説明

球状ニッケル微小粒子およびその製造方法ならびに、異方性導電フィルム用導電粒子

【課題】 導電率が高くかつ、単分散性に優れた球状ニッケル微小粒子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 結晶質構造を有し、粒子径がd50:1〜10μmであり、粒度分布が[(d90−d10)/d50]≦1.0(d90、d10、d50:積算分布曲線において、90体積%、10体積%、50体積%を示す粒子径)の球状ニッケル微小粒子である。ニッケル塩の水溶液と、pH調整剤および錯化剤を含んだpH調整水溶液と、還元剤水溶液とを混合して還元析出反応させ、球状ニッケル微小粒子を製造する方法であって、pH調整剤には水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを使用し、錯化剤にはアンモニアを使用し、かつpH調整水溶液に占める水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウム濃度を0.05〜1.3(kmol/m)、アンモニア濃度を0.5〜2.0(kmol/m)とする球状ニッケル微小粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性導電フィルム用の導電粒子として用いられる金属微小粒子と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCD(Liquid Crystal Display)を中心とするFPD(Flat Panel Display)の駆動用ドライバICの電気的接続には、TCP(Tape Carrier Package)実装、あるいはパネル上へ直接搭載するCOG(Chip On Glass)実装などが採用されており、その実装材料の多くには異方性導電フィルムが用いられている。
【0003】
異方性導電フィルムは絶縁性の熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂に、導電粒子を分散させたフィルム状の接着剤であり、対峙するPWB(Printed Wiring Board)、FPC(Flexible Printed Circuit)等の回路基板間に設置した後に熱圧着することで、導電粒子を介して電極間の導通をとる接続材料である。その導電粒子としては、例えば、球状プラスチック核体の表面にNi、Au等の金属めっきを施して導電性を持たせたプラスチック系粒子、カーボンブラックやグラファイトなどのカーボン系粒子、Au、Ag、Cu、Ni、Alなどの金属粒子、あるいは上記金属粒子の表面へ金属めっきした粒子などが使用されている。
【0004】
これらの導電粒子の中で、最も多く用いられているプラスチック系粒子は、粒子のサイズが均一であること、熱圧着時に押しつぶされた粒子の復元力により導通が確保できるなどの利点がある。しかしながら、核体であるプラスチック粒子が絶縁体であるため、別途、導電性を付与するためのNiめっきならびにAuめっき等を行なわなければならず、その特別な処理により高価となるばかりでなく、安定した接続信頼性を得るためには、プラスチック核体とめっきとの確実な密着性が必要となる。
【0005】
また、Cu、SnやAlといった比較的軟らかく、表面に酸化膜を形成しやすい電極の接続には、その酸化膜を破壊して良好な導通を確保できる硬さを有する、ニッケル粉末などの金属粉末が導電粒子として用いられている。しかしながら、例えばガスアトマイズ法により得られたニッケル粉末を導電粒子として用いる場合、大小様々な粒子サイズを有する原料粉末から、異方性導電フィルムの仕様に耐えうる粒子サイズへの選別が必要となるため、非常に多くのコストが掛かるばかりでなく、粒径分布のシャープな粒子を得ることは困難であり、例えば、電極間隔が100μm以下といった狭ピッチ接続に対応できないという問題点がある。
【0006】
そこで、粒子サイズの揃ったニッケル粉末の製造方法としては、塩化Niを不活性ガスによって蒸気とし、高温の水素雰囲気下で還元する気相還元法(例えば、特許文献1)等が、その代表として挙げられる。そして、本出願人は、金属塩またはpH緩衝剤を含む金属塩水溶液を、還元剤水溶液により還元析出させて金属粉末を得る液相還元法(例えば、特許文献2)を提案した。
【特許文献1】特開平08−246001号公報
【特許文献2】特開2006−131978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1によれば、結晶性の高く、流動性の良いニッケル粉末が得易いものの、設備が高価であり、また、粒子サイズが0.5μm前後の微粒子であるため、異方性導電フィルム用導電粒子としては不向きである。一方、特許文献2の方法は、単分散性が高く、粒子サイズの揃った球状粉末を得る方法としては有効な手段ではあるが、NiP化合物の影響により、粒子が硬いため、例えばITO等の硬い電極との接続を行なった場合、導電粒子と電極との接触面積が小さくなり、接続信頼性に多少のバラツキが出る場合もあった。
【0008】
本発明の目的は、特に異方性導電フィルムの導電粒子に使用するのに最適で、粒子自体の導電率が高く、各種硬さの電極材料に対応し、単分散性に優れた球状ニッケル微小粒子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、結晶質構造を有する球状ニッケル微小粒子であって、その粒子径がd50:1〜10μmでありかつ、粒度分布が[(d90−d10)/d50]≦1.0(d90、d10、d50:積算分布曲線において、90体積%、10体積%、50体積%を示す粒子径)であることを特徴とする球状ニッケル微小粒子である。また、この球状ニッケル微小粒子の表面にAuが被覆されていることを特徴とする異方性導電フィルム用導電粒子である。
【0010】
そして、ニッケル塩の水溶液と、pH調整剤および錯化剤を含んだpH調整水溶液と、還元剤水溶液とを混合して還元析出反応させ、球状ニッケル微小粒子を製造する方法であって、pH調整剤には水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを使用し、錯化剤にはアンモニアを使用し、かつpH調整水溶液に占める水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウム濃度を0.05〜1.3(kmol/m)、アンモニア濃度を0.5〜2.0(kmol/m)とすることを特徴とする球状ニッケル微小粒子の製造方法である。ここで、ニッケル塩の水溶液については、それに占めるニッケル塩の濃度が0.1〜3.0(kmol/m)であることが望ましい。
【0011】
本発明の球状ニッケル微小粒子の製造方法においては、還元剤水溶液には、ニッケル塩の水溶液とpH調整水溶液の混合水溶液1(L)に対して、0.5〜7(mol)のヒドラジンを混合すること、あるいは更に、ニッケル塩の水溶液とpH調整水溶液の混合水溶液には、該混合水溶液に対して、0.05〜6(質量%)のポリカルボン酸および/またはポリカルボン酸塩を混合することが好ましい。また、還元析出反応を開始させる時のpHが8超のアルカリ性になるように調整することや、還元析出反応によって得られた球状ニッケル微小粒子に、573(K)以上の加熱処理を行なうことも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の球状ニッケル微小粒子はその粒子が球状となっていることで粒子同士の凝集が抑制され、異方性導電フィルムの導電粒子に使用した際に、隣り合う電極間のショートが抑制されるとともに、従来良好な接続信頼性が得られにくかった材質であるITOなどの硬い電極との接続においても、接触面積を大きくできることから、低い接続抵抗と高い接続信頼性を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の重要な特徴は、ニッケル塩の水溶液に、pH調整剤である水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムと錯化剤のアンモニアならびに、好ましくはポリカルボン酸(および/または塩)とを混合して作製したpH調整水溶液を合わせ、これに還元剤水溶液を混合することで、粒子径がd50:1〜10μmでありかつ、粒度分布が[(d90−d10)/d50]≦1.0という、粒子サイズの揃った球状ニッケル微小粒子を製造できるところにある。また、該微小粒子を還元析出させる時の還元剤に、ヒドラジンを用いることで、不純物である還元剤成分を実質的に含まない、極めて純度の高い球状ニッケル微小粒子を得ることが出来る。
【0014】
そして、上記のようにして得られた球状ニッケル微小粒子に573(K)以上の加熱処理を行なうことで、更に結晶性が高い微小粒子が得られ、また、その表面にAuを被覆することで、異方性導電フィルム用の導電粒子として最適である。以下、その好ましい製造方法とともに本発明の球状ニッケル微小粒子について説明する。
【0015】
先ず、本発明の球状ニッケル微小粒子は結晶質構造を有するものである。本出願人による特許文献2においては、還元剤にPを含む還元剤水溶液を用いることから、析出したままの粒子状態では、半金属元素であるPの共析の影響で、その結晶構造は非晶質である。このため、塩水噴霧試験や大気暴露試験といった各種雰囲気における耐食性試験においては、優れた耐食性を示すという利点を有しているが、非結晶構造であることから、純粋なニッケルと比較すると、高い電気抵抗特性を示す。導電粒子として用いる場合には、高い結晶性を有し良好な導電特性が必要となるので、よって、本発明の球状ニッケル微小粒子は、結晶質構造である必要がある。
【0016】
また、本発明の結晶質構造を有する球状ニッケル微小粒子の粒子径は、積算分布曲線での50%体積を示す粒子径d50の数値において、1〜10μmとする。異方性導電フィルムによって接続されるPWBやFPC等の電極の高さは、少なからずバラツキを持っていることから、この電極間の導通を担う導電粒子径が1μm未満である場合には、導電粒子を介して電極間が接続されない部分が生じ、安定した接続信頼性が得られない可能性がある。更に、異方性導電フィルムを用いて製品を量産化し、その接続状態の良否判定を行なう場合、導電粒子が小さくなると容易に判定を行なうことが出来なくなる。
【0017】
一方、導電粒子のd50の数値が10μmを超える場合には、隣り合う電極間の絶縁性が保てなくなり、電極間隔が数十μmといった狭ピッチの接続が困難となる。よって、本発明の球状ニッケル微小粒子は、特に異方性導電フィルム用の導電粒子として最適とするためにも、その粒子径がd50:1〜10μmの範囲とする。そして、異方性導電フィルムにより接続する、PWBやFPC等の電極の幅、高さ等の形状、ならびに電極の間隔に合わせて、この粒子径範囲から任意に粒子径を選定する。
【0018】
そして、本発明の球状ニッケル微小粒子は、それが均一な粒径分布を有しているところにも特徴があり、特に異方性導電フィルムの用途に有効である。すなわち、[(d90−d10)/d50]の式で与えられる導電粒子の粒度分布の値ができる限り小さい値を取ることが、接続信頼性を向上させる上で好ましく、製造コストの問題等から、この式の値は1.0以下とする。この式の値が1.0を超える場合、これは導電粒子のサイズがバラついていることを示しており、各電極での導電粒子と電極との接触状態にバラツキを生じ、接続信頼性が低下する可能性がある。
【0019】
そして、上記の球状ニッケル微小粒子を得るのにこそ好ましい、本発明の球状ニッケル微小粒子の製造方法は、ニッケル塩の水溶液と、pH調整剤および錯化剤を含んだpH調整水溶液と、還元剤水溶液とを混合して還元析出反応させる方法を採用するものである。以下、その詳細について、好ましい形態例を挙げると共に、説明する。
【0020】
先ず、ニッケル源としては、例えば、塩化ニッケル(NiCl)、硫酸ニッケル(NiSO)、酢酸ニッケル(Ni(CHCOO))、硝酸ニッケル(Ni(NO)等のニッケル塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。そして、これらを添加して作製するニッケル塩の水溶液としては、これに占めるニッケル塩の濃度が低すぎる場合は、還元析出させて得るニッケル粒子の量が少なくなり、経済的に不利となる。逆に高すぎる場合には、本発明者らの実験結果によると得られる粒子の単分散性が損なわれるばかりでなく、還元析出速度が低下する傾向が見られた。よって、ニッケル塩の水溶液に占めるニッケル塩の濃度は、0.1〜3.0(kmol/m)の範囲で添加することが望ましい。
【0021】
次に、本発明にとっては還元析出反応の際のpH制御が重要であるところ、そのためのpH調整水溶液のpHを調整するには、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いることで、容易にアルカリ域への調整ができる。pH調整水溶液中に占める水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムの濃度は、0.05(kmol/m)未満と少なくした場合には、目標最低限とするアルカリpH域にさえ調整することが困難となる。しかしながら、1.3(kmol/m)を超えて過剰に添加した場合、ニッケルイオンは水酸化ニッケルとして沈殿を生じ、目的とする粒子径の球状ニッケル微小粒子が得られ難い。よって、pH調整水溶液中の水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムは、それに占める濃度が0.05〜1.3(kmol/m)の範囲で添加する。
【0022】
そして、錯化剤にはアンモニアを使用する。つまり、アンモニアは強アルカリ域において、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムによる水酸化ニッケルの生成を抑制し、遊離ニッケルイオンとアンミン錯体を形成して、より安定した還元析出反応を生じせしめることができることから、錯化剤にはアンモニアを用いることが好適である。pH調整水溶液中に占めるアンモニアの濃度を、0.5(kmol/m)未満とした場合、上記したように水酸化ニッケルの沈殿により安定した還元析出反応ができない。一方、2.0(kmol/m)を超える場合には、混合水溶液中のニッケルイオン濃度が低下し、ニッケル微小粒子の成長が抑制され、収率を大幅に低下させてしまうばかりでなく、目的とするサイズの粒子が得られないことがある。よって、pH調整水溶液中に占めるアンモニアの濃度範囲は、0.5〜2.0(kmol/m)とする。
【0023】
以上をもって、ニッケル塩の水溶液と、上記のpH調整水溶液の混合水溶液(以下、単に混合水溶液と記す)は、還元剤水溶液により還元析出反応を行ない、球状ニッケル微小粒子を製造する。ここで、一般に、ニッケルイオンの還元剤としては、ホスフィン酸(塩)やテトラヒドロホウ酸(塩)、DMAB(ジメチルアミンボラン)などの還元剤が用いられているところ、これらの還元剤を使用した場合には、その還元剤成分として含まれる半金属元素のPやBが、還元析出反応の際に数%〜10数%、ニッケルと共析する。それによって、得られるニッケル微小粒子のニッケル純度が低下し、更にそれらの共析により、その結晶構造が非晶質となると、電気抵抗を上昇させる要因となる。
【0024】
そこで、本発明に好ましくは、その還元剤にヒドラジンおよび/またはヒドラジン一水和物(以下、これらを併せてヒドラジンと記す)を添加した水溶液を用いることで、これには半金属元素が含まれていないため、不純物の共析が抑制され、ニッケル純度の高く、結晶性の高い球状ニッケル微小粒子を得ることが可能となる。そして、この場合、還元剤であるヒドラジンの還元水溶液中濃度は、上記混合水溶液1(L)に対し、0.5〜7.0(mol)とすることが望ましい。還元剤の濃度が、上記の範囲より低い場合には、混合水溶液中のニッケルイオンを還元できず、収率が低くなると共に、粒子の凝集を招く恐れがある。また、還元剤の濃度が7.0(mol)を超えて混合すると、経済的ではないということだけでなく、目標とするサイズの粒子が得られ難くなる。したがって、還元剤にヒドラジンを用いる場合には、その上記の混合水溶液1(L)に対しての濃度を、0.5〜7.0(mol)とすることが好適である。
【0025】
ところで、ミクロンサイズの金属微小粒子を製造する際、独立した単分散の粒子が得られない、すなわち粒子同士の凝集が課題の1つとして挙げられる。これは、気相還元法、液相還元法、又はその方法による何れの製造方法においても共通の課題である。そこで、この課題に対し、本発明の球状ニッケル微小粒子の製造方法においては、上記の混合水溶液に、好ましくはポリカルボン酸および/またはポリカルボン酸塩(以下、併せてポリカルボン酸と記す)を混合することを、その特徴の1つとしている。ポリカルボン酸を混合することで、界面活性剤としての働きにより、球状ニッケル微小粒子が目的とするサイズにまで成長する過程において、粒子間の分散効果が得られ、単分散微小粒子の生成に寄与する。また、この作用と共に、ポリカルボン酸は錯化剤としての働きも兼ね備えており、アンモニアと同様に、ニッケルイオンと可溶性錯体を形成し、安定した還元析出反応を促進し、単分散の球状ニッケル微小粒子を得ることが可能となる。
【0026】
上記の2つの効果を得るためにポリカルボン酸を用いる場合、その濃度範囲は、ポリカルボン酸を添加する前の混合水溶液に対して、0.05〜6(質量%)を添加することが望ましい。これが0.05(質量%)未満の場合には、上記の2つの効果が得られ難く、また、6(質量%)以上の過剰な混合は、上述のアンモニアと同様に、収率が低下すると共に、目的とするサイズの粒子が得られ難くなる。よって、0.05〜6(質量%)のポリカルボン酸を混合水溶液に混合することが好ましく、1〜5(質量%)の混合が更に好ましい。
【0027】
そして、上記のニッケル塩とpH調整水溶液から構成される混合水溶液を、還元剤水溶液により還元析出反応させる際、その反応開始時のpHは、8超のアルカリ性となるように調整することが望ましい。これは、還元析出の駆動力となる、局部アノードである還元剤(ヒドラジン)の酸化反応が、強アルカリ側でより促進されることに基づくものである。本発明者らの実験結果によると、混合水溶液のpHを8以下とした場合には、ニッケルの還元析出反応が起こり難く、好ましくはpH8超となるように調整する必要がある。これについては、pH10超に調整することで、速やかに還元析出反応が起こり、更に好ましい。
【0028】
本発明では、上記の製法で得られた球状ニッケル微小粒子をそのまま異方性導電フィルムの導電粒子として用いても良いが、還元析出反応で得られたままの状態においてX線回折を行なうと、ニッケルのややブロードなピークが測定され、つまり結晶性がやや低いことが示される場合がある。異方性導電フィルムの導電粒子は、電気的な接続材料であるため、高い導電性が必要とされる。従って、より良好な導電性により、安定した接続信頼性を得るには、結晶組織化のための、球状ニッケル微小粒子の加熱処理を行なうことが望ましい。
【0029】
この時の加熱処理条件は、ニッケルが完全に結晶化できる温度と時間であれば良いが、処理温度を573(K)以上とした場合、処理時間を短縮できて、経済的に有利に、完全に結晶化できる。しかしながら、923(K)の温度を超えて処理した場合には、粒子同士が焼結して単分散性が損なわれることが懸念される。よって、この加熱処理を行なう場合、好ましくは573(K)以上の処理温度が好ましく、更に好ましくは923(K)以下である。そして、数10分〜数時間の処理を行なえば、結晶性が高く、導電性の良好な球状ニッケル微小粒子を得ることが可能となる。また、その加熱処理を行なう時の雰囲気は、Arガス等の不活性ガス雰囲気中や、Hガス等の還元性ガス雰囲気中、あるいは真空雰囲気中等の非酸化性雰囲気中が望ましい。
【0030】
そして、本発明の球状ニッケル微小粒子もしくは、本発明の製造方法により製造された球状ニッケル微小粒子は、そのまま異方性導電フィルムの導電粒子として用いることができる他には、その表面へAuを被覆することが好ましい。これにより導電性が高められ、異方性導電フィルムの導電粒子として用いた時に、接続抵抗を低くすることが可能となり、更に使用環境が水分等の酸化雰囲気下においても、球状ニッケル微小粒子が酸化を受ける等による状態変化が抑制され、安定した接続信頼性が確保できる。
【実施例】
【0031】
(本発明例1)
純水に塩化ニッケル六水和物を溶解して、0.6(kmol/m)のニッケル塩水溶液を5(dm)作製した。一方で、純水に水酸化ナトリウムと25%アンモニア水をそれぞれ、0.7(kmol/m)、1.0(kmol/m)の濃度で溶解したpH調整水溶液を5(dm)作製した。上記2つの水溶液をよく撹拌混合して、10(dm)の混合水溶液とした。続いて、該混合水溶液に対して、2.0(質量%)のポリカルボン酸塩を混合し、外部ヒータで加熱しながら200(min−1)の回転速度で撹拌混合を続け、343(K)±1(K)で保持した。この時の混合水溶液のpHを測定すると、10.6の値を示した。
【0032】
そして、該混合水溶液1(L)に対し、ヒドラジン一水和物を2.6(mol)の濃度で調整した還元剤水溶液を混合して、343(K)±1(K)で加熱保持を続けると共に撹拌混合し続けた。しばらくすると、還元析出反応を示す、HガスおよびNガスの発生が確認され、ポータブルH濃度計によりHガスが検出されなくなるまで、撹拌および加熱保持を続けた。上記のようにして得られた生成物を吸引ろ過装置により取り出して水洗し、333(K)で乾燥して金属粉末を得た。
【0033】
得られた金属粉末の粒度分布について、レーザ回折散乱法の粒度分析計(日機装製MT3200)により測定すると、粒子径d50は4.5μmで、d90とd10はそれぞれ、7.2μmと3.3μmであり、よって、[(d90−d10)/d50]の式で示される粒度分布は0.87であった。また、走査型電子顕微鏡(日立製作所製S−2400:以下、SEMと記す)により外観を観察した結果、図1の通りの、球状のニッケル微小粒子が得られていることが確認された。そして、構造解析のためX線回折装置(リガク製RINT2500/HP)により、X線回折を行なったところ、図2の通りの、Ni(111)、Ni(200)にシャープな回折ピークが確認された。
【0034】
更に、上記の球状ニッケル微小粒子をArガス雰囲気中、673(K)で加熱処理を行ない、再び、X線回折を行なった結果、Ni(111)、Ni(200)において、図3の通りの更にシャープな回折ピークが表れており、加熱処理によって結晶性が増していることが確認された。
【0035】
続いて、上記加熱処理後の球状ニッケル微小粒子の表面に、置換型Auめっき液により、Auめっきを行ない、表面に60(nm)のめっき皮膜を形成し、異方性導電フィルム用の導電粒子としての使用環境を想定した特性調査を行なった。調査の方法は、一般的な加速試験である高温高湿バイアス試験を1週間(168(h))行ない、試験前後でのAuめっきを行なった球状ニッケル微小粒子の電気抵抗値について、調べるものとした。その結果は、初期抵抗値に対し、約1.2倍の電気抵抗値であり、良好な結果が得られた。なお、これらの結果については、上記のpH調整水溶液に加える水酸化ナトリウムを、水酸化カリウムに替えることによっても、同様の良好な結果が得られた。
【0036】
(本発明例2)
硫酸ニッケル六水和物により、0.6(kmol/m)のニッケル塩水溶液を5(dm)作製した。また、水酸化ナトリウム0.9(kmol/m)と25%アンモニア水0.75(kmol/m)とで、5(dm)のpH調整水溶液を作製し、上記2つの水溶液を混ぜ合わせて混合水溶液とした。そして、該混合水溶液に対して、2.0(質量%)のポリカルボン酸塩を混合し、外部ヒータで加熱しながら200(min−1)の回転速度で撹拌混合を続け、333(K)±1(K)で保持を行ない、pHを測定したところ11.5であった。
【0037】
上記の混合水溶液1(L)に対し、3.2(mol)のヒドラジン一水和物を添加した還元剤水溶液を混合して、以下、本発明例1と同じ方法で、球状ニッケル微小粒子を作製した。得られた球状ニッケル微小粒子について、粒度分析計により測定を行なうと、粒子径d50は2.9μmで、d90とd10はそれぞれ、4.4μmと1.8μmであり、粒度分布は[(d90−d10)/d50]=0.90であった。また、SEMで外観を確認したところ、図4の通りの、球形状を呈しており、X線回折を行なった結果も、図2に同様の、Ni(111)、Ni(200)にシャープな回折ピークが認められた。
【0038】
続いて、本発明例1と同じ条件で、得られた球状ニッケル微小粒子に加熱処理を行なった後に、その表面にAuめっきを行ない、Auめっき膜厚40(nm)の導電粒子を作製した。そして、この導電粒子について、本発明例1と同様に加速試験を行ない、試験前後の電気抵抗値を測定した結果、初期抵抗値に対して、約1.4倍の値を示し、良好な結果が得られた。
【0039】
(比較例1)
混合水溶液を作製する際のpH調整水溶液については、それの水酸化ナトリウム濃度を1.1(kmol/m)とし、アンモニアの添加を行なわなかったことと、この混合水溶液1(L)に対し混合する還元剤水溶液中のヒドラジン一水和物を2.6(mol)とした以外は、本発明例2と同じ条件で、ニッケル微小粒子を作製した。なお、該混合水溶液にポリカルボン酸塩を混合した際の上記pHは11.3であった。そして、得られたニッケル微小粒子について、粒度分布とSEM観察を行なった結果、粒子径d50は21.9μm、d90は38.2μmで、d10は8.2μmであり、粒度分布[(d90−d10)/d50]は1.37であった。そして、SEMで外観を確認したところ、図5の通り、個々の1次粒子のサイズは0.5〜5μmのバラツキがあり、粒子同士が連結されて大きな塊状(2次粒子)となっていた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
高い結晶性と導電性、均一な粒子分布を有する本発明の球状ニッケル微小粒子は、異方性導電フィルムの導電粒子に加えて、同様の特性を必要とする異方性導電ペーストなどの、導電粒子としても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の球状ニッケル微小粒子の外観の一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の、還元析出させたままの球状ニッケル微小粒子の結晶構造を示すX線回折チャートの一例である。
【図3】本発明の、加熱処理後の球状ニッケル微小粒子の結晶構造を示すX線回折チャートの一例である。
【図4】本発明の球状ニッケル微小粒子の外観の一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例の球状ニッケル微小粒子の外観の一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶質構造を有する球状ニッケル微小粒子であって、その粒子径がd50:1〜10μmでありかつ、粒度分布が[(d90−d10)/d50]≦1.0(d90、d10、d50:積算分布曲線において、90体積%、10体積%、50体積%を示す粒子径)であることを特徴とする球状ニッケル微小粒子。
【請求項2】
ニッケル塩の水溶液と、pH調整剤および錯化剤を含んだpH調整水溶液と、還元剤水溶液とを混合して還元析出反応させ、球状ニッケル微小粒子を製造する方法であって、pH調整剤には水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを使用し、錯化剤にはアンモニアを使用し、かつpH調整水溶液に占める水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウム濃度を0.05〜1.3(kmol/m)、アンモニア濃度を0.5〜2.0(kmol/m)とすることを特徴とする球状ニッケル微小粒子の製造方法。
【請求項3】
ニッケル塩の水溶液に占めるニッケル塩の濃度が、0.1〜3.0(kmol/m)であることを特徴とする請求項2に記載の球状ニッケル微小粒子の製造方法。
【請求項4】
還元剤水溶液には、ニッケル塩の水溶液とpH調整水溶液の混合水溶液1(L)に対して、0.5〜7(mol)のヒドラジンおよび/またはヒドラジン一水和物を混合することを特徴とする請求項2または3に記載の球状ニッケル微小粒子の製造方法。
【請求項5】
ニッケル塩の水溶液とpH調整水溶液の混合水溶液には、該混合水溶液に対して、0.05〜6(質量%)のポリカルボン酸および/またはポリカルボン酸塩を混合することを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の球状ニッケル微小粒子の製造方法。
【請求項6】
還元析出反応を開始させる時のpHが8超のアルカリ性になるように調整することを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載の球状ニッケル微小粒子の製造方法。
【請求項7】
還元析出反応によって得られた球状ニッケル微小粒子に、573(K)以上の加熱処理を行なうことを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の球状ニッケル微小粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の球状ニッケル微小粒子の表面にAuが被覆されていることを特徴とする異方性導電フィルム用導電粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−95146(P2008−95146A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278219(P2006−278219)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【出願人】(596168513)財団法人秋田県資源技術開発機構 (2)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】