説明

生体加温装置

【課題】 生体内にインプラントを留置して交流磁界を印加することで腫瘍を加熱・壊死させる治療装置の使用において、コイルの電極間に高い電圧が生じ、放電の発生による感電が危惧される。また、冷却水の循環によりコイルは結露し、この水分により感電の危険性は高まる。さらに、高周波電源の誤動作などの原因により、想定外の高電圧が発生することも考えられ、十分な安全対策を施す必要がある。このような交流磁界の印加時の高電圧からの生体保護の手段および装置を提供する。
【解決手段】 装置全体は、高周波電源、整合器、コイル、遮蔽よりなる。コイルに生じる高電圧によって、生体が損傷を受けないように、生体とコイルの間に十分な耐圧の絶縁体を接地する。結露を防ぐためにコイルに送風を行うことが望ましい。想定外の高電圧の発生においては電圧を制御するための手段を付けることにより危険を回避する。放電電極をコイルに並列に接続することで、安全の確保が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は癌などの温熱療法のために生体へ交流磁界を印加する際、コイルと生体の間に生ずる高い交流電圧による感電から生体を保護する手段および装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、生体内にインプラントを留置し、交流磁界を印加することで、腫瘍を加熱・壊死させる治療法が試みられている。例えば、Nagoya Journal of Medical Science 59(1996)49−54では舌癌に対し、人体頭部を円形空芯コイルで囲み、交流磁界を印加している。この場合に、感電から生体を保護する積極的な手段は取られていない。
【0003】
【非特許文献1】Nagoya Journal of Medical Science 59(1996)49−54
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、生体内にインプラントを留置し、交流磁界を印加することで、腫瘍を加熱・壊死させる治療法では、積極的に高い交流電圧による感電から生体を保護する手段は取られていない。人体頭部ではなく、胴部を治療対象とする場合には直径40cmから50cmの空芯コイルが使用されるため、その電極間の電圧は3kVから20kVに到達する。生体の電位はコイルの接地側電極と近いため、生体とコイルの間の電位も同程度となり得る。
【0005】
したがって、コイル導体部と生体の間に十分な絶縁体がない場合には、感電により生体が損傷を受ける恐れがある。
【0006】
また、コイル導体部は通常、冷却水などにより冷却される。このとき、コイルは結露し、その水分によって感電の危険は高まる。
【0007】
さらに、装置の誤動作などによって過剰な電力が供給されるなどの原因によりコイル電極間に想定外の電圧が印加される危険がある。
【課題を解決しようとする手段】
【0008】
本発明は上記目的を達するため、コイル導体部と生体の間に十分な絶縁体を設置し、感電による危険からの生体の保護を実現する。
【0009】
結露によってコイルに水分が付着することを防ぐため、十分な送風を行う。
【0010】
コイル間の電圧を検出し、閾値を超えた電圧値が検出された場合には電圧降下する能力を有する装置を使用することで、コイル電極間に想定外の電圧が印加される危険の回避を実現する。
【0011】
コイル間の電圧を検出して電圧降下させる最も簡単かつ確実な手段として、放電電極がある。
【作用】
【0012】
生体の感電は、コイルを形成する導体への接触、もしくは、十分近い距離に近づいたときに起こる放電によって発生する。したがって、絶縁体を生体とコイルの間に挿入することは、コイルと生体間の距離の確保による接触の防止、さらに空中に比べて絶縁体中では放電が発生しがたいことを利用した放電防止によって、感電を防止する。
【0013】
コイル付近の水分は感電の危険を増大させる。結露によるコイルへの水分の付着を防ぐため、コイルに送風を行う。
【0014】
高周波電源の誤動作などを原因として、上記の絶縁体の能力を超えた電圧が発生する場合がある。このとき、生体とコイルとの間の放電により感電が起こる可能性が高まる。このような場合には、コイル間の電圧を検出する能力を有し、閾値を超えた電圧値の検出時に電圧降下する能力を有する装置を使用することで、安全性を確保することが出来る。
【0015】
コイルの電圧を検出し、閾値を超えた電圧値の検出時に電圧降下する能力を有する装置としては例えばコイルへの電流計の取り付けが挙げられる。電流計としては導線を挟み込む非接触のタイプのものが良い。この電流計の値にコイルのインピーダンスを乗じたものが電圧であるので、電流値もしくはそれより算出された電圧値を制御回路に送り、閾値を超えた場合には電力供給を止める若しくは低下するよう高周波電源を制御する。
【0016】
コイルの電圧を検出し、閾値を超えた電圧値の検出時に電圧降下する能力を有する装置として、最も簡便である装置は放電電極である。これはコイルの2つの電極にそれぞれ接続された2つの近接した電極よりなり、閾値を超える電圧が印加された場合に、電極間において放電が起こるよう調整される。この部分が放電することで、生体とコイルの間の放電を防ぐ。また、放電が起こることで、この部分での電力消費が大きくなり、コイルへの電力供給が小さくなり、コイル電極間の電圧は小さくなる。さらに放電の存在はコイルと並列に抵抗が生じたこととなり、インピーダンスが大きく変化して反射波が増大する。この作用もまた、コイルへの電力供給を小さくし、電極間の電圧を低下させる。
【発明の効果】
【0017】
送風によって、コイルの結露を防ぐことができた。
【0018】
放電電極を使用することで、閾値を超えた電圧印加時に放電が起こり、同時にコイル電極間の電圧を低下させる機能を実現した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
装置全体は図1または図2に示すように、高周波電源、整合器、コイル、送風機、遮蔽および電圧の制御装置よりなる。また、図3は本治療装置の使用方法を示す簡単な説明図であり、この図3においては本発明の要件である絶縁物や送風機などは省略している。
【0020】
図3に示すように、生体内の腫瘍部に予めインプラントを投与し、生体の外部からコイルを利用して、交流磁場を印加する。インプラントは交流磁場のエネルギーを吸収して発熱する。この発熱により、腫瘍を温熱治療する。交流磁場の周波数は100kHzから1MHzが好ましく、300kHzから750kHzが特に好ましい。コイルの巻き数は1回から5回が望ましく、2回から3回が特に望ましい。
【0021】
図1は電圧の制御装置として電流計を利用した場合、図2は放電電極を利用した場合を示す。両方を同時に使用しても構わない。ここでは高周波電源として、増幅器方式を示すが、これに限定するものではない。まず、交流磁界の印加により発熱するインプラントを生体内の対象位置に留置する。この場合、インプラントとしては金属粉末や金属酸化物の粉末を分散させた流体またはこの粉末を固形化したものがしばしば用いられ、導体固形物が用いられることもある。次に治療対象部位へ強磁界を印加するためコイルの位置を調整し、送風を行う。コイルと生体の間には絶縁体を挿入しておく。さらに、外部への交流電磁界の影響を小さくするため、遮蔽を施し、交流磁界を印加して対象部位を局所的に加熱する。この際、閾値を超える電圧が検出された場合には電圧の制御装置が作動し、電圧を降下させる。
【0022】
設定する電圧の閾値は、コイルと生体間の絶縁体の耐電圧に比べて十分小さいことが望ましい。通常、閾値は耐電圧の50%から80%に設定することが望ましい。
【0023】
通常、複数の巻き数を持つコイルを使用する場合にはコイルの導体部に被覆をする。コイルと生体間の絶縁体はこれとは別に生体を取り巻く形で設置することが望ましい。また、コイルの空芯部だけでなく、側面等にも絶縁体を施すことが望ましい。
【0024】
コイルの電極に対しても十分な被覆が必要である。接地側電極は薄い絶縁物で構わないが、反対側の電極は十分な耐電圧が求められる。コイルと生体間の絶縁体の耐電圧と同等もしくはそれ以上の耐電圧が望ましい。
【0025】
送風はファンなどを使用する。ファンの位置はコイルから十分離れた位置に設置し、パイプなどを通じて送風することが望ましい。この際、生体へ風があたらないようにすることが望ましい。通常、生体とコイルの間に接地された絶縁体が風除けをする。
【0026】
放電電極は電極表面の化学変化を避けて、放電条件、すなわち、放電の発生する電圧の閾値を変化させないため、封じきることが望ましい。封じきる容器としてはガラスやセラミック、樹脂でもよい。また、接地側電極と同電位の金属でもかまわず、このときには容器と電極を兼ねることができる。容器の内部には窒素や希ガスなど安定な気体を圧力調整の上、封じる。
【0027】
放電電極を完全に封じきらない場合には脱酸素剤や乾燥剤を入れておくことが望ましい。
【0028】
最も簡単に放電電極を封じない方法もある。この場合には、患者から見えない位置に設置することが望ましい。
【0029】
放電電極はコイルのインピーダンスに影響を与えないことが望ましい。放電電極の容量は10pF以下が好ましく、1pF以下が特に好ましい。そのため、電極の片方もしくは両方を鋭利にする方法がとられることもある。両側を平面状にする場合には直径1cm以下が望ましい。電極間の距離は気圧、ガス種、電極の形状によるが、3mmから10mm程度がのぞましい。
【0030】
放電電極は2つの導体電極よりなる。電極材料として、強磁性体を使用した場合にはその部分において電力が消費される。そのため、鉄、コバルト、ニッケルを使用しない。通常は銅、真鍮、アルミニウム、ステンレス、カーボンを使用する。
【実施例1】
【0031】
インダクタンス25μHのコイルに整合器を接続し、さらに高周波電源を接続した。コイルの両電極に放電電極を接続した。放電電極中の2つの電極はともに直径10mmの真鍮丸棒よりなり、3mmの距離を開けて平行に対峙している。これらの電極の作る容量は1pF以下で、回路のインピーダンスに影響を与えない。また、これらの2つの電極はアクリル製の真空容器に入れられており、真空ポンプを接続することで、0.1気圧から1気圧まで、気圧を操作することが可能であった。
【0032】
このような放電電極を有するコイルに周波数645kHzの高周波を印加し、放電電極中の気圧を調整した。その結果、0.7気圧のとき、400Wの電力印加において、電極間電圧が5.2kV(振幅値)に達した後、放電が起こり、0.48kVまで電圧が降下した。このとき、高周波電源へと反射する電力は放電発生前に10W以下であったが、250Wへ増加した。
【0033】
同様に、周波数645kHzの高周波を印加し、放電電極中の気圧を調整した。その結果、0.4気圧のとき、150Wの電力印加において、電極間電圧が3.4kV(振幅値)に達した後、放電が起こり、0.45kVまで電圧が降下した。このとき、高周波電源へと反射する電力は放電発生前に5W以下であったが、70Wへ増加した。
【0034】
これらのことから、放電電極の効果が確認された。
【0035】
室温25℃において、5℃の冷却水をコイルに流したところ、約30分後に結露が確認された。ファンを使用して送風し、同様の実験をしたところ、結露は見られなかった。
【0036】
よって、送風の効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
交流磁界利用した癌などの温熱療法の際に、高電圧による感電を避け、生体を保護することが可能となる。このため癌治療などの医療機器に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の生体加温装置であって、電圧の制御装置として電流計を利用した場合の一例の構成図である。
【図2】本発明の生体加温装置であって、放電電極を利用した場合の一例の構成図である。
【図3】本発明の生体加温装置の使用方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1. 空芯コイル
2. クランプ型交流電流計
3. 絶縁体
4. ファン
5. 送風口
6. 磁界検出用小型コイル
7. 遮蔽板
8. 放電電極
9. 生体
10. インプラントを投与された腫瘍部
11. コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルによって誘起される交流磁界によりインプラントを発熱させて生体を局所加温する装置において、生体とコイルとを電気的に隔絶し、コイル電極間に印加される交流電圧より大きい電圧に耐えうる絶縁体を有する生体加温装置。
【請求項2】
絶縁体がゴムによって構成される、請求項1に記載の生体加温装置。
【請求項3】
コイルへ送風する装置を有する、請求項1または2に記載の生体加温装置。
【請求項4】
閾値を超えた電圧がコイル電極間に印加された場合に電圧降下する手段を有する、前述の生体加温装置。
【請求項5】
前項の電圧降下の手段として、コイルと並列に接続された放電電極を使用する生体加温装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−6870(P2006−6870A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215018(P2004−215018)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(504185935)株式会社アドメテック (9)
【Fターム(参考)】