱によって材料体5を瞬時に溶解させる。液状になった材料体5は自己の表面張力によって球状となり(図2(3))、通電を停止すると不活性ガスによって冷却されて凝固し、自重によってチャンバ1の底部へ落下する(図2(4))。
【0014】
材料体5のチップは、例えば所定径の円形材料ワイヤを所定長さに切断して得ることができる。すなわち、チップの体積を所望径の球体の体積にほぼ等しくすれば良く、チップの直径をd、長さをL、球体の直径をDとして、等式D*D*D=d*d*L*6/4を満足するようなものであれば良い。一例としては、0.8mm径の球体を得たい場合には0.2mm径のワイヤを8.5mm長で切断したものを使用し、3mm径の球体を得たい場合には1.6mm径のワイヤを7.0mm長で切断したものを使用する等である。また、材料ワイヤとして2種以上の異種材料を撚り合わせたものを使用すると、2相、多相の不均一分布組成合金の球体を得ることができる。チャンバから取り出した球体の製品はラッピングを施して最終商品とする。
【0015】
(第2実施形態)
図3には本発明の製造方法を実施するための他の装置の概略構成を示す。図3において、一方の電極2Bには中心に材料供給用の貫通孔21が形成されており、材料体5は線材の状態で供給装置6から電極2Bへ供給されて、貫通孔21を経て、対向する電極2A,2B間に至る。これをさらに説明すると、図4に示すように、材料供給装置6には、外周に所定間隔で歯形63を形成した送りローラ61,62が上下位置に設けられて、これらの間に材料体5が挟持されている。送りローラ61,62は歯形間隔に等しい角度づつ間欠的に回転して、歯形63間の材料体5を、第1実施形態に一例を示したような、所望の球体径に応じた所定長さづつ電極2A,2B間に送り出す。この時、材料体5には、送り出される所定長さ毎に上記歯形63によって上下からノッチ51が形成される。なお、送り出される材料体5の外周は電極2Bの貫通孔21内周面に接している。他の構成は第1実施形態と同一である。
【0016】
本実施形態における球体の製造過程を図5で説明する。無通電状態の電極(図5(1))に通電を開始してアーク放電7を生じさせると同時に電極2B側より所定長の材料体5を電極2Aとの間に供給し(図5(2))、アーク熱によって材料体5を瞬時に溶解させる。材料体5はノッチ51で区画された先端部分が速やかに溶解して液化し、自己の表面張力によって球状となる(図5(3))。そして、通電を停止すると不活性ガスによって冷却されて凝固し、自重によってチャンバ1の底部へ落下する(図5(4))。
【0017】
(第3実施形態)
材料体5の供給を図6に示すように、チャンバ1の外壁を貫通させて、チャンバ1内で対向する電極2A,2B間に供給するようにしても良い。これによると、電極構造が簡易になるとともに、材料体5の外径に応じて、電極2A,2Bの対向間隔 edを比較的容易に調節することができる。この場合、電極の対向面の紙面垂直方向の幅を、供給される材料体の幅に比して大きくしておけば、材料体の供給位置が紙面垂直方向である程度ずれても、良好な材料溶解が保証される。また、電極2A,2B間にチャンバ1外壁を貫通させて材料体5を複数供給するようにすれば、球体の製造効率を向上させることができる。さらに、紙面垂直方向で対向間隔が漸次拡大ないし縮小するように電極2A,2Bの対向面を傾斜させ、これらの間に異径の複数種の材料体5を供給すれば、大小の球体を同時に製造することができる。
【0018】
(第4実施形態)
第1実施形態および第2実施形態における不活性ガスに代えて、チャンバ1内を油、水等の液体で満たす。これによると、アーク放電時には、ピンチ効果によって7000℃以上の高温のアーク柱が生じるから、高融点の材料体であっても容易に溶解される。また、アーク柱および加熱された材料体周囲の液体が蒸発してガスバリヤを形成することにより、材料体の溶解温度が均一化する。同時に、溶解した材料体は、自己の表面張力に加えて、液圧を受けることによって真円度の高い球状となる。この効果は、液体を加圧しておくと顕著である。電極への通電を停止すると、溶解して微小球状となった材料体は周囲の液体によってその全表面が均一かつ急速に冷却される。このため、材料体の表面の原子が不規則に配列して固化し、耐食性や耐摩耗性に優れたアモルファス層が300ミクロン厚程度にも形成される。また、本実施形態によれば、液体として適当な溶液を使用することにより、液中溶解によって酸化物、窒化物、硼化物の球体を得ることができる。
【0019】
(実施例)
表1に示すように、材料体としてSUS304の50μm径、4.15mm長の線材チップを、油、水、ないしN2ガスを満たしたチャンバ内でアーク放電を生じさせた電極間に供給した。このようにして得られた球体は、直径不同が1.0μm以下、真球度が1.0μm以下、ロット径の相互差が2.0μm以下と、良好な真球度と均一な球径分布を示す。ここで、「直径不同」、「真球度」、「ロット径の相互差」の定義は以下の通りである。
直径不同:1個の球の直径の最大値と最小値の差
真球度:球の表面に外接する最小球面と球表面の各点との半径方向の距離の最大値
ロット径の相互差:ロット内の最大球の平均直径と最小球の平均直径との差
【0020】
また、表1に示すように、材料体としてSUS304の250μm径、10.5mm長の線材チップを、油、水、ないしN2ガスを満たしたチャンバ内でアーク放電を生じさせた電極間に供給した。このようにして得られた球体は、全体の径が大きいため「直径不同」、「真球度」、「ロット径の相互差」ともやや大きくなるが、直径不同が1.5μm以下ないし2.5μm以下、真球度が1.5μm以下ないし2.5μm以下、ロット径の相互差が5.0μm以下と、良好な真球度と均一な球径分布を示す。この結果からすると、製造する球体径が大きくなる場合には、ガス中よりも、油中ないし水中で製造した方が有利である。
【0021】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態における製造装置の概略構成を示す図である。
【図2】材料体の溶解過程を模式的に示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態における製造装置の概略構成を示す図である。
【図4】材料供給構造を示す断面図である。
【図5】材料体の溶解過程を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態における材料供給構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1…チャンバ、2A,2B…電極、3…電源、4…制御装置、5…材料体、51…ノッチ、6…材料供給装置、7…アーク放電。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品となる所定径の球体の体積にほぼ等しい体積の材料体をアーク放電中に供給し、溶融して自己の表面張力で球状となった前記材料体を冷却凝固させて前記球体を得ることを特徴とする球体の製造方法。
【請求項2】
前記アーク放電を液中で生じさせ、前記材料体を前記液中で冷却凝固させる請求項1に記載の球体の製造方法。
【請求項3】
チャンバと、チャンバ内に対向して位置させられて、アーク放電を生じる電極と、これら電極間に、製品となる所定径の球体の体積にほぼ等しい体積の材料体を供給する材料供給手段とを具備する球体の製造装置。
【請求項4】
前記材料供給手段は、連続するワイヤ状の材料体を、製品となる所定径の球体の体積にほぼ等しい体積となる長さでノッチを入れて前記電極間に供給するものである請求項3に記載の球体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−97038(P2006−97038A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280879(P2004−280879)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(504364909)有限会社 イ・エス・スター (1)
【Fターム(参考)】