説明

生体細胞機能の評価方法、測定器、コンピュータ、コンピュータプログラム、記録媒体および携帯電話

【課題】
被験者における未病状態から病的状態を簡易に評価する生体細胞機能の評価方法を提供する。
【解決手段】
被験者の脈拍を測定し、前記脈拍と同時に前記被験者の体温を測定し、前記脈拍を前記体温で除した値を求め、前記値により前記被験者における未病状態から病的状態を評価することを特徴とする。被験者自身が、測定器を用いて前記脈拍及び前記体温を測定し、被験者の体内での虚血性変化である心筋梗塞および/または脳梗塞、被験者の体内での炎症反応である感染症および/または自己免疫疾患を検知し、被験者にアラーム情報を伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者における未病状態から病的状態を簡易に評価する生体細胞機能の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間を初めとする生物は一個の細胞をスタートとして、細胞数を増やして組織となり、さらに生命ある個体として成長していく。生体活動の基本である細胞では、外部から供給される栄養素(炭水化物、脂質、蛋白質、ビタミン、ミネラルなど)を利用して様々な生化学反応を行っている。
炭水化物やタンパク質などは高分子化合物であり、これを分解(消化)して吸収するためには独自の酵素タンパク質が必要である。この酵素タンパク質には鉄、マグネシウムなどのミネラルが必要な場合があり、さらに補助的な役割としてビタミンを必要とすることが多い。
【0003】
炭水化物はアミラーゼなどによって分解されてブドウ糖になる。このブドウ糖は細胞内基質やミトコンドリアで、ブドウ糖から最終的にエネルギー蓄積化合物であるATPに変換される。このATPは様々な細胞活動に利用されるが、一部はタンパク質からアミノ酸までの分解と、アミノ酸を人間の体に合ったタンパク質合成のためのエネルギー源となる。新しく合成されるタンパク質は酵素、細胞構成要素、筋肉、皮膚、骨などに利用される。
【0004】
また、脂質は細胞膜を構成するために利用される。脂質二重膜によって細胞の内外が仕切られ、閉鎖空間としての細胞が構築される。その脂質二重膜の間にタンパク質が組み込まれ、物質輸送や情報伝達という細胞膜の機能が高まる。
細胞を基本として生命活動が営まれ、組織、生体という統合体は日々活動を行うことになる。体外から取り入れた物質を基にして、各臓器の細胞で種々の栄養素を代謝処理する過程で代謝産物が血液中に増える。代謝産物は肝臓などの臓器で処理され、老廃物として肝臓や腎臓で排泄される。
【0005】
生体組織の活動が正常に行われている時には、血液中の代謝産物の濃度は基準範囲内にある。さらに、細胞の老化に伴って、細胞の再構築の際に壊された古い細胞からの細胞質内の酵素などは、常に一定量血液中に放出される。これら血液中の化学物質の濃度や酵素タンパク質の酵素活性などを測定することによって、生体活動の状態の把握ができる。生体の細胞は生命を維持するために、恒常性という自動調節機能が働いていて、各生化学物質の濃度や酵素活性などは、一定の基準範囲に調節されている。
【0006】
医療現場で行われる血液検査などは、このような生化学反応の変化を検知するために行われている。さらに、臓器レベルの変化が起こってきた場合は心電図、レントゲン写真、CT、MRIさらにはPETなどを利用して、生体内の変化を捉えようとしている。種々の検査を組み合わせることによって、生体に生じた異常事態の状況把握、さらに原因までを追究して治療につなげる取り組みが行われる。現代医学はこのような方法論を基に発展してきた。
【0007】
しかし、これらの検査などを実施できる場所は、場合によっては、在宅往診で行えることもあるが、基本的には医療施設内に限られることが大半である。
現在、日本国内では様々な医療制度に矛盾が生じ、医療崩壊が深刻になっている。医師数不足で病院閉鎖が確実に増加している。医療費が高騰する一方で、経済不況に伴って医療機関を受診できない人々も増加している。今後、高齢化社会が広がっていく過程で、医療現場の崩壊は医療の質の低下を招く危険を孕んでいる。
【0008】
また、以前から成人病、生活習慣病と名づけて予防を呼びかけて来た高血圧、糖尿病、高脂血症などは、今なお増加を続けている。昨年からはメタボリック症候群というキャッチフレーズで国民の意識変革を狙っている。この間、10年以上は経過しているが、未だに脳梗塞、心筋梗塞の発症は減るどころか増加している。
脳梗塞、心筋梗塞は発症してから、救急病院を始めとするある程度の規模の病院を受診することが基本となっている。この段階では、それまでの医療費に比べ、短期間で高額の医療費が発生することが少なくない。このような状況を回避しようと、事前に健康診断などが実施されているが、急性期の変化に対応できる取り組みにはなっていない。
【0009】
この状況の中で、何らかの重症の急性期状態になる少し前に、できる限り簡単な方法で異常の前兆を察知できる方法を確立することが必要である。
そこで、従来、耳の中に測定器を挿入し、耳穴の皮膚に波長の異なる光を照射して得られる光を検出、情報処理して脈拍、体温、呼吸数等の生体信号を測定する装置及び方法が特許文献1で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−329928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記の特許文献1の従来例は、被験者における未病状態から病的状態を簡易に評価するものではなかった。
そこで、本発明は、被験者における未病状態から病的状態を簡易に評価する生体細胞機能の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の生体細胞機能の評価方法は、被験者の脈拍を測定し、前記脈拍と同時に前記被験者の体温を測定し、前記脈拍を前記体温で除した値を求め、前記値により前記被験者における未病状態から病的状態を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被験者における未病状態から病的状態を簡易に評価する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態における被験者の脈拍の経時的変化図である。
【図2】本発明の実施形態における被験者の体温の経時的変化図である。
【図3】本発明の実施形態における被験者の脈拍を体温で除した値の経時的変化図である。
【図4】本発明の実施形態における被験者の脈拍を体温で除した値と体温の相関図である。
【図5】本発明の実施形態の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
医療機関での検査を行う前の、被験者自身による検査ということでは、特別な検査機器、検査技術を利用せずに生体から情報を取り出す必要がある。医療機関を受診せずに生体情報を得る方法では、血圧などのバイタルサインが、この生体情報に該当し、バイタルサインは生体情報の中でも、生命兆候という基本的な情報を提供する。
【0016】
人間が日々、活動を行う時、生体は脳神経から最初の生体情報を全身に発信し、その情報を受け取りながら各臓器が独自の働きをしている。例えば、脳神経からの情報は心臓に送られ、心臓の拍動となって血流を生み出している。心臓の拍動にともなうバイタルサインは「心拍数」であり、さらに末梢では動脈の拍動として「脈拍」となる。さらに、この心臓からの血流は動脈壁への圧力を生じ、「血圧」という形で測定される。
【0017】
また、細胞の生命活動に必要な酸素を取り込む活動は呼吸によって行われる。この呼吸の最初の臓器は肺であり、肺に関係するバイタルサインは「呼吸数」である。
血流にのって各臓器、細胞に運ばれるブドウ糖をはじめとする栄養素は、肺から血流に乗って臓器、細胞に運ばれる酸素を利用して燃焼(代謝)されてエネルギーATPを生み出す。
この時のATPは細胞の生命活動のエネルギー源として利用され、一部は熱として生体外へ放出される。この熱が「体温」となって検知されている。
【0018】
以上の「心拍数」、もしくは「脈拍」、「血圧」、「呼吸数」、「体温」は基本的なバイタルサインとして、日常の診療の際に測定されている。これらのバイタルサインの測定は被験者に大きな負担が掛からず、現在では簡易測定器でも十分に正確な情報が得られる。この簡易測定器は、電子式血圧計、電子式体温計などとして市販もされている。これらを利用すれば、医療機関以外で各自のバイタルサインを測定することができる。また、測定毎に紙媒体やパソコンなどに記録していけば、経時的な変化を残すことができる。
【0019】
ただし、これまでのバイタルサインの測定値そのままの評価では、重大な病気の前兆をとらえることは難しい。言い換えれば、バイタルサインのデータそのままの生データでは、その情報内容に制限がある。そこで、従来から測定されて来たバイタルサインの一部を利用して、新しい評価項目を作った。
この新しい評価項目は、被験者の脈拍(Pulse rate)を同時に測定された体温(Body Temperature)で除した値である。脈拍は心臓の拍動である心拍数と同じものであり、自律神経によって支配されている。
【0020】
自律神経には交感神経、副交感神経があり、この二つの神経によって緊張と弛緩がコントロールされている。しかし、心拍数(脈拍)は自律神経の上位中枢である視床下部、扁桃体にも影響されている。特に扁桃体は種々の感情をキャッチする中枢であり、感情などの変化によって心拍数(脈拍)が変化する切掛けとなっている。さらに、この扁桃体は生体内で発生する乳酸に敏感に反応することも明らかになっている。
細胞内の細胞基質において、乳酸は解糖系でブドウ糖からピルビン酸を経て合成される。乳酸は十分な酸素が存在しない時に、ピルビン酸から合成される。生体内で酸素が不足する場合とは、激しい生理的運動時以外に炎症反応が起こる時などである。
【0021】
生体内で正常な状態でも恒常性の維持のために、各種の化学反応がダイナミックに行われ、乳酸生成は変動している。そのため、正常な生理的状態でも乳酸値の変動に応じて、心拍数(脈拍)も変動している。しかし、組織、細胞が正常な恒常性を維持している時は、心拍数(脈拍)はある基準範囲の変動となる。
乳酸値が増加する炎症反応の場合、結果的に心拍数(脈拍)は基準値を超えて増加する可能性がある。この時の炎症反応には大きく二通りの反応がある。
第1の反応は、感染症、自己免疫疾患などのような体温上昇を伴う炎症反応で、発熱を伴うことが多い。
第2の反応は、感染症以外の炎症反応で、心筋梗塞、脳梗塞などの細胞の虚血性変化が生じる場合である。
【0022】
上記第1の反応と第2の反応の心拍数(脈拍)の変化を区別するために、心拍数(脈拍)変化とその反応に伴う発熱の有無を確認する。
そこで、本発明の実施形態においては、被験者の脈拍を測定する。さらに、この脈拍と同時に被験者の体温を測定する。次に、新しい指標として脈拍を体温で除した値を求め、この値により記被験者における未病状態から病的状態を評価する。
【0023】
さらに、本発明の実施形態は、図3、図4に示されるように脈拍を体温で除した値が基準範囲を逸脱した外れ値10と、徐々に変化を起こしている状況をとらえる変化点11と、外れ値10から変化点11の検出へと時系列が変化する時、繰り返す危険度を積算する積算危険度と、により被験者における未病状態から病的状態を評価する。
【0024】
臨床における脈拍変化、体温変化、さらに脈拍を体温で除した値の変化を経時的にプロットしたものを図1、2、3に示す。
さらに、体温と脈拍を体温で除した値の相関図を図4に示す。37℃以上のでは体温上昇と共に脈拍を体温で除した値も増加し、図4(37℃以上)は感染症、自己免疫疾患などのような体温上昇を伴う第1の反応である炎症反応を示す。
一方、第2の反応は、図4(37℃以下)で体温が大きく上昇せずに、脈拍を体温で除した値が増加する。大きな体温上昇を伴わずに乳酸値が増加する場合、多くは細胞における酸素不足、すなわち、心筋梗塞、脳梗塞などの虚血性変化が生じている。
以上の第1の反応あるいは第2の反応を検知した時に、第1の反応と第2の反応を体温変化で区別し、被験者に生体情報としてのアラーム情報を伝達し、虚血性疾患の発病を予知する。
【0025】
本発明の実施形態の生体細胞機能の評価方法おける装置の全体構成図を図5に示す。
測定器1aは、被験者1の脈拍を測定し、脈拍と同時に被験者1の体温を測定する装置である。携帯電話3は、測定器1aにより測定された脈拍及び体温をコンピュータ4へ送信する。コンピュータ4は、脈拍を体温で除した値を求め、前記値により被験者1における未病状態から病的状態を評価する。コンピュータプログラム4aは、コンピュータ4のハードディスクである記録媒体4bに記録され、コンピュータ4の動作を制御する。コンピュータプログラムが記録される記録媒体は、CD−ROM等のあらゆる記録媒体を含み、ドライブ4cにCD−ROMが挿入され、さらに、コンピュータプログラム4aが、ハードディスクである記録媒体4bにインストールされて記録される。
【0026】
また、図5に示されるように被験者1自身が、測定器1aを用いて脈拍及び体温を測定する。被験者1の体内での虚血性変化である心筋梗塞および/または脳梗塞を検知する。被験者1の体内での炎症反応である感染症および/または自己免疫疾患を検知する場合もある。虚血性変化および/または炎症反応を検知した時に図5に示されるように被験者1にアラーム情報5を伝達する。
【0027】
被験者1のバイタルサイン情報である脈拍および体温2を、被験者1自身が測定器1aにより測定し、携帯電話3を通じて定期的にサンプリングして、医療機関または検査機関のコンピュータ4に時系列データとして蓄積する。経時的に脈拍と体温がコンピュータ4に送られてくる度に、脈拍を体温で除した値を計算して時系列データに追加する。その過程で脈拍を体温で除した値が恒常的な基準範囲を逸脱して図3に示される外れ値10となった時に、何らかの異常がキャッチされるようにする。但し、その際に図4に示されるように体温上昇を伴うか、伴わないかの区別をしなければならない。外れ値10は被験者1にアラーム情報5として伝達される。
【0028】
さらに、外れ値10のような突発的な変化ではなく、徐々に変化を起こしている状況を適当な段階から変化点11として検出してアラームを鳴らす。最初に外れ値10で異常が検出されるが、その外れ値10がそれほど大きな変化でなければ、つい軽視してしまう恐れがある。このような穏やかな変化の検出に変化点11が重要となる。この変化点11もアラーム情報5として被験者1に伝達される。
何度か断続的な外れ値10の変化を示しながら、次第に連続的な変化を示すようになる場合は変化点11の検出によって異常を検知することができる。
【0029】
さらに、外れ値10から変化点11の検出へと時系列が変化する時、繰り返す危険度を積算しながら積算危険度のような評価値をアラーム情報5として被験者1に伝達する。
またこれらデータは定期的に、被験者1に要注意点を追加してレポート6として伝達される。
【符号の説明】
【0030】
1 被験者 1a 測定器
2 脈拍・体温 3 携帯電話
4 コンピュータ 4a コンピュータプログラム
4b 記録媒体 4c ドライブ
5 アラーム情報 6 レポート
10 外れ値 11 変化点


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の脈拍を測定し、
前記脈拍と同時に前記被験者の体温を測定し、
前記脈拍を前記体温で除した値を求め、
前記値により前記被験者における未病状態から病的状態を評価することを特徴とする生体細胞機能の評価方法。
【請求項2】
前記値が基準範囲を逸脱した外れ値と、
徐々に変化を起こしている状況をとらえる変化点と、
前記外れ値から前記変化点の検出へと時系列が変化する時、繰り返す危険度を積算する積算危険度と、により前記被験者における未病状態から病的状態を評価することを特徴とする請求項1に記載の生体細胞機能の評価方法。
【請求項3】
前記被験者自身が、測定器を用いて前記脈拍及び前記体温を測定することを特徴とする請求項1または2に記載の生体細胞機能の評価方法。
【請求項4】
前記被験者の体内での虚血性変化である心筋梗塞および/または脳梗塞を検知することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の生体細胞機能の評価方法。
【請求項5】
前記被験者の体内での炎症反応である感染症および/または自己免疫疾患を検知することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の生体細胞機能の評価方法。
【請求項6】
前記虚血性変化および/または炎症反応を検知した時に前記被験者にアラーム情報を伝達することを特徴とする請求項4または5に記載の生体細胞機能の評価方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の生体細胞機能の評価方法において、
前記被験者の前記脈拍を測定し、前記脈拍と同時に前記被験者の体温を測定することを特徴とする測定器。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の生体細胞機能の評価方法において、
前記脈拍を前記体温で除した値を求め、前記値により前記被験者における未病状態から病的状態を評価することを特徴とするコンピュータ。
【請求項9】
請求項8記載のコンピュータの動作を制御することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項10】
請求項9記載のコンピュータプログラムを記録することを特徴とする記録媒体。
【請求項11】
請求項7記載の測定器により測定された前記脈拍及び前記体温を請求項8記載のコンピュータへ送信することを特徴とする携帯電話。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−36416(P2011−36416A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186569(P2009−186569)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(500551459)
【Fターム(参考)】