説明

生ハムペースト及びその製造方法

【課題】 加熱処理を行うことなく、しかも、生ハム特有の風味と食感を味わうことが可能な生ハムペースト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ブロック状の生ハムを、ミンチ目の最小値が3mm以上30mm以下のミンチプレートを取り付けたオートミンサーによってミンチするか、又は厚み0.5mm以上5mm以下のスライス状の生ハムを、ミンチ目の最小値が50mm以下のミンチプレートを取り付けたオートミンサーによってミンチし、ミンチ後のそれぞれの生ハム100重量部に対して、10重量部以上80重量部以下の植物油を配合する。適度の大きさにミンチした生ハムに、適量の植物油、好ましくはオリーブ油とガーリック油を等量ずつ混合した混合油を添加することにより、生ハム特有の食感、味覚、歯ごたえを維持した生ハムペーストが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミンチした生ハムと食用油脂を混合することを特徴とする生ハムペースト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生ハムは、その製造工程で乾塩法による塩漬を行い、さらに乾燥、燻煙させることにより水分活性を低下させ、微生物が繁殖しにくく、通常のハムのように加熱処理することなく食することができる。燻煙は、一般に肉温を20℃以下に保つ冷薫法によって行われ、生ハム特有の芳香を付与し、微生物の増殖を抑制する。
【0003】
生ハムは、通常のハムにはない独特の風味、味わい、歯ごたえ等を有しており、オードブルやサラダ等にも好んで使用される。しかし、生ハムは、厚めにスライスすると、加熱処理をしていないため生肉同様に固くて噛み切りにくく、噛む力の弱い子供や老人等が食することは困難である。
【0004】
ここで、畜肉(動物肉、鳥肉、貝、甲殻類の肉等を含む)をペースト状にした肉ペーストというものは、従来から知られていた。例えば、特許文献1には、生肉を微細な挽肉とし、遥かに小さい粒径(平均粒径2mm以下)の乳化した微細分割原料肉と共に混合し、さらに、肉汁を添加して肉ペーストとし、それを熱凝固させて再形成肉製品を製造する方法が開示されている。また、固形の生肉を高圧ホモジナイザーで処理し、超微粒子の液状とすることを特徴とする畜肉ペーストが、特許文献2に開示されている。さらに、ミンチした食肉に、個々に分離した、壊れていない細胞壁に囲まれた大豆食品素材である大豆の粒子を添加することを特徴とするペースト状の食品が、特許文献3に開示されている。
【0005】
一方、魚肉を食塩とタンパク質分解酵素で処理し、粘着性を喪失させたペースト状の魚肉から調製し、次いで加熱することを特徴とする魚肉ペーストの製造方法が、特許文献4に開示されている。
【特許文献1】特公昭50−13346号公報
【特許文献2】特開平9−56365号公報
【特許文献3】特開2000−300215号公報
【特許文献4】特昭54−37853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される畜肉ペーストは、再形成肉製品を製造するための原料であり、そのまま食することはできない。また、特許文献2に開示される畜肉ペーストは、固形の生肉を超微粒子状の液状としたものであり、そのまま食することはできず、原料の畜肉の食感は、完全に失われている。特許文献3に開示されるペースト状食品も、80℃の湯浴中で30分間加熱して食するものであり、大豆蛋白が添加されているため原料の食肉そのものの風味が損なわれる。
【0007】
さらに、特許文献4に開示される魚肉ペーストは、魚類筋肉の筋原線維タンパク質であるアクチンとミオシンを塩水に溶出させながら、タンパク質分解酵素を作用させて分解し、粘着性を失った魚肉のりとし、さらに加熱処理を行うものであり、生の食肉をペーストとしたものではない。
【0008】
本発明は、上記先行技術の問題点を解決し、加熱処理を行うことなく、しかも、生ハム特有の風味と食感を味わうことが可能な生ハムペースト及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、適度の大きさにミンチした生ハムに、適量の食用油脂を添加することを特徴とする生ハムペースト及びその製造方法に関する。
【0010】
具体的に、本発明は、ブロック状の生ハムを、ミンチ目の最小値が3mm以上30mm以下のミンチプレートを取り付けたオートミンサーによってミンチし、該ミンチ後の生ハム100重量部に対して、10重量部以上80重量部以下の植物油を配合することを特徴とする生ハムペーストに関する(請求項1、5)。ブロック状の生ハムを原料とする場合、ミンチ目が3mm以上30mm以下のミンチプレートを取り付けたオートミンサーにかけてミンチすれば、生ハム特有の食感である歯ごたえを維持しつつ、トーストにも塗ることができる生ハムペーストを得ることができる。
【0011】
また、本発明は、厚み0.5mm以上5mm以下のスライス状の生ハムを、ミンチ目の最小値が50mm以下のミンチプレートを取り付けたオートミンサーによってミンチし、該ミンチ後の生ハム100重量部に対して、10重量部以上80重量部以下の植物油を配合することを特徴とする生ハムペーストに関する(請求項2、6)。厚み0.5mm以上5mm以下のスライス状の生ハムを原料とする場合、ミンチ目が30mmを超えるミンチプレート(三つ目プレート)2枚とカッター(両刃)の組み合わせを取り付けたオートミンサーにかけてミンチしても、上記と同様の生ハムペーストを得ることができる。
【0012】
ここで、「ミンチ目」とは、ミンチカッターに設けられた円形孔の直径を意味する。また、異なるミンチ目を有する複数のミンチカッターを組み合わせる場合には、それらミンチカッターのミンチ目のうち、最小のミンチ目を意味する。
【0013】
本発明の生ハムペーストに使用する食用油脂としては、風味が良く、香ばしい香りを与えるオリーブ油とガーリック油を等量混合した混合油が好ましい(請求項3、7)。
【0014】
本発明の生ハムペーストは、さらにブラックペパー2重量部以下を配合することが好ましい(請求項4、8)。ブラックペパーを添加することにより、生ハムペーストにスパイシーな味覚が得られる。ただし、2重量部を超えると辛さが目立つようになり、子供や老人には不向きな味覚となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の生ハムペースト及びその製造方法は、生ハム特有の食感である歯ごたえ及び風味・味覚を維持しつつ、トーストにも塗ることができる生ハムペーストを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り下記に限定されるものではない。
【0017】
以下に説明する本発明の実施の形態において、生ハムをミンチするために用いたオートミンサーの構造を図1に示す。この図に示すように、本体Iに三つ目プレートA〜スペーサーリングHまでを順に取り付け、本体Iに投入したブロック状又はスライス状の生ハムは、矢印の方向に押し出されてミンチされる。
【0018】
ここで、図1に示すオートミンサーの各構成の機能を説明する。本体Iに投入された生ハムは、本体Iに付属するフィーダー(図示せず)によって、本体Iから三つ目プレートAへと押し出される。三つ目プレートAのミンチ目から押し出された生ハムは、回転軸Jに連動して回転する第1両刃Bの回転と、三つ目プレートA及び第1ミンチプレートCとの擦り合わせによってカットされる。カットされた生ハムは、次に第1ミンチプレートCへと押し出される。第1ミンチプレートのミンチ目から押し出された生ハムは、回転軸Jに連動して回転する第2両刃Dの回転と、第1ミンチプレートC及び第2ミンチプレートEの擦り合わせによって再カットされる。再カットされた生ハムは、続いて第2ミンチプレートEへと押し出される。第2ミンチプレートのミンチ目から押し出された生ハムは、サポーターF、スペーサーG及びスペーサーリングHを通過して取り出される。このように、生ハムをミンチする場合には、複数のミンチプレートと両刃を組み合わせて、ミンチするサイズを調整することができる。
【0019】
今回用いた第1ミンチプレートCのミンチ目は13〜30mmであり、第2ミンチプレートEのミンチ目は8mm以下である。また、三つ目プレートのミンチ目は直径30mm超であり、複数の円形孔が重なって一体化したものも含まれる。生ハムをミンチ処理する際に、ミンチプレートのミンチ目の最小値が13mm以上の場合には、図1に示した構成のうち、第2両刃D及び第2ミンチプレートEは使用せず、これら以外の構成をオートミンサーに取り付けて、三つ目プレートA、第1両刃B、第1ミンチプレートCによって生ハムをミンチした。一方、ミンチ目の最小値が8mm以下の場合には、図1に示した構成を全て組み合わせて使用した。また、ミンチ目の最小値が30mmを超える場合には、図1に示した構成のうち、第1ミンチプレートCの位置に2枚目の三つ目プレートAを取り付け、第2両刃D及び第2ミンチプレートEは使用せず、これら以外の構成をオートミンサーに取り付けた。そして、1枚目の三つ目プレートA、第1両刃B及び2枚目の三つ目ミンチプレートAのみによって生ハムをミンチした。なお、以下の記載においては、便宜上、三つ目プレートもミンチプレートとして表現している。
【0020】
(生ハムと植物油の配合比率の検討)
ブロック状の生ハムを、ミンチ目8mmの第2ミンチプレートEを取り付けたオートミンサーによってミンチし、その100重量部に対して、食用油としてオリーブ油とガーリック油を等量ずつ混合した混合油を、5〜100重量部添加し、生ハムペーストの製造に適した配合比率を調べた。ブロック状の生ハムのミンチは、10℃以下の温度で行い、生ハムに添加する混合油も予め10℃以下に冷却した。ミンチ後の生ハムと混合油は、10℃以下で縦型ミキサー(図示せず)を用いて撹拌、混合した。混合後のペーストの状態を、外観により観察した結果を表1に示す。なお、表1においては、ペーストとして好ましい状態であれば「適」、好ましい状態でなければ「不適」として評価した。
【0021】
【表1】

【0022】
混合油の添加量が5重量部では、油の量が少なすぎてペースト状にはならなかった。10重量部に増やせばペースト状を維持できたので、混合油の添加量の下限値は、10重量部であることが判った。一方、混合油を80重量部に増やしてもペースト状を維持できたが、90重量部にまで増やせば、油の量が多すぎるためにベタベタした状態になり、ペースト状を維持することができなかった。従って、混合油の添加量の上限値は、80重量部であることが判った。なお、表1に示したうち、混合油の添加量が20〜60重量部のものは、ペースト状態が良好でトーストに塗りやすかったため、生ハムペーストとして好ましく、40重量部のものが最も好ましかった。
【0023】
(生ハムのミンチ目の大きさの検討1)
次に、ブロック状の生ハムを、各種ミンチ目のミンチプレートを取り付けたオートミンサーによってミンチし、生ハムペーストの製造に好ましいミンチプレートのミンチ目について検討した。なお、生ハム100重量部に対して添加する混合油は、40重量部に固定した。その結果を表2に示す。なお、具体的な製造工程は、上記と同じであるが、評価方法は、生ハム特有の食感及び歯ごたえを有しているものを「適」、いずれか一方でも有していないものを「不適」として評価した。
【0024】
【表2】

【0025】
ミンチ目の最小値を2mmとした場合、ペーストにはなるが、生ハムが細かくなりすぎて食感及び歯ごたえは損なわれた。ミンチ目の最小値を3mm以上とすれば生ハム特有の食感及び歯ごたえを維持しつつ、ペースト状態を維持することができた。しかし、40mmとすれば生ハムミンチが大きくなり過ぎ、ペーストとしてトーストに塗ることができなくなった。従って、ブロック状の生ハムをミンチする場合、ミンチプレートのミンチ目の最小値は、下限値3mm、上限値30mmであることが判った。なお、表2に示したうち、ミンチ目が3〜13mmのものは、ペースト状態が良好でトーストに塗りやすかったため、生ハムペーストとして好ましく、8mmのものが最も好ましかった。
【0026】
(生ハムのミンチ目の大きさの検討2)
次に、厚み1mmのスライス状の生ハムを、各種ミンチ目のミンチプレートを取り付けたオートミンサーによってミンチし、生ハムペーストの製造に好ましいミンチプレートのミンチ目について検討した。その結果を表3に示す。具体的な製造工程及び評価方法は、上記ブロック状の生ハムの場合と同じである。
【0027】
【表3】

【0028】
ミンチ目の最小値を2mmとした場合、ブロック状の生ハムを原料とした場合と同様、ペーストにはなるが、生ハムが細かくなりすぎて食感及び歯ごたえは損なわれた。ミンチ目の最小値を3mm以上とすれば、生ハム特有の食感及び歯ごたえを維持しつつ、ペースト状態を維持することができたことも、ブロック状の生ハムを原料とする場合と同様である。しかし、スライス状の生ハムを原料とする場合、生ハムミンチが薄いために、ミンチ目の最小値を50mmとしてもペーストとしてトーストに塗ることができた。この検討の結果、スライス状の生ハムをミンチする場合、ミンチプレートのミンチ目の最小値は、下限値3mm、上限値50mmであることが判った。なお、表3に示したうち、ミンチ目の最小値が3〜13mmのものは、ペースト状態が良好でトーストに塗りやすかったため、生ハムペーストとして好ましく、8mmのものが最も好ましかった。
【0029】
表2及び表3において最適であった生ハムペーストに、ブラックペパーを添加し、味覚と香りについて検討したところ、いずれの生ハムペーストの場合であっても、0.5重量部以上添加すればブラックペパーの香ばしい香りを生じたが、2重量部を超えて添加した場合、香りはよいが辛さが増して、子供や老人がトーストに塗って食するには不適当になった。従って、本発明の生ハムペーストに添加するブラックペパーは、2重量部以下であることが好ましかった。
【0030】
本発明の生ハムペーストを製造する際には、製造工程の全てを10℃以下で行うことが好ましい。生ハムは、通常のハムと異なり加熱処理をしていないために、ミンチとした場合に細菌が繁殖しやすいからである。また、生ハムミンチに添加する食用油脂も、予め10℃以下に冷却しておくことが、細菌の繁殖防止の観点から好ましい。
【0031】
本発明の生ハムペーストは、全ての原材料を混合した後、カップやチューブ等の適当な容器に充填することができる。ミンチ目の最小値が小さい場合には、チューブに充填するのに適しており、ミンチ目の最小値が大きい場合には、カップに充填してバターナイフ等でトーストやクラッカー等に塗るのに適している。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明したように、本発明の生ハムペーストは、従来の肉ペーストと異なり、加熱調理することなくそのままトースト等に塗って食することができる。また、生ハム特有の食感及び味覚を維持したままペースト状態に加工されているため、噛む力の弱い子供や老人であっても、手軽に生ハムの食感及び味覚を味わうことが可能である。本発明の生ハムペースト及びその製造方法は、食品分野における加工食品及びその製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態において使用したオートミンサーの構造図である。
【符号の説明】
【0034】
A:三つ目プレート
B:第1両刃
C:第1ミンチプレート
D:第2両刃
E:第2ミンチプレート
F:サポーター
G:スペーサー
H:スペーサーリング
I:本体
J:回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック状の生ハムを、ミンチ目の最小値が3mm以上30mm以下のミンチプレートを取り付けたオートミンサーによってミンチし、該ミンチ後の生ハム100重量部に対して、10重量部以上80重量部以下の植物油を配合することを特徴とする生ハムペースト。
【請求項2】
厚み0.5mm以上5mm以下のスライス状の生ハムを、ミンチ目の最小値が50mm以下のミンチプレートを取り付けたオートミンサーによってミンチし、該ミンチ後の生ハム100重量部に対して、10重量部以上80重量部以下の植物油を配合することを特徴とする生ハムペースト。
【請求項3】
前記植物油がオリーブ油とガーリック油を等量ずつ混合した混合油であることを特徴とする請求項1又は2に記載の生ハムペースト。
【請求項4】
さらにブラックペパー2重量部以下を配合することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の生ハムペースト。
【請求項5】
ブロック状の生ハムを、10℃以下の温度で、ミンチ目の最小値が3mm以上30mm以下のミンチプレートを取り付けたオートミンサーによってミンチし、その100重量部に、10℃以下に冷却した10重量部以上80重量部以下の植物油を混合することを特徴とする生ハムペーストの製造方法。
【請求項6】
厚み0.5mm以上5mm以下のスライス状の生ハムを、10℃以下の温度で、ミンチ目の最小値が50mm以下のミンチプレートを取り付けたオートミンサーによってミンチし、その100重量部に、10℃以下に冷却した10重量部以上80重量部以下の植物油を混合することを特徴とする生ハムペーストの製造方法。
【請求項7】
前記植物油がオリーブ油とガーリック油を等量ずつ混合した混合油であることを特徴とする請求項5又は6に記載の生ハムペーストの製造方法。
【請求項8】
さらにブラックペパー2重量部以下を配合することを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の生ハムペーストの製造方法。

【図1】
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