説明

生体表層組織用センシング装置

【課題】小型化、低コスト化を図るとともに生体に安全なエネルギー密度の低い近赤外光で測定信号のSN比を確保する。
【解決手段】生体表層組織に照射する光を照射する発光手段22と、生体表層組織からの拡散反射光を受光する受光手段23を備え、基板24上に配置された発光手段22上に受光手段23を積層配置しているとともに、端面発光型の発光ダイオードである発光手段22の側面から出力された光を直角方向に反射させる反射板27を発光手段の側方に配している。皮膚の深さ方向における選択性の確保に適した受発光距離を反射板と受光手段との間隔で得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体成分や性状の定性・定量分析、特に皮膚組織のグルコース濃度変化を代用特性として生体の血糖値を測定することを目的として、生体の表層組織である皮膚組織に光(殊に近赤外光)の照射と生体表層組織からの拡散反射光の受光とを行う生体表層組織用センシング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体表層組織に近赤外光を照射し、生体表層組織内で拡散反射した光を受光して得られる信号やスペクトルから生体組織を定性・定量分析する近赤外分光法に代表される手法は、生体内の種々の上方を非侵襲的にその場で即時に得ることができる上に、試薬も必要しないことから、医療分野における多くの用途で注目されており、既に血中酸素濃度測定については広く利用されている。
【0003】
そして血糖値測定について、近赤外領域のグルコース特異吸収波長を利用する分光分析によって推定する方法が特開2006‐87913号公報(特許文献3)に示されている。図6はこの方式に該当する例を示しており、ハロゲンランプ1から発光された近赤外光は熱遮蔽板2、ピンホール3、レンズ4、光ファイババンドル5を介して生体組織6に入射される。光ファイババンドル5には測定用光ファイバ7の一端とリファレンス用光ファイバ8の一端が接続されており、測定用光ファイバ7の他端は測定用プローブ9に接続され、リファレンス用光ファイバ8の他端はリファレンス用プローブ10に接続されている。さらに、測定プローブ9およびリファレンスプローブ10は光ファイバを介して測定側出射体11とリファレンス側出射体12とにそれぞれ接続されている。
【0004】
人体の前腕部など生体組織6の表面に測定プローブ9の先端面を所定圧力で接触させて近赤外スペクトル測定を行う時、光源1から光ファイババンドル5に入射した近赤外光は、測定用光ファイバ7内を伝達し、図6(b)に示すように、測定用プローブ9の先端面に同心円周上に配置された12本の光ファイバ20より生体組織6の表面に照射される。生体組織6に照射されたこの測定光は生体組織内で拡散反射した後に、その一部が上記光ファイバ20の中央に位置する受光側光ファイバ19に受光され、その後、測定側出射体11からレンズ13を通して回折格子14に入射して分光された後、受光素子15において検出される。
【0005】
受光素子15で検出された光信号はA/Dコンバーター16でAD変換された後、パーソナルコンピュータなどの演算装置17に入力される。血糖値はこのようにして得たスペクトルデータを解析することによって算出される。
【0006】
リファレンス測定はセラミック板など基準板18を反射した光を測定し、これを基準光として行う。すなわち、光源1から光ファイババンドル5に入射した近赤外光はリファレンス用光ファイバ8を通して、リファレンス用プローブ10の先端から基準板18の表面に照射される。基準板に照射された光の反射光はリファレンス用プローブ10の先端に配置された受光光ファイバ19を介してリファレンス側出射体12から出射される。上記の測定側出射体11とレンズ13の間、及びこのリファンレス側出射体12とレンズ13の間にはそれぞれシャッター22が配置してあり、シャッター22の開閉によって測定側出射体11からの光とリファンレス側出射体12からの光のいずれか一方が選択的に通過する。なお、測定プローブ9端面の円上に配置された12本の発光側光ファイバ20から中心に位置する1本の受光側光ファイバ19までの距離Lは0.65mmとされている。
【0007】
ここで、上記距離L(0.65mm)に光ファイバを配置しているのは、表皮、真皮、皮下組織の層状構造を有する皮膚組織から真皮部分のスペクトルを選択的に測定するためであり、上記間隔で発光側光ファイバ20と受光側光ファイバ19入射光ファイバとを配置した場合、発光側光ファイバ20から照射された近赤外光が皮膚組織内を拡散反射して受光側光ファイバ19に到達する時、その伝播経路は“バナナ・シェイプ”と呼ばれる経路をとり、真皮部分を中心に伝播するものであり、このためにSN比の良い吸光信号を得ることができる。
【0008】
このように、1100〜2500nm波長の近赤外光を用いた血糖測定技術に関しては、従来、光源としてハロゲンランプを用い、光ファイバを介して生体へ近赤外光を導き信号測定を行なう事例が多い。光ファイバを利用することで、高温化するハロゲンランプ光源と生体との物理的な距離を確保して火傷等の障害を回避することができる上に、光ファイバのフレキシブルな特性を活かして比較的自由な条件で生体信号を測定できるからであるが、光源と生体(皮膚組織)の間に光ファイバやレンズ系が数多く介在すれば、その分、光学ロスが大きくなり、その結果、光源の消費電力や装置サイズの大きなものになる。また、光ファイバはその屈曲させることができる半径をあまり小さくすることができないことから、取り回しの点で制限がある。
【0009】
受光系についても同様に、光学ロスのために受光感度を上げなくてはならず、たとえばインジウム・ガリウム・砒素系等の受光素子の場合、素子を冷却して暗電流(ダークノイズ)を下げて使用する必要が生じており、これは受光ユニットの大型化や消費電力の増加の要因になっている。また、上記のようにハロゲンランプを光源として用いると、大きな電源容量を必要とするためにどうしても大型の装置構成となり、血糖値のトレンドを連続的にモニターするといった用途を想定したものとすることができない。
【0010】
一方、発光ダイオードやダイオードレーザーのような半導体素子を発光手段として用いれば、発熱量が大きくないので高温化せず、生体の直近に発光手段を配置できるために、光ファイバやレンズ系を介さずとも測定系を構築することができる。しかも、腕時計のような大きさにまで小型化することも可能であり、血糖値管理の上で用途が広がる。
【特許文献1】特開2006‐87913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、小型化、低コスト化を図ることができる上に生体に安全なエネルギー密度の低い近赤外光で測定信号のSN比を確保できる生体表層組織用センシング装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る生体表層組織用センシング装置は、生体表層組織に照射する光を照射する発光手段と、生体表層組織からの拡散反射光を受光する受光手段を備える生体表層組織用センシング装置であって、基板上に配置された前記発光手段上に受光手段が積層配置されているとともに、端面発光型の発光ダイオードである上記発光手段の側面から出力された光を直角方向に反射させる反射板が発光手段の側方に配されていることに特徴を有している。
【0013】
皮膚組織は、一般に大きく表皮(Epidermis)、真皮(Dermis)、皮下組織(Subcutaneous Tissue)の3層の組織で構成されており、血糖値測定という点からすれば、表皮組織は組織内に毛細血管が発達していないために、血液中のグルコース濃度が変動しても、この表皮組織中のグルコース濃度は追随して変化しない。また、皮下組織は血管が発達しているものの、主に脂肪組織で構成されており、水溶性であるグルコースの信号を測定する組織としては適切ではない。これに対して、真皮組織は表皮の基底層で細胞を作り出すための栄養を血液から供給するために毛細血管が発達して活発な生理活動が行われており、しかも生体成分、たとえばグルコースは組織内で高い浸透性を有することから、真皮の組織内グルコース濃度は、細胞間質液(ISF:InterstitialFluid)と同様に血糖値に追随して変化すると推定できる。
【0014】
したがって、表皮組織と皮下組織からの情報を避けて、真皮組織からグルコース濃度に関する情報を選択的に得られるようにすることで精度良い血糖値測定を行うことが期待できるが、この時、受発光間隔を0.2mmから2mmの間(更に好ましくは0.35mm以上0.8mm以下)に設定することで、皮膚の深さ方向における真皮組織に対する選択性を確保することができる。
【0015】
ここにおいて、受発光間隔は上述のように0.2mmから2mmが好ましいわけであるが、受光手段及び発光手段として共に半導体素子を用いたとしても、その外形寸法が大きければ上記受発光間隔で配置することは困難となる場合がある上に、上記受発光間隔に合わせた外形寸法の受光素子及び発光素子を用意しなくてはならない場合がある。
【0016】
これに対し、本発明においては発光手段として端面発光型の発光ダイオードを用いて発光手段の側面から出力される光は反射板で直角方向に反射させ、上記発光手段上に受光手段を積層して、生体からの拡散反射光を受けることができるようにしていることから、受発光間隔を上記距離に設定することについての素子寸法の制限が少なくなり、好ましい受発光間隔を容易に得ることができる。
【0017】
受光手段としては面入射型の受光素子を好適に用いることができるが、これに限定されるものではなく、発光ダイオード上に積層されるものであればよい。
【0018】
また、前記受光手段は生体組織表面に接触させるセンシング面から離して配置することで、生体からの熱の影響を受けにくくしておくことが、SN比の低下を防ぐことができる点で好ましい。
【0019】
前記反射板はその外形状が四角形もしくは円形のものを好適に用いることができる。特に円形とした場合、受発光間隔を全ての方向でほぼ等距離にすることができるために、測定精度の向上に有効であり、この時、受光手段は受光面が円形の受光素子を用いると、更に好ましい結果を得ることができる。
【0020】
前記発光手段として、複数の端面発光型発光ダイオードを積層したものを用いてもよい。光量を増やすことができるためにSN比を向上させることができる。複数の発光ダイオードを用いるにあたり、発光波長の異なるものを用いると同時に発光タイミングをずらすことで、複数波長での測定を行えるようにすることも可能である。
【0021】
前記発光手段と受光手段は共に正方形状のものであるとともに、受光手段はその角の方向を発光手段の角の方向に合わせて積層されていることを特徴とする請求項1〜5のいず 前記受光手段を夫々積層した4つの発光手段を田の字型に配置してもよい。光量の増大や多波長化を図ることができ、さらに生体組織内での光のパスが不均一になる影響を低減することができる。
【0022】
そして、前記発光手段と受光手段は前記基板に立体配線で接続すれば、ボンディングワイヤを利用した配線に比して小型化に有利である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、発光手段と受光手段との間隔を皮膚組織の深さ方向に対する選択性の点において好ましい値の範囲内に保つにあたり、発光手段や受光手段に用いる素子の形状の大きさによる制限を小さくすることができるものであり、このために目的とする測定を精度良く行うことについて有利である。しかも発光手段が発光ダイオードであるために、装置のセンシング部を数mm程度の大きさで構成することが可能である上に、ハロゲンランプを光源とする場合のように大きな電源容量を必要とせず、従って、腕時計のようなサイズにまとめることができて、血糖値等の生体情報を非侵襲的に連続計測することにも容易に対応することができ、血糖値管理への応用という点で医療上のメリットは極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明すると、本発明に係る生体表層組織用センシング装置は、皮膚組織、特に、真皮層を標的とし、真皮組織中のグルコース濃度変化を代用特性として血糖値を非侵襲的に測定するためのものであり、真皮組織に近赤外光を選択的に伝播させてグルコース濃度変化に伴う散乱係数の変化を信号として検出し、血糖値を推定するためのものとして構成した一例を図1に示す。
【0025】
図中24は基板であり、この基板24上に発光発光手段としての発光ダイオード22を実装してあり、更に該発光ダイオード22上に受光手段としてフォトダイオードのような受光素子23を積層してある。また、基板24の周囲部分には外壁26を立設して、センシング面25を構成する近赤外線帯域で透明なカバーグラスを設けている。
【0026】
ここで上記発光ダイオード22は、端面部全周に発光部となるPN接合部が出て側方に向けて発光する端面発光型のもので、この発光ダイオード22上に積層した受光素子23は面入射型のものである。そして、上記発光ダイオード22の周囲には反射板27を配置してある。基板24に対して45°の角度をなす反射面を備えるとともに該反射面を発光ダイオード22側に向けている反射板27は、上記端面発光型の発光ダイオード22の側面から出力された光をセンシング面25側に向けて反射し、センシング面25に接触させた生体表層組織に投射する。
【0027】
上記発光ダイオード22には、中心波長1300nmの近赤外光を発光するとともに、縦横高さの寸法が0.6mm×0.6mm×0.25mm、上記PN接合部の厚みが0.05mm程度のものを用いており、受光素子23には縦横高さの寸法が0.3mm×0.3mm×0.2mm、受光面の寸法が0.2mm角のものを用いている。なお、発光ダイオード22は上記波長のものに限定するものではなく、1000〜2500nmの近赤外波長域の光を発光するものであればよい。
【0028】
受光素子23はセンシング面25(カバーグラス)の内面側に接触する位置にあってもよいが、ここではセンシング面25を介して生体の熱的影響を受けてしまうことを避けるために、センシング面25から0.1〜1mmほど離している。
【0029】
前記反射板27は、断面三角形の樹脂製材の表面に近赤外線を反射する金属膜を蒸着することで反射面を形成したものであり、本例の場合、前記受発光間隔は反射板27と受光素子23との間隔となるために、発光ダイオード22の外周で且つ前記受発光間隔の条件を満たす位置に配置している。
【0030】
また、図1に示すものでは、平面形状が四角形となっている端面発光型の発光ダイオード22の各側面に平行となる四角形の外形を有する反射板27を用いているが、図2に示すように円形の外形をなす反射板27を用いてもよく、この方が受発光間隔のばらつきを小さくすることができる。また、反射板27の反射面が平面であるものを示したが、曲面であってもよい。
【0031】
図3に他例を示す。これは基板24上に端面発光型の発光ダイオード22を2つ積み重ね、この上に更に受光素子23を配したものである。反射板27が上記両発光ダイオード22,22の側面から出た光をいずれも反射させることができるようにしているのはもちろんである。複数の発光ダイオード22,22が同じ波長の光を発光するようにすることで光量の増大を図ることができる。また、両者が異なる波長の光を発光するようにしてもよく、この場合、両発光ダイオード22,22の発光タイミングをずらすことによって、異なる波長による測定を行うことができる。いずれにしても、受発光間隔は反射板27と受光素子23との間隔で決定されるために、発光ダイオード22の数を増やすことが受発光間隔に影響を与えることはない。
【0032】
図4に別の例を示す。これは受光素子23が上面に夫々積層されている4つの端面発光型発光ダイオード22を基板1上に田の字型に並べて実装したもので、反射板27はこれら発光ダイオード22群の回りを囲むように配置している。この場合においても、各発光ダイオード22が出力する光の波長が同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
図5は発光ダイオード22及び受光素子23と基板24との間の配線29を立体配線としたものの例を示している。ちなみに、センシング面25(カバーグラス)側の配線29は、カバーグラスの内面に形成した電路パターンで行っており、カバーグラスから発光ダイオード22や受光素子23への配線はワイヤでもよいが、導電性樹脂を介在させることで行うとよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示しており、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図2】他例の平面図である。
【図3】更に他例の断面図である。
【図4】別の例の平面図である。
【図5】他の例の断面図である。
【図6】従来例を示すもので、(a)はシステム構成の概略図、(b)はそのプローブ構成の概略図である。
【符号の説明】
【0035】
22 発光ダイオード
23 受光素子
24 基板
27 反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体表層組織に照射する光を照射する発光手段と、生体表層組織からの拡散反射光を受光する受光手段を備える生体表層組織用センシング装置であって、
基板上に配置された前記発光手段上に受光手段が積層配置されているとともに、端面発光型の発光ダイオードである上記発光手段の側面から出力された光を直角方向に反射させる反射板が発光手段の側方に配されていることを特徴とする生体表層組織用センシング装置。
【請求項2】
前記受光手段は面入射型の受光素子であることを特徴とする請求項1記載の生体表層組織用センシング装置。
【請求項3】
前記受光手段は生体組織表面に接触させるセンシング面から離して配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の生体表層組織用センシング装置。
【請求項4】
前記反射板はその外形状が四角形もしくは円形であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体表層組織用センシング装置。
【請求項5】
前記発光手段は、複数の端面発光型発光ダイオードが積層されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体表層組織用センシング装置。
【請求項6】
前記受光手段を夫々積層した4つの発光手段を田の字型に配置していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体表層組織用センシング装置。
【請求項7】
前記発光手段と受光手段は前記基板に立体配線で接続されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の生体表層組織用センシング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−106373(P2009−106373A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279461(P2007−279461)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】