説明

生体適合性部材及び生体適合性部材の形成方法

【課題】生体適合性部材を構成する各種基材と膜との密着性が良好で、かつ膜表面に高い生体適合性が付与されると共に、親水性及び耐水性にも優れた新規な生体適合性部材及びその形成方法を提供する。
【解決手段】基材と、該基材上に設けられ、下記1)及び2)を含む膜とを有する生体適合性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ2)の比率が小さくなるように1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、生体適合性部材。
1)ホスホリルコリン基を有する化合物。
2)重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物。但し、前記2)重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物はホスホリルコリン基を有さない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性部材及び生体適合性部材の形成方法に関し、詳細には、生体適合性部材を構成する各種基材と膜との密着性が良好で、かつ膜表面に高い生体適合性が付与されると共に、親水性及び耐水性にも優れた新規な生体適合性部材及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療用具(例えば、(補助)人工心臓、人工弁、ステント、ペースメーカーなど)に使用されている金属材料は、機械的性質についてほぼ条件を満たしているが、生体適合性(抗血栓性を含む)については必ずしも十分ではない。医療用具の生体適合性が不十分で、例えば、血液成分が医療用具の表面に接触して血栓を形成すると、血液の流れを阻害し、人体に多大な危害を加えることになる。したがって、臨床現場では、医療用具を使用した治療行為において生体の防御反応を抑制する薬物が必要となっており、この薬物を長期間使用することによる副作用は大きな問題となっている。長期間生体の中に埋め込んで使用できる医療用具の開発にとって、生体適合性(抗血栓性を含む)材料は必要不可欠である。
【0003】
また、歯科インプラントに目を向ければ、歯周病やう蝕による歯の欠損に対しては、従来から可撤性局部義歯や架橋義歯による欠損補綴処置が行われてきた。しかし、可撤性局部義歯は金属鉤等の審美的問題や実装に対する抵抗感の問題があり、また、架橋義歯に関しては支台歯の削合という負担が避けられないという問題がある。近年、欠損補綴として歯科インプラント治療が注目され治療選択肢の一つとなっており、その症例数は飛躍的に増加している。歯科インプラント治療では、あくまで異物であるインプラント体が上皮を貫通するという環境は避けられない。したがって、この歯肉貫通部においてプラークの沈着を抑制し、いかにインプラント体周囲に炎症を起こさせないようにするかは長期にわたり歯科インプラントを機能させるための重要な課題であった。
【0004】
上記課題を解決するために、医療用具や歯科材料自身の表面特性をコントロールすることにより抗血栓性や細胞非接着性を得る方法が提案されている。特許文献1には、金属基材上に、接着層と、抗血栓・細胞非接着性材料である2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を接着層にグラフト重合させたMPCポリマーからなる生体適合性材料層とを有する生体適合性部材が開示されている。特許文献2には、ステント上にポリブチルメタクリレートを有するプライマー層、溜層、MPC構造を含むポリマーを有するトップコート層が形成されたステントコーティング構造体について開示されており、スプレーコーティング法によりコーティング構造を積層させるにあたり、最外層におけるリン脂質成分濃度が高くなるように濃度勾配を持たせて積層することが可能である旨の記載がある。
【0005】
特許文献1に記載の生体適合性部材においては、生体適合層のMPCがグラフト鎖として存在するため、グラフト鎖の排除体積効果によりセグメント密度を上げることが難しく、十分な抗血栓・細胞非接着性を発現できない。十分な抗血栓・細胞非接着性を得る目的で、MPCグラフト層を厚くした場合には、接着層に化学結合していないグラフト層MPCポリマーは接触する液体に溶解し、耐久性の劣化が起きるという問題があった。また、複雑な曲面等では十分な重合反応が起こりにくく、目的のグラフト層を形成できないことや、更には本来求める機能発現に対して必須ではない接着層を新たにコーティングすることで、工程増加によるコストアップも問題となる。
特許文献2に記載のコーティング構造体においては、形成しうるコーティング構造中のリン脂質成分の濃度勾配は段階的であり、層内での凝集破壊が発生しやすく、結果として密着性が低下するという問題があることがわかった。また特許文献2に記載のスプレーコーティング法では、本発明のような連続的な組成傾斜を示す膜を形成することは難しい。更に、スプレーコーティング法では基材に直接パターンニングすることは不可能であり、基材に部分的に抗血栓及び細胞非接着性を付与する要望に対応出来ないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第09/081870号
【特許文献2】特表2007−530733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本来性質が異なり、相性の悪い基材と生体適合性(抗血栓・細胞非吸着)材料(親水性)との間に密着性を付与することは難しい。そのため、従来の技術では、両方の性質を併せ持つ材料(例えば、シリカゾルゲルと有機ポリマーのハイブリッド材料)や両方の材料にある程度接着性を有する材料を接着層として設け、何とか密着性を付与させている。しかし、原理的にはそれぞれの材料にて形成される界面で剥離が起こり、十分な密着性を付与できているとは言いがたい状況であった。更に、特許文献1のように、基材表面からグラフト重合により生体適合性(抗血栓・細胞非吸着)材料を化学結合させ密着性を付与するケースが開示されているが、表面グラフト方法はセグメント密度が低く、本来の生体適合性(抗血栓・細胞非吸着性)が発現できず、実用化を考慮した場合の製造適性も乏しい等の問題がある。そこで、本発明は従来とまったく異なる発想のもと、生体適合性(抗血栓・細胞非吸着)材料(親水性)と、基材と高い密着性を有する材料が、基材に最も近い側から基材から最も離れた側まである割合で組成が傾斜した構造を形成することで、明確な異種の界面が存在せず、生体適合性(基材から最も離れた側)と基材密着性(基材に最も近い側)を高いレベルで両立することを可能にした。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、生体適合性部材を構成する各種基材と膜との密着性が良好で、かつ膜表面に高い生体適合性が付与されると共に、親水性及び耐水性にも優れた新規な生体適合性部材及びその形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下のとおりである。
【0010】
〔1〕
基材と、該基材上に設けられ、下記1)及び2)を含む膜とを有する生体適合性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ2)の比率が小さくなるように1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、生体適合性部材。
1)ホスホリルコリン基を有する化合物。
2)重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物。但し、前記2)重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物はホスホリルコリン基を有さない。
〔2〕
前記組成傾斜膜の膜厚が1μm以上であり、
前記組成傾斜膜における、前記1)ホスホリルコリン基を有する化合物と前記2)重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物との総質量に対する、前記1)ホスホリルコリン基を有する化合物の質量が占める割合を、基材に最も近い側から膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも1%以上、50%以下である、上記〔1〕に記載の生体適合性部材。
〔3〕
前記重合性化合物、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物が1分子内に2個以上の重合性官能基を有する、上記〔1〕又は〔2〕に記載の生体適合性部材。
〔4〕
前記1)ホスホリルコリン基を有する化合物が、2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン又はその重合体である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の生体適合性部材。
〔5〕
前記2)が重合性化合物の重合体であり、該重合性化合物がN−ビニル化合物及び(メタ)アクリレート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の生体適合性部材。
〔6〕
前記重合性化合物が、N−ビニル化合物としてN−ビニルカプロラクタムを含む、上記〔5〕に記載の生体適合性部材。
〔7〕
前記重合性化合物中のN−ビニルカプロラクタムの含有量が40質量%以上である、上記〔6〕に記載の生体適合性部材。
〔8〕
前記2)が重合性化合物の重合体であり、該重合性化合物を活性エネルギー線により重合し、硬化することにより形成される重合体である、上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の生体適合性部材。
〔9〕
前記2)がオリゴマー又はポリマー化合物であり、該オリゴマー又はポリマー化合物がウレタン結合を含有する、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の生体適合性部材。
〔10〕
ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物との少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出する、上記〔1〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の生体適合性部材の形成方法。
〔11〕
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物を、第1のインクとして第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物を、第2のインクとして第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、上記〔10〕に記載の生体適合性部材の形成方法。
〔12〕
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量が0.3〜100pLである、上記〔11〕に記載の生体適合性部材の形成方法。
〔13〕
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径が1〜300μmである、上記〔11〕又は〔12〕に記載の生体適合性部材の形成方法。
〔14〕
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
第1のインクとしての前記ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、第2のインクとしての前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物とが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備える、上記〔10〕に記載の生体適合性部材の形成方法。
〔15〕
前記形成工程において、前記選択されたインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量が0.5〜150pLである、上記〔14〕に記載の生体適合性部材の形成方法。
〔16〕
前記形成工程において、前記選択されたインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径が2〜450μmである、上記〔14〕又は〔15〕に記載の生体適合性部材の形成方法。
〔17〕
ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物との少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出することにより形成される生体適合性部材であって、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物を、第1のインクとして第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物を、第2のインクとして第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、上記〔1〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の生体適合性部材。
〔18〕
ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物との少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出することにより形成される生体適合性部材であって、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
第1のインクとしての前記ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、第2のインクとしての前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物とが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備える、上記〔1〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の生体適合性部材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生体適合性部材を構成する各種基材と膜との密着性が良好で、かつ膜表面に高い生体適合性が付与されると共に、親水性及び耐水性にも優れた生体適合性部材及びその形成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】組成傾斜膜を備える生体適合性部材の模式図
【図2】組成傾斜膜を備える生体適合性部材の模式図
【図3】組成傾斜膜作製装置の全体構成図
【図4】組成傾斜膜作製装置の描画部の概略図
【図5】描画混合法による組成傾斜膜形成を説明するための図
【図6】描画混合法の他の実施形態を説明するための図
【図7】インク混合法の実施形態に係る組成傾斜膜作製装置の全体構成図
【図8】インク混合法による組成傾斜膜形成を説明するための図
【図9】描画混合法における各インクの着弾位置を説明するための図
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、基材と、該基材上に設けられ、下記1)及び2)を含む膜とを有する生体適合性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ2)の比率が小さくなるように1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、生体適合性部材に関する。
1)ホスホリルコリン基を有する化合物。
2)重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物。但し、前記2)重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物はホスホリルコリン基を有さない。
以下に、本発明で使用する材料について説明する。また以下に記載する、“ホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物”及び“重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有する組成物”はインク組成物として好適に使用される。
【0014】
(ホスホリルコリン基を有する化合物)
本発明の生体適合性部材は、生体適合性(具体的には、抗血栓・細胞非接着性)材料であるホスホリルコリン基を有する化合物を含有する。
【0015】
ホスホリルコリン基を有する化合物としては、重合性官能基を有する化合物であることが好ましい。ホスホリルコリン基を有する化合物が重合性官能基を介して、上記2)の重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物と架橋すると、後述する相互進入網目構造(IPN構造)が形成され、表面特性としてより高い耐水性を維持することができるためである。
重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、(メタ)アクリロイルアミド基、ビニルエーテル基等が挙げられ、(メタ)アクリロイル基、スチリル基が好ましく、(メタ)アクリロイル基が共重合性の観点から特に好ましい。なお、(メタ)アクリロイル基とは、メタアクリロイル基及びアクリロイル基の両方を包含するものとする。
【0016】
重合性官能基を有するホスホリルコリン基含有化合物(モノマー)としては、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、4−メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、6−メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、ω−メタクリロイルオキシエチレンホスホリルコリン、4−スチリルオキシブチルホスホリルコリンなどが挙げられ、共重合性、液物性の観点から、MPCであることが好ましい。
【0017】
また、ホスホリルコリン基を有する化合物は、上記重合性官能基を有するホスホリルコリン基含有化合物(モノマー)を重合したポリマーであってもよい。この場合、上記の化合物1種からなるポリマーであっても、上記の化合物2種以上からなる共重合体であってもよい。更に、ポリマーは、重合性官能基を有するホスホリルコリン基含有化合物と他の重合性化合物との共重合体であってもよい。
【0018】
上記他の重合性化合物としては、特に限定されるものではないが、後述の2)における重合性化合物として記載の化合物を使用することができる。
これら重合性化合物は1分子内に重合性官能基を2個以上有することが好ましく、重合性官能基を2個〜6個有することがより好ましい。これにより、強固な架橋膜、更には後述のIPN構造体が形成されるためである。
本発明においてホスホリルコリン基を有する化合物がポリマーである場合、少なくともMPCを重合性モノマーとして使用し、MPCを重合して得られる重合体(以下、“MPC重合体”と呼ぶ)であることが好ましい。これにより、抗血栓性、細胞及びタンパク非吸着性に優れるためである。
【0019】
これらポリマーは、公知の重合方法により得られる。
ポリマーの重量分子量としては、5000〜200000の範囲であることが好ましい。
【0020】
[ホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物]
ホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物は、前述のホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物であり、該化合物はモノマーであっても、ポリマーであってもよい。
組成物中のホスホリルコリン基を有する化合物の含有量としては、ホスホリルコリン基を有する化合物がモノマーである場合、組成物中の全質量に対し、40質量%〜100質量%とすることが好ましく、ホスホリルコリン基を有する化合物がポリマーである場合、組成物中の全質量に対し、5質量%〜50質量%とすることが好ましい。これらの範囲とすることで、十分な抗血栓性、細胞及びタンパク非吸着性を発現することができる。
本発明において、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物をインクとして用いる際に、以下に説明する成分を更に含ませることができる。
【0021】
(重合性化合物)
本発明に係るホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物は、更に重合性化合物を含有してもよい。重合性化合物としては、特に限定されるものではないが、後述の2)における重合性化合物として記載の化合物を使用することができる。
これら重合性化合物は1分子内に重合性官能基を2個以上有することが好ましく、重合性官能基を2個〜6個有することがより好ましい。これにより、強固な架橋膜、更には後述のIPN構造体が形成されるためである。なお重合性官能基としては上述と同様のものが挙げられる。
本発明に係るホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物は、更に、重合性化合物を含有しても、含有しなくてもよいが、含有する場合、該重合性化合物の組成物中の含有量は1質量%〜60質量%が好ましく、1質量%〜40質量%がより好ましい。
【0022】
(ラジカル重合開始剤)
本発明に係るホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物において、重合性官能基を有するホスホリルコリン基含有化合物を重合する目的で、又は、重合性官能基を有するホスホリルコリン基含有化合物と上記2)中の重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物との架橋構造を形成する目的で、組成物は更にラジカル重合開始剤を含むことが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、ロフィンダイマー類、オニウム塩類、ボレート塩類、活性エステル類、活性ハロゲン類、無機錯体、クマリン類などが挙げられる。ラジカル重合開始剤については、特開2008−134585号公報の段落[0141]〜[0159]にも記載されており、本発明においても同様に好適に用いることができる。
「最新UV硬化技術」{(株)技術情報協会}(1991年)、p.159、及び、「紫外線硬化システム」加藤清視著(平成元年、総合技術センター発行)、p.65〜148にも種々の例が記載されており本発明に有用である。
市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、BASF社製の「イルガキュア651」、「イルガキュア184」、「イルガキュア819」、「イルガキュア907」、「イルガキュア1870」(CGI−403/Irg184=7/3混合開始剤)、「イルガキュア500」、「イルガキュア369」、「イルガキュア1173」、「イルガキュア2959」、「イルガキュア4265」、「イルガキュア4263」、「イルガキュア127」、“OXE01”等;日本化薬(株)製の「カヤキュアーDETX−S」、「カヤキュアーBP−100」、「カヤキュアーBDMK」、「カヤキュアーCTX」、「カヤキュアーBMS」、「カヤキュアー2−EAQ」、「カヤキュアーABQ」、「カヤキュアーCPTX」、「カヤキュアーEPD」、「カヤキュアーITX」、「カヤキュアーQTX」、「カヤキュアーBTC」、「カヤキュアーMCA」など;サートマー社製の“Esacure(KIP100F,KB1,EB3,BP,X33,KTO46,KT37,KIP150,TZT)”、BASF社製の「Lucirin TPO」等、及びそれらの組み合わせが好ましい例として挙げられる。
【0023】
ラジカル重合開始剤は、硬化性化合物100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。
【0024】
光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーケトン及びチオキサントンなどを挙げることができる。更にアジド化合物、チオ尿素化合物、メルカプト化合物などの助剤を1種以上組み合わせて用いてもよい。
市販の光増感剤としては、日本化薬(株)製の「カヤキュアー(DMBI,EPA)」、BASF社製の「Lucirin TPO」などが挙げられる。
【0025】
(溶媒)
本発明において、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物は、組成傾斜膜を作製するにあたり好適な形態にするために、溶媒を用いてもよい。
溶媒としては、水、有機溶媒から適宜選択して用いることができ、沸点が50℃以上の液体であることが好ましく、沸点が60℃〜300℃の範囲の有機溶媒であることがより好ましい。
溶媒は、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物中の固形分濃度が1〜50質量%となる割合で用いることが好ましい。更には、5〜40質量%が好ましい。この範囲において、得られるインクは作業性良好な粘度の範囲となる。
【0026】
溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、ニトリル類、アミド類、エーテル類、エーテルエステル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。具体的には、具体的には、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、クレゾール等)、ケトン(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エステル(例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、乳酸エチル等)、脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、シクロヘキサン)、ハロゲン化炭化水素(例えばメチレンクロライド、メチルクロロホルム等)、芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン等)、アミド(例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン等)、エーテル(例えばジオキサン、テトラハイドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等)、エーテルアルコール(例えば1−メトキシ−2−プロパノール、エチルセルソルブ、メチルカルビノール等)、フルオロアルコール類(例えば、特開平8−143709号公報 段落番号[0020]、同11−60807号公報 段落番号[0037]等に記載の化合物)が挙げられる。
これらの溶媒は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して使用することができる。好ましい溶媒としては、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられる。
【0027】
(添加剤)
本発明に用いるホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物には、錯化剤、分散剤、表面張力調整剤、防汚剤、耐水性付与剤、耐薬品性付与剤等の他の添加剤を含むことができる。
錯化剤としては、酢酸及びクエン酸等のカルボン酸類や、アセチルアセトン等のジケトン類、トリエタノールアミン等のアミン類等が挙げられる。また、分散剤としては、ステアリルアミン、ラウリルアミン等のアミン類等が挙げられる。
【0028】
[重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有する組成物]
重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有する組成物は、以下に説明する重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有する組成物である。
【0029】
(重合性化合物の重合体又はオリゴマー若しくはポリマー化合物)
本発明の生体適合性部材は、基材との密着性をもたらす樹脂材料である、重合性化合物の重合体又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有する。但し、これら重合性化合物、重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物はホスホリルコリン基を有さない。
重合性化合物の重合体は、以下に説明する重合性化合物を活性エネルギー線により重合し、硬化することにより形成される重合体である。
【0030】
重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物としては、重合性化合物のみならず、オリゴマー又はポリマー化合物においても、重合性官能基を有する化合物であることが好ましく、重合性化合物、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物が1分子内に2個以上の重合性官能基を有することがより好ましい。重合性官能基を有するホスホリルコリン基を有する化合物と重合性官能基を介して架橋すると、後述するIPN構造が形成され、より高い耐水性を維持することができるためである。重合性官能基としては、上記1)におけるホスホリルコリン基を有する化合物について説明したものと同様のものが挙げられる。
【0031】
(重合性化合物)
本発明で用いることのできる重合性化合物は、活性エネルギー線により硬化可能な化合物であり、硬化により樹脂を形成するものである。すなわち、上記2)の重合性化合物の重合体としては、該重合性化合物を活性エネルギー線により重合し、硬化することにより形成される重合体である。
ここで、本発明でいう「活性エネルギー線」とは、その照射により開始種を発生させうるエネルギーを付与することができるものであれば、特に制限はなく、広くα線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線などを包含するものである。中でも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点からは、紫外線及び電子線が好ましく、特に紫外線が好ましい。従って、本発明に用いる重合性化合物(硬化性化合物)を含むインク組成物としては、活性エネルギー線として、紫外線を照射することにより重合(硬化)可能なインク組成物であることが好ましい。
重合性化合物としては、活性エネルギー線の照射により重合し、硬化すれば特に制限されず、ラジカル重合性化合物、カチオン重合性化合物のいずれを用いることができる。安定性及び化合物バリエーションの観点から、ラジカル重合性化合物が好ましく、不飽和二重結合を有する化合物がより好ましい。
【0032】
不飽和二重結合を有する化合物としては、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物であればどのようなものでもよく、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の化学形態を持つものが含まれる。ラジカル重合性化合物は1種のみ用いてもよく、また、目的とする特性を向上するために任意の比率で2種以上を併用してもよい。好ましくは2種以上併用して用いることが、反応性、物性などの性能を制御する上で好ましい。
【0033】
本発明においては、重合性化合物としては特に限定されないが、N−ビニル化合物、(メタ)アクリレート化合物、アクリルアミド化合物、スチレン系化合物、ビニルエーテル化合物などが挙げられ、基材との相互作用による密着性向上及び水素結合相互作用によるホスホリルコリン基含有ポリマー類(例えば、MPCポリマー類)との相溶性、分子間凝集力による材料内部の凝集破壊等の抑制の観点から、N−ビニル化合物及び(メタ)アクリレート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、N−ビニル化合物を含むことがより好ましい。なお、(メタ)アクリレート化合物とは、メタクリレート化合物及びアクリレート化合物の両方を包含するものとする。
【0034】
本発明においては、N−ビニル化合物としてはN−ビニルラクタム類(好ましくは、N−ビニルカプロラクタム)を用いることが好ましい。その理由は、N−ビニルラクタム類は、基材との配位相互作用により密着性が良好であることに加えて、膜内の凝集力が向上し、強固な膜が形成できるからである。
N−ビニルラクタム類の好ましい例として、下記式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0035】
【化1】

【0036】
式(I)中、nは1〜5の整数を表し、インクが硬化した後の柔軟性、基材との密着性、及び、原材料の入手性の観点から、nは2〜4の整数であることが好ましく、nが2又は4の整数であることがより好ましく、nが4である、すなわちN−ビニルカプロラクタムであることが特に好ましい。N−ビニルカプロラクタムは安全性に優れ、汎用的で比較的安価に入手でき、特に良好なインク硬化性、及び硬化膜の基材への密着性が得られるので好ましい。
【0037】
また、上記N−ビニルラクタム類はラクタム環上にアルキル基、アリール基等の置換基を有していてもよく、飽和又は、不飽和環構造を連結していてもよい。
【0038】
(メタ)アクリレート化合物としては、
2−ヒドロキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、カルビトールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、エポキシアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等の単官能アクリレート類、
ネオペンチルグリコールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート等の多官能アクリレート類、
メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等のメタクリレート類、などが挙げられる。
【0039】
また、他の重合性化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エチレン性不飽和基を有する無水物、アクリロニトリル、スチレン、更に種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等のラジカル重合性化合物が挙げられる。
【0040】
具体的には、
N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、等のアクリルアミド類、
その他、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物の誘導体、ジビニルベンゼン、アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。更に具体的には、山下晋三編、「架橋剤ハンドブック」、(1981年大成社);加藤清視編、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」、79頁、(1989年、シーエムシー);滝山栄一郎著、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品若しくは業界で公知のラジカル重合性及び架橋性のモノマー、オリゴマー、及びポリマーを用いることができる。
【0041】
本発明では、密着性の観点から、重合性化合物として、N−ビニルカプロラクタムと、N−ビニルカプロラクタム以外の重合性化合物を併用することも好ましい。この場合、重合性化合物中におけるN−ビニルカプロラクタムの含有量は、重合性化合物全質量の40質量%以上であることが好ましく、N−ビニルカプロラクタムとそれ以外の化合物との比率(質量比)は、40:60〜60:40がより好ましく、55:45〜45:55が更に好ましい。
【0042】
また、ラジカル重合性化合物としては、例えば、特開平7−159983号、特公平7−31399号、特開平8−224982号、特開平10−863号、特開平9−134011号等の各公報に記載されている光重合性組成物に用いられる光硬化型の重合性化合物材料が知られており、これらも本発明の重合性化合物に適用することができる。
【0043】
更に、ラジカル重合性化合物として、ビニルエーテル化合物を用いることも好ましい。好適に用いられるビニルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヒドロキシエチルモノビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−O−プロピレンカーボネート、ジエチレングリコールモノビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。
これらのビニルエーテル化合物のうち、硬化性、密着性、表面硬度の観点から、ジビニルエーテル化合物、トリビニルエーテル化合物が好ましく、特に、ジビニルエーテル化合物が好ましい。ビニルエーテル化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0044】
基材との密着性、膜の強度向上及びホスホリルコリン基を有する化合物とのIPN構造形成の観点からは、上記の化合物のうち、多官能アクリレートモノマー又は多官能アクリレートオリゴマーを用いることも好ましい。
なお、本発明において、「単官能化合物」とは重合性基を1つ有する化合物であり、「多官能化合物」とは重合性基を2個以上有する化合物である。
【0045】
(ラジカル重合開始剤)
本発明に係る上記組成物において、重合性化合物とともに、ラジカル重合開始剤が含まれることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、上述のホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物について記載したラジカル重合開始剤と同様のものを用いることができる。
【0046】
本発明に用いうるカチオン重合性化合物としては、光酸発生剤から発生する酸により重合反応を開始し、硬化する化合物であれば特に制限はなく、光カチオン重合性モノマーとして知られる各種公知のカチオン重合性のモノマーを使用することができる。カチオン重合性モノマーとしては、例えば、特開平6−9714号、特開2001−31892号、同2001−40068号、同2001−55507号、同2001−310938号、同2001−310937号、同2001−220526号などの各公報に記載されているエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
【0047】
また、カチオン重合性化合物としては、例えば、カチオン重合系の光硬化性樹脂に適用される重合性化合物が知られており、最近では400nm以上の可視光波長域に増感された光カチオン重合系の光硬化性樹脂に適用される重合性化合物として、例えば、特開平6−43633号、特開平8−324137号の各公報等に公開されている。これらも本発明の重合性化合物に適用することができる。
【0048】
本発明において、上記のカチオン重合性化合物と併用するカチオン重合開始剤(光酸発生剤)としては、例えば、化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物が用いられる(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ参照)。
本発明に好適なカチオン重合開始剤の例を以下に挙げる。
即ち、第1に、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウムなどの芳香族オニウム化合物のB(C654-、PF6-、AsF6-、SbF6-、CF3SO3-塩を挙げることができる。第2に、スルホン酸を発生するスルホン化物を挙げることができる。第3に、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物も用いることができる。第4に、鉄アレン錯体を挙げることができる。
上記カチオン重合開始剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
(オリゴマー又はポリマー化合物)
本発明で使用することのできるオリゴマー又はポリマー化合物としては、特に制限されるものではないが、例えば、ウレタン、アルキルメタクリレート、アルキルアクリレート等のオリゴマー又はポリマー若しくはこれらの混合物を用いることができる。
【0050】
本発明におけるオリゴマーとは、限定的ではないが、例えば、分子量1,000〜5,000未満の重合体のことをいう。ポリマーとは、例えば、分子量5,000以上の重合体のことをいい、好ましくは分子量5,000〜10,000の化合物のことをいう。
【0051】
前記オリゴマー又はポリマー化合物はウレタン結合を含有することが好ましい。すなわち、前記オリゴマー又はポリマー化合物として好ましくは、ウレタン結合を含有するオリゴマー(以下、「ウレタンオリゴマー」ともいう。)又はウレタン結合を含有するポリマー(以下、「ウレタンポリマー」又は「ポリウレタン」ともいう。)であり、ウレタンオリゴマーを用いることがより好ましい。
【0052】
ウレタンポリマー又はオリゴマーを使用することが好ましい理由として、ウレタンポリマー又はオリゴマーは基材との配位相互作用により密着性が良好なことに加え、傾斜膜内の凝集力が向上することにより、強固な膜が形成されていることが推察される。
【0053】
組成物中におけるウレタンポリマー又はオリゴマーの含有量は、組成物の全質量に対して、10質量%以上含有することが好ましい。組成物中におけるウレタンポリマー又はオリゴマーのより好ましい含有量としては、30質量%以上80質量%以下であり、更に好ましくは、30質量%以上70質量%以下の範囲内であり、特に好ましくは、40質量%以上60質量%以下の範囲内である。
【0054】
本発明のウレタンポリマー又はオリゴマーは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーを使用することが更に好ましい。
【0055】
【化2】

【0056】
上記一般式で表される繰り返し単位において、R〜Rはそれぞれ独立して、アルキレン基、アリーレン基又はビアリーレン基を表し、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0057】
上記アルキレン基としては、炭素数1〜10のアルキレン基が好ましい。
上記アリーレン基としては、フェニレン基又はナフチレン基が好ましい。
上記ビアリーレン基としては、ビフェニレン基又はビナフチレン基が好ましい。
上記アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましい。
上記アリール基としては、フェニル基又はナフチル基が好ましい。
上記へテロアリール基としては、ピリジル基が好ましい。
【0058】
上記一般式(1)で表されるウレタンポリマー又はオリゴマーとしては、UN−1225(根上工業製)、CN962、CN965、CN971(Sartomer製)等を好ましく使用することができる。
【0059】
組成物中の重合性化合物の含有量としては、組成物中の全質量に対し、60質量%〜100質量%とすることが好ましい。組成物中のオリゴマー若しくはポリマー化合物の含有量としては、組成物中の全質量に対し、5質量%〜50質量%とすることが好ましい。これらの範囲とすることで、共有結合形成や水素結合相互作用によるホスホリルコリン基含有ポリマー類(例えば、MPCポリマー類)との相溶性、分子間凝集力による材料内部の凝集破壊等の抑制に優れる。
【0060】
(溶媒)
本発明において、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有する組成物は、組成傾斜膜を作製するにあたり好適な形態にするために、溶媒を用いてもよい。
溶媒としては、上記ホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物に好適に用いうる溶媒を使用することができる。
【0061】
(添加剤)
その他、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有する組成物に含ませることのできる種々の添加剤としては、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有する組成物に含ませることのできる上述のその他の成分が同様に挙げられる。
【0062】
[相互進入網目構造(IPN構造)]
本発明においては、前記ホスホリルコリン基を有する化合物が重合性官能基を有し、かつ前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物が重合性官能基を有することが好ましい。本発明の生体適合性部材形成時に、1)及び2)の界面において上記重合性官能基を介してホスホリルコリン基を有する化合物と重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物とが架橋することにより、相互進入網目構造(IPN構造)を形成することができるためである。
【0063】
生体適合性部材において上記のようなIPN構造を形成することによって、架橋ポリマー鎖同士が化学結合ではなく、網目の絡み合いによる強固な相互作用を発現し、高い耐水性や分子間凝集力による材料内部の凝集破壊等の抑制を実現することができる。
【0064】
[基材]
本発明における基材としては特に制限されるものではないが、医療用用途として好ましくは、金属、合金、セラミックス等の高強度材料が挙げられる。
【0065】
金属としては、チタン(Ti)、クロム(Cr)等が挙げられ、合金としては、ステンレス鋼、Cr合金、Ti合金等が挙げられる。
Cr合金の好ましい具体例としては、ニッケルクロム合金(Ni−Cr合金)、コバルトクロム合金(Co−Cr合金)、及びコバルトクロムモリブデン合金(Co−Cr−Mo合金)等が挙げられる。
Ti合金の好ましい具体例としては、Ti−6Al−4V合金、Ti−15Mo−5Zr−3Al合金、Ti−6Al−7Nb合金、Ti−6Al−2Nb−1Ta合金、Ti−15Zr−4Nb−4Ta合金、Ti−15Mo−5Zr−3Al合金、Ti−13Nb−13Zr合金、Ti−12Mo−6Zr−2Fe合金、Ti−15Mo合金及びTi−6Al−2Nb−1Ta−0.8Mo合金等が挙げられる。
セラミックスとしては、アルミナ、ジルコニア、チタニア等が挙げられる。
【0066】
[組成傾斜膜]
本発明に係る生体適合性部材は、基材上に設けられ、上記1)及び2)を含む膜であって、該膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ2)の比率が小さくなるように1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜を有する。
【0067】
本発明における組成傾斜膜の膜厚は、特に限定されることはないが、1μm以上が好ましく、1μm〜20μmがより好ましく、5μm〜15μmが更に好ましい。この範囲であれば、良好な生体適合性を示す生体適合性部材を得ることができる。
【0068】
図1に、本発明で形成される生体適合性部材の断面を模式的に示す。
本発明に係る生体適合性部材1は、基材2上に組成傾斜膜3からなるパターンを有する。組成傾斜膜3は、その厚み方向において基材2に最も遠い側Aから基材2に最も近い側Bに向かって(即ち、図1中の矢印の方向に)、ホスホリルコリン基を有する化合物1)から重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物2)へと連続的に組成が変化している(換言すると、膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ2)の比率が小さくなるように1)及び2)の組成が連続的に変化している)。
ここで、「厚み方向」とは組成傾斜膜3の「膜厚方向」を意味する。
「膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ2)の比率が小さくなるように1)及び2)の組成が連続的に変化する」とは、厚み方向に組成傾斜膜をある厚み(例えば、0.1〜5μm)の領域毎に区切り、各領域でのホスホリルコリン基を有する化合物1)と、重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物2)(以下、単に樹脂2)とも言う)との総質量に対する、ホスホリルコリン基を有する化合物1)の質量が占める割合(以下、「ホスホリルコリン基含有化合物の含有率」という)をみたときに、隣接する領域間のホスホリルコリン基含有化合物の含有率の差が1%以上、50%以下、好ましくは1%以上、30%以下であることを意味する。隣接する領域間のホスホリルコリン基含有化合物の含有率の差が50%より大きくなると、1)及び2)の含有率の変化が段階的となってしまい、高い密着性及び生体適合性を得ることができない。
組成傾斜膜3の基材に最も遠い側Aにおけるホスホリルコリン基含有化合物の含有率(例えば、Aから厚み0.1〜5μmまでの領域におけるホスホリルコリン基含有化合物の含有率)は、高い生体適合性を得る観点から、50〜100%であることが好ましく、70〜100%であることがより好ましく、実質的に100%(99.8〜100%)であることが更に好ましい。
また、基材から最も近い側Bにおける樹脂2)の含有率(例えば、Bから厚み0.1〜5μmまでの領域における樹脂2)の含有率)は、高い密着性を得る観点から、50〜100%であることが好ましく、70〜100%であることがより好ましく、実質的に100%(99〜100%)であることが更に好ましい。
【0069】
本発明においては、組成傾斜膜3の膜厚が1μm以上であり、
組成傾斜膜における、前記1)ホスホリルコリン基を有する化合物と前記2)重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物との総質量に対する、前記1)ホスホリルコリン基を有する化合物の質量が占める割合を、基材に最も近い側から膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも1%以上、50%以下であることが好ましい。
また、上記割合の差は、いずれも1%以上、30%以下であることが更に好ましい。
各領域におけるホスホリルコリン基含有化合物の含有率は、例えば、XPSの深さ方向プロファイルにより求めることができる。
【0070】
組成傾斜膜3の構成は、上記のように樹脂2)の含有率の連続的変化(すなわち、ホスホリルコリン基含有化合物の含有率の連続的変化)があれば、特に限定されないが、図2に示すような樹脂2)の含有率の異なる複数の層が積層した構成を好ましい例として挙げられる。
図2に示す生体適合性部材1aは、基材2上に組成傾斜膜3を有し、該組成傾斜膜3は、樹脂2)の含有率の異なる複数の層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5を有する。層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5は、基材2に最も遠いA側の層3−5から基材2に最も近いB側の層3−1に向かって(即ち、図2中の矢印の方向に)、樹脂2)の含有率が0%〜100%の範囲内で連続的に大きくなっている。
良好な密着性及び生体適合性を得る上で、層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5のうち、隣り合う2層の樹脂2)の含有率の差は50%以下であり、好ましくは30%以下である。また、基材2に最も遠いA側の層3−5の樹脂2)の含有率は0%〜20%であることが好ましく、0%〜15%であることがより好ましい。基材2に最も近いB側の層3−1の樹脂2)の含有率は80%〜100%であることが好ましく、85%〜100%であることがより好ましい。
図2では、層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5の5層を積層して組成傾斜膜3を形成しているが、積層する層の数は特に限定されない。好ましくは3〜10層であり、より好ましくは3〜7層であり、特に好ましくは5〜7層である。また、各層の厚みは0.1μm〜5μmが好ましく、0.3μm〜3μmがより好ましい。各層の厚みは実質的に等しい(厚みの誤差が±0.5μmの範囲)ことが好ましい。
なお、層間の界面が明確でない場合には、組成傾斜膜3の厚み方向において厚み0.1μm〜5μmで区切った領域を「層」とみなしてもよい。
各領域におけるホスホリルコリン基含有化合物の含有率は、例えば、XPSの深さ方向プロファイルにより求めることができる。
【0071】
本発明は、前記ホスホリルコリン基を有する化合物を含むインク組成物と、前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含むインク組成物との少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出することを特徴とする本発明の生体適合性部材の形成方法にも関する。
以下、本発明で使用するインクについて説明する。
【0072】
(インク組成物)
本発明で使用するインク組成物は、前記ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物とに大別される。インク組成物は、前記ホスホリルコリン基を有する化合物、前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物以外に、上述の重合開始剤、光増感剤、溶媒、添加剤を含んでもよく、更に、バインダー成分、その他の添加剤を含んでもよい。
当該インク組成物は単独でインクとして使用してもよく、2種以上のインク組成物を混合しインクとして使用してもよい。
【0073】
なお、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物において、ホスホリルコリン基を有する化合物はモノマーであっても、その重合体であってもよいことは既述のとおりであるが、インクの吐出性の観点から、ホスホリルコリン基を有する化合物はモノマーであることが好ましい。
【0074】
(インク)
本発明で使用するインクとして、前記ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物であるインクと、前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物であるインクとを、それぞれ独立した2種以上のインクとして使用してもよいし、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物であるインクと、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物であるインクとを、混合してなる混合インクとして使用してもよい。
該インクは、前記ホスホリルコリン基を有する化合物、前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物以外に、溶媒、バインダー成分、その他の添加剤を含んでもよい。
【0075】
インク中のホスホリルコリン基を有する化合物の含有量としては、ホスホリルコリン基を有する化合物がモノマーである場合、インク中の全質量に対し、40質量%〜100質量%とすることが好ましく、ホスホリルコリン基を有する化合物がポリマーである場合、インク中の全質量に対し、5質量%〜50質量%とすることが好ましい。この範囲とすることで、十分な抗血栓性、細胞及びタンパク非吸着性を発現することができる。
また、インク中の重合性化合物の含有量としては、インク中の全質量に対し、60質量%〜100質量%とすることが好ましい。インク中のオリゴマー若しくはポリマー化合物の含有量としては、インク中の全質量に対し、5質量%〜50質量%とすることが好ましい。これらの範囲とすることで、インクジェットによる安定した吐出性が付与できる。
【0076】
(溶媒)
本発明に係るインクは、ホスホリルコリン基を有する化合物、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物と溶媒とを混合して調製してもよい。
溶媒としては、水、有機溶媒から適宜選択して用いることができ、沸点が50℃以上の液体であることが好ましく、沸点が60℃〜300℃の範囲の有機溶媒であることがより好ましい。を調製するにあたり、溶媒は、インク中の固形分濃度が1〜70質量%となる割合で用いることが好ましい。更には、5〜60質量%が好ましい。この範囲において、得られるインクは作業性良好な粘度の範囲となる。
【0077】
溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、ニトリル類、アミド類、エーテル類、エーテルエステル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。具体的には、具体的には、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、クレゾール等)、ケトン(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エステル(例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、乳酸エチル等)、脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、シクロヘキサン)、ハロゲン化炭化水素(例えばメチレンクロライド、メチルクロロホルム等)、芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン等)、アミド(例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン等)、エーテル(例えばジオキサン、テトラハイドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等)、エーテルアルコール(例えば1−メトキシ−2−プロパノール、エチルセルソルブ、メチルカルビノール等)、フルオロアルコール類(例えば、特開平8−143709号公報 段落番号[0020]、同11−60807号公報 段落番号[0037]等に記載の化合物)が挙げられる。
これらの溶媒は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して使用することができる。好ましい溶媒としては、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられる。
【0078】
(添加剤)
本発明に係るインクには、前記1)及び前記2)の材料の他、錯化剤、分散剤、表面張力調整剤、防汚剤、耐水性付与剤、耐薬品性付与剤等の他の添加剤を含むことができる。
金属を含むインクには、錯化剤及び分散剤を用いることが好ましい。錯化剤としては、酢酸及びクエン酸等のカルボン酸類や、アセチルアセトン等のジケトン類、トリエタノールアミン等のアミン類等が挙げられる。また、分散剤としては、ステアリルアミン、ラウリルアミン等のアミン類等が挙げられる。
【0079】
(インク物性)
本発明に係るインクの粘度は、成膜時の均一性、インクジェット吐出時の安定性、インクの保存安定性の観点から、5〜40cPが好ましく、5〜30cPがより好ましく、8〜20cPが更に好ましい。
また、インクの表面張力は、成膜時の均一性、インクジェット吐出時の安定性、インクの保存安定性の観点から、10〜40mN/mが好ましく、15〜35mN/mがより好ましく、20〜30mN/mが更に好ましい。
【0080】
(インクジェット法による組成傾斜膜の作製)
以下、本発明のインクジェット法による組成傾斜膜の作製について説明する。
本発明においては、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物であるインクと、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物であるインクとをそれぞれ独立した2種以上のインクとして、インクジェット法により基材上に吐出するか、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物であるインクと、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物であるインクとを混合してなる混合インクをインクジェット法により基材上に吐出する。
【0081】
インクジェット法としては、インクジェットプリンターにより画像記録を行う方法であれば、インクジェットの記録方式に制限はなく、公知の方式、例えば静電誘引力を利用してインク組成物を吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインク組成物に照射して放射圧を利用してインク組成物を吐出させる音響インクジェット方式、及びインク組成物を加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等に用いられる。
インクの液滴の制御は主にプリントヘッドにより行われる。例えばサーマルインクジェット方式の場合、プリントヘッドの構造で打滴量を制御することが可能である。すなわち、インク室、加熱部、ノズルの大きさを変えることにより、所望のサイズで打滴することができる。またサーマルインクジェット方式であっても、加熱部やノズルの大きさが異なる複数のプリントヘッドを持たせることで、複数サイズの打滴を実現することも可能である。ピエゾ素子を用いたドロップオンデマンド方式の場合、サーマルインクジェット方式と同様にプリントヘッドの構造上打滴量を変えることも可能であるが、ピエゾ素子を駆動する駆動信号の波形を制御することによっても、同じ構造のプリントヘッドで複数のサイズの打滴を行うことができる。
【0082】
インクの基材上への吐出方法(描画方法)としては、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物を含むインクと重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物を含むインクとを別々のインクジェットヘッドに供給し、両者の吐出量の比率を調節しながら、同時に吐出させて基材上で混合させる描画混合法が挙げられる。また、それとは別の方法としては、予めインクを、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物を含むインクと重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物を含むインクとを混合させた混合インクで両者の比率が異なるものを複数種類調製したものをインクジェットヘッドに供給し、ヘッドを順番に選択して、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物であるインクと、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物であるインクとの比率が異なる混合インクを順次吐出させて描画する混合インク法が挙げられる。
【0083】
(インクの調製)
後述する描画混合法に用いられる、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物であるインクと、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物であるインクの調製について説明する。
前記インクは、各材料を混合することで調製することができる。各材料を混合する際には攪拌機により攪拌してもよい。攪拌時間は特に限定されないが、通常30分〜60分であり、30分〜40分が好ましい。また混合する際の温度は、通常10℃〜40℃であり、20℃〜35℃が好ましい。
後述するインク混合法においては、上述のように調製したインクを混合して用いることができる。
【0084】
〜描画混合法〜
本発明の方法としては、基材上に、厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって上記1)のホスホリルコリン基を有する化合物の比率が大きくなり、かつ上記2)の重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物の比率が小さくなるように上記1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜を有する、本発明の生体適合性部材の形成方法であって、
ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物の少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出して前記組成傾斜膜を作製する、生体適合性部材の形成方法において、
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物を用い、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物を、第1のインクとして第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物を、第2のインクとして第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する方法が好ましい。
【0085】
上記描画法によれば、第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの吐出量と第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの吐出量との比率を決定し、決定された比率にしたがってインクを吐出させて1つの層を形成する工程を繰り返して基材上に複数の層を積層し、この複数の層が上層にいくほど前記第1のインクの吐出量の比率が大きい層であって前記第2のインクの吐出量の比率が小さい層となるようにすることで、インクジェット方式の技術を用いて組成傾斜膜を製造することができる。
なお、本発明は、上記描画法によって形成される生体適合性部材にも関する。
【0086】
〜描画混合法による実施形態〜
図3は、描画混合法に係る組成傾斜膜作製装置100の全体構成図であり、図4は、組成傾斜膜作製装置100の描画部10の概略図である。これらの図に示すように、組成傾斜膜作製装置100は、描画部10を含んで構成され、描画部10は、フラットベッドタイプのインクジェット描画装置が用いられている。詳細には、描画部10は、基材である基材が載置されるステージ30、ステージ30に載置された基材を吸着保持するための吸着チャンバー40、基材20に向けて各インクを吐出するインクジェットヘッド50A(以下、インクジェットヘッド1)及びインクジェットヘッド50B(以下、インクジェットヘッド2)を含み構成されている。
【0087】
ステージ30は、基材20の直径よりも広い幅寸法を有しており、図示しない移動機構により水平方向に自在に移動可能に構成されている。移動機構としては、例えばラックアンドピニオン機構、ボールネジ機構等を用いることができる。ステージ制御部43(図4では不図示)は、移動機構を制御することにより、ステージ30を所望の位置に移動させることができる。
【0088】
また、ステージ30の基材保持面には多数の吸引穴31が形成されている。ステージ30下面には吸着チャンバー40が設けられており、この吸着チャンバー40がポンプ41(図4では不図示)で真空吸引されることによって、ステージ30上の基材20が吸着保持される。また、ステージ30はヒータ42(図4では不図示)を備え、ヒータ42によりステージ30に吸着保持された基材20を加熱することが可能である。
【0089】
インクジェットヘッド1及び2は、インクタンク60A(以下、インクタンク1)及びインクタンク60B(以下、インクタンク2)から供給されるインクを透明支持体20の所望の位置に対して吐出するものであり、ここではピエゾ方式のアクチュエータを持つヘッドを用いている。インクジェットヘッド1と2とは、図示しない固定手段により、それぞれができるだけ近づけて配置されて固定されている。
【0090】
インクタンク1及び2からインクジェットヘッド1及び2に供給されるインクを、それぞれインク1、インク2とする。本発明においては、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物を含むインク(以下、「生体適合性インク」ともいう。)をインク1とし、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物を含むインク(以下、「密着性インク」ともいう。)をインク2とする。
【0091】
〔描画混合法による組成傾斜膜の作製〕
このように構成された組成傾斜膜作製装置100を用いた組成傾斜膜の作製について、図5を用いて説明する。
【0092】
まず、窒素雰囲気中に置かれた描画部10のステージ30上に、基材20を載置する。基材20は、裏面がステージ30に接するように載置される。そして、吸着チャンバー40により、基材20のステージ30への吸着及び加熱を行う。ここでは、基材20を70℃に加熱することが好ましい。
【0093】
次に、吸着・加熱された基材20上に、インクジェットヘッド2から供給されるインク(インク2)を1層若しくは数層分積層して24−1を形成する。このインク2の積層は、図5(a)に示すように、移動機構によりステージ30を移動させながら(図では左方向に移動)、インクジェットヘッド2によりインク2を吐出する。ここでは、インクジェットヘッド1からはインクの吐出を行わない。
【0094】
このように形成したインク2の層24−1を、インク2中の溶媒成分を完全には蒸発しない程度又はインク2の重合性(硬化性)化合物が完全には重合(硬化)しない程度に乾燥(半乾燥・半硬化)させることが好ましい。具体的には、通常に乾燥させるとき(全乾燥・全硬化)に与えるエネルギーよりも少ないエネルギーで乾燥を行う。
なお、本明細書の以下の記載において、「半乾燥」及び「全乾燥」には、本発明に係るインクとして重合性(硬化性)化合物など硬化型組成物を用いた場合の「半硬化」及び「全硬化」の意も含むものとする。
本発明においては、上記のとおり、前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有することが好ましく、半乾燥させるためには、例えば、インク吐出終了後、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。
【0095】
次に、半乾燥状態となったインク2の層24−1の上に、インク1とインク2との混合層24−2を形成する。この混合層24−2の形成は、図5(b)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド1によりインク1を吐出し、同時にインクジェットヘッド2によりインク2を吐出して行う。このとき、インク1の吐出量とインク2の吐出量を、所望の比率に調整する。ここでは、インク2の吐出量が75%、インク1の吐出量が25%となるように、インクジェットヘッド1と2の各ノズルの吐出量を調整して吐出している。なお、本明細書におけるインクの「吐出量」とは、各層を形成するために吐出されるインクの全量を意味する。一方、後述する、インクジェットヘッドより吐出されるインク滴の「液滴量」は1つのインク液滴の量である。
【0096】
なお、インクジェットヘッド1及び2からのインクの吐出量の比率の調整は、描画のドットピッチ密度によって調整してもよい。例えば、インクジェットヘッド1と2の各ノズルの吐出量を一定としたまま、インクを吐出するノズルの数をインクジェットヘッド1と2とを75:25となるように制御することにより、吐出量の比率の調整を行うことも可能である。
【0097】
インク吐出後、図5(c)に示すように、それぞれの吐出量で吐出されたインク1とインク2とを拡散混合することにより、混合層24−2が積層される。インク1の層24−1は半乾燥状態となっているため、その上に形成された混合層24−2のインクの溶媒はインク1の層24−1に受容されて、極端にぬれ広がることがない。即ち、ヒータ42による加熱温度は、インクの蒸発のしやすさにより調整する必要がある。溶媒の種類によっては、前述した70℃より低い温度、例えば基板の温度を50℃程度にして描画してもよい。
すなわち、前記形成工程において、吐出された前記第1のインクと前記第2のインクを拡散混合させる工程を有することが好ましい。拡散混合させる方法としては、加熱による対流を利用する方法や超音波を利用する方法などが挙げられる。
【0098】
また、2つのインクジェットヘッドはできるだけ近づけて配置されており、一方のインクだけが乾燥して両インクの層内での混合が不十分になることが防止されている。なお、2つのインクを同時に吐出する際、インクジェットヘッド1から吐出されるインク1の液滴とインクジェットヘッド2から吐出されるインク2の液滴とを、飛翔中に空中で衝突させ、混合させてから着弾するようにしてもよい。
【0099】
更に、詳細は後述するが、2つのインクジェットヘッドはそれぞれの幅を対象基材の幅(短い方)よりも大きく構成し、1回の走査で1つの層を形成することが好ましい。これにより、インク1とインク2とが混ざりやすくなる。
【0100】
また、インクの混合を促進するために、ステージ30を制御して基材20を超音波処理してもよい。このとき、超音波による節が発生しにくくなるように、超音波の周波数をスイープさせたり、基材20の位置を変更しながら行うことが好ましい。
【0101】
このように形成した混合層24−2を、インク2の層24−1と同様に半乾燥状態にすると、混合層24−2は量の比率が75:25で、インク2に含まれる重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物とインク1に含まれるホスホリルコリン基を有する化合物とが混合して積み重なっている状態となる。
【0102】
次に、混合層24−2の上に混合層24−3を形成する。この混合層24−3の形成についても、図5(d)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド1とインクジェットヘッド2とにより同時にインクを吐出する。ここでは、インク1、インク2をともに50%の吐出量の比率で吐出している。
【0103】
混合層24−2についても半乾燥状態となっているため、その上に形成された混合層24−3のインクの溶媒は、混合層24−2に受容される。インク吐出後、図5(e)に示すように、2つのインクを拡散混合することにより、混合層24−3が積層される。
【0104】
更に、混合層24−3についてもインク2の層24−1と同様に半乾燥させる。混合層24−3は量の比率が50:50で、インク2に含まれる重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物とインク1に含まれるホスホリルコリン基を有する化合物とが混合して積み重なっている状態となる。
【0105】
このように、インク1とインク2の吐出量の比率を段階的に(傾斜するように)変更しながら各混合層を形成し、最後にインク1の吐出量が100%の層を形成する。
【0106】
全ての層の形成終了後、各層の拡散が進み、段階的に形成した層が連続的になる。その結果、図1に示すように、組成成分比が膜厚方向において、B側からA側にかけてインク2が100%からインク1が100%となる組成傾斜膜3が形成される。
【0107】
このように、下の層を半乾燥状態として上の層を形成することにより、その上下の層において、拡散がある程度進むようにしておく。このとき、上下の層の界面が無くなり、完全に混合して上下層の区別が無くなるような状態とはならないようにすることが好ましい。
【0108】
なお、各層の形成が終わったあとに、組成傾斜膜の機能していない領域にダミーパターンを積層し、レーザを用いた光学式変位センサ等によりダミーパターンの高さを測定してもよい。乾燥が進んでおらず、溶媒が残っている状態では、膜厚が高くなることから、ダミーパターンの高さにより乾燥状態を検出することができる。
【0109】
以上説明したように、インクジェットヘッドを用いて組成傾斜膜を形成することができる。また、本実施形態の描画混合法によれば、形成する層の数にかかわらず、インクの種類とインクジェットヘッドの個数が少なくて済むという利点がある。インク1とインク2との混合層は、それぞれのインクの混合比率が段階的に傾斜されるように形成されれば、何層積層してもよい。
【0110】
また、各層の形成工程において、第1のインクジェットヘッド及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量は膜厚制御及び細線形成性の観点から、0.3〜100pLとすることが好ましく、0.5〜80pLがより好ましく、0.7〜70pLが更に好ましい。
各層の形成工程において、第1のインクジェットヘッド及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径は膜厚制御及び細線形成性の観点から、1〜300μmとすることが好ましく、5〜250μmがより好ましく、10〜200μmが更に好ましい。
更に、各層の形成工程において、第1のインクと第2のインクのうち吐出量の比率が小さい方のインクについて、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液適量及び液滴径の少なくとも一方を前記比率が大きなインクより小さくすることが好ましい。例えば、前記比率が小さなインクのインク滴が0.3〜60pLであり、前記比率が大きなインクのインク滴が1〜100pLであることが好ましい。これにより、拡散混合する時間を短くしたり、混合の均一性を向上することができる。
なお、インク滴の「液滴径」とは、液滴直径の長さを意味し、インクジェット吐出時の飛翔状態写真から測定することができる。
【0111】
本実施形態では、B側からA側にかけてインク2が100%からインク1が100%となる組成傾斜膜3を形成したが、B側又はA側においてインク2又はインク1が100%となるよう製膜する必要性は必ずしもなく、組成傾斜膜3が得られる範囲のものであれば、B側又はA側におけるインク2又はインク1の比率を任意に変更することができる。
上記B側又はA側にけるインク2又はインク1の比率は、得ようとする組成傾斜膜の密着性や生体適合性等の特性により、適宜調節することが可能である。
【0112】
また、本実施形態では、インクジェットヘッド1とインクジェットヘッド2とにおいて同時にインクを吐出して各層を形成したが、順に吐出してもよい。
【0113】
例えば、混合層24−2を形成する場合に、図6(a)に示すように、まずインクジェットヘッド2によりインク2層24−1の上の全面にインク2を吐出する。次に、図6(b)に示すように、インクジェットヘッド1によりインク1を全面に吐出する。その後、図6(c)に示すように、それぞれのインクを拡散混合することで、同様に混合層24−2を形成することができる。
【0114】
このように、それぞれのインクを順に吐出して1つの層を形成する場合であって、2つのインクの吐出量に差がある場合、即ち2つのインクの吐出量の比率が50%ずつでない場合は、吐出量の多い方のインクを先に吐出するように構成してもよい。特に、先に吐出するインクの乾燥が激しい場合等は、量が少ないほど乾燥が早まるため、多い方のインクを先に吐出することが好ましい。これにより、2種類のインクの混合をスムーズに進ませることができる。
【0115】
更にこの場合、後から吐出することになる吐出量の少ない方のインクについては、小さい液滴(液適量が少ない又は液滴径が小さい)によってドットピッチ密度を高くして吐出してもよい。これにより、拡散混合する時間を短くすることができる。
【0116】
また、先に吐出したインクを着弾させた位置に、後から吐出するインクを重ねて着弾させるようにしてもよい。特に間歇打ちを行ってドットとドットが離れている場合に、同じ位置に乾燥させる前に着弾させると、それぞれのインクの混合がしやすくなる。
【0117】
例えば、混合層24−2を形成する際に、1回目の走査でインクジェットヘッド2によりインク2を間歇打ちにより吐出したとする。図9(a)は、インク1層24−1上に着弾したインク2(24−2−B−1)を示す。
【0118】
次に、2回目の走査でインクジェットヘッド1によりインク1を間歇打ちにより吐出する。このとき、インクジェットヘッド1は、図9(b)に示すように、吐出されたインク1(24−2−A−1)が、1回目の走査で着弾されているインク2(24−2−B−1)と同じ位置に重ねて着弾するように吐出する。
【0119】
更に、3回目の走査でインクジェットヘッド2によりインク2が間歇打ちされる。図9(c)は、インク2(24−2−B−1)の間に着弾されたインク2(24−2−B−2)を示す。
【0120】
その後、4回目の走査では、インクジェットヘッド1により、インク1がインク2(24−2−B−2)と同じ着弾位置に重ねて着弾されるように吐出される。図9(d)に示すように、吐出されたインク1(24−2−A−2)が、2回目の走査で着弾されているインク2(24−2−B−2)と同じ位置に重ねて着弾するように吐出する。
【0121】
以後同様に、インク1の層24−1の全面にインクを吐出し、その後拡散混合させる。
このように吐出することにより、混合層24−2を形成する際の拡散混合の時間を短縮することができる。
【0122】
また、一方のインクの乾燥が速い場合は、そのインクを後から吐出するようにしてもよい。
【0123】
また、本実施形態では、インク1とインク2の2つの純インクを用いて各混合層を形成したが、これらを混合したインクを併用してもよい。例えば、2つの純インクと、インク1とインク2との混合比率が50:50の混合インクとの3種類のインクを同時に用いて混合層を形成することが考えられる。混合インクの分だけインクジェットヘッドの数が増加するが、混合インクは予め2つの純インクが十分混合されているため、インク吐出後の拡散混合に要する時間を短縮することができる。
【0124】
〜インク混合法〜
本発明の方法としては、基材上に、厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって上記1)のホスホリルコリン基を有する化合物の比率が大きくなり、かつ上記2)の重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物の比率が小さくなるように上記1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜を有する、本発明の生体適合性部材の形成方法であって、
ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物の少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出して前記組成傾斜膜を作製する、生体適合性部材の形成方法において、
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物を用い、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
第1のインクとしてのホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、第2のインクとしての重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物とが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記組成傾斜膜を得る積層工程とを備える方法が好ましい。
【0125】
上記方法によれば、第1のインクと第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクをそれぞれのインクジェットヘッドに供給し、第1のインクの比率の低い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に混合インクを吐出させて各層を形成し、基材上に複数の層を積層するようにしたので、インクジェット方式の技術を用いて組成傾斜膜を製造することができる。
なお、本発明は、上記描画法によって形成される生体適合性部材にも関する。
【0126】
〜インク混合法による実施形態〜
【0127】
図7は、第2の実施形態に係る組成傾斜膜作製装置101の全体構成図である。同図に示すように、本実施形態に係る組成傾斜膜作製装置101は描画部11を備え、描画部11は、5種類のインクを貯蔵するインクタンク60−1〜60−5と、各インクタンクからインクが供給されるインクジェットヘッド50−1〜50−5を備えている。各インクジェットヘッド50−1〜50−5は、各インクタンク60−1〜60−5から供給されるインクを基材20に対して吐出する。
【0128】
各インクタンク60−1〜60−5から各インクジェットヘッド50−1〜50−5に供給されるインクは、インク1とインク2との混合質量比率がそれぞれ0:100、25:75、50:50、75:25、100:0となっている。即ち、インクタンク60−1からはインク2の純インクが、インクタンク60−5からはインク1の純インクが、60−2〜60−4からはインク1とインク2とが所定の比率で混合された混合インクが供給される。
【0129】
〔インク混合法による組成傾斜膜の作製〕
描画混合法による実施形態と同様に、ステージ30上に基材20を載置し、吸着及び加熱を行う。
【0130】
次に、吸着・過熱された基材上に、インク2を1層若しくは数層分積層してインク2の層28−1を形成する。このインク2の積層は、図8(a)に示すように、移動機構によりステージ30を移動させながら(図では左方向に移動)、インクジェットヘッド50−1により基材に対してインクタンク60−1から供給されるインク(インク1とインク2との混合比率が0:100のインク)を吐出する。このとき、その他のインクジェットヘッド50−2〜50−5からはインクの吐出を行わない。
【0131】
したがって、このように形成されたインク2の層28−1は、図5に示すインク2の層24−1と同様の層となる。ここで、インク2中の溶媒が蒸発する又はインク2の硬化性化合物が完全には硬化しない程度に乾燥(半乾燥・半硬化)させると、インク1に含まれるホスホリルコリン基を有する化合物が積み重なっている状態となる。
インク混合法においても、前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有することが好ましく、半乾燥させるためには、例えば、インク吐出終了後、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。
【0132】
次に、インク2の層28−1の上に、インクジェットヘッド50−2によりインクタンク60−2から供給される混合インク(インク1とインク2との混合比率が25:75の混合インク)を吐出して、混合層28−2を形成する。
【0133】
混合層28−2の形成は、図8(b)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド50−2により混合インクを吐出する。描画混合法による実施形態と同様に、インク2の層28−1が半乾燥状態であるため、その上に形成された混合層28−2のインクの溶媒がインク2の層28−1に受容されて、極端にぬれ広がることがない。したがって、加熱温度はインクの蒸発のしやすさにより調整する必要がある。
【0134】
この混合層28−2についても半乾燥させることで、混合層28−2は、インク1に含まれるホスホリルコリン基を有する化合物及び、インク2に含まれる重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物が積み重なっている状態となる。
【0135】
更に、混合層28−2の上に、インクジェットヘッド50−3(図8には不図示)によりインクタンク60−3から供給される混合インク(インク1とインク2との混合比率が50:50の混合インク)を吐出して、混合層28−3を形成する。
【0136】
混合層28−2が半乾燥状態であるため、その上に形成された混合層28−3のインクの溶媒は、混合層28−2に受容される。更に、混合層28−3についても半乾燥させる。
【0137】
このように、各混合インクをインク2の混合比率が多い順(インク1の混合比率が少ない順)に吐出して各混合層(28−2〜28−4)を積層し、最後にインクジェットヘッド50−5によりインクタンク60−5から供給されるインク1(インク1とインク2との混合比率が100:0のインク)を吐出して、インク1が100%の層28−5(インク1の層)を形成する(図8(c))。
【0138】
全ての層を形成終了後、図1に示すようなインク2が100%からインク1が100%の組成成分比を有する組成傾斜膜3が形成される。
【0139】
また、各層の形成工程において、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量は安定吐出の観点から、0.5〜150pLとすることが好ましく、0.7〜130pLがより好ましく、1〜100pLが更に好ましい。
各層の形成工程において、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径は良好な膜形成性の観点から、2〜450μmとすることが好ましく、5〜350μmがより好ましく、10〜250μmが更に好ましい。
【0140】
以上説明したように、混合インクを用いて、組成傾斜膜を形成することができる。本実施形態のインク混合法によれば、インクの段階で充分に混合されているため、傾斜の変化の精度が高い組成傾斜膜を作製することができる。また、描画混合法による実施形態と比較すると、2種類の機能性インクを拡散混合する時間が不要となるため、プロセス時間が短くて済むという利点がある。
【0141】
本実施形態では、インク1とインク2との混合層を3層形成したが、層の数はこれに限定されるものではなく、それぞれのインクの混合比率が傾斜されるように積層できれば何層でもよい。なお、形成する層の数だけインクタンクとインクジェットヘッドを用意する必要がある。
【0142】
更に、本実施形態では、インク2が100%からインク1が100%の組成成分比を有する組成傾斜膜3を形成したが、インク2が100%又はインク1が100%の組成成分比を採用する必要性は必ずしもなく、組成傾斜膜3が得られる範囲のものであれば、上記組成成分比を任意に変更することができる。
上記組成成分比は、得ようとする組成傾斜膜の密着性や生体適合性等の特性により適宜調節することが可能である。
【実施例】
【0143】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれによっていささかも限定して解釈されるものではない。
【0144】
<実施例1−1>
(重合性化合物を含有するインク組成物(硬化性樹脂インク(以下“密着性インク”と呼ぶ)の作製)
【0145】
〜密着性インクA1〜
N−ビニルカプロラクタム(SIGMA−ALDRICH製) 50g
ジプロピレングリコールジアクリレート(Akcros社製) 40g
IRGACURE 184(BASF社製) 4g
Lucirin TPO (BASF社製) 6g
【0146】
上記素材を1Lの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温40℃以下を保ち、20分攪拌した。その後、2μmのフィルターにて濾過し、密着性インクA1を作製した。
【0147】
〜密着性インクA2〜A9〜
密着性インクA1におけるN−ビニルカプロラクタム(モノマー材料(I))及びジプロピレングリコールジアクリレート(モノマー材料(II))を、下記表1の実施例1−5〜1−12に記載の密着性インク構成材料に変更した以外は、密着性インクA1と同様にして密着性インクA2〜A9をそれぞれ作製した。
【0148】
(ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物(硬化性生体適合性インク(以下“生体適合性インク”と呼ぶ)の作製)
〜生体適合性インクB1〜
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC) 80g
ジエチレングリコールジアクリレート(Akcros社製) 10g
IRGACURE 184(BASF社製) 4g
Lucirin TPO (BASF社製) 6g
【0149】
上記素材を1Lの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温40℃以下を保ち、20分攪拌した。その後、2μmのフィルターにて濾過し、生体適合性インクB1を作製した。
【0150】
〜生体適合性インクB2、B3〜
生体適合性インクB1における2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を、下記表1の実施例1−3及び1−4に記載の生体適合性インク材料に変更した以外は、生体適合性インクB1と同様にして生体適合性インクB2及びB3をそれぞれ作製した。
【0151】
(組成傾斜膜を有する生体適合性部材の形成)
コバルトクロム合金基材(ダンコバルト中硬タイプ、日本歯科金属(株)製)上に、下記インクジェット描画法Aにより、厚さ10μmの組成傾斜膜を有する生体適合性部材を形成し、該組成傾斜膜と前記基材との密着性、親水性、耐水性及び抗血栓・細胞非吸着性を評価した。
【0152】
〜インクジェット描画法A〜
図3に示すようなインクタンク1、インクタンク2に生体適合性インクB1、密着性インクA1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド1、インクジェットヘッド2に供給されるインクは、それぞれ生体適合性インクB1、密着性インクA1である。
はじめに、インクジェットヘッド2からの吐出されるインク滴の液適量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御し、窒素ガス雰囲気中でインクジェットヘッド2から密着性インクA1を吐出させた。ここで、インクジェットヘッド1からは生体適合性インクB1を吐出させないで(即ち、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量とインクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)が100:0)としてインク層1を形成し、活性エネルギー線により半硬化させた。具体的には、全硬化に与えるエネルギーよりも少ないエネルギー(メタルハライドランプ使用で、積算露光量1000mJ/cm)で硬化を行った。
続いて、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量と、インクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)を75:25(インク層2)、50:50(インク層3)、25:75(インク層4)、0:100(インク層5)と変化させて積層とインクA1層と同様の半硬化を繰り返し、最終的に全硬化(メタルハライドランプ使用で、積算露光量5000mJ/cm)させ、組成傾斜膜を有する生体適合性部材を形成した。
ここで、インク層2形成時のインクジェットヘッド1から吐出させる生体適合性インクB1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとし、インクジェットヘッド2から吐出させる密着性インクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。インク層3形成時には、生体適合性インクB1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、密着性インクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。インク層4形成時には、生体適合性インクB1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、密着性インクA1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとした。インク層5形成時には、生体適合性インクB1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。また、全硬化後のインク層1〜5の膜厚はそれぞれ2μmとなるようにした。
【0153】
(評価)
<密着性>
作製した生体適合性部材に対し、クロスハッチテスト(EN ISO2409)を実施した。評価基準については、ISO2409に準拠し、結果は0〜5点の点数評価で示した。上記評価基準においては、0点が最も密着性が高く、5点が最も密着性が低い評価である。
【0154】
<親水性>
協和界面科学株式会社製DropMaster500を用いて、生体適合性部材の組成傾斜膜表面における空中水滴接触角を測定した。
【0155】
<耐水性>
120cmサイズの生体適合性部材を、水中で加重1kgをかけながらスポンジ(PSスポンジ、富士フイルム株式会社製)で10回往復するようにこする処理を行い、その前後の生体適合性部材の質量変化から残膜率を測定し、耐水性の指標とした。残膜率は、具体的には、以下の計算式により算出した。
残膜率(%)={(こすり処理後の生体適合性部材の質量)/(こすり処理前の生体適合性部材の質量)}×100
【0156】
<抗血栓・細胞非吸着性>
血栓生成及び細胞吸着のトリガーとなるタンパク質(フィブリノーゲン)吸着量を以下に記載するようにして評価し、抗血栓・細胞非吸着性の指標とした。
生体適合性部材から切り取った1cmの試験片を5cm直径のシャーレに入れ、続いて濃度1g/Lのアルブミン水溶液を約10ml入れ、24h、20℃環境下で保管した。その後、水洗しアルブミン吸着量を測定した。測定したアルブミン吸着量から、以下の3段階で評価した。
○:0.1μg/cm未満
△:0.1μg/cm以上〜0.3μg/cm未満
×:0.3μg/cm以上
【0157】
実施例1−1で形成した生体適合性部材の評価結果を、下記表1に示す。
【0158】
<実施例1−2>
実施例1−1で用いた密着性インクA1と生体適合性インクB1とを混合したインクG1(混合比(質量%)A1:B1=75:25)、G2(混合比(質量%)A1:B1=50:50)、G3(混合比(質量%)A1:B1=25:75)を作製し、A1及びB1を含めた5種のインクをそれぞれ計5個のプリントヘッドを用い、コバルトクロム合金基材上にA1(最下層)、G1、G2、G3、B1(最上層)の順にて、下記のインクジェット描画法Bにより膜厚が10μmの組成傾斜膜を有する生体適合性部材を形成し、上記実施例1−1と同様にして、該組成傾斜膜と前記基材との密着性、親水性、耐水性、抗血栓・細胞非吸着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0159】
〜インクジェット描画法B〜
図7に示すインクタンク60−1〜60−5にインクA1、G1、G2、G3、B1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド50−1〜50−5に供給されるインクは、それぞれインクA1、G1、G2、G3、B1である。
はじめにインクジェットヘッド50−1よりインクA1を、インクジェットヘッドから吐出されるインク滴の液滴量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御しながら、窒素ガス雰囲気中で吐出させた。
このように形成したインクA1層を、活性エネルギー線により半硬化させた。具体的には、全硬化に与えるエネルギーよりも少ないエネルギー(メタルハライドランプ使用で、積算露光量1000mJ/cm)で硬化を行った。
次に、インクジェットヘッド50−2から同様にインクG1を吐出し、インクG1層を積層、インクA1層と同様に半硬化させた。これを、インクG2、G3、B1についても繰り返し、積層と半硬化を繰り返し、最終的に全硬化(メタルハライドランプ使用で、積算露光量5000mJ/cm)させることで組成傾斜膜を作製した。
なお、全硬化後のインク層A1、G1、G2、G3、B1の膜厚はそれぞれ2μmとなるようにした。
【0160】
<実施例1−3〜1−12>
生体適合性インク及び密着性インクを下記表1に記載のものに置き換え、その他は実施例1−1と同様の方法で、膜厚が10μmの組成傾斜膜を有する生体適合性部材を形成し、該組成傾斜膜と前記基材との密着性、親水性、耐水性及び抗血栓・細胞非吸着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0161】
<比較例1>
実施例1−1で用いた生体適合性インクB1のみを用いて、コバルトクロム合金基材上に、1層のみから構成される膜厚が10μmの抗血栓・細胞非吸着性膜をインクジェット描画により作成し、実施例1−1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0162】
<比較例2>
密着性インクA1をコバルトクロム合金基材上にバーコート塗布後UV硬化し作成した膜(膜厚5μm)上に、実施例1−1で用いた生体適合性インクB1を用いて、1層のみから構成される膜厚が5μmの抗血栓・細胞非吸着性膜をインクジェット描画により作成し、実施例1−1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0163】
【表1】


【0164】
なお、実施例1−1〜1−12の生体適合性部材の組成傾斜膜の組成をXPS分析により、前記1)ホスホリルコリン基を有する化合物と前記2)重合性化合物の重合体との総質量に対する、前記1)ホスホリルコリン基を有する化合物の質量が占める割合を、基材に最も近い側から膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも1%以上、50%以下であった。
実施例1−1〜1−12の生体適合性部材は、基材と組成傾斜膜との密着性、親水性、耐水性、抗血栓・細胞非吸着性が良好であり、各種インクジェット法A(描画混合法)及びB(インク混合法)により作成した組成傾斜膜を有する生体適合性部材の抗血栓・細胞非吸着機能が実用上も有効であることが示された。すなわち、2種のインクジェット法のどちらの方法でも十分な機能を有する抗血栓・細胞非吸着表面が形成可能であった。また、密着性に関しては、N−ビニルラクタム類を含有する密着性インクを使用した実施例が、N−ビニルラクタム類を含有しない密着性インクを使用した実施例より、密着性において更に良好な性能を示した。本現象はN−ビニルラクタム類が金属基材との配位相互作用により密着性が良好なことに加え、組成傾斜膜内の凝集力が高く強固な膜が形成されていると考えられる。更に、ホスホリルコリン基を有する抗血栓・細胞非吸着表面も架橋構造により密着性インク材料部分と相互進入網目(IPN)構造を形成することで高い耐水性を維持している。
一方、比較例1のように、本発明に用いた生体適合性インクのみを用い通常のインクジェット描画により膜を形成した場合、そのような膜は親水性膜のため基材との密着が発現せず、すぐ剥離する。また、比較例2では生体適合性インクと密着性インクを積層しているため、十分な基材への密着は示すが異種界面が存在することで層内での凝集破壊が起こり膜としての密着強度は弱く、同時に高い耐水性、良好な抗血栓・細胞非吸着特性が得られない。
【0165】
<実施例2−1>
(オリゴマー又はポリマー化合物を含有するインク組成物(オリゴマー/ポリマー密着インク(以下“密着性インク”と呼ぶ)の作製)
〜密着性インクC1〜
ウレタンオリゴマーUN−1225(根上工業(株)製) 50g
Cyclohexanon (和光純薬(株)製) 450g
【0166】
上記素材を2Lの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温40℃以下を保ち、20分攪拌した。その後、2μmのフィルターにて濾過し、密着性インクC1を作成した。
【0167】
〜密着性インクC2〜C7〜
密着性インクC1におけるウレタンオリゴマーUN−1225(根上工業(株)製)を、下記表2の実施例2−5〜2−10に記載の密着性インク構成材料に変更した以外は、密着性インクC1と同様にして密着性インクC2〜C7をそれぞれ作製した。
【0168】
(ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物(以下“生体適合性インク”と呼ぶ)の作製)
〜生体適合性インクD1〜
<抗血栓・細胞非吸着(生体適合性)ポリマーaの作成>
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC) 94g
ジエチレングリコールジメタクリレート(東京化成(株)製) 2g
VA061(和光純薬(株)製) 4g
メトキシエタノール(和光純薬(株)製) 150g
イオン交換水 50g
【0169】
上記VA061以外を1L四ツ口フラスコにすべて投入し、窒素気流下で75℃に加温し30分攪拌した。
その後、ラジカル重合開始剤VA061を2g投入し、窒素気流下、75℃にて4時間重合反応した。引き続きラジカル重合開始剤VA061を1g投入し、75℃にて2時間重合反応し、更にラジカル重合開始剤VA061を1g投入し、85℃まで昇温し、85℃で2時間重合反応した。その後、室温まで冷却し、5Lステンレス容器に3Lのメタノールを投入し、攪拌しながら作成したポリマー溶液を滴下し、再沈殿精製をおこない、真空乾燥後、約90gのポリマーを得た。
【0170】
抗血栓・細胞非吸着(生体適合性)ポリマーa 50g
Cyclohexanon (和光純薬(株)製) 450g
【0171】
上記素材を2Lの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温40℃以下を保ち、20分攪拌した。その後、2μmのフィルターにて濾過し、生体適合性インクD1を作成した。
【0172】
〜生体適合性インクD2、D3〜
生体適合性インクD1における抗血栓・細胞非吸着(生体適合性)ポリマーaを、下記表2の実施例2−3及び2−4に記載の抗血栓・細胞非吸着(生体適合性)ポリマーに変更した以外は、生体適合性インクD1と同様にして生体適合性インクD2及びD3をそれぞれ作製した。
なお、表2の実施例2−3及び2−4に記載の抗血栓・細胞非吸着(生体適合性)ポリマーは、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)に代えて2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン及び4−メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリンをそれぞれ使用した以外は、抗血栓・細胞非吸着(生体適合性)ポリマーaと同様にして作製した。
【0173】
(組成傾斜膜を有する生体適合性部材の形成)
コバルトクロム合金基材(ダンコバルト中硬タイプ、日本歯科金属(株)製)上に、下記インクジェット描画法Cにより、厚さ10μmの組成傾斜膜を有する生体適合性部材を形成し、上記実施例1−1と同様にして、該組成傾斜膜と前記基材との密着性、親水性、耐水性、抗血栓・細胞非吸着性を評価した。
【0174】
〜インクジェット描画法C〜
図3に示すようなインクタンク1、インクタンク2に生体適合性インクD1、密着性インクC1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド1、インクジェットヘッド2に供給されるインクは、それぞれ生体適合性インクD1、密着性インクC1である。
はじめに、インクジェットヘッド2からの吐出されるインク滴の液適量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御し、窒素ガス雰囲気中でインクジェットヘッド2から密着性インクC1を吐出させた。ここで、インクジェットヘッド1からは生体適合性インクD1を吐出させないで(即ち、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量とインクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)が100:0)としてインク層1を形成し、80℃30秒間乾燥し、半乾燥させた。
続いて、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量と、インクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)を75:25(インク層2)、50:50(インク層3)、25:75(インク層4)、0:100(インク層5)と変化させて積層とインク層1と同様の半乾燥を繰り返し、最終的に全乾燥(110℃60秒間)させ、組成傾斜膜を有する生体適合性部材を形成した。
ここで、インク層2形成時のインクジェットヘッド1から吐出させる生体適合性インクD1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとし、インクジェットヘッド2から吐出させる密着性インクC1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。インク層3形成時には、生体適合性インクD1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、密着性インクC1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。インク層4形成時には、生体適合性インクD1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、密着性インクC1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとした。インク層5形成時には、生体適合性インクD1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。また、全乾燥後のインク層1〜5の膜厚はそれぞれ2μmとなるようにした。
【0175】
実施例2−1で形成した生体適合性部材の評価結果を、下記表2に示す。
【0176】
<実施例2−2>
実施例2−1で用いた密着性インクC1と生体適合性インクD1とを混合したインクH1(混合比(質量%)C1:D1=75:25)、H2(混合比(質量%)C1:D1=50:50)、H3(混合比(質量%)C1:D1=25:75)を作製し、C1及びD1を含めた5種のインクをそれぞれ計5個のプリントヘッドを用い、コバルトクロム合金基材上にC1(最下層)、H1、H2、H3、D1(最上層)の順にて、下記のインクジェット描画法Dにより膜厚が10μmの組成傾斜膜を有する生体適合性部材を形成し、上記実施例1−1と同様にして、該組成傾斜膜と前記基材との密着性、親水性、耐水性、抗血栓・細胞非吸着性を評価した。結果を下記表2に示す。
【0177】
〜インクジェット描画法D〜
図7に示すインクタンク60−1〜60−5にインクC1、H1、H2、H3、D1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド50−1〜50−5に供給されるインクは、それぞれインクC1、H1、H2、H3、D1である。
はじめにインクジェットヘッド50−1よりインクC1を、インクジェットヘッドから吐出されるインク滴の液滴量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御しながら、窒素ガス雰囲気中で吐出させた。
このように形成したインクC1層を、80℃30秒間乾燥し、半乾燥させた。
次に、インクジェットヘッド50−2から同様にインクH1を吐出し、インクH1層を積層、インクC1層と同様に半乾燥させた。これを、インクH2、H3、D1についても繰り返し、積層と半乾燥を繰り返し、最終的に全乾燥(110℃60秒間)させることで組成傾斜膜を作成した。
なお、全乾燥後のインク層C1、H1、H2、H3、D1の膜厚はそれぞれ2μmとなるようにした。
【0178】
<実施例2−3〜2−10>
生体適合性インク及び密着性インクを下記表2に記載のものに置き換え、その他は実施例2−1と同様の方法で、膜厚が10μmの組成傾斜膜を有する生体適合性部材を形成し、該組成傾斜膜と前記基材との密着性、親水性、耐水性、抗血栓・細胞非吸着性を評価した。結果を下記表2に示す。
【0179】
<比較例3>
実施例2−1で用いた生体適合性インクD1のみを用いて、コバルトクロム合金基材上に、1層のみから構成される膜厚が10μmの抗血栓・細胞非吸着性膜をインクジェット描画により作成し、実施例2−1と同様に評価を実施した。結果を下記表2に示す。
【0180】
<比較例4>
密着性インクC1をコバルトクロム合金基材上にバーコート塗布後乾燥し作成した膜(膜厚2μm)上に、実施例2−1で用いた生体適合性インクD1を用いて、1層のみから構成される膜厚が2μmの抗血栓・細胞非吸着性膜をインクジェット描画により作成し、実施例2−1と同様に評価を実施した。結果を下記表2に示す。
【0181】
【表2】

【0182】
なお、実施例2−1〜2−10の生体適合性部材の組成傾斜膜の組成をXPS分析により、前記1)ホスホリルコリン基を有する化合物と前記2)オリゴマー若しくはポリマー化合物との総質量に対する、前記1)ホスホリルコリン基を有する化合物の質量が占める割合を、基材に最も近い側から膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも1%以上、50%以下であった。
実施例2−1〜2−10の生体適合性部材は、基材と組成傾斜膜との密着性、親水性、耐水性、抗血栓・細胞非吸着性が良好であり、各種インクジェット法C(描画混合法)及びD(インク混合法)により作成した組成傾斜膜を有する生体適合性部材の抗血栓・細胞非吸着機能が実用上も有効であることが示された。すなわち、2種のインクジェット法のどちらの方法でも十分な機能を有す抗血栓・細胞非吸着表面が形成可能であった。また、密着性に関しては、ウレタンオリゴマー類を含有する密着性インクを使用した実施例が、ウレタンオリゴマー類を含有しない密着性インクを使用した実施例より、密着性において更に良好な性能を示した。本現象はウレタンオリゴマー類が金属基材との水素結合若しくは配位結合のような相互作用を示すことにより密着性が良好であることに加え、組成傾斜膜内の凝集力が高く強固な膜が形成されていると考えられる。更に、ホスホリルコリン基を有する抗血栓・細胞非吸着表面も架橋構造により密着性インク材料部分と相互進入網目(IPN)構造を形成することで高い耐水性を維持している。
一方、比較例3のように、本発明に用いた生体適合性インクのみを用い通常のインクジェット描画により膜を形成した場合、そのような膜は親水性膜のため基材との密着が発現せず、すぐ剥離する。また、比較例4では生体適合性インクと密着性インクを積層しているため、十分な基材への密着は示すが異種界面が存在することで層内での凝集破壊が起こり膜としての密着強度は弱く、同時に高い耐水性、良好な抗血栓・細胞非吸着特性が得られない。
【符号の説明】
【0183】
1 生体適合性部材
2 基材
3 組成傾斜膜
10 描画部
100 組成傾斜膜作製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に設けられ、下記1)及び2)を含む膜とを有する生体適合性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ2)の比率が小さくなるように1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、生体適合性部材。
1)ホスホリルコリン基を有する化合物。
2)重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物。但し、前記2)重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物はホスホリルコリン基を有さない。
【請求項2】
前記組成傾斜膜の膜厚が1μm以上であり、
前記組成傾斜膜における、前記1)ホスホリルコリン基を有する化合物と前記2)重合性化合物の重合体、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物との総質量に対する、前記1)ホスホリルコリン基を有する化合物の質量が占める割合を、基材に最も近い側から膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも1%以上、50%以下である、請求項1に記載の生体適合性部材。
【請求項3】
前記重合性化合物、又は、オリゴマー若しくはポリマー化合物が1分子内に2個以上の重合性官能基を有する、請求項1又は2に記載の生体適合性部材。
【請求項4】
前記1)ホスホリルコリン基を有する化合物が、2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン又はその重合体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体適合性部材。
【請求項5】
前記2)が重合性化合物の重合体であり、該重合性化合物がN−ビニル化合物及び(メタ)アクリレート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の生体適合性部材。
【請求項6】
前記重合性化合物が、N−ビニル化合物としてN−ビニルカプロラクタムを含む、請求項5に記載の生体適合性部材。
【請求項7】
前記重合性化合物中のN−ビニルカプロラクタムの含有量が40質量%以上である、請求項6に記載の生体適合性部材。
【請求項8】
前記2)が重合性化合物の重合体であり、該重合性化合物を活性エネルギー線により重合し、硬化することにより形成される重合体である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の生体適合性部材。
【請求項9】
前記2)がオリゴマー又はポリマー化合物であり、該オリゴマー又はポリマー化合物がウレタン結合を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の生体適合性部材。
【請求項10】
ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物との少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の生体適合性部材の形成方法。
【請求項11】
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物を、第1のインクとして第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物を、第2のインクとして第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、請求項10に記載の生体適合性部材の形成方法。
【請求項12】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量が0.3〜100pLである、請求項11に記載の生体適合性部材の形成方法。
【請求項13】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径が1〜300μmである、請求項11又は12に記載の生体適合性部材の形成方法。
【請求項14】
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
第1のインクとしての前記ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、第2のインクとしての前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物とが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備える、請求項10に記載の生体適合性部材の形成方法。
【請求項15】
前記形成工程において、前記選択されたインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量が0.5〜150pLである、請求項14に記載の生体適合性部材の形成方法。
【請求項16】
前記形成工程において、前記選択されたインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径が2〜450μmである、請求項14又は15に記載の生体適合性部材の形成方法。
【請求項17】
ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物との少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出することにより形成される生体適合性部材であって、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物を、第1のインクとして第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物を、第2のインクとして第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の生体適合性部材。
【請求項18】
ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物との少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出することにより形成される生体適合性部材であって、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
第1のインクとしての前記ホスホリルコリン基を有する化合物を含有するインク組成物と、第2のインクとしての前記重合性化合物又はオリゴマー若しくはポリマー化合物を含有するインク組成物とが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備える、請求項1〜9のいずれか一項に記載の生体適合性部材。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−70796(P2013−70796A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211329(P2011−211329)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】