説明

生体組織処理装置

【課題】エラーの発生により処理が停止した場合に、エラー復旧時の状態に応じて中断された処理を継続して行うことができる生体組織処理装置を提供する。
【解決手段】脂肪組織を細胞処理して細胞懸濁液を生成する処理容器と、細胞処理における異常を検知するセンサモジュール11と、センサモジュール11により異常が検知された場合に細胞処理を停止させる異常停止部16と、脂肪組織の状態に応じて、異常停止部16により停止された細胞処理の工程上の再開位置を設定する再開位置設定部17と、異常が解消された場合に、異常停止部16により停止された細胞処理を、再開位置設定部17により設定された再開位置から再開させる処理再開部18とを備える生体組織処理装置を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトから採取された脂肪組織を消化酵素液とともに容器内で攪拌し、脂肪組織から脂肪由来細胞を単離させる生体組織処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この生体組織処理装置は、ユーザが処理に必要なパラメータを設定することができるインターフェースを備えることが開示されている。また、この生体組織処理装置においてエラーが発生した場合には、ユーザに前述のインターフェースを通じて警告することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、生体組織から細胞を抽出する生体組織処理装置において、エラーの発生により処理が停止した場合には、採取した生体組織を無駄にしないため、中断された処理を継続して行うことが望ましい。特に、脂肪細胞は血液に比べて、採取に患者の負担が大きいため、エラー復旧時の状態に応じて処理を継続することが重要である。しかしながら、前述の特許文献1には、エラー発生時の動作は開示されていない。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、エラーの発生により処理が停止した場合に、エラー復旧時の状態に応じて中断された処理を継続して行うことができる生体組織処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、生体組織を細胞処理して細胞懸濁液を生成する処理容器と、前記細胞処理における異常を検知する異常検知手段と、該異常検知手段により異常が検知された場合に前記細胞処理を停止させる異常停止手段と、前記生体組織の状態に応じて、前記異常停止手段により停止された前記細胞処理の工程上の再開位置を設定する再開位置設定手段と、
前記異常が解消された場合に、前記異常停止手段により停止された前記細胞処理を、前記再開位置設定手段により設定された再開位置から再開させる処理再開手段とを備える生体組織処理装置を採用する。
【0008】
本発明によれば、処理容器内で行われる細胞処理において、異常が発生した場合には、異常検知手段により異常が検知され、異常停止手段により細胞処理が停止される。一方、再開位置設定手段により、生体組織の状態に応じて、異常停止手段により停止された細胞処理の工程上の再開位置が設定される。そして、異常が解消された場合に、処理再開手段により、再開位置設定手段により設定された再開位置から停止された細胞処理が再開される。
【0009】
このようにすることで、異常の発生により細胞処理が停止した場合に、停止された細胞処理を、異常復旧時の生体組織の状態に応じて再開させることができ、採取した生体組織を無駄にすることなく、生体組織の細胞処理を継続して細胞懸濁液を生成することができる。
【0010】
上記発明において、前記細胞処理の運転パラメータを入力する入力手段と、該入力手段に入力された運転パラメータを記憶する記憶手段と、前記処理再開手段により前記細胞処理が再開される際に、前記記憶手段に記憶された運転パラメータを読み出す読出手段とを備え、前記処理再開手段が、前記読出部により読み出された運転パラメータを用いて前記細胞処理を再開させることとしてもよい。
【0011】
このようにすることで、異常停止手段により細胞処理が停止された場合において、処理再開手段により細胞処理が再開される際に、入力手段に入力されて記憶手段に記憶された運転パラメータが読出手段により読み出され、その運転パラメータに基づいて細胞処理を継続して行うことができる。これにより、異常の発生により細胞処理が停止した場合に、中断された細胞処理を適切な運転条件で再開させることができ、採取した生体組織を無駄にすることなく、生体組織の細胞処理を継続して細胞懸濁液を生成することができる。
【0012】
上記発明において、前記記憶手段が、前記異常停止手段により前記細胞処理が停止された時点における前記細胞処理の履歴情報を記憶することとしてもよい。
このようにすることで、異常停止手段により細胞処理が停止された場合において、処理再開手段により細胞処理が再開される際に、細胞処理が停止された時点における細胞処理の履歴情報に基づいて細胞処理を継続して行うことができる。これにより、異常の発生により細胞処理が停止した場合に、中断された細胞処理を停止前の状態から継続して再開させることができ、採取した生体組織を無駄にすることなく、生体組織の細胞処理を継続して細胞懸濁液を生成することができる。
【0013】
上記発明において、前記異常停止手段により前記細胞処理が停止された時点における、前記生体組織の状態を表示する表示手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、細胞処理が停止された時点における、生体組織の状態を表示手段で確認した上で処理を再開させることができ、より適切な条件で中断された細胞処理を再開させることができる。
【0014】
上記発明において、前記生体組織から最終生成物である細胞を抽出するまでの一連の処理のうち、各処理の完了と未完了のステータスを表示する表示手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、各処理の完了と未完了のステータスを表示手段で確認した上で処理を再開させることができ、より適切な条件で中断された細胞処理を再開させることができる。
【0015】
上記発明において、前記再開位置設定手段が、前記異常停止手段により前記細胞処理が停止されてから再開するまでの経過時間に応じて、前記細胞処理の工程上の再開位置を設定することとしてもよい。
消化容器内においては、異常停止手段により細胞処理が停止されている間にも、消化酵素液による生体組織の消化は継続して進んでいく。したがって、異常停止手段により細胞処理が停止されてから再開するまでの経過時間に応じて、細胞処理の工程上の再開位置を決定する(すなわち、細胞処理の時間を変化させる)ことで、消化酵素による細胞へのダメージを低減することができる。
【0016】
上記発明において、前記再開位置設定手段が、前記異常停止手段により前記細胞処理が停止された時点における前記細胞処理の処理時間に応じて、前記細胞処理の工程上の再開位置を設定することとしてもよい。
異常停止手段により細胞処理が停止された時点における細胞処理の処理時間に応じて、細胞処理の工程上の再開位置を設定する(すなわち、細胞処理の時間を変化させる)ことで、消化酵素による細胞へのダメージを低減することができる。
【0017】
上記発明において、前記再開位置設定手段が、前記処理容器内の温度に応じて、前記細胞処理の工程上の再開位置を設定することとしてもよい。
消化容器内の温度によって消化酵素の働きは変化するため、細胞処理が進む速度は異なる。したがって、消化容器内の温度に応じて、細胞処理の工程上の再開位置を設定する(すなわち、細胞処理の時間を変化させる)ことで、消化酵素による細胞へのダメージを低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エラーの発生により処理が停止した場合に、エラー復旧時の状態に応じて中断された処理を継続して行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織処理装置の全体構成図である。
【図2】図1の生体組織処理装置の制御ブロック図である。
【図3】図1の生体組織処理装置により実行される処理を示すフローチャートである。
【図4】図1の生体組織処理装置の画面例(処理設定画面)である。
【図5】図1の生体組織処理装置の画面例(ユーザ操作画面)である。
【図6】図1の生体組織処理装置の画面例(処理モード設定画面)である。
【図7】図1の生体組織処理装置の画面例(標準処理モードの処理パラメータ表示画面)である。
【図8】図1の生体組織処理装置の画面例(ユーザ設定処理モードの処理パラメータ表示画面)である。
【図9】図1の生体組織処理装置の画面例(プロセス1の処理パラメータ表示画面)である。
【図10】図1の生体組織処理装置の画面例(履歴画面)である。
【図11】図1の生体組織処理装置の画面例(標準処理の履歴画面)である。
【図12】図1の生体組織処理装置の画面例(プロセス1の履歴画面)である。
【図13】図1の生体組織処理装置の画面例(プロセス2の履歴画面)である。
【図14】図1の生体組織処理装置の画面例(処理設定画面)である。
【図15】図1の生体組織処理装置の画面例(ユーザ操作画面)である。
【図16】図1の生体組織処理装置の画面例(試薬洗浄処理の処理パラメータ表示画面)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係る生体組織処理装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織処理装置1は、図1に示されるように、脂肪組織等の生体組織を細胞処理するための装置であり、脂肪組織等の生体組織を収容する処理容器2と、該処理容器2内に配置されたフィルタ3と、処理容器2が載置された振とう機4と、処理容器2に接続された配管5と、該配管5の途中位置に設けられたバルブV1と、これらを制御する制御部9とを備えている。
【0021】
ここで、細胞処理とは、生体組織(脂肪組織)から最終生成物である細胞(脂肪由来細胞)を抽出するまでの処理を言い、脂肪組織を処理容器2へ注入する「脂肪組織注入処理」や、処理容器2内で脂肪組織を消化酵素液と攪拌して細胞懸濁液を生成する「消化処理」や、細胞懸濁液を濃縮する「濃縮処理」を含んでいる。より詳しくは、消化処理前の脂肪組織を洗浄する「脂肪組織洗浄処理」や、消化処理後の消化酵素液の濃度を希釈する「消化酵素液濃度希釈処理」をも含んでいる。本発明は、上記の脂肪組織から脂肪由来細胞を抽出するまでの処理全般(=脂肪組織注入処理、処理脂肪組織洗浄処理、消化処理、濃縮処理、消化酵素液濃度希釈処理を含む)について適用することができる。
【0022】
処理容器2は、円筒状の容器であり、底面2aが一方向に傾斜し、底面2aの最も低い位置に排出口2bが開口している。また、処理容器2は、上部が蓋2cにより塞がれている。処理容器2は、生体から採取された脂肪組織Aと該脂肪組織Aを消化する消化酵素液Bとの混合液Cを収容するようになっている。処理容器2内では、消化酵素液Bによる細胞処理の進行とともに、脂肪組織Aを構成する脂肪由来細胞等が単離されて浮遊し、細胞懸濁液Dが生成される。
【0023】
フィルタ3は、脂肪組織Aよりも小さい径寸法の孔を多数有しており、底面2aの上方に略水平に配置されて、排出口2bを覆っている。これにより、脂肪組織Aは、体内から採取されたままの状態では排出口2bからの排出が制限され、消化酵素液Bにより脂肪由来細胞等が単離された状態でフィルタ3の孔を通過して排出口2bから排出されるようになっている。
【0024】
振とう機4は、処理容器2を載置する基台4aと、該基台4aに垂直に固定された回転軸4bを水平面内において回転させるモータ4cとを備えている。
基台4aは、上方および側面の一部が開放された円筒状であり、底面が略水平に配置されている。また、基台4aの側面は断熱材(図示略)により覆われている。基台4aの底面にはシートヒータ4dが設けられ、処理容器2内を約37℃に保温するようになっている。
【0025】
モータ4cは、回転軸4bを、その姿勢を保持しながら所定の円周軌道に沿って水平回転させるようになっている。
モータ4cを作動させると、基台4aに載置された処理容器2が所定の円周軌道に沿って水平回転させられて、脂肪組織Aが消化酵素液B内において撹拌させられることにより消化が促進される。そして、モータ4cを停止して処理容器2を静置すると、消化された脂肪組織Aが上層に、脂肪組織Aから分離された脂肪由来細胞Cを含む消化酵素液B、すなわち細胞懸濁液が下層に、比重の差により層分離させられる。
【0026】
配管5は、一端が排出口2bに接続され、その途中位置にバルブV1が設けられている。
また、生体組織処理装置1には、細胞処理における異常を検知するセンサが設けられている。異常検知手段の具体例としては、処理容器2内の温度を検知する温度センサ(図示略)や、モータ4cの回転動作を検知する光センサ(図示略)や、処理容器2内の質量を測定する質量センサ(図示略)や、処理容器2から排出される液体の透過率を測定するための光センサ(図示略)や、遠心分離装置の回転速度を計測するための回転速度センサ(図示略)や、遠心分離装置の振動の大きさを測定する振動センサ(図示略)が挙げられる。
【0027】
ここで、生体組織処理装置1の制御について図2を参照して説明する。
生体組織処理装置1は、図2に示すように、制御部9と、タッチパネル(入力手段、表示手段)10と、センサモジュール(異常検知手段)11と、駆動系モジュール12と、温度制御モジュール13と、記憶部(記憶手段)14と、出力ポート15とを備えている。
【0028】
センサモジュール11は、前述の温度センサや光センサから構成されており、細胞処理における異常を検知するようになっている。
駆動系モジュール12は、モータ4c等から構成されており、処理容器2を回転駆動ささせて、処理容器2内における脂肪組織Aの消化を促進するようになっている。
温度制御モジュール13は、シートヒータ4dおよびその温度を調節する温度調節器(図示略)から構成されており、処理容器2内を一定温度(約37℃)に維持するようになっている。
【0029】
タッチパネル10は、入力手段および表示手段としての機能を有しており、細胞処理の運転パラメータ(外部パラメータ)をユーザに入力させるとともに、ユーザによる操作情報と、異常停止部16により細胞処理が停止された時点における脂肪組織Aの状態(履歴情報)とを表示するようになっている。
【0030】
記憶部14は、タッチパネル10に入力された運転パラメータと、異常停止部16により細胞処理が停止された時点における細胞処理の履歴情報と、ユーザによる操作情報とを記憶するようになっている。
出力ポート15は、記憶部14に記憶されている運転パラメータ、細胞処理の履歴情報、ユーザによる操作情報を外部に出力するようになっている。
【0031】
制御部9は、異常停止部(異常停止手段)16と、再開位置設定部(再開位置設定手段)17と、処理再開部(処理再開手段)18と、読出部(読出手段)19とを機能として備えている。
【0032】
異常停止部16は、センサモジュール11により異常が検知された場合に、細胞処理を停止させるようになっている。具体的には、異常停止部16は、例えば、処理容器2内の温度が所定の温度以上(例えば約38℃以上)、あるいは所定の温度以上(例えば約36℃以下)となったことが、温度センサにより検知された場合に、シートヒータ4dの異常として、モータ4cを停止させるようになっている。また、異常停止部16は、例えば、光センサにより検知されるモータ4cの定速運転時における回転数が、設定された回転数とは異なる場合に、モータ4cの異常として、モータ4cを停止させるようになっている。
【0033】
再開位置設定部17は、脂肪組織Aの状態に応じて、異常停止部16により停止された細胞処理の工程上の再開位置を設定するようになっている。具体的には、再開位置設定部17は、異常停止部16により細胞処理が停止されてから再開するまでの経過時間に応じて、細胞処理の工程上の再開位置を設定するようになっている。
【0034】
ここで、処理容器2内においては、異常停止部16により細胞処理が停止されている間にも、消化酵素液による脂肪組織Aの消化は継続して進んでいく。したがって、異常停止部16により細胞処理が停止されてから再開するまでの経過時間に応じて、細胞処理の工程上の再開位置を決定する(すなわち、細胞処理の時間を変化させる)ことで、過剰な消化時間となることを防止して、消化酵素による細胞へのダメージを低減することができる。
【0035】
処理再開部18は、異常が解消された場合に、異常停止部16により停止された細胞処理を、再開位置設定部17により設定された再開位置から再開させるようになっている。具体的には、処理再開部18は、センサモジュール11による異常の検知が解消された場合に、再開位置設定部17により設定された再開位置、すなわち、設定された処理工程において設定された運転時間、モータ4cを動作させて細胞処理を再開させるようになっている。
【0036】
読出部19は、処理再開部18により細胞処理が再開される際に、記憶部14に記憶された運転パラメータを読み出すようになっている。処理再開部18は、読出部19により読み出された運転パラメータを用いて細胞処理を再開させるようになっている。
【0037】
上記構成を有する生体組織処理装置1の動作および作用について、図3のフローチャートを参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織処理装置1を用いて脂肪組織Aから脂肪由来細胞を分離するには、振とう機4のモータ4cを駆動させて、処理容器2内で脂肪組織Aを消化酵素液Bにより消化する。そして、モータ4cを停止して処理容器2内で消化された脂肪組織Aと細胞懸濁液Dとに層分離させる。次に、細胞懸濁液Dを排出した後、洗浄液を注入し、再度振とう機4のモータ4cを駆動させて撹拌する。上記操作を繰り返すことで、細胞懸濁液を生成する。
【0038】
この場合において、処理容器2内の温度異常やモータ4cの回転異常がセンサモジュール11により検知されると(ステップS1)、モータ4cが停止され、その際処理パラメータの履歴(すなわち、細胞処理の履歴情報)が記憶部14に記憶される(ステップS2)。
【0039】
そして、モータ4cが停止されてからの時間の測定が開始され(ステップS3)、処理再開時のパラメータ(すなわち、モータ4cが停止されてからの経過時間に応じた運転パラメータ)が設定される(ステップS4)。
ここで、処理再開時のパラメータは、ユーザによる設定が可能である。そのために、図8に示す「ユーザ設定処理モード」をユーザに提供している。また、図11〜図13に示すように、どの処理まで終了したかを示す履歴情報をユーザに提供している。なお、処理再開時のパラメータを装置が全て決定する場合には、ステップS4はステップS5と同時に実施される。
【0040】
そして、細胞処理の再開が可能か否かが判定され(ステップS5)、細胞処理の再開が可能な場合には、設定されたパラメータにより処理が再開される(ステップS6)。
【0041】
上記のようにして、脂肪組織Aの細胞処理を終了し、その後、バルブV1を開いて配管5から処理容器2内の細胞懸濁液Dが回収される。ここで、フィルタ3は、脂肪組織Aを通過させず、細胞懸濁液Dのみを通過させることができる程度の多数の透孔を有しているので、処理容器2内の細胞懸濁液Dがフィルタ3を通過して、配管5から処理容器2の外部に排出される。一方、脂肪組織Aはフィルタ3を通過することができないため、フィルタ3に捕捉され、処理容器2内に残留する。
【0042】
上記のように回収された細胞懸濁液Dは、例えば、洗浄液とともに遠心分離処理を繰り返すことにより洗浄して消化酵素濃度を希釈した後に、遠心分離処理により脂肪由来細胞のみが分離回収される。
【0043】
以下に、上記のように制御される生体組織処理装置1のタッチパネル10上に表示される画面について、図4から図16に示す画面例を用いて説明する。
まず、運転開始前の運転パラメータを設定する段階においては、図4に示す処理設定画面が表示される。図4に示す処理設定画面において、生体組織量(脂肪組織Aの量)および最終生成物量(細胞懸濁液Dの量)を設定すると、設定された生体組織量および最終生成物量に応じて、図5に示すユーザ操作画面にユーザ操作情報(容器の数や全処理時間等)が表示される。
【0044】
また、図6に示す処理モード設定画面に表示され、ユーザはいずれの処理モードで細胞処理を行うかを選択する。図6に示す処理モード設定画面において、例えば標準処理モードを選択した場合には、図7に示す画面が表示され、標準処理モードにおける運転パラメータが表示される。
【0045】
ここで、図7に示す処理モード設定画面において、P11〜P43は運転パラメータを示している。P11〜P13、P21〜P22、P31〜P32、P41〜P44は、それぞれ、プロセス1、2、3、4の運転パラメータを示している。具体的には、例えば、P11は洗浄液注入量、P12は洗浄時間、P13は洗浄回数、P21は洗浄液注入量、P22は試薬注入量、P23は攪拌時間、P24は細胞懸濁液の送液量、P31は遠心時間、P32は遠心速度、P41は遠心時間、P42は洗浄液注入量、P43は試薬洗浄回数を示している。
【0046】
また、図6に示す処理モード設定画面において、例えばユーザ設定処理モードを選択した場合には、図8に示す画面が表示され、ユーザ設定処理モードにおける運転パラメータが表示される。
【0047】
ここで、図8に示す画面において、プロセス1〜4はメインのプロセスを示している。具体的には、例えば、プロセス1は洗浄処理(処理容器2への洗浄液中注入処理,処理容器2の攪拌処理,処理容器2からの排液処理)、プロセス2は消化処理(処理容器2への洗浄液中注入処理,処理容器2への試薬注入処理,処理容器2の攪拌処理,処理容器2から遠心容器への細胞懸濁液の送液処理)、プロセス3は遠心分離処理(遠心分離処理,上清の排液処理)、プロセス4は試薬洗浄処理(遠心容器への洗浄液注入処理,遠心分離処理,上清の排液処理)である。
また、図8に示す画面において、S11〜43はサブプロセスを示しており、例えばS11はプロセス1の1番目のサブプロセスを示している。
【0048】
図8に示す画面において、例えばプロセス1を押下すると、図9に示す画面が表示され、プロセス1における運転パラメータが表示される。
また、図6に示す画面において、例えば履歴を押下すると、図10に示す履歴画面が表示される。図10に示す履歴画面において、例えばNo.10(標準処理)を押下すると、図11に示す画面が表示され、No.10(標準処理)における具体的な履歴情報が表示される。
【0049】
さらに、図11に示す履歴画面において、例えばプロセス1を押下すると、図12に示す画面が表示され、プロセス1における具体的な履歴情報が表示される。また、図11に示す履歴画面において、例えばプロセス2を押下すると、図13に示す画面が表示され、プロセス2における具体的な履歴情報が表示される。
【0050】
上記のように、本実施形態に係る生体組織処理装置1において、何らかの異常により細胞処理が停止してしまった場合には、それまでに行われた処理の履歴情報および運転パラメータがタッチパネル10に表示されるため、ユーザはこれらの情報を確認した上で処理を再開することができる。
【0051】
なお、運転開始前の運転パラメータを設定する段階において、最終生成物量(細胞懸濁液Dの量)と細胞数を設定する場合には、図14に示す処理設定画面が表示される。図14に示す処理設定画面において、最終生成物量(細胞懸濁液Dの量)と細胞数を設定すると、設定された最終生成物量と細胞数に応じて、図15に示すユーザ操作画面にユーザ操作情報(生体組織量や全処理時間等)が表示される。
【0052】
また、ユーザ設定処理モードを選択し、図8に示す画面において、試薬洗浄処理に該当するプロセスを押下した場合には、図16に示す画面が表示され、試薬洗浄処理における運転パラメータが表示される。ユーザ設定処理モードにおいても試薬洗浄処理を確実に実施するよう、試薬洗浄処理の運転パラメータを固定とし、ユーザが変更することができないようにロックされている。他の処理においても同様に、特定の運転パラメータをロックすることとしてもよい。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る生体組織処理装置1によれば、処理容器2内で行われる細胞処理において、異常が発生した場合には、センサモジュール11により異常が検知され、異常停止部16により細胞処理が停止される。一方、再開位置設定部17により、脂肪組織Aの状態やタッチパネルに表示される処理の履歴情報および運転パラメータに応じて、異常停止部16により停止された細胞処理の工程上の再開位置が設定される。そして、異常が解消された場合に、処理再開部18により、再開位置設定部17により設定された再開位置から停止された細胞処理が再開される。
【0054】
このようにすることで、異常の発生により細胞処理が停止した場合に、停止された細胞処理を、異常復旧時の脂肪組織Aの状態に応じて再開させることができ、採取した脂肪組織Aを無駄にすることなく、脂肪組織Aの細胞処理を継続して細胞懸濁液を生成することができる。
【0055】
ここで、消化容器内においては、異常停止部16により細胞処理が停止されている間にも、消化酵素液による脂肪組織Aの消化は継続して進んでいく。したがって、異常停止部16により細胞処理が停止されてから再開するまでの経過時間に応じて、細胞処理の工程上の再開位置を決定する(すなわち、細胞処理の時間を変化させる)ことで、過剰な消化時間となることを防止して、消化酵素による細胞へのダメージを低減することができる。
【0056】
なお、本実施形態に係る生体組織処理装置1において、再開位置設定部17が、異常停止部16により細胞処理が停止された時点における細胞処理の処理時間に応じて、細胞処理の工程上の再開位置を設定することとしてもよい。
このようにすることで、過剰な消化時間となることを防止して、消化酵素による細胞へのダメージを低減することができる。
【0057】
また、本実施形態に係る生体組織処理装置1において、再開位置設定部17が、処理容器2内の温度に応じて、細胞処理の工程上の再開位置を設定することとしてもよい。
消化容器内の温度によって消化酵素の働きは変化するため、細胞処理が進む速度は異なる。したがって、消化容器内の温度に応じて、細胞処理の工程上の再開位置を設定する(すなわち、細胞処理の時間を変化させる)ことで、過剰な消化時間となることを防止して、消化酵素による細胞へのダメージを低減することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 脂肪組織消化装置
2 処理容器
2a 底面
2b 排出口
2c 蓋
3 フィルタ
4 振とう機
4a 基台
4b 回転軸
4c モータ
4d シートヒータ
5 配管
9 制御部
10 タッチパネル(入力手段、表示手段)
14 記憶部(記憶手段)
16 異常停止部(異常停止手段)
17 再開位置設定部(再開位置設定手段)
18 処理再開部(処理再開手段)
19 読出部(読出手段)
A 脂肪組織
B 消化酵素液
C 脂肪組織と消化酵素液の混合液
D 細胞懸濁液
V1 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を細胞処理して細胞懸濁液を生成する処理容器と、
前記細胞処理における異常を検知する異常検知手段と、
該異常検知手段により異常が検知された場合に前記細胞処理を停止させる異常停止手段と、
前記生体組織の状態に応じて、前記異常停止手段により停止された前記細胞処理の工程上の再開位置を設定する再開位置設定手段と、
前記異常が解消された場合に、前記異常停止手段により停止された前記細胞処理を、前記再開位置設定手段により設定された再開位置から再開させる処理再開手段とを備える生体組織処理装置。
【請求項2】
前記細胞処理の運転パラメータを入力する入力手段と、
該入力手段に入力された運転パラメータを記憶する記憶手段と、
前記処理再開手段により前記細胞処理が再開される際に、前記記憶手段に記憶された運転パラメータを読み出す読出手段とを備え、
前記処理再開手段が、前記読出部により読み出された運転パラメータを用いて前記細胞処理を再開させる請求項1に記載の生体組織処理装置。
【請求項3】
前記記憶手段が、前記異常停止手段により前記細胞処理が停止された時点における前記細胞処理の履歴情報を記憶する請求項2に記載の生体組織処理装置。
【請求項4】
前記異常停止手段により前記細胞処理が停止された時点における、前記生体組織の状態を表示する表示手段を備える請求項1に記載の生体組織処理装置。
【請求項5】
前記生体組織から最終生成物である細胞を抽出するまでの一連の処理のうち、各処理の完了と未完了のステータスを表示する表示手段を備える請求項1に記載の生体組織処理装置。
【請求項6】
前記再開位置設定手段が、前記異常停止手段により前記細胞処理が停止されてから再開するまでの経過時間に応じて、前記細胞処理の工程上の再開位置を設定する請求項1から請求項5のいずれかに記載の生体組織処理装置。
【請求項7】
前記再開位置設定手段が、前記異常停止手段により前記細胞処理が停止された時点における前記細胞処理の処理時間に応じて、前記細胞処理の工程上の再開位置を設定する請求項1から請求項5のいずれかに記載の生体組織処理装置。
【請求項8】
前記再開位置設定手段が、前記処理容器内の温度に応じて、前記細胞処理の工程上の再開位置を設定する請求項1から請求項5のいずれかに記載の生体組織処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−40037(P2012−40037A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180860(P2010−180860)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】