説明

生物学的に活性なネオペルトライド化合物

本発明は、細胞増殖の阻止、癌の処置、真菌感染症の処置、ならびに食品、化粧品および他の消費者品目の変質の制御に有利に使用することができる、生物学的に活性な式(I)のマクロライド化合物の新規組成物を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、有用な治療特性を有する有機化合物および組成物に関する。特に本発明は、抗増殖活性、抗腫瘍活性および抗真菌活性を有する新規マクロライド化合物、そのような化合物を含む薬学的組成物、ならびに治療目的でそれらを使用する方法、および食品、化粧品、その他の消費者物資の変質の制御にそれらを使用する方法に関する。なお、本願は2003年6月23日に出願された米国仮出願第60/482,216号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
癌の場合に起こるような病的細胞増殖の制御は、人類にとって極めて重要である。腫瘍学、および化学療法を含む抗腫瘍手段には、少なからぬ研究および資源が充てられてきた。例えば腫瘍の成長を抑制、軽減、または制御するのを助けるある方法および化学組成物はいくつか開発されているが、新しい方法および抗腫瘍化学組成物が必要とされている。抗増殖剤は自己免疫疾患および炎症性疾患の処置にも役立ち得る。
【0003】
新しい生物学的に活性な化合物の探索において、いくつかの天然物および生物は、著しく多様な有用な生物学的活性を有する化学分子の潜在的供給源であることが見いだされている。例えば、数種のイチイの木から単離された、一般にパクリタキセルと呼ばれるジテルペンは、微小管を安定化し、それらが遊離チューブリンに脱重合するのを抑制する紡錘体毒である(Fuchs,D.A.,R.K.Johnson[1978]Cancer Treat. Rep. 62:1219-1222、Schiff,P.B.,J.Fant,S.B.Horwitz[1979]Nature(London)22:665-667)。パクリタキセルは抗腫瘍活性を有することも知られており、いくつもの臨床試験を経て、広範な癌の処置に有効であることが示されている(Rowinski,E.K,R.C.Donehower[1995]N. Engl. J. Med. 332:1004-1014)。例えば米国特許第5,157,049号、第4,960,790号および第4,206,221号も参照されたい。
【0004】
海洋性海綿も生物学的に活性な化学分子の供給源であることが判明している。Scheuer,P.J.(ed.)「Marine Natural Products, Chemical and Biological Perspectives」(Academic Press, New York, 1978-1983,Vol.I-V)、Uemura,D.,K.Takahashi,T.Yamamoto,C.Katayama,J.Tanaka,Y.Okumura,Y.Hirata(1985)J. Am. Chem. Soc. 107:4796-4798、Minale,L. et al.(1976)Fortschr. Chem. org. Naturst. 33:1-72、Faulkner,D.J.,Nat. Prod. Reports 1984,1,251-551;同書,1987,4,539、同書,1990,7,269、同書,1993,10,497、同書,1994,11,355、同書,1995,12,22、同書,1998,15:113-58、同書,2000,17:1-6、同書,2000,17:7-55、同書,2001,18:1-49、2002,19:1-48、Gunasekera,S.P.,M.Gunasekera,R.E.Longley and G.K.Schulte(1990)J. Org. Chem.,55:4912-4915;Horton,P.A.,F.E.Koehn,R.E.Longley and O.J.McConnell(1994)J. Am. Chem. Soc. 116:6015-6016を含むいくつもの刊行物が、海洋性海綿由来の有機化合物を開示している。
【0005】
様々な癌を処置するための化学療法の成功は、その薬物の細胞毒作用を打ち消す能力を新生物細胞に与えるように進化した細胞機序によって、実質的に無効になり得る。一部の細胞は、構造的に無関係ないくつもの薬物に対する耐性を付与する機序を発達させている。この多剤耐性(またはMDR)現象は、いくつもの異なる機序によって生じ得る。その一つには、P糖タンパク質(Pgp)と呼ばれる一連のユニークなATP依存性輸送タンパク質によって、細胞膜を通して細胞質から細胞膜の外側へと起こる流出により、与えられた薬物の細胞内濃度を減少させるという、細胞の能力が関わっている(Casazza,A.M. and C.R.Fairchild[1996]「Paclitaxel(Taxol(登録商標)): mechanisms of resistance」Cancer Treat Res. 87:149-171)。表面膜170kDa Pgpはmdr-1遺伝子によってコードされ、輸送を開始する前に基質結合を必要とするようである。構造的に無関係ないくつもの化学療法剤(アドリアマイシン、ビンブラスチン、コルヒチン、エトポシドおよびタキソール)を含む広範な化合物が、Pgpによって輸送される能力を有し、これらの化合物の細胞毒作用に対して細胞を耐性にする。多くの正常細胞タイプがPgpを有するが、一般に、Pgpに特異的なmRNAを高レベルに有している腫瘍細胞株は、膜Pgpの過剰発現も示し、様々な薬物に対して耐性を示す。この固有の耐性は、特定薬物の用量を段階的に増やしながら数ヶ月間にわたって細胞を培養することにより、何倍にも増加させることができる。これは、前記特定薬物と組み合わせてMDR反転剤ベラパミルを添加することにより、さらに助長することができる(Casazza,A.M.およびC.R.Fairchild[1996]前記)。このようにして作出された薬剤耐性細胞株は、親細胞株と比較して20倍〜500倍の、薬物細胞毒性に対する耐性を示す。
【0006】
癌薬剤発見のもう一つの標的は、多剤耐性関連タンパク質(MRP)と呼ばれる、いくつかの腫瘍細胞の多剤耐性特性に関連する高分子量膜タンパク質である。MRPは、190kDの膜結合型糖タンパク質であり(Bellamy,W.T.[1996], Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol.,36:161-183)、p糖タンパク質ポンプP-gpと同じタンパク質ファミリーに属するが(Broxterman,H.J.,Giaccone,G. and Lankelma,J.[1995]Current Opinion in Oncology,7:532-540)、P-gpとのアミノ酸相同性は15%未満である(Komorov,P.G.,Shtil,A.A.,Holian,O.,Tee,L.,Buckingham,L.,Mechetner,E.B.,Roninson,I.B. and Coon,J.S.[1998], Oncology Research,10:185-192)。MRPは、肝臓、副腎、精巣、および末梢血単核球を含むいくつもの正常細胞で自然に存在することが見いだされている(Krishan,A.,Fitz,C.M., and Andritsch,I.[1997], Cytometry,29:279-285)。MRPは、肺、腎臓、結腸、甲状腺、膀胱、胃、脾臓(Sugawara,I.[1998]The Cancer Journal,8(2))および骨格筋(Kruh,G.D.,Gaughan,K.T.,Godwin,A. and Chan,A.[1995], Journal of the National Cancer Institute,87(16):1256-1258)の組織でも同定されている。高レベルのMRPは、肺および膵臓の癌(Miller,D.W.,Fontain,M.,Kolar,C., and Lawson,T.[1996]. Cancer Letters,107:301-306)、ならびに神経芽細胞腫、白血病および甲状腺の癌(Kruh,G.D.,Gaughan,K.T.,Godwin,A. and Chan,A.[1995], Journal of the National Cancer Institute,87(16):1256-1258)、そしてまた膀胱癌、卵巣癌および乳癌(Barrand,M.,Bagrij,T.およびNeo,S.[1997]., General Pharmacology,28(5):639-645)における多剤耐性(MDR)に関係づけられている。MRPによるMDRには、例えばビンカアルカロイド類、エピポドフィロトキシン類、アントラサイクリン類およびアクチノマイシンDなど、P-gpによるものと同じ化合物クラスの一部が関わる(Barrand,M.,Bagrij,T., and Neo,S.[1997].,General Pharmacology,28(5):639-645)。ただし、その基質特異性はP-gpの基質特異性とは異なることが実証されている(Komorov,P.G.,Shtil,A.A.,Holian,O.,Tee,L.,Buckingham,L.,Mechetner,E.B.,Roninson,I.B., and Coon,J.S.[1998],Oncology Research,10:185-192)。したがって、MDRポンプを阻害する薬物またはMDRポンプの基質にならない薬物があれば、化学療法剤として役立つだろう。
【0007】
ヒト、動物および植物の疾患ならびに食品および製品の変質を引き起こし得る真菌類の制御も、人類にとって非常に重要である。抗真菌剤を同定するために、少なからぬ研究および資源が充てられてきた。真菌類の成長を抑制または制御するのを助ける方法および化学組成物はいくつか開発されているが、新しい方法および抗真菌組成物が必要とされている。
【0008】
ヒト真菌感染症は表在性真菌症、皮下真菌症、および深在性(または全身性)真菌症に分類することができる。皮膚、毛髪および爪の表在性真菌感染症は慢性であり、処置に対して抵抗性を有し得るが、患者の全体的健康に影響を及ぼすことはほとんどない。これに対して、深在性真菌症は全身症状を引き起こす場合があり、時には致命的である。
【0009】
深在性真菌症は、土壌中で自由に生きているか腐りかけの有機物質上で生きている生物によって引き起こされ、一定の地理的地域に限定されることが多い。そのような地域では、多くの人々がその真菌感染症に罹る。大半は軽微な症状を発症するのみであるか、または症状を全く発症せず、病状の進んだ深刻なまたは致命的な疾患に進行するのは、ごく一部の感染症だけである。宿主の細胞性免疫反応は、そのような感染症の結果を決定する上で最も重要である。
【0010】
植物農産物の貯蔵中に起こる収穫後損失は、とりわけ真菌病原体および細菌病原体によって引き起こされる。殺真菌化合物は、収穫量を増加させ、農業生産を新しい地域に拡大するために、長年にわたって用いられてきた。それらは、疾患圧力の気候による変動が引き起こす収穫量および品質の季節間差を改善するための極めて重要なツールにもなっている。
【0011】
化学殺真菌剤は有効な制御方法を提供してきたが、一般の人々は食品、地下水および環境中に見いだされ得る残留化学薬品の量に関心を持つようになってきた。化学薬品の使用に対する厳格な新しい規制、および一部の有効な農薬の市場からの排除により、真菌類を制御するための経済的で有効な選択肢が限定され得る。
【0012】
農産物の収穫後変質を制御する必要性の一例は、緑かび病菌(Penicillium digitatum)および青かび病菌(P. italicum)によって引き起こされる柑橘類果実の緑カビおよび青カビに関する。これらのカビは貯蔵中および輸送中に重大な損害を引き起こす。既存の生鮮市場産業は、これらのカビによる著しい損害を被らずにかなりの時間をかけて遠方の市場まで無傷の果実を配送するために、いくつかの化学的処理の組合せに完全に頼っている。残念なことに、これらの真菌病原体を制御するために現在使用されている化学薬品の安全性に関する懸念は増加しつつある。また、最も有効な化合物に対して耐性を有する真菌株による問題も増加しつつある。
【0013】
もう一つの例として、うどんこ病菌(Uncinula necator)が引き起こすブドウのうどんこ病は、カリフォルニアなどの乾燥地域でさえ、重大な損害を引き起こす。伝統的にこの疾患は元素硫黄の散布によって制御されていたが、これは刺激性物質の頻繁な大量散布を必要とする。エルゴステロール生合成阻害性殺真菌剤(主としてトリアゾール類)の導入によって制御は著しく簡単になるが、これは耐性株を選択することにもなる。これらの化合物の一部は、強力な催奇作用および極めて長い土壌残留性を有することも知られている。これらの例および他の例では、代替的制御方法に、特により安全でより環境に優しい方法に、大きな需要がある。
【0014】
真菌による変質を防止するために、圃場で農産物に浸透性殺真菌剤を噴霧すること、および収穫した農産物を貯蔵に先だって殺真菌剤溶液に浸漬することは、多くの国でよく行なわれている。最もよく使用される殺真菌剤の多くが有する発癌性はますます認識されるようになり、大半の殺真菌剤の持続性は低い貯蔵温度によって増加することから、殺真菌剤の収穫後使用は、ますます大きな問題になっている。
【0015】
さらに、使用された殺真菌剤に対する耐性が報告されており、ベノミル殺真菌剤などの殺真菌剤による主要変質生物・貴腐菌(B. cinera)の抑制は、貴腐菌よりも貫通性の高い農作物の腐敗を引き起こす黒すす病菌(A. brassicicola)の集団を増加させることが示されている。例えば米国特許第5,869,038号を参照されたい。
【0016】
農業における殺真菌剤の今後の役割は、病害虫抵抗性の発達、食品の安全および毒性化合物の環境蓄積に関する懸念の増加を含むいくつかの要因によって、ますます脅かされている。古い殺真菌剤が規則の変更により市場から排除されるにつれて、新しい有効な殺真菌化合物を見いだす必要がますます高まっている。
【発明の開示】
【0017】
発明の概要
本発明は、細胞増殖を抑制するのに役立つ、生物学的に活性な化合物の新規組成物を提供する。具体的一態様として、本発明の化合物および組成物は、癌の処置に使用することができる。第二の具体的態様として、本発明の化合物および組成物は、真菌成長の制御に使用することができる。
【0018】
一態様として、本発明の新規組成物および方法は、癌細胞の宿主である動物の処置に、例えば哺乳類宿主における腫瘍細胞成長の抑制などに、使用することができる。さらに詳細には、本化合物は、腫瘍細胞の成長を、乳腫瘍、結腸腫瘍、CNS腫瘍、卵巣腫瘍、腎腫瘍、前立腺腫瘍、肝腫瘍、膵腫瘍、子宮腫瘍、または肺腫瘍の細胞を含む腫瘍細胞、ならびにヒト白血病細胞または黒色腫細胞の成長を、ヒトにおいて抑制するために使用することができる。本化合物が示す抗癌活性の達成機序からして、当業者は、本化合物、組成物、および方法が、本明細書に記載する他のタイプの癌にも利用可能であることを、認識することになるだろう。
【0019】
本発明によれば、宿主中の癌細胞を抑制する方法は、腫瘍細胞を、有効量の、本発明の新しい薬学的組成物と接触させる段階を含む。本発明によって抑制される癌細胞は、本明細書に記載する本化合物またはそれらの化合物を含む組成物に対して感受性を有するものである。
【0020】
さらにもう一つの具体的態様として、本発明の新規組成物および方法を、真菌成長の制御に使用することができる。これらの化合物は、その生物学的活性ゆえに、植物および動物の真菌感染症の処置に、食品および化粧品などの有機組成物の変質を防止するために、そして消毒剤として、使用することができる。好ましい態様として、本発明の新規化合物、組成物および使用方法は、哺乳類宿主における真菌の成長を抑制するために、有利に使用することができる。本明細書で言及する「抗真菌活性」には、殺真菌および静真菌活性ならびに真菌の発芽または成長の抑制が包含される。
【0021】
具体的態様として、本発明は、ネオペルトライド(Neopeltolide)(I)によって例示される新しいマクロライド類を提供する:

【0022】
ネオペルトライドは過去に自然源から単離されたことはないし、過去に合成されたこともない。
【0023】
本発明のもう一つの局面には、新しい化合物および組成物を製造する方法の提供が含まれる。
【0024】
本発明の他の目的およびさらなる利用可能性の範囲は、本明細書に記載する詳細な説明から明らかになるだろう。ただし、その詳細な説明は、本発明の好ましい態様を示すものではあるが、それらは例示に過ぎないことを理解すべきである。というのも、そのような説明から、本発明の精神および範囲内の様々な改変および変更が明らかになるだろうからである。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、病的細胞増殖の抑制に役立つ、生物学的に活性なマクロライド化合物の新規組成物を提供する。
【0026】
有利なことに、本発明のマクロライド化合物は、腫瘍細胞および真菌細胞の病的増殖を含む不要な細胞増殖を抑制するために使用することができる。
【0027】
好ましい態様として、これらの化合物は癌の処置に使用することができる。より具体的には、本新規化合物、組成物および使用方法は、哺乳類宿主における腫瘍細胞および他の癌細胞の成長を抑制するために、有利に使用することができる。本明細書に記載するとおり、本発明の化合物は癌の処置用に役立つ。さらに詳細には、本化合物は、乳腫瘍、前立腺腫瘍、結腸腫瘍、CNS腫瘍、卵巣腫瘍、腎腫瘍、肝腫瘍、膵腫瘍、子宮腫瘍、または肺腫瘍の細胞を含む腫瘍細胞、ならびにヒト白血病細胞または黒色腫細胞の成長を、ヒトにおいて抑制するために使用することができる。本化合物は多剤耐性癌細胞の処置にも有用である。
【0028】
さらに本発明は、真菌成長の制御に役立つ、生物学的に活性なマクロライド化合物の新規組成物を提供する。これらの化合物は、その生物学的活性ゆえに、植物および動物の真菌感染症の処置に、食品および化粧品などの有機組成物の変質を防止するために、そして消毒剤として、使用することができる。好ましい態様として、本発明の新規化合物、組成物および使用方法は、哺乳類宿主における真菌の成長を抑制するために、有利に使用することができる。本明細書で言及する「抗真菌活性」には、殺真菌および静真菌活性ならびに真菌の発芽または成長の抑制が包含される。
【0029】
好ましい態様として、本発明は、以下の式を有する化合物を提供する:

【0030】
さらにもう一つの具体的態様として、本発明は以下の式を有する化合物を提供する:

【0031】
さらに本発明は、単離されたエナンチオマー化合物に関する。本発明の化合物の単離されたエナンチオマー型は互いを実質的に含まない(すなわちエナンチオマー過剰である)。言い換えると、「R」型の化合物は「S」型の化合物を実質的に含まず、したがって「S」型に対してエナンチオマー過剰である。逆に、「S」型の化合物は「R」型の化合物を実質的に含まず、したがって「R」型に対してエナンチオマー過剰である。本発明の一態様として、単離されたエナンチオマー化合物は、少なくとも約80%のエナンチオマー過剰率を有する。好ましい態様では、化合物が少なくとも約90%のエナンチオマー過剰率を有する。より好ましい態様では、化合物が少なくとも約95%のエナンチオマー過剰率を有する。さらに好ましい態様では、化合物が少なくとも約97.5%のエナンチオマー過剰率を有する。最も好ましい態様では、化合物が少なくとも約99%のエナンチオマー過剰率を有する。
【0032】
本発明によれば、宿主中の癌を抑制する方法は、癌細胞を、有効量の、本発明の新しい薬学的組成物と接触させる段階を含む。本発明によって抑制される腫瘍細胞は、本明細書に記載する本化合物またはそれらの化合物を含む組成物に対して感受性を有するものである。
【0033】
さらに本発明は、本発明の新しい化合物および組成物の使用方法、例えば動物、好ましくは哺乳動物、中の腫瘍および他の癌細胞を抑制する方法を提供する。最も好ましくは、本発明は、抗腫瘍処置を必要とするヒトの、すなわち乳腫瘍細胞、結腸腫瘍細胞、肝腫瘍細胞、膵腫瘍細胞、子宮腫瘍細胞、もしくは肺腫瘍細胞を含む癌細胞、または多剤耐性癌細胞を含む白血病細胞の宿主であるヒトの、抗腫瘍処置方法を含む。
【0034】
本発明の好ましい態様では、化合物が実質上純粋である。すなわち、確立された分析法で決定して、少なくとも95%の化合物を含有する。
【0035】
本発明のさらに好ましい方法では、鉱酸、例えばHCl、H2SO4、または強有機酸、例えばギ酸、シュウ酸を、適当な量で添加して、親化合物またはその誘導体の酸付加塩を形成させることにより、本発明の範囲内で塩および類似体が作られる。さらに、好ましい化合物に様々な基を加えまたは好ましい化合物中の様々な基を修飾して本発明の範囲内で他の化合物を生産するために、公知の手順に従って合成型反応を使用することもできる。
【0036】
本願で使用する用語「類似体」は、もう一つの化合物と実質的に同じであるが、例えば側鎖基の付加または除去などによって修飾されていてもよい化合物を指す。
【0037】
本発明の範囲は、本明細書に記載の具体的実施例ならびに手順案および用途案によって限定されない。というのも、本明細書によって当業者に提供される情報から、そのような範囲内で変更を加えることができるからである。
【0038】
本発明のより完全な理解は、本発明の化合物、組成物、および方法に関する以下の具体的実施例を参照することによって得ることができる。以下の実施例は本発明の実施手順を例示するものである。これらの実施例を限定であるとみなしてはならない。別段の注記がない限り、全てのパーセンテージはいずれも重量に基づき、溶媒混合物比はいずれも体積に基づく。これらの実施例では公知の供給源、例えば化学薬品供給業者などから市販されている材料および試薬が使用されることは当業者には明らかであるだろうから、それらに関する詳細は記載しない。
【0039】
実施例1−ネオペルトライド(I)の単離および構造解明
A.由来生物の収集および分類
ネオペルチダ科(Neopeltidae)(海綿動物門(Porifera)、普通海綿綱(Demospongiae)、石海綿目(Lithistida)、ネオペルチダ科)に属する海綿の試料を、北ジャマイカ海岸(North Jamaican Coast)沖(緯度18 28.638'N、経度78 10.996'W)の深度433mで、Johnson Sea Link有人潜水艇を使って収集した。海綿の形態は、目に見える小孔を上面に有する平板状で、硬さは石質、色は白色だった。エタノール中に保存した参照試料はHarbar Branch Oceanographic Museumに寄託されており(カタログ番号003:01004、DBMR番号23-VIII-93-5-010)、当業者はそれを分類学的評価のために利用することができる。
【0040】
B.ネオペルトライド(I)の単離および構造解明
ワーリングブレンダーを使ってエタノールで浸軟することにより(5×250mL)、105グラムの凍結ネオペルチダ科海綿23-VIII-93-5-010を徹底的に抽出した。合わせた濾過抽出物を減圧下での蒸留によって濃縮して、3.2gの粗製残渣を得た。その残渣をn-ブタノールと水とに分配した(3×50ml分)。濃縮後に、n-ブタノール相(0.7g)を、Kieselgel 60H(EM SCIENCE)固定相での減圧カラムクロマトグラフィー条件下で、クロマトグラフィーにかけた。中多孔度フリットガラスディスクを装着した150mLブフナー漏斗をカラムとして使用した。全高が4cmになるように固定相を充填した。ブタノール分配物を、ヘプタン-酢酸エチル(8:2 v/v)の混合液中のカラムに、スラリーとして適用した。
【0041】
ヘプタン中の酢酸エチルの20%ステップ勾配を使って画分を溶出させた後、酢酸エチル中のメタノール含量を増やして一連の画分を溶出させた[第1画分:ヘプタン-酢酸エチル80:20 v/v(150ml);第2画分:ヘプタン-酢酸エチル60:40 v/v(150ml);第3画分:ヘプタン-酢酸エチル40:60 v/v(150ml);第4画分:ヘプタン-酢酸エチル25:75 v/v(150ml);第5画分:ヘプタン-酢酸エチル20:80 v/v(150ml);第6画分:酢酸エチル(150ml);第7画分:酢酸エチル-メタノール75:25 v/v(150ml);第8画分:酢酸エチル-メタノール50:50 v/v(150ml);第9画分:メタノール(150ml)]。
【0042】
ネオペルトライドは第3画分中にきれいに溶出した。Vydac C-18 Protein and Peptide Column(10mm×250mm、粒の大きさ10μ)を使ったHPLC(流速=3ml/分、溶出剤:水:アセトニトリル 40:60 v/v、230nmのUVで監視)により、第3画分をさらに分離した。これらの条件下でネオペルトライドは約6.2カラム体積後に溶出する。
【0043】
ネオペルトライド(I):無色油状物;MS:m/z 実測値591.32692、式:C31H47O9N2(M+H)として計算値591.32816 Δ=−1.2mmu;[α]24D=+23.0(c 0.0024g/ml、メタノール中)。1Hおよび13C NMRデータについては表1を参照されたい。
【0044】
(表1)ネオペルトライド(I)のNMRデータ

【0045】
実施例2−ネオペルトライド(I)の抗腫瘍作用
A.腫瘍細胞株のインビトロ増殖に対するネオペルトライドの作用
ネオペルトライドを、A549ヒト肺腺癌、NCI-ADR-RES(旧MCF-7/ADR)ヒト乳癌およびP388マウス白血病細胞株の増殖に対するその作用に関して解析した。P388細胞はNational Cancer Institute(メリーランド州ベセスダ)のR.Camalier博士から入手し、A549およびNCI-ADR-RES細胞はAmerican Type Culture Collection(メリーランド州ロックビル)から入手した。
【0046】
細胞株は全て、100U/mLペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、60μg/mL L-グルタミン、18mM HEPES、0.05mg/mLゲンタマイシンおよび10%ウシ胎児血清を添加したRoswell Park Memorial Institute(RPMI)培地1640で維持する。細胞株はプラスチック製組織培養フラスコで培養し、5%CO2を含有する湿潤空気中、37℃の培養器で保持する。
【0047】
様々な細胞株に対する薬剤の抗増殖作用を評価するために、まず、200μlの培養物(96穴組織培養プレート、Nunc、デンマーク)を、付着株(A549、NCI ADR-RES)の場合は3×104細胞/ml、非付着株(P388)の場合は1×105細胞/mlの密度で、組織培養培地中に樹立し、細胞を付着させるために空気中、10%CO2下に、37℃で24時間インキュベートする。各試験ウェルから体積100μlの培地を除去し、試験薬剤の2倍希釈系列を含有する培地100mlを、腫瘍細胞を含有する各ウェルに加える。薬物を含まない培地も腫瘍細胞含有ウェルに加えて、これを薬物なしの対照とする。各細胞株の薬物感受性を監視するために、陽性薬物対照を含める。これには5-フルオロウラシル、ドキソルビシンの様々な希釈液が含まれる。
【0048】
72時間ばく露(付着細胞株)または48時間ばく露(非付着細胞株)後に、臭化3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウム(MTT)(M.C.Alley et al.,Cancer Res. 48:589,1988)を使って、以下のように腫瘍細胞を数える。
【0049】
5mg/ml MTTを含有する体積75μlの温かい成長培地を各ウェルに加え、培養物を培養器に戻し、3時間静置する。還元されたホルマザンの形成を分光測光法で定量するために、プレートを遠心分離し(900×g、5分間)、培養液を吸引除去し、各ウェルに200μlの酸性イソプロパノール(2ml濃HCl/リットル-イソプロパノール)を加える。得られた溶液の吸光度を、プレートリーダー(Spectra II Tecan Laboratories)により、570nmで測定する。
【0050】
試験ウェルの吸光度を薬物非含有ウェルの吸光度で割り、無処理培養物の吸光度の50%をもたらす薬剤の濃度(IC50)を、ロジット変換したデータの線形回帰によって決定する(D.J.Finney「Statistical Method in Biological Assay」,Third ed.,pp316-348,Charles Griffin Co.,ロンドン,1978)。これらの実験で観察した細胞密度の範囲では、腫瘍細胞数とホルマザン生成量との間に、常に直線的関係が認められた。
【0051】
各細胞株の薬物感受性を監視するために各アッセイ法に2つの標準薬物対照(上記)を含め、薬物-細胞の各組合せについてIC50値を決定する。
【0052】
ネオペロチド(Neopelotide)Iに関するこれらのアッセイ法の結果を表2に要約する。
【0053】
(表2)ネオペルトライドの細胞毒性結果

【0054】
実施例3−ネオペルトライド(I)の抗真菌活性
A.カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)のインビトロ成長に対するネオペルトライドの作用
カンジダ・アルビカンス(American Type Culture Collection 44506株)に対するネオペルトライドの抗真菌活性を、寒天拡散アッセイ法および液体希釈アッセイ法の両方を使って決定した。
【0055】
寒天拡散アッセイ法は、試験微生物を105/mlで接種したサブローデキストロース寒天プレートを使って行なった。ディスク(6.35mm、Schliecher and Schuell)に25μgのネオペルトライドを含浸し、乾燥させた後、寒天表面に置いた。37℃で24時間のインキュベーション後に、発育阻止帯を決定した。100IUのニスタチンを含有する対照ディスクをネオペルトライドと同じプレート上で試験したところ、阻止帯は28mmだった。
【0056】
液体希釈アッセイ法は、標準的96穴マイクロタイターアッセイとして、総体積50μl、接種密度103細胞/mlで行なった。ネオペルトライドの濃度範囲は2倍希釈液として5μg/ml〜0.4μg/mlだった。プレートを37℃で24時間インキュベートし、その時点で、カンジダ・アルビカンスの成長を完全に抑制する試験範囲中の最低濃度として、最小発育阻止濃度(MIC)を決定した。5-フルオロシトシンをこのアッセイ法の抗真菌対照として使用したところ、5-フルオロシトシンのMICは0.62μg/mlだった。
【0057】
結果
カンジダ・アルビカンスディスク拡散アッセイ法において25μg/ディスクの濃度で試験した場合、ネオペルトライドIは17mmの発育阻止帯を示す。カンジダ・アルビカンスに対するネオペルトライドの最小発育阻止濃度(MIC)は0.625μg/mlだった。
【0058】
実施例4−製剤および投与
本発明の化合物は様々な非治療的または治療的目的に役立つ。本発明の化合物が細胞成長の阻害に有効であることは試験から明らかである。本化合物の抗増殖特性ゆえに、インビトロ用途を含む多種多様な状況で、不要な細胞成長を防止するのに役立つ。また、本化合物は標準として役立ち、教育実演にも役立つ。また、本明細書に開示するように、本化合物は、動物およびヒトにおける癌細胞の処置にも、予防的および治療的に役立つ。
【0059】
上記新化合物およびそれらを含有する組成物の治療的応用は、現在または将来において当業者に公知の任意の適切な治療法および治療技術によって達成することができる。さらに、本発明の化合物は他の有用な化合物および組成物を調製するための出発物質または中間体としても役立つ。
【0060】
上記の適応症における宿主への投薬量の投与は、癌細胞の素性、関与する宿主のタイプ、その年齢、体重、健康、併用処置があればその種類、処置頻度、および治療可能比に依存するだろう。
【0061】
本発明の化合物は、薬学的に有用な組成物を調製するための公知の方法に従って製剤化することができる。製剤については、当業者に周知であって容易に入手できるいくつもの資料に詳述されている。例えばE.W.Martinによる「Remington's Pharmaceutical Science」には、本発明に関連して用いることができる製剤が記載されている。一般に、本発明の組成物は、組成物の効果的な投与を容易にするために、有効量の生物活性化合物が適切な担体と組み合わされるように、製剤化されるだろう。
【0062】
本発明によれば、薬学的組成物は、活性成分として有効量の一つまたは複数の新しい化合物と、一つまたは複数の薬学的に許容される無毒性担体または希釈剤とを含む。本発明で使用されるそのような担体の例には、エタノール、ジメチルスルホキシド、グリセロール、シリカ、アルミナ、デンプン、ならびに同等の担体および希釈剤が含まれる。
【0063】
望ましい治療的処置のためにそのような投薬量の投与に備えるため、本発明の新しい薬学的組成物は、担体または希釈剤を含む組成物全体の重量に基づいて、合計約0.1重量%〜45重量%、とりわけ1〜15重量%の一つまたは複数の新しい化合物を有利に含むと考えられる。実例として、投与される活性成分の投薬量レベルは、次のとおりであることができる:動物(体重)に対して、静脈内、0.01mg/kg〜約20mg/kg;腹腔内、0.01mg/kg〜約100mg/kg;皮下、0.01mg/kg〜約100mg/kg;筋肉内、0.01mg/kg〜約100mg/kg;経口、0.01mg/kg〜約200mg/kg、好ましくは約1mg/kg〜100mg/kg;点鼻、0.01mg/kg〜約20mg/kg;およびエアロゾル、0.01mg/kg〜約20mg/kg。
【0064】
本明細書に記載した実施例および態様は例示目的に過ぎないこと、そしてそれを踏まえた様々な変更または改変が当業者には示唆され、それらは本願の精神および視野ならびに特許請求の範囲に包含されるものであることを、理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式を有する化合物またはその塩:

【請求項2】
以下の式を有する、請求項1記載の化合物:

【請求項3】
以下の分光特性を有する、請求項1記載の化合物:

【請求項4】
細胞増殖を抑制する方法であって、そのような処置を必要とする患者に、有効量の、以下の構造を有する化合物または該化合物の塩を投与する段階を含む方法:

【請求項5】
化合物が以下の構造を有する、請求項4記載の方法:

【請求項6】
化合物が以下の分光特性を有する、請求項4記載の方法:

【請求項7】
細胞増殖が自己免疫障害、炎症、腫瘍および癌からなる群より選択される状態に関連する、請求項4記載の方法。
【請求項8】
癌が乳癌、結腸癌、CNS癌、肝癌、肺癌、白血病、黒色腫、卵巣癌、子宮癌、腎癌、膵癌および前立腺癌からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
以下の構造を有する化合物または該化合物の塩を含み、該化合物が薬学的に許容される担体をさらに含む、薬学的組成物:

【請求項10】
以下の構造を有する化合物を含む、請求項9記載の薬学的組成物:

【請求項11】
以下の分光特性を持つ化合物を含む、請求項9記載の組成物:


【請求項12】
以下の構造を有する化合物または該化合物の塩を真菌に適用する段階を含む、真菌の成長を抑制する方法:

【請求項13】
化合物が以下の構造を有する、請求項12記載の方法:

【請求項14】
化合物が以下の分光特性を有する、請求項12記載の方法:


【請求項15】
食品または化粧品の変質を抑制するために用いられる、請求項12記載の方法。

【公表番号】特表2007−521275(P2007−521275A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517631(P2006−517631)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2004/020328
【国際公開番号】WO2005/001778
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(505474843)ハーバー ブランチ オーシャンノグラフィック インスティチューション インコーポレイティッド (1)
【Fターム(参考)】