説明

生きた藍藻を含有する液体肥料の製造方法、ならびに生きた藍藻を含有する液体肥料

【課題】
生産者が使用するに当たって、取扱いが快適、簡便であり、経済性にも優れ、且つ、高い有効性をもつ液体肥料を提供する。
【解決方法】
土壌改良剤(G)の熱水抽出液(Gex)に、Phormidium, Cylindrospermum、又はLyngbyaから選ばれる藍藻の懸濁液の少なくとも1種を添加することを特徴とする、生きた藍藻を含有する液体肥料の製造方法と、この方法により得た、生きた藍藻を含む液体肥料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌改良剤の熱水抽出液に、Phormidium, Cylindrospermum、又はLyngbyaから選ばれる藍藻の懸濁液の少なくとも1種を添加する、生きた藍藻を含有する液体肥料の製造方法と、この方法により得られる、生きた藍藻を含有する液体肥料の提供に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作物の成長促進剤に関しては、従来より様々な提案がなされており、その多くは化学合成された薬剤を希釈して散布する方法が採用されていた。たとえば、土壌改良剤として、消石灰、苦土石灰、熔性リン肥や多孔質セラミックなどがある。しかし、最近では堆肥や自然の有機肥料を使用する有機農法が盛んになり、作物の成長促進剤においても、土壌や環境面に影響を与えることのないものを開発する試みがなされている。
【0003】
水田に藍藻を撒くと収穫率が向上することはすでに知られているが、化学肥料の普及に伴い研究は中断され、もっぱらインドなどで開発研究がなされ、実践が行われてきたが、近年の報告は少ない。
【0004】
Venkataramanは、水田に付加する藍藻肥料の作り方を次のように記載している。藍藻を3−5月にインドの浅いタンクで育て、これに、畑土壌と燐化合物を混ぜ、必要であれば石灰を加えpH7.0−7.5に調整すると、藍藻は15−20日でよく増殖する。これを収穫して乾燥させ、フレーク状にする。1.6平方メートルのトレイで1ヘクタールに十分な量が生産できる。ここでの藍藻添加の目的は、窒素の補給であり、作物の窒素取り込み量が増加する報告がある。
【非特許文献1】Venkataraman GS(1981) Blue-green algae for rice production.A manual for its promotion. FAO Bulletin No.46 FAO Rome.
【非特許文献2】Soil and Rice Field. B.A.Whitton(2000) In The Ecology of Cyanobacteria. Kluwer Academic Publishers. P.233-255
【0005】
ピロール農法は、土壌に生育する藍藻類や独立栄養微生物の増殖を促すこという報告がある。ここで言うピロール資材は、糞尿などの有機物を生石灰および微量要素と共に独自の方法で混合し、高pHにしたものである。
【非特許文献3】「高カルシウム作物を作るピロール農法」 酒井弥 著(1996)農文協。
【0006】
現在の土壌改良剤は、有機物を含めた幅広い物質と作物の関わり合いにおいて開発されている。ピロール農法は、糞尿を原料とするため悪臭が著しく、又、生産者の手が炎症を起こすなど、生産者にとって扱いにくい面もあった。
【0007】
又、土壌藻類を培養し、高吸水性樹脂と一体化し、荒廃土壌や砂漠化土壌に散布し、植物生育が可能な耕地に転換する土壌改良法は知られている。この場合吸水性樹脂が自重の500〜1,000倍の水を吸収することで、高塩類濃度からの土壌藻類の生育阻害を防止することが可能であり、土壌藻のAnabaenaとNostocを使用し成長促進の効果を報告している。
【特許文献1】特開平6−80490号公報
【0008】
従来、ミネラル含有水の製法として、特殊な岩石からミネラルを抽出して使用する技術は公知である。然しながら、これら公知の方法で得られるミネラル水は、飲用水としては有効量のミネラルを含むとしても、ミネラルの含有量が低く、又、有効な有機質を含まないので、飲用水以外の用途に供されることがなかった。このため、高濃度のミネラル水を製造する方法としては、強酸性溶液中で加熱攪拌し抽出する方法が知られている。
【特許文献2】特開平5−192666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、生産者が使用するに当たって、取扱いが快適、簡便であり、経済性にも優れ、且つ、高い有効性をもつ液体肥料の製造方法と、その方法により得られた液体肥料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は液体肥料の製造方法について、土壌改良剤の熱水抽出液に、Phormidium, Cylindrospermum、又はLyngbyaから選ばれる、少なくとも1種の藍藻の懸濁液を添加することを特徴とする、生きた藍藻を含有する液体肥料の製造方法が提供される。又、本発明によれば、前記土壌改良剤が、岩石ミネラルを主成分とし、完熟堆肥と腐植土を分散混合させたことからなる土壌改良剤に、生きた藍藻を含有する液体肥料の製造方法が提供される。更に、本発明によれば、前記熱水抽出温度が40℃以上である、生きた藍藻を含有する液体肥料の製造方法が提供される。又、本発明によれば、前記方法によって得られる、生きた藍藻を含有する液体肥料が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液体肥料は、粉剤では不可能であった根以外の植物体表面から直接肥料を吸収させられることが可能で、しかも、本土壌改良剤を利用して容易に製造できるので、労働力の削減のみならず、他の肥料との併用を必要とせず、生産者にとっては、経済的な支援にもつながる液体肥料である。又、本発明の液体肥料は、微量ミネラル成分を含む抽出液と、生きている藍藻からの分泌物の相乗効果で、作物の生長を著しく促進することが見られ、この液体肥料は、土壌の既存栄養物の存在がなくとも有効であり、栽培にあたって付加肥料を必要とせず、半乾燥の砂漠や劣悪環境の地の緑化や作物の生産性向上にも貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
岩石ミネラルを主成分とし、完熟堆肥と腐植土を分散混合させたことからなる、この土壌改良剤を土壌に散布すると藍藻の育成を促し、土壌改良剤含有土壌で育てた作物の果実や野菜が大きく美味であることを見出した。又、土壌改良剤と藍藻繁殖土壌を含む砂で、種子から栽培した小松菜は顕著な成長促進効果があることを見出した。
【0013】
そこで、前記土壌改良剤を熱水中で短時間攪拌して得られた抽出液の上澄み、および、藍藻として糸状群体性Phormidiumを培養した懸濁液、及び、前記土壌改良剤を熱水で抽出した抽出液の上澄み液に前記培養液を加えた混合液、を個別に添加した砂丘砂に小松菜種子を播き、その成長の経過を調べ、添加物による差異を見た。
【0014】
前記土壌改良剤から熱水で抽出する条件としては、40℃での抽出液を添加した場合でも成長促進効果がみられたので、抽出温度は40℃以上とした。上限温度は水の沸点、すなわち、1気圧では100℃までの温度範囲内で、あるいは、加圧条件下では100℃以上の沸点温度までの温度範囲内で抽出が可能である。抽出時間としては、75℃では15分程度で充分であり、温度が75℃より高ければ15分以下で、温度が75℃より低ければ15分以上が好ましく、製造上好ましい条件の選択が可能である。
【0015】
前記土壌改良剤の1重量%水溶液を加熱し75℃で15分攪拌後、ろ過し、その上澄液を採り、その抽出液中に含まれる元素の含有量を求めた(表1)。
【表1】

抽出液中に含まれる元素含有量は非常に少なく、飲用にするミネラルウォター程度の微量な元素が含まれていることが分かる。微量元素が作物の生長にとって効果があるといわれるが、元素の含有量ではなく、複数の元素のバランス、あるいは、検出が不可能な非常に微量な元素が成長に付与することがある。
【0016】
堆肥等では微生物相が偏り貧弱になりやすいが、生きた有機物を入れると多種多様な微生物が働く。一つの微生物が有機物を分解するとその分解物や分泌物、未分解物等を他の微生物が分解する。本発明では生きた有機物として、藍藻を使用した。藍藻には約1500の種類があるが、本発明では、土壌改良剤の生産場所に多い、Phormidium, Cylindrospermum、又はLyngbyaの藍藻を個別に培養した懸濁液を各々添加した砂丘砂に、小松菜種子を播き、水分補給をおこない栽培し、その成長を観察したところ、顕著な成長促進効果があることを見出した。
【0017】
藍藻を培養する培養液には、窒素、リン、微量金属類、ビタミン類など多くの成分を調合する必要があり、準備に手間がかかるが、前記土壌改良剤を熱水で抽出した液を培養液として使用した所、藍藻の成長を非常に促進することも見出した。
【0018】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
何も添加しない砂丘砂に小松菜種子を播き、屋外において水分補給をおこない栽培(以後Cと呼ぶ)。岩石ミネラルを主成分とし、完熟堆肥と腐植土を分散混合させたことからなる土壌改良剤を添加した砂丘砂に小松菜種子を播き、屋外において水分補給をおこない栽培(以後Gと呼ぶ)。および、Gに少量の藍藻を培養した懸濁液を添加した砂丘砂に小松菜種子を播き、屋外において水分補給して栽培を行った(以後G―Phと呼ぶ)。前記砂丘砂で、滅菌した砂丘砂を使用したのが図1、非滅菌砂丘砂を使用したのが図2である。図1および図2は播種後13日目の実生である。
【0020】
ここで使用した藍藻は土壌から単離したPhormidiumで、オートクレーブで滅菌した前記土壌改良剤の熱水抽出液をろ過したろ液を培養液として無菌シャーレで室内培養したものである。26℃、2000luxで1ヶ月培養すると塊状のマットを形成するので、これを試験管内で激しく振って解体し、懸濁液となったもの(以後Phと呼ぶ)を使用した。
【0021】
これらの結果よりみると砂丘砂の滅菌、非滅菌にかかわらず、GはCに対し、成長促進効果があることが判明し、G―Phは更に顕著な成長促進効果をもたらした事が分かり、非滅菌の砂丘砂で栽培しても、G単独よりも、更にPhを添加した方が小松菜の成長を更に促進させる効果のあることが分かった。
【実施例2】
【0022】
岩石ミネラルを主成分とし、完熟堆肥と腐植土を分散混合させたことからなる土壌改良剤粉剤1gに99gの水を加え、ウォーターバス中で加熱、液温を70℃に保ち15分間攪拌後、液をろ紙でろ過し、土壌改良剤の熱水抽出液(以後Gexと呼ぶ)を得た。この抽出液中には上記表1に記載した微量成分を含んでいた。
【0023】
このGex20mlを滅菌砂丘砂60mlに加えて水分を含ませ、小松菜種子を播種し、成長度合いを調べた(図4)。この結果より、Gexは、原剤Gと同程度に作物の生長に有効であることが分かった。
【0024】
更に、砂丘砂を無菌寒天に代えて同様の実験を行うと、図4の滅菌砂丘砂を使用した場合と同様の成長促進効果があることが分かった(図5)。これにより、滅菌砂丘砂と無菌寒天培地の差による小松菜の成長度合いの差はないことが分かった。
【実施例3】
【0025】
Gex濃度の異なる寒天培地に一定量の藍藻Phormidiumを移植し、濃度による藍藻の増殖度合いを調べた(図6)。この実験により、藍藻Phormidiumの増殖はGex濃度に依存して促進されることが分かった。
【実施例4】
【0026】
Gex濃度の異なる寒天培地に小松菜種子を播き、実生の成長のGex濃度依存性を試験した(図7)。実生の成長は、Gex濃度5倍まで、濃度による促進効果が見られた、しかし、10倍では5倍と同等であり濃度による促進効果は見られなかった。このことより、5倍液までが濃度に比例した小松菜の成長促進効果があることがわかった。
【実施例5】
【0027】
播種後12日目の小松菜実生の根の発達を長さと重量で比較した(図8)。Gexの1倍と5倍濃度、およびPhの1倍と5倍濃度の培地では、コントロールCに対し実生の成長は濃度に比例して促進され、根の長さはかわらないが根の重量は増加した。GexにPhを付加した培地では、実生は単独添加の場合より著しく成長したが、同時に、根は太く短くなり、重量比は極端に増加した。
【0028】
以上の実験結果より、本発明の生きた藍藻を含有する液体肥料中の成分が、植物の成長促進に寄与すると推察される関係を表わすと図9のようになり、Gex中に含まれる無機物の微量元素が植物、土壌細菌、藍藻Phormidiumの成長促進に寄与し、藍藻Phormidiumが植物に酸素と有機物を供給し植物の成長に寄与する関係が推察でき、本発明の生きた藍藻を含有する液体肥料が、他の肥料との併用を必要としない、優れた液体肥料であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0029】
藍藻は、生命力の強い生物で、悪環境下では、シスト化していき続けるので、液肥の中で死滅することは無く、環境改善に伴って復活する。そのため、市販の製品として開発することが可能であると同時に、砂漠等の半乾燥地や劣悪な環境の地での緑化や生産性の向上に貢献しうる可能性が充分にある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】滅菌した砂丘砂に岩石ミネラルを主成分とし、完熟堆肥と腐植土を分散混合させたことからなる土壌改良剤、藍藻を添加し播種後13日目の小松菜の成長の比較を、何も添加しない土壌(C),前記土壌改良剤を添加した土壌(G)、前記土壌改良剤、および少量の藍藻繁殖土壌を添加した土壌(G−Ph)、での成長の度合いを比較した写真である。
【図2】非滅菌砂丘砂に岩石ミネラルを主成分とし、完熟堆肥と腐植土を分散混合させたことからなる土壌改良剤、藍藻を添加し播種後13日目後の小松菜の成長の比較を、何も添加しない土壌(C),前記土壌改良剤を添加した土壌(G)、前記土壌改良剤、および少量の藍藻繁殖土壌を添加した土壌(G−Ph)、での成長の度合いを比較した写真である。
【図3】本発明で使用した糸状群体性藍藻、Cylindrospermum(上)とPhormidium(下)の顕微鏡写真である。
【図4】砂丘砂に前記土壌改良剤の熱水抽出液で培養した藍藻の懸濁液(Gex)を添加し播種後13日目の小松菜の成長の比較を、何も添加しない土壌(C),Gexのみを添加した土壌(Gex),および、GexとPhを添加した土壌(Gex―Ph)での小松菜の成長の度合いを比較した写真である。
【図5】前項試験で、砂丘砂の替わりに無菌寒天培地を使用し成長の度合いを比較した写真である。
【図6】Gexの濃度の異なる寒天培地に一定量のPhを移植し、移植後16日目の藍藻の増殖の度合いを調べた写真である。
【図7】Gexの濃度の異なる寒天培地に小松菜種子を播き、実生の成長度合いを比較した写真。写真中の×1、×2・・はGexの濃度を表わす。
【図8】Gexのみ添加した培地、Phのみ添加した培地、およびGexとPhを混合し添加した培地、の各々に小松菜種子を播き、播種後12日目の小松菜実生の根の長さと重量を測定し、根の長さと、根の重量/根の長さの関係を比較した図
【図9】本発明の生きた藍藻を含有する液体肥料が植物(Plant)の成長促進に効果を与える関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体肥料の製造方法において、土壌改良剤の熱水抽出液に、Phormidium, Cylindrospermum、又はLyngbyaから選ばれる藍藻の懸濁液の少なくとも1種を添加することを特徴とする、生きた藍藻を含有する液体肥料の製造方法。
【請求項2】
前記土壌改良剤が、岩石ミネラルを主成分とし、完熟堆肥と腐植土を分散混合させたことからなる土壌改良剤である、請求項1に記載の、生きた藍藻を含有する液体肥料の製造方法。
【請求項3】
前記熱水抽出温度が40℃〜沸点温度である請求項1〜2に記載の、生きた藍藻を含有する液体肥料の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの方法で得られた生きた藍藻を含有する液体肥料。

【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−124186(P2006−124186A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310355(P2004−310355)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(504398317)株式会社 みどり共生 (2)
【Fターム(参考)】