説明

生物発酵液の価値を決定する性質を改善するためのN−ビニルイミダゾールポリマーの使用

生物発酵液の価値を決定する性質を改善するための方法であって、発酵後の生物発酵液100リットル当たり、50〜99.5重量%のN-ビニルイミダゾール及び重合によって組み込まれた0〜49.5重量%の他の共重合性モノマーを含み、酸素及び重合開始剤の存在しない条件で、モノマーを基準として0.5〜10重量%の架橋剤の存在下で製造されたポリマー1〜3000gで処理することを含む、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、架橋型N-ビニルイミダゾールポリマーの使用、及びN−ビニルイミダゾールに基づく架橋型ポリマーで処理することによって、生物発酵液の価値を決定する性質(value-determining property)を改善する方法に関する。
【0002】
架橋型N-ビニルイミダゾールポリマーを使用することによって、生物発酵液の価値を決定する性質が改善される。
【背景技術】
【0003】
ビールの製造工程は、基本的に次のように行われる:麦汁調製、発酵、貯酒、ろ過、安定化、パッケージング。焙煎処理によって得られた麦汁は、ビール酵母の下で発酵させ、続いて所定の期間、即ち後発酵が生じる間貯酒する。その後通常は、そのビールを清澄して粗粒子を除去し、ポリフェノールやタンノイド、タンパク質が除去される慣用の物理化学的安定化を行う。この清澄化は例えば、遠心分離、浮選又はろ過によって行うことができる。これらの分離技術は、個々に又は連続的に行うことができる。その後、この方法で安定化し出来上がったビール、即ち小売されるビールをパッケージングする。ビール及び同様のアルコール飲料の製造については、Roempp Chemielexikon(Romppの化学用語辞典), 9th Edition, Vol. 1, pp. 108-111, Georg Thieme Verlag, Stuttgart, Germany(非特許文献1)を参照のこと。
【0004】
発酵中の酵母の代謝活動によって、エタノールの他、揮発性で強芳香性の多様な物質が生成される。これらの発酵副産物は、主にアルコール及びエステルである。
【0005】
ビール及びビール風飲料等の生物発酵液の品質は、価値を決定する性質の総和によって特徴付けられる。価値を決定する性質のうち、生物発酵液の臭気、香味、発泡、微生物学的及び物理化学的な安定性、またそれらの飲料性(drinkability)を区別することができる。飲料性とは、その典型的な香味によって、将来消費を誘引する飲料の属性を表す(「ブランド・ロイヤリティー」)。
【0006】
これらの価値を決定する性質は、貯蔵や輸送中に損なわれるべきでない。しかし、種々のパラメーターによって、この性質は貯蔵中に変化する。これらのパラメーターは、例えば、自己酸化変化、光又は輸送によるエネルギー入力、さらに脂肪酸、糖又はアミノ酸等の発酵後における一定成分の比率も含む。
【0007】
ビールを物理的に清澄化するには、しばしば、珪藻土、真珠岩又はベントナイト等の鉱物を用いる。ポリフェノールの除去には、例えば架橋型ポリビニルピロリドンを用いることができる。タンパク質の除去には、シリカを用いることができる。
【0008】
酵母細胞の機械的な分離や安定化を同時に可能とするろ過助剤を用いることによって、ろ過工程と安定化工程を組み合わすことも知られている。
【0009】
欧州特許出願公開第88964号(特許文献1)には、遷移金属との錯体を製造するのに用いることができる水不溶性でほとんど膨潤しない塩基性N-ビニル複素環のポリマーの製造方法が記載されている。
【0010】
欧州特許出願公開第438713号(特許文献2)によると、ワインやワイン風飲料から重金属を除去するために、塩基性ビニル複素環に基づくポリマーが用いられる。このポリマーは、希鉱酸を処理すると再生できるとされている。
【0011】
欧州特許公開出願第781787号(特許文献3)には、重金属イオンとの錯体を製造するために、水不溶性で微かに膨潤する塩基性N-ビニル複素環のポリマーの使用が記載されている。この重金属イオンを有する錯体は、ワインやワイン風飲料から硫黄化合物を除去するとされている。
【0012】
欧州特許出願公開第642521号(特許文献4)には、ビール、ワイン、ワイン風飲料又は果汁等の飲料からアルミニウムイオンを除去することが開示されている。しかし、この文献に記載されるビールの処理は、既に物理化学的に安定化され出来上がった小売のビールに関する。この文献に記載の処理をしても、典型的な芳香には影響を及ぼさなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許公開第88964号
【特許文献2】欧州特許公開第438713号
【特許文献3】欧州特許公開第781787号
【特許文献4】欧州特許公開第642521号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Roempp Chemielexikon (Romppの化学用語辞典), 9th Edition, Vol. 1, pp. 108-111, Georg Thieme Verlag, Stuttgart, Germany
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、価値を決定する性質、特にビール及びビール風飲料の芳香プロファイルを改善する改良方法を開発することであった。本目的は特に、改善された芳香プロファイルを初めから保証することであった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、生物発酵液をその100リットル当たり、重合によって組み込まれる0〜49.5重量%の他の共重合性モノマーを含み、酸素、重合開始剤の無い条件で、またモノマーを基準として0.5〜10重量%の架橋剤の存在下で製造された、50〜99.5重量%のN ビニルイミダゾールのポリマー1〜3000gで処理することを含む、生物発酵液の価値を決定する性質を改善する方法によって達成される。
【0017】
本発明はまた、価値を決定する性質を改善するためのN-ビニルイミダゾールポリマーの使用にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、生物発酵液は特に、ビール及びビール風飲料である。ビール生成物は、出来上がったビール、即ち小売されるビールではないビール中間物を意味する。このビール生成物は、未だ清澄化又は物理化学的に安定化されていない。
【0019】
本発明の方法による処理では、発酵や後発酵の後に、即ち、清澄化及び/又は物理化学的安定化を行う前に直接、未ろ過物を処理することができる。本発明で用いるポリマーは、水処理、粉砕、麦汁製造又は発酵等の上流製造工程で用いることも望ましい可能性がある。別の実施形態では、発酵及び後発酵後の最初のろ過工程と共に、この処理を行うことができる。
【0020】
用いるポリマーの量は、100L当たり1〜3000、好ましくは50g〜200、特に好ましくは40〜80gである。
【0021】
N-ビニルイミダゾールポリマーは、固体として、又は水性懸濁液の形態で加えることができる。この懸濁液の固体成分は、1〜30重量%、特に5〜10重量%でありうる。
【0022】
本発明で用いるN-ビニルポリマーの製造は、それ自体公知であり、欧州特許出願公開第88964号、欧州特許出願公開第438713号及び欧州特許出願公開第642521号に広く記載されており、これらの文献の開示は本明細書に参照により明確に組み込まれる。
【0023】
好ましくは、用いるN-ビニルポリマーは、70〜99.5重量%のN-ビニルイミダゾール、0〜29.5重量%の共重合性モノマー及び0.5〜10重量%の架橋剤を含む。
【0024】
さらに好ましくは、50〜99.5重量%のN-ビニルイミダゾール及びコモノマーとしてのN-ビニルピロリドンのコポリマーである。架橋剤としては、好ましくは、N,N’-ジビニルイミダゾリジン-2-オンが考慮される。
【0025】
特に好ましくは、90重量%のN-ビニルイミダゾール、7重量%のN-ビニルピロリドン及び3重量%のN,N’-ジビニルイミダゾリン-2-オンのポリマーである。
【0026】
重量%における数量はこの場合、モノマー及び架橋剤の全量に対する。
【0027】
本発明で用いるN-ビニルポリマーは、例えばBASF社製のDivergan(登録商標)として一部市販されている。
【0028】
本方法に関して、本発明の処理は、ろ過と同様に行うことができる。そのポリマーは、例えば独国特許出願公開19547761号に記載されているように、プレコートろ過用のバルク物質として用いることができる。
【0029】
重合したビニル複素環は、いわゆるプレコート層として用いることができ、又はプレコートろ過において連続的に計量することができる。
【0030】
さらに、このポリマーは、フィルターキャンドル、フィルターモジュール、フィルターシート、膜又はイオン交換カラム等の支持体に種々の形態で含ませることができる。上記の支持体は、次の物質を含むことができる:合成ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエーテルスルホンもしくはポリエステル、セルロース、無機物質、例えば、珪藻土、真珠岩、アスベスト、ガラス、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、活性炭及び/又は砂、あるいは樹脂。
【0031】
このポリマーを支持体に含ませる場合、N-ビニルイミダゾールポリマーと支持体との量比は通常、1:10〜1:1である。
【0032】
本発明で処理する生ビール生成物は、その香味安定性について評価される。
【0033】
香味安定性の評価について、原則的に2つの方法に分けることができる:
1.ガスクロマトグラフィー、HPLC及びESRを用いた分析評価、並びに
2.DLG(ドイツ農業協会)又はアイヒホルン (Eichhorn)が言及するテイスティング等の種々のテイスティング法による官能評価。
【0034】
次の分析法を香味安定性の測定に用いることができる:
1.高級脂肪アルコール及び揮発性エステル
2.ビール芳香化合物(アルコール、エステル、酸)
3.劣化(aging)指示薬(熱及び酸素指示薬、劣化成分)
4.安定性指数
5.DLGが言及するテイスティング
6.アイヒホルンが言及するテイスティング。
【0035】
また、物理化学的安定性は、タンノイド、タンパク質及び総ポリフェノールの含量を測定することで調べることができる。
【0036】
本発明に従うN-ビニルイミダゾールポリマーの使用によって、簡便な方法で、未加工の発酵製品の安定化を実現することができ、これは、出来上がった後の小売製品の貯蔵や輸送で、劣化物質の形成が抑制されることを意味する。出来上がった飲料の清澄化又は後処理時、即ち芳香形成が基本的に終わった時点のみを対象とする先行技術に記載の方法とは対照的に、本発明の方法は、非常に複雑な化学組成や、未だ残っている酵母によって、芳香形成がなおも生じている時点で介入する。未ろ過物中の銅もしくは鉄等の重金属イオン又はアルミニウムイオンの吸着は、芳香プロファイルに影響を及ぼしうる。3,4-ジヒドロキシケイ皮酸等のフェノール成分の吸着によって、これらの化合物が酵素反応によって変換されるのを回避することができ、それにより芳香プロファイルは有利に影響を受ける。本発明の方法は、比較的粗い粒子又は細胞残渣を除去するために用いられるろ過助剤による後のろ過に取って代わるものではなく、例えばシリカ、架橋型ポリビニルピロリドン及び同様の物質による安定化に取って代わるものでもない。本発明では特に、芳香物質の形成や、典型的な劣化指示薬に関する劣化の際の安定性に重要な化学組成が影響を受ける。
【0037】
当業者にとって驚くべきことは、発酵後に直接処理することによって、後に、価値を決定する性質に関して、完成品の安定性をより高くすることができたことであった。
【実施例】
【0038】
以下の実施例で挙げられる試験の指示は、the TU Munich, Lehrstuhl fur Technologie der Brauerei I, Weihenstephan, Federal Republic of Germanyに請求して自由に利用できる分析の指示に関するものであり、これはまた、the Central European Brewing Analysis Commission MEBAKの指示に相当する。
【0039】
この処理は、産業パイロットプラントで行った。ピルスナービール種の50Lのろ過されていないビールを処理した。この方法では、珪藻土(Becogur(登録商標))によるろ過において、未ろ過物100L当たり、20g、40g又は80gのダイバガン(Divergan) HMを加えた。
【0040】
分析評価
劣化指示薬の測定
試験方法第GC007/96号
結果については表1を参照のこと。
【0041】
高級脂肪族アルコール及び揮発性エステル
試験方法第GC008/96号
結果については表2を参照のこと。
【0042】
官能評価
DLGが言及する味覚試験
DLGの味覚試験法によって、5段階評価でビールを評価する。5がピュアで、嫌な味覚(offtaste)の無いことを意味する。0.5段階刻みで評価するのが望ましい。
【0043】
アイヒホルンが言及する劣化味覚試験
アイヒホルンは、劣化即ちエージングしたビールを官能評価する味覚試験法を提案した。この方法では、鮮度又はビールの劣化の度合いのみを評価する。その基準はこの場合、DLGの方法の基準に基づき、臭気、香味及び苦味の品質のみを評定する。香味の劣化を評定する段階として、1から4の指標で評価することができる。この方法では、1の指標が最も新鮮であり、4は極度に劣化していることを意味する。また、試験者は百分率でどのくらい許容できるかを評価する。例えば、20%の許容度は、5番目の試験者のみが、そのビールを許容することを意味する。予備的に、香味の劣化に対する味覚試験のパネリストを養成することが重要である。
【0044】
香味安定性の予測のために、ビールを強制的に劣化させる(エージング処理する)。配送経路を模擬するために、その試料を24時間振盪した後、暗所にて40℃で4日間保存した。味覚試験は、新鮮なものと、強制的に劣化させたものとを比較した。香味安定性の官能評価について、味覚試験は、DLGの5段階の方法で行い、さらにアイヒホルンが言及する劣化状態は4段階で評価した。代替的に、強制的な劣化に関して、自然の状態で保存したビール(返品の試料)を劣化について定期的に味覚試験することができ、またすべきである。
【0045】
以下の表に、DLGの味覚試験及び劣化の味覚試験の結果を示した。
【0046】
表:DLGによる香味試験及びアイヒホルンの劣化香味試験
【表1】

【0047】
表1:劣化指示薬
【表2】

【0048】
表2:高級脂肪族アルコール及び揮発性エステル
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物発酵液の価値を決定する性質を改善する方法であって、発酵後の生物発酵液100リットル当たり、重合化によって含まれる0〜49.5重量%の他の共重合性モノマーを含み、酸素及び重合開始剤が存在しない条件で、モノマーを基準として0.5〜10重量%の架橋剤の存在下で製造する、50〜99.5重量%のN-ビニルイミダゾールのポリマー1〜3000gを処理することを含む、前記方法。
【請求項2】
コモノマーとして、重合化によって含まれるN-ビニルピロリドンもしくはN-ビニルカプロラクタム又はそれら2つの混合物のみを含むポリマーを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
架橋剤として、重合化によって含まれるN,N’-ジビニルエチレンウレアを含むポリマーを使用する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
還元剤の存在下で製造するポリマーを使用する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
30〜150℃にて水の存在下で製造したポリマーを使用する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
100〜200℃にて溶媒無しで製造したポリマーを使用する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
生物発酵液として、ビール又はビール風飲料を処理する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
生物発酵液が未だろ過されていない、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
使用するポリマーが動的又は静的なろ過処理の一要素である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
使用するポリマーを、上流製造工程である、水処理、粉砕、麦汁処理及び発酵でも使用する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
発酵液の価値を決定する性質を改善するために、重合化によって含まれる0〜49.5重量%の他の共重合性モノマーを含み、酸素及び重合開始剤の存在しない条件で、またモノマーを基準として0.5〜10重量%の架橋剤の存在下で製造する、50〜99.5重量%のN-ビニルイミダゾールのポリマーの使用。

【公表番号】特表2010−528636(P2010−528636A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510760(P2010−510760)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056806
【国際公開番号】WO2008/148743
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】