説明

生物活性化合物を含む外科用医療接着剤

本発明は、薬理学的活性成分を含む、手術に用いるための親水性ポリイソシアネートプレポリマーをベースとする新規な速硬性接着剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬理学的に活性成分を含む、手術に使用するための、親水性ポリイソシアネートプレポリマーに基づく新規な急速硬化性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、適当な接着剤の使用による外科用縫合の置き換えまたは補足に関心が高まっている。特に、薄く、できる限り目立たない傷跡に特別の価値が置かれる形成外科分野において、接着剤がますます使用されている。
【0003】
組織接着剤は、外科医に縫合糸の代用物として認められるために、多くの特性を有さなければならない。これらの特性は、使いやすさ、および接着剤がより深い組織層に浸透できないかまたは流れ落ちないようにするための初期粘度を包含する。標準的手術においては、急速硬化が要求されるが、形成外科においては、接着剤縫合の修正が可能であるべきであり、従って、硬化速度は速すぎるべきではない(約5分)。接着剤層は、3週間以内に崩壊しない柔軟な透明皮膜であるべきである。接着剤は、生物適合性でなければならず、組織毒性、血栓形成性または潜在的アレルギー誘発性を示してはならない。
【0004】
組織接着剤として使用される種々の材料が、商業的に入手可能である。これらとしては、シアノアクリレートDermabond(登録商標)(オクチル2−シアノアクリレート)およびHistoacryl Blue(登録商標)(ブチルシアノアクリレート)が挙げられる。しかし、急速硬化時間および接着部位の脆弱性が、それらの使用を制限している。それらの低い生分解性により、シアノアクリレートは、外部外科用縫合にのみ適している。
【0005】
シアノアクリレートに代わるものとして、生物学的接着剤、例えばペプチド系物質(BioGlue(登録商標))またはフィブリン接着剤(Tissucol)が入手可能である。それらは高コストであるだけでなく、フィブリン接着剤は比較的弱い接着強度および急速分解を特徴とし、従って、非緊張皮膚におけるより小さい切開にのみ使用し得る。
【0006】
US20030135238、US20050129733に記載のイソシアネート含有接着剤は、芳香族ジイソシアネートおよび親水性ポリオールに基づき、イソシアネートTDIおよびMDIが好ましく用いられる。両方とも、それらの反応性を高めるために電子求引置換基を有しうる(WO−A 03/9323)
【0007】
そこに記載の接着剤への活性物質の供給は、種々の分野にとって関心がある。鎮痛薬を用いることにより、痛みの感覚が治療部位で低減または取り除かれ、従って、投与されるべき鎮痛薬の皮下注射が可能となる。特に獣医学の分野では、去勢または羊のミュールシングのような局所切開は鎮痛剤を用いて行わることがほとんどなく、接着剤中に統合された鎮痛薬が用いられる。また、痛みの感覚を低下させることは、外傷性ショックの危険性を低下させる効果を有する。
【0008】
抗菌/消毒活性を有する物質の使用は、創傷への細菌の浸透を防止し、すでに存在するバクテリアを死滅させる。これは、まれではあるが無菌的に作用することがあるので、獣医学において特に興味深い。同じことが抗真菌薬を有する化合物にあてはまる。
【0009】
無傷の皮膚への生物活性化合物の適用は、自己粘着性活性物質パッチの形態で当業者に既知であり、とりわけWO2005/046654、WO2005/046653およびWO2004/110428に記載されている。しかしながら、活性化合物は、接着剤中に統合されていない。WO2006/102385およびEP−A1719530には一般的に、手術用接着剤としてシアノアクリレートおよびポリウレタンの適用に生物活性剤の使用が記載されている。
【0010】
特許US5684042、US5753699、US5762919、US5783177、US5811091、US6902594およびEPA 1508601には、抗菌性活性物質として、イオジンまたはイオジン錯体、例えばポリビニルピロリドンイオジン等と共に用いるシアノアクリレートが記載されている。
【0011】
US2003/0007947には、口腔カンジダ症の処置用のシアノアクリレート接着剤における抗真菌薬の使用が記載され、US2003/0007948は、皮膚カンジダ症に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第20030135238号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第20050129733号明細書
【特許文献3】国際公開第03/9323号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2005/046654号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/046653号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2004/110428号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2006/102385号パンフレット
【特許文献8】欧州特許第1719530号明細書
【特許文献9】米国特許第5684042号明細書
【特許文献10】米国特許第5753699号明細書
【特許文献11】米国特許第5762919号明細書
【特許文献12】米国特許第5783177号明細書
【特許文献13】米国特許第5811091号明細書
【特許文献14】米国特許第6902594号明細書
【特許文献15】欧州特許出願公開第1508601号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2003/0007947号明細書
【特許文献17】米国特許出願公開第2003/0007948号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本明細書の優先日に未公開であったヨーロッパ特許出願第07021764.1号および同第08001290.9号に記載の、親水性脂肪族ポリイソシアネートプレポリマーおよび硬化剤としてのアスパルテートの組合せに基づく創傷接着剤は同様に、活性物質を付与することができ、接着剤の得られた皮膜が活性物質の放出を可能とすることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従って、本発明の主題は、
A)A1)脂肪族イソシアネート、および
A2)≧400g/molの数平均分子量および2〜6の平均OH基含有量を有するポリオール
から得られるイソシアネート基含有プレポリマー、および
B)B1)一般式(I):
【化1】

〔式中、
Xは、n官能性アミンの第一級アミノ基の除去により得られるn価の有機基であり、
、Rは、ツェレヴィチノフ活性水素を含有しない、同一または異なった有機基であり、および
nは、少なくとも2の整数である〕
で示されるアミノ基含有アスパラギン酸エステル、および
B2)23℃でDIN53019により測定された10〜6000mPasの範囲の粘度を有する有機フィラー
を含む硬化性成分、
C)適切な場合には、成分A)の定義によるイソシアネート基含有プレポリマーと、成分B1)によるアスパラギン酸エステルおよび/または成分B2)による有機フィラーとの反応生成物、および
D)少なくとも1つの薬理学的活性化合物
を含む接着剤系である。
【0015】
ツェレヴィチノフ活性水素の定義のために、Roempp Chemie Lexikon、Georg Thieme Verlag Stuttgartが参照される。好ましくは、ツェレヴィチノフ活性水素を有する基は、OH基、NH基またはSH基を意味すると理解される。
【0016】
本発明では、組織は、同じ形態および機能の細胞からなる細胞の集団、例えば表面組織(皮膚)、上皮組織、心筋組織、結合組織または基質組織、筋肉、神経および軟骨を意味するものと理解される。これらには、特に、細胞の集団から構成される全ての器官、例えば肝臓、腎臓、肺臓、心臓等が挙げられる。
【0017】
薬理学的に活性な化合物とは通常、疾病、病気、物理的損傷または不快感を治療、緩和、防止または識別するためにヒトまたは動物の体にまたは体内に適用することを目的とした物質および物質の調製物を意味する。これらには同様に、病原菌、寄生生物または外因性物質に抵抗、排除または中和するための物質および調製物が含まれる。
【0018】
鎮痛剤は、種々の化学構造の鎮痛剤物質および作用のモードである。
【0019】
消炎剤は、抗炎症性物質である。
【0020】
抗菌活性を有する消毒剤/物質は、特定の微生物、例えばバクテリア、菌類、藻類および原虫等の成長を抑制し、および/またはこれらの死滅をもたらす化合物である。
【0021】
抗真菌薬は、菌類の感染の処置のための調合薬である。
【0022】
抗寄生虫活性を有する化合物は、寄生生物を死滅させるか、またはその成長およびヒトまたは動物の組織のコロニー形成を抑制もしくは防止する活性物質である。
【0023】
A)に用いるイソシアネート基含有プレポリマーは、イソシアネートとヒドロキシ基含有ポリオールとの、必要に応じて触媒、補助剤および添加剤の添加による反応により得られる。
【0024】
A1)におけるイソシアネートとして、例えばモノマーの脂肪族または脂環族のジ−またはトリ−イソシアネート、例えば1,4−ブチレンジイソシアネート(BDI)、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,2,4−および/または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、異性体ビス(4,4’−イソシアナトシクロヘキシル)メタンまたは任意の異性体含有量のこれらの混合物、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4−イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート(ノナントリイソシアネート)、およびC1〜C8アルキル基を有するアルキル2,6−ジイソシアナトヘキサノエート(リジンジイソシアネート)を用いることができる。
【0025】
前記のモノマーイソシアネートの他に、ウレトジオン、イソシアヌレート、ウレタン、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオンまたはオキサジアジントリオン構造の、より高い分子量のそれらの誘導体、およびそれらの混合物を用いることもできる。
【0026】
好ましくは、専ら脂肪族的または脂環式的に結合したイソシアネート基を有する前記の種類のイソシアネート、またはそれらの混合物を、A1)に用いる。
【0027】
A1)に用いるイソシアネートまたはイソシアネート混合物は、好ましくは2〜4、特に好ましくは2〜2.6、極めて好ましくは2〜2.4の平均NCO基含有量を有する。
【0028】
特に好ましい実施形態では、ヘキサメチレンジイソシアネートをA1)に用いる。
【0029】
プレポリマーの合成のために、本質的に、当業者にそれ自体既知の、1分子あたり2個以上のOH基を有する全てのポリヒドロキシ化合物を、A2)に用いることができる。これらは、例えばポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリアクリレートポリオール、ポリウレタンポリアクリレートポリオール、ポリウレタンポリエステルポリオール、ポリウレタンポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、またはこれらの互いの任意の混合物であってよい。
【0030】
A2)に用いるポリオールは、好ましくは3〜4の平均OH基含有量を有する。
【0031】
さらに、A2)に用いるポリオールは、好ましくは400〜20000g/mol、特に好ましくは2000〜10000g/mol、極めて好ましくは4000〜8500g/molの数平均分子量を有する。
【0032】
ポリエーテルポリオールは、好ましくは、エチレンオキシドおよび任意にプロピレンオキシドに基づくポリアルキレンオキシドポリエーテルである。
【0033】
これらのポリエーテルポリオールは、好ましくは、2個以上の官能基を有する出発分子、例えば2個以上の官能基を有するアルコールまたはアミン等に基づく。
【0034】
そのような出発物質の例は、水(ジオールとみなされる)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、TMP、ソルビトール、ペンタエリトリトール、トリエタノールアミン、アンモニアまたはエチレンジアミンである。
【0035】
好ましいポリアルキレンオキシドポリエーテルは、前記の種類のポリアルキレンオキシドポリエーテルに対応し、含まれるアルキレンオキシド単位の全量を基準として50〜100%、好ましくは60〜90%のエチレンオキシド系単位の含有量を有する。
【0036】
好ましいポリエステルポリオールは、ジ−および任意にトリ−およびテトラオール、およびジ−および任意にトリ−およびテトラカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸またはラクトンの、それ自体既知の重縮合生成物である。遊離ポリカルボン酸の代わりに、対応するポリカルボン酸無水物、または対応する低級アルコールのポリカルボン酸エステルも、ポリエステルの製造に用いることができる。
【0037】
適当なジオールの例は、エチレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール等、および1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよび異性体、ネオペンチルグリコールまたはネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートであり、1,6−ヘキサンジオールおよび異性体、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールおよびネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートが好ましい。これらの他に、トリメチロールプロパン、グリセリン、エリトリトール、ペンタエリトリトール、トリメチロールベンゼンまたはトリスヒドロキシエチルイソシアヌレートのようなポリオールを用いることもできる。
【0038】
ジカルボン酸として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、グルタル酸、テトラクロロフタル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マロン酸、スベリン酸、2−メチル琥珀酸、3,3−ジエチルグルタル酸および/または2,2−ジメチル琥珀酸を使用することができる。対応する無水物を、酸の源として用いることもできる。
【0039】
エステル化されるポリオールの平均官能基含有量が>2である場合、モノカルボン酸、例えば安息香酸およびヘキサンカルボン酸を用いることもできる。
【0040】
好ましい酸は、前記の種類の脂肪族または芳香族酸である。特に好ましいものは、アジピン酸、イソフタル酸およびフタル酸である。
【0041】
反応相手としてポリエステルポリオールの製造に用いることもできる末端ヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸の例は、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシステアリン酸等である。好ましいラクトンは、カプロラクトン、ブチロラクトンおよび同族体である。カプロラクトンが好ましい。
【0042】
同様に、ヒドロキシ基を有するポリカーボネート、好ましくは、M400〜8000g/mol、好ましくは600〜3000g/molの数平均分子量を有するポリカーボネートジオールを用いることができる。これらは、カルボン酸誘導体、例えばジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはホスゲンと、ポリオール、好ましくはジオールとの反応によって得られる。
【0043】
そのようなジオールの可能性のある例は、エチレングリコール、1,2−および1,3−プロパンジオール、1,3−および1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、ポリブチレングリコール、ビスフェノールA、および前記の種類のラクトン修飾ジオールである。
【0044】
前記の種類のポリエーテルポリオールを、プレポリマーの合成に好ましく用いる。
【0045】
プレポリマーの製造のために、成分A1)の化合物を、成分A2)の化合物と、好ましくは4:1〜12:1、特に好ましくは8:1のNCO/OH比で反応させ、次いで、成分A1)の未反応化合物の含有量を、適当な方法によって分離する。このために薄膜蒸留が一般に使用され、それによって、1wt%未満、好ましくは0.5wt%未満、特に好ましくは0.1wt%未満の残留モノマー含有量を有する低残留モノマー生成物が得られる。
【0046】
必要に応じて、安定剤、例えば塩化ベンゾイル、塩化イソフタロイル、燐酸ジブチル、3−クロロプロピオン酸またはメチルトシレートを、製造工程中に添加することができる。
【0047】
この場合、反応温度は20〜120℃、好ましくは60〜100℃である。
【0048】
好ましくは、式(I)において、
およびRは、ツェレヴィチノフ活性水素を含有しない、同一または異なった、1〜20個、好ましくは1〜10個の炭素原子を有する任意に分枝または環状の有機基であり、
nは、2〜4の整数であり;
Xは、n価第1級アミンの第1級アミノ基の除去によって得られる、2〜20個、好ましくは5〜10個の炭素原子を有する、任意に分枝または環状のn価有機基である。
【0049】
アミノ基含有ポリアスパラギン酸エステルB1)の製造は、既知の方法において、対応する第1級の少なくとも2官能性アミンX(NHと、一般式:
【化2】

で示されるマレイン酸エステルまたはフマル酸エステルとの反応によって行なわれる。
【0050】
好ましいマレイン酸エステルまたはフマル酸エステルは、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、および対応するフマル酸エステルである。
【0051】
好ましい第1級の少なくとも2官能性アミンX(NHは、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,3−ジアミノペンタン、1,5−ジアミノペンタン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、2,5−ジアミノ−2,5−ジメチルヘキサン、2,2,4−および/または2,4,4−トリメチル−1,6−ジアミノヘキサン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1−アミノ−3,3,5−トリメチル−5−アミノメチル−シクロヘキサン、2,4−および/または2,6−ヘキサヒドロトルイレンジアミン、2,4’−および/または4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシル−メタン、2,4,4’−トリアミノ−5−メチル−ジシクロヘキシルメタン、および脂肪族的に結合した第1級アミノ基を有し、148〜6000g/molの数平均分子量Mを有するポリエーテルアミンである。
【0052】
特に好ましい第1級の少なくとも2官能性アミンは、1,3−ジアミノペンタン、1,5−ジアミノペンタン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、および1,13−ジアミノ−4,7,10−トリオキサトリデカンである。最も好ましいものは、2−メチル−1,5−ジアミノペンタンである。
【0053】
およびRは好ましくは、互いに独立して、C〜C10アルキル基、特に好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0054】
本発明の好ましい実施形態では、R=R=エチルであり、Xは、n官能性アミンとして2−メチル−1,5−ジアミノペンタンに基づく。
【0055】
好ましくは、nは式(I)において第n番目アミンの値の説明のために、2〜6、特に好ましくは2〜4である。
【0056】
前記出発物質からのアミノ基含有アスパラギン酸エステルB1)の製造は、DE−A 69311633号に従って、好ましくは0〜100℃の温度範囲内で行なわれ、該出発物質は、少なくとも1個、好ましくは正確に1個のオレフィン二重結合において、全ての第1級アミノ基が除去される量比で使用され、おそらく過剰に使用される出発物質は、反応後の蒸留によって除去することができる。反応は、そのままでまたは好適な溶媒、例えばメタノール、エタノール、プロパノールまたはジオキサンまたはそのような溶媒の混合物の存在下で行なうことができる。
【0057】
B2)に用いられる有機液体フィラーは、ISO10993による細胞毒性測定により細胞毒性でないのが好ましい。
【0058】
用いることができる有機フィラーの例は、水性ポリエチレングリコール、例えばPEG 200〜PEG 600、それらのモノアルキルエーテルおよびジアルキルエーテル、例えばPEG 500ジメチルエーテル、水性ポリエーテルポリオールおよび水性ポリエステルポリオール、水性ポリエステル、例えばUltramoll(Lanxess AG、レーバークーゼン、独国)ならびにグリセロールおよびその水性誘導体、例えばトリアセチン(Lanxess AG、レーバークーゼン、独国)である。
【0059】
成分B2)の有機フィラーは、好ましくはヒドロキシ−またはアミノ−官能性化合物、好ましくは純粋にヒドロキシ官能性化合物である。好ましい純粋ヒドロキシ官能性化合物は、ポリエーテルおよび/またはポリエステルポリオール、より好ましくはポリエーテルポリオールである。
【0060】
成分B2)の好ましい有機フィラーは、好ましくは1.5〜3、より好ましくは1.8〜2.2、極めて好ましくは2.0の平均OH基含有量を有する。
【0061】
成分B2)の好ましい有機フィラーは、好ましくは、エチレンオキシドから誘導される反復単位を有する。
【0062】
成分B2)の有機フィラーの粘度は好ましくは、DIN 53019に従って測定して、23℃で50〜4000mPasである。
【0063】
本発明の1つの好ましい実施形態では、ポリエチレングリコールが、成分B2)の有機フィラーとして用いられる。これらのグリコールは、好ましくは100〜1000g/mol、より好ましくは200〜400g/molの数平均分子量を有する。
【0064】
B1)とB2)の重量比は、1:0〜1:20、好ましくは1:0〜1:12である。
【0065】
B1、B2およびAの混合物の合計量に対する成分B2の重量比は、0〜100%、好ましくは0〜60%の範囲である。
【0066】
NCO反応性基に基づいて、プレポリマー架橋に全体的に使用される化合物の平均当量をさらに減少させるために、B1)およびB2)に用いられる化合物に加えて、イソシアネート基含有プレポリマーとアスパラギン酸エステルおよび/または有機フィラーB2)(但し、後者はアミノ基またはヒドロキシル基を含有するものとする)とのアミノ基またはヒドロキシル基含有反応生成物を分離予備反応により生成し、次いで、これらの反応生成物をより高い分子量の硬化成分C)として使用することもできる。
【0067】
好ましくは、50:1および1.5:1の間、特に好ましくは15:1および4:1の間のイソシアネート反応性基とイソシアネート基の比を予備延長に用いる。
【0068】
この場合、これに使用されるイソシアネート基含有プレポリマーは、成分A)のそれに対応してもよく、または本出願では、イソシアネート基含有プレポリマーの可能性のある成分として列挙した成分と異なった構成にしてもよい。
【0069】
予備延長によるこの変更の利点は、硬化剤成分の当量重量および当量容量を、明確な範囲内に変更できることである。その結果、商業的に入手可能な2室分配系は、現在の室容量比を用いて、NCO反応性基とNCO基の所望比に調節することができる接着剤系を得るために、適用に用いることができる。
【0070】
薬理学的活性物質として、これらに限定されないが、以下のものを挙げることができる:
a)抗炎症活性を有するおよび有さない鎮痛剤
b)消炎剤
c)抗菌活性を有する物質
d)抗真菌剤
e)抗寄生虫活性を有する物質
【0071】
上記の活性物質は好ましくは、室温にて硬化剤成分B中で溶解性であるが、B中において懸濁状態で用いてもよい。本発明の好ましい実施態様では、活性物質は、硬化剤B1およびフィラーB2の混合物中に溶解または懸濁させ、好ましくは、100〜1000g/mol、より好ましくは200〜400g/molの数平均分子量を有するポリエチレングリコールB2として用いる。
【0072】
添加した活性物質の濃度は、治療的必要量に導かれ、接着剤系の非揮発性成分の全量を基準として0.001重量%〜10重量%、好ましくは0.01重量%〜5重量%である。
【0073】
用いることができる全ての活性物質の特徴は、これらがNCO反応性官能基を有さないか、または存在する任意の官能基とイソシアネートプレポリマーとの反応が、アスパルテート/NCO反応と比べて非常に遅いことである。
【0074】
この要件を充足する鎮痛剤は、局所麻酔薬、例えばアンブカイン、アミロカイン、アレカイジン、ベノキシネート、ベンゾカイン、ベトキシカイン、ブタカイン、ブテタミン、ブピバカイン、ブトキシカイン、クロロプロカイン、コカエチレン、コカイン、クロロメチカイン、ジブカイン、ジメトカイン、ジメチソキン、エチドカイン、フォマカイン、イソブチルp−アミノベンゾエート、ロイシノカイン、リドカイン、メペリジン、メピバカイン、メタブトキシカイン、オクタカイン、オルトカイン、オキセザイン、フェナカイン、ピペロカイン、ピリドカイン、プラモキシン、プロカイン、プロカインアミド、プロパラカイン、プロポキシカイン、プソイドコカイン、ピロカイン、ロピバカイン、テトラカイン、トリカイン(tolycaine)、トリカイン(tricaine)、トリメカイン、トロパコカイン、アモラノン、シンナモイルコカイン、パレトキシカイン、プロピオカイン、ミルテカインおよびプロパノカイン等である。
【0075】
オピオイド鎮痛剤、例えばモルヒネおよびその誘導体(例えばコデイン、ジアモルヒネ、ジヒドロコデイン、ヒドロモルホン、オキシコドン、ヒドロコドン、ブプルノフィン、ナルブフィン、ペンタゾシン)、ペチジン、レボメタドン、チリジンおよびトラモドール等を用いることもできる。
【0076】
同様に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、例えばアセチルサリチル酸、アセメタシン、デキサケトプロフェン、ジクロフェナク、アセクロフェナク、ジフルニサル、ピリトラミド、エトフェナメート、フェルビナク、フルルビプロフェン、フルフェアミック酸、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ロナゾラク、ロルノキシカム、メフェナム酸、メロキシカム、ナプロキセン、ピロキシカム、チアプロフェン酸、テノキシカム、フェニルブタゾン、プロピフェナゾン、フェナゾンおよびエトリコキシブ等を用いることができる。他の鎮痛剤、例えばアザプロパゾン、メタミゾール、ナブメトン、ネホパム、オキサセフロール(oxacephrol)、パラセタモールならびに鎮痛活性アミトリプチリン等も当然に用いることができる。
【0077】
抗炎症性作用を有する上記の鎮痛剤の他に、純粋抗炎症活性を有する化合物をさらに用いることもできる。これらには、グルココルチコイドの種類、例えばコルチゾン、βメタゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、ブデソニド、アロテトラヒドロコルチゾン、フルドロコルチゾン、フルプレドニゾロン、フルチカゾンプロピオネート等が含まれる。
【0078】
用いることができる殺菌活性を有する物質として、とりわけ以下の化合物が挙げられる:トリクロサン(2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル)、クロルヘキシジンおよびその塩、オクテニジン、クロラムフェニコール、フロルフェニコール、クロルキナルドール、イオジン、プロビドン−イオジン、ヘキサクロロフェン、メルブロミン、PHMB、ナノ結晶銀ならびに銀塩および銅塩。
【0079】
抗菌活性を有する物質として、β−ラクタム(例えばペニシリンおよびその誘導体、セファロスポリン)、テトラサイクリン(例えばデメクロサイクリン、ドキシサイクリン、オキシテトラサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン)、マクロライド(例えばエリスロマイシン、ジョサマイシン、スピラマイシン)、リンコサミド(例えばクリンダマイシン、リンコマイシン)、オキサゾリジノン(例えばリネゾリド)、ギラーゼ抑制剤(例えばダノフロキサシン、ジフロキサシン、エンロフロキサシン、イバフロキサシン、マルボフロキサシン、ナリジクス酸、ペフロキサシン、フレロキサシン、レボフロキサシン)および環状ペプチドの種類に由来する抗生物質をさらに用いることができる。リファマイシン、リファキシミン、メテナミン;ムピロシン、フシジン酸、フルメキン、およびニトロイミダゾールの誘導体(例えばメトロニダゾール、ニモラゾール、チニダゾール)、ニトロフランの誘導体(例えばフラルタドン、ニフルピリノール、ニヒドラゾン、ニトロフラントイン)、スルホンアミドの誘導体(例えばスルファブロモメタジンナトリウム、スルファセタミド、スルファクロルピリダジン、スルファジアジン等)ならびにβ−ラクタマーゼ抑制剤、例えばクラブラン酸等を用いることもできる。
【0080】
抗真菌活性を有する物質として、エルゴステロールの生合成を抑制する全てのアゾール誘導体、例えばクロトリマゾール、フルコナゾール、ミコナゾール、ビホナゾール、エコナゾール、フェンチコナゾール、イソコナゾール、オキシコナゾール等を用いることができる。局所的に投与することができる他の抗真菌薬は、アモロルフィン、シクロピロクス、チモールおよびその誘導体、およびナフチフィンである。アルキルパラベンの種類を用いることもできる。
【0081】
抗寄生虫活性を有する化合物として、とりわけ、外部寄生虫撲滅薬シフルトリンおよびリンデン、種々のアゾール誘導体、例えばジメトリダゾールおよびメトロニダゾール等、ならびにキニーネが挙げられる。
【0082】
必要に応じて、硬化剤成分を着色し得る。
【0083】
本発明による2成分接着剤系は、プレポリマーと硬化性成分B)および/またはC)との混合により得られる。生物学的活性成分D)は成分B)および/またはC)中に存在する。NCO反応性NH基と遊離NCO基との比は、好ましくは1:1.5〜1:1、特に好ましくは1:1である。
【0084】
個々の成分の混合直後には、本発明による2成分接着剤系は、23℃で、好ましくは1000〜10000mPas、特に好ましくは2000〜8000mPas、極めて好ましくは2500〜5000mPasのせん断粘度を有する。
【0085】
23℃で、接着剤の完全な架橋および硬化が得られるまでの速度は通常、30秒〜10分、好ましくは1分〜8分である。
【0086】
本発明のさらなる主題は、本発明による接着剤系から得られる接着剤フィルム、およびそれから製造される積層部品である。
【0087】
好ましい実施形態では、本発明の2成分接着剤系が、ヒトまたは動物の細胞に関係した創傷の閉鎖用の組織接着剤として使用され、それによって閉鎖のための締め付けおよび縫合をかなりの程度省くことができる。
【0088】
本発明による組織接着剤は、生体内および生体外の両方に使用でき、例えば事故または手術後の創傷処置のための、生体内使用が好ましい。
【0089】
従って、本発明による2成分接着剤系を使用することを特徴とする細胞組織の閉鎖または結合の方法も、本発明の目的である。
【0090】
さらに、本発明の主題は、細胞組織の閉鎖または結合用の薬剤の製造における2成分接着剤系の使用、およびその適用に必要な、本発明に基本的な接着剤系の成分を含有する2室分配系である。
【実施例】
【0091】
特記のない限り、記載されている全てのパーセンテージは重量に基づく。
【0092】
組織として、ウシまたはブタの肉を生体外接着に使用した。いずれの場合にも、2片の肉(l=4cm、h=0.3cm、b=1cm)の端に幅1cmにわたって接着剤を塗り、重ねて接着させた。接着剤層の安定性を、いずれの場合にも引張によって試験した。
PEG=ポリエチレングリコール。
【0093】
実施例1(プレポリマーA)
465gのHDIおよび2.35gの塩化ベンゾイルを、1Lの4口フラスコに入れた。TMP(3官能性)により開始され、エチレンオキシド分63%およびプロピレンオキシド分37%(それぞれ、全アルキレンオキシド分を基準とする)を有する931.8gのポリエーテルを、2時間以内に80℃で添加し、次いで、さらに1時間撹拌した。次いで、過剰のHDIを、薄膜蒸留により、130℃および0.1mmHgで留去した。2.53%のNCO含有量を有する980g(71%)のプレポリマーを得た。残留モノマー含有量は<0.03%HDIであった。
【0094】
実施例2(アスパラギン酸エステルB)
1molの2−メチル−1,5−ジアミノペンタンを、2molのマレイン酸ジエチルに、窒素雰囲気下で、反応温度が60℃を超えないようにゆっくりと滴下した。次いで、混合物を、マレイン酸ジエチルが反応混合物中に検出されなくなるまで60℃で加熱した。該生成物を蒸留により精製した。
【0095】
活性成分による組織結合の実施例:
実施例3 筋肉組織の生体外結合
0.45gのPEG 200を、0.55gのアスパラギン酸エステルBおよび2〜5%の活性成分と充分に混合した。該溶液を4gのプレポリマーAと共に撹拌し、組織に適用した。処理時間、肉への接着の効果ならびに皮膚上でのフィルムの形成について試験した。
【0096】
【表1】

【0097】
実施例4:活性物質放出
活性成分放出の定量のために、200μmの厚みを有する透明フィルムを、ナイフ塗布により4gのプレポリマーA、0.45gのPEG200、0.55gのアスパルテートBおよび250mgの活性物質から製造した。5×5cm(重量:0.5g)の測定する部分を該フィルムから裁断し、ペトリ皿に設置し、20gの生理食塩水で覆い、インキュベーター中において37℃で2時間貯蔵した。定量を、HPLC UV/MSにより行った(HPLSカラム:Inertsil ODS 3 5 μ 120A 120mm×2.1mm 60℃;溶離液A:水中での25mmol酢酸アンモニウム、溶離液B:メタノール中での25mmol酢酸アンモニウム)。活性物質放出量の量を表2に示す。
【0098】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)A1)脂肪族イソシアネート、および
A2)≧400g/molの数平均分子量および2〜6の平均OH基含有量を有するポリオール
から得られるイソシアネート基含有プレポリマー、および
B)B1)一般式(I):
【化1】

〔式中、
Xは、n官能性アミンの第一級アミノ基の除去により得られるn価の有機基であり、
、Rは、ツェレヴィチノフ活性水素を含有しない、同一または異なった有機基であり、および
nは、少なくとも2の整数である〕
で示されるアミノ基含有アスパラギン酸エステル、および
B2)23℃でDIN53019により測定された10〜6000mPasの範囲の粘度を有する有機フィラー
を含む硬化性成分、
C)適切な場合には、成分A)の定義によるイソシアネート基含有プレポリマーと、成分B1)によるアスパラギン酸エステルおよび/または成分B2)による有機フィラーとの反応生成物、および
D)少なくとも1つの薬理学的活性化合物
を含む接着剤系。
【請求項2】
A2)に用いるポリオールは、4000〜8500g/molの数平均分子量を有することを特徴とする、請求項1に記載の接着剤系。
【請求項3】
ポリアルキレンオキシドポリエーテルが、A2)に用いられることを特徴とする、請求項1または2に記載の接着剤系。
【請求項4】
用いる成分B2)の有機フィラーは、ポリエーテルポリオールであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の接着剤系。
【請求項5】
用いる薬理学的活性物質は、抗炎症活性を有するまたは有さない鎮痛剤、消炎剤、抗菌活性を有する物質または抗真菌薬であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤系。
【請求項6】
硬化性成分B)の代わりに、C)による反応生成物が、A)に用いるプレポリマーの硬化のために専ら用いられることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤系。
【請求項7】
ヒトまたは動物の組織のための組織用接着剤であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の接着剤系。
【請求項8】
成分A)、B)、D)および任意にC)を、NCO反応性基と遊離NCO基との比が1:1.5〜1:1で互いに混合させる、請求項1〜7のいずれかに記載の接着剤系の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法により得られる接着剤系。
【請求項10】
請求項1〜7または9のいずれかに記載の接着剤系を用いることを特徴とする、細胞組織の閉鎖または結合のための方法。
【請求項11】
細胞組織の閉鎖または結合用の剤を製造するための、請求項1〜6または8のいずれかに記載の接着剤系の使用。
【請求項12】
請求項1〜7または9のいずれかに記載の接着剤系の使用により得られる、接着剤フィルムおよびラミネート部品。
【請求項13】
一方の室は成分A)のプレポリマーを含み、および他方の室は硬化性成分B)、活性成分成分D)および適切な場合にはC)を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の接着剤系を含有する2室分配系。

【公表番号】特表2011−514819(P2011−514819A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−549034(P2010−549034)
【出願日】平成21年2月21日(2009.2.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/001262
【国際公開番号】WO2009/109306
【国際公開日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】