説明

生体組織補填材とその製造方法

【課題】生体組織欠損部等への定着性が高く、シリンジ等を用いることなく簡易に移植する。
【解決手段】生体組織を消化して得られた細胞懸濁液を遠心分離し(ステップS2)、分離された赤血球成分を除去し(ステップS3)、赤血球成分除去後の細胞懸濁液を再度遠心分離し(ステップS4)、分離された上清の一部を除去し(ステップS5)、上清除去後の組織由来細胞および血小板成分を含む液体に塩化カルシウムを添加する(ステップS6)ことにより製造された組織由来細胞を含むゲル状の生体組織補填材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織補填材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトの脂肪組織を採取して、消化酵素および生理食塩水とともに攪拌することにより消化して、得られた細胞懸濁液を遠心濃縮することにより脂肪由来細胞を取り出すことが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようにして得られた脂肪組織由来細胞は流動性が高く、そのまま、生体内の生体組織欠損部等に移植しても定着せずに流動してしまい、生体組織欠損部における十分な生体組織形成作用を促すことができないという不都合がある。また、流動性の高い脂肪組織由来細胞を移植するには、シリンジやカテーテル等を用いることが前提となり、操作性が悪いという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、生体組織欠損部等への定着性が高く、シリンジ等を用いることなく簡易に移植することができる生体組織補填材とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体組織を消化して得られた細胞懸濁液を遠心分離し、分離された赤血球成分を除去し、赤血球成分除去後の細胞懸濁液を再度遠心分離し、分離された上清の一部を除去し、上清除去後の組織由来細胞および血小板成分を含む液体に塩化カルシウムを添加することにより製造された組織由来細胞を含むゲル状の生体組織補填材を提供する。
【0007】
本発明によれば、生体組織を消化して得られた細胞懸濁液から赤血球成分を遠心分離して除去することにより、細胞懸濁液には組織由来細胞と赤血球以外の血液成分とが含まれるようになる。次いで、このようにして得られた細胞懸濁液を再度遠心分離することにより、組織由来細胞と血小板成分とを含む液体を沈降させ、それ以外の血液成分を上清として分離することができる。
【0008】
そして、上清の一部を除去することにより得られた組織由来細胞と血小板成分とを含む液体に塩化カルシウムを添加することにより、上清に含まれていたトロンビンと塩化カルシウムとが反応し、ゲル状の生体組織補填材となる。このようにして得られた生体組織補填材は、流動性の低いゲル状であるため、生体組織欠損部等に移植した場合に、流動することなくその場に定着する。したがって、含有される組織由来細胞を生体組織欠損部に定着させて、その場で成長させ、生体組織の修復を促進することができる。
【0009】
また、含有される血小板成分により生体由来細胞の成長が促進され、生体組織の早期修復を図ることができる。
さらに、流動性の低いゲル状であるため、シリンジやカテーテルに限られることなく、他の器具や方法を用いて移植することができる。
【0010】
上記発明においては、前記生体組織が脂肪組織であることとしてもよい。
脂肪組織であれば、患者から豊富に採取することができ、その製造が容易である。
【0011】
また、本発明は、生体組織を消化して得られた細胞懸濁液から赤血球成分を遠心分離する第1の遠心分離ステップと、該第1の遠心分離ステップにより分離された赤血球成分を除去する赤血球除去ステップと、該赤血球除去ステップによる赤血球成分除去後の細胞懸濁液から組織由来細胞および血小板成分を濃縮する第2の遠心分離ステップと、該第2の遠心分離ステップにより遠心分離された上清の一部を除去する上清除去ステップと、該上清除去ステップによる上清除去後の組織由来細胞および血小板成分を含む液体に塩化カルシウムを添加する添加ステップとを備える生体組織補填材の製造方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、生体組織を消化する過程において、血液成分を全て除去することなく、血小板成分およびトロンビンを含む部分を残しておき、塩化カルシウムを添加するだけで、ゲル状の生体組織補填材を簡易に製造することができる。
なお、上記発明においては、前記生体組織が脂肪組織であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る生体組織補填材によれば、生体組織欠損部等への定着性が高く、シリンジ等を用いることなく簡易に移植することができるという効果を奏する。
また、本発明に係る生体組織補填材の製造方法によれば、生体組織からの組織由来細胞の抽出過程において、簡易にゲル状の生体組織補填材を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る生体組織補填材とその製造方法について、図1〜図3を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織補填材は、例えば、脂肪組織由来細胞を含むゲル状の生体組織補填材であって、以下の製造方法により製造されたものである。
【0015】
本実施形態に係る生体組織補填材の製造方法は、図1に示されるように、患者から採取した脂肪組織等の生体組織を消化する消化ステップS1と、生体組織を消化して得られた細胞懸濁液から赤血球成分を遠心分離する第1の遠心分離ステップS2と、分離された赤血球成分を除去する赤血球除去ステップS3と、赤血球成分を除去された細胞懸濁液から組織由来細胞および血小板成分を濃縮する第2の遠心分離ステップS4と、遠心分離された上清の一部を除去する上清除去ステップS5と、上清を除去した後の組織由来細胞および血小板成分に塩化カルシウムを添加する添加ステップS6とを備えている。
【0016】
消化ステップS1は、患者から採取した生体組織を血液成分を除去することなく、そのまま、消化酵素液に浸漬して、所定時間にわたって攪拌する。これにより、生体組織塊が消化酵素によって分解されて、組織由来細胞が単離され、消化酵素液内に浮遊する細胞懸濁液が生成される。また、生体組織に含まれていた血液成分も消化酵素液内に流出し、細胞懸濁液内に含められる。
【0017】
第1の遠心分離ステップS2は、比較的低速(例えば、900rpm)の遠心速度で前記細胞懸濁液を回転させる。この第1の遠心分離ステップS2により、細胞懸濁液は、図2に示されるように、遠心容器1内に沈降する赤血球成分2と、その上層に配されるそれ以外の成分3とに分離される。上層には、組織由来細胞および赤血球以外の血液成分が含まれている。
【0018】
この状態で、赤血球成分2を除去する(ステップS3)。赤血球成分2の除去ステップS3は、上層のみを吸引して他の遠心容器1に移してもよいし、遠心容器1の底面近くまでシリンジの注射針を挿入して赤血球成分2を直接吸引除去することにしてもよい。
【0019】
そして、第2の遠心分離ステップS4は、比較的高速(例えば、3600rpm)の遠心速度で赤血球成分2が除去された後の細胞懸濁液を回転させる。この第2の遠心分離ステップS4により、細胞懸濁液は、図3に示されるように、遠心容器1内に沈降する組織由来細胞および血小板成分の濃縮液4と、その上層に配されるそれ以外の血液成分5とに分離される。
【0020】
この状態で、上層の血液成分5の一部を図3の破線で示される位置まで除去する(ステップS5)。上清の除去ステップS5は、上清の血液成分5の一部のみを吸引してもよいし、遠心容器1の底面近くまでシリンジの注射針を挿入して、下層に濃縮されている組織由来細胞および血小板成分の濃縮液4および上清の血液成分5の一部(図3中、符号6で示される範囲の液体)を吸引採取してもよい。上清の血液成分5にはトロンビンが含まれている。
【0021】
そして、添加ステップS6において、組織由来細胞および血小板成分の濃縮液4および上清の血液成分5の一部を含む液体6に塩化カルシウムを添加することにより、塩化カルシウムを液体6内のトロンビンに作用させてゲル化させることができる。これにより、本実施形態に係る生体組織補填材を製造することができる。
【0022】
本実施形態に係る製造方法によれば、生体組織からの組織由来細胞の抽出過程において、同時に得られるトロンビンを利用して、塩化カルシウムを加えるだけでゲル状の生体組織補填材を簡易に製造することができる。従来、組織由来細胞を分離抽出する際に、トロンビンは廃棄されていたものであるため、これを無駄なく利用することができるという利点もある。
【0023】
また、上記製造方法により製造された生体組織補填材は、ゲル状に形成されているので、流動性が低減され、生体組織欠損部に補填されたときに、その補填位置から流動することなく容易に定着する。その結果、経時的に組織由来細胞が成長することにより、生体組織を効率的に修復することができる。
【0024】
また、ゲル状に生成された生体組織補填材は、流動性が低いので、その取り扱いが容易であるという利点もある。すなわち、流動性の高い液体の場合には、シリンジやカテーテルのように取り扱うための器具が制限されてしまうが、ゲル状の生体組織補填材であれば、そのような不都合はなく、取り扱いが容易である。
【0025】
さらに、このようにして製造されたゲル状の生体組織補填材には、組織由来細胞の成長を促進する血小板成分が豊富に含まれているので、組織由来細胞の迅速な成長を促して、生体組織の早期修復を図ることができるという利点がある。
【0026】
なお、本実施形態においては、生体組織として脂肪組織を例示したが、これに代えて、他の任意の生体組織を使用することにしてもよい。
また、血液成分に含有されるトロンビンが少ない場合には、塩化カルシウムの添加によっても十分なゲル化が行われないので、このような場合には、トロンビンを追加することにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織補填材の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図1の生体組織補填材の製造方法における第1の遠心分離ステップにより分離された細胞懸濁液を示す図である。
【図3】図1の生体組織補填材の製造方法における第2の遠心分離ステップにより分離された細胞懸濁液を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
2 赤血球成分
5 血液成分(上清)
6 液体
S2 第1の遠心分離ステップ
S3 赤血球除去ステップ
S4 第2の遠心分離ステップ
S5 上清除去ステップ
S6 添加ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を消化して得られた細胞懸濁液を遠心分離し、分離された赤血球成分を除去し、赤血球成分除去後の細胞懸濁液を再度遠心分離し、分離された上清の一部を除去し、上清除去後の組織由来細胞および血小板成分を含む液体に塩化カルシウムを添加することにより製造された組織由来細胞を含むゲル状の生体組織補填材。
【請求項2】
前記生体組織が脂肪組織である請求項1に記載の生体組織補填材。
【請求項3】
生体組織を消化して得られた細胞懸濁液から赤血球成分を遠心分離する第1の遠心分離ステップと、
該第1の遠心分離ステップにより分離された赤血球成分を除去する赤血球除去ステップと、
該赤血球除去ステップによる赤血球成分除去後の細胞懸濁液から組織由来細胞および血小板成分を濃縮する第2の遠心分離ステップと、
該第2の遠心分離ステップにより遠心分離された上清の一部を除去する上清除去ステップと、
該上清除去ステップによる上清除去後の組織由来細胞および血小板成分を含む液体に塩化カルシウムを添加する添加ステップとを備える生体組織補填材の製造方法。
【請求項4】
前記生体組織が脂肪組織である請求項3に記載の生体組織補填材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−95565(P2009−95565A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271575(P2007−271575)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】