説明

生物マイクロアッセイを使用する標的同定のための普遍的な読み取り

【課題】本発明の方法および方法を実施するための装置が提供される。本発明の方法は、生物または化学標的を同定し所定の化合物をスクリーニングするために、マイクロアレイ上で間接的な競合結合アッセイを行う工程を含む。
【解決手段】本発明のマイクロアレイは、膜−、脂質−またはタンパク質−結合活性結合部位に位置する共通のリガンドを有する。本発明の方法は、マイクロスポットの限られた境界内での異なる結合部位に対する所定の生物または化学標的と普遍的読み取りユニットとの間の既知のまたはよく特徴付けられた結合運動学、および立体障害を利用する。生物標的、化学物質または有機体は、標的結合部位に特異的に結合することができ、普遍的な読み取りユニットはマイクロスポット中のリガンドに結合する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2003年3月19日に出願され、その内容が参照によりここに完全に引用される、米国特許出願第10/392,193号に優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、生物アッセイを行うための方法および装置に関する。特に、本発明は、二次元生物マイクロアレイを使用する生物標的同定および/または化合物スクリーニングのための間接的な競合結合アッセイの使用を説明する。
【背景技術】
【0003】
所定の生体において、多数の遺伝子およびその産物(すなわち、RNAおよびタンパク質)が、生命の神秘を生じる複雑で組織化した態様で作用する。分子生物学、生物化学および細胞生物学における従来の方法は、通常、「一つの実験において一つの標的(すなわち、遺伝子、タンパク質)」の原理に基づいて動く。このことは、処理能力が非常に制限され、遺伝子機能の「全体像」およびタンパク質機能の「動的ネットワーク」(すなわち、タンパク質−タンパク質、タンパク質−小分子相互作用、シグナル経路)を得ることが困難であることを意味する。
【0004】
過去数年、ゲノミクスの分野における研究は、ある生物中の多数の遺伝子の発現レベルを同時に、定量的に観察する分析手法を開発しようとしてきた。同様にプロテオミクスの分野では、発生量、位置、修飾、一時的変化、および他の生物および化学分子との相互作用に関して多数のタンパク質を同時に、定量的に分析する分析手法を開発する競争が増加してきた。
【0005】
様々の潜在的な方法の中で、マイクロアレイ技術は、革新的な方法として広くみなされ、これは単一の実験内で潜在的に多数の分子パラメーターの同時分析を可能とする。アレイはサンプルの順序正しい配置である。多数の生物学的に関心のある分子が空間的にアドレス可能な態様で表面上に固定化される表面に基づくアッセイの開発は、マイクロアレイ技術の重要な特性であった。現在、生物マイクロアレイは、ほとんど全て、固体基体の表面上に多数の生物分子を固定化する。それぞれの固定化された分子は、基体表面上の制限されたスペースに限定され(すなわち、数百ミクロンの標準直径を有するマイクロスポット)、それぞれの対応するマイクロスポットは、空間的にアドレス可能な態様で定められた位置に配置される。固定化された分子は通常、「プローブ」と称され、対応するマイクロスポットは「プローブマイクロスポット」と称される。プローブ生物分子の固定化は通常、事実上二次元的であるが、固定化は、2つの異なる機構により達成されてもよい(物理的吸収対共有/親和結合)。
【0006】
マイクロアレイが所定のサンプルにさらされた場合、サンプル中の分子は、マイクロアレイ中の結合パートナーに選択的および特異的に結合する。検出および同定されるサンプル中の分子は、「標的」と称される。マイクロスポットへの「標的」の結合は、「標的」分子の濃度および特定のプローブマイクロスポットへの親和性により特定される程度まで生じる。原理的には、標的濃度が分かれば、異なるプローブマイクロスポットへの標的の結合親和性が同時に評価できる。逆に、それぞれのプローブマイクロスポットについてのサンプル中の異なる標的の親和性が分かれば、それぞれのマイクロスポットで観察される結合の量を直接使用して、サンプル中の複数の標的の濃度を同時に評価できる。さらに、異なるプローブマイクロスポットへの標的の結合のパターンは、マイクロアレイ中のプローブへの標的の選択性および特異性について非常に有用な情報を生じることができる。
【0007】
現在まで、生物マイクロアレイは、表面上に固定化された分子の種類に基づいて5つの一般カテゴリーに分類できる。第一のカテゴリーには、決まった位置で表面に結合される核酸分子のセットを含むDNAマイクロアレイが含まれる。cDNAおよびオリゴヌクレオチドのような結合した核酸は、既知の配列を有し「プローブ」として作用する。同一性/発生量が分析される遊離核酸サンプルは「標的」である。(非特許文献1参照。)
第二のカテゴリーは、様々の種類のタンパク質マイクロアレイを含む。通常、タンパク質マイクロアレイは、決められた位置で表面上に固定化された所定のタンパク質分子を使用する。(非特許文献2参照。)固定化されたタンパク質分子は、既知の配列を有し、「プローブ」として作用する;ここで、「標的」は同一性/発生量が検出されているサンプル中の遊離生物物質である。例えば、タンパク質マイクロアレイは、小分子結合タンパク質の同定に使用されている。(Zhu, H., et al., “Global Analysis of Protein Activities Using Proteome Chips,”Science 2001, 293, 1201-2105。)抗体プローブのアレイはまた、血液中のタンパク質発生量の測定、サイトカイン発生量の測定、並びに白血球の捕獲/白血病の表現パターン検査をする、タンパク質プロファイリングのために使用されてきた。抗原プローブのアレイは、自己免疫抗体およびアレルギーを測定するための逆免疫アッセイに使用されてきた。プローブがペプチドの場合、ペプチドマイクロアレイを使用してタンパク質キナーゼ活性を測定してもよい。(Houseman, B.T., et al., “Peptide chips for the quantitative evaluation of protein kinase activity,”Nature Biotechnology 2002, 20, 270-274。)
所定のレセプター分子および関連する脂質膜分子の両方が決められた位置において表面上に固定化されることを必要とする生物膜マイクロアレイは、第三のカテゴリーを構成する。固定化されたレセプター分子は「プローブ」であり、「標的」は同一性/発生量が検出されるサンプル中の遊離生物物質および化学物質である。プローブは、化合物の特異性および選択性を研究および概略するために使用されてきたGPCRアレイを形成するために生物膜中に埋め込まれるGタンパク質結合レセプター(GPCR)でもよい。(Fang, Y., Frutos, A.G., Lahiri, J., “Membrane Protein Microarrays,”J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 2394-2395。)脂質膜中に埋め込まれたガングリオシドからなるプローブを使用するアレイが、サンプル中の毒素を検出するために使用されてきた。(Fang, Y., Frutos, A.G., Lahiri, J., “Ganglioside Microarrays for Toxin Detection,”Lamgmuir, 2003, 19,1500-1505。)
炭水化物マイクロアレイは、キメラ手タ位置で表面上にプローブとして固定化されたオリゴ糖を含む第四のカテゴリーを構成する。溶液サンプル中で遊離する「標的」は、炭水化物結合タンパク質である。炭水化物マイクロアレイは、炭水化物−タンパク質相互作用の検出(Fukui, S., Feizi, T., Galustian, C., Lawson, A.M., and Chai, W., “Oligosaccharide Microarrays for High-Throughput Detection and Specificity Assignments of Carbohydrate-Protein Interactions,”Nature Biotechnology, 2002, 20, 1011-1017)、および細菌及び宿主細胞の交差反応性分子マーカーの同定(Wang, D., Liu, S., Trummer, B.J., Deng, C., and Wang,A., “Carbohydrate Microarrays for Recognition of Cross-Reactive Molecular Markers of Microbes and Host Cells,”Nature Biotechnology, 2002, 20,275-281)に使用されてきた。
【0008】
第五のカテゴリーには、決められた位置における表面上の固定化された所定のタンパク質結合物質を含む捕獲剤マイクロアレイが含まれる。タンパク質結合物質は、組合せ方法から生じる。この物質は、RNA/DNAアプタマー、アロステリックリボザイム、および小分子を含んでもよい。(非特許文献3参照。)
【非特許文献1】Nature Genetics 1999, 21(supplement), pp.1-60
【非特許文献2】Wilson, D.S. and Nock, S., “Functional Protein Microarrays,” Curr. Opinion in Chemical Biology 2001, 6, 81-85
【非特許文献3】Wilson, D.S., et al., Curr. Opinion in Chemical Biology 2001, 6, 81-85
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アレイ中でのプローブへの標的の結合を検出するアッセイ方法は通常、プローブマイクロスポットへの標的の結合から直接生じる何らかの物理的変化(例えば、蛍光、質量、界面特性、発光等)を測定する。これらの方法は通常、アレイ上のプローブおよび溶液中で検出される標的という二つのユニットを含む。標的分子は通常、蛍光色素により標識される。他の場合、シグナルを増幅するために第三のユニットまたは成分を使用した。例えば、プローブマイクロスポットへの結合後にサンプル中の標的を検出するための別の方法は、標的に直接結合できる抗体のような第三のユニットを使用する、「サンドイッチ」アッセイである。第三のユニットは、蛍光標識され、適切な基体を供給されると蛍光または発光または着色物質を産生できる酵素に結合される。
【0010】
全ての現在の生物マイクロアレイが直面する一つの問題は、アレイの質(すなわち、アレイ中のプローブ)を評価し標的の結合から生じるシグナルを標準化する基準がないということである。例えば、DNAマイクロアレイにおいては、科学者は、相対的な示差発現パターンを生じるために二色ハイブリダイゼーション技術を使用しなければならない。したがって、普遍的な読み取りを使用するシステムが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一部、二次元生物マイクロアレイ形式を使用してサンプル中の標的分子の発生量を同定及び調査する方法に関する。原則として、本発明は、一対の既知のレセプター−リガンド相互作用を使用し、ここでは、リガンドへの既知の解離定数(Kd)を有する天然発生または合成生物または化学分子(「レセプター」)がサンプル中の標的分子または化合物を検出するための普遍的な読み取りとして使用される。この普遍的な読み取りユニットは、アレイ中でプローブへの標的の結合に直接は介入しない。言い換えれば、普遍的な読み取りユニットは、所定の標的の結合パートナーであるアレイ中のプローブの同じ結合部位または領域に結合しない。対照的に、この第三のユニットは、アレイ中で共通のリガンドに結合し、これにより表面を占有し、アレイ中のプローブへの標的の結合について立体的に込み合った効果を提供する。そのようにすることにより、本発明は、サンプル中の様々の標的の発生量を検出またはスクリーニング、同定、および調査する固有の標準(built-in standard)を提供する。原理的には、リガンドおよびその相補的な普遍的読み取りである結合パートナーは、事実上任意の種類の生物マイクロアレイ形式に適用してもよい。
【0012】
本発明による方法は、多数の工程を有する。第一に、固体または半固体の基体上に沈着および固定化された多数の生物分子を提供する。生物分子は、少なくともマイクロスポットで、好ましくはマイクロスポットの配列で配置される。それぞれのマイクロスポットは、生物分子のうち、全ての他のマイクロスポットに共通する共存リガンドを含有する。共通のリガンドは、タンパク質が所定の標的を含有するサンプル中に含まれる普遍的な読み取りタンパク質の結合のための普遍的なアダプターとして作用する。
【0013】
第二に、所定の標的を含有するサンプルおよび固体基体と結合した共通のリガンドに特異的に結合できる普遍的な読み取りユニットを提供する。普遍的な読み取りユニットは、蛍光標識されてもよく、または適切な基体を供給されると蛍光、発光または着色物質を産生できる酵素に結合されてもよい。普遍的な読み取りユニットと共通のリガンドとの間の相互作用は、よく特徴付けられるべきである。好ましくは、共通のリガンドへの普遍的な読み取りユニットの結合定数は、ビオチンへの抗ビオチン抗体、PI(4,5)P2へのタンパク質キナーゼ、またはガングリオシドGM1へのコレラ毒素の強い結合定数のように、ナノモルまたはナノモル以下の範囲(1×10-5−100nM、好ましくは0.1−70nM)のオーダーである。
【0014】
第三に、直接競合する態様で所定の生物標的が標識された普遍的読み取りユニットと競合するアッセイを行う。すなわち、普遍的な読み取りユニットおよび標的は、プローブマイクロスポット中の同じ表面領域についての直接の競合と対照的に、アレイ中のプローブの同じ結合部位または領域または成分について競合しない。あるいは、アレイ中のプローブ生物分子へのサンプル中の標的の結合に抑制剤が直接影響を与える抑制アッセイを行ってもよい。例えば、蛍光、または発光、または様々の共鳴における変化を検出するための従来の方法を使用して、対応するリガンドとの普遍的な読み取りユニットの結合を観察してもよい。
【0015】
本発明によれば、普遍的な読み取りユニット分子は、アレイ中でプローブ生物物質と共存する共通のリガンドよりもサイズにおいて物理的にずっと大きい。さらに、それぞれのプローブマイクロスポット中の共通のリガンドの分布は均一でなければならず、一度マイクロスポットに結合すると普遍的な読み取り分子の閉鎖充填(close packing)が生じるように共通のリガンドの密度は十分高くなければならない。マイクロスポットの境界内で、結合に利用できる表面は制限される。普遍的な読み取りユニットのものと同様の物理的大きさを有する所定の標的は、標的が対応するプローブ生物分子に結合しようとすると、普遍的な読み取りユニットから空間または立体障害を受ける。したがって、より大きい普遍的読み取り分子が共通のリガンドに最初に結合すると、標的は対応する生物プローブへの結合から妨害される。
【0016】
別の態様において、本発明は、生物マイクロアレイの性能の品質管理を評価する方法に関する。そのような方法は、1)マイクロスポット中で固定化された多数の生物プローブであって該プローブと結合した普遍的なアダプターまたは共通のリガンドを有する生物プローブを基体に提供する工程;2)共通のリガンドと結合できる標識された普遍的な読み取りユニットを提供する工程;3)基体上で普遍的な読み取りユニットを生物プローブと反応させることによりアッセイを行い、共通のリガンドに普遍的な読み取りユニットを結合させる工程;および、4)それぞれの普遍的な読み取りユニットの標識から相対的なシグナル強度を観察する工程、を有する。この方法は、固定化された生物分子の位置の評価、並びにアレイのスポット形態の調査に使用してもよい。アレイにおいて、共通のリガンドのみからなる追加のマイクロスポットである、「コントロールスポット」を組み込んでもよい。標識された普遍的な読み取りユニットが高密度で(例えば約≧500または1000リガンド/mm)でリガンドに結合する場合、閉鎖的に充填されたリガンドの領域であるコントロールスポットは、アレイ上の他のマイクロスポットと相対的により高いまたは最高のシグナル強度を示す。マイクロスポットの相対的な強度は、プローブおよびその結合部位がマイクロスポットでどの程度分散したかを示すものとして、形態に重要である。リガンドのみのコントロールスポットは、他のマイクロスポットで観察されるよりも均一なシグナル強度を表面領域において示すであろう。
【0017】
さらに別の態様において、本発明は、本発明の方法による生物または化学分子の高処理検出およびスクリーニングのための物品およびキットを有するアセンブリに関する。このアセンブリは、例えば、ホスファチジルイノシトールホスフェート(PIP)またはスフィンゴ脂質マイクロアレイを含む、標的同定のための生物物質の特定の主題アレイを含んでもよい。
【0018】
本発明の追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明で明らかになる。前記の発明の概要および以下の詳細な説明および実施例は、単に本発明を説明するものであり、請求される本発明を理解するための概観を提供することを意図したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(図面の簡単な説明)
図1は、本発明による方法の概略図である。多数の生物分子またはプローブ(10)が基体表面(12)に固定化される。それぞれのプローブ(10)は、対応する標的分子(16)のための関連する活性または結合部位(14)を有する。それぞれのプローブ(10)はまた、蛍光マーカー(21)で標識してもよい均一な読み取りユニット(20)と結合する関連リガンド(18)を有する。本発明の原理によれば、均一な読み取りユニットおよび標的分子はそれぞれ、対応する結合パートナーに結合する。同じ結合部位について競合する代わりに、それぞれの分子はマイクロスポットの表面上の制限された空間について他の分子と間接的に競合する。一つの分子が結合パートナーと結合すると、マイクロスポットの表面は立体障害性になり、他の結合を妨げる。別の実施の形態において、生物または化学抑制分子(22)がサンプル溶液中に存在してもよい。
【0020】
図2は、膜レセプター結合タンパク質または生物を同定するための本発明の実施の形態を示す。マイクロスポットにおいて、共通のリガンド(A)は、脂質関連結合部位を含有する生物プローブまたは所定のレセプター(B)に含まれる。共通のリガンドAについての結合パートナーが標識され、普遍的な読み取りユニットとして使用される。所定の生物または化学標的は、普遍的な読み取りユニット(例えばタンパク質)と競合する。
【0021】
図3は、本発明に関する通常のガングリオシドの構造を示す。
【0022】
図4は、通常のホスファチジルイノシトールホスフェートの構造および異なるPIに特異的に結合するタンパク質の実施例を示す。
【0023】
図5は、ガンマ−アミノ−プロピルシラン−(GAPS)−コーティングされた実験スライドにおけるcy3−標識されたストレプタビジンの結合部位における標識されていないコレラ毒素Bの用量反応の一連のパネルA-Dを示す。パネルA-Cは、マイクロアレイの蛍光画像である。パネルDは、標識されていないコレラ毒素の濃度の機能として、DLPC/ビオチン−DHPEマイクロスポット(菱形)、およびDLPC/GD1b/ビオチン−DHPEマイクロスポット(正方形)の相対的な蛍光強度のグラフのプロットである。
【0024】

セクションI−定義
通常、他に定義されていなければ、ここで使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明の属する分野の当業者により従来理解される通常の意味を有する。
【0025】
ここで用いたように、タンパク質の「活性部位」または「結合部位」という用語は、結合分子(例えば基体または相互リガンド)が結合しリガンド結合の結果としてリガンドに変化が生じる(例えば基体またはタンパク質との複合体形成)、タンパク質(例えば、抗体、酵素分子または表面膜レセプター)の特異的区域または領域を称する。
【0026】
ここで用いたように、「生物分子」という用語は、例えば、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA)、ペプチド、タンパク質、抗体、タンパク質膜、脂質、脂質膜、または細胞膜、またはオリゴ糖を含む、任意の種類の生物学的存在を称する。
【0027】
ここで用いたように、「生物スポット」、「マイクロスポット」、または「生物部位」という用語は、生物または化学物質の沈着を含む、基体の表面上の別個のまたは定められた領域、位置、またはスポットを称する。
【0028】
ここで用いたように、「相補」または「相補的」という用語は、ある分子の別の分子に対する相互または対応成分を称する。例えば、レセプター−リガンドの対、または反対側の鎖におけるヌクレオチドがワトソン−クリック塩基対(A/T、G/C、C/G、T/A)対応に従い互いに相補的な塩基対を形成する核酸配列が挙げられる。
【0029】
ここで用いたように、「抑制剤」という用語は、プローブの特異的な対のレセプターへのプローブの結合動力学を遅らせる生物成分または化学化合物または分子を称する。抑制剤は、レセプター上の特定の結合部位と可逆的にまたは不可逆的に結合し、同じ部位へのプローブの正常な結合を妨げる。抑制剤のいくつかの種類の例には、タンパク質の生物作用を変化させる、小さい化学および生物分子(例えば、製薬化合物、またはペプチド)である酵素基体が含まれてもよい。
【0030】
ここで用いたように、「プローブ」という用語は、B.Phimister (Nature Genetics 1999,21 supplement, pp.1-60)により基体表面に固定化された天然または合成分子を称する。対応するマイクロスポットは「プローブマイクロスポット」と称され、これらのマイクロスポットは空間的にアドレス可能な態様で配置され、マイクロアレイを形成する。マイクロアレイが所定のサンプルにさらされると、サンプル中の分子は、マイクロアレイ中で結合パートナー(すなわちプローブ)に選択的および特異的に結合する。マイクロスポットへの「標的」の結合は、「標的」分子の濃度および特定のプローブマイクロスポットへの親和性により特定される程度まで生じる。
【0031】
ここで用いたように、「レセプター」という用語は、リガンドへの親和性を有する分子を称する。レセプターは、天然発生または人工の分子でもよい。これらは、もとのままの状態でまたは他の種類との集合体として使用されてもよい。本発明により使用されるレセプターの例には、抗体、特定の抗原決定基と反応性のモノクローナル抗体および抗血清、薬剤分子または毒素分子、ポリヌクレオチド、DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA)、ペプチド、タンパク質、補因子、レクチン、多糖、ウィルス、細胞、細胞膜、細胞膜レセプター、および細胞小器官が含まれてもよいがこれに限定されない。レセプターは、当該技術においてしばしば抗リガンドと称される。二つの分子が分子認識を介して結合し複合体を形成するときに「リガンド−レセプター対」が形成される。
【0032】
ここで用いたように、「基体」または「基体表面」という用語は、生物スポットに対して安定した支持体を形成できる、固体または半固体の物質を称する。基体表面は、様々の物質から選択できる。例えば、物質は、スライド、プレート、フィルム、粒子、ビーズまたは球の形態の、生物学的(例えば、植物細胞壁)、非生物学的、有機(例えば、シラン、ポリリシン、ヒドロゲル)、無機(例えば、ガラス、セラミック、SiO2、金または白金、または金−または白金−コーティング)、重合体(例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリエステル等)、またはこれらの任意の組合せでもよい。好ましくは、基体表面は、生物スポットのアレイのプリントのために二次元または平面であるが、別の表面構造を取ってもよい。例えば、基体は、高くまたは低くした領域でざらつきがあってもよい。好ましくは、基体表面は、その上に少なくとも1種類の官能基または反応基を有し、これはアミノ、カルボキシル、ヒドロキシル、チオール基、アミン反応基、チオール反応基、Ni-キレート基、抗−His−抗体基等でもよい。より好ましくは、表面は工学的に透明であり、表面Si-OH機能性を有する。
【0033】
ここで用いたように、「標的」、「標的成分」、「生物標的」、または「化学標的」という用語は、検出および同定されるサンプル中の溶媒和された所定の粒子、分子、または化合物を称する。化学標的がアッセイに含まれる場合、間接的な競合結合のために生物標的もサンプル中に存在することが好ましい。
【0034】
ここで用いたように、「普遍的な読み取りユニット」という用語は、リガンドと結合し、結合の指標として作用するレセプターを称する。普遍的な読み取りユニットは、プローブまたは基体表面上に位置する特定の結合領域、リガンドまたは生物物質と結合するために修飾、予め選択、または構成されてもよい。普遍的な読み取りユニットは、タンパク質またはポリマーのような生物または化学成分でもよく、例えば、タンパク質を有するナノ粒子またはビーズを含んでもよい。
【0035】
ここで用いたように、「普遍的なアダプター」または「共通のリガンド」という用語は、ここで通常リガンドとして使用される、普遍的な読み取りユニット分子の特異的な結合パートナーを称する。普遍的なアダプターは、所定の特定の生物種にカスタマイズされてもよい。
【0036】
セクションII−説明
本発明は、一部、サンプル中の標的分子の発生量を同定または調査する普遍的に適用できる方法に関する。本発明は、天然または合成生物分子(「レセプター」)がリガンドに対して既知の解離定数(Kd)を有する、既知のレセプター−リガンド相互作用の対を使用する。ある実施の形態によれば、生物分子(例えば、標識されたタンパク質またはポリマー分子)は、サンプル中の未知の標的分子または化合物を検出するための普遍的な読み取りユニットまたは指標として作用する。リガンドは、表面固定化された生物プローブ中に共存し、二次元(2-D)アレイ形式で使用される場合全てのプローブマイクロスポットに共通である。それぞれのプローブマイクロスポット中の共通のリガンドの分散は、一度マイクロスポットに結合し始めると、普遍的な読み取りユニットの閉鎖充填が起こるように十分でなければならない。
【0037】
従来の競合結合アッセイと異なり、この普遍的な読み取りユニットは、対応するプローブへの標的成分の結合に直接干渉しない。標的および読み取りユニットの間の間接的なまたは平行な競合が使用される。すなわち、普遍的な読み取りユニットは、標的がするのと同じプローブの結合部位または領域(すなわち活性部位)に結合しない。むしろ、普遍的な読み取りユニットは、プローブ中に分散した共通のリガンドに結合する。本発明によれば、普遍的な読み取りユニットは、リガンドよりも物理的にずっと大きいサイズである。それぞれの普遍的な読み取り分子またはレセプターは、約2nmから約100nmの範囲のサイズを有する。好ましくは、普遍的な読み取りユニットは、約3-30nmのサイズであり、より好ましくは約4-20nmのサイズである。しかしながら、レセプターの実際のサイズは相対的であり、リガンドおよび/または標的分子のサイズに依存する。最良の結果を出すには、所定の標的および普遍的な読み取りユニットは、好ましくは同様のサイズである。マイクロスポットの制限内で、利用できる表面は限定される。したがって、より大きい普遍的な読み取りユニットが共通のリガンドに最初に結合すると、表面を占有し空間または立体障害を生じ、対応するプローブに結合しようとする所定の標的成分のプローブへの結合が遅らせられる。この機構に従い、本発明は、サンプル中の標的の発生量を同定または検出するための固有の標準を提供する。
【0038】
一部、本発明は、それぞれの内容が参照することによりここに引用される、米国特許出願公開第2002/0019015号明細書、および同第2002/0094544号明細書、および米国仮特許出願第60/392275号に記載される研究から発展し、生物膜マイクロアレイ形式の有用性をいくつかの新しい用途に広げる。本発明の方法のいくつかの利点のうち、以下に挙げられるように、通常全ての種類の標的を同定するための「普遍的な読み取り」として単一の種類の分子を使用できることが、より重要である。標識された普遍的な読み取り分子からシグナルを検出することだけが必要なので、検査員が個々のアッセイ結果を慎重に検査できるようにするために全ての標的を異なって標識できるにもかかわらず、標的を標識する必要がない。本発明の方法は、事実上全ての種類の二次元(2-D)マイクロアレイまたは粒子−またはビーズ−に基づくアッセイ形式に使用できる。したがって、本発明の方法は、アレイ中で異なるプローブに標的を直接特徴付ける標準を提供できる。
【0039】
プローブ生物物質は、オリゴヌクレオチド、可溶性タンパク質、抗体、多糖、ペプチド、または所定のレセプターを含有する生物膜を含むがこれに限定されない、様々の生物または化学分子から選択されてもよい。ビオチン成分のような共通のリガンドは、アレイ上の生物プローブに結合されてもよい。特定の実施の形態において、アレイ中のプローブ生物物質が生物膜である場合、共通のリガンドは、ビオチン化脂質分子、ガングリオシド分子、またはホスホイノシチドでもよい。あるいは、アレイ中のプローブ生物物質がタンパク質または抗体である場合、共通のリガンドは、例えば、His-標識、FLAG-標識、またはタンパク質ドメインでもよい。
【0040】
したがって、二次元マイクロアレイ形式に関して、本発明は、オリゴヌクレオチドマイクロアレイ、タンパク質マイクロアレイ、多糖マイクロアレイ、および生物膜マイクロアレイに関する。マイクロアレイは、固体基体の表面上で作製されてもよく、好ましくはプローブ生物成分の固定化および結合を増強する物質で被覆される。生物成分は、二つ以上の根本的に異なる機構の一つにより表面に結合されてもよい。これらは、以下のものである:(1)静電的相互作用、疎水的相互作用、水和力またはこれらの任意の組合せによる物理吸着;または(2)ストレプタビジン被覆表面上へのビオチン化タンパク質の固定化およびニッケルイオンキレート化表面上へのHis-標識されたタンパク質の固定化のような、レセプター−リガンド相互作用に基づく共有結合または親和性固定化。表面上へのプローブ生物成分の固定化のための好ましい結合方法は、特定の生物プローブの種類に依存する。例えば、オリゴヌクレオチドマイクロアレイおよび多糖マイクロアレイに関して、プローブ分子は好ましくは表面に共有結合される。しかしながら、タンパク質マイクロアレイについて、プローブ分子は好ましくは、親和性固定化はおそらく一度固定化されるとプローブタンパク質の好ましい位置づけを生じることができるので、親和性固定化に基づいて表面に結合される。
【0041】
リガンド
理論上は、溶液からの検体の結合の検出のために固定化捕獲分子を使用する任意のリガンド結合アッセイを小型化できる。過去数年に、マイクロアレイ技術に基づく方法は、DNAマイクロアレイを使用する遺伝子発現レベルおよび一塩基多型(SNP)の分析からタンパク質マイクロアレイを使用するタンパク質の分析まで広がり、新しい用途が現れた。タンパク質マイクロアレイは、タンパク質−タンパク質、酵素−基体、タンパク質−DNA、またはタンパク質−薬の相互作用を含む、大規模並列形式でタンパク質相互作用を研究する興味深い可能性を提供する。
【0042】
本発明によれば、様々の種類のリガンド種を、様々の種類のプローブ成分と共に使用してもよい。プローブと共存し、アレイ中の全てのプローブマイクロスポットに共通の、予め選択された種類のリガンドを、「共通のリガンド」と称する。この共通のリガンドを使用して、アレイ中のそれぞれのマイクロスポットの表面への普遍的な読み取りユニットの結合を促進する。例えば、プローブがオリゴヌクレオチド、多糖、タンパク質、抗体、またはペプチドである場合、共通のリガンドはプローブに結合したビオチン成分でもよい。別の実施の形態において、プローブが、ガングリオシドまたはホスホイノシチド(PIP)のような糖脂質を含有する生物膜、またはGタンパク質結合レセプターまたはイオンチャンネルのような膜結合タンパク質である場合、共通のリガンドは、ビオチン化脂質分子、ガングリオシド分子、またはホスホイノシチドでもよい。さらに、別の実施の形態において、アレイ中のプローブ生物物質がタンパク質、組換えタンパク質、または融合タンパク質である場合、共通のリガンドはHis-標識、FLAG-標識、またはタンパク質ドメインでもよい。
【0043】
説明したように、アレイ上の基礎となる生物分子が変化しても、共通のリガンドは、普遍的な読み取りユニットを認識しそれに結合できる普遍的なアダプターとして使用される。言い換えれば、プローブ成分が一つのアレイの種類から別のものに変化しても、読み取りユニットはプローブ分子自身と結合せず、むしろ関連するリガンドと結合するので、普遍的読み取りユニットまたはタンパク質の結合する能力は悪影響を受けない。したがって、リガンドおよびその相補的な普遍的読み取りという結合パートナーは、事実上任意の種類の生物マイクロアレイに適用できる。
【0044】
普遍的読み取りユニット
上述のように、普遍的な読み取りユニットまたはタンパク質は、アレイ中で所定の標的がするのと同じプローブの結合部位または領域に結合せず、むしろ共通のリガンドに結合するので、アレイ中でプローブへの標的の結合に直接干渉しない。ある実施の形態によれば、共通のリガンドがアレイ中でプローブ生物物質のビオチン成分であるか、またはアレイ中でプローブ生物膜中に共存するビオチン化脂質分子である場合、普遍的な読み取りユニットは、抗ビオチン抗体またはストレプタビジンでもよい。別の実施の形態において、生物膜中の共通のリガンドがガングリオシド分子である場合、普遍的な読み取りユニットは毒素でもよい(例えば、コレラ毒素、この場合ガングリオシドはGM1である)。別の実施の形態において、生物膜中の共通のリガンドがホスファチジルイノシチドホスフェート(PIP)である場合、普遍的な読み取りタンパク質は、PIP結合タンパク質でもよい(例えば、タンパク質キナーゼ、この場合PIPはPI(4,5)P2である)。タンパク質アレイ中の共通のリガンドがHis-標識、またはFLAG-標識である場合、普遍的読み取りタンパク質は、それぞれ、抗His抗体、または抗FLAG抗体でもよい。
【0045】
事実上全ての生物マイクロアレイの二次元的性質のために、全てのプローブマイクロスポットに結合できる標識された普遍的な読み取りユニットを使用できる。好ましくは、普遍的な読み取りタンパク質は、蛍光標識されるか、または適切な基体を供給されると蛍光、発光または着色物質を産生できる酵素に結合される。普遍的な読み取りタンパク質と共通のリガンドとの間の相互作用は、よく特徴付けられなければならない。好ましくは、共通のリガンドへの読み取りタンパク質の運動結合定数は、ビオチンへの抗ビオチン抗体、PI(4,5)P2へのタンパク質キナーゼB、またはガングリオシドGM1へのコレラ毒素の結合のものと同様である。特に、約1×10-5nMから約50nMまでの範囲、より好ましくは約0.03nMから約15nMまでの範囲、最も好ましくは約0.05nMから約10nMまでの範囲である。
【0046】
基体
本発明の対象のアレイに使用される基体は、その上にプローブスポットのパターンが存在する少なくとも一つの表面を有する。表面は、スライドガラスのように滑らかまたは実質的に平らであるか、または多孔性の基体におけるように凹凸、下降または上昇を有する。ある実施の形態において、好ましくは、基体の表面は実質的に平ら、または超平面であり、約10nm未満の平均表面粗さを有する。平均表面粗さは、好ましくは約5nm未満、より好ましくは約3nm未満、および最も好ましくは1×1μm2につき約0.1nmから約2nmである。もちろん、実際の最適表面粗さは、分析される所定の標的のサイズに関する。さらに、スポットのパターンが存在する表面は、所望の方法で表面の特性を修飾するのに役立つ、一つ以上の異なる化合物または官能基の層(例えば、ガラス上のヒドロキシルまたはカルボキシル基、無水物、アミンまたはシラン基(例えばポリリシンまたはγ−アミノプロピルシラン(GAPS)被覆された)、または金上のチオール基)で修飾されてもよい。
【0047】
基体は、セラミック基体、ガラス、金属、金属酸化物、結晶質、プラスチック、ポリマーまたはコポリマー、これらの任意の組合せ、または一つの物質の他の物質上へのコーティングを含んでもよい。そのような基体は、例えば、金または銀のような(半)貴金属;ソーダ石灰ガラス、アルミノ珪酸、ボロアルミノ珪酸またはホウ珪酸ガラス、Vycorガラス、石英ガラスのようなガラス物質;金属または非金属酸化物;シリコン、リン酸アンモニウムおよび他のそのような結晶質;遷移金属;ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(酢酸ビニル−無水マレイン酸)、ポリ(ジメチルシロキサン)モノメタクリレート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンイミンのような樹枝状ポリマーを含むプラスチックまたはポリマー;ポリ(酢酸ビニル−コ−無水マレイン酸)、ポリ(スチレン−コ−無水マレイン酸)、ポリ(エチレン−コ−アクリル酸)またはこれらの誘導体等のようなコポリマー、を含むがこれに限定されない。
【0048】
基体は、アレイの意図される用途に依存して、単純なものから複雑なものまで様々の構造を取ってもよい。例えば、基体は、スライド、ディスク、またはプレートのような、全体に長方形または円の構造を有してもよい。ある実施の形態によれば、基体は、様々の数のウェル(例えば、96、384、576、1536等)を有するマイクロプレート中のウェル底でもよい。他の構造には、粒子またはビーズが含まれてもよい。
【0049】
本発明のアレイは、必要に応じてさらに、プローブマイクロスポットを有する基体の前部または一部の上にコーティング物質を含んでもよい。好ましくは、コーティング物質は、プローブ生物性分の結合を増強する。最も好ましくは、コーティング物質は、プローブの位置づけられた結合を許容する。
【0050】
セクションIII−マイクロアレイ
本発明の生物マイクロアレイは、オリゴヌクレオチドマイクロアレイ、タンパク質マイクロアレイ、生物膜マイクロアレイ、および多糖マイクロアレイを含んでもよいがこれに限定されない。生物マイクロアレイは、上述のように、固体基体の表面上に作製され、マイクロアレイは事実上二次元である。表面は好ましくは、生物プローブの固定化および結合を増強する物質で被覆される。
【0051】
生物分子は、二次元機構を介して表面に結合されてもよい。繰り返しのために、これらの機構は以下のものである:(1)静電的相互作用、疎水的相互作用、水和力またはこれらの任意の組合せによる物理吸着;または(2)レセプター−リガンド相互作用に基づく共有結合または親和性固定化。第二の機構の実施例には、ストレプタビジン被覆表面上へのビオチン化タンパク質の固定化およびニッケルイオンキレート化表面上へのHis-標識されたタンパク質の固定化のような、レセプター−リガンド相互作用に基づく共有結合または親和性固定化が含まれる。表面上へのプローブ生物成分の固定化の実際の好ましい結合方法は、プローブの特定の種類に依存する。例えば、オリゴヌクレオチドマイクロアレイおよび多糖マイクロアレイに関して、プローブ分子は好ましくは表面に共有結合する。しかしながら、タンパク質マイクロアレイについては、親和性固定化は一度結合したプローブの好ましい方向付けを生じるので、プローブ分子は好ましくは親和性固定化に基づいて表面に結合される。
【0052】
セクションIV−マイクロアレイ形式および用途の実施例
本発明の一般的概念を説明したので、本発明の普遍的な検出方法は様々の生物分子をアッセイするための多数の用途に適用されるかもしれない。リガンド関連の主題的なアレイの以下の実施例は、本発明を適用する生物または化学標的を同定するための多数の可能性の一部のみである。
【0053】
A. タンパク質捕獲物質マイクロアレイを使用する標的同定
タンパク質マイクロアレイ技術は、多数の成分を同時に研究するための有望で強力な手段として現われ、これによりタンパク質が、細胞、組織および生物全体における複雑な過程をコントロールするために、互いに並びに非タンパク質性分子とどのように相互作用するかが分かる。タンパク質マイクロアレイは、サンプル中の全てのタンパク質の発生量、修飾、活性、位置および相互作用の測定(例えば、タンパク質プロファイリング−定量的プロテオミクスと称される用途)、および酵素に対する推定基体またはタンパク質間の推定相互作用の同定(例えば、薬の発見のための化合物スクリーニング−機能的プロテオミクスと称される用途)に利用されてきた。定量的プロテオミクスは、固体基体上に高い空間的密度で配列された抗体および抗原のような多数の異なる親和性試薬を含むタンパク質−検出マイクロアレイの使用を含む。それぞれの試薬は、複雑な混合物(血清または細胞溶解物)から標的タンパク質を捕獲し、捕獲されたタンパク質は次に検出および定量される。機能的プロテオミクスにおいては、親和性試薬よりもタンパク質自身が、固体支持体上に配列される。アレイ形式でタンパク質を研究する利点は、検査員が実験の条件をコントロールできることである。これには、pH、温度、イオン強度および補因子の存在または不存在のような因子だけでなく、調査中のタンパク質の修飾状態も含まれる。タンパク質機能マイクロアッセイの固有の利点は、核酸、脂質および小さい有機化合物を含む非タンパク質性分子とのタンパク質の相互作用を研究するために使用できるということである。
【0054】
例えば、任意のタンパク質捕獲試薬マイクロアレイにおいて、標的の物理的サイズがマイクロアレイ上のプローブよりも大きい場合に標的を直接標識する必要なく、標的を同定してもよい。図1に概略的に図示されるように、アダプターリガンド18は、それぞれのマイクロスポット中で表面12に固定化されたプローブ生物分子10の一部である。アダプターリガンド10のための結合パートナーは、フルオロフォアまたは他の標識21を有する標識されたタンパク質分子20であり、これは普遍的読み取り20aまたはマーカーとして作用できる普遍的なレセプターとして作用する。標識されたレセプターは、全てのプローブ上でアダプターリガンドの特定の種類に特異的に結合する。それぞれの所定の生物標的、化学物質、または有機物は、マイクロスポット中のプローブ生物物質に特異的に結合できる。アレイ中のプローブ生物分子は、好ましくは、抗体、組換えタンパク質、ペプチド、多糖、または核酸またはペプチドアプタマーである。抑制剤分子22もまた、抑制アッセイを行うために含まれてもよい。
【0055】
ある実施の形態において、アダプターリガンドは好ましくは、ビオチン化プローブ生物物質中のビオチン成分であり、普遍的な読み取りは、抗ビオチン抗体またはストレプタビジンである。別の実施の形態において、アダプターリガンドは好ましくは、His-標識あmたはFLAG-標識または組換えタンパク質の融合ドメインであり、普遍的な読み取りはそれぞれ、抗His、抗FLAG、または融合ドメインに特異的に結合するタンパク質または抗体である。
【0056】
本発明の普遍的な読み取りアッセイの有用な用途は、マイクロアレイの質の検査である。普遍的な読み取りユニットの結合を、リガンドのみを含有するコントロールスポットへの普遍的な読み取りユニットの結合と共にプローブ生物分子およびアダプターリガンドを有するマイクロスポットと比較することができる。すなわち、プローブタンパク質中のアダプターリガンドまたはドメインの位置が分かれば、生物分子(通常タンパク質および抗体)の位置づけの測定並びにスポット形態の調査をすることができる。例えば、タンパク質または抗体が沈着および固定化されている場合、そのドメインまたは活性部位は、基体に向かってまたは基体から遠ざかって位置づけられてもよい。活性部位が基体から遠ざかる位置付けを有している場合、活性部位は標的分子または普遍的な読み取りユニットにより接近可能になる。他方、活性部位が基体に向かう位置付けを有している場合、活性部位は標的分子または普遍的な読み取りユニットとの結合をより妨げられる。したがって、標識されたユニットが結合すると、固定化された生物プローブのより多数の割合が開かれ、接近可能な位置付けであるマイクロスポットは、接近しにくい位置づけでより多数の生物プローブを有するものよりも高いシグナル強度を示す。結合の割合は測定可能である。さらに、それぞれのタンパク質または抗体のドメインは異なるので、本発明の概念は、同じリガンドまたは普遍的なアダプター(例えばHis標識、Flag標識)およびその相補的な普遍的読み取りユニットを使用することにより比較工程を単純化する。
【0057】
B. 糖脂質マイクロアレイを使用する標的同定
多数の有機体の細胞表面は、認識部位として作用する糖脂質および糖タンパク質分子を含有する。糖脂質および糖タンパク質分子はそれぞれ、細胞膜内に埋め込まれたリン脂質またはタンパク質構造、および細胞表面から伸びる少なくとも一つの糖鎖を有する。炭水化物グループは、糖脂質および糖タンパク質分子が認識、受容および接着機能を行うことを可能にする構造の一部を提供する。
【0058】
生きている細胞は、細胞表面上に結合する分子を介して他の細胞および環境から生じる多数のシグナルを認識し、適切に外部のシグナルに応答して、細胞成長、発達、および組織化を方向付け調節できる。例えば、毒素は、細胞に影響を与える様々の生物またはかばく試薬の重要なグループの一つである。毒素は、宿主細胞の表面上の様々の分子を標的とすることができる。例えば、ジフテリア毒素(Corynebacterium diphtheriae)および炭疽毒素(Bacillus anthracis)のようないくつかの毒素は、発病中の細胞表面上のタンパク質と結合する。他の細菌性の毒素(例えば、genera Streptococcus、Baccilus、Clostridium、およびListeria)は、コレステロール分子を標的にする。多数の細菌性毒素は、しばしば高い特異性で、細胞表面上の炭水化物誘導体化脂質を標的とする。セラミドの糖化誘導体であるこれらの脂質は、スフィンゴ糖脂質と称され、セレブロシド(セラミド単糖)、スルファチド(セラミド単糖スルフェート)、およびガングリオシド(セラミドオリゴ糖)に分類できる。
【0059】
さらに、細胞表面分子は、細胞内タンパク質との広範囲の相互作用を受ける。例えば、作用薬が結合するGタンパク質結合レセプター(GPCR)は、ヘテロ三量体Gタンパク質と相互作用し活性化し、特定の細胞エフェクターの活性を調節する。Gタンパク質パラダイムを越えて、GPCRは細胞内タンパク質の多様なファミリーのメンバーと相互作用できる。これらのタンパク質には、例えば、Sh3ドメインを含有するようなポリプロリン結合タンパク質、アレスチン、Gタンパク質結合レセプターキナーゼ(GRK)、小さいGTP結合タンパク質、SH2ドメイン含有タンパク質、またはPDZドメイン含有タンパク質が含まれてもよい。ホスファチジルイノシトールホスフェート(PIP)を含有する膜ドメインは、PLCδおよびARFタンパク質交換因子GRP1のような多数のプレクストリン相同(PH)−含有タンパク質についての標的である。一般的概念は、図2に概略的に図示され、生物膜を使用する標的同定のための普遍的な読み取りの使用を示す。
【実施例】
【0060】
実施例1:ガングリオシドマイクロアレイを使用する毒素検出
多数の原核生物および真核生物の動物および植物が、生体に有害なおよびときに致命的な効果を有する毒素を産生する。全ての動物の毒素は、本質的な細胞機能に含まれる細胞表面タンパク質を標的にする。ほとんど全ての毒素の標的細胞表面タンパク質は、細胞の内外への急速な輸送活性を調節するイオンチャンネルのリガンドである。毒素分子が細胞表面タンパク質に結合する場合、タンパク質がコントロールするイオンチャンネルが活性化され、その結果毒素は、神経または筋肉の機能のような重要な特定の細胞機能についての生物化学機構を妨害する。様々の種類の毒素は、特定の機能を標的にできる。例えば、2〜3例を挙げると、テトロドトキシン、サキシトキシン、バトラコトキシン、グラヤノトキシン、ベラトリジン、アコニチン、サソリおよびイソギンチャク毒は、ナトリウムチャンネルの異なる部位を攻撃し、その機能を妨害することができる;また、アパミンおよび関連するペプチド、サソリカリブドトキシン、デンドロトキシン、アナトキシン(hanatoxin)、イソギンチャク毒素を含む他のいくつかの毒素は、カリウムチャンネルを特異的に標的とする。ホロレナ(hololena)またはカルシクルジン(calcicludine)のような他の毒素は、カルシウムチャンネルを標的とし、ブンガロトキシンおよびコナントキン(conantokins)はそれぞれ、ニコチン性アセチルコリンレセプターおよびグルタミン酸レセプターを標的とする。
【0061】
あるいは、いくつかの他の細胞表面分子が、毒素結合の標的でもよい。例えば、コレステロールは、genera streptococcus、bucillus、clostridium、およびlisteriaからの細菌についての標的分子である。多数の細菌性毒素は、しばしば高い特異性で、細胞表面上の炭水化物誘導体化脂質を標的とする。スフィンゴ糖脂質と称されるセラミドの糖化誘導体であるこれらの脂質は、セレブロシド(セラミド単糖)、スルファチド(セラミド単糖スルフェート)、およびガングリオシド(セラミドオリゴ糖)に分類できる。毒素−ガングリオシド相互作用の最もよく研究された例の一つは、ガングリオシドGM1へのVibrio choleraeにより産生される(コレラ)毒素の結合である。毒素−炭水化物相互作用の特異性は、破傷風とコレラ毒素との間の結合エピトープにおける違いによりよく示される。破傷風毒素(Clostridium tetaniにより産生される)は、ガングリオシドGT1bに特異的に結合する。いくつかの典型的なガングリオシドが図3に示される。
【0062】
ある態様において、毒素検出のためのガングリオシドを含有する脂質およびガングリオシド結合タンパク質のマイクロアッセイ、並びに潜在的な毒素抑制剤としての化合物のスクリーニングの使用を説明してもよい。ある実施の形態において、異なる脂質組成物を有するマイクロアレイを作製する。脂質組成物は、DLPC(ジラウリルホスファチジルコリン)のような合成脂質、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)/ジミリスチルホスファチジルコリン(DMPC)のような異なる合成脂質の混合物、および毒素結合レセプターで処理された合成宿主脂質を含んでもよい。宿主脂質は、合成脂質または天然脂質(例えば卵PC)のような任意の所定の脂質でもよい。毒素結合レセプターには、GM1およびGT1bのようなガングリオシド、またはセラミド、またはコレステロール、またはセレブロシドが含まれる。この種類のマイクロアレイは、好ましくは、細菌性毒素の同定およびこれらの生物膜への毒素の結合に干渉する化合物のスクリーニングに使用される。
【0063】
別の実施の形態において、ガングリオシドマイクロアレイにおける特定の共通のリガンドは、好ましくは、普遍的な読み取りユニットへの結合成分を示す脂質分子である。この脂質分子は好ましくは、ビオチン化脂質分子、GM1のようなガングリオシド分子、またはPI(4,5)P2のようなホスホイノシチドである。これに対応して、普遍的な読み取りユニットは好ましくは、抗ビオチン抗体、よく知られる毒素(例えばコレラ毒素)、またはPIP結合タンパク質(例えば、タンパク質キナーゼB)である。
【0064】

実施例2:ホスホイノシトールマイクロアレイを使用するPIP結合タンパク質の同定
ホスホイノシトール脂質およびそのリン酸化誘導体であるホスホイノシチド(PI)は、全ての真核生物における可変性二次メッセンジャーおよび脂質膜組成物のモジュレーターであることが認識されている。PIは、レセプター媒介膜シグナルを介する細胞プロセスの調節において重要な役割を果たす。これらのシグナルは、細胞内小胞輸送、細胞骨格調節、細胞成長、アポトーシス、エキソサイトーシス、エンドサイトーシス、神経情報伝達、カルシウムの調節、cAMPおよびレプチン摂取に関連するエフェクタータンパク質の細胞内局在および/または生物学的特性に影響を与える。ホスファチジルイノシトール(PtdIns)は、5つのヒドロキシル基を有し、その全てが、図4に概略的に示されるように、哺乳類系において可逆的にリン酸化できる。PtdInsの生物学的万能性は、可逆的にリン酸化反応に関与する能力に由来する。哺乳類細胞膜中に最も豊富なPtdInsは、全細胞グリセロリン脂質の5-20%を示す1,2−ジアシル−グリセロ−3−ホスホ−D−1−ミオイノシトールである。
【0065】
ホスホイノシチドキナーゼ(PIK)は、事前のイノシトールグリセロリン脂質にリン酸基を加えることによりホスファチジルイノシトールホスフェート(PIP)を合成する。タンパク質ターゲティングは現在、イノシトールシグナリングにおける主要な研究領域である。PIによる膜ターゲティングの重要性は、癌、免疫障害(例えばX染色体連関無ガンマグロブリン血症および慢性肉芽腫症)、管状筋細胞ミオパシー、腎臓および神経の疾患(Loweの眼脳腎症候群)を含む、PIシグナリングにおける欠陥に関連するヒトの遺伝病の数により実証される。PIの生物学的活性は、リン酸化イノシトールを合成(キナーゼ)および退化(ホスファターゼおよびリパーゼ)させる酵素の調節により空間的にコントロールできる。過去10年間、研究者は、PIに特異的に結合するタンパク質ドメインを同定し、活性の部位へのタンパク質の局在を特定してきた。これらのPI結合モチーフは、PH(プレクストリン相同)、FYVE(Fab1p/YOTP/Vac1p/EEA1)、ENTH(エプシンNH2-末端相同)、PX(Phox相同)、およびずんぐりした(tubby)ドメインを含む。これらのドメイン含有タンパク質は、哺乳類細胞中で数百のタンパク質から成る。さらに、これらのタンパク質の多数は、他のタンパク質の機能的複合体の形成および/またはシグナリングカスケードの中継を妨害できる。したがって、多数のタンパク質は、様々のPIにより直接または間接に調節されうる。したがって、PI結合タンパク質を調べるための組織的なアプローチが必要とされる。
【0066】
本発明の概念は、PI結合タンパク質およびその補因子の系統的なスクリーニングのためのPIを含有する脂質のマイクロアレイの使用に適用できる。ある実施の形態によれば、宿主の脂質の存在および不存在下でホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)から成る主題的なアレイは、好ましくは、PIP結合タンパク質の同定に使用されてもよい。PIPには、PtdIns、PtdIns(3)P、PtdIns(4)P、PtdIns(5)P、PtdIns(3,4)P2、PtdIns(3,5)P2、PtdIns(4,5)P2、PtdIns(3,4,5)P3が含まれてもよい(図5)。宿主の脂質は、DLPC(ジラウリルホスファチジルコリン)、卵PCのような天然脂質、またはジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)およびジミリスチルホスファチジルコリン(DMPC)のような異なる脂質の混合物である。
【0067】
ある実施の形態において、ホスホイノシトールマイクロアレイ上の特定の共通のリガンドは好ましくは、普遍的な読み取りユニットについての結合成分を示す脂質分子である。脂質分子は好ましくは、ビオチン化脂質分子、GM1のようなガングリオシド分子、またはPI(4,5)P2のようなホスホイノシチドである。これに対して、普遍的な読み取りユニットは好ましくは、抗ビオチン抗体、よく知られた毒素(例えばコレラ毒素)、またはPIP結合タンパク質(例えばタンパク質キナーゼB)である。
【0068】

実施例3:スフィンゴ脂質マイクロアレイを使用する脂質−ラフト−結合タンパク質の同定
生物活性スフィンゴ脂質代謝産物であるスフィンゴシン1−ホスフェート(S1P)は、アポトーシス、増殖、およびストレス応答のシグナル伝達カスケードにおいて非常に複雑な役割を果たす一次および二次メッセンジャーとして作用する。S1Pは、Gタンパク質結合レセプター(GPCR)のS1PRファミリーのメンバーについての天然の作用薬であり、これによりこれらのレセプターの結合および活性化によって細胞移動を調節する。さらに、S1Pは、カルシウム恒常性の調節およびアポトーシスの抑制に重要な二次メッセンジャーとしても作用できる。
【0069】
スフィンゴ脂質は通常、原形質膜脂質二重層の機械的に安定で化学的に耐久性の外側リーフレット(leaflet)を形成することにより、環境中の有害因子に対して細胞表面を保護すると考えられていた。スフィンゴ脂質はER1およびゴルジ区画で合成されるが、その多数の機能を行う原形質膜およびエンドソームに豊富であるということが証拠により示された。したがって、スフィンゴ脂質は、輸送小胞によっておよび細胞質ゾルを通る単量体輸送によって細胞小器官の間を移動する。さらに、いくつかのスフィンゴ脂質は、細胞膜間を効果的に転位する。
【0070】
証拠の成長により、スフィンゴ脂質(スフィンゴ糖脂質およびスフィンゴミエリン)は、コレステロールと結合し、生物膜中でクラスターを形成できるということが示された。クラスター(ドメイン)は、ジアシルグリセロールに基づくバルク液体の無秩序なリン脂質というよりも液体(液体の秩序立った)である。原形質膜の外表面上のスフィンゴ脂質/コレステロールラフトの直径は、細胞のもの(数十ミクロン(μm)のオーダー)と比較して小さく(すなわて、数十から数百ナノメートル(nm)のオーダー)、細胞表面の約10%を占有すると推定された。これらのスフィンゴ脂質に基づくミクロドメインまたは「ラフト」は、膜輸送、シグナル伝達、およびタンパク質局在化のような工程において重要な役割を果たす。ラフトの機能を十分に把握するために、異なる種類のラフトを同定し特徴付け、複合的な膜貫通ドメインのタンパク質およびタンパク質−タンパク質複合体と相互作用するラフトの機構を理解することが必要であろう。
【0071】
近年、研究者は、スフィンゴ脂質、不飽和グリセロリン脂質、およびコレステロールの混合物が二つの液相に分離できる原理を確立するためにモデルとなる脂質膜を適用してきた。この場合、スフィンゴ脂質およびコレステロールの一部は、「液体無秩序の」相中の不飽和脂質から「液体の秩序立った」領域に分離する(Spiegel,S.,and Milstien, S.(2000)Biochim.Biophys.Acta 1484,107-116)。様々の組成物と共に脂質ラフトを構成するためにモデルとなる脂質膜を使用することにより、タンパク質がドメインに局在する分子機構を理解し、これらのドメインに結合する新しい細胞内または細胞外標的を同定することができるであろう。
【0072】

ある実施例において、研究者は、スフィンゴ脂質結合タンパク質を同定するために、普遍的な読み取りと組み合わせて脂質−ラフトマイクロアレイを使用したいかもしれない。ある実施の形態によれば、宿主脂質の存在下におけるスフィンゴ脂質の主題的アレイの構成を作製できる。スフィンゴ脂質には、スフィンゴシン、スフィンゴシンホスフェート、フィトスフィンゴシン、スフィンゴミエリン、スフィンゴシルホスホコリンスルファチド、セラミド、並びにそれらの糖化誘導体(すなわちスフィンゴ糖脂質)が含まれてもよい。宿主脂質には、ジラウリルホスファチジルコリン(DLPC)のような合成脂質、卵ホスファチジルコリン(卵PC)のような天然脂質、またはジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)/ジミリスチルホスファチジルコリン(DMPC)のような異なる脂質の混合物が含まれてもよい。この種類のマイクロアレイが好ましい。別の実施の形態において、宿主脂質の不存在下でスフィンゴ脂質を有する主題的なアレイを使用して、スフィンゴ脂質結合タンパク質を同定してもよい。
【0073】
好ましくは、スフィンゴ脂質マイクロアレイ上に結合する共通のリガンドは、普遍的な読み取りユニットについての結合成分を示す脂質分子でもよい。脂質分子は好ましくは、ビオチン化脂質分子、ガングリオシド分子、またはPI(4,5)P2のようなホスホイノシチドである。これに対して、普遍的な読み取りユニットは好ましくは、抗ビオチン抗体、毒素(例えばコレラ毒素)、またはPIP結合タンパク質(例えばタンパク質キナーゼB)である。
【0074】
C. リガンド−門イオンチャンネルマイクロアレイを使用するリガンドスクリーニング
生物脂質膜中に組み込まれた様々のイオンチャンネルを含む主題的アレイを使用して、動物の毒素を同定しこれらのイオンチャンネルへの毒素の結合に干渉する化合物をスクリーニングしてもよい。イオンチャンネルには、ナトリウムチャンネル、カリウムチャンネル、カルシウムチャンネル、アセチルコリンレセプター、リアノジンレセプターカルシウムチャンネル、グルタミン酸レセプター、およびこれらのイオンチャンネルの任意の組合せが含まれてもよい。これらのイオンチャンネルは、特定の細胞株から分離する膜標本の形態、またはリポソーム中で再び折り返されたタンパク質の形態でもよい。再び折り返されたイオンチャンネルは、最新技術の方法を使用して作製できる。
【0075】
ある実施の形態によれば、イオンチャンネルマイクロアレイ上の共通のリガンドは好ましくは、チャンネル内に位置するビオチン成分である。リガンドは、普遍的な読み取りタンパク質が同じチャンネルに結合するリガンドと競合できる態様でチャンネルと結合する。これに対して、普遍的な読み取りタンパク質は好ましくは、抗ビオチン抗体である。
【0076】
別の態様において、本発明は、本発明の方法による生物または化学分子の高処理検出およびスクリーニングを行うためのリガンドおよび相補的な普遍的読み取りユニットを含む物品およびキットを有するアセンブリに関する。このアセンブリは、ここに記載されるようなマイクロアレイまたは例えば、特にホスファチジルイノシトールホスフェート(PIP)またはスフィンゴ脂質マイクロアレイを含む、標的同定のための生物物質の特定の主題的アレイを含んでもよい。他の実施の形態によれば、任意の既述のリガンド関連代替物または生物膜の組合せを有するマイクロアレイを使用して、毒素の任意の所定のセットをスクリーニングしてもよい。
【0077】
セクションVII−実証的実施例
ガングリオシドマイクロアレイを使用する毒素検出
(1)物質および方法
ジラウリルホスファチジルコリン(DLPC)、およびガングリオシド(GD1b)を、Sigma.Chem(St.Louis,MO)から購入した。ビオチン−X−DHPEを、Molecular Probes(Eugene,OR)から得た。コレラ毒素サブユニットBおよびCy3−標識されたストレプタビジンも、Sigmaから購入した。ガンマ−アミノ−プロピルシラン−被覆(GAPS)スライドを使用した。
【0078】
標準的な音波処理方法に従い、4%のビオチン−X−DHPEの存在および不存在下で、4%ガングリオシド(モル比)で処理しておよび処理しないで、DLPC脂質の小胞を産生した。音波処理された小胞を使用して、プログラム可能な吸引および調剤のためのソフトウェアを備えたquil-pinプリンター(Cartesian Technologies Model PS5000)を使用して脂質マイクロアレイを作製した。プリントの前に、20mMリン酸緩衝液(pH7.4)中の4モル%ガングリオシド(GT1b)および/または4モル%ビオチン−X−DHPEとのDLPC(1mg/mL)の混合物を透明になるまで音波処理した。プリントのために、それぞれの脂質溶液の25μLを、384ウェルマイクロプレートの異なるウェルに加えた。溶液中への単一のピンの挿入を使用して複製マイクロスポットを作製した。異なる脂質溶液間の持ち越しからの混入を防ぐために、エタノールおよび水中におけるピンの連続的な洗浄を有する自動洗浄サイクルを組み込んだ。プリントの後、アレイを約1時間室温で湿度の高い試験槽中でインキュベートし、毒素結合実験に使用した。
【0079】
結合アッセイについては、それぞれ個々のアレイを、1nMのCy3−標識されたストレプタビジンの存在下で標識されていない毒素(180nM)を含有する溶液の20μLと共にインキュベートした。全ての実験に使用した結合緩衝液は、20mMのリン酸緩衝液であった(pH〜7.4、0.2%BSA)。GenePix 4000B蛍光スキャナを使用してアレイを画像化した。
【0080】
(2)結果および議論
3つの異なる脂質組成物−1)DLPC、2)DLPC/4%ビオチン−DHPE、および3)DLPC/4%ビオチン−DHPE/4%GD1b−のマイクロアレイを、グリッド内の左から右のカラムへ図5に示される順序で、作製した。Cy3-アビジンの結合における標識されていないコレラ毒素サブユニットBの効果を調べた。結果は、コレラ毒素は、ビオチン−X−DHPEのみを含有するスポットではなくGD1bおよびビオチン−X−DHPEを含有するマイクロスポットへのcy3-アビジンの結合に大きく影響するということを示す。IC50値は〜30nMであり(図5)、CD1bへのCT結合についてのものと整合した(Fang, Y.,Frutos, A.G.,and Lahiri,J.”Ganglioside microarrays for toxin detection”, Langmuir, 2003, 19,1500-1505)。最も興味深いことに、普遍的な読み取り(すなわちCy3-アビジン)と毒素との間接的な競合結合は、中心部分のサイズがプリントに使用されたピンと同じである場合に、ビオチン−DHPEおよびGD1bを有するマイクロスポットの中心でのみ起こった。この事象は、主にガングリオシド脂質の脂質ラフト形成によるものであると考えられる。小さいガングリオシドに富むミクロドメイン(脂質ラフト)は、天然およびモデルの膜においてより大きいオーダーのドメイン内に存在できるということが知られている(Mandala, S.M.,Thornton,R.,Tu,Z.,Kurtz,M.B.,Nickels,J.,Broach,J.,Menzeleev,R.,and Spiegel,S.(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.95,150-155)。プリント中、少量の脂質混合物をそれぞれのマイクロスポット中に沈着し、脂質小胞はそれぞれのマイクロスポット中で破裂し広がる傾向がある。しかしながら、ガングリオシド中に豊富な脂質ラフトは、低い流動性のために接触領域に留まる傾向があり、低濃度のガングリオシドを有する脂質は他の脂質ラフトよりも容易に広がる傾向がある。これらの特徴により、中心のガングリオシドが豊富な領域および中心から離れたガングリオシドが少ない領域があるマイクロスポットが形成される。しかしながら
、ビオチン−X−DHPEは、それぞれのマイクロスポットの直径を横切って一様に分布する傾向がある。したがって、毒素はガングリオシドが豊富な領域に結合することができ、それによってより効果的にCy3-アビジン結合と競合する。
【0081】
本発明は、一般的におよび実施例として詳細に説明されてきた。当業者は、本発明が開示される特定の実施の形態に必ずしも限定されないことを理解する。特許請求の範囲または、本発明の範囲内で使用されるかもしれない現在知られるまたはこれから開発される等価組成物を含むその等価物により定められる本発明の範囲を逸脱せずに改良および変更を行ってもよい。したがって、本発明の範囲から逸脱して変化しない限り、変化はここに含まれると考えるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、本発明による方法の概略図である。
【図2】図2は、膜レセプター結合タンパク質または生物を同定するための本発明の実施の形態を示す。
【図3】図3は、本発明に関する通常のガングリオシドの構造を示す。
【図4】図4は、通常のホスファチジルイノシトールホスフェートの構造および異なるPIに特異的に結合するタンパク質の実施例を示す。
【図5】図5は、ガンマ−アミノ−プロピルシラン−(GAPS)−コーティングされた実験スライドにおけるcy3−標識されたストレプタビジンの結合部位における標識されていないコレラ毒素Bの用量反応の一連のパネルA-Dを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物標的を同定する方法において、
基体上に沈着および固定化された多数の生物分子を提供する工程、
前記生物分子または前記基体と結合したリガンドを提供する工程、
前記リガンドに特異的に結合する親和性を有する、所定の標的および普遍的な読み取りユニットを含有するサンプルを提供する工程、
前記所定の標的が前記普遍的な読み取りユニットと間接的に競合するアッセイを行う工程、および
前記リガンドとの前記普遍的な読み取りユニットの結合事象を観察する工程、
を有してなることを特徴とする方法。
【請求項2】
生物標的を同定するまたは化合物をスクリーニングする方法において、
支持体上に多数のプローブおよび生物分子結合リガンドを提供する工程、
サンプル溶液中に多数の所定の標的および多数の標識されたレセプターを提供する工程であって、前記標的が前記プローブと結合する親和性を有し、前記レセプターが前記リガンドと結合する親和性を有する工程、
前記支持体上のスペースについて前記所定の標的が前記標識されたレセプターと競合する、間接的な競合結合アッセイを行う工程、および
前記リガンドとの前記レセプターの結合事象を観察する工程、
を有してなることを特徴とする方法。
【請求項3】
生物または化学標的を同定する方法において、
マイクロスポットで多数の生物プローブおよび共混合リガンドを固体支持体上に提供する工程;前記リガンドについての結合パートナーである、所定の生物または化学標的および普遍的な読み取りユニットを含有するサンプルを提供する工程;前記マイクロスポット上の制限されたスペースについて前記所定の生物または化学標的が前記普遍的な読み取りユニットと競合するアッセイを行う工程;および、前記普遍的な読み取りユニットの結合事象を観察する工程、を有してなることを特徴とする方法。
【請求項4】
マイクロアレイ上の生物分子の相対的な位置を特定する方法において、
多数のマイクロスポットに沈着および配列された生物分子を有する基体を提供する工程;前記基体上の全ての他の前記マイクロスポットと同様に、共通のリガンドを含有するコントロールスポットを提供する工程;前記共通のリガンドと結合親和性を有する標識されたレセプターを含有する溶液を提供する工程;前記レセプターが前記リガンドと結合するアッセイを行う工程;前記コントロールスポットからの相対的なシグナル強度と全ての他の前記マイクロスポットからの相対的なシグナル強度とを測定し比較する工程、を有してなることを特徴とする方法。
【請求項5】
生物マイクロアッセイ性能の品質管理を評価する方法において、
多数のマイクロスポット中で固定化された生物プローブであって該プローブと結合した共通のリガンドを有する生物プローブを基体に提供する工程;前記共通のリガンドと結合する親和性を有する標識された普遍的な読み取りユニットを提供する工程;基体上で前記普遍的な読み取りユニットと前記生物プローブを反応させることによりアッセイを行い、前記共通のリガンドに前記普遍的な読み取りユニットを結合させる工程;および、前記標識された普遍的な読み取りユニットからの相対的なシグナル強度を観察する工程、を有してなることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記マイクロアレイが、前記共通のリガンドのみのマットからなるコントロールスポットを組み込むことを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、固定化された生物分子の相対的な位置を評価するため、または、前記アレイのスポット形態を調べるために、使用されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記生物分子が、タンパク質、抗体、ペプチド、オリゴ糖、脂質、オリゴヌクレオチド、PNA、RNA、またはDNA、あるいは、タンパク質膜、原形質膜、脂質膜、または細胞膜のいずれかを含む生物膜を含むことを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記リガンドが、前記生物分子と共存し、前記マイクロスポットの全てに共通であり普遍的なアダプターとして作用することを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記普遍的な読み取りユニットが、天然発生または合成分子であり、蛍光、発光または着色物質を産生できる酵素を標識または結合されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記普遍的な読み取りユニットおよび前記リガンドが、約1×10-5nMから約100nMまでの範囲で特徴付けられる結合定数を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記方法がさらに、所定の標的結合に間接的に影響を与える化合物または生物分子から選択される抑制剤を使用するアッセイを行う工程を含むことを特徴とする請求項1から11いずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記普遍的な読み取りユニットが、前記リガンドより物理的に大きいサイズであるか、または前記標的より物理的に小さいサイズであり、前記普遍的な読み取りユニットと同様の物理的サイズを有する前記所定の標的が、前記普遍的な読み取りユニットからの立体障害により結合を妨げられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記基体が、主に二次元的表面を有し、セラミック基体、ガラス、金属、金属酸化物、結晶質、プラスチック、ポリマーまたはコポリマー、それらの任意の組合せ、または一つの物質の他の物質上へのコーティングを含んでもよいことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項15】
生物アッセイを行うためのアセンブリであって、
1)多数のマイクロスポットでその上に固定化された生物分子を有する基体、および前記生物分子または前記基体と結合した共通のリガンドを有するマイクロアレイ;および2)前記生物分子上の活性部位と結合する親和性を有する所定の標的、および前記リガンドと特異的に結合する親和性を有する普遍的な読み取りユニットを含有し、請求項1記載の方法によりアッセイが行われると前記所定の標的が前記普遍的な読み取りユニットと間接的に競合するサンプル溶液、
を有することを特徴とするアセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−523312(P2006−523312A)
【公表日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509066(P2006−509066)
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/006539
【国際公開番号】WO2004/086041
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】