説明

画像処理装置、方法及びプログラム

【課題】画像の鮮鋭感を維持しながら、ノイズを除去することにある。
【解決手段】一実施形態の画像処理装置は、相関算出部、選択部、距離算出部、特徴量算出部、重み算出部及び画素値算出部を含む。相関算出部は、画像中の第1画素を含む第1領域と、複数の第1基底ベクトルとの相関を算出する。選択部は、相関の大きさに従って、第1基底ベクトルから1以上の第2基底ベクトルを選択する。距離算出部は、第2基底ベクトルによって生成される部分空間上で、第1領域と、複数の第2画素をそれぞれ含む複数の第2領域との距離を算出する。特徴量算出部は、第1基底ベクトルのうちの第3基底ベクトルに対応する相関を用いて、特徴量を算出する。重み算出部は、距離及び特徴量に応じて、第2画素に割り当てる重みを算出する。画素値算出部は、重みに応じて第2画素の画素値を加重平均して、出力画素値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、画像のノイズを低減する画像処理装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラなどの撮像装置で取得された画像に発生するランダムノイズを低減する画像処理技術として、例えば、Non−local Meansと呼ばれるアルゴリズムがある。このアルゴリズムを利用する画像処理装置は、処理対象の画素の周辺画素の画素値を加重平均して得られる平均画素値を、この画素の新たな画素値として出力している。
【0003】
加重平均処理に用いる重みは、パラメータで制御される。このパラメータを平滑化強度と呼ぶ。ノイズを効果的に低減するために平滑化強度を高く設定すると、画像内のテクスチャ(模様)部にボケが発生し、その結果、画像の鮮鋭感が失われる。反対に、画像の鮮鋭感を維持するために平滑化強度を低く設定すると、ノイズが十分に低減されず、さらに、画像内の平坦部にムラが生じることがある。従来、平滑化強度は、1つの画像に対して固定値とされる。即ち、画像中の各画素で同じ平滑化強度が用いられる。このため、ノイズの除去と鮮鋭感の維持とを両立することができない問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A. Buadess, B. Coll, J.−M. Morel, “A Non−local Algorithm for Image Denoising,” Computer Vision and Pattern Recognition 2005, IEEE Computer Society Conference on, vol.2, pp.60−65.
【非特許文献2】河田諭志,五十川賢造,松本信幸,“自然画像の主成分分析を用いたNon−local Meansによるノイズ除去,” SSII2010,第16回画像センシングシンポジウム,IS2−06 1−6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、画像の鮮鋭感を維持しながら、ノイズを十分に除去することができる画像処理装置が求められている。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、画像の鮮鋭感を維持しながら、ノイズを除去することができる画像処理装置、方法及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る画像処理装置は、相関算出部、選択部、距離算出部、特徴量算出部、重み算出部、及び画素値算出部を含む。相関算出部は、画像中の第1画素を含む第1領域と、予め用意される複数の第1基底ベクトルであって領域の局所構造を示す基底ベクトルのそれぞれとの相関を算出する。選択部は、前記相関の大きさに従って、前記複数の第1基底ベクトルから1つ以上の第2基底ベクトルを選択する。距離算出部は、前記第2基底ベクトルによって生成される部分空間上で、前記第1領域と、複数の第2領域のそれぞれとの距離を算出する。前記複数の第2領域は、前記画像中の複数の第2画素をそれぞれ含む。特徴量算出部は、前記相関のうち、第1基底ベクトルのうちの所定の第3基底ベクトルに対応する相関を用いて、前記第1領域の特徴を示す特徴量を算出する。重み算出部は、前記距離及び前記特徴量に応じて、前記第2画素のそれぞれに割り当てる重みを算出する。画素値算出部は、複数の前記重みに応じて複数の前記第2画素の画素値を加重平均して、出力画素値を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係る画像処理装置を概略的に示すブロック図。
【図2】図1の画像処理装置の動作の一例を示すフローチャート。
【図3】図1の画像処理装置が処理する画像を概略的に示す図。
【図4】第2の実施形態に係る画像処理装置を概略的に示すブロック図。
【図5】図4の画像処理装置の動作の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、実施形態に係る画像処理装置、方法及びプログラムを説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る画像処理装置100を概略的に示している。この画像処理装置100は、図1に示されるように、相関算出部101、選択部102、射影部103、距離算出部104、特徴量算出部105、重み算出部107、及び画素値算出部108を備えている。
【0011】
画像処理装置100では、処理すべき画像(以下、入力画像という)は、相関算出部101、射影部103及び画素値算出部108へ送られる。この入力画像は、例えばカラー画像であり、入力画像を形成する各画素は、赤色、緑色及び青色の画素値を有する。本実施形態では、説明を簡単にするために、各画素が1つの画素値を有するものとして説明する。なお、入力画像は、カラー画像である例に限定されず、モノクロ画像であってもよい。入力画像がモノクロ画像である場合、入力画像内の各画素は、輝度値を画素値として有する。
【0012】
相関算出部101は、入力画像に含まれる複数の画素から処理対象として選択された画素(以下、第1画素という)を含む第1領域と、予め用意される複数の基底ベクトルのそれぞれとの相関を算出する。これらの基底ベクトルは、例えば、相関算出部101の内部メモリ(図示せず)に予め格納されている。或いは、基底ベクトルは、相関算出部101などが適宜参照することができるように、図示しない記憶部に予め記憶されていてもよい。
【0013】
選択部102は、相関算出部101によって算出された相関の大きさに従って、予め用意される複数の基底ベクトルから1つ以上の基底ベクトルを選択する。
【0014】
射影部103は、選択部102によって選択された基底ベクトルにより生成される部分空間へ、第1領域及び複数の第2領域を射影する。第2領域は、入力画像中の第2画素を含む領域である。
【0015】
距離算出部104は、前記部分空間上で、第1領域と第2領域のそれぞれとの距離を算出する。
【0016】
特徴量算出部105は、予め用意される複数の基底ベクトルの中から選定される1以上の基底ベクトルに対応する相関を用いて、後述する平滑化強度を制御するための特徴量を算出する。
【0017】
重み算出部107は、距離算出部104によって算出された距離と特徴量算出部105によって算出された特徴量とに基づいて、第2画素のそれぞれに割り当てる重みを算出する。
【0018】
画素値算出部108は、重み算出部107によって算出された重みに従って第2画素の画素値を加重平均することにより、第1画素に割り当てる新たな画素値を算出する。
【0019】
予め用意される基底ベクトル(第1基底ベクトルともいう)を生成する方法の一例を説明する。
まず、ノイズが重畳していない種々のカラー画像が用意され、これらの画像から所定サイズの部分画像が抽出される。次に、各部分画像に含まれる画素値を並べたベクトルがサンプルベクトルとして生成される。そして、部分画像のそれぞれから生成されたサンプルベクトルに対して主成分分析を行うことにより、基底ベクトルが生成される。例えば、部分画像が縦7画素及び横7画素の矩形ブロックであり、且つ、各画素が3色(赤色、緑色及び青色)の画素値を有する場合、147(=7×7×3)個の基底ベクトルが生成される。この場合、各基底ベクトルは、147個の要素からなる。
【0020】
このようにして生成された基底ベクトルは、テクスチャ(模様)部と高い相関を持つ基底ベクトル、エッジ部と高い相関を持つ基底ベクトル、平坦部と高い相関を持つ基底ベクトル、ノイズと高い相関を持つ基底ベクトルなどを含む。
【0021】
本実施形態の画像処理装置100は、主成分分析の結果として生成された基底ベクトルの一部を使用する。具体的には、本実施形態では、主成分分析の結果として生成された基底ベクトルの中から、所定値より小さい固有値を持つ基底ベクトルを削除する。大きな固有値を持つ基底ベクトルは、一般的な画像に多く存在する局所構造を表す。これに対し、小さい固有値を持つ基底ベクトルは、画像の局所構造の表現にはあまり寄与せず、さらに、入力画像に重畳しているノイズと高い相関を持つ可能性がある。従って、小さい固有値を持つ基底ベクトルを削除した基底ベクトルで生成される部分空間上で領域間の距離を算出することにより、ノイズの影響を低減した状態で領域間の距離を算出することができる。
【0022】
出力画像の画質向上の観点からは、画像処理装置100において使用される基底ベクトルに、小さい固有値を持つ基底ベクトルが含まれないことが望ましい。しかしながら、画像処理装置100において使用される基底ベクトルには、小さい固有値を持つ基底ベクトルが含まれていてもよい。さらに、画像処理装置100は、主成分分析の結果として生成された全ての基底ベクトルを使用しても構わない。
【0023】
なお、基底ベクトルを生成する方法は、主成分分析に基づく方法に限定されず、正準相関分析に基づいていてもよい。さらに、基底ベクトルとしては、2次元離散フーリエ変換の基底、2次元離散ウェーブレット変換、2次元離散コサイン変換の基底などを利用してもよい。
【0024】
次に、図2を参照して、画像処理装置100の動作について説明する。
図2は、画像処理装置100の動作の一例を概略的に示している。より詳細には、図2は、入力画像中の1つの画素に対して施される画像処理の手順を示している。本実施形態では、入力画像を形成する画素は、所定の順序で、例えば、ラスタスキャン順に1画素ずつ選択される。選択された画素(即ち、第1画素)は、以下に説明する手順に従って処理される。
【0025】
ステップS201では、相関算出部101は、第1画素を含む第1領域と、予め用意される複数の(例えばN個の)基底ベクトルのそれぞれとの相関を算出する。本実施形態では、第1領域は、図3に示すように、第1画素301を中心とする入力画像300上の局所領域302である。図3では、1つの小ブロックが1つの画素を示す。図3の例では、第1領域302は、縦3画素及び横3画素の矩形ブロックである。なお、第1領域302のサイズ及び形状は、図3に示される例に限定されず、任意に設定することができる。また、第1画素301が第1領域302の中心に位置していなくてもよい。
【0026】
第1画素301が入力画像300の端部に(例えば、左上の隅に)位置する画素である場合、第1領域302は、入力画像300の外側の領域を含む。入力画像300の外側の領域には、画素が配置されていないので、第1領域302は、入力画像300の外側の領域に対応する画素位置に画素値を持たない。このような画素値を持たない画素位置には、入力画像300の端部の画素値がコピーされる。なお、第1領域302が入力画像300内に収まるように、入力画像300の端部を除いて、第1画素301を選択するようにしてもよい。
【0027】
ステップS201で第1領域と基底ベクトルとの相関を算出する具体的な方法を説明する。一例として、相関算出部101は、第1領域中の画素値を並べることにより生成されるベクトル(第1ベクトルという)と、N個の基底ベクトルのそれぞれとの内積を算出し、算出した内積の絶対値又は二乗値を相関として取得する。ここで、第1画素を入力画像中の第i番目の画素とし、第1ベクトルをvと表す。また、第1ベクトルvの第k番目の要素を(vと表す。さらに、N個の基底ベクトルのうちの第n番目の基底ベクトルをaと表し、基底ベクトルaの第k番目の要素を(aと表す。第1領域と基底ベクトルとの相関pが第1ベクトルvと基底ベクトルaとの内積の絶対値として算出される場合、相関pは、下記の数式(1)に従って算出される。
【数1】

【0028】
なお、N個全ての基底ベクトルに関して第1領域との相関を算出する例を説明したが、これらの基底ベクトルのうちの1以上の基底ベクトルを、相関を算出する対象から除外してもよい。例えば、相関算出部101は、要素の総和の絶対値が最大である基底ベクトルと第1ベクトルとの相関を算出しなくてもよい。
【0029】
要素の総和の絶対値が大きい基底ベクトルと第1領域との相関は、概して、要素の総和の絶対値が小さい基底ベクトルと第1領域との相関より大きい値になる。これは、特に、第1領域が明るい領域(即ち、平均画素値が大きい領域)である場合に顕著になる。このため、明るい領域では、次のステップS202において、要素の総和の絶対値が比較的に大きい少数の基底ベクトルのみが選択されることがある。即ち、明るい領域では、この領域がテクスチャ部か平坦部かを区別することができない。このように特定の基底ベクトルのみが選択される場合、最終的な出力画像において、平坦部にムラが発生したり、テクスチャ部にボケが発生することになる。従って、要素の総和の絶対値が比較的大きい1以上の基底ベクトルを除外して相関を算出することにより、第1領域の局所構造を適切に表現する基底ベクトルが選択されるようになり、最終的な出力画像におけるムラ及びボケの発生を防止することができる。
【0030】
さらに、第1領域と基底ベクトルとの相関は、第1ベクトルと基底ベクトルとの内積に基づいて算出される例に限定されず、いかなる方法で算出されてもよい。
【0031】
ステップS202では、選択部102は、ステップS201で算出された相関に従って、予め用意される基底ベクトルの中から、1つ以上の基底ベクトル(第2基底ベクトルともいう)を選択する。具体的には、選択部102は、基底ベクトルの相関の合計が閾値に達するまで、相関が大きい順に1以上の基底ベクトルを選択する。閾値Pは、例えば、下記の数式(2)に示されるように、ステップS201で算出された相関pの総和の7割の値に設定される。
【数2】

【0032】
このステップS202では、第1領域との相関が大きい基底ベクトルが選択される。これにより、後段の処理において、第1領域の局所構造を反映した部分空間上で第1領域と第2領域との距離が算出されるので、第1領域と似た構造を有する第2領域を精度よく探索することができる。
【0033】
ステップS202で選択された基底ベクトルの数をdとする。また、選択部102により選択された基底ベクトルをベクトルb(n=1,…,d)で表示する。例えば、選択部102が3つの基底ベクトルa、a及びaを選択した場合、以下の数式では、a、a及びaをそれぞれb、b及びbと表示する。なお、前述したように、特定の基底ベクトルを除外して相関を算出する場合、選択部102により選択された基底ベクトルは、除外された基底ベクトルを含む。例えば、基底ベクトルaが除外され、且つ、基底ベクトルa、a及びaが選択される場合、選択部102は、基底ベクトルa、a、a及びaをそれぞれ基底ベクトルb、b、b及びbとして出力する。
【0034】
ステップS203では、射影部103は、選択部102により選択された基底ベクトルbにより生成される部分空間へ、第1領域及び複数の第2領域を射影して、第1射影ベクトル及び複数の第2射影ベクトルを生成する。本実施形態では、第2領域は、図3に示されるように、第2画素303を中心とする縦3画素及び横3画素の矩形ブロック304である。典型的には、第2領域304は、第1領域302と同じサイズ及び同じ形状に設定される。第2画素303は、所定の探索範囲308に含まれる画素である。ここで、第2画素303を入力画像300中の第j番目の画素とする。図3では、探索範囲308は、第1画素301を中心とする縦9画素及び横9画素の矩形ブロックである。この場合、第2画素の数(即ち、第2領域の数)は、81(=9×9)個である。なお、探索範囲308のサイズ及び形状は、任意に設定することができる。さらに、探索範囲308に第1画素301が含まれていなくてもよい。
【0035】
具体的には、射影部103は、下記の数式(3)に従って、第1領域から生成される第1ベクトルvに対してベクトル変換を施して、第1射影ベクトルv´を生成する。
【数3】

【0036】
ここで、fi,nは、第1ベクトルvと基底ベクトルbとの内積である。
【0037】
さらに、射影部103は、第2領域中の画素値を要素として並べた第2ベクトルvを生成する。そして、射影部103は、下記の数式(4)に従って、第2ベクトルvに対してベクトル変換を施して、第2射影ベクトルv´を生成する。
【数4】

【0038】
ステップS204では、距離算出部104は、基底ベクトルbにより生成される部分空間上で、第1領域と第2領域との距離を算出する。具体的には、距離算出部104は、下記の数式(5)に従って、ステップS203で生成された第1射影ベクトルv´と第2射影ベクトルv´との距離D(i,j)を算出する。距離D(i,j)は、複数の第2領域のそれぞれについて算出される。
【数5】

【0039】
なお、距離は、数式(5)に示される差分二乗和の例に限らず、差分絶対値和などで算出されてもよい。
【0040】
ステップS205では、特徴量算出部105は、予め用意される複数の基底ベクトルのうちの1以上の所定の基底ベクトル(第3基底ベクトル)に対応する相関に基づいて、平滑化強度を制御するための特徴量を算出する。具体的には、まず、特徴量算出部105は、所定の基底ベクトルのそれぞれと第1領域との相関を相関算出部101から受け取る。続いて、特徴量算出部105は、相関算出部101から受け取った相関を合計し、この合計値を特徴量T(i)として取得する。所定の基底ベクトルとしては、予め用意されるN個の基底ベクトルの中から、テクスチャ部との相関が高い基底ベクトルが選定される。これにより、第1画素iがテクスチャ部に属する画素であれば特徴量T(i)は大きい値になり、第1画素iが平坦部に属する画素であれば特徴量T(i)は小さい値になる。
【0041】
なお、特徴量は、所定の基底ベクトルに対応する相関の合計に限らず、所定の基底ベクトルに対応する相関の合計と、予め用意されるN個全ての基底ベクトルに対応する相関の合計との比に基づく値であってもよい。
【0042】
ステップS206では、重み算出部107は、ステップS204で算出された距離D(i,j)及びステップS205で算出された特徴量T(i)に基づいて、第2画素jに割り当てる重みW(j)を算出する。重みW(j)は、距離D(i,j)及び特徴量Tに対して単調減少する。即ち、重みW(j)は、距離D(i,j)が大きくなるほど小さく、且つ、特徴量T(i)が大きくなるほど小さくなる。一例として、重みW(j)は、下記の数式(6)に従って算出される。
【数6】

【0043】
ここで、hは入力画像全体における平滑化の程度を指定するパラメータである。本実施形態では、このパラメータの二乗値hを平滑化強度と呼ぶ。平滑化強度hを高く設定すると、全ての画素jに割り当てられる重みW(j)が相対的に大きくなり、即ち、強く平滑化されるようになる。その結果、入力画像のノイズが大きく低減される。
【0044】
本実施形態では、第1画素iごとに特徴量T(i)で平滑化強度が制御される。即ち、数式(6)においては、因子h/T(i)を第1画素iに適用する平滑化強度と見なすことができる。この観点によれば、第1画素iがテクスチャ部に属する画素であれば特徴量T(i)は大きい値になることから、テクスチャ部では、平滑化強度が低くなるように制御される。一方、第1画素iが平坦部に属する画素であれば特徴量T(i)は小さい値になることから、平坦部では、平滑化強度が高くなるように制御される。従って、第1画素が属する領域の特徴(局所構造)に応じて、第1画素iに適用する平滑化強度が制御される。
【0045】
ステップS207では、画素値算出部108は、ステップS206で算出された重みW(j)に従って、探索範囲内の第2画素の画素値を加重平均する。例えば、画素値算出部108は、下記の数式(7)に従って、第2画素jの画素値y(j)の加重平均値y´(i)を算出する。
【数7】

【0046】
ここで、Ω(i)は、第2画素を探索する範囲を示す。
【0047】
画素値算出部108は、算出した加重平均値y´(i)を第1画素iの新たな画素値として出力する。即ち、加重平均値y´(i)は、出力画像中の画素iの画素値として使用される。
【0048】
上述したように、第1画素がテクスチャ部に属する画素である場合、この第1画素に関して算出される特徴量は大きい値になる。この場合、探索範囲内の全ての画素に割り当てられる重みは相対的に小さくなるので、過度な平滑化が行われない。その結果、テクスチャ部では、鮮鋭感を維持することができる。一方、第1画素が平坦部に属する画素である場合、特徴量は小さい値になる。この場合、探索範囲内の全ての画素に割り当てられる重みは相対的に大きくなるので、平滑化が強く行われる。その結果、平坦部では、ノイズを効果的に低減することができる。
【0049】
以上のように、本実施形態に係る画像処理装置においては、テクスチャ部との相関が高くなる基底ベクトルを用いて特徴量を算出し、この特徴量に応じて平滑化強度を制御することにより、画像の鮮鋭感を維持しながらもノイズを低減することができる。
【0050】
(第1の実施形態の変形例)
第1の実施形態の変形例に係る画像処理装置は、図1に示される第1の実施形態の画像処理装置100と同じ構成を有する。第1の実施形態の変形例は、特徴量算出部による特徴量の算出方法が第1の実施形態と異なる。
【0051】
第1の実施形態の変形例に係る特徴量算出部は、第1基底ベクトルのうちの所定の基底ベクトル(第3基底ベクトル)に対応する相関の合計と、第1基底ベクトルのうちの第3基底ベクトルと異なる基底ベクトル(第4基底ベクトルともいう)に対応する相関の合計と、に基づいて、特徴量を算出する。例えば、第3基底ベクトルに対応する相関をp〜p、第4基底ベクトルに対応する相関をp〜pと表すと、特徴量は、下記の数式(8)、(9)及び(10)のいずれかにより算出される。
【数8】

【0052】
【数9】

【0053】
【数10】

【0054】
前述したように、第3基底ベクトルは、第1基底ベクトルのうち、テクスチャ部と相関が高い基底ベクトルである。第4基底ベクトルとしては、例えば、第1基底ベクトルのうち平坦部と相関が高い基底ベクトルが用いられる。テクスチャ部と相関が高い基底ベクトルを第3基底ベクトルとして、平坦部と相関が高い基底ベクトルを第4基底ベクトルとして用いることにより、鮮鋭感を維持したいテクスチャ部では過度な平滑化を防ぎ、平坦部では平滑化を強く行うといった制御が可能となる。
【0055】
或いは、特徴量算出部105は、下記の数式(11)に示されるように、第1基底ベクトルに対応する相関の合計と、第3基底ベクトルに対応する相関の合計と、第4基底ベクトルに対応する相関の合計と、に基づいて、特徴量を算出してもよい。
【数11】

【0056】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態に係る画像処理装置400を概略的に示している。図4の画像処理装置400は、図1の画像処理装置100の構成に加えて、強調部401を備えている。強調部401は、特徴量算出部105によって算出された特徴量に応じて、画素値算出部108によって算出された画素値を強調する。
【0057】
図5は、画像処理装置400の動作の一例を示している。図5のステップS501〜S507は、図2のステップS201〜S207と同じ動作であるので、説明を省略する。
【0058】
ステップS501〜S507では、入力画像の各画素に新たな画素値(出力画素値)が割り当てられる。ステップS508では、強調部401は、特徴量算出部105によって算出された特徴量に応じて、出力画素値を強調する。強調方法としては、例えば、アンシャープマスクのような先鋭化処理を利用することができる。一例では、強調部401は、特徴量がより大きい画素に対してより強く鮮鋭化処理を行う。他の例では、強調部401は、特徴量が所定値より大きい画素(即ち、テクスチャ部の画素)に対して鮮鋭化処理を行う。さらに他の例では、特徴量が所定値より大きい画素に対して、その特徴量が大きいほど強く鮮鋭化処理を行う。
【0059】
さらに、強調部401は、部分空間上で表現されるベクトル(第1及び第2投影ベクトル)において、第1基底ベクトルのうちの所定の1つ以上の基底ベクトルに対応する成分を定数倍するなどして強調を行ってもよい。例えば、第g番目の基底ベクトルに対応する成分を強調する場合、数式(3)の係数fi,gをc倍(cは実数である。)する。
【0060】
以上のように、第2の実施形態に係る画像処理装置は、画素値算出部108により算出された画素値を強調する強調部を備えることにより、最終的な出力画像をより鮮鋭化することができる。
【0061】
上述した各実施形態によれば、テクスチャ部との相関が高くなる基底ベクトル(第3基底ベクトル)を用いて特徴量を算出して、この特徴量に応じて平滑化強度を制御することにより、画像の鮮鋭感を維持しながらもノイズを低減することができる。
【0062】
なお、上述した画像処理装置の各々は、例えば、汎用のコンピュータ装置を基本ハードウェアとして用いることで実現することができる。即ち、相関算出部101、選択部102、射影部103、距離算出部104、特徴量算出部105、重み算出部107、画素値算出部108、及び強調部401は、上記のコンピュータ装置に搭載されたプロセッサにプログラムを実行させることにより実現することができる。このとき、画像処理装置は、上記のプログラムをコンピュータ装置に予めインストールすることで実現してもよく、CD−ROMなどの記憶媒体に記憶して、或いは、ネットワークを介して上記プログラムを配布して、このプログラムをコンピュータ装置に適宜インストールすることで実現してもよい。また、予め用意される基底ベクトルを格納する内部メモリは、上記のコンピュータ装置に内蔵或いは外付けされたメモリ、ハードディスク、若しくはCD−R、CD−RW、DVD−RAM、DVD−Rなどの記憶媒体などを適宜利用して実現することができる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
100…画像処理装置、101…相関算出部、102…選択部、103…射影部、104…距離算出部、105…特徴量算出部、107…重み算出部、108…画素値算出部、400…画像処理装置、401…強調部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像中の第1画素を含む第1領域と、予め用意される複数の第1基底ベクトルであって領域の局所構造を示す基底ベクトルのそれぞれとの相関を算出する相関算出部と、
前記相関の大きさに従って、前記複数の第1基底ベクトルから1つ以上の第2基底ベクトルを選択する選択部と、
前記第2基底ベクトルによって生成される部分空間上で、前記第1領域と、複数の第2領域のそれぞれとの距離を算出する距離算出部であって、前記複数の第2領域は、前記画像中の複数の第2画素をそれぞれ含む、距離算出部と、
前記相関のうち、第1基底ベクトルのうちの所定の第3基底ベクトルに対応する相関を用いて、前記第1領域の特徴を示す特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記距離及び前記特徴量に応じて、前記第2画素のそれぞれに割り当てる重みを算出する重み算出部と、
複数の前記重みに応じて複数の前記第2画素の画素値を加重平均して、出力画素値を算出する画素値算出部と、
を具備することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記特徴量算出部は、前記第3基底ベクトルに対応する相関の絶対値の合計を算出し、該合計が大きいほど大きくなる前記特徴量を算出し、
前記重み算出部は、前記特徴量が大きいほど前記重みを小さく設定する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記特徴量算出部は、前記所定の基底ベクトルに対応する相関の二乗和を算出し、該二乗和が大きいほど大きくなる前記特徴量を算出し、
前記重み算出部は、前記特徴量が大きいほど前記重みを小さく設定する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記特徴量算出部は、前記第3基底ベクトルに対応する相関の二乗和と、前記第1基底ベクトルに対応する相関の二乗和との比を算出し、該比が大きいほど大きくなる前記特徴量を算出し、
前記重み算出部は、前記特徴量が大きいほど前記重みを小さく設定する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記特徴量算出部は、前記第3基底ベクトルに対応する相関の絶対値の合計と、該第3基底ベクトルとは異なる第1基底ベクトルのうちの所定の第4基底ベクトルに対応する相関の絶対値の合計と、に基づいて、前記特徴量を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記特徴量に応じて、前記出力画素値を強調する強調部をさらに具備する請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記強調部は、前記第1領域に対して先鋭化処理を行う、ことを特徴とする請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記強調部は、前記部分空間上で、前記第1基底ベクトルのうちの所定の1つ以上の第4基底ベクトルに対応する成分を強調する、ことを特徴とする請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記相関算出部は、前記第1領域中の画素値を並べた第1ベクトルを生成し、当該第1ベクトルと前記第1基底ベクトルのそれぞれとの相関を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項10】
画像中の第1画素を含む第1領域と、予め用意される複数の第1基底ベクトルであって領域の局所構造を示す基底ベクトルのそれぞれとの相関を算出することと、
前記相関の大きさに従って、前記複数の第1基底ベクトルから1つ以上の第2基底ベクトルを選択することと、
前記第2基底ベクトルによって生成される部分空間上で、前記第1領域と、複数の第2領域のそれぞれとの距離を算出することと、だだし、前記複数の第2領域は、前記画像中の複数の第2画素をそれぞれ含み、
前記相関のうち、第1基底ベクトルのうちの所定の第3基底ベクトルに対応する相関を用いて、前記第1領域の特徴を示す特徴量を算出することと、
前記距離及び前記特徴量に応じて、前記第2画素のそれぞれに割り当てる重みを算出することと、
複数の前記重みに応じて複数の前記第2画素の画素値を加重平均して、出力画素値を算出することと、
を具備することを特徴とする画像処理方法。
【請求項11】
コンピュータに、
画像中の第1画素を含む第1領域と、予め用意される複数の第1基底ベクトルであって領域の局所構造を示す基底ベクトルのそれぞれとの相関を算出する機能と、
前記相関の大きさに従って、前記複数の第1基底ベクトルから1つ以上の第2基底ベクトルを選択する機能と、
前記第2基底ベクトルによって生成される部分空間上で、前記第1領域と、複数の第2領域のそれぞれとの距離を算出する機能と、だだし、前記複数の第2領域は、前記画像中の複数の第2画素をそれぞれ含み、
前記相関のうち、第1基底ベクトルのうちの所定の第3基底ベクトルに対応する相関を用いて、前記第1領域の特徴を示す特徴量を算出する機能と、
前記距離及び前記特徴量に応じて、前記第2画素のそれぞれに割り当てる重みを算出する機能と、
複数の前記重みに応じて複数の前記第2画素の画素値を加重平均して、出力画素値を算出する機能と、
を実現させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−41398(P2013−41398A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177525(P2011−177525)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】