説明

環状エーテルの開環方法

【課題】特定位置の開環選択率が高い環状エーテルの開環方法の提供。
【解決手段】エーテル結合中の炭素原子にヒドロキシアルキル基が結合した環状エーテルの開環反応において、Rhを有する触媒と、Re、Mo、およびWから選択された一種または二種以上の金属元素とをその環状エーテルと共存させる。この開環反応では、環状エーテルのエーテル結合におけるヒドトキシアルキル基が結合した炭素と酸素との結合を、高選択率で開裂させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状エーテルのエーテル結合を開裂させる開環方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環状エーテルを水素化により開環させる方法が既に知られている。この方法により得られた化合物は、各種化学製品の原料に使用されている。例えば、環状エーテルの一種であるテトラヒドロフルフリルアルコールを水素化すると、テトラヒドロフルフリルアルコールが開環し、1,5−ペンタンジオールが得られることが公知になっている(例えば、非特許文献1、特許文献1参照)。この1,5−ペンタンジオールは、可塑剤、潤滑油、香料、合成樹脂等の原料に使用される。
【0003】
また、環状エーテルを開環させる方法としては、Ni、Ru、RhおよびPtから選択された単一金属を触媒にし、下記構造式で表される環状エーテルを開環する方法が公知になっている(特許文献2参照)。
【0004】
【化1】

【0005】
上記構造式において、Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfは、独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基である。また、Rgは、−CHO基または−CH2OH基である。
【0006】
その他、環状エーテルの開環方法として、モリブデン変性ラネーニッケルを触媒として使用し、2−ヒドロキシ−4−メチルテトラヒドロピランを開環する方法が公知となっている(特許文献3参照)。
【0007】
ところで、環状エーテルの開環反応においては、そのエーテルの開環位置の選択率が高いことが望まれる。
【非特許文献1】W.E.Kaufmann, Roger Adams, Journal of the American Chemical Society, 1923, 45, pp3029-3044
【特許文献1】米国特許第2768978号明細書
【特許文献2】特開2003−183200号公報
【特許文献3】特許第2503031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特定位置の開環選択率が高い環状エーテルの開環方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、Rhを有する触媒と、Re、Mo、およびWから選択された一種または二種以上の金属元素と、エーテル結合中の炭素原子にヒドロキシアルキル基が結合した環状エーテルとを共存させて、前記環状エーテルのエーテル結合を開裂させる環状エーテルの開環方法である。
【0010】
前記触媒は、担体を有し、該担体が前記Rhを担持していると良い。この場合、前記Rhを担持している担体は、環状エーテルの開環効率に優れたSiO2が好適である。
【0011】
前記Re、Mo、およびWから選択された一種または二種以上の金属元素が担体に担持されていると良い。この担体は、前記Rhを担持している担体であっても良い。
【0012】
前記環状エーテルは、特に限定されない。前記環状エーテルのヒドロキシアルキル基の炭素数は、3以下であると良い。従って、該ヒドロキシアルキル基は、ヒドロキシメチル基であっても良い。
【0013】
前記環状エーテルの環構造は、5員環または6員環であっても良い。このような環構造を有する限り、多糖類等の高分子化合物であっても前記環状エーテルに該当する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、Rh触媒と共にRe、Mo、およびWから選択された一種または二種以上の金属元素を、特定炭素にヒドロキシアルキル基を有する環状エーテルと共存させるので、当該環状エーテルのエーテル結合におけるヒドロキシアルキル基が結合した炭素と酸素との結合を高選択率で開裂させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る環状エーテルの開環方法を実施形態に基づき以下に説明する。本実施形態の開環方法は、所定の触媒および所定の環状エーテルを共存させて、当該環状エーテルのエーテル結合を開裂させるものである。この場合、Re、Mo、およびWから選択された一種または二種以上の金属元素(以下において、当該金属元素を「Re等」ということがある)も、前記触媒および環状エーテルと共存させる。
【0016】
なお、以下において、「触媒」とは環状エーテルの開環用触媒を意味し、「環状エーテル」とは本実施形態で開環させる環状エーテルを意味し、「開環化合物」とは環状エーテルの開環反応において炭素−炭素結合が切断されることなく開環生成した化合物を意味し、「分解化合物」とは環状エーテルの開環反応において炭素−炭素間結合が切断されて生成した化合物を意味する。
【0017】
本実施形態の触媒は、必須の活性成分としてRhを有する。Pd、Pt等のRh以外の貴金属であっても環状エーテルを開環させることが可能であるが、Rh以外の貴金属では、環状エーテルを効率良く開環させることができない。
【0018】
触媒がRhを有している限り、Rhと、当該Rhを担持している担体とを構成にしているものを触媒に使用しても良い。この担体は、その表面にRhを分散させて触媒活性を高めるものである。担体の形状は、粉末状、粒状、ペレット状、リング状等、特に限定されない。担体の材質も特に限定されない。担体の材質としては、例えば、SiO2、活性炭、Al23等、触媒担体として通常使用される材質であると良く、環状エーテルの開環効率に優れるSiO2が好適である。また、Rhを担体表面上に高分散させるためには、担体の比表面積が大きいほど好ましい。
【0019】
担体にRh含有液を含浸した後に乾燥および焼成を行なえば、Rhを担体に担持させることができる。使用するRh含有液の量が多量である場合には、前記含浸および乾燥を繰り返し行うIncipient wetness法によりRhを担体に担持させても良い。Rh担持させる工程において、含浸時の温度および乾燥時の温度は特に限定されるものではない。また、焼成時の温度も特に限定されるものではないが、700〜1000Kが好ましく、より好ましくは700〜800Kである。
【0020】
上記の通り、本実施形態の開環方法は、Re等から選択された一種または二種以上の金属元素を前記触媒および環状エーテルと共存させるものである。この共存により、環状エーテルの開裂における開裂位置の選択率が飛躍的に高まる。すなわち、環状エーテルの開環反応においてRe等とRhを有する触媒とが共存していると、環構造を構成しているエーテル結合のうち、酸素とヒドロキシアルキル基が結合している炭素との結合の開裂選択率が飛躍的に高まるのである。テトラヒドロフルフリルアルコールを環状エーテルの例とすれば、Re等を共存させない場合には、1,2−ペンタンジオール(酸素とヒドロキシアルキル基が結合していない炭素との結合が開裂した化合物)が高い選択率で生成するが、Re等を共存させた場合には、1,5−ペンタンジオール(酸素とヒドロキシアルキル基が結合している炭素との結合が開裂した化合物)が高い選択率で生成する。
【0021】
なお、本実施形態の開環方法においては、所望の選択率を実現できる限り、Re、Mo、およびW以外の金属元素を共存させることも許容される。
【0022】
環状エーテルの開環においてRe等を共存させる態様は、特に限定されない。その共存態様としては、例えば、Re等がその単体、塩、または錯体として共存している態様;Re等が担体に担持されている態様;等が挙げられる。これら共存態様の中では、Re等が担体に担持されている態様が好ましい。更に好ましくは、Rhが担持されている担体にRe等も担持されていることである。
【0023】
Re等を担持させる担体の形状は、粉末状、粒状、ペレット状、リング状等、特に限定されない。また、Re等を担持させる担体の材質も、特に限定されない。担体の材質としては、例えば、SiO2、活性炭、Al23等、触媒の担体として通常使用されるものを使用すると良い。Re等を高分散で担持させるためには、担体の比表面積が大きいほど好ましい。
【0024】
Reを共存させる場合、ReとRhのモル比([Re]/[Rh])は、2/1を超えていても良いが、1/8〜2/1であると好ましく、環状エーテルの転化率をも考慮すれば1/4〜2/1であるとより好ましい。Moを共存させる場合、MoとRhのモル比([Mo]/[Rh])は、3/5以下であると良く、環状エーテルの転化率をも考慮すれば1/32〜1/2であると好ましく、1/16〜1/4であるとより好ましい。また、Wを共存させる場合、WとRhのモル比([W]/[Rh])は、1/2未満であると良く、1/4以下であると好ましい。Wの共存については、テトラヒドロフルフリルアルコールを開環させる場合、W量の増加に伴って分解生成物が減少する上に、1,5−ペンタンジオールの選択率が向上する特徴がある。
【0025】
Re等を担体に担持させるためには、公知の担持方法を使用すると良い。例としては、(1)Re等含有液を、Rhを担持していない担体に含浸し、乾燥、焼成する方法、(2)Rh含有液を含浸させた後に乾燥した担体に、Re等含有液を含浸させた後、乾燥および焼成する方法、が挙げられる。なお、前記(2)の方法によれば、Rhを担持している担体を調製することになるので、本実施形態で使用する触媒を調製することにもなる。
【0026】
本実施形態に係る開環方法における環状エーテルは、その環構造を構成するエーテル結合中の炭素原子の結合基としてヒドロキシアルキル基を有する。
【0027】
環状エーテルの前記ヒドロキシアルキル基は、炭素数が3以下であると良く、直鎖状および分岐状のいずれであっても良い。当該ヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ジヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、1,1−ジヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシエチル基、1―ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、1−メチル−2−ヒドロキシエチル基、および1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチル基が挙げられる。また、環状エーテルの環は、特に限定されないが、5員環又は6員環であると良い。
【0028】
環状エーテルの立体構造も特に限定されない。環状エーテルは、D体およびL体の何れであっても良く、αおよびβの何れのアノマーであっても良く、スレオ体およびエリスロ体の何れであっても良い。
【0029】
環状エーテルとしては、糖類等がある。例えば、下記一般式(1)で表される5員環および6員環化合物は、環状エーテルに該当する。
【0030】
【化2】

【0031】
上記一般式(1)中、R1、R2、R3およびR4は夫々独立して水素原子、水酸基、および上記炭素数3以下のヒドロキシアルキル基から選択される基を表し、R1、R2、R3およびR4の少なくとも何れかは上記炭素数3以下のヒドロキシアルキル基から選択される基である。また、R5は水素原子または水酸基を表し、R6は水素原子または水酸基を表し、nは1または2の整数を表す。
【0032】
上記一般式(1)で表される環状エーテルであって、n=1である5員環の環状エーテルとしては、例えば、アロフラノース、アルトロフラノース、アラビノフラノース、ガラクトフラノース、グルコフラノース、グロフラノース、イドフラノース、リキソフラノース、マンノフラノース、プシコフラノース、リボフラノース、リブロフラノース、ソルボフラノース、タガトフラノース、タロフラノース、キシロフラノース、キシルロフラノース、フルクトフラノース、テトラヒドロフルフリルアルコール、2−デオキシペントース、2,3−ジデオキシペントース、1,2,3−ジデソキシグリセロペントフラノース、2−ジデオキシリボフラノース、2−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン−3−オール、5−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン−3−オール、5−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン−2−オール、2,5−アンヒドロアラビトール、1,4−アンヒドロアラビニトール、1,4−アンヒドロキシリトール、1,4−アンヒドロリビトール、3−デオキシペントース、2−デオキシリボース、および2−デソキシキシロース、2−デソキシペントースが挙げられる。
【0033】
上記一般式(1)で表される環状エーテルであって、n=2である6員環の環状エーテルとしては、例えば、アロピラノース、アルトロピラノース、ガラクトピラノース、グルコピラノース、グロピラノース、イドピラノース、マンノピラノース、プシコピラノース、ソルボピラノース、タガトピラノース、タロピラノース、フルクトピラノース、2−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロピラン、1,2,3−トリデオキシヘキソピラノース、2−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロピラン−3−オール、6−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロピラン−2−オール、アラビノ−1,5−アンヒドロ−2−デオキシヘキシトール、アラビノ−1,5−アンヒドロ−4−デオキシヘキシトール、アラビノ−2,6−アンヒドロ−3−デオキシヘキシトール、キシロ−1,5−アンヒドロ−4−デオキシヘキシトール、キシロ−2,6−アンヒドロ−3−デオキシヘキシトール、1,2−ジデオキシアラビノヘキソピラノース、2,4−ジデオキシヘキサピラノース、2−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロピラン−3,5−ジオール、6−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロピラン−3,4−ジオール、リボ−1,5−アンヒドロ−2−デオキシヘキシトール、リボ−1,5−アンヒドロ−4−デオキシヘキシトール、リボ−2,6−アンヒドロ−3−デオキシヘキシトール、アラビノ−2−デオキシヘキソース、アラビノ−3−デオキシヘキソース、アラビノ−4−デオキシヘキソース、1,5−アンヒドロアルトリトール、2,6−アンヒドロアルトリトール、1,5−アンヒドロアリトール、1,5−アンヒドロガラクチトール、1,5−アンヒドログルシトール、2,6−アンヒドログルシトール、1,5−アンヒドロマンニトール、キシロ−3−デオキシヘキソース、キシロ−4−デオキシヘキソース、2−デオキシアラビノヘキソース、3−デオキシアラビノヘキソピラノシド、2−デオキシアロース、2−デオキシガラクトース、4−デオキシキシロヘキソピラノース、2−デオキシグルコース、4−デオキシグルコース、2−デオキシリキソヘキソース、4−デオキシリキソヘキソース、3−デオキシリボヘキソピラノース、2−デオキシグルコピラノース、2−デソキシグルコース、2−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロピラン−3,4,5−トリオール、6−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロピラン−2,3,5−トリオール、リキソ−2−デオキシヘキソース、リキソ−3−デオキシヘキソース、リボ−2−デオキシヘキソピラノース、リボ−3−デオキシヘキソース、および6−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロピラン−2,3,4,5−テトラオールが挙げられる。
【0034】
また、その他の環状エーテルとしては、マルトース、セロビオース等の二糖類;アミロース、セルロース等の多糖類;等の天然物由来の化合物が挙げられ、これらの化合物を有効利用できる。
【0035】
上記例示した一般式(1)で表される5員環化合物および6員環化合物は、市場において入手可能である。また、例えば、トウモロコシの穂軸、燕麦等の籾殻、サトウキビの絞り粕、ふすま、おが屑等の農産物由来物を原料にしてフルフラールを製造し、フルフラールを水素化してフルフリルアルコールとし(特開平07−232067号公報参照)、Pd/C等を触媒に使用してフルフリルアルコールを水素化すればテトラヒドロフルフリルアルコールが得られ;グリセリンの脱水反応等によりアクロレインを製造し、このアクロレインを3,4−ジヒドロ−1,2−ピラン−2−カルボアルデヒドとし(米国特許第2479284号明細書参照)、更に水素化すればテトラヒドロピラン−2−メタノールが得られるように、公知の製法により上記例示した一般式(1)で表される5員環化合物および6員環化合物を得ることができる。
【0036】
本実施形態における環状エーテルの開環方法は、(1)液状環状エーテル、水素(気体)、および触媒(固体)を使用する三相系開環反応;(2)環状エーテルガス、水素(気体)、および触媒(固体)を使用する二相系開環反応;が挙げられる。環状エーテルと触媒とを接触させる方法であれば、上記(1)および(2)の開環反応のいずれであっても良いが、分解化合物の生成量が少ない三相系開環反応が好ましい。
【0037】
上記開環方法は、回分形式、半回分形式、連続流通形式等を任意に選択した形式により実施することができる。また、所定量の環状エーテルから得られる開環化合物の量を増加させたい場合には、開環方法実行後の未反応環状エーテルを分離回収して開環させるリサイクルプロセスを採用しても良い。
【0038】
開環反応を行うときの温度は、高温であるほど環状エーテルの転化率が高まるが、反応温度が高すぎると分解化合物の生成量が増大するので好ましくない。そのため、環状エーテルの種類に応じて反応温度を適宜設定する必要がある。反応温度は、273〜473Kであることが通常であり、353〜423Kであることが好ましい。
【0039】
開環反応においては水素を反応系に共存させることになり、このときの水素圧が高いほど反応速度が高まる。その一方で、水素圧を高く設定するには、その圧力を実現するための装置が高価であるために経済的ではない。そのため、反応速度と装置の経済性とを考慮した概ね1〜20MPa程度の水素圧であると良い。
【0040】
また、環状エーテルの濃度がある程度高ければ反応が高速化する(例えばテトラヒドロフルフリルアルコールの場合、その濃度が25℃において80容量%以上であっても顕著な悪影響が生じることはない)。しかし、環状エーテル濃度が100%に近い濃度であると、環状エーテルの転化率が低下することになって、反応完結までに長時間を要することになる。そのため、反応完結時間との関係で環状エーテル濃度を調整する必要がある。環状エーテル濃度を調整する場合には、その調整を水で行なうことが好適である。水が開環反応系に存在すれば、環状エーテルの転化率、およびエーテル結合中の酸素とヒドロキシアルキル基が結合している炭素との間の結合開裂の選択率が高まるからである。
【0041】
本実施形態の開環方法は、以上の通りである。上記開環方法で生成した開環化合物を原料にして化学品を製造しても良い。この場合、蒸留等の適宜な分離手段により精製した開環化合物を使用しても良い。
【実施例】
【0042】
以下に実施例、比較例、および参考例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0043】
(テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)およびテトラヒドロフラン(THF)の開環反応)
環状エーテルにTHFAまたはTHFを使用して、次の通り実施例、比較例、および参考例の環状エーテルの開環反応を行なわせた。THFAまたはTHFの含有液(反応液)、および触媒が仕込まれ、水素パージされた内容積190mlのオートクレーブ中において、THFAを開環させた(反応液、触媒、開環反応における初期圧力、反応温度、および反応時間の詳細については、後記表1〜10参照)。開環反応終了後、GC−MS(GCカラム:TC−WAX、GC検出器:FID)で生成物の定性分析および定量分析を行なった。
【0044】
上記THFAの開環反応において使用した触媒は、以下の通り調製したものである。なお、当該調製した全触媒は、粒子径が100メッシュ以下の粉状体であった。
【0045】
(Re−Rh/SiO2、Mo−Rh/SiO2、W−Rh/SiO2、Ag−Rh/SiO2、Cr−Rh/SiO2、Mn−Rh/SiO2、V−Rh/SiO2、Zr−Rh/SiO2
SiO2(富士シリシア化学株式会社製「CARiACT G−6」)にRhCl3・3H2O(添川理化学株式会社製)の水溶液を含浸させて、RhをSiO2に対して4質量%となるように担持させた。次いで、Rh担持SiO2を、温度383Kで12時間乾燥した。乾燥後のRh担持SiO2に所定の金属化合物の水溶液を含浸させた後、383Kで12時間乾燥し、次いで、大気中において温度773Kで3時間焼成して触媒であるRe−Rh/SiO2、Mo−Rh/SiO2、W−Rh/SiO2、Ag−Rh/SiO2、Cr−Rh/SiO2、Mn−Rh/SiO2、V−Rh/SiO2、Zr−Rh/SiO2、を調製した。なお、上記の乾燥後のRh担持SiO2に含浸させる水溶液に使用した所定の金属化合物には、NH4ReO4、(NH4)6Mo724・4H2O、(NH4)101241・5H2O、AgNO3、Cr(NO3)3、Mn(NO3)2・6H2O、NH4VO2、ZrO(NO3)2・2H2O、を使用した。
【0046】
(Rh/SiO2、Re/SiO2、Mo/SiO2、W/SiO2
比表面積が535m/gであるSiO2(富士シリシア化学株式会社製「CARiACT G−6」。以下において同じ)にRhCl3・3H2O(添川理化学株式会社製)、NH4Re、(NH4)6Mo724、または(NH4)101241の水溶液を含浸させて、Rh、Re、Mo、またはWをSiO2に担持させた。次いで、当該SiO2を、温度383Kで12時間乾燥した後、大気中において温度773Kで3時間焼成してRh/SiO2、Re/SiO2、Mo/SiO2、およびW/SiO2触媒を調製した。
【0047】
以下、表により実施例等の結果を示す。各表において、「Rh担持量」は、SiO2の質量に対するRhの質量の率である。「[M]/[Rh]」は、Rhに対するRe、Mo、W、Ag、Cr、Mn、V、またはZrのモル比であり、触媒調製に使用した原料質量を基準に算出した値である。「転化率」は、環状エーテルの転化率を意味し、下記式(1)により算出される値である。「選択率」は、開環反応で生成した化合物の生成比率を意味し、下記式(2)により算出される値である。「収率」は、開環反応で生成した化合物の収率を意味し、下記式(3)により算出される値である。
【0048】
【数1】

【0049】
【数2】

【0050】
【数3】

【0051】
表1に、Re−Rh/SiO2、Mo−Rh/SiO2またはW−Rh/SiO2を使用したときの選択率と、Rh/SiO2、Re/SiO2、Mo/SiO2またはW/SiO2を使用したときの選択率との対比が可能な、実施例および比較例の結果を示す。Ag−Rh/SiO2、Cr−Rh/SiO2、Zr−Rh/SiO2、Mn−Rh/SiO2またはV−Rh/SiO2を使用したときの結果も、併せて表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の実施例1a〜1cと比較例1aとの対比から、1,5−ペンタンジオール(THFAのエーテル結合における酸素とヒドロキシメチル基が結合している炭素原子との結合が開裂した化合物)の選択率が、実施例1a〜1cの方が際立って高いことから、RhとRe、MoまたはWとの共存により、環状エーテルの特定位置のエーテル結合が優先して開裂していたことを表1において確認できる。また、比較例1b〜1dにおいては、1,5−ペンタンジオールの選択率が皆無であったことを確認できる。
【0054】
表2に、[Re]/[Rh]、[Mo]/[Rh]、および[W]/[Rh]が変化したときの選択率の結果を示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表3に、環状エーテルのエーテル結合中の炭素のヒドロキシメチル基有無による選択率結果を示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3から、エーテル結合の炭素にヒドロキシメチル基を有しているTHFAを使用した実施例3aおよび3bにおいては、比較例3aおよび3bと異なり、分解化合物(特にメタノール、ブタノール)の選択率が小さかったことを確認できる。
【0059】
表4に、開環反応における温度変化による選択率の変動結果を示す。
【0060】
【表4】

【0061】
表4から、実施例の1,5−プロパンジオールの選択率は、反応温度を413Kにしたときには低下傾向にあったが、比較例においても同様であった。そして、反応温度が413Kであっても、実施例4d、4hおよび4lの方が比較例4bよりも1,5−プロパンジオールの選択率が高かった。
【0062】
表5に、開環反応の初期圧力を変化させたときの選択率結果を示す。
【0063】
【表5】

【0064】
表6に、THFA濃度を変化させたときの選択率結果を示す。
【0065】
【表6】

【0066】
表7に、反応液の水濃度を変化させたときの選択率結果を示す。
【0067】
【表7】

【0068】
表7より、水を含まない反応液を使用した実施例7fにおいても1,5−プロパンジオールが高選択率で得られていた。しかし、実施例7fよりも実施例7a〜7eの方が、1,5−プロパンジオールの選択率が高く、反応液中の水の含量が80容量%以下が好ましいことを表7において確認できる。
【0069】
表8に、反応時間を変化させたときの収率結果を示す。
【0070】
【表8】

【0071】
表9に、触媒を複数回の開環反応に使用したときの選択率結果を示す。
【0072】
【表9】

【0073】
1,2−ペンタンジオール水溶液または1,5−ペンタンジオール水溶液を使用し、その他は上記実施例と同様にした参考例10aおよび10bの反応結果を表10に示す。
【0074】
【表10】

【0075】
(テトラヒドロピラン−2−メタノール(THPM)の開環反応)
環状エーテルにTHPMを使用して、次の通り環状エーテルの開環反応を行なわせた。当該反応における反応液、触媒、開環反応における初期圧力、反応温度、および反応時間の詳細については、後記表11の通りであり、その他の反応条件は、上記THFAの開環反応と同様とした。
【0076】
表11に、THPMの開環反応での選択率結果を示す。
【0077】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rhを有する触媒と、Re、Mo、およびWから選択された一種または二種以上の金属元素と、エーテル結合中の炭素原子にヒドロキシアルキル基が結合した環状エーテルとを共存させて、前記環状エーテルのエーテル結合を開裂させることを特徴とする環状エーテルの開環方法。
【請求項2】
前記触媒が担体を有し、該担体が前記Rhを担持している請求項1に記載の環状エーテルの開環方法。
【請求項3】
前記担体がSiO2である請求項2に記載の環状エーテルの開環方法。
【請求項4】
前記Re、Mo、およびWから選択された一種または二種以上の金属元素が、担体に担持されている請求項1〜3のいずれかに記載の環状エーテルの開環方法。
【請求項5】
前記Re、Mo、およびWから選択された一種または二種以上の金属元素を担持している担体が、前記Rhを担持している担体である請求項4に記載の環状エーテルの開環方法。
【請求項6】
前記ヒドロキシアルキル基の炭素数が3以下である請求項1〜5のいずれかに記載の環状エーテルの開環方法。
【請求項7】
前記ヒドロキシアルキル基が、ヒドロキシメチル基である請求項6に記載の環状エーテルの開環方法。
【請求項8】
前記環状エーテルの環状構造が、5員環または6員環である請求項1〜7のいずれかに記載の環状エーテルの開環方法。

【公開番号】特開2009−46417(P2009−46417A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213305(P2007−213305)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】