説明

生物活性を強化した抗体改変体

【課題】抗体のエフェクター活性増強方法を提供する。
【解決手段】重鎖C末端にFcドメインが直列に複数個連結した抗体改変体、およびスペーサーを介してFcドメインが直列に連結した抗体改変体を作製し、Fc受容体に対する親和性、CDC活性、ADCC活性を測定し、Fcを複数連結してもCDC活性は増強されないとの報告があったにもかかわらず、改変体は増強されたADCC活性を示し、この方法により、高い治療効果を有する抗体医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体のエフェクター活性を増強する方法、強力なエフェクター活性を有する抗体改変体およびその製造法に関する。さらに詳しくは、主にエフェクター活性であるADCC活性を増強する方法、強力なADCC活性を有する抗体改変体およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は治療薬として広く利用されるようになった[非特許文献1]。抗体が治療薬として利用可能になったのは、抗体に関わる多様な技術が発展したからに他ならない。抗体を大量に作製する方法は、ケーラーとミルシュタイン(G. KohlerとC. Milstein)が開発した細胞融合法によって確立された[非特許文献2]。また、遺伝子組換え技術の進歩とともに、抗体遺伝子を発現ベクターに挿入して宿主細胞に導入することによって大量生産することも可能になった[非特許文献3]。
【0003】
また、人間に投与した際に免疫原性を有さないように、ヒト由来の抗体分子に近づける工夫がなされてきた。例えば、マウス可変領域とヒト定常領域から成るキメラ抗体や[非特許文献4]、マウス超可変領域とヒトフレームワークとヒト定常領域から成るヒト化抗体が開発されている[非特許文献5]。これらの技術の開発により、抗体は癌、自己免疫疾患、血栓症、炎症、感染症などの治療薬として実用化され、さらに多くの抗体が臨床試験中である[非特許文献6]。
【0004】
抗体医薬への期待が高まる中、抗体の活性が弱いために、がん、自己免疫疾患、炎症、感染症などの治療効果が十分得られないケースや、あるいは、投与量が多くなることで患者のコスト負担も高くなるケースがある。そんな現状にあって、治療活性の増強が抗体治療薬の重要な課題になっている。
【0005】
抗体医薬の作用として、一つには、その2つのFabドメインで疾患に関与している抗原分子に結合することにより、治療効果を発揮することが挙げられる。例えば、腫瘍壊死因子(TNF)に対する抗体は、TNFに結合してTNFの活性を阻害し、炎症を抑制し、関節リウマチに治療効果を発揮する[非特許文献7]。抗原分子に結合して、抗原の活性を阻害することにより治療効果を発揮することから、抗原親和性が高い抗体ほど、少量で高い効果が期待できる。抗原結合親和性を強化するため、多くのモノクローナル抗体の中から、同一抗原に対して高い親和性を有するクローンを選択してくる方法が広く行われている。また、遺伝子組換えによって改変体を作製し、その中から親和性の高い改変体を選別する方法をとることもできる。
【0006】
他方、がん治療などを目的にする抗体医薬では、標的細胞であるがん細胞に対して細胞障害作用を発揮することが重要である。標的細胞表面上の抗原に結合した抗体は、そのFcドメインを介して、NK細胞やマクロファージなどのエフェクター細胞表面上に存在するFc受容体に結合して、標的細胞を障害する。これを、抗体依存性細胞介在性細胞障害(Antibody-dependent cellular cytotoxicity, 以下、ADCCと略す)という。また、抗体は、Fcドメインを介して、補体を活性化することによって細胞を障害する。これを補体依存性細胞障害(Complement-dependent cytotoxicity,以下、CDCと略す)という。細胞障害活性以外の抗体の作用として、感染微生物に結合した抗体は、エフェクター細胞のFc受容体に結合して、エフェクター細胞による感染微生物の貪食や障害を仲介する作用も有する。こうしたFcドメインを介した抗体の活性を、エフェクター活性という。
【0007】
ヒトIgGが結合するFc受容体にはいくつか異なる分子種が存在する。FcγRIAは、マクロファージや単球などの細胞表面に存在し、ヒトIgGに高い親和性を示す。FcγRIIAは、マクロファージや好中球などに存在し、IgGに弱い親和性を示す。また、FcγRIIBは、Bリンパ球、肥満細胞、マクロファージなどに存在し、IgGに弱い親和性を有し、抑制性シグナルをもたらす。FcγRIIIAは、ナチュラル・キラー(NK)細胞やマクロファージなどに存在し、IgGに弱い親和性を有し、ADCC活性を発揮するのに重要である。FcγRIIIBは、好中球に存在し、FcγRIIIAと同じ細胞外ドメインを有するが、GPIアンカーによって細胞表面に結合している。さらに、これらとは別に、FcRnが小腸や胎盤に存在し、IgGの代謝に関与している。これらのFc受容体に関しては、総説に記載されている[非特許文献8]。
【0008】
抗体のがん治療活性を増強することを目的として、抗体のエフェクター機能を増強する数々の試みがなされてきた。シールズ(R.L.Shields)らは、Fcドメインを構成するCH2ドメインとCH3ドメインのアミノ酸を置換した多くのヒトIgG1抗体改変体を作製して、Fc受容体への結合活性とADCC活性を測定している[非特許文献9]。その結果、多くの改変体は天然のIgG1抗体よりも低い結合活性を示したが、いくつかの改変体は、ADCC活性の多少の増強が観察された。補体が結合するCH2ドメインのアミノ酸を置換してCDC活性を増強する試みも報告されているが、補体C1qの結合が増強されているが、CDC活性はむしろ減弱してしまった[非特許文献10]。
【0009】
IgG1抗体では、Fcドメインに存在する297番目のアスパラギンに糖鎖が結合しており、この糖鎖の差異は、抗体のエフェクター活性に影響を与えることが知られている。シールズ(R.L.Shields)らは、その糖鎖のα1,6−フコース(fucose)が欠損しているIgG1抗体は、FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIBおよび補体C1qとの結合には大きな影響を与えないが、FcγRIIIAとの結合活性が50倍増強されたと報告した[非特許文献11]。FcγRIIIAには遺伝子多型があり、158番目のアミノ酸がバリン(Val)型とフェニルアラニン(Phe)型がある。これら多型のいずれにおいても、α1,6−フコース欠損IgG1抗体はFcγRIIIAとの結合活性が増強されていた。また、α1,6−フコース欠損抗体は増強されたADCC活性を示したことも報告されている[非特許文献11]。シンカワ(T.Shinkawa)らも同様の結果を発表している[非特許文献12]。
【0010】
テルフォード(S.G.Telford)は、複数のFc領域を有する抗体が改善されたFc活性を有すると主張している[特許文献1]。テルフォードは、抗μ鎖であるFabおよび抗CD19であるFabのヘテロ2価Fabを有し、化学合成のリンカーを介して2つのFc領域が横に共有結合された抗体改変体を作成し、ADCC活性の測定を行っている。しかし、ターゲット細胞表面にCD19とμ鎖の双方が発現していることを考えると、テルフォードが観察したADCC活性の上昇は、Fc領域が複数あることによる効果以外に、ヘテロ2価Fabによって、抗体改変体が効率的にターゲット細胞に結合した効果によるものと考えられる。テルフォードは、ADCC活性増強の原因からヘテロ2価Fab効果を排除するための検討を行っていないため、Fc領域増加がFc活性増強の原因であったかどうかは定かでない。そのため、Fc領域を複数有する抗体改変体であってもテルフォードの改変体とは異なる構造である改変体を作製した場合に、その改変体が改善されたFc活性を有するかどうかは、全く予想できない。
【0011】
一方、グリーンウッド(J.Greenwood)は、Fc部分がタンデムに連結した抗体改変体を作製し、そのCDC活性を比較検討している[非特許文献13]。予想に反し、いずれの改変体もCDC活性が減弱していた。またグリーンウッドは、各種抗体改変体のADCC活性について検討していない。
以上のように、抗体のエフェクター活性を増強する試みが続けられてきたが、いずれの試みも、満足できる結果を与えているとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第2907474号、特表平4-504147、WO90/04413
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Brekke OH. et al., ネイチャー・レビュー・ドラッグ・ディスカバリー(Nature Review Drug Discovery),2, 52(2003)
【非特許文献2】Kohler G. et al., ネイチャー(Nature)256, 495(1975)
【非特許文献3】Carter P. et al., ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acid research),13,4431(1985)
【非特許文献4】Boulianne GL et al., ネイチャー(Nature),312,643(1984)
【非特許文献5】Jones PT. et al., ネイチャー(Nature),321,522(1986)
【非特許文献6】Reichert JM. et al., ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnology),23,1073(2005)
【非特許文献7】Lipsky PE. et al., ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine),343,1594(2000)
【非特許文献8】Takai T. ネイチャー・レビュー・イミュノロジー(Nature Review Immunoglogy),2,580(2002)
【非特許文献9】Shields RL. et al., ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry),276,6591(2001)
【非特許文献10】Idusogie EE. et al., ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Journal of Immunology),166、2571(2001)
【非特許文献11】Shields RL. et al., ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry),277,26733(2002)
【非特許文献12】Shinkawa T. et al., ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry),278,3466,(2003)
【非特許文献13】Greenwood J. et al., セラピューティック・イミュノロジー(Therapeutic Immunology),1,247(1994)
【非特許文献14】Oettgen HC. et al., ハイブリドーマ(Hybridoma)2,17(1983)
【非特許文献15】Huhn D. et al., ブラッド(Blood),98,1326(2001)
【非特許文献16】Press OW. et al., ブラッド(Blood),69,584,(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、抗体分子の構造を改変することによってエフェクター活性を増強する方法、特にADCC活性を増強する方法を提供することである。また同時に、活性が増強された抗体改変体の製造方法、あるいは抗体改変体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意努力した。上記知見にもかかわらず、本発明者らはFc部分を直列に連結した抗体改変体を作製し、抗体改変体のエフェクター活性を検討した。驚いたことに、Fc部分をタンデムに連結した抗体改変体は、天然の抗体よりも、ADCC活性が顕著に増強されていることが確認された。従来の知見によれば、Fcが横に連結された抗体改変体のADCC活性増強がヘテロ2価Fab効果である可能性が排除できず、さらにタンデムに連結された抗体改変体のCDC活性が減弱したことを考えると、本発明の改変体の効果は予想外である。また、Fc領域を3つ有する抗体改変体は、2つ有する改変体よりもさらに増強されたADCC活性を示した。本発明者らの抗体改変体の増強されたADCC活性は、タンデムに連結されたFc領域個数と相関関係があると推察される。本発明者らは、抗体にFcドメインを直列に連結することによって抗体のエフェクター活性を増強可能であることを実証し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち本発明は、Fcドメインを直列に連結することにより抗体のエフェクター活性を増強する方法に関し、より具体的には以下の発明を提供するものである。
(1) 抗体の重鎖C末端に、Fcドメインを含む構造物を1個または複数個直列に連結することを特徴とする、抗体のエフェクター活性を増強する方法、
(2) 上記構造物が、FcドメインのN末端側にスペーサーポリペプチドを有する構造物である、上記(1)記載の方法、
(3) 上記複数個が2個である、上記(1)または(2)記載の方法、
(4) 上記エフェクター活性が抗体依存性細胞介在性細胞障害活性(ADCC活性)である、上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の方法、
(5) 抗体の重鎖C末端に、Fcドメインを含む構造物を1個または複数個直列に連結することを特徴とする、エフェクター活性が増強された抗体改変体の製造方法、
(6) 下記工程(a)および(b)を含む、エフェクター活性が増強された抗体改変体の製造方法
(a)抗体重鎖C末端にFcドメインを含む1または複数個の構造物が直列に連結されたH鎖改変体をコードするポリヌクレオチドおよびL鎖をコードするポリヌクレオチドを発現させる工程
(b)上記ポリヌクレオチドの発現産物を回収する工程、
(7) 上記構造物が、FcドメインのN末端側にスペーサーポリペプチドを有する構造物である、上記(5)または(6)記載の方法、
(8) 上記複数個が2個である、上記(5)から(7)のいずれか1項に記載の方法、
(9) 上記エフェクター活性が抗体依存性細胞介在性細胞障害活性(ADCC活性)である、上記(5)から(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10) 上記(5)から(9)のいずれかの製造方法によって製造された、エフェクター活性が増強された抗体改変体、
(11) 抗体の重鎖C末端に、Fcドメインを含む構造物が1または複数個直列に連結された、抗体改変体、
(12) 上記(10)または(11)に記載の抗体改変体を投与することを特徴とする、細胞性免疫を強化する方法、
(13) 抗体がB細胞特異的分化抗原CD20に対する抗体である、上記(1)から(9)のいずれか1項に記載の方法、
(14) 抗体がB細胞特異的分化抗原CD20に対する抗体である、上記(10)または(11)に記載の抗体改変体。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1−1】実施例1で記載した発現ベクターpCAGGS1-neoN-L/Anti-CD20 L Chainの構築過程を示す図である。
【図1−2】図1−1の続きを示す図である。
【図2−1】実施例2で記載した発現ベクターpCAGGS1-dhfrN-L/Anti-CD20 H Chainの構築過程を示す図である。
【図2−2】図2−1の続きを示す図である。
【図3】実施例2で記載した最終的なH 鎖の遺伝子構造図と、対応するプライマー(配列番号:34〜45)を示す図である。図中の(1)から(12)において、一重線は制限酵素サイトを、二重線はスペーサー配列を示す。
【図4】実施例3で作製した抗体の模式図である。
【図5】実施例4で記載したプロテインAによるアフィニティー精製後のゲル濾過クロマトグラムである。M、RTX(リツキシマブ)、D0、D1、D2、D3、T0、T1、T2、T3の生成物をゲル濾過にかけたクロマトグラムである。
【図6】実施例5に記載したゲル濾過後の抗体をPAGE解析した結果を示す写真である。還元条件でSDS-PAGEを実施し、さらに西洋ワサビ過酸化酵素で標識したヤギ抗ヒトIgG(H+L)抗体あるいはヤギ抗ヒトκ鎖抗体でウェスタンブロットを実施した結果を示す。
【図7】実施例5に記載したゲル濾過後の抗体をHPLC解析した結果を示す図である。精製したM、RTX、D0、D1、D2、D3、T0、T1、T2、T3のHPLC(ゲル濾過)を示す。
【図8】実施例6に記載したフローサイトメトリーによる抗体のCD20結合性試験の結果を示す図である。(1):Mとともに、陰性コントロールのトラスツヅマブと陽性コントロールのRTX。(2):D0、D1、D2、D3。(3):T0、T1、T2、T3。
【図9−1】実施例7に記載した、リコンビナントFcγRIAを用いたELISAによる受容体結合性試験の結果を示す図である。
【図9−2】実施例7に記載した、リコンビナントFcγRIIAを用いたELISAによる受容体結合性試験の結果を示す図である。
【図9−3】実施例7に記載した、リコンビナントFcγRIIBを用いたELISAによる受容体結合性試験の結果を示す図である。
【図9−4】実施例7に記載した、リコンビナントFcγRIIIA(Val158型)を用いたELISAによる受容体結合性試験の結果を示す図である。
【図9−5】実施例7に記載した、リコンビナントFcγRIIIA(Phe158型)を用いたELISAによる受容体結合性試験の結果を示す図である。
【図10】実施例8に記載したADCC活性試験の結果を示す図である。
【図11】実施例9に記載したCDC活性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、抗体のエフェクター活性を増強する新規方法として、「抗体の重鎖C末端に、Fcドメインを含む構造物を1個または複数個直列に連結することを特徴とする、抗体のエフェクター活性を増強する方法」を提供する。本発明の方法によって、元の抗体の抗原に対する親和性を維持しつつ、元の抗体よりもエフェクター活性の増強された抗体改変体(以下、「本発明の抗体改変体」ともいう)を得ることが可能になる。
【0019】
本発明における抗体は、その由来について特に制限は無く、ヒト、サル、チンパンジー等の霊長類、マウス、ラット、モルモット等のげっ歯類、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ロバ、ウシ、ヤギ、イヌ、ネコ等の哺乳類、ニワトリ、等のいずれでもよいが、好ましくはヒトである。本発明における抗体は、天然の抗体であっても、何らかの人為的変異を導入された抗体であってもよく、さらには、いわゆるキメラ抗体、ヒト化抗体であってもよい。本発明における抗体は、どのクラス、あるいはどのサブクラスの免疫グロブリンでもよいが、好ましくは、IgGクラスであり、さらに好ましくはIgG1サブクラスである。
【0020】
本発明における「Fcドメインを含む構造物」(以下において、「本発明の構造物」とも称す)は、抗体のFcドメインそのものでもよいが、FcドメインのN末端側に、適当なスペーサーとなるオリゴペプチドが結合していてもよい。
【0021】
抗体のFcドメインは、一般的に、免疫グロブリン分子をパパインで分解して得られるフラグメントの一つである。Fcドメインは重鎖定常領域のN末端側からヒンジ部分、CH2ドメインおよびCH3ドメインから構成されていて、ヒンジ部分において重鎖二本がS-S結合で結ばれている。抗体はヒンジ部分で折り曲がることができる。IgG1の場合、2本の重鎖はCH3ドメインにおける非共有結合とヒンジ部分のジスルフィド結合によって結合している。Fcドメインは糖鎖を有するが、抗体重鎖C末端に連結した際にエフェクター活性を増強する能力がある限り、糖鎖に変異があってもよい。例えば、糖鎖上のα1,6フコースが除去された抗体であってもよい。
【0022】
本発明の構造物におけるFcドメインは、本発明の構造物が連結する抗体と同じ由来であっても異なる由来であってもよいが、抗体医薬として使用される場合は、免疫原性の観点から、本発明の構造物が連結する抗体と同じ由来であることが好ましい。例えば、本発明の構造物が連結する抗体がヒト由来の抗体またはヒト化抗体であれば、本発明の構造物におけるFcドメインもヒトFcドメインであることが好ましい。抗体重鎖(H鎖)配列は、V領域を含めたIgG1のH鎖の遺伝子として多数公共データベースに登録されている。例えば、GenBankのAccession No.BC019337(ヒト定常領域のDNA配列)を挙げることができる。また実施例で使用したIgG1重鎖(リーダー配列-CD20由来のV領域(Accession No.AAL27650アミノ酸配列)-CH1-hinge-CH2-CH3)の塩基配列を配列番号:3に、アミノ酸配列を配列番号:4に示す。ヒトFcドメインをコードする塩基配列は、配列番号:3における第721位から1413位である。FcドメインcDNAは、当業者に周知方法によって調製することができる。例えば、配列番号:3における第721位から1413位に記載の配列を基にプライマーを設計し、抗体を発現する細胞から調製したmRNAを鋳型として、公知核酸増幅法によってFcドメインcDNAを調製できる。または、配列番号:3に記載の配列の一部をプローブとし、抗体発現細胞から調製したcDNAライブラリーの中からプローブにハイブリダイズする配列を選択して調製してもよい。
【0023】
また本発明の構造物におけるFcドメインは、Fc受容体結合活性を有する限り、天然の変異あるいは人為的な変異を有していてもよい。例えば、配列番号:3における第721位から1413位記載の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列によってコードされるポリペプチドや、配列番号:4記載のアミノ酸配列における第241位から471位の配列に1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドも、Fc受容体結合活性を有する限り、本発明の構造物におけるFcドメインに含まれる。このようなFcドメイン変異体も、当業者に周知方法によって調製することができる。
【0024】
上記ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するポリヌクレオチドの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0025】
このようなハイブリダイゼーション技術を利用して単離されるポリヌクレオチドがコードするポリペプチドは、通常、上記Fcドメインとアミノ酸配列において高い相同性を有する。高い相同性とは、少なくとも40%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは少なくとも95%以上、さらに好ましくは少なくとも97%以上(例えば、98から99%)の配列の相同性を指す。アミノ酸配列の同一性は、例えば、Karlin and Altschul によるアルゴリズムBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al. J. Mol. Biol.215:403-410, 1990)。BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターはたとえば score = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0026】
またFcドメインに人為的に変異を導入し、Fcドメイン変異体を人工的に調製する技術も当業者に周知である。例えば、配列番号:3に記載の塩基配列に、PCRによる変異導入法やカセット変異法などの遺伝子改変方法を施し、部位特異的にまたはランダムに変異を導入することによって、Fcドメイン変異体を人工的に調製することができる。または配列番号:3記載の塩基配列に変異を導入した配列を、市販の核酸合成装置によって合成することも可能である。
【0027】
本発明の構造物において、スペーサーとなるオリゴペプチドは、無くてもよいが有った方が望ましい。スペーサーとして、しばしばグリシンとセリンの組み合わせが用いられる[ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Journal of Immunology),162,6589(1999)]。本発明のスペーサーとしては、実施例に示すように、グリシン4個とセリン1個が組み合わせられたスペーサー(配列番号:48)、あるいは上記配列が2回(配列番号:49)または3回(配列番号:50)連結したスペーサーを用いることができる。しかし、スペーサーはこれらの配列に限らず、スペーサーが連結するヒンジ部分の折れ曲がりを妨げない限り、いかなる構造であってもよい。望ましくは、プロテアーゼあるいはペプチダーゼで容易に切断されないペプチド配列である。このような配列は、例えば、リンカーシーケンス設計援助プログラムであるLINKER (Xue F, Gu Z, Feng JA., LINKER: a web server to generate peptide sequences with extended conformation., Nucleic Acids Res. 2004 Jul 1;32(Web Server issue):W562-5.)に、配列の長さ等の諸条件を入力し、所望するペプチド配列を得ることができる。LINKERへは、http://astro.temple.edu/~feng/Servers/BioinformaticServers.htm.でアクセス可能である。
【0028】
遺伝子工学的技術によって複数の塩基配列をつなげるときに、例えば、制限酵素サイトの配列などの理由によって、つなぎ目に位置するアミノ酸配列が1〜数個にわたり置換、欠失、付加、および/または挿入されることがしばしばある。このような変異は当業者に周知であり、本発明の構造物の構築の際や、本発明の構造物を抗体に連結する際にも、このような変異がおこることがある。例えば、V領域とC領域のつなぎ目、FcのC末端と本発明の構造物のN末端(FcまたはスペーサーのN末端)とのつなぎ目にこのような変異が起こりうる。このような変異があっても、Fc受容体結合活性を有する限り、本発明の構造物または本発明の抗体改変体である。
【0029】
本発明の構造物は、抗体の重鎖C末端に連結することにより、抗体のエフェクター活性増強を可能にする。本発明の構造物は、1個または2個、3個、4個、5個等の、任意の個数を連結させることができるが、好ましくは1個または2個である。すなわち、本発明の構造物が連結された抗体改変体は、2以上の任意の数のFcドメインを有することができ、抗体改変体におけるFcドメインの数は2又は3個である。実施例では、本発明の構造物を2つ連結した抗体改変体が、本発明の構造物を1つ連結した抗体改変体よりも、高いADCC活性を示すことが確認された。
【0030】
本発明の構造物が連結される抗体が認識する抗原は、特にその種類を問わず、任意の抗原であってよい。すなわち、本発明の抗体改変体の可変領域は、いかなる抗原を認識するものであってもよい。下記の実施例では、抗体改変体のH鎖とL鎖の可変領域として、ヒトBリンパ球の分化抗原であるCD20に対するマウスモノクローナル抗体1F5の可変領域を用いた[非特許文献14]。CD20は、297アミノ酸から構成される分子量33〜37キロダルトンのタンパク質であり、Bリンパ球に強く発現している。CD20に対するキメラ抗体であるリツキシマブ(rituximab)は、非ホジキンリンパ腫の優れた治療薬として広く使われている[非特許文献15]。抗CD20抗体として、リツキシマブや1F5以外にも、マウスモノクローナル抗体B1、2H7 [非特許文献16]などが知られている。しかし、本発明の抗体改変体の可変領域は1F5可変領域に限定されるものではない。FcドメインはFabドメインと物理的に離れており、Fcドメイン活性がFabドメインの種類によって影響を受けることは殆どないと考えられるため、1F5以外のいかなる抗体の可変領域でも本発明の抗体改変体の可変領域として使用してよいし、CD20以外のいかなる抗原に対する抗体の可変領域も本発明の抗体改変体の可変領域として用いることができる。
【0031】
本発明の方法を実施することにより、抗原結合活性に関わらずに、抗体のFcドメインが発揮するエフェクター活性を増強することによって、抗体の治療効果を高めることができる。抗体のエフェクター活性、特にADCC活性を増強するためには、Fc受容体への結合活性を増強することが求められる。一般に、2つの分子が結合するときの強さは、次のように考えられる。抗体1分子とFc受容体1分子の結合強度は、アフィニティー(affinity)x結合価数=アビディティー(avidity)で表わされる。天然のIgG抗体はFcが1個であり、エフェクター細胞表面に多くのFc受容体があろうと、結合価数は1である。ただし、抗体が抗原と複合体を形成すると、免疫複合体はエフェクター細胞と多価で結合することになる。その結合価数は免疫複合体の構造によっていろいろである。がん細胞の場合には、細胞表面に複数の抗原があり、これに抗体が結合し、エフェクター細胞のFc受容体と多価で結合することになる。しかしながら、がん細胞上の抗原はしばしば密度が低く、これに結合した抗体は、Fc受容体との結合価数は低くなってしまう。そのために、ADCC活性が十分に発揮できず、治療効果も十分ではなくなる[Golay, J. et al., ブラッド(Blood),95,3900,(2000)]。そこで、抗体1分子に複数個のFcドメインを直列に連結することによって、Fc受容体と多価で結合することを可能にする。それによって、抗体とFc受容体の結合活性、つまりアビディティーは増強される。さらに、エフェクター活性が増強することになる。
【0032】
また本発明は、エフェクター活性が増強された抗体改変体の製造方法も提供する。本発明の方法は、天然に得られる抗体や既存のキメラ抗体のエフェクター活性を増強するだけではなく、由来の異なる抗体可変領域と抗体定常領域との新規組み合わせによる新規キメラ抗体改変体の製造をも可能にする。さらに、CH1ドメインと2以上の上述のFcドメイン変異体との組み合わせからなる新規定常領域を有する抗体改変体であってもよい。ヒトCH1ドメイン塩基配列は、配列番号:3記載の重鎖塩基配列の430位から720位に示される。
【0033】
本発明の方法は、当業者に周知の手段を適宜組み合わせて行うことができる。以下に、遺伝子工学技術により、重鎖(H鎖)、軽鎖(L鎖)の可変領域および定常領域のDNAを調製して連結して本発明の抗体改変体を発現させる場合の例を説明する。
【0034】
可変領域配列は、例えば次のように調製することができる。まず目的の抗体を発現しているハイブリドーマあるいは抗体遺伝子導入細胞からcDNAライブラリーを作製し、目的の可変領域のDNAをクローニングする。H鎖の可変領域VHとL鎖の可変領域VLの上流に、抗体のリーダー配列Lを連結したDNA構造物[LVH]および[LVL]を構築する。
【0035】
抗体の定常領域は、まずヒト・ミエローマ細胞や扁桃などのヒトリンパ組織からcDNAライブラリーを作製する。H鎖およびL鎖の定常領域の5’末端と3’末端の部分配列から設計したプライマーを用い、ポリメラーゼ・チェイン・リアクション(PCR法)等の公知核酸増幅法によって増幅し、H鎖定常領域:[CH1−Fc]のcDNA断片および、L鎖定常領域:[CL]のcDNA断片を得て、これをベクターに挿入し、クローニングする。
【0036】
L鎖については、LVLとCLを連結したDNA構造物[LVL-CL]を構築する。一例として、実施例で作製したDNA構造物[LVL-CL](リーダー配列と1F5のV領域とヒトLκ鎖のC領域)のDNA配列を配列番号:1に、該DNA構造物がコードするアミノ酸配列を配列番号:2に示す。本発明の構造物が連結したH鎖(H鎖改変体)および本発明の構造物が連結しないH鎖は、以下のように構築する。(i)Fcが1個であるH鎖(本発明の構造物が連結しないH鎖)のDNA構造物は、DNA構造物[LVH]とDNA構造物[CH1-Fcドメイン-終始コドン]を連結することによって作製できる。実施例で作製したFc1個であるH鎖のDNA構造物のDNA配列を配列番号:3に、該DNA構造物がコードするアミノ酸配列を配列番号:4に示す。(ii)Fcが2個直列に連結したH鎖(本発明の構造物が一つ連結したH鎖)のDNA構造物は、DNA構造物[LVH]、DNA構造物[CH1−Fc(終始コドンなし)]およびDNA構造物[スペーサーFc−終始コドン]を連結することによって作製できる。実施例で作製したFcが2個直列に連結したH鎖のDNA構造物のDNA配列を配列番号:5(スペーサー無し)、7(スペーサーとしてGGGGS(G4Sと表示する。配列番号:48)が1個)、9(スペーサーとしてG4Sが2個)、11(スペーサーとしてG4Sが3個)に、該DNA構造物がコードするアミノ酸配列を配列番号:6(スペーサー無し)、8(スペーサーとしてG4Sが1個)、10(スペーサーとしてG4Sが2個)、12(スペーサーとしてG4Sが3個)に示す。(iii)Fcが3個直列に連結したH鎖(本発明の構造物が二つ連結したH鎖)のDNA構造物は、DNA構造物[LVH]、DNA構造物[CH1−Fc(終始コドンなし)]、DNA構造物[スペーサーFc−(終始コドンなし)]、DNA構造物[スペーサーFc−終始コドン]を連結することによって作製できる。実施例で作製したFcが3個直列に連結したH鎖のDNA構造物のDNA配列を配列番号:13(スペーサー無し)、15(スペーサーとしてG4Sが1個)、17(スペーサーとしてG4Sが2個)に、および19(スペーサーとしてG4Sが3個)に、該DNA構造物がコードするアミノ酸配列を配列番号:14(スペーサー無し),16(スペーサーとしてG4Sが1個),18(スペーサーとしてG4Sが2個)、20(スペーサーとしてG4Sが3個)に示す。(iv)Fcが4個以上直列に連結したH鎖のDNA構築物は、Fcが3個の場合と同様にして、DNA構造物[スペーサーFc−(終始コドンなし)]の数を増やせばよい。
【0037】
上記のようにして調製したL鎖DNA構造物とH鎖改変体DNA構造物は、クローニングされた後、プロモーターやエンハンサー等制御領域とともに発現ベクターに挿入される。あるいは、既に制御領域を備えた発現ベクターに挿入してもよい。使用可能な発現ベクターとしては、CAGプロモーターを有するベクター[ジーン(Gene),108,193(1991)]、pcDNAベクター[イミュノロジー・アンド・セル・バイオロジー(Immunology and Cell Biology),75,515(1997)]などが挙げられるが、使用する宿主細胞に適合する発現ベクターであれば、いずれを用いてもよい。
【0038】
宿主細胞としては、糖タンパク質発現可能なものの中から適宜選択することができ、例えば、動物細胞、昆虫細胞、酵母、等の中から選択することができる。具体例を挙げるとするならば、CH-DG44細胞[サイトテクノロジー(Cytotechnology),9,237(1992)]、COS-1細胞、COS-7細胞、あるいはマウス・ミエローマ細胞NS0やフコースが欠損した糖鎖を有する抗体分子を産生しうるラット・ミエローマ細胞YB2/0などを例示することができるが、これらに限定するものではない。
【0039】
組換え宿主細胞を培養し、その培養上清から抗体改変体を精製する。培養に当たっては、各種培地を使用可能であるが、抗体精製上の点からは無血清培地が好都合である。培養上清から、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、抗体に選択的な結合性を有するプロテインAなどを固相化したアフィニティー・クロマトグラフィーあるいは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の公知精製方法によって、抗体改変体以外のタンパク質および抗体改変体の断片あるいは凝集体を除去し、目的の抗体改変体を精製する。
【0040】
上記のようにして得られた抗体改変体が、増強されたエフェクター活性を有するかどうかについては、当業者に公知の手段によって確認可能である。例えば、各種Fc受容体との結合活性について、リコンビナントFc受容体細胞外ドメインを使った酵素抗体法によって測定することができる。一つの具体例を説明すると、まず、ヒトIgGの受容体として、FcγRIA、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIAの細胞外ドメインを作製する。これら受容体の配列は公知であり、GenBankから下記のAccession No.によって入手可能である。ヒトFcγRIA:NM_000566、ヒトFcγRIIA:NM_021642、ヒトFcγRIIB:NM_001002273、ヒトFcγRIIIA:NM_000569。これらの受容体を酵素抗体法用の96穴プレートに固相化し、濃度を変量した抗体改変体を反応させて、2次抗体として標識した抗ヒトIgG抗体などを反応させ、標識からのシグナルに基づいて、受容体に結合した抗体改変体量を測定する。なお、FcγRIIIAは遺伝子多型が知られており[ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(Journal of Clinical Investigation),100,1059(1997)]、本実施例では、158番目のアミノ酸がバリンである受容体とフェニルアラニンである受容体を用いた。
【0041】
抗体改変体のADCC活性は、エフェクター細胞とターゲット細胞を用いて測定することができる。エフェクター細胞としては、例えば、健常人末梢血から分離した単核球を用いることができる。ターゲット細胞としては、CD20抗原を発現している細胞であるRamos細胞やRaji細胞などを用いることができる。ターゲット細胞と段階希釈した抗体改変体とを反応させた後、エフェクター細胞を添加する。エフェクター細胞数とターゲット細胞数の比率は10:1〜100:1の範囲内で行なうことができ、好ましくは25:1の比率で行う。抗体改変体のADCC活性によりターゲット細胞が障害を受けると、細胞内の乳酸脱水素酵素(LDH)が培養上清中に放出されるので、放出されたLDHを回収して、酵素活性を測定すれば、ADCC活性を知ることができる。
【0042】
CDC活性については、例えば実施例に示すように、ターゲット細胞に段階希釈した抗体改変体を反応させた後、ベイビー・ラビット新鮮血清を補体原として加えて、細胞障害活性を評価することができる。LDHが含まれる血清を用いるので、細胞障害活性はアラマー・ブルーによる生細胞数の測定などによって評価する。
【0043】
本発明の方法によって得られた抗体改変体は、上記のin vitroにおけるエフェクター活性増強のみならず、in vivoにおいてもエフェクター活性増強に基づく細胞性免疫増強効果を発揮し、細胞性免疫によって改善が期待できる疾患の治療に寄与するものと考えられる。本発明の抗体改変体は、疾病の種類、患者の年齢、症状等に応じた、適切な投与経路および剤形によって投与することができる。また本発明の抗体改変体は、公知製剤技術によって製剤化し、効能・効果や使用上の注意などが記載された説明書とともに、薬剤とすることができる。製剤化にあたっては、性状および品質を確保する等の目的に応じ、薬学的に許容されうる賦形剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、懸濁化剤、乳化剤、溶解補助剤、等の適当な添加剤を適宜加えることができる。例えば、ポリソルベート80、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、無水クエン酸などと配合して注射剤として製剤化し、生理食塩水またはブドウ糖液注射液によって用時調製し、点滴静注などの方法で投与可能である。投与量は、患者の年齢、体重等の要素に応じて調整することができる。例えば、点滴静注の1回投与量として10〜10000mg/m2であり、好ましくは、50〜5000 mg/m2であり、より好ましくは100〜1000 mg/m2であるが、これらに限られるものではない。
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
(実施例1):発現ベクターpCAGGS1-neoN-L/anti-CD20 LC(Light Chain)の構築
(1−1) pEGFP-N1/VLベクター(図1-1-A)の調製
マウス抗CD20 IgG2a VL領域遺伝子のクローニングのため、以下の操作を行った。マウスハイブリドーマ1F5を、10%非働化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン(Sigma Aldrich社製)を含むRPMI1640を用いて、37℃、5%CO2条件下で培養し、ISOGEN(ニッポンジーン社製)をもちいてtotal RNAを抽出した。10μgのtotal RNAに、オリゴdTプライマー(5’- CGAGCTCGAGCGGCCGCTTTTTTTTTTTTTTTTTT-3’(配列番号:21))を10pmol加え、diethylpyrocarbonate(DEPC)処理水を加えて全量を12μLとした。72℃で2分インキュベートしてRNAの高次構造を破壊した後、氷上に素早く移して3分インキュベートした。添付の10xReaction 緩衝液(和光純薬工業社製)2μL、100mM DTT(和光純薬工業)1μL、20mM dNTP(和光純薬工業)1μL、20U/μL RNase 阻害剤(和光純薬工業)1μLを加え、DEPC処理水で全量を19μLとした。42℃まで加温した後、200U/μL ReverscriptII(和光純薬工業)1μLを加え、そのまま42℃で50分インキュベートした。反応終了後、80μLのTE(1mM EDTA、10mM Tris-HCl(pH 8.0))を加えて100μLのcDNA液とした。
【0045】
氷上で滅菌MilliQ水 7.8 μL、添付された5×緩衝液 4 μL、2.5 mM dNTP 2μL 、10 μM フォワード・プライマー(NheIサイト(下線部)を含む、5’- TCGTCTAGGCTAGCATTGTTCTCTCCCAGTCTCCA-3’ (配列番号:22)) 2μL、10 μM リバース・プライマー(XhoIサイト(下線部)を含む、5’-GCTTGAGACTCGAGCAGCTTGGTCCCAGCAC CGAA-3’ (配列番号:23)) 2μL、テンプレートとして1F5由来cDNA 2μL、5U/μL Expand High FidelityPLUS PCR システム(Roche) 0.2μLを混合し、次の条件でPCRを行った。即ち、95℃で10分間の加熱処理後、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で60秒の3工程を30回繰り返した。反応液を1% アガロース STANDARD 01(Solana社製)ゲルを用いて電気泳動し、約0.31kbpのバンドをレコチップ(タカラバイオ社製)を用いて回収した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、このDNA断片を精製した。DNA断片を終濃度0.8U/μLのNheI(東洋紡社製)及び0.5U/μLのXhoI(タカラバイオ社製)で処理し、同様に処理したpEGFP-N1(BD Biosciences社製)50ngと、1.5UのT4 DNA リガーゼ(Promega社製)を用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に、塩化カリウム法により作製した大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、1mLのSOC培地(2% Bacto tryptone(BD Biosciences社製)、0.5% Bacto yeast extract(BD Biosciences社製)、1%塩化ナトリウム(和光純薬工業社製))を加え、試験管に移して37℃で2時間振盪培養した。振盪後、菌液100μLを100μg/mLのカナマイシン(和光)を含むLB培地プレートに撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーからVL領域遺伝子のDNAが挿入されているものを選択し、このベクターをpEGFP-N1/VLとした。
【0046】
(1−2) pEGFP-N1/LVLベクター(図1-1-B)の調製
VL遺伝子にリーダーシークエンスを付加するために、以下の操作を行った。氷上で、添付された5×緩衝液 4 μL、2.5 mM dNTP 2μL 、10 μM フォワード・プライマー(NheIサイト(下線部)を含む、5’-GAGTTT GCTAGCGCCGCCATGGATTTTCAAGTGCAGATTTTCAGCTTCCTGCTAATCAGTGCTTCAGTCATAATGTCCAGAGGACAAATTGTTCTCTCCCAGTCTCCAGCA-3’ (配列番号:24)、配列番号:24における13位から57位はリーダーシークエンス)2μL、10 μM リバース・プライマー(XhoIサイト(下線部)を含む、5’-GCTTGAGACTCGAGCAGCTTGGTCCCAGCACCGAA-3’ (配列番号:25))2μL、テンプレートとして(1)で作製したpEGFP-N1/VL 100ng、5U/μL Expand High FidelityPLUS PCR システムを0.2μLを混合し、全量が20μLとなるように滅菌MilliQ水 を加え、以下の条件でPCRを行った。即ち、95℃で10分間の加熱処理後、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で60秒の3工程を30回繰り返した。反応液を1% アガロース STANDARD 01ゲルを用いて電気泳動し、約0.38kbpのバンドをレコチップを用いて回収した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、このDNA断片を精製した。
【0047】
DNA断片を終濃度0.8U/μLのNheI及び0.5U/μLのXhoIで処理し、同様に処理したpEGFP-N1 50ngと、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5αを100μL加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、1mLのSOC培地を加え、試験管に移して37℃で2時間振盪培養した。振盪後、菌液100μLを100μg/mLのカナマイシンを含むLB培地プレートに撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーからリーダーシークエンスが付加されたVL領域遺伝子のDNAが挿入されているものを選択し、このベクターをpEGFP-N1/LVLとした。
【0048】
(1−3) pEGFP-N1/CLベクター(図1-1-C)の調製
ヒトκ鎖C領域遺伝子のクローニングのため、以下の操作を行った。ヒトミエローマRPMI8226を、10%非働化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含むRPMI1640を用いて、37℃、5%CO2条件下で培養し、ISOGENをもちいてトータルRNAを抽出した。10μgのトータル RNAに、オリゴdTプライマーを10pmol加え、DEPC処理水を加えて全量を12μLとし、72℃で2分インキュベートした後、氷上に素早く移して3分インキュベートした。添付の10xReaction 緩衝液 2μL、100mM DTT 1μL、20mM dNTP 1μL、20U/μL RNase 阻害剤 1μLを加え、DEPC処理水で全量を19μLとした。42℃まで加温した後、200U/μL ReverscriptII 1μLを加え、そのまま42℃で50分インキュベートした。反応終了後、80μLのTEを加えて100μLのcDNA液とした。氷上で、添付された5×緩衝液 4 μL、2.5 mM dNTP 2μL 、10 μM フォワード・プライマー(XhoIサイト(下線部)を含む、5’-ACCTCTAACTCGAGACTGTGGCTGCACC ATCTGT-3’ (配列番号:26)) 2μL、10 μM リバース・プライマー(EcoRIサイト(下線部)を含む、5’- ACTTGAATTCCTAACACTCT CCCCTGTTGA -3’ (配列番号:27)) 2μL、テンプレートとしてRPMI8226由来cDNA 2μL、5U/μL Expand High FidelityPLUS PCR システム 0.2μLを混合し、滅菌MilliQ水を加えて全量を20μLとした後、次の条件でPCRを行った。即ち、95℃で10分間の加熱処理後、95℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒の3工程を30回繰り返した。反応液を1% アガロース STANDARD 01ゲルを用いて電気泳動し、約0.32kbpのバンドをレコチップを用いて回収した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、このDNA断片を精製した。DNA断片を終濃度0.5U/μLのXhoI及び0.5U/μLのEcoRI(東洋紡社製)で処理し、同様に処理したpEGFP-N1 50ngと、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、1mLのSOC培地を加え、試験管に移して37℃で2時間振盪培養した。振盪後、菌液100μLを100μg/mLのカナマイシンを含むLB培地プレートに撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、CL領域遺伝子が挿入されているものを選択し、このベクターをpEGFP-N1/CLとした。
【0049】
(1−4) pEGFP-N1/Anti-CD20 LCベクター(図1-1-D)の調製
マウスヒトキメラ型抗CD20 L鎖遺伝子(DNA配列を配列番号:1、アミノ酸配列を配列番号:2に示す。)を構築するため、以下の操作を行った。0.7 μgの pEGFP-N1/CLに対して終濃度0.5U/μLのXhoI及び0.5U/μLのEcoRIで処理し、1% アガロース STANDARD 01ゲルで全量を電気泳動した後、ベクター断片を拾わないように約0.32kbpのインサートDNA断片をレコチップで回収した。これとは別に、pEGFP-N1/LVLベクターを同じ条件でXhoI、EcoRI処理した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、両DNA断片を精製した。制限酵素処理済みpEGFP-N1/LVL 50ngと、切り出したヒトCL領域遺伝子を混合し、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、1mLのSOC培地を加え、試験管に移して37℃で2時間振盪培養した。振盪後、菌液100μLを100μg/mLのカナマイシンを含むLB培地プレートに撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、リーダーシークエンスが付加されたVL領域遺伝子、及びヒトCL領域遺伝子のDNAが挿入されているものを選択し、このベクターをpEGFP-N1/ Anti-CD20 LCとした。
【0050】
(1−5) pcDNA3.1/Zeo/Anti-CD20 LCベクター(図1-2-E)の調製
マウスヒトキメラ型抗CD20 L鎖遺伝子をpEGFP-N1ベクターからpcDNA3.1/Zeoに移し変えるため、以下の操作を行った。0.5 μgのpEGFP-N1/ Anti-CD20 L Chainに対して終濃度0.8U/μLのNheI及び0.5U/μLのEcoRIで処理し、1% アガロース STANDARD 01ゲルで全量を電気泳動した後、ベクター断片を拾わないように約0.70kbpのインサートDNA断片をレコチップで回収した。これとは別に、pcDNA3.1/Zeoベクター(Invitrogen社製)を同じ条件でNheI、EcoRI処理した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、両DNA断片を精製した。制限酵素処理済みpcDNA3.1/Zeo 50ngと、切り出したAnti-CD20 LC遺伝子を混合し、1.5UのT4 DNAリガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリン(Sigma Aldrich社製)を含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーからAnti-CD20 LC遺伝子のDNAが挿入されているものを選択し、このベクターをpcDNA3.1/Zeo /Anti-CD20 LCとした。
【0051】
(1−6) pCAGGS1-neoN-L(図1-2-F)の調製
CAGプロモーターと、ネオマイシン耐性遺伝子を持つ発現ベクターpCAGGS1-neoNにスペーサーを挿入するため、以下の操作を行った。pCAGGS1-neoNを終濃度0.5U/mLのSalIで処理し、フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、このDNA断片を精製した。これとは別に、2本のDNA鎖(センスDNA:GTCGACGCTAGCAAGGATCCTTGAATTCCTTAAGG(配列番号:28)、アンチセンスDNA:GTCGACCTTAAGGAATTCAAGGATCCTTGCTAGCG(配列番号:29))を合成し、これらを終濃度1μMとなるように混ぜ、MilliQ水で全量を10μLとした。75℃で5分加熱し、室温に静置して徐々に温度を下げた。この溶液1μLと、SalIで処理したpCAGGS1-neoN 50ngを混合し、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、スペーサーが挿入されたpCAGGS1-neoNを選択し、このベクターをpCAGGS1-neoN-Lとした。スペーサーを挿入したことで、pCAGGS1-neoNに2箇所のSalIサイトが生じ、制限酵素切断部位配列は5’-SalI-NheI-BamHI-EcoRI-AflII-SalI-3’となった。
【0052】
(1−7) pCAGGS1-neoN-L/Anti-CD20 LCベクターの調製(図1-2-G)
マウスヒトキメラ型抗CD20 L鎖遺伝子をpcDNA3.1/ZeoベクターからpCAGGS1-neoN-Lベクターに移し変えるため、以下の操作を行った。0.5 μgのpcDNA3.1/Zeo/Anti-CD20 LCに対して終濃度0.8U/μLのNheI及び1.0U/μLのAflII(New England Biolabs社製)で処理し、1%アガロースSTANDARD 01ゲルで全量を電気泳動した後、ベクター断片を拾わないように約0.70kbpのインサートDNA断片をレコチップで回収した。これとは別に、pCAGGS1-neoN-Lを同じ条件でNheI、AflII処理した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、両DNA断片を精製した。制限酵素処理済みpCAGGS1-neoN-L 50ngと、切り出したAnti-CD20 L Chain遺伝子を混合し、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーからAnti-CD20 LC遺伝子のDNAが挿入されているものを選択し、このベクターをpCAGGS1-neoN-L/Anti-CD20 LCとした。
【0053】
(実施例2):発現ベクターpCAGGS1-dhfrN-L/anti-CD20 HC (Heavy Chain)の構築
(2−1) pBluescriptII/VHベクターの調製(図2-1-A)
マウス抗CD20 IgG2a VH領域遺伝子のクローニングのため、以下の操作を行った。氷上で滅菌milliQ 7.8 μL、添付された5×緩衝液 4 μL、2.5 mM dNTP 2μL 、10 μM フォワード・プライマー(SalIサイト(下線部)を含む、5’- CACGCGTCGACGCCGCCATGGCCCAGGTGCAACTG -3’ (配列番号:30)) 2μL、10 μM リバース・プライマー(HindIIIサイト(下線部)を含む、5’- GCGGCCAAGCTTAGAGGAGACTGTGAGAGTGGTGC -3’ (配列番号:31)) 2μL、テンプレートとして1F5由来cDNA 2μL、5U/μL Expand High FidelityPLUS PCRシステム 0.2μLを混合し、次の条件でPCRを行った。即ち、95℃で10分間の加熱処理後、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で60秒の3工程を30回繰り返した。反応液を1% アガロースSTANDARD 01ゲルを用いて電気泳動し、約0.36kbpのバンドをレコチップを用いて回収した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、このDNA断片を精製した。DNA断片を終濃度0.5U/μLのSalI(東洋紡社製)及び1.0U/μLのHindIII(New England Biolabs社製)で処理し、同様に処理したpBluescriptII 50ngと、1.5UのT4 DNAリガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーからVH領域遺伝子のDNAが挿入されているものを選択し、このベクターをpBluescriptII/VHとした。
【0054】
(2−2) pBluescriptII/LVHベクターの調製(図2-1-B)
VH遺伝子にリーダーシークエンスを付加するために、以下の操作を行った。氷上で、添付された5×緩衝液 4 μL、2.5 mM dNTP 2μL 、10 μM フォワード・プライマー(SalIサイト(下線部)を含む、5’- CACGCGTCGAC GCCGCCATGGGATGGAGCTGTATCATCTTCTTTTT GGTAGCAACAGCTACAGGTGTCCACTCCCAGGTGCAACTGCGGCAGCCTGGG-3’ (配列番号:32))2μL、10 μM リバース・プライマー(HindIIIサイト(下線部)を含む、5’- GCGGCCAAGCTTAGAGGAGACTGTGAGAGTGGTGC-3’ (配列番号:33)) 2μL、テンプレートとしてpBluescriptII /VH 100ng、5U/μL Expand High FidelityPLUS PCRシステム 0.2μLを混合し、全量が20μLとなるように滅菌milliQ を加え、以下の条件でPCRを行った。即ち、95℃で10分間の加熱処理後、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で60秒の3工程を12回繰り返した。反応液を1%アガロースSTANDARD 01ゲルを用いて電気泳動し、約0.43kbpのバンドを、レコチップを用いて回収した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、このDNA断片を精製した。DNA断片を終濃度0.5U/μLのSalI及び1.0U/μLのHindIIIで処理し、同様に処理したpBluescriptII 50ngと、1.5UのT4 DNAリガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーからリーダーシークエンスが付加されたVH領域遺伝子のDNAが挿入されているものを選択し、このベクターをpBluescriptII/LVHとした。
【0055】
(2−3) pBluescriptII/CH1-CH2-CH3-Tベクターの調製(図2-1-C)
ヒトIgG1のC領域、即ち、終止コドン(-T)を含むCH1ドメインからCH3ドメインまでの遺伝子をクローニングするため、以下の操作を行った。健常人扁桃細胞から、ISOGENをもちいてトータルRNAを抽出した。5μgのトータルRNAにオリゴdTプライマーを10pmolを加え、DEPC処理水を加えて全量を12μLとし、72℃で2分インキュベートした後、氷上に素早く移して3分インキュベートした。添付の10xReaction 緩衝液 2μL、100mM DTT 1μL、20mM dNTP 1μL、20U/μL RNase阻害剤 1μLを加え、DEPC処理水で全量を19μLとした。42℃まで加温した後、200U/μL ReverscriptII 1μLを加え、そのまま42℃で50分インキュベートした。反応終了後、30μLのTEを加えて50μLのcDNA液とした。氷上で、添付された5×緩衝液 4 μL、2.5 mM dNTP 2μL 、10 μM フォワード・プライマー(図3-(1)) 2μL、10 μM リバース・プライマー(図3-(2)) 2μL、テンプレートとしてヒト扁桃細胞由来cDNA 2μL、5U/μL Expand High FidelityPLUS PCR システム 0.2μLを混合し、滅菌milliQを加えて全量を20μLとした後、次の条件でPCRを行った。即ち、95℃で10分間の加熱処理後、95℃で30秒、55℃で30秒、72℃で60秒の3工程を30回繰り返した。反応液を1%アガロースSTANDARD 01ゲルを用いて電気泳動し、約0.99kbpのバンドを、レコチップを用いて回収した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、このDNA断片を精製した。DNA断片を終濃度1.0U/μLのHindIII及び0.5U/μLのNotI(New England Biolabs社製)で処理し、同様に処理したpBluescriptII 50ngと、1.5UのT4 DNAリガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、ヒトIgG1 C領域遺伝子が挿入されているものを選択し、このベクターをpBluescriptII/CH1-CH2-CH3-Tとした。
【0056】
(2−4) pBluescriptII/CH1-CH2-CH3ベクター(図2-1-D)、pBluescriptII/SP-CH2-CH3-Tベクター(図2-1-E、図2-1-F)、pBluescriptII/ SP-CH2-CH3ベクター(図2-1-G)の調製
ヒトIgG1のC領域のうち、終止コドンを含まないCH1ドメインからCH3ドメインまでの遺伝子、ヒンジ及び終止コドンを含むCH2からCH3ドメインまでの遺伝子、ヒンジを含み終止コドンを含まないCH2からCH3ドメインまでの遺伝子をクローニングするため、以下の操作を行った。氷上で、添付された5×緩衝液 4 μL、2.5 mM dNTP 2μL 、10μM フォワード・及びリバース・プライマー 2μLずつ、テンプレートとしてpBluescriptII/CH1-CH2-CH3-T 0.1μg、5U/μL Expand High FidelityPLUS PCRシステム 0.2μLを混合し、滅菌milliQを加えて全量を20μLとした。用いたプライマーは、CH1-CH2-CH3を増幅する図3-(1)と(7)、SP-CH2-CH3-Tを増幅する図3-(3)から(6)と(2)、または(8)から(11)と(2)、SP-CH2-CH3を増幅する(3)から(6)と(12)の組み合わせの、全13通りである。今回、スペーサーとしてグリシン4つとセリン1つの計5アミノ酸を基本単位とした0、5、10、15アミノ酸残基(a.a.)のフレキシブルなグリシンセリンスペーサーを用いたが、スペーサーの種類は特に限定されるものではなく、汎用されるペプチドスペーサー(SP)なら種類を問わない。汎用されるSPとして、例えば、A(EAAAK)nA(配列番号:63)が知られている(括弧の中は繰り返される配列を、nは繰り返しの数を示す。 Arai R et al., Protein Engineering 14, 529-532 (2001))。95℃で10分間の加熱処理後、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で60秒の3工程を12回繰り返す条件でPCRを行った。反応液を1%アガロースSTANDARD 01ゲルを用いて電気泳動し、CH1ドメインからCH3ドメインまでのDNA断片は約0.99kbp、ペプチドスペーサー配列を含むCH2ドメインからCH3ドメインまでのDNA断片は約0.74kbpのバンドを、レコチップを用いて回収した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、このDNA断片を精製した。DNA断片を対応する制限酵素で処理(最終濃度:HindIII 1.0U/μL、BamHI(タカラバイオ社製) 0.75U/μL、XbaI(タカラバイオ社製) 0.75U/μL、NotI 0.5U/μL)し、同様に処理したpBluescriptII 50ngと、1.5UのT4 DNAリガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、目的のC領域遺伝子が挿入されているものを選択し、このベクターをpBluescriptII/CH1-CH2-CH3、pBluescriptII/ SP-CH2-CH3-T、pBluescriptII/ SP-CH2-CH3とした。
【0057】
(2−5)pBluescriptII/Anti-CD20 HC Fc Monomerベクターの調製(図2-1-H)
マウスヒトキメラ型抗CD20 Fc単量体H鎖遺伝子(DNA配列を配列番号:3、アミノ酸配列を配列番号:4に示す。)を構築するため、以下の操作を行った。0.5μgの pBluescriptII/LVH(図2-1-B)に対して終濃度0.5U/μLのSalI及び1.0U/μLのHindIIIで処理し、1%アガロースSTANDARD 01ゲルで全量を電気泳動した後、ベクター断片を拾わないように約0.43kbpのインサートDNA断片をレコチップで回収した。これとは別に、pBluescriptII/CH1-CH2-CH3-Tベクター(図2-1-C)を同じ条件でSalI、HindIII処理した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、両DNA断片を精製した。制限酵素処理済みpBluescriptII /CH1-CH2-CH3-T 50ngと、切り出したLVH遺伝子を混合し、1.5UのT4 DNAリガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、リーダーシークエンスが付加されたVH領域遺伝子、及びヒトIgG1 H鎖CH1-CH2-CH3-T領域遺伝子のDNAが挿入されているものを選択し、このベクターをpBluescriptII/Anti-CD20 HC Fc Monomerとした。
【0058】
(2−6) pBluescriptII/LVH-CH1-CH2-CH3ベクターの調製(図2-1-I)
0.5μgの pBluescriptII/LVH(図2-1-B)に対して終濃度0.5U/μLのSalI及び1.0U/μLのHindIIIで処理し、1% アガロースSTANDARD 01ゲルで全量を電気泳動した後、ベクター断片を拾わないように約0.43kbpのインサートDNA断片をレコチップで回収した。これとは別に、pBluescriptII /CH1-CH2-CH3(図2-1-D)ベクターを同じ条件でSalI、HindIIIで処理した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、両DNA断片を精製した。制限酵素処理済みpBluescriptII/CH1-CH2-CH3 50ngと、切り出したLVH遺伝子を混合し、1.5UのT4 DNAリガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、リーダーシークエンスが付加されたVH領域遺伝子、及びヒトIgG1 H鎖CH1-CH2-CH3領域遺伝子のDNAが挿入されているものを選択し、このベクターをpBluescriptII/ LVH-CH1-CH2-CH3とした。
【0059】
(2−7) pBluescriptII/Anti-CD20 HC Fc Dimerベクターの調製(図2-2-J)
0.5μgの pBluescriptII/ LVH-CH1-CH2-CH3(図2-1-I)に対して終濃度0.5U/μLのSalI及び0.75U/μLのBamHIで処理し、1%アガロースSTANDARD 01ゲルで全量を電気泳動した後、ベクター断片を拾わないように約1.42kbpのインサートDNA断片をレコチップで回収した。これとは別に、グリシンセリンスペーサーの長さが異なる4種のpBluescriptII/SP-CH2-CH3-T(図2-1-E)ベクターを同じ条件でSalI、BamHI処理した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、両DNA断片を精製した。制限酵素処理済みpBluescriptII/ SP-CH2-CH3-T 50ngと、切り出したLVH-CH1-CH2-CH3遺伝子を混合し、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、リーダーシークエンスが付加されたVL領域遺伝子、ヒトIgG1 H鎖CH1-CH2-CH3領域、ペプチドスペーサーを含んだCH2-CH3-T領域全ての遺伝子が挿入されているものを選択し、このベクターをpBluescriptII/Anti-CD20 HC Fc Dimerとした。そのヒトIgG1 H鎖CH1-CH2-CH3領域にCH2-CH3-T領域が連結したDNA配列を、配列番号:5(スペーサー0個)、7(スペーサー1個)、9(スペーサー2個)、11(スペーサー3個)に示す。また、それぞれに対応するアミノ酸配列を配列番号:6、8、10、12に示す。
【0060】
(2−8) pBluescriptII/ SP-CH2-CH3-SP-CH2-CH3-Tベクターの調製(図2-1-K)
グリシンセリンスペーサーの長さが異なる4種のpBluescriptII/SP-CH2-CH3-T(図2-1-F)0.5μgに対して終濃度0.75U/μLのXbaI及び0.5U/μLのNotIで処理し、1%アガロースSTANDARD 01ゲルで全量を電気泳動した後、ベクター断片を拾わないように約0.74kbpのインサートDNA断片をレコチップで回収した。これとは別に、グリシンセリンスペーサーの長さが異なる4種のpBluescriptII/SP-CH2-CH3(図2-1-G)ベクターを同じ条件でXbaI、NotI処理した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、両DNA断片を精製した。制限酵素処理済みpBluescriptII/SP-CH2-CH3 50ngと、切り出した同じ長さのペプチドスペーサーを持つSP-CH2-CH3遺伝子を混合し、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、ペプチドスペーサーを含むCH2-CH3遺伝子が2つ挿入されているものを選択し、このベクターをpBluescriptII/SP-CH2-CH3-SP-CH2-CH3-Tとした。
【0061】
(2−9) pBluescriptII/Anti-CD20 H Chain Fc Trimerベクターの調製(図2-2-L)
0.5μgの pBluescriptII/LVH-CH1-CH2-CH3(図2-1-I)に対して終濃度0.5U/μLのSalI及び0.75U/μLのBamHIで処理し、1% アガロース STANDARD 01ゲルで全量を電気泳動した後、ベクター断片を拾わないように約1.42kbpのインサートDNA断片をレコチップで回収した。これとは別に、グリシンセリンスペーサーの長さが異なる4種のpBluescriptII/SP-CH2-CH3-SP-CH2-CH3-T(図2-1-K)ベクターを同じ条件でSalI、BamHI処理した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、両DNA断片を精製した。制限酵素処理済みpBluescriptII/SP-CH2-CH3-SP-CH2-CH3-T 50ngと、切り出したLVH-CH1-CH2 -CH3遺伝子を混合し、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、リーダーシークエンスが付加されたVH領域遺伝子、ヒトIgG1 H鎖CH1-CH2-CH3領域、ペプチドスペーサーを含んだCH2-CH3領域遺伝子が2つ挿入されているものを選択し、このベクターをpBluescriptII/ Anti-CD20 HC Fc Trimerとした。そのヒトIgG1 H鎖のCH1-CH2-CH3領域にCH2-CH3-T領域が2つ連結したDNA配列を、配列番号:13(スペーサー0個)、15(スペーサー1個)、17(スペーサー2個)、19(スペーサー3個)に示す。また、それぞれに対応するアミノ酸配列を配列番号:14、16、18、20に示す。
【0062】
(2−10) pcDNA3.1/Anti-CD20 HCベクター(図2-2-M、図2-2-N、図2-2-O)の調製
マウスヒトキメラ型抗CD20 H鎖遺伝子をpBluescriptIIベクターからpcDNA3.1/Zeoベクターに移し変えるため、以下の操作を行った。0.5μgのpBluescriptII/Anti-CD20 HC Fc Monomer(図2-1-H)、pBluescriptII/Anti-CD20 HC Fc Dimer(図2-2-J) 、pBluescriptII/Anti-CD20 HC Fc Trimer(図2-2-L)に対して、終濃度0.5U/μLのSalI及び0.5U/μLのNotIで処理し、1% アガロース STANDARD 01ゲルで全量を電気泳動した後、ベクター断片を拾わないようにAnti-CD20 HC Fc Monomer遺伝子は約1.42kbp、Anti-CD20 HC Fc Dimer遺伝子は約2.16kbp、Anti-CD20 HC Fc Trimer遺伝子は約2.90kbpのインサートDNA断片をレコチップで回収した。これとは別に、pcDNA3.1/Zeoベクターを、終濃度0.5U/μLのXhoI及び0.5U/μLのNotIで処理した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、両DNA断片を精製した。制限酵素処理済みpcDNA3.1/Zeo 50ngと、切り出したAnti-CD20 HC遺伝子を混合し、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、Anti-CD20 HC遺伝子が挿入されているものを選択し、これらのベクターを、pcDNA3.1/Zeo/Anti-CD20 HC Fc Monomer、pcDNA3.1/Zeo/Anti-CD20 HC Fc Dimer、pcDNA3.1/Zeo/Anti-CD20 HC Fc Trimerとした。
【0063】
(2−11) pCAGGS1-dhfrN-Lベクター(図2-2-P)の調製
CAGプロモーターと、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子を持つ発現ベクターpCAGGS1-dhfrNにスペーサーを挿入するため、以下の操作を行った。pCAGGS1-dhfrNを終濃度0.5U/mLのSalIで処理し、フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、このDNA断片を精製した。これとは別に、2本のDNA鎖(センスDNA:GTCGACGCTAGCAAGGATCCTTGAA TTCCTTAAGG(配列番号:46)、アンチセンスDNA:GTCGACCTTAAGGAATTCAAGGATCCTTGCTAGCG(配列番号:47))を合成し、これらを終濃度1μMとなるように混ぜ、MilliQ水で全量を10μLとした。75℃で5分加熱し、室温に静置して、徐々に温度を下げた。この溶液1μLと、SalIで処理したpCAGGS1-dhfrN 50ngを混合し、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、スペーサーが挿入されたpCAGGS1-dhfrNを選択し、このベクターをpCAGGS1-dhfrN-Lとした。スペーサーを挿入したことで、pCAGGS1-dhfrNに2箇所のSalIサイトが生じ、制限酵素切断部位配列は5’-SalI-NheI-BamHI-EcoRI-AflII-SalI-3’となった。
【0064】
(2−12) pCAGGS1-dhfrN-L/Anti-CD20 HCベクター(図2-2-Q、図2-2-R、図2-2-S)の調製
マウスヒトキメラ型抗CD20 H鎖遺伝子をpcDNA3.1/ZeoベクターからpCAGGS1-dhfrN-Lベクターに移し変えるため、以下の操作を行った。0.5μgのpcDNA3.1/Zeo/Anti-CD20 HC Fc Monomer、pcDNA3.1/Zeo/Anti-CD20 HC Fc Dimer、pcDNA3.1/Zeo/Anti-CD20 HC Fc Trimerに対して、終濃度0.8U/μLのNheI及び0.5U/μLのEcoRIで処理し、1% アガロース STANDARD 01ゲルで全量を電気泳動した後、ベクター断片を拾わないように、Anti-CD20 HC Fc Monomer遺伝子は約1.42kbp、Anti-CD20 HC Fc Dimer遺伝子は約2.16kbp、Anti-CD20 HC Fc Trimer遺伝子は約2.90kbpのインサートDNA断片をレコチップで回収した。これとは別に、pCAGGS1-dhfrN-Lベクターを、同じ条件でNheI、EcoRI処理した。フェノール/クロロホルム抽出、イソプロピルアルコール沈殿を行うことで、両DNA断片を精製した。制限酵素処理済みpCAGGS1-dhfrN-L 50ngと、切り出したAnti-CD20 HC遺伝子を混合し、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間反応させた後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、Anti-CD20 HC遺伝子が挿入されているものを選択し、これらのベクターを、pCAGGS1-dhfrN-L/Anti-CD20 HC Fc Monomer(図2-2-Q)、pCAGGS1-dhfrN-L /Anti-CD20 HC Fc Dimer(図2-2-R)、pCAGGS1-dhfrN-L/Anti-CD20 HC Fc Trimer(図2-2-S)とした。
【0065】
(実施例3):G418及びMTX耐性細胞からの抗体改変体発現細胞クローンの選択
(3−1) 形質転換体の製造
実施例1で作製したプラスミドpCAGGS1-neoN-L/Anti-CD20 LC及び実施例2で作製したプラスミドpCAGGS1-dhfrN-L/Anti-CD20 HCを、最終濃度1.0U/μLのPvuI(東洋紡社製)を用いて直鎖状化した。10%ウシ胎児血清、0.1mMヒポキサンチン(和光)、0.016mMチミジン(和光)、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含むIMDM(Sigma Aldrich社製)培地を用いて、CHO DG44株を3x105/wellとなるように、6ウェルマルチプレート(FALCON353046)に播種し37℃、CO2濃度5%で24時間培養した。Trans Fast Transfection Reagent (Promega社製)を用いて、L鎖発現ベクター1.35μgと9種類のH鎖発現ベクター1.35μgを、9群のCHO DG44株にトランスフェクションし、37℃、CO2濃度5%で48時間培養した。これらのプラスミドが導入された結果産生されるであろう9種類の抗体とその改変体の模式図を図4に示した。図4において、M:Fcモノマー、D:Fcダイマー、T:Fcトリマーの模式図を示す。DとTでは、さらに、スペーサーの異なる改変体を作製した。グリシン-グリシン-グリシン-グリシン-セリンの配列(GGGGS)をスペーサー1つの単位として、スペーサー0個、1個(配列番号:48)、2個(配列番号:49)、3個(配列番号:50)を有するDとTを作製した。それぞれ、D0、D1、D2、D3、T0、T1、T2、T3と命名する(以後、9種類の抗体とその改変体については略称を用いることにする)。形質転換された細胞の培養上清を破棄し、PBSで洗浄後、Trypsin-EDTA Solution(Sigma Aldrich社製)を1mL加えて、37℃で3分インキュベートした。細胞がプレートからはがれて丸くなったことを確認して、10%ウシ胎児血清、0.8mg/mL G418、500nMメトトレキサート、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含むIMDM選択培地で懸濁し、1つの形質転換体につき2枚の96ウェル平底マルチプレート(FALCON353072)に3x103/wellで播種し、培養を続けた(培地量100μL/well)。
【0066】
(3−2) Anti-CD20と濃度の測定
培養上清中の抗体濃度を酵素抗体(ELISA)法により測定した。ヤギ抗ヒトγ鎖抗体(Biosource社製)を0.5μg/mLとなるようにPBSで希釈した固相化抗体50μLを96ウェルプレート(FALCON353912)に分注し、4℃で一晩インキュベートした。抗体溶液を破棄し、0.1% BSA(和光純薬工業社製)を含むPBS溶液150μLを加えて37℃で2時間インキュベートすることで、ブロッキングを行った。ブロッキング溶液を破棄し、細胞の培養上清をPBSで10倍希釈した液100μLを対応するウェルに分注した後、37℃で2時間インキュベートした。希釈培地を破棄し、0.05% Tween20(MP Biomedicals社製)を含むPBS溶液(PBST)100μLでウェルを3回洗浄した。ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトγ鎖抗体(Sigma Aldrich社製)を0.5μg/mLとなるように0.1% BSA を含むPBSで希釈し、各ウェルに50μLずつ分注し、37℃で1時間インキュベートした。溶液を破棄し、PBSTでウェルを3回洗浄した後、基質溶液(0.4% o−フェニレンジアミン2塩酸塩(Sigma Aldrich)、0.003% H2O2(和光)を含む、pH 5.0クエン酸ナトリウム緩衝液)50μLを分注し、マイクロプレートリーダー(BIO-RAD Model 550)でA450の測定を行った。
【0067】
(3−3) 細胞のクローニング
形質転換体を96ウェルプレートに播種後4日目に選択培地100μLを供給した。培地を供給した1週間後に、実施例3−2による培養上清中の抗体濃度の測定を行い、1種の形質転換体192ウェルのうちA450が高かった12ウェルを選び、これらをトリプシン処理後、選択培地で混合した。3cells/wellとなるように1枚、1cell/wellとなるように2枚、計3枚の96ウェルマルチプレートに再播種し、37℃、CO2濃度5%で培養した(培地量100μL/well)。再播種した16日後に、1つのウェルに1つのコロニーが形成されているものについて、培養上清中の抗体濃度の測定を行った。A450が高かった12ウェルを選び、トリプシン処理した後、24ウェルマルチプレートに選択培地で播種した(培地量1mL/well)。コンフルエント後、再度培養上清中の抗体濃度の測定を行い、A450が高かった6ウェルを選び、トリプシン処理した後、6ウェルマルチプレートに播種した(培地量4mL/well)。コンフルエント後、再度培養上清中の抗体濃度の測定を行い、A450が高かった3ウェルを選び、トリプシン処理した後、10cmディッシュ(FALCON353003)に別々に播種した(培地量10mL)。これらのうち、1クローンを無血清馴化することにし、他の2クローンについては凍結保存した。
【0068】
(3−4) 無血清培地への馴化
10cmディッシュにコンフルエントになった細胞をトリプシン処理し、2.5mLのCD CHO Medium(GIBCO社製)と、10%ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含む7.5mLのIMDM、計10mLの混合培地で2x106となるように懸濁し、10cmディッシュに播種した(混合比25%:75%)。コンフルエントになったところで細胞が混合培地に馴化したとみなし、以後、CD CHO Mediumと10% ウシ胎児血清を含むIMDMの混合比を50%:50%、75%:25%、90%:10%と変えていきながら、継代していった。
【0069】
(実施例4):抗体産生細胞の大量培養と発現させた抗体の精製
(4−1) 抗体産生細胞の大量培養
CD CHO Medium:10%ウシ胎児血清を含むIMDMの混合比が90%:10%の混合培地を用い、実施例3により製造した抗体発現細胞を15cmディッシュ1枚につき106個となるように、計7枚に播種した(培地量20mL)。コンフルエント後、培地を破棄し、20mLのPBSで3回洗浄後、30mLのCD CHO Mediumを添加し、37℃、CO2濃度8%で10日間培養した。
【0070】
(4−2) プロテインAアガロースを用いた、培養上清からの抗体精製
抗体産生細胞の培養上清を50mLコニカルチューブ4本に集め、3000gで30分遠心し、ペレットを取らないように三角フラスコに集めた。1mLのプロテインAアガロース(Santa Cruz)を詰めたカラムに5mLのPBSを通して平衡化してから培養上清全てを通した。5mLのPBSを通してカラムを洗浄し、非特異的な吸着物を除去した後、pH 2.7の0.1Mグリシン(和光純薬工業社製)・塩酸溶出液3mLを通し、1フラクションあたり300μL回収した。回収した溶出液には即座にpH 9.0のTris(和光純薬工業)・塩酸中和液30μLを加え、転倒混和した。sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis (SDS-PAGE)、CBB染色(BIO-RAD社製、BIO-Safe Coomassie)を行い、泳動解析プログラムImage J(National Institutes of Health, USA)を用いて定量したところ、9種の抗体いずれも培地1mLから2〜4μgの抗体が得られた結果となった。
【0071】
(4−3)ゲル濾過クロマトグラフィーによる二次精製
カラムとしてProtein Pak 300SW(Waters社製)を用いたHPLCシステム(日本分光社製)で抗体の二次精製を行った。1分に1mLの速さで溶離液(0.15M 塩化ナトリウムを含むpH 7.0の0.1Mリン酸緩衝液)を送液した。RTX(リツキサン、中外製薬社製、分子量145kDa)を定性したところ、保持時間は7.5分であった。この結果を受けて、100μg/mL の9種類の抗体100μLを4回ずつインジェクションし、M(154kDa)は7.8分、D0(208kDa)は7.0分、D1(154kDa)は7.7分、D2(154kDa)は7.5分、D3(208kDa)は6.7分、T0(262kDa)は6.5分、T1(262kDa)は6.3分、T2(262kDa)は6.2分、T3(262kDa)は6.2分、のピークを回収した。回収量は各抗体、いずれも約4mLであった。この時のクロマトグラムを図5に示す。
【0072】
(4−4) 限外濾過による濃縮
分画分子量50kDaのAmicon Ultra-4(Millipore社製)のフィルターユニットに、1mLの5% Tween20を注ぎ、室温で1時間静置した。Tween20水溶液を破棄し、1mLのMilliQ水でフィルターユニットを3回洗浄した。ゲル濾過で回収した二次精製後の溶液4mLをフィルターユニットに加え、25℃、3000gで25分遠心した。約100μLに濃縮された溶液を回収した。標準物質としてRTXを用い、HPLCで定量を行い、濃度決定を行った。
【0073】
(実施例5):抗体の構造解析
(5−1) SDS-PAGE解析
10% ポリアクリルアミドゲルを以下の組成で作製した。分離ゲルとして、MilliQ水 1.9 mL、30% アクリルアミド(29% アクリルアミド(和光純薬工業社製)、1% N,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業))1.7 mL、pH6.8の0.5 M Tris-HCl緩衝液1.3 mL、10% SDS(和光純薬工業) 50 μL、APS(和光純薬工業) 50 μL、TEMED(和光純薬工業) 3 μLを混合し、直ちにゲル板に空気が入らないように流し込んだ。MilliQ水 0.5 mLを上から重層し、室温で30分静置した。ゲル化した後、重層したMilliQ水を破棄し、濃縮ゲルとして、MilliQ水 1.4 mL、30%アクリルアミド0.25 mL、pH 8.8の1.5 M Tris-HCl緩衝液 0.33 mL、10% SDS 20 μL、APS 20 μL、TEMED 2 μLを混合し、ゲル板に流しこんだ。コームを差して室温で30分静置し、ゲルを固めた。各抗体300ngをHPLCで用いた溶離液で10μLとし、10% 2−メルカプトエタノール(和光純薬工業)を含むLaemmli Sample 緩衝液(BIO-RAD社製)を加えて20μLとした。ボルテックスした後、95℃で5分熱処理を行った。このサンプルを10%アクリルアミドゲルのウェルに注ぎ、0.02Aの定電流でLaemmli法によるSDS-PAGEを行った。メタノールにPVDF膜(Pall Corporation)を完全に浸しておき、メタノール含量が20%となるようにTransfer 緩衝液(0.78% Tris、3.6%グリシン)を加えた。泳動終了後のゲルを上から乗せ、室温で15分振盪した。Trans-Blot SD SEMI-DRY TRANSFER CELL (BIO-RAD社製)にTransfer 緩衝液で浸した濾紙を2枚のせ、その上にPVDF膜、ゲルの順にのせ、さらにTransfer 緩衝液で浸した濾紙を2枚重ね、0.2A定電流で30分間ウェスタンブロットを行った。ブロット終了後、PVDF膜を5%スキムミルク(雪印社製)入りPBST溶液に浸し、4℃で一晩ブロッキングを行った。PVDF膜をビニルシートにはさみ、0.13μg/mL HRP標識ヤギ抗ヒトIgG(H+L) (Chemicon社製)と0.33μg/mL HRP標識ヤギ抗ヒトKappa鎖(Sigma Aldrich社製)を含むブロッキング液1mLに浸し、室温で2時間振盪した。PVDF膜をビニルシートから取り出し、PBSTで5分間振盪させてPVDF膜を洗浄する操作を3回繰り返した。PVDF膜をビニルシートにはさみ、ECL Westernblotting detection reagents and analysis system(Amersham Biosciences社製)1mLを加えた。暗室でX線フィルム(Kodak)に1分感光させ、バンドが確認できるまでレンドール液(富士フィルム社製)につけ、水道水ですすいでからレンフィックス液(富士フィルム社製)で固定した。この結果を図6に示す。
【0074】
(5−2) HPLC解析
Protein Pak 300SWを用いたHPLCで抗体分子の解析を行った。1分に1mLの速さで溶離液(0.15M 塩化ナトリウムを含むpH 7.0の0.1Mリン酸緩衝液)を送液した。約600ngの各抗体をインジェクションし、クロマトグラムを得た(図7)。SDS-PAGEおよびHPLCによる解析結果から、D0とD3の精製物はヒンジ部分とFcドメインをタンデムに2個タンデムに有していたが、D1とD2は1個しか持っていない分子が主要成分だった。また、T0はヒンジ部分とFcドメインを3個タンデムに有していたが、T1とT2とT3はそれらを3個タンデムに有している分子とともに2個しか有していない分子が混じっていた。
【0075】
(実施例6):フローサイトメトリーによる抗体のCD20結合性試験
CD20陽性ヒトバーキットリンパ腫細胞Ramosを、10%非働化ウシ胎児血清、1mMピルビン酸ナトリウム(和光)、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含むRPMI1640を用いて、37℃、5%CO2条件下で培養した。Ramos細胞培養液を600gで5 分間遠心して培地を除いた後、適当量の培地で縣濁した。再度600gで5 分間遠心し、培地を除いた。細胞にFACS 緩衝液(0.1% BSA、0.02% NaN3を含むPBS)5mL を加えて懸濁し、このまま氷上で30 分間ブロッキングした。600gで5分遠心して上清を除き、5x106cells/mL になるようにFACS 緩衝液に縣濁し、100μLずつ1.5mLチューブに分注した。作製した抗CD20抗体、及びRTXを最終濃度が50nMとなるように加え、また、HER(ハーセプチン(トラスツズマブtrastuzumab)、中外製薬、148kDa)を最終濃度30nM になるように加え、氷上で30 分間静置し、抗体を細胞と反応させた。600gで5 分間遠心して上清を除き、500μLのFACS 緩衝液を加えて細胞を洗浄した。この操作を2 回繰り返し、未反応の抗体を完全に除去した。20μg/mLのFITC標識ヤギ抗ヒトKappa鎖抗体(Biosource International社製)を含むFACS Baffer 100μLで細胞を懸濁し、氷上で30 分間遮光して静置した。細胞を前述の方法で洗浄し、100μLのFACS 緩衝液に懸濁した後、目開き59μm のメッシュで濾過してFACS チューブに移しかえた。FACScan(Becton Dickinson社製)を用いて蛍光を測定し、各抗体のCD20結合性を解析した(図8)。
【0076】
抗CD20抗体であるマウスモノクローナル抗体1F5の可変領域とヒト定常領域を有するこれらの抗体はいずれもRamos細胞に結合した。T0、T1、T2、T3、D1、D2、D3はD0よりも若干多く結合していた。MはD0よりも結合量が若干少なかった。
【0077】
(実施例7):リコンビナントFcγRを用いた、ELISAによる受容体結合性試験
(7−1) リコンビナントFcγRの作製
i) pBluescriptII/Gly-His6-GSTベクターの構築
GST遺伝子配列をpBluescriptIIに挿入するため、以下の操作を行った。氷上で添付された5x緩衝液 4 μL、2.5 mM dNTP 1.6 μL、GST配列を増幅する10 μM フォワード・ プライマー(XbaIサイト(下線部)、Gly-His6配列(配列番号:51における12-32位)を含む、5’-ATCTATCTAGAGGCCATCACCATCACCATCACATGTCCCCTATACTAGGTTATTG -3’ (配列番号:51)) 1μL、10 μM リバース・プライマー(NotIサイト(下線部)を含む、5’-ATTAATCAGCGGCCGCTCACGGGGATCCAACAG AT-3'(配列番号:52)) 1μL、テンプレートとしてpGEX-2TK 100ng、5U/μL Expand High FidelityPLUS PCR システム 0.2μLを混合し、全量が20μLとなるようにMilliQ水 を加え、以下の条件でPCRを行った。即ち、95℃で2分間の加熱処理後、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で60秒の3工程を10回繰り返した。反応液を1% アガロース STANDARD 01ゲルを用いて電気泳動し、約0.70kbpのバンドをレコチップで回収した。フェノール・クロロフォルム抽出、イソプロパノール沈殿を行うことで、このDNA断片を精製した。DNA断片を終濃度0.75U/μLのXbaI及び0.5U/μLのNotIで処理し、同様に処理したpBluescriptII 50ngと、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーからGly-His6-GST配列が挿入されているものを選択し、このベクターをpBluescriptII/Gly-His6-GSTとした。
【0078】
ii) pBluescriptII/FcγR/Gly-His6-GSTベクターの構築
4種類のFcγR、即ちFcγRIA、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIAの細胞外ドメイン遺伝子配列をpBluescriptII/Gly-His6-GSTに挿入するため、以下の操作を行った。氷上で添付された5x 緩衝液 4μL、2.5mM dNTP 1.6μL、FcγR細胞外ドメイン配列を増幅する10μM フォワード・ プライマー(FcγRIA:HindIIIサイト(下線部)を含む、5’-CCCCAAGCTTGCCGCCATGTGGTTCTTGACAACTC-3’ (配列番号:53)、FcγRIIA:HindIIIサイト(下線部)を含む、5’-AACAAAAGCTTGCCGCCATGGAGACCCAAATGTCT-3’ (配列番号:54)、FcγRIIB:HindIIIサイト(下線部)を含む、5’-CCCCAAGCTTGCCGCCATGGGAATCCTGTCATTCT-3’ (配列番号:55)、FcγRIIIA:EcoRIサイト(下線部)を含む、5’-ATATGAATTCGCCGCCATGTGGCAGCTGCTC-3’ (配列番号:56)) 1μL、10μM リバース・プライマー(FcγRIA:XbaIサイト(下線部)を含む、5’-GCGAATCTAGAATGAAACCAGACAGGAG-3'(配列番号:57)、FcγRIIA:XbaIサイト(下線部)を含む、5’-ACGATTCTAGACA TTGGTGAAGAGCTGCC-3'(配列番号:58)、FcγRIIB:XbaIサイト(下線部)を含む5’-ACGATTCTAGACATCGGTGAAGAGCTGGG-3'(配列番号:59)、FcγRIIIA:XbaIサイト(下線部)を含む5’-CGGCATCTAGATTGGTACCCAGGTGGAAAG-3'(配列番号:60)) 1μL、テンプレートとして全長FcγR遺伝子挿入済みベクター100ng、5U/μL Expand High FidelityPLUS PCR システム 0.2μLを混合し、全量が20μLとなるようにMilliQ水 を加え、以下の条件でPCRを行った。即ち、95℃で2分間の加熱処理後、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で60秒の3工程を10回繰り返した。反応液を1% アガロース STANDARD 01ゲルを用いて電気泳動し、FcγRIAは約0.88kbp、FcγRIIAは約0.65kbp、FcγRIIBは約0.65kbp、FcγRIIIAは約0.73kbpのバンドをレコチップで回収した。フェノール・クロロフォルム抽出、イソプロパノール沈殿を行うことで、これらのDNA断片を精製した。FcγRIA、FcγRIIA、FcγRIIB DNA断片を終濃度1.0U/μLのHindIII及び0.75U/μLのXbaIで、FcγRIIIAを0.5U/μLのEcoRI及び0.75U/μLのXbaIで処理し、同様に処理したpBluescriptII /Gly-His6-GST 50ngと、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーからFcγRの細胞外ドメイン遺伝子が挿入されているものを選択し、このベクターをpBluescriptII/FcγR/Gly-His6-GSTとした。
【0079】
iii) pcDNA3.1/Zeo/FcγR/Gly-His6-GSTベクターの構築
FcγR/Gly-His6-GST配列をpBluescriptII/ベクターからpcDNA3.1/Zeoベクターに移し変えるため、以下の操作を行った。0.5μgのpBluescriptII/FcγR/Gly-His6-GSTに対して、終濃度0.5U/mLのApaI及び0.5U/mLのNotIで処理し、1% アガロース STANDARD 01ゲルを用いて電気泳動した後、FcγRIAは約1.58kbp、FcγRIIAは約1.35kbp、FcγRIIBは約1.35kbp、FcγRIIIAは約1.43kbpのバンドをレコチップで回収した。これとは別に、pcDNA3.1/Zeoベクターを終濃度0.5U/μLのApaI及び0.5U/μLのNotIで処理した。フェノール・クロロフォルム抽出、イソプロパノール沈殿を行うことで、両DNA断片を精製した。制限酵素処理済みpcDNA3.1/Zeo 50ngと、切り出したFcγR/Gly-His6-GST遺伝子を混合し、1.5UのT4 DNA リガーゼを用いて室温で30分ライゲーションした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーから、FcγR/Gly-His6-GST遺伝子が挿入されているものを選択し、これらのベクターを、pcDNA3.1/Zeo/FcγR/Gly-His6-GSTとした。
【0080】
iv) pcDNA3.1/Zeo/FcγRIIIA(F)/Gly-His6-GSTベクターの構築
iii)で作成したpcDNA3.1/Zeo/FcγRIIIA/Gly-His6-GSTベクターはV型FcγRIIIAであった。Site-Directed Mutagenesisによる変異導入を行ってpcDNA3.1/Zeo/FcγRIIIA(F)/Gly-His6-GSTベクターを作成するため、以下の操作を行った。氷上で添付された10x緩衝液 2μL、2.5mM dNTP 1.6μL、変異導入のための10μM sense プライマー(5’-TCTGCAGGGGGCTTTTTGGGAGTAAAAAT-3’ (配列番号:61)) 0.5μL、10μM antisenseプライマー(5’-ATTTTTACTCCCAAAAAGCCCCCTGCAGA-3'(配列番号:62)) 0.5μL、テンプレートとしてpcDNA3.1/Zeo/FcγRIIIA(157V)/Gly-His6-GST 10ng、2.5U/μL Pfu Polymerase 0.4μLを混合し、全量が20μLとなるようにMilliQ水 を加え、以下の条件でPCRを行った。即ち、95℃で2分間の加熱処理後、95℃で30秒、55℃で30秒、68℃で8分の3工程を14回繰り返した。終了後、反応液に20U/μLのDpnIを0.3μL加えて37℃で1時間インキュベートした。反応液に大腸菌コンピテントセルDH5α100μLを加え、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒熱ショックを与えた。2分間氷上においた後、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地プレートに全量を撒いた。37℃で1晩培養し、生じたコロニーからFcγRIIIA(F)/Gly-His6-GST配列が挿入されているものを選択し、このベクターをpcDNA3.1/Zeo/FcγRIIIA(F)/Gly-His6-GSTとした。
【0081】
v) 293Tへの遺伝子導入と培養
293Tを1x107となるよう150mm細胞培養ディッシュに播種し、37℃、CO2濃度5%で24 時間培養した。TransFast Transfection Reagentを用いて48μgのpcDNA3.1/Zeo/FcγR/Gly-His6-GSTをトランスフェクションし、37℃、CO2濃度5%で24 時間培養した。培地を破棄し、トリプシン処理した細胞を、10%ウシ胎児血清、50μg/mL ゼオシン、100U/mL ペニシリン、100μg/mL streptomycinを含むDMDM選択培地120mLに懸濁し、4枚の150mm細胞培養ディッシュに再播種した後、37℃、CO2濃度5%で7日間培養した。
【0082】
vi) Fcγ受容体の精製
培養上清を50mLコニカルチューブに集め、3000gで20分遠心し、ペレットを取らないように三角フラスコに集めた。1mLのNi-NTA アガロースを詰めたカラムに5mLのNative Binding 緩衝液を通して平衡化してから培養上清全てを通した。5mLのNative Wash 緩衝液を通してカラムを洗浄し、非特異的な吸着物を除去した後、Native Elution 緩衝液を通し、1フラクション当たり400μL回収した。SDS-PAGEを行った後、BIO-Safe Coomassieで染色し、泳動解析プログラムImage Jを用いて定量した。
【0083】
(7−2) Fc受容体結合性測定
用意したFcγR(FcγRIA、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIAVal、FcγRIIIAPhe)をPBS で4μg/mL に調整し、96ウェルプレートに50μLずつ分注した。4℃で一晩静置した後、溶液を破棄し、ELISA Assay 緩衝液(0.5% BSA、2mM EDTA、0.05% Tween20、25mM TBS (pH 7.4))を各ウェル に180μLずつ加え、37℃で2 時間静置してプレートをブロッキングした。溶液を廃棄し、ELISA Assay 緩衝液で段階希釈した抗体溶液を50μLずつウェルに加え、37℃で2 時間反応させた。抗体溶液を廃棄し、150μLのELISA Assay 緩衝液でウェルを3 回洗浄した。0.33μg/mLのHRP標識ヤギ抗ヒトKappa鎖抗体を含むELISA Assay 緩衝液を各ウェルに50μLずつ分注し、37℃で1 時間静置した。抗体溶液を除いた後、150μLのELISA Assay 緩衝液でウェルを3 回洗浄し、基質溶液(0.4% o−フェニレンジアミン2塩酸塩、0.003% H2O2を含む、pH 5.0クエン酸ナトリウム緩衝液)50μLを分注した。遮光して室温で10 分間静置した後、マイクロプレートリーダーでA450の測定を行った(図9)。
【0084】
図9-1に示すように、FcγRIAについては、いずれの抗体も親和性に大きな差がなかった。抗体結合最大値の50%を示す抗体濃度Ab50は、どの抗体改変体についても0.1〜0.3 nMの範囲にあった。
【0085】
図9-2に示すように、FcγRIIAに関しては、改変体の結合強度は、T1、T2、T3>T0、D3>D0>D1、D2>Mの順であった。Trimersがもっとも強く、次にDimersであり、Mがもっとも弱い。TrimersのAb50はMのそれに比べて約100倍も開きがあった。D3のAb50 もMのそれと比べて60倍前後小さい。Trimersの間で比較すると、スペーサーがあるT1とT2とT3がスペーサーがないT0よりも強い結合活性を示した。Dimersでも、D3の方がD0よりも強かった。D1とD2が弱いのは、その標品中にDimersよりもMonomerが多く含まれていたせいであろう。
【0086】
図9-3に示すように、FcγRIIBに関しても、改変体の受容体結合活性は、Trimers>Dimers>Mの順だった。この受容体においても、スペーサーがあるT1とT2とT3がスペーサーのないT0よりも強かった。D3とD0の差は見られなかった。T1とT2とT3のAb50が約0.5 nMで、D3のそれは約5 nM、Mのそれは約50 nMであった。
【0087】
FcγRIIIAには遺伝子多型があり、158番目のアミノ酸がバリン型とフェニルアラニン型が存在する。図9-4に示すように、FcγRIIIAValに関しても、T1、T2、T3>T0、D3、D0>D2、D1、Mという結合強度を示した(図9-4)。T1とT2とT3のAb50は約0.5 nM、T0とD3とD0のAb50は約2 nM、D1とD2とMのAb50は約30 nMであった。もう1つのFcγRIIIAPhe型はFcγRIIIAVal型よりも親和性が弱いが、Trimers>Dimers>Mの順は同じであった(図9-5)。
【0088】
(実施例8):ADCC活性試験
(8−1) PBMCエフェクター細胞の調製
エフェクター細胞として 末梢血単核細胞(PBMC)懸濁液を調製するため、以下の操作を行った。健康成人から100mLの血液を採取した。100mLの血液に80mLの3.5% Dextran200000(和光純薬工業社製)、0.9% 塩化ナトリウム水溶液を加え、転倒混和した。室温で20分静置し、大部分の赤血球を沈殿させた。上清25mLを50mLコニカルチューブに移し、25mLのRPMI1640培地を加えた。400gで10分遠心し、細胞をペレットとした後、上清を破棄した。20mLのRPMI1640培地を加えて細胞を再懸濁し、再び400gで10分遠心し、細胞をペレットとした後、上清を破棄した。30mLのRPMI1640培地に細胞を懸濁させ、15mLのフィコールパックプラス(Amersham社製)に界面が乱れないように重層した。400gで30分遠心し、血漿と分離液の間に帯状となった白濁層を別の50mLコニカルチューブに移した。20mLのRPMI1640培地を加えて400gで10分遠心した。ペレットを確認し、上清を捨て、15mLのADCC Assay 緩衝液(フェノールレッドを含まないRPMI 1640、1%ウシ胎児血清、2mM L−グルタミン、10mM HEPES(pH7.2)、100U/mLペニシリン、100mg/mLストレプトマイシン)を加えて、再び400gで10分遠心した。ペレットを確認し、5x106/mLとなるようにADCC Assay 緩衝液に懸濁させ、これをPBMC懸濁液とした。
【0089】
(8−2) ADCC活性測定
2x105/mLとなるように、ADCC Assay 緩衝液にターゲット細胞としてRamosを懸濁させ、96ウェル丸底マルチプレート(FALCON353077)に50μLずつ分注した(104cells/well)。ADCC Assay 緩衝液で各抗体を段階希釈し、50μLずつプレートに添加した後、37℃、5%CO2条件下で30分インキュベートした。(1)で調製したPBMC懸濁液50μLを各ウェルに添加し、37℃、5%CO2条件下で4時間インキュベートした(2.5x105/well、エフェクター:ターゲット=25:1となる)。プレートを300gで10分遠心し、上清50μLを96ウェルプレートに移した。Cytotoxic Detection kit(Roche社製)反応液を調製し、50μLを96ウェルプレートに分注した。室温で30分反応させ、450nmの吸光度を測定した。得られたA450を元に、「細胞毒性(%) = 100 x(被検体−ターゲット・コントロール−エフェクター・コントロール)/ (2% Tween コントロール−ターゲット・コントロール)」の式を用いてを算出した。ターゲット・コントロールは、エフェクター細胞を添加する段階で、代わりにADCC Assay 緩衝液を加えたものである。エフェクター・コントロールは、ターゲット細胞を添加する段階で、代わりにADCC Assay 緩衝液を加えたものである。
【0090】
図10に示すように、T1とT2とT3がもっとも強力なADCC活性を示し、次いでT0とD3であった。D1とD2とMでは、もっとも高い抗体濃度でもわずかな殺細胞活性しか見出されなかった。ターゲット細胞に結合しないトラスツズマブtrastuzumabはまったく細胞毒性を示さなかった。
【0091】
(実施例9):CDC活性試験
ターゲット細胞として使用するため、CD20陽性ヒトバーキットリンパ腫細胞Ramosを、10%非働化ウシ胎児血清、1mMピルビン酸ナトリウム、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含むRPMI1640を用いて、37℃、5%CO2条件下で培養した。RamosをRHB 緩衝液(フェノールレッドを含まないRPMI 1640(Sigma Aldrich社製)、20mM HEPES(pH7.2)(同人化学社製)、2mM L−グルタミン(和光純薬工業社製)、0.1% BSA、100U/mLペニシリン、100mg/mLストレプトマイシン)で洗浄後、106cells/mLとなるように調整し、50μLずつ96ウェル平底マルチプレートに分注した(5x104/well)。RHB 緩衝液で段階希釈した50μLの抗体と、同じくRHB 緩衝液で12倍希釈した50μLのベイビー・ラビット新鮮血清(Cedarlane Laboratories社製)を加え、37℃、5%CO2条件下で2時間インキュベートした。50μLのAlamar Blue(AccuMed International社製)を各ウェルに添加し、37℃、5%CO2条件下で一晩インキュベートした。翌日、プレートのフタをはずし、蛍光プレートリーダー(PerSeptive Biosystems社製, CYTOFLUOR Series 4000)を用いて、530nmの励起光を照射し、590nmの蛍光を測定した。RFU(Relative Fluorescent Unit)として得られたデータから、細胞毒性(%) = 100 x (RFU バックグランド−RFU被検体) / RFUバックグランド」の式によって算出した。RFUバックグランドは、抗体を添加する段階で、抗体の代わりにRHB 緩衝液を加えたウェルから得られたRFUである。
【0092】
図11に示すように、改変によってCDC活性の変化は見られなかった。また、コントロールとしてのトラスツズマブではまったく細胞毒性を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によって、抗体のエフェクター活性を増強する新規方法が提供された。本方法を用いれば、抗体−抗原の結合活性にはこだわらず、エフェクター活性増強により、少量でより効果的な抗体医薬を提供することが可能になる。癌細胞等の標的細胞に特異的な抗原に親和性の高い抗体を選別し、本方法により改変すれば、きわめて治療効果の高い抗体医薬を得られると期待できる。また、既に治療実績のある既存の抗体医薬をより効果的に改変することも可能になると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体の重鎖C末端に、Fcドメインを含む構造物を1個または複数個直列に連結することを特徴とする、抗体のエフェクター活性を増強する方法。
【請求項2】
上記構造物が、FcドメインのN末端側にスペーサーポリペプチドを有する構造物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記複数個が2個である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
上記エフェクター活性が抗体依存性細胞介在性細胞障害活性(ADCC活性)である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
抗体の重鎖C末端に、Fcドメインを含む構造物を1個または複数個直列に連結することを特徴とする、エフェクター活性が増強された抗体改変体の製造方法。
【請求項6】
下記工程(a)および(b)を含む、エフェクター活性が増強された抗体改変体の製造方法。
(a)抗体重鎖C末端にFcドメインを含む1または複数個の構造物が直列に連結されたH鎖改変体をコードするポリヌクレオチドおよびL鎖をコードするポリヌクレオチドを発現させる工程
(b)上記ポリヌクレオチドの発現産物を回収する工程
【請求項7】
上記構造物が、FcドメインのN末端側にスペーサーポリペプチドを有する構造物である、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
上記複数個が2個である、請求項5から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
上記エフェクター活性が抗体依存性細胞介在性細胞障害活性(ADCC活性)である、請求項5から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項5から9のいずれかの製造方法によって製造された、エフェクター活性が増強された抗体改変体。
【請求項11】
抗体の重鎖C末端に、Fcドメインを含む構造物が1または複数個直列に連結された、抗体改変体。
【請求項12】
請求項10または11に記載の抗体改変体を投与することを特徴とする、細胞性免疫を強化する方法。
【請求項13】
抗体がB細胞特異的分化抗原CD20に対する抗体である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
抗体がB細胞特異的分化抗原CD20に対する抗体である、請求項10または11に記載の抗体改変体。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図9−4】
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【図9−5】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−136519(P2012−136519A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−4674(P2012−4674)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【分割の表示】特願2008−502861(P2008−502861)の分割
【原出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(000173555)一般財団法人化学及血清療法研究所 (86)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)
【Fターム(参考)】