説明

生体光計測装置

【課題】生体光計測装置のサンプリング点へ寄与する感度の空間分布を均一化する。
【解決手段】
光を被検査体に照射する複数の光照射器と前記被検査体からの通過光を検出する複数の光検出器を交互に格子状の点に配置するとともに、それぞれの格子の対向する2つの辺の各辺の略中点に光を被検査体に照射する光照射器と前記被検査体からの通過光を検出する光検出器を配置し、等間隔に配置された各光照射器と光検出器の対の略中点をサンプリング点とし、複数の該サンプリング点のデータを用いて画像を構成する生体光計測装置において、光照射器と光検出器の対の多くの感度分布が交わる場所はサンプリング点として採用しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体光計測装置における画像化表示技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳の局所的血液量変化は、光トポグラフィ法により無侵襲に計測可能である。光トポグラフィ法は、可視から赤外領域に属する波長の光を被検体に照射し、被検体内部を通過した複数信号の光を同一の光検出器で検出し、ヘモグロビン変化量(または、ヘモグロビン濃度と光路長の積の変化量)を計測する方法である。磁気共鳴描画装置、ポジトロン断層撮像法等の脳機能計測技術と比較し、被験者に対する拘束性も低いという特徴を持つ。臨床現場において、この方法により、言語機能や視覚機能などの計測が行われている。
【0003】
一般に脳内の大脳皮質における血液量変化を計測するためには、光照射器と光検出器を30mm間隔で格子状の点に空間的に交互に配置している。また、この光照射器と光検出器の配置位置の中点をサンプリング点とし、30mm間隔で配置した光照射器と光検出器を用いて算出した血液量変化を画像化する際の位置情報を与えている。このサンプリング点での血液量変化と位置情報を用いて、複数サンプリング点でデータを用いて、トポグラフィ画像を作成したり、血液量変化を示す波形の空間分布、統計処理により得られた各チャンネルでの血液量変化の強度の差、他を表示する(非特許文献1)。これらの場合、サンプリング点の間隔は21mmとなることが非特許文献2他から知られている。このサンプリング点の間隔を高密度化するために、一対の光照射器と光検出器の中点に別途光照射器もしくは光検出器を配置し、かつ該追設した光照射器と光検出器は予め配置された光照射器と光検出器の配置方法と同様に格子状に配置されることを特徴とする生体光計測装置も特許文献1に開示されている。この配置方法であれば、サンプリング点の配置間隔は15mmになることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−586号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Masako Okamoto et al,“Prefrontal activity during taste encoding:An fNIRS study”,NeuroImage,Volume 31,Issue 2,June 2006,p.796−806.
【非特許文献2】Tsuyoshi Yamamoto et al,“Arranging optical fibres for the spatial resolution improvement of topographical images”,Journal Physics in Medicine and Biology,Issue Volume 47,Number 18,2002,p.3429−3440.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した非特許文献1記載の光照射器、光検出器の配置方法では、光照射器、光検出器の配置が方向により不均一となり、その結果、一対の光照射器、光検出器により構成される血液変化量の検出領域(感度分布)の分布が不均一になる。
【0007】
本発明は、各チャンネルへ寄与する感度を現行より均一化し、サンプリング点での感度寄与率の均一化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の生体光計測装置は、光を被検査体に照射する複数の光照射器と前記被検査体からの通過光を検出する複数の光検出器を交互に格子状の点に配置するとともに、それぞれの格子の対向する2つの辺の各辺の略中点に光を被検査体に照射する光照射器と前記被検査体からの通過光を検出する光検出器を配置し、等間隔に配置された各光照射器と光検出器の対の略中点をサンプリング点とし、複数の該サンプリング点のデータを用いて画像を構成する生体光計測装置において、光照射器と光検出器の対の多くの感度分布が交わる場所はサンプリング点として採用しないようにしたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の生体光計測装置において、前記光照射器と前記光検出器が配置される前記各格子の頂点はサンプリング点として採用しないようにしてもよい。
【0010】
また、本発明の生体光計測装置は、光を被検査体に照射する複数の光照射器と前記被検査体からの通過光を検出する複数の光検出器を交互に格子状の点に配置するとともに、それぞれの格子の対向する2つの辺の各辺の略中点に光を被検査体に照射する光照射器と前記被検査体からの通過光を検出する光検出器を配置し、等間隔に配置された各光照射器と光検出器の対の略中点をサンプリング点とし、複数の該サンプリング点のデータを用いて画像を構成する生体光計測装置において、前記サンプリング点として、前記複数の光照射器と複数の光検出器を交互に格子状の点に配置した、各光照射器と光検出器の対の略中点、および、前記それぞれの格子の対向する2つの辺の各辺の略中点に配置した光照射器と光検出器の対の略中点を採用したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各チャンネルへ寄与する感度が現行より均一化でき、サンプリング点での感度寄与率の均一化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明により開示する生体光計測装置の主要構成を示す図である。
【図2】光伝播解析に使用するモデルの例を示す図である。
【図3】図2の1−1’の断面図である。
【図4】感度の空間特性の一例を示す図である。
【図5】通常の格子状配置による感度の空間分布を示す図である。
【図6】高精細計測法による光照射器および光検出器の配置方法を示す図である。
【図7】高精細計測法によるサンプリング点の空間分布を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態のサンプリング点の空間分布を示す図である。
【図9】統計情報のマッピング法の一例を示す図である。
【図10】空間補間画像のマッピング法を示す図である。
【図11】トポグラフィ画像を対比して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
生体光計測において、サンプリング点毎に、各サンプリング点へ寄与する感度の空間分布が異なるため、予め感度の空間分布を先見情報として決定し、その決定結果により画像表示に使用するサンプリング点を決定するアルゴリズムを開発することで実現した。
【0014】
図1は、本発明により開示する生体光計測装置の主要構成を示す図である。計測制御部1は、信号解析部2、記憶装置3、光量制御部4および光伝播特性解析部5他から構成される。該光量制御部4は、半導体レーザに代表される光源と、その光源の光量(光強度)を制御する制御部位から構成されている。また、信号解析部2は、後述するプローブにて光を送信し、生体内部を伝播した光を受信し解析する部位である。また、その解析された光強度から、生体内代謝物質(ヘモグロビン他)の濃度変換を算出することなども可能である。記憶装置3は、その計測結果(生体内部を通過した光の強度、算出された該生体内代謝物質の濃度他)を保存する場所である。この計測制御部1は、光ファイバに代表される光伝送媒体・プローブ6により、被検査体7へ接続している。被検査体7上には、光照射、光検出に使用するプローブホルダ8が接続されている。
【0015】
次に、図2他を用いて、生体内の光伝播特性を解析した結果を示す。図2は、光伝播解析に使用するモデルの一例を示している(非特許文献2)。本モデルでは、典型的に頭蓋骨9、脳脊髄液層10、大脳皮質11を三層構造でモデル化しているが、脳構造のモデル方法は任意である。また、12、13にそれぞれ光照射位置、光検出位置を設定する。
【0016】
図2の1−1’の断面図を図3に示す。本図中の14は、脳活動前の生体の内部構造、15は脳活動中の生体の内部構造を示しており、この14、15の違いは、一部の場所の吸収係数が異なることである。これは、脳活動に伴う脳内の酸素代謝により血液が供給され、その結果吸収係数が変化している様子を示している。前述した頭蓋骨9、脳脊髄液10、大脳皮質11に関する散乱係数、並びに吸収係数を設定し、モンテカルロシミュレーション、もしくは光拡散方程式に代表される計算シミュレーションなどにより、13に示した光検出位置へ到達した光強度を、脳活動前、脳活動中各々に対して、I1、I2とし計算により算出する。また、前述した脳活動前の生体の内部構造14、脳活動中の活動中の生体の内部構造15の位置と、光照射位置12、光検出位置13の位置関係を変えてI1、I2を計算する。また、この計算による方法に加えて、生体模擬試料を作成し、I1、I2を実測してもかまわない。この計算結果から、次の数1により、吸光度変化の感度の空間特性が求められる。
【0017】
【数1】

図4は、感度の空間特性の一例を示す図であり、16は光照射位置、17は光検出位置を示している。非特許文献2によれば、この感度の空間特性は楕円形状の分布になることが知られている。図1に示した光伝播解析部では、このような感度の空間分布を算出することができ、本発明ではこの感度の空間分布を画像作成に利用する。
【0018】
図5は、通常の格子状配置で得られる光照射器18、光検出器19の配置方法並びに、その配置方法から得られるサンプリング点20並びに感度の空間分布21の分布図を示す。図4に示したように感度の空間分布は楕円形状になっているものの、光照射器と光検出器の中点で最大感度となることが知られており、そのため、この中点をサンプリング点とし、一対の光照射器と光検出器を用いて計測した生体代謝物質の濃度変化に関する位置情報を与える点としている。また、21に示す感度の空間分布は、代表的な形状を示しているが、光照射器−光検出器間をその方向に長径となる楕円形状で、隣接する光照射器−光検出器の間すべてに存在する。
【0019】
図6は、高精細計測法と呼ばれる計測方法における光照射器および光検出器の配置方法を示しており、非特許文献2に光照射器と光検出器の配置方法、サンプリング点の空間分布について記載されている。該図の18(●、■と黒色で表示)は光照射器の配置位置、19(●、■と灰色で表示)は光検出器の配置位置を示している。本図では、格子状に配置された一対の光照射器と光検出器の略中点に別途光照射器もしくは光検出器が配置されており、該別途配置された光照射器と光検出器も格子状の構成となっていることが特徴である。21は各光照射器−光検出器対から得られる感度の空間特性であり、前述の通り楕円形状の分布をマップしている。
【0020】
図7に、該感度の空間特性21から得られるサンプリング点の空間分布20を示す。図5に示したサンプリング点の空間分布と比較すると、サンプリング点の配置間隔が、1/√2になっており、サンプリング点の高密度配置が実現できている。一方で、図6、図7をみると、感度の空間分布の分布が、縦方向と横方向では異なること、言い換えれば異方性を有することがわかる。そのため、一例として、サンプリング点22は、サンプリング点23と比較して多くの光照射器−光検出器対から得られる感度の空間分布領域に含まれることが分かる。これは、広い領域の血液量変化を検出してしまうということにもなる。
【0021】
図8に、本発明の実施の形態のサンプリング点の空間分布および感度の空間分布を示す。本実施の形態では、図6の光照射器および光検出器の配置を採用している。本実施の形態のサンプリング点の空間分布では、図7のサンプリング点22に示したような多くの感度分布が交わる場所をサンプリング点としては採用していない。すなわち、図5に示される、通常の格子状配置で光照射器および光検出器が配置される格子状の点は、サンプリング点として採用しない。言い換えると、本実施の形態では、サンプリング点として、複数の光照射器と複数の光検出器を交互に格子状の点に配置した、各光照射器と光検出器の対の略中点、および、それぞれの格子の対向する2つの辺の各辺の略中点に配置した光照射器と光検出器の対の略中点を採用する。このサンプリング点の空間分布に基づき、図9に示したサンプリング毎の生体内代謝物質の濃度に関する統計情報を表示24したり、図10に示すように、サンプリング点毎の生体内代謝物質の濃度に関する空間補間画像25を表示すればよい。
【0022】
この実施の形態のサンプリング点の配置方法に関するメリットを、図11に示す表を用いて説明する。通常格子状配置において、脳活動の中心位置を3箇所設定し、各々位置における血液量変化を示すトポグラフィ画像を3つ示す。中心位置を示す各々の×印と、トポグラフィ画像上の血液量変化位置上の×印は対応している。また、高精細計測法において同様な血液量変化位置を3箇所設定し、設定した3箇所に対応するトポグラフィ画像も3つ示す。更に本発明の実施の形態で開示したサンプリング点の選択法に基づくサンプリング点の配置に基づき再構成したトポグラフィ画像も同様に示す。この図から分かるように、高精細計測法では、脳活動位置によりトポグラフィ画像が丸型に表示される場合と四角型に表示される場合などがあり、脳活動位置によってトポグラフィ画像の形状が異なることがある。一方、通常格子状配置によるサンプリング点の空間分布に基づきトポグラフィ画像を再構成した場合、および、本発明に基づくサンプリング点の空間分布に基づきトポグラフィ画像を再構成した場合については、脳活動の位置に寄らずに、円形に画像が再構成される。この結果、本発明によれば、高精細な画像であって、脳活動位置とサンプリング点の空間的な位置の相対関係に依存せずに、同質なトポグラフィ画像を作成することが出来る。
【符号の説明】
【0023】
1 計測制御部
2 信号解析部
3 記憶装置
4 光量制御部
5 光伝播特性解析部
6 光伝送媒体
7 被検査体
8 プローブホルダ
9 頭蓋骨
10 脳脊髄液層
11 大脳皮質
12 光照射位置
13 光検出位置
14 脳活動前の生体の内部構造
15 脳活動中の生体の内部構造
16 光照射位置
17 光検出位置
18 光照射器
19 光検出器
20 サンプリング点
21 感度の空間分布
22 サンプリング点
23 サンプリング点
24 サンプリング毎の生体内代謝物質の濃度に関する統計情報
25 空間補間画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を被検査体に照射する複数の光照射器と前記被検査体からの通過光を検出する複数の光検出器を交互に格子状の点に配置するとともに、それぞれの格子の対向する2つの辺の各辺の略中点に光を被検査体に照射する光照射器と前記被検査体からの通過光を検出する光検出器を配置し、等間隔に配置された各光照射器と光検出器の対の略中点をサンプリング点とし、複数の該サンプリング点のデータを用いて画像を構成する生体光計測装置において、
光照射器と光検出器の対の多くの感度分布が交わる場所はサンプリング点として採用しないようにしたことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の生体光計測装置において、
前記光照射器と前記光検出器が配置される前記各格子の頂点はサンプリング点として採用しないようにしたことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項3】
光を被検査体に照射する複数の光照射器と前記被検査体からの通過光を検出する複数の光検出器を交互に格子状の点に配置するとともに、それぞれの格子の対向する2つの辺の各辺の略中点に光を被検査体に照射する光照射器と前記被検査体からの通過光を検出する光検出器を配置し、等間隔に配置された各光照射器と光検出器の対の略中点をサンプリング点とし、複数の該サンプリング点のデータを用いて画像を構成する生体光計測装置において、
前記サンプリング点として、前記複数の光照射器と複数の光検出器を交互に格子状の点に配置した、各光照射器と光検出器の対の略中点、および、前記それぞれの格子の対向する2つの辺の各辺の略中点に配置した光照射器と光検出器の対の略中点を採用したことを特徴とする生体光計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−17723(P2013−17723A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154571(P2011−154571)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(505246789)学校法人自治医科大学 (49)
【Fターム(参考)】