説明

環状金属加熱装置

【課題】環状金属体を効率良く加熱することができるとともに、一台の装置によって開口サイズの異なる環状金属体に対応可能にする。
【解決手段】環状金属体Wの周方向に沿って設けられた複数の環状鉄心2と、各環状鉄心2の一部に巻装された入力巻線3と、複数の鉄心要素21、22の少なくとも1つを移動させて閉磁路を形成させ、又は環状金属体Wを着脱交換可能にする接離移動機構4と、複数の環状鉄心2が環状金属体Wのサイズに対応した位置となるように、複数の環状鉄心2の少なくとも1つを移動させる拡縮移動機構5と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車輌用タイヤのリム等の環状金属体を加熱するための環状金属加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車輌用タイヤ等のリムは、アルミニウム合金を用いて構成されているものがあり、その製造過程において溶体化処理(固溶化処理)が行われている。具体的にこの処理は、例えば400〜500℃で所定時間加熱後急冷して、アルミニウム合金中の合金成分を固溶化するものである。
【0003】
そして従来、この溶体化処理における加熱は例えば特許文献1に示すように加熱炉を用いて行われている。
【0004】
しかしながら、このような加熱炉を用いるものでは、昇温速度が遅い等の昇温効率の問題や、熱効率が悪いといった問題がある。また、リムの形状(例えば開口径等)は種々存在し、それらに合わせて加熱炉を用意するとすれば設備コストが増大するだけでなく、設置スペースにおいても問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−278930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、環状金属体を効率良く加熱することができるとともに、一台の装置によって開口サイズの異なる環状金属体に対応可能にすることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る環状金属加熱装置は、被加熱物である環状金属体の周方向に沿って当該環状金属体が貫通するように設けられ、互いに接離可能な複数の鉄心要素からなる複数の環状鉄心と、前記各環状鉄心の一部に巻装され、交流電圧が印加される入力巻線と、前記複数の鉄心要素が互いに接触して閉磁路を形成する接触位置、及び、前記複数の鉄心要素の少なくとも1つが離間して環状金属体が着脱交換可能な離間位置の間で、前記複数の鉄心要素の少なくとも1つを移動させる接離移動機構と、前記複数の環状鉄心が環状金属体の開口サイズに対応した位置となるように、前記複数の環状鉄心の少なくとも1つを移動させる拡縮移動機構と、を具備することを特徴とする。なお、環状金属体としては、円環状、楕円環状、多角環状のものが考えられる。
【0008】
このようなものであれば、環状金属体の周方向に沿って複数の環状鉄心を設け、入力巻線に交流電圧を印加することによって、環状金属体に短絡電流が流れて誘導発熱するので、環状金属体を効率良く加熱することができる。また、環状鉄心を複数設けることによって、環状鉄心と環状金属体との磁気結合を良くすることができ、力率を向上させることができる。さらに、拡縮移動機構によって複数の環状鉄心の少なくとも1つを移動させることによって、開口サイズの異なる環状金属体を複数の環状鉄心内に装着することができ、その環状金属体を加熱することができる。
【0009】
環状金属体の構成を生かして、環状金属加熱装置を小型化するためには、前記入力巻線が、前記環状鉄心における前記環状金属体の中空部内に位置するように巻装されていることが望ましい。また、これにより、複数の入力巻線が環状金属体の中空部内に近接して配置されることになり、互いに漏れ磁束を消滅させて力率を向上させることができる。
【0010】
上記漏れ磁束の消滅を最大にして一層力率を向上させると共に、環状金属体を均一に加熱するためには、前記複数の環状鉄心が、前記環状金属体の周方向に沿って等分配置(等間隔に配置)されていることが望ましい。
【0011】
環状鉄心の構造の簡単化及び製造の容易化を図り、接離移動機構及び拡縮移動機構の取り付けを容易にするためには前記環状鉄心が、カットコア型の巻鉄心を用いて構成されていることが望ましい。つまり、環状鉄心の鉄心要素がカットコア型の巻鉄心により構成される。
【0012】
入力巻線に用いられるコイルは、その耐熱がH種絶縁の許容最高温度(約200℃)の材料ものが多く用いられている。前記許容最高温度を超える耐熱材料のものあるが、種類が少なく高価で機械強度も弱いという特性がある。一方で、環状金属体の加熱温度がアルミニウム合金の溶体化処理では400〜500℃、鉄の固溶化処理では、700〜800℃である。このような用途において好適に用いるためには、前記入力巻線が中空導管を用いて構成され、当該中空導管内に水又は油等の冷却媒体を流通させていることが望ましい。これならば、コイル温度をH種絶縁の許容最高温度以下に保つことができ、コイル寸法も小さくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
このように構成した本発明によれば、環状金属体を効率良く加熱することができるとともに、一台の装置によって開口サイズの異なる環状金属体に対応可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る環状金属加熱装置の環状鉄心及び入力巻線の配置図である。
【図2】同実施形態におけるO−R線断面図である。
【図3】同実施形態におけるA−A線断面図である。
【図4】同実施形態における結線を示す図である。
【図5】接離移動機構の具体例を示す模式図である。
【図6】環状鉄心1つを内部配置した場合と4つの内部配置及び外部配置した場合の実測データを示す表である。
【図7】図6に示すそれぞれの場合の力率特性を示す図である。
【図8】比較例における温度測定ポイントを示す図である。
【図9】4つの環状鉄心の入力巻線を並列結線した場合の昇温特性データである。
【図10】4つの環状鉄心の入力巻線を直列結線した場合の昇温特性データである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明に係る環状金属加熱装置100の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
<装置構成>
本実施形態に係る環状金属加熱装置100は、例えばアルミニウム合金製のリム等の溶体化処理といった環状金属体Wの加熱処理に用いるものであって、図1に示すように、環状金属体Wの周方向に沿って設けられた2つの鉄心要素21、22からなる複数の環状鉄心2と、当該各環状鉄心2の一部に巻装された入力巻線3と、各環状鉄心2の2つの鉄心要素21、22同士を接離移動させる接離移動機構4と、複数の環状鉄心2が環状金属体Wの開口サイズに対応した位置となるように、各環状鉄心2を移動させる拡縮移動機構5と、を備える。
【0017】
複数の環状鉄心2は、環状金属体Wの周方向に沿って等分配置されている。本実施形態の環状金属加熱装置100は3つの環状鉄心2を備え、それらは120度等配となるように環状金属体Wの周方向に沿うように同一平面上に環状に配置されている。
【0018】
各環状鉄心2は、図2に示すように、概略矩形環状をなすものであり、その中空部2S内に環状金属体Wが貫通するように設けられる。また環状鉄心2は、互いに接離可能な第1鉄心要素21と第2鉄心要素22とからなり、環状金属体Wの周方向に沿った外側周面を囲むものである。
【0019】
具体的に第1鉄心要素21は、上部に開放部を有する概略コの字形状をなすものであり、カットコア型の巻鉄心により構成されている。その一方の起立部21a(内側の起立部21a)に入力巻線3が巻装されている。そして、環状金属体Wが装着された状態において、図2、図3に示すように、当該環状金属体Wの外側周面と他方の起立部21b(外側の起立部21b)の内面とが対向する。このように各環状鉄心2の第1鉄心要素21が、上部に開放部を有する概略コの字形状をなすものであり、環状金属体Wは、第1鉄心要素21に上部から着脱交換される。
【0020】
第2鉄心要素22は、第1鉄心要素21の上部開放部を閉じて、第1鉄心要素21との間で閉磁路を形成するものであり、カットコア型の巻鉄心により構成されている
【0021】
入力巻線3は、図2及び図3に示すように、各環状鉄心2の第1鉄心要素21の起立部21aに複数回巻回されて設けられている。このように、入力巻線3が内側の起立部21aに巻装されていることによって、入力巻線3を環状金属体Wの中空部WS内に配置する構成として(図1参照)、環状金属体W内部の空間を有効に活用し、環状金属体W外側の装置構成を簡略化している。さらに、入力巻線3が近接して等分配置されていることで、漏れ磁束が最大限消滅され、力率向上を図ることができる。また、各環状鉄心2に設けられた入力巻線3は、図4に示すように、商用周波数電源6に対して並列に結線されている。なお、並列に限られず直列に結線するようにしても良い。
【0022】
そして、この入力巻線3には、商用周波数電源6から50Hz又は60Hzの交流電圧が印加される。また、本実施形態において入力巻線3は、H種絶縁の許容最高温度(約200℃)の材料のものを用いて環状金属体Wを加熱すべく、中空導管を用いて構成され、当該中空導管内に水又は油等の冷却媒体を流通させている。これにより、コイル温度をH種絶縁の許容最高温度以下に保つことができ、コイル寸法も小さくすることができる。
【0023】
接離移動機構4は、各環状鉄心2毎に設けられ、各環状鉄心2の第1鉄心要素21及び第2鉄心要素22が互いに接触してそれら鉄心要素21、21が閉磁路を形成する接触位置P、及び、第1鉄心要素21及び第2鉄心要素22が離間する離間位置Qの間で、第2鉄心要素22を移動させるものである。
【0024】
具体的な構成は、図5(A)に示すように、第1鉄心要素21に対して第2鉄心要素22を接触位置P及び離間位置Qの間で回転移動させるもの、図5(B)に示すように、第1鉄心要素21に対して第2鉄心要素22を接触位置P及び離間位置Qの間で上方又は側方にスライド移動させるもの等が考えられる。
【0025】
図5(A)に示す接離移動機構4に関しては、第2鉄心要素22を所定の回転軸を有するヒンジ部41によって第1鉄心要素21に対して回転可能に支持し、例えば駆動モータ又は油圧シリンダ等の駆動機構を用いて第2鉄心要素22を接触位置P及び離間位置Qの間で回転移動させる。一方、図5(B)に示す接離移動機構4に関しては、第2鉄心要素22をレール部材42によってスライド可能に支持し、例えば駆動モータ又は油圧シリンダ等の駆動機構を用いて第2鉄心要素22を接触位置P及び離間位置Qの間でスライド移動させる。
【0026】
拡縮移動機構5は、複数の環状鉄心2が環状金属体Wのサイズに対応した位置となるように、複数の環状鉄心2を移動させるものである。本実施形態の拡縮移動機構5は、全ての環状鉄心2をその環状配置の中心Oに対して放射状に進退移動させるものである。つまり、各環状鉄心2それぞれは、図1中O−S方向、O−R方向及びO−T方向に移動する。また、各環状鉄心2には接離移動機構4がそれぞれ設けられており、拡縮移動機構5は、環状鉄心2とともに接離移動機構4も併せて前記方向に移動させる。
【0027】
その具体的な構成は、図1に示すように、環状配置の中心Oに対して放射状に延設され、環状鉄心2がスライド可能に載置されるレール部材51と、当該レール部材上で環状鉄心2を中心Oに対して進退移動させる例えばボールねじを用いた直動駆動機構(不図示)とを備えている。なお、拡縮移動機構5は、環状配置の中心Oに対して放射状に延設され、環状鉄心2がスライド可能に載置されるレール部材51のみを有し、ユーザが手動で位置決めした後、図示しない固定機構によって固定するように構成しても良い。
【0028】
次に、本実施形態の環状金属加熱装置100の用いた比較例について説明する。なお、以下の比較例において環状金属体Wは、アルミニウム合金製のものである。
【0029】
まず、環状金属体Wの中空部内に環状鉄心2を1つ設けた場合と、環状金属体Wの中空部内に環状鉄心2を4つ周方向に等分配置した場合と、環状金属体Wの中空部外に環状鉄心2を4つ周方向に等分配置した場合との実測データを図6に示す。また、それぞれの場合の力率特性を図7に示す。この図7から分かるように、1つの環状鉄心2を配置した場合及び外部に配置した場合に比べて複数の環状鉄心2を内部に配置した場合の方が、力率を向上させて、効率良く環状金属体Wを加熱できることが分かる。
【0030】
次に、4つの環状鉄心2により環状金属体Wを加熱した場合において、各環状鉄心2に設けられる入力巻線3を並列接続した場合と、直列接続した場合の昇温特性の比較を行った。このときの温度測定ポイントを図8に示す。図9は、並列接続した場合の各測定ポイントにおける昇温特性を示すグラフであり、図10は、直列接続した場合の各測定ポイントにおける昇温特性を示すグラフである。
【0031】
これらのグラフを比較すると、(1)並列接続の場合、450℃での容量は6.3kW、450℃での力率は0.713、450℃までの昇温時間は3.5分であり、(2)直列接続の場合、450℃での容量は3.2kW、450℃での力率は0.725、450℃までの昇温時間は11.0分である。
【0032】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る環状金属加熱装置100によれば、環状金属体Wの周方向に沿って複数の環状鉄心2を設け、入力巻線3に交流電圧を印加することによって、環状金属体Wに短絡電流が流れて誘導発熱するので、環状金属体Wを効率良く加熱することができる。また、環状鉄心2を複数設けることによって、環状鉄心2と環状金属体Wとの磁気結合を良くすることができ、力率を向上させることができる。さらに、拡縮移動機構5によって複数の環状鉄心2の少なくとも1つを移動させることによって、開口サイズ(中空部2Sのサイズ)の異なる環状金属体Wを複数の環状鉄心2内に装着することができ、その環状金属体Wを加熱することができる。
【0033】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0034】
例えば、前記実施形態の環状金属体は、円環状をなすものであったが、その他、楕円環状又は多角環状をなすものであっても良い。
【0035】
また、前記環状鉄心は、上部が開放するものであったが、下部が開放するものであっても良い。
【0036】
さらに、環状鉄心は、2つの鉄心要素からなるものであったが、3つ以上の鉄心要素から構成しても良い。この場合、接離移動機構は、環状金属体を着脱交換可能とする範囲であれば、1つの鉄心要素を移動させるものであっても良いし、2つ以上の鉄心要素を移動させるものであっても良い。
【0037】
加えて、前記実施形態の2つの鉄心要素をいずれも概略コの字形状をとして、それらの開口端部を合わせることによって環状鉄心を構成するようにしても良い。
【0038】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0039】
100 ・・・環状金属加熱装置
W ・・・環状金属体
2 ・・・環状鉄心
21、22・・・鉄心要素
3 ・・・入力巻線
P ・・・接触位置
Q ・・・離間位置
4 ・・・接離移動機構
5 ・・・拡縮移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物である環状金属体の周方向に沿って当該環状金属体が貫通するように設けられ、互いに接離可能な複数の鉄心要素からなる複数の環状鉄心と、
前記各環状鉄心の一部に巻装され、交流電圧が印加される入力巻線と、
前記複数の鉄心要素が互いに接触して閉磁路を形成する接触位置、及び、前記複数の鉄心要素の少なくとも1つが離間して環状金属体が着脱交換可能な離間位置の間で、前記複数の鉄心要素の少なくとも1つを移動させる接離移動機構と、
前記複数の環状鉄心が環状金属体の開口サイズに対応した位置となるように、前記複数の環状鉄心の少なくとも1つを移動させる拡縮移動機構と、を具備する環状金属加熱装置。
【請求項2】
前記入力巻線が、前記環状鉄心における前記環状金属体の中空部内に巻装されている請求項1記載の環状金属加熱装置。
【請求項3】
前記複数の環状鉄心が、前記環状金属体の周方向に沿って等分配置されている請求項1又は2記載の環状金属加熱装置。
【請求項4】
前記環状鉄心が、カットコア型の巻鉄心を用いて構成されている請求項1、2又は3記載の環状金属加熱装置。
【請求項5】
前記入力巻線が中空導管を用いて構成され、当該中空導管内に冷却媒体を流通させている請求項1、2、3又は4記載の環状金属加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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