説明

生体用超弾性チタン合金

【課題】優れた超弾性特性を具備すると共に、冷間加工性にも優れ生産性の良いNiを含まない超弾性チタン合金を提供する。
【解決手段】チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、更にZrを1〜20mol%、Moを1〜6mol%含有し、Ta、Nb、Zr及びMoの総量が60mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超弾性チタン合金に関する。特に、医療用機器などに最適な生体用超弾性チタン合金に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超弾性特性を備えた合金材料が医療分野で用いられてきている。
例えば、Ti−Ni系合金は強度、耐磨耗性、耐食性に優れ、生体とのなじみが良いなどの特徴を有し、生体用材料として多種多様の医療機器に利用されている。
しかし、Ti−Ni系合金を用いた生体用材料では含有されているNiがアレルギー症状を引き起こす恐れがあることから、生体に対して毒性やアレルギーを起す恐れのある元素を含まず、より安全な生体用材料として、Niを含まない生体用Ti−Nb−Sn形状記憶合金(特許文献1参照)や生体用超弾性Ti−Mo−X(X:Ga、Al、Ge)合金(特許文献2参照)などが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−329325号公報
【特許文献2】特開2003−293058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2で提案されるNiを含まないチタン合金の登場により、生体内や素肌に直接触れるような利用分野において、超弾性特性や形状記憶特性を有効に活用できる製品の開発が促される。
しかしながら、医療用ガイドワイヤ、歯列矯正用ワイヤ、ステントなどの各種多様な医療機器部材や眼鏡フレーム、眼鏡ノーズパッドなどの素肌と直接に接する生活品部材としてNiを含まない前記チタン合金を利用するには、冷間加工性や超弾性特性の面で満足すべきものではなく、より高性能な材料の開発が望まれている。
そこで、本発明では優れた超弾性特性を具備すると共に、冷間加工性にも優れ生産性の良いNiを含まない超弾性チタン合金を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、更にZrを1〜20mol%、Moを1〜6mol%含有し、Ta、Nb、Zr及びMoの総量が60mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0006】
請求項2記載の発明は、チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、更にZrを1〜10mol%、Moを1〜4mol%含有し、Ta、Nb、Zr及びMoの総量が50mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0007】
請求項3記載の発明は、チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZrを1〜20mol%、Moを1〜6mol%含有し、Al、Ge、Ga、In、SnからなるA群より1種または2種以上を合計で1〜10mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、MoおよびA群の総量が60mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0008】
請求項4記載の発明は、チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZrを1〜10mol%、Moを1〜4mol%含有し、Al、Ge、Ga、In、SnからなるA群より1種または2種以上を合計で1〜6mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、MoおよびA群の総量が50mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0009】
請求項5記載の発明は、チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZr、Moの1種または2種を、Zrが1〜20mol%、Moが1〜6mol%の範囲内において合計で1〜26mol%含有し、Al、Ge、Ga、In、Sn、Au、Ag、Pt、PdからなるB群より1種または2種以上を合計で1〜10mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、MoおよびB群の総量が60mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0010】
請求項6記載の発明は、チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZr、Moの1種または2種を、Zrが1〜10mol%、Moが1〜4mol%の範囲内において合計で1〜14mol%含有し、Al、Ge、Ga、In、Sn、Au、Ag、Pt、PdからなるB群より1種または2種以上を合計で1〜6mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、MoおよびB群の総量が50mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0011】
請求項7記載の発明は、チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZr、Moの1種または2種を、Zrが1〜20mol%、Moが1〜6mol%の範囲内において合計で1〜26mol%含有し、C、B、O、N、H、SiからなるC群を合計で0.01〜1.0mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、MoおよびC群の総量が60mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0012】
請求項8記載の発明は、チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZr、Moの1種または2種を、Zrが1〜20mol%、Moが1〜6mol%の範囲内において合計で1〜26mol%含有し、Al、Ge、Ga、In、Sn、Au、Ag、Pt、PdからなるB群より1種または2種以上を合計で1〜10mol%含有し、C、B、O、N、H、SiからなるC群を合計で0.01〜1.0mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、Mo、B群およびC群の総量が60mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0013】
請求項9記載の発明は、チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZr、Moの1種または2種を、Zrが1〜10mol%、Moが1〜4mol%の範囲内において合計で1〜14mol%含有し、Al、Ge、Ga、In、Sn、Au、Ag、Pt、PdからなるB群より1種または2種以上を合計で1〜6mol%含有し、C、B、O、N、H、SiからなるC群を合計で0.01〜0.5mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、Mo、B群およびC群の総量が50mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0014】
請求項10記載の発明は、請求項1乃至請求項9記載のいずれかの生体用超弾性チタン合金を用いた医療用ガイドワイヤである。
【0015】
請求項11記載の発明は、請求項1乃至請求項9記載のいずれかの生体用超弾性チタン合金を用いた歯列矯正ワイヤである。
【0016】
請求項12記載の発明は、請求項1乃至請求項9記載のいずれかの生体用超弾性チタン合金を用いたステントである。
【0017】
請求項13記載の発明は、請求項1乃至請求項9記載のいずれかの生体用超弾性チタン合金を用いた眼鏡部材である。
【0018】
請求項14記載の発明は、請求項1乃至請求項9記載のいずれかの生体用超弾性チタン合金を用いた内視鏡アクチュエーターである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、TiにNb、Taを単独若しくは双方を含有し、次いでZr、Moの両者若しくは単独で含むチタン合金であって、更に必要に応じてAl、Ge、Ga、In、Sn、Au、Ag、Pt、Pd、C、B、O、N、H、Siから選択される元素を適量含むチタン合金であって、良好な超弾性特性の発現と優れた冷間加工性を有するものである。更に本発明の成分は良好な生体適合性を示す元素であること、及びNiを含まないことからアレルギーの懸念が少なく、医療機器などの生体用及び眼鏡フレームなどの肌と接触する生活用品への使用に好適なもので、工業上顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
先ず、本発明に係る合金の成分であるTa、Nb、Zr、Moは、Tiに含有されることで、チタン合金を熱弾性型マルテンサイト変態を起こすチタン合金とし、且つβ相安定化元素として、β相からα相への変態温度を低温側に下げる働きもする。このことは、室温においてマルテンサイト変態における母相であるβ相が安定であるチタン合金が得られることを示している。
更に、TaはTiに固溶することにより、固溶強化の役割を担い、すべり変形に対する臨界応力を高めて、すべり変形を起こしにくくして、良好な超弾性を具現化し、Zr、Taは組成の変動に対する変態温度の変動が小さく、従って、変態温度の制御がしやすく、安定した製造に寄与する。
【0021】
ところで、Ta及びNbが、単独若しくは双方を含有する場合には、その含有量は、Nb量をx、Ta量をy(x、y共に、単位はmol%)とした場合に15mol%≦1.5x+y≦45mol%で表される範囲(図1に範囲を記載)におけるTa量及びNb量を含有するもので、前記範囲外では超弾性特性が発現しなくなるか、低下してしまうことから限定したものである。
【0022】
次に、Zr量を1〜20mol%と限定したのは、この範囲内では超弾性特性がより良好になるが、超えての含有は加工性を極度に低下せしめてしまうためである。特に、冷間加工性を重視する場合には、1〜10mol%が望ましい。
Mo量に関しても、その含有量を1〜6mol%としたのは、Zrの含有と同様に、この範囲内では超弾性特性がより良好になるが、超えての含有は加工性を極度に低下せしめてしまうためである。特に、冷間加工性を重視する場合には、1〜4mol%が望ましい。
【0023】
Al、Ge、Ga、In、SnからなるA群、若しくはAl、Ge、Ga、In、Sn、Au、Ag、Pt、PdからなるB群は、1種または2種以上を含有することにより、超弾性特性を安定して良好なものとするもので、Al、Ge、Ga、In、SnからなるA群は、特にα相安定化元素としての作用が大きく、α相析出物による析出硬化による超弾性特性の工場を図るもので、Inは冷間加工性を良くする働きもする。一方、Al、Ge、Ga、In、Sn、Au、Ag、Pt、PdからなるB群において、Au、Ag、Pt、Pdは熱処理時の共析反応からTiAu、TiAg、TiPt、TiPdなどをそれぞれ析出させることで、析出硬化による超弾性特性の向上を図り、更に共析反応による緻密化した組織を生成し、安定した超弾性特性を得ることができる。又、これらの元素は生体適合性が高く、X線造影効果も高い。
【0024】
Al、Ge、Ga、In、SnからなるA群、Al、Ge、Ga、In、Sn、Au、Ag、Pt、PdからなるB群の合計を1〜10mol%と限定したのは、この範囲内では超弾性特性がより良好になるが、超えての含有は加工性を極度に低下せしめてしまうためである。特に、冷間加工性を重視する場合には、1〜6mol%が望ましい。
【0025】
次に、チタン合金に含まれるC、B、O、N、H、Siは、チタン合金においては主に浸入型元素として働き、固溶硬化及び組織微細化により超弾性特性を向上させる働きを示すものである。
チタン合金に含まれるC、B、O、N、H、Siの合計を0.01〜1mol%と限定したのは、この範囲内では超弾性特性をより良好にせしめるが、超えて含む場合には冷間加工性や熱間加工性を大きく損なうためで、特に冷間加工性を重視する場合には0.01〜0.5mol%が望ましい。
【0026】
本発明に係るチタン合金は、生体用超弾性チタン合金として、良好な超弾性特性を有しつつ、アレルギーの発生が起き難く生体適合性が良いので、医療用ガイドワイヤ、歯列矯正用ワイヤ、ステント、内視鏡のアクチュエーターなどの生体用医療器具に使用でき、更に、眼鏡フレームや眼鏡のノーズパットアームなどのような素肌と接する用途にも利用できる。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
表1に示す合金組成のTi−Nb−Zr−Mo合金鋳塊を非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて作製した。この鋳塊に熱間加工を施し、次いで700℃、10分間保持の中間焼鈍及び冷間伸線加工を繰り返し行い、40%の仕上冷間加工率で仕上冷間伸線加工を行い、線径1.0mmの冷間加工材を得て供試材(冷間加工材)とした。供試材(冷間加工材)の一部は600℃、30分間の直線形状記憶熱処理を施して供試材(記憶材)として用いた。なお、40%の仕上冷間加工率で伸線できない線材については、20%の冷間加工率で仕上冷間伸線加工を行った。
この超弾性特性の評価は、供試材(記憶材)を用い、冷間加工性の評価には供試材(冷間加工材)を用い、その結果を表1に記した。
【0028】
超弾性特性の評価は、供試材(記憶材)をJIS H7103に基き、室温で4%の伸びを加えた後に除荷する引張試験を行い、その残留伸びを測定した。
【0029】
冷間加工性の評価は、供試材(冷間加工材)に700℃、10分保持の焼鈍を与えて、焼鈍材を作製し、この焼鈍材を破断して冷間伸線加工ができなくなるまで冷間伸線加工を続け、その最大加工率で評価した。最大加工率が40%以上の場合は冷間加工性が良好であるとして「○」で示し、最大加工率が20%を超えて40%未満の場合は冷間加工性がやや劣るとして「△」とし、それ以下の場合を「×」とした。
【0030】
【表1】

【0031】
表1からも明らかなように、本発明例No.1からNo.15では1.5%以下の小さい残留伸びを示す超弾性特性が得られ、特にZr量が10mol%以下、Mo量が4mol5以下と少ない本発明例No.1、2、4、5、7、8、13、14では冷間加工性にも優れていた。
対して、Zr量又はMo量の多い比較例No.204、No.203では冷間加工性が劣り、供試材を作製できなかった。Nb量の少ない比較例No.200、Nb量の多い比較例No.201、No.202では、いずれも良好な超弾性特性が得られず形状が回復しなかった。
図2に本発明例No.8、図3に比較例No.200の応力−伸び曲線を示す。
縦軸は引張応力(MPa)、横軸は伸び(%)を示し、本発明例No.7では0.9%の残留伸び、比較例No.200では1.8%の残留伸びがそれぞれの図2、図3中に矢印で示されている。
【0032】
(実施例2)
表2に示す合金組成のTi−Ta−Zr−Mo合金の供試材を実施例1と同じ方法により作製し、超弾性特性及び冷間加工性を同じく実施例1で示した評価方法で行い、その結果を表2に記した。
【0033】
【表2】

【0034】
表2からも明らかなように、本発明例No.16からNo.29では超弾性特性が良好で、冷間加工性も良好であった。特にZr量が10mol%以下、Mo量が4mol%以下の本発明例No.16、17、19、20、22、23、28、29では、冷間加工性に優れていた。
対して、Ta量の少ない比較例No.206では、大きな残留伸びを示し満足な超弾性特性が得られず形状回復しなかった。Ta量を多く含む比較例No.207、No.208、及びTa、Zr、Moの総量が60mol%を超える比較例No.205では超弾性特性、冷間加工性共に劣っている。Zr量又はMo量の多い比較例No.210、No.209では、冷間加工性が悪く、供試材を作製できなかった。
【0035】
(実施例3)
表3に示す合金組成のTi−Nb−Ta−Zr−Mo合金の供試材を実施例1と同じ方法により作製し、超弾性特性及び冷間加工性を同じく実施例1で示した評価方法で行い、その結果を表3に記した。
【0036】
【表3】

【0037】
表3からも明らかなように、本発明例No.30からNo.43では超弾性特性が良好で、冷間加工性も優れている。
対して、Nb量とTa量の合計が15mol%より少ない比較例No.211、その合計が45mol%より多い比較例No.212では、残留ひずみが大きくなっているのがわかる。Mo量やZr量が多すぎる比較例No.213、No.214では、冷間加工性が悪く試料が作製できず、超弾性特性の評価ができなかった。
【0038】
(実施例4)
表4に示す合金組成のTi−Nb−Zr−Al合金の供試材を実施例1と同じ方法により作製し、超弾性特性及び冷間加工性を同じく実施例1で示した評価方法で行い、その結果を表4に記した。
【0039】
【表4】

【0040】
表4からも明らかなように、本発明例のNo.44からNo.61では超弾性特性が良好で形状が回復した。
対して、Nb量が少なすぎる比較例No.215、Nb量が多すぎる比較例No.216、No.217では超弾性特性が大きく低下した。Al量、Zr量の多すぎる比較例No.218、No.219では、冷間加工性が悪く試料が作製できず、超弾性特性の評価ができなかった。
【0041】
(実施例5)
表5に示す合金組成のTi−Nb−Zr−Mo−Sn合金の供試材を実施例1と同じ方法により作製し、超弾性特性及び冷間加工性を同じく実施例1で示した評価方法で行い、その結果を表5に記した。
【0042】
【表5】

【0043】
表5からも明らかなように、本発明例のNo.62からNo.79では超弾性特性が良好で形状が回復した。
対して、Nb量が少なすぎる比較例No.221、Nb量が多すぎる比較例No.222、No.223では超弾性特性が大きく低下した。Sn量、Mo量、Zr量の多すぎる比較例No.220、No.224、No.225、No.226では、冷間加工性が悪く試料が作製できず、超弾性特性の評価ができなかった。
【0044】
(実施例6)
表6に示す合金組成のTi−Nb−Ta−Zr−Al合金の供試材を実施例1と同じ方法により作製し、超弾性特性及び冷間加工性を同じく実施例1で示した評価方法で行い、その結果を表6に記した。
【0045】
【表6】

【0046】
表6からも明らかなように、本発明例のNo.80からNo.94では超弾性特性が良好で形状が回復した。
対して、Nb量とTa量の合計が少なすぎる比較例No.227、Nb量とTa量が多すぎる比較例No.228では超弾性特性が大きく低下した。Al量、Zr量の多すぎる比較例No.229、No.230では、冷間加工性が悪く試料が作製できず、超弾性特性の評価ができなかった。
【0047】
(実施例7)
表7に示す合金組成のTi−Nb−Mo−Au合金の供試材を実施例1と同じ方法により作製し、超弾性特性及び冷間加工性を同じく実施例1で示した評価方法で行い、その結果を表7に記した。
【0048】
【表7】

【0049】
表7からも明らかなように、本発明例のNo.95からNo.112では超弾性特性が良好で形状が回復した。
対して、Nb量が少なすぎる比較例No.231、Nb量が多すぎる比較例No.232では超弾性特性が大きく低下した。Au量、Mo量の多すぎる比較例No.233、No.234では、冷間加工性が悪く試料が作製できず、超弾性特性の評価ができなかった。
【0050】
(実施例8)
表8に示す合金組成のTi−Nb−Mo−Al−Au合金の供試材を実施例1と同じ方法により作製し、超弾性特性及び冷間加工性を同じく実施例1で示した評価方法で行い、その結果を表8に記した。
【0051】
【表8】

【0052】
表8からも明らかなように、本発明例のNo.113からNo.134では超弾性特性が良好で形状が回復した。
対して、Nb量が少なすぎる比較例No.235、Nb量が多すぎる比較例No.236では超弾性特性が大きく低下した。Au量、Al量、Mo量の多すぎる比較例No.237、No.239、No.240、及びAl量とAu量の合計が多い比較例No.238では、冷間加工性が悪く試料が作製できず、超弾性特性の評価ができなかった。
【0053】
(実施例9)
表9に示す合金組成のTi−Nb−Mo−C合金の供試材を実施例1と同じ方法により作製し、超弾性特性及び冷間加工性を同じく実施例1で示した評価方法で行い、その結果を表9に記した。
【0054】
【表9】

【0055】
表9からも明らかなように、本発明例のNo.135からNo.155では超弾性特性が良好で形状が回復した。
対して、Nb量が少なすぎる比較例No.241、Nb量が多すぎる比較例No.242では超弾性特性が大きく低下した。Mo量の多すぎる比較例No.244やC量の多すぎる比較例No.243では、冷間加工性が悪く試料が作製できず、超弾性特性の評価ができなかった。
【0056】
(実施例10)
表10に示す合金組成のTi−Nb−Mo−Al−B合金の供試材を実施例1と同じ方法により作製し、超弾性特性及び冷間加工性を同じく実施例1で示した評価方法で行い、その結果を表10に記した。
【0057】
【表10】

【0058】
表10からも明らかなように、本発明例のNo.156からNo.177では超弾性特性が良好で形状が回復した。
対して、Nb量が少なすぎる比較例No.245、Nb量が多すぎる比較例No.246では超弾性特性が大きく低下した。Al量、Mo量の多すぎる比較例No.248、No.249及びB量の多い比較例No.247では、冷間加工性が悪く試料が作製できず、超弾性特性の評価ができなかった。
【0059】
(実施例11)
非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて作製したTi−15mol%Nb−2mol%Zr−3mol%Mo合金鋳塊に熱間加工を施し、次いで700℃、10分間保持の中間焼鈍及び冷間伸線加工を繰り返し行い、40%の仕上冷間加工率で仕上冷間伸線加工して線径0.5mmの冷間加工材を得た。この冷間加工材に600℃、30分間の直線形状記憶熱処理を施し、医療用ガイドワイヤ線材、歯列矯正ワイヤ線材、直線アクチュエーター線材を作製し、実施例1で用いた方法で測定した超弾性特性を表11に記した。なお、医療用ガイドワイヤ用線材に関しては、図4の方法によりトルク伝達性を測定し、併せて表11に記した。
【0060】
トルク伝達性は、パイプ中の線材の一端に所定条件の捻りを付与した時の他端の追従角度で、具体的には図4に示す直径127mmのループ状にしたポリエチレンチューブ5(内径3mm、外径4mm)に通した供試材1の一端を90°ねじった時の他端の追従角度を測定して求めた。追従角度が85°以上の場合を「◎」、85°〜80°の場合を「○」、80°〜75°の場合を「△」とし、75°未満を「×」で評価した。
図4において、6aは駆動側ロータリーエンコーダー、6bは追従側ロータリーエンコーダー、7は駆動部を表す。
【0061】
(実施例12)
Ti−10mol%Nb−15.0mol%Ta−1.0mol%Zr−4.0mol%Mo合金を実施例11と同様の方法により直線形状記憶処理を施した線径2.0mmの眼鏡フレーム用線材を作製し、その超弾性特性を実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表11に併せて記した。
【0062】
【表11】

【0063】
表11から判るように、本発明に係るTi合金は、医療用ガイドワイヤ、歯列矯正ワイヤ、直線アクチュエーター、眼鏡フレーム、眼鏡ノーズパッドアームなどの優れた超弾性特性を要求する用途に使用するのに充分な超弾性特性並びに冷間加工性を備えている。
【0064】
(実施例13)
実施例11及び実施例12で作製した医療用ガイドワイヤ線材、歯列矯正ワイヤ線材、眼鏡フレーム用線材を用い、それぞれ医療用ガイドワイヤ及び歯列矯正ワイヤ、眼鏡フレームを作製して試験したところ、従来製品のものと遜色なく使用することができた。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】Ta量とNb量の関係を示す説明図である。
【図2】本発明例No.8合金の室温状態における応力−伸び曲線である。
【図3】比較例No.200合金の室温状態における応力−伸び曲線である。
【図4】トルク伝達性の測定方法の説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 供試材
2 ステンレス鋼製丸棒
5 ポリエチレンチューブ
6a 駆動側ロータリーエンゴーダー
6b 追従側ロータリーエンコーダー
7 駆動部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、更にZrを1〜20mol%、Moを1〜6mol%含有し、Ta、Nb、Zr及びMoの総量が60mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
【請求項2】
チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、更にZrを1〜10mol%、Moを1〜4mol%含有し、Ta、Nb、Zr及びMoの総量が50mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
【請求項3】
チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZrを1〜20mol%、Moを1〜6mol%含有し、Al、Ge、Ga、In、SnからなるA群より1種または2種以上を合計で1〜10mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、MoおよびA群の総量が60mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
【請求項4】
チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZrを1〜10mol%、Moを1〜4mol%含有し、Al、Ge、Ga、In、SnからなるA群より1種または2種以上を合計で1〜6mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、MoおよびA群の総量が50mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
【請求項5】
チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZr、Moの1種または2種を、Zrが1〜20mol%、Moが1〜6mol%の範囲内において合計で1〜26mol%含有し、Al、Ge、Ga、In、Sn、Au、Ag、Pt、PdからなるB群より1種または2種以上を合計で1〜10mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、MoおよびB群の総量が60mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
【請求項6】
チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZr、Moの1種または2種を、Zrが1〜10mol%、Moが1〜4mol%の範囲内において合計で1〜14mol%含有し、Al、Ge、Ga、In、Sn、Au、Ag、Pt、PdからなるB群より1種または2種以上を合計で1〜6mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、MoおよびB群の総量が50mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
【請求項7】
チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZr、Moの1種または2種を、Zrが1〜20mol%、Moが1〜6mol%の範囲内において合計で1〜26mol%含有し、C、B、O、N、H、SiからなるC群を合計で0.01〜1.0mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、MoおよびC群の総量が60mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
【請求項8】
チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZr、Moの1種または2種を、Zrが1〜20mol%、Moが1〜6mol%の範囲内において合計で1〜26mol%含有し、Al、Ge、Ga、In、Sn、Au、Ag、Pt、PdからなるB群より1種または2種以上を合計で1〜10mol%含有し、C、B、O、N、H、SiからなるC群を合計で0.01〜1.0mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、Mo、B群およびC群の総量が60mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
【請求項9】
チタンのβ相安定化元素であるTa、Nbの1種又は2種を、15mol%≦1.5x+y≦45mol%(xはNb含有量、yはTa含有量を表す)で示される範囲で含有し、次いでZr、Moの1種または2種を、Zrが1〜10mol%、Moが1〜4mol%の範囲内において合計で1〜14mol%含有し、Al、Ge、Ga、In、Sn、Au、Ag、Pt、PdからなるB群より1種または2種以上を合計で1〜6mol%含有し、C、B、O、N、H、SiからなるC群を合計で0.01〜0.5mol%含有し、更にTa、Nb、Zr、Mo、B群およびC群の総量が50mol%以下で、残部Tiと不可避不純物とからなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9記載のいずれかの生体用超弾性チタン合金を用いた医療用ガイドワイヤ。
【請求項11】
請求項1乃至請求項9記載のいずれかの生体用超弾性チタン合金を用いた歯列矯正ワイヤ。
【請求項12】
請求項1乃至請求項9記載のいずれかの生体用超弾性チタン合金を用いたステント。
【請求項13】
請求項1乃至請求項9記載のいずれかの生体用超弾性チタン合金を用いた眼鏡部材。
【請求項14】
請求項1乃至請求項9記載のいずれかの生体用超弾性チタン合金を用いた内視鏡アクチュエーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−89825(P2006−89825A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279094(P2004−279094)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000165996)株式会社古河テクノマテリアル (23)
【出願人】(597086058)
【出願人】(502121959)
【Fターム(参考)】