説明

球状表面弾性波素子および表面弾性波励振方法

【課題】複数の周波数を用いる球状表面弾性波素子の電極を、平面型のフォトリソグラフィーを用いて形成した場合でも露光の歪みを最小限に抑えることが可能な球状表面弾性波素子が望まれていた。
【解決手段】圧電結晶球、あるいは圧電材料膜を表面に形成した球上の円環状弾性表面波経路上に第1の電極と第2の電極から交互に突出部を設けた球状表面弾性波(Surface Acoustic Wave)素子において、各第1の電極の突出部と第2の電極の突出部との間に第3の電極を設けたことを特徴とする球状表面弾性波素子を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中における被測定対象物の物理化学的特性の測定方法に用いられる球状表面弾性波素子、およびその温度校正に必要な表面弾性波励振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、圧電材料基板上に形成された表面弾性波素子の電極は平面のマスクを用いてフォトリソグラフィーを用いて形成されている。
【0003】
特許文献1には複数の周波数の表面弾性波素子が挙げられている。平面型の表面弾性波素子の場合にはそれぞれの周波数の表面弾性波はそれぞれ別の経路を通るような素子が一般的である。また、特許文献には一つの導波路に複数の周波数の表面弾性波を伝播させる素子が挙げられている。この場合、円環状弾性表面波経路の両側から突出部を交互に張り出させた櫛型電極を凹型に配置することによって複数の周波数の表面弾性波が収束されている。
【0004】
特許文献は以下の通りである。
【特許文献1】特開平11−340772号公報
【特許文献2】特開平7−50548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
球状表面弾性波素子においてフォトリソグラフィー技術を用いて表面に櫛型電極を形成するとき、理想的には球状の球面に沿って光の焦点が合う光学系を用いることが望ましいが、これは非常に複雑な光学系になり、コストも高くなる。一方、図2に示したように平面基板上に電極パターンを形成するのと同様に平面のマスクを用いて球面に露光する場合、コストを抑えることはできるが曲面の影響で周辺部ほど球面上でパターンが大きく露光されてしまい、また焦点が合わなくなり像がぼやけてしまう。ここで1は平面マスク、2は平面マスク上のパターン、5は材料球、4は材料球表面に形成した感光性材料膜である。この効果は露光する電極パターンが大きくなるほど顕著になるのは明らかである。
【0006】
球状表面弾性波素子において、用いられる周波数が10MHz〜100GHz程度なので、表面弾性波の減衰特性は重要な要素である。表面弾性波を減衰させる原因のひとつとして表面弾性波を励起するための電極があげられる。表面弾性波を励起するためには表面に電極が必要であるのだがその電極もまた表面弾性波を減衰させてしまう。よってこの効果による減衰を抑えるためには電極をより少なくするとよい。しかし強力に励起させようとすると多くの電極が必要になる。
【0007】
球状表面弾性波素子においては複数の周波数の表面弾性波を用いることにより温度を校正することが可能である。しかし、これを行うためには複数の周波数の表面弾性波を励起できるような電極構造を形成する必要がある。このときひとつの経路に複数の表面弾性波を励起できれば特性のばらつきを抑えることができてよい。球状表面弾性波素子においては特許文献2のような手法は使うことができない。なぜなら球状表面弾性波素子においては一つの経路が帯状に球表面を1周しておりこの表面弾性波はこの経路上で励起される必要があり凹型に電極を配置することができないからである。これを解決するひとつ方法としては周回経路に周波数の異なる二つの電極を並べて配置することである。ただしこの場
合には二つの周波数の電極を別個に形成することになるので露光する電極パターンが大きくなってしまい、結局その分だけ電極パターンが歪んでしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の問題を解決するために請求項1に係る発明においては、圧電結晶球、あるいは圧電材料膜を表面に形成した球上の円環状弾性表面波経路上に第1の電極と第2の電極から交互に突出部を設けた球状表面弾性波(Surface Acoustic Wave)素子において、各第1の電極の突出部と第2の電極の突出部との間に第3の電極を設けたことを特徴とする球状表面弾性波素子を提供するものである。
【0009】
また、問題を解決するために請求項2に係る発明においては請求項1の球状表面弾性波素子において、第3の電極が第1の電極と第2の電極の間で連続していることを特徴とする球状表面弾性波素子を提供するものである。
【0010】
さらに、問題を解決するために請求項3に係る発明においては、請求項1または2の球状表面弾性波素子を用いて、第1の電極と第2の電極により励起するとともに、第1の電極および第2の電極と第3の電極の間で励起することを特徴とする複数の周波数の表面弾性波励振方法を提供するものである。
【0011】
具体的には、例えば図1に示すように、円環状弾性表面波経路の両側から突出部を交互に張り出させた、単純な簾状電極である第1の電極と第2の電極が互いに組み合わせられている様になっており、その第1の電極と第2の電極の電極間を縫うようにジグザグに通る第3の電極用いる。これにより、既存の第1の電極や第2の電極を利用することにより第3の電極に対応する新たな対電極を設ける必要がなくなり、露光面積を少なくでき、これにより歪みを最小限度に抑えることが可能になったものである。
【0012】
ここでは簡単な例を挙げて発明の説明を行う。周波数fの表面弾性波を励起するための4対の突出部を持つ一組の簾状電極と周波数2×fの表面弾性波を励起するための8対の突出部を持つ一組の簾状電極を素子表面に形成するとき、単純に2組の電極を形成するとトータルで12対、24本の突出部が必要で、周波数fの表面弾性波を励起するための簾状電極二つ分の表面積が必要になる。
【0013】
一方、図1のようなパターンの場合に第1の電極と第2の電極の間隔が音速と波長の関係から周波数がfに対応しているとするとこの第1の電極と第2の電極の間に周波数fの電気信号を印加することにより周波数fの表面弾性波を励起することができる。また、第1の電極と第2の電極を結線した電極と、第3の電極の間に周波数2×fの電気信号を印加すると周波数2×fの表面弾性波を励起することができる。この場合、16本の円環状弾性表面波経路上の突出部、つまり上記の3分の2の本数の突出部で上記の表面弾性波と同等の電極を周波数fの表面弾性波を励起する電極一つ分の面積に形成することができる。
【0014】
このように一組の櫛型電極である第1の電極と第2の電極、その間を縫うように通る第3の電極を用いることで全体として簾状電極を構成して電極の本数を少なくすることができ、また電極を形成するのに必要な面積も狭くてすむ。
【発明の効果】
【0015】
本発明により複数の周波数を用いる球状表面弾性波素子の電極を従来の面積より小さい面積で形成することが可能になった。これにより、通常の平面型のフォトリソグラフィーを用いて容易に形成することができる。これによりひとつの経路に複数の周波数の表面弾性波を励起することができる。さらに、全体として電極数を抑えることで電極による減衰
を抑えることができるとともに、露光面積が小さくなったために歪みを最小限に抑えることが可能になり、球状表面弾性波素子としての性能を向上させることが可能になったものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図示した実施の形態例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明の実施の形態nの球状表面弾性波素子の電極の模式図である。6,7,8は形成した電極である。いま第1の電極6と第2の電極7の間に周波数fの電気信号を印加すると図3のように周波数fの表面弾性波9が励起される。このとき第3の電極8は電気的にフローティングな状態にしておいてよい。
【0018】
また、第1の電極6と第2の電極7を結線したものと第3の電極8の間に周波数2×fの周波数の電気信号を印加すると図4に示すように2×fの表面弾性波9が励起される。
【0019】
励起された表面弾性波は球状表面を周回し、1周回って励起した電極に戻ってくるたびに櫛型電極から電気信号を出力する。球状表面に官能膜を形成しておき、この表面弾性波の信号を観測することで高感度なセンサとして使用することができる。また、複数の周波数の表面弾性波を周回させることにより温度などの感応膜以外の要因による信号を校正することができる。
【0020】
図5はそれぞれ本発明の球状表面弾性波素子の表面弾性波の周回現象を示す図である。A、Bはそれぞれ図1の模式図での第1の電極6と第2の電極7の間に周波数30MHzの電気信号を印加したとき、および第1の電極6と第2の電極7を結線した電極と第3の電極8の間に60MHzの電気信号を印加したときに表面弾性波が球上を周回する様子を示す出力信号を示したものである。電極の接続および入力信号の周波数を変えることで複数の周波数が励起できていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は球状表面弾性波素子における電極パターンおよび温度校正技術に用いることが可能な表面弾性波素子における電極パターン関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本願発明に係る複数周波数を励起できる電極パターンの平面図
【図2】平面マスクを用いて球面上に露光する様子の説明断面図
【図3】図1の電極パターンを用いてfの周波数を励起した状態から出力される表面弾性波の説明図。
【図4】図1の電極パターンを用いて2×fの周波数を励起した状態から出力される表面弾性波の説明図。
【図5】図1の電極パターンを用いてfおよび2×fの周波数を励起した状態から出力される表面弾性波の説明図。
【符号の説明】
【0023】
1…平面マスク
2…平面マスク上のパターン
4…材料球表面にコートされた感光性材料膜
5…材料球
7…第1の電極(fおよび2×fの周波数を励起するための電極)
8…第2の電極(fおよび2×fの周波数を励起するための電極)
9…第3の電極(2×fの周波数を励起するための電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電結晶球、あるいは圧電材料膜を表面に形成した球上の円環状弾性表面波経路上に第1の電極と第2の電極から交互に突出部を設けた球状表面弾性波(Surface Acoustic Wave)素子において、各第1の電極の突出部と第2の電極の突出部との間に第3の電極を設けたことを特徴とする球状表面弾性波素子。
【請求項2】
請求項1の球状表面弾性波素子において、第3の電極が第1の電極と第2の電極の間で連続していることを特徴とする球状表面弾性波素子。
【請求項3】
請求項1または2の球状表面弾性波素子を用いて、第1の電極と第2の電極により励起するとともに、第1の電極および第2の電極と第3の電極の間で励起することを特徴とする複数の周波数の表面弾性波励振方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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