説明

生体分子修飾のためのポリイオンデンドリマー

【課題】
本発明は、共有結合を介さず、分子間相互作用を利用して、単に混合という簡便な操作で生体分子を修飾できる、汎用性の高い修飾化剤を提供する。
【解決手段】
本発明は、表面部としてグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群から選ばれるカチオン性の基を有し、分岐鎖としてポリアルキレンオキシ基を有し、コア部としてカルボキシル基を有し、当該カルボキシル基に蛍光性の基が結合していることを特徴とするポリイオンデンドリマー、並びにそれを用いたラベル化剤、及びラベル化方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面部としてグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群から選ばれるカチオン性の基を有し、分岐鎖としてポリアルキレンオキシ基を有し、コア部としてカルボキシル基を有し、当該カルボキシル基に蛍光性の基が結合していることを特徴とするポリイオンデンドリマー、並びにそれを用いた生体分子のラベル化剤、及びラベル化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンパク質をはじめとする生体分子の標識化には、化学結合の生成を伴う手法が用いられてきた。しかしながら、そのよう手法では、標識化に伴い生体分子の活性が変化することもあり、多くの場合、遺伝子工学的手法により変異体を調製する必要があった。
生体分子の改変法は、遺伝子工学的手法により発現過程で変異を導入する手法か、後処理行程において化学修飾を利用する手法により行われている。後者は、共有結合を介して分子の修飾を行う手法であるが、あらかじめ修飾位置に適切な変異を加えた変異体を調製する必要があった。また、多くの場合、修飾剤に合わせてあらかじめ生体分子を改変する必要がある。このため、生体分子をそのまま修飾できる汎用性の高い標識手法の開発が待たれていた(非特許文献1)。
【0003】
デンドリマーは、ギリシャ語の「dendri-」(樹木状)と「meros」(一部)を組み合わせて名づけられた、中心から規則的に分岐した構造を持つ樹状高分子で、構造が正確にコントロールされた樹木状のポリマーである。過去10年間に5000以上の論文が発表されてきているが、他の高分子と比べて合成が極めて困難であるため、実用化は難しとされている。現在最もよく用いられているポリアミドアミン構造を持つPAMAMデンドリマーなどは、既に市販されてきている。
デンドリマーは、コア (core) と呼ばれる中心分子と、デンドロン (dendron) と呼ばれる樹状の分岐構造部分、及び表面(surface)と呼ばれる末端基部分から構成され、デンドロン部分の分岐回数を世代 (generation) と言っている。一般に高分子はある程度の分子量分布を持つが、高世代のデンドリマーは、分子量数万に達するもののほとんど単一分子量であるという、際立った特徴を持っている。
コア(core)はデンドリマー全体のサイズ・形・方向性・多様性を決定する部位であるとされており、デンドロン (dendron) は、枝状のセルが規則的に増えていく部分で、このセルが空間のタイプと大きさを決定し、枝状のセルの多重度は世代(generation)に対して指数関数的に増加する。表面(surface)は反応性・非反応性の末端基で構成され、末端基のタイプにより様々な機能を発現することができると共に、外部のゲスト分子の出入りをコントロールするゲートの役割もになっている。
【0004】
デンドリマーの製造法はよく知られており、例えば、リジン単位の層に基くデンドリマーの製造法(特許文献1参照)、ポリアミドアミンを含む他の単位に基くデンドリマーやPAMAMデンドリマーの製造法(特許文献2参照)などが報告されている。これらのデンドリマーは、表面修飾剤、金属キレート剤、解乳化剤または油/水エマルジョン、製紙における湿潤紙力増強剤、及び塗料などの水性配合物での粘度調節剤などとしての使用に適するとされているが、医薬製造用の基剤として使用(特許文献3参照)や、生物学的反応修飾物質になりうる担体物質と会合させるためのもの(特許文献4参照)なども既に報告されてきている。
また、表面の末端基としてグアニジン基のようなカチオン性の基を有するデンドリマー(樹状高分子化合物)も知られており、例えば、ポリアミドアミンデンドリマーやポリリジンデンドリマーやポリ(プロピレンイミン)デンドリマーなどの表面に4級アミノ含有部分、ピリジニウム含有部分、グアニジウム含有部分、アミジニウム含有部分などのイオン性基を設けたデンドリマーを毒性物質による疾患の予防又は治療に用いるもの(特許文献5参照)や、同じデンドリマーを細菌などの微生物又は寄生虫による疾患の予防又は治療に用いるもの(特許文献6参照)、また、このようなイオン性末端基を有するデンドリマーをゲル形成剤として農薬や衛生用品の担体として使用するもの(特許文献7参照)などが報告されている。さらに、カチオン性の基を有するポリエチレンイミンデンドリマーなどのカチオン性物質をアニオン性の酵素活性蛍光基質と複合させて蛍光基質の膜輸送系を形成させる方法も報告されている(特許文献8参照)。
しかしながら、コア部に蛍光プローブを共有結合させたものは知られていない。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,289,872号明細書
【特許文献2】米国特許第4,289,872号明細書
【特許文献3】米国特許第4,289,872号明細書
【特許文献4】国際特許公開 WO 95/24221号公報
【特許文献5】特表2002−524523号公報
【特許文献6】特表2002−524524号公報
【特許文献7】特表2002−538186号公報
【特許文献8】特表2006−517382号公報
【非特許文献1】Timothy L Foley and Michael D Burkart, advances and applications Current Opinion in Chemical Biology, 2007, 11:12-19
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明で解決しようとする課題は、共有結合を介さず、分子間相互作用を利用して、単に混合という簡便な操作で生体分子を修飾できる、汎用性の高い修飾化剤を提供することにある。また、このような修飾剤の基本骨格となる分子の設計指針と合成手法を確立することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、複数のイオン種間で特に強い相互作用が働くことに着目し、分子表面にグアニジン基あるいはチオウレニウム基を多数擁するポリグアニジンデンドリマーの分子設計とその合成法を確立することによる、生体分子の修飾の可能性の開拓に挑戦してきた。これらの化合物は、複数のイオン性官能基を表面に持つため、タンパク質、核酸など複数のアニオン性官能基を持つ生体分子と強く結合し、これらの生体分子をラベル化することが可能となることを見出した。例えば、表面に複数のグアニジン基あるいはチオウロニウム基を有するデンドリマー(樹状高分子)は、牛血清アルブミン(BSA)と強く相互作用し、ラベル化できることを見いだし、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明は、表面部としてグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群から選ばれるカチオン性の基を有し、分岐鎖としてポリアルキレンオキシ基を有し、コア部としてカルボキシル基を有し、当該カルボキシル基に蛍光性の基が結合していることを特徴とするポリイオンデンドリマーに関する。より詳細には、本発明は、下記の一般式[1]
【0009】
【化4】

【0010】
[式中、Xはピレン、アゾベンゼン、ポルフィリン、及びローダミンからなる群から選ばれる蛍光性の基を示し、Yはグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群から選ばれるカチオン性の基を示し、nは分岐鎖の繰り返し回数を示し1〜6の整数を表し、mは世代を示し1〜5の整数を表す。]
で表されるポリイオンデンドリマーに関する。さらに詳細には、本発明は、下記の一般式[2]、
【0011】
【化5】

【0012】
又は、下記の一般式[3]
【0013】
【化6】

【0014】
[式中、Xはピレン、アゾベンゼン、ポルフィリン、及びローダミンからなる群から選ばれる蛍光性の基を示し、Yはグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群から選ばれるカチオン性の基を示し、nは分岐鎖の繰り返し回数を示し1〜6の整数を表す。]
で表されるポリイオンデンドリマーに関する。
また、本発明は、前記した本発明のポリイオンデンドリマーを含有してなる生体分子のラベル化剤、又はラベル化用組成物に関する。
さらに、本発明は、標的とする生体分子が存在する試料中に、前記した本発明のポリイオンデンドリマーを添加し、生体分子とポリイオンデンドリマーとを会合させることからなる生体分子をラベル化する方法に関する。
【0015】
本発明をより詳細に説明すれば、以下のとおりとなる。
(1)表面部としてグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群から選ばれるカチオン性の基を有し、分岐鎖としてポリアルキレンオキシ基を有し、コア部としてカルボキシル基を有し、当該カルボキシル基に蛍光性の基が結合していることを特徴とするポリイオンデンドリマー。
(2)蛍光性の基がピレン、アゾベンゼン、ポルフィリン、又はローダミンのいずれかである前記(1)のポリイオンデンドリマー。
(3)分岐部分が、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸アミド、3,4−ジヒドロキシ安息香酸アミド、又は3,4−ジヒドロキシ桂皮酸アミドから構成されるものである前記(1)又は(2)に記載のポリイオンデンドリマー。
(4)分岐鎖が、繰り返し回数1〜6のポリエチレンオキシ基である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリイオンデンドリマー。
(5)世代が、1〜5世代である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリイオンデンドリマー。
(6)ポリイオンデンドリマーが、前記した一般式[1]で表されるポリイオンデンドリマーである前記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリイオンデンドリマー。
(7)ポリイオンデンドリマーが、前記した一般式[2]、又は、前記した一般式[3]で表されるポリイオンデンドリマーである前記(1)〜(6)のいずれかに記載のポリイオンデンドリマー。
(8)蛍光性の基が、ピレンである前記(1)〜(7)のいずれかに記載のポリイオンデンドリマー。
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載のポリイオンデンドリマーを含有してなる生体分子のラベル化剤。
(10)生体分子が、牛血清アルブミン(BSA)である前記(9)に記載のラベル化剤。
(11)標的とする生体分子が存在する試料中に、前記(1)〜(8)のいずれかに記載のポリイオンデンドリマーを添加し、生体分子とポリイオンデンドリマーとを会合させることからなる生体分子をラベル化する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、共有結合を介さず、分子間相互作用によりそのまま生体分子を修飾できる、汎用性の高い修飾化剤として有用な新規なデンドリマーを提供する。すなわち、複数のイオン種間で特に強い相互作用が働くことに着目し、分子表面にグアニジン基を多数擁するポリグアニジン型デンドリマー(樹状高分子)により、生体分子の修飾を行うことにより、共有結合を介することなく、生体分子をラベル化することができる。
本発明の方法により、生体分子を共有結合でラベル化することによる生体分子の化学的な変性をすることなく、生体分子を生体分子のままの状態でラベル化することが可能となり、より自然な状態で生体分子の挙動を測定することが可能となるだけでなく、より簡便な方法で生体分子の存在を検出することが可能となる。
具体的には、表面部としてグアニジン基、分岐鎖として親水性の高いポリエチレングリコール基、コア部として、様々な官能基を導入可能なカルボキシル基を有する樹状高分子を分子設計し、その合成法を確立した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のポリイオンデンドリマーの特徴は、第一にデンドリマーの表面部にグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群から選ばれるカチオン性の基を有することである。このようなカチオン性の基としては、次の式[4]、[5]、及び[6]、
【0018】
【化7】

【0019】
が挙げられる。これらの基の水素原子部分は炭素数1〜10、好ましくは1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基などで置換されていてもよい。
このようなカチオン性の基はデンドリマー表面部に1個以上あればよいが、好ましくは表面部の末端の全てがこれらのカチオン性の基を有するものが挙げられる。
最近、グアニジン基を有するアミノ酸であるアルギニンの作用に注目が集まっている。特に、アルギニンを導入した化合物の細胞膜透過性が増すことが報告されており、この理由がグアニジン基にあるとされている。本発明のデンドリマー(樹状高分子)においても、本発明のデンドリマーが優れた細胞膜透過を有する一因が、グアニジン基のようなカチオン性の基を多数有していることと考えられる。なお、前記式[5]及び[6]で示されるチオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基もプロトンの付加により、グアニジウム基と同様にカチオン性とすることができる。
【0020】
本発明のポリイオンデンドリマーの特徴は、第二に分岐鎖として親水性の高いポリアルキレンオキシ基を有していることである。本発明におけるアルキレン基としては、炭素数1〜6、好ましくは2〜5の直鎖状又は分岐状のアルキレン基が挙げられる。好ましいアルキレンオキシ基としては、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基などが挙げられるが、入手のしやすさや親水性などの点からエチレンオキシ基が好ましい。また、これらのアルキレンオキシ基は、水酸基、炭素数1〜5のアルコキシ基などの親水性の基で置換されていてもよい。
分岐鎖におけるアルキレンオキシ基の繰り返し数としては、特に制限はないが、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6、さらに好ましくは2〜4が挙げられる。また、デンドリマーの各世代において、これらの繰り返し数は同じであっても異なっていてもよい。これらの繰り返し数により、デンドリマーの内部のセル空間の広さが確保されることから、コア部に大きな蛍光性の基を導入しようとする場合には、比較的大きな繰り返し数が必要となるし、蛍光性の基が小さいものであれば、繰り返し数は比較的少なくてもよい。
【0021】
本発明のポリイオンデンドリマーの特徴は、第三にコア部としてカルボキシル基を有し、当該カルボキシル基に蛍光性の基が結合していることである。当該カルボキシ基は、遊離のカルボキシル基として存在することができるのであれば、分岐鎖を形成することができる基を有している限りにおいて、どのような化合物から誘導されるものであってもよいが、好ましくは本発明のデンドリマーにおける分岐部分を形成する分子と同じ化合物から誘導されるものが挙げられる。例えば、ポリヒドロキシカルボン酸、ポリアミノカルボン酸、トリカルボン酸や、テトラカルボン酸などが挙げられる。好ましい具体例としては、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ桂皮酸アミドなどが挙げられる。
また、当該カルボキシ基に結合する蛍光性の基としては、測定可能な蛍光を発する基であって、カルボキシ基に共有結合することができる官能基、例えば、水酸基やアミノ基などの官能基を有する化合物であれば特に制限はない。好ましい蛍光性の基としては、例えば、ピレン、アゾベンゼン、ポルフィリン、及びローダミンからなる群から選ばれる蛍光性の基が挙げられる。これらの基にカルボキシ基に共有結合させるための官能基を導入して、カルボキシ基に共有結合させることができる。例えば、ピレンにアミノメチル基を導入し、アミノメチルピレンとし、次の式[7]
【0022】
【化8】

【0023】
で示されるように、コア部のカルボキシ基とアミド結合させることができる。
カルボキシル基と蛍光性の基との結合は、共有結合が可能であればどのような形態であってもよい。好ましい結合としては、アミド結合、エステル結合などが挙げられる。
【0024】
本発明のポリイオンデンドリマーの分岐部分を形成する化合物としては、分岐可能なものであれば特に制限はないが、好ましくはコア部の化合物と同種の化合物の使用が挙げられる。例えば、コア部におけるカルボキシ基を有する化合物として、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、又は3,4−ジヒドロキシ桂皮酸を用いた場合には、分岐部分においてもこれを用いることが製造の容易さの点からも好ましい。
分岐部分の化合物と、分岐鎖の結合も任意に選択することができる。例えば、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、イミノ(−N−)結合などの任意の結合を選択することができる。
【0025】
本発明のポリイオンデンドリマーの製造方法としては、デンドリマーの公知の製造方法に準じた製造方法を適用することができる。例えば、コア部を形成して第一世代を製造する方法、又は第一世代を形成した状態でコア部を形成させる方法により、コア部と第一世代を製造し、次いで、必要に応じて第二世代、第三世代と成長させる方法が挙げられる。そして、表面の末端部を形成させることにより製造することができる。
より具体的には、後記する実施例を参照されたい。
【0026】
前記してきた一般式[1]で表される本発明のポリイオンデンドリマーは、分岐鎖がエチレンオキシ基であり、分岐部分が3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸で前の世代の分岐鎖とアミド結合で結合され、次の世代とエーテル結合で結合され、分岐鎖の繰り返し数がnで世代がmのものを表している。
また、前記した一般式[2]は、2世代の状態の本発明のポリイオンデンドリマーを表しており、前記した一般式[3]は1世代の状態の本発明のポリイオンデンドリマーを表している。
これらはいずれも本発明の好ましいポリイオンデンドリマーの例であり、より具体的には、本発明の好ましいポリイオンデンドリマーとして、次のG0−G、G1−G、及びG0−Tが挙げられる。
【0027】
【化9】

【0028】
【化10】

【0029】
【化11】

【0030】
本発明のポリイオンデンドリマーは、細胞膜透過性を有するだけでなく生体分子と会合して、当該生体分子をラベル化することができる。本発明のポリイオンデンドリマーは生体分子と会合するだけであり、共有結合で結合されている訳ではないことから生体分子の構造は何等変化することなくラベル化することができる。したがって、生体分子を生体内に存在しているままの構造で測定することができることになる。
本発明は、本発明のポリイオンデンドリマーを含有してなる生体分子のラベル化剤を提供する。本発明のラベル化剤は、本発明のポリイオンデンドリマー、及び測定用の担体とを含有してなるラベル化用組成物として提供することもできる。本発明のラベル化剤又はラベル化用組成物は、本発明のポリイオンデンドリマーに結合されている蛍光性の基による蛍光を測定することもできるし、また生体分子との会合による蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)として測定することもできる。
また、本発明は、標的とする生体分子が存在する試料中に、本発明のポリイオンデンドリマーを添加し、生体分子とポリイオンデンドリマーとを会合させることからなる生体分子をラベル化する方法を提供する。このようにして、本発明のポリイオンデンドリマーを用いて生体分子をラベル化することができ、当該ラベル化による蛍光を測定することにより、生体分子を検出し、その挙動を生体内に存在しているままの状態で測定することができる。
蛍光や蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の測定方法としては、公知の測定方法を使用することができる。
【0031】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
G0−Gの製造
次に示す化学反応式にしたがって、目的の本発明のデンドリマーG0−Gを製造した。
【0033】
【化12】

【0034】
(1)化合物2の製造
既知のトリアジドデンドロン(1)43mg(0.067mmol)と1−ピレンメチルアミン塩酸塩36mg(0.133mmol)をアルゴン下で脱水ジクロロメタン1.0mLに溶解させた。ジイソプロピルエチルアミン85μL、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール18mg(0.133mmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩25mg(0.133mmol)を順次添加し、室温で7時間撹拌した。ジクロロメタンで希釈した後、飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を除去した。2回のカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、酢酸エチル/ヘキサン=2/1→1/0)、(シリカゲル、酢酸エチル)で精製し、黄色油状の液体として得た(53mg;収率93%)。
H−NMR (CDCl): δ (ppm)
3.24 (t,4H;OCHouter), 3.33 (t, 2H;OCH inner),
3.52-3.80 (m, 24H;OCH), 4.16 (m, 6H;PhOCH),
5.32 (s, 2H;CH−Py), 7.03 (s, 2H;Ar-H),
7.98-8.21 (m, 8H;Pyrene), 8.32 (d, 1H;Pyrene).
MALDI−TOF−MS m/z
計算値: 854.37,
実測値:[M+Na] 878.40,
実測値:[M+K] 893.39.
【0035】
(2)化合物3の製造
前記(1)で製造した化合物(2)50mg(0.058mmol)と10%パラジウム−炭素20mgを混合し、エタノール4.0mLに溶解させた。水素下、室温で終夜撹拌した後、クロロホルムで希釈した。セライトろ過により固体を除去し、溶媒を減圧除去することで薄黄色油状の液体として得た(36mg;収率90%)。
H−NMR (CDCl): δ (ppm)
1.92 (br, 6H, NH), 2.67 (t, 4H;OCHNH outer),
2.76 (t, 2H;OCHNH inner), 3.43-3.78 (m, 24H;OCH),
4.15 (m, 6H;PhOCH), 5.31 (s, 2H; CH−Py),
7.16 (s, 2H;Ar-H), 7.99-8.16 (m, 8H;Pyrene), 8.19 (d, 1H;Pyrene).
MALDI−TOF−MS m/z
計算値: 776.40
実測値:[M+H] 777.51,
実測値:[M+Na] 799.49,
実測値:[M+K] 817.54.
【0036】
(3)化合物4の製造
前記(2)で製造した化合物(3)20mg(0.026mmol)とN,N’−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−N”−トリフリルグアニジン36mg(0.092mmol)を混合し、ジクロロメタン1mLに溶解させた。トリエチルアミン40μLを添加した後、室温で終夜撹拌した。反応溶液をジクロロメタンで希釈し、2M硫酸水素ナトリウム、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を除去した後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、酢酸エチル/ヘキサン=1/1→1/0)で精製することで黄色油状の液体として得た(14mg;収率36%)。
H−NMR (CDCl): δ (ppm)
1.52 (s, 54H;C(CH), 3.47-3.83 (m, 30H;OCH),
4.18 (m, 6H;PhOCH), 5.36 (s, 2H;CH−Py),
7.24 (s, 2H;Ar-H), 8.03-8.18 (m, 8H;Pyrene),
8.23 (br, 3H;NHC(NBoc)(NHBoc)),
11.44 (br, 3H;NHBoc).
MALDI−TOF−MS m/z
計算値: 1502.78,
実測値:[M+H] 1504.45,
実測値:[M−Boc+H] 1403.72,
実測値:[M−Bocx2+H] 1303.66,
実測値:[M−Bocx3+H] 1203.60,
実測値:[M−Bocx4+H] 1103.57.
【0037】
(4)デンドリマーG0−Gの製造
前記(3)で製造した化合物(4)18mg(0.012mmol)をメタノール500μL中に溶解させ、12M塩酸300μLを添加した。室温で2日間撹拌した後、減圧下で乾燥させることで黄色固体として得た(12mg;収率>99%)
H−NMR (d−DMSO,70℃): δ (ppm)
3.29 (t, 6H;CH-Guanidine), 3.51 (t, 6H;OCH),
3.56-3.62 (m, 12H;OCH), 3.70 (t, 2H;OCH inner),
3.76 (t, 4H;OCH outer), 4.08 (t, 2H;PhOCH inner),
4.18 (t, 4H;PhOCH outer), 5.23 (s, 2H; CH−Py),
7.17 (br, 12H; NH), 7.34 (s, 2H;Ar-H),
7.63 (br, 3H;NH(NH), 8.01-8.19 (m, 4H;Pyrene),
8.22-8.30 (m, 4H;Pyrene), 8.54 (d, 1H;Pyrene), 9.18 (s, 1H;CONH).
ESI−TOF−MS m/z
計算値: 1010.40,
実測値:[M−Cl](I) 975.26,
実測値:[M−2Cl](II) 470.14,
実測値:[M+H−3Cl](II) 452.16.
【実施例2】
【0038】
G1−Gの合成
次に示す化学反応式にしたがって、目的の本発明のデンドリマーG1−Gを製造した。
【0039】
【化13】

【0040】
(1)化合物5の製造
化合物(1)931mg(1.45mmol)と10%パラジウム−炭素400mgをエタノール30mLに溶解させた。水素下、室温で終夜撹拌した後、クロロホルムで希釈した。セライトろ過により固体を除去し、溶媒を減圧除去することで薄黄色油状の粘性液体として得た(781mg;収率96%)。
MALDI−TOF−MS m/z
計算値: 563.31,
実測値:[M+H] 564.34,
実測値:[M+K] 604.37.
【0041】
(2)化合物6の製造
前記(1)で製造した化合物(5)344mg(0/61mmol)をアセトニトリル/THF(v/v;1/1)混合溶液に溶解させ、ジイソプロピルエチルアミン1mL、N,N’−ビス(tert−ブトキシカルボニル)−1H−ピラアゾール−1−カルボキサミド625mg(2.01mmol)を順次添加した。室温で終夜撹拌した後、減圧下で溶媒を除去した。酢酸エチルに溶解させ、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。これをリサイクルGPCで精製し、薄黄色の油状液体として得た(467mg;収率59%)。
H−NMR (CDCl): δ (ppm)
1.42 (s, 36H;C(CH outer), 1.42 (s, 18H;C(CH inner),
3.50-3.64 (m, 12H;OCH), 3.73-3.79 (m, 12H;OCH),
4.17 (m, 6H;PhOCH), 7.34 (s, 2H;Ar-H),
8.52 (br, 3H; NHC(NBoc)(NHBoc)),
11.40 (br, 3H, NHBoc).
MALDI−TOF−MS m/z
計算値: 1289.69,
実測値:[M+Na] 1312.69,
実測値:[M−Boc+H] 1190.66,
実測値:[M−Bocx2+H] 1090.50,
実測値:[M−Bocx3+H] 990.55,
実測値:[M−Bocx4+H] 890.50,
実測値:[M−Bocx6+H] 690.43.
【0042】
(3)化合物7の製造
前記(1)で製造した化合物(5)3.3mg(4.25μmol)と(6)20mg(15.5μmol)をアルゴン下、脱水ジクロロメタン1mLに溶解させた。ジイソプロピルエチルアミン100μL、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール2.1mg(15.5μmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩3.0mg(15.5μmol)を順次添加し、室温で終夜撹拌した。ジクロロメタンで希釈した後、飽和塩化アンモニウム水溶液、水、飽和食塩水で順次洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を除去した。リサイクルGPCで精製し、黄色油状の液体として得た(6.4mg;収率33%)。
H−NMR (CDCl): δ (ppm)
1.41 (m, 162H;C(CH), 3.49-3.69 (m, 120H;OCH),
4.07 (br, 24H;PhOCH), 5.27 (s, 2H;CH−Py),
6.96 (s, 2H;Py-Ar-H), 7.18 (br, 6H;Ar-H),
7.97-8.13 (m, 9H;Pyrene),
8.53 (br, 9H; NHC(NBoc)(NHBoc)),
11.38 (br, 9H, NHBoc).
【0043】
(4)デンドリマーG1−Gの製造
前記(3)で製造した化合物(7)14mg(3.0μmol)をメタノール250μLに溶解させ、12M塩酸150μLを添加した。室温で2日間撹拌した後、減圧下で乾燥させることで薄黄色固体として得た(9.6mg;収率>99%)。
H−NMR (d−DMSO,70℃): δ (ppm)
3.30 (m, 18H;CH-Guanidine outer),
3.40 (m, 6H;CH-Guanidine inner), 3.51-3.62 (m, 72H;OCH),
3.68 (m, 6H;OCH inner), 3.76 (m, 18H;OCH outer),
4.07 (m, 6H;PhOCH inner), 4.15 (m, 18H;PhOCH outer),
5.22 (s, 2H; CH−Py), 7.17 (br, 36H; NH),
7.23 (s, 6H;Ar−H peripheral), 7.33 (s, 2H;Ar−H core),
7.64 (br, 9H;NH(NH), 8.01-8.26 (m, 8H;Pyrene),
8.45 (br, 3H;CONH peripheral), 8.54 (d, 1H;Pyrene),
9.18 (s, 1H;CONH core).
ESI−TOF−MS m/z
計算値: 1010.40,
実測値:[M−Cl](I) 975.26,
実測値:[M−2Cl](II) 470.14,
実測値:[M+H−3Cl](II) 452.16.
【実施例3】
【0044】
G0−Tの製造
次に示す化学反応式にしたがって、目的の本発明のデンドリマーG0−Tを製造した。
【0045】
【化14】

【0046】
(1)化合物9の製造
没食子酸メチル1.56g(8.47mmol)をDMF45mLに溶解させ、そこに炭酸カリウム11.7g(84.7mmol)を添加した。既知のトリエチレングリコール誘導体(8)7.07g(28.0mmol)をDMF40mLに溶かした溶液を添加し、80℃で18時間撹拌した。室温に戻した後、60℃減圧下でDMFを除去し、ジクロロメタンに再度溶解させ、ろ過により固体成分を除去した。飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を除去した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、酢酸エチル→酢酸エチル/アセトン=9/1)で精製し、橙色の油状液体として得た(1.51g;収率21%)。
H−NMR (CDCl): δ (ppm)
1.4-1.9 (m, 18H;CH(THP)),
3.4-3.9 (m, 39H;OCH(THP,TEG),OCH),
4.18 (m, 6H;PhOCH), 4.60 (t, 3H;OCHO), 7.27 (s, 2H;Ar-H).
MALDI−TOF−MS m/z
計算値: 832.45,
実測値:[M+Na] 855.56,
実測値:[M+K] 871.53.
【0047】
(2)化合物10の製造
前記(1)で製造した化合物(9)1.51g(1.81mmol)を95%エタノール80mLに溶解させ、1M 水酸化カリウム6.4mLを添加した。これを終夜、加熱還流しながら撹拌した後、室温に戻した。溶液をアンバーライトIR120(陽イオン交換樹脂)に通して中和した。減圧下で溶媒を除去することで薄黄色の油状液体として得た(1.35g;収率91%)。
H−NMR (CDCl): δ (ppm)
1.4-1.9 (m, 18H;CH(THP)),
3.4-4.0 (m, 36H;OCH(THP,TEG)),
4.18 (m, 6H;PhOCH), 4.60 (m, 3H;OCHO), 7.27 (s, 2H;Ar-H).
MALDI−TOF−MS m/z
計算値: 818.43,
実測値:[M+K] 857.44,
実測値:[M+Na] 841.47,
実測値:[M−THP+K] 773.38,
実測値:[M−THP+Na] 757.42,
実測値:[M−THPx2+K] 689.32,
実測値:[M−THPx2+Na] 673.36,
実測値:[M−THPx3+K] 605.26,
実測値:[M−THPx3+Na] 589.29.
【0048】
(3)化合物11の製造
前記(2)で製造した化合物(10)443mg(0.541mmol)と1−ピレンメチルアミン塩酸塩279mg(1.04mmol)を混合し、アルゴン下で脱水ジクロロメタン8mLに溶解させた。ジイソプロピルエチルアミン700μL、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール141mg(1.04mmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩200mg(1.042mmol)を順次添加し、室温で終夜撹拌した。ジクロロメタンで希釈した後、飽和塩化アンモニウム水溶液、水、飽和食塩水で順次洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を除去した。カラムクロマトグラフィー(アルミナ、酢酸エチル/ヘキサン=4/1→1/0→メタノール)で精製し、黄色油状液体として得た(508mg;収率91%)。
H−NMR (CDCl): δ (ppm)
1.4-1.9 (m, 18H;CH(THP)),
3.4-4.0 (m, 36H;OCH(THP,TEG)),
4.18 (m, 6H;PhOCH), 4.60 (m, 3H;OCHO),
5.32 (s, 2H;CH−Py), 7.12 (s, 2H;Ar-H).
8.0-8.3 (m, 9H;Pyrene).
MALDI−TOF−MS m/z
計算値: 1031.52,
実測値:[M+Na] 1054.59,
実測値:[M−THP+K] 986.50,
実測値:[M−THP+Na] 970.53,
実測値:[M−THPx2+K] 902.44,
実測値:[M−THPx2+Na] 886.47,
実測値:[M−THPx3+K] 818.38,
実測値:[M−THPx3+Na] 802.41.
【0049】
(4)化合物12の製造
前記(3)で製造した化合物(11)507mg(0.491mmol)とp−トルエンスルホン酸12mg(0.063mmol)を混合し、メタノール10mLに溶解させた。室温で終夜撹拌した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、減圧下メタノールを除去した。ジクロロメタンで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を除去した。得られた油状液体とp−トルエンスルホン酸50mg(0.26mmol)を混合し、メタノール10mLに溶解させ50℃で撹拌した。反応溶液にピリジニウムp−トルエンスルホナート40mg(0.16mmol)を添加し、55℃で終夜撹拌した。減圧下、溶媒を除去して得られた固体193mg(全体の30%を使用)に四臭化炭素101mg(0.305mmol)を混合した。これをアルゴン下、脱水ジクロロメタン2mLに溶解させ、トリフェニルホスフィン80mg(0.305mmol)を添加し、室温で終夜撹拌した。減圧下で溶媒を除去し、ジクロロメタンに再び溶解したものをろ過することで固体成分を除去した。2回のカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、酢酸エチル/ヘキサン=2/1→1/0)(シリカゲル、クロロホルム→酢酸エチル)で簡易精製した後、分取用TLCで精製することで黄色油状液体として得た(29mg;収率12%(calcd.))。
H−NMR (CDCl): δ (ppm)
3.33-3.36 (t, 4H;OCHBr outer),
3.40-3.42 (t, 2H;OCHBr inner), 3.60-3.78 (m, 24H;OCH),
4.16 (m, 6H;PhOCH), 5.32 (s, 2H;CH−Py),
7.05 (s, 2H;Ar-H). 8.0-8.3 (m, 9H;Pyrene).
MALDI−TOF−MS m/z
計算値: 965.10,
実測値:[M+K] 1008.12,
実測値:[M+Na] 990.14,
実測値:[M] 968.47.
【0050】
(5)デンドリマーG0−Tの製造
前記(4)で製造した化合物(12)24mg(24.8μmol)とチオ尿素5.9mg(78μmol)を混合し、ジクロロメタン500μLと96%エタノール500μLの混合溶液に溶解させた。これを終夜、加熱還流した後、室温に戻したものをメタノールに溶解させた。これを多量のヘキサンに滴下して生じた固体成分をろ過により除去し、溶媒を除去して得られる黄色油状液体を再びチオ尿素15mg(0.197mmol)と混合し、エタノール1mLに溶解させ、2日間加熱還流した。減圧下で溶媒を除去し、メタノールに再度溶解させ、固体成分をろ過して除去した。真空下で乾燥させ、黄色固体として得た(30mg;収率>99%)。
H−NMR (d−DMSO,70℃): δ (ppm)
3.38 (m, 6H;OCHS), 3.64 (m, 12H;OCH), 3.72 (m, 8H;OCH),
3.81 (m, 4H;OCH), 4.14 (t, 2H;PhOCH inner),
4.32 (t, 4H;PhOCH outer), 5.28 (s, 2H, CH−Py),
6.93 (br, 12H;SC(NH), 7.36 (s, 2H;Ar-H),
8.10-8.36 (m, 8H;Pyrene), 8.57 (d, 1H;Pyrene), 8.96 (br,1H;CONH).
ESI−TOF−MS m/z
計算値: 1193.13
実測値:[M−Br](I) 1115.99
実測値:[M+H−2Cl](I) 1036.06
実測値:[M+2H−3Cl](I) 954.15
実測値:[M+H−3Cl](II) 477.57
実測値:[M−2Cl](II) 470.14,
実測値:[M−3Cl](III) 318.71
【実施例4】
【0051】
溶媒としてトリス・HCl20mM(pH7)中にBSA水溶液(0.2mg/mL)の3mLを添加した溶液中に、実施例1〜3で製造した各種デンドリマー((a)G0−G(b)G1−G(c)G0−T)の1mM溶液を、0.67当量づつ3.3当量まで、それぞれ順次添加した時の蛍光スペクトル変化を測定した。測定温度は25℃で、励起波長は277nmである。結果を図1(a)、図2(b)、及び図3(c)にそれぞれ示す。図1〜3の縦軸は強度(a.u.)であり、横軸は波長(nm)を示す。黒色実線(原図では青色)はデンドリマーを添加していない場合を示し、340nm付近における当該黒実線の下から順に0.67当量の場合(原図では赤色)、1.34当量の場合(原図では緑色)、2.01当量の場合(原図では橙色)、2.68当量の場合(原図では赤色)、3.3当量の場合(原図では薄青色)をそれぞれ示す。
340nmの発光はBSAに対応し、デンドリマーの添加に伴い消光していく様子が観察される。一方、380nm、395nmの発光はデンドリマー中のピレンの発光に対応し、添加に伴って強度が増加している。このことから、BSA→ピレンに蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が生じ、両者が非常に近傍に存在する、すなわちデンドリマーによるBSAの修飾が成功したことを示す。また、G0−Tでは450−500nmの発光が増加しているが、これはピレンのエキシマー発光に対応するものである。
【実施例5】
【0052】
実施例4と同様にして、CDスペクトル変化を測定した。結果を、図4(a)、図5(b)、及び図6(c)にそれぞれ示す。図4〜6の縦軸はCD(mdeg)であり、横軸は波長(nm)を示す。
200−250nm領域のCDスペクトルはBSAの二次構造を反映している。いずれの場合もCDスペクトルの変化がほとんど観察されないことと、前述の蛍光スペクトル変化の結果を考慮すると、本デンドリマーによる修飾ではタンパク質の構造を乱さないソフトな修飾が可能であることがわかる。
【0053】
このように、本発明のデンドリマーは、分子間力を利用して生体分子の修飾を直接行えるものであり、修飾のための変異体作製が必要ないという点で、その実用的な利用価値は極めて高い。実施例4及び5では、蛍光プローブとしてピレンを導入しているが、コア部の分子設計は自由に変えることができるため、多様な機能性官能基をタンパク質表面に導入できるものと期待される。さらに潜在的な応用可能性として、機能性物質の生体膜透過に利用できる可能性があるため、特に医薬産業分野での応用が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、生体分子と共有結合すること無しに生体分子をレベル化することができるデンドリマーを提供するものであり、機能性物質の生体膜透過に利用できるだけでなく、検査試薬、生体分子の機能解析用の試薬などの各種の試薬や医薬産業分野での応用が可能であり、産業上有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、本発明のデンドリマー(a)G0−Gを、BSA水溶液に0.67当量づつ3.3当量まで、それぞれ順次添加した時の蛍光スペクトルを測定した結果示すものである。
【図2】図2は、本発明のデンドリマー(b)G1−Gを、BSA水溶液に0.67当量づつ3.3当量まで、それぞれ順次添加した時の蛍光スペクトルを測定した結果示すものである。
【図3】図3は、本発明のデンドリマー(c)G0−Tを、BSA水溶液に0.67当量づつ3.3当量まで、それぞれ順次添加した時の蛍光スペクトルを測定した結果示すものである。
【図4】図4は、本発明のデンドリマー(a)G0−Gを、BSA水溶液に0.67当量づつ3.3当量まで、それぞれ順次添加した時のCDスペクトルを測定した結果示すものである。
【図5】図5は、本発明のデンドリマー(b)G1−Gを、BSA水溶液に0.67当量づつ3.3当量まで、それぞれ順次添加した時のCDスペクトルを測定した結果示すものである。
【図6】図6は、本発明のデンドリマー(c)G0−Tを、BSA水溶液に0.67当量づつ3.3当量まで、それぞれ順次添加した時のCDスペクトルを測定した結果示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面部としてグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群から選ばれるカチオン性の基を有し、分岐鎖としてポリアルキレンオキシ基を有し、コア部としてカルボキシル基を有し、当該カルボキシル基に蛍光性の基が結合していることを特徴とするポリイオンデンドリマー。
【請求項2】
蛍光性の基がピレン、アゾベンゼン、ポルフィリン、又はローダミンのいずれかである請求項1のポリイオンデンドリマー。
【請求項3】
分岐部分が、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸アミド、3,4−ジヒドロキシ安息香酸アミド、又は3,4−ジヒドロキシ桂皮酸アミドから構成されるものである請求項1又は2に記載のポリイオンデンドリマー。
【請求項4】
分岐鎖が、繰り返し回数1〜6のポリエチレンオキシ基である請求項1〜3のいずれかに記載のポリイオンデンドリマー。
【請求項5】
世代が、1〜5世代である請求項1〜4のいずれかに記載のポリイオンデンドリマー。
【請求項6】
ポリイオンデンドリマーが、下記の一般式[1]
【化1】

[式中、Xはピレン、アゾベンゼン、ポルフィリン、及びローダミンからなる群から選ばれる蛍光性の基を示し、Yはグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群から選ばれるカチオン性の基を示し、nは分岐鎖の繰り返し回数を示し1〜6の整数を表し、mは世代を示し1〜5の整数を表す。]
で表されるポリイオンデンドリマーである請求項1〜5のいずれかに記載のポリイオンデンドリマー。
【請求項7】
ポリイオンデンドリマーが、下記の一般式[2]、
【化2】

又は、下記の一般式[3]
【化3】

[式中、Xはピレン、アゾベンゼン、ポルフィリン、及びローダミンからなる群から選ばれる蛍光性の基を示し、Yはグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群から選ばれるカチオン性の基を示し、nは分岐鎖の繰り返し回数を示し1〜6の整数を表す。]
で表されるポリイオンデンドリマーである請求項1〜6のいずれかに記載のポリイオンデンドリマー。
【請求項8】
蛍光性の基が、ピレンである請求項1〜7のいずれかに記載のポリイオンデンドリマー。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリイオンデンドリマーを含有してなる生体分子のラベル化剤。
【請求項10】
生体分子が、牛血清アルブミン(BSA)である請求項9に記載のラベル化剤。
【請求項11】
標的とする生体分子が存在する試料中に、請求項1〜8のいずれかに記載のポリイオンデンドリマーを添加し、生体分子とポリイオンデンドリマーとを会合させることからなる生体分子をラベル化する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−120626(P2009−120626A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292606(P2007−292606)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 56巻1号[2007]」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】