説明

環境に適した天然油ベースのトナー用樹脂

多価カルボン酸、多価アルコールおよび遊離脂肪酸を縮合重合して、アルケニル基またはヒドロキシル基または両方の組合せを有する低分子量ポリエステル樹脂[ここで、前記多価カルボン酸、前記多価アルコールまたは前記遊離脂肪酸の少なくとも1種は、天然油から得られる]を形成するステップ、このポリエステルをラジカル開始剤およびビニルモノマーでアルケニル基を介して、あるいはジイソシアネートでヒドロキシル基を介して架橋させて、より高い分子量およびより高い融点を有するポリエステルを製造するステップ、3000と15000の間の範囲にある分子量を有する第1の部分および15000より大きい分子量を有する第2の部分を得るステップ、および前記第1の部分と前記第2の部分を混合して、前記ポリエステルトナー用樹脂を形成するステップを含む、ポリエステルトナー用樹脂を合成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザージェット機およびフォトコピー機用のトナー用樹脂を合成する方法、およびこれら樹脂から合成された製品に関する。さらに詳細には、本発明は、多価カルボン酸と天然油から得られる多価アルコールとの縮合重合反応による、天然材料の含有量の高いポリエステル樹脂を合成する方法を開示する。このポリエステル樹脂は、次いで制御された条件下で処理されて、2つの異なる分子量部分を生成し、これらの部分は混合されて、トナー用樹脂の必要とされる特性を実現することができる。
【背景技術】
【0002】
トナーは、電子写真技術により、印刷紙に文章および画像を形成するために使用される微細なポリマーベースの粉体である。トナーは、一般に電荷されているか、または磁気的特性を有している。トナーは、レーザープリンター、フォトコピアおよびファックス装置において広く使用されており、これら装置は30年より前に発明された電子写真技術に基づいている。トナーは、粉体として出発し、加熱されながらこれらの電子写真機器を通過して流動体になり、冷却されるにつれて最後には固体になって、印刷紙に固着される。
【0003】
電子写真プロセスは、一般に光伝導性材料を使用するステップを含み、文章または画像のある資料の上に光を当てて、感光性部材上に、種々の手段を使用して静電的な潜在画像を形成する。次に潜在する文章または画像をトナーにより現像して、目に見える文章または画像を生成する。次いで、紙などの転写材料の上にこのトナーを転写し、熱、圧力またはその他を使用してこのトナーを転写材料上に定着して、複写された物品を提供するものである。
【0004】
本発明者らは、1枚の普通紙に画像を転写するために電荷を使用するフォトコピー機の操作により、トナーの使用を例示することができる。コピーされるべき資料は、プラテン上に面を接して置かれ、ランプによって光が当てられる。この画像は、鏡を使用して、光反射によって電荷された金属の静電ドラムに向けられる。光がこのドラムに当る部位、即ち資料の白色部分は電導性になり接地放電されるが、その黒色部分は電荷されたまま残る。逆電荷されたトナー粒子がこのドラム上に塗布され、これらの粒子は電荷された部分にだけ付着する。このドラム上の画像は、次いで1枚の紙に転写され、加熱装置を使用して、紙上でトナーを溶融することによってトナーを固着させる。
【0005】
トナー用樹脂は、先ずトナーに微細な粉体になるための包括的な物理的能力を付与し、次に適切な温度において溶融し、次いで紙に結着することができる恒久的なプラスチック固体を形成する。大多数のトナーは、溶融混合プロセスを使用して製造される。トナーの色は、ポリマー粒子が作製さる間に、ポリマー粒子中にブレンドされる顔料から得られる。
【0006】
通常のトナーは、樹脂、顔料、磁性酸化鉄、ワックスおよび電荷制御剤などの成分を、溶融およびブレンディングにより配合して、ペーストを形成することによって作製される。この混合物は、次いで冷却ベルト上に薄板状に押し出すことによって冷却される。この未加工のトナーは、次いでジェットミルまたは空気掃引ハンマーミルによって制御された粒径範囲内の微粉に微粉砕される。このプロセスは、顕微鏡下で見たときに種々の大きさと尖った形状を有するトナー顆粒をもたらす。
【0007】
大き過ぎるトナー粒子および小さ過ぎるトナー粒子は、1回から3回の通過プロセスの方法で篩い分けられる。微粉化された粉体は、次いで添加剤とブレンドされて、流動特性および静電的特性が調整される。この最後のブレンディングは、とりわけ添加剤粒径が必要とされるトナー粒径とはるかに異なっている場合に、制御することが重要であり、同時に難しいものである。
【0008】
今日、種々の会社は、より精細な印刷物が得られるように、トナー粒子を製造するために化学的プロセスを使用している。結果として、より均一な大きさおよびより均一な形状を有するトナー粒子が製造されている。より精細でより均一な形状は、より正確な色再現およびより効果的なトナーの使用を可能にする。
【0009】
現在、通常トナー用樹脂の2つの主な型が存在する:(i)ラジカル開始重合によって製造されるスチレン−アクリル酸エステルコポリマー、ならびに(ii)段階縮合重合によるポリエステル樹脂。スチレン−アクリル酸エステルコポリマーは、スチレン、アクリル酸ブチル、アクリル酸などのモノマーから作製され、これらモノマーは石油化学製品から得られるが、ポリエステルトナー用樹脂も、無水フタル酸、アジピン酸、イソフタル酸、およびセバシン酸などの多官能性酸と組み合わせて、エチレングリコール、1,4ブタンジオールまたは他の多価アルコールなどの石油化学製品から合成される。
【0010】
トナー配合は、製造業者によって異なり、異なるトナーが異なる機器に適合させるために製造される。従来技術において記載されているトナー用樹脂には、これらの製造方法および製品品質の広範囲な変形形態が含まれる。
【0011】
1986年に発行されたタカヤマによる日本公開特許、特開昭61−112160号によって記載されたドライプロセスカラートナーがある。この黄色トナーは、合成樹脂、天然樹脂、ゴムまたはワックス中にアゾメチン油溶性染料を組み込むことによって得られる。この組込みは、トナーが、色材の二次凝集によって不透明になること、ならびに多色を重ねる段階で隠蔽効果を有することを防止し、静電電荷性の劣化を無くする。
【0012】
その他の1997年に発行されたイシダによる日本公開特許、特開平09−03417号も、静電荷像現像用トナー、この製造手法、および静電潜像を現像するための画像形成手法に関する発明を論じている。このトナーの主な成分は、ポリエステル結着樹脂であり、この樹脂には着色剤および離型剤が組み込まれている。このトナーの利点は、良好な定着特性および良好な耐ブロッキング性、ならびに誘電体損失tanδを特定の値に制御する能力があることである。
【0013】
2007年に公告されたコヤマの米国特許第2007/020549号は、ポリエステル樹脂およびスチレン−アクリル酸エステルコポリマーから作製された複合材である、重合させたトナーを製造する方法に関する。このトナーは、画像形成プロセスにおいて低温での優れた定着性、細線の再現性、および不都合のない生産性を有する。また、この発明は、前記方法によって製造されたトナーの製品および画像形成方法を論じている。
【0014】
その他カツヒサの米国特許第2007/0026336A1号は、定着装置の構成に関係なく低温定着を可能にする、結着剤および着色剤を含む、トナーの発明を記載している。また、このトナーは、このトナーが高湿度または低湿度において使用されても高い画像品質を提供する。
【0015】
さらに他のCeongの米国特許第2007/0072107A1号は、ポリエステル樹脂および着色剤から形成された核を有するトナーを合成する別の方法に関し、ここで、このトナーは、マクロモノマーおよび/または反応性乳化剤および重合性モノマーの樹脂でカプセル化されている。
【0016】
近年、トナー用樹脂は、種々の型の電子写真装置において使用されているので、トナー用樹脂について高い要求がなされてきた。現在のトナー用樹脂が、再生不可能な資源から得られ、持続不可能である石油化学製品から大部分は作製されていることを考えると、天然の材料を多く含むポリエステルトナー用樹脂を合成することは、望ましいことである。さらに詳細には、制御された架橋プロセスにより、容易にトナー用樹脂に転化し得るパーム油ベースのポリエステル樹脂を合成することは、石油化学製品から作製される通常の樹脂に比べて環境に適した手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭61−112160号
【特許文献2】特開平09−03417号
【特許文献3】米国特許第2007/020549号
【特許文献4】米国特許第2007/0026336A1号
【特許文献5】米国特許第2007/0072107A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の第一の目的は、種々の植物油または動物脂肪から得られるトナー用樹脂を製造する新規な方法を提供することである。植物油には、パーム油、ヤシ油、大豆油、アマニ油、ヒマシ油またはこれらのいずれかの組合せが含まれる。動物脂肪には、獣脂油、魚油またはこれらの組合せが含まれる。
【0019】
本発明のその他の目的は、−OHおよび−C=C−などの種々の活性部位を有する天然油ベースの低分子量ポリエステルを提供することであり、この活性部位は、化学的変性のための特定の架橋反応を可能にして、2つの異なる分子量部分を含む最終製品を実現し、その結果、最終製品は、良好な定着特性および良好なオフセット特性に対して、トナー用樹脂の必要とされる性能を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前項の目的の少なくとも1つは、全体的にまたは部分的に、本発明によって満たされる。
本発明において、本発明の実施形態の1つは、 a)多価カルボン酸、多価アルコールおよび遊離脂肪酸を縮合重合させて、アルケニル基を有するポリエステル樹脂[ここで、前記多価カルボン酸、前記多価アルコールまたは前記遊離脂肪酸の少なくとも1種は、天然油から得られる]を形成するステップ、b)前記ポリエステル樹脂をビニルモノマーと混合して、混合物を形成するステップ、c)前記混合物を架橋剤と架橋させて、3000と15000の間の範囲にある分子量を有する第1の部分を得るステップ、d)前記混合物を架橋剤の第2の分量と架橋させて、15000より大きい分子量を有する第2の部分を得るステップ、およびe)前記第1の部分と前記第2の部分を混合して、前記ポリエステルトナー用樹脂を形成するステップを含む、ポリエステルトナー用樹脂を合成する方法を記載する。
【0021】
本発明のその他の実施形態は、a)多価カルボン酸、多価アルコールおよび遊離脂肪酸を縮合重合させて、ヒドロキシル基を有するポリエステル樹脂(ここで、前記多価カルボン酸、前記多価アルコールまたは前記遊離脂肪酸の少なくとも1種は、天然油から得られる)を形成するステップ、b)前記ポリエステル樹脂の第1の部分をジイソシアネート化合物と架橋させて、3000と15000の間の範囲にある分子量を有する第1の部分を得るステップ、c)前記ポリエステル樹脂の第2の部分を、より多い分量のジイソシアネート化合物と架橋させて、15000より大きい分子量を有する第2の部分を得るステップ、およびd)前記第1の部分と前記第2の部分を混合して、前記ポリエステルトナー用樹脂を形成するステップを含む、ポリエステルトナー用樹脂を合成する方法を記載している。
【0022】
本発明のさらに他の実施形態は、記載された方法のいずれかによって合成されたトナー用樹脂である。本発明のトナー用樹脂は、原料として高い含有量の天然の材料を使用した場合に、伝統的なトナーに優る多くの利点を有する。例えば、本発明のトナー用樹脂は、主に天然の材料から作製されているので、環境に対する影響がより小さい。多数の国の環境保護規制に対する必要条件に鑑み、世界的にトナー工業は、さらに環境に適した、好ましくは持続可能な資源から作製された材料を含む、石油をベースの化学製品を代替することを探し求めている。
【0023】
また、本発明は、この製品を国際市場においてより競争力のあるものにする。というのは使用される原材料の多くが、天然由来のものであり、コストを低下させるのに役立つからである。
【0024】
当業者は、本発明が、前記目的を果すこと、および言及された結果と利点を得ること、ならびにそこにある本来的なものによく適応していることを直ちに理解することになる。本明細書に記載の実施形態は、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本明細書において、本発明を、本発明の好ましい実施形態に従い、付随する記述を参照することによって記載する。しかし、記載を本発明の好ましい実施形態に限定するのは、本発明の論議を単に容易にするためであることは、理解されるべきであり、当業者が添付の特許請求の範囲から逸脱すことなく種々の変更形態を考案し得ることは想像されることである。
【0026】
好ましい実施形態の1つにおいて、本発明は、a)多価カルボン酸、多価アルコールおよび遊離脂肪酸を縮合重合させて、アルケニル基を有するポリエステル樹脂[ここで、前記多価カルボン酸、前記多価アルコールまたは前記遊離脂肪酸の少なくとも1種は、天然油から得られる]を形成するステップ、b)前記ポリエステル樹脂をビニルモノマーと混合して、混合物を形成するステップ、c)前記混合物を架橋剤と架橋させて、3000と15000の間の範囲にある分子量を有する第1の部分を得るステップ、d)前記混合物を架橋剤の第2の分量と架橋させて、15000より大きい分子量を有する第2の部分を得るステップ、およびe)前記第1の部分と前記第2の部分を混合して、前記ポリエステルトナー用樹脂を形成するステップを含む、ポリエステルトナー用樹脂を合成する方法を開示する。
【0027】
本発明の最初のステップは、多価カルボン酸と多価アルコールの間の縮合重合反応である。ポリエステル樹脂の形成は、以下の反応によって示されている通り、カルボキシル基とのヒドロキシル基の縮合反応に基づいている。
【0028】
【化1】

【0029】
好ましい実施形態によれば、本発明において使用される、多価カルボン酸、多価アルコールまたは前記遊離脂肪酸の少なくとも1種は、天然油から得られる。本発明において、天然油から得られる多価カルボン酸には、アゼオリン酸、クエン酸、フマル酸、無水マレイン酸およびこれらのいずれかの組合せが含まれる。それ以外に、石油化学製品から得られる多価カルボン酸も使用することができ、これにはアジピン酸、イソフタル酸、セバシン酸、無水フタル酸またはこれらのいずれかの組合せが含まれる。好ましい実施形態によれば、使用される多価カルボン酸は、ポリエステル分子鎖の構造中に多量のアルケニル基(C=C)を有するポリエステル樹脂が得られるように、フマル酸またはマレイン酸などの不飽和ジカルボン酸の部分を好ましくは含むべきである。フマル酸またはマレイン酸の分量が過剰であると、過量のアルケニル基を生成することになり、ポリエステルを不安定にし、ゲルが形成し易くなる。
【0030】
本発明において使用される多価アルコールは、グリセロール、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択される。グリセロールは、植物油および獣脂油から得られ、一方、エチレングリコールおよび1,4−ブタンジオールは、石油化学製品である。好ましい実施形態の1つにおいて、本発明に使用される遊離脂肪酸は、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸無、水マレイン酸またはこれらのいずれかの組合せからなる群から選択される。
【0031】
本明細書において論ぜられる用語天然油は、植物油および獣脂油の両方、ならびにこれらの誘導体を含む。本発明の好ましい実施形態によれば、植物油およびこれらの誘導体は、パーム油、ヤシ油、大豆油、アマニ油、ヒマシ油、ナタネ油およびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択され、一方、動物脂肪およびこれらの誘導体は、獣脂油、魚油およびこれらの組合せからなる群から選択される。好ましい実施形態において、本発明の主原料として好ましく使用されるべき天然油は、パーム油およびこの誘導体である。好ましいパーム油およびこの誘導体には、パーム油、パームオレイン、パームステアリンおよびパーム種油が含まれる。
【0032】
本発明は、有用なポリエステル樹脂の合成ために天然油を使用する。本発明において、高含有量の天然材料がこれらの環境に適した天然油ベースのトナー用樹脂の合成のために使用され、ここで、使用される天然材料の量は、20%を超える。好ましい実施形態によれば、この量は、40%と100%の間の範囲にあるべきである。パーム油を使用する例で説明すると、パーム油ベースのポリエステル樹脂は、全体の配合中にパーム油またはこの誘導体を20質量%と80質量%の間で含有する。
【0033】
縮合重合のプロセスの後に、ポリエステル樹脂は、ビニルモノマーと共に加熱されて、混合物を形成する。形成されたポリエステル樹脂がアルケニル(C=C)基を5%から20%含有する場合は、ビニルモノマーの添加がとりわけ必要である。ビニルモノマーは、架橋プロセスを規制するために活性希釈剤として添加される。好ましい実施形態によれば、
ビニルモノマーは、スチレン、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチルおよびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択される。本発明において、ビニルモノマーは、その低コストおよび容易な反応のゆえに、好ましくはスチレンであるべきである。このビニルモノマーは、加熱プロセスの間に反応混合物中においてポリエステルのアルケニル基と一緒に、適切なラジカル開始剤により重合する。
【0034】
ポリエステルトナー用樹脂は、300と5500の間の、Mnの広い分子量分布を持って合成される。この最初のポリエステル樹脂は、粘性のある液体または軟らかな伸ばすことができる樹脂状製造物である。この樹脂状製造物は、アルケニル(C=C)基、ヒドロキシル(−OH)基、およびカルボキシル(−COOH)基などのいくつかの反応性官能基を担持する。これらの基は、さらなる制御可能な架橋反応のための部位を提供する。適切な薬剤を使用した適切な架橋プロセスをにより、5%から45%の高分子量部分を製造させることができる。本発明によるおいて、パーム油ベースのポリエステル樹脂は、低分子量部分と高分子量部分のバランスを実現させることができ、このことがトナー用樹脂として必要とされる、定着特性およびオフセット特性をもたらすことができる。
【0035】
本発明において、ポリエステル樹脂の最初に粘性のある液体、または軟らかな形態のものは、多数の方法で架橋反応させることができる。架橋の方法は、一般にポリエステル樹脂の構造上の利用できる反応部位の型および量によって決定される。架橋反応は、ポリマー分子鎖間の恒久的な化学結合を形成することになり、効果的により高い分子量を有する新規な材料をもたらす。物理的特性は、これらの架橋反応によって変化することになる。5000の分子量を有する材料は、粘性のある液体のように思へるが、架橋反応によって分子量が増大すると固体になることになる。
【0036】
最初に低い分子量のポリエステルを、トナー用樹脂の所望の特性を有する固体に転化させる際、架橋反応の必要とされる量は、初期の平均分子量に依存する。低い初期の分子量を有するポリエステルは、高い初期の分子量を有するものより多い架橋を必要とする。
【0037】
主分子鎖または側分子鎖に不飽和アルケニル(C=C)基を有するポリエステル樹脂は、遊離ラジカル反応によって容易に架橋することができ、この遊離ラジカル反応は、有機過酸化物またはアゾ化合物などの適切なラジカル開始剤によって開始されることになる。本発明において、架橋剤は、過酸化ベンゾイル、過酸化ジアルキル、過酸化水素、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化メチルエチルケトン、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、およびアゾ−ビスシクロヘキサンカーボニトリル(ABCN)からなる群から選択される。
好ましい実施形態によれば、架橋剤は、好ましくは過酸化ベンゾイルである。
【0038】
架橋剤は、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、およびシクロヘキサノンからなる群から選択される。溶剤の選択に対する重要な基準は、最初のポリエステルを溶解するその能力である。好ましい実施形態によれば、架橋剤は、好ましくはトルエン中に溶解されるべきである。
【0039】
架橋反応の程度は、トナー用樹脂として使用可能な所望の特性を実現するために、注意深く調節する必要がある。好ましくは、ポリエステル樹脂およびビニルモノマーを含む最初の低分子量混合物は、架橋剤の適正な量で処理される。この混合物は、平均分子量が300と1000の間の範囲から、3000と15000の間の範囲に増大するまで、少し架橋させる。この段階において、製造物は、約100℃の温度で非常に粘性のある液体である。この製造物は、約28℃での室温において固化して非粘着性物質になることになる。
【0040】
本発明の実施形態の1つは、架橋反応の間に、ポリエステルトナー用樹脂の2つの部分を製造することである。好ましい実施形態によれば、最終製造物の約60%から80%を構成する3000と15000の間の分子量を有するポリエステル樹脂の第1の部分が、反応混合物から分離される。反応混合物中の製造物の残りの20%から40%は、架橋剤の第2の分量で処理されて、その結果平均分子量は、15000よりはるかに高く、好ましくは30000より高くなることになる。本発明の実施形態によれば、第2の部分の分子量は、好ましくは30000と80000の間の範囲にある。しかし、トナー用樹脂を形成する最後のプロセスにおいて困難が避けられるように、分子量は、高過ぎるべきではない。第2の部分は、150℃を超える高い融点有することができる。これは、ポリエステルトナー用樹脂の所望のオフセット特性をもたらす。
【0041】
ポリエステルトナー用樹脂の合成プロセスの第1のステップは、低い分子量部分と高い
分子量部分を混合して、所望のポリエステルトナー用樹脂を生成することである。
【0042】
このポリエステルトナー用樹脂は、多数の方法により、架橋剤が溶解されている希釈剤から分離することができる。例えば、トルエンは、減圧下で溜去することができる。別法として、メタノールを溶液中に添加して樹脂を沈殿させることができる。この樹脂は、次いで約110℃においてオーブン中で乾燥される。好ましい実施形態によれば、メタノールおよびトルエンを分離して、次の反応において再使用することができる。
【0043】
その他の好ましい実施形態において、本発明は、a)多価カルボン酸、多価アルコールおよび遊離脂肪酸を縮合重合させて、ヒドロキシル基を有するポリエステル樹脂[ここで、前記多価カルボン酸、前記多価アルコールまたは前記遊離脂肪酸の少なくとも1種は、天然油から得られる]を形成するステップ、
b)前記ポリエステル樹脂の第1の部分をジイソシアネート化合物と架橋させて、3000と15000の間の範囲にある分子量を有する第1の部分を得るステップ、
c)前記ポリエステル樹脂の第2の部分を、より多い分量のジイソシアネート化合物と架橋させて、15000より大きい分子量を有する第2の部分を得るステップ、および
d)前記第1の部分と前記第2の部分を混合して、前記ポリエステルトナー用樹脂を形成するステップを含む、ポリエステルトナー用樹脂を合成する方法を開示する。
【0044】
好ましい実施形態によれば、多価カルボン酸および多価アルコールを縮合重合させると、主ポリマー分子鎖またはこの側分岐に沿ってヒドロキシル(−OH)基を有するポリエステル樹脂が製造する。その結果、架橋プロセスの異なる方法が使用される。例えば、ヒドロキシル(−OH)部位を有するポリエステル樹脂は、メチルジフェニルジイソシアネート(MDI),トルエンジイソシアネート(TDI)またはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などのジイソシアネート化合物を使用して、容易に架橋させることができる。この反応は、28℃と80℃の範囲の適度な温度において生じる。
【0045】
この反応は、28℃と80℃の範囲の適度な温度において生じる。使用されるジイソシアネート化合物は、メチルジフェニルジイソシアネート(MDI),トルエンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、好ましくはMDIであり得る。というのは、MDIの反応性、低揮発性、容易に入手できること、および低コストのためである。
【0046】
この反応は、次式のように示すことができる:
【0047】
【化2】

【0048】
前記ポリエステル樹脂の一部分は、ジイソシアネート化合物で架橋されて、3000と15000の間の範囲にある分子量を有する第1の部分が得られる。前記ポリエステル樹脂のその他の部分は、より多い分量のジイソシアネート化合物と架橋されて、15000より大きい分子量を有する第2の部分が得られる。前記第1の部分と前記第2の部分は混合されて、前記ポリエステルトナー用樹脂が得られる。
【0049】
別法として、多数のヒドロキシル(−OH)基を有するポリエステルもジカルボン酸によって架橋することができる。
【0050】
この関与する反応は、次式のように示すことができる:
【0051】
【化3】

【0052】
これらの架橋反応の程度もトナー用樹脂として使用できる所望の特性を実現するために注意深く調節される。好ましくは、製造物の約60%から80%である、最初の低分子量ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸の適切な量で処理される。この混合物は、平均分子量が300と1000の間の範囲から3000と15000の間の範囲に増加して、ポリエステル樹脂混合物第1の部分を形成するまで、わずかに架橋させられる。
【0053】
この段階において、製造物は、約100℃の温度で非常に粘性のある液体である。この製造物は、約28℃である室温において固化して非粘着性物質になる。
【0054】
この製造物の約20%から40%である低分子量ポリエステル樹脂の残りの部分は、ジカルボン酸の多い分量で処理され、その結果平均分子量は、15000よりはるかに高く、好ましくは30000より高くなり得ることになる。好ましい実施形態によれば、第2の部分の分子量は、30000と60000の間の範囲にあるべきである。第2の部分は、150℃を超える高い融点有することができる。これは、ポリエステルトナー用樹脂の所望のオフセット特性をもたらす。ポリエステルトナー用樹脂の合成プロセスの最後のステップは、ポリエステルトナー用樹脂を製造するために低い分子量部分を高い分子量の部分と混合することである。
【0055】
当業者は、多価カルボン酸および多価アルコールを縮合重合させると、主ポリマー分子鎖またはこの側分岐に沿って、アルケニル基(−C=C−)基およびヒドロキシル(−OH)基を有するポリエステル樹脂が製造することを理解するべきである。したがって、架橋プロセスの1つを使用することができ、またこのプロセスの組合せを適用することもできる。換言すれば、ポリエステル樹脂のアルケニル基(−C=C−)部位は、遊離ラジカルによって架橋することができ、一方ヒドロキシル(−OH)部位は、ジイソシアネート化合物を使用して架橋することができる。
【0056】
本発明のさらにその他の実施形態は、上記の方法のいずれかによって合成されたポリエステルトナー用樹脂である。多数の国における環境保護規制に対する必要条件に鑑み、世界的に、トナー工業は、好ましくは持続可能な資源から作製された、さらに環境に適した材料による、石油ベースの化学製品の代替物を探し求めている。したがって、本発明の環境に適した天然油ベースのトナー用樹脂は、伝統的なトナーに優る多数の利点をし、これらは、環境に対する影響がより小さい。
【0057】
次に本発明を、以下の実施例を参照してさらに詳細に記載する。以下の実施例は、例示的目的だけのものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0058】
上記方法は、うまく実施されて、表1に列挙したポリエステル樹脂の4つの実施例を作製することができる。ポリエステル樹脂のこれらの4つの例は、異なる、多価カルボン酸、多価アルコールおよびパーム油から得られる遊離脂肪酸の間の縮合重合反応によって得られる。ヒドロキシル価は、ASTM D4274−94などの標準試験法によって求められる。
【0059】
実施例1は、本発明の縮合重合反応を示し、実施例2および実施例3は、本発明の先の記載において詳述したように架橋反応の異なる方法である。
【0060】
【表1】

【実施例1】
【0061】
縮合重合の典型的手順を表1のポリエステルPES2の合成により示す。反応器中でパーム核種油27.2重量%をグリセロール29.8重量%と混合する。水酸化カリウムなどのアルカリ化合物約0.05%から0.1%を、触媒として場合によって添加することができる。この混合物を窒素ガスによりパージし、機械的撹拌機により撹拌し、加熱して、温度を徐々に上げる。120℃を超える温度において、この混合物に濁りが出てくる。温度が180℃から210℃に到達するまで加熱を続け、煙霧状の蒸気が観察されるまで約2時間保持する。加熱を止め、約100℃−120℃にまでゆっくりと冷却させる。
次いで、アジピン酸を43重量%の量で添加し、撹拌機を200rpmから300rpmの中程度の撹拌速度に設定して、加熱を再開する。温度が180℃から210℃に到達すると、速い速度で反応水が発生する。この反応が終了に近づくと、反応水の発生は止まる。また、この反応は、反応混合物の酸価を測定することによって観測することができる。
【実施例2】
【0062】
上記の表1を参照して、C=C二重結合を含む100%天然ポリエステルPES4を、遊離ラジカル開始剤を使用して、スチレンモノマーと反応させることができる。ここで、ポリエステルPES3、200gをスチレンモノマー450gと混合し、この混合物をガラス反応器中で80−100℃に加熱する。トルエン中に溶解させた過酸化ベンゾイルを10%含む溶液200gを、次いで徐々に反応器中に添加し、撹拌機を100rpmから300rpmに設定した機械的撹拌機により撹拌する。この反応器中の全量は、約850gである。好ましくは反応が進むにつれて、粘度が上昇し、目視で観察できる。反応の3時間後に、フラスコ中の内容の50%から70%を別の容器中に移す。反応器中の製造物の残りの50%から30%を、トルエン50ml中に溶解させた過酸化ベンゾイル5gのさらなる分量で処理する。この混合物を90℃においてさらに2時間反応させる。次いでこの2つの部分を混合し、メタノールを添加することにより、トルエン溶液から最終的ポリマーを沈殿させる。このポリマーを、次いで分離し、110℃においてオーブン中で乾燥させる。トルエンおよびメタノールを主に含む濾液は、再使用し得るメタノールおよびトルエンを分離するために、集めて蒸留されるべきである。
【実施例3】
【0063】
PES1は、過剰の−OH基を含み、MDIまたはTDIなどのポリイソシアネートによって好適に架橋することができる。例えば、PES1、400gの1つの部分をMDI80gと反応させて、約3600の平均分子量を有するポリエステルの一部分を生成する、
PES1、200gの第2の部分をMDI20gと反応させて、約12000の分子量を有する、より高い分子量部分を製造することができる。次いで、この2つの部分を混合して、定着特性およびオフセット特性を有するトナー用樹脂を製造する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)多価カルボン酸、多価アルコールおよび遊離脂肪酸を縮合重合させて、アルケニル基を有するポリエステル樹脂[ここで、前記多価カルボン酸、前記多価アルコールまたは前記遊離脂肪酸の少なくとも1種は、天然油から得られる]を形成するステップ、
b)前記ポリエステル樹脂をビニルモノマーと混合して、混合物を形成するステップ、
c)前記混合物を架橋剤と架橋させて、3000と15000の間の範囲にある分子量を有する第1の部分を得るステップ、
d)前記混合物を架橋剤の第2の分量と架橋させて、15000より大きい分子量を有する第2の部分を得るステップ、
および
e)前記第1の部分と前記第2の部分を混合して、前記ポリエステルトナー用樹脂を形成するステップを含む、ポリエステルトナー用樹脂を合成する方法。
【請求項2】
前記ポリエステルトナー用樹脂が、前記混合ステップの後に、メタノールによって前記混合物から沈殿させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多価カルボン酸が、アゼオリン酸、クエン酸、フマル酸、無水マレイン酸およびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記多価アルコールが、グリセロール、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記遊離脂肪酸が、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸およびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記天然油が、パーム油、ヤシ油、大豆油、アマニ油、ヒマシ油、ナタネ油およびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択された、植物油およびこれらの誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記天然油が、獣脂油、魚油およびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択された、動物脂肪およびこれらの誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ビニルモノマーが、スチレン、アクリル酸メチル、アクリル系誘導体、アクリル酸ブチルおよびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記架橋剤が、有機過酸化物およびアゾ−化合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
a)多価カルボン酸、多価アルコールおよび遊離脂肪酸を縮合重合させて、ヒドロキシル基を有するポリエステル樹脂[ここで、前記多価カルボン酸、前記多価アルコールまたは前記遊離脂肪酸の少なくとも1種は、天然油から得られる]を形成するステップ、
b)前記ポリエステル樹脂の第1の部分をジイソシアネート化合物と架橋させて、3000と15000の間の範囲にある分子量を有する第1の部分を得るステップ、
c)前記ポリエステル樹脂の第2の部分を、より多い分量のジイソシアネート化合物と架橋させて、15000より大きい分子量を有する第2の部分を得るステップ、および
d)前記第1の部分と前記第2の部分を混合して、前記ポリエステルトナー用樹脂を形成するステップを含む、ポリエステルトナー用樹脂を合成する方法。
【請求項11】
前記ポリエステルトナー用樹脂が、前記混合ステップの後に、メタノールによって前記混合物から沈殿させられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記多価カルボン酸が、アゼオリン酸、クエン酸、フマル酸、無水マレイン酸およびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記多価アルコールが、グリセロール、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記遊離脂肪酸が、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸およびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記天然油が、パーム油、ヤシ油、大豆油、アマニ油、ヒマシ油、およびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択された、植物油およびこれらの誘導体である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記天然油が、獣脂油、魚油およびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択された、動物脂肪およびこれらの誘導体である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記ジイソシアネート化合物が、メチルジフェニルジイソシアネート(MDI),トルエンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)およびこれらのいずれかの組合せからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の合成されたポリエステルトナー用樹脂。

【公表番号】特表2010−532493(P2010−532493A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514656(P2010−514656)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国際出願番号】PCT/MY2008/000056
【国際公開番号】WO2009/005335
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(506250398)ユニバーシティ マラヤ (3)
【出願人】(509198354)ジャディ イメージング テクノロジーズ エスディエヌ ビーエイチディ (1)
【Fターム(参考)】