説明

生体固定装置

【課題】計測、診断、治療、手術等の対象となる生体部位を、確実かつ精度良く的確に位置決め固定する必要がある場合に、体肢に内在する骨の固有形態を利用して、強固にかつ精度よく体肢の位置決めができるようにする。
【解決手段】生体固定装置96は、体肢としての下肢(特に近位部)を固定する装置である。下肢の両側には、位置決めパッド56を有する腓骨頭固定部120と、内側パッド96を有する内側固定機構94と、が配置される。下肢における腓骨頭に薄い皮膚層を介して位置決めパッド56を位置決めしつつ当接させた上で、内側パッド96を前進させれば、位置決めパッド56と内側パッド96との間に下肢を挟み込んで狭持することができる。腓骨頭という薄い皮膚層を介して体外から特定可能な特徴骨部分を位置決め基準としているので再現性良く下肢の固定を行える。また確実な保持を行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体固定装置に関し、特に、上肢、下肢などの生体組織(体肢)を位置決め固定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の計測や手術においては、対象となる部位を位置決め固定する必要がある。超音波診断装置を用いて、生体内の骨の力学的特性を非侵襲的かつ定量的に測定する際には、測定対象骨を位置決め固定することが望ましい場合がある。特に、三点曲げ荷重下において骨の性状や骨折部位における癒合度を超音波診断する場合には、対象骨を含む対象組織を正しく位置決めし、また、対象組織を確実に固定する必要がある。手術その他の場合においても、対象組織の的確な位置決め固定が要請される。三点曲げ荷重下において骨の性状や骨折部位における癒合度を超音波診断する手法は、本出願人が先に出願した未公開の特願2004−362455号にも示されている。以下の特許文献1,2には超音波を用いて骨の癒合診断を行う方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−298205号公報
【特許文献2】特開2005−152079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体組織の位置決め固定に際し、対象組織の特定部位を無造作に挟持すると、骨の周囲に存在する皮膚、筋肉などの軟組織の弾性あるいは柔軟性の影響により、対象組織を確実に固定できない。また、そのような大雑把な手法では、そもそも対象組織を正確に位置決めすることが難しい。一方、対象組織の全体を包み込む部材を利用して対象組織を強固に固定することも考えられるが、その場合には当該部材が手術や計測の障害となる。
【0005】
特に、対象骨に荷重を加えた場合における微小変位を超音波を用いて計測する場合には、対象組織の動き、特に対象骨の動き、を確実に抑えておく必要がある。また、骨癒合診断において、定期的に対象骨の癒合度を計測する場合、計測の再現性の観点から、複数回の計測にわたって対象骨を同じ位置及び同じ姿勢で保持することが求められる。つまり、固定の再現性が求められる。このような問題は骨の超音波計測以外の他の計測あるいは他の分野においても同様に指摘することができる。なお、従来において、対象骨それ自体を座標基準としつつ生体組織を位置決め固定する装置は実現されていない。
【0006】
本発明の目的は、体肢の位置決め固定を的確に行える生体固定装置を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、体肢それ自体の固有形態を利用して生体を確実かつ精度良く位置決め固定できる生体固定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、体外から特定可能な特徴骨部分を基準としつつ体肢を固定する生体固定装置であって、前記体肢における特徴骨部分に対して皮膚層を介して当接される第1当接部と、前記第1当接部と共に前記体肢を挟んで保持する第2当接部と、前記第1当接部に対して前記第2当接部を相対的に進退させる進退機構と、を含むことを特徴とする。
【0009】
この構成においては、位置決め対象である体肢が、第1当接部と第2当接部とで挟んで保持され、その運動が制限される。特に、第1当接部を特徴骨部分に皮膚層を介して当接して、当該部位を確実に保持できる。また、その反対側の部位を第2当接部で確実に保持できる。その結果、位置ずれの発生を効果的に防止又は軽減できる。上記構成によれば、第1当接面に対して第2当接面を相対的に進退させる進退機構が設けられるので、第1当接面と第2当接面の両者の間隔を調整して、体肢がそれらの当接面の間に保持される。
【0010】
上記構成は、望ましくは、生体の測定、診断、治療、手術などを行う際に、上肢又は下肢つまり肢体の位置決め固定を行う必要がある場合に用いられる。また、生体は人間であるのが望ましいが、動物であってもよい。特徴骨部分は、望ましくは、突出または隆起している骨の局所部位である。すなわち、生体に存在する骨面の形状を皮膚の上から触ってあるいは観察して認識可能な、突出または隆起している骨の部分であるのが望ましい。その場合に、特徴骨部分の上に存在する皮膚層は薄い方が望ましい。
【0011】
望ましくは、前記第1当接部は小面積をもった第1当接面を有し、前記第2当接部は大面積をもった第2当接面を有する、ことを特徴とする。この構成においては、第1当接面が小面積であるので、位置決めの基準となる特徴骨部分を目標にして第1当接面を正確に位置決めしながら当接させることができる。さらに、第2当接面は第1当接面に比べて大面積であるので、対外から認識可能な特徴骨部分がない部位、つまり広く膨らんだ比較的柔らかい生体部位についても、しっかりと包み込んで固定することができる。なお、生体を固定する際には、水平に横たえた姿勢で保持するようにしてもよいし、生体を起立した状態で保持してもよい。つまり、生体に疲労の負担を伴わせない安楽な姿勢となるように、体肢固定装置の配置や姿勢を選択することが望まれる。
【0012】
望ましくは、前記第1当接部は前記第1当接面を有する硬質部材で構成され、前記第2当接部は前記第2当接面を有する軟質部材で構成された、ことを特徴とする。すなわち、第2当接面を成す部品の材料は第1当接面を成す部品の材料よりも柔らかく構成される。
【0013】
望ましくは、前記第2当接面は凹型湾曲面として構成される。このように、第2当接面の形状は、生体に密着できるように、あらかじめ湾曲した面形状として形成しておくのが望ましい。
【0014】
望ましくは、前記体肢は下肢であり、前記特徴骨部分は体外から薄い皮膚層を介して膨らみをもって特定可能な部位である。皮膚が薄ければ骨面の形状を認識するのが容易になり、位置決めの基準として用いる上でも、生体を強固に保持する上でも好ましい。
【0015】
望ましくは、前記特徴骨部分は腓骨頭である。これは下腿の腓骨の端部にある特徴骨部分であって、膝下の下肢を保持固定する際の位置決め基準として適当なものである。
【0016】
本発明に係る生体固定装置は、後述する実施形態においては、体肢の近位部を位置決め固定する機構(近位固定機構)に相当し、また、独立して用いられる体肢固定装置に相当する。同時に、体肢の遠位部を位置決め固定する機構(遠位固定装置)を併設するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、体肢の位置決め固定を的確に行える。あるいは、本発明によれば、体肢それ自体の固有形態を利用して生体を確実かつ精度良く位置決め固定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1には、本発明に係る生体固定装置の好適な実施形態が斜視図として示されている。本実施形態に係る生体固定装置は、生体の下腿部を固定する装置であり、例えば、骨折後における骨の癒合状態を超音波診断する際に、下腿部を精度良く位置決めし、また強固に固定するために用いられる。もちろん、本発明に係る生体固定装置は計測以外の用途に用いることができる。
【0020】
図1において、生体固定装置は、近位固定機構(近位固定装置)100と遠位固定機構(遠位固定装置)102とを有する。近位固定機構100は、近位部10aを位置決め固定する腓骨頭固定部20及び近位内側固定部28を有する。遠位固定機構102は、遠位部10bを位置決め固定する可動機構26を有する。図1においては、X−Y−Z直交座標系が定義されている。また、後述する図7においては、遠位固定機構の動きを説明するために、回転角θの中心軸と、傾斜角φの中心軸が定義されている。本実施形態の生体固定装置は、上記のように、人体の下肢を固定する装置であって、特に下肢に存在している複数の特徴骨部分を位置決め基準としつつ、生体の固定を行うものである。以下においては、機構の詳細説明に先立って、本実施形態において位置決め基準として用いる複数の特徴骨部分について説明する。
【0021】
図2には、人体の右下腿部に含まれる脛骨80及び腓骨82が示されている。腓骨82の上端部には、膨らみをもって外側に突出した腓骨頭84が存在する。また、腓骨82の下端部には上記腓骨頭84と同様に外側に突出した外果86が存在する。また、脛骨80の下端部には内果88が存在し、それも外側に突出した局所部位である。注目すべきことは、腓骨頭84、外果86及び内果88がいずれも薄い皮膚層を介して体外から視覚的にあるいは接触して容易に特定可能な局所部位であるということである。そのような局所部位を位置決め基準とすれば、生体の位置決めを客観的に且つ正確に行うことができ、特に固定の再現性を極めて良好にできる。それらの部位の上に存在する皮膚層は体格にあまり影響されずに一般に薄い。皮膚層が薄ければ、その弾力性や柔軟性をあまり受けずに、各部位を確実に押さえつけることが可能である。なお、上記以外の特徴骨部分を位置決め基準とすることも勿論可能である。その場合においては、位置の特定を正確に行えること及び確実に保持できることを考慮して、基準となる生体部位を適宜選定するのが望ましい。
【0022】
図1に戻って、生体10は、具体的には人体の右足であり、その右足はほぼ水平状態で位置決め固定される。上記の近位固定機構100及び遠位固定機構102の他に、必要に応じて、生体10を柔らかく支持する弾性部材(例えばウレタン部材)を設けるようにしてもよい。但し、そのような部材は、三点曲げ条件、超音波の計測などに影響を与えないように設置する必要がある。図3にも同一の構成が示されているが、図3においては機構明示のために生体が図示省略されている。
【0023】
図3を参照しつつ、図1に基づいて構成を説明すると、ベースとしての水平板12には、垂直板14が配置されている。詳しくは、垂直板14は、三角支持板16によって水平板12上に起立状態で固定されている。水平板12の上には別の基板18が重合固定されている。本実施形態においては、遠位固定機構102が有する可動機構26に公知のマグネット部品が内蔵されている。マグネット部品は、それが発揮する磁力作用をオンオフ切換可能なものである。可動機構26は、その作用を利用して基板18に着脱自在に固定設置される。このため、基板18として鉄系統の材料で構成された金属板が用いられている。水平板12や垂直板14は軽量化のためにアルミ材料その他の部材で構成される。垂直板14には、Y方向に一定間隔を隔てて2つの長穴22,23が形成されている(図3参照)。各長穴22,23は図示のように垂直方向つまりZ方向に伸長した貫通孔である。図1に示すように、近位部(図示の例では膝蓋骨近傍)10aを保持するのに用いる腓骨頭固定部20が、いずれかの長穴22に選択的に取り付けられる。図示の例では、Y方向奥側の長穴22に適切な高さで腓骨頭固定部20が取り付けられている。2つの長穴22,23を設けたのは、左右の下肢に選択的に対応するためである。各長穴22,23を垂直方向に伸長させたのは腓骨頭固定部20の高さの調整を可能とするためである。腓骨頭固定部20の高さ調整のために、他の上下機構を採用するようにしてもよい。なお、水平板12の両隅には一対の取手12a,12bが設けられている。
【0024】
腓骨頭固定部20は、身体に接触する位置決めパッド56を有する。その高さが腓骨頭の高さに合わせられつつ、適切な高さで位置決めパッド56が固定され、その後に、位置決めパッド56がその前進運動により薄い皮膚層を介して腓骨頭に押し当てられる。腓骨頭の位置を規定することにより、近位部10aの空間的な位置がほぼ決まることになる。逆に言えば、近位部10aに対して腓骨頭固定部20の位置が決まることになる。一方、生体を挟んで腓骨頭固定部20とは反対側に近位内側固定部28が設けられている。近位内側固定部28は肥大した内側パッド32を有しており、その内側パッド32が膝の内側面を広い面積をもって保持するように当てられる。このように腓骨頭の反対側で近位部10aが確実に保持されるように、内側パッド32の位置が調整される。具体的には、近位内側固定部28は、水平板12にネジまたはボルトで固定されている。また内側パッド32の高さは、近位内側固定部28の台座をなすイケール40に設けられた長穴への設置高さの調整によって行える。内側パッド32はイケール40に対して進退可能に設けられている。図3に示されるように、水平板12には2カ所のイケール設置部30a,30bが形成されており、それらに対して近位内側固定部28を選択的に設置することにより、左右の足に対応できる。
【0025】
遠位固定機構102を構成する可動機構26は、後に図7等を用いて詳述するように、遠位部10bに存在する外果に薄い皮膚層を介して当接される外果パッドと、遠位部10bに存在する内果に対して薄い皮膚層を介して当接される内果パッドと、を有する。可動機構26には、上記のように磁気吸着作用をオンオフ切換可能なマグネット部品が内蔵されている。それが可動機構26の台座を構成している。可動機構26を下肢の踝付近に設置し、その位置決めを行う場合、本実施形態では外果が主たる基準として用いられ、その位置決めが行われる。具体的には、まずマグネット部品の機能の動作をオフ(解除状態)にして、基板18の上で可動機構26を平行移動させて、外果パッドの水平位置を外果の水平位置に合わせるようにする。その状態で、マグネット部品をオン動作させて、それを基板18上に吸着固定させる。このように、マグネット部品のオンオフ動作によって、基板18上で遠位固定部26を任意の位置に固定設置することが可能であるため、被測定対象者の個々の脚の長さの違いなど、つまり個体差に起因した遠位部位置のばらつきに柔軟に対応できる。
【0026】
後に詳述するが、可動機構26の固定の後、それが有する上下部を調整することによって、外果パッドを外果に位置決めする。つまり、皮膚層を介して外果が外果パッドに当たるようにする。次に内果パッドが内果に対して位置決めされるが、その場合には、後述する傾斜機構及び水平回転機構によって外果パッド(正確には外果パッド上に設定される座標原点)を基準として、内果パッドの傾斜角度及び水平回転角度を自在に調整可能である。更に、外果パッドに対して内果パッドは進退自在に構成されており、内果パッドを前進させて、外果パッドと内果パッドとで生体をしっかりと挟持することができる。
【0027】
図4は、近位部を固定するための腓骨頭固定部20の分解斜視図である。腓骨頭固定部20においては、腓骨頭に皮膚層を介して当接される位置決めパッド56が、固定金具54に取り付けられている。ネジシャフト50の一方端と一体化されるノブ48を回すことにより、ネジシャフト50の他方端にあるネジ部が固定金具54と係合し、その結果、固定金具54と固定金具52の間隔を調整することができる。これにより、垂直板14の上の長穴22が、固定金具54と固定金具52で両側から挟み込まれ、腓骨頭固定部20が垂直板14(図1)に取り付けられる。腓骨頭固定部20の設置高さは、長穴を通過するネジシャフト50の高さを変えることによって自在に調整できる。なお、固定金具54には、長穴の短軸の長さに合わせて面取り加工が施されている。
【0028】
位置決めパッド56は近位内側固定部が有する内側パッドよりも硬質の部材で構成され、その当接面57は内側パッドの面積よりも小さい。これにより、位置決めパッド56を正確に腓骨頭に当接させることができる。当接面57の中央部57Aには、その中心を腓骨頭の膨らみの頂点に容易に合わせられるように開口部あるいは窪みが形成されている。後述する外果パッド及び内果パッドについても同様の窪み構造を採用するのが望ましい。
【0029】
図5には、近位内側固定部28の拡大図が示されている。また図6には、近位内側固定部28の分解斜視図が示されている。それらの図において、近位部における、腓骨頭とは反対側の体表面に接触する内側パッド32は、移動板34に取り付けられ、さらに移動板34にはボールベアリング36が取り付けられている。水平板12に固定される台座としてのイケール40には、高さ調整を行えるように長穴40Aが設けてあり、その長穴40Aは、固定金具38と固定金具42によって両側から挟持される。固定金具38の貫通穴にはネジが切られており、ネジシャフト44の一方端部と一体化されたレバー46を回転させることによって、ネジシャフト44の他方端部に設けられた内側パッド32が進退運動する。内側パッド32は、上記の腓骨頭用の位置決めパッドよりも大きな当接面を有しており、また位置決めパッドよりも柔らかい部材で構成されている。内側パッド32の内側当接面31は、生体形状に合わせて円弧状のあるいは湾曲した形態を有する。
【0030】
以上のように、生体の近位部は、近位固定部としての腓骨頭固定部及び近位内側固定部によって確実に位置決め固定される。この場合、腓骨頭が位置決め基準として用いられているため、超音波検査時においては常に同じ位置に位置決めパッドを当てることができ、その位置決めパッドと反対側の内側パッドとによって、近位部を確実に保持し、またその保持状態を維持できる。すなわち、位置決めの再現性及び持続性を向上できる。また、腓骨頭の上に存在する皮膚層は通常体格差によらずに薄いため、つまり皮膚層の弾性や柔軟性による影響を軽減、排除して、腓骨頭を的確に当接、保持できるという利点がある。
【0031】
図7は、遠位固定機構の実体をなす可動機構26の斜視図である。また図8は、可動機構26の分解斜視図である。両図において、可動機構26は、下から順に、マグネット部品としてのマグネットベース58、平板状の底板59、θ回転ステージ部60、上下部62、保持ユニットとしての内外果保持部76、が積み上げられて構成されている。最下段のマグネットベース58は、底板59の下に設置された台座として機能し、それによって当該可動機構26を図1に示した基板上の任意の位置に設置固定することが可能である。底板59の上面に設置されたθ回転ステージ部60は、それ自身が回転運動することにより、その上に設置された上下部62等のユニットを回転させるものである。それらのユニットはZ軸に平行なある直線を中心にして回転する。ちなみに、その回転軸は外果パッドを基準に設定される原点を通過している。θ回転ステージ部60の機能については後述する。θ方向の回転角度はロック機構によってロック可能である。
【0032】
上下部62により内外果保持部76のZ方向の高さを調整することが可能である。内外果保持部76は、図7に示されるように外果パッド66及び内果パッド68を搭載している。上下部62による高さ調整により、外果パッド66を遠位部に存在する外果の位置に合わせることが可能である。つまり、可動機構26の水平位置調整、内外果保持部の高さ調整、その他の調整によって、外果パッド66を、遠位部における主たる位置決め基準としての外果に位置決めして当接させることが可能である。
【0033】
以上のように、外果についての位置決めが完了した後、内果についての位置決めを行う。具体的には、θ回転ステージ部60を動作させて、内外果保持部76を回転させ、その向きを所望の方向に変化させる。その回転軸は外果パッド66の表面中央(厳密には、外果パッド66の若干の変形を考慮して、その表面からやや外果パッド66内に入った位置)を通過しているため、内外果保持部76を回転させても、外果パッド66の当接状態は維持される。内外果保持部76は、傾斜機構77及び進退機構79を搭載している。傾斜機構77は、外果パッド66及び内果パッド68と、それらを備えた進退機構と、からなるユニットを傾斜運動させるものである。つまり、その傾斜の回転軸は上記の原点を通過する水平軸である。これにより、ユニットが傾斜運動をしても、外果パッド66の当接状態を維持することができる。進退機構79は、外果パッド66に対して内果パッド68を進退運動させる機構である。その場合においても、外果パッド66を固定した状態で内果パッド68を運動させることができるので、外果パッド66の当接状態を維持できる。このように、外果を主たる位置決め基準として、そこに外果パッドを当接して位置決めした上で、外果パッド66の当接状態を維持しつつ、内果パッド68の水平回転角度、傾斜角度、進退位置を調整して、内果パッド68を内果に対して当接させることが可能である。なお、図2に示したように外果86と内果88を直線で結んでみると、その直線は外果と内果の空間的な位置の違いから傾いている。外果と内果を結んだ直線上に、内果パッドの中心点を移動させるためには、内果パッド68自体を水平回転、傾斜回転させる必要があるが、本実施形態によれば上記の各構成によってそれが容易である。
【0034】
図9には内外果保持部76の分解斜視図が示されている。図示されるように、内果パッド68はバイス部材70の上端部に設けられており、その下端部は進退機構79に連結固定されている。進退機構79には円弧状の形態をもった回転リング72が取り付けられている。上下するフレームとしての台座81には、円弧状の溝83が形成されており、その溝83には回転リング72から伸びるピンがスライド運動可能に挿入されている。ピンに係合したネジ74を締め付けることにより、進退機構79の傾斜角度をロックすることが可能である。
【0035】
図10には遠位固定機構としての可動機構26によって生体の遠位部が位置決め固定された状態が示されている。踝部位がその両側から2つのパッドによって挟持され、これによって踝部位の動きが規制されている。この場合、外果及び内果を位置決め基準としているので、固定の再現性を良好にでき、しかもそれらの部位における皮膚層は薄いために遠位部を確実に挟持できるという利点がある。特に、外果と内果の内で一方を主たる位置決め基準として、それについての位置決めが完了した後に他方の位置決めを円滑に行えるようにしたので、位置決め時の作業性がよい。
【0036】
本実施形態においては、図1に示したように、X方向において、近位固定機構100と遠位固定機構102とをそのまま入れ替えることができるので、両足に対応できる。三点曲げ荷重をかけた状態で超音波によって骨の微小変位を計測するような場合には、本装置に、プローブ保持機構、加圧機構、その他を更に設けてもよい。上記構成例では、各可動部分の調整は人為的に行われていたが、その内の一部又は全部を自動的に行うようにしてもよい。その場合においては、安全性の観点から、必要に応じて、リミットスイッチなどのセンサを設けるのが望ましい。
【0037】
次に、図11を用いて本実施形態に係る生体固定装置の動作を説明する。S101では、右足あるいは左足の下腿を生体固定装置に挿入する。S102では、腓骨の近位部にある腓骨頭を、近位固定機構の腓骨頭固定部に接触させる。S103では、近位内側固定部のネジシャフトの高さを、腓骨頭固定部の高さにあわせて調整し、また近位内側固定部のイケールを水平板に位置決めする。更に、レバーを回転させて内側パッドが膝の内側に軽く触れる状態にし、近位部をその両側から仮固定する。S104では、遠位固定部(可動機構)を平行移動させてX方向、Y方向の位置合わせを行った後、上下部で、外果パッドの高さを調整することにより、外果が外果パッドの中心位置に整合するようにZ方向の位置合わせを行う。S105では、θ回転ステージ部と、φ回転リング(つまり傾斜機構)の回転位置を調整し、内果が内果パッドの中心位置に対面するように位置合わせを行う。S106では、内果パッドが内果を押圧するようにバイス部材70を動作させて、遠位固定部を固定する。S107では、近位内側固定部のレバーを回転させて、内側パッドが膝の内側を押圧するように調整して、近位部の本固定を行う。
【0038】
上記実施形態においては診断対象となる生体が足であったが、もちろん足以外の手あるいは他の部位に対して上記同様の測定方法を適用することができる。他の部位に適用する場合には、対象となる部位に応じて測定機構の構造を適宜変更させるのが望ましい。例えば、体外から特定可能な特徴骨部分の膨らみの形状に合わせて、位置決め用の固定パッドに窪みを設けることで、当接時の押圧力を分散させて、不快感を低減させることも考えられる。また、前腕部の橈骨または尺骨についても適用が可能である。またスペーサ部材などの部材を交換することによって様々な部位に対して共通の固定機構を利用することも可能である。
【0039】
図12には、生体固定装置の他の実施形態が示されている。図示される生体固定装置98はそれ単独で体肢固定装置として用いることが可能なものである。生体固定装置98は体肢における近位部以外の固定にも用いることが可能であるが、特に、近位部の固定に適している。ここで、近位部は例えば下肢における膝下部位である。
【0040】
図12において、生体固定装置98の基本的な構造は図1等に示した近位固定機構と同様である。詳しくは、生体固定装置98は、起立した互いに平行な2つの平面板122、124を有し、それらの下端部122a,124aが底板126によって連結されている。これによって、全体としてコ字状のフレーム90が構成されている。2つの平面板122,124には、それぞれ垂直方向に伸長した長穴92a,92bが設けられている。長穴92aには、腓骨頭固定部(一方側保持部)120が取り付けられており、長穴92bには、内側固定機構(他方側保持部)94が設けられている。腓骨頭固定部120は、図1等に示した腓骨頭固定部と同一の構成を有し(但し垂直板に代えて平面板122が設けられている)、それが有する位置決めパッド56が腓骨頭に対して皮膚層を介して当接される。内側固定部94は、図1等に示した近位内側固定部と同様の構成を有し(但し、イケールに代えて平面板124が設けられている)、内側パッド96が腓骨頭の反対側の体表面に当接される。位置決めパッド56は内側パッド96よりも硬い材料で構成され、そのサイズも小さい。内側パッド96は比較的柔らかい大きな当接面を有し、その当接面は凹形に湾曲している。
【0041】
この実施形態においては、腓骨頭固定部120の水平位置と内側固定機構94の水平位置が、フレーム90によって予め規定されているので、人体を固定する場合に行うべき調整手順を低減できるという利点がある。腓骨頭固定部120と内側固定部94の垂直方向の位置は長穴92a,92b内における各シャフトのスライドにより自在に調整することができる。位置決めパッド56は上述のように進退運動可能に設けられており、また、内側パッド96も進退運動可能に設けられている。
【0042】
生体固定装置98は、左右の下肢について選択的に対応するために、位置決めの基準位置となる腓骨頭固定部の中心軸に対して、装置全体が下肢の軸方向に左右対称な形状を有している。位置決めパッド56と内側パッド96の材質や大きさは、人体のサイズに合わせて適宜最適化することが可能であり、例えば、大人用と子供用で異なる部品にすることもできる。この生体固定装置98は簡易な構成であるので、設置場所を選ばず、必要に応じて垂直な壁に取り付けたり、場合によっては逆さまに取り付けることも可能である。
【0043】
図12に示される生体固定装置98を近位部固定装置として単独で用いることもできるし、それに併せて、図1等に示した遠位部固定装置を用いるようにしてもよい。また、腓骨頭以外の1又は複数の特徴骨部分を位置決め基準とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る生体固定装置の好適な実施形態を示す斜視図である。
【図2】人体の右下腿部の脛骨と腓骨の外形を示す図である。
【図3】本発明に係る生体固定装置の好適な実施形態を示す斜視図である。
【図4】腓骨頭固定部の分解斜視図である。
【図5】近位内側固定部の斜視図である。
【図6】近位内側固定部の分解斜視図である。
【図7】遠位固定機構の斜視図である。
【図8】遠位固定機構の上下のユニット構成を示す分解斜視図である。
【図9】遠位固定機構の内外果固定機構の構造を示す斜視図である。
【図10】遠位固定機構の好適な実施形態を示す斜視図である。
【図11】本実施形態に係る生体固定装置の使用手順を示すフローチャートである。
【図12】別の実施形態に係る生体固定装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0045】
10 生体、12 水平板、20 腓骨頭固定部、26 可動機構、28 近位内側固定部、100 近位固定機構、102 遠位固定機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外から特定可能な特徴骨部分を基準としつつ体肢を固定する生体固定装置であって、
前記体肢における特徴骨部分に対して皮膚層を介して当接される第1当接部と、
前記第1当接部と共に前記体肢を挟んで保持する第2当接部と、
前記第1当接部に対して前記第2当接部を相対的に進退させる進退機構と、
を含むことを特徴とする生体固定装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記第1当接部は小面積をもった第1当接面を有し、
前記第2当接部は大面積をもった第2当接面を有する、
ことを特徴とする生体固定装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記第1当接部は前記第1当接面を有する硬質部材で構成され、
前記第2当接部は前記第2当接面を有する軟質部材で構成された、
ことを特徴とする生体固定装置。
【請求項4】
請求項2記載の装置において、
前記第2当接面は凹型湾曲面として構成された、
ことを特徴とする生体固定装置。
【請求項5】
請求項1記載の装置において、
前記体肢は下肢であり、
前記特徴骨部分は体外から薄い皮膚層を介して膨らみをもって特定可能な部位である、
ことを特徴とする生体固定装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置において、
前記特徴骨部分は腓骨頭である、
ことを特徴とする生体固定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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