説明

生きた微生物の固定化方法および調製方法

【課題】微生物を生きた状態で一つずつ個別にまたは少ない集団で基板表面上に固定化して配置できる新たな手段、およびこの新たな手段を用いて固定化した微生物を生きた状態で剥離する手段を提供する
【解決手段】(1)少なくとも一部が電極である基板表面上に、微生物を含有する溶液を電解液として配置し、電極に定電位を印加して、微生物の少なくとも一部を基板表面に付着させる工程を含む、生きた微生物の固定化方法。工程(1)における定電位は、-0.5V超、-0.2V以下(vs Ag/AgCl)または+0.2V超、+0.4V以下(vs Ag/AgCl)である。工程(1)における電解液は、微生物に対する栄養源を含有しない。工程(1)及び(2)電極に高周波変動電位を印加して、基板表面に付着した微生物を生きた状態で剥離する工程を含む生きた微生物の調製方法。工程(2)における高周波変動電位は、周波数が1KHz〜10MHzの範囲であり、かつ±1.0V(vs Ag/AgCl)またはそれより小さい電位の幅とする。工程(2)における電解液は塩分濃度が10g/L以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定電位電解を利用した生きた微生物の固定化方法およびこの固定化方法を利用した生きた微生物の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を担体に捕捉また固定化することが知られている(特許文献1)。特許文献1に記載の発明は、担体上に任意の面積、任意の形状で迅速に微生物膜を作成する方法であって、作成する生物膜の微生物種を制御する方法である。
【0003】
排水処理に用いられている生物膜法は、担体上に膜状に付着した微生物群による汚濁物質分解作用を利用した浄化方法である。この生物膜法の運転開始時には担体上に生物膜を付着させる必要がある。しかし従来は、担体を活性汚泥や微生物の培養液に浸漬し、微生物が自然に担体に付着するのを待つだけで、生物の付着は成り行き任せであり、付着面積、付着形状あるいは付着する微生物種を制御することは困難であった。特許文献1の記載によれば、この点を解消する目的で特許文献1に記載の発明は提供されたものである。
【0004】
特許文献1に記載の発明(請求項1)は、不均一電場を発生させることが可能な電極を設けた基板を、微生物を含む液中に配置させるとともに、前記電極に交流電圧を印加して前記液中に不均一電場を発生させ、特定の微生物細胞の誘電率を媒質の誘電率より大きくすることにより、前記特定微生物を選択的に基板上に付着させることを特徴とする微生物膜の作成方法である。
【0005】
ところで、動物細胞については、細胞を1つ1つのレベルで特定し、選別し、選別された細胞を用いる試みがなされている。例えば、1つ1つのリンパ球の抗原特異性を個別に検出し、さらに検出された1つの抗原特異的リンパ球を回収し、回収された1つの抗原特異的リンパ球を用いて、例えば、抗体を製造することが検討されている(特許文献2)。特許文献2では、抗原特異的リンパ球を検出するためにマイクロウェルアレイチップを用いている。このマイクロウェルアレイチップは、各マイクロウェルの形状及び寸法が、1つのマイクロウェルに1つのリンパ球のみが格納される形状及び寸法を有するものである。
【0006】
動物細胞を基板表面で培養すると細胞外マトリクスと呼ばれる接着タンパク質を細胞外に形成し、細胞を基板表面に付着することが知られている。このように基板表面に付着した細胞を剥離して利用することも知られている。剥離方法として電気的刺激を利用することが知られている(特許文献3〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−161359号公報
【特許文献2】特開2004−173681号公報
【特許文献3】特開2008−295382号公報
【特許文献4】特開2005−312343号公報
【特許文献5】特開平10−42857号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Manome et al., FEMS Microbiol. Lett. 197, 29-33 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまで微生物については、1つ1つのレベルまたは少ない集団のレベルで特定し、選別し、選別された微生物を生きた状態で用いる試みはなされていない。特許文献1に記載の方法は、微生物膜を作成する方法であって、微生物を1つ1つのレベルまたは少ない集団のレベルで固定化し、これを特定することは記載していない。さらに、特許文献1には、固定化した微生物を生きた状態で剥離(脱固定化)することの記載もない。特許文献3〜5にも固定化した微生物の剥離については、記載はない。
【0010】
従来、基板上の特定位置に微生物を配置制御する技術はなかったため、微生物のスモールスケールでの解析はセルソーターによる手法が主流である(非特許文献1)。
【0011】
しかし、セルソーターによる微生物の解析は、土壌微粒子に複数個の微生物が強固に付着しているため、土壌中に生息する微生物をsingle cell レベルで直接解析することが極めて困難であった。
【0012】
本発明は、微生物を生きた状態で一つずつ個別にまたは少ない集団で基板表面上に固定化して配置できる新たな手段、およびこの新たな手段を用いて固定化した微生物を生きた状態で剥離(脱固定化)する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、生きた微生物(原核生物)を分散させた栄養源を含まないバッファを電解液として、電気化学反応の生じない、微弱な電位を印加することで、陰極基板上に生きた微生物を付着させることができることを見出した。さらに、この方法で電極基板上に付着した微生物(原核生物)は、電極に高周波変動電位を印加することで、ほとんどダメージを受けることなく、電極表面上から生きた状態で定量的に剥離・回収することができることも見出した。これらの知見に基づいて本発明はなされた。
【0014】
本発明は以下の通りである。
[1]
(1)少なくとも一部が電極である基板表面上に、微生物を含有する溶液を電解液として配置し、前記電極に定電位を印加して、前記微生物の少なくとも一部を前記基板表面に付着させる工程を含む、生きた微生物の固定化方法であって
工程(1)における前記定電位は、-0.5V超、-0.2V以下(vs Ag/AgCl)または+0.2V超、+0.4V以下(vs Ag/AgCl)であること、及び
工程(1)における電解液は、微生物に対する栄養源を含有しないこと、
を特徴とする、前記方法。
[2]
(1)少なくとも一部が電極である基板表面上に、微生物を含有する溶液を電解液として配置し、前記電極に定電位を印加して、前記微生物の少なくとも一部を前記基板表面に付着させる工程、及び
(2)前記電極に高周波変動電位を印加して、前記基板表面に付着した微生物を生きた状態で剥離する工程、を含む生きた微生物の調製方法であって、
工程(1)における前記定電位は、-0.5V超、-0.2V以下(vs Ag/AgCl)または+0.2V超、+0.4V以下(vs Ag/AgCl)であること、
工程(2)における前記高周波変動電位は、周波数が1KHz〜10MHzの範囲であり、かつ±1.0V(vs Ag/AgCl)またはそれより小さい電位の幅とすること、及び
工程(1)における電解液は、微生物に対する栄養源を含有しないこと、
工程(2)における電解液は、塩分濃度が10g/L以下であることを特徴とする、前記調製方法。
[3]
工程(1)における前記電解液は塩分濃度が10g/L以下である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]
工程(1)及び(2)における前記電解液はリン酸緩衝液(Ca2+、Mg2+不含)である、[1]または[2]に記載の方法。
[5]
工程(1)における前記電解液は人工海水または天然海水であり、工程(1)における前記定電位は、-0.4V超、-0.2V以下(vs Ag/AgCl)または+0.2V超、+0.4V以下(vs Ag/AgCl)である、[1]または[2]に記載の方法。
[6]
前記高周波変動電位は、矩形波、正弦波、または三角波である、[2]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
前記基板表面は、全面が電極である[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
前記基板表面は、一部が電極であり、工程(2)において電極表面上及び電極近傍の非電極表面上の微生物を生きた状態で剥離する[2]〜[7]のいずれかに記載の調製方法。
[9]
剥離した微生物を、さらに培養して微生物を増殖する工程を含む、[2]〜[8]のいずれかに記載の調製方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、微生物(原核生物)を生きた状態で電極表面上に付着させることが可能である。さらに本発明によれば、電極表面上に付着させる微生物を生きた状態で回収することができる。これらの方法は、グラム陰性菌である大腸菌とグラム陽性菌である枯草菌でも可能である。
【0016】
本発明は、土壌中の様々な微生物を電極基板上へ誘引、付着させることにより、動物細胞で行われているsingle cell 解析のような、共焦点レーザー顕微鏡のような高機能光学顕微鏡を用いた、単一細胞間における遺伝子やタンパク質発現の比較解析が微生物においても可能となる。さらに解析後に微生物を回収することもできる。
【0017】
さらに本発明の方法によれば、多剤耐性菌が混入した血液製剤などからの電気的な除菌やお風呂など水中に存在する微生物の除菌も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1−1】電極チェンバーの写真と模式図を示す。
【図1−2】微生物の電極上への誘引付着と剥離回収の説明図を示す。
【図2】実施例1の土壌微生物の電極への誘引結果を示す。
【図3】実施例2の大腸菌と枯草菌の電極上への誘引付着と剥離回収結果を示す。
【図4】実施例3の土壌微生物の電極上への誘引付着結果を示す。
【図5】実施例4の土壌微生物の電気的剥離結果を示す。
【図6】実施例5の各種バッファ中における微生物の誘引付着結果を示す。
【図7】実施例5の人工海水中における微生物の誘引付着結果を示す。
【図8】比較例1の培地中での微生物の電極上への誘引結果を示す。
【図9】比較例2の280mMマンニトール水溶液中での微生物き電極上への誘引結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<生きた微生物の固定化方法>
本発明の第1の態様は、生きた微生物の固定化方法に関する。
この方法は、少なくとも一部が電極である基板表面上に、微生物を含有する溶液を電解液として配置し、前記電極に定電位を印加して、前記微生物の少なくとも一部を前記基板表面に付着させる工程(1)を含む。さらに、工程(1)における前記定電位は、-0.5V超、-0.2V以下(vs Ag/AgCl)または+0.2V超、+0.4V以下(vs Ag/AgCl)であること、及び工程(1)における電解液は、微生物に対する栄養源(培地)を含有しないことを特徴とする。
【0020】
工程(1)
工程(1)は、少なくとも一部が電極である基板表面上で定電位を印加する工程である。少なくとも一部が電極である基板としては特に制限はない。前記基板表面は、全面が電極であっても、一部が電極であり、一部は、非電極(基板)であってもよい。さらに、少なくとも一部が電極である基板は、例えば、電極以外の基板に電極層を設けたものであっても、カーボン電極等のように全体が電極であるものであってもよい。電極以外の基板に電極層を設けたものの場合、基板は、絶縁性の基板の表面の一部または全部に電極を有するものであることができる。そのような電極を有する基板は、例えば、スライドガラスに酸化インジウム(ITO)をコーティングしたものであることができる。但し、絶縁性の基板は、スライドガラスに限定される意図ではなく、非導電性の固体であれば特に制限はなく、非導電性の有機材料や無機材料からなるものであることができる。非導電性の有機材料や無機材料としては、ガラス以外に、例えば、プラスチックやセラミックス等を挙げることもできる。電極は、酸化インジウム(ITO) に限定される意図ではなく、公知の電極材料からなるものを適宜利用できる。
【0021】
基板に電極層を設けたもの場合、基板表面の全部に電極層を設けたもの、電極基板の表面の一部に電極層を設けたもののいずれであってもよく、電極基板の表面の一部に電極層を設けたものの場合、電極層は例えば、アレイ状であっても縞状であってもよい。電極層の大きさ(面積や寸法)は適宜決定できる。例えば、電極の面積は、例えば、1〜900cm2の範囲であることができる。
【0022】
また、アレイ状とは、例えば、縦列及び横列それぞれに複数の微小領域として、電極層が配置されることを意味する。縦列及び横列それぞれの微小領域の数は特に制限はなく、微生物の種類(サイズ)や微生物をアレイ状に配置した基板の利用目的等に応じて適宜決定できるが、例えば、縦10〜105×横10〜105の範囲であることができる。但し、この範囲に限定される意図ではない。アレイ状電極層表面の形状は、矩形(三角形、正方形、長方形、多角形等)や円形、楕円形等、適宜決定できる。アレイ状の各電極表面の寸法は、1つの電極表面に1つの微生物が付着できる寸法であることができる。微生物の寸法は、様々であるので、付着させる微生物の寸法に応じて、電極表面の寸法は適宜決定できる。また、アレイ状の各電極表面の寸法は、1つの電極表面に2つ以上の微生物が付着できる寸法であることもできる。さらに、各電極の間隔も、例えば、25〜100μmの範囲であることができる。
【0023】
また、縞状の電極層は、例えば、同じ幅の帯状の電極層を等間隔または異なる間隔で複数設けたもの、異なる幅の帯状の電極層を等間隔または異なる間隔で複数設けたもののいずれであってもよい。帯状の電極層の幅及び帯状の電極層の間の間隔は、特に制限はないが、いずれも独立に例えば、25〜100μmの範囲であることができる。
【0024】
後述するが、工程(2)においては、電極表面上のみならず、電極近傍の非電極表面上の細胞も剥離でき、非電極表面上で剥離できる細胞は、電極からの距離が、高周波変動電位の周波数と電位にもよるが、約100μm以内である。従って、アレイ状及び縞状いずれの場合も、電極の間隔も、上記25〜100μmの範囲であれば、非電極表面上の細胞も剥離できる。
【0025】
基板表面へのアレイ状または縞状電極層の形成は、例えば、基板表面に電極層をコーティングし、アレイ状または縞状電極表面用のマスクを電極層表面に形成し、次いで、マスクを介して電極層表面をエッチングし、マスクを除去することで形成することができる。あるいは、基板表面へのアレイ状または縞状電極表面の形成は、基板表面に電極層をアレイ状または縞状電極表面用のマスクを介してコーティングし、次いでマスクを除去することで形成することができる。電極層の形成や電極層表面のエッチング等は、常法を用いて適宜実施できる。
【0026】
工程(1)では、微生物を含有する溶液を電解液として配置し、前記電極に定電位を印加して、前記微生物の少なくとも一部を前記基板表面に付着させる。工程(1)における前記定電位は、-0.5V超、-0.2V以下(vs Ag/AgCl)または+0.2V超、+0.4V以下(vs Ag/AgCl)である。実施例において具体的に示すように、微生物を付着させる電極に印加される定電位が、上記範囲である場合に、電解液に含まれる微生物は、特異的に電極に生きた状態で付着する。電極に印加される定電位が上記範囲を外れると、微生物は電極に付着しないか、あるいは電極に付着はしても生きた状態ではなくなる。上記定電位は、Ag/AgClを参照電極として表示をしているが、Ag/AgCl以外の参照電極を用いて表示することも可能であり、Ag/AgCl以外の参照電極を用いて表示した定電位であっても、Ag/AgClを参照電極として表示した場合に上記範囲であれば、本発明の条件を満たすことは理解されるべきである。尚、Ag/AgClを参照電極として表示した場合に、-1.06Vが水素発生電位であり、+1.69Vが酸素発生電位である。
【0027】
電極への定電位の印加時間は、微生物の種類、電解液の種類、電解液中の微生物の濃度、印加される電位等を考慮して、適宜決定できるが、例えば、1〜48時間の範囲とすることができる。
【0028】
さらに、工程(1)における電解液は、微生物に対する栄養源を含有しない。上記定電位の印加による微生物の基板表面への付着は、電解液が、電解液に含まれる微生物に対する栄養源を含まない場合にのみ生じることである。電解液が、電解液に含まれる微生物に対する栄養源を含む場合には、理由は定かではないが、微生物は電極に付着しない。微生物に対する栄養源とは、微生物の培養に必要な栄養源であり、通常の微生物培養に用いられる培地の成分の一部または全部である。より具体的に、上記電解液に含まれない栄養源とは、例えば、糖、タンパク質、アミノ酸、脂肪酸、脂質、核酸などである。
【0029】
また、「栄養源を含有しない」とは、微生物の生育に実質的に寄与できない微量の栄養源の含有を排除するものではない。微生物を含有するサンプルから微生物を含有する電解液を調製する際に、サンプルに含まれる栄養源を除去すること無しに、電解液の原液とサンプルを混合することで、サンプルに付随して電位の印加に供される電解液に含まれることになる微量の栄養源を含有する電解液は、本発明においては、「栄養源を含有しない」電解液と定義される。但し、微生物を含有するサンプルをそのまま電解液の原液と混合することで電解液を調製することもできるが、微生物を含有するサンプルをろ過等により、サンプルに付随する栄養源を洗浄した後に、電解液の原液と混合することで、サンプルに付随する栄養源量を低減することもできる。
【0030】
電解液中の微生物の濃度は、特に制限はないが、例えば、微生物を1つ1つ個別に電極表面に付着させたい場合には、電解液中の微生物の濃度は、比較的低い方が好ましい。但し、印加される定電位および定電位の印加時間によっても、微生物の電極への付着量は変化するので、電解液中の微生物の濃度は1つの変数に過ぎない。電解液中の微生物の濃度は、これらの観点を考慮して、適宜決定できる。
【0031】
工程(1)における前記電解液は、塩分濃度が10g/L以下であることが、微生物を生きた状態で電極に付着させるという観点からは好ましい。塩分濃度は、好ましくは、0〜10g/Lの範囲である。さらに、工程(1)における前記電解液は、緩衝液であることが、微生物を生きた状態で電極に付着させるという観点からは好ましい。緩衝液の塩分濃度も10g/L以下であることが好ましい。緩衝液としては、特に制限はないが、例えば、リン酸緩衝液(Ca2+、Mg2+不含)であることが、微生物を生きた状態で電極に付着させるという観点からは好ましい。リン酸緩衝液以外に、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)、Tricine(N-[Tris(hydroxymethyl)methyl]glysine)、HEPES(N-(2-Hydroxyethyl)piperazine-N'-(2-ethanesulfonic acid)などを用いることもできる。但し、電極への微生物の付着率が高いという観点からはリン酸緩衝液(Ca2+、Mg2+不含)が好ましい。緩衝液のpHは、微生物の種類に応じて適宜選択できるが、例えば、通常の微生物の場合には、5〜9の範囲である。
【0032】
工程(1)における前記電解液は、人工海水または天然海水であることができ、その場合の、工程(1)における前記定電位は、-0.4V超、-0.2V以下(vs Ag/AgCl)または+0.2V超、+0.4V以下(vs Ag/AgCl)であることが好ましい。人工海水または天然海水の塩分濃度は、40〜50g/L程度であり、塩濃度が高いと-0.5V〜 -0.4Vの範囲では、電極に付着した微生物の生存率が低下する傾向があるからである。
【0033】
本発明の方法で、電極表面に生きた状態で付着させることができる微生物は、特に制限はない。実施例で示すように、グラム陰性菌である大腸菌、およびグラム陽性菌である枯草菌は、電極表面に生きた状態で付着させることができる。電極表面に生きた状態で付着させることができる微生物は、限定されるものではないが、例えば、Escherichia coli, Bacillus subtilis, Bacillus halodurans, Shewanella violacea, Shewanella oneidensis, Shewanella surugensis, Kocuria rosea, Kocuria 4B, Shewanella abyssi, Shewanella kaireiticaなどであることができる。
【0034】
<生きた微生物の調製方法>
本発明の第2の態様は、生きた微生物の調製方法に関する。
この方法は、
(1)少なくとも一部が電極である基板表面上に、微生物を含有する溶液を電解液として配置し、前記電極に定電位を印加して、前記微生物の少なくとも一部を前記基板表面に付着させる工程、及び
(2)前記電極に高周波変動電位を印加して、前記基板表面に付着した微生物を生きた状態で剥離する工程、を含む。
【0035】
さらに、工程(1)における前記定電位は、-0.5V超、-0.2V以下(vs Ag/AgCl)または+0.2V超、+0.4V以下(vs Ag/AgCl)であること、工程(2)における前記高周波変動電位は、周波数が1KHz〜10MHzの範囲であり、かつ±1.0V(vs Ag/AgCl)またはそれより小さい電位の幅とすること、及び
工程(1)における電解液は、微生物に対する栄養源を含有しないこと、
工程(2)における電解液は、塩分濃度が10g/L以下であることを特徴とする。
【0036】
第2の態様における工程(1)は、第1の態様における工程(1)と同様である。
【0037】
工程(2)では、工程(1)で得られた微生物が生きた状態で付着した電極に高周波変動電位を印加して、前記基板表面に付着した微生物を生きた状態で剥離する。電極に付着した微生物及び電極近傍の非電極表面上の微生物は、高周波変動電位を印加することで剥離する。高周波変動電位は、具体的には、周波数は1KHz〜10MHz の範囲、好ましくは1〜5MHzの範囲とすることができ、電位は、例えば、±1.0V(vs Ag/AgCl)またはそれより小さい電位の幅とすることができ、例えば、±0.9V(vs Ag/AgCl)、±0.8V(vs Ag/AgCl)などにすることもできる。高周波変動電位の波形は、例えば、矩形波、正弦波、三角波等であることができる。
【0038】
工程(2)における電解液は、塩分濃度が10g/L以下である。工程(1)における電解液は塩分濃度が10g/Lを超える人工海水または天然海水であっても、電位を調整することで微生物を生きた状態で電極表面に付着させる事ができる。しかし、工程(2)においては、塩分濃度が10g/Lを超えると、微生物は生きた状態で電極表面から剥離できないことが判明した。工程(1)および(2)における電解液は同一組成であっても異なる組成であっても良く、但し、工程(2)における電解液は、塩分濃度が10g/L以下である。さらに、工程(2)における電解液は、工程(1)における電解液と同様に、栄養源を含有しない。
【0039】
さらに、高周波変動電位の印加の際には、剥離時の電解液は、カルシウム及びマグネシウムを含まない緩衝液とすることが適当である。カルシウムまたはマグネシウムを含む電解液中で高周波変動電位を印加しても、微生物は電気的に剥離出来なかったからである。高周波変動電位の印加の際には、剥離時の電解液は、例えば、リン酸緩衝液(Ca2+、Mg2+不含)[PBS(-)]、ハンクス緩衝塩(Ca2+、Mg2+不含)等であることができ、中でもPBS(-)であることが、好ましい。
【0040】
工程(2)においては、電極表面上のみならず、電極近傍の非電極表面上の微生物も剥離でき、非電極表面上で剥離できる微生物は、電極からの距離が、高周波変動電位の周波数と電位にもよるが、約100μm以内である。高周波変動電位の印加の際には、電極上の微生物には電位が直接的に印加され、非電極表面上の微生物には電位が間接的に印加される。従って、電位の印加による微生物へのストレスは、非電極表面上の微生物の方が相対的に小さく、電位の印加によって微生物の損傷が生じる場合(そのような高周波変動電位の条件)であっても、非電極表面上の微生物の方が、損傷が少ないか、または無い傾向がある。電位の印加によって微生物の損傷が生じる程の強い高周波変動電位を採用するのは、微生物の付着が強固であり、剥離しにくい場合であるので、そのような場合には、非電極表面上の微生物の剥離を優先的に行うような、電極の形状や配置、さらには、非電極表面の選択を行い、非電極表面上の微生物の剥離を積極的に行うこともできる。
【0041】
本発明の方法においては、図1-2に示すように、工程(1)において基板の電極表面または電極及び非電極表面に微生物を付着させる。付着させる微生物は、例えば、土壌サンプルのようなものであっても、あるいは微生物を含有する培養液であってもよい。これらの微生物を含有するサンプルを適宜、電解液を用いて希釈して所定の濃度に調整した後、定電位印加を実施する。定電位印加により電極及び非電極表面に微生物を付着は必要により、例えば、共焦点顕微鏡等を用いて観察することもできる。
【0042】
工程(2)においては、微生物が基板の電極表面または電極及び非電極表面に付着した電極に高周波変動電位を印加する。これにより、電極表面または電極及び非電極表面に付着した動物微生物を生きた状態で剥離することができる。
【0043】
本発明の方法において、工程(1)において基板の電極表面または電極及び非電極表面に付着した微生物の生存率は、付着させる条件によるが、例えば、50〜100%の範囲である。また、工程(2)において基板の電極表面または電極及び非電極表面から剥離・回収される微生物の生存率は、剥離させる条件によるが、例えば、50〜100%の範囲である。
【0044】
本発明の方法は、剥離した微生物を、さらに培養して微生物を増殖する工程を含むことができる。微生物を培養する方法は、微生物の種類に応じて適宜採用できる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0046】
実施例1
以下に示す手順で、図1-1に示す3電極チェンバーのITO電極上への微生物の付着および剥離を行い、生死判別を行った(図1-2参照)。
1)農薬を使用していないJAMSTECの菜園土壌0.5gをDulbecco's PBS(-) (Wako, Osaka, Japan)に加え、総量5mlとし、5分間ボルテックスで撹拌する。
2)Dulbecco's PBS(-)で104倍希釈し、10μg/mlの土壌サンプルを調整する。
3)死んだ微生物が電極に誘引されるかを検討するために、Dulbecco's PBS(-)に溶解した0.02%(w/v) アジ化ナトリウム(Wako, Osaka, Japan)で104倍希釈し、10μg/mlの土壌サンプルを調整する。または、60℃の70%EtOHで1h処理した土壌サンプルを用いた。
4)3電極チェンバー(図1-1参照)に5mlの土壌サンプル液を加え、-0.4V vs. Ag/AgCl,24h, 室温にて電位印加する。
5)24時間電位印加後、上ずみ土壌サンプルを回収し、新鮮なDulbecco's PBS(-)でITOパターン電極基板を数回軽く洗浄する。
6)新鮮なDulbecco's PBS(-)5mlを3電極チェンバーに加え、±1.0V vs. Ag/AgCl, 3MHz 矩形波電位をさらに1h, 室温にて電位印加する。
7)1時間電位印加後、上ずみPBS(-)サンプルを回収し、新鮮なDulbecco's PBS(-)でITOパターン電極基板を数回軽く洗浄する。
8)5)のITO電極上に付着している、デヒドロゲナーゼ活性を持つ生きた微生物をBacstain CTC rapid staining kit for microscopy (Dojindo, Kumamoto, Japan)で蛍光染色した後、共焦点レーザー顕微鏡(FV500, Olympus, Tokyo, Japan)で観察する。
9)5)および7)のITO電極上に付着している微生物をLive/dead Baclight bacterial viability kits (Molecular probes, Eugene, OR, USA)で蛍光染色し、共焦点レーザー顕微鏡(FV500)で生死判別をする。
10)5)および7)で回収した上ずみサンプル中の微生物をLive/dead Baclight bacterial viability kitsで蛍光染色し、ヘマサイトメーターを用いて共焦点レーザー顕微鏡(FV500)で生死判別をする。
【0047】
結果を図2に示す。
(1)土壌中の生きた微生物(原核生物)を、電気化学反応の生じない、微弱なマイナス電位を印加した電極基板上に付着させることができた(図2上段参照)。死んだ微生物は、微弱なマイナス電位を印加した電極表面に吸着しなかった(図2下段参照)
【0048】
(2)電極基板上に付着した微生物(原核生物)へ、高周波変動電位(±1.0V vs. Ag/AgCl, 3MHz, 矩形波)を印加することで、ほとんどダメージを与えずに、電極表面上から微生物を99%以上剥離・回収することができた。(図2中段)。高周波変動電位印加1時間後の電極表面上に残った微生物の生存率は91%(=517/566cells)。土壌中からの生きた菌体の回収率は84%(=154/183)で、ヘマサイトメーターで測定した結果、50マイクログラムの土壌から3x10^6個の微生物を回収することに成功した。
【0049】
実施例2
以下に示す手順で、図1-1に示す3電極チェンバーのITO電極上への微生物の付着および剥離を行い、生死判別を行った(図1-2参照)。
1)大腸菌または枯草菌を5mlのLuria-Bertani培地(LB培地, Difco laboratories, Inc., Detroit, MI, USA)で37℃にて120rpmで一晩培養する。
2)遠心処理して上ずみを捨てた後、ペレットを5mlのDulbecco's PBS(-)に再懸濁する。
3)ヘマサイトメーターでセルカウントした後、1×106cells/wellの微生物を3電極チェンバーに播種する。
4)-0.4V vs. Ag/AgCl, 24h, 室温にて電位印加する。
5)24時間電位印加後、上ずみを回収し、新鮮なDulbecco's PBS(-)でITOパターン電極基板を数回軽く洗浄する。
6)新鮮なDulbecco's PBS(-)5mlを3電極チェンバーに加え、±1.0V vs. Ag/AgCl, 3MHz 矩形波電位をさらに1h, 室温にて電位印加する。
7)1時間電位印加後、上ずみPBS(-)サンプルを回収し、新鮮なDulbecco's PBS(-)でITOパターン電極基板を数回軽く洗浄する。
8)5)のITO電極上に付着している、デヒドロゲナーゼ活性を持つ生きた微生物をBacstain CTC rapid staining kit for microscopy (Dojindo, Kumamoto, Japan)で蛍光染色した後、共焦点レーザー顕微鏡(FV500, Olympus, Tokyo, Japan)で観察する。
9)7)のITO電極上に付着している微生物をLive/dead Baclight bacterial viability kits (Molecular probes, Eugene, OR, USA)で蛍光染色し、共焦点レーザー顕微鏡(FV500)で生死判別をする。
10)5)および7)で回収した上ずみサンプル100μlをLB寒天プレートに播き、コロニーをカウントする。
【0050】
結果を図3に示す。グラム陰性菌である大腸菌とグラム陽性菌である枯草菌でも上述の電気的な付着に成功した。さらに、電極に付着した微生物を剥離できた。
【0051】
高周波変動電位印加1時間後の電極表面上に残った微生物の生存率は大腸菌が93%(=152/164cells)であり、枯草菌が40%(=140/348 cells)であった。土壌中からの生きた菌体の回収率は大腸菌が80%(=86/108コロニー)で、枯草菌が54%(=128/237コロニー)であった。
【0052】
実施例3
以下の手順で、実施例1と同様の方法で、印加する電位を変化させて土壌中の微生物を電極表面に付着させた。
1)農薬を使用していないJAMSTECの菜園土壌0.5gをDulbecco's PBS(-) (Wako, Osaka, Japan)に加え、総量5mlとし、5分間ボルテックスで撹拌する。
2)Dulbecco's PBS(-)で104倍希釈し、10μg/mlの土壌サンプルを調整する。
3)3電極チェンバーに5mlの土壌サンプル液を加え、各種定電位を24h, 室温にて電位印加する。
4)24時間電位印加後、新鮮なDulbecco's PBS(-)でITOパターン電極基板を数回軽く洗浄する。
5)ITO電極上に付着している、デヒドロゲナーゼ活性を持つ生きた微生物をBacstain CTC rapid staining kit for microscopy (Dojindo, Kumamoto, Japan)で蛍光染色した後、共焦点レーザー顕微鏡(FV500, Olympus, Tokyo, Japan)で観察する。
【0053】
結果を図4に示す。土壌中の微生物は、-0.2V、-0.3V、-0.4V vs. Ag/AgClの定電位を24時間印加した条件で、電極基板上への付着が確認された。一部の土壌中の微生物は、+0.4Vの定電位を24時間印加しても付着するタイプが確認された。
【0054】
実施例4
以下の手順で、実施例1と同様の方法で電極表面に付着させた微生物を、印加する矩形波電位を変化させて電極表面から剥離させた。
1)農薬を使用していないJAMSTECの菜園土壌0.5gをDulbecco's PBS(-) (Wako, Osaka, Japan)に加え、総量5mlとし、5分間ボルテックスで撹拌する。
2)Dulbecco's PBS(-)で104倍希釈し、10μg/mlの土壌サンプルを調整する。
3)3電極チェンバー(図1-1)に5mlの土壌サンプル液を加え、-0.4V vs. Ag/AgCl, 24h, 室温にて電位印加する。
4)24時間電位印加後、新鮮なDulbecco's PBS(-)でITOパターン電極基板を数回軽く洗浄する。
5)新鮮なDulbecco's PBS(-)5mlを3電極チェンバーに加え、±0.4V、±0.6V、±0.8V、±1.0V vs. Ag/AgCl, 3MHz 矩形波電位をさらに1h, それぞれ室温にて電位印加する。
6)1時間電位印加後、新鮮なDulbecco's PBS(-)でITOパターン電極基板を数回軽く洗浄する。
7)4)のITO電極上に付着している、デヒドロゲナーゼ活性を持つ生きた微生物をBacstain CTC rapid staining kit for microscopy (Dojindo, Kumamoto, Japan)で蛍光染色した後、共焦点レーザー顕微鏡(FV500, Olympus, Tokyo, Japan)で観察。
8)6)のITO電極上に付着している微生物をLive/dead Baclight bacterial viability kits (Molecular probes, Eugene, OR, USA)で蛍光染色し、共焦点レーザー顕微鏡(FV500)で生死判別をする。
9)4)と6)のITO電極上に付着している50×50μm2当たりの微生物量から剥離率を算出する。
【0055】
結果を図5に示す。3MHzの各種矩形波電位を1時間印加した時の、微生物の生存率と電極基板上からの剥離率を示した。±1.0Vが生存率89%、剥離率99.8%と最も良い条件で剥離できた。
【0056】
実施例5
以下の手順で、実施例1と同様の方法で、使用する電解液を変化させて土壌中の微生物を電極表面に付着させた。
1)10g/LのMOPS (Dojindo), Tricine (Dojindo), HEPES (cell culture tested, Sigma, St Louis, MO, USA)、pH7に調整する。
2)人工海水(30g/L NaCl, 0.7g/L KCl, 5.3g MgSO4-7H2O, 10.8g MgCl2-6H2O,1.0g/L CaSO4-2H2O)を調整する。
3)農薬を使用していないJAMSTECの菜園土壌0.5gを各種バッファーまたは人工海水中に加え、総量5mlとし、5分間ボルテックスで撹拌する。
4)各種バッファーまたは人工海水で104倍希釈し、10μg/mlの土壌サンプルを調整する。
5)3電極チェンバーに5mlの土壌サンプル液を加え、各種定電位を24h, 室温にて電位印加する。
6)24時間電位印加後、新鮮なDulbecco's PBS(-)でITOパターン電極基板を数回軽く洗浄する。
7)ITO電極上に付着している、デヒドロゲナーゼ活性を持つ生きた微生物をBacstain CTC rapid staining kit for microscopy (Dojindo, Kumamoto, Japan)で蛍光染色した後、共焦点レーザー顕微鏡(FV500, Olympus, Tokyo, Japan)で観察。
【0057】
(1) 各種バッファー
結果を図6に示す。-0.4V vs. Ag/AgClで24時間、10g/Lの各種バッファー中で土壌中の微生物の電気吸着を試みた。その結果、PBS(-)が最も電気的な吸着に適していた。次にMOPSバッファとTricineバッファ。HEPESは微生物の電極上への吸着を多少阻害した。
【0058】
(2) 人工海水
結果を図7に示す。人工海水は-0.3V〜+0.6V vs. Ag/AgClの間で、電流が発生せず、吸着した微生物のダメージは確認できなかった。人工海水中における微生物の電気吸着の最適条件は、-0.3Vvs. Ag/AgClであった。
【0059】
比較例1
以下の手順で、実施例1と同様の方法で、使用する電解液を培地(栄養源を含む)に替えて土壌中の微生物を電極表面に付着させた。土壌微生物が培地中でも、電極基板上に付着するか検討した。
1)農薬を使用していないJAMSTECの菜園土壌0.5gをDulbecco's PBS(-) (Wako, Osaka, Japan)に加え、総量5mlとし、5分間ボルテックスで撹拌する。
2)Luria-Bertani培地(LB培地, Difco laboratories, Inc., Detroit, MI, USA)で104倍希釈し、10μg/mlの土壌サンプルを調整する。
3)3電極チェンバー図Aに5mlの土壌サンプル液を加え、-0.4V vs. Ag/AgCl, 24h, 室温にて電位印加する。
4)24時間電位印加後、新鮮なDulbecco's PBS(-)でITOパターン電極基板を数回軽く洗浄する。
5)ITO電極上に付着している微生物をLive/dead Baclight bacterial viability kits (Molecular probes, Eugene, OR, USA)で蛍光染色し、共焦点レーザー顕微鏡(FV500)で観察する。
【0060】
結果を図8に示す。培地中では、土壌微生物は電極基板上に誘引付着しなかった。
【0061】
比較例2-1
以下の手順で、実施例1と同様の方法で、使用する電解液をマンニトール溶液に替えて土壌中の微生物を電極表面に付着させた。
1)農薬を使用していないJAMSTECの菜園土壌0.5gを280mMマンニトール水溶液 (Wako, saka, Japan)に加え、総量5mlとし、5分間ボルテックスで撹拌する。
2)280mMマンニトール水溶液で104倍希釈し、10μg/mlの土壌サンプルを調整する。
3)3電極チェンバーに5mlの土壌サンプル液を加え、-0.4V vs. Ag/AgCl, 24h, 室温にて位印加する。
4)24時間電位印加後、新鮮なDulbecco's PBS(-)でITOパターン電極基板を数回軽く洗浄る。
5)ITO電極上に付着している微生物をLive/dead Baclight bacterial viability kits Molecular probes, Eugene, OR, USA)で蛍光染色し、共焦点レーザー顕微鏡(FV500)で観察する。
【0062】
結果を図9の上段に示す。280mMマンニトール水溶液中では、本発明の条件では、微生物は電圧を印加しない場合(open circuit)と同程度にしか付着しなかった。
【0063】
比較例2-2
以下の手順で、実施例1と同様の方法で、使用する電解液をマンニトール溶液に替えて土壌中の微生物を電極表面に付着させ、次いでマンニトール溶液中で剥離させた。
1)農薬を使用していないJAMSTECの菜園土壌0.5gをDulbecco's PBS(-) (Wako, Osaka, Japan)に加え、総量5mlとし、5分間ボルテックスで撹拌する。
2)Dulbecco's PBS(-)で104倍希釈し、10μg/mlの土壌サンプルを調整する。
3)3電極チェンバーに5mlの土壌サンプル液を加え、-0.4V vs. Ag/AgCl, 24h, 室温にて電位印加する。
4)24時間電位印加後、新鮮なDulbecco's PBS(-)でITOパターン電極基板を数回軽く洗浄する。
5)280mMマンニトール水溶液5mlを3電極チェンバーに加え、±1.0V vs. Ag/AgCl, 3MHz 矩形波電位をさらに1h, それぞれ室温にて電位印加する。
6)1時間電位印加後、新鮮なDulbecco's PBS(-)でITOパターン電極基板を数回軽く洗浄する。
7)ITO電極上に付着している微生物をLive/dead Baclight bacterial viability kits (Molecular probes, Eugene, OR, USA)で蛍光染色し、共焦点レーザー顕微鏡(FV500)で観察をする。
【0064】
結果を図9の下段に示す。付着した微生物は、本発明で用いた高周波変動電位印加の条件では、ほとんど剥離せず死滅してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は微生物を扱う分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)少なくとも一部が電極である基板表面上に、微生物を含有する溶液を電解液として配置し、前記電極に定電位を印加して、前記微生物の少なくとも一部を前記基板表面に付着させる工程を含む、生きた微生物の固定化方法であって
工程(1)における前記定電位は、-0.5V超、-0.2V以下(vs Ag/AgCl)または+0.2V超、+0.4V以下(vs Ag/AgCl)であること、及び
工程(1)における電解液は、微生物に対する栄養源を含有しないこと、
を特徴とする、前記方法。
【請求項2】
(1)少なくとも一部が電極である基板表面上に、微生物を含有する溶液を電解液として配置し、前記電極に定電位を印加して、前記微生物の少なくとも一部を前記基板表面に付着させる工程、及び
(2)前記電極に高周波変動電位を印加して、前記基板表面に付着した微生物を生きた状態で剥離する工程、を含む生きた微生物の調製方法であって、
工程(1)における前記定電位は、-0.5V超、-0.2V以下 (vs Ag/AgCl)または+0.2V超、+0.4V以下(vs Ag/AgCl)であること、
工程(2)における前記高周波変動電位は、周波数が1KHz〜10MHzの範囲であり、かつ±1.0V(vs Ag/AgCl)またはそれより小さい電位の幅とすること、及び
工程(1)における電解液は、微生物に対する栄養源を含有しないこと、
工程(2)における電解液は、塩分濃度が10g/L以下であることを特徴とする、前記調製方法。
【請求項3】
工程(1)における前記電解液は塩分濃度が10g/L以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(1)及び(2)における前記電解液はリン酸緩衝液(Ca2+、Mg2+不含)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
工程(1)における前記電解液は人工海水または天然海水であり、工程(1)における前記定電位は、-0.4V超、-0.2V以下(vs Ag/AgCl)または+0.2V超、+0.4V以下(vs Ag/AgCl)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記高周波変動電位は、矩形波、正弦波、または三角波である、請求項2〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記基板表面は、全面が電極である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記基板表面は、一部が電極であり、工程(2)において電極表面上及び電極近傍の非電極表面上の微生物を生きた状態で剥離する請求項2〜7のいずれかに記載の調製方法。
【請求項9】
剥離した微生物を、さらに培養して微生物を増殖する工程を含む、請求項2〜8のいずれかに記載の調製方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−147754(P2012−147754A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10693(P2011−10693)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【Fターム(参考)】