説明

生体光計測装置、プログラム及び生体光計測方法

【課題】市販のfNIRS装置を装置改変をすることなく、一般ユーザーが取得できるデータを用い、生体活動における特定信号のみを抽出する生体光測定装置、プログラム及び生体光測定方法を提供すること。
【解決手段】本発明の生体光計測装置は、光照射部と、光検出部と、演算処理部とを有し、前記演算処理部は、前記光から取得される前記被検体における血液中のオキシヘモグロビン変化量O及びデオキシヘモグロビン変化量Dの各情報から、前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける流速性変動の血流変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける流速性変動の血流変化成分D、並びに/又は前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける容積性変動の血液変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける容積性変動の血流変化成分Dを算出して出力することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外光を利用して生体活動由来の信号を測定する生体光計測装置、プログラム及び生体光計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外光を利用して生体活動由来の信号を測定する生体光計測方法としては、single distance probe arrangementによるfNIRS計測法(以下、single distance法)が知られている。この方法は、図1に示すように、光照射部から照射された近赤外光を照射プローブ1を介して頭部10に導き、その導かれた光を頭部10に近接して配した受光プローブ2を介して光検出部で検出することとしている。なお、図中に示される符号は、3が頭皮、4が頭蓋骨、5が脳髄液、6が大脳灰白質、7が大脳白質層である。
【0003】
従来型のsingle distance法によるfNIRS計測データには、1)脳機能信号、2)脳機能信号以外の生理的信号、3)プローブ接触の不具合等に由来する信号変動などの成分が混在している(非特許文献1参照)。プローブ接触の不具合に由来する信号変動は、多くの場合、ベースラインの瞬時的なシフトやノイズの極端な多さなど、他の成分とは異なる時間的挙動を示すため比較的容易に識別できる。これに対して、脳機能信号以外の生理活動に由来する信号のうちのある部分は、脳機能信号に非常に類似した時間的挙動を示す。こうした信号成分は、具体的には、表層組織等における血流変動に由来しているが、例えば、指先の反復対向動作(タッピング)や認知課題を行っているときには、該当する機能領野で脳活動が生じると同時に全身性の血流変化が生じ、これに起因する信号変化が頭部の広汎な領域で観測されることが知られている(非特許文献2,3参照)。このような場合、チャンネル位置と脳機能部位の位置相関に関する先験的知識を持たない限り、我々は観測している信号変化が脳機能由来のものであるかどうかを判断することができないという問題がある。したがって、何らかの方法で脳活動に伴う光吸収係数の変化とそれ以外を分離することが必要である。
【0004】
これまで脳機能信号の抽出のために幾つかの手法が試みられているが、それらは以下のような理由で多少なりとも問題を含むものであった。
先ず、時間的変化の特徴を用いて信号分離するアダプティブ・フィルタリング等の手法(非特許文献4参照)は、脳機能信号が他の成分と相関が低いことを前提としているが、実際には全身性血流信号の一部に課題遂行と同期して生じる脳機能信号以外の成分(アーティファクト)が存在することから、この手法では、脳機能信号とそれ以外を十分に分離することができない。
また、ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析、非特許文献5参照)も多チャンネル計測データに含まれる多成分の信号間の独立性を根拠に成分分離を行う手法であるため、やはり脳機能信号との同時性や波形の類似性の高いこうしたアーティファクトの分離には向かない。
また、同じく多チャンネル計測データにPCA(Principal Component Analysis;主成分分析)を適用し、グローバルに生じる信号成分と局所成分を分離する手法が提案されているが(非特許文献2参照)、この手法は、脳活動が単一箇所の領野のみで生じる場合に限定され、かつ、その場合においても当該領野以外の広汎な場所にプローブを設置する必要があり、更に、それらのプローブのいずれかで例えばプローブコンタクトの不良などがあれば、解析精度に大きな影響を及ぼすなどの問題があった。
【0005】
一方で、実験の課題内容や配列を工夫することによって、課題遂行により誘起されるアーティファクトと脳機能信号とを分離する試みもなされている。
例えば、上記のタッピングの例では、課題配列で「安静−タッピング−安静」のように安静区間に課題を挿入した場合には課題区間では脳活動と同時に生じる全身性血流変化の影響を観察してしまう可能性を排除できない。これに対して、「右手タッピング−左手タッピング−右手タッピング−左手タッピング」のような課題配列を用いる手法(非特許文献6参照)では、全区間を通じて全身性血流の影響が重畳するので、片側一次運動野の計測では脳機能活動による信号変化のみが検出される蓋然性が高い。
しかしながら、こうした手法にも幾つかの問題がある。即ち、このような実験デザインを通じた脳機能信号の抽出は、測定者に一般に高度な実験デザインスキルが要求される。また、この種の実験パラダイムでは、用意した対照課題で当該の脳機能活動以外のすべての生理活動がターゲット課題と同様に生じることを暗黙の前提としているが、その前提を厳密に証明することはほとんどの場合困難である。
【0006】
我々は、こうした困難を克服するため、これまでにmulti distance probe arrangementの方法を提案している(以下、multi distance法という。特許文献1及び非特許文献3参照)。
この提案方法は、図1に示すsingle distance法のプローブ配置に加え、更に図2に示すように、参照用プローブ8を受光プローブ2よりも照射プローブ1に近い位置に配する手法であり(例えば、照射プローブ1−受光プローブ2間の距離30mmに対し、照射プローブ1−参照用プローブ8間の距離を20mmとする)、光源−検出器間の距離が短く比較的頭皮3から浅い位置を経過する光を参照用プローブ8から検出し、その検出結果を心拍、呼吸、自律神経活動に伴う内因性の変動など脳機能信号以外の信号を含むものとして、光検出プローブ2から検出され、光源−検出器間の距離が長く比較的頭皮3から深い位置を経過する光の信号との差分をとり、脳機能由来の信号のみを検出することとする。
【0007】
この提案方法によれば、上記問題のほとんどを克服して脳機能信号抽出を実現できる。
しかしながら、特別なプローブ配置を必要とし、市販装置でこの手法を実行しようとした場合に2つの問題を生じさせる。
一つは、市販装置のプローブ固定具の大きさの都合で、上記のプローブ配置を一般ユーザーが容易に実現できない点である。もう一つは、二つの検出プローブでの実測光量は、光源−検出器間距離の相違に基づき、相互で10倍程度も異なるため、検出器のダイナミックレンジの調節機構等を十分に備えていない市販装置では、測定が困難となる点である。
したがって、こうした問題を解決し、市販装置のほとんどで装置改変をすることなく、一般ユーザーが取得できるデータのみから脳活動由来の信号のみを抽出する手法としては、何らの提案もされていないというのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、市販のfNIRS装置を装置改変をすることなく、一般ユーザーが取得できるデータを用い、生体活動における特定信号のみを抽出する生体光測定装置、プログラム及び生体光測定方法を提供することを目的とする。
【0009】
前記課題を解決するために、我々は、種々の経験的知見に基づき、生体組織中での血流変動に起因する近赤外光の信号変化を容積性の変動成分と流速性の変動成分という二つの様態に類別して眺めることを提案する。そして、この提案の有用性を以下のように検証した。
先ず、前記二つの様態に係る変動成分は、血流中のオキシ、デオキシ変化量の間に正/負の比例関係が成り立つ成分としてそれぞれ特徴づけられる。次に、fNIRS装置の観測信号をこれらの変動成分の線形和として記述する。そして、これらの変動成分の比例関係の係数を決定する。そして、アーティファクト課題及びアーティファクトを伴う脳機能課題時の脳機能活動に伴うヘモグロビン変化を、前記提案手法及び大脳灰白質のヘモグロビン変化を計測できるmulti distance法(特許文献1及び非特許文献3参照)を用いて計算し、両者の一致度を比較する。この一致度が高ければ、前記提案手法を有用と考えることができる。
その結果、容積性の変動成分と流速性の変動成分という二つの様態に類別することにより、生体組織中での血流変動に起因する近赤外光の信号変化から、被検体の生体活動による特定信号のみを抽出することができ、その抽出手法に係る演算処理を市販の装置に適用することで、一般ユーザーが取得できるデータのみから生体活動における特定信号のみを抽出する生体光測定装置、プログラム及び生体光測定方法を提供することができることの知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 近赤外光を被検体に照射する光照射部と、前記被検体に照射され、前記被検体内を経由した光を検出する光検出部と、前記光検出部が検出した前記光から取得される情報を演算処理して出力する演算処理部とを有し、前記演算処理部は、前記光から取得される前記被検体における血液中のオキシヘモグロビン変化量O及びデオキシヘモグロビン変化量Dの各情報から、下記式(6)及び(7)で表される、前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける流速性変動の血流変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける流速性変動の血流変化成分D、並びに/又は前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける容積性変動の血液変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける容積性変動の血流変化成分Dを算出して出力することを特徴とする生体光計測装置。

ただし、前記式(6)及び(7)において、k及びkは、k≠kを満たす数値である。
<2> k及びkが、容積性血流変化と流速性血流変化の独立性を判別する関数によって決定される前記<1>に記載の生体光計測装置。
<3> kが−1≦k<0の負の数値であり、kが0<kの正の数値である前記<1>に記載の生体光計測装置。
<4> kは、−0.85<k<−0.35を満たし、kは、0<k≦1を満たす数値である前記<3>に記載の生体光計測装置。
<5> 近赤外線を被検体の頭部に照射する前記<1>から<4>のいずれかに記載の生体光計測装置。
<6> 光照射部から照射される近赤外光を被検体に導く照射プローブと、前記被検体内を経由した光を光検出部に導く受光プローブとを有する前記<1>から<5>のいずれかに記載の生体光計測装置。
<7> 光検出部が複数の受光プローブから検出される光をそれぞれ検出するとともに、演算処理部が検出された前記各光から取得される情報をそれぞれ演算処理して出力する前記<6>に記載の生体光測定装置。
<8> 被検体の表面に沿って取付け可能なプローブホルダを有し、前記プローブホルダに照射プローブ及び受光プローブが保持される前記<6>から<7>のいずれかに記載の生体光測定装置。
<9> 近赤外光を被検体に照射する光照射部と、前記被検体に照射され、前記被検体内を経由した光を検出する光検出部と、前記光検出部が検出した前記光から取得される情報を演算処理して出力する演算処理部とを有する生体光計測装置に用いられ、前記演算処理部に対して、前記光から取得される前記被検体における血液中のオキシヘモグロビン変化量O及びデオキシヘモグロビン変化量Dの各情報から、下記式(6)及び(7)で表される、前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける流速性変動の血流変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける流速性変動の血流変化成分D、並びに/又は前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける容積性変動の血液変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける容積性変動の血流変化成分Dを算出して出力させることを特徴とするプログラム。

ただし、前記式(6)及び(7)において、k及びkは、k≠kを満たす数値である。
<10> 近赤外光を被検体に照射する光照射ステップと、前記被検体に照射され、前記被検体内を経由した光を検出する光検出ステップと、前記光検出ステップで検出した前記光から取得される情報を演算処理して出力する演算処理ステップとを有し、前記演算処理ステップは、前記光から取得される前記被検体における血液中のオキシヘモグロビン変化量O及びデオキシヘモグロビン変化量Dの各情報から、下記式(6)及び(7)で表される、前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける流速性変動の血流変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける流速性変動の血流変化成分D、並びに/又は前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける容積性変動の血液変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける容積性変動の血流変化成分Dを算出して出力することを特徴とする生体光計測方法。

ただし、前記式(6)及び(7)において、k及びkは、k≠kを満たす数値である。
<11> 流速性変動の血流変化成分O、Dの各情報に基づき、神経活動に伴う被検体の大脳灰白質層における血流変動を測定する前記<10>に記載の生体光測定方法。
<12> 容積性変動の血液変化成分O、Dの各情報に基づき、被検体の頭皮層における血流変動を測定する前記<10>から<11>のいずれかに記載の生体光測定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、市販のfNIRS装置を装置改変をすることなく、一般ユーザーが取得できるデータを用い、生体活動における特定信号のみを抽出する生体光測定装置、プログラム及び生体光測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】single distance法の概要を示す説明図である。
【図2】multi distance法の概要を示す説明図である。
【図3】生理学的諸属性のもとに生じる血流変化の諸相を示す説明図である。
【図4】プローブ配置の一例を示す説明図である。
【図5】プローブホルダの一例を示す説明図である。
【図6】プローブホルダの一例を示す分解斜視図である。
【図7】被験者1の各実験課題でのデータから求めた相互情報量I(k,k)のk依存性を示すグラフである。
【図8】全ての被験者、課題条件のデータから求められたkのヒストグラムを示すグラフである。
【図9】被験者1の上体傾斜課題遂行に伴うヘモグロビン変化に関する従来法と本発明の実施例に係る提案手法との結果比較を示すグラフである。なお、グラフ中の各表記は、次の通りである。Conventional O&D:従来法,Proposed O&D:流速性変動成分,Proposed O&D:容積性変動成分。灰線:オキシヘモグロビン,黒線:デオキシヘモグロビン。黒太線:課題遂行時間。また、各グラフにおける縦軸の単位は、[mM×cm]である。
【図10】被験者1の呼吸停止課題遂行に伴うヘモグロビン変化に関する従来法と本発明の実施例に係る提案手法との結果比較を示すグラフである。なお、グラフ中の各表記は、次の通りである。Conventional O&D:従来法,Proposed O&D:流速性変動成分,Proposed O&D:容積性変動成分。灰線:オキシヘモグロビン,黒線:デオキシヘモグロビン。黒太線:課題遂行時間。また、各グラフにおける縦軸の単位は、[mM×cm]である。
【図11】被験者1の指先運動(タッピング)課題遂行に伴うヘモグロビン変化に関する従来法と本発明の実施例に係る提案手法との結果比較を示すグラフである。なお、グラフ中の各表記は、次の通りである。Conventional O&D:従来法,Proposed O&D:流速性変動成分,Proposed O&D:容積性変動成分。灰線:オキシヘモグロビン,黒線:デオキシヘモグロビン。黒太線:課題遂行時間(0−20秒:左手,40−60秒:右手)。また、各グラフにおける縦軸の単位は、[mM×cm]である。
【図12】被験者1の各課題遂行に伴うヘモグロビン変化に関する本発明の実施例に係る提案手法とmulti distance法との結果比較を示すグラフである。なお、グラフ中の各表記は、次の通りである。Body tilting:上体傾斜,Breath holding:呼吸停止,Finger tapping:指先運動。黒線:提案手法の30mm配置で得られた流速性変動成分,灰線:muliti distance法で得られた大脳灰白質層での変化。黒太線:課題遂行時間(0−20秒:左手,40−60秒:右手)。また、各グラフにおける縦軸の単位は、[mM×cm]である。
【図13】本発明の実施例に係る提案手法で分離された各変動成分の光減衰への寄与の光源−検出器間距離に対する依存性を示すグラフである。図中、左部分は、容積性変動成分を示し、右部分は、流速性変動成分を示す。なお、グラフ中の各表記は、次の通りである。灰線:各被験者各課題で得られた依存性曲線,黒線:モンテカルロシミュレーションで求めた頭皮層(左)と大脳灰白質層(右)の部分光路長の依存性曲線。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(生体光計測装置及びプログラム)
本発明の生体光計測装置は、少なくとも光照射手段と、光検出部と、演算処理部とを有してなる。
【0014】
<光照射手段>
前記光照射手段は、近赤外光を被検体に照射する手段である。
その具体的な手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販のfNIRS装置で用いられている近赤外光の光源等、公知の光照射手段を全て挙げることができる。
なお、本明細書において、前記fNIRS(Functional Near−Infrared Spectroscopy)装置とは、被検体に近赤外光を照射して得られる生体信号を測定する装置を指し、機能的近赤外光装置、近赤外光イメージング装置等とも称される装置の全般を指す。
【0015】
<光検出部>
前記光検出部は、前記被検体内を経由した光を検出する。
前記光検出部の具体的なものとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販のfNIRS装置で用いられているもの等、公知の装置例を全て挙げることができる。
【0016】
<演算処理部>
前記演算処理部は、前記光から取得される前記被検体における血液中のオキシヘモグロビン変化量O及びデオキシヘモグロビン変化量Dの各情報から、下記式(6)及び(7)で表される、前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける流速性変動の血流変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける流速性変動の血流変化成分D、並びに/又は前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける容積性変動の血液変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける容積性変動の血流変化成分Dを算出して出力する。

ただし、前記式(6)及び(7)において、k及びkは、k≠kを満たす数値である。
【0017】
前記演算処理部の装置例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販のfNIRS装置に配される電子計算機、該fNIRS装置と外部接続可能な電子計算機などが挙げられる。
【0018】
−プログラム−
本発明のプログラムは、本発明の前記生体光計測装置と協動して前記演算処理を実行させるプログラムであり、具体的には、前記生体光計測装置の前記演算処理部に対して、前記光から取得される前記被検体における血液中のオキシヘモグロビン変化量O及びデオキシヘモグロビン変化量Dの各情報から、前記式(6)及び(7)で表される、前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける流速性変動の血流変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける流速性変動の血流変化成分D、並びに/又は前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける容積性変動の血液変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける容積性変動の血流変化成分Dを算出して出力させることを特徴とする。
【0019】
上述した演算処理の具体的な意義について、前記被検体の血流変動の態様を解き明かしつつ、以下に説明する。
【0020】
[血流変動の二つの様態(モダリティ)]
−概念−
前記fNIRS装置による計測では、前記被検体の生体組織の活動に伴うオキシヘモグロビン量、デオキシヘモグロビン量の変化(O,D)をそれぞれ独立の二変量として推定できる。どのようなO,Dの時間変化が脳活動に伴うhemodynamicsとして典型的なものであるか、については今までに多くの報告がなされてきた。
初期の研究では、オキシの卓越した増大を報告するものが多いが(非特許文献7,8参照)、これらは光路上に存在する脳以外の生体組織での血流変化の可能性に配慮していない。
一方で、測定誤差、体動、全身性生理活動の影響等に十分な配慮を払った比較的近年の研究ではタスクと同期してオキシの増大と同時にデオキシの減少が生じることが報告されている(非特許文献3,9参照)。ラットを用いた開頭下での脳機能信号の計測結果において、同様のオキシ、デオキシの相反的な変化、即ち負の相関が認められている(非特許文献10及び11参照)。
【0021】
PETや造影剤を用いたMRIなどの研究からは、脳活動に伴う局所的な血流変動では、rCBFが数10%ほども増大するのに対して、rCBVは高々10%に満たない程度しか増大しないことが比較的古くから知られている(非特許文献12,13,14参照)。
CBV増大の実体として、ラットの細動脈が神経活動に伴って血管径拡張を生じることが顕微鏡下で確認されているものの(非特許文献15参照)、こうした血管領域での酸素交換効率は、毛細血管と比較して無視できるほど小さい(非特許文献16参照)。
他方、酸素供給の場となる毛細血管は、多くが静止血液中の赤血球半径よりも小さい管径を有し、赤血球は、血漿流の流速勾配で生じるずり応力で変形することによってこれらの毛細血管を通過することが知られている(非特許文献17参照)。この機構上、毛細血管では、血流量の増減によって管径がほとんど変動しないと考えられる。
これら事項は、脳活動に伴う酸素交換に関わるhemodynamicsでは、血液量の増大が決して大きくないことを示唆している。
【0022】
いま仮に毛細血管では、血管径がほぼ一定であるとすると、脳神経活動に随伴して血管の上流側から高い酸素飽和度をもった動脈血の流入が増大した場合、局所的な酸素消費とバランスして低い酸素飽和度を実現していたデオキシ−ヘモグロビンが押し流されて、オキシ−ヘモグロビンに置き換えられるので、血管中では、オキシ増大とデオキシ減少が相補的に生じるはずである。
即ち、そこでは、D=kなる関係が成り立ち、kは、−符号の定係数として記述できる。係数kは、流速に依存したヘマトクリット値の変化やわずかな受動的血管拡張の有無により異なるであろうが、最小で−1、大きくとも0の間の負の値をとると期待される。
本明細書では、この血流変化の様態(モダリティ)を流速性血流変化(flow velocity−sensitive component)と呼ぶ。
【0023】
他方、一部の研究者は、体動や全身性生理活動に由来する血流変動では、オキシ、デオキシが同一符号の向きに増大・減少するケースを経験的に知っており、バルサルバ法(非特許文献18参照)やおじぎ、息止め(非特許文献3参照)では、オキシ、デオキシが同相に変化することを報告している。こうした全身性の血流変化には、自律神経を介した動脈−細動脈の血管収縮・拡張や血圧変化・姿勢変化に伴う鬱血など動静脈の受動的容積変動などが伴うと考えられる。このような血管容積の変化に伴い、オキシ量、デオキシ量は、各々の存在比率にしたがって互いに同相で変化する。
即ち、そこでもやはりD=kなる関係が成り立つが、kは+符号の定係数となる。係数kは、当該血管中の血液の酸素飽和度によって決まるため、酸素飽和度100%の場合に0、酸素飽和度0%の場合に+∞をとり、通常は、その間の正の値をとると期待される。
これらの太い血管領域では、ほとんど組織への酸素供給は行われないため、血液の酸素飽和度は、ほぼ一定と考えてよい。そのため、これらの血管では血流速度が変化したとしても上で述べた流速性血流変化は生じない。
そこで、本明細書では、この血流変化の様態(モダリティ)を前記流速性血流変化と独立した成分と考え、容積性血流変化(volume−sensitive component)と呼ぶ。
【0024】
以上の血流モダリティと生理学的諸属性を図3に示す。各モダリティを特徴付ける比例係数k,kの各値は、ヘマトクリット値、血中酸素飽和度、血管壁の弾性率などによって定まる。これらは生体恒常性を伴うパラメータであるから計測時間内では、k,kを十分に一定と見なせる。
したがって、従来のsingle distance法によるfNIRS計測信号を、このように生成機序が明確に異なる二つの血流モダリティの混在として考えることが可能となる。
このような解釈に立ち、前記single distance法によるfNIRS計測信号から各モダリティ成分の時間変化を各々分離する手法について以下に詳述する。
【0025】
−モデリング−
前記single distance法でfNIRS計測される情報は、オキシ−ヘモグロビン変化量及びデオキシ−ヘモグロビン変化量という二変量である。以下これをO,Dと記す。これらは、流速性変動の血流変化成分O,Dと容積性変動の血流変化成分O,Dによって構成されていると考える。即ち、

【0026】
ここで、kは、−1≦k<0の負の定数、kは、0<kの正の定数である。このとき前記式(1)は、以下の形に変形できる。

【0027】
≠kであるので、前記式(3)の右辺の行列は逆行列をもつ。したがって、以下の二つの式が得られる。

【0028】
それぞれの血流変化の成分に関して式をまとめると以下となる。

【0029】
以上に述べたように、前記式(1),(2)で記述される二つの血流変化モダリティのモデルに基づくことにより、single distance法のfNIRS計測で得られる二変量O,Dに含まれる容積性血流変化と流速性血流変化を前記式(6),(7)として分離することができる。
【0030】
−各モダリティ係数k,kの決定−
上述の成分分離に基づく演算処理を有効に実行するためには、k,kの具体的な数値を決定しなければならない。
この数値を決定する手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ここでは、より適切な数値を決定する手法として、算術的アプローチと、実証的アプローチの二つの手法を説明する。
【0031】
−算術的アプローチ−
前記算術的アプローチは、算術的手法を用いて数値を決定する手法である。
前記算術的手法としては、前記k,kの具体的な数値を決定できる手法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、容積性血流変化と流速性血流変化の独立性を判別する関数を用いた手法などの算術的手法が挙げられる。
【0032】
上述の容積性血流変化と流速性血流変化の独立性を判別する関数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(1)相互情報量(Mutural information)又は伝達情報量(Transinformation)と呼ばれる量を定義する関数、(2)相関係数(correlation coefficient)又はピアソンの積率相関係数(Pearson product−moment correlation coefficient)と呼ばれる量を定義する関数が挙げられる。
【0033】
(1)相互情報量又は伝達情報量と呼ばれる量を定義する関数
この量は、二つの変数O(k),O(k)が離散値をとる場合、以下のように与えられる。

ただし、前記式(8)において、p(O,O)は、O,Oの同時分布関数であり、p(O)とp(O)は、それぞれOとOの周辺確率分布関数である。
【0034】
また、前記量は、O(k),O(k)が連続値をとる場合、以下のように与えられる。

ただし、前記式(9)において、p(O,O)は、O,Oの同時分布密度関数であり、p(O)とp(O)は、それぞれOとOの周辺確率密度関数である。
【0035】
前記式(8)と(9)のいずれの場合も、p(O,O),p(O)及びp(O)は、O(k)とO(k)の頻度分布に基づいて求めることができる。I(k,k)は、常に正の値をとり、二つの変数O(k),O(k)の取る値の独立性が高いほど小さな値をとる。この性質を用いてI(k,k)が最小になる(k,k)の組み合わせを求めることができる。
【0036】
(2)相関係数又はピアソンの積率相関係数と呼ばれる量を定義する関数
前記式(6),(7)を用いる提案手法では、各時刻iごとに変数OF,i(k)とOV,i(k)の組がn個与えられる。この場合、この量は以下のように与えられる。

【0037】
前記式(10)において、ρ(k,k)は、−1から1までの値を取り、二つの変数O(k),O(k)の相関が低いほどゼロに近づく。この性質を用いてρ(k,k)の絶対値が最小になる(k,k)の組み合わせを求めることができる。
【0038】
−実証的アプローチ−
実証的アプローチは、生体メカニズムの考察及び過去の研究結果から、妥当な数値を決定する手法である。以下、詳細に説明する。
【0039】
先ず、kの数値について検討する。
この血流成分が生じ得る毛細血管では、その直径が時間的に変化しないと想定できる。脳神経活動に随伴して血管の上流側から高い酸素飽和度をもった動脈血の流入が増大した場合、デオキシ−ヘモグロビンは押し流されてオキシ−ヘモグロビンに置き換えられる。この効果のみを考えた場合k=−1となる。
しかし、実際には血流速度の増大に伴ってヘマトクリット値(血液中に占める血球の容積の割合)が上昇したり、受動的な血管拡張が生じる可能性がある。
ただし、それらは血流速度の増大に対する応答作用であるから、血流速度増大のみの効果を完全に打ち消すには至らない。即ち、k<0が保証される。
以上より−1≦k<0を論理的に妥当と考えることができる。
【0040】
過去10数年間に行われた内外の研究のうち、正しいkの値を推測し得る条件(即ち、視覚刺激実験、触覚刺激実験、適切な対照実験を伴う運動課題実験、大脳灰白質の血流変化のみを抽出する測定法を用いた任意の実験、頭蓋除去状態で行った任意の実験)で得られたデータに基づいてkの値を算出したところ、その値は、下記表1に示すとおり、−0.85<k<−0.35の範囲にあった。
したがって、過去の研究例からは、−0.85<k<−0.35が見出される。
【0041】
【表1】

【0042】
脳という重要な器官とそこへの酸素・栄養の供給機構を動物が進化の途上で獲得してきたことを考えると、異なる種にわたり、脳の領野によらず共通の機構、即ち、共通のk値を広く見出せることが期待できる。上記表1で見る限り、−0.6の±10%以内の範囲にkの値を示した事例は全体の半数を超えている。
したがって、この共通のkの値として、約−0.6(−0.6±10%程度)を採用することが好ましいと考えられる。
【0043】
次に、kについて検討する。
この血流成分が生じ得る(毛細血管以外の)動脈、細動脈、細静脈、静脈からは組織に直接酸素は分配されないので、これらの血管中の血液のオキシ−,デオキシ−ヘモグロビンの割合はそれぞれの一定値を保つと想定できる。その条件下で血液体積が増大すれば、オキシ−,デオキシ−ヘモグロビンはそれぞれが占める割合に応じて増大する。いま血中の総ヘモグロビンに占めるオキシヘモグロビンの割合をSとすると、その関係は、以下で表すことができる。

前記式(11)において、Sとして論理上考え得る最大値は、血管内が全てオキシヘモグロビンで満たされた場合の100%であり、最小値は、逆に全てデオキシヘモグロビンで満たされた場合の0%である。これらに対応するkは、前記式(11)から、それぞれ場合で0と+∞である。
したがって、論理的には0<k<+∞の範囲を想定し得る。
【0044】
実際には、生理学的に動脈血のSは、100%に非常に近く、95%以下には容易にならないことが知られている。また静脈血のSは、安静時には約70%を示し(非特許文献30参照)、激しい運動が持続した場合にも50%程度以下には低下しないことが知られている。
もしも、この血流成分が動脈血のみで生じ、そのSが100%だった場合、kは最も低い値0をとる。一方、血流成分が静脈血のみで生じ、そのSが生理的に考え得る最も低い50%程度だったとするとkは最も高い値1をとる。
以上の考察から、生理学的には、0<k≦1の範囲を示すのが妥当と考えられる。
【0045】
実際には、この血流成分には動脈血と静脈血の両方が寄与する。激しい運動負荷をかけない通常の計測条件では、動脈血のSが100%、静脈血のSが約70%程度である。前記式(11)から、それぞれに対応するk値は、0と0.43である。
したがって、準安静的な条件下で行われる計測では、0<k<0.5程度の範囲の値を取ると考えられる。
【0046】
なお、前記k,kの決定に際し、前記算術的アプローチと前記実証的アプローチは、それぞれ独立して考えることができる。ただし、これらを併用して前記k,kを決定してもよい。
例えば、前記算術的アプローチにおいて、前記式(8)〜(10)の演算処理を実施した結果、I(k,k),ρ(k,k)の最小点、即ち、測定波形の極小点が定かに確認されない場合には、前記k,kのいずれかを実証的アプローチにより決定し、前記極小点が確認されるように処理してもよい。
【0047】
<装置例>
前記生体光計測装置の装置例について説明する。
上述の通り、前記生体光計測装置は、前記光照射部及び前記光検出部を有する。これらは、被検体を介して光学的に接続されるが、通常、該光照射部から照射される光を被検体に導く照射プローブと、前記被検体内を経由した光を前記光検出部に導く受光プローブとを有して構成される(図1参照)。本発明は、multi distance法(図2参照)における参照用プローブを有する構成を排除するものではないが、前記演算処理部にて血流変動の二つの様態(モダリティ)を解析する演算処理を実施することにより、こうした参照プローブがなくても、脳機能由来の信号のみを抽出して測定を行うことができる。
【0048】
前記照射プローブ及び前記受光プローブを有する構成に関し、これらは、前記生体光計測装置において複数有することとして構成されてもよい。
この場合、前記光検出部は、前記複数の受光プローブから導かれる光をそれぞれ検出するとともに、前記演算処理部が検出された前記各光から取得される情報をそれぞれ演算処理して出力するように構成される。
【0049】
前記生体光計測装置としては、被検体の頭部における生体信号を測定することに適するが、例えば、前記照射プローブは、前記頭部の右脳部分と左脳部分とに配されてよい。また、前記受光プローブは、前記照射プローブからの距離を一定にして、その周囲に複数配されてよい。この様子を図4に示す。該図中、各プローブの配置箇所としては、符号11が照射プローブを示し、符号12が受光プローブを示している。
このようなプローブ配置により、脳の各機能領野における諸神経活動を効果的に測定することができる。
【0050】
また、前記生体光計測装置としては、前記被検体の表面に沿って取付け可能なプローブホルダを有し、前記プローブホルダに前記照射プローブと前記受光プローブとが保持されることとして構成されてもよい。
このようなプローブホルダを有することにより、前記被検体に対して安定した状態で各プローブを配置することができる。
【0051】
前記プローブホルダの具体的な構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販のfNIRS装置に用いられているものを適用することができるが、個人差により様々な曲面を有する被検体の頭部に対し、前記各プローブを垂直に密着保持させ、前記各プローブの配置を一定に保持させる観点から、例えば、図5,図6に示すプローブホルダ20のように構成してもよい。
【0052】
プローブホルダ20は、図5に示すように、少なくとも照射プローブ11と受光プローブ12とを保持する二つのプローブソケット13と、これらのソケットを連結する長板上の上部連結子14及び下部連結子15とを有し、該下部連結子15上に、被検体の表面にフィットするように固定させるとともに外光を遮断する布状部材19を有する。
【0053】
プローブソケット13は、図6に示すように、上部連結子14及び下部連結子15の孔に嵌装させながら、ソケット本体16に対し、下部取付部材17及び上部取付部材18のねじ部を螺合して配される。
ここで、上部連結子14に配される孔は、下部連結子15に配される丸孔と異なり、上部連結子の長さ方向に拡開された長孔として形成されており、プローブソケット13は、下部連結子15における下部取付部材17の取付け位置を固定しつつ、上部取付部材18の取付け位置を上部連結子14の長さ方向で任意に調節することができる。
したがって、図5に示すプローブホルダ20を被検体頭部の表面形状に沿って湾曲させて取付ける際、上部取付部材18のを下部連結子15の孔に対応する位置よりも上部連結子14の長手方向外側の位置に調節して取付けることにより、被検体頭部に対して、垂直に密着保持されるように、各プローブ11,12を配することができる。
【0054】
(生体光計測方法)
本発明の生体光計測方法は、少なくとも、光照射ステップと、光検出ステップと、演算処理ステップとを有する。
【0055】
<光照射ステップ>
前記光照射ステップでは、近赤外光を被検体に照射する。
前記光照射ステップを実行する具体的な手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記生体光計測装置における光照射手段が挙げられる。
【0056】
<光検出ステップ>
前記光検出ステップでは、前記被検体に照射され、前記被検体内を経由した光を検出する。
前記光検出ステップを実行する具体的な手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記生体光計測装置における光検出部が挙げられる。
【0057】
<演算処理ステップ>
前記演算処理ステップでは、前記光検出ステップで検出した前記光から取得される情報を演算処理して出力する。
ここで、前記演算処理ステップは、前記光から取得される前記被検体における血液中のオキシヘモグロビン変化量O及びデオキシヘモグロビン変化量Dの各情報から、下記式(6)及び(7)で表される、前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける流速性変動の血流変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける流速性変動の血流変化成分D、並びに/又は前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける容積性変動の血液変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける容積性変動の血流変化成分Dを算出して出力することを特徴とする。

ただし、前記式(6)及び(7)において、k及びkは、k≠kを満たす数値である。
前記演算処理ステップを実行する具体的な手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記生体光計測装置における演算処理部が挙げられる。
【実施例】
【0058】
<実験内容>
図5及び図6に示す構成に特徴付けられる、独自に開発したプローブ及びホルダシステム(特許文献2及び非特許文献31参照)を近赤外光イメージング装置(島津製作所製、OMM−3000)に接続し、検出される光信号に対して、前記式(6),(7)に基づく演算処理を行うようにした。使用する波長は、776nm、808nm、828nmとした。サンプリングレート40Hzで得られた各波長の吸光度データを10Hzにダウンサンプリングした後、1Hzのローパスフィルタに通した。
被験者の頭部へのプローブの設置は、非特許文献3に記載の設置方法に準拠し、同一のtappingタスクを用いたMRI計測で一次運動野を特定された被験者に対して、左右運動野活動部位の直上位置にそれぞれ1つの光源と4つの検出プローブを設置した。光源−検出器は直線上に置かれ、4つの検出器の光源からの距離は、それぞれ10mm,20mm,30mm,40mmとした。
【0059】
被験者は、以下のように選定した。即ち、産総研人間工学実験委員会に承認された実験計画に基づき、実験責任者から個別に実験について口頭・文書で説明を受け、理解した健常成人被験者複数名の協力を得た。
【0060】
以上の実験構成をもとに、先ず、non−functional taskの課題を被験者に実施させた。
被験者を椅子に座らせ、初期安静20秒に続き、課題20秒と安静20秒を5回繰り返し実施させた。合計時間は220秒である。課題内容は、上体傾斜と息止めとした。
上体傾斜の課題では、視覚及び聴覚指示を合図に、上体のみを前傾させ、傾斜角度30°になる位置に置かれたバーに鼻先を接触させて、その姿勢を保持させた。20秒後の次の視覚及び聴覚指示を合図に初期安静時の上体正立に戻ってその姿勢を保持させた。
また、息止めの課題では、同様の指示を合図に呼吸を停止させ、そのまま20秒間保持させた。20秒後の指示を合図に呼吸を再開させた。
【0061】
次に、functional taskの課題を被験者に実施させた。
non−functional task時と同様に被験者を椅子に座らせ、上体正立姿勢を保持させた。この状態で、初期安静20秒に続き、左手タッピング動作20秒、安静20秒、右手タッピング動作20秒、安静20秒を5回繰り返して実施させた。合計時間は420秒である。タッピング動作は、各々の片側の手の親指と人差し指の対向動作を4Hzで行う条件の下、実施させた。
【0062】
−kの決定−
上述の実証的アプローチに基づき、ここでは、kの値としてk=0.6とした。
【0063】
−kの収束性−
また、kに関し、上述の算術的アプローチにおける前記式(8)の相互情報量を定義する関数に基づき、その情報独立性の仮定からI(k,k)が最小となるようにkを定めた。これにより、それぞれの計測データごとに(O,D)と(O,D)とを一意に分離した。
図7に、異なる光源−検出器間距離、タスクの種類の条件に応じて、二つの血流モダリティ間の相互情報量I(k,k)のk依存性がどのように異なるかについての、被験者1のデータを示す。ほとんど全ての条件下で、I(k,k)は極小点をもち、そのときのkの値kは、本発明の提案モデルにとって妥当と云える範囲(0<k<1)にあることが分かる。
【0064】
次いで図8に、異なる被験者のデータを用いて得られた光源−検出器間距離が30mmにおけるkのヒストグラムを示す。このヒストグラムによれば、kのほとんどは、0<k<0.4の範囲に分布している。これは、今回実施したタスクが大きな運動負荷を伴わないために、静脈血の酸素飽和度が安静状態の値70%前後であった、と考えれば、kの値のほとんどが0.4以下に収まる結果となったことを理解できる。
また、ゼロに近い値を持つものがより多いことは、容積性の血流変動全体の中で、動脈血管での容積変動が寄与する割合が相対的に大きいことを示唆している。
以上の結果から、二つの血流モダリティを想定するモデルがこれらの課題、測定条件下での血流変化モデルとして概ね妥当であり、kやkは妥当に推定されていると考えられる。
【0065】
−課題遂行時の時間変化−
図9に、上体前傾の課題遂行に伴う従来法(前記実験内容の条件でヘモグロビン変化O,Dを分離しない手法)でのヘモグロビン変化O,D、並びに、本発明の実施例に係る提案手法の容積性変動成分O,D及び流速性変動成分O,Dの被験者1の結果を示す。すでに、我々が報告しているように(非特許文献3参照)、従来法のO,Dは、上体を傾斜することにより大きく変化する。
この変化については、光源−検出器間距離が異なる様々な条件でも同様の形を示していることが分かる。
また、その振幅は光源−検出器間距離が長いほど大きいが、これはO,Dの計算において光路長による補正を行っていないためと考えられる。提案手法の容積性変動成分の変化はどのチャンネルにおいても従来法の時間変化と非常によく似た挙動を示していることが分かる。
一方で、流速性変動成分は、他の二つに較べてその変化の振幅は非常に小さく、上体傾斜の影響をほとんど受けていないことが分かる。
【0066】
次いで図10に、呼吸停止の課題遂行時の各ヘモグロビン変化の被験者1での結果を示す。やはりここでも、我々が以前に報告した(非特許文献3参照)呼吸停止に伴うアーティファクトが従来法のヘモグロビン変化に確認された。
光源−検出器間距離の異なる条件でもその挙動は非常に類似している。
提案手法の容積性変動成分は、ここでも従来法の各条件のヘモグロビン変化に非常によく似た挙動を示した。
一方で、流速性変動成分は他の二つに較べて変化の振幅がやはり小さく、呼吸停止の影響をほとんど受けていないことが分かる。
【0067】
そして図11に、手指タッピング課題遂行に伴う各ヘモグロビン変化の被験者1での結果を示す。従来法で得られたヘモグロビン変化は、タッピングを行った指の左右の違いに対する明確な片側性は認められない。
同時に、光源−検出器間距離の異なる条件間の比較では、上体傾斜や呼吸停止のとき程には時間変化の形の類似は認められない。
提案手法の容積性変動成分は、数10秒のタイムスパンで生じる緩やかなベースラインの変動と左右によらない課題遂行と同期した上昇が見られる。この形は光源−検出器間距離の異なる各条件間でよく類似している。
一方、流速性変動成分は、光源−検出器間距離30mm,40mmの条件で、左タッピングに対して右側で、右タッピングに対して左側で明確なOの上昇(Dの減少)が見られる。なお、この変化は、光源−検出器間距離を20mm,10mmとした条件ではほとんど認められない。
【0068】
−流速性変動成分とmulti distance法による脳機能信号の比較−
測定データのうち、光源−検出器間距離を20mm,30mmとした条件で測定されたものを用いることにより、我々が提案したmulti distance法を用いて大脳灰白質でのヘモグロビン変化を算出することができる。
図12に、この方法で得た大脳灰白質におけるヘモグロビン変化と光源−検出器間距離30mmで得られた流速性変動成分O,Dの比較を示す。
このmulti distance法と、本発明の実施例に係る提案手法の二つの方法で得たヘモグロビン変化は振幅のスケーリングが異なる。このため図12では、ここに掲げた条件での両者の時間変動が総体として最も一致するようにmulti distance法で得たヘモグロビン変化のスケーリングを調節して表示している。
上体傾斜及びタッピングの課題で、それぞれの手法で得られたヘモグロビン変化は、非常によく一致していることが分かる。
一方、呼吸停止の課題遂行での時間変化は、それほどよく一致せず、提案手法の流速性変動成分の振幅は、multi distace法のそれに較べて大きい。この意味については後述する。
以上のように、提案手法を用いて実際に従来のプローブ配置によるfNIRS計測データから容積性変動と流速性変動の二つの成分を分離することができ、そのうちの流速性変動成分は、multi distance法で得られる大脳灰白質の血流変化ときわめて類似した変化を示すことが明らかとなった。
【0069】
<考察>
二つの血流モダリティは、少なくともモデル上ではオキシとデオキシの相関関係の違いとして定義されているに過ぎない。我々は今回、それらと脳機能信号またはその他の信号との対応関係を検証することができる。
図9,図10では、同形の容積性変動の振幅が光源−検出器間距離の増大にしたがって大きくなる傾向が明瞭に確認された。
また、図11のタッピング実験でも、容積性変動については光源−検出器間距離の異なるチャンネル間で比較的類似した挙動が認められる。一方で、流速性変動の場合、これとは異なり、光源−検出器間距離が30mmを超える場合でのみ認められる。
【0070】
このように各血流モダリティ成分の振幅は、光源−検出器間距離依存性が異なっている。この点をより詳細に議論するために、我々はタッピング実験で得られた容積性成分と流速性成分の時間変動の振幅の比率の各光源−検出器間距離による違いを各々の被験者ごとに定量した。結果を図13に示す。なお、容積性成分と流速性成分の振幅の大きさは、当該ヘモグロビン濃度変化と部分光路長の積で決定される。
近赤外光のヒト頭部組織での伝播はシミュレーションでも研究されており、各組織層での部分光路長もまた光源−検出器間距離によって変化し、その依存性は組織層ごとに異なることが知られている(非特許文献32参照)。
もしも、我々が仮定した通りに流速性成分と容積性成分の生理学的起源が異なるとすると、流速性成分は、実際上では大脳灰白質のみで生じ、容積性成分の大部分は、頭皮層で生じると考えられる。
その場合、図13に示した各成分の振幅の光源−検出器間距離依存性は、その成分が生じる組織層の部分光路長の光源−検出器間距離依存性に類似することが期待される。
【0071】
そこで我々は、観測波長の一つである776nmでの頭皮層と大脳灰白質層での部分光路長の光源−検出器間距離依存性を積層モデルを用いてシミュレーションした。その結果を図13に示す。なお、このシミュレーションには、マサチューセッツ総合病院が公開している計算コードを用い(http://www.nmr.mgh.harvard.edu/PMI/index.html)、生体組織の光学定数は文献値(非特許文献33参照)を用いた。
結果として、頭皮層と灰白質層の部分光路長の光源−検出器間距離依存性は明確に異なり、前者は容積性変動成分と、また後者は流速性変動成分と非常に類似していることが分かる。
更に、図7で示したmulti distance法による灰白質層のヘモグロビン変化と流速性変動成分が極めてよく類似していることを考えあわせると、容積性変動成分は、頭皮層で、流速性変動成分は灰白質層でそれぞれ主に生じていると考えることによって、以上を整合的に理解できる。
以上の考察により、提案手法によって分離された流速性変動成分は灰白質層における神経活動に伴う血流変動を相当程度反映していると考えられる。
【0072】
本実験では、流速性変動を特徴付けるkを文献値から0.6と決定したが、種による違いや領野間での違いなどはそこでは考慮しなかった。それは、脳組織でこの血流変動を生じさせる機構がほ乳類で比較的よく保存されていると考えたためである。
しかし、幾つかの病理的なケース、例えば、脳虚血等では、kの数値が異なる可能性も考えられる。そうした病理例をこの手法で計測する場合には、収束性を犠牲にしてもkとkの両方を自由変数として収束解を求めるようにアルゴリズムを変更して用いることも一策と考えられる。
【0073】
呼吸停止の課題遂行時(図10参照)の流速性変動成分を厳密に観察すると、徐々にオキシが減少し、デオキシが増大していくわずかな傾向が多くの被験者に認められた。
これは酸素供給の停止に伴う血中酸素飽和度のわずかな減少を反映したものと考えられるが、この流速性変動は概して小さいため、今回のような負荷の低い課題では深刻ではなかった。ただし、大きな運動負荷が伴う課題下での計測では、この点も考慮して、kとkを決定することも一策と考えられる。
【0074】
fNIRS計測信号のオキシとデオキシの逆相関性がアーティファクトの混入によって低下するという仮定のもとに、主としてプローブのミスコンタクトによるアーティファクトの除去を提案した報告がある(非特許文献34参照)。
プローブのミスコンタクトにおける見かけ上のヘモグロビン変化は、入射・受光効率の変動が原因であるので、用いる波長に応じた装置特有の性質を示す。
その変動は、上述した容積性変動と同じようにオキシ,デオキシ間で正の相関を持ち、kに相当する比例係数は装置ごとに異なるが、概ね0.5以上の値を取る。
我々が行った実験は、独自のプローブホルダシステムを用いているためプローブのミスコンタクトの問題はほとんど生じないと考えられる。このことは、kのヒストグラム(図8参照)において、kが0.5以上の値を取る頻度が極端に小さいことからも示されている。ただし、このように十分な実験上の配慮を行わない場合のkの収束性やその結果である脳機能信号抽出のパフォーマンスに関しては、別途検討を加えることも一策である。
【0075】
以上に述べたように、標準的なfNIRS計測条件下での計測では、提案手法で抽出した流速性変動成分は大脳灰白質層における神経活動に伴う血流変化を反映するものと考えられる。この手法を用いることにより、すでに従来型のfNIRS装置をもつユーザは新たにハードウェアを更新する必要なく、より信頼性の高いfNIRS計測を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0076】
1,11 照射プローブ
2,12 受光プローブ
3 頭皮
4 頭蓋骨
5 脳脊髄液
6 大脳灰白質層
7 大脳白質層
8 参照用プローブ
10 頭部
13 プローブソケット
14 上部連結子
15 下部連結子
16 ソケット本体
17 下部取付部材
18 上部取付部材
19 布状部材
20 プローブホルダ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0077】
【特許文献1】特開2009−136434号公報
【特許文献2】特開2009−178192号公報
【非特許文献】
【0078】
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【非特許文献2】M.A.Franceschini,D.K.Joseph,T.J.Huppert,S.G.Diamond,and D.A.Boas,“Diffuse optical imaging of the whole head,”J.Biomed.Opt.11,054007,2006.
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【非特許文献14】Schumann P,Touzani O,Young AR,Baron JC,Morello R,MacKenzie ET Evaluation of the ratio of cerebral blood flow to cerebral blood volume as an index of local cerebral perfusion pressure.Brain (1998),121,1369−1379
【非特許文献15】Zonta M,Angulo MC,Gobbo S,Rosengarten B,Hossmann KA, Pozzan T,Carmignoto G.Neuron− to−astrocyte signaling is central to the dynamic control of brain microcirculation.Nat Neurosci.2003 Jan;6(1):43−50.
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【非特許文献19】Jasdzewski G,Strangman G,Wagner J,Kwong KK,Poldrack RA,Boas DA.Differences in the hemodynamic response to event−related motor and visual paradigms as measured by near−infraredspectroscopy.Neuroimage.2003 Sep;20(1):479−88.
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【非特許文献24】Obrig H,Wenzel R,Kohl M,Horst S,Wobst P,Steinbrink J,Thomas F,Villringer A.Near−infrared spectroscopy:does it function in functional activation studies of the adult brain?Int J Psychophysiol.2000 Mar;35(2−3):125−42.
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外光を被検体に照射する光照射部と、
前記被検体に照射され、前記被検体内を経由した光を検出する光検出部と、
前記光検出部が検出した前記光から取得される情報を演算処理して出力する演算処理部とを有し、
前記演算処理部は、前記光から取得される前記被検体における血液中のオキシヘモグロビン変化量O及びデオキシヘモグロビン変化量Dの各情報から、下記式(6)及び(7)で表される、前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける流速性変動の血流変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける流速性変動の血流変化成分D、並びに/又は前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける容積性変動の血液変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける容積性変動の血流変化成分Dを算出して出力することを特徴とする生体光計測装置。

ただし、前記式(6)及び(7)において、k及びkは、k≠kを満たす数値である。
【請求項2】
及びkが、容積性血流変化と流速性血流変化の独立性を判別する関数によって決定される請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項3】
が−1≦k<0の負の数値であり、kが0<kの正の数値である請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項4】
は、−0.85<k<−0.35を満たし、kは、0<k≦1を満たす数値である請求項3に記載の生体光計測装置。
【請求項5】
近赤外線を被検体の頭部に照射する請求項1から4のいずれかに記載の生体光計測装置。
【請求項6】
光照射部から照射される近赤外光を被検体に導く照射プローブと、前記被検体内を経由した光を光検出部に導く受光プローブとを有する請求項1から5のいずれかに記載の生体光計測装置。
【請求項7】
光検出部が複数の受光プローブから検出される光をそれぞれ検出するとともに、
演算処理部が検出された前記各光から取得される情報をそれぞれ演算処理して出力する請求項6に記載の生体光測定装置。
【請求項8】
被検体の表面に沿って取付け可能なプローブホルダを有し、前記プローブホルダに照射プローブ及び受光プローブが保持される請求項6から7のいずれかに記載の生体光測定装置。
【請求項9】
近赤外光を被検体に照射する光照射部と、前記被検体に照射され、前記被検体内を経由した光を検出する光検出部と、前記光検出部が検出した前記光から取得される情報を演算処理して出力する演算処理部とを有する生体光計測装置に用いられ、
前記演算処理部に対して、前記光から取得される前記被検体における血液中のオキシヘモグロビン変化量O及びデオキシヘモグロビン変化量Dの各情報から、下記式(6)及び(7)で表される、前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける流速性変動の血流変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける流速性変動の血流変化成分D、並びに/又は前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける容積性変動の血液変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける容積性変動の血流変化成分Dを算出して出力させることを特徴とするプログラム。

ただし、前記式(6)及び(7)において、k及びkは、k≠kを満たす数値である。
【請求項10】
近赤外光を被検体に照射する光照射ステップと、
前記被検体に照射され、前記被検体内を経由した光を検出する光検出ステップと、
前記光検出ステップで検出した前記光から取得される情報を演算処理して出力する演算処理ステップとを有し、
前記演算処理ステップは、前記光から取得される前記被検体における血液中のオキシヘモグロビン変化量O及びデオキシヘモグロビン変化量Dの各情報から、下記式(6)及び(7)で表される、前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける流速性変動の血流変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける流速性変動の血流変化成分D、並びに/又は前記オキシヘモグロビン変化量Oにおける容積性変動の血液変化成分O及び前記デオキシヘモグロビン変化量Dにおける容積性変動の血流変化成分Dを算出して出力することを特徴とする生体光計測方法。

ただし、前記式(6)及び(7)において、k及びkは、k≠kを満たす数値である。
【請求項11】
流速性変動の血流変化成分O、Dの各情報に基づき、神経活動に伴う被検体の大脳灰白質層における血流変動を測定する請求項10に記載の生体光測定方法。
【請求項12】
容積性変動の血液変化成分O、Dの各情報に基づき、被検体の頭皮層における血流変動を測定する請求項10から11のいずれかに記載の生体光測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−239668(P2012−239668A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113081(P2011−113081)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】