環境測定素子および環境評価方法
【課題】簡便であり、迅速かつ安価に環境評価を行うことができる環境測定素子および環境測定方法を提供する。
【解決手段】環境測定素子は、基板1、基板1表面に形成された導電体薄膜6、導電体薄膜6に電気接続し、該電気接続の位置が基板1表面上において同一線上にない3つの電圧印加用電極2,3,4を有する。そして、導電体薄膜6の基板1表面上における所定位置の電位を計測する複数の電位計測用電極5を備える。導電体薄膜6は、ガスの種類に応じて反応性が異なる3種類以上の金属を含み、基板1表面上において連続的にその組成が面方向に変化している。このような環境測定素子を環境ガス雰囲気に曝露しその抵抗の変化から、環境に含まれるガス成分の種類あるいはその濃度を判定する。
【解決手段】環境測定素子は、基板1、基板1表面に形成された導電体薄膜6、導電体薄膜6に電気接続し、該電気接続の位置が基板1表面上において同一線上にない3つの電圧印加用電極2,3,4を有する。そして、導電体薄膜6の基板1表面上における所定位置の電位を計測する複数の電位計測用電極5を備える。導電体薄膜6は、ガスの種類に応じて反応性が異なる3種類以上の金属を含み、基板1表面上において連続的にその組成が面方向に変化している。このような環境測定素子を環境ガス雰囲気に曝露しその抵抗の変化から、環境に含まれるガス成分の種類あるいはその濃度を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境測定素子および環境測定方法に係り、特に環境に含まれるガス成分を簡便に同定し定量することができる環境測定素子および環境測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気・電子機器は、設置される環境に含まれる腐食性ガスの影響により、その特性が変化または劣化する。従って、機器が設置される環境の雰囲気ガスを評価することは、機器の製造業者および機器を設置し使用する者のいずれにとっても重要な技術である。
【0003】
従来から、環境評価の方法として、対象とする環境の雰囲気ガスを採取し、これに含まれるガスを化学的に分析する方法と、環境中に特定の物質を曝露し、その変化を調べる方法とに大別されている。この中で、一般的には、単一あるいは複数の金属板を曝露して、その重量変化を調べる後者に属する方法が行われている。そして、近年では、水晶振動子上に成膜された物質の重量変化を振動数の変化から求める方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、上記重量変化以外の変化を調べる方法として、2種類以上の金属薄膜を一枚の絶縁基板上に形成し、その光透過率、光反射率あるいは電気抵抗の変化を調べる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
なお、後述するように、特許文献3により、多元系物質薄膜形成方法およびその装置が知られている。
【特許文献1】特開2001−99777号公報
【特許文献2】特許2003−294606号公報
【特許文献3】特開2004−68101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、環境評価において重要となる事項は、腐食性ガスの存在を短時間で検知し、その種類を特定することにより、改善対策に迅速に反映させることである。また、工業的には、安価に評価が行えることも重要である。
【0006】
しかしながら、従来の金属板の重量変化を検知する方法では、検出可能な重量変化が生ずるまでに長い時間を要するという問題があった。また、特許文献1に開示されている環境評価の方法では、短時間に高精度な測定が可能であるが、水晶振動子に蒸着する金属成分を予め環境評価に必要な数だけ選定せねばならなくなり、測定機器が複雑な構造になる。更に、水晶振動子も複数個必要となり、測定機器として高額になるという問題があった。
【0007】
そして、特許文献2に開示されている環境評価の方法においても、特許文献1の場合と同様に蒸着する金属成分を予め環境評価に必要な数だけ選定しなければならない。また、光透過率、光反射率および電気抵抗のいずれかから選択される単一の出力によって腐食性ガスの同定を行うことは難しい。このために、この場合にあっても、環境評価の測定機器が複雑な構造になり評価方法が煩雑化するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記従来の技術に鑑みてなされたもので、簡便であり、迅速かつ安価に環境評価を行うことができる環境測定素子および環境測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る環境測定素子は、基板と、前記基板表面に形成された導電体薄膜と、前記導電体薄膜に電気接続され、該電気接続の位置が前記基板表面上において同一線上にない3つの電圧印加用電極と、前記導電体薄膜の前記基板表面上における所定位置の電位を計測する複数の電位計測用電極と、を有し、前記導電体薄膜は、その導電体薄膜に接するガスの種類に応じて電気抵抗変化特性が異なる3種類以上の金属を含み、前記基板表面上において面方向に空間的に連続的にその組成が変化していることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る環境測定方法では、基板表面上に形成した導電体薄膜であって、ガスの種類に応じて反応性が異なる3種類以上の金属を含み、前記基板表面上において面方向に空間的に連続的にその組成が変化する前記導電体薄膜を環境ガス雰囲気中に曝露し、前記導電体薄膜の前記基板面上における抵抗の経時変化を測定し、前記雰囲気ガス中に含まれる腐食性ガスの種類あるいはその濃度を判定する。
【0011】
あるいは、本発明に係る環境測定方法は、前記環境測定素子の前記導電体薄膜の組成と位置との相関を計測する第一の工程と、前記環境測定素子を環境ガス雰囲気中に曝露し、導電体薄膜における抵抗と位置との相関の経時変化を計測する第二の工程と、計測した前記組成と前記抵抗変化と位置との相関から前記環境ガス雰囲気中に含まれるガスの種類あるいはその濃度を判定する第三の工程と、を含む構成になっている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便であり、迅速かつ安価に環境評価を行うことのできる環境測定素子および環境測定方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。図面において互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
先ず、本発明に係る環境測定素子の実施形態について図1を参照して説明する。図1は環境測定素子の一例を示す平面構成図である。環境測定素子は、基本構成として、基板1、該基板1の表面上において、同一線上にない第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3、第3の電圧印加用電極4、複数の電位計測用電極5(本実施形態では16個)を有している。そして、3種類以上の金属を含み、基板1の表面上で面方向に連続的に組成が変化する導電体薄膜6が、基板1表面の例えば第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3、第3の電圧印加用電極4を頂点とする3角形領域内に形成されている。
【0015】
上記基板1は、シリコン(Si)基板、セラミックス基板、ガラス基板等の絶縁基板が好適である。ここで、その材質は特に限定されないが、導電体薄膜6との密着性に優れるものが好ましい。
【0016】
第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3、第3の電圧印加用電極4は、例えば銅(Cu)、アルミニウム(Al)あるいはそれらの合金などの高導電率材料で成り、それらの端子は、例えば、基板1に設けられた貫通孔を介して基板裏面に取り出される構造になっている。ここで、これ等の電圧印加用電極は、基板1表面上において例えば厚さが1μm程度で一辺が1mm程度の正方形状になっており、その一部あるいは全部が導電体薄膜6に電気接続されている。なお、これ等の電圧印加用電極は、後述される環境中のガスによる腐食が生じない場合であれば、基板1表面上においてそれ等の端子が配設されるようになっていても構わない。ここで、上記電圧印加用電極は、正方形の他に、長方形、円形、楕円形、多角形等の種々の平面形状をしていてもよい。
【0017】
電位計測用電極5は例えばCu、Alあるいは合金で成り、その所要数が例えば第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3、第3の電圧印加用電極4を頂点とする3角形領域内に形成されている。そして、それらの端子は、全て例えば基板1に設けられた貫通孔を介して基板裏面に取り出されている。ここで、これ等の電位計測用電極5は、基板1表面上において、例えば厚さが0.01μm〜0.1μm程度で直径が0.1mm〜1mm程度の円形状、あるいは楕円形状、矩形状、多角形状等になっており、その全部が導電体薄膜6に電気接続している。
【0018】
導電体薄膜6は、その具体例は後述されるが、ガスの種類に応じて反応性(電気抵抗変化特性)が異なる3種類以上の金属を含んでいる。ここで、「ガス」とは特に限定されるものではないが、例えば環境中に存在する主要な腐食性ガスを対象とする。かかる腐食性ガスとしては、亜硫酸ガス、硫化水素ガス、塩素ガス、アンモニアガス、窒素酸化物ガス等を挙げることができる。なお、窒素酸化物ガスには、一酸化二窒素(N2O)、酸化窒素(NO)、三酸化二窒素(N2O3)、二酸化窒素(NO2)、四酸化二窒素(N2O4)、五酸化二窒素(N2O5)等が含まれる。
【0019】
この導電体薄膜6の基板1表面上に形成される厚さは、例えば0.01μm〜1μmの範囲が好ましい。また、導電体薄膜6の形成される領域の面積は特に限定されるものではないが、金属成分の組成が連続的に変化する領域の面積は、例えば1〜100cm2の範囲が好ましい。ここで、上記面積が1cm2未満であると、基板1における組成と位置との相関(組成分布)を把握するのが困難になるだけでなく、導電体薄膜6の抵抗変化と位置との相関の経時変化を測定し難くなる恐れがある。一方、この面積が100cm2を超えると、組成分布を高い精度で計測するのが難しくなる恐れがある。
【0020】
上記導電体薄膜6は、金属の真空蒸着法により基板1表面上に形成される。これについて図2を参照して説明する。図2は、基板1がフェースダウンに置かれている真空蒸着室内を下側から見上げたところの、蒸着の主要部を示す構成図である。
【0021】
例えば3種類の金属成分から成る導電体薄膜6を形成する場合、3基の例えばボート状の第1の蒸発源7、第2の蒸発源8および第3の蒸発源9でそれぞれ例えば金属A、金属Bおよび金属Cを溶融して気化させるようになっている。そして、これ等の蒸発源から上方に対向して配置される基板1表面に向かって、上記3種類の金属を蒸発させ、例えば3角形の開口を有するシャドウマスク10を通して基板1表面に蒸着させるようになっている。このような蒸着室において、導電体薄膜6の金属成分の組成を面方向に連続的に変化させるために、金属A、B、Cをそれぞれの蒸発源から同時に蒸着させる。
【0022】
ここで、これ等の蒸発源は長細い形状を有し、このような蒸発源と基板1の間には、図2に示すように、それぞれに第1の障壁板11、第2の障壁板12および第3の障壁板13が配置されている。そして、これ等の障壁板の位置、例えば上記蒸発源の長手方向における相対位置関係あるいは蒸発源との離間距離を調整することにより、基板1表面において、導電体薄膜6の所望の組成を面方向に連続的に変化させることができる。
【0023】
また、蒸着量すなわち膜厚の制御は、例えば水晶発信式の方法がとられ、各蒸発源に対してそれぞれ膜厚センサが配置されている。そして、導電体薄膜6が所要の膜厚になるとシャッタ14が閉じられ成膜を停止させるようになっている。なお、上記導電体薄膜6の成膜前には、例えば化学薬液による洗浄処理を施し、基板1表面の異物あるいはパーティクル等を除去することが好ましい。
【0024】
上記蒸発源としては、抵抗加熱方式、電子ビーム加熱方式のものが好適に使用される。抵抗加熱方式の抵抗体には、ボート状の他に例えばフィラメント状のものも用いることができる。また、上記膜厚の制御には、水晶発振式の他に電離式、抵抗式、光学式等の方法も用いることができる。
【0025】
上述したような環境測定素子において、導電体薄膜6は、第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3、第3の電圧印加用電極4を頂点とする3角形領域と共に、その領域外の基板1表面に形成されていてもよい。この場合、電位計測用電極5は、それに合わせて上記3角形領域外にも形成される。
【0026】
上記環境測定素子は、例えば、以下に説明するように使用されるものである。
【0027】
同一構成の、例えば電圧印加用電極(2,3,4)、電位計測用電極5および導電体薄膜6から成る環境測定素子を複数枚用意する。そして、これらを環境ガス雰囲気中と、既知の種類および濃度の腐食性ガス(対照標準ガスともいう)中とにそれぞれの導電体薄膜6を曝露させ、所定時間の経過後に、各環境測定素子の導電体薄膜6の電気抵抗(以下、単に「抵抗」という)の変化を計測し、比較する。すなわち、環境ガス雰囲気に曝露した素子の導電体薄膜6において抵抗変化が生じた位置あるいは抵抗変化の変化パターン(抵抗変化分布ともいう)と、同様な抵抗変化を示す素子が曝露されていた腐食性ガスの種類あるいは濃度の場合とを比較する。
【0028】
このような比較により、環境中に含まれているガスの種類あるいはその濃度を判定することができる。ここで、単一の素子を用いて判定することができる環境ガス雰囲気中のガスの種類は1種類のみに限定されるものではなく、複数種のガスが同時に判定されるようになる。
【0029】
なお、上記比較では、単一の素子を既知の複数種の腐食性ガス中に順次曝露して、この素子と環境ガス雰囲気中に曝露した素子とを比較することもできる。
【0030】
上記導電体薄膜6は、3種類の異なる金属を含み、この3種類の金属が、例えば亜硫酸ガスとの反応性が高い金属群、硫化水素ガスとの反応性が高い金属群、塩素ガスとの反応性が高い金属群、アンモニアガスとの反応性が高い金属群、及び、窒素酸化物ガスとの反応性が高い金属群よりなる群のうちの異なる金属群から選択されるものとする。
【0031】
以下、導電体薄膜6の金属成分が3種類である場合について説明するが、金属成分は4種類以上としてもよい。ここで、金属は純金属であってもよいし合金であってもよい。種々の腐食性ガスに対する反応性と製造コストとを両立させる観点から、3種類の金属成分を用いて導電体薄膜6を形成することが好ましい。
【0032】
各金属群から選択される金属は、2種類以上のガスに対して反応性を有するものであってもよい。また、選択される金属は、その金属単独の場合には対象のガスに曝された際に抵抗変化が起こらなくても、その金属と選択される他の金属との合金が特定のガスに対して抵抗変化を生じるものであればよい。
【0033】
上記亜硫酸ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属はニッケル(Ni)であることが好ましい。
【0034】
上記硫化水素ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属は、Cuまたは銀(Ag)であることが好ましい。
【0035】
上記塩素ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属は、錫(Sn)、亜鉛(Zn)およびCuのうちのいずれかであることが好ましい。
【0036】
上記アンモニアガスとの反応性が高い金属群より選択される金属は、AlまたはCuであることが好ましい。
【0037】
上記窒素酸化物ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属はCuであることが好ましい。
【0038】
かかる金属群から前述したように特定の金属成分を選択することにより、腐食性ガスの種類あるいは濃度の差異による導電体薄膜6の抵抗変化の差異をより明瞭にすることができる。
【0039】
本実施形態では、環境測定素子は、その構造がその製造方法も含めて極めて簡素であり、しかもその実用性が高く工業的に安価なものになる。
【0040】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る環境測定方法の実施形態について説明する。この環境測定方法は、例えば上記環境測定素子に形成した上記組成分布を有する導電体薄膜6を環境ガス雰囲気中に曝露し、この導電体薄膜6の基板1表面上の位置における抵抗変化あるいはその変化パターンを間欠的あるいは連続的に計測する。そして、上記雰囲気ガス中に含まれる腐食性ガスの種類あるいはその濃度を求める。
【0041】
ここで、導電体薄膜6の環境ガス雰囲気中の曝露前後の上記抵抗の変化量と、予めガス種類およびその濃度が既知の腐食性ガスに対する曝露前後の導電体薄膜の抵抗の変化量とを比較する。このようにすることにより、環境ガス雰囲気中に含まれる腐食性ガスの種類およびその濃度は簡便に判定される。
【0042】
上記導電体薄膜6の抵抗の計測は、図3に示すような電圧印加と電位計測により行われる。ここで、図3は、判りやすくするために、導電体薄膜6を抵抗の集中定数回路として示している。
【0043】
図3に示すように、例えば第1の電圧印加用電極2と、第2の電圧印加用電極3および第3の電圧印加用電極4との間に直流電圧15を印加する。そして、第2の電圧印加用電極3に流れる電流を第1の電流計16により計測し、第3の電圧印加用電極4に流れる電流を第2の電流計17により計測する。同時に、所要数に配置されている電位計測用電極5の電位を計測する。そして、これ等の電流値および電圧値に基づき、例えば有限要素法を用いた数値解析により、導電体薄膜6の全面における抵抗分布を算出する。
【0044】
ここで、第2の電圧印加用電極3と、第1の電圧印加用電極2および第3の電圧印加用電極4との間に直流電圧15を印加する構成にしてもよい。あるいは、第3の電圧印加用電極4と、第1の電圧印加用電極2および第2の電圧印加用電極3との間に直流電圧15を印加する構成にしてもよい。このように、電圧印加の方向には3つの場合があり、それぞれの場合において上記全電位計測用電極5の電位が測定される。この電位測定に基づき上記数値解析を通して抵抗が算出され、上記ガスへの曝露前後の算出した抵抗の差から抵抗変化が迅速かつ簡便に計測される。
【0045】
導電体薄膜6におけるその組成と位置との相関(組成分布)は、この薄膜上の任意の位置において薄膜を構成する各金属の成分量を表面分析機器等で測定することにより求めることができる。ここで、測定点が多くなるほど、より正確な組成分布が得られる。そこで、特定の位置の例えばX線マイクロアナライザ(XMA)による組成分析と、導電体薄膜6の広範囲なX線強度測定器を用いたX線強度の測定と、を組み合わせることにより正確な組成分布を簡便に行うことができる。
【0046】
まず、導電体薄膜6の少なくとも異なる3箇所以上(本実施形態では12箇所)についてその金属成分の成分量をXMAあるいはイオンマイクロアナライザ(IMA)のような表面分析機器を用いて測定する。
【0047】
次に、上記薄膜上の所定の領域内の薄膜を構成する各金属の成分のX線強度についてX線強度測定器を用いて測定する。この時、表面分析機器を用いて成分量を測定した少なくとも異なる3箇所は、X線強度測定器を用いたX線強度を測定する領域内に含まれるようにする。
【0048】
そして、表面分析機器を用いて測定された薄膜の金属成分の成分量と、この成分量を測定したのと同じ位置のX線強度測定器を用いて測定したX線強度の測定値とを対応させる。そして、上記金属成分ごとのX線強度に対する成分量の検量線を求める。
【0049】
上記金属成分ごとの検量線と、薄膜上の領域内のX線強度測定器を用いたX線強度の測定値とから金属成分の成分量を求めて、薄膜上の領域内の上記組成分布を測定する。この時、X線強度の測定値に誤差が含まれる場合には、成分量の分布の各位置において金属成分の成分量の合計値が100原子%となるように規格化し薄膜の金属成分の成分量を求めてもよい。
【0050】
このように、薄膜の金属成分の成分量の測定点が多ければ多いほど正確な組成分布を得ることができる。そこで、X線強度測定器を用いたX線強度の測定では、例えば、導電体薄膜6の全面にわたって2次元的に所定間隔でX線強度を測定し、X線強度マッピング分析法を用いるとよい。
【0051】
そして、上記組成と位置との相関に基いて得られる金属成分の等成分量線を、導電体薄膜6の金属成分ごとに等間隔で表した三元組成図を作成する。そして、導電体薄膜6上の座標を三元組成図上の座標に換算し、ガスとの反応後の抵抗変化をこの三元組成図上の換算座標にプロットし表示する。そして、三元組成図上の抵抗変化と位置との相関を予め種類が既知の腐食性ガスについて得られた三元組成図上の抵抗変化と位置との相関と目視で比較する。このようにして、ガスの種類あるいはその濃度を判定することが好ましい。
【0052】
ここで、「三元組成図」とは、正三角形内の任意の位置から各辺までの距離が三元合金を構成する各金属成分の成分量を表すところの三元組成傾斜図である。この三元組成図の組成と同じ組成を有する位置の薄膜の抵抗変化を三元組成図上に対応させ、抵抗変化と組成の位置との相関を表示させることにより、抵抗変化分布を簡便かつ明瞭に把握することができる。
【0053】
そして、環境測定素子を環境ガス雰囲気中に曝露することにより得られた抵抗変化と組成の位置との相関からガスの種類あるいはその濃度を簡便に判定することができる。すなわち、予め、環境測定素子を、種類および濃度が既知のガス(対照標準ガス)中に所定時間曝露し、抵抗の経時変化を計測する。これにより得られた薄膜上の抵抗変化と組成の位置との相関を三元組成図上に表示し、これを抵抗変化見本とする。この抵抗変化見本と、別の環境測定素子を同じ時間だけ環境ガス雰囲気中に曝露したときの薄膜上の抵抗変化と位置との相関を三元組成図上に表示した抵抗変化分布とを対比する。
【0054】
そして、抵抗変化見本における抵抗変化分布と三元組成図上の抵抗変化分布とで同等の傾向が得られた場合、その抵抗変化見本に対応するガスが環境ガス雰囲気中にも含まれていることが分かる。このようにして判定することができるガスの種類は、1種類のみに限定されるものではなく、単一の素子を用いて複数の抵抗変化が生じた場合には、同時に環境中に含まれる2種以上のガスを判定することができる。
【0055】
上記曝露時間は1時間程度で充分であり、上記抵抗の計測時間も含めて迅速な環境評価が可能となる。しかし、金属薄膜の反応速度(腐食速度)は、環境ガス雰囲気中に含まれる腐食性ガスの種類やその濃度に強く依存していることから、適正な曝露時間は種々変動する。
【0056】
導電体薄膜6の抵抗の経時変化は、曝露時間中、間欠的または連続的に計測することができる。間欠計測によれば、上述した抵抗変化が生じている期間内にガスの種類を判定して評価時間を短縮させる。また、抵抗変化の速度からガス濃度を推定することができる。一方、連続計測によれば更にガスの種類及び濃度の測定精度が向上する。
【0057】
ガスの種類と濃度の判定は、以下のようにしても行うことができる。すなわち、予め、種々の対照標準ガスについて、濃度を種々に変更して抵抗変化見本を作製する。この抵抗変化見本を基準として、素子を同じ時間だけ環境ガス雰囲気中に曝露したときの薄膜上の抵抗変化と位置との相関を三元組成上に表示した抵抗変化分布を対比する。これにより、上述したようにガスの種類を判定することができる。更に、作製した抵抗変化見本からガスの種類毎にガス濃度と抵抗変化の速度との相関を求め、これと上述した抵抗変化分布における抵抗変化の速度とを対比することにより、ガス濃度も同時に判定することができる。
【0058】
上記実施形態の環境測定方法は、環境ガス雰囲気中のガスの種類あるいは濃度を高精度に測定することができる。しかも、この方法は、その測定時間が短く迅速なガスの検出を可能にし、特に電気・電子機器類に大きな影響を与える腐食性ガスを検知し、その改善対策に反映させる上で極めて好適になる。また、この環境測定方法は、抵抗変化の測定であることから簡便であり測定の信頼性も高く安定的になることから、測定の自動化が容易であり実用性の高いものとなる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものでない。
【0060】
(実施例1)
<環境測定素子の作製>
導電体薄膜6の蒸着装置には、図2においてその概要を示したものを用いた。具体的には、特許文献3に記載の装置と同種の蒸着装置を用いた。ここでは、真空蒸着室の中心線に対して対称に120°間隔に3基の蒸発源が配置され、これ等の蒸発源からそれぞれ異なる蒸着物質を基板1に蒸着させることができる。これらの蒸発源は、抵抗加熱方式で、真空蒸着室の中心線の垂直方向に一定の長さを有するボートから蒸着物質を蒸発させることができる。それぞれの蒸発源と基板1の間には障壁板を設け、蒸着物質の基板上での堆積量に勾配を生じさせることができるようにした。このとき、障壁板は、長手方向端部が、蒸発源のボートと垂直になるように設置した。基板としてはシリコン基板を用意し、各蒸発源の蒸着物質は、それぞれNi、Sn、Agとした。
【0061】
水晶振動子式の膜厚センサにより計測される膜厚が所定の値となるように蒸発電源の電力を調整することにより各蒸発源からの蒸発量を調節した後、基板直下に設けられたシャッタを開放して成膜を開始した。このとき、3基の蒸発源からの蒸着物質の付着領域が、基板1中心付近において互いに重なり合うように、上述した基板1、障壁板及び蒸発源の配置を調整した。膜厚センサによる膜厚が一定量に到達した時点で上記シャッタを閉めて蒸着を完了することにより、組成(前述した3種類の金属の各成分量)が連続的に変化した薄膜が基板上に形成された環境測定素子を得た。
【0062】
<環境測定素子の組成分析>
作製した環境測定素子の導電体薄膜6の組成分布を、以下の方法により求めた。
【0063】
先ず、図4に示すように、蒸着した3種類の金属成分(Ni、Sn、Ag)について、導電体薄膜6の異なる略等間隔の12箇所の成分量をXMA(日本電子(株)製X線マイクロアナライザ)により測定した。そして、上記導電体薄膜6を含む基板1上の66mm×58mmの領域内において、上記XMAを用いて0.2mm×0.1mmの領域ごとに1点ずつ、計191,400点に対してX線強度マッピング分析を行った。ここで、X線強度マッピング分析の対象とした成分は、上記金属成分および基板1の成分であるSi成分である。
【0064】
そして、前述の12箇所におけるX線強度と成分量との関係から、各成分ごとにX線強度に対する成分量の検量線を作成した。これにより得られた結果の任意の点における上記4成分の合計量が100wt%になることを確認した後、この合計量からSi成分量を減算し、残りの合計量によりNi、Sn、Agの3成分の量を規格化した。このようにして、Ni、Sn、Agの3成分の各成分量を決定した。この方法によって得られた薄膜上の191,400点の組成分析データに基づき、導電体薄膜6領域内の組成分布として図4の点線に示す等成分量線を得た。この結果を図4に示す。図4における等成分量線は、20wt%ごとに表示したものである。
【0065】
ここで、環境測定素子の第1の電圧印加用電極2はNi金属に接続し、第2の電圧印加用電極3はSn金属に接続し、第3の電圧印加用電極4はAg金属に接続するようになる。
【0066】
<三元組成図の作成>
図5に、図4に示した等成分量線を、上記金属成分(Ni、Sn、Ag)ごとに図中の点線で示す等間隔に組成傾斜する三元組成図を作成した例を示す。また導電体薄膜6上の複数の電位計測用電極5の位置をこの三元組成図上の座標に換算して、電位計測用電極5aとして配置した。この三元組成図では、図4に示した等成分量線は図5の点線に示すように直線状に変換され、組成傾斜は一定となり直線的な組成変化になる。図5では、点線の等成分量線が示す組成の空間的変化は全て20wt%刻みに示されている。ここで、三角形の各頂点においてそれぞれの金属成分の組成が100wt%となり、それぞれの頂点に対向している各辺において、それぞれの金属成分の組成が0wt%になる。
【0067】
<環境測定の評価>
作製した実施例1の環境測定素子をそれぞれ5枚ずつ用意した。これらの環境測定素子を、腐食性ガスである亜硫酸ガス、硫化水素ガス、塩素ガス、アンモニアガス及び窒素酸化物ガスの各ガス中に一枚ずつ1時間曝露した。そして、図3で説明した方法により導電体薄膜6内の抵抗変化を計測した。以上の評価条件は導電体薄膜6の金属成分等と共に、図6に示す表にまとめた。ここで、電圧印加と組成傾斜の関係の欄のところで「平行」とは、図4のように各金属成分に第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3および第3の電圧印加用電極4が接続し、等成分量線と略直交する方向に電圧が印加されることを意味する。また、電圧印加の方向数とは、図3で説明したような電圧印加の方向の数のことである。
【0068】
上記それぞれのガス雰囲気中に曝露して得られた結果について実施例1の環境測定素子の抵抗変化として、図7ないし図11に示す。図7に示すように、実施例1の環境測定素子は、亜硫酸ガスの場合、三元組成図のNi成分が高い領域の参照符号20で示した部分において抵抗が大幅に変化する特有の変化パターンを有する。ここで、実線曲線aは抵抗が50%以上増加する領域であり、破線曲線bおよび点線曲線cはそれぞれ100%、150%以上になる領域を示す。この抵抗変化を示す実線曲線、破線曲線および点線曲線は以下においても同じである。そして、硫化水素ガスの場合には、三元組成図のAg成分が高い参照符号21で示した部分において抵抗が大幅に変化する。
【0069】
また、図9に示すように、塩素ガスの場合には、三元組成図のNi成分が低くSn成分あるいはAg成分が高い参照符号22で示した部分において抵抗が大幅に変化する。そして、図10に示すように、アンモニアガスの場合には、塩素ガスの場合と同様に三元組成図のNi成分が低くSn成分あるいはAg成分が高い参照符号23で示した部分において抵抗が大幅に変化する。しかし、この場合には、その変化パターンは異なり、三元組成図においてSn成分とAg成分の二等分線に対してほぼ線対称になっている。そして、図11に示すように、窒素酸化物ガスの場合には、三元組成図のSn成分が低くNi成分あるいはAg成分が高い参照符号24で示した部分において抵抗が大幅に変化する。このように、上記腐食性ガスの種類はその抵抗変化から極めて簡便に同定される。
【0070】
また、腐食性ガスの定量では、図7ないし図11に示した抵抗変化を示す例えば上記曲線a、bあるいはcは、腐食性ガスの濃度により三元組成図においてその領域が異なってくることを利用する。例えば濃度が高くなると共に上記領域は広がる。そこで、曝露時間が一定時間後(例えば1時間後)において、抵抗変化が所定値(例えば50%増加)になる領域を計測することにより、それぞれの腐蝕性ガスの濃度が求められる。そして、このようにして求めた上記腐食性ガスの濃度値と、別の化学的測定法(例えばガスクロマトグラフィ)により予め測定した濃度値との最大差が20%以下になると合格とした。この程度の差であれば環境測定において工業的に充分である。
【0071】
上記実施例1では、環境ガス雰囲気の測定において、上記腐食性ガスの種類およびその濃度の判定は、図12の表にまとめたように工業的に充分に満足できるものとなった。そして、環境ガス雰囲気に上記5種類の腐食性ガスを含む場合において、ガスの同定と定量は簡便に行うことができることが判った。
【0072】
(実施例2)
図2で説明した金属成分の蒸着において、実施例1の場合と異なりシャドウマスク10のみを反時計方向に60°回転(60°のズレ)をさせて導電体薄膜6を形成した。これ以外は、実施例1と全く同様にして環境測定素子を作製した。このようにして、環境測定素子の導電体薄膜6領域内において、その組成分布として図13の点線に示すような等成分量線が得られる。ここで、点線で示した等成分量線は図4に示したものと略同じである。図13に示すように、この場合には、環境測定素子の第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3および第3の電圧印加用電極4は、実施例1の場合の金属の組成分布において60°反時計回転した位置に接続されることになる。
【0073】
そして、実施例1で説明したのと同様にして図14に示すように金属成分(Ni、Sn、Ag)ごとに等間隔で組成傾斜する三元組成図を作成した。ここで、実施例2の場合の導電体薄膜6上の図13に示す複数の電位計測用電極5の位置をこの三元組成図上の座標に換算して、電位計測用電極5aとして配置すると、この組成傾斜図において複数の電位計測用電極5aの位置が重なり、そしてその位置が限定された領域に集まる。上述したような環境測定素子は、その評価条件と共に図6にまとめられている。ここで、導電体薄膜6における抵抗変化の計測は実施例1で説明したのと同じである。
【0074】
実施例2の評価結果は図12の表にまとめて示した。この場合、亜硫酸ガスおよび硫化水素ガスのガス種類の同定は信頼性に欠けるが、その他の図6に示した腐食性ガスの種類は充分に判別できた。しかし、これ等の腐食性ガスの濃度の判定は困難であった。
【0075】
実施例2では、環境ガス雰囲気の測定において、限定された腐食性ガスの種類は同定できることが判った。実施例2は、電圧印加用電極の位置と金属の組成分布が最も大きなズレを有する場合である。上記回転の角度が小さく上記ズレが小さくなるに従い、ガスの同定あるいは定量の能力は実施例1の場合に近づく。
【0076】
(実施例3)
この場合は、腐食性ガスが図6に示すように、亜硫酸ガス、硫化水素ガスおよびアンモニアガスとして予め判っている場合に好適である。実施例3では、金属成分としてNi、Al、Agを用いる場合は実施例1で説明したのと同じようにして環境測定素子を作製した。そして、金属成分Ni、Al、Agから成る三元組成図を作成し、実施例1で説明したように導電体薄膜6の抵抗変化を三元組成図にプロットした。
【0077】
図15に示すように、実施例3の環境測定素子は、亜硫酸ガスの場合、三元組成図のNi成分が高い領域の参照符号25で示した部分において抵抗が大幅に変化する。また、図16に示すように、硫化水素ガスの場合、三元組成図のAg成分が高い領域の参照符号26で示した部分において抵抗が大幅に変化する。そして、図17に示すように、アンモニアガスの場合、三元組成図のAl成分が高い領域の参照符号27で示した部分において抵抗が大幅に変化する。
【0078】
図12の表にまとめたように、上記実施例3においては、環境ガス雰囲気の測定において、上記亜硫酸ガス、硫化水素ガスおよびアンモニアガスの種類およびその濃度の判定は全て合格となり工業的に充分に満足できるものであった。
【0079】
(実施例4)
この場合は、腐食性ガスが図6に示すように、亜硫酸ガス、硫化水素ガスおよび窒素酸化物ガスとして予め判っている場合に好適である。実施例4では、金属成分としてNi、Cu、Agを用いる場合は実施例1で説明したのと同じようにして環境測定素子を作製した。そして、金属成分Ni、Cu、Agから成る三元組成図を作成し、実施例1で説明したように導電体薄膜6の抵抗変化を三元組成図にプロットした。
【0080】
図18に示すように、実施例4の環境測定素子は、亜硫酸ガスの場合、三元組成図のAg成分が低くNi成分あるいはCu成分が高い参照符号28で示した部分において抵抗が大幅に変化する。また、図19に示すように、硫化水素ガスの場合、三元組成図のNi成分が低くCu成分あるいはAg成分が高い参照符号29で示した部分において抵抗が大幅に変化する。そして、図20に示すように、窒素酸化物ガスの場合、三元組成図のCu成分が高い領域の参照符号30で示した部分において抵抗が大幅に変化する。
【0081】
そして、図12の表にまとめたように、この実施例4においては、環境ガス雰囲気の測定において、亜硫酸ガス、硫化水素ガスおよび窒素酸化物ガスの種類およびその濃度の判定は全て合格となり工業的に充分に満足できるものであった。
【0082】
(実施例5)
この場合は、腐食性ガスが図6に示すように、塩素ガスの1種類として予め判っている場合に導電体薄膜6における抵抗変化の測定精度について調べたものである。実施例5では、環境測定素子の導電体薄膜6として、実施例1の場合と同様に金属成分Ni、Sn、Agを形成した。そして、導電体薄膜6の抵抗変化の計測のための電圧印加において、第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3および第3の電圧印加用電極4の組み合わせは1種類とした。この抵抗変化の計測において、その変化量が最大となる電位計測用電極5周辺の抵抗変化の評価を5回繰り返して行った。その結果、図12の表に示すように、抵抗変化の測定精度、すなわち標準偏差の抵抗変化量の平均値に対する比(標準偏差/抵抗変化量の平均値)は0.1以下であった。
【0083】
上記結果は、本実施形態における環境測定素子では、環境ガス雰囲気の測定において再現性が高く、腐食性ガスの種類およびその濃度の判定が信頼性の高いものになることを示している。
【0084】
(実施例6)
この場合も、図6の表に示すように実施例5と同様に塩素ガスの1種類が予め判っている場合に導電体薄膜6における抵抗変化の測定精度について調べたものである。実施例6では、導電体薄膜6の抵抗変化の計測のための電圧印加において、第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3および第3の電圧印加用電極4の組み合わせは、実施例1ないし4と同じように3種類とした。そして、この抵抗変化の計測において、その変化量が最大となる電位計測用電極5周辺の抵抗変化の評価を5回繰り返した。その結果、図12の表に示すように、抵抗変化の測定精度は0.02以下と大幅に向上した。
【0085】
上記結果は、本実施形態における環境測定素子では、環境ガス雰囲気の測定において極めてその再現性が高く、腐食性ガスの種類およびその濃度の判定が非常に高い信頼性を有することを示す。
【0086】
上記実施例1,2において、塩素ガスとの反応性が高い金属として、SnおよびAgを選択した例を示したが、SnあるいはAgに換えてZnを選択しても同様な効果を得ることができる。
【0087】
本発明は、上記実施形態に限定されるものでなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲でいろいろの変形を採ることができる。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0088】
例えば、本実施形態の環境測定素子あるいは環境測定方法は、電気・電子機器に影響を与える腐食性ガス以外のガスが環境に含まれる場合であっても同様に適用できる。
【0089】
また、環境測定素子における3つの電圧印加用電極は、金属成分の組成が連続的に変化する導電体薄膜において、任意の組成の位置で導電体薄膜に電気接続してもよい。そして、この電圧印加用電極は、上記実施形態で示した正三角形の頂点に配置される必要はなく、上記電気接続の位置が同一線上にならないように形成されればどのような配置になってもよい。
【0090】
更に、3つ以上の電圧印加用電極が、導電体薄膜に電気接続し、上記導電体薄膜の抵抗変化を計測するときの電圧を印加する電極になっていても構わない。
【0091】
更には、環境測定方法において、ガスの種類に応じて反応性が異なる3種類以上の金属を含む上記導電体薄膜の抵抗は、薄膜の電流−電圧特性に基づく以外の方法であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る環境測定素子の一例を示す平面構成図。
【図2】第1の実施形態における導電体薄膜の金属成分を蒸着する真空蒸着室の内部を示す概略構成図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る導電体薄膜における抵抗変化の計測方法を示す等価回路図。
【図4】実施例1の環境測定素子の基板上の導電体薄膜の組成分布を示す図。
【図5】実施例1における導電体薄膜の金属成分の三元組成図。
【図6】本発明の実施例1ないし6に係る環境測定素子および測定方法をまとめた表。
【図7】実施例1の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における亜硫酸ガス中の抵抗変化を示す模式図。
【図8】実施例1の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における硫化水素ガス中の抵抗変化を示す模式図。
【図9】実施例1の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における塩素ガス中の抵抗変化を示す別の模式図。
【図10】実施例1の導電体薄膜の金属成分の三元組成図におけるアンモニアガス中の抵抗変化を示す更に別の模式図。
【図11】実施例1の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における窒素酸化物ガス中の抵抗変化を示す更に別の模式図。
【図12】本発明の実施例1ないし6における評価結果をまとめた表。
【図13】実施例2の環境測定素子の基板上の導電体薄膜の組成分布を示す図。
【図14】実施例2における導電体薄膜の金属成分の三元組成図。
【図15】実施例3の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における亜硫酸ガス中の抵抗変化を示す模式図。
【図16】実施例3の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における硫化水素ガス中の抵抗変化を示す模式図。
【図17】実施例3の導電体薄膜の金属成分の三元組成図におけるアンモニアガス中の抵抗変化を示す模式図。
【図18】実施例4の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における亜硫酸ガス中の抵抗変化を示す模式図。
【図19】実施例4の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における硫化水素ガス中の抵抗変化を示す別の模式図。
【図20】実施例4の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における窒素酸化物ガス中の抵抗変化を示す更に別の模式図。
【符号の説明】
【0093】
1…基板,2…第1の電圧印加用電極,3…第2の電圧印加用電極,4…第3の電圧印加用電極,5…電位計測用電極,6…導電体薄膜,7…第1の蒸発源,8…第2の蒸発源,9…第3の蒸発源,10…シャドウマスク,11…第1の障壁板,12…第2の障壁板,13…第3の障壁板,14…シャッタ,15…直流電圧,16…第1の電流計,17…第2の電流計,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30…抵抗変化の位置を示す領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境測定素子および環境測定方法に係り、特に環境に含まれるガス成分を簡便に同定し定量することができる環境測定素子および環境測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気・電子機器は、設置される環境に含まれる腐食性ガスの影響により、その特性が変化または劣化する。従って、機器が設置される環境の雰囲気ガスを評価することは、機器の製造業者および機器を設置し使用する者のいずれにとっても重要な技術である。
【0003】
従来から、環境評価の方法として、対象とする環境の雰囲気ガスを採取し、これに含まれるガスを化学的に分析する方法と、環境中に特定の物質を曝露し、その変化を調べる方法とに大別されている。この中で、一般的には、単一あるいは複数の金属板を曝露して、その重量変化を調べる後者に属する方法が行われている。そして、近年では、水晶振動子上に成膜された物質の重量変化を振動数の変化から求める方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、上記重量変化以外の変化を調べる方法として、2種類以上の金属薄膜を一枚の絶縁基板上に形成し、その光透過率、光反射率あるいは電気抵抗の変化を調べる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
なお、後述するように、特許文献3により、多元系物質薄膜形成方法およびその装置が知られている。
【特許文献1】特開2001−99777号公報
【特許文献2】特許2003−294606号公報
【特許文献3】特開2004−68101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、環境評価において重要となる事項は、腐食性ガスの存在を短時間で検知し、その種類を特定することにより、改善対策に迅速に反映させることである。また、工業的には、安価に評価が行えることも重要である。
【0006】
しかしながら、従来の金属板の重量変化を検知する方法では、検出可能な重量変化が生ずるまでに長い時間を要するという問題があった。また、特許文献1に開示されている環境評価の方法では、短時間に高精度な測定が可能であるが、水晶振動子に蒸着する金属成分を予め環境評価に必要な数だけ選定せねばならなくなり、測定機器が複雑な構造になる。更に、水晶振動子も複数個必要となり、測定機器として高額になるという問題があった。
【0007】
そして、特許文献2に開示されている環境評価の方法においても、特許文献1の場合と同様に蒸着する金属成分を予め環境評価に必要な数だけ選定しなければならない。また、光透過率、光反射率および電気抵抗のいずれかから選択される単一の出力によって腐食性ガスの同定を行うことは難しい。このために、この場合にあっても、環境評価の測定機器が複雑な構造になり評価方法が煩雑化するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記従来の技術に鑑みてなされたもので、簡便であり、迅速かつ安価に環境評価を行うことができる環境測定素子および環境測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る環境測定素子は、基板と、前記基板表面に形成された導電体薄膜と、前記導電体薄膜に電気接続され、該電気接続の位置が前記基板表面上において同一線上にない3つの電圧印加用電極と、前記導電体薄膜の前記基板表面上における所定位置の電位を計測する複数の電位計測用電極と、を有し、前記導電体薄膜は、その導電体薄膜に接するガスの種類に応じて電気抵抗変化特性が異なる3種類以上の金属を含み、前記基板表面上において面方向に空間的に連続的にその組成が変化していることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る環境測定方法では、基板表面上に形成した導電体薄膜であって、ガスの種類に応じて反応性が異なる3種類以上の金属を含み、前記基板表面上において面方向に空間的に連続的にその組成が変化する前記導電体薄膜を環境ガス雰囲気中に曝露し、前記導電体薄膜の前記基板面上における抵抗の経時変化を測定し、前記雰囲気ガス中に含まれる腐食性ガスの種類あるいはその濃度を判定する。
【0011】
あるいは、本発明に係る環境測定方法は、前記環境測定素子の前記導電体薄膜の組成と位置との相関を計測する第一の工程と、前記環境測定素子を環境ガス雰囲気中に曝露し、導電体薄膜における抵抗と位置との相関の経時変化を計測する第二の工程と、計測した前記組成と前記抵抗変化と位置との相関から前記環境ガス雰囲気中に含まれるガスの種類あるいはその濃度を判定する第三の工程と、を含む構成になっている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便であり、迅速かつ安価に環境評価を行うことのできる環境測定素子および環境測定方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。図面において互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
先ず、本発明に係る環境測定素子の実施形態について図1を参照して説明する。図1は環境測定素子の一例を示す平面構成図である。環境測定素子は、基本構成として、基板1、該基板1の表面上において、同一線上にない第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3、第3の電圧印加用電極4、複数の電位計測用電極5(本実施形態では16個)を有している。そして、3種類以上の金属を含み、基板1の表面上で面方向に連続的に組成が変化する導電体薄膜6が、基板1表面の例えば第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3、第3の電圧印加用電極4を頂点とする3角形領域内に形成されている。
【0015】
上記基板1は、シリコン(Si)基板、セラミックス基板、ガラス基板等の絶縁基板が好適である。ここで、その材質は特に限定されないが、導電体薄膜6との密着性に優れるものが好ましい。
【0016】
第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3、第3の電圧印加用電極4は、例えば銅(Cu)、アルミニウム(Al)あるいはそれらの合金などの高導電率材料で成り、それらの端子は、例えば、基板1に設けられた貫通孔を介して基板裏面に取り出される構造になっている。ここで、これ等の電圧印加用電極は、基板1表面上において例えば厚さが1μm程度で一辺が1mm程度の正方形状になっており、その一部あるいは全部が導電体薄膜6に電気接続されている。なお、これ等の電圧印加用電極は、後述される環境中のガスによる腐食が生じない場合であれば、基板1表面上においてそれ等の端子が配設されるようになっていても構わない。ここで、上記電圧印加用電極は、正方形の他に、長方形、円形、楕円形、多角形等の種々の平面形状をしていてもよい。
【0017】
電位計測用電極5は例えばCu、Alあるいは合金で成り、その所要数が例えば第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3、第3の電圧印加用電極4を頂点とする3角形領域内に形成されている。そして、それらの端子は、全て例えば基板1に設けられた貫通孔を介して基板裏面に取り出されている。ここで、これ等の電位計測用電極5は、基板1表面上において、例えば厚さが0.01μm〜0.1μm程度で直径が0.1mm〜1mm程度の円形状、あるいは楕円形状、矩形状、多角形状等になっており、その全部が導電体薄膜6に電気接続している。
【0018】
導電体薄膜6は、その具体例は後述されるが、ガスの種類に応じて反応性(電気抵抗変化特性)が異なる3種類以上の金属を含んでいる。ここで、「ガス」とは特に限定されるものではないが、例えば環境中に存在する主要な腐食性ガスを対象とする。かかる腐食性ガスとしては、亜硫酸ガス、硫化水素ガス、塩素ガス、アンモニアガス、窒素酸化物ガス等を挙げることができる。なお、窒素酸化物ガスには、一酸化二窒素(N2O)、酸化窒素(NO)、三酸化二窒素(N2O3)、二酸化窒素(NO2)、四酸化二窒素(N2O4)、五酸化二窒素(N2O5)等が含まれる。
【0019】
この導電体薄膜6の基板1表面上に形成される厚さは、例えば0.01μm〜1μmの範囲が好ましい。また、導電体薄膜6の形成される領域の面積は特に限定されるものではないが、金属成分の組成が連続的に変化する領域の面積は、例えば1〜100cm2の範囲が好ましい。ここで、上記面積が1cm2未満であると、基板1における組成と位置との相関(組成分布)を把握するのが困難になるだけでなく、導電体薄膜6の抵抗変化と位置との相関の経時変化を測定し難くなる恐れがある。一方、この面積が100cm2を超えると、組成分布を高い精度で計測するのが難しくなる恐れがある。
【0020】
上記導電体薄膜6は、金属の真空蒸着法により基板1表面上に形成される。これについて図2を参照して説明する。図2は、基板1がフェースダウンに置かれている真空蒸着室内を下側から見上げたところの、蒸着の主要部を示す構成図である。
【0021】
例えば3種類の金属成分から成る導電体薄膜6を形成する場合、3基の例えばボート状の第1の蒸発源7、第2の蒸発源8および第3の蒸発源9でそれぞれ例えば金属A、金属Bおよび金属Cを溶融して気化させるようになっている。そして、これ等の蒸発源から上方に対向して配置される基板1表面に向かって、上記3種類の金属を蒸発させ、例えば3角形の開口を有するシャドウマスク10を通して基板1表面に蒸着させるようになっている。このような蒸着室において、導電体薄膜6の金属成分の組成を面方向に連続的に変化させるために、金属A、B、Cをそれぞれの蒸発源から同時に蒸着させる。
【0022】
ここで、これ等の蒸発源は長細い形状を有し、このような蒸発源と基板1の間には、図2に示すように、それぞれに第1の障壁板11、第2の障壁板12および第3の障壁板13が配置されている。そして、これ等の障壁板の位置、例えば上記蒸発源の長手方向における相対位置関係あるいは蒸発源との離間距離を調整することにより、基板1表面において、導電体薄膜6の所望の組成を面方向に連続的に変化させることができる。
【0023】
また、蒸着量すなわち膜厚の制御は、例えば水晶発信式の方法がとられ、各蒸発源に対してそれぞれ膜厚センサが配置されている。そして、導電体薄膜6が所要の膜厚になるとシャッタ14が閉じられ成膜を停止させるようになっている。なお、上記導電体薄膜6の成膜前には、例えば化学薬液による洗浄処理を施し、基板1表面の異物あるいはパーティクル等を除去することが好ましい。
【0024】
上記蒸発源としては、抵抗加熱方式、電子ビーム加熱方式のものが好適に使用される。抵抗加熱方式の抵抗体には、ボート状の他に例えばフィラメント状のものも用いることができる。また、上記膜厚の制御には、水晶発振式の他に電離式、抵抗式、光学式等の方法も用いることができる。
【0025】
上述したような環境測定素子において、導電体薄膜6は、第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3、第3の電圧印加用電極4を頂点とする3角形領域と共に、その領域外の基板1表面に形成されていてもよい。この場合、電位計測用電極5は、それに合わせて上記3角形領域外にも形成される。
【0026】
上記環境測定素子は、例えば、以下に説明するように使用されるものである。
【0027】
同一構成の、例えば電圧印加用電極(2,3,4)、電位計測用電極5および導電体薄膜6から成る環境測定素子を複数枚用意する。そして、これらを環境ガス雰囲気中と、既知の種類および濃度の腐食性ガス(対照標準ガスともいう)中とにそれぞれの導電体薄膜6を曝露させ、所定時間の経過後に、各環境測定素子の導電体薄膜6の電気抵抗(以下、単に「抵抗」という)の変化を計測し、比較する。すなわち、環境ガス雰囲気に曝露した素子の導電体薄膜6において抵抗変化が生じた位置あるいは抵抗変化の変化パターン(抵抗変化分布ともいう)と、同様な抵抗変化を示す素子が曝露されていた腐食性ガスの種類あるいは濃度の場合とを比較する。
【0028】
このような比較により、環境中に含まれているガスの種類あるいはその濃度を判定することができる。ここで、単一の素子を用いて判定することができる環境ガス雰囲気中のガスの種類は1種類のみに限定されるものではなく、複数種のガスが同時に判定されるようになる。
【0029】
なお、上記比較では、単一の素子を既知の複数種の腐食性ガス中に順次曝露して、この素子と環境ガス雰囲気中に曝露した素子とを比較することもできる。
【0030】
上記導電体薄膜6は、3種類の異なる金属を含み、この3種類の金属が、例えば亜硫酸ガスとの反応性が高い金属群、硫化水素ガスとの反応性が高い金属群、塩素ガスとの反応性が高い金属群、アンモニアガスとの反応性が高い金属群、及び、窒素酸化物ガスとの反応性が高い金属群よりなる群のうちの異なる金属群から選択されるものとする。
【0031】
以下、導電体薄膜6の金属成分が3種類である場合について説明するが、金属成分は4種類以上としてもよい。ここで、金属は純金属であってもよいし合金であってもよい。種々の腐食性ガスに対する反応性と製造コストとを両立させる観点から、3種類の金属成分を用いて導電体薄膜6を形成することが好ましい。
【0032】
各金属群から選択される金属は、2種類以上のガスに対して反応性を有するものであってもよい。また、選択される金属は、その金属単独の場合には対象のガスに曝された際に抵抗変化が起こらなくても、その金属と選択される他の金属との合金が特定のガスに対して抵抗変化を生じるものであればよい。
【0033】
上記亜硫酸ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属はニッケル(Ni)であることが好ましい。
【0034】
上記硫化水素ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属は、Cuまたは銀(Ag)であることが好ましい。
【0035】
上記塩素ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属は、錫(Sn)、亜鉛(Zn)およびCuのうちのいずれかであることが好ましい。
【0036】
上記アンモニアガスとの反応性が高い金属群より選択される金属は、AlまたはCuであることが好ましい。
【0037】
上記窒素酸化物ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属はCuであることが好ましい。
【0038】
かかる金属群から前述したように特定の金属成分を選択することにより、腐食性ガスの種類あるいは濃度の差異による導電体薄膜6の抵抗変化の差異をより明瞭にすることができる。
【0039】
本実施形態では、環境測定素子は、その構造がその製造方法も含めて極めて簡素であり、しかもその実用性が高く工業的に安価なものになる。
【0040】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る環境測定方法の実施形態について説明する。この環境測定方法は、例えば上記環境測定素子に形成した上記組成分布を有する導電体薄膜6を環境ガス雰囲気中に曝露し、この導電体薄膜6の基板1表面上の位置における抵抗変化あるいはその変化パターンを間欠的あるいは連続的に計測する。そして、上記雰囲気ガス中に含まれる腐食性ガスの種類あるいはその濃度を求める。
【0041】
ここで、導電体薄膜6の環境ガス雰囲気中の曝露前後の上記抵抗の変化量と、予めガス種類およびその濃度が既知の腐食性ガスに対する曝露前後の導電体薄膜の抵抗の変化量とを比較する。このようにすることにより、環境ガス雰囲気中に含まれる腐食性ガスの種類およびその濃度は簡便に判定される。
【0042】
上記導電体薄膜6の抵抗の計測は、図3に示すような電圧印加と電位計測により行われる。ここで、図3は、判りやすくするために、導電体薄膜6を抵抗の集中定数回路として示している。
【0043】
図3に示すように、例えば第1の電圧印加用電極2と、第2の電圧印加用電極3および第3の電圧印加用電極4との間に直流電圧15を印加する。そして、第2の電圧印加用電極3に流れる電流を第1の電流計16により計測し、第3の電圧印加用電極4に流れる電流を第2の電流計17により計測する。同時に、所要数に配置されている電位計測用電極5の電位を計測する。そして、これ等の電流値および電圧値に基づき、例えば有限要素法を用いた数値解析により、導電体薄膜6の全面における抵抗分布を算出する。
【0044】
ここで、第2の電圧印加用電極3と、第1の電圧印加用電極2および第3の電圧印加用電極4との間に直流電圧15を印加する構成にしてもよい。あるいは、第3の電圧印加用電極4と、第1の電圧印加用電極2および第2の電圧印加用電極3との間に直流電圧15を印加する構成にしてもよい。このように、電圧印加の方向には3つの場合があり、それぞれの場合において上記全電位計測用電極5の電位が測定される。この電位測定に基づき上記数値解析を通して抵抗が算出され、上記ガスへの曝露前後の算出した抵抗の差から抵抗変化が迅速かつ簡便に計測される。
【0045】
導電体薄膜6におけるその組成と位置との相関(組成分布)は、この薄膜上の任意の位置において薄膜を構成する各金属の成分量を表面分析機器等で測定することにより求めることができる。ここで、測定点が多くなるほど、より正確な組成分布が得られる。そこで、特定の位置の例えばX線マイクロアナライザ(XMA)による組成分析と、導電体薄膜6の広範囲なX線強度測定器を用いたX線強度の測定と、を組み合わせることにより正確な組成分布を簡便に行うことができる。
【0046】
まず、導電体薄膜6の少なくとも異なる3箇所以上(本実施形態では12箇所)についてその金属成分の成分量をXMAあるいはイオンマイクロアナライザ(IMA)のような表面分析機器を用いて測定する。
【0047】
次に、上記薄膜上の所定の領域内の薄膜を構成する各金属の成分のX線強度についてX線強度測定器を用いて測定する。この時、表面分析機器を用いて成分量を測定した少なくとも異なる3箇所は、X線強度測定器を用いたX線強度を測定する領域内に含まれるようにする。
【0048】
そして、表面分析機器を用いて測定された薄膜の金属成分の成分量と、この成分量を測定したのと同じ位置のX線強度測定器を用いて測定したX線強度の測定値とを対応させる。そして、上記金属成分ごとのX線強度に対する成分量の検量線を求める。
【0049】
上記金属成分ごとの検量線と、薄膜上の領域内のX線強度測定器を用いたX線強度の測定値とから金属成分の成分量を求めて、薄膜上の領域内の上記組成分布を測定する。この時、X線強度の測定値に誤差が含まれる場合には、成分量の分布の各位置において金属成分の成分量の合計値が100原子%となるように規格化し薄膜の金属成分の成分量を求めてもよい。
【0050】
このように、薄膜の金属成分の成分量の測定点が多ければ多いほど正確な組成分布を得ることができる。そこで、X線強度測定器を用いたX線強度の測定では、例えば、導電体薄膜6の全面にわたって2次元的に所定間隔でX線強度を測定し、X線強度マッピング分析法を用いるとよい。
【0051】
そして、上記組成と位置との相関に基いて得られる金属成分の等成分量線を、導電体薄膜6の金属成分ごとに等間隔で表した三元組成図を作成する。そして、導電体薄膜6上の座標を三元組成図上の座標に換算し、ガスとの反応後の抵抗変化をこの三元組成図上の換算座標にプロットし表示する。そして、三元組成図上の抵抗変化と位置との相関を予め種類が既知の腐食性ガスについて得られた三元組成図上の抵抗変化と位置との相関と目視で比較する。このようにして、ガスの種類あるいはその濃度を判定することが好ましい。
【0052】
ここで、「三元組成図」とは、正三角形内の任意の位置から各辺までの距離が三元合金を構成する各金属成分の成分量を表すところの三元組成傾斜図である。この三元組成図の組成と同じ組成を有する位置の薄膜の抵抗変化を三元組成図上に対応させ、抵抗変化と組成の位置との相関を表示させることにより、抵抗変化分布を簡便かつ明瞭に把握することができる。
【0053】
そして、環境測定素子を環境ガス雰囲気中に曝露することにより得られた抵抗変化と組成の位置との相関からガスの種類あるいはその濃度を簡便に判定することができる。すなわち、予め、環境測定素子を、種類および濃度が既知のガス(対照標準ガス)中に所定時間曝露し、抵抗の経時変化を計測する。これにより得られた薄膜上の抵抗変化と組成の位置との相関を三元組成図上に表示し、これを抵抗変化見本とする。この抵抗変化見本と、別の環境測定素子を同じ時間だけ環境ガス雰囲気中に曝露したときの薄膜上の抵抗変化と位置との相関を三元組成図上に表示した抵抗変化分布とを対比する。
【0054】
そして、抵抗変化見本における抵抗変化分布と三元組成図上の抵抗変化分布とで同等の傾向が得られた場合、その抵抗変化見本に対応するガスが環境ガス雰囲気中にも含まれていることが分かる。このようにして判定することができるガスの種類は、1種類のみに限定されるものではなく、単一の素子を用いて複数の抵抗変化が生じた場合には、同時に環境中に含まれる2種以上のガスを判定することができる。
【0055】
上記曝露時間は1時間程度で充分であり、上記抵抗の計測時間も含めて迅速な環境評価が可能となる。しかし、金属薄膜の反応速度(腐食速度)は、環境ガス雰囲気中に含まれる腐食性ガスの種類やその濃度に強く依存していることから、適正な曝露時間は種々変動する。
【0056】
導電体薄膜6の抵抗の経時変化は、曝露時間中、間欠的または連続的に計測することができる。間欠計測によれば、上述した抵抗変化が生じている期間内にガスの種類を判定して評価時間を短縮させる。また、抵抗変化の速度からガス濃度を推定することができる。一方、連続計測によれば更にガスの種類及び濃度の測定精度が向上する。
【0057】
ガスの種類と濃度の判定は、以下のようにしても行うことができる。すなわち、予め、種々の対照標準ガスについて、濃度を種々に変更して抵抗変化見本を作製する。この抵抗変化見本を基準として、素子を同じ時間だけ環境ガス雰囲気中に曝露したときの薄膜上の抵抗変化と位置との相関を三元組成上に表示した抵抗変化分布を対比する。これにより、上述したようにガスの種類を判定することができる。更に、作製した抵抗変化見本からガスの種類毎にガス濃度と抵抗変化の速度との相関を求め、これと上述した抵抗変化分布における抵抗変化の速度とを対比することにより、ガス濃度も同時に判定することができる。
【0058】
上記実施形態の環境測定方法は、環境ガス雰囲気中のガスの種類あるいは濃度を高精度に測定することができる。しかも、この方法は、その測定時間が短く迅速なガスの検出を可能にし、特に電気・電子機器類に大きな影響を与える腐食性ガスを検知し、その改善対策に反映させる上で極めて好適になる。また、この環境測定方法は、抵抗変化の測定であることから簡便であり測定の信頼性も高く安定的になることから、測定の自動化が容易であり実用性の高いものとなる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものでない。
【0060】
(実施例1)
<環境測定素子の作製>
導電体薄膜6の蒸着装置には、図2においてその概要を示したものを用いた。具体的には、特許文献3に記載の装置と同種の蒸着装置を用いた。ここでは、真空蒸着室の中心線に対して対称に120°間隔に3基の蒸発源が配置され、これ等の蒸発源からそれぞれ異なる蒸着物質を基板1に蒸着させることができる。これらの蒸発源は、抵抗加熱方式で、真空蒸着室の中心線の垂直方向に一定の長さを有するボートから蒸着物質を蒸発させることができる。それぞれの蒸発源と基板1の間には障壁板を設け、蒸着物質の基板上での堆積量に勾配を生じさせることができるようにした。このとき、障壁板は、長手方向端部が、蒸発源のボートと垂直になるように設置した。基板としてはシリコン基板を用意し、各蒸発源の蒸着物質は、それぞれNi、Sn、Agとした。
【0061】
水晶振動子式の膜厚センサにより計測される膜厚が所定の値となるように蒸発電源の電力を調整することにより各蒸発源からの蒸発量を調節した後、基板直下に設けられたシャッタを開放して成膜を開始した。このとき、3基の蒸発源からの蒸着物質の付着領域が、基板1中心付近において互いに重なり合うように、上述した基板1、障壁板及び蒸発源の配置を調整した。膜厚センサによる膜厚が一定量に到達した時点で上記シャッタを閉めて蒸着を完了することにより、組成(前述した3種類の金属の各成分量)が連続的に変化した薄膜が基板上に形成された環境測定素子を得た。
【0062】
<環境測定素子の組成分析>
作製した環境測定素子の導電体薄膜6の組成分布を、以下の方法により求めた。
【0063】
先ず、図4に示すように、蒸着した3種類の金属成分(Ni、Sn、Ag)について、導電体薄膜6の異なる略等間隔の12箇所の成分量をXMA(日本電子(株)製X線マイクロアナライザ)により測定した。そして、上記導電体薄膜6を含む基板1上の66mm×58mmの領域内において、上記XMAを用いて0.2mm×0.1mmの領域ごとに1点ずつ、計191,400点に対してX線強度マッピング分析を行った。ここで、X線強度マッピング分析の対象とした成分は、上記金属成分および基板1の成分であるSi成分である。
【0064】
そして、前述の12箇所におけるX線強度と成分量との関係から、各成分ごとにX線強度に対する成分量の検量線を作成した。これにより得られた結果の任意の点における上記4成分の合計量が100wt%になることを確認した後、この合計量からSi成分量を減算し、残りの合計量によりNi、Sn、Agの3成分の量を規格化した。このようにして、Ni、Sn、Agの3成分の各成分量を決定した。この方法によって得られた薄膜上の191,400点の組成分析データに基づき、導電体薄膜6領域内の組成分布として図4の点線に示す等成分量線を得た。この結果を図4に示す。図4における等成分量線は、20wt%ごとに表示したものである。
【0065】
ここで、環境測定素子の第1の電圧印加用電極2はNi金属に接続し、第2の電圧印加用電極3はSn金属に接続し、第3の電圧印加用電極4はAg金属に接続するようになる。
【0066】
<三元組成図の作成>
図5に、図4に示した等成分量線を、上記金属成分(Ni、Sn、Ag)ごとに図中の点線で示す等間隔に組成傾斜する三元組成図を作成した例を示す。また導電体薄膜6上の複数の電位計測用電極5の位置をこの三元組成図上の座標に換算して、電位計測用電極5aとして配置した。この三元組成図では、図4に示した等成分量線は図5の点線に示すように直線状に変換され、組成傾斜は一定となり直線的な組成変化になる。図5では、点線の等成分量線が示す組成の空間的変化は全て20wt%刻みに示されている。ここで、三角形の各頂点においてそれぞれの金属成分の組成が100wt%となり、それぞれの頂点に対向している各辺において、それぞれの金属成分の組成が0wt%になる。
【0067】
<環境測定の評価>
作製した実施例1の環境測定素子をそれぞれ5枚ずつ用意した。これらの環境測定素子を、腐食性ガスである亜硫酸ガス、硫化水素ガス、塩素ガス、アンモニアガス及び窒素酸化物ガスの各ガス中に一枚ずつ1時間曝露した。そして、図3で説明した方法により導電体薄膜6内の抵抗変化を計測した。以上の評価条件は導電体薄膜6の金属成分等と共に、図6に示す表にまとめた。ここで、電圧印加と組成傾斜の関係の欄のところで「平行」とは、図4のように各金属成分に第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3および第3の電圧印加用電極4が接続し、等成分量線と略直交する方向に電圧が印加されることを意味する。また、電圧印加の方向数とは、図3で説明したような電圧印加の方向の数のことである。
【0068】
上記それぞれのガス雰囲気中に曝露して得られた結果について実施例1の環境測定素子の抵抗変化として、図7ないし図11に示す。図7に示すように、実施例1の環境測定素子は、亜硫酸ガスの場合、三元組成図のNi成分が高い領域の参照符号20で示した部分において抵抗が大幅に変化する特有の変化パターンを有する。ここで、実線曲線aは抵抗が50%以上増加する領域であり、破線曲線bおよび点線曲線cはそれぞれ100%、150%以上になる領域を示す。この抵抗変化を示す実線曲線、破線曲線および点線曲線は以下においても同じである。そして、硫化水素ガスの場合には、三元組成図のAg成分が高い参照符号21で示した部分において抵抗が大幅に変化する。
【0069】
また、図9に示すように、塩素ガスの場合には、三元組成図のNi成分が低くSn成分あるいはAg成分が高い参照符号22で示した部分において抵抗が大幅に変化する。そして、図10に示すように、アンモニアガスの場合には、塩素ガスの場合と同様に三元組成図のNi成分が低くSn成分あるいはAg成分が高い参照符号23で示した部分において抵抗が大幅に変化する。しかし、この場合には、その変化パターンは異なり、三元組成図においてSn成分とAg成分の二等分線に対してほぼ線対称になっている。そして、図11に示すように、窒素酸化物ガスの場合には、三元組成図のSn成分が低くNi成分あるいはAg成分が高い参照符号24で示した部分において抵抗が大幅に変化する。このように、上記腐食性ガスの種類はその抵抗変化から極めて簡便に同定される。
【0070】
また、腐食性ガスの定量では、図7ないし図11に示した抵抗変化を示す例えば上記曲線a、bあるいはcは、腐食性ガスの濃度により三元組成図においてその領域が異なってくることを利用する。例えば濃度が高くなると共に上記領域は広がる。そこで、曝露時間が一定時間後(例えば1時間後)において、抵抗変化が所定値(例えば50%増加)になる領域を計測することにより、それぞれの腐蝕性ガスの濃度が求められる。そして、このようにして求めた上記腐食性ガスの濃度値と、別の化学的測定法(例えばガスクロマトグラフィ)により予め測定した濃度値との最大差が20%以下になると合格とした。この程度の差であれば環境測定において工業的に充分である。
【0071】
上記実施例1では、環境ガス雰囲気の測定において、上記腐食性ガスの種類およびその濃度の判定は、図12の表にまとめたように工業的に充分に満足できるものとなった。そして、環境ガス雰囲気に上記5種類の腐食性ガスを含む場合において、ガスの同定と定量は簡便に行うことができることが判った。
【0072】
(実施例2)
図2で説明した金属成分の蒸着において、実施例1の場合と異なりシャドウマスク10のみを反時計方向に60°回転(60°のズレ)をさせて導電体薄膜6を形成した。これ以外は、実施例1と全く同様にして環境測定素子を作製した。このようにして、環境測定素子の導電体薄膜6領域内において、その組成分布として図13の点線に示すような等成分量線が得られる。ここで、点線で示した等成分量線は図4に示したものと略同じである。図13に示すように、この場合には、環境測定素子の第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3および第3の電圧印加用電極4は、実施例1の場合の金属の組成分布において60°反時計回転した位置に接続されることになる。
【0073】
そして、実施例1で説明したのと同様にして図14に示すように金属成分(Ni、Sn、Ag)ごとに等間隔で組成傾斜する三元組成図を作成した。ここで、実施例2の場合の導電体薄膜6上の図13に示す複数の電位計測用電極5の位置をこの三元組成図上の座標に換算して、電位計測用電極5aとして配置すると、この組成傾斜図において複数の電位計測用電極5aの位置が重なり、そしてその位置が限定された領域に集まる。上述したような環境測定素子は、その評価条件と共に図6にまとめられている。ここで、導電体薄膜6における抵抗変化の計測は実施例1で説明したのと同じである。
【0074】
実施例2の評価結果は図12の表にまとめて示した。この場合、亜硫酸ガスおよび硫化水素ガスのガス種類の同定は信頼性に欠けるが、その他の図6に示した腐食性ガスの種類は充分に判別できた。しかし、これ等の腐食性ガスの濃度の判定は困難であった。
【0075】
実施例2では、環境ガス雰囲気の測定において、限定された腐食性ガスの種類は同定できることが判った。実施例2は、電圧印加用電極の位置と金属の組成分布が最も大きなズレを有する場合である。上記回転の角度が小さく上記ズレが小さくなるに従い、ガスの同定あるいは定量の能力は実施例1の場合に近づく。
【0076】
(実施例3)
この場合は、腐食性ガスが図6に示すように、亜硫酸ガス、硫化水素ガスおよびアンモニアガスとして予め判っている場合に好適である。実施例3では、金属成分としてNi、Al、Agを用いる場合は実施例1で説明したのと同じようにして環境測定素子を作製した。そして、金属成分Ni、Al、Agから成る三元組成図を作成し、実施例1で説明したように導電体薄膜6の抵抗変化を三元組成図にプロットした。
【0077】
図15に示すように、実施例3の環境測定素子は、亜硫酸ガスの場合、三元組成図のNi成分が高い領域の参照符号25で示した部分において抵抗が大幅に変化する。また、図16に示すように、硫化水素ガスの場合、三元組成図のAg成分が高い領域の参照符号26で示した部分において抵抗が大幅に変化する。そして、図17に示すように、アンモニアガスの場合、三元組成図のAl成分が高い領域の参照符号27で示した部分において抵抗が大幅に変化する。
【0078】
図12の表にまとめたように、上記実施例3においては、環境ガス雰囲気の測定において、上記亜硫酸ガス、硫化水素ガスおよびアンモニアガスの種類およびその濃度の判定は全て合格となり工業的に充分に満足できるものであった。
【0079】
(実施例4)
この場合は、腐食性ガスが図6に示すように、亜硫酸ガス、硫化水素ガスおよび窒素酸化物ガスとして予め判っている場合に好適である。実施例4では、金属成分としてNi、Cu、Agを用いる場合は実施例1で説明したのと同じようにして環境測定素子を作製した。そして、金属成分Ni、Cu、Agから成る三元組成図を作成し、実施例1で説明したように導電体薄膜6の抵抗変化を三元組成図にプロットした。
【0080】
図18に示すように、実施例4の環境測定素子は、亜硫酸ガスの場合、三元組成図のAg成分が低くNi成分あるいはCu成分が高い参照符号28で示した部分において抵抗が大幅に変化する。また、図19に示すように、硫化水素ガスの場合、三元組成図のNi成分が低くCu成分あるいはAg成分が高い参照符号29で示した部分において抵抗が大幅に変化する。そして、図20に示すように、窒素酸化物ガスの場合、三元組成図のCu成分が高い領域の参照符号30で示した部分において抵抗が大幅に変化する。
【0081】
そして、図12の表にまとめたように、この実施例4においては、環境ガス雰囲気の測定において、亜硫酸ガス、硫化水素ガスおよび窒素酸化物ガスの種類およびその濃度の判定は全て合格となり工業的に充分に満足できるものであった。
【0082】
(実施例5)
この場合は、腐食性ガスが図6に示すように、塩素ガスの1種類として予め判っている場合に導電体薄膜6における抵抗変化の測定精度について調べたものである。実施例5では、環境測定素子の導電体薄膜6として、実施例1の場合と同様に金属成分Ni、Sn、Agを形成した。そして、導電体薄膜6の抵抗変化の計測のための電圧印加において、第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3および第3の電圧印加用電極4の組み合わせは1種類とした。この抵抗変化の計測において、その変化量が最大となる電位計測用電極5周辺の抵抗変化の評価を5回繰り返して行った。その結果、図12の表に示すように、抵抗変化の測定精度、すなわち標準偏差の抵抗変化量の平均値に対する比(標準偏差/抵抗変化量の平均値)は0.1以下であった。
【0083】
上記結果は、本実施形態における環境測定素子では、環境ガス雰囲気の測定において再現性が高く、腐食性ガスの種類およびその濃度の判定が信頼性の高いものになることを示している。
【0084】
(実施例6)
この場合も、図6の表に示すように実施例5と同様に塩素ガスの1種類が予め判っている場合に導電体薄膜6における抵抗変化の測定精度について調べたものである。実施例6では、導電体薄膜6の抵抗変化の計測のための電圧印加において、第1の電圧印加用電極2、第2の電圧印加用電極3および第3の電圧印加用電極4の組み合わせは、実施例1ないし4と同じように3種類とした。そして、この抵抗変化の計測において、その変化量が最大となる電位計測用電極5周辺の抵抗変化の評価を5回繰り返した。その結果、図12の表に示すように、抵抗変化の測定精度は0.02以下と大幅に向上した。
【0085】
上記結果は、本実施形態における環境測定素子では、環境ガス雰囲気の測定において極めてその再現性が高く、腐食性ガスの種類およびその濃度の判定が非常に高い信頼性を有することを示す。
【0086】
上記実施例1,2において、塩素ガスとの反応性が高い金属として、SnおよびAgを選択した例を示したが、SnあるいはAgに換えてZnを選択しても同様な効果を得ることができる。
【0087】
本発明は、上記実施形態に限定されるものでなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲でいろいろの変形を採ることができる。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0088】
例えば、本実施形態の環境測定素子あるいは環境測定方法は、電気・電子機器に影響を与える腐食性ガス以外のガスが環境に含まれる場合であっても同様に適用できる。
【0089】
また、環境測定素子における3つの電圧印加用電極は、金属成分の組成が連続的に変化する導電体薄膜において、任意の組成の位置で導電体薄膜に電気接続してもよい。そして、この電圧印加用電極は、上記実施形態で示した正三角形の頂点に配置される必要はなく、上記電気接続の位置が同一線上にならないように形成されればどのような配置になってもよい。
【0090】
更に、3つ以上の電圧印加用電極が、導電体薄膜に電気接続し、上記導電体薄膜の抵抗変化を計測するときの電圧を印加する電極になっていても構わない。
【0091】
更には、環境測定方法において、ガスの種類に応じて反応性が異なる3種類以上の金属を含む上記導電体薄膜の抵抗は、薄膜の電流−電圧特性に基づく以外の方法であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る環境測定素子の一例を示す平面構成図。
【図2】第1の実施形態における導電体薄膜の金属成分を蒸着する真空蒸着室の内部を示す概略構成図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る導電体薄膜における抵抗変化の計測方法を示す等価回路図。
【図4】実施例1の環境測定素子の基板上の導電体薄膜の組成分布を示す図。
【図5】実施例1における導電体薄膜の金属成分の三元組成図。
【図6】本発明の実施例1ないし6に係る環境測定素子および測定方法をまとめた表。
【図7】実施例1の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における亜硫酸ガス中の抵抗変化を示す模式図。
【図8】実施例1の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における硫化水素ガス中の抵抗変化を示す模式図。
【図9】実施例1の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における塩素ガス中の抵抗変化を示す別の模式図。
【図10】実施例1の導電体薄膜の金属成分の三元組成図におけるアンモニアガス中の抵抗変化を示す更に別の模式図。
【図11】実施例1の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における窒素酸化物ガス中の抵抗変化を示す更に別の模式図。
【図12】本発明の実施例1ないし6における評価結果をまとめた表。
【図13】実施例2の環境測定素子の基板上の導電体薄膜の組成分布を示す図。
【図14】実施例2における導電体薄膜の金属成分の三元組成図。
【図15】実施例3の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における亜硫酸ガス中の抵抗変化を示す模式図。
【図16】実施例3の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における硫化水素ガス中の抵抗変化を示す模式図。
【図17】実施例3の導電体薄膜の金属成分の三元組成図におけるアンモニアガス中の抵抗変化を示す模式図。
【図18】実施例4の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における亜硫酸ガス中の抵抗変化を示す模式図。
【図19】実施例4の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における硫化水素ガス中の抵抗変化を示す別の模式図。
【図20】実施例4の導電体薄膜の金属成分の三元組成図における窒素酸化物ガス中の抵抗変化を示す更に別の模式図。
【符号の説明】
【0093】
1…基板,2…第1の電圧印加用電極,3…第2の電圧印加用電極,4…第3の電圧印加用電極,5…電位計測用電極,6…導電体薄膜,7…第1の蒸発源,8…第2の蒸発源,9…第3の蒸発源,10…シャドウマスク,11…第1の障壁板,12…第2の障壁板,13…第3の障壁板,14…シャッタ,15…直流電圧,16…第1の電流計,17…第2の電流計,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30…抵抗変化の位置を示す領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板表面に形成された導電体薄膜と、
前記導電体薄膜に電気接続され、該電気接続の位置が前記基板表面上において同一線上にない3つの電圧印加用電極と、
前記導電体薄膜の前記基板表面上における所定位置の電位を計測する複数の電位計測用電極と、を有する環境測定素子であって、
前記導電体薄膜は、その導電体薄膜に接するガスの種類に応じて電気抵抗変化特性が異なる3種類以上の金属を含み、前記基板表面上において面方向に空間的に連続的にその組成が変化していることを特徴とする環境測定素子。
【請求項2】
前記導電体薄膜は、前記3つの電圧印加用電極がそれぞれに電気接続している3種類の金属を3元系合金の成分として含み、前記電圧印加用電極のうちの2つの電圧測定用電極の間において、それぞれの金属成分が連続的に変化するものであることを特徴とする請求項1に記載の環境測定素子。
【請求項3】
前記電位計測用電極は、前記基板表面上において、前記3つの電圧印加用電極のうちのそれぞれ2つの電圧印加用電極を結ぶ直線により区画される三角形の領域内に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の環境測定素子。
【請求項4】
前記導電体薄膜は、前記基板表面上において前記3つの電圧印加用電極および前記電位計測用電極を被覆していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の環境測定素子。
【請求項5】
前記導電体薄膜が、3種類の異なる金属を含み、前記3種類の金属がそれぞれ、亜硫酸ガスとの反応性が高い金属群、硫化水素ガスとの反応性が高い金属群、塩素ガスとの反応性が高い金属群、アンモニアガスとの反応性が高い金属群、及び、窒素酸化物ガスとの反応性が高い金属群よりなる群のうちの異なる金属群から選択されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の環境測定素子。
【請求項6】
前記亜硫酸ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属が、Niであることを特徴とする請求項5に記載の環境測定素子。
【請求項7】
前記硫化水素ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属が、CuまたはAgであることを特徴とする請求項5又は6に記載の環境測定素子。
【請求項8】
前記塩素ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属が、SnまたはAgであることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか一項に記載の環境測定素子。
【請求項9】
前記アンモニアガスとの反応性が高い金属群より選択される金属が、AlまたはCuであることを特徴とする請求項5ないし8のいずれか一項に記載の環境測定素子。
【請求項10】
前記窒素酸化物ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属が、Cuであることを特徴とする請求項5ないし9のいずれか一項に記載の環境測定素子。
【請求項11】
基板表面上に形成した導電体薄膜であって、ガスの種類に応じて反応性が異なる3種類以上の金属を含み、前記基板表面上において面方向に空間的に連続的にその組成が変化する前記導電体薄膜を環境ガス雰囲気中に曝露し、前記導電体薄膜の前記基板面上における抵抗の経時変化を測定し、前記雰囲気ガス中に含まれる腐食性ガスの種類あるいはその濃度を判定することを特徴とする環境測定方法。
【請求項12】
前記導電体薄膜の前記環境ガス雰囲気中の曝露前後の前記抵抗の変化量と、予め種類および濃度が既知のガスに対する曝露前後の前記導電体薄膜の抵抗の変化量とを比較することにより、前記環境ガス雰囲気中に含まれる腐食性ガスの種類あるいはその濃度を判定することを特徴とする請求項11に記載の環境測定方法。
【請求項13】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の環境測定素子の前記導電体薄膜の組成と位置との相関を計測する第一の工程と、
前記環境測定素子を環境ガス雰囲気中に曝露し、導電体薄膜における抵抗と位置との相関の経時変化を計測する第二の工程と、
計測した前記組成と前記抵抗変化と位置との相関から前記環境ガス雰囲気中に含まれるガスの種類あるいはその濃度を判定する第三の工程と、
を含むことを特徴とする環境測定方法。
【請求項14】
前記組成と位置との相関に基いて得られる等成分量線を前記金属成分ごとに等間隔で表した三元組成図を作成し、かつ前記導電体薄膜上の座標を前記三元組成図上の座標に換算し、前記導電体薄膜の反応後の抵抗変化を前記導電体薄膜の組成ごとに前記三元組成図上の換算座標に表示し、該三元組成図上の抵抗変化と位置との相関を予め種類が既知の腐食性ガスについて得られた三元組成図上の抵抗変化と位置との相関を比較することによってガスの種類あるいはその濃度を判定することを特徴とする請求項13に記載の環境測定方法。
【請求項1】
基板と、
前記基板表面に形成された導電体薄膜と、
前記導電体薄膜に電気接続され、該電気接続の位置が前記基板表面上において同一線上にない3つの電圧印加用電極と、
前記導電体薄膜の前記基板表面上における所定位置の電位を計測する複数の電位計測用電極と、を有する環境測定素子であって、
前記導電体薄膜は、その導電体薄膜に接するガスの種類に応じて電気抵抗変化特性が異なる3種類以上の金属を含み、前記基板表面上において面方向に空間的に連続的にその組成が変化していることを特徴とする環境測定素子。
【請求項2】
前記導電体薄膜は、前記3つの電圧印加用電極がそれぞれに電気接続している3種類の金属を3元系合金の成分として含み、前記電圧印加用電極のうちの2つの電圧測定用電極の間において、それぞれの金属成分が連続的に変化するものであることを特徴とする請求項1に記載の環境測定素子。
【請求項3】
前記電位計測用電極は、前記基板表面上において、前記3つの電圧印加用電極のうちのそれぞれ2つの電圧印加用電極を結ぶ直線により区画される三角形の領域内に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の環境測定素子。
【請求項4】
前記導電体薄膜は、前記基板表面上において前記3つの電圧印加用電極および前記電位計測用電極を被覆していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の環境測定素子。
【請求項5】
前記導電体薄膜が、3種類の異なる金属を含み、前記3種類の金属がそれぞれ、亜硫酸ガスとの反応性が高い金属群、硫化水素ガスとの反応性が高い金属群、塩素ガスとの反応性が高い金属群、アンモニアガスとの反応性が高い金属群、及び、窒素酸化物ガスとの反応性が高い金属群よりなる群のうちの異なる金属群から選択されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の環境測定素子。
【請求項6】
前記亜硫酸ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属が、Niであることを特徴とする請求項5に記載の環境測定素子。
【請求項7】
前記硫化水素ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属が、CuまたはAgであることを特徴とする請求項5又は6に記載の環境測定素子。
【請求項8】
前記塩素ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属が、SnまたはAgであることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか一項に記載の環境測定素子。
【請求項9】
前記アンモニアガスとの反応性が高い金属群より選択される金属が、AlまたはCuであることを特徴とする請求項5ないし8のいずれか一項に記載の環境測定素子。
【請求項10】
前記窒素酸化物ガスとの反応性が高い金属群より選択される金属が、Cuであることを特徴とする請求項5ないし9のいずれか一項に記載の環境測定素子。
【請求項11】
基板表面上に形成した導電体薄膜であって、ガスの種類に応じて反応性が異なる3種類以上の金属を含み、前記基板表面上において面方向に空間的に連続的にその組成が変化する前記導電体薄膜を環境ガス雰囲気中に曝露し、前記導電体薄膜の前記基板面上における抵抗の経時変化を測定し、前記雰囲気ガス中に含まれる腐食性ガスの種類あるいはその濃度を判定することを特徴とする環境測定方法。
【請求項12】
前記導電体薄膜の前記環境ガス雰囲気中の曝露前後の前記抵抗の変化量と、予め種類および濃度が既知のガスに対する曝露前後の前記導電体薄膜の抵抗の変化量とを比較することにより、前記環境ガス雰囲気中に含まれる腐食性ガスの種類あるいはその濃度を判定することを特徴とする請求項11に記載の環境測定方法。
【請求項13】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の環境測定素子の前記導電体薄膜の組成と位置との相関を計測する第一の工程と、
前記環境測定素子を環境ガス雰囲気中に曝露し、導電体薄膜における抵抗と位置との相関の経時変化を計測する第二の工程と、
計測した前記組成と前記抵抗変化と位置との相関から前記環境ガス雰囲気中に含まれるガスの種類あるいはその濃度を判定する第三の工程と、
を含むことを特徴とする環境測定方法。
【請求項14】
前記組成と位置との相関に基いて得られる等成分量線を前記金属成分ごとに等間隔で表した三元組成図を作成し、かつ前記導電体薄膜上の座標を前記三元組成図上の座標に換算し、前記導電体薄膜の反応後の抵抗変化を前記導電体薄膜の組成ごとに前記三元組成図上の換算座標に表示し、該三元組成図上の抵抗変化と位置との相関を予め種類が既知の腐食性ガスについて得られた三元組成図上の抵抗変化と位置との相関を比較することによってガスの種類あるいはその濃度を判定することを特徴とする請求項13に記載の環境測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−58253(P2008−58253A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238507(P2006−238507)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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