説明

生体組織分解装置および生体組織分解方法

【課題】生体組織の個体差によらず、分解の進行状況を早期に確認でき、十分な数の健全な細胞群を効率的に得る。
【解決手段】生体組織Aを分解する消化酵素を含む消化液Bを、液面Bを形成して貯留する容器2と、該容器2内に昇降可能に配置され、分解される生体組織Aを上下方向に支持する支持部材3と、該支持部材3を昇降させる昇降機構4と、該昇降機構4と支持部材3との間に配置され、支持部材3に作用する鉛直方向の力を測定する測定部5と、昇降機構4による支持部材3の昇降過程における測定部5により測定される力の変化に基づいて生体組織Aの分解の進行状況を判定する分解状況判定部6とを備える生体組織分解装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂肪組織等の生体組織を分解して、脂肪由来幹細胞等の細胞群を得るための生体組織分解装置および生体組織分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトの脂肪組織を採取して、消化酵素および生理食塩水とともに攪拌することにより脂肪組織内に含まれる脂肪由来細胞群を分離する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この技術においては、攪拌とともに消化が進行し脂肪組織が分解されて脂肪由来細胞群が分離されてくるが、その消化終了の判定は、消化に要した時間を計数することにより行っていた。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、脂肪組織の消化は、その個体差により大きく相違するので、脂肪組織の消化終了の判定を経過時間により行う場合には、一定品質の脂肪由来細胞群を得ることができないという問題がある。すなわち、消化時間が短すぎると十分な量の細胞群を得ることができず、消化時間が長すぎると、酵素の作用により細胞群の健全性が害されるという不都合がある。また、脂肪組織の個体差によらず十分な脂肪由来細胞群を得るためには、消化が遅い脂肪組織に要する処理時間に合わせて、長時間にわたり消化処理を行う必要があり、処理時間を短縮することができないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、脂肪組織の個体差によらず、一定品質の細胞群を得ることを可能にする生体組織分解装置および生体組織分解方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体組織を分解する消化酵素を含む消化液を、液面を形成して貯留する容器と、該容器内に昇降可能に配置され、分解される生体組織を上下方向に支持する支持部材と、該支持部材を昇降させる昇降機構と、該昇降機構と前記支持部材との間に配置され、前記支持部材に作用する鉛直方向の力を測定する測定部と、前記昇降機構による前記支持部材の昇降過程における前記測定部により測定される力の変化に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定する分解状況判定部とを備える生体組織分解装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、容器内に貯留された消化液内に生体組織を投入して攪拌等することにより、消化液内に含まれている消化酵素により生体組織が分解され、細胞が取り出される。取り出された細胞は、生体組織から分離され、消化液内に浮遊して細胞懸濁液となる。したがって、生体組織の分解の進行とともに、生体組織の容積が縮小していくことになる。
【0008】
昇降機構の作動により容器内で生体組織を支持する支持部材を昇降させつつ、該支持部材に作用する力を測定部で測定することにより、生体組織と支持部材との関係、生体組織と容器内の消化液の液面との関係から測定される力の大きさが変化する。
【0009】
例えば、生体組織が脂肪組織である場合、脂肪組織は消化液の液面近くに浮遊するので、支持部材に脂肪組織が接触していない状態では、支持部材に作用する力は、支持部材の重量および浮力のみとなり、上昇の過程で支持部材の一部が消化液の液面から露出していくと、その分浮力が弱まって、測定部により測定される力の測定値は大きくなる。
【0010】
そして、支持部材に脂肪組織が接触した後には、支持部材には、支持部材の自重、浮力および脂肪組織の重量および浮力が作用する。したがって、浮上の過程で脂肪組織の一部が消化液の液面から露出していくと、その分浮力が弱まって、測定部により測定される力の測定値は大きくなる。
【0011】
このように、支持部材の上昇あるいは下降の過程において、消化液の液面からの生体組織あるいは支持部材の露出量により測定部により測定される力の値は変化し、かつ、その変化の仕方も変化する。したがって、その変化を検出することにより、生体組織が消化液の液面に対してどのような位置に配置されているかを検出でき、分解されずに残っている生体組織の容積を算出できる。
【0012】
その結果、分解状況判定部が、昇降機構による支持部材の昇降過程における測定部により測定される力の変化に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定することにより、分解の終了に必要な比較的長い時間の経過を待つことなく、分解が開始したか、分解が正常に進行しているか等を判断することができる。したがって、分解が行われないまま時間が経過する無駄を省き、また、長時間消化液に浸漬されることによる細胞群の健全性の低下を防止しつつ、生体組織を分解して、一定品質の細胞群を得ることができる。
【0013】
上記発明においては、前記支持部材の位置を検出する位置検出部を備え、前記分解状況判定部が、前記測定部により測定される力の変化率が変化する時点における支持部材の位置と測定部により測定される力とに基づいて生体組織の容積を算出し、算出された容積に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定することとしてもよい。
このようにすることで、測定部により測定される力の変化率が変化する時点を生体組織が消化液の液面から露出し始める時点と判断でき、位置検出部により検出された支持部材の位置に基づいて、分解されずに消化液中に残存している生体組織の容積を簡易に把握できる。
【0014】
また、本発明は、生体組織を分解する消化酵素を含む消化液を貯留する容器と、該容器の消化液内に浸漬された状態に配置され、消化液内における生体組織の浮上を押さえる支持部材と、該支持部材に作用する鉛直方向の力を測定する測定部と、該測定部により測定される力に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定する分解状況判定部とを備える生体組織分解装置を提供する。
【0015】
本発明によれば、消化液内で浮上する生体組織を分解する場合に、消化液内に浸漬された状態に配置された支持部材により生体組織の浮上を押さえることにより、支持部材には、その自重と浮力、および生体組織の重量と浮力が鉛直方向に作用する。生体組織の分解が進行するに従って、生体組織の容積が減少していくので、生体組織の重量および浮力が低下していく。したがって、これらの合力を測定部により測定することにより、生体組織の容積の減少を測定でき、分解状況判定部が、分解の進行状況を簡易に判定することができる。その結果、一定品質の細胞群が得られるように生体組織を分解することができる。
【0016】
また、本発明は、生体組織を分解する消化酵素を含む消化液内に生体組織を投入し分解を進行させる分解ステップと、該分解ステップの途中において、生体組織の下方に配置した支持部材を引き上げつつその重量を測定する測定ステップと、該測定ステップにより測定された重量の変化に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定する判定ステップとを含む生体組織分解方法を提供する。
【0017】
本発明によれば、消化液内において生体組織を分解する分解ステップの途中で行われる測定ステップが、生体組織の下方から支持部材を引き上げつつその重量を測定し、その重量の変化に基づいて判定ステップが分解の進行状況を判定するので、生体組織が消化液の液面から露出した時点で、消化液内に残存する生体組織の容積を確認できる。したがって、生体組織を消化液から完全に抜き出すことなく、簡易かつ迅速に進行状況を判定できる。
【0018】
また、上記発明においては、前記測定ステップが、支持部材の重量を該支持部材の位置と対応づけて測定し、前記判定ステップは、前記位置に対する前記重量の変化率が変化する時点における支持部材の位置と重量とに基づいて生体組織の容積を算出し、算出された容積に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定することとしてもよい。
このようにすることで、位置に対する重量の変化率が変化する時点を生体組織が消化液の液面から露出し始める時点と判断でき、検出された支持部材の位置に基づいて、分解されずに消化液中に残存している生体組織の容積を簡易に把握できる。
【0019】
また、本発明は、生体組織を分解する消化酵素を含む消化液内に生体組織を投入し分解を進行させる分解ステップと、生体組織の上方に配置した支持部材により生体組織の浮上を押さえつつその重量を測定する測定ステップと、該測定ステップにより測定された重量に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定する判定ステップとを含む生体組織分解方法を提供する。
【0020】
本発明によれば、消化液内で浮上する生体組織を分解する場合に、消化液内に浸漬された状態に配置された支持部材により生体組織の浮上を押さえることにより、支持部材には、その自重と浮力、および生体組織の重量と浮力が鉛直方向に作用する。生体組織の分解が進行するに従って、生体組織の容積が減少していくので、生体組織の重量および浮力が低下していく。したがって、これらの合力を測定部により測定することにより、生体組織の容積の減少を測定でき、分解状況判定部が、分解の進行状況を簡易に判定することができる。その結果、一定品質の細胞群が得られるように生体組織を分解することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、生体組織の個体差によらず、分解の進行状況を早期に確認でき、十分な数の健全な細胞群を効率的に得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の第1の実施形態に係る生体組織分解装置1について、図1および図2を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織分解装置1は、脂肪組織Aを分解する装置であって、図1に示されるように、脂肪組織Aを分解するトリプシン等のタンパク質分解酵素(消化酵素)と生理食塩水、乳酸リンゲル液または緩衝液等の溶媒とを混合してなる消化液Bを貯留する第1の容器2と、該第1の容器2内に昇降可能に配置される第2の容器(支持部材)3と、該第2の容器3を昇降させる昇降機構4と、該昇降機構4と第2の容器3との間に配置され第2の容器3に作用する上下方向の力を測定する測定装置(測定部)5と、測定結果に基づいて、分解の進行状況を判定する制御部6とを備えている。
【0023】
前記第1の容器2は、上端開口部2aを大気開放され、自由液面Bを形成して消化液Bを貯留するようになっている。
前記第2の容器3は、脂肪組織Aを収容する収容部Sを有し、その上面および下面に、消化液Bおよび分解された細胞群を通過させかつ脂肪組織Aの通過を禁止する大きさの透孔(図示略)を有するフィルタ7が配置されている。これにより、第1の容器2内において第2の容器3が昇降させられる際に、脂肪組織Aが収容部S内に収容状態に保持されるようになっている。また、第1の容器2内において第2の容器3が昇降させられる際に、消化液Bがフィルタ7の透孔を通過するので、消化液Bにより第2の容器3の昇降動作が妨げられないようになっている。
【0024】
前記昇降機構4は、例えば、モータ8により上下動させられるスライダ9を備えた直線移動機構である。スライダ9の位置は、モータ8のエンコーダ等の任意の位置検出装置(図示略)により、検出されるようになっている。
前記測定装置5は、スライダ9に固定され、前記第2の容器3を吊り下げる重量計である。
【0025】
このように構成された本実施形態に係る生地組織分解装置1を用いた生体組織分解方法について、以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織分解方法は、まず、消化開始前の脂肪組織Aの容積を計測して記憶しておく。そして、図2に示されるように、第2の容器3内に生体組織Aを収容し(ステップS1)、第1の容器2内に貯留された消化液B内に、生体組織Aが収容された第2の容器3を浸漬する(ステップS2)。
【0026】
そして、所定時間にわたり第1の容器2内の消化液Bを攪拌しながら脂肪組織Aの消化処理を行い(ステップS3)、その過程において、分解の進行状況を測定する(ステップS4)。分解の進行状況測定行程においては、消化液B内に残存している脂肪組織Aの容積の減少率を算出することで、分解の進行状況を確認する。そして、容積の減少率が所定のしきい値を越えたか否かを判断し(ステップS5)、越えた場合には脂肪組織Aの消化処理を終了し、越えない場合にはステップS2〜S5を繰り返す。
【0027】
ここで、分解の進行状況測定行程について、図3〜図5を参照して説明する。
進行状況を測定するには、まず、昇降機構4の作動により、脂肪組織Aを収容部S内に収容した第2の容器3を第1の容器2の消化液B内において等速度で上昇させる(ステップS41)。これにより、図4に示されるように、消化液Bの液面Bと脂肪組織Aとの位置関係が変化する。
【0028】
図4(a)は、第2の容器3の上面まで消化液Bの液面B下に浸漬された第1の状態である。このとき、第2の容器3内の脂肪組織Aは、収容部S内において浮上し、収容部Sの上限である上面のフィルタ7に密着する位置に配置されている。すなわち、第2の容器3には、該第2の容器3の自重W、第2の容器3の浮力w、脂肪組織Aの重量WAおよび脂肪組織Aの浮力waとすると、
F=(W−w)+(WA−wa)
の力Fが作用する。そして、この力Fは、図5に示されるように、第2の容器3の上面が消化液Bの液面B下にある第1の状態に維持されている限り、第2の容器3が昇降されても変化しない。
【0029】
図4(b)は、第2の容器3の上面が消化液Bの液面B上に露出した第2の状態である。このとき、脂肪組織Aは、その上面が消化液Bの液面Bに到達するので、重量WAと浮力waとが釣り合ってその位置に止まり、第2の容器3のみが上昇させられる。したがって、第2の容器3に作用する力Fは、
F=(W−w)
となる。浮力wは、第2の容器3の消化液Bの液面B上への露出量に応じて変化する。したがって、第2の状態においては、第2の容器3が上昇されるに従って、浮力wが減り、第2の容器3に作用する力Fは、図5に示されるように単調増加していく。
【0030】
図4(c)は、第2の容器3の下面が、消化液Bの液面B位置に浮上している脂肪組織Aに接触する時点(第3の状態)を示している。
そして、図4(d)は、第2の容器3の下面に接触した脂肪組織Aが、第2の容器3の上昇とともに上昇し始めて、その一部が消化液Bの液面Bの上方に露出する第4の状態を示している。
【0031】
このとき、第2の容器3には、再度、第1の状態と同様に、以下の力Fが作用する。
F=(W−w)+(WA−wa)
しかしながら、第1の状態とは異なり、脂肪組織Aの浮力が減少して重量の方が大きくなり、力Fの大きさは大きくなる。したがって、図5に示されるように、第3の状態を挟んで、第2の状態と第4の状態とでは、第2の容器3の位置に対する力Fの変化率である傾きの値が変化する。
【0032】
すなわち、第2の容器3を等速度で上昇させながら(ステップS41)、位置検出装置によりスライダ9の位置を検出しつつ測定装置5により第2の容器3に作用する力Fを測定していき、位置に対する力Fの変化率が変化する第3の状態を検出する(ステップS42)。これにより、脂肪組織Aが消化液Bの液面B上に露出し始める時点を検出できる。具体的には、変化率が、所定のしきい値を越えたか否かを判断することにより(ステップS43)、越えた場合にはその時点を特定して次のステップS43に進み、越えない場合には、第2の容器3の上昇動作を継続する(ステップS41)。
【0033】
そして、第2の容器3の位置に対する力Fの変化率が、所定のしきい値を越えた時点における液面B位置、第2の容器3の下面の位置および第2の容器3の横断面積を用いて、脂肪組織Aの容積を算出する(ステップS44)。その後、記憶しておいた消化処理開始前の脂肪組織Aの容積を用いて、測定時における容積の減少率を容易に算出することができ(ステップS45)、分解の進行状況を確認することができる。
【0034】
そして、容積の減少率の時間変化が所定のしきい値より小さいか否かが判断され(ステップS46)、容積が減少していない場合には、警報を報知し(ステップS47)、容積が減少している場合には消化処理が継続される。
【0035】
このように、本実施形態に係る生体組織分解装置1および生体組織分解方法によれば、脂肪組織Aが完全に分解されるほどの十分な時間の経過を待つことなく、消化処理過程の途中において上記測定を行うことにより、簡易に分解の進行状況を確認することができる。したがって、何らかの理由により分解が行われていない場合には、これを報知することで早期にその事実を確認して対処できる。これにより、分解が行われないまま長時間が経過してしまう無駄の発生を未然に防止することができる。
【0036】
また、本実施形態に係る生体組織分解装置1および生体組織分解方法によれば、消化液B内に残存する脂肪組織Aを消化液Bから完全に引き上げるのではなく、消化液Bに大部分を浸漬させたままの状態で分解の進行状況を確認することができる。したがって、消化処理を中断することなく進行状況を確認し、消化処理の効率化を図ることができる。
【0037】
また、この場合において、消化液Bから脂肪組織Aを引き上げてその重量あるいは容積を測定する場合には、消化液Bから脂肪組織Aを引き上げ、消化液Bが脂肪組織Aから抜けるまで待機し、測定後に消化液B内に脂肪組織Aを再投入するのに多くの時間を要するが、本実施形態によれば、簡易かつ迅速に分解の進行状況を確認することができる。
【0038】
さらに、本実施形態に係る生体組織分解装置1および生体組織分解方法によれば、脂肪組織Aの分解の進行状況を簡易かつ迅速に確認でき、複数回にわたる確認作業を行うことで、脂肪組織Aの分解の終了時を推定することが可能となる。そして、推定された時刻に再度分解の進行状況を確認し、所定の減少率まで脂肪組織Aの容積が減少していると判断された場合には、直ちに消化処理を終了することができる。したがって、分解された脂肪由来細胞群が長時間消化液に浸漬され続けることによってタンパク質分解酵素により健全性が低下してしまう不都合の発生を未然に防止することができる。
【0039】
なお、本実施形態に係る生体組織分解装置1および生体組織分解方法においては、分解の開始前の脂肪組織Aの容積を記憶しておき、これに対する容積の減少率を算出することで分解の進行状況を確認したが、これに代えて、以下の方法を採用してもよい。
例えば、脂肪組織Aの分解を開始したときに、上記測定を行って、そのときの第3の状態におけるスライダ9の位置を記憶しておく。そして、その後の消化行程の途中において、再度上記測定を行うことにより検出される第3の状態のスライダ9の位置とを比較することにより、脂肪組織Aの分解の進行状況を簡易に判断することができる。
【0040】
また、本実施形態においては、脂肪組織Aを収容する第2の容器を例示して説明したが、これに代えて、脂肪組織Aを脱落しないように上下方向に支持することができれば、プレート状のものでもよく、また、袋状のものでもよい。
【0041】
次に、本発明の第2の実施形態に係る生体組織分解装置10および生体組織分解方法について、図6および図7を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織分解装置10は、図6に示されるように、脂肪組織Aを分解する消化酵素を含む消化液Bを貯留する第1の容器11と、該第1の容器11の消化液B内に浸漬された状態に配置され、消化液B内における脂肪組織Aの浮上を押さえる第2の容器12と、該第2の容器12に作用する鉛直方向の力を測定する測定装置13と、該測定装置13により測定される力に基づいて脂肪組織Aの分解の進行状況を判定する制御部14とを備えている。図中符号15は測定装置13を支持する支持台、符号16は、消化液Bおよび分解された細胞群を通過させかつ脂肪組織Aの通過を禁止する大きさの透孔(図示略)を有するフィルタである。
【0042】
第2の容器12内に脂肪組織Aが収容されていない状態においては、測定装置13により測定される力Fは、第2の容器12の自重Wおよび第2の容器12の浮力wを用いて、
F=W−w
と表される。
【0043】
第2の容器12内に脂肪組織Aが注入された状態においては、脂肪組織Aは消化液B中において浮遊し、常に第2の容器12を上方に押し上げる力を発生する。脂肪組織Aの重量をWA、脂肪組織Aの浮力をwaとすると、測定装置13により測定される力Fは、
F=(W−w)+(WA−wa)
となる。ここで、第2の容器12は、消化液B内に浸漬された状態に維持されるので、第1項(W−w)は変化せず、分解の進行に伴って第2項(WA−wa)が変化する。
【0044】
この測定装置13により測定される力Fの時間変化を図7に示す。
この図7によれば、第2の容器12内に脂肪組織Aが注入されることにより、脂肪組織Aの浮力waにより、時刻t1には第2の容器12を引き上げる力Fは低減するが、その後の消化処理において、脂肪組織Aの容積が減少していくことにより、浮力waが弱まるので、第2の容器12を引き上げる力は増大していく。
【0045】
そして、時刻t2において、脂肪組織Aが十分に分解されることで、第2の容器12を引き上げる力Fは、脂肪組織Aを第2の容器内に注入する前の状態とほぼ等しくなるので、制御部14はこの時点で消化処理を終了することができる。
このように、本実施形態に係る生体組織分解装置10および生体組織分解方法によれば、脂肪組織Aの浮力waを利用して、脂肪組織Aを消化液B中に浸漬したままの状態で分解の進行状況を判定することができる。したがって、第1の実施形態と同様に、時間の無駄を省き、消化処理を中断することなく効率的に、十分な数の健全な細胞群を取得することができるという利点がある。
【0046】
また、本実施形態に係る生体組織分解装置によれば、第1の実施形態と異なり、第2の容器12を引き上げる昇降機構4が不要であるため、装置を簡易に構成でき、耐久的な使用を図ることができるという利点もある。
なお、上記各実施形態においては、生体組織Aとして、脂肪組織を例示して説明したが、これに代えて、他の生体組織、特に、消化液B中において浮上する生体組織の分解に適用することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る生体組織分解装置を示す全体構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る生体組織分解方法を示すフローチャートである。
【図3】図2の生体組織分解方法における分解の進行状況測定行程を説明するフローチャートである。
【図4】図3の分解の進行状況測定行程を説明する説明図である。
【図5】図3の分解の進行状況測定行程において測定される力とスライダの位置との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る生体組織分解装置を示す全体構成図である。
【図7】図1の生体組織分解装置を用いた生体組織分解方法における分解の進行状況測定行程において測定される力の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
A 脂肪組織(生体組織)
B 消化液
液面
S3 分解ステップ
S4 測定ステップ
S44 容積算出ステップ
S46,S5 判定ステップ
1,10 生体組織分解装置
2,11 第1の容器(容器)
3,12 第2の容器(支持部材)
4 昇降機構
5,13 測定装置(測定部)
6,14 制御部(分解状況判定部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を分解する消化酵素を含む消化液を、液面を形成して貯留する容器と、
該容器内に昇降可能に配置され、分解される生体組織を上下方向に支持する支持部材と、
該支持部材を昇降させる昇降機構と、
該昇降機構と前記支持部材との間に配置され、前記支持部材に作用する鉛直方向の力を測定する測定部と、
前記昇降機構による前記支持部材の昇降過程における前記測定部により測定される力の変化に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定する分解状況判定部とを備える生体組織分解装置。
【請求項2】
前記支持部材の位置を検出する位置検出部を備え、
前記分解状況判定部が、前記測定部により測定される力の変化率が変化する時点における支持部材の位置と測定部により測定される力とに基づいて生体組織の容積を算出し、算出された容積に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定する請求項1に記載の生体組織分解装置。
【請求項3】
生体組織を分解する消化酵素を含む消化液を貯留する容器と、
該容器の消化液内に浸漬された状態に配置され、消化液内における生体組織の浮上を押さえる支持部材と、
該支持部材に作用する鉛直方向の力を測定する測定部と、
該測定部により測定される力に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定する分解状況判定部とを備える生体組織分解装置。
【請求項4】
生体組織を分解する消化酵素を含む消化液内に生体組織を投入し分解を進行させる分解ステップと、
該分解ステップの途中において、生体組織の下方に配置した支持部材を引き上げつつその重量を測定する測定ステップと、
該測定ステップにより測定された重量の変化に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定する判定ステップとを含む生体組織分解方法。
【請求項5】
前記測定ステップが、支持部材の重量を該支持部材の位置と対応づけて測定し、
前記判定ステップは、前記位置に対する前記重量の変化率が変化する時点における支持部材の位置と重量とに基づいて生体組織の容積を算出し、算出された容積に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定する請求項4に記載の生体組織分解方法。
【請求項6】
生体組織を分解する消化酵素を含む消化液内に生体組織を投入し分解を進行させる分解ステップと、
生体組織の上方に配置した支持部材により生体組織の浮上を押さえつつその重量を測定する測定ステップと、
該測定ステップにより測定された重量に基づいて生体組織の分解の進行状況を判定する判定ステップとを含む生体組織分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−212020(P2008−212020A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51607(P2007−51607)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】