説明

生体物質検出カートリッジ、生体物質検出装置、および生体物質検出方法

【課題】反応容器内での反応が不均一になることを防止し、反応効率及び検出感度の高い生体物質検出カートリッジを得る。
【解決手段】ターゲットとプローブをハイブリダイゼーションさせるための複数のチャンバー212と、チャンバー212間に設けられた流路213とを備え、チャンバー212の上には、多孔質膜205と気液分離膜204が重層されている。気液分離膜204の上には気泡排出部206が設けられており、ハイブリダイゼーション反応中に気泡排出部206内を負圧に保つことにより、チャンバー212内の気泡が気液分離膜204を通って気泡排出部206へ排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の塩基配列を有する核酸分子などの生体物質を検出するための、生体物質検出カートリッジ、生体物質検出装置、および生体物質検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液や組織細胞などの検体中に、疾患に由来する特定の遺伝子が存在するか否かを検査する手法の一つにDNAマイクロアレイがある。DNAマイクロアレイは、基板上に固定化されたプローブ遺伝子と検体中の遺伝子とを反応(ハイブリダイゼーション)させることにより、目標の遺伝子の有無を検出する。従来、検体中に含まれる特定の遺伝子の検出精度をあげるため、検体中の特定の遺伝子とプローブ遺伝子との反応効率を高くする工夫がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、プローブが固定された基板と板状部材との間に試料溶液を満たし、基板と板状部材との間の相対運動をおこすことによって、試料溶液を攪拌し、反応効率を高める方法が開示されている。
また、特許文献2には、試料溶液中に微粒子を分散させて攪拌することにより、反応効率を高める方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献1や特許文献2に開示された方法では、DNAマイクロアレイを回転させたりすることにより試料溶液を攪拌しているが、マイクロアレイを動かす機構を用いずに反応効率を高める方法の例として、特許文献3には、核酸検出用のプローブと試料を反応させるためのチャンバー内の流体の流れが制御されるように、流路断面積を減少させる流体抵抗部を備えた生化学反応カセットが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3746756号公報
【特許文献2】特許第3557419号公報
【特許文献3】特開2007−40969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に開示された従来技術のように、試料溶液を攪拌したり、チャンバー内で流れを起こすように制御すると、試料溶液内に気泡が発生しやすくなる。気泡が発生すると、プローブ遺伝子と検体中の遺伝子との接触が妨げられ、反応が不均一、非効率になるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、反応容器内での反応が不均一になることを防止し、反応効率及び検出感度の高い生体物質検出カートリッジ、生体物質検出装置、および生体物質検出方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る生体物質検出カートリッジは、試料溶液に含まれる特定の生体物質を検出するためのプローブを固定する領域を有し、前記生体物質と前記プローブを反応させるための反応容器と、前記反応容器内に面した多孔質膜と、前記多孔質膜に重層された気液分離膜と、前記気液分離膜の前記多孔質膜と接する面とは反対の面上に設けられ、前記生体物質と前記プローブとの反応中に、内部を負圧に保つことが可能な気泡排出部と、を備えたものである。
【0009】
本発明によれば、反応中に反応容器内で気泡が発生しても、気液分離膜を通して気泡を排出することができるので、反応容器内での反応が不均一になることを防止し、反応効率及び検出感度を高めることができる。また、気液分離膜と反応容器の間に多孔質膜を設けたことによって、反応容器の内壁だけでなく、多孔質膜側にもプローブを固定することができる。
【0010】
また、前記反応容器は、前記プローブを固定する領域を各々有し、前記生体物質と前記プローブを反応させるための複数のチャンバーと、前記複数のチャンバー間に設けられた流路と、を備え、前記流路は、前記試料溶液が移動する方向に垂直な断面の面積が前記チャンバーの断面積よりも小さいことが望ましい。
【0011】
これにより、流路で繋がれた各々のチャンバーに、それぞれ異なる1種類のプローブを固定することにより、1度に複数種類のターゲットの検出を行うことができる。また、1つのチャンバー内では1種類のプローブのみを用いれば、反応結果の検出を、発光物質が溶液中に浮遊する化学発光物質を用いて行っても、発光物質が混ざり合ってどのプローブとの反応結果なのか区別がつかなくなる問題がない。
【0012】
さらに、流路の試料溶液が移動する方向に垂直な断面の面積がチャンバーの断面積よりも小さく形成されているため、断面積の小さな流路から大きなチャンバーへ試料溶液が流入することによって、液体の流れが変化し、チャンバー内の試料溶液を攪拌する効果がある。チャンバー内の試料溶液が攪拌されることによって、プローブに短い時間でより多くのターゲットとなる生体物質が接することになるので、反応効率がより向上する。
【0013】
前記プローブを固定する領域は、前記反応容器の内壁に設けられていてもよいし、前記多孔質膜上に設けられていてもよい。また、内壁と多孔質膜の両方に設けられていても良い。
プローブを固定する領域を内壁と多孔質膜の両方に設けることにより、プローブとターゲットとなる生体物質が接する面積が広くなり、反応効率、検出感度が向上する。また、多孔質膜は三次元構造を有するため、反応容器の内壁に比べてより多くのプローブを固定することができるので、反応効率、検出感度を向上させることができる。
【0014】
また、前記反応容器と前記多孔質膜の間に、前記プローブを固定する領域に対応した貫通孔を有する基板を備えるようにしてもよい。
これにより、前記多孔質膜上のプローブ固定領域とプローブ固定領域の間を分離することができ、隣り合う固定領域に異なるプローブを固定した場合、プローブが混ざり合ってどのプローブとの反応結果なのか区別がつかなくなる問題がない。
【0015】
また、前記反応容器は、透明基板で形成されていることが望ましい。
これにより、反応容器の外側から内部の観測を行うことができるので、反応処理と検出処理を同一の装置で行うことができ、装置の小型化および処理の効率化を図ることができる。
【0016】
本発明に係る生体物質検出装置は、上記の生体物質検出カートリッジを用いて生体物質検出を行う生体物質検出装置であって、前記生体物質と前記プローブとの反応中に、前記気泡排出部を負圧に保つための第1のポンプを備えている。
これにより、簡易な方法で、反応中に反応容器内で発生した気泡を、気液分離膜を通して排出することができる。
【0017】
また、前記反応容器内で前記試料溶液を往復移動させるための第2のポンプを備えていることが望ましい。
これにより、より多くのターゲットとなる生体物質がプローブに接するようになるので、反応効率が向上する。
【0018】
本発明に係る生体物質検出方法は、上記の生体物質検出装置を用いた生体物質検出方法であって、前記反応容器内に試料溶液を供給し、前記試料溶液に含まれる特定の生体物質と、前記反応容器内に固定され、前記生体物質を検出するためのプローブとを反応させる反応工程と、前記プローブと反応した前記生体物質を検出する検出工程と、を備え、前記反応工程では、前記気泡排出部を負圧に保つことにより、前記気液分離膜を通して前記反応容器内の気泡を外部へ排出することを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、反応中に反応容器内で気泡が発生しても、気液分離膜を通して気泡を排出することができるので、反応容器内での反応が不均一になることを防止し、反応効率及び検出感度を高めることができる。
【0020】
また、前記検出工程では、化学発光物質を用いた方法により、前記プローブと反応した前記生体物質の検出を行うことが望ましい。
一般に、化学発光物質を用いた方法では、発光物質の産出量を加える基質の量を増やすことにより増加させることができるので、検出感度を高めることが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による核酸検出装置(生体物質検出装置)10の概略構成を示す斜視図である。図に示すように、核酸検出装置10は、検出カートリッジ(生体物質検出カートリッジ)20を設置するステージ101、検出用窓102、ポンプ103、ポンプ104、試料容器105、CCDカメラ106を備えている。
【0022】
ステージ101は、検出カートリッジ20を固定するためのステージである。ステージ101には検出用窓102が設けられており、ハイブリダイゼーション反応の検出処理の際、CCDカメラ106を用いて、検出カートリッジ20内で産出された化学発光物質の発光強度を測定することができる。
【0023】
ポンプ103,104は、例えばシリンジポンプやマイクロポンプを用いることができる。ポンプ103は、検出カートリッジ20内で試料溶液の往復送液を行うために用いられ、ポンプ104は、検出カートリッジ20内の気泡を排出するために用いられる。ポンプ103,104は、フッ素樹脂、ポリエーテルケトン(PEEK)樹脂、シリコーン樹脂等からなるキャピラリーチューブを介して検出カートリッジ20と接続されている。
【0024】
試料容器105は、検体試料溶液を収容するための容器である。試料容器105は、フッ素樹脂、ポリエーテルケトン(PEEK)樹脂、シリコーン樹脂等からなるキャピラリーチューブを介して検出カートリッジ20と接続されており、検出カートリッジ20内へは、この試料容器105から、試料溶液が供給される。また、ポンプ103を用いて試料溶液の往復送液を行う際、検出カートリッジ20内から溢れた試料溶液が、試料容器105に一旦流入し、また、検出カートリッジ20内へ戻っていく。
【0025】
図2(A)は、本発明の実施の形態1による検出カートリッジ20の分解斜視図、図2(B)は図2(A)のC−C断面を示す図である。図に示すように、検出カートリッジ20は、基板201、気液分離膜204、多孔質膜205、基板202、及び基板203を貼り合わせて構成される。
【0026】
基板201には、気泡排出部206が形成されている。気泡排出部206には、排出口207が設けられており、排出口207とポンプ104はキャピラリーチューブを介して繋がれる。また、基板201には、基板203に形成された流路213の両端に対応する位置に、液体導入口208,209が設けられており、液体導入口208,209は、それぞれポンプ103、試料容器105とキャピラリーチューブを介して繋がれる。
【0027】
気液分離膜204、多孔質膜205は、基板201と基板202の間に挟まれている。気液分離膜204は、4フッ化エチレン樹脂等で形成された膜であり、気体は透過させるが、液体の透過は遮断する性質を持つ。多孔質膜205は、ニトロセルロースやナイロン、ポリカーボネート等で形成された膜である。
【0028】
基板202には、基板203に形成されたチャンバー212に対応する位置に、貫通孔210が設けられている。また、多孔質膜205及び気液分離膜204を配置するための膜配置用凹部211が形成されている。また、基板201と同様に、基板203に形成された流路213の両端に対応する位置に、液体導入口208,209が設けられている。
【0029】
基板203には、複数のチャンバー212と、チャンバー212間を繋ぐように設けられた流路213が形成されている。流路213の両端部は、それぞれ液体導入口208,209を介してポンプ103、試料容器105と接続される。基板203は、ガラス基板などの透明基板であることが望ましい。これにより、チャンバー212の外側から内部の観測を行うことができるので、反応処理と検出処理を同一の装置で行うことができる。
【0030】
図3(A)に示すように、基板203、基板202、及び多孔質膜205を重ねて配置することによって、上面が多孔質膜205で覆われ、各々が流路213を介して繋がった複数のチャンバー212が形成される。さらに、その上に気液分離膜204、基板201を重ねることによって、チャンバー212内の空気が気液分離膜204を通って気泡排出部206に排出されるように構成することができる。気泡排出部206を負圧に保つことにより、チャンバー212内で発生した気泡を除去することができる。
【0031】
チャンバー212は、例えば、送液方向の長さを200μm、送液方向に垂直な断面の幅を200μm、深さを150〜200μm、とすることができる。また、チャンバー212とチャンバー212を繋ぐ流路213は、送液方向の長さを200μm、送液方向に垂直な断面の幅を100μm、深さを50〜100μmとすることができる。流路213の送液方向に垂直な断面の面積は、チャンバー212の送液方向に垂直な断面よりも小さく形成されている。チャンバー212の形状は、円形の他、例えば楕円形や、四角形の角を丸めた形状など、チャンバー212内に気泡がたまりにくい形状が望ましい。
【0032】
各々のチャンバー212は、内壁上にプローブ固定領域214を有している。プローブ固定領域214は、プローブを塗布するための領域である。プローブ固定領域214は、図3(A)に示すように、チャンバー212の内壁の表面に設けられていてもよいし、図3(B)に示すように、チャンバー212の内壁と多孔質膜205の表面に設けられていても良い。図3(B)に示す構成の場合には、チャンバー212内のプローブの量が増え、プローブとターゲットとなる生体物質が接する面積も広くなるので、反応効率、検出感度が向上する。また、図3(C)に示すように、多孔質膜205の表面にのみプローブ固定領域214が設けられている構成とすることもできる。多孔質膜205は三次元構造を有するため、チャンバー212の内壁に比べてより多くのプローブを固定することができるので、反応効率、検出感度を向上させることができる。
【0033】
プローブには、例えば血液、尿、唾液、髄液のような検体試料に含まれる標的物質(ターゲット)を捕捉し得る物質を用いることができる。例えば、ターゲットがDNAやRNAのような核酸である場合には、プローブとしては、これらの核酸とハイブリダイゼーション(相補的に結合)する核酸やヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)等を用いることができる。このような核酸としては、例えばcDNAやPCR産物等が用いられる。
【0034】
なお、ターゲットは核酸に限られず、例えば特定のタンパク質であってもよい。この場合には、プローブとしては、このタンパク質を特異的に捕捉(例えば、吸着、結合等)するもの等が用いられる。具体的には、抗原、抗体、レセプター、酵素等のタンパク質、ペプチド(オリゴペプチド)等である。
【0035】
プローブ固定領域214へのプローブの塗布は、非接触あるいは接触式スポッター等を用いて行うことができる。なお、多孔質膜205への塗布は非接触スポッターを用いることが望ましい。本実施形態では、各々のチャンバー212には、それぞれ異なる1種類のプローブが固定されている。これにより、1度に複数種類のターゲットの検出が可能である。
【0036】
なお、プローブ固定領域214には、必要に応じて、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、プローブをプローブ固定領域214の表面に確実に固定するための処理(固相化処理)等が挙げられる。
【0037】
次に、本実施形態による核酸検出装置10を用いた、ターゲット(核酸)とプローブとのハイブリダイゼーション処理(反応工程)およびハイブリダイゼーションの検出処理(検出工程)について説明する。
【0038】
まず、プローブ固定領域214にプローブが固定された検出カートリッジ20内(チャンバー212と流路213で形成される空間)に、ポンプ103を用いてブロッキング液を充填する。
【0039】
ここで、ポンプ104を用いて気泡排出部206内部を負圧にしてから、ポンプ103を用いて充填したブロッキング液を検出カートリッジ20内で往復送液することにより、プローブが固定化されていない領域をブロッキングする。ブロッキングは約10分行う。
【0040】
次に、ポンプ103を用いてブロッキング液を排出した後、ポンプ103を用いて検出カートリッジ20内に洗浄液を充填し、充填した洗浄液を検出カートリッジ20内で往復送液することにより、チャンバー212および流路213内部を十分に洗浄する。
【0041】
次に、検出カートリッジ20内に、ビオチン標識した試料溶液を充填する。具体的には、ポンプ103を駆動することにより、試料容器105に収容された試料溶液が検出カートリッジ20内に供給される。
【0042】
ビオチン標識した試料溶液の調整方法について説明する。
試料溶液は、例えば血液、尿、唾液、髄液のような生体サンプルを含む。必要に応じて、PCR法を用いて、ターゲットとなる核酸の増幅処理を行っておく。
具体的には、まず、試料中に第1及び第2のプライマーを加え、温度サイクルをかける。第1のプライマーはターゲットとなる核酸の一部と特異的に結合し、第2のプライマーはターゲット核酸と相補的な核酸の一部と特異的に結合する。ターゲット核酸を含む二本鎖核酸と第1及び第2のプライマーが結合すると伸長反応によってターゲット核酸を含む二本鎖核酸が増幅される。十分に標的核酸を含む二本鎖核酸が増幅された後に、試料中に第3のプライマーを加えて温度サイクルをかける。第3のプライマーは、伸長反応時にビオチンの取込みが可能であり、ターゲット核酸と相補的な核酸の一部と特異的に結合する。ターゲット核酸に相補的な核酸と、第3のプライマーが結合すると伸長反応によってビオチンで標識されたターゲット核酸が増幅される。結果として、試料中にターゲット核酸が含まれている場合は標識されたターゲット核酸が生成され、試料中にターゲット核酸が含まれない場合は標識されたターゲット核酸は生成されない。なお、ここでは、標識物質はビオチンとしたが、他の酵素や、蛍光物質、等でも良い。
【0043】
次に、充填したビオチン標識した試料溶液を検出カートリッジ20内で往復送液し、プローブ固定領域214に固定されているプローブと反応(ハイブリダイセーション)させる。ハイブリダイセーションは1〜3時間行うのが望ましい。
【0044】
なお、ハイブリダイセーションを行っている間も、ポンプ104を用いて気泡排出部206内を負圧に保っておく。
本実施形態に係る検出カートリッジ20は、流路213の試料溶液が流れる方向に垂直な断面の面積がチャンバー212の断面積よりも小さく形成されている。断面積の小さな流路213から大きなチャンバー212へ試料溶液が流入することによって、液体の流れが変化し、チャンバー212内の試料溶液を攪拌する効果がある。チャンバー212内の試料溶液が攪拌されることによって、プローブ固定領域214のプローブに短い時間でより多くのターゲット核酸が接することになるので、ハイブリダイゼーションの効率が向上する。一方、液体が乱流によって攪拌されやすいため、チャンバー212内には気泡が溜まりやすく、不均一なハイブリダイゼーション反応を誘引させる可能性がある。しかし、本実施形態によれば、ポンプ104を用いて気泡排出部206内を負圧に保っておくことにより、気液分離膜204を通ってチャンバー212内の気泡が気泡排出部206へ排出されるため、反応が不均一になることを防止し、反応効率及び検出感度を高めることができる。
【0045】
次に、ポンプ103を用いてビオチン標識した試料溶液を排出した後、ポンプ103を用いて検出カートリッジ20内に洗浄液を充填し、充填した洗浄液を検出カートリッジ20内で往復送液することにより、チャンバー212および流路213内部を十分に洗浄する。
【0046】
次に、ポンプ103を用いて検出カートリッジ20内にストレプトアビジン標識した化学発光用酵素(HRP)液を充填し、検出カートリッジ20内で約5分間往復送液する。
次に、HRP液を排出した後、検出カートリッジ20内に洗浄液を充填し、充填した洗浄液を検出カートリッジ20内で往復送液することにより、チャンバー212および流路213内部を十分に洗浄する。
【0047】
次に、ポンプ103を用いて検出カートリッジ20内に化学発光基質(ルミノール)と過酸化水素を含む溶液を充填する。充填したら、気泡排出部206内を大気圧に戻し、ポンプ103による往復送液操作は行わずに約10〜30秒静止させ、化学発光物質の産出を待つ。
【0048】
化学発光物質が産出されたら、CCDカメラ106を用いて発光強度を測定し、ハイブリダイゼーション反応の有無を確認する。
【0049】
図4(A)は、化学発光物質を用いた検出方法の原理を説明する図である。図4(A)に示すように、化学発光物質を用いた検出方法では、ターゲット核酸に結合したビオチンとストレプトアビジン標識済みの化学発光用酵素(HRP)が結合し、そこへ化学発光基質液(ルミノール、過酸化水素)を加えることにより、HRPがルミノールと過酸化水素と反応して発光物質を産出することにより発光する。発光物質の産出量はルミノールと過酸化水素を増やすことにより増加させることができるので、検出感度を高めることが容易である。
【0050】
図4(B)は、蛍光標識剤を用いた検出方法の原理を説明する図である。蛍光標識剤を用いた方法では、ターゲット核酸に結合した蛍光標識剤が、励起光を照射することにより発光する。発光強度は、ターゲット核酸に結合している蛍光標識剤の量に依存するため、化学発光物質を用いた検出方法に比べると、検出感度を高めることが難しい。
【0051】
このため、検出感度を向上させるためには、化学発光物質による方法を用いた方がよい。なお、蛍光標識剤を用いた方法では、発光体である蛍光標識剤が、ターゲット核酸に結合した状態であるため、発光体の位置が動かない。このため、1つのチャンバー内で複数のプローブを用いたハーブリダイゼーションを行う場合でも、どのプローブとの反応結果なのかの区別がつきやすい。一方、化学発光物質を用いた方法では、生成された発光物質が1つのチャンバー内で混ざり合ってしまうため、1つのチャンバー内で複数のプローブを用いた場合には、どのプローブによって検出されたものなのか区別がつかなくなってしまう。しかし、本実施形態による核酸検出装置10では、各々のチャンバー212にはそれぞれ異なる1種類のプローブが固定されている。これにより、化学発光物質を用いた検出方法でも、発光物質が混ざり合ってどのプローブとの反応結果なのか区別がつかなくなる問題がなく、1度に複数種類のターゲットの検出が可能である。なお、化学発光物質を用いた検出に用いる酵素や基質等は、上記に示すものに限られない。
【0052】
以上のように、実施の形態1によれば、流路213で繋がれた各々のチャンバー212に、それぞれ異なる1種類のプローブを固定することにより、1度に複数種類のターゲットの検出を行うことができる。また、1つのチャンバー内では1種類のプローブのみを用いるようにすれば、ハイブリダーゼーション結果の検出を化学発光物質による方法で行っても、発光物質が混ざり合ってどのプローブとの反応結果なのか区別がつかなくなるという問題がない。
【0053】
さらに、本実施形態では、流路213の、試料溶液が移動する方向に垂直な断面の面積がチャンバー212の断面積よりも小さく形成されているため、流路213とチャンバー212の境界で流れの変化が発生し、チャンバー212内の試料溶液を攪拌する効果がある。チャンバー212内の試料溶液が攪拌されることによって、短い時間でより多くのターゲットとプローブが接することになるので、反応効率が向上する。
【0054】
また、本実施形態によれば、ポンプ103を用いてチャンバー212および流路213内で試料溶液を往復移動させるようにしたので、プローブにより多くのターゲットが接するようになり、反応効率が向上する。
【0055】
一方、本実施形態では、流路213とチャンバー212の境界で乱流が発生し、チャンバー212内に気泡が溜まりやすくなるが、ポンプ104を用いて気泡排出部206内を負圧に保っておくことにより、気液分離膜204を通ってチャンバー212内の気泡が気泡排出部206へ排出されるため、反応が不均一になることを防止し、反応効率及び検出感度を高めることができる。なお、気液分離膜204とチャンバー212の間に多孔質膜205を設けたことによって、多孔質膜205側にもプローブ固定領域214を設けることができる。
【0056】
実施の形態2.
図5(A)は、本発明の実施の形態2による検出カートリッジ(生体物質検出カートリッジ)30の分解斜視図、図5(B)は図5(A)のC−C断面を示す図である。
図に示すように、実施の形態2では、基板203には、複数のチャンバー212の代わりに1つの反応容器312が形成されている。また、基板202がなく、気液分離膜204と多孔質膜205は基板201と基板203の間に挟まれている。
【0057】
図5(B)に示すように、基板203及び多孔質膜205を重ねて配置することによって、上面が多孔質膜205で覆われた反応容器312が形成される。さらに、その上に気液分離膜204、基板201を重ねることによって、反応容器312内の空気が気液分離膜204を通って気泡排出部206に排出されるように構成することができる。気泡排出部206を負圧に保つことにより、反応容器312内で発生した気泡を除去することができる。
【0058】
反応容器312は、プローブを塗布するためのプローブ固定領域214を有している。プローブ固定領域214は、図5(B)に示すように多孔質膜205の表面に設けられていてもよい。多孔質膜205は三次元構造を有するため、反応容器312の内壁に比べてより多くのプローブを固定することができるので、反応効率、検出感度を向上させることができる。また、図6(A)に示すように、多孔質膜205の表面と反応容器312の内壁の対向する領域に設けられていてもよい。この場合、対向する領域には、同じ種類のプローブが配置されるようにプローブを塗布する。図6(A)に示す構成の場合には、反応容器312内のプローブの量が増え、プローブとターゲットとなる生体物質が接する面積も広くなるので、反応効率、検出感度が向上する。また、図6(B)に示すように、反応容器312の内壁にのみプローブ固定領域214が設けられている構成とすることもできる。
【0059】
また、図7(A)は、本発明の実施の形態2の他の例による検出カートリッジ(生体物質検出カートリッジ)40の分解斜視図、図7(B)は図7(A)のC−C断面を示す図である。
図に示すように、基板203には、検出カートリッジ30と同様に1つの反応容器312が形成されている。また、検出カートリッジ40は基板202を備えており、気液分離膜204と多孔質膜205は基板201と基板202の間に挟まれている。
【0060】
図7(B)に示すように、基板203、基板202、及び多孔質膜205を重ねて配置することによって、上面が多孔質膜205で覆われた反応容器312が形成される。また、多孔質膜205と基板203の間に基板202を挟むことにより、基板202に設けられた貫通孔210に対応する領域の多孔質膜205のみが反応容器312内に露出されるので、この領域にプローブ固定領域214を形成することができる。さらに、多孔質膜205の上に気液分離膜204、基板201を重ねることによって、反応容器312内の空気が気液分離膜204を通って気泡排出部206に排出されるように構成することができる。気泡排出部206を負圧に保つことにより、反応容器312内で発生した気泡を除去することができる。
【0061】
なお、反応容器312のプローブ固定領域214は、図7(B)に示すように多孔質膜205の表面のみに設けられていてもよいし、図8に示すように、多孔質膜205の表面と反応容器312の内壁の対向する領域に設けられていてもよい。この場合、対向する領域には、同じ種類のプローブが配置されるようにプローブを塗布する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態1による核酸検出装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図2(A)は、本発明の実施の形態1による検出カートリッジの分解斜視図、図2(B)は図2(A)のC−C断面を示す図である。
【図3】チャンバー内のプローブ固定領域の形成パターンを示す図である。
【図4】図4(A)は化学発光物質を用いた検出方法の原理を説明する図、図4(B)は蛍光標識剤を用いた検出方法の原理を説明する図である。
【図5】図5(A)は、本発明の実施の形態2による検出カートリッジの分解斜視図、図5(B)は図5(A)のC−C断面を示す図である。
【図6】チャンバー内のプローブ固定領域の形成パターンを示す図である。
【図7】図7(A)は、本発明の実施の形態2の他の例による検出カートリッジの分解斜視図、図7(B)は図7(A)のC−C断面を示す図である。
【図8】チャンバー内のプローブ固定領域の形成パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0063】
10 核酸検出装置、101 ステージ、102 検出用窓、103 ポンプ、104 ポンプ、105 試料容器、106 CCDカメラ、20,30,40 検出カートリッジ、201,202,203 基板、204 気液分離膜、205 多孔質膜、206 気泡排出部、207 排出口、208,209 液体導入口、210 貫通孔、211 膜配置用凹部、212 チャンバー、213 流路、214 プローブ固定領域、312 反応容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液に含まれる特定の生体物質を検出するためのプローブを固定する領域を有し、前記生体物質と前記プローブを反応させるための反応容器と、
前記反応容器内に面した多孔質膜と、
前記多孔質膜に重層された気液分離膜と、
前記気液分離膜の前記多孔質膜と接する面とは反対の面上に設けられ、前記生体物質と前記プローブとの反応中に、内部を負圧に保つことが可能な気泡排出部と、を備えた生体物質検出カートリッジ。
【請求項2】
前記反応容器は、
前記プローブを固定する領域を各々有し、前記生体物質と前記プローブを反応させるための複数のチャンバーと、
前記複数のチャンバー間に設けられた流路と、を備え、
前記流路は、前記試料溶液が移動する方向に垂直な断面の面積が前記チャンバーの断面積よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の生体物質検出カートリッジ。
【請求項3】
前記プローブを固定する領域が、前記反応容器の内壁に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の生体物質検出カートリッジ。
【請求項4】
前記プローブを固定する領域が、前記多孔質膜上に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の生体物質検出カートリッジ。
【請求項5】
前記反応容器と前記多孔質膜の間に、前記プローブを固定する領域に対応した貫通孔を有する基板を備えていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の生体物質検出カートリッジ。
【請求項6】
前記反応容器は、透明基板で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の生体物質検出カートリッジ。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の生体物質検出カートリッジを用いて生体物質検出を行う生体物質検出装置であって、
前記生体物質と前記プローブとの反応中に、前記気泡排出部を負圧に保つための第1のポンプを備えている生体物質検出装置。
【請求項8】
前記反応容器内で前記試料溶液を往復移動させるための第2のポンプを備えていることを特徴とする請求項7に記載の生体物質検出装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の生体物質検出装置を用いた生体物質検出方法であって、
前記反応容器内に試料溶液を供給し、前記試料溶液に含まれる特定の生体物質と、前記反応容器内に固定され、前記生体物質を検出するためのプローブとを反応させる反応工程と、
前記プローブと反応した前記生体物質を検出する検出工程と、を備え、
前記反応工程では、前記気泡排出部を負圧に保つことにより、前記気液分離膜を通して前記反応容器内の気泡を外部へ排出することを特徴とする生体物質検出方法。
【請求項10】
前記検出工程では、化学発光物質を用いた方法により、前記プローブと反応した前記生体物質の検出を行うことを特徴とする請求項9に記載の生体物質検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−150756(P2009−150756A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328434(P2007−328434)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】