説明

生物学的ガス処理方法及び生物学的ガス処理装置

【課題】低コストで処理効率が良い生物学的ガス処理方法及び生物学的ガス処理装置を提供すること。
【解決手段】微生物を担持した導電性微生物担体を有する気液接触部を備えた気液接触塔1内に、酸化分解性被処理成分を含む被処理ガスと循環液とを導入し、前記気液接触部で気液接触させて、前記酸化分解性被処理成分を前記微生物によって酸化分解する生物学的ガス処理方法であって、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上の高温焼成炭素からなる前記導電性微生物担体に正極とする電圧を印加した状態で、酸化分解性被処理成分の酸化分解を行うことを特徴とする生物学的ガス処理方法、及び、それを行う生物学的ガス処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的ガス処理方法及び生物学的ガス処理装置に関し、詳しくは、微生物の潜在的な酸化力を引き出して、酸化分解性被処理成分を酸化分解する生物学的ガス処理方法及び生物学的ガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオガス製造施設、汚泥処理施設、ゴミ処理施設、堆肥化施設などからの排気には、硫化水素や臭気成分、地球温暖化ガスが含まれる。
【0003】
従来、これら有害成分を化学処理して排ガスから除去する方法が知られているが、多くの薬品が必要であり、高コストという問題がある。
【0004】
このため、例えば特許文献1、2及び3には、微生物の好気的代謝を利用して排ガス中の硫化水素を酸化して硫酸とし、排ガスから除去する生物学的ガス処理技術が開示されている。
【0005】
従来の生物学的ガス処理技術について、図9を参照して説明する。
【0006】
図9は、従来技術に係る生物学的ガス処理装置の概略図である。
【0007】
図9において、101は、従来の生物学的ガス処理装置であり、102は該生物学的処理装置に設けられた充填層である。充填層102には、微生物を担持した微生物担体が充填されている。
【0008】
103は、充填層102に循環液を注入する循環液注入部であり、104は、充填層102の下部から流出する循環液を排出する循環液排出口である。循環液排出口104は、循環液を蓄える循環液タンク105と接続されている。106は、循環液タンク105の循環液を循環液注入部103に送液するポンプである。循環液タンク105には、系外から循環液が適宜補給される。
【0009】
107は、生物学的ガス処理装置101の下部に設けられた被処理ガス導入部であり、108は、充填層102に充填された微生物担体と接触し、これを通過した処理ガスを排出する処理ガス排出口である。
【0010】
そして、従来技術に係る生物学的ガス処理装置は、被処理ガスに空気供給を行う空気供給手段を備え、空気中の酸素が、微生物による酸化分解に伴って発生する電子の受容体となることにより、生物学的ガス処理が進行する。
【0011】
しかし、このような従来の生物学的ガス処理では、十分な処理を行うことが困難であり、硫化水素の除去が不十分となる場合が多く、その結果、生物学的処理を経た排ガスを、更に、高コストな化学処理に供するようにして対応せざるを得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−143779号公報
【特許文献1】特開2006−143780号公報
【特許文献1】特開2006−143781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、化学処理のような高コストな処理を用いることなく、微生物の潜在的な酸化力を引き出すことにより、生物学的ガス処理の効率を向上することを鋭意検討し、本発明を完成させた。
【0014】
そこで、本発明の課題は、低コストで処理効率が良い生物学的ガス処理方法及び生物学的ガス処理装置を提供することにある。
【0015】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0017】
(請求項1)
微生物を担持した導電性微生物担体を有する気液接触部を備えた気液接触塔内に、酸化分解性被処理成分を含む被処理ガスと循環液とを導入し、前記気液接触部で気液接触させて、前記酸化分解性被処理成分を前記微生物によって酸化分解する生物学的ガス処理方法であって、
ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上の高温焼成炭素からなる前記導電性微生物担体に正極とする電圧を印加した状態で、酸化分解性被処理成分の酸化分解を行うことを特徴とする生物学的ガス処理方法。
【0018】
(請求項2)
前記酸化分解性被処理成分は、硫黄系の還元性且つ臭気性成分、窒素系の還元性且つ臭気性成分、揮発性有機化合物、又は、還元性の地球温暖化ガス成分の少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1記載の生物学的ガス処理方法。
【0019】
(請求項3)
微生物を担持した導電性微生物担体を有する気液接触部を備えた気液接触塔を有し、
気液接触塔には酸化分解性被処理成分を含む被処理ガスを導入する被処理ガス導入口と、酸化分解された処理ガスを排出する処理ガス排出口と、該気液接触塔内の上部から下方に向かって循環液を散布する循環液散布部と、散布された循環液を下方から排出する循環液排出口とを備え、
該循環液排出口から該気液接触塔の外部に排出された循環液を貯留する循環タンクと、循環タンク内の循環液を、配管を介して前記循環液散布部に移送する循環ポンプとを有し、前記気液接触部で気液接触させて、酸化分解性被処理成分を前記微生物によって酸化分解する生物学的ガス処理装置であって、
ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上の高温焼成炭素からなる前記導電性微生物担体に正極とする電圧を印加する電位印加手段を有することを特徴とする生物学的ガス処理装置。
【0020】
(請求項4)
前記酸化分解性被処理成分は、硫黄系の還元性且つ臭気性成分、窒素系の還元性且つ臭気性成分、揮発性有機化合物、又は、還元性の地球温暖化ガス成分の少なくとも一種からなることを特徴とする請求項3記載の生物学的ガス処理装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低コストで処理効率が良い生物学的ガス処理方法及び生物学的ガス処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】硫化水素/硫酸系の電位−pH図
【図2】炭素表面における顕微ラマンスペクトル
【図3】本発明に係る生物学的ガス処理装置の第一態様を示す概略図
【図4】本発明に係る生物学的ガス処理装置の第二態様を示す概略図
【図5】本発明に係る生物学的ガス処理装置の第三態様を示す概略図
【図6】硫化水素濃度の経時変化を示す図
【図7】硫化水素濃度のガス流速依存性を示す図
【図8】硫化水素濃度の処理電位依存性を示す図
【図9】従来技術に係る生物学的ガス処理装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の生物学的ガス処理方法が適用される被処理ガスは、酸化によって分解される酸化分解性被処理成分を含む。前記酸化分解性被処理成分は、硫黄系の還元性且つ臭気性成分、窒素系の還元性且つ臭気性成分、揮発性有機化合物、又は、還元性の地球温暖化ガス成分の少なくとも一種からなることが好ましい。前記硫黄系の還元性且つ臭気性成分としては、硫化水素、硫化メチル類、メチルメルカプタン等のメルカプタン類、硫化カルボニル等を好ましく例示でき、前記窒素系の還元性且つ臭気性成分としては、アンモニア、トリメチルアミン、スカトール、インドール等を好ましく例示でき、前記揮発性有機化合物としては、揮発性の炭化水素類又は脂肪酸類を好ましく例示でき、前記還元性の地球温暖化ガス成分としては、亜酸化窒素、メタン等を好ましく例示できる。
【0024】
かかる被処理ガスとしては、例えば、バイオガスプラント、水処理施設、汚泥処理施設、ゴミ処理施設、堆肥化施設、有機物加工処理施設等から排出される排ガス等を好ましく例示できる。
【0025】
微生物による酸化分解性被処理成分の酸化分解は、通常、電子受容体として酸素を必要とする。しかるに、従来のようにエアレーションを行って、気液接触部に酸素を供給するだけでは、酸素が循環液に溶解する段階、溶解液中の酸素が拡散して微生物に到達する段階、更には、酸素が微生物の代謝経路に取り込まれる段階等、供給された酸素が微生物の酸化分解の発現に用いられるまでには、いくつもの段階を経なければならず、酸化分解は非効率的となり、処理ガス中に酸化分解性被処理成分が多量に残留することになる。
【0026】
本発明者は、従来の酸素のみに依存する酸化分解法から脱却し、微生物の潜在的な酸化力を引き出すことにより、生物学的ガス処理の効率を向上することを鋭意検討し、微生物を担持する担体として、導電性を有する導電性微生物担体を用い、「正極とする電圧」を印加した状態を形成して、電子受容体とする構成に到った。
【0027】
かかる構成により、微生物は、酸化分解に伴って生じる電子を、酸素と導電性微生物担体の何れにも供与することができるため、酸素のみに依存する場合には発現し得なかった潜在的な酸化力を発現できるようになり、生物学的ガス処理の効率を向上することが可能となる。
【0028】
上述の「正極とする電圧」とは、導電性微生物担体が、酸化分解に伴って生じる電子を、好適に受容できる電位であり、−1.5〜+1.5V(基準は標準水素電極でもAg/AgCl電極でも可)程度の広い領域に亘るが、好ましくは、菌叢やpHによって、上述の範囲内で、+0.3〜1.0V程度の範囲に設定されることである。
【0029】
酸化分解性被処理成分に応じた分解反応における電位は、一般的な電気化学的理論計算によって求めることができるので、この結果に基づいて上記の範囲内で電位を設定することも好ましい。
【0030】
例えば、酸化分解性被処理成分/分解生成物系の電位−pH図における酸化分解性被処理成分領域の境界線よりも貴側に電位を設定することで、酸化分解性被処理成分の分解反応が進行する。分解反応のドライビングフォースを好適に得るためには、前記境界線よりも0.1V以上貴側に電位を設定することが好ましい。
【0031】
具体例として、図1に、硫化水素/硫酸系の電位−pH図を示す。
【0032】
酸化分解性被処理成分が硫化水素であり、酸化分解による分解生成物が硫酸である場合、図1において、硫化水素領域(斜線部)の境界線Lよりも貴側に電位を設定することで、分解反応が進行し、境界線よりも0.1V以上貴側に電位を設定することで、分解反応のドライビングフォースを好適に得ることができる。
【0033】
更に、本発明者は、微生物と導電性微生物担体との間の電子移動を安定且つ十分に進行させて、生物学的ガス処理の効率を有意に向上させるために、導電性微生物担体の選定を行った。
【0034】
従来から、電極に固定された微生物の電極電子移動反応については、多くの研究が行われてきた。しかしながら、電子移動が限られた範囲の距離間でしか生じないことや、微生物と電極との親和性(具体的には吸着性及び菌体非破壊性)が得られ難いことから、微生物の電極電子移動反応を安定且つ十分に進行させることは困難であると考えられてきた。
【0035】
その結果、現在では、微生物ではなく、生体から抽出した酵素を、電極上に固定する方法の研究が主流となっている。
【0036】
しかし、酵素固定法は、手軽に行えるものではなく、生体からの酵素抽出工程や、電極表面への酵素被覆工程など、複雑な工程を必要とする。更には、使用時において、酵素の剥離や変性が生じた場合は、再生が極めて困難であり、取り換えて対応することになる。このような理由から、バイオセンサーなどの一部用途を除き、実用化には至っていない。特に、排ガスの処理を行うような大規模なバイオリアクターに用いることは極めて困難である。また、特定の酵素のみを固定した電極を用いても、微生物の複雑な代謝経路の再構築は不可能であり、排ガス中の種々の酸化分解性被処理成分の酸化分解を行うことは、やはり極めて困難である。
【0037】
本発明者は、あくまでも微生物と担体との電子移動反応について研究を続け、有機物を、好ましくは1250℃以上、より好ましくは1400℃以上で、還元雰囲気下で焼成または再焼成して得られる高温焼成炭素のうち、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上、好ましくは1.00以上、より好ましくは1.20以上の高温焼成炭素を選別して導電性微生物担体として用いた場合に、微生物と導電性微生物担体との間の電子移動を安定且つ十分に進行させて、生物学的ガス処理の効率を有意に向上させることができることを見出した。有機物を高温焼成又は再焼成すれば必ず上記特性を備えるわけではないので、この選別は本発明において重要である。
【0038】
還元雰囲気下とは、酸素元素を含まない気体中を意味し、酸素元素を含まない気体としては、窒素等を好ましく例示できる。
【0039】
高温焼成炭素の導電性は、高温焼成炭素を形成するグラファイト質の結晶構造により付与される。ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)を測定することで、主に炭素表面(数〜数10原子層程度)の構造に起因した測定値が得られる。特に、高温焼成炭素を導電性微生物担体として用いる本発明では、担持微生物との間の電子移動を効率的に行うために、表面導電性が重要となる。ラマン分光スペクトルを用いれば、導電性微生物担体としての表面導電性を好適に評価できる。これに対して、炭素内部の結晶構造を反映するX線回折は、このような評価に適さない。
【0040】
炭素表面における顕微ラマンスペクトルを図2に示す。
【0041】
このスペクトルには、グラファイト質を示すピーク(1580cm−1)と炭素質を示すピーク(1360cm−1)とが現われている。
【0042】
炭素質が十分にグラファイト化されていると、グラファイト質を示すピークが高く、炭素質を示すピークが低くなる。導電性は主にグラファイト質によって与えられるものであるから、上記のように、グラファイト質を示すピークが高く、炭素質を示すピークが低いことが好ましい。
【0043】
上述したように、導電性微生物担体が、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上の高温焼成炭素であれば、優れた導電性を得ることができ、上述した「正極とする電圧」の印加を、導電性微生物担体からなる充填層全体に好ましく行うことができるため、微生物と導電性微生物担体との間の電子移動を安定且つ十分に進行させて、生物学的ガス処理の効率を有意に向上させることができる。
【0044】
また、高温焼成炭素は、有機物の燃焼により高温焼成炭素は微多孔性となるため、膨大な比表面積を有し、即ち、担持可能な微生物数が大幅に増加する。上述した、電子移動が限られた範囲の距離間でしか生じない問題については、担持微生物数の増加で十分に賄えるものである。
【0045】
本発明の高温焼成炭素は、窒素吸着により測定したBET比表面積が1m/g(窒素吸着量)以上であることが好ましい。
【0046】
さらに、炭素が微生物との親和性に優れることは知られているが、高温焼成炭素もまた、微生物と電極との親和性に優れ、微生物含有溶液に浸漬するだけで微生物を担持することができる優れた吸着性と、電位の印加を行っても微生物の菌体破壊を生じ難いという菌体非破壊性に優れる。
【0047】
本発明において、導電性微生物担体として用いられる高温焼成炭素の好ましい具体例として、竹炭又は木炭、活性炭再焼成して得られる粒状体、炭素繊維集合を例示でき、以下に説明するように、充填層を形成した際の圧力損失の増加を防止できる竹炭又は木炭が、特に好適である。
【0048】
本発明において、導電性微生物担体を形成する竹炭又は木炭(それらの破砕片であってもよい)は、充填層を形成した際に圧力損失を増大させない形状が好ましく、具体的には、充填密度を疎にする手法が好ましい。充填密度を疎にする手法は、竹炭又は木炭の粒径を大きくする手法や、充填した際に必然的に疎になるような形状の竹炭又は木炭を使用する手法などがある。
【0049】
竹炭又は木炭の粒径を大きくする手法の場合には、粒径が小さい方が、脱硫効果に対して制限的な要因となりえるので、最低の粒径を規定することは意味がある。本発明では、破砕された竹炭又は木炭の場合に、その粒径(直径)は、1cm以上が好ましく、より好ましくは3cm以上、さらに好ましくは5cm以上であることである。粒径は、破砕された竹炭又は木炭が円形でない場合には円形に換算した径を意味する。
【0050】
充填した際に必然的に疎になるような形状の竹炭又は木炭を使用する手法では、原料の形のまま焼成した竹炭又は木炭を用いることが挙げられる。たとえば竹炭の場合には、長さ5cm〜10cm程度の円筒竹炭をそのまま充填材として用いれば、充填された状態で間隙が大きく、圧損が、脱硫効果に対して制限的な要因にはならない。また竹原料を線状に裁断して、格子状に平織りして、その後焼成して得られた網状竹炭を用いれば、それらを積層するだけでも、充填された状態で間隙が大きく、圧損が、脱硫効果に対して制限的な要因にはならない。また網状竹炭の層と円筒竹炭の層を交互に積層する手法も好ましい態様として例示できる。
【0051】
図3は、本発明に係る生物学的ガス処理装置の第一態様を示す概略図である。
【0052】
図3において、1は気液接触塔であり、2は気液接触塔に設けられた充填層である。充填層2には、微生物を担持した導電性微生物担体が充填されている。
【0053】
また、3は、導電性微生物担体と接触し、これに電位印加可能に設けられた電位印加極であり、4は対極、5は参照極である。
【0054】
さらに、6は、充填層2に循環液を注入する循環液注入部であり、7は、充填層2の下部から流出する循環液を排出する循環液排出口である。循環液排出口7は、循環液を蓄える循環液タンク8と接続されている。9は、循環液タンク8の循環液を循環液注入部6に送液する循環ポンプである。循環液タンク8には、系外から循環液が適宜補給される。本発明において、循環液は、分解反応による生成物を系外に排出する目的や、導電性微生物担体に微生物を供給する目的で用いることができる。前記分解反応による生成物とは、例えば、酸化分解性被処理成分が硫黄系の還元性且つ臭気性成分であれば、硫酸などである。また、導電性微生物担体に微生物を供給する目的で循環液を用いる場合は、例えばメタン発酵消化液等のような微生物を含有する微生物含有液を、循環液として用いることができる。
【0055】
10は、気液接触塔1の下部に設けられた被処理ガス導入部であり、11は、充填層2に充填された導電性微生物担体と接触し、これを通過した処理ガスを排出する処理ガス排出口である。
【0056】
図4は、本発明に係る生物学的ガス処理装置の第二態様を示す概略図である。
【0057】
第二態様では、被処理ガス中に空気の注入を行うものであり、これによって、導電性微生物担体に加えて、注入された空気中の酸素が、酸化分解反応により生じる電子の受容体として機能するため、より高い処理能力を発揮することが可能である。
【0058】
図5は、本発明に係る生物学的ガス処理装置の第三態様を示す概略図である。
【0059】
第三態様では、従来の電位印加を行わないエアレーション型の生物学的処理装置の後段に、本発明に係る生物学的ガス処理装置を設けている。本発明に係る生物学的ガス処理装置は、従来の生物学的処理装置と容易に組み合わせることができ、また、これらを併用することで、より高い処理能力を発揮することが可能である。
【0060】
本発明において、微生物と導電性微生物担体との間の電子移動は、直接電子移動に限定されず、例えば酸化還元活性を有するメディエータを介したものであってもよい。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0062】
(比較例1)
木片を還元雰囲気下にて1000℃で焼成し、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.80の木炭を得た。得られた木炭を破砕して、平均長径2〜5cm、平均短形1〜2cmの楕円体状の粒状物とし、以下の測定及び試験に供した。
【0063】
<物性値の測定>
1.ラマン分光ピーク比の測定
顕微ラマン分光分析装置(Jobin−Yvon製U−1000ラマンシステム)を用いて、粒状物表面における、1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)を測定し、強度比(P1/P2)を算出した。
【0064】
2.BET比表面積の測定
粒状物について、窒素吸着法によるBET比表面積を測定した。
【0065】
3.表面導電性の測定
室温において、長さ140mm、幅、深さ共に10mmの溝を有する容器の溝に、上記の粒状物を砕いて充填して充填極を形成し、溝の長手方向の両端部に通電極を設け、長手方向に50mmの間隔を開けて充填極に電圧計の電極を差し込み、通電値10mAにおいて、直流四端子法によって充填極の表面導電性を測定した。本発明において、表面導電性は、好ましくは、1kΩcm以下、より好ましくは、200Ωcm以下、最も好ましくは100Ωcm以下である。
【0066】
<生物脱硫試験>
試験用の生物学的ガス処理装置が備える層高約100mm、内径約100mmの充填部に、上記の粒状物を充填し、28℃、+0.2(V vs Ag/AgCl)の電圧を印加し、該充填部において、下記被処理ガスと下記循環液とを向流で接触させて、生物脱硫試験を行った。被処理ガスには空気注入は行わなかった。
【0067】
脱硫処理後の処理ガスをガスクロマトグラフィー分析に供し、硫化水素濃度の定量を行った。
【0068】
被処理ガス:搾乳牛糞尿メタン発酵処理施設(4t/日)発酵槽からのバイオガスを用いた。組成比(体積)は、CH:53%、CO:47%、HS:1800〜2000ppmである。導入バイオガスの流量は150ml/minとした。循環液として、メタン発酵消化液を循環させた。
【0069】
結果を表1に示す。
【0070】
(実施例1)
竹片を還元雰囲気下にて1250℃で焼成し、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が1.00の竹炭を得た。得られた竹炭を破砕して、平均長径2〜5cm、平均短形1〜2cmの楕円体状の粒状物とし、比較例1と同様の測定及び試験に供した。
【0071】
結果を表1に示す。
【0072】
(実施例2)
比較例1で得られた木炭からなる粒状物を還元雰囲気下にて1400℃で再焼成し、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が1.20の木炭を得た。得られた木炭を、比較例1と同様の測定及び試験に供した。
【0073】
結果を表1に示す。
【0074】
(実施例3)
竹片を還元雰囲気下にて1400℃で焼成し、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が1.20の竹炭を得た。得られた竹炭を破砕して、平均長径2〜5cm、平均短形1〜2cmの楕円体状の粒状物とし、比較例1と同様の測定及び試験に供した。
【0075】
結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
(実施例4)
ヤシガラ原料の活性炭を還元雰囲気下にて1400℃で再焼成し、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.90〜1.0の再焼成ヤシガラ炭を得た。得られた再焼成ヤシガラ炭の平均粒径は約5mmであった。比較例1と同様の生物脱硫装置を用いて、生物脱硫試験を行い、以下の項目について評価を行った。各試験に際し、被処理ガスには空気注入は行わなかった。
【0078】
<評価項目>
1.硫化水素濃度の経時変化
被処理ガス中と、処理ガス中の各々の硫化水素濃度の経時変化を4日間に渡り測定した。
【0079】
結果を図6に示した。
【0080】
2.硫化水素濃度のガス流速依存性
硫化水素濃度2200ppm(平均:変動幅1800〜2500ppm)の被処理ガス(28℃)の流速を変化させて充填部に供給し、検出電流値と処理ガス中の硫化水素濃度の流速依存性を測定した。
【0081】
結果を図7に示した。
【0082】
3.硫化水素濃度の処理電位依存性
硫化水素濃度2200ppm(平均:変動幅1800〜2500ppm)の被処理ガス(28℃)を充填部に供給し、充填部において再焼成ヤシガラ炭に印加する電位を変化させて、処理ガス中の硫化水素濃度の電位依存性を測定した。
【0083】
結果を図8に示した。
【0084】
<評価>
図6より、4日間の試験期間において、生物学的ガス処理の経時安定性が確認された。
【0085】
また、図7より、被処理ガスの流速の増加に伴う電流値の増加、即ち反応量の増加が確認できる。比較的流速の低い領域において、硫化水素濃度が特に低下することがわかる。
【0086】
さらに、図8より、+0.1(V vs Ag/AgCl)以上の電位の印加によって、硫化水素濃度が十分に低下することがわかる。
【0087】
(実施例5)
実施例4と同様の装置を用いて、流量150ml/minの被処理ガスに対して、空気を5ml/min注入して充填部に供給した場合、処理ガス中の硫化水素濃度は0ppm(検知管において検出せず)であった。
【0088】
(実施例6)
図22に示したような従来の生物脱硫処理後のガス(硫化水素濃度2000〜2200ppm程度)を、実施例4と同様の装置を用いて、流量150ml/minで、空気を注入しないで供給した場合、処理ガス中の硫化水素濃度は0ppm(検知管において検出せず)であった。
【0089】
(実施例7)
実施例4と同様の装置を用いて、汚泥貯留施設から発生する排ガスを被処理ガスとして100ml/minの流速で、25℃、+0.4(V vs Ag/AgCl)の電位を印加した充填部に供給し、臭気成分の酸化分解を行った。検知管により、被処理ガス中及び処理ガス中の臭気成分の濃度測定を行った。被処理ガス中及び処理ガス中の臭気成分の組成を以下に示す。
【0090】
被処理ガス中の臭気成分の組成:硫化水素250ppm、メチルメルカプタン10ppm、アンモニア470ppm
【0091】
処理ガス中の臭気成分の組成:硫化水素10ppm、メチルメルカプタン0.2ppm、アンモニア15ppm
【0092】
(実施例8)
実施例4と同様の装置を用いて、搾乳牛糞尿処理施設から発生するガスを被処理ガスとして100ml/minの流速で、25℃、−0.2(V vs Ag/AgCl)の電位を印加した充填部に供給し、亜酸化窒素の酸化分解を行った。GC−ECD分析により、被処理ガス中及び処理ガス中の亜酸化窒素濃度の測定を行った。被処理ガス中及び処理ガス中の亜酸化窒素濃度を以下に示す。
被処理ガス中の亜酸化窒素濃度:12000ppb
処理後の亜酸化窒素濃度:750ppb
【符号の説明】
【0093】
1:気液接触塔
2:充填層
3:電位印加極
4:対極
5:参照極
6:凝縮水注入部
7:凝縮水排出口
8:循環液タンク
9:ポンプ
10:被処理ガス導入部
11:処理ガス排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を担持した導電性微生物担体を有する気液接触部を備えた気液接触塔内に、酸化分解性被処理成分を含む被処理ガスと循環液とを導入し、前記気液接触部で気液接触させて、前記酸化分解性被処理成分を前記微生物によって酸化分解する生物学的ガス処理方法であって、
ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上の高温焼成炭素からなる前記導電性微生物担体に正極とする電圧を印加した状態で、酸化分解性被処理成分の酸化分解を行うことを特徴とする生物学的ガス処理方法。
【請求項2】
前記酸化分解性被処理成分は、硫黄系の還元性且つ臭気性成分、窒素系の還元性且つ臭気性成分、揮発性有機化合物、又は、還元性の地球温暖化ガス成分の少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1記載の生物学的ガス処理方法。
【請求項3】
微生物を担持した導電性微生物担体を有する気液接触部を備えた気液接触塔を有し、
気液接触塔には酸化分解性被処理成分を含む被処理ガスを導入する被処理ガス導入口と、酸化分解された処理ガスを排出する処理ガス排出口と、該気液接触塔内の上部から下方に向かって循環液を散布する循環液散布部と、散布された循環液を下方から排出する循環液排出口とを備え、
該循環液排出口から該気液接触塔の外部に排出された循環液を貯留する循環タンクと、循環タンク内の循環液を、配管を介して前記循環液散布部に移送する循環ポンプとを有し、前記気液接触部で気液接触させて、酸化分解性被処理成分を前記微生物によって酸化分解する生物学的ガス処理装置であって、
ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上の高温焼成炭素からなる前記導電性微生物担体に正極とする電圧を印加する電位印加手段を有することを特徴とする生物学的ガス処理装置。
【請求項4】
前記酸化分解性被処理成分は、硫黄系の還元性且つ臭気性成分、窒素系の還元性且つ臭気性成分、揮発性有機化合物、又は、還元性の地球温暖化ガス成分の少なくとも一種からなることを特徴とする請求項3記載の生物学的ガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−212606(P2011−212606A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83915(P2010−83915)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(592141927)三井造船環境エンジニアリング株式会社 (15)
【Fターム(参考)】