説明

生分解性表土保護シートおよび植生シート

【課題】表土保護シートに、使用期間中は強度を維持して不具合なく使用でき、使用後は速やかに土中や水中の微生物によって、他に害を与えることなく自然環境下で分解され、最終的に水と二酸化炭素になる性質を付与する。
【解決手段】太さが1〜30デシデックス、長さが20〜80mmのポリ−乳酸繊維と竹繊維をランダムに交絡させ、厚みが5mm〜40mm、空隙率が90%以上、内部空間の面方向に導水路を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性表土保護シートおよび植生シートに関し、更に詳しくは、道路建設や宅地・農地・公園開発などによって生ずる裸地や法面、或いは荒廃裸地等の土壌侵食防止を図る生分解性表土保護シート、および植生を良好に行える生分解性植生シートに関する。
【0002】
本明細書で使用する用語「生分解性プラスチック」を、従来の汎用成形機で成形でき、現行の汎用樹脂と同等の機能を有し、使用期間中は強度を維持して不具合なく使用でき、使用後は速やかに土中や水中の微生物によって、他に害を与えることなく自然環境下で分解され、最終的に水と二酸化炭素になるプラスチックと定義する。
【背景技術】
【0003】
現在、軟弱地盤表層処理用、不等沈下防止用、洗掘吸出防止用、盛土・地盤改良用、鉄道・路床・路盤用、法面被覆保護用等多種多様な土木用シートが使用されている。いずれも、ポリエステルまたはポリプロピレンの長繊維の不織布または織布の単層、または熱可塑性樹脂層、合成ゴム層などとの多層構造体である。
【0004】
また、荒廃山地または荒廃の恐れのある山地に対し、土木的工事を行って、森林機能の回復を図る工事として、一般に、荒廃山地における森林の復元工事、または山腹緑化工事と言われる工事が行われている。
【0005】
山腹緑化工事の途中の工事の一つに「防風工」がある。これは、風が植物におよぼす物理的影響、生理学的障害を回避するために行う工事であって、通常、化繊ネット、植物材料(タケ、ヨシ、わら、枝条、板等)を使用する。
【0006】
また、山腹緑化工事の途中の工事の一つに「伏工」がある。伏工は、被覆工とも言われ、本来は、植栽木の根本を、侵食および乾燥から保護することを目的として、各種の材料で表土を覆い、植物の生育を維持する工事である。従来、材料によって、わら伏工、粗朶伏工、カヤ伏工、ムシロ張(伏)工、植生シート張工(種肥付ムシロまたは化繊シート等)、植生マット張工(種肥付ムシロまたは化繊マット等)などがある。
【0007】
本発明の明細書では、「植生シート」および「植生マット」の両者を含めて、「表土保護シート」と呼称する。
【0008】
植生工事または山腹緑化工事の防風工または伏工に使用して、土壌侵食防止を図ると共に、植生を良好に行える表土保護シートとしては、種々のものが提案されている。
【0009】
表土保護シートの第1の要件は、シート内部を面方向に水が層流として流れる導水路が形成され、それによって、土壌の表層の侵食を防止できることである。第2の要件は、シートが水や土と接触する比表面積が大きくなり、土壌面に対する追随性が良好で、シートの下面が、土壌の粒子によく絡まり、シートと土壌の一体・密着度が大きいことである。第3の要件は、シートの下方に設けてある緑化用培地組成物体に、植生に必要な水分や酸素の補給ができ、有効微生物の生育、その他の生育条件を維持できることである。第4の要件は、降雨水等の水との接触、或いは経時変化によるシートの弾性の低下に起因する「へたり」が防止でき、長期間にわたって嵩高を維持でき、保水性、保湿性に富み、植物の根張りを増進できることである。第5の要件は、土壌面に敷設した際、降雨水等の流下水や土壌飽和水が、土壌表面を流水するのを防止し、種子や培地が流出するのを防止でき、十分な植生環境を形成できることである。第6の要件は、シート内に形成される導水路内の繊維と水との境膜剥離抵抗が小さく、水が導水路内を層流状態でスムーズに流れることである。
【0010】
本発明者らも、このような要件を満たす石油由来の合成繊維であるポリエステル繊維等撥水性繊維によるシート状体を開発し、特許を取得している。(特許文献1「特許第2764222号公報」及び、特許文献2「特許第2893050号公報」)。
【0011】
本発明者らが開発し、実用化してきた特許文献1及び特許文献2に記載されている表土保護シートは、ファイバーウェブシートであって、繊維間同士が十分な空間を保持して絡み合い、かつ、その繊維が、低密度ランダムウェブで柔軟性を保有した構成よりなる多機能フィルターである。
【0012】
本発明者らが開発し、実用化してきた多機能フィルターは、前記表土保護シートに必要な要件を総て備えており、原料が石油由来ポリエステル繊維であるので、物理的、化学的にきわめて安定であり、すぐれた加工性および性能のために、広く普及している。
【0013】
しかしながら、石油由来繊維は、物理的および化学的にきわめて安定である点が、諸刃の刃となり、廃棄物処理問題での不具合や自然環境破壊、いわゆるプラスチック公害問題の一つとなっていることも否めない。
【0014】
従って、近年の地球温暖化や環境問題、エネルギー資源の問題や資源リサイクルの観点から、石油由来の合成繊維と同等の加工性や物性を保有しながら、天然繊維と同様に、自然界の微生物によって分解する生分解性繊維や天然繊維による表土保護シートの開発が望まれている。
【特許文献1】特許第2764222号公報
【特許文献2】特許第2893050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、発明が解決しようとする主たる課題は、表土保護シートに、使用期間中は強度を維持して、不具合なく使用でき、使用後は、速やかに土中や水中の微生物によって、他に害を与えることなく、自然環境下で分解され、最終的に、水と二酸化炭素になる性質を付与することである。
【0016】
発明が解決しようとする別の課題は、表土保護シートに、使用期間中は強度を維持して不具合なく使用でき、使用後は速やかに土中や水中の微生物によって、他に害を与えることなく、自然環境下で分解され、最終的に水と二酸化炭素になる性質を付与することができ、従来の汎用成形機で成形でき、現行の汎用樹脂と同等の機能を有し、使用期間中は、強度を維持して、不具合なく使用でき、使用後は速やかに土中や水中の微生物によって、他に害を与えることなく、自然環境下で分解され、最終的に、水と二酸化炭素になる生分解性繊維を策定することである。
【0017】
発明が解決しようとするさらに別の課題は、使用期間中は、強度を維持して不具合なく使用でき、使用後は、速やかに土中や水中の微生物によって、他に害を与えることなく、自然環境下で分解され、最終的に、水と二酸化炭素になる性質を有する生分解性繊維と併用することにより、相乗効果を奏功する天然繊維を策定することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
表土保護シートの重要な使用目的の一つとして、降雨による表土表面の侵食の抑制がある。このために必要とされる表土保護シートの機能は、雨水の表面掃水力と、限りなく100%に近い空隙率(抵抗が少ないこと)、および地面との密着性が良好であることが、主な点である。即ち、降った雨は、一旦保護シートを通して、法面の一定の深さまで浸透するが、飽和状態になった時点からの降雨水は、シート(ウェブ)内部又は表面を流下する構造が望ましい。この場合、ウェブの抵抗が小さく(空隙率が大)、かつ地表面とウェブの密着性が高いことが望ましい。
【0019】
従って、表土保護シートに要求される構造は、降雨に対しては雨滴衝撃に強くて、一定の強度と厚みを保っていること、かつ繊維が表土と強固に絡んで一体化して、地表面の土砂の微動を防止することである。
【0020】
一方、シート下部から植物による緑化を図るためには、発芽した種子から、枝葉がウェブ層を通り、ウェブ表面に貫通し密着しなければならず、この場合、ウェブ層の繊維同士は比較的ゆるく交絡することが大切である。
【0021】
即ち、雨水による侵食防止と緑化に対しては、相反する機能・構造を同時に満足する条件領域の設定が必要となる。
【0022】
従来、生分解性素材として、各種セルロース繊維が使用されてきた。天然セルロース繊維としては、綿花、ボンバックス綿、カポック等種子毛繊維、麻、亜麻、黄麻、ラミー、コウゾ、ミツマタ等ジン皮繊維、マニラ麻、ニュージーランド麻等葉繊維、針葉樹、広葉樹の繊維等木材繊維が例示される。また、人造セルロース繊維としては、ビスコース人絹絹糸、銅アンモニヤレーヨン、フォルチザン、硝酸人絹等再生セルロース繊維、アセテート人絹等半合成繊維が例示される。
【0023】
セルロース繊維は、グルコースがβー1.4−グルコシドと結合した多糖類で、繰り返し単位中に多くの親水基を有し、吸湿性が高い。従って、降雨により、繊維同士が接着し、ウェブ層の抵抗が大きくなり侵食防止、ならびに植物の貫通阻害となることがある。従って、セルロース系繊維で製造した表土保護シ−トを、単独使用する場合は、使用期間、使用箇所、使用目的等使用態様によって、適宜選択することが要求される。
【0024】
その他、本発明で使用に適する生分解性プラスチックを構成している結合と、O/C比を表1にまとめた。
【表1】

【0025】
生分解性プラスチックは、自然環境に多量に存在している水と反応して、切断される、いわゆる加水分解機構を利用するものが多い。この加水分解反応は、環境中では酵素により触媒され促進される。また、酵素による加水分解の他に酵素酸化されるものが考えられる。加水分解されやすい結合としては、エステル、カーボネート、エーテル、アミド、ウレタン等の酸素原子を含む結合が利用されている。また、分解中間物が生物の代謝経路で分解されるためには、脂肪族系の物質が好ましく、さらには、構成単位が炭素数6以下の含酸素量の多いプラスチックが、酸化を受けやすいので、好ましい。そのために、O/C比が0.3〜1.0の範囲が好ましい。
【0026】
従って、本発明で好ましく使用される生分解性プラスチックは、エステル、カーボネート、エーテル、アミド、ウレタン等の酸素原子を含む加水分解性基を有し、構成単位が炭素原子数6以下の脂肪族系で含酸素量の多く、O/C比が0.3〜1.0の範囲のプラスチックが好ましい。
【0027】
低分子脂肪族化合物は、一般に代謝されやすく、分解中間物の分解性がよく、容易に炭酸ガスと水になる。このように、低分子脂肪族化合物を構成成分とし、酸素分子を結合中に含む含酸素量の多いプラスチックは、本質的に生分解性である。従って、本発明で好ましく使用される生分解性プラスチックは、低分子脂肪族化合物を構成成分とし、酸素分子を結合中に含む含酸素量の多いプラスチックである。
【0028】
脂肪族ポリエステルは、その構成分子により物性が大きく異なる。表2に代表的な脂肪族ポリエステルの熱および機械的物性を示す。
【表2】

【0029】
一般的に脂肪族ポリエステルは、融点が低いが、この原因として、エステル結合は、極性が低く、また側鎖に官能基を持たないために分子間相互作用が弱いことが考えられる。しかし、表2に示したPCl, PBS, PHB/V, PLLAは、常温より融点が高い。ここに示した脂肪族ポリエステルは、耐水性および成形性が高く、実用性が高い。特に、PLLA(ポリL−乳酸)のみがガラス転移点が室温以上で、室温でガラス状態なので、他のプラスチックと比較して、強度、透明性が高い。他の脂肪族ポリエステルが、ポリエチレン、ポリプロピレン等に類似した物性を示すのに対し、PLLAは、ポリスチレンやポリエチレンテレフタレート(PET)等の物性に近い。この点からも、PLLAは、表土保護シートのように幅広い物性が要求される用途にとって、重要な生分解性プラスチックである。
【0030】
従って、本発明で好ましい生分解性プラスチックの具体的な例は、ポリL−乳酸、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(ε−カプロラクタム)、ポリブチレンサクシネートであり、中でもポリL−乳酸が最も好ましい。
【0031】
次に、PLLAの基本物性を、他のプラスチックと比較して、表3に示す。
【表3】

【0032】
表3から明らかなように、PLLAは、ポリエチレン(LDPE、HDPE)およびポリプロピレン(PP)に比べ、引っ張り、曲げともに、強度、弾性率が高く、伸びの小さな材料であり、ポリスチレン(PS)様の物性であることがわかる。しかし、耐衝撃強度が低く、軟化点も60℃と比較的低い。これらの欠点を改善する方法として延伸加工がある。PLLAは結晶性が高く、延伸による配向結晶化が可能である。配向結晶化したPLLAは、透明性を保持し、軟化点が融点付近となり、強度も未延伸の場合と比較して、約3倍程度増加する。
【0033】
次にPLLAの繊維加工性に付いて説明する。PLLAは、高速溶融紡糸が可能であり、フィラメント(マルチおよびモノフィラメント)、ステイプルおよびその成型品がすでに製造されている。PLLA繊維の引っ張り強度は、5g/d程度であり、PET、ナイロン等の合成繊維並の強度があり、耐熱性にも優れている。また、PLLA繊維は、従来のポリエステル繊維と比較して、弾性率が低く、しなやかな風合いがある。これは、分子鎖中に芳香族成分を含まないためである。従って、通常の繊維と同様、染色、紡績糸、織布、不織布等への加工ができる。特に、不織布に関しては、農業および土木資材分野等の応用が期待されている。土中および水中では、数ケ月程度で強度低下が観測され、レーヨン等の天然繊維に比べ緩やかな分解挙動を示す。このようにポリ乳酸繊維は、合成繊維の紡糸性・加工性と天然繊維の生分解性を併せもった繊維である。このような点から、本発明で最も好ましく使用される生分解性繊維は、ポリ−L乳酸繊維である。
【0034】
次にPLLAの水中での加水分解について説明する。PLLAを構成しているエステル結合は、加水分解反応により切断されるが、水中での加水分解はpH7.0,37℃では、30日間で数%以内の分子量および質量が減少する。温度が高くなるにつれて、加水分解反応が進行し、分子量が10%以下になる。
【0035】
次に、PLLAの酵素による加水分解について説明する。プラスチックと低分子量化学物質との微生物分解における大きな違いは、菌体外酵素の関与である。酵素の触媒作用の特徴は、高い基質特異性を示す点にある。酵素の基質的特異性は、酵素を産生する微生物の種類に依存することが多い。PCL, PHB/Vの分解の場合、リパーゼの基質特異性は、細菌由来と糸状菌(カビ等)とでは大きく異なる。糸状菌由来のリパーゼは、幅広い基質特異性を示すが、細菌由来のリパーゼの基質特異性は高く、特定のポリエステルのみを分解する。
【0036】
PLLAの場合、糸状菌由来にリパーゼの他、プロテアーゼKによる分解が報告されている(M.S. Reeve, S.P. McCarthy, M.J.Downey and R.A.Gross: Macromolecules, 27, 825-831(1994).)。また、セリンプロテアーゼであるキモトリプシンによる分解も報告されている(I.Tabushi, H.Yamada, H.matsuxzaki and J. Furukawa:J.Polym. Sci. Polym.Lett.Ed., 13, 447(1975))。このように、PLLAは、他の脂肪族エステルとは異なり、タンパク質加水分解酵素により切断される。
【0037】
次に、PLLAの微生物存在下での分解を説明する。PLLAを分解する微生物源としては、活性汚泥、土壌、堆肥がある。PLLAは、常温での活性汚泥を用いた分解実験では、分解が観測されないと報告されている。一方、堆肥化条件下での分解挙動はセルロースとは異なり、炭酸ガス発生までの誘導期間がある。さらに45日後の生分解度は、セルロースよりも大きいが、これはセルロースの一部がエネルギー代謝されず、菌体等のバイオマスとして利用されているのに対し、PLLAの場合、分解され生成した乳酸が、微生物において効率よくエネルギー代謝され、炭酸ガスに変換されるためである。一方、PHB, PHB/V, PCL, PBS等の脂肪族ポリエステルは、セルロース型の分解挙動を示す。
【0038】
以上の結果から、結論として、下記のことが言える。
本発明で好ましく使用される生分解性プラスチックは、低分子脂肪族化合物を構成成分とし、酸素分子を結合中に含む含酸素量の多いプラスチックである。
【0039】
本発明で使用するのにより好ましい生分解性プラスチックは、エステル、カーボネート、エーテル、アミド、ウレタン等の酸素原子を含む加水分解性基を有し、構成単位が炭素原子数6以下の脂肪族系で含酸素量が多く、O/C比が0.3〜1.0の範囲のものである。
【0040】
本発明で使用するのにさらに好ましい生分解性プラスチックの具体例は、ポリL−乳酸、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(ε−カプロラクタム)、ポリブチレンサクシネートである。
【0041】
本発明で使用するのに最も好ましい生分解性プラスチックの具体例は、ポリL−乳酸である。
【0042】
本発明は、生分解性繊維を単独で使用することを基本発明とする。しかしながら、生分解性繊維は、柔軟性に欠け、表土面との密着性の面で不十分であり、更に、融点が170℃とポリエステル繊維の255℃に比べて低いため、繊維混紡時の製造条件幅が狭い等単独使用では難しいという間題がある。
【0043】
従って、本発明の別の態様では、生分解性繊維と天然繊維との混紡繊維とすることが好ましい。そのことにより、天然繊維の親水性の特徴を活用し、成形加工性を向上させ、柔軟性があり、表土面との密着性のよい表土保護シートが成形され、かつ製造コストを低減できる。
【0044】
本発明で使用される天然繊維としては、綿花、ボンバックス綿、カポック等種子毛繊維、麻、亜麻、黄麻、ラミー、コウゾ、ミツマタ等ジン皮繊維、マニラ麻、ニュージーランド麻等葉繊維、針葉樹、広葉樹の繊維、竹繊維等が例示される。
【0045】
本発明の表土保護シートは、生分解性繊維単独又は天然繊維との混紡繊維をランダムに絡み合わせて形成したシートであって、該繊維として、太さが1〜30デシデックス、長さが20〜80mmであり、柔軟性を有し厚みが5mm〜40mm、空隙率が90%以上で、内部空間が、面方向の導水路を形成していることを特徴とする。
【0046】
この際、天然繊維の混紡比は5〜30wt%が望ましく、更に10〜20wt%が好ましい。天然繊維の混紡比が30wt%を超えると、目的とする侵食防止機能は得られず、更に繊維の湿潤による絡みの増大に伴う発芽阻害の要因となる。又、混紡比が5wt%未満の場合には、シート状体の柔軟性付与による接地面での密着性が得られない。
【0047】
本発明の表土保護シートの下方に、緑化用培地組成物を固着することが好ましい。
【0048】
本発明で使用する緑化用培地組成物としては、土着菌根菌の菌糸体の保存性を高め、土壌の膨軟化、保水性の改善、保肥力の改善、透水性の改善、土壌のリン酸供給能の改善、土壌の団粒形成の促進に資する泥炭、バーク堆肥、腐植酸質資材、木炭、竹炭、珪藻土焼成粒、ゼオライト、バーミキュライト、パーライト、ベントナイト、VA(vesicle arbuscule)菌根菌資材、ポリエチレンイミン系資材、ポリビニルアルコール系資材、ローム層土、沖積層土、砂質土、礫質土、及びこれらの混合物から成る群から選択することが好ましい。
【0049】
本発明の表土保護シートに、各種微生物資材を組み込むことが好ましい。
【0050】
本発明で使用される微生物資としては、菌根菌がある。樹木はすべて根ではなく、菌根菌と共生することで、宿主植物は菌根菌による養分吸収が増大して成長が促進される。樹木と共生する菌根菌は、菌根菌の宿主植物根内への侵入が、主として根の細胞組織内へ侵入している内生菌根菌(endomycorrhiza)と、主として根の表面にとどまっている外生菌根菌(ectomycorrhiza)とに大別される。
【0051】
内生菌根菌の代表的なタイプは、VA菌根菌(versicular-arbuscular mycorrhiza)である。VA菌根菌は、接合菌類Glomales目の糸状菌が感染することによって形成される。これらの菌は、根皮層細胞間隙に嚢状体(vesicle)、皮層脂肪内に樹枝状体(arbuscule)と呼ばれる共生特異的器官を形成するので、それらの頭文字をとって、VA菌根菌と呼ばれている。
【0052】
VA菌根菌は、下記に例示するような作用・機能がある。
1.土壌中のリン酸の吸収を促進し、宿主植物へ供給し、その生育を促進する。
2.宿主植物の生育に対して微量要素の吸収を促進する。
3.水ストレス耐性の増大。
4.病害耐性の増大。
【0053】
外生菌根菌は、下記に例示する作用、機能により森林生態系の物質循環に大きな役割を果たしている。
1.土壌中のリン酸の吸収を促進し、宿主植物へ供給し、その生育を促進する。
2.外生菌糸による窒素の吸収と宿主植物への供給。
3.水ストレス耐性の増大。
4.病害耐性の増大。
5.土壌構造の維持。
【0054】
本発明で使用される外生菌根(ectomycorrhiza)は、マツ科(Pinaceae)、カバノ木科(Betulaceae)、ブナ科(Fagaceae)、フトモモ科(Myrtaceae)、モクマオウ科(Casuarinaceae)などに属する多くの樹種に形成される。外生菌根(ectomycorrhiza)はおもに担子菌類と子のう菌類によって形成され、細根は菌糸で覆われている。それを菌鞘という。菌鞘から菌糸や菌糸束が土壌中へ伸び、その先に子実体が形成される。
【0055】
本発明が利用する外生菌根菌は、ショウロ、コツブタケ(Pisolithus tinctorius)、ヌメリイグチ、Cenococcum geophilium、ハンノキイグチ(Gyrodon lividus)、ヒダハタケ(Paxillus inrolutus)、P.filamentosus)、ヤマイグチ(Leccinum scabrum)、Xerocomus porosporus)、Phlebopus sudanics、Cortinarius subporphyropus、ヒメワカフサタケ(Hebeloma sacchariolens)、クサウラベニタケ(Rhodophyllus rhodopolius)、マツタケ(Tircholoma)、ハツタケ(Russula)、キツネタケ属菌(Laccaria spp.)、ワカフサタケ属菌(Hebeloma spp.)、ミネシメジ(Tricholoma saponaccum)、アカゲシメジ(T.imbricatum)、テングタケダマシ(Amanita sychnopyramis f. subannulata)、ツルタケ(A. vaginata var.vaginata)、フクロツルタケ(A. volvata)、クロトマヤタケモドキ(Inocybe cincinnata)、コバヤシアセタケ(I. kobayashi)、シロトマヤタケの近縁(Inocybe Sp. 1)、クリフウセンタケ(Cortinarius spp.)、フウセンタケ属菌(Cortinarius sp. 1)、オニイグチモドキ(Strobilomyces sp.1)、クリカワヤシャイグチ(Austroboletus gracilis)、キイロイグチ(Pulveroboletus ravenelii)、キアミアシイグチ(Boletus ornatipes)、イグチ属菌(Boletus sp.1)、ニガイグチモドキ(Tylopilus sp. 1)、ニガイグチ属菌(Tylopilus sp. 1)、シロハツモドキ(Tylopilus neofellus)、イロガワリベニタケ(R.rubescens)、アカカバイロタケ(R.compacta)、クサハツモドキ(R.laurocerasi)、イロガワリシロハツ(r.metachroa)、ニセクサハツ(R.pectinatoidese)、ヤマブキハツ(R.ochroleuca)、ヒビワレシロハツ(R.alboarcolata)、ドクベニタケ(R.emetica)、カラムサキハツ(R.omiensis)、ベニタケ属菌(Russula sp. 1)、ツチカブリ(Lactarius piperatus)、チチタケ(L.volemus)、クロチチダマシ(L.gerardii)、キチチタケ(L.gerardii)、チチタケ属菌1(Lactarius sp. 1)、チチタケ属菌2(Lactarius sp. 2)、チチタケ属菌3(Lactarius sp. 3)等から、適当に選択される。ただし、これらの中には、一部子実体で示してあるので、それが外生菌根菌の学名に対応するわけではない。
【0056】
本発明で使用されるその他の微生物資材としては、植物生育促進根圏細菌(Plant Growth-Promoting Rhizobacteria:PGPR)或いは植物生育促進根圏菌(Plant Growth-Promoting Fungi:PGPF)がある。これら植物生育促進根圏細菌および植物生育促進根圏菌は、下記に例示する作用・機能がある。
1.根圏微生物自体の植物成長ホルモンの産生。
2.土壌中の有機物を無機物に分解し、植物に利用しやすくする。いわゆる、有機物のミネラリゼーション化。
3.土壌中の有害微生物の抑制。
【0057】
上述したように、ある種の植物促進根圏微生物は、オーキシン類、ジベレリン類、サイトカイン類、或いはアブシジン類のような植物ホルモンを産生する。
【0058】
植物生育促進根圏細菌(PGPR)を例示すると、Agrobacterium paspal, Azotobacter putida, bacillus subtilis, Pseudomonas fluoresense,Pseudomonas putida, Serratia marcescensがある。
【0059】
植物生育促進菌類(PGPF)を例示すると、Phoma sp., 2核Rhizoctonia, steril dark fungus, steril red fungus, Trichoderma harzianum, Trichoderma koningiがある。
【0060】
上述した構成を有する本発明の生分解性表土保護シートは、厚みのあるファイバーウェブシートであり、柔軟性も有するので、設置面の凹凸にフィットし、下面は土粒子に絡まり固定するように作用する。また、従来の合成繊維シートと同様に、雨水の落下打撃を吸収して表土土粒子の移動を防止する。そして、雨水は、土粒子と生分解性繊維の絡み合いの生じた境界面での抵抗によりシートの内部空間を流下する。即ち、シートの内部空間が導水層となり、表土面を流下しないように作用する。
【0061】
従って、上記課題は、下記の手段によって解決することができる。
1.太さが1〜30デシデックス、長さが20〜80mmの生分解性繊維をランダムに交絡させて形成した、厚さが5mm〜40mm、空隙率が90%以上、内部空間の面方向に導水路を形成した生分解性表土保護シート。
【0062】
2.前記1項において、生分解性繊維が、エステル、カーボネート、エーテル、アミド、ウレタン等の酸素原子を含む加水分解性基を有し、構成単位が炭素原子数6以下の脂肪族系で含酸素量が多く、O/C比が0.3〜1.0の範囲である。
【0063】
3.前記1または2項において、生分解性繊維が、ポリL−乳酸、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(ε−カプロラクタム)、およびポリブチレンサクシネートから成る群から選択された少なくとも1種である生分解性表土保護シート。
【0064】
4.前記1〜3のいずれか1項において、生分解性繊維が、ポリL−乳酸である。
【0065】
5.前記1〜4のいずれか1項において、天然繊維を混紡した生分解性表土保護シート。
【0066】
6.前記5または6項において、天然繊維が、綿花、ボンバックス綿、カポック等種子毛繊維、麻、亜麻、黄麻、ラミー、コウゾ、ミツマタ等ジン皮繊維、マニラ麻、ニュージーランド麻等葉繊維、針葉樹、広葉樹、および竹の繊維から成る群から選択された少なくとも1種である。
【0067】
7.前記5または6項において、生分解性繊維に対する天然繊維の混紡比が5〜30質量%である。
【0068】
8.前記1〜7のいずれか1項の生分解性表土保護シートに緑化用培地組成物を展着させた植生シート。
【0069】
9.前記8項において、緑化用培地組成物が、泥炭、バーク堆肥、腐植酸質資材、木炭、竹炭、珪藻土焼成粒、ゼオライト、バーミキュライト、パーライト、ベントナイト、ポリエチレンイミン系資材、ポリビニルアルコール系資材、ローム層土、沖積層土、砂質土、礫質土、及びこれらの混合物から成る群から選択された1種である。
【0070】
10.前記1〜7のいずれか1項の生分解性表土保護シートに微生物資材を組み込んだ植生シート。
【0071】
11.前記10項において、微生物資材が、内生菌根(endomycorrhiza)である。
【0072】
12.前記11項において、内生菌根(endomycorrhiza)が、VA菌根(versicular-arbuscular mycorrhiza)である。
【0073】
13.前記10項において、微生物資材が、外生菌根(ectomycorrhiza)である。
【0074】
14.前記請求項13項において、外生菌根(ectomycorrhiza)が、ショウロ、コツブタケ(Pisolithus tinctorius)、ヌメリイグチ、Cenococcum geophilium、ハンノキイグチ(Gyrodon lividus)、ヒダハタケ(Paxillus inrolutus)、P.filamentosus)、ヤマイグチ(Leccinum scabrum)、Xerocomus porosporus)、Phlebopus sudanics、Cortinarius subporphyropus、ヒメワカフサタケ(Hebeloma sacchariolens)、クサウラベニタケ(Rhodophyllus rhodopolius)、マツタケ(Tircholoma)、ハツタケ(Russula)、キツネタケ属菌(Laccaria spp.)、ワカフサタケ属菌(Hebeloma spp.)、ミネシメジ(Tricholoma saponaccum)、アカゲシメジ(T.imbricatum)、テングタケダマシ(Amanita sychnopyramis f. subannulata)、ツルタケ(A. vaginata var.vaginata)、フクロツルタケ(A. volvata)、クロトマヤタケモドキ(Inocybe cincinnata)、コバヤシアセタケ(I. kobayashi)、シロトマヤタケの近縁(Inocybe Sp. 1)、クリフウセンタケ(Cortinarius spp.)、フウセンタケ属菌(Cortinarius sp. 1)、オニイグチモドキ(Strobilomyces sp.1)、クリカワヤシャイグチ(Austroboletus gracilis)、キイロイグチ(Pulveroboletus ravenelii)、キアミアシイグチ(Boletus ornatipes)、イグチ属菌(Boletus sp.1)、ニガイグチモドキ(Tylopilus sp. 1)、ニガイグチ属菌(Tylopilus sp. 1)、シロハツモドキ(Tylopilus neofellus)、イロガワリベニタケ(R.rubescens)、アカカバイロタケ(R.compacta)、クサハツモドキ(R.laurocerasi)、イロガワリシロハツ(r.metachroa)、ニセクサハツ(R.pectinatoidese)、ヤマブキハツ(R.ochroleuca)、ヒビワレシロハツ(R.alboarcolata)、ドクベニタケ(R.emetica)、カラムサキハツ(R.omiensis)、ベニタケ属菌(Russula sp. 1)、ツチカブリ(Lactarius piperatus)、チチタケ(L.volemus)、クロチチダマシ(L.gerardii)、キチチタケ(L.gerardii)、チチタケ属菌1(Lactarius sp. 1)、チチタケ属菌2(Lactarius sp. 2)、チチタケ属菌3(Lactarius sp. 3)等から成る群から選択された少なくとも1種である。
【0075】
15.前記10項において、微生物資材が、Agrobacterium paspal, Azotobacter putida, bacillus subtilis, Pseudomonas fluoresense,Pseudomonas putida, 及びSerratia marcescensから成る群から選択された少なくとも1種の植物生育促進根圏細菌(PGPR)である。
【0076】
16.前記10項において、微生物資材が、Phoma sp., 2核Rhizoctonia, steril dark fungus, steril red fungus, Trichoderma harzianum, およびTrichoderma koningiから成る群から選択された少なくとも1種の植物生育促進菌類(PGPF)である。
【発明の効果】
【0077】
以上の説明から明らかなように、本発明の生分解性表土保護シートおよび植生シートは、以下に例示する効果を奏功する。
請求項1の発明によると、(1)シート内部を面方向に水が層流として流れる導水路が形成され、それによって土壌の表層の侵食を防止でき、(2)シートが水や土と接触する比表面積が大きくなり、土壌面に対する追随性が良好で、シートの下面が、土壌の粒子によく絡まり、シート−土壌の一体・密着度が大きく、(3)シートの下方に設けてある緑化用培地組成物に植生に必要な水分や酸素の補給ができ、有効微生物の生育、その他の生育条件を維持でき、(4)降雨水等の水との接触、或いは経時変化によるシートの弾性の低下に起因する「へたり」が防止でき、長期間にわたって嵩高を維持でき、保水性、保湿性に富み、植物の根張りを増進でき、(5)土壌面に敷設した際、降雨水等の流下水や土壌飽和水が、土壌表面を流水するのを防止し、種子や培地が流出するのを防止でき、十分な植生環境を形成でき、(6)シート内に形成される導水路内の繊維と水との境膜剥離抵抗が小さく、水が導水路内を層流状態でスムーズに流れ、石油由来の合成繊維と同等の加工性や物性を保有しながら、天然繊維と同様に自然界の微生物によって分解する生分解性表土保護シートが提供される。
【0078】
請求項2の発明によると、加水分解反応が、環境中では酵素により触媒され促進される他に酵素酸化され、分解中間物が生物の代謝経路で分解される幅広い脂肪族生分解性繊維の中から、諸条件に応じて選択することができる。
【0079】
請求項3の発明によると、ポリL−乳酸、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(ε−カプロラクタム)、ポリブチレンサクシネート、およびそれらの混合物から成る群から本発明で好ましい生分解性繊維を選択することができる。
【0080】
請求項4の発明によると、本発明で使用できる最も好ましい生分解性繊維であるポリL−乳酸を選択することができる。
【0081】
請求項5の発明によると、生分解性繊維と天然繊維を混紡したので、
1.生分解性繊維の欠点である柔軟性に欠け、表土面への追随性が不十分な欠点が、天然繊維で改良される。
2.天然繊維の欠点である高吸湿性により、繊維同士が接着し、ウェブ層の抵抗が大きくなり侵食防止ならびに植物の貫通阻害が、生分解性繊維により改良される。
【0082】
請求項6の発明によると、広範囲の天然繊維から、表土保護シートの使用目的、使用期間、使用箇所等使用態様により選択される。
【0083】
請求項7発明によると、生分解性繊維に対する天然繊維の混紡比が5〜30質量%であるので、目的とする侵食防止機能を得ることができ、繊維の湿潤による絡みの増大に伴う発芽阻害が発現せず、シート柔軟性付与による接地面での密着性が得られる。
【0084】
請求項8発明によると、請求項1〜7のいずれか1項の生分解性表土保護シートに緑化用培地組成物を展着させるので、そのまま植生シートとして使用できる。
【0085】
請求項9発明によると、生分解性表土保護シートに展着する緑化用培地組成物を泥炭、バーク堆肥、腐植酸質資材、木炭、竹炭、珪藻土焼成粒、ゼオライト、バーミキュライト、パーライト、ベントナイト、VA(vesicle arbuscule)菌根菌資材、ポリエチレンイミン系資材、ポリビニルアルコール系資材、ローム層土、沖積層土、砂質土、礫質土、及びこれらの混合物から成る群から選択するので、土着菌根菌の菌糸体の保存性を高め、土壌の膨軟化、保水性の改善、保肥力の改善、透水性の改善、土壌のリン酸供給能の改善、土壌の団粒形成の促進に資する。
【0086】
請求項10発明によると、請求項1〜7のいずれか1項の生分解性表土保護シートに微生物資材を組み込んで植生シートとしたので、微生物がもつリターの分解作用による森林の栄養連鎖作用により土壌を肥沃にし、植物の成長を促進し、各種耐ストレス性を高め、病害耐性等を増大させる。
【0087】
請求項11〜12の発明によると、微生物資材を、内生菌根菌(endomycorrhiza)の一種であるVA菌根菌(versicular-arbuscular mycorrhiza)としたので、下記に例示する作用・効果を奏功する。
1.土壌中のリン酸の吸収を促進し、宿主植物へ供給し、その生育を促進する。
2.宿主植物の生育に対して微量要素の吸収を促進する。
3.水ストレス耐性の増大。
4.病害耐性の増大。
【0088】
請求項13の発明によると、微生物資材を、外生菌根菌(ectomycorrhiza)としたので、下記に例示する作用・効果を奏功する。
1.土壌中のリン酸の吸収を促進し、宿主植物へ供給し、その生育を促進する。
2.外生菌糸による窒素の吸収と宿主植物への供給。
3.水ストレス耐性の増大。
4.病害耐性の増大。
5.土壌構造の維持。
【0089】
請求項14の発明によると、ほとんど全ての外生菌根菌(ectomycorrhiza)から、植物、森林環境、植生条件等諸条件を勘案して最適の外生菌根菌(ectomycorrhiza)を選択することができる。
【0090】
請求項15及び16の発明によると、微生物資材を、それぞれAgrobacterium paspal, Azotobacter putida, bacillus subtilis, Pseudomonas fluoresense,Pseudomonas putida, 及びSerratia marcescensから成る群から選択された少なくとも1種の植物生育促進根圏細菌(PGPR)とし、植物生育促進菌類(PGPF)を、Phoma sp., 2核Rhizoctonia, steril dark fungus, steril red fungus, Trichoderma harzianum, 及びTrichoderma koningiから成る群から選択された少なくとも1種の植物生育促進菌類(PGPF)としたので、下記に例示する作用・効果を得る。
1.根圏微生物自体の植物成長ホルモンの産生。
2.土壌中の有機物を無機物に分解し、植物に利用しやすくする。いわゆる、有機物のミネラリゼーション化。
3.土壌中の有害微生物の抑制。
【発明を実施するための最良の形態】
【0091】
以下、本発明を、実施例により更に具体的に説明する。
【実施例1】
【0092】
ポリ乳酸繊維としてユニチカファイバー(株)製の「テラマック」(登録商標)を使用した。サーマルボンディング法により、表4に示すポリ乳酸繊維と竹繊維との混紡ファイバーウェブシート(目付:48g/m2)を製造した。
【0093】
【表4】

【実施例2】
【0094】
実施例1と同じポリ乳酸繊維を使用して、サーマルボンディング法により、表2に示すポリ乳酸繊維と竹繊維との混紡ファイバーウェブシート(目付:50g/m2)を製造した。
【0095】
【表5】

【比較例】
【0096】
サーマルボンディング方により、表6に示すポリエステル繊維ファイバーウェブシート(目付:48g/m2)を製造した。
【0097】
【表6】

【0098】
実施例1、実施例2、比較例で製造したファイバーウェブシートを用いて人工降雨試験を行い、流出水濁度を測定し侵食防止効果を比較した。その結果を表7に示す。
【0099】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の生分解性表土保護シート及び植生シートは、従来の汎用合成繊維と同等の機能を有する生分解性繊維で製造され、使用期間中は強度を維持して不具合なく使用でき、使用後は速やかに土中や水中の微生物によって、他に害を与えることなく自然環境下で分解され、最終的に水と二酸化炭素になる生分解性なので、下記に例示する産業上の利用可能性がある。
1.製造のために成形機等関連装置を更新する必要がなく、新たな産業分野に展開できる。
2.道路建設や宅地・農地・公園開発などによって生ずる裸地や法面、或いは荒廃裸地等の土壌侵食防止材としてだけではなく、良好な緑化資材として、高速道路法面、崩壊地、ハゲ山、痩悪林地などの荒廃山地、乾燥地、砂漠、海岸砂丘、風障地、埋め立て地、造成地などの緑化・植生産業に利用できる。
3.ポリ乳酸繊維などの植物由来繊維や竹繊維などの天然繊維を使用しているので、自然環境循環型リサイクルが可能となり、合せて地球温暖化防止対策の一助になる。
4.竹繊維を使用しているので、竹資源活用リサイクルが可能となり、竹の産業用資材としての用途を拡大する。
5.全ての素材が生分解性繊維なので、緑化・植生工事における計画・施工・管理を、自然環境への影響を顕著に軽減できるという新たな思想の下に行って、水土保全、環境保全、生態系保全、景観保全を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太さが1〜30デシデックス、長さが20〜80mmの生分解性繊維をランダムに交絡させて形成した、厚さが5mm〜40mm、空隙率が90%以上であり、かつ内部空間の面方向に、導水路を形成した生分解性表土保護シート。
【請求項2】
生分解性繊維が、エステル、カーボネート、エーテル、アミド、ウレタン等の酸素原子を含む加水分解性基を有し、構成単位が炭素原子数6以下の脂肪族系で含酸素量が多く、O/C比が0.3〜1.0の範囲である請求項1に記載の生分解性表土保護シート。
【請求項3】
生分解性繊維が、ポリL−乳酸、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(ε−カプロラクタム)、およびポリブチレンサクシネートから成る群から選択された少なくとも1種である請求項1または2に記載の生分解性表土保護シート。
【請求項4】
生分解性繊維が、ポリL−乳酸である請求項1〜3のいずれか1項に記載の生分解性表土保護シート。
【請求項5】
天然繊維を混紡した請求項1〜4のいずれか1項に記載の生分解性表土保護シート。
【請求項6】
天然繊維が、綿花、ボンバックス綿、カポック等種子毛繊維、麻、亜麻、黄麻、ラミー、コウゾ、ミツマタ等ジン皮繊維、マニラ麻、ニュージーランド麻等葉繊維、針葉樹、広葉樹、および竹の繊維から成る群から選択された少なくとも1種である請求項5または6に記載の生分解性表土保護シート。
【請求項7】
生分解性繊維に対する天然繊維の混紡比が5〜30質量%である請求項5または6に記載の生分解性表土保護シート。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の生分解性表土保護シートに、緑化用培地組成物を展着させた植生シート。
【請求項9】
緑化用培地組成物が、泥炭、バーク堆肥、腐植酸質資材、木炭、竹炭、珪藻土焼成粒、ゼオライト、バーミキュライト、パーライト、ベントナイト、ポリエチレンイミン系資材、ポリビニルアルコール系資材、ローム層土、沖積層土、砂質土、礫質土、及びこれらの混合物から成る群から選択された1種である請求項8に記載の植生シート。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の生分解性表土保護シートに微生物資材を組み込んだ植生シート。
【請求項11】
微生物資材が、内生菌根菌(endomycorrhiza)である請求項10に記載の植生シート。
【請求項12】
内生菌根菌(endomycorrhiza)が、VA菌根菌(versicular-arbuscular mycorrhiza)である請求項11に記載の植生シート。
【請求項13】
微生物資材が、外生菌根菌(ectomycorrhiza)である請求項10に記載の植生シート。
【請求項14】
外生菌根菌(ectomycorrhiza)が、ショウロ、コツブタケ(Pisolithus tinctorius)、ヌメリイグチ、Cenococcum geophilium、ハンノキイグチ(Gyrodon lividus)、ヒダハタケ(Paxillus inrolutus)、P.filamentosus)、ヤマイグチ(Leccinum scabrum)、Xerocomus porosporus)、Phlebopus sudanics、Cortinarius subporphyropus、ヒメワカフサタケ(Hebeloma sacchariolens)、クサウラベニタケ(Rhodophyllus rhodopolius)、マツタケ(Tircholoma)、ハツタケ(Russula)、キツネタケ属菌(Laccaria spp.)、ワカフサタケ属菌(Hebeloma spp.)、ミネシメジ(Tricholoma saponaccum)、アカゲシメジ(T.imbricatum)、テングタケダマシ(Amanita sychnopyramis f. subannulata)、ツルタケ(A. vaginata var.vaginata)、フクロツルタケ(A. volvata)、クロトマヤタケモドキ(Inocybe cincinnata)、コバヤシアセタケ(I. kobayashi)、シロトマヤタケの近縁(Inocybe Sp. 1)、クリフウセンタケ(Cortinarius spp.)、フウセンタケ属菌(Cortinarius sp. 1)、オニイグチモドキ(Strobilomyces sp.1)、クリカワヤシャイグチ(Austroboletus gracilis)、キイロイグチ(Pulveroboletus ravenelii)、キアミアシイグチ(Boletus ornatipes)、イグチ属菌(Boletus sp.1)、ニガイグチモドキ(Tylopilus sp. 1)、ニガイグチ属菌(Tylopilus sp. 1)、シロハツモドキ(Tylopilus neofellus)、イロガワリベニタケ(R.rubescens)、アカカバイロタケ(R.compacta)、クサハツモドキ(R.laurocerasi)、イロガワリシロハツ(r.metachroa)、ニセクサハツ(R.pectinatoidese)、ヤマブキハツ(R.ochroleuca)、ヒビワレシロハツ(R.alboarcolata)、ドクベニタケ(R.emetica)、カラムサキハツ(R.omiensis)、ベニタケ属菌(Russula sp. 1)、ツチカブリ(Lactarius piperatus)、チチタケ(L.volemus)、クロチチダマシ(L.gerardii)、キチチタケ(L.gerardii)、チチタケ属菌1(Lactarius sp. 1)、チチタケ属菌2(Lactarius sp. 2)、チチタケ属菌3(Lactarius sp. 3)等から成る群から選択された少なくとも1種である請求項13の植生シート。
【請求項15】
微生物資材が、Agrobacterium paspal, Azotobacter putida, bacillus subtilis, Pseudomonas fluoresense,Pseudomonas putida, 及びSerratia marcescensから成る群から選択された少なくとも1種の植物生育促進根圏細菌(PGPR)である請求項10に記載の植生シート。
【請求項16】
微生物資材が、Phoma sp., 2核Rhizoctonia, steril dark fungus, steril red fungus, Trichoderma harzianum, およびTrichoderma koningiから成る群から選択された少なくとも1種の植物生育促進菌類(PGPF)である請求項10に記載の植生シート。

【公開番号】特開2007−46351(P2007−46351A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232491(P2005−232491)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(595177095)多機能フィルター株式会社 (9)
【Fターム(参考)】