説明

生化学分析のためのチップカード状平板体およびその使用方法

物質を生化学分析するためのチップカード状平板体(1)が、少なくとも2つのマイクロ流体装置(3,4)と、少なくとも1つのセンサチップ(2)とを有する。少なくとも1つのセンサチップ(2)が少なくとも1つの第1のマイクロ流体装置(3)に直接に接触している。ピペット状の第2のマイクロ流体装置(4)が一体的に平板体(1)に含まれているか、もしくはこれに接続されている。平板体(1)の使用方法は、平板体(1)の固定装置(6a,6b)によりEカップ(5)を平板体(1)にドッキングすること、およびEカップ(5)と平板体(1)との間で第2のマイクロ流体装置(4)を介して液体を交換することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の生化学分析のためのチップカード状平板体ならびにその使用方法に関する。この平板体は少なくとも2つのマイクロ流体装置と、少なくとも1つのセンサチップとを有する。少なくとも1つのセンサチップが平板体に組み込まれ、少なくとも1つの第1のマイクロ流体装置に直接に接触している。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサ技術においては、簡単にかつコストを節減して生化学分析を行なうことを可能にするために、ラボオンチップシステムが使用される。例えば特許文献1から、例えばDNAおよびタンパク質のような物質の生化学分析のための平板体が公知である。この平板体は、クレジットカードに似たように形成されたチップカードの形状を有する。平板体はセンサアレイおよび集積回路を有する半導体チップを含み、その半導体チップは平たいプラスチック材料内に封入され、外部の読取装置によってチップを読み取るための電気接触部に電気的に接続されている。平板体の前面には、プラスチック材料内の窪みとして、例えば反応室および通路のようなマイクロ流体装置が形成されている。その前面にはフィルムが貼られ、マイクロ流体装置は環境に対して流体を漏らさないように、即ち液体および/または気体を漏らさないよう密閉されている。
【0003】
血液又は尿によってもたらされるような液体の生化学分析の場合には、注射針のような先の尖った針によりチップカードのフィルムが突き刺され、液体がチップカードのマイクロ流体装置の中に注入される。通路および反応室を介して液体がチップ上のセンサアレイのセンサに接触し、液体の成分が直接的又は間接的に検出される。検出は光学的又は電気化学的に行なわれる。液体の成分を検出するための化学反応に必要な物質は、既にチップカード上又はチップカード内に存在しているか、又は同様にチップカード内に先の尖った針により注入されてもよい。
【0004】
液体を受け入れるためのチップカード上のマイクロ流体装置の受容能力は、一般に非常に僅かしかなく、しばしば僅かなミリリットル又はマイクロリットルだけに制限され、極端な場合にはナノリットルだけに制限される。これは、検査すべき液体の中に非常に僅かな濃度でしか存在しない生化学物質の場合、チップカードに充填可能な液体総量が、その生化学物質の検出限界に到達するためには、もしくはその検出限界を上回るためには不十分であるという結果を招く。その際に生化学物質の検出は、生化学物質が化学的に複製される場合にだけ、例えばPCR法によるDNAの場合に可能である。完全な細胞を検出する場合には、時間およびコストのかかる複製が、例えば増殖器において、どうしても必要となる。例えば尿中又は水中の化学的微量元素の場合には化学的複製が排除され、従って検出が困難であるか又は全くできない。
【0005】
先の尖った針によるチップカードへの液体供給における他の問題は、汚染物質の持ち込みにある。まさに微量元素、DNA又はペプチドの検出に関しては、極めて少量の化学的又は生化学的な汚染物質が、定量的および/または定性的な検出の際に誤りをもたらし得る。検査すべき液体が接触させられる例えば針の如きあらゆる付加的装置により、汚染の確率が高まる。検出の質を保証するためには、例えば全ての装置の徹底的な洗浄によって、コストおよび時間のかかる高められた費用を調達しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第102005049976号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、簡単で低コストで、例えば液体のような流体を直接的に容器から平板体のマイクロ流体装置内に導入することを可能にする、生化学分析のためのチップカード状平板体および特にその使用方法を提供することにある。特に課題は、流体を平板体のマイクロ流体装置に導入し、しかも流体をできる限りほんの僅かだけ内臓部品と接触させ、もしくはこれらに通流させることにある。更に課題は、大量の流体を直接的に、例えばEカップである容器からもしくはその容器内に供給もしくは排出することができる平板体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題は、物質を生化学分析するためのチップカード状平板体に関しては請求項1の特徴により解決され、その平板体の使用方法に関しては請求項13の特徴により解決される。
【0009】
本発明による物質を生化学分析するためのチップカード状平板体およびその平板体の使用方法の有利な実施形態はそれぞれに付属の従属項からもたらされる。主請求項の特徴と従属項の特徴とを組み合わせることができ、そして従属項同士の特徴を組み合わせることができる。
【0010】
本発明による物質の生化学分析のためのチップカード状平板体は、少なくとも2つのマイクロ流体装置と、少なくとも1つのセンサチップとを含む。少なくとも1つのセンサチップは平板体内に組み込まれ、少なくとも1つの第1のマイクロ流体装置に直接接触している。平板体は、ピペット状の第2のマイクロ流体装置を一体的に含んでいる。この場合に一体とは、第2のマイクロ流体装置が平板体に差し込まれたり、締め付けられたり、又は繰り返し着脱可能に取り付けられたりすることなく、第2のマイクロ流体装置と残りの平板体とが少なくとも1つの材料から共通に作られて、つながっている物体を成していることを意味する。
【0011】
一体化されたピペットを有する平板体の利点は、例えばEカップである容器と平板体との間で大量の液体を交換できることにある。平板体とそれに一体化されたピペットは1つの材料から一緒に製作できるので、両者は化学的および生化学的に同じ清浄度を有する。このようにして付加部材による平板体への汚染物の持ち込みが防止される。一工程で可能な製作は、原価および経費を低減し、そして例えば金属製注射針を差込み式で取り付ける解決策の場合よりも高い安定性をもたらす。
【0012】
平板体が、Eカップを直接に機械的に平板体に固定するように構成されている第1の固定装置を含むとよい。Eカップは反応容器として使用され、例えばエッペンドルフ社(Eppendorf(登録商標))から入手可能であり、略称「Eppi」のもとに知られている。その容器は標準的に種々のサイズを有し、種々の体積に応じて、例えば0.2ml〜2mlの溶液を収容することができる。これらの容器は良好な耐化学性に特色があり、100℃を超えるまで形状安定である。固定装置は固定すべきEカップの開口部内径にほぼ等しい直径を有する。クランプ作用による平板体へのEカップの直接的な機械的固定は、格別に簡単かつ安定にEカップを平板体に固定することを可能にする。
【0013】
平板体が、この平板体にEカップの蓋を直接に機械的に固定するように構成されている第2の固定装置を含むとよい。これは平板体へのEカップの固定の安定性を高め、操作性の改善をもたらす。何故ならば充填時に蓋が平板体に対して固定され、又はEカップから液体の取り出しを邪魔しないからである。
【0014】
第2のマイクロ流体装置が、縦長に形成され、一端に流体開口を有する先端を含むとよい。第2のマイクロ流体装置は、第1の固定装置および/または第2固定装置にEカップを固定した際に、第2マイクロ流体装置の流体開口を有する先端がEカップの下端領域に位置するように構成されているとよい。それによって、第2のマイクロ流体装置によりEカップから液体をほぼ完全に取り出すことができる。
【0015】
平板体がプラスチック材料、特に射出成形プラスチックからなるとよい。射出成形プラスチックは加工しやすく、平板体を低コストで製作することを可能にする。マイクロ流体装置が平板体の前面に形成され、フィルム、特にプラスチック材料からなる自己粘着性フィルムにより覆われているとよい。これは、マイクロ流体装置を有する平板体の簡単な低コストの製作を可能にする。
【0016】
少なくとも2つのマイクロ流体装置が平板体の前面の平らな面に窪みとして形成された通路および/または室を含むとよい。更に、少なくとも2つのマイクロ流体装置が平板体内に形成された弁を含むとよい。少なくとも2つのマイクロ流体装置が、平板体の裏面の平らな面に窪みとして形成された切欠きも含んでおり、該切欠きの中には、特に電気接触部とセンサアレイとを備えたセンサチップが埋設されている。センサチップの電気接触部は平板体の裏面側の平らな面を有する一方の面内にあり、センサチップのセンサアレイは平板体の前面側の少なくとも1つの室に直接接触している。それによって、少なくとも2つのマイクロ流体装置は、液体の良好な操作を可能にしかつ液体をEカップからチップ上のセンサへ移送するのに適している。Eカップからセンサへの経路上で、例えば固定相試薬を有する室内において、液体もしくは液体中の物質の化学反応が行なわれるとよい。
【0017】
平板体が1mmの範囲の厚さと、85mmの範囲の長さと、54mmの範囲の幅とを有するとよい。少なくとも1つのマイクロ流体装置が、乾燥試薬を、特に1mm2以上の範囲の横断面を有する通路および/または反応室内に含むように形成されているとよい。第2のマイクロ流体装置が45mmの範囲の長さを有するとよい。
【0018】
第2のマイクロ流体装置が第1のマイクロ流体装置を介してセンサチップのセンサに流体的に接触しているとよい。
【0019】
平板体前面に対して垂直方向における第2のマイクロ流体装置の横断面が、平板体の前面の方に向かって開いた凹部を有するほぼ矩形の外周を有するとよい。それによって製作が簡単でありながら高められた安定性が達成される。何故ならば第2のマイクロ流体装置が平板体の平らな形状を有するからである。
【0020】
センサチップが電気化学センサからなるアレイを含むとよい。それによって、平板体により電気化学的な測定が可能になり、その電気化学的な測定は、光学的な測定よりも簡単に低コストでかつ良好に極めて小さい空間において行なうことができる。更に、センサチップがセンサの電気信号を処理するための集積回路を含むとよい。センサチップが、センサチップを電気的に読み取るための電気接触部、特に外部のデータ処理ユニットによりセンサチップを電気的に読み取るための電気接触部を含むとよい。
【0021】
平板体が、前面および/または裏面に、少なくとも1つの第1のマイクロ流体装置と流体的に接触する少なくとも1つの開口および/または外部のポンプを接続するように構成されている少なくとも1つの開口を有するとよい。この開口もしくはこれらの開口を介して付加的に、検出のために使用される少量の物質を、特に液体の形で、平板体に供給することができる。例えば未使用の形の標識化物質が液体の本来の電気化学的測定の前にEカップから平板体のマイクロ流体装置の中へ供給可能であり、その液体の物質と反応することができる。マイクロ流体装置内の負圧も、少なくとも1つの開口を介して、例えばポンプにより発生させ、液体をEカップから平板体もしくはそれのマイクロ流体装置の中に吸い込むために使用するとよい。
【0022】
上述の平板体の本発明による使用方法は次のステップを含む。即ち、
検査すべき液体をEカップに充填し、
そのEカップの中に第2のマイクロ流体装置を挿入して、第2のマイクロ流体装置に検出すべき液体を直接に接触させ、
その液体を第2のマイクロ流体装置を通して第1のマイクロ装置の中に、直接的にかつ特に負圧および/または毛管力作用によって移送し、
検査すべき液体をセンサチップの上に導き、
センサチップの少なくとも1つのセンサが、検査すべき液体の少なくとも1つの化学的および/または生化学的な物質と、および/または検査すべき液体の物質の反応生成物と、相互作用をする。
【0023】
第2のマイクロ流体装置が第1ステップで液体をEカップから受け入れ、第2ステップでその液体をEカップの中へ供給し、特に第1および第2のステップが間欠的に繰り返されるとよい。それによって、Eカップからの液体によるマイクロ流体装置の一種の洗い流しが可能である。更に、大きな体積を有する大量の溶液を必要とする反応を、マイクロ流体装置の中ではなくて、ドッキングされたEカップの中で行なうことができる。Eカップ内での反応とマイクロ流体装置内での反応との種々の順序での組み合わせが同様に可能である。
【0024】
検査すべき液体として、例えば血液、尿、生水又は廃水を使用することができる。しかし、本発明による平板体およびその使用方法は、それに限定されず、検出すべき物質の濃度が僅かである場合および検出に必要な液体の溶液量が多い場合に使用するのに、特に適している。検出すべき物質の濃度が非常に僅かであるために、検出に必要な液体の量が平板体に形成されたマイクロ流体装置の容量を上回る場合には、ドッキングされたEカップの中で反応を行なわせ、反応し終えた液体を第2のマイクロ流体装置を介して平板体内のセンサチップのセンサに供給するとよい。センサチップのセンサが、例えばDNA、RNA、ペプチド又は抗体を検出するとよい。例えば細胞の溶解による検出および処理の際に、関与物質が、例えば平板体の室又は通路内に、特に乾燥試薬として貯蔵されるとよい。化学反応のために液体は、Eカップからマイクロ流体装置の中に吸い込まれ、貯蔵された物質と混合されて、例えば乾燥試薬の溶解をもたらし、引続いて再びEカップに供給されるとよい。その際にEカップの中ではマイクロ流体内よりも多い液体量が反応することができる。次に、Eカップ内の液体の一部が第1のマイクロ流体装置を介して第2のマイクロ流体装置の中に、例えば第1のマイクロ流体装置の開口に与えられた負圧によって吸い込まれ、そしてセンサにおいて反応生成物の検出、又は直接、液体中に含まれる反応物質の検出が行なわれるとよい。
【0025】
平板体の使用方法に関連した利点は平板体に関して既に述べた利点と類似する。
【0026】
以下において、図面に基づいて、従属請求項に記載の特徴に従った有利な発展的構成を有する本発明の好ましい実施形態を更に詳細に説明する。しかし、本発明はそれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1はピペットの如き第1および第2のマイクロ流体装置とEカップのための固定装置とを有する平板体の前面の概略平面図である。
【図2】図2はEカップのクランプ部およびEカップの蓋のクランプ部を備えた第2実施例による固定装置を有する図1に示したのと類似の平板体の前面の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1には覆いのない平板体1の前面7の平面図とEカップ5の断面図とが示されている。平板体1はチップカードの形状もしくはクレジットカードの形状に形成されている。このようなチップカードの寸法関係の値は、例えば高さH×幅B×厚さDが、5.5cm×8.5cm×0.1cmに等しい。前面7には、マイクロ流体装置4,7が平板体1内の窪みとして形成されている。平板体1は、例えばプラスチック材料、特に射出成形プラスチックからなる。マイクロ流体装置4は、例えば通路9および室10であり、これらは、1mm〜5mmの範囲の幅と、約100μmの深さを有することができる。室は、例えば1mm〜10mmの長さを、そして通路は1cm〜100cmの範囲の長さを有することができる。マイクロ流体試料4内には試薬を、例えば乾燥された形で貯蔵することができる。
【0029】
平板体1の裏面8側の切欠きは1.4cm×1.3cm×800μmの範囲の高さH’×幅B’×深さT’のサイズを有しており、この切欠きにはセンサチップ2が、例えば接着によって固定されている。センサチップ2はその一面側にセンサアレイを有し、その他面側にセンサチップ2の読み取りのための電気接触部を有している。このセンサチップ2は、前記切欠き内に、センサチップ2のセンサアレイ側の面が、反応および/または検出室として使用されるマイクロ流体室10’の底を形成するように配置されている。センサチップ2の電気接触部側の面は平板体1の裏面8と共に1つの平面を形成している。センサアレイのセンサは、マイクロ流体室10’内に存在する液体中の光学的又は電気化学的な物質又は反応生成物を検出する。センサの電気信号は、センサチップ2の電気接触部を介して外部の測定およびデータ処理装置に送信することができ、又はセンサチップ2上の集積回路によって処理して直接表示するか、又は前記電気接触部を介して伝送することができる。
【0030】
試料準備、例えば細胞の溶解および/または検出反応のために使用される液体は、供給および排出開口12およびマイクロ流体通路9を介してマイクロ流体装置3,9,10,10’に供給することができる。その供給の制御は、平板体1内に形成されている弁11を介して行なうことができる。空気のような流体も供給および排出開口12を介して平板体に供給し、又は平板体から取り出すことができ、その際にマイクロ流体装置3,9,10,10’内に過圧もしくは負圧が発生させられる。
【0031】
本発明に従って、平板体1は、平らにされたピペットの形状および機能を有する第2のマイクロ流体装置4を含む。この第2のマイクロ流体装置4は、平板体と一体的に例えばプラスチックから一緒に作られている。その長さLは、使用されるEカップ5の大きさに依存して2.5cmの範囲にあるとよい。その長さは、ほぼEカップ5の深さ、即ちEカップ5の開口15から底14までの間隔であるべきである。それによって、第2のマイクロ流体装置4によりEカップ5から液体をほぼ全部取り出すことができる。第2のマイクロ流体装置4の厚さは平板体の厚さ、例えば1mmに等しい。平板体1の前面7において第2のマイクロ流体装置4の中心には通路9’が窪みとして形成されており、この通路9’は残りの平板体1における第1のマイクロ流体装置3の通路9の大きさにほぼ一致している。従って、通路9’の幅は1mmの範囲にあり、通路9’の深さは100μmの範囲にある。通路9’は通路9および/または室10を介してセンサチップ2のセンサに流体的に接続されている。第2のマイクロ流体装置4の幅は、例えば2mmである。
【0032】
平板体1の固定装置6aを介してEカップ5は平板体1にクランプ支持により固定することができる。図1にはEカップの断面が示されている。Eカップ5として、例えば1ml〜100mlの範囲の液体体積を収容する「Eppis」の形の反応容器を使用するとよい。液体としてEカップ5中に、例えば血液、尿、雑用水又は飲料水のような検査すべき液体が入っている。この液体が検査のためにEカップ内に準備されるとよい。例えば細胞が溶解され、DNAが複製され、標識が結合され、および/またはビーズを介してEカップ5内の特定の分子の取り出しもしくは濃縮が行なわれる。代替として、検査すべき液体が処理されないで第2のマイクロ流体装置4を介して平板体1の中に導入されてもよい。Eカップ中には、液体として、検査すべき液体の代わりに、検査に関与する物質が入っていてもよい。
【0033】
第2のマイクロ流体装置4は、第1のマイクロ流体装置3と流体的に接続されており、第1のマイクロ流体装置3内の毛管作用力又は負圧により、液体がEカップ5から第2のマイクロ流体装置4を介して第1のマイクロ流体装置3に入ってセンサチップ2のセンサアレイに達するように、Eカップ5の中に挿入される。第1マイクロ流体装置3内の過圧により、液体を第1マイクロ流体装置3から第2のマイクロ流体装置4を介してEカップ5の中に導入することができる。例えば多くの溶液体積を必要とし、この理由からマイクロ流体装置3内では実施することができない化学反応は、「別の所にある」Eカップ内で行なうとよい。その後で反応生成物を平板体1内で後処理するか、又は直接的にセンサを介して検出することができる。
【0034】
Eカップ5を平板体1に接続して簡単に操作するために、固定装置6aを第2マイクロ流体装置4の幅拡張部として形成するとよい。これは、固定装置6aを、第2のマイクロ流体装置4を含めて平板体1と一緒に射出成形プラスチックからなる一体ものとして一工程にて簡単に低コストで製造することを可能にする。マイクロ流体装置3,4はフィルムにより密閉されている。例えば、自己粘着性フィルムおよび/または接着されたフィルムが第1および第2のマイクロ流体装置3,4を含めて平板体1の前面7を完全に覆うとよい。代替として部分的又は全体的に平板体1上に熱で溶着するフィルムを配設してもよい。開口12は、必要なときに針によって突き刺して開けるとよい。第2のマイクロ流体装置4の先端13の開口も同様に必要なときに裂いて開けるか、切って開けるか、又は突き刺して開けるとよい。あるいは代替として平板体1上にフィルムを形成する際に先端13に開口を形成してもよい。
【0035】
固定装置6aは、Eカップの開口15の内径にほぼ一致する幅、又は僅かに例えば約1mmだけ大きい幅を有する。固定装置の最も簡単な形状は矩形、特に丸みのある角を有する矩形である。固定装置6aに被せてEカップ5を押し込んだ際に、2つの対向する縁部が開口15の領域におけるEカップの内壁を押圧する。摩擦が平板体1、特に平板体1の固定装置6aへのEカップ5の機械的固定を生じる。固定装置6aが、2つの対向する縁が凸状に膨らんだ樽断面の輪郭を有する場合にも、固定装置6aに被せてEカップ5を簡単に押し込むことができる。簡略化のために、図1には固定装置6aの矩形の形しか示されていない。固定装置の厚さは残りの平板体1の厚さに等しいか、又はほぼ等しい。
【0036】
図2には固定装置6aおよび固定装置6bを備えた平板体1の実施例が示されている。固定装置6aは既述の固定装置6aと類似している。付加的に平板体1にはEカップの蓋を固定するための固定装置6bが形成されている。固定装置6bは、第2マイクロ流体装置4に隣接した平板体1の1つの縁部17における2つの切欠きから構成されている。これらの切欠きは、Eカップ5の蓋を閉めた際にEカップ5の方に向く蓋下部とは逆の形状および寸法関係を有する。
【0037】
固定装置6bは、Eカップ5と平板体1との改善された機械的接続と、Eカップ5および平板体1の高められた安定性とをもたらす。Eカップ5と関連した平板体1の簡単な操作が可能にされる。第2のマイクロ流体装置4を介する平板体1とEカップ5との間の液体交換が、とりわけ平板体1の供給および排出開口12を介する外部ポンプの接続時に可能にされる。Eカップ5は、平板体1に接続して、検査すべき液体又は反応に関与する液体を供給するための試料容器として、外部の反応容器として、又は廃棄処理すべき液体のための廃棄物容器として使用することができる。
【0038】
500μlの可能な液体体積を有するEカップ5を使用する場合、Eカップ5の全長は30mmであり、Eカップ5の内部空間の長さは29mmである。Eカップ5の外径は7.6mmである。しかし、つばの形を有するEカップ5の丸い上縁の10mmの外径と6.5mmの内径とが、固定装置6aの寸法にとって決定的に重要である。それゆえ固定装置6aは、この実施例では、同様に6.5mmの範囲の幅、又は僅かに大きい例えば6.6mmの範囲の幅を有する。それによってEカップ5を押し込んだ際にクランプ作用による機械的固定が達成される。固定装置6aの先端13に比べて残りの平板体1への固定装置6aの移行部の距離は、Eカップ5の内部空間の29mmの長さか、又はそれよりも僅かに短い。それによって、残りの平板体1への固定装置6aの移行部のストッパまでEカップを押し込んだ際には、先端13がEカップ5の底14の領域に位置する。従って第2のマイクロ流体装置4によってEカップ5内の全液体を取り扱うことができる。固定装置6a上にEカップ5を完全に押し込まないときには、固定装置6aの先端13に対する残りの平板体1への固定装置6aの移行部の間隔の長さが29mmよりも長く形成されていてもよい。Eカップ5の液体体積全体を使用する又は取り扱う必要がない場合、その長さは29mmよりも短くてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 平板体
2 センサチップ
3 第1のマイクロ流体装置
4 第2のマイクロ流体装置
5 Eカップ
6a 固定装置
6b 固定装置
7 前面
8 裏面
9 通路
9’ 通路
10 室
10’ マイクロ流体室
11 弁
12 供給および排出開口
13 先端
14 底
15 開口
16 蓋
17 縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのマイクロ流体装置(3,4)と、少なくとも1つのセンサチップ(2)とを備え、物質を生化学分析するためのチップカード状平板体(1)であって、少なくとも1つのセンサチップ(2)が平板体(1)内に組み込まれ、少なくとも1つの第1のマイクロ流体装置(3)に直接接触している平板体(1)において、平板体(1)がピペット状の第2のマイクロ流体装置(4)を一体的に含んでいることを特徴とする平板体(1)。
【請求項2】
平板体(1)が、この平板体(1)にEカップ(5)を直接に機械的に固定するように構成されている第1の固定装置(6a)を含むことを特徴とする請求項1記載の平板体(1)。
【請求項3】
平板体(1)が、この平板体(1)にEカップ(5)の蓋(16)を直接に機械的に固定するように構成されている第2の固定装置(6b)を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の平板体(1)。
【請求項4】
第2のマイクロ流体装置(4)が、縦長に形成され、一端に流体開口を有する先端(13)を含み、かつ、第1および/または第2の固定装置(6a,6b)にEカップ(5)を固定した際に、第2マイクロ流体装置(4)の流体開口を有する先端(13)がEカップ(5)の下端領域に位置するように構成されていることを特徴とする請求項2又は3記載の平板体(1)。
【請求項5】
平板体(1)がプラスチック材料、特に射出成形プラスチックからなり、マイクロ流体装置(3)が平板体(1)の前面(7)に形成され、フィルム、特にプラスチック材料からなる自己粘着性フィルムにより覆われていることを特徴とする請求項1乃至4の1つに記載の平板体(1)。
【請求項6】
少なくとも2つのマイクロ流体装置(3,4)が、
平板体(1)の前面(7)の平らな面に窪みとして形成された通路(9,9’)および/または室(10,10’)を含み、
および/または平板体(1)内に形成された弁(11)を含み、
および/または平板体(1)の裏面(8)の平らな面に窪みとして形成されかつその中にセンサチップ(2)が埋設された切欠きを含み、
そのセンサチップ(2)が、特に平板体(1)の裏面(8)の平らな面を有する1つの面内にある電気接触部、および/または平板体(1)の前面(7)における少なくとも1つの室(10’)に直接接触しているセンサアレイを有することを特徴とする請求項1乃至5の1つに記載の平板体(1)。
【請求項7】
平板体(1)が1mmの範囲の厚さと、85mmの範囲の長さと、54mmの範囲の幅とを有すること、および/または少なくとも1つのマイクロ流体装置(3)が乾燥試薬を、特に1mm2以上の範囲の横断面を有する通路(9)および/または反応室(10,10’)内に含むように形成されていること、および/または第2のマイクロ流体装置(4)が45mmの範囲の長さを有することを特徴とする請求項1乃至6の1つに記載の平板体(1)。
【請求項8】
第2のマイクロ流体装置(4)が第1のマイクロ流体装置(3)を介してセンサチップ(2)のセンサと流体的に接触していることを特徴とする請求項1乃至7の1つに記載の平板体(1)。
【請求項9】
平板体(1)の前面(7)に対して垂直方向における第2のマイクロ流体装置(4)の横断面が、平板体(1)も前面(7)の方に向かって開いた凹部を有するほぼ矩形の外周を有することを特徴とする請求項1乃至8の1つに記載の平板体(1)。
【請求項10】
センサチップ(2)が電気化学センサからなるアレイを含むこと、
および/またはセンサチップ(2)がセンサの電気信号を処理するための集積回路を含むこと、
および/またはセンサチップ(2)がセンサチップ(2)を電気的に読み取るための電気接触部、特に外部のデータ処理ユニットによりセンサチップ(2)を電気的に読み取るための電気接触部を含むことを特徴とする請求項1乃至9の1つに記載の平板体(1)。
【請求項11】
平板体(1)が、該平板体の前面および/または裏面(7,8)に、少なくとも1つの第1のマイクロ流体装置(3)に液体的に接触している少なくとも1つの開口(12)および/または外部のポンプを接続するように構成されている少なくとも1つの開口(12)を有することを特徴とする請求項1乃至10の1つに記載の平板体(1)。
【請求項12】
請求項1乃至11の1つに記載の平板体(1)の使用方法であって、方法が次のステップ、
検査すべき液体をEカップ(5)に充填するステップ、
そのEカップ(5)の中に第2のマイクロ流体装置(4)を挿入して、第2のマイクロ流体装置(4)を検出すべき液体に直接に接触させるステップ、
その液体を第2のマイクロ流体装置(4)を通して第1のマイクロ装置(3)の中に、特に負圧および/または毛管力作用によって移送するステップ、
検査すべき液体をセンサチップ(2)の上に導くステップ、
センサチップ(2)の少なくとも1つのセンサが、検査すべき液体の少なくとも1つの化学的および/または生化学的な物質、および/または検査すべき液体の物質の反応生成物と相互作用するステップ
を含むことを特徴とする平板体(1)の使用方法。
【請求項13】
第2のマイクロ流体装置(4)が第1のステップで液体をEカップ(5)から受け入れ、第2のステップで液体をEカップ(5)の中へ供給し、特に第1および第2のステップが間欠的に繰り返されることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
検査すべき液体として血液、尿、生水又は廃水が使用されること、および/またはセンサチップ(2)のセンサがDNA、RNA、ペプチド又は抗体を検出することを特徴とする請求項12又は13記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−506123(P2013−506123A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530287(P2012−530287)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064258
【国際公開番号】WO2011/036289
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】