説明

甘松香を使用した鎮静剤

【課題】 甘松香を使用した鎮静剤を提供する。
【解決手段】 甘松香をブチレングリコールに浸漬して甘松香エキスを調製する。またこの甘松香エキスをゲル化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甘松香を使用した鎮静剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来東洋医学において、心腹の満痛、胃痛、食欲不振、ヒステリー、不眠症等のストレス性疾患に対する漢方植物甘松香の効能は周知であり、その用法は煎じて服用するか、丸剤、散剤としての経口摂取に限定されていた。
【0003】
一方甘松香について、家兎やマウスを用いた中枢鎮静作用の薬理試験において、代表的な鎮静作用をもつ薬用植物である吉草根(ワレリアナ根)と類似の効果は実証されたが、毒性が吉草根よりもやや強いためにその摂取容量や摂取方法に高度な専門性が要求されることから、その薬理効果の十分な活用には至らなかった。
【0004】
現在わが国において睡眠障害人口は2,000万人ともいわれ、その約7割はストレス性睡眠障害であるとされている。このような状況下において、他の薬剤との併用の忌避や副作用の問題など、市販薬および医療機関の調剤薬剤など既存の抗ストレス薬、睡眠薬が抱える問題、課題は極めて大きく、そのため多数のストレス性睡眠障害者の使用に著しい制限が課せられているのが実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、簡単な取扱いでストレスの鎮静やストレス性睡眠障害を改善することができる、甘松香を使用した鎮静剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するため本発明によれば、ブチレングリコールに甘松香を浸漬して甘松香エキスを調製する。
【0007】
更に本発明によれば、ブチレングリコールに甘松香を浸漬して甘松香エキスを調製し、これをゲル化する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、甘松香の中枢鎮静作用および精神安定作用をもたらす揮発性芳香物質とされるナルドシノン(nardosinone)やバレラノン(valeranone)をブチレングリコールを溶媒として抽出することにより、甘松香揮発性芳香物質成分の効率的かつ有効な抽出が可能になるとともにその適用性は飛躍的に拡大する。しかもブチレングリコールは適度な湿潤性、良好な溶解性および抗菌性を有し、かつ皮膚に対する刺激がなく、毒性が極めて低いので、甘松香エキス又はそのゲルを直接肌等に塗布することができる。
【0009】
更に甘松香エキスをゲル化することによって、皮膚への影響を一層軽減し、抗炎症性、抗菌性、保存性を高めることにより、ストレス性睡眠障害を抱える幅広い年代層の人の皮膚等への塗布が可能になった。また甘松香エキスのゲル化により、甘松香の芳香物質成分の長時間かつ局所的、密閉的な肌への定着が可能になるとともに、第3者へ与える芳香の影響を著しく制限できる。更に、ゲル化して容器に充填することによる携帯性の向上はもとより、その半透明という性状から、使用に際して美容外観上の問題、場所、時間等の問題といった制限を受けないことから、機能性、利便性が大幅に拡大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
【0010】
まず甘松香の乾燥根茎をミキサーで粉砕する。溶媒としてのブチレングリコール(BG)に、約10重量%の甘松香を浸漬し、3日間45℃に加湿放置し、室温に戻した後にろ過し、甘松香BGエキスを調製する。
【0011】
この甘松香BGエキスは、芳香剤としての入浴関連製品、寝具、更に医薬・衛生関連製品等ストレス、安眠対策を目的とした生活雑貨への適用が可能である。
まず入浴関連製品に関しては、石鹸の製造過程における動物油脂又は植物油脂に水酸化ナトリウムを反応させ、精製水を添加して塩分析させる鹸化の工程において、甘松香BGエキスを10〜30重量%程度配合することにより、甘松香の揮発性芳香物質成分の石鹸への有効な適用が可能である。また同様に、ボディーソープの製造過程において動物油脂又は植物油脂に水酸化カリウムを反応させ、精製水を添加する工程において、甘松香BGエキスを10〜30重量%程度配合することにより、同じく甘松香の揮発性芳香物質成分の有効な適用が可能となった。
また寝具関係製品に関しては、枕への適用として、シリコンゴム製造過程におけるケイ素と過酸化酸素の架橋時に甘松香BGエキスを10〜50重量%配合したものをベース生地として、球状又は板状に加熱成型したものを枕内に入れることにより、甘松香の揮発性芳香物質成分の長期間活用が可能となった。
なお球状製品の場合、直径3〜10mmの大きさのものを枕全体又は容積の30%相当量以上の割合で不織布又はメッシュ状の布製の袋に入れたものを枕内に設置して使用する。また板状製品に関しては、横約300mm、縦約200mm、厚さ約10mmのものを、枕カバーの下又は枕内に設置して使用するのが適当である。球状製品、板状製品いずれの場合も、揮発性芳香効果の有効性から、約1カ月を目安に新しいものと交換することが好ましい。
更に甘松香BGエキスを絹のたんぱく質セシリン等でマイクロカプセル化し、絹、木綿、ポリエステル,不織布等の繊維に加工処理した甘松香マイクロカプセル加工布の製造によって、枕カバーや敷布、毛布、布団、肌掛等幅広い寝具へ甘松香の揮発性芳香物質成分の適用が可能と成った。
なお甘松香マイクロカプセル加工布に関しては、不織布や木綿を素材とした枕カバーおよび市販バスタオルサイズの簡易肩当て敷布、更に簡易布団掛等への適用により、更に甘松香の揮発性芳香物質成分活用の利便性および経済性が高められる。また甘松香BGエキスを特殊紙や不織布にオフセット印刷、シルク印刷および含浸等の方法によりコーティングすることにより、同様に簡易枕カバーおよび簡易肩当て敷布、簡易布団掛等への甘松香の揮発性芳香物質成分の有効な適用が確かめられた。
医薬・衛生関連製品としては、甘松香マイクロカプセル加工又は甘松香BGエキスの含浸またはコーティング処理した特殊紙および不織布製のマスクおよびマスク内への装着具への適用、また、甘松香BGエキスと精製水と窒素との混液による携帯性のストレス対策用芳香ミスト・スプレーへの適用がある。この場合、BGエキスと精製水との混合割合に特別な制限はないが、精製水1に対し甘松香BGエキス1程度の混液が有効かつ多目的な使用が可能となり、好ましい。
更に同様に精製水1:甘松香BGエキス1相当混液をポリエチレンテレフタレート製ボトルに充填し、市販の超音波式加湿器用補填液として使用することにより、ストレス対策ルームフレッシュナーとしての甘松香の揮発性芳香物質成分の恒常的活用が可能となった。
同様に、甘松香BGエキスの原液および精製水混液のアロマ機能を装備した空気清浄器、芳香機器への活用等においても、甘松香の揮発性芳香物質の有効かつ恒常的活用が可能となる等、ストレス、安眠対策を目的とした生活雑貨への幅広い汎用性が確かめられた。
【実施例2】
【0012】
まず実施例1の甘松香BGエキスを調製する。
続いて、甘松香BGエキス91.9重量%に無変95%エタノール抽出甘松香エキス5.0重量%、サンダルウッド精油0.1重量%、スイスCIBAスペシャリティーケミカルズ社製ゲル化剤のサルケア・SC96を3.0重量%調合し、真空攪拌器において1時間攪拌してゲル化し、こうして生成されたゲルを、ポリエチレン製チューブ又はポリエチレンテレフタレート製スプレー容器に充填する。
なお無変95%エタノールの添加は揮発性を高めることを目的としたもので、揮発性および皮膚への刺激性等の影響を考えた場合5%が好適である。同様にサンダルウッド精油の添加に関しても、ラベンダー、マンダリン、沈香、カモミール、ローズ、スイートマジョラム、ジャスミン等の芳香植物の精油等を使用することも可能であるが、甘松香のもつ強烈なテレピン油の芳香の緩和の目的および芳香物質が有する中枢鎮静作用を阻害しないものであることが前提であり、そのことからサンダルウッド精油を使用するのが好ましい。
【0013】
西洋医学においては、松果体、視交叉上核、大脳辺縁系など脳の睡眠系の中枢が集中する部位とされ、体芯温度を測定する部位ともなっている。これらの部位に甘松香ゲルを2〜3滴(約0.8〜1.2g)すり込むように塗る。それにより、芳香物質成分の揮発および体芯温度の補助作用によって甘松香ゲルが暖められることにより、芳香物質成分の持続的分散が行われる。これにより、効果的な芳香の吸引および皮膚浸透作用による直接的な中枢鎮静効果が得られる。
また鼻の頭周辺に甘松香ゲルを2〜3滴(約0.8〜1.2g)すり込むように塗る。それにより、甘松香ゲルの揮発性芳香物質成分が鼻腔上部の嗅上皮に直接的に作用することにより、嗅神経から脳の中枢に作用し、鎮静をもたらす。
更に左右の乳首を結んだ線の中央部の胸部周辺部位に甘松香ゲル2〜3滴(約0.8〜1.2g)を約1分間ほど、マッサージするように塗ることにより、ツボ刺激効果を促すとともに、直接的な芳香効果とともに下着等に芳香成分が付着することにより間接的かつ長時間の芳香効果が得られる。
【0014】
脳波α波によるストレス鎮静効果試験。20代から60代までのなんらかのストレス性睡眠障害をもつ男女(男性3名、女性2名)を被験者として、甘松香BGゲルの揮発性芳香成分によるストレス鎮静効果について、脳波計を用いてα波測定試験を実施した。
各被験者とも試験会場到着後約30分間の休息後、安静時および甘松香BGゲル使用時のα波の変化を測定した。甘松香BGゲルは、顔の眉間、鼻頭周辺および前胸部の各部位に2〜3滴(約0.8〜1.2g)ずつ塗布した。
いずれの試験においても安静時と比較し、甘松香BGゲルの使用時に後頭部及び前頭中央部にα波の増大が認められた。一般に、脳波のなかでα波の占める割合が多くなるに従い、ストレス鎮静かつリラックス状態にあるといわれており、このことから、甘松香BGゲルの使用により、ストレス鎮静、リラックス効果がもたらされたものと考えられる。
【0015】
唾液中コルチゾール濃度を指標としたストレス鎮静効果試験。20代から60代までのなんらかのストレス性睡眠障害をもつ男女(男性3名、女性2名)を被験者として、甘松香BGゲルの芳香成分によるストレス鎮静効果について、唾液中コルチゾール濃度を指標としたストレス鎮静効果試験を実施した。
各被験者とも試験会場(温度26±1℃)に到着して約30分間の休息後、甘松香BGゲル使用直前の安静時と甘松香BGゲル使用30分後の2時点において、各被験者が甘松香BGゲルによって、日常のストレス状態にどの程度影響を受けたかについて、唾液中コルチゾール濃度を指標として検討した。
なお、甘松香BGゲルは、顔の眉間、鼻頭周辺および前胸部の各部位に2〜3滴(約0.8〜1.2g)ずつ塗布した。
また唾液の採取および唾液中コルチゾール濃度測定に関する唾液摂取の方法としては、コルチゾール濃度に対する食事の影響を考慮し、被験者は12時30分頃までに昼食を済ませるとともに実験1時間前の飲食の禁止を義務づけ、SALIVETTEを使用した。コットンを口の中に入れ1分間よく噛んで唾液2.0ml以上を採取したあとに保冷器(−25℃)で一時的に保管した。唾液中のコルチゾール濃度測定については、遠心分離後、RIA法を用いた。
その結果は次の通りである。

甘松香BGゲルの使用後5名の平均コルチゾール濃度は、被験者の個体性による差異は認められるものの、使用前後の差の平均値は0.102となり、これは有意とされる数値(P<0.01)を大きく上回る結果となった。この研究により次のような結果を得た。すなわち被験者5名共全員の唾液中コルチゾール濃度は、甘松香BGゲル使用直前の安静時の値より甘松香BGゲル使用30分後の値が低レベルであった。このことから、甘松香BGゲルを使用することにより、日常生活から受けている何らかの心理的ストレスから開放されることが示唆された。
【0016】
医療機関における臨床試験。20代から70代までのなんらかのストレス性睡眠障害を訴える男女の患者30名(男性10名、女性20名)を対象に、甘松香BGゲルの芳香成分による睡眠障害改善効果について試験を実施した。
各被験者に甘松香BGゲル7ml入りスプレー1本ずつ、約1週間使用分および使用説明書ならびにアンケート用紙を配布し、就寝時に顔の眉間、鼻頭周辺および前胸部の各部位に1〜2滴(約0.4〜0.8g)ずつ塗布を依頼した。アンケート用紙の記入および聞き取りによって症状の改善効果およびQOLの改善効果について調査を実施した。
その結果約6割の被験者になんらかの睡眠障害の改善効果、およびそれに伴うQOLの改善効果がみられた。このことは、甘松香BGゲルを使用することにより、被験者が睡眠障害の主要因であるストレスから解放又は鎮静化されることによって、睡眠障害の改善およびQOLの改善が生じたものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチレングリコールに甘松香を浸漬して甘松香エキスを調製することを特徴とする、甘松香を使用した鎮静剤。
【請求項2】
ブチレングリコールに甘松香を浸漬して甘松香エキスを調製し、これをゲル化することを特徴とする、甘松香を使用した鎮静剤。

【公開番号】特開2007−191456(P2007−191456A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35728(P2006−35728)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(505117836)株式会社ビー・エム・シー (1)
【Fターム(参考)】