説明

生物捕捉除去装置及び生物捕捉除去装置の保守方法

【課題】ろ過作業の停止期間中において残留生物によるろ過体の損傷が生ずることのない生物捕捉除去装置及び生物捕捉除去装置の保守方法を提供する。
【解決手段】船舶にバラスト水として取水される海水及び/またはバラストタンクから排水される海水に含まれる生物を捕捉して除去する生物捕捉除去装置1であって、容器本体3内に複数のろ過エレメント13を有し、前記海水をろ過して水生生物を捕捉するろ過装置と、ろ過作用を行ったろ過装置の内部に熱を加えて高温状態にするための高温清水を供給する高温清水管27を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶にバラスト水として取水される海水及び/またはバラストタンクから排水される海水に含まれる生物を捕捉して除去する生物捕捉除去装置及び該生物捕捉除去装置の保守方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空荷または積荷が少ない状態の船舶は、プロペラ没水深度の確保、空荷時における安全航行の確保等の必要性から、出港前に港において海水を取水してバラスト水の注水を行う。逆に港内で積荷をするときには、バラスト水の排水を行う。
ところで、環境の異なる荷積み港と荷下し港との間を往復する船舶によってバラスト水の注排水が行われると、荷積み港と荷下し港におけるバラスト水に含まれる微生物の差異により沿岸生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されている。
そこで、船舶のバラスト水管理に関する国際会議において2004年2月に船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約が採択され、バラスト水の処理が義務付けられることとなった。
【0003】
バラスト水の処理基準として国際海事機構(IMO)が定める基準は、船舶から排出されるバラスト水に含まれる50μm以上の生物(主に動物プランクトン)の数が1m中に10個未満、10μm以上50μm未満の生物(主に植物プランクトン)の数が1ml中に10個未満、コレラ菌の数が100ml中に1cfu未満、大腸菌の数が100ml中に250cfu未満、腸球菌の数が100ml中に100cfu未満となっている。
【0004】
バラスト水の処理技術として、バラスト水を排出する際にバラスト水中に含まれる有害プランクトンまたは有害藻類のシストを塩素系殺菌剤あるいは過酸化水素を用いて殺菌する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、バラスト水として取水される海水に含まれる生物の数は、海水を採取する日時や場所によって大きく異なり、海水1mL中に数個程度から数億個程度まで幅がある。このため、特許文献1、特許文献2の方法では、国際海事機構(IMO)が定める基準の全ての項目を確実に達成することが難しい。特に、比較的大型の動物プランクトンも死滅させるには、殺菌剤を大量に使用しないと効果がないという問題がある。そのため、殺菌剤費用が嵩むという問題や、大量の殺菌剤を貯留する貯槽を設けなければならず、スペースに制約のある船舶には支障があるという問題がある。さらに、殺菌剤を大量に使用すると、残留する殺菌剤がバラスト水とともに海中へ排出されることによる環境へ影響が無視できないという問題がある。
【0006】
そこで、取水された海水中に殺菌剤を供給する前に、比較的大型のプランクトンをろ過装置により捕捉して除去し、小型のプランクトンと細菌を殺菌剤により殺滅するようにして、殺菌剤使用量を低減することが提案される。
また、バラスト水の積込み時または排水時に、上記海水中の生物処理を行うということは、船舶への荷下し時または荷積み時にこの処理を行なうことであり、係船時間を短縮するために、短時間で海水の給水または排水を行なう必要がある。このため、ろ過装置により生物を捕捉除去する際には短時間で大量のろ過処理が可能なろ過装置が望まれる。
このようなろ過装置として、海水の供給・排出系統に配置され、ろ過ドラムとろ過ドラムのろ過面に高圧水を噴射して逆洗浄する機構を設け、連続してろ過を行うことにより、大量処理が可能なろ過装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平4−322788号公報
【特許文献2】特開平5−000910号公報
【特許文献3】特開平2005−88835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載のろ過装置では、海水を取水してバラストタンクに貯留する際にろ過体による海水のろ過と、ろ過水によるろ過体の逆洗を繰り返すことが記載されている。
しかしながら、ろ過操作を終了した後、次に海水を取水して同様の操作を行うまでの停止期間中におけるろ過装置の保守については、何ら言及されていない。
海水の取水を停止した時には、逆洗されていたとしてもろ過体には種々の生物が残留しているため、停止期間中にこの残留している生物が成長、繁殖して、ろ過体に容易に除去できない目詰まりを生じさせたり、ろ過体を損傷させたりして、ろ過体の寿命を著しく低下させるという問題がある。そのため、作業が煩雑なろ過体の交換頻度が多くなり、作業自体の煩雑さが増すことに加え、ろ過体を交換することに起因して運転費用が嵩むという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、ろ過作業の停止期間中において残留生物によるろ過体の損傷が生ずることのない生物捕捉除去装置及び生物捕捉除去装置の保守方法を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る生物捕捉除去装置は、船舶にバラスト水として取水される海水及び/またはバラストタンクから排水される海水に含まれる生物を捕捉して除去するものであって、前記海水をろ過して水生生物を捕捉するろ過装置と、ろ過作用を行ったろ過装置の内部に熱を加えて高温状態にする加熱手段を備えたことを特徴とするものである。
【0010】
上記のような構成を備えることにより、海水中のプランクトンなどの生物を捕捉除去できることに加え、ろ過装置内に残留する生物を熱によって死滅させることができ、またフジツボなどの水生生物がろ過装置内に付着生育することを防止できる。
なお、ろ過装置の内部を高温状態にするに際して、その温度と持続時間を、温度が60℃以上で持続時間が10分間以上にするのが好ましい。ろ過装置内をこのような状態にすれば、ろ過体に付着残留している生物を確実に死滅させることができ、残留生物の成長、繁殖による被害を確実に防止できる。
【0011】
温度が60℃以上で、持続時間が10分間以上であることが好ましいことの根拠は以下の実験に基づくものである。
<実験内容>
目開き50μmのろ過エレメントを設けたろ過装置により海水原水をろ過し、プランクトンを捕捉した。ろ過エレメントを取り出し洗浄して、捕捉され付着しているプランクトンを計数したところ、5.6×10個/m生息していた。
次に、ろ過を終えた後、ろ過装置内に高温の清水をその温度と維持時間を変えて充填し、その後ろ過エレメントを取り出し洗浄して、生息しているプランクトンを計数した。その結果を表1に示す。
【0012】
【表1】

【0013】
表1に示すように、高温清水を充填して60℃以上で10分間以上維持することにより、ろ過エレメントに捕捉され付着しているプランクトンを殺滅できることを確認した。目開き10μmのろ過エレメント、目開き200μmのろ過エレメントをそれぞれ設けたろ過装置により採取した他のサンプル海水についても同様の実験を行ったところ、ろ過装置内を60℃以上の清水で10分間以上満たすことにより、プランクトンを殺滅できることを確認した。
【0014】
(2)上記(1)に記載の生物捕捉除去装置において、加熱手段は、60℃以上の清水をろ過装置内に供給して充填することによってろ過装置内を高温状態にするものであることを特徴とするものである。
【0015】
上記のような構成を備えることにより、ろ過装置の内部を容易に高温に維持することができる。60℃以上の清水を得る熱源としては、船内でエンジン廃熱から熱回収して得られた高温水を用いることにより容易に得ることができる。
なお、上記のように60℃以上の清水を、ろ過装置内部を加熱するための加熱手段とすることにより、清水をそのままろ過装置内に貯留しておくことができ、停止期間中ろ過装置内部で生物が成長、繁殖することを確実に防止できると共に海水によるろ過装置部材の腐食を防ぐことができる。
【0016】
(3)上記(1)に記載のものにおいて、加熱手段は、蒸気をろ過装置内に供給することによってろ過装置内を高温状態にするものであることを特徴とするものである。
蒸気は、エンジン廃熱から熱回収してボイラなどによって生成することができるので、船内で容易に得ることができる。
【0017】
(4)上記(3)に記載のものにおいて、ろ過装置内へ清水を供給して充填する清水充填手段を備えることを特徴とするものである。
清水を充填することにより、停止期間中ろ過装置内部で生物が成長、繁殖することを確実に防止できると共に海水によるろ過装置部材の腐食を防ぐことができる。
【0018】
(5)本発明に係る生物捕捉除去装置の保守方法は、船舶にバラスト水として取水される海水及び/またはバラストタンクから排水される海水に含まれる生物をろ過することによって捕捉して除去する生物捕捉除去装置の保守方法であって、ろ過後にろ過装置の内部に熱を加えて高温状態にする加熱工程と、加熱工程と同時又は加熱工程後にろ過装置の内部に清水を充填する清水充填工程を備えたことを特徴とするものである。
【0019】
上記のような構成を備えることにより、海水のろ過を停止した後、ろ過装置内に残留する生物を死滅させることができるので、ろ過装置の停止期間中に生物が成長、繁殖することを防止できる。また、海水によるろ過装置部材の腐食を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、ろ過を停止した後、ろ過装置の内部を高温にすることによりろ過装置内に残留している生物を殺滅するので、停止期間中に残留生物が成長、繁殖してろ過体を損傷することにより、ろ過体の寿命が著しく低下することを確実に防ぐことができる。
また、ろ過装置の内部に清水を充填することにより、海水によるろ過装置部材の腐食を防ぐことができる。これらのことにより、ろ過体の交換頻度が多くなったり、作業が煩雑になったりして運転費用が嵩むという問題が生ずることを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[実施の形態1]
以下、図面を用いて、本発明に係る生物捕捉除去装置について、最良の形態の一例を具体的に説明する。
図1は本実施の形態に係る生物捕捉除去装置1の一例を示したものである。本実施の形態に係る生物捕捉除去装置1は、円筒形状の容器本体3と、容器本体3の上部を覆う蓋体5と、容器本体3の底部7と、容器本体3の下部に設けられて海水を導入する海水導入口9と、容器本体3の側面上部に設けられてろ過水を排出するろ過水出口11と、容器本体3内に設置された複数のろ過エレメント13と、ろ過エレメント13を逆洗する逆洗機構15と、容器本体3に図示しない高温清水製造部で製造された高温清水を充填するための高温清水充填口17を備えている。
本実施の形態における生物捕捉除去装置1を構成する容器本体3、蓋体5、底部7、海水導入口9、ろ過水出口11、ろ過エレメント13、逆洗機構15が、本発明のろ過装置を構成し、図示しない高温清水を製造する装置、この装置によって生成される高温清水、高温清水を充填する高温清水充填口17が本発明の加熱手段を構成する。
【0022】
海水導入口9には海水を導入する海水導入管19が接続され、海水導入管19には第1開閉弁21が設けられている。また、ろ過水出口11にはろ過水排出管23が接続され、ろ過水排出管23には第2開閉弁25が設けられている。さらに、高温清水充填口17には高温清水を導入する高温清水管27が接続され、高温清水管27には第3開閉弁29が設けられている。
容器本体3の下部にはドレンを排出するためのドレン管31が接続され、ドレン管31には第4開閉弁33が設けられている。
【0023】
ろ過エレメント13は有底円筒状で、その底部を上に向け開口部を下に向けて容器本体3内に同心円上に設置されている。ろ過エレメント13の開口下部は、ろ過エレメント集合基板35(以下「集合基板35」と略称する)上に気密状態で設置されている。集合基板35には流通孔39が設けられており、ろ過エレメント13の内側と連通している。
【0024】
ろ過エレメント13における目開きは、10〜200μmであることが好ましい。
ろ過エレメント13の目開きを10〜200μmとするのは、動物性プランクトンや植物性プランクトンの捕捉率を一定のレベルに保ちつつ、逆洗頻度を少なくして、船舶の寄港地でのバラスト水処理時間を短縮するためである。
換言すれば、目開きが200μmより大きいと、動物プランクトンや植物プランクトンの捕捉率が著しく低くなり、他方、目開きが10μmより小さいと、ろ過エレメント13の目詰まりが短時間で生ずるため、逆洗頻度が多くなり船舶の寄港地でのバラスト水処理時間が長くなり、いずれも好ましくない。特に、目開き20〜50μm程度のろ過エレメント13を用いることが、捕捉率および逆洗頻度を最適に設定することができるので、好ましい。
【0025】
ろ過エレメント13は、特開2005−211758号公報に開示されているような、定間隔で突起を有している細い線材(ノッチワイヤという)を筒状枠体にコイル状に密に巻回して隣接ノッチワイヤ間に目開きを形成するノッチワイヤフィルタ、やウェッジワイヤフィルタなどの比較的目開きが小さいろ過エレメント13を用いることにより、生物を効率的に捕捉して除去することができる。このノッチワイヤフィルタの具体例としては、神奈川機器工業株式会社製ノッチワイヤフィルタがある。このウェッジワイヤフィルタの具体一例としては、東洋スクリーン工業株式会社製ウェッジワイヤフィルタがある。
【0026】
逆洗機構15は、逆L字型の管からなる逆洗アーム41と、逆洗アーム41の垂直部分に連結されてこれを回転させる回転機構43とを備えている。回転機構43は、容器本体3の中心部に設置された回転軸45と、容器本体3の蓋体5の上部に設けられた変速機47を介して回転軸45を回転させるモータ49とを備えてなる。
逆洗アーム41における垂直部分の下部は容器本体3の底部7に設けられた流路51を介して逆洗液排出口53に連結されている。逆洗液排出口53には逆洗水を排出する逆洗水排出管55が接続され、逆洗水排出管55には第5開閉弁57が設けられている。
逆洗アーム41の水平部分における上面部には集合基板35の流通孔39に連通可能な連通孔59が設けられている。そして、逆洗アーム41の連通孔59が集合基板35の流通孔39に連通することで、ろ過エレメント13と逆洗アーム41が連通し、逆洗液は逆洗アーム41内を通過して逆洗水排出管55から排出される。
【0027】
上記のように構成された生物捕捉除去装置1においては、ろ過を行う場合には、第1開閉弁21、第2開閉弁25、第5開閉弁57を開放しした状態で、海水導入管19から処理する海水を容器本体3の下部に所定の圧力で導入する。容器本体3の下部に導入された海水は、集合基板35の流通孔39を介してろ過エレメント13の内側に導入され、ろ過エレメント13でろ過される。ろ過エレメント13でろ過されたろ過水はろ過水排出管23から排出され、例えば薬剤による処理工程に送られる。
【0028】
ろ過エレメント13のうち逆洗アーム41の連通孔59と連通しているろ過エレメント13には海水は導入されないが、ろ過エレメント13の内側が逆洗水排出管55と連通して大気圧になっているので、ろ過水がろ過エレメント13の外側から内側に流入する。このろ過水の流入によってろ過エレメント13はろ過工程とは逆の流れとなるろ過水によって洗浄される。逆洗アーム41が回転されて、順次異なるろ過エレメント13と連通することで、ろ過エレメント13が順次逆洗される。
【0029】
バラスト水中の生物の捕捉除去処理が終了すると、容器本体3内の海水をドレン管31から排出し、その後、第1開閉弁21、第2開閉弁25、第4開閉弁33、第5開閉弁57を閉状態にする。この状態で、第3開閉弁29を開にして高温清水管27から高温清水を容器本体3内に導入する。容器本体3内を高温状態に保持することにより、容器本体3内に残留する生物を死滅させることができ、さらにフジツボなどの水生生物がろ過装置内に付着生育することを防止できる。
高温清水としては、容器本体3内を60℃以上の温度で10分間以上保持することができる温度の清水であることが好ましい。
高温清水は、船舶のエンジン排ガスとの熱交換により熱回収した廃熱を利用して得るようにすることが、運転費用の点で好ましい。
【0030】
高温清水を充填する本実施形態の場合には、容器本体3内に導入した清水で容器本体3内を満たしておくことにより、容器本体3内の腐食を効果的に防止できる。このようにすることにより、容器本体3内の部材の材質を、海水に対して高い耐食性を有する高価な材質とすることなく、腐食を防止できるので、生物捕捉除去装置1の材料費用が嵩むことを抑制できる。
【0031】
なお、上記の例ではろ過作用が終わった後の加熱工程において、高温清水を容器本体3に導入する例を示したが、容器本体3内を蒸気で満たすようにしてもよい。この場合は、蒸気による残留生物の殺滅処理を行った後、容器本体3内に船内の清水タンクから清水を供給して満たすようにすれば、上述した高温清水を満たす場合と同様に容器本体3の腐食を効果的に防止できる。
【0032】
蒸気を得る手段については、高温清水を得る手段と同様に、船舶のエンジン排ガスとの熱交換により熱回収した廃熱を利用して得るようにすることが、運転費用の点で好ましい。
【0033】
[実施の形態2]
本実施の形態では、実施の形態1の生物捕捉除去装置を用いて海水をろ過して水生生物を捕捉除去した後、ろ過されたバラスト水に殺菌剤を供給して、海水中の生物を除去・死滅処理するバラスト水処理装置を説明する。
【0034】
図2は、本実施の形態に係るバラスト水処理装置の構成示すブロック図である。
本実施の形態のバラスト水処理装置は、図2に示すように、海水を船内に取り込むための海水取水ライン61、該海水取水ライン61によって取水された海水中の粗大物を除去する粗ろ過装置62、海水を取り込むため、あるいは後述のバラストタンク68のバラスト水を後述の生物捕捉除去装置1に送水するためのポンプ63、粗ろ過装置62によって粗大物が除去された海水中に存在するプランクトン類を除去する生物捕捉除去装置1、生物捕捉除去装置1でろ過された海水に細菌類やプランクトンを殺滅する殺菌剤を供給する殺菌装置65、殺菌装置65で殺菌剤を供給されたろ過水を供給して殺菌剤を海水中に拡散させる拡散装置66、該拡散装置66から排出された処理水を後述のバラストタンク68に送水する処理水送水ライン67、該処理水送水ライン67から送水される処理水を貯留するバラストタンク68、該バラストタンク68内の処理済みのバラスト水を海に排水するバラスト水排水ライン69を備えている。
【0035】
以下、各装置をさらに詳細に説明する。
(1)粗ろ過装置
粗ろ過装置62は、船舶の船側部に設けられたシーチェスト(海水吸入口)から取水され、ポンプ63によって海水取水ライン41を通して取水される海水中に含まれる大小様々な夾雑物、水生生物のうち10mm程度以上の粗大物を除去するためのものである。粗ろ過装置としては10mm程度の孔を設けた筒型ストレーナ(こし器)、水流中の粗大物を比重差により分離するハイドロサイクロン、回転スクリーンにより粗大物を捕捉し掻揚げ回収する装置等を用いることができる。
【0036】
(2)生物捕捉除去装置
生物捕捉除去装置1としては、実施の形態1において説明した生物捕捉除去装置を用いる。
生物捕捉除去装置1は粗ろ過装置62によって粗大物が除去された海水中に存在するプランクトン類を除去するものであり、ろ過壁における目開きが10〜200μmのろ過エレメントを備えたものを用いる。目開きを10〜200μmにした理由は、実施の形態1で述べたように、植物性プランクトンの捕捉率を一定のレベルに保ちつつ逆洗頻度を少なくして寄港地でのバラスト水処理時間を短縮するためである。特に、目開きが20〜50μm程度のものを用いるのが、捕捉率と逆洗頻度とを最適に設定できるので、好ましい。
【0037】
ろ過壁における目開きが20〜50μm程度のろ過エレメントを用いることにより、比較的大型の動物性プランクトンと植物性プランクトンをほとんど捕捉して除去する。そのため、殺菌剤によって死滅させる対象は捕捉されなかったプランクトンと細菌となるため、生物捕捉除去装置1のようなろ過装置を用いずに単に殺菌剤を注入して海水中の全てのプランクトンと細菌を死滅させる方式に比べて、殺菌剤の使用量を大幅に減少させることが可能になる。その結果、殺菌剤費用を低減でき、さらに殺菌剤貯留槽を小さくできるので、船舶への搭載が容易になる。また、残留殺菌剤の環境への影響を減らし、また殺菌剤を無害化するために供給する分解剤の供給を不要にあるいは減らすことができる。
【0038】
生物捕捉除去装置1のろ過エレメントの具体例としては、既述のノッチワイヤフィルタまたはウェッジワイヤフィルタを用いることが好ましい。ノッチワイヤフィルタは、既述のごとく、突起を設けたワイヤを枠体へコイル状に密に巻きつけて突起によりワイヤ同士の間隔を保持してろ過通路寸法を10〜200μmにした筒型のろ過体である。このノッチワイヤフィルタの具体例としては、神奈川機器工業株式会社製ノッチワイヤフィルタがある。
ウェッジワイヤフィルタとは、断面が三角形のワイヤを枠体へコイル状に密に巻きつけてワイヤ同士の間隔を調整してろ過通路寸法を10〜200μmにした筒型のエレメントである。このウェッジワイヤフィルタの具体例としては、東洋スクリーン工業株式会社製ウェッジワイヤフィルタがある。
【0039】
(3)殺菌装置
殺菌装置65は生物捕捉除去装置1によってろ過され拡散装置66に供給される海水に殺菌剤を供給して細菌類とプランクトンを殺滅する装置である。供給する殺菌剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、塩素、二酸化塩素、過酸化水素、オゾン、過酢酸またはこれらの2種以上の混合物が使用できるが、これ以外の殺菌剤を使用することも可能である。
殺菌装置65における殺菌剤注入部として、海水の流路内に複数のノズルを配置し、殺菌剤供給管の殺菌剤注入口は、流路断面の半径方向と周方向のそれぞれに複数設けられることとなっているものが好ましい。
上記のように構成された殺菌装置65においては、殺菌剤は拡散装置66に対して上流側に供給されるので、拡散装置66に達するまでに管内で殺菌剤をある程度拡散させておき、拡散装置66において殺菌剤の拡散、混合を進めて、さらに殺菌剤の細菌類への浸透を促進して殺菌剤の殺滅効果を促進できる。
【0040】
(5)拡散装置
拡散装置66は生物捕捉除去装置1のろ過エレメントを通過した細菌類やプランクトンに対して殺菌装置65から供給された殺菌剤を海水中に拡散させるものである。
拡散装置66としてベンチュリ管を用いることが好ましい。ベンチュリ管を用いることによって生物捕捉除去装置1を通過した細菌類やプランクトンに対して該ベンチュリ管により発生せるキャビテーションにより損傷を与えるか殺滅すると共に殺菌装置65から供給された殺菌剤を海水中に拡散させる効果を有する。
以下にベンチュリ管について説明する。
【0041】
ベンチュリ管は、管路断面積が徐々に小さくなる絞り部、最小断面積部である喉部、徐々に管路断面積が広がる広がり部(ディフューザ部)からなる。喉部での流速の急上昇に伴う静圧の急激な低下によりキャビテーション気泡が発生し、広がり部での流速の低下に伴う圧力上昇により成長したキャビテーション気泡が崩壊する。海水中の細菌類やプランクトンはキャビテーション気泡が崩壊することによる衝撃圧、せん断力、高温、酸化力の強いOHラジカルの作用などにより、損傷を与えられるか破壊され殺滅される。
【0042】
また、ベンチュリ管によるキャビテーションによって、殺菌剤を海水中に急速に拡散させて殺菌剤による細菌類の殺菌作用を促進させることができる。このようにキャビテーションの拡散作用により殺菌剤の海水中への混合を促進するため、殺菌剤を注入するだけの場合に比べて殺菌剤の供給量を低減でき、殺菌剤として塩素殺菌剤を用いる場合に懸念されるトリハロメタンの発生を抑制するなど、環境への影響を低減できる。また殺菌剤を無害化するための殺菌剤分解剤の供給を不要にするかまたは低減できる。
拡散装置66として、ベンチュリ管以外に海水流路内に攪拌流れを生じさせるスタティックミキサや攪拌翼を回転させる撹拌器を用いてもよい。
【0043】
次に、以上のように構成された本実施の形態の動作を説明する。
ポンプ63を稼動することによって、海水取水ライン61から海水が船内に取水される。その際、まず粗ろ過装置62によって海水中に存在する大小様々な夾雑物、水生生物のうち10mm程度以上の粗大物が除去される。
粗大物が除去された海水は生物捕捉除去装置1に供給され、生物捕捉除去装置1のろ過エレメントの目開きに応じた大きさの動物性プランクトン、植物性プランクトン等が除去される。
【0044】
粗ろ過装置62及び生物捕捉除去装置1で捕捉された水生生物等は、粗ろ過装置62及び生物捕捉除去装置1のフィルタ等を逆洗することにより洗い流されて海に戻される。海に戻しても同一の海域なので生態系に悪影響はない。つまり、この例ではバラスト水を積み込む際に処理をしているので、粗ろ過装置62及び生物捕捉除去装置1の逆洗水をそのまま放流できるのである。
生物捕捉除去装置1でろ過された海水には殺菌装置65から殺菌剤が供給され、殺菌剤が供給された海水は拡散装置66であるベンチュリ管に供給される。
【0045】
ベンチュリ管において、上述した原理により海水中にキャビテーション気泡が発生して成長し、さらに成長したキャビテーション気泡が急激に崩壊することにより、海水中の水生生物に衝撃圧、せん断力、高温、酸化力の強いOHラジカルの作用を及ぼし、水生生物に損傷を与えるか破壊して殺滅する。このとき、ベンチュリ管に導入前の海水に殺菌剤を供給しているので、ベンチュリ管におけるキャビテーションにより殺菌剤の海水中への拡散が促進され細菌類の殺滅効果を増進する。
【0046】
拡散装置66のベンチュリ管から排出された殺滅処理後の海水は処理水送水ライン67を通じてバラストタンク68に貯留される。もっとも、バラストタンク68に海水を貯留する場合には、殺菌装置65から供給される殺菌剤が適当な時間残存することが好ましい。これは、仮にバラストタンク68内に有害生物が残存したとしても、残存する殺菌剤の効果によって、これらの微生物を殺滅することができるからである。殺菌剤を残存させる濃度は殺菌剤の種類、濃度、およびバラストタンク68の材質や塗装の種類によって適宜に決定する。
【0047】
なお、生物捕捉除去装置1は、海水の処理が完了後、実施の形態1で説明したように、容器本体内を60℃以上の温度で10分間以上保持し、その後清水を容器内に保持するようにすることで、装置の長寿命化を図ることができる。
【0048】
なお、上記の例は海水をバラストタンク68に積み込む際に処理を行う場合であるが、海水をバラストタンクに積み込む際には殺滅処理をしないで、バラストタンク68から排出する際に殺滅処理する場合もある。また、海水をバラストタンク68に積み込む際とバラストタンク68から排出する際との両方でバラスト水中の水生生物の殺滅処理を行うようにしてもよい。その場合にはバラスト水の排出時の殺滅処理は軽度でよい。
【0049】
以上のように、本実施の形態においては、生物捕捉除去装置1で10〜200μm以上の動物性プランクトン、植物性プランクトンを除去し、殺菌剤の供給と拡散装置66であるベンチュリ管で殺菌剤を海水中に十分に拡散させることにより細菌類やプランクトンを死滅させるようにし、さらにベンチュリ管で細菌類やプランクトンに損傷を与えるかあるいは死滅させるようにしたので、どのような水質であっても確実かつ安価にIMOが定めるバラスト水基準を満たすバラスト水の処理が実現できる。
【0050】
また、本発明では上記のバラスト水中の生物捕捉除去装置1と殺菌装置65に加えて、殺菌装置65で殺菌剤が供給された海水に殺菌剤分解剤を供給する殺菌剤分解装置を設けるようにしてもよい。
殺菌剤分解装置を備えることにより、バラストタンク68に貯留されていた海水を海に排水する際に残留する殺菌剤を分解してバラスト水を排出する海域への影響を防止することができる。
次亜塩素酸ナトリウム、塩素等の塩素殺菌剤に対して供給される殺菌剤分解剤としては、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム(亜硫酸水素ナトリウム)を用いることができ、過酸化水素に対して供給される殺菌剤分解剤としては、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム(亜硫酸水素ナトリウム)及びカタラーゼ等の酵素を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施の形態である生物捕捉除去装置の説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態であるバラスト水処理装置の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 生物捕捉除去装置、3 容器本体、5 蓋体、7 底部、13 ろ過エレメント、15 逆洗機構、17 高温清水充填口、19 海水導入管、23 ろ過水排出管、27 高温清水管、47 変速機、49 モータ、61 海水取水ライン、62 粗ろ過装置、63 ポンプ、65 殺菌装置、66 拡散装置、67 処理水送水ライン、69 バラスト水排水ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶にバラスト水として取水される海水及び/またはバラストタンクから排水される海水に含まれる生物を捕捉して除去する生物捕捉除去装置であって、前記海水をろ過して水生生物を捕捉するろ過装置と、ろ過作用を行ったろ過装置の内部に熱を加えて高温状態にする加熱手段を備えたことを特徴とする生物捕捉除去装置。
【請求項2】
加熱手段は、60℃以上の清水をろ過装置内に供給して充填することによってろ過装置内を高温状態にするものであることを特徴とする請求項1に記載の生物捕捉除去装置。
【請求項3】
加熱手段は、蒸気をろ過装置内に供給することによってろ過装置内を高温状態にするものであることを特徴とする請求項1に記載の生物捕捉除去装置。
【請求項4】
ろ過装置内へ清水を供給して充填する清水充填手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の生物捕捉除去装置。
【請求項5】
船舶にバラスト水として取水される海水及び/またはバラストタンクから排水される海水に含まれる生物をろ過することによって捕捉して除去する生物捕捉除去装置の保守方法であって、ろ過後にろ過装置の内部に熱を加えて高温状態にする加熱工程と、加熱工程と同時又は加熱工程後にろ過装置の内部に清水を充填する清水充填工程を備えたことを特徴とする生物捕捉除去装置の保守方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−66533(P2009−66533A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238101(P2007−238101)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(000192899)神奈川機器工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】