説明

環境浄化資材及びその製造方法

【課題】 本発明は、自然界に存在する無機質系の多孔質材料にバイオ浄化に用いる微生物を固定化することにより、養鶏場等における悪臭成分の分解や土壌改良剤として利用する環境浄化資材及びその製造方法を提供するものである。
【解決手段】 本発明の環境浄化資材は、平均粒径1〜20mmの凝灰岩粒に悪臭などの環境汚染の原因物質を分解し、環境保全に資する微生物を含浸させてなるものである。
また、本発明の環境浄化資材は、凝灰岩粒として、鉱物組成が石英20〜30%、曹長石30〜40%、緑泥石5〜10%、沸石5〜10%であり、化学組成がSiO70〜75%、Al10〜15%、NaO4〜5%、FeO3〜4%、KO2〜3%、CaO1〜2%、MgO1〜2%、TiO1未満の多孔質構造を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養鶏場等における悪臭成分の分解や土壌改良剤としての利用を促進する環境浄化資材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土壌微生物を繁殖させて植物の生育に適した土壌環境に改善させることができ、しかもpH調整剤を併用する必要がない土壌改良資材が知られている。
この土壌改良資材は、石英斑岩、花崗斑岩及び麦飯石、並びにこれらの変種鉱物(ゼオライト、カオリナイト、モンモリロナイト、ハロイサイト、ベントナイト等)から選ばれる1種又は2種以上の混合鉱物の粉体又は粒体の他に、土壌菌の餌となる有機物又は土壌を改良するのに必要な土壌微生物を、或いは有機物及び土壌微生物を混合させてなるものである(特許文献1を参照)。
また、バイオ浄化に用いる微生物を自然界に存在する無機質系の多孔質材料に固定化することが公知となっている(特許文献2を参照)。
前記公知技術は、パーライト、又はシラスバルーン及び流紋岩系の軽石材を粉状・粒状・塊状又は造粒成形して、バイオ浄化に有用な微生物の懸濁液に浸漬し、吸着又は付着させ、通風乾燥し、バイオ浄化資材として用いるものである。
【0003】
【特許文献1】特開平7−233370号公報
【特許文献2】特開2001−314882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、自然界に存在する無機質系の多孔質材料にバイオ浄化に用いる微生物を固定化することにより、養鶏場等における悪臭成分の分解や土壌改良剤として利用する環境浄化資材及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の環境浄化資材は、平均粒径1〜20mmの凝灰岩粒に悪臭などの環境汚染の原因物質を分解し、環境保全に資する微生物を含浸させてなるものである。
また、本発明の環境浄化資材は、凝灰岩粒として、鉱物組成が石英20〜30%、曹長石30〜40%、緑泥石5〜10%、沸石5〜10%であり、化学組成がSiO70〜75%、Al10〜15%、NaO4〜5%、FeO3〜4%、KO2〜3%、CaO1〜2%、MgO1〜2%、TiO1未満の多孔質構造を有するものである。
さらに、本発明の環境浄化資材は、環境汚染の原因物質を分解する微生物として、
Bacillus属、Nitrosomonas属、Nitrobactor属、Thiobacillus属、Pseudomonas属に属する微生物群から選ばれた一種類以上の微生物を用いるものである。
本発明の環境浄化資材の製造方法は、Bacillus属、Nitrosomonas属、Nitrobactor属、Thiobacillus属、Pseudomonas属に属する微生物群から選ばれた一種類以上の微生物を1.0E+7個/ml以上の濃度で含み、生分解性界面活性剤を0.1〜5%の割合で含む水溶液に平均粒径1〜20mmの凝灰岩粒を浸して、温度10〜40℃、常圧下で1〜10日間静置又は撹拌することで、前記凝灰岩1.0gあたりに前記微生物が1.0E+6個以上の個体数で含ませるものである。
さらに、本発明の環境浄化資材の製造方法は、前記微生物を前記凝灰岩粒に含浸させた後、常温常圧下で乾燥するか、もしくは温度−20℃以下、圧力107Pa以下で凍結乾燥して、含水率を30%以下として、前記凝灰岩1.0gあたりに前記微生物が1.0E+6個以上の個体数で含ませるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の環境浄化資材によれば、微生物を浸漬させる材料である凝灰岩が対象場所のpHを微生物の活動に適したpHに調整するため、凝灰岩と共に投入された微生物がその機能を十分に発揮することが可能となり、さらに微生物の活動により生じる酸性物質や酸性雨などによるpHの低下に対しても凝灰岩の存在によってpHの低下が緩衝され、微生物にとっては好適なpH環境を長期間維持することが可能となる。
本発明の環境浄化資材によれば、凝灰岩自体が微生物の活動を活性化させる効果、例えば凝灰岩からの浸出ミネラル分としてカルシウム、シリカ、カリウムなどのミネラル分の供給効果、及び凝灰岩の多孔質構造による酸素の供給効果などを有しており、微生物の活性化を期待できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
凝灰岩は、秋田県比内町産出の緑色凝灰岩で、青緑色の美しい色彩と滑りにくく保温性・保湿性を有することなどから、建築石材や浴室の床材として「十和田石」という名称で製品化されている。
前記「十和田石」は、表1の鉱物組成に示すように曹長石と石英を主構成鉱物とする珪酸塩鉱物であり、沸石(ゼオライト)も5%程度含まれている。
【0008】
【表1】

この緑色凝灰岩の化学組成を表2に示す。
【0009】
【表2】

表2に示す通り、SiOとAlが85%と大部分を占めるが、Fe,Ca,Mg,Na,Kなどの酸化物も1〜4%程度含まれている。
また、電子顕微鏡で観察したところ、一般的な凝灰岩と同様に、極めて微細な粒子同士が固結することで多孔質構造が形成されている。
緑色凝灰岩(十和田石)は、鉱物組成が石英20〜30%、曹長石30〜40%、緑泥石5〜10%、沸石5〜10%であり、化学組成がSiO70〜75%、Al10〜15%、NaO4〜5%、FeO3〜4%、KO2〜3%、CaO1〜2%、MgO1〜2%、TiO1未満の多孔質構造を有する。
図1は、本発明の環境浄化資材の製造工程図である
先ず、前記緑色凝灰岩を粉砕装置1によって細かく粉砕する。
前記粉砕装置1によって粉砕された緑色凝灰岩は、分級装置2によって平均粒径1mm以下、平均粒径1〜20mm、平均粒径20mm以上の3種類に分級する。
平均粒径1mm以下の凝灰岩粒は、後述する微生物培養装置7の培養液に利用する。
平均粒径1〜20mmの凝灰岩粒は、殺菌・洗浄装置3で温水を使用してカッター油汚れなどを落し、本発明の環境浄化資材として使用する。
平均粒径20mm以上の凝灰岩粒は、再度前記粉砕装置1に戻して平均粒径1〜20mmとなるように粉砕し、殺菌・洗浄装置3で洗浄し、本発明の環境浄化資材として使用する。
【0010】
前記洗浄された凝灰岩粒は、微生物培養装置4で培養された微生物培養液中に投入され、微生物・凝灰岩粒混合装置5で前記微生物培養液に界面活性剤を添加した微生物懸濁液と混合され、前記凝灰岩粒に微生物が含浸される。
微生物が含浸された凝灰岩粒は、乾燥室6にて常温常圧下で乾燥、もしくは温度−20℃以下、圧力107Pa以下で凍結乾燥される。
このようにして製造された製品は、図2の環境浄化資材の概念図に示すような構造となっており、自然乾燥の場合でも保湿性が高いため、粒外表面は乾燥していながら、内部は水分を保持しており、微生物の生息が可能である。
また、生分解性界面活性剤を含むため、自然環境に投入された際に、微生物が容易に石外に移動することができる。
その後、包装装置7により包装されて環境浄化資材として商品となる。
なお、前記微生物・凝灰岩粒混合装置5からの余剰培養液は、前記分級装置2で分級された平均粒径1mm以下の凝灰岩粒が投入されている微生物培養装置4の微生物培養液中へ戻される。
【実施例】
【0011】
本発明の環境浄化資材のニオイに対する緩和作用について比較実験を行った。
養鶏場の敷土(鶏糞を含む)20gに対して、#1十和田石20g添加、#2悪臭成分分解微生物群培養液20ml添加、#3十和田石20g+悪臭成分分解微生物群培養液20ml添加をそれぞれ添加して、敷土とよく混合し、密閉して30℃で静置し、適時ニオイレベルを測定する。
なお、「悪臭成分分解微生物群培養液」とは、市販の微生物防臭剤であり、悪臭成分を分解するBacillus属の微生物が3種類、4.0×10cells/mlの濃度で含まれている液体である。
図3に、鶏糞のみの場合を100とした時のニオイレベルの相対値を示す。
実験を開始してから、200時間経過時にそれぞれ#1十和田石20g、#2悪臭成分分解微生物群培養液20mlならびに#3十和田石20g+悪臭成分分解微生物群培養液20mlを添加すると、円で囲むようにニオイレベルの低下が生じ、特に#1と#3において、十和田石による悪臭成分の吸着効果による即効的なニオイレベルの低下が生じる。
さらに400時間経過時に敷土20gを追加すると、#3は楕円で囲むようにニオイレベルが低下した状態を保たれるが、それぞれ#1および#2は、ニオイレベルが上昇し高くなる。
これは、悪臭成分分解微生物群が十和田石と共存することにより長期にわたって活性を保ったため、#3においてのみ長期にわたって低いニオイレベルを維持したものである。
このことにより、十和田石(緑色凝灰岩)が微生物に活性化を与える相乗効果があることが確認された。
【0012】
実験例1:緑色凝灰岩のpH中和作用に関する実験
蒸留水100mlに塩酸及び水酸化ナトリウムを添加して、pHを2.0〜11.0まで1.0刻み毎に調整し、それぞれに凝灰岩粒(粒径2〜3mm)を1.0g、3.0g、6.0gならびに10.0g添加して、撹拌しながら適時pHを測定した。
図4に、凝灰岩粒添加量6.0gの場合のpHの時間変化を示す。
凝灰岩粒添加前のpHが5.0〜9.0の場合においては、凝灰岩粒添加後約30分で8.8程度に収束した。
また、凝灰岩粒添加前のpHが3.0及び4.0と低い場合においても、凝灰岩粒添加により微生物の増殖が可能である6.4及び8.0にまで上昇した。
凝灰岩粒添加量が多いと収束するpHも高くなる傾向が認められたが、収束するまでに要する時間は概ね凝灰岩粒添加量に関係なく一定であった。
実験終了後、ICPを用いて水溶液中の各種無機イオン量を測定した結果、カルシウムイオンが最も多く検出された。
このことから、凝灰岩粒添加により急激なpHの上昇が生じるのは、緑色凝灰岩に含まれる酸化カルシウムが速やかに水と反応して水酸化カルシウムを生じたためである。
以上のように、緑色凝灰岩には幅広いpHに対して即効的にpHを中和する作用がある。
【0013】
実験例2:緑色凝灰岩のpH緩衝作用に関する実験
pH無調整(pH6.0)の蒸留水100mlに凝灰岩粒(粒径2〜3mm)を1.0g、3.0g、6.0gならびに10.0g添加して、24時間撹拌した緑色凝灰岩懸濁液に、0.1Mの塩酸水溶液を滴下していきpHを測定した。
なお、塩酸水溶液滴下実験中も緑色凝灰岩懸濁液を撹拌した。
図5に、塩酸水溶液滴下量と各緑色凝灰岩懸濁液pHの変化を示す。
凝灰岩粒を含まない場合(ブランク)に比して、凝灰岩粒を含んだ場合はpHの低下に要する塩酸水溶液量が多く、緑色凝灰岩がpHの緩衝作用を有していることが示された。
特にブランクを除く全ての場合において、7.0〜7.5の間でpHが安定する傾向が認められた。
また、凝灰岩粒添加量が6.0gおよび10.0gの場合については、4.5〜4.8のpHで安定する傾向も認められた。
塩酸水溶液滴下中に適時緑色凝灰岩懸濁液を採取し、各種無機イオン量をICPで測定した結果、塩酸水溶液滴下量の増加に伴ってカルシウムイオンの著しい増加が認められ、pHの緩衝作用についても、緑色凝灰岩中に含まれる酸化カルシウムと水との反応による水酸化カルシウムの生成が主な機構であることが示された。
本実験のような苛酷な酸性化環境においても、緑色凝灰岩の存在により多くの微生物の増殖・代謝に適したpH環境を保つことができる。
また、前述の実験結果と併せて考察すると、緑色凝灰岩の適用により、速やかに微生物の増殖・代謝に適したpH環境を整えると共に、さらに長期間に渡って好適なpH環境を維持することが可能となる。
【0014】
実験例3:緑色凝灰岩の微生物増殖活性化効果に関する実験
ショ糖0.5%水溶液40mlに凝灰岩粒(粒径2〜3mm)を2.4g添加し、121℃で20分間蒸気滅菌した培地(十和田石培地)、滅菌後濾過して凝灰岩粒を除去した培地(十和田石抽出培地)、ならびに凝灰岩粒を含まない培地(ブランク)の3種類の培地に、三徳化学工業株式会社より市販されている堆肥化促進微生物群(製品名:Eco compost)を添加して、30℃好気条件下で振とう培養した。
適時培養液中の菌体濃度とpHを測定した。
図6に、各培地(十和田石培地:●菌体濃度、〇pH、十和田石抽出培地:▲菌体濃度、△pH、ブランク:■菌体濃度、□pH)における総菌体濃度とpHの時間変化を示す。
培養開始から約50時間までに十和田石培地および十和田石抽出培地において微生物の増殖が認められたが、更に培養すると、十和田石抽出培地における総菌体濃度が急激に低下した。
PHの時間変化をみると、十和田石培地は7.8程度でほぼ一定であるのに対して、十和田石抽出培地では培養50時間以降に急激なpHの低下が認められ、このpHの低下が菌体濃度の急激な低下をもたらしたものと考えられる。
なお、ブランクについては全く増殖やpH低下が認められなかった。
十和田石培地と十和田石抽出培地については、初期pHが7.8程度とブランクに比べて高いために培養初期の段階で良好な増殖が認められた。
しかし、増殖に伴って代謝される酸性物質の影響で、凝灰岩粒を除去した十和田石抽出培地ではpHの緩衝作用がなく、急激にpHが低下し総菌体濃度が低下したと推測される。
十和田石培地では、培地中の凝灰岩粒がpHの低下を緩衝して概ね初期pHと同程度にpHを維持し、高い総菌体濃度を維持したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の環境浄化資材の製造工程図である。
【図2】本発明の環境浄化資材の概念図である。
【図3】鶏糞のみの場合を100とした時のニオイレベルの相対値を示すグラフ図である。
【図4】緑色凝灰岩のpH中和作用に関するグラフ図である。
【図5】緑色凝灰岩のpH緩衝作用に関するグラフ図である。
【図6】緑色凝灰岩の微生物増殖活性化効果に関するグラフ図である。
【符号の説明】
【0016】
1 粉砕装置
2 分級装置
3 滅菌・洗浄装置
4 微生物培養装置
5 微生物・凝灰岩粒混合装置
6 乾燥室
7 包装装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径1〜20mmの凝灰岩粒に悪臭などの環境汚染の原因物質を分解し、環境保全に資する微生物を含浸させてなることを特徴とする環境浄化資材。
【請求項2】
前記凝灰岩粒として、鉱物組成が石英20〜30%、曹長石30〜40%、緑泥石5〜10%、沸石5〜10%であり、化学組成がSiO70〜75%、Al10〜15%、NaO4〜5%、FeO3〜4%、KO2〜3%、CaO1〜2%、MgO1〜2%、TiO1未満の多孔質構造を有することを特徴とする請求項1記載の環境浄化資材。
【請求項3】
前記環境汚染の原因物質を分解する微生物として、Bacillus属、Nitrosomonas属、Nitrobactor属、Thiobacillus属、Pseudomonas属に属する微生物群から選ばれた一種類以上の微生物を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の環境浄化資材。
【請求項4】
Bacillus属、Nitrosomonas属、Nitrobactor属、Thiobacillus属、Pseudomonas属に属する微生物群から選ばれた一種類以上の微生物を1.0E+7個/ml以上の濃度で含み、生分解性界面活性剤を0.1〜5%の割合で含む水溶液に平均粒径1〜20mmの凝灰岩粒を浸して、温度10〜40℃、常圧下で1〜10日間静置又は撹拌することで、前記凝灰岩1.0gあたりに前記微生物が1.0E+6個以上の個体数で含ませることを特徴とする環境浄化資材の製造方法。
【請求項5】
前記微生物を前記凝灰岩粒に含浸させた後、常温常圧下で乾燥するか、もしくは温度−20℃以下、圧力107Pa以下で凍結乾燥して、含水率を30%以下として、前記凝灰岩1.0gあたりに前記微生物が1.0E+6個以上の個体数で含ませることを特徴とする請求項4記載の環境浄化資材の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−143974(P2006−143974A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339754(P2004−339754)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月16日 資源・素材学会主催の「資源・素材2004(盛岡)」において文書をもって発表
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(300046821)三徳化学工業株式会社 (9)
【出願人】(504435690)中野産業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】