生物医薬品製剤のための緩衝剤
本発明は、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液と、少なくとも1つの賦形剤と、有効量の治療用ポリペプチドとを有する水溶液を含む生物医薬品製剤を提供する。プロピオン酸塩緩衝液は、約1〜50mM、2〜30mM、3〜20mM、4〜10mMおよび5〜8mMから選択される濃度を含むことができる。本発明の生物医薬品製剤中に含まれる治療用ポリペプチドは、抗体、Fd、Fv、Fab、F(ab’)、F(ab)2、F(ab’)2、単鎖Fv(scFv)、キメラ抗体、二重抗体、三重抗体、四重抗体、ミニボディ、ペプチボディ、ホルモン、増殖因子または細胞シグナル伝達分子を含むことができる。本発明はまた、生物医薬品製剤を調製する方法も提供する。前記方法は、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液と少なくとも1つの賦形剤とを有する水溶液を、有効量の治療用ポリペプチドと組み合わせる手順を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、一般的に疾患治療のための薬物に関し、より具体的には生体分子医薬品のための常に安定した製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えDNA技術の出現によって、タンパク質系治療薬は、癌から自己免疫疾患までの広範な疾患の治療を行う開業医に利用可能な薬剤のレパートリーの中で、徐々に一般的なものとなりつつある。組換えタンパク質の製造において見られる科学技術の進歩に加えて、タンパク質治療薬の成功の別の理由としては、標的に対する高い特異性と、低分子治療薬よりも優れた安全性プロファイルを示すその能力がある。疾患治療において生体分子を医薬品として利用できるようになったことで、過去の四半期にわたり医療やクオリティオブライフにおいて著しい進歩が見られた。2005年の時点で市場に出ている承認済みタンパク質系医薬品は150を超えており、この数はこの先数年の間に大きく増加するものと考えられる。他の医薬品と同様に、このような医薬品タンパク質による治療には、安全かつ信頼性の高い治療結果を達成するために、均一で再現性ある製剤が必要とされる。
【0003】
In vivoにて種々の薬理作用を示すことが知られているタンパク質は、現在、種々の医薬品用途のために大量生産することができる。治療用タンパク質の長期の安定性は、安全かつ均一で有効な治療に特に有益な基準である。製剤中の治療薬の機能性の低下により、所定の投与に有効な濃度が減少する。同様に、治療薬の望ましくない修飾は、製剤の活性および/または安全性に影響を及ぼし、有効性の低下と有害副作用のリスクとにつながる可能性がある。
【0004】
タンパク質は、明確な第1級構造、第2級構造、3次構造、場合によっては4次構造を有する複合分子であり、そのすべてが特定の生物学的機能を付与する役割を果たす。タンパク質などの生物学的医薬品の構造的な複雑性により、生物学的医薬品は種々のプロセスの影響を受けやすく、構造的および機能的な不安定性だけでなく安全性の低下を招く。こうした不安定性プロセスや分解経路において、タンパク質は、溶液中で共有結合および非共有結合による種々の反応や修飾を受ける可能性がある。例えば、タンパク質分解経路は、一般的に以下の2つの主要なカテゴリーに類別することができる:(i)物理的分解(すなわち非共有結合的分解)経路、および(ii)化学的分解(すなわち共有結合的分解)経路。
【0005】
タンパク質薬剤は、非可逆的凝集の物理的分解プロセスによる影響を受けやすい。タンパク質の凝集は、薬剤の効力に影響を及ぼす生理活性の低下をもたらすことが多く、また罹患体における深刻な免疫反応や抗原反応を誘発する可能性もあることから、生物医薬品の製造において特に高い関心が示されている。また、例えば化学修飾による化学構造の分解をはじめとする、タンパク質治療薬の化学的分解は、その免疫原性の増大に関わってきた。したがって、安定したタンパク質製剤では、薬剤の物理的分解経路と化学的分解経路の両方をできるだけ抑制することが求められる。
【0006】
タンパク質は、例えば界面吸着や界面凝集などの物理的プロセスを介して分解する可能性がある。吸着は、タンパク質薬剤の効力や安定性に著しい影響を及ぼす可能性があり、低濃度の剤形の効力をかなり低下させる可能性がある。そして第2の成り行きとして、界面における変性媒介吸着が、多くの場合、溶液中における非可逆的凝集の開始手順となる可能性がある。この点において、タンパク質は、液体と固体、液体と空気、および液体と液体の間の界面において吸着する傾向がある。疎水性の表面におけるタンパク質のコアの十分な曝露により、撹拌、温度、またはpHに誘発されるストレスの結果として吸着が生じる可能性がある。さらに、タンパク質はまた、例えばpHや、イオン強度、熱、剪断、および界面ストレスの影響も受けやすく、これらはいずれも凝集につながり、不安定性を生じる可能性がある。
【0007】
また、タンパク質は、アミド分解や、異性化、加水分解、ジスルフィドのスクランブリング、β脱離、酸化、付加体形成などの種々の化学修飾反応および/または化学分解反応も受ける。分解の主な加水分解機序としては、ペプチド結合の加水分解、アスパラギンおよびグルタミンのアミド分解、ならびにアスパラギン酸の異性化が含まれる。加水分解の分解経路の共通する特徴は、反応速度に対する有意な製剤の変数が溶液のpHであることである。
【0008】
例えば、ペプチド結合の加水分解は、酸または塩基により触媒される可能性がある。また、アスパラギンやグルタミンのアミド分解は、pHが約4未満の場合に酸により触媒される。pHが中性である場合のアスパラギンのアミド分解は、塩基により触媒されるスクシンイミジル中間体を介して生じる。アスパラギン酸残基の異性化およびラセミ化は、pHが弱酸性から中性の場合(pH4〜8)に早くなる可能性がある。一般化されているpHの効果だけでなく、緩衝塩や他の賦形剤も、加水分解反応の速度に影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
他の分解経路の例にはβ脱離反応が含まれ、この反応は、アルカリ性のpH条件下で生じ、特定アミノ酸の側鎖の一部のラセミ化や喪失につながる可能性がある。メチオニン残基、システイン残基、ヒスチジン残基、チロシン残基およびトリプトファン残基の酸化が、タンパク質の共有結合分解経路の例である。
【0010】
タンパク質の不安定性をもたらす可能性がある種々の反応の数や多様性によって、生物医薬品製剤中の成分の組成物が、タンパク質分解の程度に著しい影響を及ぼす可能性があり、ひいては治療薬の安全性や有効性にも影響を及ぼす可能性がある。また、生物医薬品の製剤が、投与の容易さや頻度、ならびに注射時の疼痛に影響を及ぼす可能性もある。例えば、免疫原性反応は、タンパク質凝集体だけでなく、製剤に含まれる不活性成分と混合された治療用タンパク質の凝集体にも原因があるとされている[非特許文献1;非特許文献2]。
【0011】
しかし、治療的処置におけるタンパク質の利用性やタンパク質が受ける不安定性プロセスの所見において進歩が見られるものの、長期安定性の特性が向上した生物医薬品製剤の開発が依然として求められている。種々の条件下で長期安定性を維持する生物医薬品製剤は、有効かつ安全な量の生物医薬品を送達する有効な手段を提供するものと考えられる。また、生物医薬品製剤において長期安定性が維持されれば、製造費や治療費が削減されるとも考えられる。組換えタンパク質や天然タンパク質などの数多くのタンパク質が、このような常に安定した製剤から恩恵を受けることができ、それによってより効果的な臨床成績を示すことができると考えられる。
【非特許文献1】Schellekens,H.,Nat.Rev.Drug Discov.1:457‐62(2002)
【非特許文献2】Hesmeling,et al.,Pharm.Res.22:1997‐2006(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、種々の異なる製造条件や保存条件下で長期安定性を維持する生物医薬品製剤が必要とされている。本発明は、この要求を満たし、関連する利点ももたらすものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明は、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液と、少なくとも1つの賦形剤と、有効量の治療用ポリペプチドと有する水溶液を含む生物医薬品製剤を提供する。プロピオン酸塩緩衝液は、約1〜50mM、2〜30mM、3〜20mM、4〜10mMおよび5〜8mMから選択される濃度を含むことができる。本発明の生物医薬品製剤中に含まれる治療用ポリペプチドは、抗体、Fd、Fv、Fab、F(ab’)、F(ab)2、F(ab’)2、単鎖Fv(scFv)、キメラ抗体、二重抗体、三重抗体、四重抗体、ミニボディ、ペプチボディ、ホルモン、増殖因子または細胞シグナル伝達分子を含むことができる。また、本発明は、生物医薬品製剤を調製する方法も提供する。前記方法は、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液と少なくとも1つの賦形剤とを有する水溶液を、有効量の治療用ポリペプチドと組み合わせる手順を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ポリペプチドおよび他の生物医薬品の最適な安定化能力を示す生物医薬品製剤を対象とする。生物医薬品製剤は、約4.0〜6.0のpHの範囲において得に有用なプロピオン酸緩衝液系を含有する。本発明の生物医薬品製剤中に可溶化されるか、含まれる生物医薬品は、長期間にわたって安定性を示し、安全かつ有効な量の治療用ポリペプチドまたは他の生物医薬品の投与を可能とする。また、プロピオン酸緩衝液は、類似の緩衝液系(例えば酢酸緩衝液系)よりも揮発性が低いことから、生物医薬品製剤に有用な他の特性も提供することができると企図される。また、プロピオン酸は抗菌性を示すため、本発明の生物医薬品製剤に含まれる1つ以上の保存剤の代わりとなるか、これを増強することができる固有の保存剤の特性を有する。
【0015】
一実施形態において、本発明は、プロピオン酸緩衝液系を有する生物医薬品製剤を含む。緩衝液系の弱酸性成分は、製剤を緩衝するためにプロピオン酸ナトリウムによって供給され、約10mMの濃度で存在する。この特定の実施形態において、本発明の生物医薬品製剤はまた、賦形剤として約5%のソルビトールを含有し、界面活性剤として約0.005%(w/v)のポリソルベート20を含有する。最終製剤は、約5.0のpHを示す水溶液であり、治療用ポリペプチドの存在下で少なくとも12〜18ヵ月間緩衝能を維持する。
【0016】
本明細書で使用される「生物医薬品」という用語は、医薬品として使用することを目的とした、ポリペプチドや、核酸、炭水化物または脂質、あるいはこれらの構成単位などの巨大分子または生体高分子を意味するものとして意図される。「生物医薬品製剤」とは、生物医薬品との適合性があり、かつヒトに投与した時に安全かつ無毒性である医薬的に許容される媒質を指す。
【0017】
本明細書で使用される「プロピオン酸」という用語は、式CH3CH2COOHを有する液体酸を意味するものとして意図される。プロピオン酸は、水ならびに融点が−21℃および沸点が141℃のアルコールに溶解する。本明細書で使用される「プロピオン酸緩衝液」または「プロピオン酸塩緩衝液」は、その共役塩基と平衡状態にあるプロピオン酸を含有する緩衝液を指すものとして意図される。プロピオン酸緩衝液は、pKaが4.9である領域において最適な緩衝能を提供することができる。この緩衝能とは、溶液に添加される酸または塩基のいずれかにより不安定になる際のpHの変化に対する耐性を指す。本発明のプロピオン酸緩衝液のプロピオン酸形態には、例えば、プロピオン酸、式C2H5CO2‐を有するプロピオン酸イオン、および/またはプロピオン酸塩形態を含むプロピオン酸塩が含まれ得る。プロピオン酸塩の具体例には、式(C2H5CO2‐)Na+を有するプロピオン酸ナトリウムがある。本発明の緩衝液中に含めることができる他のプロピオン酸塩の例には、例えば、カリウム塩、カルシウム塩、有機アミノ塩、またはマグネシウム塩が含まれる。プロピオン酸およびプロピオン酸緩衝液は、当業者に周知である。
【0018】
本明細書で使用される「賦形剤」という用語は、治療的に不活性の物質を意味するものとして意図される。賦形剤は、例えば、希釈剤、ビヒクル、緩衝液、安定化剤、等張化剤、充填剤、界面活性剤、凍結保護剤、溶解保護剤、抗酸化剤、金属イオン源、キレート剤および/または保存剤としての用途をはじめとする多種多様な目的のために生物医薬品製剤中に含めることができる。賦形剤には、例えば、ポリオール(例えば、ソルビトールまたはマンニトール)、糖(例えば、スクロース、ラクトース、またはデキストロース)、ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)、塩(例えば、NaCl、KCl、またはリン酸カルシウム)、アミノ酸(例えば、グリシン、メチオニン、またはグルタミン酸)、界面活性剤、金属イオン、緩衝塩(例えば、プロピオン酸塩、酢酸塩、コハク酸塩)、保存剤、およびポリペプチド(例えば、ヒト血清アルブミン)、ならびに生理食塩水および水が含まれる。本発明の特に有用な賦形剤には、糖アルコールや、還元糖、非還元糖、および糖酸を含めた糖が含まれる。賦形剤は、当該技術分野で周知であり、例えば、Wang W.,Int.J.Pharm.185:129‐88(1999);およびWang W.,Int.J.Pharm.203:1‐60(2000)に記載されている。
【0019】
簡潔に言うと、ポリオール、多価アルコールまたはポリアルコールとしても知られる糖アルコールは、第1級ヒドロキシル基または第2級ヒドロキシル基に還元されたカルボニル基を有する炭水化物の水素化形態である。ポリオールは、液体製剤および凍結乾燥製剤の両方において安定化賦形剤および/または等張剤として使用することができる。ポリオールは、物理的分解経路および化学的分解経路の両方から生物医薬品を保護することができる。選択的に除外された共溶媒がタンパク質の界面における溶媒の有効表面張力を増大させることから、最もエネルギー的に有利な構造的立体配座は、表面積が最小の立体配座である。糖アルコールの具体例には、ソルビトール、グリセロール、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、エリトリトール、およびトレイトールが含まれる。
【0020】
還元糖には、例えば、ケトン基やアルデヒド基を有する糖が含まれ、こうした還元糖は反応性ヘミアセタール基を含有しており、この反応性ヘミアセタール基によって糖は還元剤としての役割を果たすことが可能となる。還元糖の具体例には、フルクトース、グルコース、グリセルアルデヒド、ラクトース、アラビノース、マンノース、キシロース、リボース、ラムノース、ガラクトース、およびマルトースが含まれる。
【0021】
非還元糖は、アセタールでありかつメイラード反応を開始するアミノ酸やポリペプチドと実質的に反応しないアノマー炭素を含有する。また、フェーリング溶液またはトレンス試薬を還元する糖も還元糖として知られている。非還元糖の具体例には、スクロース、トレハロース、ソルボース、スクラロース、メレチトース、およびラフィノースが含まれる。
【0022】
糖酸には、例えば、サッカリン酸、グルコン酸塩、および他の多価糖、ならびにこれらの塩が含まれる。
【0023】
例えば、緩衝液の賦形剤は、製品の有効期間を通して液状製剤のpHを維持するとともに、凍結乾燥プロセス中や再構成時に凍結乾燥製剤のpHを維持する。
【0024】
液状製剤中に含まれる等張化剤および/または安定化剤は、例えば、製剤が投与に適切となるように等張性、低張性または高張性を製剤に付与するために使用することができる。このような賦形剤はまた、例えば、生物医薬品の構造の維持を容易にするため、および/または静電気による溶液のタンパク質間相互作用を最小限にするために使用することもできる。等張化剤および/または安定化剤の具体例には、ポリオール、塩、および/またはアミノ酸が含まれる。凍結乾燥製剤中に含まれる等張化剤および/または安定化剤は、例えば、凍結ストレスから生物医薬品を保護する凍結保護剤として、あるいは冷凍乾燥状態の生物医薬品を安定させる溶解保護剤として使用することができる。このような凍結保護剤および溶解保護剤の具体例には、ポリオール、糖、およびポリマーが含まれる。
【0025】
充填剤は、例えば製品の気品を向上させかつ噴出を防止するために、凍結乾燥製剤に有用である。充填剤は、溶解塊(lyo cake)に構造的強度を付与するものであり、これには例えばマンニトールやグリシンが含まれる。
【0026】
抗酸化剤は、タンパク質の酸化を抑制するために液状製剤に有用であり、また酸化反応を遅延させるために凍結乾燥製剤において使用することができる。
【0027】
金属イオンは、例えば補助因子として液状製剤中に含めることができ、亜鉛やマグネシウムなどの2価のカチオンは、懸濁製剤で利用することができる。液状製剤中に含まれるキレート剤は、例えば金属イオン触媒反応を阻害するために使用することができる。凍結乾燥製剤に関しては、金属イオンはまた、例えば補助因子として含めることもできる。キレート剤は、一般的に凍結乾燥製剤から除外されるが、凍結乾燥プロセス中や再構成時に所望により触媒反応を抑制するために含めることもできる。
【0028】
液体製剤中および/または凍結乾燥製剤中に含まれる保存剤は、例えば微生物の増殖から保護するために使用することができ、特に多回投与製剤に有益である。凍結乾燥製剤においては、一般的に再構成希釈剤中に保存剤が含まれる。ベンジルアルコールが、本発明の製剤に有用な保存剤の具体例である。
【0029】
本明細書で使用される「界面活性剤」という用語は、溶解される液体の表面張力を低下させる機能を果たす物質を意味するものとして意図される。界面活性剤は、例えば、液状製剤における凝集、粒子形成および/または表面吸着を防止または抑制するため、あるいは凍結乾燥製剤における凍結乾燥プロセスおよび/または再構成プロセスの間にこれらの現象を防止または抑制するためといった種々の目的のために、生物医薬品製剤中に含めることができる。界面活性剤には、例えば有機溶媒および水溶液の両方において部分溶解性を示す両親媒性有機化合物が含まれる。界面活性剤の一般的な特徴には、水の表面張力を低下させる能力、油と水との間の界面張力を低下させる能力、さらにはミセルを形成する能力が含まれる。本発明の界面活性剤には、非イオン性界面活性剤やイオン性界面活性剤が含まれる。界面活性剤は当該技術分野で周知であり、例えば、Randolph T.W. and Jones L.S.,Surfactant‐protein interactions.Pharm Biotechnol.13:159‐75(2002)に記載されている。
【0030】
簡潔に言うと、非イオン性活性剤には、例えば、アルキルポリ(エチレンオキシド)、アルキルポリグルコシド(例えば、オクチルグルコシドやデシルマルトシド)、脂肪アルコール(例えば、セチルアルコールやオレイルアルコール)、コカミドMEA、コカミドDBA、およびコカミドTEAが含まれる。非イオン性活性剤の具体例には、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート28、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、ポリソルベート85など)、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188(別名ポロキサルコールまたはポリ(エチレンオキシド)‐ポリ(プロピレンオキシド))、ポロキサマー407、ポリエチレン‐ポリプロピレングリコールなど)、およびポリエチレングリコール(PEG)が含まれる。ポリソルベート20は、TWEEN20、モノラウリン酸ソルビタン、およびモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンと同義である。
【0031】
イオン性界面活性剤には、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、および双性イオン性界面活性剤が含まれる。アニオン界面活性剤には、例えば、スルホン酸塩系界面活性剤またはカルボン酸塩系界面活性剤(例えば、石鹸、脂肪酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸アンモニウム、および他のアルキル硫酸塩)が含まれる。カチオン界面活性剤には、例えば、第四級アンモニウム系界面活性剤(例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB))、他のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化セチルピリジニウム、ポリエトキシル化牛脂アミン(POEA)、および塩化ベンザルコニウムが含まれる。双性イオン性界面活性剤または両性界面活性剤には、例えば、ドデシルベタイン、ドデシルジメチルアミンオキシド、コカミドプロピルベタイン、およびココアンフォグリシネートが含まれる。
【0032】
本明細書で使用される「治療用」という用語は、本発明のポリペプチドに関して使用される場合、前記ポリペプチドが、ヒトまたはその他の動物における疾患の治癒、緩和、治療または予防に使用することを目的としていることを意味するものとして意図される。したがって、治療用ポリペプチドは、特定種類の生物医薬品であり、単一のポリペプチドまたは複数のポリペプチドのサブユニットを含むことができる。治療用ポリペプチドには、抗体、その機能的抗体フラグメント、そのペプチボディまたは機能的フラグメント、増殖因子、サイトカイン、細胞シグナル伝達分子、およびホルモンが含まれる。多種多様な治療用ポリペプチドが当該技術分野で周知であり、それらはすべて、本明細書で使用されるような用語の意味の範囲内に包含される。本発明の水性生物医薬品製剤中で使用することができる治療用ポリペプチドの例には、例えば、多種多様な抗原、インターロイキン、G‐CSF、GM‐CSF、キナーゼ、TNFリガンド、TNFRリガンド、サイクリン、およびエリスロポエチンに対する抗体(例えば、エプラツズマブ(登録商標)(Emab)や機能的フラグメント)が含まれる。
【0033】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、治療用ポリペプチドなどの治療用生物医薬品に関して使用される場合、標的疾患または生理学的病態に伴う少なくとも1つの症状を軽減するのに十分な治療用分子の量を意味するものとして意図される。
【0034】
本発明は、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液と、少なくとも1つの賦形剤と、有効量の治療用ポリペプチドとを有する水溶液を含む生物医薬品製剤を提供する。
【0035】
本発明の生物医薬品製剤は、生物医薬品の投与、保存および操作に最適な特性を示す。操作には、例えば、凍結乾燥、再構成、希釈、滴定などが含まれる。本発明の製剤の水性緩衝成分は、調製に有効であり、扱いづらく、場合によっては時間がかかり、予備的で、および/または中間の手順を回避する当該技術分野で周知の種々の方法のいずれかを使用して、所望の生物医薬品と容易に組み合わせることができる。さらに、水性プロピオン酸緩衝成分は、生物医薬品の安定性を促進する多種多様な賦形剤および界面活性剤との適合性を有する。本明細書に記載される本発明の生物医薬品製剤のこれらの特質や他の特質によって、生理活性分子からなる安定した製剤を調製し、12〜18ヵ月を超える期間にわたって維持することが可能となる。
【0036】
本発明の生物医薬品製剤の安定性とは、製剤中の生物医薬品の構造および/または機能の維持を指す。本発明の製剤中の生物医薬品は、安定性や機能に影響を及ぼす変化や変質に対する耐性などの特質を示し、そのため一定期間にわたり均一な機能特性を維持する。したがって、本発明の生物医薬品製剤は、例えば、単位量当たりの活性や活性単位において信頼性と安全性を示す。
【0037】
一実施形態において、本発明の製剤中の生物医薬品の安定性には、例えば、物理的安定性および/または化学的安定性の維持が含まれる。生物医薬品の安定性は、例えば、その生物医薬品が、構造の化学修飾といった既述の経路のような物理的分解経路および/または化学的分解経路に供されているかどうかを判定することによって評価することができる。本発明の製剤中の生物医薬品の安定性の維持には、例えば、最初の時点における生物医薬品の安定性と比べた場合の約80〜100%、約85〜99%、約90〜98%、約92〜96%、または約94〜95%の物理的安定性または化学的安定性の維持が含まれる。したがって、本発明の製剤中の生物医薬品の安定性には、最初の時点における生物医薬品の安定性と比べた場合の約99.5%超、少なくとも約99%、約98%、約97%、約96%、約95%、約94%、約93%、約92%、約91%、約90%、約89%、約88%、約87%、約86%、約85%、約84%、約83%、約82%、約81%または約80%の安定性の維持が含まれる。
【0038】
さらなる一実施形態においては、本発明の製剤中の生物医薬品の安定性には、例えば、活性の維持が含まれる。生物医薬品の活性は、例えば、生物医薬品の機能を示すin vitroアッセイ、in vivoアッセイおよび/またはin situアッセイを使用して評価することができる。本発明の製剤中の生物医薬品の安定性の維持には、例えば、アッセイのばらつきにより異なる約50〜100%以上の活性の維持が含まれる。例えば、安定性の維持には、最初の時点における生物医薬品の活性と比較した約60〜90%または70〜80%の間の活性の維持が含まれる。したがって、本発明の製剤中の生物医薬品の安定性には、最初の時点における生物医薬品の活性と比べた場合の少なくとも約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%または約100%の活性の維持が含まれ、100%超(例えば、105%、110%、115%、120%、125%または150%以上)の活性測定値が含まれてもよい。一般的に、最初の時点は、生物医薬品が最初に本発明の生物医薬品製剤中に調製される時か、または最初に品質検査を行う(すなわち、放出基準を満たす)時となるように選択される。また、最初の時点には、生物医薬品が本発明の生物医薬品製剤中に再調製される時が含まれてもよい。再調製製剤は、例えば、最初の製剤よりも高い濃度、低い濃度、または同じ濃度であってよい。
【0039】
本発明の生物医薬品製剤中の生物医薬品の安定性は、特に4℃を超える温度、例えば、室温(約23℃)またはそれ以上(例えば、37℃)の温度で維持される。より高い温度で安定性がより良好に維持されることは、特定の他の緩衝液、特により高い濃度の基準生物医薬品よりも、図15に示す本発明のプロピオン酸緩衝液生物医薬品製剤のメインピークがより良好に維持されていることによって示されている。
【0040】
本発明の生物医薬品製剤は、基準溶液または基準液(すなわち、血清)と等張となるように調製することができる。等張溶液は、浸透圧的に安定するように周囲のものと実質的に同等の量が中に溶解した溶質を有する。特定の溶液または液と明示的に比較する場合を除き、「等張」または「等張性」という用語は、ヒト血清(例えば、300mOsmol/kg)に関して本明細書に例示的に使用される。それため、本発明の等張性生物医薬品製剤は、実質的に同等の濃度の溶質を含有するか、またはヒトの血液と実質的に同等の浸透圧を示す。一般的に、等張溶液は、ヒトおよび多くの他の哺乳類に使用する通常の生理食塩水と同濃度の溶質を含有し、この濃度は水溶液中における約0.9重量パーセント(0.009g/mL)の塩(例えば0.009g/mLのNaCl)である。本発明の生物医薬品製剤にはまた、低張溶液製剤や高張溶液製剤が含まれてもよい。
【0041】
生物医薬品製剤は、当該技術分野で周知の種々の方法のいずれかで調製して、所望のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液成分、少なくとも1つの賦形剤、および有効量の生物医薬品を産生することができる。この点において、本発明の生物医薬品製剤の緩衝能は、pKaの約1pH単位内のpH範囲で強い緩衝能を示す弱酸性プロピオン酸により与えられる。プロピオン酸は、例えば重要な生化学機能や構造的機能を有する巨大分子を含めた多くの生体分子に最適な4.9のpKaを有する。
【0042】
プロピオン酸成分は、種々の異なるプロピオン酸形態の緩衝系に与えることができる。例えば、プロピオン酸成分は、プロピオン酸、プロピオン酸塩、あるいは入手可能であるか、または化学合成を使用して産生することができるその他いずれかの形態として与えることができる。塩の形態のプロピオン酸塩は、高度に精製された形態で市販されているため、生物医薬品製剤のプロピオン酸緩衝系の産生に特に有用である。プロピオン酸塩には、例えば、既述のもののほか、当該技術分野で既知のその他のものが含まれる。生物医薬品製剤成分の高度に精製された形態とは、安全かつ無毒と言えるほど汚染物が含まれないようなヒトへの投与に十分な純度を有する、医薬品グレードの純度レベルを指す。
【0043】
プロピオン酸およびプロピオン酸塩緩衝液は、当業者に周知である。本発明の生物医薬品製剤は、例えば、選択された温度において製剤の選択されたpHを維持するのに十分な緩衝能を有するプロピオン酸またはプロピオン酸塩の濃度を含有する。プロピオン酸またはプロピオン酸塩の有用な濃度には、例えば、約1〜150mMのほか、200mM以上でさえも含まれる。例えば、場合によっては、本発明の高張製剤を産生するために最高1Mのプロピオン酸またはプロピオン酸塩を含むのが望ましいこともある。所望により、このような高張溶液を使用前に希釈して等張性製剤を産生することもできる。例として、プロピオン酸またはプロピオン酸塩の有用な濃度には、例えば、約1〜200mM、5〜175mM、10〜150mM、15〜125mM、20〜100mM、25〜80mM、30〜75mM、35〜70mM、40〜65mM、および45〜60mMが含まれる。プロピオン酸またはプロピオン酸塩の他の有用な濃度には、例えば、約1〜50mM、2〜30mM、3〜20mM、4〜10mM、および5〜8mMが含まれる。したがって、プロピオン酸またはプロピオン酸塩の濃度は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19または約20mM以上である。これらの濃度例よりも高い値や低い値もまた、生物医薬品製剤に使用することができる。
【0044】
そのため、本発明の生物医薬品製剤は、1mM未満または20mM超のプロピオン酸またはプロピオン酸塩(例えば、21、22、23、24、25、30、35、40、45または50mM以上のプロピオン酸またはプロピオン酸塩)を有することができる。生物医薬品製剤は、以下の実施例で例示され、図14〜16に示されており、約10mMのプロピオン酸塩濃度を含有する。
【0045】
既述の通り、本発明の生物医薬品製剤は生物医薬品の安定性の維持に最適であり得る約4〜6のpHの強い緩衝能を有するため、本発明の生物医薬品製剤中のプロピオン酸緩衝液のpKaは、生物医薬品との使用に特に適している。本発明の生物医薬品製剤のプロピオン酸緩衝液成分は、約4.0〜6.0のpH範囲内でいずれかの効果的な緩衝能を示すように調製することができる。プロピオン酸緩衝液および/または最終生物医薬品製剤のpH範囲の例には、約3.5〜6.5、約4.0〜6.0、約4.5〜5.5、約4.8〜5.2、または約5.0のpH範囲が含まれてよい。したがって、プロピオン酸緩衝液および/または最終生物医薬品製剤は、約3.0以下、約3.5、約4.0、約4.5、約4.8、約5.0、約5.2、約5.5、約6.0、約6.5または約7.0以上のpHを有するように調製することができる。これらの値の例よりも高いpH値や、低いpH値、およびこれらの値の間のpH値はすべて、プロピオン酸緩衝液および/または最終生物医薬品製剤に使用することもできる。そのため、例えば、プロピオン酸緩衝液成分および/または最終生物医薬品製剤は、3.5未満、6.5超のほか、これらの範囲内のすべての値のpHを有するように調製することができる。当業者は、緩衝液の緩衝能の強度の大部分がpKaの約1のpH単位の外に低下することを理解し、本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みて、約3.5未満のpHまたは約6.5超のpHを有するプロピオン酸緩衝液を含むことが、本発明の生物医薬品製剤で有用であるかどうかを判断することができる。
【0046】
本発明の生物医薬品製剤のプロピオン酸緩衝液成分は、1つ以上の賦形剤を含むことができる。既述の通り、含有される賦形剤の1つの役割としては、製造、輸送および保存時に生じるストレスに対する生物医薬品の安定化を提供することがある。この役割を達成するために、少なくとも1つの賦形剤は、緩衝液、安定化剤、等張化剤、充填剤、界面活性剤、凍結保護剤、溶解保護剤、抗酸化剤、金属イオン源、キレート剤および/または保存剤として機能することができる。さらに、少なくとも1つの賦形剤はまた、希釈剤および/またはビヒクルとして機能することもできれば、高濃度の生物医薬品製剤の送達を可能にし、および/または罹患体の利便性を向上させるために使用して、高濃度の生物医薬品製剤の粘度を低下させることもできる。
【0047】
同様に、少なくとも1つの賦形剤はさらに、本発明の製剤に上記の機能の内の複数を付与することもできる。あるいは、上記のまたは他の機能の内の複数を果たすように、複数の賦形剤を本発明の生物医薬品製剤中に含めることもできる。例えば、賦形剤は、製剤の重量オスモル濃度を変更、調整または最適化して、それにより等張化剤として機能させるために、本発明の生物医薬品製剤の成分として含めることができる。同様に、等張化剤および界面活性剤はいずれも、重量オスモル濃度の調整と凝集の抑制の両方のために、本発明の生物医薬品製剤中に含めることができる。賦形剤とその使用、配合および特徴は当該技術分野で周知であり、例えば、Wang W.,Int.J.Pharm.185:129‐88(1999);およびWang W.,Int.J.Pharm.203:1‐60(2000)に記載されている。
【0048】
一般的に、賦形剤は、種々の化学的ストレスおよび物理的ストレスに対してタンパク質を安定化させる機序に基づいて選択することができる。本明細書に記載の通り、特定の賦形剤は、特定のストレスの効果を軽減するか、特定の生物医薬品の特定の感受性を調節するように含むのが有益である。他の賦形剤は、タンパク質の物理的安定性や共有結合的安定性に対するより一般的な効果を有するため、含むのが有益である。特に有用な賦形剤には、製剤の安定性を最適にするように水性緩衝液や生物医薬品と化学的かつ機能的に無害であるか、適合するものが含まれる。このような種々の賦形剤は、本発明の水性生物医薬品製剤との化学的適合性と、このような製剤中に含まれる生物医薬品との機能的適合性とを示す賦形剤の例として、本明細書に記載されている。但し、例示した賦形剤に関して本明細書に示す教示内容や手引きは、当該技術分野で周知の広範な他の賦形剤の使用にも等しく適用可能であることを、当業者は理解するであろう。
【0049】
例えば、製剤中の生物医薬品の安定性を向上させるか、付与するために選択される最適な賦形剤には、生物医薬品において官能基と実質的に反応しないものが含まれる。この点で、還元糖および非還元糖はいずれも、本発明の生物医薬品製剤中の賦形剤として使用することができる。しかし、還元糖は、ヘミアセタール基を含有することから、ポリペプチドのアミノ酸側鎖にアミノ基を有する付加体または他の修飾を反応形成することができる(すなわちグリコシル化)。同様に、クエン酸塩やコハク酸塩、ヒスチジンなどの賦形剤はまた、アミノ酸側鎖を有する付加体を形成することもできる。本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みると、所定のポリペプチド生物医薬品の安定性のより良好な維持は、還元糖よりも、または上に例示したものなどの他のアミノ酸反応性賦形剤よりも、非還元糖を選択することによって達成できることを、当業者は認識するであろう。
【0050】
最適な賦形剤はまた、本発明の水性生物医薬品製剤の投与様式における安定化を向上させるか提供するためにも選択される。例えば、静脈内投与(IV)、皮下投与(SC)または筋肉内投与(IM)の非経口経路は、製剤のすべての成分が製造、保存および投与時に物理的安定性や化学的安定性を維持する場合に、より安全かつ有効となり得る。当業者は、例えば特定の製造条件または保存条件あるいは特定の投与様式に鑑みて、生物医薬品の活性形態の安定性を最大限に維持する1つ以上の賦形剤を使用することを認識するであろう。生物医薬品製剤で使用するために本明細書で例示した賦形剤は、これらの特徴や他の特徴を示す。
【0051】
本発明の生物医薬品製剤で使用する賦形剤の量または濃度は、例えば、製剤中に含まれる生物医薬品の量、所望の製剤中に含まれる他の賦形剤の量、希釈剤が望まれるのか必要なのか、製剤の他の成分の量または体積、製剤中の成分の総量、生物医薬品の比活性、および達成すべき所望の張性または重量オスモル濃度により変動する。賦形剤の濃度の具体例は、さらに下記にて例示される。さらに、異なる種類の賦形剤を、単一の生物医薬品製剤に組み合わせることもできる。したがって、本発明の生物医薬品製剤は、単一の賦形剤、あるいは2種、3種または4種以上の賦形剤を含有することができる。賦形剤の組み合わせは、特に複数種の生物医薬品を含有する生物医薬品製剤と併用する場合に有用であり得る。賦形剤は、類似のまたは異なる化学特性を示すことができる。
【0052】
本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みると、生物医薬品の安定性の維持を促進する本発明の生物医薬品製剤を実現するためにいずれか特定の製剤中に含めることができる賦形剤の量または範囲を、当業者は認識するであろう。例えば、本発明の生物医薬品製剤中に含まれる塩の量および種類は、最終溶液の所望の重量オスモル濃度(すなわち、等張、低張または高張)ならびに製剤中に含める他の成分の量および重量オスモル濃度に基づいて選択することができる。同様に、製剤中に含まれるポリオールまたは糖の種類に関する例として、このような賦形剤の量はその重量オスモル濃度に変動する。約5%のソルビトールを含めると等張性を達成できるのに対し、スクロースの賦形剤は、等張性を達成するのに約9%が必要である。本発明の生物医薬品製剤中に含めることができる1つ以上の賦形剤の量または濃度範囲の選択は、塩、ポリオールおよび糖に関連して上で例示している。しかし、本明細書に記載し、さらに特定の賦形剤に関連して例示した考慮事項は、賦形剤(例えば、塩、アミノ酸、他の等張化剤、界面活性剤、安定化剤、充填剤、凍結保護剤、溶解保護剤、抗酸化剤、金属イオン、キレート剤および/または保存剤を含む)のあらゆる種類や組み合わせに等しく適用可能であることを、当業者は理解するであろう。
【0053】
賦形剤は、一般的に約1〜40%(w/v)、約5〜35%(w/v)、約10〜30%(w/v)、約15〜25%(w/v)または約20%(w/v)の濃度範囲で、本発明の生物医薬品製剤中に含めることができる。また、特定の例では、約45%(w/v)、50%(w/v)または50%(w/v)超もの濃度を、本発明の生物医薬品製剤中で使用することもできる。例えば、場合によっては、本発明の高張性製剤を産生するために最高60%(w/v)または75%(w/v)の濃度を含めるのが望ましいこともある。所望により、このような高張溶液を使用前に希釈して、等張製剤を産生することもできる。他の有用な濃度範囲には、約1〜20%、特に約2〜18%(w/v)、より具体的には約4〜16%(w/v)、さらにより具体的には約6〜14%(w/v)、または約8〜12%(w/v)、あるいは約10%(w/v)が含まれる。また、これらの範囲を下回るまたは上回る、あるいはこれらの範囲の間の賦形剤の濃度および/または量も、本発明の生物医薬品製剤で使用することができる。例えば、1つ以上の賦形剤を、約1%未満(w/v)を構成する生物医薬品製剤中に含めることができる。同様に、生物医薬品製剤は、約40%(w/v)を超える濃度の1つ以上の賦形剤を含有することもできる。したがって、本発明の生物医薬品製剤は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20%(w/v)以上を含めた、本質的にはいずれの所望の濃度または量の1つ以上の賦形剤をも含有するものを産生することができる。約10.0%の賦形剤を有するポリペプチドの生物医薬品製剤については、以下に例を示す。
【0054】
本発明の生物医薬品製剤に有用な種々の賦形剤は、すでに記載されている。実施例IIに記載する特定の生物医薬品製剤において例示される1つの賦形剤にはソルビトールがあり、これは等張化剤および/または安定化剤として使用される。実施例IIに記載する生物医薬品製剤において例示される別の賦形剤にはポリソルベート20があり、これは界面活性剤としてその特定の製剤で使用される。本発明の液体生物医薬品製剤または凍結乾燥生物医薬品製剤のいずれかにおいて有用な他の賦形剤には、例えば、フコース、セロビオース、マルトトリオース、メリビオース、オクツロース、リボース、キシリトール、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、メチオニン、グルタミン酸、リジン、イミダゾール、グリシルグリシン、マンノシルグリセリン酸塩、Triton X‐100、Pluoronic F‐127、セルロース、シクロデキストリン、デキストラン(10、40および/または70kD)、ポリデキストロース、マルトデキストリン、フィコール、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメタ(hydroxypropylmeth)、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ZnCl2、亜鉛、酸化亜鉛、クエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、トロメタミン、銅、フィブロネクチン、ヘパリン、ヒト血清アルブミン、プロタミン、グリセリン、グリセロール、EDTA、メタクレゾール、ベンジルアルコール、およびフェノールが含まれる。これらの賦形剤ならびに当該技術分野で既知の他の賦形剤などの賦形剤については、例えば、Wang W.,supra,(1999)およびWang W.,supra.(2000)に記載されている。
【0055】
また、本発明の生物医薬品製剤のプロピオン酸緩衝液成分は、賦形剤として1つ以上の界面活性剤を含むことができる。既述の通り、本発明の製剤中の界面活性剤の1つの役割には、凝集および/または吸着(例えば表面誘起分解)を防止するか、または最小限に抑制することがある。十分な濃度、一般的には界面活性剤の臨界ミセル濃度の前後で、界面活性剤分子の表層は、タンパク質分子が界面で吸着するのを防止する役割を果たす。これにより表面誘起分解が最低限に抑制される。生物医薬品製剤のための界面活性剤、その使用、配合および特徴は、当該技術分野で周知であり、例えば、Randolph and Jones,supra,(2002)に記載されている。
【0056】
本発明の生物医薬品製剤中に含めるのに最適な界面活性剤は、凝集および/または吸着を防止または抑制することによって生物医薬品の安定性の維持を向上または促進するために選択することができる。例えば、ポリソルベートなどのソルビタン脂肪酸エステルは、広範な親水特性および乳化特性を示す界面活性剤である。これらは、広範な安定化の必要性を網羅するように、個別にまたは他の界面活性剤と組み合わせて使用することができる。このような特性は、生物医薬品の広範な疎水特性および親水特性を網羅するように調整することができるため、生物医薬品との使用に特に適している。界面活性剤を選択するに当たっての考慮事項としては、一般的に賦形剤に関して既述されているもののほか、界面活性剤の疎水特性や臨界ミセル濃度が含まれる。本明細書に例示される界面活性剤、ならびに当該技術分野で周知のその他多くの界面活性剤は、本発明の生物医薬品製剤で使用することができる。
【0057】
本発明の生物医薬品製剤の界面活性剤の濃度範囲には、一般的に賦形剤に関して既述されているものが含まれ、特に有用な濃度は約1%(w/v)未満である。この点で、界面活性剤の濃度は、一般的には約0.001〜0.10%(w/v)、具体的には約0.002〜0.05%(w/v)、より具体的には約0.003〜0.01%(w/v)、さらにより具体的には約0.004〜0.008%(w/v)または約0.005〜0.006%(w/v)の範囲で使用することができる。これらの範囲を下回るまたは上回る、あるいはこれらの範囲の間の界面活性剤の濃度および/または量もまた、本発明の生物医薬品製剤で使用することができる。例えば、1つ以上の界面活性剤を、約0.001%(w/v)未満を構成する生物医薬品製剤中に含めることができる。同様に、生物医薬品製剤は、約0.10%(w/v)を超える濃度の1つ以上の界面活性剤を含有することもできる。したがって、本発明の生物医薬品製剤は、例えば0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.010、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09または0.10%(w/v)以上を含めた、本質的にはいずれの所望の濃度または量の1つ以上の界面活性剤をも産生することができる。
【0058】
本発明の生物医薬品製剤中の賦形剤として有用な種々の界面活性剤は、すでに記載されている。本発明の液体生物医薬品製剤または凍結乾燥生物医薬品製剤のいずれかにおいて有用な他の界面活性剤には、例えば、糖エステル(例えば、ラウリン酸エステル(C12)、パルミチン酸エステル(C16)、ステアリン酸エステル(C18)、マクロゴールセトステアリルエーテル、マクロゴールラウリルエーテル、マクロゴールオレイルエーテル、オレイン酸マクロゴール、ステアリン酸マクロゴール、リシノール酸マクロゴールグリセロール、ヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセロール)、アルキルポリグルコシド(例えば、オクチルグルコシドやデシルマルトシド)、脂肪アルコール(例えば、セチルアルコールやオレイルアルコール)、およびコカミド(例えば、コカミドMEA、コカミドDEA、コカミドTEA、他の非イオン性活性剤、および他のイオン性界面活性剤)が含まれる。
【0059】
そのため、本発明は、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩約1〜100mMを有する水溶液、約1〜10%のポリオール、約0.001〜0.010%のポリソルベート20、および有効量の治療用ポリペプチドを含む生物医薬品製剤を提供する。また、本発明の生物医薬品製剤は、約5.0のpHを有する約10mMのプロピオン酸ナトリウム、約5%のソルビトール、および約0.005%のポリソルベート20を含むこともできる。また、その他種々の製剤成分、成分の組み合わせ、およびそれらの濃度も、本発明の生物医薬品製剤中に含めることができる。
【0060】
さらに、製剤の生物医薬成分として治療用ポリペプチドを有する生物医薬品製剤も提供される。治療用ポリペプチドには、抗体、抗体機能的フラグメント、ペプチボディ、ホルモン、増殖因子、または細胞シグナル伝達分子が含まれる。
【0061】
また、本発明の生物医薬品製剤の中に含まれるものに生物医薬品がある。本発明の生物医薬品には、例えば、病態の診断、治療または予防に使用することができる活性医薬品成分またはその構成単位として使用されるか、あるいは薬剤の成分として使用される巨大分子または生体高分子(例えば、ポリペプチド、核酸、脂質、炭水化物)が含まれる。例えば、本発明の生物医薬品製剤は、ポリペプチド、グリコポリペプチド、ペプチドグリカン、DNA(例えば、ゲノムDNA、cDNAなど)、RNA(例えば、mRNA、RNAi、SNRPSなど)、単糖、多糖、N結合型糖、O結合型糖、レプチンなどが含まれ得る活性医薬品成分として企図される炭水化物、脂質(例えば、リン脂質、糖脂質、脂肪酸)、ポリアミン、イソプレノイド、アミノ酸、ヌクレオチド、神経伝達物質、および補助因子、ならびにヒトを含む哺乳類の生理系で内生するその他多くの巨大分子、生体高分子およびこれらの構成単位に適用可能であり、かつこれらの安定性の維持を促進する。これらのおよび他の生物医薬品は、当業者に周知であり、病態の診断、治療もしくは予防において、または薬剤の成分として使用するために、本発明の生物医薬品製剤中に含めることができる。
【0062】
本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みると、本発明の生物医薬品製剤は、上で例示したもの、ならびに当該技術分野で周知の他のものを含めたすべての種類の生物医薬品に等しく適用可能であることを、当業者は理解するであろう。また、本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みると、例えば1つ以上の賦形剤、界面活性剤および/または任意の成分の種類および/または量は、配合する生物医薬品との化学的適合性および機能的適合性および/または投与様式、ならびに当該技術分野で周知の他の化学的因子、機能的因子、生理学的因子および/または医学的因子に基づいて選択できることを、当業者は理解するであろう。例えば、既述の通り、非還元糖は、ポリペプチド生物医薬品とともに使用されると、還元糖よりも有利な賦形剤特性を示す。したがって、本発明の生物医薬品製剤は、ポリペプチド生物医薬品に関して以下でさらに例示する。しかし、ポリペプチド生物医薬品に適用される適用性、化学特性、物理特性、考慮事項および方法の範囲は、ポリペプチド生物医薬品以外の生物医薬品にも同様に適用可能である。
【0063】
本発明の生物医薬品製剤での使用に適用可能なポリペプチド生物医薬品の種類の例には、例えば、ポリペプチド、増殖因子、サイトカイン、細胞シグナル伝達分子およびホルモンの免疫グロブリン超分子群を含めたすべての種類の治療用ポリペプチドが含まれる。本発明の生物医薬品製剤での使用に適用可能なポリペプチド生物医薬品の例には、例えば、抗体およびその機能的フラグメント、インターロイキン、G‐CSF、GM‐CSF、キナーゼ、FhmなどのTNFリガンドおよびTNFRリガンド、サイクリン、エリスロポエチン、神経成長因子(NGF)、発達調節した神経成長因子、VGF、神経栄養因子、神経栄養因子NNT‐1、Eph受容体、Eph受容体リガンド;Eph様受容体、Eph様受容体リガンド、アポトーシス阻害タンパク質(IAP)、Thy‐1特異的タンパク質、Hekリガンド(hek‐L)、Elk受容体およびElk受容体リガンド、STAT、コラゲナーゼ阻害剤、オステオプロテゲリン(OPG)、APR1L/G70、AGP‐3/BLYS、BCMA、TACI、Her‐2/neu、アポリポタンパク質ポリペプチド、インテグリン、メタロプロテイナーゼの組織インヒビター、C3b/C4b補体受容体、SHC結合タンパク質、DKRポリペプチド、細胞外マトリックスポリペプチド、上記の治療用ポリペプチドに対する抗体およびその抗体機能的フラグメント、上記の治療用ポリペプチドの受容体に対する抗体およびその抗体機能的フラグメント、その機能的ポリペプチドフラグメント、融合ポリペプチド、キメラポリペプチドなどを含めた、すべての治療用ポリペプチドが含まれる。
【0064】
本発明の生物医薬品製剤での使用に適用可能な市販される生物医薬品の具体例には、例えば、ENBREL(エタネルセプト;CHO発現二量体融合タンパク質((Amgen,Inc.))、EPOGEN(エポエチンアルファ;哺乳類細胞発現糖タンパク質(Amgen,Inc.))、INFERGEN(登録商標)(インターフェロンアルファコン‐1;大腸菌発現組換えタンパク質(Amgen,Inc.))、KINERET(登録商標)(アナキンラ;(ヒトインターロイキン‐1受容体アンタゴニスト(IL‐1Ra)の大腸菌発現組換え非グリコシル化形態)(Amgen,Inc.))、ARANESP(ダーベポエチンアルファ;CHO発現組換えヒト赤血球新生刺激タンパク質(Amgen,Inc.))、NEULASTA(ペグフィルグラスチム;組換えメチオニルヒトG‐CSFおよび20kD PEGの共有結合抱合体(Amgen,Inc.))、NEUPOGEN(フィルグラスチム;大腸菌発現ヒト顆粒球コロニー刺激因子(G‐CSF)(Amgen,Inc.))、およびSTEMGEN(アンセスチム、幹細胞因子;大腸菌発現組換えヒトタンパク質(Amgen,Inc.))が含まれる。これらのおよびその他すべての市販される生物医薬品は、例えば、使用前および/または短期保存または長期保存前の製造時に、本発明の生物医薬品製剤において再配合することができる。
【0065】
本発明の生物医薬品製剤の生物医薬適用性の範囲の更なる説明としては、以下に詳述するものが、本発明の生物医薬品製剤で治療用ポリペプチドとして使用することができる抗体およびその機能的フラグメントの種類の例である。既述の通り、抗体およびその機能的フラグメントに適用可能な、化学特性、物理特性、配合の考慮事項、および方法は、他のポリペプチド生物医薬品を含めた生物医薬品に同様に適用可能である。
【0066】
抗体または免疫グロブリンは、分子標的または抗原に対して特異的な親和性を有するポリペプチドである。この用語は、重鎖および軽鎖からなる免疫グロブリンクラスのポリペプチド内に含まれるB細胞のポリペプチド生成物を指す。モノクローナル抗体とは、単細胞クローンまたはハイブリドーマの生成物である抗体を指す。また、モノクローナル抗体とは、単一分子免疫グロブリン種を産生するために、重鎖および軽鎖をコードする免疫グロブリン遺伝子から組換え法によって産生される抗体を指す。モノクローナル抗体製剤中の抗体のアミノ酸配列は実質的に均質であり、このような製剤中の抗体の結合活性は、同じまたは類似の結合アッセイで比較した場合に、実質的に同じ抗原結合活性を示す。以下で詳述する通り、抗体およびモノクローナル抗体の特徴は、当該技術分野で周知である。
【0067】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、骨髄腫発現細胞株、ファージディスプレイおよび組み合わせ抗体ライブラリー法、またはこれらの組み合わせの使用を含めた、当該技術分野で既知の広範な方法を使用して調製することができる。例えば、モノクローナル抗体は、当該技術分野で既知のもの、ならびにHarlow and Lane.,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989);Hammerling,et al.,in:Monoclonal Antibodies and T‐Cell Hybridomas 563‐681,Elsevier,N.Y.(1981);Harlow et al.,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1999);およびAntibody Engineering:A Practical Guide,C.A.K.Borrebaeck,Ed.,W.H.Freeman and Co.,Publishers,New York,pp.103‐120(1991)において教示するものを含めた、ハイブリドーマ技法を使用して産生することができる。免疫化動物および非感作性動物に由来するライブラリーを含めた、組換え、ファージディスプレイおよび組み合わせ抗体ライブラリー法によってモノクローナル抗体を産生する既知の方法の例については、Antibody Engineering:A Practical Guide,C.A.K.Borrebaeck,Ed.,supraに記載されている。生物医薬品として使用するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。むしろ、既述の通り、モノクローナル抗体とは、これを産生する方法ではなく、任意の真核生物クローン、原核生物クローン、ファージクローンを含めた単一のクローンに由来する抗体を指す。
【0068】
抗体機能的フラグメントとは、その標的特異的結合活性の一部またはすべてを維持する抗体の一部を指す。このような機能的フラグメントには、例えば、Fd、Fv、Fab、F(ab’)、F(ab)2、F(ab’)2、単鎖Fv(scFv)、キメラ抗体、二重抗体、三重抗体、四重抗体、およびミニボディなどの抗体機能的フラグメントが含まれてよい。他の機能的フラグメントには、例えば、重鎖(H)または軽鎖(L)ポリペプチド、重鎖可変(VH)領域および軽鎖可変(VL)領域ポリペプチド、相補性決定領域(CDR)ポリペプチド、単一ドメイン抗体、ならびに標的特異的結合活性を維持するのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含有するポリペプチドが含まれてよい。また、本明細書においては、Fcドメインのカルボキシル末端またはアミノ末端のいずれかを介して2つの結合ペプチドに結合する免疫グロブリン定常領域ドメイン(Fc)からなるペプチボディも、抗体機能的フラグメントとして含まれる。このような抗体結合フラグメントについては、例えば、Harlow and Lane,supra;Molec.Biology and Biotechnology:A Comprehensive Desk Reference(Myers,R.A.(ed.),New York:VCH Publisher,Inc.);Huston et al.,Cell Biophysics,22:189‐224(1993);Pluuckthun and Skerra,Meth.Enzymol.,178:497‐515(1989);およびDay,E.D.,Advanced Immunochemistry,Second Ed.,Wiley‐Liss,Inc.,New York,NY(1990)に記載されている。
【0069】
標的分子に対する有益な結合特性を示す抗体およびその機能的フラグメントに関しては、種々の形態、変化および修飾が当該技術分野で周知である。本発明の生物医薬品製剤で使用する標的特異的モノクローナル抗体には、このような種々のモノクローナル抗体の形態、変化および修飾のいずれかが含まれてよい。当該技術分野で機知のこのような種々の形態および用語の例については、以下に記載する。
【0070】
Fabフラグメントとは、VLドメイン、VHドメイン、CLドメインおよびCH1ドメインからなる1価のフラグメントを指し;F(ab’)2フラグメントは、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合した2つのFabフラグメントを含むが、Fcを欠失する2価のフラグメントであり;Fdフラグメントは、VHドメインとCH1ドメインとからなり;Fvフラグメントは、抗体の単一アームのVLドメインとVHドメインとからなり;dAbフラグメント(Ward et al.,Nature 341:544‐546,(1989))はVHドメインからなる。
【0071】
抗体は、1つ以上の結合部位を有することができる。複数の結合部位がある場合、それらの結合部位は互いに同じである場合もあれば、あるいは異なる場合もある。例えば、天然の免疫グロブリンは2つの同一の結合部位を有し、単鎖抗体またはFabフラグメントは1つの結合部位を有するのに対し、「二重特異性」抗体または「二機能性」抗体は、2つの異なる結合部位を有する。
【0072】
単鎖抗体(scFv)とは、VL領域およびVH領域がリンカー(例えばアミノ酸残基の合成配列)を介して結合して、連続したポリペプチド鎖を形成する抗体を指し、ここのリンカーは、タンパク質鎖がそれ自体で折り畳まれ、1価の抗原結合部位を形成するのに十分な長さを有する(例えば、Bird et al.,Science 242:423‐26(1988);およびHuston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879‐83(1988)を参照)。二重抗体とは、2つのポリペプチド鎖を含む2価抗体を指し、各ポリペプチド鎖は、同一の鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にし、それによって各領域が別のポリペプチド鎖上の相補領域と対合できるようになるには短すぎるリンカーによって結合されるVHドメインとVLドメインとを含む(例えば、Holliger et al.,Proc.Natl.Acad Sci.USA 90:6444‐48(1993);およびPoljak et al.,Structure 2:1121‐23(1994)を参照)。二重抗体の2つのポリペプチド鎖が同一である場合、それらの対合から生じる二重抗体は、2つの同一の抗原結合部位を有する。異なる配列を有するポリペプチド鎖を使用して、2つの異なる抗原結合部位を有する二重抗体を産生することができる。同様に、三重抗体および四重抗体は、それぞれ3つおよび4つのポリペプチド鎖を含み、かつ同一であってもよければ異なっていてもよいそれぞれ3つおよび4つの抗原結合部位を形成する抗体である。
【0073】
CDRとは、免疫グロブリン(Igまたは抗体)のVHのβシートフレームワークの非フレームワーク領域内の3つの超可変ループ(H1、H2またはH3)の内の1つを含有する領域、あるいは抗体のVLのβシートフレームワークの非フレームワーク領域内の3つの超可変ループ(L1、L2またはL3)の内の1つを含有する領域を指す。したがって、CDRは、フレームワーク領域配列内に散在する可変領域配列である。CDR領域は、当業者に周知であり、例えば、Kabatが、抗体可変(V)ドメイン内の最も超可変性の高い領域であると定義している(Kabat et al.,J.Biol. Chem.252:6609‐6616(1977);Kabat,Adv.Prot.Chem.32:1‐75(1978))。また、CDR領域配列は、Chothiaが、保存されたβシートフレームワークの一部ではなく、したがって異なる立体配座を適合させることが可能な残基であると構造的に定義している(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901‐917(1987))。いずれの用語も、当該技術分野で広く認識されている。標準的な抗体可変領域内のCDRの位置は、数多くの構造の比較によって決定されている(Al‐Lazikani et al.,J.Mol.Biol.273:927‐948(1997);Morea et al.,Methods 20:267‐279(2000))。ループ内の残基の数は抗体により異なるため、標準的な位置を基準とした追加のループ残基は、標準的な可変ドメイン番号付け法により残基番号の隣にa、b、cなどが従来付与されている(Al‐Lazikani et al.,supra(1997))。このような命名法も同様に当業者に周知である。
【0074】
例として、Kabat(超可変)またはChothia(構造的)のいずれかの命名法にしたがって定義されたCDRを、下表に記載する。
【0075】
【化1】
1残基の番号付けは、Kabat et al.,supraの命名法に従う。
2残基の番号付けは、Chothia et al.,supraの命名法に従う。
【0076】
キメラ抗体とは、1つの抗体に由来する1つ以上の領域、および1つ以上の他の抗体に由来する1つ以上の領域を含有する抗体を指す。1つの具体例において、CDRの1つ以上は、標的分子に対する比活性を有する非ヒトドナー抗体に由来し、可変領域フレームワークはヒトレシピエント抗体に由来する。別の具体例において、CDRはすべて、標的分子に対する比活性を有する非ヒトドナー抗体に由来してよく、可変領域フレームワークはヒトレシピエント抗体に由来する。さらに別の具体例において、複数の非ヒト標的特異的抗体に由来するCDRは、キメラ抗体において混合され、マッチングされる。例えば、キメラ抗体は、第1の非ヒト標的特異的抗体の軽鎖に由来するCDR1、第2の非ヒト標的特異的抗体の軽鎖に由来するCDR2およびCDR3、ならびに第3の標的特異抗体に由来する重鎖に由来するCDRを含んでよい。さらに、フレームワーク領域は、同じヒト抗体の内の1つに由来してもよければ、1つ以上の異なるヒト抗体に由来してもよく、ヒト化抗体に由来してもよい。ドナーおよびレシピエントの両抗体がヒトである場合は、キメラ抗体を産生することができる。
【0077】
ヒト化抗体またはグラフト化抗体は、ヒト被験者に投与する場合に、ヒト化抗体が非ヒト種抗体よりも、免疫応答を誘発する可能性が低くなるように、および/またはより重症度の低い免疫応答を誘発するように、1つ以上のアミノ酸の置換、欠失および/または付加により非ヒト種抗体配列と異なる配列を有する。1つの具体例においては、非ヒト種抗体の重鎖および/または軽鎖のフレームワークドメイン内および定常ドメイン内の特定のアミノ酸を変化させて、ヒト化抗体を産生する。別の具体例において、ヒト抗体に由来する定常ドメインは、非ヒト種の可変ドメインに融合される。ヒト化抗体を作製する方法の例については、米国特許第6,054,297号、第5,886,152号および第5,877,293号に記載されている。ヒト化抗体にはまた、抗体回復(resurfacing)法などを使用して産生される抗体も含まれる。
【0078】
ヒト抗体とは、ヒト免疫グロブリン配列に由来する1つ以上の可変領域および定常領域を有する抗体を指す。例えば、完全ヒト抗体には、可変ドメインおよび定常ドメインがすべてヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体が含まれる。ヒト抗体は、当該技術分野で既知の種々の方法を使用して調製することができる。
【0079】
また、1つ以上のCDRを、共有結合または非共有結合のいずれかにより分子内に組み込んで、イムノアドヘシンとすることができる。イムノアドヘシンは、より大きなポリペプチド鎖の一部としてCDRを組み込んでもよければ、CDRを別のポリペプチド鎖と共有結合により結合してもよく、CDRを非共有結合により組み込んでもよい。CDRによって、イムノアドヘシンは対象となる特定の抗原に特異的に結合することが可能となる。
【0080】
中和抗体または阻害抗体とは、標的特異的モノクローナル抗体の過剰によって、標的に結合した結合パートナーの量が減少する場合に、標的分子とその結合パートナーとの結合を阻害する標的特異的モノクローナル抗体を指す。結合の阻害は、少なくとも10%、具体的には少なくとも約20%生じる可能性がある。種々の具体例においては、モノクローナル抗体によって、標的に結合した結合パートナーの量を、例えば少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%および99.9%減少させることができる。結合の減少は、例えばin vitro競合結合アッセイでの測定のように、当業者に既知のいずれかの手段によって測定することができる。
【0081】
アンタゴニスト抗体とは、標的分子を発現する細胞、組織または生体に付加される場合に標的分子の活性を阻害する抗体を指す。活性は、結合パートナーが単独で存在する場合における標的分子の活性レベルに比べて、少なくとも約5%、具体的には少なくとも約10%、より具体的には少なくとも約15%以上低下させることができる。種々の具体例において、本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体は、標的分子活性を少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%阻害することができる。
【0082】
上述の標的特異的モノクローナル抗体と同様に、更なる実施形態においては、本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体には、標的分子アンタゴニスト活性を示すモノクローナル抗体が含まれる。標的分子活性のアンタゴニストは、その結合パートナーにより結合または刺激される場合に、標的分子の少なくとも1つの機能または活性を低下させる。このような機能には、例えば、細胞調節、遺伝子調節、タンパク質調節、シグナル変換、細胞増殖、分化、移動、細胞生存、またはその他いずれかの生化学的機能および/または生理学的機能の刺激または阻害が含まれてよい。また、標的分子の他の機能または活性も、本発明の生物医薬品として使用するアンタゴニスト標的特異的モノクローナル抗体によって低下または阻害することができる。本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みれば、当業者は、種々のアンタゴニスト活性を示す広範な標的特異的モノクローナル抗体を作製および同定することができるであろう。
【0083】
本発明のアンタゴニスト標的特異的モノクローナル抗体は、本明細書に記載の通り産生および同定することができる。アンタゴニスト標的特異的モノクローナル抗体を同定する具体的な方法には、結合パートナーまたは他のアゴニストの存在下でその結合パートナーに反応する標的分子発現細胞を、標的特異的モノクローナル抗体に接触させる方法が含まれる。接触は結合に十分な条件下で行われ、標的分子の機能または活性の低下または減少を決定することができる。標的の少なくとも1つの機能または活性を低下させるか、減少させるか、妨げる標的特異的モノクローナル抗体は、標的特異的アンタゴニストモノクローナル抗体として同定される。
【0084】
アゴニスト抗体とは、100%の活性化が、等モル量の結合パートナーにより生理学的条件下で達成される活性化レベルである場合に、標的分子を発現する細胞、組織または生体に付加されると、標的分子を少なくとも約5%、具体的には少なくとも約10%、より具体的には少なくとも約15%活性化する抗体を意味する。種々の具体例において、本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体は、標的分子活性を、少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、175%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、750%または1000%活性化させることができる。
【0085】
更なる実施形態において、本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体には、標的分子アゴニスト活性を示すモノクローナル抗体が含まれる。標的分子活性のアゴニストとは、その結合パートナーに結合した場合に標的分子の少なくとも1つの機能または活性を増大させる分子を指す。増大させることができる活性には、例えばアンタゴニスト活性に関して既述されているものが含まれる。したがって、標的分子アンタゴニスト活性を有する標的特異的モノクローナル抗体は、標的分子の1つ以上の細胞機能または細胞活性を低下させるか、減少させるか、防止する。標的分子アゴニスト活性を有する標的特異的モノクローナル抗体は、標的分子の1つ以上の細胞機能または細胞活性を増大させるか、促進するか、刺激する。本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みれば、当業者は、種々のアンタゴニスト活性またはアゴニスト活性を示す広範な標的特異的モノクローナル抗体を作製または同定することができるであろう。
【0086】
本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みれば、当業者は、当該技術分野で周知の免疫化法、ハイブリドーマ産生法、骨髄腫細胞株発現法、およびスクリーニング法を使用して、アゴニスト標的特異的モノクローナル抗体を産生することができる。アゴニスト標的特異的モノクローナル抗体を同定する具体的な方法には、結合に十分な条件下で標的分子の結合パートナーに反応する標的分子発現細胞を、標的特異的モノクローナル抗体に接触させて、標的分子の機能または活性の刺激または増大を決定する方法が含まれる。標的分子の少なくとも1つの機能または活性を増大させるか、刺激するか、促進する標的特異的モノクローナル抗体は、標的特異的アゴニストモノクローナル抗体として同定される。
【0087】
エピトープとは、抗体の抗原結合部位内の1つ以上の抗体と特異的に結合する分子の一部(例えばポリペプチドの一部分)を指す。抗原決定基は、抗体に結合する分子の連続領域または非連続領域を含むことができる。抗原決定基はまた、分子の化学活性表面系列(例えばアミノ酸または糖側鎖)を含んでもよく、特定の3次元構造特性および/または特定の電荷特性を有してもよい。
【0088】
特異的結合とは、他の関連しているが非標的である分子に比べて、あるいは他の非標的の分子に比べて、標的分子に対して選択的な結合を示す標的特異的モノクローナル抗体を指す。選択的な結合には、その標的分子への検出可能な結合を示すが、別の関連しているが非標的である分子への検出可能な結合はほとんどまたは全く示さない、本発明の生物医薬品として使用するモノクローナル抗体が含まれる。
【0089】
特異的結合は、例えば、親和性(KaまたはKd)、会合速度(kon)、解離速度(koff)、結合活性、またはこれらの組み合わせを含めた、当業者に既知の種々の測定法のいずれかによって測定することができる。当該技術分野で周知の種々の方法または測定法はいずれも、標的特異的結合活性を決定するために使用し、適用することができる。このような方法および測定法には、例えば、標的分子と非標的分子との間の見かけ上の結合または相対的な結合が含まれる。定量的測定法および定性的測定法の両方を、このような見かけ上の結合または相対的な結合を測定するために使用することができる。結合測定の具体例には、例えば、競合結合アッセイ、タンパク質またはウェスタンブロット法、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴法、エバネッセント波法、フローサイトメトリー、および/または共焦点顕微鏡法が含まれる。
【0090】
さらに、アンタゴニスト標的特異的モノクローナル抗体またはアゴニスト標的特異的モノクローナル抗体の特異的結合は、例えば、細胞の機能または活性の変化を測定する方法を含めた上記または下記の方法のいずれかにより測定することもできる。細胞の機能または活性(例えば、増殖、分化、または他の生化学的機能および/または生理学的な機能)の変化を測定する方法は、当該技術分野で周知である。既述の結合アッセイと同様に、定量的測定法および定性的測定法はいずれも、1つ以上の細胞機能をアンタゴナイズまたはアゴナイズすることにおいて見かけ上の測定または相対的な測定を行うために使用することができる。
【0091】
本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体またはその機能的フラグメントは、さらにそれらの特異的な標的結合活性を維持しながら、種々の抗体形態のいずれかで産生することができ、および/または既述のような種々の方法のいずれかで変化させるまたは修飾することができる。標的特異的モノクローナル抗体またはその機能的フラグメントのこのような抗体形態、変化または修飾はいずれも(これらの組み合わせを含む)、生物医薬品として本発明の適用範囲内に含まれる。同様に、本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体またはその機能的フラグメントのこのような種々の抗体形態、変化または修飾はいずれも、本明細書に記載されるような本発明の方法、組成物および/または製品において使用することができる。例えば、本発明の標的特異的モノクローナル抗体またはその機能的フラグメントには、標的特異的なグラフト化、ヒト化、Fd、Fv、Fab、F(ab)2、(scFv)およびペプチボディモノクローナル抗体ならびにその他すべての既述の形態、変化および/または修飾、および当業者に周知の他の形態が含まれる。
【0092】
ハイブリドーマ技法を使用してハイブリドーマを産生し、標的特異的モノクローナル抗体のスクリーニングを行う方法は、日常的な方法であり、当該技術分野で周知である。例えば、マウスは、ポリペプチドなどの標的分子で免疫化することができ、免疫応答が検出されたら、例えば、標的分子に特異的な抗体がマウス血清中に検出されたら、マウスの脾臓を回収して、脾細胞を単離する。次いで、周知の方法でいずれかの適切な骨髄腫細胞(例えばATCCから入手可能な細胞株SP20由来の細胞)に脾細胞を融合する。ハイブリドーマは、限界希釈法により選択され、クローニングされる。次いで、標的分子を結合することができる抗体を分泌する細胞について、当該技術分野で既知の方法によりハイブリドーマクローンを検定する。一般的には高濃度の抗体を含有する腹水は、陽性ハイブリドーマクローンでマウスを免疫化することにより産生することができる。
【0093】
さらに、原核生物宿主または真核生物宿主における組換え発現を使用して、標的特異的モノクローナル抗体を産生することができる。組換え発現は、単一の標的特異的モノクローナル抗体種またはその機能的フラグメントを産生するために使用することができる。あるいは、組換え発現は、重鎖および軽鎖、または可変重鎖および可変軽鎖の組み合わせからなる多様なライブラリーを産生するために使用し、次いで標的分子に特異的な結合活性を示すモノクローナル抗体またはその機能的フラグメントについてスクリーニングすることもできる。例えば、当該技術分野で周知の方法を使用して、標的特異的モノクローナル抗体をコードする核酸から、重鎖および軽鎖、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメイン、またはその機能的フラグメントを共発現して、特異的モノクローナル抗体種を産生することができる。ライブラリーは、当該技術分野で周知の方法を使用して、重鎖および軽鎖、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメイン、またはその機能的フラグメントをコードする核酸の共発現群から産生して、標的特異的モノクローナル抗体を同定するために標的分子への親和性結合によりスクリーニングすることができる。このような方法は、例えば、Antibody Engineering:A Practical Guide,C.A.K.Borrebaeck,Ed.,supra;Huse et al.,Science 246:1275‐81(1989);Barbas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7978‐82(1991);Kang et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA 88:4363‐66(1991);Pluuckthun and Skerra,supra;Felici et al.,J.Mol.Biol.222:301‐310(1991);Lermer et al.,Science 258:1313‐14(1992);および米国特許第5,427,908号に記載されている。
【0094】
コーディング核酸のクローニングは、当業者に周知の方法を使用して達成することができる。同様に、VHおよび/またはVLをコードする核酸を含めたコーディング核酸の重鎖および/または軽鎖のレパートリーのクローニングもまた、当業者に周知の方法によって達成することができる。このような方法には、例えば、発現クローニング、相補的プローブによるハイブリダイゼーションスクリーニング法、相補的プライマー対を使用したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または相補的プライマーを使用したリガーゼ連鎖反応(LCR)、逆転写酵素PCR(RT‐PCR)などが含まれる。このような方法については、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(2001);およびAnsubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,Baltimore,MD(1999)に記載されている。
【0095】
コーディング核酸はまた、米国国立衛生研究所(NIH)の全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)によって運営されているものなどの全体のゲノムデータベースを含めた種々の公的なデータベースのいずれかより得ることができる。重鎖および/または軽鎖あるいはその機能的フラグメントの単一のコーディング核酸またはコーディング核酸のレパートリーのいずれかを単離する特に有用な方法は、コード領域部分についての特定の知識なくして遂行することができるが、それは、プライマーが入手できるか、あるいは抗体の可変領域部分または定常領域部分の保存部分を使用して容易に設計できるためである。例えば、コーディング核酸のレパートリーは、PCRとともにこのような領域の複数の縮重プライマーを使用してクローニングすることができる。このような方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、Huse et al.,supra;およびAntibody Engineering:A Practical Guide,C.A.K.Borrebaeck,Ed.,supraに記載されている。上記方法ならびに当該技術分野で既知の他の方法のいずれ(それらの組み合わせを含む)を使用しても、本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体を産生することができる。
【0096】
そのため、本発明は、治療用ポリペプチドとして、抗体、抗体の機能的フラグメントを有する生物医薬品製剤を提供する。治療用ポリペプチドは、モノクローナル抗体、Fd、Fv、Fab、F(ab’)、F(ab)2、F(ab’)2、単鎖Fv(scFv)、キメラ抗体、二重抗体、三重抗体、四重抗体、ミニボディまたはペプチボディを含むことができる。
【0097】
本発明の製剤中に含める生物医薬品の濃度は、例えば、生物医薬品の活性、治療する適応症、投与様式、治療計画、ならびに液体形態または凍結乾燥形態のいずれの形態での長期保存を製剤が目的としているかに応じて変動する。当業者であれば、これらの周知の考慮事項および薬学における技術水準に鑑みて、使用する濃度を認識するであろう。例えば、広範な医療適用、投与様式および治療計画のために米国における治療用途に承認された生物医薬品は、80を超えている。これらの承認された生物医薬品は、本発明の生物医薬品製剤で使用することができる生物医薬品濃度の範囲の例である。
【0098】
一般的に、例えば治療用ポリペプチド生物医薬品を含めた生物医薬品は、約1〜200mg/mL、約10〜200mg/mL、約20〜180mg/mL、具体的には約30〜160mg/mL、より具体的には約40〜120mg/mL、さらにより具体的には約50〜100mg/mL、または約60〜80mg/mLの濃度で本発明の製剤中に含まれる。これらの範囲を下回るか上回る、あるいはその間の生物医薬品の濃度および/または量もまた、本発明の生物医薬品製剤で使用することができる。例えば、1つ以上の生物医薬品を、約1.0mg/mL未満を構成する生物医薬品製剤中に含めることができる。同様に、生物医薬品製剤は、特に保存のために配合される場合に、約200mg/mLを超える濃度の1つ以上の生物医薬品を含有することができる。したがって、実質的にいずれの所望の濃度または量(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、ll、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25,30、35、40,45、50、55、60,65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190または200mg/mL以上)の1つ以上の生物医薬品を含有する本発明の生物医薬品製剤でも産生することができる。以下の実施例で例示するのは、約10mg/mLの濃度を有する治療用ポリペプチドの生物医薬品製剤である。
【0099】
本発明の生物医薬品製剤はまた、製剤中に生物医薬品の組み合わせを含むこともできる。例えば、本発明の生物医薬品製剤は、1つ以上の病態を治療するための単一の生物医薬品を含むことができる。本発明の生物医薬品製剤はまた、複数の異なる生物医薬品を含むこともできる。本発明の製剤中での複数の生物医薬品の使用は、例えば、同一の適応症でもまたは異なる適応症でも対象とすることができる。同様に、複数の生物医薬品を本発明の製剤中で使用して、例えば、病態と、1次治療が原因となる1つ以上の副作用との両方を治療することができる。また、複数の生物医薬品を本発明の製剤中に含めて、例えば病態の進行の治療と監視とを同時に行うなど、異なる医療目的を達成することもできる。示唆された治療および/または診断のいくつかまたはすべてに単一の製剤で十分であることから、上に例示するものなどの複数の併用療法、ならびに当該技術分野で周知の他の併用は、特に罹患体の服薬遵守に有用である。当業者は、広範な併用療法のために混合され得るそれらの生物医薬品について知っているであろう。同様に、本発明の生物医薬品製剤はまた、低分子医薬品とともに使用することや、1つ以上の低分子医薬品とともに1つ以上の生物医薬品と併用することが可能である。そのため、本発明は、1、2、3、4、5または6種以上の生物医薬品ならびに1つ以上の低分子医薬品と併用した1つ以上の生物医薬品を含む本発明の生物医薬品製剤を提供する。
【0100】
また、本発明の生物医薬品製剤は、当該技術分野で周知の1つ以上の保存剤および/または添加剤を含むこともできる。同様に、本発明の生物医薬品製剤はさらに、種々の既知の送達製剤のいずれかに配合することもできる。例えば、本発明の生物医薬品製剤は、潤滑剤、乳化剤、懸濁化剤、安息香酸メチルやヒドロキシ安息香酸プロピルなどの保存剤、甘味剤および着香剤を含むことができる。このような任意の成分、それらの化学的特性および機能的特性は、当該技術分野で周知である。同様に、投与後の生物医薬品の迅速放出、持続放出または遅延放出を促進する製剤も、当該技術分野で周知である。本発明の生物医薬品製剤は、これらの製剤成分または当該技術分野で周知の他の製剤成分を含むように産生することができる。
【0101】
また、本発明の生物医薬品製剤は、例えば水性液体以外の状態で産生することもできる。既述の通り、プロピオン酸は、特定の他の弱酸よりも揮発性が低い。例えば、プロピオン酸塩は、28℃で3.3mm Hgの蒸気圧(VP)を有し、これは20℃で11mm HgのVPを有する酢酸塩よりも揮発性が低い。この揮発性の低さは、凍結乾燥製剤を調製する際に特に有用であり得ると企図されるが、それは、より多くの製剤成分を凍結乾燥プロセス中に維持することができるため、脱離のリスクを低下させることができるためである。
【0102】
本発明の生物医薬品製剤が本明細書に記載の通り調製されると、当該技術分野で周知の方法を使用して製剤の中に含まれる1つ以上の生物医薬品の安定性を評価することができる。このような方法のいくつかは、以下の実施例で詳細に例示されており、サイズ排除クロマトグラフィ、粒子計数法および重量オスモル濃度を含む。例えば結合活性、他の生物化学的活性および/または生理学的活性を含めた種々の機能アッセイのいずれかを複数の時点で評価して、本発明の緩衝製剤における生物医薬品の安定性を測定することができる。
【0103】
一般的に、本発明の生物医薬品製剤は、医薬品基準に従い、かつ医薬品グレードの試薬を使用して調製される。同様に一般的に、本発明の生物医薬品製剤は、無菌製造環境内で無菌試薬を使用して調製されるか、または調製後に滅菌される。無菌注射剤溶液は、例えば、本発明のプロピオン酸緩衝液または賦形剤における必要量の1つ以上の生物医薬品を、本明細書に記載の製剤成分の1つまたは組み合わせと組み合わせた後に、殺菌精密濾過を行うなど、当該技術分野で周知の手順を使用して調製することができる。無菌注射剤溶液の調製のための無菌粉剤の具体的な実施形態において、特に有用な調製方法には、例えば既述のような真空乾燥や冷凍乾燥(凍結乾燥)が含まれる。このような乾燥方法によって、すでに無菌濾過したその溶液からいずれかの更なる所望の成分とともに1つ以上の生物医薬品の粉剤が得られる。
【0104】
投与および投与計画は、最適な治療応答に有効な量を提供するように調整することができる。例えば、単一のボーラス投与を行うこともできれば、一定期間に複数回に分けて投与することもでき、あるいは治療状況の緊急性によって示される通りに用量を比例的に増減させることもできる。有効量の1つ以上の生物医薬品を投与する際の投与の容易さおよび投与量の均一性のために、単位用量形態における静脈内注射、非経口的注射または皮下注射用として本発明の生物医薬品製剤を配合するのが特に有用であり得る。単位投与量とは、治療する被験者のための単位投与量として適している医薬品の物理的に個別の量を指し、各単位は、所望の治療効果を生じるように算出される所定量の活性生物医薬品を含有する。
【0105】
更なる例として、有効量のポリペプチド生物医薬品(例えば治療用抗体やその機能的フラグメント)を、例えば、一定時間にわたり予定の間隔で複数回投与することもできる。ある実施形態において、治療用抗体は、少なくとも1ヵ月以上(例えば、少なくとも1、2、3ヵ月またはそれ以上)の期間にわたって投与される。慢性症状を治療するためには、一般的に長期の持続的治療が最も有効である。急性の症状を治療する場合は、例えば1〜6週間などのより短い投与期間で十分であり得る。一般的に、治療用抗体または他の生物医薬品は、選択された1つ以上の指標について罹患体がベースライン時よりも医学的に関連する程度の改善を示すまで投与される。
【0106】
選択する生物医薬品および治療する適応症に応じて、治療有効量とは、無治療被験者よりも、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%または60%以上、標的病態の少なくとも1つの症候を抑制するのに十分な量である。症候を抑制または阻害する生物医薬品製剤の能力は、例えばヒトにおける標的症状に対する有効性を予測する動物モデル系で評価することができる。あるいは、症候を抑制または阻害する生物医薬品製剤の能力は、例えばin vivoの治療活性を示す生物医薬品製剤のin vitro機能または活性を検討することにより評価することができる。
【0107】
本発明の生物医薬品製剤における1つ以上の生物医薬品の実際の投与量レベルは、罹患体に対する毒性を有することなく、特定の罹患体、製剤および投与様式に対して所望の治療効果を達成するのに有効な量の活性生物医薬品が得られるように変化させることができる。当業者であれば、被験者の体格、被験者の症候の重症度、選択した生物医薬品および/または投与経路などの因子に基づいて投与量を決定することができるであろう。選択投与量レベルは、例えば、使用する生物医薬品の活性、投与経路、投与時間、排泄率、治療期間、使用する特定の組成物と併用される他の薬剤、化合物および/または材料、治療する罹患体の年齢、性別、体重、病態、全身の健康状態、および既往歴、ならびに医学分野で周知の類似の因子などの種々の薬物動態学的因子に変動する。本発明の特定の実施形態は、本発明の生物医薬品製剤中の治療用ポリペプチド(例えば抗体やその機能的フラグメント)を、1日につき被験者の体重1kg当たり約1ng(1ng/kg/日)〜約10mg/kg/日、より具体的には約500ng/kg/日〜約5mg/kg/日、さらにより具体的には約5μg/kg/日〜約2mg/kg/日の抗体の投与量で被験者に投与することを含む。
【0108】
当該技術分野の技能を有する医師または獣医師であれば、必要な医薬品製剤の有効量を容易に決定および処方することができる。例えば、医師または獣医師は、所望の治療効果を達成するために必要とされる量よりも低いレベルで本発明の生物医薬品製剤の投与を開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を漸増させることができる。一般的に、本発明の生物医薬品製剤の適切な1日量は、治療効果を生じるのに有効な最低用量の生物医薬品の量である。このような有効量は、一般的に既述の因子により変動する。投与は静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与または皮下投与であるのが特に有用である。所望により、有効量の生物医薬品製剤を実現するのに有効な1日量は、場合により単位投与量で1日を通して適切な間隔で2、3、4、5、6回以上の分割用量が個別に投与されるように、投与することができる。
【0109】
本発明の生物医薬品製剤は、例えば当該技術分野で既知の医療装置で投与することができる。例えば、特に有用な実施形態において、本発明の生物医薬品製剤は、米国特許第5,399、163号、第5,383,851号、第5,312,335号、第5,064,413号、第4,941,880号、第4,790,824号、または第4,596,556号に記載される装置などの無針皮下注射装置で投与することができる。本発明において有用な周知のインプラントおよびモジュールの例には、制御速度で薬物を分注するための植込み型マイクロ注入ポンプについて記載する米国特許第4,487,603号;皮膚を通して薬物を投与するための治療用装置について記載する米国特許第4,486,194号;正確な注入速度で薬物を送達するための薬物注入ポンプについて記載する米国特許第4,447,233号;連続した薬物送達のための植込み型可変流注入装置について記載する米国特許第4,447,224号;マルチチャンバーコンパートメントを有する浸透圧性薬剤送達システムについて記載する米国特許第4,439,196号;ならびに浸透圧性薬剤送達システムについて記載する米国特許第4,475,196号が含まれる。その他多くのこのようなインプラント、送達系およびモジュールが当業者に既知である。
【0110】
特定の具体的な実施形態においては、in vivoでの選択的分配が容易になる本発明の製剤で使用する生物医薬品をさらに配合することができる。例えば、血液脳関門(BBB)は、多くの高親水化合物を排除する。所望によりBBBの通過を容易にするために、生物医薬品製剤はさらに、例えば、1つ以上の生物医薬品のカプセル化のためのリポソームも含むことができる。リポソームを製造する方法については、例えば、米国特許第4,522,811号、第5,374,548号、および第5,399,331号を参照されたい。リポソームはさらに、特定の細胞または臓器に選択的に移動し、それによって選択生物医薬品の標的送達を向上させる、1つ以上の部分も含有することができる(例えば、V.V.Ranade(1989)J.Clin.Pharmacol.29:685を参照)。例示的な標的部分には、葉酸塩またはビオチン(例えば、Low et al.の米国特許第5,416,016号を参照)、マンノシド(Umezawa et al.,(1988)Biochem.Biophys.Res.Commun.153:1038)、抗体(P.G.Bloeman et al.(1995)FEBS Lett.357:140;M.Owais et al.(1995)Antimicrob.Agents Chemother.39:180)、または界面活性剤タンパク質A受容体(Briscoe et al.(1995)Am.J.Physiol.1233:134)が含まれる。
【0111】
そのため、本発明は、生物医薬品製剤を調製する方法もさらに提供する。前記方法は、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液を有する水溶液と、賦形剤と、有効量の治療用ポリペプチドを有する界面活性剤とを組み合わせる手順を含む。本明細書に記載の生物医薬品製剤成分の1つ以上を、1つ以上の有効量の生物医薬品と組み合わせて、本発明の広範な製剤を産生することができる。
【0112】
さらに、約4.0〜約6.0のpHを有する約3〜20mMのプロピオン酸塩と、約1〜10%のソルビトールと、約0.001〜0.010%のポリソルベート20と、有効量の治療用ポリペプチドとを有する水溶液を含む生物医薬品製剤を含有する容器も提供される。簡潔に言うと、本発明の組成物、キットおよび/または薬物においては、本発明の製剤中の併用有効量の1つ以上の生物医薬品を、単一の容器または容器手段内に含めることもできれば、あるいは異なる容器または容器手段内に含めることもできる。場合によりイメージング成分を含めることができ、パッケージは、生物医薬品製剤を使用するための書面の説明書やウェブでアクセス可能な説明書を含むこともできる。容器または容器手段には、例えば、バイアル、ビン、注射器、あるいはマルチディスペンサーパッケージ用として当該技術分野で周知の種々の形式のいずれかが含まれる。
【0113】
本発明の種々の実施形態の活性に実質的に影響を及ぼさない改変もまた、本明細書で示す本発明の定義の中に包含されるものと理解される。したがって、以下の実施例は、本発明を例示することを目的としており、本発明を制限することを目的とはしていない。
【実施例】
【0114】
(実施例1) 緩衝水溶液のポリペプチド安定性の特性評価
本実施例では、ポリペプチド製剤の安定性に関する種々の製剤成分および製剤の特性評価について記載する。
【0115】
エプラツズマブ(Emab)は、骨髄腫細胞内に発現するヒト化組換えモノクローナル抗体(mAB)である。これは、9.12〜9.27の範囲のpIを有し、非ホジキンリンパ腫(NHL)に対する治療効果を有することが示されている。Emabは、大部分のB細胞NHLによって発現するB細胞表面抗原であるCD22を結合する。CD22は、B細胞受容体によるB細胞活性化の調節に関与すると思われる。
【0116】
Emabは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS;40mMリン酸ナトリウム(pH7.4)、140mMのNaCl;Immunomedics,Inc.、米国ニュージャージー州モリスプレーンズ)中で配合される場合に、不溶性粒子を形成する傾向を示す。現在、72mL(10mg/mL)の平均用量がIV注射を介して罹患体に投与されており、その投与は約1時間にわたって行うことができる。粒子を形成する傾向があるため、IV注射時にインラインフィルタを使用することが必要である。本実施例では、Emabの安定性の維持を増大させ、かつ粒子形成量を減少させる生物医薬品製剤の生成および特性評価について記載する。Emabに関する生物医薬品製剤の特性評価は、他のポリペプチドおよび生物医薬品の例である。
【0117】
本明細書に記載の製剤試験は、(1)製剤化前の特性評価、(2)製剤の最適化、および(3)安定性の維持を増大させる製剤の選択、という3つの主要分野を対象とする。簡潔に言うと、製剤化前とは、安定した生成物をもたらす最適なpH、緩衝液、賦形剤および塩の条件の特性評価を指す。pHの最適化は、バイアルにおける短期間の加速試験を実施してpH条件の関数として不安定性を確認および解読することに加えて、示差走査熱量測定(DSC)を使用して融解温度の挙動(Tm)の分布を測定することを含む。製剤の最適化は、製剤中の主要な賦形剤または安定化剤組成物を最適化し、適切な容器でのリアルタイム安定性試験、ならびに病院でまたは商業生産のために使用される密封表示を評価するのに有益な特性を有する候補を選択する手順を含む。リアルタイムとは、生物医薬生成物が保存される推奨温度条件(一般的には冷凍条件)での評価を指す。最後に、選択プロセスとは、リアルタイム条件下で最長2年間の安定性を増進する特性の内で最大の組み合わせをもたらす適切な剤形において3種以上の候補を選択する手順を指す。
【0118】
製剤化前の試験の予備的所見を基に、−80℃、2〜8℃(リアルタイム)および37℃(加速)の条件での長期安定性評価のために3つの候補製剤を選択した。これらの候補製剤の特性評価は、6ヵ月時点における結果を参照しながら以下に例示する。また、長期条件、リアルタイム条件および加速条件の結果も、以下に例示する。
【0119】
製剤化前の結果
示差走査熱量測定(DSC)熱的加熱試験を使用して、例示的なEmabポリペプチドの安定性の最適pHプロファイルを評価した。簡潔に言うと、pH3.5〜11の範囲を有するポリペプチド緩衝液中のEmabでこれらのDSC試験を行った。高い相対融解温度(Tm)は、ポリペプチド内の立体配座安定性の領域を示す(Remmele,R.L.,Jr.,(2005)“Microcalorimetic Approaches to Biopharmaceutical Development”,in Analytical Techniques for Biopharmaceutical Development(Rodriguez‐Diaz,R.,Wehr,T.,Tuck,S.,eds.),Marcel/Dekker,New York,NY,pp.327‐381(ISBN:0‐8247‐0706‐0))。
【0120】
DSCの結果により、最も顕著なDSCピークで最高のTmとなる緩衝液条件に関連した最適pHの範囲がpH6〜9であることが示された。最高のTmの条件はpH6で得られた。これらの結果により、このpH6〜9の範囲内でポリペプチド立体配座が最も安定しており、変性しにくいことが示されている。
【0121】
pH条件の試験範囲内で認められた分解の形態および種類の特性評価を行うために、加速安定性試験を行った。簡潔に言うと、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)を使用して特定のpHおよび例えば37℃で加速安定性試験を行った。タンデム型のTosoHaas G3000SWxlデュアルカラムを使用して、50mMのリン酸塩(pH7)、250mMのNaClおよび5%のエタノールからなる移動相を使用した解析を行った。
【0122】
試料をそれぞれの試験対象の製剤内に透析し、無菌容器内に無菌濾過した。約2mL量の各配合試料を無菌フード内の3mLの無菌ガラスバイアル内に入れ、栓をした。凍結用に指定した試料を、無菌のポリプロピレンクリオチューブ内に入れた。すべてのバイアルにラベルを付け、キャップを付けた後、−80℃、2〜8℃および37℃の条件での保存用に指定した箱の中に入れた。指定した時点で試料を取り出し、解析した。
【0123】
異なる形態の試料を定量評価し、それらの流体力学的体積に基づいて選別することができた。例示的な結果を図1に示したが、これらの結果により、37℃で1ヵ月間の加熱中に可溶性凝集体(HMWと指定)および低分子量フラグメント(LMW1およびLMW2と指定)の増加が示されている。HMWピークはメインピークの二量体または無損傷の抗体であり、その特徴はすでに記載されている(Remmele, et al.,(2006)Active dimer of Epratuzumab provides insight into the complex nature of an antibody aggregate.;J Pharm Sci.2006 Jan;95(1):126‐145)。
【0124】
高分子量(HMW)および低分子量(LMW)の不安定性経路に対するpHおよび緩衝液の影響を、HMWフラグメントおよびLMWフラグメントの形成をpHの関数としてプロットすることにより評価した。HMWの結果を図2に示したが、これらの結果により、pH3.5〜5での可溶性凝集体の形成の激減が示されている。pH5を超えるpHの上昇では、DSCにより決定される上述のTm最適条件の範囲内で凝集体の形成が少なくかつ比較的均一であることが示された。また、図2により、異なる緩衝液間の差がほとんどなく、HMW種の形成に関連した有益性が得られたことも示されている。
【0125】
図3では、pH条件に関するLMW1の作用と、ポリペプチドがフラグメントになる傾向に対する種々の緩衝液の影響とが示されている。図示の通り、より高いpH条件よりもpH3.5〜5においての方がフラグメンテーションの量が多いことが認められた。しかし、スクリーニングした緩衝液の一部、特に、例えばコハク酸塩およびリン酸塩では、フラグメンテーションプロセスが増大したように思われた。分解に対する安定化に対する影響に関して最も効果があるものから最も効果がないものまでの順位は、以下の通りとなる。
クエン酸塩→ヒスチジン→[トリス〜酢酸塩]→[リン酸塩〜コハク酸塩]。
【0126】
同じ評価をLMW2フラグメントにも行った。その結果を図4に示したが、これらの結果により、HMWおよびLMW1の形態においても同様のpH作用が認められたことが示されている。例えば、ポリペプチドのフラグメンテーションはpH5〜8の範囲内で最小になる。同様に、試験した緩衝液系の間に差はほとんど見られなかった。他の試験では、銅などの2価金属を含むことによってLMW種の形成が誘発されることが明らかになった。
【0127】
また、以下で詳述する通り、最適なポリペプチド安定性特性について種々の賦形剤の予備的スクリーニングを行った。簡潔に言うと、Emab試料をPBS中で配合し、濃縮して、23種の1次緩衝液中に透析した後、所望の体積に希釈した。そして選択した製剤中で5mM以下の異なる終濃度に達するようにEDTAを添加した。その後試料を無菌濾過し、2mLの容量を無菌フード内の5ccの無菌ガラスバイアル内に入れた。すべてのバイアルに栓をし、ラベルを付け、キャップを付けた後、4℃および37℃での保存用に指定した箱の中に入れた。指定した時点で試料を取り出し、解析した。
【0128】
図5には、37℃で評価された18種類の賦形剤の効果が示されている。グリセロールは、HMW種全体の約51%を生成し、最も不安定であることが明らかになった。グリシンおよびチオ硫酸ナトリウムは、その次に不安定であった。グリシン製剤によって、HMW種全体の約3%が、メインピークの低下につながる約5%の分解を生じた。一方で、チオ硫酸塩は、試料のメインピーク低下のほとんどの原因となる約8%の分解を示した。最も安定した賦形剤としては、マンニトール、L‐アルギニン、L‐リジン、ソルビトール、スクロース、Tween‐80およびTween‐20が挙げられた。残りの賦形剤は、互いに比較してもほとんど変化が見られなかった。本試験で使用した賦形剤濃度を、以下の表1に列挙する。
【0129】
【表1】
Emabおよび他のポリペプチドに関連する1つの特性としては、肉眼不可視の不溶性粒子が発生することがある。これに関連して、ポリペプチド粒子とは、例えばポリペプチドのフラグメントまたは凝集体を指し、可溶性および/または不溶性であってよい。さらに、粒子は、異物である物質(すなわち、ガラスの破片、繊維くず、ゴム栓の小片)から構成されてもよく、必ずしもポリペプチドから構成されなくてもよい。可溶性の粒子は、例えば、SECなどの方法を使用して評価することができる。不溶性の粒子は、例えば、液体粒子計数法や比濁法(実験的光散乱法)などの方法を使用して評価することができる。一般的に、粗大粒子は1.0μm超のサイズを有する粒子として類別されるが、考察対象の微粒子は大きさがより小さい。HIAC装置を備えたLD‐400レーザシステム(スイス ジュネーブ)を使用して、2〜400μmの粒径を測定することができる。
【0130】
図1に関してすでに示したように、Emabの水溶液はまた、不溶性粒子の形成に加えて、LMW1およびLMW2と指定した2つの主要な種類への分解またはフラグメンテーションも生じる。分解生成物は、LMW2へのLMW1の相互依存性(LMW2に対するLMW1の変化率)を示す相関性プロットによって特性評価することができる。このようなプロットを、種々の異なる溶液環境での上記のSEC試験から得られたインキュベーション(37℃で2週間)の前と後のピーク面積差を示す各指定ピークの変化が示される場所に作成した。また、相関性プロットにおけるデータの線形最小二乗適合により定義される直線によって予測されるものから、データ点の残りの分布を示す散布図も作成した。この相関性プロットは、LMW1=2.17399(LMW2)+0.6776(p<0.0001)およびr2=0.946を示した。0.5155の平均応答が得られた。分解フラグメントが認められたEmab切断部位の特性を評価し、ポリペプチド配列(S218CDKTHTC225)内の連続した6つのクリップ部位が認められた。
【0131】
また、予備的な安定性試験を行って、ポリペプチド製剤に最適な緩衝液成分および条件の特性評価を行った。簡潔に言うと、ポリペプチドの安定性に最適な安定性を付与するように特定した成分および緩衝液条件を組み合わせた上述の製剤化前試験に基づいて、最初の製剤を選択した。これらの最初の製剤を、すでに多少の安定化の影響をもたらすことが明らかにされた、Emabの現在の製剤である10mM酢酸ナトリウム(pH5)、5%ソルビトール製剤(A5S製剤)と比較した。また、最適な製剤の候補も選択したが、これは、20mMのリン酸ナトリウム(pH6)、25mMのL‐アルギニン、1%のスクロース、4%のマンニトールおよび0.02%のTween‐20(PASMT製剤)から構成されていた。この最適な製剤の候補は、DSCプロファイルによって記述された最適なpHの範囲の緩衝能を提供し;最終的に粒子形成を生じる水/空気界面誘発凝集に対して安定化をもたらす界面活性剤である、Tween‐20を含み;凍結乾燥を可能にする正確な割合のマンニトールおよびスクロース安定化剤を有していた。すべての配合試料をリアルタイムおよび加速安定性試験に供し、以下に詳述するような生成物の安定性に対する熱応力の影響を評価した。
【0132】
不溶性粒子の形成を、液体粒子計数法を使用して最初の製剤のそれぞれについて評価した。HIAC粒子計数器は、特定のEmab試料中に存在する10μmおよび25μm粒子を測定するために必要なPharmSpecソフトウェア バージョン1.4を備えていた。使用した方法は、粒子の評価および品質に関するUSPの基準に対応した手順に従った。濾過水(0.22ミクロン)を、1.0mLの体積を使用してステンレス鋼チューブで抜き取り、試料測定の間に約10回フラッシングした。Duke ScientificのEZY‐CAL液体粒子10μm径標準品を使用して、前記機器の適切なキャリブレーションを確認した。試料測定および標準品測定はいずれも0.2mLの体積で行い、4回抜き取り、最初のものを廃棄して、最後の2つまたは3つを平均した。試料を最初のバイアルから抜き取り、測定前に各試料を緩徐にかき混ぜ、溶液の混合が均一になるようにした。測定前に標準品を激しく振盪した。
【0133】
HIAC粒子数測定の結果を図6および図7に示す。図6に示すデータは1mL当たりの基準で測定した評価を示しており、図7のデータは単位用量当たりの粒子の評価を示している。後者の場合、算出には72mLの平均用量を使用した。図7のデータは、試験するすべての温度条件でPBS製剤中に配合された試料が10μm超のUSP基準(6000個未満の粒子)を満たさなかったが、加速条件(37℃)のPBS試料のみが25μm超の基準(600個未満の粒子)を満たさなかったことを示している。25μm超の基準を満たさなかった同じ製剤中の2〜8℃の冷凍試料とは対照的に、PASMT中に配合された加速条件の試料は10μm超の基準を満たさなかった。A5S製剤は、−80℃で凍結した場合にいずれの粒子数測定のUSP基準も満たさなかった。この後者の結果により、Emabは、−80℃で一定期間保存した場合に、不溶性粒子を生じる不安定性の影響を受けやすいことが示されている。そのため、A5Sは、2〜8℃および加速条件で良好な製剤となるものの、−80℃の長期保存では不良な製剤となる。
【0134】
また、最初の製剤でSECを行い、可溶性粒子の形成も評価した。その結果を図8に示したが、これらの結果では、試験したいくつかの製剤に不適合の結果が認められた。例えば、A5S製剤の二量体含有量は−80℃で少なかったが、HIACデータにより、不溶性粒子を形成する傾向が示された(図7を参照)。PASMT製剤は37℃で最も可溶性の高い二量体を示したが、不溶性粒子に関して同じ条件のPBS製剤よりも良好な結果を示した。PASMT製剤は、可溶性粒子および不溶性粒子の両方において−80℃で最高の総合的安定性を生じたが、A5S製剤は、可溶性粒子および不溶性粒子の加速条件およびリアルタイム条件で最も良好になった。これらの結果により、異なる機序が、粒子、ならびに二量体含有量に対するそれらの関係において役割を果たす可能性があることが示されている。要約すると、A5S製剤は、加速条件またはリアルタイム条件で保存した場合に粒子に対する優れた保護をもたらしたが、Emabを凍結すにはあまり有利なものではなかった。
【0135】
図1に関して既述の通り、ポリペプチドのフラグメンテーションを、顕著なLMW1ピーク面積の変化に関して評価することができる。LMW1のフラグメンテーションはLMW2ピークに直接関連するため、相関性および散布図に関して既述の通り、フラグメンテーションの傾向についてもまた、このピークのみに基づいて特性評価することができる。しかし、解析したすべてのSECピークの結果を、以下の表2に列挙する。
【0136】
【表2】
上記の結果では、加速試料の中でPBS製剤が6ヵ月の期間において最も大きな分解を示し、次いでA5S、最後にPASMT製剤の順に分解を示したことが示されている。フラグメンテーション反応はpH条件に関連する可能性がある。例えば、pHおよび賦形剤の両方がフラグメンテーション速度を生じさせたと思われた。一般的に、試験製剤におけるpH5、6および7の条件の中で、pH6がフラグメンテーションを最小限に抑えることにおいてより有利であり(以下に詳述)、このことにより、pH6前後の条件が分解を最小限に抑えるのに最適であり得ることが示唆されている。このフラグメンテーション作用を、6ヵ月のインキュベーション期間に37℃で試験した3種の製剤について図9にまとめた。試験製剤における賦形剤の役割およびフラグメンテーション反応に対するその影響に関して、pH6のPASMT製剤で生じたフラグメンテーションは、A5S製剤よりも小さいものであった。フラグメンテーションに対する賦形剤の更なる影響については、以下に詳述する。
【0137】
2ヵ月目の37℃でのPBS製剤におけるフラグメントの切断部位を単離し、LC/MSによって特性評価した。最初の結果により、フラグメントは抗体のヒンジ領域から生じ、連続した切断部位がペプチド配列S218CDKTHTC225内で生じたことが示された(上述の相関性および散布図の説明を参照)。
【0138】
また、LMW1、LMW2およびHMW粒子の生物活性についても特性評価を行った。簡潔に言うと、二量体および単量体の試料の活性を検討するために、Emabの力価を測定する細胞ベースのバイオアッセイを使用した。Emabに対するRamos Bリンパ腫細胞株の曝露は、24時間後にアポトーシスを生じ、その後72時間後に生存細胞の減少を生じる。一定期間の生存細胞含有量の減少は、Alamar Blue蛍光試薬を使用して測定することができる。異なる濃度のEmabを96ウェル免疫プレートに固定し、その後固定量の抗IgMと、ウェル1個当たり2500個の細胞からなるRamos細胞とを付加した。試料プレートを37℃で64時間インキュベートした後、20μLのAlamar Blueを添加し、37℃でさらに6時間の更なるインキュベーションを行い、その後蛍光プレートリーダー(CytoFluor II、PerSeptive Biosystems)を使用して蛍光測定を行った。Alamar Blue蛍光放射強度を595nmで測定(535nmで励起)したが、これは生存細胞数に比例し、生物活性を有するEmabの濃度に反比例する。活性は、以下の式を使用してパーセントで表した:
相対力価(%)=[(試料活性)/(標準品活性)]×100
(式中、試料活性は、パーセントで表す単量体タンパク質(または標準品)全体で予想される活性と比較される)。この方法を使用して測定した試料の相対力価は、細胞ベースのCD‐22結合アッセイによって得られた相対力価と同等であることが明らかになった。測定精度は90%を超えており、室内再現精度(CV)は約10%であった。バイオアッセイの特異性は、他のmAb生成物(リツキシマブ、抗IFNγおよび抗IL‐1R1)に対する効果の欠如を示すことにより示された。LMW1のフラグメントに関しては、このフラグメント種の活性の有意な低下が結果より示されている。
【0139】
また、ポリペプチド粒子の電荷変動における変化を、陽イオン交換クロマトグラフィ(CEX)によって測定した。簡潔に言うと、当該技術分野で既知のカチオン交換方法を使用してEmabを評価した。この方法により、pH7での線形塩濃度勾配およびDionex弱カチオン交換カラム(WCX‐10;米国カリフォルニア州サニーヴェール)を使用し、タンパク質表面電荷差を基に主要なC末端リジンアイソフォームを分離した。
【0140】
3種類の保存条件に関する重畳CEXデータを図10に示したが、これらのデータは、電荷の異なる3種類の種の溶出プロファイルの変化を示している。3種類の荷電種は、約20分(0K)、22分(1K)および25分(2K)溶出する主要なC末端のリジンアイソフォームに割り当てることができる。0K、1Kおよび2Kの呼称は、無損傷の重鎖C末端リジンの数を指す。保存の安定性条件に伴う温度ストレスから生じる明らかな変化もまた、図10に明らかにする。加速条件下のポリペプチドの安定性は、おそらくポリペプチドの電荷状態を変化させるアミド分解および他の化学修飾のために、新しいピークを形成し、ピークの広がりを全体的に増大させる傾向を示す。
【0141】
3つの製剤の全体的な能力を比較すると、A5S製剤およびPASMT製剤の方がPBS製剤よりも良好なポリペプチド安定性を達成したことが結果より示されている。例えば、PBS製剤は、2〜8℃の試料の0Kのピーク前に肩部を示し始める。A5S製剤は、37℃にてPASMT製剤よりも大きな鮮鋭度(より鋭いピーク)を示した。
【0142】
また、試料の活性を、既述のバイオアッセイで評価した。これらの結果を以下の表3に示す。一般的に、−80℃および2〜8℃の試料は、活性のいかなる有意な低下も示さなかった。37℃に維持した試料は、最大の活性低下を示すPBS製剤との活性の低下を示した。PASMT製剤の活性はA5S製剤と同様であり、A5S製剤の方がわずかに良好な性能を示した。−80℃で保存したA5S製剤中に不溶性粒子が形成されたにもかかわらず(図7を参照)、付随する活性の低下に関して有意な影響が認められなかった。この結果は、不溶性粒子を構成するポリペプチドの全体濃度の分画が無視できるほどのものであることが理由である。この所見は、同様に−80℃で保存したPBS配合生成物の所見にも等しく適用することができる。これらの結果により、インラインフィルタを使用した粒子の除去が力価に対してほとんど影響を与えないことが示されている。さらにまた、これらの結果により、A5SやPBSなどの生成物製剤は、不溶性粒子の形成を最小限に抑える場合に、凍結して保存する必要がないことも示されている。むしろ、これらの溶液はいずれも、2〜8℃で保存する場合により高い安定性を維持すると考えられる。凍結バルク溶液を必要とする場合は、凍結状態で安定化特性を付与する他の賦形剤(すなわち、スクロース、トレハロース)も含めることを考慮する必要がある。
【0143】
【表3】
また、選択製剤で生じたポリペプチドの酸化およびアミド分解の程度も評価した。簡潔に言うと、pH5およびpH7で0.7%のTBHP(酸化剤)に曝露されたLys‐C消化試料の逆相HPLC/MSデータを、当該技術分野で周知の方法を使用して評価し、酸化したメチオニン残基を有するLys‐Cペプチドに関連した溶出バンドを測定した。これらの結果は表4にまとめられており、メチオニン残基(Met357(重鎖)、Met427(重鎖)、Met21(軽鎖)およびMet251(軽鎖))が酸化したことを示している。また、それぞれの酸化したメチオニンの酸化率についても、表4に列挙する。アミド分解に関しては、脱アミノ化されたことが明らかにされた軽鎖のGln110で同定された部位が1箇所存在した。
【0144】
【表4】
賦形剤のスクリーニングおよび最適化試験
既述の予備的な賦形剤最適化試験を含め、5〜6の間のpH領域に焦点を当てた合計68の製剤の特性評価を行った。加速条件下の試験を、37℃で4週間評価した。更なる緩衝化合物も考慮されており、これにはヒスチジン、酢酸塩および燐酸塩(pH6)が含まれていた。評価した糖は、スクロース、ソルビトールおよびグルコースであった。EDTAがフラグメンテーションまたは分解を最小限に抑えるのに有用であるという一部の証拠により、既述のような製剤中にこれを含める(1、2および5mMの濃度で)ことが正当化された。さらに、様々な量のNaClについても調べた。
【0145】
二量体のピークの形成に影響を及ぼす場合(すなわち可溶性凝集体)のpHおよびEDTAパラメータの統計学的評価を、図11に示す。これらの結果により、pH5〜6で二量体の形成が最小限に抑制されることもさらに示されている。EDTAが増加すると、二量体の形成が増大する傾向があった。
【0146】
また、上記の結果により、二量体の形成が不溶性粒子の形成に関与し得ることも示されている。この関係に取り組むため、製剤の濁度を測定することによって二量体形成における変化を測定した。簡潔に言うと、Chemstation Instrument 1ソフトウェアを搭載した「St.Pauli」845× HP Agilent紫外可視分光光度計を濁度測定に使用した。Emabの濁度がブランクと比較した吸光度の増加として測定した場合に、400nmの固定波長(タンパク質吸光度バンドの明瞭部)で試料を評価した。すべての試料測定値を、石英キュベット内において500μLの体積で計測した。IN SPEC標準品での測定前に、IN SPECバックグランド溶液を使用して、標準溶液のバックグランド補償を行った。IN SPEC標準品それぞれで5つの連続した測定値を得た。コースターゲル充填チップを装着した200μLのエッペンドルフピペットを使用して、次の測定の間にキュベットから溶液を抽出した。標準化後、キュベットを取り除き、キュベット洗浄器(NSG Precision Cells,Inc.(米国ニューヨーク州ファーミンデール)製の単細胞洗浄器)で0.22ミクロンの濾過水により洗浄した後、圧縮窒素ガスで乾燥させた。いずれの場合でも対応する緩衝液でシステムをブランキングした点を除き、同じ方法で試料測定を行った。各製剤の測定の間には、キュベットの洗浄を常に行った。
【0147】
図12には、SECおよび濁度で測定した二量体濃度における変化の統計解析が示されている。この解析により、可溶性の二量体と粒子形成との間に弱い相関性が示されているが、これは、二量体の形成が増加することにより濁度も上昇したためである。弱い相関性のみが認められることは、3種類の異なる形態の二量体が存在し、いずれか1つの形態の群が溶解度において異なる影響を受ける可能性があるという事実によって説明することができる。
【0148】
ポリペプチド分解に影響を与える成分および傾向も同様に解析した。フラグメンテーションに影響を及ぼす賦形剤の特性に関しては、いくつかの傾向が認められた。例えば、フラグメンテーションに対するNaClおよびEDTAの影響を調べた。これらの結果により、NaClは、SECのLMW1ピークで測定されるフラグメンテーションに対するポリペプチドの安定性を促進しなかったことが示されている。EDTAには、NaClによってもたらされたいずれかの不安定性を低下させる作用がいくらかあった。さらにこれらの結果により、NaClは避ける必要があるのに対して、EDTAは、分解に対する安定化のために含めるのが適切な賦形剤であることも示されている。試験製剤から得られたデータとの相関性はr2=0.47であったが、この傾向は、広範囲の製剤および異なる条件にわたって一様であると思われた。さらに、2価の金属イオン(すなわちFe、Cu)の役割を調べる他の試験によっても、EDTAは、分解反応速度を低下させる有益性をいくらか提供することが示されている。
【0149】
同様に、NaClおよびEDTAの上述の傾向プロットを使用した、pHによるフラグメンテーションの影響の考察によって、pH6がpH5よりも好ましいことが示された。この結果は、二量体形成に対するpHの影響とは異なる(図11を参照)。そのため、二量体形成を最小限に抑える製剤条件には多少のトレードオフが必要となる。というのも、これは分解に対するpHの影響に関係するためである。二量体形成およびフラグメンテーションの両方の低下は、例えば、EDTAなどの他の成分を導入し、pHを5.5に変化させることによって達成することができる。
【0150】
さらに、撹拌試験により製剤の安定性を評価した。上述の加速試験から認められた傾向に基づいて、4つの製剤セットを選択して、激しい攪拌条件で、48時間にわたり、室温(約23℃)と冷凍(2〜8℃)の両条件にて安定化を調べた。製剤には、(1)A5S(10mM酢酸塩(pH5)、5%ソルビトール)、(2)A5Su(10mM酢酸塩(pH5)、5%スクロース)、(3)A5.5S(10mM酢酸塩(pH5.5)、5%ソルビトール)、および(4)A5.5Su(10mM酢酸塩(pH5.5)、5%スクロース)が含まれていた。さらに、界面活性剤の影響を評価するため、Tween‐20またはTween‐80のいずれかを、0、0.005%、0.01%または0.02%の量で添加した。また、界面活性剤に加えて、EDTAも1mMの濃度で評価した。
【0151】
簡潔に言うと、これらの試験に使用したEmab材料を、最初にPBS中で配合した。試料は、ミリポアの実験室規模のTFFシステム(UF/DF)を使用して、それぞれの製剤に緩衝液交換を行った。出発材料は、約11.6mg/mLの350mLであった。約1.5〜2リットルのA5S(10mM酢酸ナトリウム、pH5および5%ソルビトール)、A5Su(10mM酢酸ナトリウム、pH5および5%スクロース)、A55S(10mM酢酸ナトリウム、pH5.5および5%ソルビトール)およびA55Su(10mM酢酸ナトリウム、pH5.5および5%のスクロース)の緩衝液を、UF/DFプロセスに使用した。所望の終濃度に達するように、適切な量のTweenおよびEDTAを各製剤に添加した。2mLの各無菌濾過製剤を、無菌フード内の5ccの無菌ガラスバイアルに分注した。すべてのバイアルにキャップを付け、ラベルを付けて、4℃および37℃で保存した。試料を、室温または2〜8℃のいずれかにて350rpmで激しく振盪した後(Signature Orbital Shaker、モデルDS‐500)、指定の時点で取り除き、解析した。粒子形成は、既述のようなHIAC機器を使用して肉眼不可視の粒子法で測定した。
【0152】
これらの撹拌試験の結果を、相関性および傾向プロットを使用して解析し、粒子が10ミクロン以上の直径であることを考慮して粒子粒度分布(HIACに基づく)の関数として濁度を示した(A400を使用して測定)。室温で48時間後に得られたデータによる相関解析によって、r2=0.80、p<0.0001が示された。これらの結果により、対応する傾向プロットとの合理的な相関性も示された。混濁状の粒子がまたHIAC機器の光を比例的に塞ぐため、いくつかの外れ値が特定された。
【0153】
10μm以上のHIAC粒子数測定と、界面活性剤、pHおよびEDTAの影響との間の傾向の結果は、図13に示されているが、これは、pHおよびEDTAの傾向が試験範囲全体にわたってむしろ平坦である(pH5および5.5、0および1mMのEDTA)ことを示している。界面活性剤に関する弱い相関性が認められた。いずれかの界面活性剤を含有する試料は同様の傾向を示しており、界面活性剤の含むことが不溶性粒子の形成の遅延に有益であることを示した。これに対して、いかなる界面活性剤も含有しないすべての試料が、白い塊や様々なサイズの明瞭な白い粒子を示したのに対して、大部分の界面活性剤含有試料においては、粒子のいずれの徴候も認めることが困難であった。そのため、界面活性剤を含むことは粒子の減少に有益であるが、製剤中のEDTAの包含またはpHは、試験範囲内で、不溶性粒子の形成に対して明らかな影響を及ぼすことなく変化した。
【0154】
ポリペプチドの安定性の維持を増大させる製剤の選択
上記の製剤化前試験および最適化試験は、ポリペプチド安定性の維持に好都合な特徴を示す4つの候補製剤の選択を導き出すものである。簡潔に言うと、候補によって網羅される最適なpH範囲はpH5〜5.5である。この範囲内の緩衝能を、一般的な酢酸緩衝液を使用して予備的に試験した。EDTAは、分解の抑制に関していくらかの有益性を有することが示されており、候補製剤の選択において含まれていた。撹拌の結果に基づき、粒状形成を最低限に抑えるにはTween‐20やTween‐80などの界面活性剤を含める必要があることが判明した。スクロースおよびソルビトールは同様の特性を示したものの、スクロースは、フルクトース不耐症罹患体のための製剤において有益であり得る性質をいくらか有する。また、スクロースは、ソルビトールよりもTg’が高いため、長期の凍結保存用として設計された製剤において有益であり得る。また、9%のスクロースも、血清との等張性(すなわち、約300±/−50mOsm/kg)を達成するために使用することができる。これらの結果および考慮事項に基づき、以下の4種の製剤が、ポリペプチドの安定性維持を促進する製剤であることが判明した。
1. pKa4〜6(pH5)、5%ソルビトール、0.005% Tween‐20を有する10mM緩衝液
2. pKa4〜6(pH5)、9%スクロース、0.005% Tween‐80を有する10mM緩衝液
3. pKa4〜6(pH5)、9%スクロース、0.005% Tween‐80、1mM EDTAを有する10mM緩衝液
4. pKa4〜6(pH5.5)、9%スクロース、0.005% Tween‐80、1mM EDTAを有する10mM緩衝液。
【0155】
(実施例II) プロピオン酸塩緩衝化水溶液のポリペプチドの安定性
本実施例により、プロピオン酸生物医薬品製剤である治療用ポリペプチドは、長期安定性を示すことが示される。
【0156】
4〜6の範囲のpKaを有する種々の緩衝液の安定化能を調べるため、実施例Iで特定した候補製剤および特徴に基づいて、種々の製剤を調製した。比較した緩衝液には、プロピオン酸塩、コハク酸塩、および酢酸塩が含まれていた。各製剤の成分を以下の表5に示す。Emabを出発材料として使用し、これらの緩衝液の比較に使用したすべての方法を、実施例Iに記載の通り実施した。これらの比較結果を以下に詳述するとともに、図14〜16に示した。
【0157】
【表5】
プロピオン酸塩緩衝液を、他の製剤との比較のために選択した。プロピオン酸またはプロピオン酸塩は、所望のpKa範囲4〜6内で最適な緩衝能を示す。長期のpH安定性と、プロピオン酸塩製剤中で調製したEmabの安定性とを測定して、プロピオン酸塩緩衝製剤の安定性を評価した。ポリペプチド粒子またはフラグメントの形成を、実施例Iに記載したSEC、HIAC機器を使用した液体粒子測定法、重量オスモル濃度およびゲル電気泳動法によって、ならびに当該技術分野で周知の方法により測定した。
【0158】
表5に記載した酢酸緩衝液(A5ST)と比較したプロピオン酸塩緩衝液(Pr5ST)のpH安定性は、2種類のポリペプチド濃度(1および10mg/mL)について図14に示されている。使用した界面活性剤の濃度は0.004%であった。これらの結果では、ポリペプチド濃度毎に両緩衝液の長期かつ同等のpH安定性が示されている。
【0159】
また、プロピオン酸塩緩衝液により配合したポリペプチドの安定性を、加速条件下で他の緩衝液と比較した。これらの安定性の評価は、SECから溶出する材料について図15に示されており、液体粒子の形成などの他の測定法において得られた結果を代表するものである。表5に記載した3種の緩衝液すべてを、1mg/mLおよび10mg/mLのポリペプチド濃度を使用し、緩衝液の能力について比較した。図15に示す緩衝液の命名法は、以下の通りである:Pr=プロピオン酸塩;S=コハク酸塩、およびA=酢酸塩;Naは、プロピオン酸ナトリウム(例えばプロピオン酸Na)などの酸の塩形態を表す。これらの結果により、両ポリペプチド濃度のプロピオン酸塩緩衝製剤がポリペプチドの安定性の維持をもたらしたことが示されている。
【0160】
さらに、プロピオン酸塩緩衝液によって配合したポリペプチドの安定性を、冷凍条件(4℃)下で他の緩衝液と比較した。これらの安定性の測定も、SECから溶出する材料について図16に示されており、同様に、他の測定法において得られた結果を代表するものである。加速条件下で評価した製剤と同様に、表5に記載した3種の緩衝液のすべてを、1mg/mLおよび10mg/mLのポリペプチド濃度を使用し、ポリペプチドの安定性能力について比較した。図16に示す緩衝液の命名法はまた、図15について上述したものと同じである。37℃におけるより高温の評価と比べると、4℃で得られた結果は、実施例Iに既述した製剤の特徴と一致する比較的軽微な差が製剤間で示されている。
【0161】
本出願全体を通して、種々の刊行物が括弧内で参照されている。これらの刊行物の開示内容は、本発明が関係する当該技術分野の水準をより詳細に記載するために、本出願において全体が参考として援用される。
【0162】
以上において本発明を、開示した実施形態に関連して説明してきたが、上で詳述する具体例および試験が単に本発明を例示するものであることを、当業者は容易に理解するであろう。また、本発明の趣旨から逸脱することなく種々の改変が可能であることが理解されるはずである。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ制限される。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)で測定される加速条件下の安定性の結果を示す。メインピークは無損傷のポリペプチドである。HMWは、高分子量のフラグメントを指す。LMW1およびLMW2は、低分子量のフラグメントを指す。
【図2】37℃で3週間のEmab(10mg/mL)(IgG1抗体)のpHプロファイルのSEC結果を示す。図は、pHの関数として可溶性HMW形態の依存性(SECから得られるポリペプチド溶出バンドのパーセントとして表す)を示す。この試験で使用した種々の緩衝液を列挙する。
【図3】図2に示すSEC結果のpHの関数として可溶性LMW1形態の依存性(溶出されたポリペプチドのパーセント)を示す。この試験で使用した種々の緩衝液を列挙する。
【図4】図2に示すSEC結果のpHの関数として可溶性LMW2形態の依存性(溶出されたポリペプチドのパーセント)を示す。この試験で使用した種々の緩衝液を列挙する。
【図5】20mMのリン酸ナトリウム(pH6)で配合した種々の賦形剤の存在下におけるポリペプチドの安定性を示す。不安定性の量は、37℃で11週間のインキュベーション後にSECで測定したメインピーク面積の低下により示される。
【図6】異なる温度で試験したた3つの液状製剤(ASS、PBSおよびPASMT)の6ヵ月時点におけるHIACの肉眼不可視粒子の測定値を示す。データは、3つの測定値の平均を表し、1mL当たりの累積的な粒子数を列挙する。
【図7】図6の同じ3つの製剤および温度の投与1回当たりの粒子数を表すHIACの肉眼不可視粒子の測定値を示す。横線はUSPの限界値を示す。
【図8】所定の候補製剤(図6および図7に示したものと同じ)における6ヵ月間の所定の温度条件における二量体およびフラグメンテーションに関連したポリペプチドの安定性の結果を要約したSECの測定値を示す。
【図9】37℃で維持された3つの製剤(図6、図7および図8に示したものと同じ)の一定期間におけるLMW形成のパーセントを示す。
【図10】列挙した条件で6ヵ月間インキュベーションしたEmabの陽イオン交換クロマトグラフィ(CEX)の結果を示す。加速データ(緑色)は、3つの溶出ピークの電荷に影響を及ぼす有意な変化を表す。溶出ピークは、0個(約20分)、1つ(約22.5分)および2個(約25分)のC末端リジン残基に相当する。
【図11】SECにより測定した二量体形成における異なるpHおよびEDTAの条件の統計的な図を示す。
【図12】SECで測定した二量体形成における変化と、400nmの吸光度により測定した濁度の間の相関性を示す統計解析を示す。
【図13】室温で24時間および48時間振盪させたTween‐20、Tween‐80、pHおよびEDTAに関するHIACの測定値と傾向の間の相関性を示す。
【図14】酢酸緩衝製剤(標識A5ST)と比較した本発明の生物医薬品製剤(標識Pr5ST)の緩衝能の安定性を示す。
【図15】酢酸緩衝製剤(Aと指定)またはコハク酸緩衝製剤(NaSと指定)と比較した本発明の生物医薬品製剤における37℃での治療用ポリペプチドの長期安定性を示す。Emab標準品(非加熱対照)。
【図16】酢酸緩衝製剤またはコハク酸緩衝製剤(図15に示したものと同じ)と比較した本発明の生物医薬品製剤における4℃での治療用ポリペプチドの長期安定性を示す。
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、一般的に疾患治療のための薬物に関し、より具体的には生体分子医薬品のための常に安定した製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えDNA技術の出現によって、タンパク質系治療薬は、癌から自己免疫疾患までの広範な疾患の治療を行う開業医に利用可能な薬剤のレパートリーの中で、徐々に一般的なものとなりつつある。組換えタンパク質の製造において見られる科学技術の進歩に加えて、タンパク質治療薬の成功の別の理由としては、標的に対する高い特異性と、低分子治療薬よりも優れた安全性プロファイルを示すその能力がある。疾患治療において生体分子を医薬品として利用できるようになったことで、過去の四半期にわたり医療やクオリティオブライフにおいて著しい進歩が見られた。2005年の時点で市場に出ている承認済みタンパク質系医薬品は150を超えており、この数はこの先数年の間に大きく増加するものと考えられる。他の医薬品と同様に、このような医薬品タンパク質による治療には、安全かつ信頼性の高い治療結果を達成するために、均一で再現性ある製剤が必要とされる。
【0003】
In vivoにて種々の薬理作用を示すことが知られているタンパク質は、現在、種々の医薬品用途のために大量生産することができる。治療用タンパク質の長期の安定性は、安全かつ均一で有効な治療に特に有益な基準である。製剤中の治療薬の機能性の低下により、所定の投与に有効な濃度が減少する。同様に、治療薬の望ましくない修飾は、製剤の活性および/または安全性に影響を及ぼし、有効性の低下と有害副作用のリスクとにつながる可能性がある。
【0004】
タンパク質は、明確な第1級構造、第2級構造、3次構造、場合によっては4次構造を有する複合分子であり、そのすべてが特定の生物学的機能を付与する役割を果たす。タンパク質などの生物学的医薬品の構造的な複雑性により、生物学的医薬品は種々のプロセスの影響を受けやすく、構造的および機能的な不安定性だけでなく安全性の低下を招く。こうした不安定性プロセスや分解経路において、タンパク質は、溶液中で共有結合および非共有結合による種々の反応や修飾を受ける可能性がある。例えば、タンパク質分解経路は、一般的に以下の2つの主要なカテゴリーに類別することができる:(i)物理的分解(すなわち非共有結合的分解)経路、および(ii)化学的分解(すなわち共有結合的分解)経路。
【0005】
タンパク質薬剤は、非可逆的凝集の物理的分解プロセスによる影響を受けやすい。タンパク質の凝集は、薬剤の効力に影響を及ぼす生理活性の低下をもたらすことが多く、また罹患体における深刻な免疫反応や抗原反応を誘発する可能性もあることから、生物医薬品の製造において特に高い関心が示されている。また、例えば化学修飾による化学構造の分解をはじめとする、タンパク質治療薬の化学的分解は、その免疫原性の増大に関わってきた。したがって、安定したタンパク質製剤では、薬剤の物理的分解経路と化学的分解経路の両方をできるだけ抑制することが求められる。
【0006】
タンパク質は、例えば界面吸着や界面凝集などの物理的プロセスを介して分解する可能性がある。吸着は、タンパク質薬剤の効力や安定性に著しい影響を及ぼす可能性があり、低濃度の剤形の効力をかなり低下させる可能性がある。そして第2の成り行きとして、界面における変性媒介吸着が、多くの場合、溶液中における非可逆的凝集の開始手順となる可能性がある。この点において、タンパク質は、液体と固体、液体と空気、および液体と液体の間の界面において吸着する傾向がある。疎水性の表面におけるタンパク質のコアの十分な曝露により、撹拌、温度、またはpHに誘発されるストレスの結果として吸着が生じる可能性がある。さらに、タンパク質はまた、例えばpHや、イオン強度、熱、剪断、および界面ストレスの影響も受けやすく、これらはいずれも凝集につながり、不安定性を生じる可能性がある。
【0007】
また、タンパク質は、アミド分解や、異性化、加水分解、ジスルフィドのスクランブリング、β脱離、酸化、付加体形成などの種々の化学修飾反応および/または化学分解反応も受ける。分解の主な加水分解機序としては、ペプチド結合の加水分解、アスパラギンおよびグルタミンのアミド分解、ならびにアスパラギン酸の異性化が含まれる。加水分解の分解経路の共通する特徴は、反応速度に対する有意な製剤の変数が溶液のpHであることである。
【0008】
例えば、ペプチド結合の加水分解は、酸または塩基により触媒される可能性がある。また、アスパラギンやグルタミンのアミド分解は、pHが約4未満の場合に酸により触媒される。pHが中性である場合のアスパラギンのアミド分解は、塩基により触媒されるスクシンイミジル中間体を介して生じる。アスパラギン酸残基の異性化およびラセミ化は、pHが弱酸性から中性の場合(pH4〜8)に早くなる可能性がある。一般化されているpHの効果だけでなく、緩衝塩や他の賦形剤も、加水分解反応の速度に影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
他の分解経路の例にはβ脱離反応が含まれ、この反応は、アルカリ性のpH条件下で生じ、特定アミノ酸の側鎖の一部のラセミ化や喪失につながる可能性がある。メチオニン残基、システイン残基、ヒスチジン残基、チロシン残基およびトリプトファン残基の酸化が、タンパク質の共有結合分解経路の例である。
【0010】
タンパク質の不安定性をもたらす可能性がある種々の反応の数や多様性によって、生物医薬品製剤中の成分の組成物が、タンパク質分解の程度に著しい影響を及ぼす可能性があり、ひいては治療薬の安全性や有効性にも影響を及ぼす可能性がある。また、生物医薬品の製剤が、投与の容易さや頻度、ならびに注射時の疼痛に影響を及ぼす可能性もある。例えば、免疫原性反応は、タンパク質凝集体だけでなく、製剤に含まれる不活性成分と混合された治療用タンパク質の凝集体にも原因があるとされている[非特許文献1;非特許文献2]。
【0011】
しかし、治療的処置におけるタンパク質の利用性やタンパク質が受ける不安定性プロセスの所見において進歩が見られるものの、長期安定性の特性が向上した生物医薬品製剤の開発が依然として求められている。種々の条件下で長期安定性を維持する生物医薬品製剤は、有効かつ安全な量の生物医薬品を送達する有効な手段を提供するものと考えられる。また、生物医薬品製剤において長期安定性が維持されれば、製造費や治療費が削減されるとも考えられる。組換えタンパク質や天然タンパク質などの数多くのタンパク質が、このような常に安定した製剤から恩恵を受けることができ、それによってより効果的な臨床成績を示すことができると考えられる。
【非特許文献1】Schellekens,H.,Nat.Rev.Drug Discov.1:457‐62(2002)
【非特許文献2】Hesmeling,et al.,Pharm.Res.22:1997‐2006(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、種々の異なる製造条件や保存条件下で長期安定性を維持する生物医薬品製剤が必要とされている。本発明は、この要求を満たし、関連する利点ももたらすものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明は、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液と、少なくとも1つの賦形剤と、有効量の治療用ポリペプチドと有する水溶液を含む生物医薬品製剤を提供する。プロピオン酸塩緩衝液は、約1〜50mM、2〜30mM、3〜20mM、4〜10mMおよび5〜8mMから選択される濃度を含むことができる。本発明の生物医薬品製剤中に含まれる治療用ポリペプチドは、抗体、Fd、Fv、Fab、F(ab’)、F(ab)2、F(ab’)2、単鎖Fv(scFv)、キメラ抗体、二重抗体、三重抗体、四重抗体、ミニボディ、ペプチボディ、ホルモン、増殖因子または細胞シグナル伝達分子を含むことができる。また、本発明は、生物医薬品製剤を調製する方法も提供する。前記方法は、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液と少なくとも1つの賦形剤とを有する水溶液を、有効量の治療用ポリペプチドと組み合わせる手順を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ポリペプチドおよび他の生物医薬品の最適な安定化能力を示す生物医薬品製剤を対象とする。生物医薬品製剤は、約4.0〜6.0のpHの範囲において得に有用なプロピオン酸緩衝液系を含有する。本発明の生物医薬品製剤中に可溶化されるか、含まれる生物医薬品は、長期間にわたって安定性を示し、安全かつ有効な量の治療用ポリペプチドまたは他の生物医薬品の投与を可能とする。また、プロピオン酸緩衝液は、類似の緩衝液系(例えば酢酸緩衝液系)よりも揮発性が低いことから、生物医薬品製剤に有用な他の特性も提供することができると企図される。また、プロピオン酸は抗菌性を示すため、本発明の生物医薬品製剤に含まれる1つ以上の保存剤の代わりとなるか、これを増強することができる固有の保存剤の特性を有する。
【0015】
一実施形態において、本発明は、プロピオン酸緩衝液系を有する生物医薬品製剤を含む。緩衝液系の弱酸性成分は、製剤を緩衝するためにプロピオン酸ナトリウムによって供給され、約10mMの濃度で存在する。この特定の実施形態において、本発明の生物医薬品製剤はまた、賦形剤として約5%のソルビトールを含有し、界面活性剤として約0.005%(w/v)のポリソルベート20を含有する。最終製剤は、約5.0のpHを示す水溶液であり、治療用ポリペプチドの存在下で少なくとも12〜18ヵ月間緩衝能を維持する。
【0016】
本明細書で使用される「生物医薬品」という用語は、医薬品として使用することを目的とした、ポリペプチドや、核酸、炭水化物または脂質、あるいはこれらの構成単位などの巨大分子または生体高分子を意味するものとして意図される。「生物医薬品製剤」とは、生物医薬品との適合性があり、かつヒトに投与した時に安全かつ無毒性である医薬的に許容される媒質を指す。
【0017】
本明細書で使用される「プロピオン酸」という用語は、式CH3CH2COOHを有する液体酸を意味するものとして意図される。プロピオン酸は、水ならびに融点が−21℃および沸点が141℃のアルコールに溶解する。本明細書で使用される「プロピオン酸緩衝液」または「プロピオン酸塩緩衝液」は、その共役塩基と平衡状態にあるプロピオン酸を含有する緩衝液を指すものとして意図される。プロピオン酸緩衝液は、pKaが4.9である領域において最適な緩衝能を提供することができる。この緩衝能とは、溶液に添加される酸または塩基のいずれかにより不安定になる際のpHの変化に対する耐性を指す。本発明のプロピオン酸緩衝液のプロピオン酸形態には、例えば、プロピオン酸、式C2H5CO2‐を有するプロピオン酸イオン、および/またはプロピオン酸塩形態を含むプロピオン酸塩が含まれ得る。プロピオン酸塩の具体例には、式(C2H5CO2‐)Na+を有するプロピオン酸ナトリウムがある。本発明の緩衝液中に含めることができる他のプロピオン酸塩の例には、例えば、カリウム塩、カルシウム塩、有機アミノ塩、またはマグネシウム塩が含まれる。プロピオン酸およびプロピオン酸緩衝液は、当業者に周知である。
【0018】
本明細書で使用される「賦形剤」という用語は、治療的に不活性の物質を意味するものとして意図される。賦形剤は、例えば、希釈剤、ビヒクル、緩衝液、安定化剤、等張化剤、充填剤、界面活性剤、凍結保護剤、溶解保護剤、抗酸化剤、金属イオン源、キレート剤および/または保存剤としての用途をはじめとする多種多様な目的のために生物医薬品製剤中に含めることができる。賦形剤には、例えば、ポリオール(例えば、ソルビトールまたはマンニトール)、糖(例えば、スクロース、ラクトース、またはデキストロース)、ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)、塩(例えば、NaCl、KCl、またはリン酸カルシウム)、アミノ酸(例えば、グリシン、メチオニン、またはグルタミン酸)、界面活性剤、金属イオン、緩衝塩(例えば、プロピオン酸塩、酢酸塩、コハク酸塩)、保存剤、およびポリペプチド(例えば、ヒト血清アルブミン)、ならびに生理食塩水および水が含まれる。本発明の特に有用な賦形剤には、糖アルコールや、還元糖、非還元糖、および糖酸を含めた糖が含まれる。賦形剤は、当該技術分野で周知であり、例えば、Wang W.,Int.J.Pharm.185:129‐88(1999);およびWang W.,Int.J.Pharm.203:1‐60(2000)に記載されている。
【0019】
簡潔に言うと、ポリオール、多価アルコールまたはポリアルコールとしても知られる糖アルコールは、第1級ヒドロキシル基または第2級ヒドロキシル基に還元されたカルボニル基を有する炭水化物の水素化形態である。ポリオールは、液体製剤および凍結乾燥製剤の両方において安定化賦形剤および/または等張剤として使用することができる。ポリオールは、物理的分解経路および化学的分解経路の両方から生物医薬品を保護することができる。選択的に除外された共溶媒がタンパク質の界面における溶媒の有効表面張力を増大させることから、最もエネルギー的に有利な構造的立体配座は、表面積が最小の立体配座である。糖アルコールの具体例には、ソルビトール、グリセロール、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、エリトリトール、およびトレイトールが含まれる。
【0020】
還元糖には、例えば、ケトン基やアルデヒド基を有する糖が含まれ、こうした還元糖は反応性ヘミアセタール基を含有しており、この反応性ヘミアセタール基によって糖は還元剤としての役割を果たすことが可能となる。還元糖の具体例には、フルクトース、グルコース、グリセルアルデヒド、ラクトース、アラビノース、マンノース、キシロース、リボース、ラムノース、ガラクトース、およびマルトースが含まれる。
【0021】
非還元糖は、アセタールでありかつメイラード反応を開始するアミノ酸やポリペプチドと実質的に反応しないアノマー炭素を含有する。また、フェーリング溶液またはトレンス試薬を還元する糖も還元糖として知られている。非還元糖の具体例には、スクロース、トレハロース、ソルボース、スクラロース、メレチトース、およびラフィノースが含まれる。
【0022】
糖酸には、例えば、サッカリン酸、グルコン酸塩、および他の多価糖、ならびにこれらの塩が含まれる。
【0023】
例えば、緩衝液の賦形剤は、製品の有効期間を通して液状製剤のpHを維持するとともに、凍結乾燥プロセス中や再構成時に凍結乾燥製剤のpHを維持する。
【0024】
液状製剤中に含まれる等張化剤および/または安定化剤は、例えば、製剤が投与に適切となるように等張性、低張性または高張性を製剤に付与するために使用することができる。このような賦形剤はまた、例えば、生物医薬品の構造の維持を容易にするため、および/または静電気による溶液のタンパク質間相互作用を最小限にするために使用することもできる。等張化剤および/または安定化剤の具体例には、ポリオール、塩、および/またはアミノ酸が含まれる。凍結乾燥製剤中に含まれる等張化剤および/または安定化剤は、例えば、凍結ストレスから生物医薬品を保護する凍結保護剤として、あるいは冷凍乾燥状態の生物医薬品を安定させる溶解保護剤として使用することができる。このような凍結保護剤および溶解保護剤の具体例には、ポリオール、糖、およびポリマーが含まれる。
【0025】
充填剤は、例えば製品の気品を向上させかつ噴出を防止するために、凍結乾燥製剤に有用である。充填剤は、溶解塊(lyo cake)に構造的強度を付与するものであり、これには例えばマンニトールやグリシンが含まれる。
【0026】
抗酸化剤は、タンパク質の酸化を抑制するために液状製剤に有用であり、また酸化反応を遅延させるために凍結乾燥製剤において使用することができる。
【0027】
金属イオンは、例えば補助因子として液状製剤中に含めることができ、亜鉛やマグネシウムなどの2価のカチオンは、懸濁製剤で利用することができる。液状製剤中に含まれるキレート剤は、例えば金属イオン触媒反応を阻害するために使用することができる。凍結乾燥製剤に関しては、金属イオンはまた、例えば補助因子として含めることもできる。キレート剤は、一般的に凍結乾燥製剤から除外されるが、凍結乾燥プロセス中や再構成時に所望により触媒反応を抑制するために含めることもできる。
【0028】
液体製剤中および/または凍結乾燥製剤中に含まれる保存剤は、例えば微生物の増殖から保護するために使用することができ、特に多回投与製剤に有益である。凍結乾燥製剤においては、一般的に再構成希釈剤中に保存剤が含まれる。ベンジルアルコールが、本発明の製剤に有用な保存剤の具体例である。
【0029】
本明細書で使用される「界面活性剤」という用語は、溶解される液体の表面張力を低下させる機能を果たす物質を意味するものとして意図される。界面活性剤は、例えば、液状製剤における凝集、粒子形成および/または表面吸着を防止または抑制するため、あるいは凍結乾燥製剤における凍結乾燥プロセスおよび/または再構成プロセスの間にこれらの現象を防止または抑制するためといった種々の目的のために、生物医薬品製剤中に含めることができる。界面活性剤には、例えば有機溶媒および水溶液の両方において部分溶解性を示す両親媒性有機化合物が含まれる。界面活性剤の一般的な特徴には、水の表面張力を低下させる能力、油と水との間の界面張力を低下させる能力、さらにはミセルを形成する能力が含まれる。本発明の界面活性剤には、非イオン性界面活性剤やイオン性界面活性剤が含まれる。界面活性剤は当該技術分野で周知であり、例えば、Randolph T.W. and Jones L.S.,Surfactant‐protein interactions.Pharm Biotechnol.13:159‐75(2002)に記載されている。
【0030】
簡潔に言うと、非イオン性活性剤には、例えば、アルキルポリ(エチレンオキシド)、アルキルポリグルコシド(例えば、オクチルグルコシドやデシルマルトシド)、脂肪アルコール(例えば、セチルアルコールやオレイルアルコール)、コカミドMEA、コカミドDBA、およびコカミドTEAが含まれる。非イオン性活性剤の具体例には、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート28、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、ポリソルベート85など)、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188(別名ポロキサルコールまたはポリ(エチレンオキシド)‐ポリ(プロピレンオキシド))、ポロキサマー407、ポリエチレン‐ポリプロピレングリコールなど)、およびポリエチレングリコール(PEG)が含まれる。ポリソルベート20は、TWEEN20、モノラウリン酸ソルビタン、およびモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンと同義である。
【0031】
イオン性界面活性剤には、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、および双性イオン性界面活性剤が含まれる。アニオン界面活性剤には、例えば、スルホン酸塩系界面活性剤またはカルボン酸塩系界面活性剤(例えば、石鹸、脂肪酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸アンモニウム、および他のアルキル硫酸塩)が含まれる。カチオン界面活性剤には、例えば、第四級アンモニウム系界面活性剤(例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB))、他のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化セチルピリジニウム、ポリエトキシル化牛脂アミン(POEA)、および塩化ベンザルコニウムが含まれる。双性イオン性界面活性剤または両性界面活性剤には、例えば、ドデシルベタイン、ドデシルジメチルアミンオキシド、コカミドプロピルベタイン、およびココアンフォグリシネートが含まれる。
【0032】
本明細書で使用される「治療用」という用語は、本発明のポリペプチドに関して使用される場合、前記ポリペプチドが、ヒトまたはその他の動物における疾患の治癒、緩和、治療または予防に使用することを目的としていることを意味するものとして意図される。したがって、治療用ポリペプチドは、特定種類の生物医薬品であり、単一のポリペプチドまたは複数のポリペプチドのサブユニットを含むことができる。治療用ポリペプチドには、抗体、その機能的抗体フラグメント、そのペプチボディまたは機能的フラグメント、増殖因子、サイトカイン、細胞シグナル伝達分子、およびホルモンが含まれる。多種多様な治療用ポリペプチドが当該技術分野で周知であり、それらはすべて、本明細書で使用されるような用語の意味の範囲内に包含される。本発明の水性生物医薬品製剤中で使用することができる治療用ポリペプチドの例には、例えば、多種多様な抗原、インターロイキン、G‐CSF、GM‐CSF、キナーゼ、TNFリガンド、TNFRリガンド、サイクリン、およびエリスロポエチンに対する抗体(例えば、エプラツズマブ(登録商標)(Emab)や機能的フラグメント)が含まれる。
【0033】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、治療用ポリペプチドなどの治療用生物医薬品に関して使用される場合、標的疾患または生理学的病態に伴う少なくとも1つの症状を軽減するのに十分な治療用分子の量を意味するものとして意図される。
【0034】
本発明は、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液と、少なくとも1つの賦形剤と、有効量の治療用ポリペプチドとを有する水溶液を含む生物医薬品製剤を提供する。
【0035】
本発明の生物医薬品製剤は、生物医薬品の投与、保存および操作に最適な特性を示す。操作には、例えば、凍結乾燥、再構成、希釈、滴定などが含まれる。本発明の製剤の水性緩衝成分は、調製に有効であり、扱いづらく、場合によっては時間がかかり、予備的で、および/または中間の手順を回避する当該技術分野で周知の種々の方法のいずれかを使用して、所望の生物医薬品と容易に組み合わせることができる。さらに、水性プロピオン酸緩衝成分は、生物医薬品の安定性を促進する多種多様な賦形剤および界面活性剤との適合性を有する。本明細書に記載される本発明の生物医薬品製剤のこれらの特質や他の特質によって、生理活性分子からなる安定した製剤を調製し、12〜18ヵ月を超える期間にわたって維持することが可能となる。
【0036】
本発明の生物医薬品製剤の安定性とは、製剤中の生物医薬品の構造および/または機能の維持を指す。本発明の製剤中の生物医薬品は、安定性や機能に影響を及ぼす変化や変質に対する耐性などの特質を示し、そのため一定期間にわたり均一な機能特性を維持する。したがって、本発明の生物医薬品製剤は、例えば、単位量当たりの活性や活性単位において信頼性と安全性を示す。
【0037】
一実施形態において、本発明の製剤中の生物医薬品の安定性には、例えば、物理的安定性および/または化学的安定性の維持が含まれる。生物医薬品の安定性は、例えば、その生物医薬品が、構造の化学修飾といった既述の経路のような物理的分解経路および/または化学的分解経路に供されているかどうかを判定することによって評価することができる。本発明の製剤中の生物医薬品の安定性の維持には、例えば、最初の時点における生物医薬品の安定性と比べた場合の約80〜100%、約85〜99%、約90〜98%、約92〜96%、または約94〜95%の物理的安定性または化学的安定性の維持が含まれる。したがって、本発明の製剤中の生物医薬品の安定性には、最初の時点における生物医薬品の安定性と比べた場合の約99.5%超、少なくとも約99%、約98%、約97%、約96%、約95%、約94%、約93%、約92%、約91%、約90%、約89%、約88%、約87%、約86%、約85%、約84%、約83%、約82%、約81%または約80%の安定性の維持が含まれる。
【0038】
さらなる一実施形態においては、本発明の製剤中の生物医薬品の安定性には、例えば、活性の維持が含まれる。生物医薬品の活性は、例えば、生物医薬品の機能を示すin vitroアッセイ、in vivoアッセイおよび/またはin situアッセイを使用して評価することができる。本発明の製剤中の生物医薬品の安定性の維持には、例えば、アッセイのばらつきにより異なる約50〜100%以上の活性の維持が含まれる。例えば、安定性の維持には、最初の時点における生物医薬品の活性と比較した約60〜90%または70〜80%の間の活性の維持が含まれる。したがって、本発明の製剤中の生物医薬品の安定性には、最初の時点における生物医薬品の活性と比べた場合の少なくとも約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%または約100%の活性の維持が含まれ、100%超(例えば、105%、110%、115%、120%、125%または150%以上)の活性測定値が含まれてもよい。一般的に、最初の時点は、生物医薬品が最初に本発明の生物医薬品製剤中に調製される時か、または最初に品質検査を行う(すなわち、放出基準を満たす)時となるように選択される。また、最初の時点には、生物医薬品が本発明の生物医薬品製剤中に再調製される時が含まれてもよい。再調製製剤は、例えば、最初の製剤よりも高い濃度、低い濃度、または同じ濃度であってよい。
【0039】
本発明の生物医薬品製剤中の生物医薬品の安定性は、特に4℃を超える温度、例えば、室温(約23℃)またはそれ以上(例えば、37℃)の温度で維持される。より高い温度で安定性がより良好に維持されることは、特定の他の緩衝液、特により高い濃度の基準生物医薬品よりも、図15に示す本発明のプロピオン酸緩衝液生物医薬品製剤のメインピークがより良好に維持されていることによって示されている。
【0040】
本発明の生物医薬品製剤は、基準溶液または基準液(すなわち、血清)と等張となるように調製することができる。等張溶液は、浸透圧的に安定するように周囲のものと実質的に同等の量が中に溶解した溶質を有する。特定の溶液または液と明示的に比較する場合を除き、「等張」または「等張性」という用語は、ヒト血清(例えば、300mOsmol/kg)に関して本明細書に例示的に使用される。それため、本発明の等張性生物医薬品製剤は、実質的に同等の濃度の溶質を含有するか、またはヒトの血液と実質的に同等の浸透圧を示す。一般的に、等張溶液は、ヒトおよび多くの他の哺乳類に使用する通常の生理食塩水と同濃度の溶質を含有し、この濃度は水溶液中における約0.9重量パーセント(0.009g/mL)の塩(例えば0.009g/mLのNaCl)である。本発明の生物医薬品製剤にはまた、低張溶液製剤や高張溶液製剤が含まれてもよい。
【0041】
生物医薬品製剤は、当該技術分野で周知の種々の方法のいずれかで調製して、所望のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液成分、少なくとも1つの賦形剤、および有効量の生物医薬品を産生することができる。この点において、本発明の生物医薬品製剤の緩衝能は、pKaの約1pH単位内のpH範囲で強い緩衝能を示す弱酸性プロピオン酸により与えられる。プロピオン酸は、例えば重要な生化学機能や構造的機能を有する巨大分子を含めた多くの生体分子に最適な4.9のpKaを有する。
【0042】
プロピオン酸成分は、種々の異なるプロピオン酸形態の緩衝系に与えることができる。例えば、プロピオン酸成分は、プロピオン酸、プロピオン酸塩、あるいは入手可能であるか、または化学合成を使用して産生することができるその他いずれかの形態として与えることができる。塩の形態のプロピオン酸塩は、高度に精製された形態で市販されているため、生物医薬品製剤のプロピオン酸緩衝系の産生に特に有用である。プロピオン酸塩には、例えば、既述のもののほか、当該技術分野で既知のその他のものが含まれる。生物医薬品製剤成分の高度に精製された形態とは、安全かつ無毒と言えるほど汚染物が含まれないようなヒトへの投与に十分な純度を有する、医薬品グレードの純度レベルを指す。
【0043】
プロピオン酸およびプロピオン酸塩緩衝液は、当業者に周知である。本発明の生物医薬品製剤は、例えば、選択された温度において製剤の選択されたpHを維持するのに十分な緩衝能を有するプロピオン酸またはプロピオン酸塩の濃度を含有する。プロピオン酸またはプロピオン酸塩の有用な濃度には、例えば、約1〜150mMのほか、200mM以上でさえも含まれる。例えば、場合によっては、本発明の高張製剤を産生するために最高1Mのプロピオン酸またはプロピオン酸塩を含むのが望ましいこともある。所望により、このような高張溶液を使用前に希釈して等張性製剤を産生することもできる。例として、プロピオン酸またはプロピオン酸塩の有用な濃度には、例えば、約1〜200mM、5〜175mM、10〜150mM、15〜125mM、20〜100mM、25〜80mM、30〜75mM、35〜70mM、40〜65mM、および45〜60mMが含まれる。プロピオン酸またはプロピオン酸塩の他の有用な濃度には、例えば、約1〜50mM、2〜30mM、3〜20mM、4〜10mM、および5〜8mMが含まれる。したがって、プロピオン酸またはプロピオン酸塩の濃度は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19または約20mM以上である。これらの濃度例よりも高い値や低い値もまた、生物医薬品製剤に使用することができる。
【0044】
そのため、本発明の生物医薬品製剤は、1mM未満または20mM超のプロピオン酸またはプロピオン酸塩(例えば、21、22、23、24、25、30、35、40、45または50mM以上のプロピオン酸またはプロピオン酸塩)を有することができる。生物医薬品製剤は、以下の実施例で例示され、図14〜16に示されており、約10mMのプロピオン酸塩濃度を含有する。
【0045】
既述の通り、本発明の生物医薬品製剤は生物医薬品の安定性の維持に最適であり得る約4〜6のpHの強い緩衝能を有するため、本発明の生物医薬品製剤中のプロピオン酸緩衝液のpKaは、生物医薬品との使用に特に適している。本発明の生物医薬品製剤のプロピオン酸緩衝液成分は、約4.0〜6.0のpH範囲内でいずれかの効果的な緩衝能を示すように調製することができる。プロピオン酸緩衝液および/または最終生物医薬品製剤のpH範囲の例には、約3.5〜6.5、約4.0〜6.0、約4.5〜5.5、約4.8〜5.2、または約5.0のpH範囲が含まれてよい。したがって、プロピオン酸緩衝液および/または最終生物医薬品製剤は、約3.0以下、約3.5、約4.0、約4.5、約4.8、約5.0、約5.2、約5.5、約6.0、約6.5または約7.0以上のpHを有するように調製することができる。これらの値の例よりも高いpH値や、低いpH値、およびこれらの値の間のpH値はすべて、プロピオン酸緩衝液および/または最終生物医薬品製剤に使用することもできる。そのため、例えば、プロピオン酸緩衝液成分および/または最終生物医薬品製剤は、3.5未満、6.5超のほか、これらの範囲内のすべての値のpHを有するように調製することができる。当業者は、緩衝液の緩衝能の強度の大部分がpKaの約1のpH単位の外に低下することを理解し、本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みて、約3.5未満のpHまたは約6.5超のpHを有するプロピオン酸緩衝液を含むことが、本発明の生物医薬品製剤で有用であるかどうかを判断することができる。
【0046】
本発明の生物医薬品製剤のプロピオン酸緩衝液成分は、1つ以上の賦形剤を含むことができる。既述の通り、含有される賦形剤の1つの役割としては、製造、輸送および保存時に生じるストレスに対する生物医薬品の安定化を提供することがある。この役割を達成するために、少なくとも1つの賦形剤は、緩衝液、安定化剤、等張化剤、充填剤、界面活性剤、凍結保護剤、溶解保護剤、抗酸化剤、金属イオン源、キレート剤および/または保存剤として機能することができる。さらに、少なくとも1つの賦形剤はまた、希釈剤および/またはビヒクルとして機能することもできれば、高濃度の生物医薬品製剤の送達を可能にし、および/または罹患体の利便性を向上させるために使用して、高濃度の生物医薬品製剤の粘度を低下させることもできる。
【0047】
同様に、少なくとも1つの賦形剤はさらに、本発明の製剤に上記の機能の内の複数を付与することもできる。あるいは、上記のまたは他の機能の内の複数を果たすように、複数の賦形剤を本発明の生物医薬品製剤中に含めることもできる。例えば、賦形剤は、製剤の重量オスモル濃度を変更、調整または最適化して、それにより等張化剤として機能させるために、本発明の生物医薬品製剤の成分として含めることができる。同様に、等張化剤および界面活性剤はいずれも、重量オスモル濃度の調整と凝集の抑制の両方のために、本発明の生物医薬品製剤中に含めることができる。賦形剤とその使用、配合および特徴は当該技術分野で周知であり、例えば、Wang W.,Int.J.Pharm.185:129‐88(1999);およびWang W.,Int.J.Pharm.203:1‐60(2000)に記載されている。
【0048】
一般的に、賦形剤は、種々の化学的ストレスおよび物理的ストレスに対してタンパク質を安定化させる機序に基づいて選択することができる。本明細書に記載の通り、特定の賦形剤は、特定のストレスの効果を軽減するか、特定の生物医薬品の特定の感受性を調節するように含むのが有益である。他の賦形剤は、タンパク質の物理的安定性や共有結合的安定性に対するより一般的な効果を有するため、含むのが有益である。特に有用な賦形剤には、製剤の安定性を最適にするように水性緩衝液や生物医薬品と化学的かつ機能的に無害であるか、適合するものが含まれる。このような種々の賦形剤は、本発明の水性生物医薬品製剤との化学的適合性と、このような製剤中に含まれる生物医薬品との機能的適合性とを示す賦形剤の例として、本明細書に記載されている。但し、例示した賦形剤に関して本明細書に示す教示内容や手引きは、当該技術分野で周知の広範な他の賦形剤の使用にも等しく適用可能であることを、当業者は理解するであろう。
【0049】
例えば、製剤中の生物医薬品の安定性を向上させるか、付与するために選択される最適な賦形剤には、生物医薬品において官能基と実質的に反応しないものが含まれる。この点で、還元糖および非還元糖はいずれも、本発明の生物医薬品製剤中の賦形剤として使用することができる。しかし、還元糖は、ヘミアセタール基を含有することから、ポリペプチドのアミノ酸側鎖にアミノ基を有する付加体または他の修飾を反応形成することができる(すなわちグリコシル化)。同様に、クエン酸塩やコハク酸塩、ヒスチジンなどの賦形剤はまた、アミノ酸側鎖を有する付加体を形成することもできる。本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みると、所定のポリペプチド生物医薬品の安定性のより良好な維持は、還元糖よりも、または上に例示したものなどの他のアミノ酸反応性賦形剤よりも、非還元糖を選択することによって達成できることを、当業者は認識するであろう。
【0050】
最適な賦形剤はまた、本発明の水性生物医薬品製剤の投与様式における安定化を向上させるか提供するためにも選択される。例えば、静脈内投与(IV)、皮下投与(SC)または筋肉内投与(IM)の非経口経路は、製剤のすべての成分が製造、保存および投与時に物理的安定性や化学的安定性を維持する場合に、より安全かつ有効となり得る。当業者は、例えば特定の製造条件または保存条件あるいは特定の投与様式に鑑みて、生物医薬品の活性形態の安定性を最大限に維持する1つ以上の賦形剤を使用することを認識するであろう。生物医薬品製剤で使用するために本明細書で例示した賦形剤は、これらの特徴や他の特徴を示す。
【0051】
本発明の生物医薬品製剤で使用する賦形剤の量または濃度は、例えば、製剤中に含まれる生物医薬品の量、所望の製剤中に含まれる他の賦形剤の量、希釈剤が望まれるのか必要なのか、製剤の他の成分の量または体積、製剤中の成分の総量、生物医薬品の比活性、および達成すべき所望の張性または重量オスモル濃度により変動する。賦形剤の濃度の具体例は、さらに下記にて例示される。さらに、異なる種類の賦形剤を、単一の生物医薬品製剤に組み合わせることもできる。したがって、本発明の生物医薬品製剤は、単一の賦形剤、あるいは2種、3種または4種以上の賦形剤を含有することができる。賦形剤の組み合わせは、特に複数種の生物医薬品を含有する生物医薬品製剤と併用する場合に有用であり得る。賦形剤は、類似のまたは異なる化学特性を示すことができる。
【0052】
本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みると、生物医薬品の安定性の維持を促進する本発明の生物医薬品製剤を実現するためにいずれか特定の製剤中に含めることができる賦形剤の量または範囲を、当業者は認識するであろう。例えば、本発明の生物医薬品製剤中に含まれる塩の量および種類は、最終溶液の所望の重量オスモル濃度(すなわち、等張、低張または高張)ならびに製剤中に含める他の成分の量および重量オスモル濃度に基づいて選択することができる。同様に、製剤中に含まれるポリオールまたは糖の種類に関する例として、このような賦形剤の量はその重量オスモル濃度に変動する。約5%のソルビトールを含めると等張性を達成できるのに対し、スクロースの賦形剤は、等張性を達成するのに約9%が必要である。本発明の生物医薬品製剤中に含めることができる1つ以上の賦形剤の量または濃度範囲の選択は、塩、ポリオールおよび糖に関連して上で例示している。しかし、本明細書に記載し、さらに特定の賦形剤に関連して例示した考慮事項は、賦形剤(例えば、塩、アミノ酸、他の等張化剤、界面活性剤、安定化剤、充填剤、凍結保護剤、溶解保護剤、抗酸化剤、金属イオン、キレート剤および/または保存剤を含む)のあらゆる種類や組み合わせに等しく適用可能であることを、当業者は理解するであろう。
【0053】
賦形剤は、一般的に約1〜40%(w/v)、約5〜35%(w/v)、約10〜30%(w/v)、約15〜25%(w/v)または約20%(w/v)の濃度範囲で、本発明の生物医薬品製剤中に含めることができる。また、特定の例では、約45%(w/v)、50%(w/v)または50%(w/v)超もの濃度を、本発明の生物医薬品製剤中で使用することもできる。例えば、場合によっては、本発明の高張性製剤を産生するために最高60%(w/v)または75%(w/v)の濃度を含めるのが望ましいこともある。所望により、このような高張溶液を使用前に希釈して、等張製剤を産生することもできる。他の有用な濃度範囲には、約1〜20%、特に約2〜18%(w/v)、より具体的には約4〜16%(w/v)、さらにより具体的には約6〜14%(w/v)、または約8〜12%(w/v)、あるいは約10%(w/v)が含まれる。また、これらの範囲を下回るまたは上回る、あるいはこれらの範囲の間の賦形剤の濃度および/または量も、本発明の生物医薬品製剤で使用することができる。例えば、1つ以上の賦形剤を、約1%未満(w/v)を構成する生物医薬品製剤中に含めることができる。同様に、生物医薬品製剤は、約40%(w/v)を超える濃度の1つ以上の賦形剤を含有することもできる。したがって、本発明の生物医薬品製剤は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20%(w/v)以上を含めた、本質的にはいずれの所望の濃度または量の1つ以上の賦形剤をも含有するものを産生することができる。約10.0%の賦形剤を有するポリペプチドの生物医薬品製剤については、以下に例を示す。
【0054】
本発明の生物医薬品製剤に有用な種々の賦形剤は、すでに記載されている。実施例IIに記載する特定の生物医薬品製剤において例示される1つの賦形剤にはソルビトールがあり、これは等張化剤および/または安定化剤として使用される。実施例IIに記載する生物医薬品製剤において例示される別の賦形剤にはポリソルベート20があり、これは界面活性剤としてその特定の製剤で使用される。本発明の液体生物医薬品製剤または凍結乾燥生物医薬品製剤のいずれかにおいて有用な他の賦形剤には、例えば、フコース、セロビオース、マルトトリオース、メリビオース、オクツロース、リボース、キシリトール、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、メチオニン、グルタミン酸、リジン、イミダゾール、グリシルグリシン、マンノシルグリセリン酸塩、Triton X‐100、Pluoronic F‐127、セルロース、シクロデキストリン、デキストラン(10、40および/または70kD)、ポリデキストロース、マルトデキストリン、フィコール、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメタ(hydroxypropylmeth)、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ZnCl2、亜鉛、酸化亜鉛、クエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、トロメタミン、銅、フィブロネクチン、ヘパリン、ヒト血清アルブミン、プロタミン、グリセリン、グリセロール、EDTA、メタクレゾール、ベンジルアルコール、およびフェノールが含まれる。これらの賦形剤ならびに当該技術分野で既知の他の賦形剤などの賦形剤については、例えば、Wang W.,supra,(1999)およびWang W.,supra.(2000)に記載されている。
【0055】
また、本発明の生物医薬品製剤のプロピオン酸緩衝液成分は、賦形剤として1つ以上の界面活性剤を含むことができる。既述の通り、本発明の製剤中の界面活性剤の1つの役割には、凝集および/または吸着(例えば表面誘起分解)を防止するか、または最小限に抑制することがある。十分な濃度、一般的には界面活性剤の臨界ミセル濃度の前後で、界面活性剤分子の表層は、タンパク質分子が界面で吸着するのを防止する役割を果たす。これにより表面誘起分解が最低限に抑制される。生物医薬品製剤のための界面活性剤、その使用、配合および特徴は、当該技術分野で周知であり、例えば、Randolph and Jones,supra,(2002)に記載されている。
【0056】
本発明の生物医薬品製剤中に含めるのに最適な界面活性剤は、凝集および/または吸着を防止または抑制することによって生物医薬品の安定性の維持を向上または促進するために選択することができる。例えば、ポリソルベートなどのソルビタン脂肪酸エステルは、広範な親水特性および乳化特性を示す界面活性剤である。これらは、広範な安定化の必要性を網羅するように、個別にまたは他の界面活性剤と組み合わせて使用することができる。このような特性は、生物医薬品の広範な疎水特性および親水特性を網羅するように調整することができるため、生物医薬品との使用に特に適している。界面活性剤を選択するに当たっての考慮事項としては、一般的に賦形剤に関して既述されているもののほか、界面活性剤の疎水特性や臨界ミセル濃度が含まれる。本明細書に例示される界面活性剤、ならびに当該技術分野で周知のその他多くの界面活性剤は、本発明の生物医薬品製剤で使用することができる。
【0057】
本発明の生物医薬品製剤の界面活性剤の濃度範囲には、一般的に賦形剤に関して既述されているものが含まれ、特に有用な濃度は約1%(w/v)未満である。この点で、界面活性剤の濃度は、一般的には約0.001〜0.10%(w/v)、具体的には約0.002〜0.05%(w/v)、より具体的には約0.003〜0.01%(w/v)、さらにより具体的には約0.004〜0.008%(w/v)または約0.005〜0.006%(w/v)の範囲で使用することができる。これらの範囲を下回るまたは上回る、あるいはこれらの範囲の間の界面活性剤の濃度および/または量もまた、本発明の生物医薬品製剤で使用することができる。例えば、1つ以上の界面活性剤を、約0.001%(w/v)未満を構成する生物医薬品製剤中に含めることができる。同様に、生物医薬品製剤は、約0.10%(w/v)を超える濃度の1つ以上の界面活性剤を含有することもできる。したがって、本発明の生物医薬品製剤は、例えば0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.010、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09または0.10%(w/v)以上を含めた、本質的にはいずれの所望の濃度または量の1つ以上の界面活性剤をも産生することができる。
【0058】
本発明の生物医薬品製剤中の賦形剤として有用な種々の界面活性剤は、すでに記載されている。本発明の液体生物医薬品製剤または凍結乾燥生物医薬品製剤のいずれかにおいて有用な他の界面活性剤には、例えば、糖エステル(例えば、ラウリン酸エステル(C12)、パルミチン酸エステル(C16)、ステアリン酸エステル(C18)、マクロゴールセトステアリルエーテル、マクロゴールラウリルエーテル、マクロゴールオレイルエーテル、オレイン酸マクロゴール、ステアリン酸マクロゴール、リシノール酸マクロゴールグリセロール、ヒドロキシステアリン酸マクロゴールグリセロール)、アルキルポリグルコシド(例えば、オクチルグルコシドやデシルマルトシド)、脂肪アルコール(例えば、セチルアルコールやオレイルアルコール)、およびコカミド(例えば、コカミドMEA、コカミドDEA、コカミドTEA、他の非イオン性活性剤、および他のイオン性界面活性剤)が含まれる。
【0059】
そのため、本発明は、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩約1〜100mMを有する水溶液、約1〜10%のポリオール、約0.001〜0.010%のポリソルベート20、および有効量の治療用ポリペプチドを含む生物医薬品製剤を提供する。また、本発明の生物医薬品製剤は、約5.0のpHを有する約10mMのプロピオン酸ナトリウム、約5%のソルビトール、および約0.005%のポリソルベート20を含むこともできる。また、その他種々の製剤成分、成分の組み合わせ、およびそれらの濃度も、本発明の生物医薬品製剤中に含めることができる。
【0060】
さらに、製剤の生物医薬成分として治療用ポリペプチドを有する生物医薬品製剤も提供される。治療用ポリペプチドには、抗体、抗体機能的フラグメント、ペプチボディ、ホルモン、増殖因子、または細胞シグナル伝達分子が含まれる。
【0061】
また、本発明の生物医薬品製剤の中に含まれるものに生物医薬品がある。本発明の生物医薬品には、例えば、病態の診断、治療または予防に使用することができる活性医薬品成分またはその構成単位として使用されるか、あるいは薬剤の成分として使用される巨大分子または生体高分子(例えば、ポリペプチド、核酸、脂質、炭水化物)が含まれる。例えば、本発明の生物医薬品製剤は、ポリペプチド、グリコポリペプチド、ペプチドグリカン、DNA(例えば、ゲノムDNA、cDNAなど)、RNA(例えば、mRNA、RNAi、SNRPSなど)、単糖、多糖、N結合型糖、O結合型糖、レプチンなどが含まれ得る活性医薬品成分として企図される炭水化物、脂質(例えば、リン脂質、糖脂質、脂肪酸)、ポリアミン、イソプレノイド、アミノ酸、ヌクレオチド、神経伝達物質、および補助因子、ならびにヒトを含む哺乳類の生理系で内生するその他多くの巨大分子、生体高分子およびこれらの構成単位に適用可能であり、かつこれらの安定性の維持を促進する。これらのおよび他の生物医薬品は、当業者に周知であり、病態の診断、治療もしくは予防において、または薬剤の成分として使用するために、本発明の生物医薬品製剤中に含めることができる。
【0062】
本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みると、本発明の生物医薬品製剤は、上で例示したもの、ならびに当該技術分野で周知の他のものを含めたすべての種類の生物医薬品に等しく適用可能であることを、当業者は理解するであろう。また、本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みると、例えば1つ以上の賦形剤、界面活性剤および/または任意の成分の種類および/または量は、配合する生物医薬品との化学的適合性および機能的適合性および/または投与様式、ならびに当該技術分野で周知の他の化学的因子、機能的因子、生理学的因子および/または医学的因子に基づいて選択できることを、当業者は理解するであろう。例えば、既述の通り、非還元糖は、ポリペプチド生物医薬品とともに使用されると、還元糖よりも有利な賦形剤特性を示す。したがって、本発明の生物医薬品製剤は、ポリペプチド生物医薬品に関して以下でさらに例示する。しかし、ポリペプチド生物医薬品に適用される適用性、化学特性、物理特性、考慮事項および方法の範囲は、ポリペプチド生物医薬品以外の生物医薬品にも同様に適用可能である。
【0063】
本発明の生物医薬品製剤での使用に適用可能なポリペプチド生物医薬品の種類の例には、例えば、ポリペプチド、増殖因子、サイトカイン、細胞シグナル伝達分子およびホルモンの免疫グロブリン超分子群を含めたすべての種類の治療用ポリペプチドが含まれる。本発明の生物医薬品製剤での使用に適用可能なポリペプチド生物医薬品の例には、例えば、抗体およびその機能的フラグメント、インターロイキン、G‐CSF、GM‐CSF、キナーゼ、FhmなどのTNFリガンドおよびTNFRリガンド、サイクリン、エリスロポエチン、神経成長因子(NGF)、発達調節した神経成長因子、VGF、神経栄養因子、神経栄養因子NNT‐1、Eph受容体、Eph受容体リガンド;Eph様受容体、Eph様受容体リガンド、アポトーシス阻害タンパク質(IAP)、Thy‐1特異的タンパク質、Hekリガンド(hek‐L)、Elk受容体およびElk受容体リガンド、STAT、コラゲナーゼ阻害剤、オステオプロテゲリン(OPG)、APR1L/G70、AGP‐3/BLYS、BCMA、TACI、Her‐2/neu、アポリポタンパク質ポリペプチド、インテグリン、メタロプロテイナーゼの組織インヒビター、C3b/C4b補体受容体、SHC結合タンパク質、DKRポリペプチド、細胞外マトリックスポリペプチド、上記の治療用ポリペプチドに対する抗体およびその抗体機能的フラグメント、上記の治療用ポリペプチドの受容体に対する抗体およびその抗体機能的フラグメント、その機能的ポリペプチドフラグメント、融合ポリペプチド、キメラポリペプチドなどを含めた、すべての治療用ポリペプチドが含まれる。
【0064】
本発明の生物医薬品製剤での使用に適用可能な市販される生物医薬品の具体例には、例えば、ENBREL(エタネルセプト;CHO発現二量体融合タンパク質((Amgen,Inc.))、EPOGEN(エポエチンアルファ;哺乳類細胞発現糖タンパク質(Amgen,Inc.))、INFERGEN(登録商標)(インターフェロンアルファコン‐1;大腸菌発現組換えタンパク質(Amgen,Inc.))、KINERET(登録商標)(アナキンラ;(ヒトインターロイキン‐1受容体アンタゴニスト(IL‐1Ra)の大腸菌発現組換え非グリコシル化形態)(Amgen,Inc.))、ARANESP(ダーベポエチンアルファ;CHO発現組換えヒト赤血球新生刺激タンパク質(Amgen,Inc.))、NEULASTA(ペグフィルグラスチム;組換えメチオニルヒトG‐CSFおよび20kD PEGの共有結合抱合体(Amgen,Inc.))、NEUPOGEN(フィルグラスチム;大腸菌発現ヒト顆粒球コロニー刺激因子(G‐CSF)(Amgen,Inc.))、およびSTEMGEN(アンセスチム、幹細胞因子;大腸菌発現組換えヒトタンパク質(Amgen,Inc.))が含まれる。これらのおよびその他すべての市販される生物医薬品は、例えば、使用前および/または短期保存または長期保存前の製造時に、本発明の生物医薬品製剤において再配合することができる。
【0065】
本発明の生物医薬品製剤の生物医薬適用性の範囲の更なる説明としては、以下に詳述するものが、本発明の生物医薬品製剤で治療用ポリペプチドとして使用することができる抗体およびその機能的フラグメントの種類の例である。既述の通り、抗体およびその機能的フラグメントに適用可能な、化学特性、物理特性、配合の考慮事項、および方法は、他のポリペプチド生物医薬品を含めた生物医薬品に同様に適用可能である。
【0066】
抗体または免疫グロブリンは、分子標的または抗原に対して特異的な親和性を有するポリペプチドである。この用語は、重鎖および軽鎖からなる免疫グロブリンクラスのポリペプチド内に含まれるB細胞のポリペプチド生成物を指す。モノクローナル抗体とは、単細胞クローンまたはハイブリドーマの生成物である抗体を指す。また、モノクローナル抗体とは、単一分子免疫グロブリン種を産生するために、重鎖および軽鎖をコードする免疫グロブリン遺伝子から組換え法によって産生される抗体を指す。モノクローナル抗体製剤中の抗体のアミノ酸配列は実質的に均質であり、このような製剤中の抗体の結合活性は、同じまたは類似の結合アッセイで比較した場合に、実質的に同じ抗原結合活性を示す。以下で詳述する通り、抗体およびモノクローナル抗体の特徴は、当該技術分野で周知である。
【0067】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、骨髄腫発現細胞株、ファージディスプレイおよび組み合わせ抗体ライブラリー法、またはこれらの組み合わせの使用を含めた、当該技術分野で既知の広範な方法を使用して調製することができる。例えば、モノクローナル抗体は、当該技術分野で既知のもの、ならびにHarlow and Lane.,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989);Hammerling,et al.,in:Monoclonal Antibodies and T‐Cell Hybridomas 563‐681,Elsevier,N.Y.(1981);Harlow et al.,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1999);およびAntibody Engineering:A Practical Guide,C.A.K.Borrebaeck,Ed.,W.H.Freeman and Co.,Publishers,New York,pp.103‐120(1991)において教示するものを含めた、ハイブリドーマ技法を使用して産生することができる。免疫化動物および非感作性動物に由来するライブラリーを含めた、組換え、ファージディスプレイおよび組み合わせ抗体ライブラリー法によってモノクローナル抗体を産生する既知の方法の例については、Antibody Engineering:A Practical Guide,C.A.K.Borrebaeck,Ed.,supraに記載されている。生物医薬品として使用するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。むしろ、既述の通り、モノクローナル抗体とは、これを産生する方法ではなく、任意の真核生物クローン、原核生物クローン、ファージクローンを含めた単一のクローンに由来する抗体を指す。
【0068】
抗体機能的フラグメントとは、その標的特異的結合活性の一部またはすべてを維持する抗体の一部を指す。このような機能的フラグメントには、例えば、Fd、Fv、Fab、F(ab’)、F(ab)2、F(ab’)2、単鎖Fv(scFv)、キメラ抗体、二重抗体、三重抗体、四重抗体、およびミニボディなどの抗体機能的フラグメントが含まれてよい。他の機能的フラグメントには、例えば、重鎖(H)または軽鎖(L)ポリペプチド、重鎖可変(VH)領域および軽鎖可変(VL)領域ポリペプチド、相補性決定領域(CDR)ポリペプチド、単一ドメイン抗体、ならびに標的特異的結合活性を維持するのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含有するポリペプチドが含まれてよい。また、本明細書においては、Fcドメインのカルボキシル末端またはアミノ末端のいずれかを介して2つの結合ペプチドに結合する免疫グロブリン定常領域ドメイン(Fc)からなるペプチボディも、抗体機能的フラグメントとして含まれる。このような抗体結合フラグメントについては、例えば、Harlow and Lane,supra;Molec.Biology and Biotechnology:A Comprehensive Desk Reference(Myers,R.A.(ed.),New York:VCH Publisher,Inc.);Huston et al.,Cell Biophysics,22:189‐224(1993);Pluuckthun and Skerra,Meth.Enzymol.,178:497‐515(1989);およびDay,E.D.,Advanced Immunochemistry,Second Ed.,Wiley‐Liss,Inc.,New York,NY(1990)に記載されている。
【0069】
標的分子に対する有益な結合特性を示す抗体およびその機能的フラグメントに関しては、種々の形態、変化および修飾が当該技術分野で周知である。本発明の生物医薬品製剤で使用する標的特異的モノクローナル抗体には、このような種々のモノクローナル抗体の形態、変化および修飾のいずれかが含まれてよい。当該技術分野で機知のこのような種々の形態および用語の例については、以下に記載する。
【0070】
Fabフラグメントとは、VLドメイン、VHドメイン、CLドメインおよびCH1ドメインからなる1価のフラグメントを指し;F(ab’)2フラグメントは、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合した2つのFabフラグメントを含むが、Fcを欠失する2価のフラグメントであり;Fdフラグメントは、VHドメインとCH1ドメインとからなり;Fvフラグメントは、抗体の単一アームのVLドメインとVHドメインとからなり;dAbフラグメント(Ward et al.,Nature 341:544‐546,(1989))はVHドメインからなる。
【0071】
抗体は、1つ以上の結合部位を有することができる。複数の結合部位がある場合、それらの結合部位は互いに同じである場合もあれば、あるいは異なる場合もある。例えば、天然の免疫グロブリンは2つの同一の結合部位を有し、単鎖抗体またはFabフラグメントは1つの結合部位を有するのに対し、「二重特異性」抗体または「二機能性」抗体は、2つの異なる結合部位を有する。
【0072】
単鎖抗体(scFv)とは、VL領域およびVH領域がリンカー(例えばアミノ酸残基の合成配列)を介して結合して、連続したポリペプチド鎖を形成する抗体を指し、ここのリンカーは、タンパク質鎖がそれ自体で折り畳まれ、1価の抗原結合部位を形成するのに十分な長さを有する(例えば、Bird et al.,Science 242:423‐26(1988);およびHuston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879‐83(1988)を参照)。二重抗体とは、2つのポリペプチド鎖を含む2価抗体を指し、各ポリペプチド鎖は、同一の鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にし、それによって各領域が別のポリペプチド鎖上の相補領域と対合できるようになるには短すぎるリンカーによって結合されるVHドメインとVLドメインとを含む(例えば、Holliger et al.,Proc.Natl.Acad Sci.USA 90:6444‐48(1993);およびPoljak et al.,Structure 2:1121‐23(1994)を参照)。二重抗体の2つのポリペプチド鎖が同一である場合、それらの対合から生じる二重抗体は、2つの同一の抗原結合部位を有する。異なる配列を有するポリペプチド鎖を使用して、2つの異なる抗原結合部位を有する二重抗体を産生することができる。同様に、三重抗体および四重抗体は、それぞれ3つおよび4つのポリペプチド鎖を含み、かつ同一であってもよければ異なっていてもよいそれぞれ3つおよび4つの抗原結合部位を形成する抗体である。
【0073】
CDRとは、免疫グロブリン(Igまたは抗体)のVHのβシートフレームワークの非フレームワーク領域内の3つの超可変ループ(H1、H2またはH3)の内の1つを含有する領域、あるいは抗体のVLのβシートフレームワークの非フレームワーク領域内の3つの超可変ループ(L1、L2またはL3)の内の1つを含有する領域を指す。したがって、CDRは、フレームワーク領域配列内に散在する可変領域配列である。CDR領域は、当業者に周知であり、例えば、Kabatが、抗体可変(V)ドメイン内の最も超可変性の高い領域であると定義している(Kabat et al.,J.Biol. Chem.252:6609‐6616(1977);Kabat,Adv.Prot.Chem.32:1‐75(1978))。また、CDR領域配列は、Chothiaが、保存されたβシートフレームワークの一部ではなく、したがって異なる立体配座を適合させることが可能な残基であると構造的に定義している(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901‐917(1987))。いずれの用語も、当該技術分野で広く認識されている。標準的な抗体可変領域内のCDRの位置は、数多くの構造の比較によって決定されている(Al‐Lazikani et al.,J.Mol.Biol.273:927‐948(1997);Morea et al.,Methods 20:267‐279(2000))。ループ内の残基の数は抗体により異なるため、標準的な位置を基準とした追加のループ残基は、標準的な可変ドメイン番号付け法により残基番号の隣にa、b、cなどが従来付与されている(Al‐Lazikani et al.,supra(1997))。このような命名法も同様に当業者に周知である。
【0074】
例として、Kabat(超可変)またはChothia(構造的)のいずれかの命名法にしたがって定義されたCDRを、下表に記載する。
【0075】
【化1】
1残基の番号付けは、Kabat et al.,supraの命名法に従う。
2残基の番号付けは、Chothia et al.,supraの命名法に従う。
【0076】
キメラ抗体とは、1つの抗体に由来する1つ以上の領域、および1つ以上の他の抗体に由来する1つ以上の領域を含有する抗体を指す。1つの具体例において、CDRの1つ以上は、標的分子に対する比活性を有する非ヒトドナー抗体に由来し、可変領域フレームワークはヒトレシピエント抗体に由来する。別の具体例において、CDRはすべて、標的分子に対する比活性を有する非ヒトドナー抗体に由来してよく、可変領域フレームワークはヒトレシピエント抗体に由来する。さらに別の具体例において、複数の非ヒト標的特異的抗体に由来するCDRは、キメラ抗体において混合され、マッチングされる。例えば、キメラ抗体は、第1の非ヒト標的特異的抗体の軽鎖に由来するCDR1、第2の非ヒト標的特異的抗体の軽鎖に由来するCDR2およびCDR3、ならびに第3の標的特異抗体に由来する重鎖に由来するCDRを含んでよい。さらに、フレームワーク領域は、同じヒト抗体の内の1つに由来してもよければ、1つ以上の異なるヒト抗体に由来してもよく、ヒト化抗体に由来してもよい。ドナーおよびレシピエントの両抗体がヒトである場合は、キメラ抗体を産生することができる。
【0077】
ヒト化抗体またはグラフト化抗体は、ヒト被験者に投与する場合に、ヒト化抗体が非ヒト種抗体よりも、免疫応答を誘発する可能性が低くなるように、および/またはより重症度の低い免疫応答を誘発するように、1つ以上のアミノ酸の置換、欠失および/または付加により非ヒト種抗体配列と異なる配列を有する。1つの具体例においては、非ヒト種抗体の重鎖および/または軽鎖のフレームワークドメイン内および定常ドメイン内の特定のアミノ酸を変化させて、ヒト化抗体を産生する。別の具体例において、ヒト抗体に由来する定常ドメインは、非ヒト種の可変ドメインに融合される。ヒト化抗体を作製する方法の例については、米国特許第6,054,297号、第5,886,152号および第5,877,293号に記載されている。ヒト化抗体にはまた、抗体回復(resurfacing)法などを使用して産生される抗体も含まれる。
【0078】
ヒト抗体とは、ヒト免疫グロブリン配列に由来する1つ以上の可変領域および定常領域を有する抗体を指す。例えば、完全ヒト抗体には、可変ドメインおよび定常ドメインがすべてヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体が含まれる。ヒト抗体は、当該技術分野で既知の種々の方法を使用して調製することができる。
【0079】
また、1つ以上のCDRを、共有結合または非共有結合のいずれかにより分子内に組み込んで、イムノアドヘシンとすることができる。イムノアドヘシンは、より大きなポリペプチド鎖の一部としてCDRを組み込んでもよければ、CDRを別のポリペプチド鎖と共有結合により結合してもよく、CDRを非共有結合により組み込んでもよい。CDRによって、イムノアドヘシンは対象となる特定の抗原に特異的に結合することが可能となる。
【0080】
中和抗体または阻害抗体とは、標的特異的モノクローナル抗体の過剰によって、標的に結合した結合パートナーの量が減少する場合に、標的分子とその結合パートナーとの結合を阻害する標的特異的モノクローナル抗体を指す。結合の阻害は、少なくとも10%、具体的には少なくとも約20%生じる可能性がある。種々の具体例においては、モノクローナル抗体によって、標的に結合した結合パートナーの量を、例えば少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%および99.9%減少させることができる。結合の減少は、例えばin vitro競合結合アッセイでの測定のように、当業者に既知のいずれかの手段によって測定することができる。
【0081】
アンタゴニスト抗体とは、標的分子を発現する細胞、組織または生体に付加される場合に標的分子の活性を阻害する抗体を指す。活性は、結合パートナーが単独で存在する場合における標的分子の活性レベルに比べて、少なくとも約5%、具体的には少なくとも約10%、より具体的には少なくとも約15%以上低下させることができる。種々の具体例において、本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体は、標的分子活性を少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%阻害することができる。
【0082】
上述の標的特異的モノクローナル抗体と同様に、更なる実施形態においては、本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体には、標的分子アンタゴニスト活性を示すモノクローナル抗体が含まれる。標的分子活性のアンタゴニストは、その結合パートナーにより結合または刺激される場合に、標的分子の少なくとも1つの機能または活性を低下させる。このような機能には、例えば、細胞調節、遺伝子調節、タンパク質調節、シグナル変換、細胞増殖、分化、移動、細胞生存、またはその他いずれかの生化学的機能および/または生理学的機能の刺激または阻害が含まれてよい。また、標的分子の他の機能または活性も、本発明の生物医薬品として使用するアンタゴニスト標的特異的モノクローナル抗体によって低下または阻害することができる。本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みれば、当業者は、種々のアンタゴニスト活性を示す広範な標的特異的モノクローナル抗体を作製および同定することができるであろう。
【0083】
本発明のアンタゴニスト標的特異的モノクローナル抗体は、本明細書に記載の通り産生および同定することができる。アンタゴニスト標的特異的モノクローナル抗体を同定する具体的な方法には、結合パートナーまたは他のアゴニストの存在下でその結合パートナーに反応する標的分子発現細胞を、標的特異的モノクローナル抗体に接触させる方法が含まれる。接触は結合に十分な条件下で行われ、標的分子の機能または活性の低下または減少を決定することができる。標的の少なくとも1つの機能または活性を低下させるか、減少させるか、妨げる標的特異的モノクローナル抗体は、標的特異的アンタゴニストモノクローナル抗体として同定される。
【0084】
アゴニスト抗体とは、100%の活性化が、等モル量の結合パートナーにより生理学的条件下で達成される活性化レベルである場合に、標的分子を発現する細胞、組織または生体に付加されると、標的分子を少なくとも約5%、具体的には少なくとも約10%、より具体的には少なくとも約15%活性化する抗体を意味する。種々の具体例において、本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体は、標的分子活性を、少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、175%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、750%または1000%活性化させることができる。
【0085】
更なる実施形態において、本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体には、標的分子アゴニスト活性を示すモノクローナル抗体が含まれる。標的分子活性のアゴニストとは、その結合パートナーに結合した場合に標的分子の少なくとも1つの機能または活性を増大させる分子を指す。増大させることができる活性には、例えばアンタゴニスト活性に関して既述されているものが含まれる。したがって、標的分子アンタゴニスト活性を有する標的特異的モノクローナル抗体は、標的分子の1つ以上の細胞機能または細胞活性を低下させるか、減少させるか、防止する。標的分子アゴニスト活性を有する標的特異的モノクローナル抗体は、標的分子の1つ以上の細胞機能または細胞活性を増大させるか、促進するか、刺激する。本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みれば、当業者は、種々のアンタゴニスト活性またはアゴニスト活性を示す広範な標的特異的モノクローナル抗体を作製または同定することができるであろう。
【0086】
本明細書に示す教示内容や手引きに鑑みれば、当業者は、当該技術分野で周知の免疫化法、ハイブリドーマ産生法、骨髄腫細胞株発現法、およびスクリーニング法を使用して、アゴニスト標的特異的モノクローナル抗体を産生することができる。アゴニスト標的特異的モノクローナル抗体を同定する具体的な方法には、結合に十分な条件下で標的分子の結合パートナーに反応する標的分子発現細胞を、標的特異的モノクローナル抗体に接触させて、標的分子の機能または活性の刺激または増大を決定する方法が含まれる。標的分子の少なくとも1つの機能または活性を増大させるか、刺激するか、促進する標的特異的モノクローナル抗体は、標的特異的アゴニストモノクローナル抗体として同定される。
【0087】
エピトープとは、抗体の抗原結合部位内の1つ以上の抗体と特異的に結合する分子の一部(例えばポリペプチドの一部分)を指す。抗原決定基は、抗体に結合する分子の連続領域または非連続領域を含むことができる。抗原決定基はまた、分子の化学活性表面系列(例えばアミノ酸または糖側鎖)を含んでもよく、特定の3次元構造特性および/または特定の電荷特性を有してもよい。
【0088】
特異的結合とは、他の関連しているが非標的である分子に比べて、あるいは他の非標的の分子に比べて、標的分子に対して選択的な結合を示す標的特異的モノクローナル抗体を指す。選択的な結合には、その標的分子への検出可能な結合を示すが、別の関連しているが非標的である分子への検出可能な結合はほとんどまたは全く示さない、本発明の生物医薬品として使用するモノクローナル抗体が含まれる。
【0089】
特異的結合は、例えば、親和性(KaまたはKd)、会合速度(kon)、解離速度(koff)、結合活性、またはこれらの組み合わせを含めた、当業者に既知の種々の測定法のいずれかによって測定することができる。当該技術分野で周知の種々の方法または測定法はいずれも、標的特異的結合活性を決定するために使用し、適用することができる。このような方法および測定法には、例えば、標的分子と非標的分子との間の見かけ上の結合または相対的な結合が含まれる。定量的測定法および定性的測定法の両方を、このような見かけ上の結合または相対的な結合を測定するために使用することができる。結合測定の具体例には、例えば、競合結合アッセイ、タンパク質またはウェスタンブロット法、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴法、エバネッセント波法、フローサイトメトリー、および/または共焦点顕微鏡法が含まれる。
【0090】
さらに、アンタゴニスト標的特異的モノクローナル抗体またはアゴニスト標的特異的モノクローナル抗体の特異的結合は、例えば、細胞の機能または活性の変化を測定する方法を含めた上記または下記の方法のいずれかにより測定することもできる。細胞の機能または活性(例えば、増殖、分化、または他の生化学的機能および/または生理学的な機能)の変化を測定する方法は、当該技術分野で周知である。既述の結合アッセイと同様に、定量的測定法および定性的測定法はいずれも、1つ以上の細胞機能をアンタゴナイズまたはアゴナイズすることにおいて見かけ上の測定または相対的な測定を行うために使用することができる。
【0091】
本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体またはその機能的フラグメントは、さらにそれらの特異的な標的結合活性を維持しながら、種々の抗体形態のいずれかで産生することができ、および/または既述のような種々の方法のいずれかで変化させるまたは修飾することができる。標的特異的モノクローナル抗体またはその機能的フラグメントのこのような抗体形態、変化または修飾はいずれも(これらの組み合わせを含む)、生物医薬品として本発明の適用範囲内に含まれる。同様に、本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体またはその機能的フラグメントのこのような種々の抗体形態、変化または修飾はいずれも、本明細書に記載されるような本発明の方法、組成物および/または製品において使用することができる。例えば、本発明の標的特異的モノクローナル抗体またはその機能的フラグメントには、標的特異的なグラフト化、ヒト化、Fd、Fv、Fab、F(ab)2、(scFv)およびペプチボディモノクローナル抗体ならびにその他すべての既述の形態、変化および/または修飾、および当業者に周知の他の形態が含まれる。
【0092】
ハイブリドーマ技法を使用してハイブリドーマを産生し、標的特異的モノクローナル抗体のスクリーニングを行う方法は、日常的な方法であり、当該技術分野で周知である。例えば、マウスは、ポリペプチドなどの標的分子で免疫化することができ、免疫応答が検出されたら、例えば、標的分子に特異的な抗体がマウス血清中に検出されたら、マウスの脾臓を回収して、脾細胞を単離する。次いで、周知の方法でいずれかの適切な骨髄腫細胞(例えばATCCから入手可能な細胞株SP20由来の細胞)に脾細胞を融合する。ハイブリドーマは、限界希釈法により選択され、クローニングされる。次いで、標的分子を結合することができる抗体を分泌する細胞について、当該技術分野で既知の方法によりハイブリドーマクローンを検定する。一般的には高濃度の抗体を含有する腹水は、陽性ハイブリドーマクローンでマウスを免疫化することにより産生することができる。
【0093】
さらに、原核生物宿主または真核生物宿主における組換え発現を使用して、標的特異的モノクローナル抗体を産生することができる。組換え発現は、単一の標的特異的モノクローナル抗体種またはその機能的フラグメントを産生するために使用することができる。あるいは、組換え発現は、重鎖および軽鎖、または可変重鎖および可変軽鎖の組み合わせからなる多様なライブラリーを産生するために使用し、次いで標的分子に特異的な結合活性を示すモノクローナル抗体またはその機能的フラグメントについてスクリーニングすることもできる。例えば、当該技術分野で周知の方法を使用して、標的特異的モノクローナル抗体をコードする核酸から、重鎖および軽鎖、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメイン、またはその機能的フラグメントを共発現して、特異的モノクローナル抗体種を産生することができる。ライブラリーは、当該技術分野で周知の方法を使用して、重鎖および軽鎖、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメイン、またはその機能的フラグメントをコードする核酸の共発現群から産生して、標的特異的モノクローナル抗体を同定するために標的分子への親和性結合によりスクリーニングすることができる。このような方法は、例えば、Antibody Engineering:A Practical Guide,C.A.K.Borrebaeck,Ed.,supra;Huse et al.,Science 246:1275‐81(1989);Barbas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7978‐82(1991);Kang et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA 88:4363‐66(1991);Pluuckthun and Skerra,supra;Felici et al.,J.Mol.Biol.222:301‐310(1991);Lermer et al.,Science 258:1313‐14(1992);および米国特許第5,427,908号に記載されている。
【0094】
コーディング核酸のクローニングは、当業者に周知の方法を使用して達成することができる。同様に、VHおよび/またはVLをコードする核酸を含めたコーディング核酸の重鎖および/または軽鎖のレパートリーのクローニングもまた、当業者に周知の方法によって達成することができる。このような方法には、例えば、発現クローニング、相補的プローブによるハイブリダイゼーションスクリーニング法、相補的プライマー対を使用したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または相補的プライマーを使用したリガーゼ連鎖反応(LCR)、逆転写酵素PCR(RT‐PCR)などが含まれる。このような方法については、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(2001);およびAnsubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,Baltimore,MD(1999)に記載されている。
【0095】
コーディング核酸はまた、米国国立衛生研究所(NIH)の全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)によって運営されているものなどの全体のゲノムデータベースを含めた種々の公的なデータベースのいずれかより得ることができる。重鎖および/または軽鎖あるいはその機能的フラグメントの単一のコーディング核酸またはコーディング核酸のレパートリーのいずれかを単離する特に有用な方法は、コード領域部分についての特定の知識なくして遂行することができるが、それは、プライマーが入手できるか、あるいは抗体の可変領域部分または定常領域部分の保存部分を使用して容易に設計できるためである。例えば、コーディング核酸のレパートリーは、PCRとともにこのような領域の複数の縮重プライマーを使用してクローニングすることができる。このような方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、Huse et al.,supra;およびAntibody Engineering:A Practical Guide,C.A.K.Borrebaeck,Ed.,supraに記載されている。上記方法ならびに当該技術分野で既知の他の方法のいずれ(それらの組み合わせを含む)を使用しても、本発明の生物医薬品として使用する標的特異的モノクローナル抗体を産生することができる。
【0096】
そのため、本発明は、治療用ポリペプチドとして、抗体、抗体の機能的フラグメントを有する生物医薬品製剤を提供する。治療用ポリペプチドは、モノクローナル抗体、Fd、Fv、Fab、F(ab’)、F(ab)2、F(ab’)2、単鎖Fv(scFv)、キメラ抗体、二重抗体、三重抗体、四重抗体、ミニボディまたはペプチボディを含むことができる。
【0097】
本発明の製剤中に含める生物医薬品の濃度は、例えば、生物医薬品の活性、治療する適応症、投与様式、治療計画、ならびに液体形態または凍結乾燥形態のいずれの形態での長期保存を製剤が目的としているかに応じて変動する。当業者であれば、これらの周知の考慮事項および薬学における技術水準に鑑みて、使用する濃度を認識するであろう。例えば、広範な医療適用、投与様式および治療計画のために米国における治療用途に承認された生物医薬品は、80を超えている。これらの承認された生物医薬品は、本発明の生物医薬品製剤で使用することができる生物医薬品濃度の範囲の例である。
【0098】
一般的に、例えば治療用ポリペプチド生物医薬品を含めた生物医薬品は、約1〜200mg/mL、約10〜200mg/mL、約20〜180mg/mL、具体的には約30〜160mg/mL、より具体的には約40〜120mg/mL、さらにより具体的には約50〜100mg/mL、または約60〜80mg/mLの濃度で本発明の製剤中に含まれる。これらの範囲を下回るか上回る、あるいはその間の生物医薬品の濃度および/または量もまた、本発明の生物医薬品製剤で使用することができる。例えば、1つ以上の生物医薬品を、約1.0mg/mL未満を構成する生物医薬品製剤中に含めることができる。同様に、生物医薬品製剤は、特に保存のために配合される場合に、約200mg/mLを超える濃度の1つ以上の生物医薬品を含有することができる。したがって、実質的にいずれの所望の濃度または量(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、ll、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25,30、35、40,45、50、55、60,65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190または200mg/mL以上)の1つ以上の生物医薬品を含有する本発明の生物医薬品製剤でも産生することができる。以下の実施例で例示するのは、約10mg/mLの濃度を有する治療用ポリペプチドの生物医薬品製剤である。
【0099】
本発明の生物医薬品製剤はまた、製剤中に生物医薬品の組み合わせを含むこともできる。例えば、本発明の生物医薬品製剤は、1つ以上の病態を治療するための単一の生物医薬品を含むことができる。本発明の生物医薬品製剤はまた、複数の異なる生物医薬品を含むこともできる。本発明の製剤中での複数の生物医薬品の使用は、例えば、同一の適応症でもまたは異なる適応症でも対象とすることができる。同様に、複数の生物医薬品を本発明の製剤中で使用して、例えば、病態と、1次治療が原因となる1つ以上の副作用との両方を治療することができる。また、複数の生物医薬品を本発明の製剤中に含めて、例えば病態の進行の治療と監視とを同時に行うなど、異なる医療目的を達成することもできる。示唆された治療および/または診断のいくつかまたはすべてに単一の製剤で十分であることから、上に例示するものなどの複数の併用療法、ならびに当該技術分野で周知の他の併用は、特に罹患体の服薬遵守に有用である。当業者は、広範な併用療法のために混合され得るそれらの生物医薬品について知っているであろう。同様に、本発明の生物医薬品製剤はまた、低分子医薬品とともに使用することや、1つ以上の低分子医薬品とともに1つ以上の生物医薬品と併用することが可能である。そのため、本発明は、1、2、3、4、5または6種以上の生物医薬品ならびに1つ以上の低分子医薬品と併用した1つ以上の生物医薬品を含む本発明の生物医薬品製剤を提供する。
【0100】
また、本発明の生物医薬品製剤は、当該技術分野で周知の1つ以上の保存剤および/または添加剤を含むこともできる。同様に、本発明の生物医薬品製剤はさらに、種々の既知の送達製剤のいずれかに配合することもできる。例えば、本発明の生物医薬品製剤は、潤滑剤、乳化剤、懸濁化剤、安息香酸メチルやヒドロキシ安息香酸プロピルなどの保存剤、甘味剤および着香剤を含むことができる。このような任意の成分、それらの化学的特性および機能的特性は、当該技術分野で周知である。同様に、投与後の生物医薬品の迅速放出、持続放出または遅延放出を促進する製剤も、当該技術分野で周知である。本発明の生物医薬品製剤は、これらの製剤成分または当該技術分野で周知の他の製剤成分を含むように産生することができる。
【0101】
また、本発明の生物医薬品製剤は、例えば水性液体以外の状態で産生することもできる。既述の通り、プロピオン酸は、特定の他の弱酸よりも揮発性が低い。例えば、プロピオン酸塩は、28℃で3.3mm Hgの蒸気圧(VP)を有し、これは20℃で11mm HgのVPを有する酢酸塩よりも揮発性が低い。この揮発性の低さは、凍結乾燥製剤を調製する際に特に有用であり得ると企図されるが、それは、より多くの製剤成分を凍結乾燥プロセス中に維持することができるため、脱離のリスクを低下させることができるためである。
【0102】
本発明の生物医薬品製剤が本明細書に記載の通り調製されると、当該技術分野で周知の方法を使用して製剤の中に含まれる1つ以上の生物医薬品の安定性を評価することができる。このような方法のいくつかは、以下の実施例で詳細に例示されており、サイズ排除クロマトグラフィ、粒子計数法および重量オスモル濃度を含む。例えば結合活性、他の生物化学的活性および/または生理学的活性を含めた種々の機能アッセイのいずれかを複数の時点で評価して、本発明の緩衝製剤における生物医薬品の安定性を測定することができる。
【0103】
一般的に、本発明の生物医薬品製剤は、医薬品基準に従い、かつ医薬品グレードの試薬を使用して調製される。同様に一般的に、本発明の生物医薬品製剤は、無菌製造環境内で無菌試薬を使用して調製されるか、または調製後に滅菌される。無菌注射剤溶液は、例えば、本発明のプロピオン酸緩衝液または賦形剤における必要量の1つ以上の生物医薬品を、本明細書に記載の製剤成分の1つまたは組み合わせと組み合わせた後に、殺菌精密濾過を行うなど、当該技術分野で周知の手順を使用して調製することができる。無菌注射剤溶液の調製のための無菌粉剤の具体的な実施形態において、特に有用な調製方法には、例えば既述のような真空乾燥や冷凍乾燥(凍結乾燥)が含まれる。このような乾燥方法によって、すでに無菌濾過したその溶液からいずれかの更なる所望の成分とともに1つ以上の生物医薬品の粉剤が得られる。
【0104】
投与および投与計画は、最適な治療応答に有効な量を提供するように調整することができる。例えば、単一のボーラス投与を行うこともできれば、一定期間に複数回に分けて投与することもでき、あるいは治療状況の緊急性によって示される通りに用量を比例的に増減させることもできる。有効量の1つ以上の生物医薬品を投与する際の投与の容易さおよび投与量の均一性のために、単位用量形態における静脈内注射、非経口的注射または皮下注射用として本発明の生物医薬品製剤を配合するのが特に有用であり得る。単位投与量とは、治療する被験者のための単位投与量として適している医薬品の物理的に個別の量を指し、各単位は、所望の治療効果を生じるように算出される所定量の活性生物医薬品を含有する。
【0105】
更なる例として、有効量のポリペプチド生物医薬品(例えば治療用抗体やその機能的フラグメント)を、例えば、一定時間にわたり予定の間隔で複数回投与することもできる。ある実施形態において、治療用抗体は、少なくとも1ヵ月以上(例えば、少なくとも1、2、3ヵ月またはそれ以上)の期間にわたって投与される。慢性症状を治療するためには、一般的に長期の持続的治療が最も有効である。急性の症状を治療する場合は、例えば1〜6週間などのより短い投与期間で十分であり得る。一般的に、治療用抗体または他の生物医薬品は、選択された1つ以上の指標について罹患体がベースライン時よりも医学的に関連する程度の改善を示すまで投与される。
【0106】
選択する生物医薬品および治療する適応症に応じて、治療有効量とは、無治療被験者よりも、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%または60%以上、標的病態の少なくとも1つの症候を抑制するのに十分な量である。症候を抑制または阻害する生物医薬品製剤の能力は、例えばヒトにおける標的症状に対する有効性を予測する動物モデル系で評価することができる。あるいは、症候を抑制または阻害する生物医薬品製剤の能力は、例えばin vivoの治療活性を示す生物医薬品製剤のin vitro機能または活性を検討することにより評価することができる。
【0107】
本発明の生物医薬品製剤における1つ以上の生物医薬品の実際の投与量レベルは、罹患体に対する毒性を有することなく、特定の罹患体、製剤および投与様式に対して所望の治療効果を達成するのに有効な量の活性生物医薬品が得られるように変化させることができる。当業者であれば、被験者の体格、被験者の症候の重症度、選択した生物医薬品および/または投与経路などの因子に基づいて投与量を決定することができるであろう。選択投与量レベルは、例えば、使用する生物医薬品の活性、投与経路、投与時間、排泄率、治療期間、使用する特定の組成物と併用される他の薬剤、化合物および/または材料、治療する罹患体の年齢、性別、体重、病態、全身の健康状態、および既往歴、ならびに医学分野で周知の類似の因子などの種々の薬物動態学的因子に変動する。本発明の特定の実施形態は、本発明の生物医薬品製剤中の治療用ポリペプチド(例えば抗体やその機能的フラグメント)を、1日につき被験者の体重1kg当たり約1ng(1ng/kg/日)〜約10mg/kg/日、より具体的には約500ng/kg/日〜約5mg/kg/日、さらにより具体的には約5μg/kg/日〜約2mg/kg/日の抗体の投与量で被験者に投与することを含む。
【0108】
当該技術分野の技能を有する医師または獣医師であれば、必要な医薬品製剤の有効量を容易に決定および処方することができる。例えば、医師または獣医師は、所望の治療効果を達成するために必要とされる量よりも低いレベルで本発明の生物医薬品製剤の投与を開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を漸増させることができる。一般的に、本発明の生物医薬品製剤の適切な1日量は、治療効果を生じるのに有効な最低用量の生物医薬品の量である。このような有効量は、一般的に既述の因子により変動する。投与は静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与または皮下投与であるのが特に有用である。所望により、有効量の生物医薬品製剤を実現するのに有効な1日量は、場合により単位投与量で1日を通して適切な間隔で2、3、4、5、6回以上の分割用量が個別に投与されるように、投与することができる。
【0109】
本発明の生物医薬品製剤は、例えば当該技術分野で既知の医療装置で投与することができる。例えば、特に有用な実施形態において、本発明の生物医薬品製剤は、米国特許第5,399、163号、第5,383,851号、第5,312,335号、第5,064,413号、第4,941,880号、第4,790,824号、または第4,596,556号に記載される装置などの無針皮下注射装置で投与することができる。本発明において有用な周知のインプラントおよびモジュールの例には、制御速度で薬物を分注するための植込み型マイクロ注入ポンプについて記載する米国特許第4,487,603号;皮膚を通して薬物を投与するための治療用装置について記載する米国特許第4,486,194号;正確な注入速度で薬物を送達するための薬物注入ポンプについて記載する米国特許第4,447,233号;連続した薬物送達のための植込み型可変流注入装置について記載する米国特許第4,447,224号;マルチチャンバーコンパートメントを有する浸透圧性薬剤送達システムについて記載する米国特許第4,439,196号;ならびに浸透圧性薬剤送達システムについて記載する米国特許第4,475,196号が含まれる。その他多くのこのようなインプラント、送達系およびモジュールが当業者に既知である。
【0110】
特定の具体的な実施形態においては、in vivoでの選択的分配が容易になる本発明の製剤で使用する生物医薬品をさらに配合することができる。例えば、血液脳関門(BBB)は、多くの高親水化合物を排除する。所望によりBBBの通過を容易にするために、生物医薬品製剤はさらに、例えば、1つ以上の生物医薬品のカプセル化のためのリポソームも含むことができる。リポソームを製造する方法については、例えば、米国特許第4,522,811号、第5,374,548号、および第5,399,331号を参照されたい。リポソームはさらに、特定の細胞または臓器に選択的に移動し、それによって選択生物医薬品の標的送達を向上させる、1つ以上の部分も含有することができる(例えば、V.V.Ranade(1989)J.Clin.Pharmacol.29:685を参照)。例示的な標的部分には、葉酸塩またはビオチン(例えば、Low et al.の米国特許第5,416,016号を参照)、マンノシド(Umezawa et al.,(1988)Biochem.Biophys.Res.Commun.153:1038)、抗体(P.G.Bloeman et al.(1995)FEBS Lett.357:140;M.Owais et al.(1995)Antimicrob.Agents Chemother.39:180)、または界面活性剤タンパク質A受容体(Briscoe et al.(1995)Am.J.Physiol.1233:134)が含まれる。
【0111】
そのため、本発明は、生物医薬品製剤を調製する方法もさらに提供する。前記方法は、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液を有する水溶液と、賦形剤と、有効量の治療用ポリペプチドを有する界面活性剤とを組み合わせる手順を含む。本明細書に記載の生物医薬品製剤成分の1つ以上を、1つ以上の有効量の生物医薬品と組み合わせて、本発明の広範な製剤を産生することができる。
【0112】
さらに、約4.0〜約6.0のpHを有する約3〜20mMのプロピオン酸塩と、約1〜10%のソルビトールと、約0.001〜0.010%のポリソルベート20と、有効量の治療用ポリペプチドとを有する水溶液を含む生物医薬品製剤を含有する容器も提供される。簡潔に言うと、本発明の組成物、キットおよび/または薬物においては、本発明の製剤中の併用有効量の1つ以上の生物医薬品を、単一の容器または容器手段内に含めることもできれば、あるいは異なる容器または容器手段内に含めることもできる。場合によりイメージング成分を含めることができ、パッケージは、生物医薬品製剤を使用するための書面の説明書やウェブでアクセス可能な説明書を含むこともできる。容器または容器手段には、例えば、バイアル、ビン、注射器、あるいはマルチディスペンサーパッケージ用として当該技術分野で周知の種々の形式のいずれかが含まれる。
【0113】
本発明の種々の実施形態の活性に実質的に影響を及ぼさない改変もまた、本明細書で示す本発明の定義の中に包含されるものと理解される。したがって、以下の実施例は、本発明を例示することを目的としており、本発明を制限することを目的とはしていない。
【実施例】
【0114】
(実施例1) 緩衝水溶液のポリペプチド安定性の特性評価
本実施例では、ポリペプチド製剤の安定性に関する種々の製剤成分および製剤の特性評価について記載する。
【0115】
エプラツズマブ(Emab)は、骨髄腫細胞内に発現するヒト化組換えモノクローナル抗体(mAB)である。これは、9.12〜9.27の範囲のpIを有し、非ホジキンリンパ腫(NHL)に対する治療効果を有することが示されている。Emabは、大部分のB細胞NHLによって発現するB細胞表面抗原であるCD22を結合する。CD22は、B細胞受容体によるB細胞活性化の調節に関与すると思われる。
【0116】
Emabは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS;40mMリン酸ナトリウム(pH7.4)、140mMのNaCl;Immunomedics,Inc.、米国ニュージャージー州モリスプレーンズ)中で配合される場合に、不溶性粒子を形成する傾向を示す。現在、72mL(10mg/mL)の平均用量がIV注射を介して罹患体に投与されており、その投与は約1時間にわたって行うことができる。粒子を形成する傾向があるため、IV注射時にインラインフィルタを使用することが必要である。本実施例では、Emabの安定性の維持を増大させ、かつ粒子形成量を減少させる生物医薬品製剤の生成および特性評価について記載する。Emabに関する生物医薬品製剤の特性評価は、他のポリペプチドおよび生物医薬品の例である。
【0117】
本明細書に記載の製剤試験は、(1)製剤化前の特性評価、(2)製剤の最適化、および(3)安定性の維持を増大させる製剤の選択、という3つの主要分野を対象とする。簡潔に言うと、製剤化前とは、安定した生成物をもたらす最適なpH、緩衝液、賦形剤および塩の条件の特性評価を指す。pHの最適化は、バイアルにおける短期間の加速試験を実施してpH条件の関数として不安定性を確認および解読することに加えて、示差走査熱量測定(DSC)を使用して融解温度の挙動(Tm)の分布を測定することを含む。製剤の最適化は、製剤中の主要な賦形剤または安定化剤組成物を最適化し、適切な容器でのリアルタイム安定性試験、ならびに病院でまたは商業生産のために使用される密封表示を評価するのに有益な特性を有する候補を選択する手順を含む。リアルタイムとは、生物医薬生成物が保存される推奨温度条件(一般的には冷凍条件)での評価を指す。最後に、選択プロセスとは、リアルタイム条件下で最長2年間の安定性を増進する特性の内で最大の組み合わせをもたらす適切な剤形において3種以上の候補を選択する手順を指す。
【0118】
製剤化前の試験の予備的所見を基に、−80℃、2〜8℃(リアルタイム)および37℃(加速)の条件での長期安定性評価のために3つの候補製剤を選択した。これらの候補製剤の特性評価は、6ヵ月時点における結果を参照しながら以下に例示する。また、長期条件、リアルタイム条件および加速条件の結果も、以下に例示する。
【0119】
製剤化前の結果
示差走査熱量測定(DSC)熱的加熱試験を使用して、例示的なEmabポリペプチドの安定性の最適pHプロファイルを評価した。簡潔に言うと、pH3.5〜11の範囲を有するポリペプチド緩衝液中のEmabでこれらのDSC試験を行った。高い相対融解温度(Tm)は、ポリペプチド内の立体配座安定性の領域を示す(Remmele,R.L.,Jr.,(2005)“Microcalorimetic Approaches to Biopharmaceutical Development”,in Analytical Techniques for Biopharmaceutical Development(Rodriguez‐Diaz,R.,Wehr,T.,Tuck,S.,eds.),Marcel/Dekker,New York,NY,pp.327‐381(ISBN:0‐8247‐0706‐0))。
【0120】
DSCの結果により、最も顕著なDSCピークで最高のTmとなる緩衝液条件に関連した最適pHの範囲がpH6〜9であることが示された。最高のTmの条件はpH6で得られた。これらの結果により、このpH6〜9の範囲内でポリペプチド立体配座が最も安定しており、変性しにくいことが示されている。
【0121】
pH条件の試験範囲内で認められた分解の形態および種類の特性評価を行うために、加速安定性試験を行った。簡潔に言うと、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)を使用して特定のpHおよび例えば37℃で加速安定性試験を行った。タンデム型のTosoHaas G3000SWxlデュアルカラムを使用して、50mMのリン酸塩(pH7)、250mMのNaClおよび5%のエタノールからなる移動相を使用した解析を行った。
【0122】
試料をそれぞれの試験対象の製剤内に透析し、無菌容器内に無菌濾過した。約2mL量の各配合試料を無菌フード内の3mLの無菌ガラスバイアル内に入れ、栓をした。凍結用に指定した試料を、無菌のポリプロピレンクリオチューブ内に入れた。すべてのバイアルにラベルを付け、キャップを付けた後、−80℃、2〜8℃および37℃の条件での保存用に指定した箱の中に入れた。指定した時点で試料を取り出し、解析した。
【0123】
異なる形態の試料を定量評価し、それらの流体力学的体積に基づいて選別することができた。例示的な結果を図1に示したが、これらの結果により、37℃で1ヵ月間の加熱中に可溶性凝集体(HMWと指定)および低分子量フラグメント(LMW1およびLMW2と指定)の増加が示されている。HMWピークはメインピークの二量体または無損傷の抗体であり、その特徴はすでに記載されている(Remmele, et al.,(2006)Active dimer of Epratuzumab provides insight into the complex nature of an antibody aggregate.;J Pharm Sci.2006 Jan;95(1):126‐145)。
【0124】
高分子量(HMW)および低分子量(LMW)の不安定性経路に対するpHおよび緩衝液の影響を、HMWフラグメントおよびLMWフラグメントの形成をpHの関数としてプロットすることにより評価した。HMWの結果を図2に示したが、これらの結果により、pH3.5〜5での可溶性凝集体の形成の激減が示されている。pH5を超えるpHの上昇では、DSCにより決定される上述のTm最適条件の範囲内で凝集体の形成が少なくかつ比較的均一であることが示された。また、図2により、異なる緩衝液間の差がほとんどなく、HMW種の形成に関連した有益性が得られたことも示されている。
【0125】
図3では、pH条件に関するLMW1の作用と、ポリペプチドがフラグメントになる傾向に対する種々の緩衝液の影響とが示されている。図示の通り、より高いpH条件よりもpH3.5〜5においての方がフラグメンテーションの量が多いことが認められた。しかし、スクリーニングした緩衝液の一部、特に、例えばコハク酸塩およびリン酸塩では、フラグメンテーションプロセスが増大したように思われた。分解に対する安定化に対する影響に関して最も効果があるものから最も効果がないものまでの順位は、以下の通りとなる。
クエン酸塩→ヒスチジン→[トリス〜酢酸塩]→[リン酸塩〜コハク酸塩]。
【0126】
同じ評価をLMW2フラグメントにも行った。その結果を図4に示したが、これらの結果により、HMWおよびLMW1の形態においても同様のpH作用が認められたことが示されている。例えば、ポリペプチドのフラグメンテーションはpH5〜8の範囲内で最小になる。同様に、試験した緩衝液系の間に差はほとんど見られなかった。他の試験では、銅などの2価金属を含むことによってLMW種の形成が誘発されることが明らかになった。
【0127】
また、以下で詳述する通り、最適なポリペプチド安定性特性について種々の賦形剤の予備的スクリーニングを行った。簡潔に言うと、Emab試料をPBS中で配合し、濃縮して、23種の1次緩衝液中に透析した後、所望の体積に希釈した。そして選択した製剤中で5mM以下の異なる終濃度に達するようにEDTAを添加した。その後試料を無菌濾過し、2mLの容量を無菌フード内の5ccの無菌ガラスバイアル内に入れた。すべてのバイアルに栓をし、ラベルを付け、キャップを付けた後、4℃および37℃での保存用に指定した箱の中に入れた。指定した時点で試料を取り出し、解析した。
【0128】
図5には、37℃で評価された18種類の賦形剤の効果が示されている。グリセロールは、HMW種全体の約51%を生成し、最も不安定であることが明らかになった。グリシンおよびチオ硫酸ナトリウムは、その次に不安定であった。グリシン製剤によって、HMW種全体の約3%が、メインピークの低下につながる約5%の分解を生じた。一方で、チオ硫酸塩は、試料のメインピーク低下のほとんどの原因となる約8%の分解を示した。最も安定した賦形剤としては、マンニトール、L‐アルギニン、L‐リジン、ソルビトール、スクロース、Tween‐80およびTween‐20が挙げられた。残りの賦形剤は、互いに比較してもほとんど変化が見られなかった。本試験で使用した賦形剤濃度を、以下の表1に列挙する。
【0129】
【表1】
Emabおよび他のポリペプチドに関連する1つの特性としては、肉眼不可視の不溶性粒子が発生することがある。これに関連して、ポリペプチド粒子とは、例えばポリペプチドのフラグメントまたは凝集体を指し、可溶性および/または不溶性であってよい。さらに、粒子は、異物である物質(すなわち、ガラスの破片、繊維くず、ゴム栓の小片)から構成されてもよく、必ずしもポリペプチドから構成されなくてもよい。可溶性の粒子は、例えば、SECなどの方法を使用して評価することができる。不溶性の粒子は、例えば、液体粒子計数法や比濁法(実験的光散乱法)などの方法を使用して評価することができる。一般的に、粗大粒子は1.0μm超のサイズを有する粒子として類別されるが、考察対象の微粒子は大きさがより小さい。HIAC装置を備えたLD‐400レーザシステム(スイス ジュネーブ)を使用して、2〜400μmの粒径を測定することができる。
【0130】
図1に関してすでに示したように、Emabの水溶液はまた、不溶性粒子の形成に加えて、LMW1およびLMW2と指定した2つの主要な種類への分解またはフラグメンテーションも生じる。分解生成物は、LMW2へのLMW1の相互依存性(LMW2に対するLMW1の変化率)を示す相関性プロットによって特性評価することができる。このようなプロットを、種々の異なる溶液環境での上記のSEC試験から得られたインキュベーション(37℃で2週間)の前と後のピーク面積差を示す各指定ピークの変化が示される場所に作成した。また、相関性プロットにおけるデータの線形最小二乗適合により定義される直線によって予測されるものから、データ点の残りの分布を示す散布図も作成した。この相関性プロットは、LMW1=2.17399(LMW2)+0.6776(p<0.0001)およびr2=0.946を示した。0.5155の平均応答が得られた。分解フラグメントが認められたEmab切断部位の特性を評価し、ポリペプチド配列(S218CDKTHTC225)内の連続した6つのクリップ部位が認められた。
【0131】
また、予備的な安定性試験を行って、ポリペプチド製剤に最適な緩衝液成分および条件の特性評価を行った。簡潔に言うと、ポリペプチドの安定性に最適な安定性を付与するように特定した成分および緩衝液条件を組み合わせた上述の製剤化前試験に基づいて、最初の製剤を選択した。これらの最初の製剤を、すでに多少の安定化の影響をもたらすことが明らかにされた、Emabの現在の製剤である10mM酢酸ナトリウム(pH5)、5%ソルビトール製剤(A5S製剤)と比較した。また、最適な製剤の候補も選択したが、これは、20mMのリン酸ナトリウム(pH6)、25mMのL‐アルギニン、1%のスクロース、4%のマンニトールおよび0.02%のTween‐20(PASMT製剤)から構成されていた。この最適な製剤の候補は、DSCプロファイルによって記述された最適なpHの範囲の緩衝能を提供し;最終的に粒子形成を生じる水/空気界面誘発凝集に対して安定化をもたらす界面活性剤である、Tween‐20を含み;凍結乾燥を可能にする正確な割合のマンニトールおよびスクロース安定化剤を有していた。すべての配合試料をリアルタイムおよび加速安定性試験に供し、以下に詳述するような生成物の安定性に対する熱応力の影響を評価した。
【0132】
不溶性粒子の形成を、液体粒子計数法を使用して最初の製剤のそれぞれについて評価した。HIAC粒子計数器は、特定のEmab試料中に存在する10μmおよび25μm粒子を測定するために必要なPharmSpecソフトウェア バージョン1.4を備えていた。使用した方法は、粒子の評価および品質に関するUSPの基準に対応した手順に従った。濾過水(0.22ミクロン)を、1.0mLの体積を使用してステンレス鋼チューブで抜き取り、試料測定の間に約10回フラッシングした。Duke ScientificのEZY‐CAL液体粒子10μm径標準品を使用して、前記機器の適切なキャリブレーションを確認した。試料測定および標準品測定はいずれも0.2mLの体積で行い、4回抜き取り、最初のものを廃棄して、最後の2つまたは3つを平均した。試料を最初のバイアルから抜き取り、測定前に各試料を緩徐にかき混ぜ、溶液の混合が均一になるようにした。測定前に標準品を激しく振盪した。
【0133】
HIAC粒子数測定の結果を図6および図7に示す。図6に示すデータは1mL当たりの基準で測定した評価を示しており、図7のデータは単位用量当たりの粒子の評価を示している。後者の場合、算出には72mLの平均用量を使用した。図7のデータは、試験するすべての温度条件でPBS製剤中に配合された試料が10μm超のUSP基準(6000個未満の粒子)を満たさなかったが、加速条件(37℃)のPBS試料のみが25μm超の基準(600個未満の粒子)を満たさなかったことを示している。25μm超の基準を満たさなかった同じ製剤中の2〜8℃の冷凍試料とは対照的に、PASMT中に配合された加速条件の試料は10μm超の基準を満たさなかった。A5S製剤は、−80℃で凍結した場合にいずれの粒子数測定のUSP基準も満たさなかった。この後者の結果により、Emabは、−80℃で一定期間保存した場合に、不溶性粒子を生じる不安定性の影響を受けやすいことが示されている。そのため、A5Sは、2〜8℃および加速条件で良好な製剤となるものの、−80℃の長期保存では不良な製剤となる。
【0134】
また、最初の製剤でSECを行い、可溶性粒子の形成も評価した。その結果を図8に示したが、これらの結果では、試験したいくつかの製剤に不適合の結果が認められた。例えば、A5S製剤の二量体含有量は−80℃で少なかったが、HIACデータにより、不溶性粒子を形成する傾向が示された(図7を参照)。PASMT製剤は37℃で最も可溶性の高い二量体を示したが、不溶性粒子に関して同じ条件のPBS製剤よりも良好な結果を示した。PASMT製剤は、可溶性粒子および不溶性粒子の両方において−80℃で最高の総合的安定性を生じたが、A5S製剤は、可溶性粒子および不溶性粒子の加速条件およびリアルタイム条件で最も良好になった。これらの結果により、異なる機序が、粒子、ならびに二量体含有量に対するそれらの関係において役割を果たす可能性があることが示されている。要約すると、A5S製剤は、加速条件またはリアルタイム条件で保存した場合に粒子に対する優れた保護をもたらしたが、Emabを凍結すにはあまり有利なものではなかった。
【0135】
図1に関して既述の通り、ポリペプチドのフラグメンテーションを、顕著なLMW1ピーク面積の変化に関して評価することができる。LMW1のフラグメンテーションはLMW2ピークに直接関連するため、相関性および散布図に関して既述の通り、フラグメンテーションの傾向についてもまた、このピークのみに基づいて特性評価することができる。しかし、解析したすべてのSECピークの結果を、以下の表2に列挙する。
【0136】
【表2】
上記の結果では、加速試料の中でPBS製剤が6ヵ月の期間において最も大きな分解を示し、次いでA5S、最後にPASMT製剤の順に分解を示したことが示されている。フラグメンテーション反応はpH条件に関連する可能性がある。例えば、pHおよび賦形剤の両方がフラグメンテーション速度を生じさせたと思われた。一般的に、試験製剤におけるpH5、6および7の条件の中で、pH6がフラグメンテーションを最小限に抑えることにおいてより有利であり(以下に詳述)、このことにより、pH6前後の条件が分解を最小限に抑えるのに最適であり得ることが示唆されている。このフラグメンテーション作用を、6ヵ月のインキュベーション期間に37℃で試験した3種の製剤について図9にまとめた。試験製剤における賦形剤の役割およびフラグメンテーション反応に対するその影響に関して、pH6のPASMT製剤で生じたフラグメンテーションは、A5S製剤よりも小さいものであった。フラグメンテーションに対する賦形剤の更なる影響については、以下に詳述する。
【0137】
2ヵ月目の37℃でのPBS製剤におけるフラグメントの切断部位を単離し、LC/MSによって特性評価した。最初の結果により、フラグメントは抗体のヒンジ領域から生じ、連続した切断部位がペプチド配列S218CDKTHTC225内で生じたことが示された(上述の相関性および散布図の説明を参照)。
【0138】
また、LMW1、LMW2およびHMW粒子の生物活性についても特性評価を行った。簡潔に言うと、二量体および単量体の試料の活性を検討するために、Emabの力価を測定する細胞ベースのバイオアッセイを使用した。Emabに対するRamos Bリンパ腫細胞株の曝露は、24時間後にアポトーシスを生じ、その後72時間後に生存細胞の減少を生じる。一定期間の生存細胞含有量の減少は、Alamar Blue蛍光試薬を使用して測定することができる。異なる濃度のEmabを96ウェル免疫プレートに固定し、その後固定量の抗IgMと、ウェル1個当たり2500個の細胞からなるRamos細胞とを付加した。試料プレートを37℃で64時間インキュベートした後、20μLのAlamar Blueを添加し、37℃でさらに6時間の更なるインキュベーションを行い、その後蛍光プレートリーダー(CytoFluor II、PerSeptive Biosystems)を使用して蛍光測定を行った。Alamar Blue蛍光放射強度を595nmで測定(535nmで励起)したが、これは生存細胞数に比例し、生物活性を有するEmabの濃度に反比例する。活性は、以下の式を使用してパーセントで表した:
相対力価(%)=[(試料活性)/(標準品活性)]×100
(式中、試料活性は、パーセントで表す単量体タンパク質(または標準品)全体で予想される活性と比較される)。この方法を使用して測定した試料の相対力価は、細胞ベースのCD‐22結合アッセイによって得られた相対力価と同等であることが明らかになった。測定精度は90%を超えており、室内再現精度(CV)は約10%であった。バイオアッセイの特異性は、他のmAb生成物(リツキシマブ、抗IFNγおよび抗IL‐1R1)に対する効果の欠如を示すことにより示された。LMW1のフラグメントに関しては、このフラグメント種の活性の有意な低下が結果より示されている。
【0139】
また、ポリペプチド粒子の電荷変動における変化を、陽イオン交換クロマトグラフィ(CEX)によって測定した。簡潔に言うと、当該技術分野で既知のカチオン交換方法を使用してEmabを評価した。この方法により、pH7での線形塩濃度勾配およびDionex弱カチオン交換カラム(WCX‐10;米国カリフォルニア州サニーヴェール)を使用し、タンパク質表面電荷差を基に主要なC末端リジンアイソフォームを分離した。
【0140】
3種類の保存条件に関する重畳CEXデータを図10に示したが、これらのデータは、電荷の異なる3種類の種の溶出プロファイルの変化を示している。3種類の荷電種は、約20分(0K)、22分(1K)および25分(2K)溶出する主要なC末端のリジンアイソフォームに割り当てることができる。0K、1Kおよび2Kの呼称は、無損傷の重鎖C末端リジンの数を指す。保存の安定性条件に伴う温度ストレスから生じる明らかな変化もまた、図10に明らかにする。加速条件下のポリペプチドの安定性は、おそらくポリペプチドの電荷状態を変化させるアミド分解および他の化学修飾のために、新しいピークを形成し、ピークの広がりを全体的に増大させる傾向を示す。
【0141】
3つの製剤の全体的な能力を比較すると、A5S製剤およびPASMT製剤の方がPBS製剤よりも良好なポリペプチド安定性を達成したことが結果より示されている。例えば、PBS製剤は、2〜8℃の試料の0Kのピーク前に肩部を示し始める。A5S製剤は、37℃にてPASMT製剤よりも大きな鮮鋭度(より鋭いピーク)を示した。
【0142】
また、試料の活性を、既述のバイオアッセイで評価した。これらの結果を以下の表3に示す。一般的に、−80℃および2〜8℃の試料は、活性のいかなる有意な低下も示さなかった。37℃に維持した試料は、最大の活性低下を示すPBS製剤との活性の低下を示した。PASMT製剤の活性はA5S製剤と同様であり、A5S製剤の方がわずかに良好な性能を示した。−80℃で保存したA5S製剤中に不溶性粒子が形成されたにもかかわらず(図7を参照)、付随する活性の低下に関して有意な影響が認められなかった。この結果は、不溶性粒子を構成するポリペプチドの全体濃度の分画が無視できるほどのものであることが理由である。この所見は、同様に−80℃で保存したPBS配合生成物の所見にも等しく適用することができる。これらの結果により、インラインフィルタを使用した粒子の除去が力価に対してほとんど影響を与えないことが示されている。さらにまた、これらの結果により、A5SやPBSなどの生成物製剤は、不溶性粒子の形成を最小限に抑える場合に、凍結して保存する必要がないことも示されている。むしろ、これらの溶液はいずれも、2〜8℃で保存する場合により高い安定性を維持すると考えられる。凍結バルク溶液を必要とする場合は、凍結状態で安定化特性を付与する他の賦形剤(すなわち、スクロース、トレハロース)も含めることを考慮する必要がある。
【0143】
【表3】
また、選択製剤で生じたポリペプチドの酸化およびアミド分解の程度も評価した。簡潔に言うと、pH5およびpH7で0.7%のTBHP(酸化剤)に曝露されたLys‐C消化試料の逆相HPLC/MSデータを、当該技術分野で周知の方法を使用して評価し、酸化したメチオニン残基を有するLys‐Cペプチドに関連した溶出バンドを測定した。これらの結果は表4にまとめられており、メチオニン残基(Met357(重鎖)、Met427(重鎖)、Met21(軽鎖)およびMet251(軽鎖))が酸化したことを示している。また、それぞれの酸化したメチオニンの酸化率についても、表4に列挙する。アミド分解に関しては、脱アミノ化されたことが明らかにされた軽鎖のGln110で同定された部位が1箇所存在した。
【0144】
【表4】
賦形剤のスクリーニングおよび最適化試験
既述の予備的な賦形剤最適化試験を含め、5〜6の間のpH領域に焦点を当てた合計68の製剤の特性評価を行った。加速条件下の試験を、37℃で4週間評価した。更なる緩衝化合物も考慮されており、これにはヒスチジン、酢酸塩および燐酸塩(pH6)が含まれていた。評価した糖は、スクロース、ソルビトールおよびグルコースであった。EDTAがフラグメンテーションまたは分解を最小限に抑えるのに有用であるという一部の証拠により、既述のような製剤中にこれを含める(1、2および5mMの濃度で)ことが正当化された。さらに、様々な量のNaClについても調べた。
【0145】
二量体のピークの形成に影響を及ぼす場合(すなわち可溶性凝集体)のpHおよびEDTAパラメータの統計学的評価を、図11に示す。これらの結果により、pH5〜6で二量体の形成が最小限に抑制されることもさらに示されている。EDTAが増加すると、二量体の形成が増大する傾向があった。
【0146】
また、上記の結果により、二量体の形成が不溶性粒子の形成に関与し得ることも示されている。この関係に取り組むため、製剤の濁度を測定することによって二量体形成における変化を測定した。簡潔に言うと、Chemstation Instrument 1ソフトウェアを搭載した「St.Pauli」845× HP Agilent紫外可視分光光度計を濁度測定に使用した。Emabの濁度がブランクと比較した吸光度の増加として測定した場合に、400nmの固定波長(タンパク質吸光度バンドの明瞭部)で試料を評価した。すべての試料測定値を、石英キュベット内において500μLの体積で計測した。IN SPEC標準品での測定前に、IN SPECバックグランド溶液を使用して、標準溶液のバックグランド補償を行った。IN SPEC標準品それぞれで5つの連続した測定値を得た。コースターゲル充填チップを装着した200μLのエッペンドルフピペットを使用して、次の測定の間にキュベットから溶液を抽出した。標準化後、キュベットを取り除き、キュベット洗浄器(NSG Precision Cells,Inc.(米国ニューヨーク州ファーミンデール)製の単細胞洗浄器)で0.22ミクロンの濾過水により洗浄した後、圧縮窒素ガスで乾燥させた。いずれの場合でも対応する緩衝液でシステムをブランキングした点を除き、同じ方法で試料測定を行った。各製剤の測定の間には、キュベットの洗浄を常に行った。
【0147】
図12には、SECおよび濁度で測定した二量体濃度における変化の統計解析が示されている。この解析により、可溶性の二量体と粒子形成との間に弱い相関性が示されているが、これは、二量体の形成が増加することにより濁度も上昇したためである。弱い相関性のみが認められることは、3種類の異なる形態の二量体が存在し、いずれか1つの形態の群が溶解度において異なる影響を受ける可能性があるという事実によって説明することができる。
【0148】
ポリペプチド分解に影響を与える成分および傾向も同様に解析した。フラグメンテーションに影響を及ぼす賦形剤の特性に関しては、いくつかの傾向が認められた。例えば、フラグメンテーションに対するNaClおよびEDTAの影響を調べた。これらの結果により、NaClは、SECのLMW1ピークで測定されるフラグメンテーションに対するポリペプチドの安定性を促進しなかったことが示されている。EDTAには、NaClによってもたらされたいずれかの不安定性を低下させる作用がいくらかあった。さらにこれらの結果により、NaClは避ける必要があるのに対して、EDTAは、分解に対する安定化のために含めるのが適切な賦形剤であることも示されている。試験製剤から得られたデータとの相関性はr2=0.47であったが、この傾向は、広範囲の製剤および異なる条件にわたって一様であると思われた。さらに、2価の金属イオン(すなわちFe、Cu)の役割を調べる他の試験によっても、EDTAは、分解反応速度を低下させる有益性をいくらか提供することが示されている。
【0149】
同様に、NaClおよびEDTAの上述の傾向プロットを使用した、pHによるフラグメンテーションの影響の考察によって、pH6がpH5よりも好ましいことが示された。この結果は、二量体形成に対するpHの影響とは異なる(図11を参照)。そのため、二量体形成を最小限に抑える製剤条件には多少のトレードオフが必要となる。というのも、これは分解に対するpHの影響に関係するためである。二量体形成およびフラグメンテーションの両方の低下は、例えば、EDTAなどの他の成分を導入し、pHを5.5に変化させることによって達成することができる。
【0150】
さらに、撹拌試験により製剤の安定性を評価した。上述の加速試験から認められた傾向に基づいて、4つの製剤セットを選択して、激しい攪拌条件で、48時間にわたり、室温(約23℃)と冷凍(2〜8℃)の両条件にて安定化を調べた。製剤には、(1)A5S(10mM酢酸塩(pH5)、5%ソルビトール)、(2)A5Su(10mM酢酸塩(pH5)、5%スクロース)、(3)A5.5S(10mM酢酸塩(pH5.5)、5%ソルビトール)、および(4)A5.5Su(10mM酢酸塩(pH5.5)、5%スクロース)が含まれていた。さらに、界面活性剤の影響を評価するため、Tween‐20またはTween‐80のいずれかを、0、0.005%、0.01%または0.02%の量で添加した。また、界面活性剤に加えて、EDTAも1mMの濃度で評価した。
【0151】
簡潔に言うと、これらの試験に使用したEmab材料を、最初にPBS中で配合した。試料は、ミリポアの実験室規模のTFFシステム(UF/DF)を使用して、それぞれの製剤に緩衝液交換を行った。出発材料は、約11.6mg/mLの350mLであった。約1.5〜2リットルのA5S(10mM酢酸ナトリウム、pH5および5%ソルビトール)、A5Su(10mM酢酸ナトリウム、pH5および5%スクロース)、A55S(10mM酢酸ナトリウム、pH5.5および5%ソルビトール)およびA55Su(10mM酢酸ナトリウム、pH5.5および5%のスクロース)の緩衝液を、UF/DFプロセスに使用した。所望の終濃度に達するように、適切な量のTweenおよびEDTAを各製剤に添加した。2mLの各無菌濾過製剤を、無菌フード内の5ccの無菌ガラスバイアルに分注した。すべてのバイアルにキャップを付け、ラベルを付けて、4℃および37℃で保存した。試料を、室温または2〜8℃のいずれかにて350rpmで激しく振盪した後(Signature Orbital Shaker、モデルDS‐500)、指定の時点で取り除き、解析した。粒子形成は、既述のようなHIAC機器を使用して肉眼不可視の粒子法で測定した。
【0152】
これらの撹拌試験の結果を、相関性および傾向プロットを使用して解析し、粒子が10ミクロン以上の直径であることを考慮して粒子粒度分布(HIACに基づく)の関数として濁度を示した(A400を使用して測定)。室温で48時間後に得られたデータによる相関解析によって、r2=0.80、p<0.0001が示された。これらの結果により、対応する傾向プロットとの合理的な相関性も示された。混濁状の粒子がまたHIAC機器の光を比例的に塞ぐため、いくつかの外れ値が特定された。
【0153】
10μm以上のHIAC粒子数測定と、界面活性剤、pHおよびEDTAの影響との間の傾向の結果は、図13に示されているが、これは、pHおよびEDTAの傾向が試験範囲全体にわたってむしろ平坦である(pH5および5.5、0および1mMのEDTA)ことを示している。界面活性剤に関する弱い相関性が認められた。いずれかの界面活性剤を含有する試料は同様の傾向を示しており、界面活性剤の含むことが不溶性粒子の形成の遅延に有益であることを示した。これに対して、いかなる界面活性剤も含有しないすべての試料が、白い塊や様々なサイズの明瞭な白い粒子を示したのに対して、大部分の界面活性剤含有試料においては、粒子のいずれの徴候も認めることが困難であった。そのため、界面活性剤を含むことは粒子の減少に有益であるが、製剤中のEDTAの包含またはpHは、試験範囲内で、不溶性粒子の形成に対して明らかな影響を及ぼすことなく変化した。
【0154】
ポリペプチドの安定性の維持を増大させる製剤の選択
上記の製剤化前試験および最適化試験は、ポリペプチド安定性の維持に好都合な特徴を示す4つの候補製剤の選択を導き出すものである。簡潔に言うと、候補によって網羅される最適なpH範囲はpH5〜5.5である。この範囲内の緩衝能を、一般的な酢酸緩衝液を使用して予備的に試験した。EDTAは、分解の抑制に関していくらかの有益性を有することが示されており、候補製剤の選択において含まれていた。撹拌の結果に基づき、粒状形成を最低限に抑えるにはTween‐20やTween‐80などの界面活性剤を含める必要があることが判明した。スクロースおよびソルビトールは同様の特性を示したものの、スクロースは、フルクトース不耐症罹患体のための製剤において有益であり得る性質をいくらか有する。また、スクロースは、ソルビトールよりもTg’が高いため、長期の凍結保存用として設計された製剤において有益であり得る。また、9%のスクロースも、血清との等張性(すなわち、約300±/−50mOsm/kg)を達成するために使用することができる。これらの結果および考慮事項に基づき、以下の4種の製剤が、ポリペプチドの安定性維持を促進する製剤であることが判明した。
1. pKa4〜6(pH5)、5%ソルビトール、0.005% Tween‐20を有する10mM緩衝液
2. pKa4〜6(pH5)、9%スクロース、0.005% Tween‐80を有する10mM緩衝液
3. pKa4〜6(pH5)、9%スクロース、0.005% Tween‐80、1mM EDTAを有する10mM緩衝液
4. pKa4〜6(pH5.5)、9%スクロース、0.005% Tween‐80、1mM EDTAを有する10mM緩衝液。
【0155】
(実施例II) プロピオン酸塩緩衝化水溶液のポリペプチドの安定性
本実施例により、プロピオン酸生物医薬品製剤である治療用ポリペプチドは、長期安定性を示すことが示される。
【0156】
4〜6の範囲のpKaを有する種々の緩衝液の安定化能を調べるため、実施例Iで特定した候補製剤および特徴に基づいて、種々の製剤を調製した。比較した緩衝液には、プロピオン酸塩、コハク酸塩、および酢酸塩が含まれていた。各製剤の成分を以下の表5に示す。Emabを出発材料として使用し、これらの緩衝液の比較に使用したすべての方法を、実施例Iに記載の通り実施した。これらの比較結果を以下に詳述するとともに、図14〜16に示した。
【0157】
【表5】
プロピオン酸塩緩衝液を、他の製剤との比較のために選択した。プロピオン酸またはプロピオン酸塩は、所望のpKa範囲4〜6内で最適な緩衝能を示す。長期のpH安定性と、プロピオン酸塩製剤中で調製したEmabの安定性とを測定して、プロピオン酸塩緩衝製剤の安定性を評価した。ポリペプチド粒子またはフラグメントの形成を、実施例Iに記載したSEC、HIAC機器を使用した液体粒子測定法、重量オスモル濃度およびゲル電気泳動法によって、ならびに当該技術分野で周知の方法により測定した。
【0158】
表5に記載した酢酸緩衝液(A5ST)と比較したプロピオン酸塩緩衝液(Pr5ST)のpH安定性は、2種類のポリペプチド濃度(1および10mg/mL)について図14に示されている。使用した界面活性剤の濃度は0.004%であった。これらの結果では、ポリペプチド濃度毎に両緩衝液の長期かつ同等のpH安定性が示されている。
【0159】
また、プロピオン酸塩緩衝液により配合したポリペプチドの安定性を、加速条件下で他の緩衝液と比較した。これらの安定性の評価は、SECから溶出する材料について図15に示されており、液体粒子の形成などの他の測定法において得られた結果を代表するものである。表5に記載した3種の緩衝液すべてを、1mg/mLおよび10mg/mLのポリペプチド濃度を使用し、緩衝液の能力について比較した。図15に示す緩衝液の命名法は、以下の通りである:Pr=プロピオン酸塩;S=コハク酸塩、およびA=酢酸塩;Naは、プロピオン酸ナトリウム(例えばプロピオン酸Na)などの酸の塩形態を表す。これらの結果により、両ポリペプチド濃度のプロピオン酸塩緩衝製剤がポリペプチドの安定性の維持をもたらしたことが示されている。
【0160】
さらに、プロピオン酸塩緩衝液によって配合したポリペプチドの安定性を、冷凍条件(4℃)下で他の緩衝液と比較した。これらの安定性の測定も、SECから溶出する材料について図16に示されており、同様に、他の測定法において得られた結果を代表するものである。加速条件下で評価した製剤と同様に、表5に記載した3種の緩衝液のすべてを、1mg/mLおよび10mg/mLのポリペプチド濃度を使用し、ポリペプチドの安定性能力について比較した。図16に示す緩衝液の命名法はまた、図15について上述したものと同じである。37℃におけるより高温の評価と比べると、4℃で得られた結果は、実施例Iに既述した製剤の特徴と一致する比較的軽微な差が製剤間で示されている。
【0161】
本出願全体を通して、種々の刊行物が括弧内で参照されている。これらの刊行物の開示内容は、本発明が関係する当該技術分野の水準をより詳細に記載するために、本出願において全体が参考として援用される。
【0162】
以上において本発明を、開示した実施形態に関連して説明してきたが、上で詳述する具体例および試験が単に本発明を例示するものであることを、当業者は容易に理解するであろう。また、本発明の趣旨から逸脱することなく種々の改変が可能であることが理解されるはずである。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ制限される。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)で測定される加速条件下の安定性の結果を示す。メインピークは無損傷のポリペプチドである。HMWは、高分子量のフラグメントを指す。LMW1およびLMW2は、低分子量のフラグメントを指す。
【図2】37℃で3週間のEmab(10mg/mL)(IgG1抗体)のpHプロファイルのSEC結果を示す。図は、pHの関数として可溶性HMW形態の依存性(SECから得られるポリペプチド溶出バンドのパーセントとして表す)を示す。この試験で使用した種々の緩衝液を列挙する。
【図3】図2に示すSEC結果のpHの関数として可溶性LMW1形態の依存性(溶出されたポリペプチドのパーセント)を示す。この試験で使用した種々の緩衝液を列挙する。
【図4】図2に示すSEC結果のpHの関数として可溶性LMW2形態の依存性(溶出されたポリペプチドのパーセント)を示す。この試験で使用した種々の緩衝液を列挙する。
【図5】20mMのリン酸ナトリウム(pH6)で配合した種々の賦形剤の存在下におけるポリペプチドの安定性を示す。不安定性の量は、37℃で11週間のインキュベーション後にSECで測定したメインピーク面積の低下により示される。
【図6】異なる温度で試験したた3つの液状製剤(ASS、PBSおよびPASMT)の6ヵ月時点におけるHIACの肉眼不可視粒子の測定値を示す。データは、3つの測定値の平均を表し、1mL当たりの累積的な粒子数を列挙する。
【図7】図6の同じ3つの製剤および温度の投与1回当たりの粒子数を表すHIACの肉眼不可視粒子の測定値を示す。横線はUSPの限界値を示す。
【図8】所定の候補製剤(図6および図7に示したものと同じ)における6ヵ月間の所定の温度条件における二量体およびフラグメンテーションに関連したポリペプチドの安定性の結果を要約したSECの測定値を示す。
【図9】37℃で維持された3つの製剤(図6、図7および図8に示したものと同じ)の一定期間におけるLMW形成のパーセントを示す。
【図10】列挙した条件で6ヵ月間インキュベーションしたEmabの陽イオン交換クロマトグラフィ(CEX)の結果を示す。加速データ(緑色)は、3つの溶出ピークの電荷に影響を及ぼす有意な変化を表す。溶出ピークは、0個(約20分)、1つ(約22.5分)および2個(約25分)のC末端リジン残基に相当する。
【図11】SECにより測定した二量体形成における異なるpHおよびEDTAの条件の統計的な図を示す。
【図12】SECで測定した二量体形成における変化と、400nmの吸光度により測定した濁度の間の相関性を示す統計解析を示す。
【図13】室温で24時間および48時間振盪させたTween‐20、Tween‐80、pHおよびEDTAに関するHIACの測定値と傾向の間の相関性を示す。
【図14】酢酸緩衝製剤(標識A5ST)と比較した本発明の生物医薬品製剤(標識Pr5ST)の緩衝能の安定性を示す。
【図15】酢酸緩衝製剤(Aと指定)またはコハク酸緩衝製剤(NaSと指定)と比較した本発明の生物医薬品製剤における37℃での治療用ポリペプチドの長期安定性を示す。Emab標準品(非加熱対照)。
【図16】酢酸緩衝製剤またはコハク酸緩衝製剤(図15に示したものと同じ)と比較した本発明の生物医薬品製剤における4℃での治療用ポリペプチドの長期安定性を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液と、少なくとも1つの賦形剤と、有効量の治療用ポリペプチドとを有する水溶液を含む、生物医薬品製剤。
【請求項2】
前記プロピオン酸塩緩衝液がプロピオン酸ナトリウムまたはプロピオン酸を含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項3】
前記プロピオン酸塩が、約1〜50mM、2〜30mM、3〜20mM、4〜10mMおよび5〜8mMから選択される濃度を含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項4】
前記プロピオン酸塩が約10mMの濃度を含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項5】
等張性の濃度の溶質を有する、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項6】
前記賦形剤が糖またはポリオールを含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項7】
前記ポリオールが、約1〜10%、2〜9%、3〜8%、4〜7%および5〜6%から選択される濃度を含む、請求項6に記載の生物医薬品製剤。
【請求項8】
前記ポリオールがソルビトールを含む、請求項6に記載の生物医薬品製剤。
【請求項9】
前記糖が、約1〜20%(w/v)、2〜18%(w/v)、4〜16%(w/v)、6〜14%(w/v)および8〜12%(w/v)から選択される濃度を含む、請求項6に記載の生物医薬品製剤。
【請求項10】
前記糖が非還元糖を含む、請求項6に記載の生物医薬品製剤。
【請求項11】
前記少なくとも1つの賦形剤が界面活性剤を含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項12】
前記界面活性剤が非イオン性活性剤を含む、請求項11に記載の生物医薬品製剤。
【請求項13】
前記非イオン性活性剤が、約0.001〜0.10%(w/v)、0.002〜0.05%(w/v)、0.003〜0.01%(w/v)、0.004〜0.008%(w/v)および0.005〜0.006%(w/v)から選択される濃度を含む、請求項11に記載の生物医薬品製剤。
【請求項14】
前記非イオン性活性剤がポリソルベート20を含む、請求項12に記載の生物医薬品製剤。
【請求項15】
前記少なくとも1つの賦形剤が複数の賦形剤をさらに含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項16】
前記複数の賦形剤が、緩衝液、安定化剤、等張化剤、充填剤、界面活性剤、凍結保護剤、溶解保護剤、抗酸化剤、金属イオン、キレート剤および保存剤から選択される、請求項15に記載の生物医薬品製剤。
【請求項17】
前記治療用ポリペプチドが、抗体、抗体の機能的フラグメント、ホルモン、増殖因子、または細胞シグナル伝達分子を含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項18】
約4.0〜約6.0のpHを有する約1〜50mMのプロピオン酸塩と、約1〜20%(w/v)のソルビトールと、約0.001〜0.10%のポリソルベート20と、有効量の治療用ポリペプチドとを有する水溶液を含む、生物医薬品製剤。
【請求項19】
前記プロピオン酸塩が約10mMの濃度のプロピオン酸ナトリウムを含む、請求項18に記載の生物医薬品製剤。
【請求項20】
前記pHが約5.0である、請求項18に記載の生物医薬品製剤。
【請求項21】
前記ソルビトールが約5%(w/v)である、請求項18に記載の生物医薬品製剤。
【請求項22】
前記ポリソルベート20が約0.005%(w/v)である、請求項18に記載の生物医薬品製剤。
【請求項23】
前記治療用ポリペプチドが、抗体、Fd、Fv、Fab、F(ab’)、F(ab)2、F(ab’)2、単鎖Fv(scFv)、キメラ抗体、二重抗体、三重抗体、四重抗体、ミニボディ、ペプチボディ、ホルモン、増殖因子または細胞シグナル伝達分子を含む、請求項18に記載の生物医薬品製剤。
【請求項24】
前記治療用ポリペプチドが、約10〜200mg/mL、20〜180mg/mL、30〜160mg/mL、40〜120mg/mL、50〜100mg/mLおよび60〜80mg/mLから選択される濃度を含む、請求項18に記載の生物医薬品製剤。
【請求項25】
生物医薬品製剤を調製する方法であって、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液と少なくとも1つの賦形剤とを有する水溶液を、有効量の治療用ポリペプチドと組み合わせる手順を含む、方法。
【請求項26】
前記水溶液が、約4.0〜約6.0のpHを有する約1〜50mMのプロピオン酸塩と約1〜20%(w/v)のソルビトールとを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記プロピオン酸塩が約10mMの濃度のプロピオン酸ナトリウムを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記pHが約5.0である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記ソルビトールが約5%(w/v)である、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つの賦形剤が界面活性剤をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記界面活性剤が約0.001〜0.10%(w/v)のポリソルベート20を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ポリソルベート20が約0.005%(w/v)である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの賦形剤が複数の賦形剤をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記複数の賦形剤が、緩衝液、安定化剤、等張化剤、充填剤、界面活性剤、凍結保護剤、溶解保護剤、抗酸化剤、金属イオン、キレート剤および保存剤から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記治療用ポリペプチドが、抗体、Fd、Fv、Fab、F(ab’)、F(ab)2、F(ab’)2、単鎖Fv(scFv)、キメラ抗体、二重抗体、三重抗体、四重抗体、ミニボディ、ペプチボディ、ホルモン、増殖因子または細胞シグナル伝達分子を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
前記治療用ポリペプチドが、約10〜200mg/mL、20〜180mg/mL、30〜160mg/mL、40〜120mg/mL、50〜100mg/mLおよび60〜80mg/mLから選択される濃度を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項37】
約4.0〜約6.0のpHを有する約3〜20mMのプロピオン酸塩、約1〜10%(w/v)のソルビトール、約0.001〜0.10%(w/v)のポリソルベート20、および有効量の治療用ポリペプチドを有する水溶液を含む生物医薬品製剤を含有する容器。
【請求項1】
約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液と、少なくとも1つの賦形剤と、有効量の治療用ポリペプチドとを有する水溶液を含む、生物医薬品製剤。
【請求項2】
前記プロピオン酸塩緩衝液がプロピオン酸ナトリウムまたはプロピオン酸を含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項3】
前記プロピオン酸塩が、約1〜50mM、2〜30mM、3〜20mM、4〜10mMおよび5〜8mMから選択される濃度を含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項4】
前記プロピオン酸塩が約10mMの濃度を含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項5】
等張性の濃度の溶質を有する、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項6】
前記賦形剤が糖またはポリオールを含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項7】
前記ポリオールが、約1〜10%、2〜9%、3〜8%、4〜7%および5〜6%から選択される濃度を含む、請求項6に記載の生物医薬品製剤。
【請求項8】
前記ポリオールがソルビトールを含む、請求項6に記載の生物医薬品製剤。
【請求項9】
前記糖が、約1〜20%(w/v)、2〜18%(w/v)、4〜16%(w/v)、6〜14%(w/v)および8〜12%(w/v)から選択される濃度を含む、請求項6に記載の生物医薬品製剤。
【請求項10】
前記糖が非還元糖を含む、請求項6に記載の生物医薬品製剤。
【請求項11】
前記少なくとも1つの賦形剤が界面活性剤を含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項12】
前記界面活性剤が非イオン性活性剤を含む、請求項11に記載の生物医薬品製剤。
【請求項13】
前記非イオン性活性剤が、約0.001〜0.10%(w/v)、0.002〜0.05%(w/v)、0.003〜0.01%(w/v)、0.004〜0.008%(w/v)および0.005〜0.006%(w/v)から選択される濃度を含む、請求項11に記載の生物医薬品製剤。
【請求項14】
前記非イオン性活性剤がポリソルベート20を含む、請求項12に記載の生物医薬品製剤。
【請求項15】
前記少なくとも1つの賦形剤が複数の賦形剤をさらに含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項16】
前記複数の賦形剤が、緩衝液、安定化剤、等張化剤、充填剤、界面活性剤、凍結保護剤、溶解保護剤、抗酸化剤、金属イオン、キレート剤および保存剤から選択される、請求項15に記載の生物医薬品製剤。
【請求項17】
前記治療用ポリペプチドが、抗体、抗体の機能的フラグメント、ホルモン、増殖因子、または細胞シグナル伝達分子を含む、請求項1に記載の生物医薬品製剤。
【請求項18】
約4.0〜約6.0のpHを有する約1〜50mMのプロピオン酸塩と、約1〜20%(w/v)のソルビトールと、約0.001〜0.10%のポリソルベート20と、有効量の治療用ポリペプチドとを有する水溶液を含む、生物医薬品製剤。
【請求項19】
前記プロピオン酸塩が約10mMの濃度のプロピオン酸ナトリウムを含む、請求項18に記載の生物医薬品製剤。
【請求項20】
前記pHが約5.0である、請求項18に記載の生物医薬品製剤。
【請求項21】
前記ソルビトールが約5%(w/v)である、請求項18に記載の生物医薬品製剤。
【請求項22】
前記ポリソルベート20が約0.005%(w/v)である、請求項18に記載の生物医薬品製剤。
【請求項23】
前記治療用ポリペプチドが、抗体、Fd、Fv、Fab、F(ab’)、F(ab)2、F(ab’)2、単鎖Fv(scFv)、キメラ抗体、二重抗体、三重抗体、四重抗体、ミニボディ、ペプチボディ、ホルモン、増殖因子または細胞シグナル伝達分子を含む、請求項18に記載の生物医薬品製剤。
【請求項24】
前記治療用ポリペプチドが、約10〜200mg/mL、20〜180mg/mL、30〜160mg/mL、40〜120mg/mL、50〜100mg/mLおよび60〜80mg/mLから選択される濃度を含む、請求項18に記載の生物医薬品製剤。
【請求項25】
生物医薬品製剤を調製する方法であって、約4.0〜約6.0のpHを有するプロピオン酸塩緩衝液と少なくとも1つの賦形剤とを有する水溶液を、有効量の治療用ポリペプチドと組み合わせる手順を含む、方法。
【請求項26】
前記水溶液が、約4.0〜約6.0のpHを有する約1〜50mMのプロピオン酸塩と約1〜20%(w/v)のソルビトールとを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記プロピオン酸塩が約10mMの濃度のプロピオン酸ナトリウムを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記pHが約5.0である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記ソルビトールが約5%(w/v)である、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つの賦形剤が界面活性剤をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記界面活性剤が約0.001〜0.10%(w/v)のポリソルベート20を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ポリソルベート20が約0.005%(w/v)である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの賦形剤が複数の賦形剤をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記複数の賦形剤が、緩衝液、安定化剤、等張化剤、充填剤、界面活性剤、凍結保護剤、溶解保護剤、抗酸化剤、金属イオン、キレート剤および保存剤から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記治療用ポリペプチドが、抗体、Fd、Fv、Fab、F(ab’)、F(ab)2、F(ab’)2、単鎖Fv(scFv)、キメラ抗体、二重抗体、三重抗体、四重抗体、ミニボディ、ペプチボディ、ホルモン、増殖因子または細胞シグナル伝達分子を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
前記治療用ポリペプチドが、約10〜200mg/mL、20〜180mg/mL、30〜160mg/mL、40〜120mg/mL、50〜100mg/mLおよび60〜80mg/mLから選択される濃度を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項37】
約4.0〜約6.0のpHを有する約3〜20mMのプロピオン酸塩、約1〜10%(w/v)のソルビトール、約0.001〜0.10%(w/v)のポリソルベート20、および有効量の治療用ポリペプチドを有する水溶液を含む生物医薬品製剤を含有する容器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2009−534390(P2009−534390A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506610(P2009−506610)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/009700
【国際公開番号】WO2007/124082
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(500203709)アムジェン インコーポレイテッド (76)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/009700
【国際公開番号】WO2007/124082
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(500203709)アムジェン インコーポレイテッド (76)
【Fターム(参考)】
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