説明

生産計画システム及び生産計画方法

【課題】サプライヤからの納期遅れや品質不適合のトラブルが継続的に発生している状況においても、全体のコストを最小化するような生産計画を立案することのできる生産計画システム及び生産計画方法を提供する。
【解決手段】複数の作業工程を含む生産工程において使用される部品が、標準日程における納期に対して前倒しで調達される際にかかるコストと、前記部品が、前記標準日程における納期に対して遅延して調達される際にかかるコストと、に基づいて、コンピュータが、前記生産工程の全体コストの期待値が最小となるように、部品の納入日を最適化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産工程における部品の納入日を最適化するための生産計画システム及び生産計画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造メーカーにおいて、例えば、一日につき1個から10個程度の生産を行っている製品(中量産品)を製造する際、これらの製品に使用される部品の大半は、サプライヤから購入し、随時納入されることによって賄われている。
【0003】
しかしながら、サプライヤから指定納期に部品が納入されなかったり、あるいは、たとえ指定納期に納入されたとしても、部品品質が不適合である場合があった。この原因として、一般に製造メーカーは、複数のサプライヤに対して、様々な部品を分散させて発注を行うために、製造メーカーにおいて、膨大な部品のそれぞれに対する納期や品質等を十分に管理をすることができていないことが挙げられる。また、各サプライヤにおいても、生産管理が不十分な場合もある。
【0004】
具体的な例を図5を参照しながら説明する。図5に示されるように、工程Aと工程Bとを経て製品が製造されるものとする。工程Aは、部品1を必要とし、工程Bは、部品2を必要とし、さらに、工程Bの作業に入る前に、工程Aの作業が既に終了していることを条件とする。図5の上側に示されるように、当初計画として、部品1が納入されるとすぐに工程Aの作業を行い、工程Aの終了時期に合わせて部品2が納入され、部品2が納入されるとすぐに工程Bの作業を開始するような計画を立てたものとする。ここで、図5の下側に示されるように、サプライヤから部品1の納期遅れが発生した場合、工程Aが終了するまでの期間が遅くなるため、工程Bの作業を開始する期間も遅くなる。このため、納期通りに納入された、工程Bで使用するための部品2を保管するためのコストが発生する。さらに、部品1の納期が遅れた分、製品完成日も遅れることになる。
【0005】
このように、サプライヤからの納期遅れや品質不適合のトラブルが継続的に発生している状況においては、係るトラブルが発生することを前提として、納期に余裕をみたり、あるいは、在庫を多めに持つ等の生産計画を立案することが有効と考えられる。
【0006】
特許文献1には、複数の部品からなる製品について注文から納期までのリードタイムの短縮及びその部品についての無駄のない手配を実現するような生産管理システム及び生産管理方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、物流と商流の各作業をシミュレーションし、在庫、コスト、利益、運転資本、キャッシュフロー等によりサプライチェーン案を定量的に評価することのできるサプライチェーンシミュレーションシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−140110号公報
【特許文献2】特開2002−145421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された生産管理方法は、生産計画上のリスクとして、顧客からの需要変動のみを考慮しており、上述したようなサプライヤからの納期遅れや品質不適合のトラブルが継続的に発生している状況において、納期に余裕をみたり、在庫を多めに持つ等の生産計画を立案しているわけではない。
【0010】
また、特許文献2に開示されたシステムは、サプライチェーン全体の評価を目的としているため、生産計画を立案するものではない。
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、サプライヤからの納期遅れや品質不適合のトラブルが継続的に発生している状況においても、全体のコストを最小化するような生産計画を立案することのできる生産計画システム及び生産計画方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明の第一の態様は、複数の作業工程を含む生産工程において使用される部品が、標準日程における納期に対して前倒しで調達される際にかかるコストと、前記部品が、前記標準日程における納期に対して遅延して調達される際にかかるコストと、に基づいて、コンピュータが、前記生産工程の全体コストの期待値が最小となるように、部品の納入日を最適化することを特徴とする生産計画システムである。
【0013】
上記本発明の第一の態様にかかる生産計画システムによれば、コンピュータが、生産工程の全体コストの期待値が最小となるように部品の納入日を最適化するので、部品の納期が遅延した場合であっても、その遅延ができるだけ下流工程や最終製品の完成日に影響を与えないようにすることができる。
【0014】
上記本発明の第一の態様に係る生産計画システムは、各前記作業工程の前後関係及び各前記作業工程において使用される部品に基づいて標準日程を作成する手段と、前記全体コストを算出する手段と、前記全体コストが最小となるように前記納入日を最適化する手段と、を含む構成としてもよい。
【0015】
この構成によれば、生産工程の全体コストの期待値が最小となるように部品の納入日を最適化するので、部品の納期が遅延した場合であっても、その遅延ができるだけ下流工程や最終製品の完成日に影響を与えないようにすることができる。
【0016】
本発明の第二の態様は、複数の作業工程を含む生産工程において使用される部品が、標準日程における納期に対して前倒しで調達される際にかかるコストと、前記部品が、前記標準日程における納期に対して遅延して調達される際にかかるコストと、に基づいて、コンピュータが、前記生産工程の全体コストの期待値が最小となるように、部品の納入日を最適化することを特徴とする生産計画方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、サプライヤからの納期遅れや品質不適合のトラブルが継続的に発生している状況においても、全体のコストを最小化するような生産計画を立案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る生産計画システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る生産計画システムの処理部の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る生産計画システムのフローチャートを示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る生産計画システムにおける最適化処理のフローチャートを示す図である。
【図5】従来の生産計画方法を説明する図である。
【図6】本発明の実施形態におけるデータベースに格納されたデータの一例を示す図であり、(a)は保管コストDB、(b)は工程データDB、(c)は日程データDB、(d)は工程・部品関係DB、(e)は完了条件DB、(f)はリスクデータDB、(g)は工程間余裕データDB、(h)は工程間前後関係DB、(i)は初期日程データDBを示す図である。
【図7】本発明の実施形態における初期日程データを説明する図である。
【図8】本発明の実施形態において、部品#1の納期を1日前倒しにした場合の生産計画を説明する図である。
【図9】本発明の実施形態において算出される全体コストの例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る生産計画システムの実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る生産計画システムの概略構成を示すブロック図である。図1に示されるように、本実施形態に係るR形状計測装置は、CPU(中央演算処理装置)1、RAM(Random Access Memory)などの主記憶装置2、HDD(Hard Disk Drive)などの補助記憶装置3、キーボードやマウスなどの入力装置4、およびモニタやプリンタなどの出力装置5などを備えて構成されている。
【0020】
補助記憶装置3には、各種プログラム及び各種データベースが格納されており、CPU1が補助記憶装置3からプログラムをRAMなどの主記憶装置2に読み出し、実行することにより、種々の処理を実現させる。
【0021】
これらの処理としては、図2に示されるように、標準日程作成部(標準日程作成手段)12、全体コスト算出部(全体コスト算出手段)13、最適化処理部(最適化手段)14、完了条件設定部15及び結果表示部16において実行される処理を含んでおり、これらの処理は、全体コントロール部11によって制御される。全体コントロール部は、例えば、ユーザインターフェイスを介して、ユーザが各処理を単独で実行できるような構成とされている。
【0022】
上述した各種処理は、必要に応じて、データ記憶部17内の各種データベース(DB)とデータをやりとりすることによって行われる。このデータ記憶装置17には、保管コストDB171、工程データDB172、日程データDB173、工程・部品関係DB174、完了条件DB175、リスクデータDB176、工程間余裕データDB177、工程間前後関係178及び初期日程データDB179等といったデータベースが含まれている。
【0023】
保管コストDB171には、図6(a)に示されるように、サプライヤから納入された部品を倉庫等に一定期間保管するためのコストが各部品に対応して格納される。
【0024】
工程データDB172には、図6(b)に示されるように、工程毎に、各工程の開始から終了までに必要な日数が格納される。
【0025】
日程データDB173には、図6(c)に示されるように、大日程のそれぞれに対して、最適化処理が施された後の全体コストが最小となる日程データが格納される。大日程とは、複数の工程を含んだ工程のことをいう。
【0026】
工程・部品関係DB174には、図6(d)に示されるように、工程毎に、各工程において使用される部品が格納される。
【0027】
完了条件DB175には、図6(e)に示されるように、最適化処理を実行する際の完了条件が格納される。
リスクデータDB176には、図6(f)に示されるように、各部品に対応して、リスクデータが格納される。本実施形態においては、リスクデータとして、納期遅れ確率を採用している。
【0028】
工程間余裕データDB177には、図6(g)に示されるように、前工程の終了から次工程の開始まで、あるいは、部品納期から次工程の開始までどのくらいの余裕日を設けるかを設定した余裕データが格納される。
【0029】
工程間前後関係DB178には、図6(h)に示されるように、工程同士の間で、作業順序があらかじめ定められている場合に、その前後関係の情報が格納される。例えば、ある工程と、その工程を行うのに先行して行う必要がある工程とが対応して格納される。
【0030】
初期日程データDB179には、図6(i)に示されるように、工程間の余裕日をゼロに設定した場合のクリティカルパスの情報及び各大工程がどの工程を含んでいるかの情報が格納される。
【0031】
上述したように、各処理は、ユーザインターフェイスを介して、ユーザが各処理を単独で実行できるような構成とされているが、一般的には、図3に示すようなフローチャートに従って、生産計画が行われる。
【0032】
以下に、図3に示される生産計画方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、初期日程が作成される(ステップSA1)。この初期日程の作成処理は、標準日程作成部12において実行される。標準日程作成部12には、データ記憶部17に格納された工程データ、工程間前後関係データ、工程・部品関係データ、工程間余裕データ及び初期日程データDB179に格納された各大工程がどの工程を含んでいるかの情報が入力される。なお、初期日程の作成では、工程間余裕データをゼロとして大工程のクリティカルパスを算出するので、格納された工程間余裕データは使用されない。算出された大工程のクリティカルパスは、初期日程データDB179に格納される。
【0033】
簡単のために、図6(a)から(i)に示された具体例における大工程Iについて説明する。図6(i)に示される初期日程データDBを参照することにより、大工程Iは工程A及びBを含むことがわかる。工程A及びBは、図6(d)に示される工程・部品関係DBを参照することにより、工程Aは部品#1が必要とされ、工程Bは部品#2が必要とされることがわかる。さらに図6(b)に示された工程データDBを参照することにより、工程Aにかかる日数は10日、工程Bにかかる日数は14日であることがわかる。そして、図6(h)に示される工程間前後関係DBを参照することにより、工程Bの先行工程が工程Aであることがわかる。このようにして、図7に示されるように、大工程Iの初期日程が作成される。
【0034】
次に、算出された初期日程に基づいて、初期日程における全体コストの算出が行われる(ステップSA2)。全体コストとしては、種々の指標を採用することができるが、本実施形態では、部品を前倒しで納入した際にかかる追加コスト(前倒しコスト)と、最終的な製品の完成が遅れた際にかかる追加コスト(完成遅れコスト)とを加算したものを全体コストとする。前倒しコストには、例えば、部品を納入してから実際に工程で使用するまでに倉庫で保管するために必要とされる倉庫費用等の保管コストが考えられる。完成遅れコストには、製品の完成が遅れて顧客への納品が遅延した場合に、顧客に支払うペナルティや、本工程が遅延したことにより下流の工程が遅延した場合にかかる追加コスト等が考えられる。
【0035】
ここでは、簡単のために、部品#1の納入日と全体コストの関係について具体的に説明する。なお、顧客に支払うペナルティは、一律に1日あたり100として計算する。
【0036】
例えば、図7に示されるような生産計画を立案した場合、部品#1が納期通りに納品される確率は、リスクデータDBを参照すると80%であることがわかる。前倒しコストは、保管コストと保管が必要な日数との積で算出される。図6(f)においては、部品が納期よりも前に納品される確率は0%であるので、保管が必要となる場合はないため、前倒しコストもゼロとなる。一方、完成遅れコストは、ペナルティと製品完成が遅れる確率との積で算出される。部品#1が80%の確率で納期通りに納品されると仮定した場合、部品#1は20%の確率で納期遅れが発生し、これに起因して製品の完成が遅延する。したがって、完成遅れコストは、20となる。前倒しコストはゼロなので、全体コストは、20となる。
【0037】
次に、完了条件の設定をする(ステップSA3)。完了条件は、次の最適化処理(ステップSA4)の処理を完了させるための条件である。具体的には、図6(e)に示されるように、あらかじめ設定された計算時間、評価値または処理ループ回数のいずれか、あるいはこれらを組み合わせた条件が採用される。
【0038】
次に、ステップSA4で設定された完了条件を使用して、最適化処理(ステップSA4)が実行される。
【0039】
最適化処理について、図4を参照して具体的に説明する。
まず、日程データが読み込まれる(ステップSB1)。本実施形態では、図7に示されるような初期日程データが読み込まれる。
【0040】
次の条件分岐(ステップSB2)において、算出された全体コストが完了条件を満たしているかどうか、すなわち、その全体コストが最適解であるかどうかを判断する。完了条件を満たしていれば、ここで処理は終了する。完了条件を満たしていない場合には、次の工程間余裕データの変更(ステップSB3)を行う。
【0041】
工程間余裕データ、すなわち、部品の納期をどのくらい前倒しするかを決定した後、工程全体の日程の再計算を行う(ステップSB4)。例えば、部品#1の納期を1日前倒して計画した場合の日程を図8に示す。
【0042】
ステップSB4で再計算された日程にもとづいて、全体コストの再計算を行う(ステップSB5)。
【0043】
次の条件分岐(ステップSB6)において、ステップSB5で算出された全体コストが、最適値として格納されている全体コストと比較して、値が小さいかどうかを判別する。値が小さい場合は、その全体コストを最適化された全体コストとして更新するとともに、日程データを更新し(ステップSB7)、ステップSB2に戻り、完了条件を満たすまで、処理を繰り返す。値が小さくなっていない場合は、最適化された全体コスト及び日程データを更新せずに、ステップSB2に戻り、完了条件を満たすまで、処理を繰り返す。
最後に、結果表示が行われる(ステップSA5)。
【0044】
本実施形態の場合、この最適化処理におけるループ処理では、部品#1の納入日の前倒し日数に応じて、図9に示されるような全体コストが算出される。結果として、部品#1の納入日を2日前倒しした場合に、全体コストが最も小さくなることがわかる。
【0045】
本実施形態では、簡単のために、部品#1の納入日と全体コストとの関係について説明したが、実際の現場においては、部品は複数の異なるサプライヤから供給されたり、内製で製造することもあり、事象はさらに複雑である。したがって、最適化処理では、人工知能、ファジー集合、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム等の種々の最適化問題を解くための一般的な手法を用いることができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1 CPU
2 主記憶装置
3 補助記憶装置
4 入力装置
5 出力装置
11 全体コントロール部
12 標準日程作成部
13 全体コスト算出部
14 最適化処理部
15 完了条件設定部
16 結果表示部
17 データ記憶部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の作業工程を含む生産工程において使用される部品が、標準日程における納期に対して前倒しで調達される際にかかるコストと、前記部品が、前記標準日程における納期に対して遅延して調達される際にかかるコストと、に基づいて、コンピュータが、前記生産工程の全体コストの期待値が最小となるように、部品の納入日を最適化することを特徴とする生産計画システム。
【請求項2】
各前記作業工程の前後関係及び各前記作業工程において使用される部品に基づいて標準日程を作成する手段と、前記全体コストを算出する手段と、前記全体コストが最小となるように前記納入日を最適化する手段と、を含む請求項1に記載の生産計画システム。
【請求項3】
複数の作業工程を含む生産工程において使用される部品が、標準日程における納期に対して前倒しで調達される際にかかるコストと、前記部品が、前記標準日程における納期に対して遅延して調達される際にかかるコストと、に基づいて、コンピュータが、前記生産工程の全体コストの期待値が最小となるように、部品の納入日を最適化することを特徴とする生産計画方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−181626(P2012−181626A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43184(P2011−43184)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】