説明

生命機能の異常をもたらす遺伝的変異がある遺伝子座の同定方法

【課題】本発明の目的は、ゲノム中に複数の変異があり、どの変異が生命機能の異常に関与しているか判明しないようなケースであっても、交配を用いることなく、その原因遺伝子座を実験遺伝学的に同定する手法を提供することである。
【解決手段】(1)生命機能の異常をもたらす遺伝的変異を有する動物の体細胞から多能性幹細胞を樹立する、(2)樹立した多能性幹細胞に減数分裂を行わせ、減数分裂の途中の細胞から2倍体の多能性幹細胞を樹立する、(3)得られた2倍体の多能性幹細胞の細胞機能を解析する、(4)得られた2倍体の多能性幹細胞において、細胞機能の異常と連鎖する遺伝子座を同定する、という工程を経ることによって、生命機能の異常をもたらす原因遺伝子座の同定が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生命機能の異常をもたらす遺伝的変異がある遺伝子座の同定方法に関する。より詳細には、本発明は、ヒト、非ヒトの別を問わず適用でき、交配を使用することなく生命機能の異常をもたらす遺伝的変異がある遺伝子座を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のヒト遺伝学では、研究対象の疾患について、多数の家系の患者やその同胞の症状と遺伝的マーカーの型を調べ、それらの連鎖解析を行っている。このことは、疾患遺伝子同定に要するコストを劇的に増大させ、ヒト遺伝学研究における制限となっている。また、同一の代謝経路に関与する様々な遺伝子の不全は、最終的に似たような症状(遺伝子座異質性、locus heterogeneity)を呈するため、異なる原因の同一症状の患者をまとめて解析する可能性のある従来の手法は、問題解決を本質的に難しくしている。
【0003】
近年、遺伝子配列の同定技術の発達により、次世代型シークエンサーによる全ゲノムシークエンスによって、1つの家系のみの解析で、メンデル遺伝性疾患の原因遺伝子を同定する試みがなされ始めている(非特許文献1及び2等)。個々のヒトゲノムには何百万もの遺伝的変異(参照配列に対するSingle Nucleotide Polymorphism (SNP)やコピー数多型)が存在する。そのため、いくつかの仮説(例えば、non-synonymous 変異のホモ接合、異常の出る細胞において機能していることが知られている遺伝子の変異)を元に疾患の原因となる遺伝的変異の絞り込みを行う必要がある(非特許文献1及び2等)。従って、既存の枠組みの外(例:機能未知の領域の変異、非遺伝子領域の変異が原因である疾患)にある遺伝的変異(非特許文献3等)や、ヘテロ接合性の多遺伝子性疾患の原因遺伝子を、少人数のゲノム情報から解明する事は困難であると考えられる。
【0004】
ヒト遺伝病研究においては、新たな原因遺伝子の同定は、「遺伝子機能の解明」と「疾患の治療」の2点において有益であるにもかかわらず、変異遺伝子を同定するための実験的交配を行うことができず、当該原因遺伝子の同定を困難にしている。また、癌ゲノムの研究において、様々な突然変異が癌細胞中に見出されているが、どの変異が癌の性質をもたらしているのかの解析が行えない。また、癌細胞と正常細胞を交配して連鎖解析するという訳にもいかない。
【0005】
このように、従来の人類遺伝学研究の手法には限界があり、患者数が少ない疾患や、同一の疾患の大多数の患者とは原因の異なる少数の患者の疾患については、既存の集団遺伝学的方法では原因遺伝子を解析できず、それらの有効な治療法を確立できない。また、機能未知の遺伝子が原因である疾患、非遺伝子領域の変異による疾患、ヘテロ接合性の多遺伝子性疾患、遺伝病かどうか分からない疾患等でも、従来の全ゲノムシークエンス手法では、その原因遺伝子の同定が困難である。
【0006】
このような従来技術を背景にして、ヒトを含めた哺乳類の遺伝学的研究における交配不可という制限を回避し、遺伝的変異等によりもたらされる異常(遺伝病、癌等)の原因遺伝子座を実験遺伝学的に同定する手法の確立が切望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Roach et al., Analysis of Genetic Inheritance in a Family Quartet by Whole−Genome Sequencing. Science,(Mar,2010).
【非特許文献2】J. Lupski et al., Whole−Genome Sequencing in a Patient with Charcot−Marie−Tooth Neuropathy. N Engl JMed, (Mar, 2010).
【非特許文献3】A. Visel et al., Targeted deletion of the 9p21 non−coding coronary artery disease risk interval in mice. Nature 464, 409(Mar, 2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ゲノム中に複数の変異があり、どの変異が生命機能の異常に関与しているか判明しないようなケースであっても、交配を用いることなく、その原因遺伝子座を実験遺伝学的に同定する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、(1)生命機能の異常をもたらす遺伝的変異を有する動物の体細胞から多能性幹細胞を樹立する、(2)樹立した多能性幹細胞に減数分裂を行わせ、減数分裂の途中の細胞から2倍体の多能性幹細胞を樹立する、(3)得られた2倍体の多能性幹細胞の細胞機能を解析する、(4)得られた2倍体の多能性幹細胞において、細胞機能の異常と連鎖する遺伝子座を同定する、という工程を経ることによって、ヒトを含めた動物の遺伝学的研究における交配不可という制限を回避して、生命機能の異常をもたらす遺伝的変異が存在する原因遺伝子座の同定が可能になることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の原因遺伝子の同定方法を提供する。
項1.生命機能の異常をもたらす遺伝的変異がある遺伝子座の同定方法であって、
生命機能の異常をもたらす遺伝的変異を有する動物の体細胞から多能性幹細胞を樹立する第1工程、
樹立した多能性幹細胞に減数分裂を行わせ、減数分裂途中の細胞から2倍体の多能性幹細胞を作製する第2工程、
得られた2倍体の多能性幹細胞の細胞機能を解析する第3工程、
得られた2倍体の多能性幹細胞において、細胞機能の異常と連鎖する遺伝子座を同定する第4工程、
を含む、同定方法。
項2.前記第1工程における多能性幹細胞の樹立が、前記体細胞を初期化して人工多能性幹細胞に誘導することにより行われる、項1に記載の同定方法。
項3.前記第2工程における2倍体の多能性幹細胞の作製が、樹立した多能性幹細胞に減数分裂を行わせ、第一次減数分裂の前期又は第二減数分裂中期の卵母細胞を単為発生させ2倍体の多能性幹細胞を樹立することにより行われる、項1又は2に記載の同定方法。
項4.前記第3工程が、2倍体の多能性幹細胞を、生命機能の異常と関連する組織又は部位を構成する細胞に分化させて、得られた分化細胞の細胞機能を解析することにより行われる、項1〜3のいずれかに記載の同定方法。
項5. 前記第3工程に先立って、前記第1工程で樹立した多能性幹細胞を、生命機能の異常と関連する組織や部位を構成する細胞に分化させ、
得られた分化細胞を用いて生命機能の異常の有無を判定できる細胞機能の評価方法を確立しておき、
斯して確立された評価方法を用いて前記第3工程による細胞機能の解析を行う、
項1〜4のいずれかに記載の同定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、遺伝性疾患の患者又はその保因者1人から遺伝学を展開し、その原因遺伝子を同定することが可能になる。また、本発明では、癌細胞におけるゲノム上の変異のように、多数の変異があるが、どの変異が原因であるか判明しないようなケースにおいても、その原因となる変異遺伝子座を同定することが可能になる。更に、本発明によれば、患者数が少ない病気や、同一の疾患の大多数の患者とは原因の異なる少数の患者といった、既存の集団遺伝学的方法では解析できない遺伝性疾患についても、その原因遺伝子を同定することができ、当該疾患の治療の途を切り開くことが可能になる。
【0012】
更に、本発明では、遺伝学的研究における交配を利用しないため、ヒトを含めた哺乳類の遺伝学的研究における交配不可という制限を克服できるので、これまで原因が不明であった遺伝性疾患に対しても原因遺伝子を一挙に明らかにして、当該遺伝性疾患の病因の解明や治療技術の開発に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によって、遺伝性疾患(優性遺伝性の単一遺伝子疾患)の原因遺伝子を同定する方法の一態様を模式的に示す図である。 (1)は、遺伝性疾患の患者又は健常者の体細胞から樹立したiPS細胞を用いて、疾患の有無をin vitroにて再現することを模式的に示している。健常者と遺伝性疾患の患者の体細胞からiPS細胞を樹立する(矢印の左)。その後、疾患の有無を検討するために、適切な細胞に分化させ(矢印)、細胞機能の解析を行う(矢印の右)。 (2)は、遺伝性疾患の患者の体細胞から樹立したiPS細胞に減数分裂を行わせることを模式的に示している。 (3)及び(4)は、減数分裂の途中で細胞を初期化し、遺伝学的手法で原因遺伝子座を同定することを模式的に示している。第二減数分裂中期において、卵母細胞を単為発生させると、父母由来の染色体を様々な組み合わせで保持する2倍体の単為発生胚クローンの集団が得られる。その後、それぞれの胚からES細胞を樹立し、(1)で確立した方法で細胞機能を解析する((4)の矢印の右)。 各々のES細胞クローンからDNAを抽出し、遺伝子型を決定し、細胞機能の異常と連鎖する遺伝子座を同定する(5)。
【図2】ヒト生体を使用することなく、ヒトiPS細胞を減数分裂させる方法の一態様を模式的に示す図である。
【図3】第一次減数分裂の前期又は第二減数分裂中期で得られた卵母細胞(患者体細胞から樹立したiPS細胞由来)を初期化させることにより、2倍体の幹細胞を作製し、その細胞機能を解析し、細胞機能の異常と連鎖する遺伝子座を同定する工程について、その一態様を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、生命機能の異常をもたらす遺伝的変異が存する原因遺伝子座を同定する方法である。遺伝的変異とは、遺伝子の突然変異、塩基の挿入または欠失、遺伝子欠損、遺伝子の異常増幅、染色体異常等であり、子孫に遺伝する変異又は異常であるか否かは問わない。また、生命機能の異常をもたらす遺伝的変異とは、既に生命機能に異常を生じさせている遺伝的変異、及び将来的に生命機能に異常を生じさせるおそれがある遺伝的変異の双方が含まれる。遺伝的変異によってもたらされる生命機能の異常としては、例えば、優性遺伝病、劣性遺伝病、複数の遺伝子が関与する多遺伝子性遺伝病等の遺伝性疾患が挙げられる。このような遺伝性疾患として、具体的には、癌;高グリシン血症等の代謝疾患;LEOPARD症候群等の全身性疾患等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
また、本発明では、生命機能の異常をもたらす遺伝的変異を有する動物に対して、その原因遺伝子の同定を可能にする。生命機能の異常をもたらす遺伝的変異を有する動物としては、遺伝性疾患を発症している動物だけでなく、遺伝性疾患の原因遺伝子を保有し、遺伝性疾患の発症の恐れがある保因動物も包含される。本発明の適用対象となる動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ウサギ、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ等の哺乳動物が挙げられるが、好ましくはヒトである。なお、遺伝的変異が劣性遺伝性である場合は、生命機能の異常をもたらす遺伝的変異を有する動物(例えば、遺伝性疾患動物又はその保因動物)の親(遺伝的変異のヘテロ保因者)の体細胞を使用して、本発明に供される。
【0016】
以下、本発明について、工程毎に説明する。
第1工程
まず、本発明では、生命機能の異常をもたらす遺伝的変異を有する動物の体細胞から多能性幹細胞を樹立する(第1工程)。
本第1工程において、多能性幹細胞の樹立に使用される体細胞は、上記遺伝的変異を有する動物から得られるものであればよいが、当該体細胞の由来組織については、同定対象となる遺伝的変異の種類に応じて適宜設定される。例えば、遺伝的変異が、子孫に受け継がれる遺伝性のものである場合には、上記動物のいずれの組織や部位から取得してもよく、また、遺伝的変異が、子孫に受け継がれない非遺伝性のものである場合には、生命機能の異常を呈している又は呈する恐れがある組織や部位から取得すればよい。例えば、生命機能の異常が遺伝性の癌である場合には、体細胞は癌組織から得たものであっても、また癌組織以外から得られたものであってもよい。また、例えば、生命機能の異常が非遺伝性の癌である場合には、体細胞は癌組織から取得すればよい。
【0017】
多能性幹細胞とは、増殖可能な自己複製能と分化多能性とを有する細胞である。
体細胞から多能性幹細胞を樹立するには、体細胞を人工多能性幹細胞(iPS細胞、induced pluripotent stem cells、誘導多能性幹細胞)に誘導する方法;体細胞の核を除核卵母細胞に移植して核移植ES細胞(ntES細胞)を作製する方法;精原細胞からmGS細胞(multipotent germline stem cells)を作製する方法等の公知の手法を使用できる。これらの手法の中でも、簡便性、多能性幹細胞の効率的な樹立の観点から、体細胞をiPS細胞に誘導する方法が好ましい。
【0018】
体細胞からiPS細胞に誘導するには、体細胞に、自己複製能と分化多能性とを付与できる初期化因子を体細胞に導入すればよい。初期化因子としては、既タンパク質又はそれをコードする核酸、或いは低分子化合物等のいかなる物質であってもよく、既に報告されている各種の初期化因子を使用することができる。また、例えば、WO2005/80598等を参考にして、初期化因子を適宜選択することもできる。
【0019】
核初期化物質がタンパク質またはそれをコードする核酸の場合、具体的には、Oct3/4(NCBIアクセッション番号:NM_013633(マウス)、NM_002701(ヒト))、Oct1A、Oct6等のOctファミリー;Sox2(NCBIアクセッション番号:NM_011443(マウス)、NM_003106(ヒト))、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Sox18等のSoxファミリー;Klf4(NCBIアクセッション番号:NM_010637(マウス)、NM_004235(ヒト))、Klf2、Klf1、Klf5等のKlfファミリー;c−Myc(NCBIアクセッション番号:NM_010849(マウス)、NM_002467(ヒト))、N−Myc、L−Myc等のMycファミリー;Nanog(NCBIアクセッション番号:NM_024865(マウス)、NM_028016(ヒト));Lin28(NCBIアクセッション番号:NM_145833(マウス)、NM_024674(ヒト)、Lin28b等のLinファミリー;TERT;SV40LT;Esrrb(NCBIアクセッション番号:NM_011934(マウス)、NM_004452(ヒト))Esrrg(NCBIアクセッション番号:NM_011935(マウス)、NM_001438(ヒト))、等が例示される。初期化因子の組み合わせとしては、特に制限されないが、例えば、以下の組み合わせが例示される。
(1)Octファミリーの少なくとも1種
(2)Octファミリーの少なくとも1種と、Soxファミリーの少なくとも1種との組み合わせ
(3)Octファミリーの少なくとも1種と、Klfファミリーの少なくとも1種との組み合わせ
(4)Octファミリーの少なくとも1種と、Nanogとの組み合わせ
(5)Octファミリーの少なくとも1種と、Klfファミリーの少なくとも1種と、Soxファミリーの少なくとも1種の組み合わせ
(6)Octファミリーの少なくとも1種と、Klfファミリーの少なくとも1種と、Mycファミリーの少なくとも1種の組み合わせ
(7)Octファミリーの少なくとも1種と、Klfファミリーの少なくとも1種と、Soxファミリーの少なくとも1種と、Mycファミリーの少なくとも1種の組み合わせ
(8)Octファミリーの少なくとも1種と、Soxファミリーの少なくとも1種と、Nanogと、Linファミリーの少なくとも1種の組み合わせ
【0020】
これら初期化因子の組み合わせの中も、Oct3/4、Klf4、Sox2、c−Myc(又はl−Myc)、Lin28、及びNanogからなる群から選ばれる1種以上、好ましくは2種以上、更に好ましくは3種以上が例示される。とりわけ、Oct3/4、Klf4、Sox2、及びc−Mycの組み合わせ、ct3/4、Klf4、Sox2、及びl−Mycの組み合わせ、並びにOct3/4、Klf4、及びSox2の組み合わせが好適である。
【0021】
また、上記初期化因子には、更に、Fbx15、ERas、ECAT1、ECAT15−1、ECAT15−2、Tcl1、β-catenin、Esg1、Dnmt3L、ECAT8、Gdf3、Mybl2、Fthl17、Sall4、Rex1、UTF1、Stella、Stat3、Grb2の中の少なくとも1種を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
体細胞をiPS細胞に誘導するための初期化因子の組み合わせについては、例えば、WO2007/69666、WO2008/118820、Nature Biotechnology, 26, 101−106 (2008)、Science, 318, 1917−1920 (2007)、Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)、Cell Research (2008) 600-603、Nature 454:646−650 (2008)、Cell Stem Cell, 2:525−528(2008)、Nature, 451, 141-146 (2008)、Nat. Cell Biol., 11, 197−203 (2009)、Science, 324: 797−801 (2009)等に記載されており、これらを参照して適宜設定できる。
【0023】
なお、本明細書において、上記各初期化因子の表記は、最初の一文字のみ大文字であっても、マウスの場合を限定的に意味するのではなく、ヒトやその他の動物の場合も包含するものとする。
【0024】
上記初期化因子を体細胞に導入する手法についても、特に制限されず、従来公知の導入法を用いて実施することができる。
【0025】
例えば、上記初期化因子が、DNA、RNA、DNA/RNAキメラ等の核酸である場合には、体細胞で機能し得るプロモーターを含む適当な発現ベクターに当該核酸を挿入して、当該核酸を体細胞に導入すればよい。このような発現ベクターとしては、具体的には、レトロウイルス(pMX等)、レンチウイルス(pKP114等)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス等のウイルスベクター;EBV、SV40、センダイウイルス等に由来する自律複製可能なエピゾーマルベクター;pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo等の動物細胞発現用プラスミド等が例示される。また、当該核酸を含む発現ベクターは、ベクターの種類に応じて、自体公知の手法により細胞に導入することができる。例えば、ウイルスベクターを用いる場合であれば、その具体的手法については、WO2007/69666、Cell, 126, 663−676(2006)及びCell, 131, 861−872 (2007)、Science, 318, 1917−1920 (2007)、Science, 322, 945−949 (2008)等に記載されている。また、自律複製可能なエピゾーマルベクターを用いる場合であれば、その具体的手法については、Science, 324: 797−801 (2009)等に記載されている。
【0026】
また、上記初期化因子が核酸である場合には、piggy Bac等のトランスポゾンを使用することもでき、その具体的手法については、例えば、Nature, 458:766−771(2009)、Nature, 458:771−776(2009)等に記載されている。
【0027】
また、例えば、初期化因子がタンパク質である場合、当該タンパク質を、従来公知のタンパク質導入法を用いて体細胞に導入すればよい。具体的には、BioPOTER Protein Delivery Reagent(Gene Therapy Systmes)、Pro−JectTM Protein Transfection Reagent(PIERCE)及びProVectin(IMGENEX)、Profect−1(Targeting Systems)、Penetrain Peptide(Q
biogene)及びChariot Kit(Active Motif)、GenomONE(石原産業)等のタンパク質導入試薬を使用する方法;ショウジョウバエ由来のAntP、HIV由来のTAT、HSV由来のVP22等のタンパク質の細胞通過ドメインをタンパク質導入ドメイン(PTD)として融合させたタンパク質を用いる方法;マイクロインジェクション法;ポリアルギニンやTAT等の細胞貫通ペプチドを用いる方法等が例示される。
【0028】
斯して、初期化因子が導入された体細胞を適当な条件でインキュベートすると、当該体細胞が初期化されてiPS細胞に誘導される。体細胞から誘導されたiPS細胞は、細胞の形態、自己複製能、分化多能性、表面マーカー等を指標にして単離することができる。
【0029】
斯して生命機能の異常をもたらす遺伝的変異をヘテロで保持する多能性細胞が樹立される。
【0030】
第2工程
次いで、樹立した多能性幹細胞に減数分裂を行わせ、減数分裂途中の細胞から2倍体の多能性幹細胞を作製する(第2工程)。
【0031】
本第2工程の具体的手法については、制限されるものではないが、一つの好適な態様として、樹立した多能性幹細胞に減数分裂を行わせ、第一次減数分裂の前期又は第二減数分裂中期の卵母細胞を用いて2倍体の幹細胞を作製することが挙げられる。
【0032】
本第2工程において、多能性幹胞を減数分裂させるには、例えば、既に公知の卵母細胞作製のプロトコールに従って行えばよい。具体的には、多能性幹細胞を胚盤胞に注入することによってキメラ動物を作製、又は4倍体補完法により多能性幹細胞のみから動物を作製し、得られた成体メス動物の卵巣において、iPS細胞に減数分裂(卵形成)を行わせればよい。なお、多能性幹細胞が、オスの体細胞から樹立されたものであっても、当該細胞をメス動物の胚盤胞に移植し、メスのキメラ動物を作製することにより、その卵巣内には多能性幹細胞由来の卵が形成されることが知られている。
【0033】
また、ヒトの体細胞から樹立した多能性幹細胞を使用する場合であれば、倫理的な問題を考慮して、ヒト生体を使用せず、多能性幹細胞を体内に準ずる環境下で卵形成に誘導することにより、当該多能性幹細胞を減数分裂させることが望ましい。以下に、その具体的手法について説明する。但し、本発明は、下記手法に限定して解釈されるものではない。
【0034】
ヒトiPS細胞はマウス胚盤胞のinner cell massに由来するES細胞よりはむしろepiblast由来の多能性幹細胞であるepiblast stem cells様の特徴を持っており[P. J. Tesar et al., New cell lines from mouse epiblast share defining features with human embryonic stem cells. Nature 448, 196 (Jul, 2007); I. G. Brons et al., Derivation of pluripotent epiblast stem cells from mammalian embryos. Nature 448, 191 (Jul, 2007)]、マウスES/iPS細胞と比較して、in vitroにおいて、BMPs(Bone Morphogenetic Proteins)に応答して始原生殖細胞(PGCs)になりやすい性質を持っていることが知られている[K. Kee, V. T. Angeles, M. Flores, H. N. Nguyen, R. A. Reijo Pera, Human DAZL, DAZ and BOULE genes modulate primordial germ−cell and haploid gamete formation. Nature 462, 222 (Nov, 2009)]。
【0035】
また、PGCを含む組織片を、マウスの原条期胚の羊膜の基底部と尿膜の接合部にあるスペース(この時期の内在性PGCが存在している場所)に移植すると、胚の発生に伴って、外来性のPGCが、内在性のPGCと同じように、genital ridgeへの移動を開始できることが知られている[A. J. Copp, H. M. Roberts, P. E. Polani, Chimaerism of primordial germ cells in the early postimplantation mouse embryo following microsurgical grafting of posterior primitive streak cells in vitro. J Embryol Exp Morphol 95, 95(Jun, 1986)]。
【0036】
また、primitive streak stageのマウス胚(E7.5相当)は、3日間の全胚培養によって、E10.5相当の胚にまで発生が可能である[K. Sturm, P. P. Tam, Isolation and culture of whole postimplantation embryos and germ layer derivatives. Methods Enzymol 225, 164 (1993);E. S. Hunter, W. Balkan, T. W. Sadler, Improved growth and development of presomite mouse embryos in whole embryo culture. J Exp Zool 245, 264 (Mar, 1988)]。
【0037】
また、E10.5胚のurogenital ridgeを数日間器官培養し、卵巣様の組織まで分化させることも可能であり[A. McLaren, M. Buehr, Development of mouse germ cells in cultures of fetal gonads. cell Differ Dev 31, 185 (Sep, 1990); A. McLaren, D. Southee, Entry of mouse embryonic germ cells into meiosis. Dev Biol 187, 107 (Jul, 1997)]、更に、E12.5(生殖原基が卵巣の形態を示す時期)以降のマウス胎児由来の卵巣を、卵巣を除去したメスマウスに移植して、マウス体内で成熟させる事は可能である[H. H. Motohashi, T. Sankai, K. Nariai, K. Sato, H. Kada, Effects of in vitro culture of mouse fetal gonads on subsequent ovarian development in vivo and oocyte maturation in vitro. Hum cell 22, 43 (May, 2009); S. Cox, J. Shaw, G. Jenkin, Follicular development in transplanted fetal and neonatal mouse ovaries is influenced by the gonadal status of the adult recipient. Fertil Steril 74, 366 (Aug, 2000).; J. Liu, J. Van Der Elst, R. Van Den Broecke, F. Dumortier, M. Dhont, Maturation of mouse primordial follicles by combination of grafting and in vitro culture. Biol Reprod 62, 1218 (May, 2000).; J. Liu, J. Van der Elst, R. Van den Broecke, M. Dhont, Live offspring by in vitro fertilization of oocytes from cryopreserved primordial mouse follicles after sequential in vivo transplantation and in vitro maturation. Biol Reprod 64, 171 (Jan, 2001).]。
【0038】
そこで、これらの従来公知の知見を利用して、図2に示す手順で、非ヒト動物を利用して、ヒト多能性幹細胞を減数分裂させることが可能である。即ち、(1)BMPsを用いて、樹立したヒト多能性幹細胞からPGCsを誘導する、(2)得られたPGCsをマウスの原条期胚の羊膜の基底部と尿膜の接合部にあるスペースに移植する、(3)全胚培養によって、E10.5相当の胚を発生させる、(4)10.5胚のurogenital ridgeを数日間器官培養して卵巣様の組織まで分化させる、(5)E12.5以降のマウス胎児由来の卵巣を、卵巣を除去したメスマウスに移植して、マウス体内で成熟させる、の工程を経ることにより、ヒトiPS細胞に対して非ヒト動物を利用して減数分裂させることができる。これらの(1)〜(5)の各工程については公知であり、公知の条件又はそれを適宜アレンジすることにより、ヒト多能性幹細胞を減数分裂させることができる。
【0039】
本第2工程の好適な一態様では、上記のように多能性幹細胞に減数分裂を開始させた後に、第一次減数分裂の前期又は第二減数分裂中期で、卵母細胞を体外に取り出して、卵母細胞から2倍体の多能性幹細胞を作製する。第一減数分裂前期の複糸期(ディプロテン期)では、一次卵母細胞の中には4nの染色体が存在し、キアズマ形成を完了させている。また、第二減数分裂中期に至った二次卵母細胞では、染色体数は2nで、それぞれの相同染色体は片親由来のhomozygousな部分と両親由来のheterozygousな部分を様々な割合で保持している。
【0040】
第一次減数分裂の前期又は第二減数分裂中期の卵母細胞から2倍体の多能性幹細胞を樹立するには、例えば、当該卵母細胞から単為発生胚を作製することにより、当該卵母細胞に由来するES細胞(2倍体の幹細胞)を作製すればよい。卵母細胞から単為発生胚の作製は、一般的な単為発生胚の作出方法に従って、卵母細胞に対して適切な刺激を与えた体外発生培養を行って単為発生を行わせればよい。単為発生胚の作出では、例えば、ストロンチウムを使用することができ、更に極体の放出を阻害する目的でサイトカラシン処理を行ってもよい。このように単為発生胚を作出することにより、2nの核相で、父母由来の染色体を様々な割合で保持する単為発生胚が得られる。即ち、第一次減数分裂の前期又は第二減数分裂中期で取り出した卵母細胞から得られた2倍体の単為発生胚の集団では、体細胞に由来する遺伝的変異をホモで持つ胚、当該遺伝的変異をヘテロで持つ胚、当該遺伝的変異を持たない胚が混在した状態になっている。次いで、単為発生胚の胚盤胞からES細胞を樹立することにより、卵母細胞から、両親由来の染色体を様々な割合で持つ2倍体の多能性幹細胞クローンの集団が得られる。
【0041】
第3工程
次いで、得られた2倍体の多能性幹細胞の細胞機能を解析する(第3工程)。
【0042】
2倍体の幹細胞の細胞機能を解析するには、当該多能性幹細胞を、生命機能の異常に関連する組織や部位を構成する細胞に分化させて、分化細胞の機能を解析すればよい。例えば、肝臓でのグリシン代謝に異常のある高グリシン血症[G. Kikuchi, Y. Motokawa, T. Yoshida, K. Hiraga, Glycine cleavage system: reaction mechanism, physiological significance, and hyperglycinemia. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci 84, 246 (2008)]のような代謝性疾患場合は、2倍体の多能性幹細胞を肝細胞に分化させ、その肝細胞のグリシンの代謝能を測定することにより、細胞機能を解析することができる。ここで、細胞の表現型としての細胞機能を、正常、異常といった定性的な様式で判断してその後の遺伝学的解析に供してもよく、また、実際の測定値を定量的な値として取り扱い、その後の遺伝学的な解析の段階で、細胞機能を決定する量的形質遺伝子座を同定する解析方法(QTL解析)を用いて当該遺伝子座を同定してもよい。
【0043】
また、生命機能の異常をもたらす遺伝的変異を有する動物由来の多能性幹細胞(上記第1工程で樹立した多能性幹細胞)を、当該生命機能の異常に関連する組織や部位を構成する細胞に分化させると、分化した細胞は、生命機能の異常の要因となる原因遺伝子を保有しているため、当該生命機能の異常の要因となる細胞機能異常を呈する。そのため、当該第3工程に先立って、上記第1工程で樹立した多能性幹細胞を、生命機能の異常に関連する組織や部位を構成する細胞に分化させて、得られた分化細胞を用いて、生命機能の異常の有無を判定できる細胞機能の評価方法を確立しておいてもよい。斯して評価方法を確立しておくと、簡便且つ効率的に、2倍体の多能性幹細胞から分化させた細胞の細胞機能を解析することが可能になる。
【0044】
なお、単為発生胚由来のES細胞を種々の細胞に分化させる方法についても、既に知られており、本第3工程では、従来公知の方法で、2倍体の多能性幹細胞を所望の細胞に分化させることができる。例えば、マウスES細胞では、単為発生胚由来のES細胞を正常胚に導入したり、in vitroで培養する事で、様々な種類の細胞に分化さることができる[N. Allen, S. Barton, K. Hilton, M. Norris, M. Surani, A functional analysis of imprinting in parthenogenetic embryonic stem cells. Development 120, 1473(Jun, 1994); H. Lin et al., Multilineage potential of homozygous stem cells derived from metaphase II oocytes. Stem Cells 21, 152(2003)]。また、ヒトES細胞においても、卵巣性テラトーマにおいてES細胞が種々の細胞に分化させることができる。
【0045】
第4工程
次いで、得られた2倍体の多能性幹細胞において、細胞機能の異常と連鎖する遺伝子座を同定する(第4工程)。
【0046】
上記第3工程において、遺伝的変異の原因遺伝子(突然変異を含む)を持つ2倍体の多能性幹細胞では、細胞機能に異常が見られ、他方、それを持たない2倍体の多能性幹細胞では、正常な細胞機能が観察される。
【0047】
そこで、本第4工程では、上記第3工程において細胞機能の解析を行った2倍体の多能性幹細胞の遺伝子型をゲノムワイドに同定し、その表現型のデータと照合して、当該細胞の原因遺伝子の遺伝子座を遺伝学的に同定する。原因遺伝子の遺伝子座を同定する手法は、既に確立されており、例えば、通常のゲノムワイド関連解析の手法を用いることができる。
【0048】
斯して同定された遺伝子座は、必要に応じて、塩基配列を決定し、生命機能の異常を持つ細胞と、正常細胞との間で塩基配列を比較することにより、生命機能の異常の原因となる変異部位を同定することもできる。
【0049】
更に、必要に応じて、上記第3工程において細胞機能の異常を示した2倍体の幹細胞又は当該幹細胞から誘導した所望の分化細胞に対して、遺伝子操作等を行うことにより、上記で同定された変異部位を野生型に回復させて、正常な細胞機能に回復するかを確認することにより、当該変異部位が遺伝性疾患に関与していることの裏付けを行ってもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0051】
実施例1
以下、本発明を実証する一実験例として、マウスからMHC遺伝子座を遺伝学的に同定する方法を示す。
【0052】
<マウス胎児線維芽細胞からiPS細胞の作製>
胎生13.5日のBDF1マウス(C57BL/6とDBA/2のF1ヘテロマウス)胎児からMEF細胞(マウス胎児線維芽細胞)を採取し、10%FCS入りのDMEMで培養する。MEF細胞は、6ウェルプレートの1ウェルあたり、1.3×10 cells蒔き(day 0)、pCX−OKS−2A及びpCX−cMyc(それぞれプラスミドベクター、CAGプロモーターによって、前者はOct−4、Klf4、Sox2を、後者はc−Mycを恒常的に発現する)ベクターをday 1, 3, 5, 7の4回、トランスフェクションする[Plasmids(1.5μg)、FuGENE 6 transfection
reagent(4.5μl:Roche)]。なお、day 4からは、トランスフェクションされたMEF細胞をLIF(leukemia inhibitory factor)の入ったES cell mediumにて培養する。また、day 9で、細胞をトリプシン処理して、細胞をSNL feeder細胞入りの100mmのディッシュに入れて培養する。Day 20〜30で、ES様のコロニーをピックアップし培養する。斯して、マウス胎児線維芽細胞からiPS細胞が作製される[Generation of mouse induced pluripotent stem cells without viral vectors., Science 2008, 322:949−953参照]。
【0053】
<iPS細胞の減数分裂、及び卵母細胞の初期化>
上記で樹立したiPS細胞を、BDF1マウスの受精卵が胚盤胞に達した段階で注入し、この胚盤胞をBDF1マウスの子宮に移植した。次いで、iPS細胞由来の卵母細胞が第2減数分裂中期に達した時点で、PMSG(妊馬血清ゴナドトロピン)5IUをマウスに腹腔内注射し、その48時間後にhCG(ヒト胎盤性性腺刺激ホルモン)をマウスに腹腔内注射して、15時間後に卵管膨大部より卵丘細胞に包まれた卵を採取する。得られた卵を0.3mg/mlヒアルロニダーゼにて処理し、卵母細胞を取得する。
【0054】
次いで、上記で得られた卵母細胞を、5.55mMグルコース、2mM EGTA、5mM塩化ストロンチウム及び5μg/mlサイトカラシンBを含むCZB培地に入れて、6時間培養(5%CO、37℃)することにより、第二減数分裂中期の卵を2倍体のまま単為発生的に活性化できる。その後、5.55mMグルコースを含むCZB培地にて4日間培養し、胚盤胞まで発生を進ませる[Journal of Reproduction and Development, Vol.53, No.6, 2007 1207−1215. Efficient strontium−Induced Activation of Mouse Oocytes in standard culture media by chelating Calcium参照)。
【0055】
その後、胚盤胞を0.05%Pronase処理にて透明帯を剥離した後、マウス脾臓で免疫したウサギ血清10%を含むM2培地で30分間培養し、10%モルモット血清を含む培地にて、胚体外胚様を除去する。単離した内部細胞塊をMEFフィーダー細胞上にて4日間培養することにより、ES細胞(2倍体の幹細胞)のコロニーが多数得られる。(Memoirs of Institute of Advanced Technology, Kinki University No.10: 69−75 2005参照)
【0056】
<単為発生ES細胞のMHC発現細胞(上皮様細胞)への分化>
上記で得られたES細胞をバクテリア培養用のペトリディッシュで14日間培養し、胚様体にする。その後、得られた胚様体をゼラチンコートされたdishで14日間培養することにより、MHC分子を細胞表面に発現する上皮様細胞が得られる。この上皮様細胞への分化に使用される培地は、15%のFBS、2mMのL−グルタミン、0.1mMのMEM非必須アミノ酸、0.1mMのβメルカプトエタノール、50U/mlのペニシリン、及び50μg/mlのストレプトマイシンを含むknockout DMEM培地が使用される。(Histocompatible embryonic stem cells by parthenogenesis., Science 2007, 315:482−486参照)。
【0057】
<MHC発現細胞(上皮様細胞)の細胞機能の解析>
分化した上皮様細胞を含む培養細胞をトリプシン/EDTA処理により単一細胞の懸濁液にする。その後、FITC結合の抗H−2K抗体(C57BL/6由来のMHC分子)、PE結合の抗H−2K抗体(DBA/2由来のMHC分子)で細胞を染め、FACS解析により、それぞれの単為発生細胞クローンが(i)H−2Kのみを発現している、(ii)H−2Kのみを発現している、(iii)H−2KとH−2Kの両方を発現している、のいずれかを決定する。
【0058】
<MHC遺伝子座の遺伝学的同定>
単為発生ES細胞からゲノムDNAを抽出し、ゲノムワイドにSNPタイピングを行う(Mouse Low Density (LD) Linkage panel, Illumina社)。
また、それぞれのES細胞について得られた遺伝子型データ(ゲノムワイドSNP)と表現型データ(MHC分子)を遺伝学的に解析することにより、MHC分子の各表現型の責任遺伝子となっているMHC遺伝子座が同定される。当該解析は、ゲノムワイド関連解析を行うソフト(Genetic Power Calculator等)を利用して行うことができる。
【0059】
上記実施例では、BDF1マウスから得られたMEF細胞においてMHC分子の各表現型の責任遺伝子となっているMHC遺伝子座を同定するモデルケースを示しているが、同じ原理を用いて、遺伝性疾患の患者又はその保因者に由来する体細胞を使用して、当該疾患の原因遺伝子を同定することが可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
生命機能の異常をもたらす遺伝的変異がある遺伝子座を同定する方法であって、
生命機能の異常をもたらす遺伝的変異を有する動物の体細胞から多能性幹細胞を樹立する第1工程、
樹立した多能性幹細胞に減数分裂を行わせ、減数分裂途中の細胞から2倍体の多能性幹細胞を作製する第2工程、
得られた2倍体の多能性幹細胞の細胞機能を解析する第3工程、
得られた2倍体の多能性幹細胞において、細胞機能の異常と連鎖する遺伝子座を同定する第4工程、
を含む、同定方法。
【請求項2】
前記第1工程が、前記体細胞を初期化して人工多能性幹細胞に誘導することにより行われる、請求項1に記載の同定方法。
【請求項3】
前記第2工程が、樹立した多能性幹細胞に減数分裂を行わせ、第一次減数分裂の前期又は第二減数分裂中期で卵母細胞を単為発生させ2倍体の多能性幹細胞を樹立することにより行われる、請求項1又は2に記載の同定方法。
【請求項4】
前記第3工程が、2倍体の多能性幹細胞を、生命機能の異常と関連する組織又は部位を構成する細胞に分化させ、得られた分化細胞の細胞機能を解析することにより行われる、請求項1〜3のいずれかに記載の同定方法。
【請求項5】
前記第3工程に先立って、前記第1工程で樹立した多能性幹細胞を、生命機能の異常と関連する組織や部位を構成する細胞に分化させ、
得られた分化細胞を用いて生命機能の異常の有無を判定できる細胞機能の評価方法を確立しておき、
斯して確立された評価方法を用いて前記第3工程による細胞機能の解析を行う、
請求項1〜4のいずれかに記載の同定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−187047(P2012−187047A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53366(P2011−53366)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】