説明

環境浄化用焼結体を利用した金属イオンの除去方法

【課題】 環境への影響が懸念されることのない、多孔質構造の焼結体からなる水質浄化剤を利用することを特徴とする、金属イオン吸着除去方法を提供する。
【解決手段】
水系の底部から得られる浚渫底泥との光還元作用を有する酸化チタン粉末と珪酸ナトリウムとを、固形分重量比にて、43〜81%と6〜24%と6〜46%の割合で配合してなる組成物を焼成して得られた、多孔質構造の焼結体からなる水質浄化剤を利用することを特徴とする、金属イオン吸着除去方法、及び本金属イオン吸着除去を光照射下で利用する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境への二次的な影響が懸念されることのない焼結体を利用した環境浄化方法に係り、特に、環境改善及び環境保全を充分に期待できる、金属イオンの除去に有効な方法、並びにそれを用いた光照射下における促進効果に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、河川、池、沼、海洋等の水域における、有害重金属イオンを除去する環境技術が数多く提案されているが、極微量存在する重金属イオンなどを環境に負荷を与えずに、経済的で効率的に吸着・除去できる方法は現在のところ知られていない。
【0003】
これまで、水溶液中の重金属イオン等の除去には、生物学的な方法、物理化学的な方法、凝集法、晶析法などが行われているが、操作の簡便性からは物理化学的な手法の一つである吸着・イオン交換法が有利である。従来、吸着・イオン交換法として、キレート樹脂・キレート繊維又はイオン交換樹脂や水酸化セリウム、ジルコニウムフェライト等を用いることが知られている。
【0004】
しかしながら、イオン交換樹脂やキレート樹脂・キレート繊維、水酸化セリウム、ジルコニウムフェライトなどは、効率的に重金属イオンを吸着・除去できる場合があるが、高価であり環境中で大量に使用することは困難であった。またイオン交換樹脂やキレート樹脂・キレート繊維、などは、選択的に重金属イオンを吸着除去するが、一方、吸着剤物質自体の材料の環境への影響も、懸念する必要があるものであった。
【0005】
また、水酸化セリウム、ジルコニウムフェライトについても、希土類元素や高価な金属を使用しており高コストであることから環境中で大量に使用することは困難であった。
【0006】
従来、水中の重金属イオンの吸着剤として、特許文献1に示されるような磁性含水酸化鉄粒子、特許文献2、3に示されるようなにチタン、ジルコニウムの含水亜鉄酸塩、特許文献4、5、6に示されるような水酸化鉄中に酸化鉄および含水酸化鉄などを埋め込んだ塊上の吸着体等が知られている。また、特許文献7では、炭素を含有する含水酸化鉄粒子を吸着剤として利用し、溶液中の重金属イオンを吸着除去する方法も、明らかにされている。
【0007】
しかしながら、それら従来から提案されている技術において、吸着剤が微粒子の場合には、河川、湖沼や海域の底部や水中に設置して浄化を行うには、不向きであり、吸着剤及び又は吸着剤の顆粒物が充填されたカラムや濾過槽に被処理水を流通せしめる方法、粉末状の含水酸化鉄粒子を用いた攪拌槽と沈殿槽を組み合わせた方法などを利用せざるを得ない。したがって、吸着剤粒子を他の担体に担持しなければ、直接水質浄化を目的とする水中に投与せしめることはできない。さらに、水酸化鉄等の鉄系の吸着剤の作製には、複数の工程を有する場合がほとんどであり、生産コストが低廉でない場合がほとんどである。
【0008】
また、本願出願人のうちの一人は、先に特許文献7において、水系の底部から得られる浚渫底泥と有機物質の光分解作用を有する酸化チタン粉末と珪酸ナトリウムとを混合し、固化焼成してなる焼結体を提案し、これを、河川、池、沼、海洋等の水域における水質浄化を目的とする水中に投与せしめて、フミン物質等の有機物質の光触媒分解作用により、目的水域の浄化に有効であることを明らかにした。しかしながら、この先に提案した水質浄化方法にあっては、環境水中に存在するフミン物質等の有機物質の分解作用には非常に効果的であることが明らかとされているが、無機形態の金属イオンの吸着除去には、その効果が明らかにされていなかった。
【0009】
【特許文献1】特開昭55−13153号公報
【特許文献2】特許第1380023号公報
【特許文献3】特開昭57−50543号公報
【特許文献4】特表2004−509750号公報
【特許文献5】特表2004−509751号公報
【特許文献6】特表2004−509752号公報
【特許文献7】特開2008−55372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景に為されたものであって、その解決課題とするところは、環境への影響が懸念されることのない環境浄化剤を利用した金属イオン吸着除去方法を提供することにあり、またそのような金属イオン吸着除去を有効に行い得る条件を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明者が、金属イオンの除去に有効な方法について鋭意検討を重ねた結果、浚渫汚泥と、酸化チタンと、珪酸ナトリウムとを、それぞれ特定の割合で配合せしめてなる組成物を焼成して得られた焼結体を利用した金属イオン吸着除去方法が、有用であること見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0012】
すなわち、本発明は、水系の底部から得られる浚渫底泥との光還元作用を有する酸化チタン粉末と珪酸ナトリウムとを、固形分重量比にて、43〜81%と6〜24%と6〜46%の割合で配合してなる組成物を焼成して得られた、多孔質構造の焼結体からなる水質浄化剤を利用することを特徴とする、金属イオン吸着除去方法を、その要旨とするものである。
【0013】
なお、かかる本発明に従う金属イオン吸着除去方法の望ましい態様の一つによれば、前記水質浄化剤が、光照射下で利用されることとなる。
【0014】
また、このような本発明に従う金属イオン吸着除去方法の他の望ましい態様の一つによれば、前記酸化チタンがアナターゼ型の酸化チタンを含有する、水質浄化剤を利用することとなる。
【0015】
さらに、かかる本発明に従う金属イオン吸着除去方法の別の望ましい態様の一つによれば、前記焼結体を得るための前記混合物の焼成温度が500〜850℃である、水質浄化剤を利用することとなる。
【0016】
また、このような本発明に従う金属イオン吸着除去方法の更に異なる望ましい態様の一つによれば、前記焼結体が0.1〜50m/gの比表面積を有している、水質浄化剤を利用することとなる。
【0017】
なお、かかる本発明に従う金属イオン吸着除去方法の好ましい態様の一つによれば、前記焼成して得られた焼結体が酸性水溶液中に浸漬処理された、水質浄化剤を利用することとなる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明に従う水質浄化剤を利用した金属イオン吸着除去方法にあっては、金属イオンの光還元作用を有する酸化チタン粉末が、水系の底部から得られる浚渫底泥を主体とする多孔質構造の焼結体にて保持されるものであるところから、その適用現場に近い物質系を構成することとなり、しかも、そのような焼結体を構成する珪酸ナトリウムや酸化チタンにあっても、自然に豊富に存在する元素から構成されるものであるところから、そのような水質浄化剤の用いられる現場において、二次汚染の可能性は殆ど無く、水溶液中において陽イオン形態として存在する金属イオンが効果的に吸着除去され得るようになっているのであり、また、原料コストも低廉で、浄化に際して、加熱や通電を何等必要とするものではないことから、低コストで浄化処理を実施することができるようになっている。
【0019】
また、本発明に従う水質浄化剤を利用した金属イオン吸着除去方法にあっては、水系の底部から得られた浚渫汚泥を主体とする焼結体を利用しているところから、微粒子の吸着材料とは異なり、多孔質構造であっても、河川や湖沼の底部や水中に浸漬して浄化を行うこと可能となっているのであり、これにて、被浄化物中に含まれる金属イオンを有利に吸着除去し得ることとなる。
【0020】
しかも、本発明に従う金属イオン吸着除去方法に利用する水質浄化剤は、珪酸ナトリウムがバインダとして作用することにより、充分な強度を有し、目的とする水域において散布されても、崩壊することなく底部に留まり、長期に亘って有効な浄化作用を発揮し得ると共に、その多孔性によって、酸化チタンによる金属イオンの光還元吸着作用を、効果的に発揮せしめ得ることとなるのである。
【0021】
また、本発明に従う金属イオン吸着除去方法に利用する水質浄化剤の製造方法によれば、浚渫底泥と酸化チタン粉末と珪酸ナトリウムとからなる組成物を用いて造粒し、その造粒物を所定の温度で焼成することによって、酸化チタンを保持した多孔質構造の焼結体が、有利に得られるのである。
【0022】
さらに、本発明に従う金属イオン吸着除去方法によれば、上述せる如き環境浄化剤を、浄化対象である被浄化物に接触せしめることによって、かかる被浄化物中に含まれる金属イオンを効果的に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
ところで、かかる本発明に従う金属イオン吸着除去方法において、それに利用される多孔質構造の焼結体の主たる構成成分たる、水系の底部から得られる浚渫底泥は、河川、湖沼、河口域、閉鎖性の海域等の水系の底部から、浚渫作業等によって、従来と同様に取り出される、有機質の豊富なものであって、そのような水系の底部から取り出された底泥は、通常、乾燥等の操作によって、ある程度の脱水が施されて、含水率が30%〜40%程度のものとして、用いられることとなる。特に、この水系の底部から得られる浚渫底泥としては、それによって形成される水質浄化剤が用いられる水系の底部から得られる浚渫底泥であることが望ましく、これによって、現場水域に、より適合した水質浄化剤とすることが可能である。
【0024】
また、本発明に従う金属イオン吸着除去方法を有利に実施する要素は、そのような水系の底部から得られる浚渫底泥に配合されている、酸化チタン粉末であって、そのような酸化チタン粉末の存在下に光照射が行われると、吸着除去能力が効果的に高められ得て、金属イオンが効果的に吸着除去せしめられることとなるのである。なお、この金属イオンの光還元吸着除去作用を有する酸化チタン粉末としては、アナターゼ型とルチル型が知られているが、アナターゼ型のものの方が光触媒活性が高いところから、本発明においては、アナターゼ型の酸化チタン粉末が有利に用いられることとなる。また、この酸化チタン粉末は、粒子径が小さく、被表面積が大きいほど活性が高いところから、一般に、1〜100nm程度の微細粉末状のものが、好適に用いられるのである。そして、そのような酸化チタン粉末は、各種の市販品の中から適宜に選択されることとなる。
【0025】
さらに、本発明に従う金属イオン吸着除去方法において、それに利用される浚渫底泥や酸化チタン粉末に配合される珪酸ナトリウムは、バインダとして機能するものであって、その配合によって、焼成して得られる多孔性の焼結体に、充分な強度を付与し、もって浄化対象とされた水系(河川、湖沼、河口域、海域等)に散布されたとき、水質浄化剤が崩壊することなく、水系の底部に留まり、有効な水質浄化作用を発揮せしめ得るものである。
【0026】
そして、それら浚渫底泥と酸化チタン粉末と珪酸ナトリウムとは、目的とする多孔質構造の焼結体からなる水質浄化剤を得る上において、固形分重量比にて、43〜81%と6〜24%と6〜46%の割合で配合せしめられる必要がある。かかる配合割合において、酸化チタン粉末の配合量が6%よりも少ないと、光還元吸着能力の効果が極端に発揮されないようになる一方、その配合量が24%よりも多くなり過ぎると、得られる焼結体が脆くなって、実用に供し得なくなる。また、バインダとしての珪酸ナトリウムの配合量が6%よりも少なくなっても、充分な強度を有する焼結体を得ることが困難となるのであり、そのために、実用に供し難くなる一方、その配合量が46%よりも多くなると、焼結体の強度は高められ得るものの、焼結体の表面に存在する酸化チタンが、珪酸ナトリウムにて覆われるようになって、酸化チタンの有効な光還元吸着能力を発揮させ難くなるのである。特に、その中でも、本発明にあっては、固形分重量比にて、酸化チタン粉末:12〜17%、珪酸ナトリウム:24〜36%、浚渫底泥:残部なる配合組成が、有利に採用されることとなる。
【0027】
また、本発明に従う金属イオン吸着除去方法において、それに利用される環境浄化剤にあっては、浚渫底泥を主成分としつつ、それに所定量の酸化チタン粉末と珪酸ナトリウムを配合して、目的とする多孔質構造の焼結体を与える組成物が調製されることとなるのであるが、そのような組成物には、それら三成分の他にも、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、必要に応じて、各種の配合剤、例えば水系の底部から取り出された底泥の凝集や脱水のための薬剤や固化剤、結合助剤、多孔化補助剤等を適宜に配合せしめることが可能である。
【0028】
そして、本発明に従う金属イオン吸着除去方法において、それに利用される環境浄化剤を与える多孔質構造の焼結体を得るべく、上述の如くして得られる組成物を用い、先ず、それを、一般的な成形手法に従って、所望とする形状や大きさに成形して、円盤状や粒状等の各種の形状・大きさの未焼成の成形物が、形成されることとなる。次いで、この得られた成形物を、焼成することにより、目的とする焼結体が製造されるのである。
【0029】
なお、本発明に従う金属イオン吸着除去方法において、それに利用される環境浄化剤を与える組成物の焼成に際して、その焼成温度としては、一般に、400〜700℃の範囲内の温度において、適宜に選定されることとなるが、特に有利には、500〜700℃の範囲内の焼成温度が採用されることとなる。この焼成温度が低くなり過ぎると、充分な焼成を行うことができず、そのために、焼結体の強度を充分に高めることが困難となるからであり、また焼成温度が高くなり過ぎると、焼結体に有効な多孔質構造を形成することが困難となる等の問題を惹起するからである。
【0030】
そして、かかる本発明に従う金属イオン吸着除去方法において、それに利用される環境浄化剤を与える組成物を焼成して得られた焼結体には、その表面の有効な多孔構造をより有利に実現するべく、必要に応じて、酸性水溶液中に浸漬する浸漬処理が施される。かかる酸性水溶液としては、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、過塩素酸等の無機酸や、シュウ酸、酢酸、ギ酸等の有機酸の水溶液が何れも用いられるのであり、また、酸濃度としては、0.01〜10M程度の酸性水溶液が、焼結体の多孔性を高める上において、好適に採用され得るのである。なお、この酸性水溶液による処理は、一般に3時間以上の時間において実施され、その上限としては24時間程度とされることとなる。処理時間が24時間を超えても、その処理効果に大きな変化を期待することが困難であるからである。
【0031】
さらに、本発明に従う金属イオン吸着除去方法において、それに利用される焼結体は、多孔質構造において充分な強度を有するものとして、有利には、焼結体の破壊時における最大荷重を圧縮強度試験機で測定して得られる、一軸圧縮強度(JISR5210セメントの物理試験方法に準拠)が、4.0N/mm以上であるものとして、形成されることとなる。また、そのような焼結体の大きさとしては、その取扱い性等を考慮して、一般に、0.5mm〜10cm程度の外形寸法のものとして、形成されることとなる。
【0032】
そして、本発明に従う金属イオン吸着除去方法において、それに利用される焼結体にあっては、酸化チタンが含有乃至は保持されているのであり、この炭化物の存在によって、陽イオン形態で存在するカドミウムや、鉛、クロム、水銀、アンチモン、バナジウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ビスマス、インジウム等の重金属元素が、効果的に吸着除去せしめ得るものとなっているのである。また、水系の底部から得られる浚渫底泥を主体として構成されているところから、微粒子のみからなる吸着材料とは異なり、浄化を目的とする水域の水中に直接投与せしめ得る。従って、このような焼結体からなる環境浄化剤は、有効な環境浄化作用、特に水質浄化作用を発揮し得るものであって、これにより、環境改善や環境保全に効果的に寄与し得るのである。
【0033】
そして、本発明に従う金属イオン吸着除去方法において、多孔質構造の酸化チタン含有(担持)焼結体は、水質浄化剤として、目的とする水域、例えば河川、湖沼、河口域、海域等に投入乃至は散布されて、その底部において、担持された酸化チタンの、水中に透過する光によって高められる光還元吸着作用にて、そのような水域に存在する金属イオンを効果的に吸着除去せしめ得るのである。このように、かかる酸化チタン含有(担持)焼成体は、所定の水系の、光が届く程度の比較的浅瀬に適用されることにより、有効な水質浄化作用を発揮し得るものであって、これにより、そのような水系における環境改善や環境保全に効果的に寄与し得ることとなったのである。なお、そのような比較的浅瀬の水域への適用のみならず、比較的深い水域の底部における環境改善も、光ファイバー等の採光システムと組み合わせ、それによって導かれた光を、本発明に従う酸化チタン含有焼結体からなる水質浄化剤に照射せしめることによって、可能となる。
【0034】
また、本発明に従う金属イオン吸着除去方法は、特に、有害重金属を含有する産業廃棄物の集積場等、高濃度の有害重金属元素の流出が懸念される場所の周辺にある河川等において利用できる。水の流れによって、環境浄化剤が下流に流されないように、本吸着除去法で利用される環境浄化剤を、水の透過が可能なネットや柵等に収容し、それを河川等に、固定的に設置し、光が届くようにすればよい。
【0035】
さらに、本発明に従う金属イオン吸着除去方法は、産業廃棄物が廃棄された土壌等、重金属元素による汚染が懸念される土壌に対しても、有利に適用することができるのである。例えば、環境浄化剤を土壌中に埋設せしめ、一部土壌から表面を露出させて、雨水等によって、金属元素が浸出しても、土壌に埋設された環境浄化剤によって、浸出した金属イオンを有利に吸着除去し得るのであり、その結果として、将来的に起こり得る河川水や地下水等の汚染を、未然に防止乃至は抑制することも可能となる。
【0036】
そして、本発明に従う金属イオン吸着除去方法において、それに利用される水質浄化剤を与える酸化チタン含有焼結体は、充分な強度を有しているところから、上述の如き水域への適用に際して、その形状が崩れることなく、適用水域において有効に存在せしめられ得ることとなる。そして、それによって、酸化チタンの光還元吸着作用に基づくところの水質浄化作用が、長期間に亘って、有利に発揮せしめられ得るのである。
【0037】
このように、本発明に従う金属イオン吸着除去方法によれば、上述せる如き環境浄化剤を、浄化対象である被浄化物に接触せしめるだけで、被浄化物中に含まれる重金属元素等の汚染物質を有利に吸着除去せしめることができるのであり、浄化に際して、加熱等が何等必要ではないところから、浄化作業を極めて経済的に行うことができるのである。
【0038】
しかも、本発明に従う金属イオン吸着除去方法において、それに利用される酸化チタン含有焼結体からなる水質浄化剤にあっては、その焼結体の主たる構成成分たる浚渫底泥が、水系の底部から取り出されたものであって、そのような水質浄化剤の用いられる水系の底部と同様な環境のものであり、加えて、酸化チタンや珪酸ナトリウムにあっても、自然界に比較的に豊富に存在する元素からなるものであるところから、自然に近い組成から構成される水質浄化剤となり、それが適用される水域における水質浄化剤自身による環境汚染の懸念は、殆ど無いのである。
【0039】
また、本発明に従う金属イオン吸着除去方法において、それに利用される水質浄化剤にあっては、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、過塩素酸等の酸性水溶液により、吸着した金属元素を分離し、吸着剤が再生せしめられ、再利用することが可能である。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を、更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0041】
試験例1
まず、金属イオン吸着除去方法において利用する焼結体を、以下のようにして製造した。即ち、浚渫底泥として、三重県の英虞湾の海底から浚渫により得られた、有機物を豊富に含む海洋底泥を用い、それを自然乾燥させて、含水率(ウェットベース)が約25%の底泥を準備した。そして、この含水率の調整された海洋底泥と、市販のアナターゼ型酸化チタン微粉末(粒径:約30nm)と、珪酸ナトリウムとを、下記表1に示される各種割合において配合し、更に適宜水を加えて、造粒に適した均一な組成物とした。その後、この組成物を常法に従って造粒し、更にその得られた造粒物を、4℃/分の昇温速度で、下記表1の目標温度まで空気中で加熱すると共に、その温度下において、2時間固化焼成して、直径が約1cmの大きさの酸化チタン含有焼結体(ほぼ球状粒体)を得た。
【0042】
【表1】

【0043】
次いで、このようにして得られた酸化チタン含有焼結体粒状物を、1Mの硝酸水溶液に24時間浸漬することにより、かかる焼結体の表面を処理して、多孔性を高め、酸化チタンの光還元吸着作用が向上せしめられた焼結体とした。
【0044】
かくして得られた水質浄化剤No.6とNo.8に係る外観図を図1に示す。また、水質浄化剤No.8に係る走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。そして、このような表面観察の結果より、焼結体の表面には、かなりの凹凸が見られ、多孔質構造となっており、本発明に従う金属イオン吸着除去方法に極めて有効であることが、認められた。
【0045】
かくして得られた水質浄化剤(No.8)を用い、その金属イオン吸着除去能力を評価するために、金属イオンの吸着除去効率をバッチ法にて測定した。即ち、任意の量の環境浄化剤を、金属イオン濃度がそれぞれ1mg/Lである、pH7に調整されたCd(II)とCu(II)とPb(II)の混合水溶液の150mL中に2時間浸漬させた。浸漬させている間、暗所で光を遮断し、水溶液をマグネティックスタラーで攪拌した。そして、水溶液に残存する金属イオンの濃度を、JIS K 0102に準じて、電気加熱原子吸光法及びICP発光分光分析法により測定し、得られた測定値から、金属イオンの吸着除去効率を求めた。その結果を図2に示す。
【0046】
かかる図2の結果から明らかなように、水質浄化剤である焼結体の添加量が増加するにつれて、金属元素の吸着除去効率が増加することが、認められた。
【0047】
試験例2
浸漬させている間、太陽光下で光を照射した以外は、上記試験例1と同様にして、光照射下における金属イオンの光還元吸着除去作用を評価し、その結果を、下記表2に示した。光照射強度は、1mW/cmであった。
【0048】
【表2】

【0049】
かかる表2の結果から明らかなように、光照射下における金属イオンの吸着除去効率は、暗所(光照射無し)における効率より、高くなった。これから、光照射下における金属イオンの光還元吸着除去作用が起こっており、試験例1で示した吸着除去作用に、光還元吸着除去作用が付加されていると考えられる。

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明により製造された水質浄化用焼結体(上:試料No.6と下:No.8)の外観図である。
【図2】製造された試料No.8に係る焼結体の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例において得られた、水質浄化剤(試料No.8)による水溶液中のカドミウムと鉛と銅の吸着除去作用の結果を示すグラフである。カドミウムと鉛と銅濃度は、全て1mg/Lであり、これら3種類の金属元素の混合溶液(150mL)。pH7に調整。暗条件下において実施。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系の底部から得られる浚渫底泥との光還元作用を有する酸化チタン粉末と珪酸ナトリウムとを、固形分重量比にて、43〜81%と6〜24%と6〜46%の割合で配合してなる組成物を焼成して得られた、多孔質構造の焼結体からなる水質浄化剤を利用することを特徴とする、金属イオン吸着除去方法。
【請求項2】
前記水質浄化剤が、光照射下で利用されることを特徴とする請求項1に記載の金属イオン吸着除去方法。
【請求項3】
前記酸化チタンがアナターゼ型の酸化チタンを含有する、水質浄化剤を利用することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属イオン吸着除去方法。
【請求項4】
前記焼結体を得るための前記混合物の焼成温度が500〜850℃である、水質浄化剤を利用することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の金属イオン吸着除去方法。
【請求項5】
前記焼結体が0.1〜50m/gの比表面積を有している、水質浄化剤を利用することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の金属イオン吸着除去方法。
【請求項6】
前記焼成して得られた焼結体が酸性水溶液中に浸漬処理された、水質浄化剤を利用することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の金属イオン吸着除去方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−12431(P2010−12431A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175724(P2008−175724)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(500137703)
【Fターム(参考)】