説明

画像処理装置および画像処理方法

【課題】記録媒体で表現される画像の濃度を記録ヘッドの吐出頻度によらず安定させることが可能なインクジェット記録装置のための画像処理方法および画像処理装置を提供する。
【解決手段】個々のノズルの非吐出を示すデータによってインク濃縮積算値を増大させ、吐出を示すデータによってインク濃縮積算値を減少させるように、個々のノズルの吐出の履歴に従ってインク濃縮積算値を取得する。そして、インク濃縮積算値が高いノズルで記録される画素ほど、注目画素の濃度が低くなるように注目画素の画像データを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクを用いて記録を行うインクジェット記録装置のための画像処理方法および画像処理装置に関する。特に、吐出回数が少ないノズルの、インク濃縮に伴う画像濃度の上昇を抑えるための処理に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出する複数のノズルを備えたインクジェット記録ヘッドでは、これら複数のノズルから記録データに応じてインクを吐出することにより、記録媒体に画像を形成する。このような記録ヘッドでは、記録する画像に応じて個々のノズルの吐出頻度が異なり、頻度の低いノズルでは、吐出口内のインクの揮発成分が蒸発し、インクの濃縮が起こり得る。そして、ノズル内のインクが濃縮すると、吐出量あたりの色材濃度も高まり、結果として記録媒体で表現される画像の濃度を必要以上に高めてしまう。
【0003】
例えば特許文献1には、異なるインクを重ねて記録を行うインクジェット記録装置において、各インクの非吐出回数に応じてインク濃度の上昇値を予測し、上昇値に基づいて、各インクに対応する信号値に補正をかける方法が開示されている。特許文献1を採用すれば、吐出回数が低くインクの濃度上昇が起こった場合であっても、濃度上昇が起こっていないインクで記録される画像と略同等の画像濃度を実現することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−320864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の構成では、どの程度の濃度上昇が起こっても、ノズルが1回の吐出を行えば、濃度が上昇したインクは排出され、連続する次の吐出では通常濃度のインクが吐出されることを前提にしている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、実際のインク濃縮は吐出口近傍から徐々にノズルの奥へと進行し、1回の吐出だけでは濃縮インクを排出しきれない場合が確認された。すなわち、特許文献1では、濃縮インクを排出するためには2回以上の吐出が要される場合であっても、ノズル内のインクの濃度が考慮されていない。従って、特許文献1では、1発目の吐出でノズル内のインク濃縮が解消し、2発目あるいは3発目のインクは通常濃度になっているとみなして各インクの信号値に補正をかけているため、出力画像が通常よりも高濃度となり、濃度ムラが発生する恐れがあった。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的とする所は、記録ヘッドのノズル内のインクの濃縮に起因する、記録媒体に記録される画像の濃度ムラを抑制する処理を高精度に行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために本発明は、インクを吐出する複数のノズルを備えた記録ヘッドと、記録媒体と、の相対走査により前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置のための画像処理方法であって、前記記録媒体上の第1画素に対応する多値データと、前記第1画素を記録するノズルが前記第1画素を記録するときの前記ノズルのインクの濃縮度合いを示す第1パラメータと、を取得する取得工程と、前記第1画素に対応する多値データと前記第1パラメータとに基づいて、補正された多値データを生成する第1生成工程と、前記補正された多値データに基づいて、前記ノズルからのインクの吐出または非吐出を示す吐出データを生成する第2生成工程と、前記第1パラメータと前記吐出データとに基づいて、前記第1画素に隣接する画素であって、前記第1画素の次に前記ノズルによって記録される第2画素を記録するときの前記ノズルのインク濃縮度合いを示す第2パラメータを生成する第3生成工程とを有することを特徴とする。
【0008】
また、インクを吐出する複数のノズルを備えた記録ヘッドと、記録媒体と、の相対走査により前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置のための画像処理装置 であって、前記記録媒体上の第1画素に対応する多値データと、前記第1画素を記録するノズルが前記第1画素を記録するときの前記ノズルのインクの濃縮度合いを示す第1パラメータと、を取得する取得手段と、前記第1画素に対応する多値データと前記第1パラメータとに基づいて、補正された多値データを生成する第1生成手段と、前記補正された多値データに基づいて、前記ノズルからのインクの吐出または非吐出を示す吐出データを生成する第2生成手段と、前記第1パラメータと前記吐出データとに基づいて、前記第1画素に隣接する画素であって、前記第1画素の次に前記ノズルによって記録される第2画素を記録するときの前記ノズルのインク濃縮度合いを示す第2パラメータを生成する第3生成手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
さらに、インクを吐出する複数のノズルを備えた記録ヘッドと、記録媒体と、の相対走査により前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置のための画像処理方法であって、前記記録媒体上の第1画素に対応する多値データと、前記第1画素を記録するノズルが前記第1画素を記録するときの前記ノズルのインクの濃縮度合いを示す第1パラメータと、を取得する取得工程と、前記第1画素に対応する多値データと前記第1パラメータとに基づいて、補正された多値データを生成する第1生成工程と、前記第1パラメータと前記補正された多値データとに基づいて、前記第1画素に隣接する画素であって、前記第1画素の次に前記ノズルによって記録される第2画素を記録するときの前記ノズルのインク濃縮度合いを示す第2パラメータを生成する第2生成工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吐出の履歴に応じて変化するインク濃縮に適切に対応した画像処理を行うことが可能となり、濃度変化の無い安定した画像を出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の画像処理の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1および2に使用可能な記録装置の概略構成を示す図である。
【図3】(a)および(b)は、記録ヘッドの吐出口面図である。
【図4】インク濃縮計算部が参照するルックアップテーブルの一例を示す図である。
【図5】インク濃縮積算値と実際のインク濃縮の程度の関係を示す図である。
【図6】画像補正部が参照するルックアップテーブルの一例を示す図である。
【図7】画像の入力値と記録媒体に記録される画像濃度(明度)の関係を示した図である。
【図8】先頭部分の入力画像データが画像処理される工程を説明するための図である。
【図9】(a)および(b)は、本発明の具体的な効果を説明するための図である。
【図10】実施例2の画像処理の構成を説明するためのブロック図である。
【図11】先頭部分の入力画像データが画像処理される工程を説明するための図である。
【図12】各レベルに対応するドットの配置を説明するための模式図である。
【図13】(a)および(b)は、シリアル型インクジェット記録装置の斜視図である。
【図14】4パスのマルチパス記録方法を説明する図である。
【図15】実施例3の画像処理を説明するためのブロック図である。
【図16】実施例1の画像処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施例1)
図2は本実施例で使用する記録装置A1の概略構成を示す図である。記録装置A1はインクジェット式のラインプリンタであり、制御ユニットA2、インクカートリッジA61〜A64、記録ヘッドA7、記録媒体搬送機構A8などを備えている。
【0013】
記録ヘッドA7はフルラインタイプの記録ヘッドであり、記録媒体と対向する面に、搬送方向(x方向)と交差するy方向に並列して配置されたサーマル方式のノズルを複数備えている。インクカートリッジA61〜A64には、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックに対応したインクがそれぞれ収容され、インク導入管A61a〜A64aを通じて記録ヘッドA7の個々のノズルに供給される。そして、画像データに従って、これらのノズルからインクが吐出され、x方向に一定速度で相対走査(搬送)される記録媒体A100に記録が行われる。記録ヘッドA7の詳細については、図3を用いて後で説明する。
【0014】
記録媒体搬送機構A8は、紙送りモータA81と紙送りローラA82を備えている。紙送りモータA81は紙送りローラA82を回転させることで、記録媒体A100を記録ヘッドA7に対しx方向に一定の速度で搬送する。
【0015】
制御ユニットA2は、主にCPU A3、RAM A41、ROM A42によって構成され、受信した画像データを処理したり、記録ヘッドA7や紙送りローラA81を制御して記録動作を行ったりする。CPU A3はROM A42内に記憶された制御プログラムをRAM A41に展開して実行することで、後述するような様々な画像処理を行う。そして、記録ヘッドA7で記録可能な画像データを生成し、記録ヘッドA7と記録媒体搬送機構A8を制御して、記録媒体に画像を記録する。
【0016】
図3(a)および(b)は、記録ヘッドA7の吐出口面図である。図3(a)に示すように、本実施形態の記録ヘッドA7には、複数のノズル列が配列された複数の吐出基板A71〜A74が、x方向に交互にずれながらy方向に連続するように配置している。このような記録ヘッドの個々のノズルから、x方向に搬送される記録媒体に対しインクを吐出することにより、記録ヘッドA7に配列されたノズル幅wに対応する画像を記録することが出来る。
【0017】
図3(b)は、1つの吐出基板A71におけるノズル列の配置状態を示す図である。1つの吐出基板A71にはA71a〜A71dの4列のノズル列が配置しており、個々のノズル列は、所定のピッチ(記録解像度)で所定方向(ここではy方向)に配列する複数のノズルによって構成されている。本実施例において、y方向のノズルのピッチは1200dpiである。これら4つのノズル列に含まれ、x方向に沿って対応する位置(以下、同一ノズル位置と呼ぶ)の4つのノズルによって、搬送される記録媒体上の同一列(カラム)の記録が行われる。
【0018】
以下、図1および図8を用いて本実施例の画像処理を説明する。図1は本実施例の画像処理の構成を説明するためのブロック図である。また、図8は図1で示す画像処理によって先頭部分の入力画像データが、処理される工程を具体的に説明するための図である。
【0019】
図8において、801は、画像入力部B100が受信した入力画像データの先頭部分であり、y方向のノズル位置1〜ノズル位置8およびx方向のカラム位置1カラム〜8カラムに対応する8×8の画素領域を示している。ここでは、シアンの濃度データを例に示しており、8×8の全ての画素は、i=84の信号値を有している。このような入力画像データに対し、図1に示す各ブロックは、図の左上の画素(ノズル位置1の第1カラム)からx方向に1画素ずつ順に以下の画像処理を行っていく。なお、本例において、各画素の解像度は1200dpi×1200dpiであり。そして、各ブロックが行う画像処理の解像度は、実際に記録ヘッドが記録媒体にドットを記録する記録解像度(ノズル解像度)と一致している。
【0020】
入力された濃度データ(i=84)は、まず画像補正部B200によって所定の補正処理が施される。ここで行われる補正処理は、本実施例の特徴的な処理であり、個々のノズルで予測されるインク濃縮の度合いによって、濃度データの信号値を補正して出力する。具体的には、インク濃縮が高いと予測されるノズルについては信号値をマイナス方向に補正し、インク濃縮が無いと予測されるノズルについてはそのままの信号値で出力する。但し、記録動作開始直前には、記録ヘッドのメンテナンス処理によって十分な予備吐出が行われているので、処理の対象となっている注目画素が先頭すなわち第1カラムの画素である場合、いずれのノズルについてもインクは濃縮していないと判断する。よって、左上の画素(ノズル位置1の第1カラム)を処理する場合、画像補正部B200は、入力画像データi=84をそのままの状態で量子化部B300へ出力する(i´=84)。画像補正部B200で行なう詳しい処理については後に詳しく説明する。
【0021】
量子化部B300は、入力された多値データi´をドットの記録(1)あるいは非記録(0)を定める2値データに量子化する。量子化方法としては誤差拡散法やディザ法など広く知られた方法を採用することが出来る。802は、量子化部B300によって多値データが量子化された結果を示している。ここでは、左上の画素(ノズル位置1の第1カラム)の量子化の結果はドット非記録(0)になっている。
【0022】
量子化部B300から出力された2値データは、ドット配置ノズル列展開部B400によって、個々のノズル列A71a〜A71dがそれぞれ記録するドットデータ(2値データ)に振り分けられる。803a〜803dは、ドットデータ802をノズル列A71a〜A71dのいずれかに分配するためのマスクパターンである。これらマスクパターンは、記録装置のROM A42に予め格納されている。具体的には、803aがノズル列A71aの記録許容画素を決定するマスクパターン、803bがノズル列A71bの記録許容画素を決定するマスクパターンである。また、803cがノズル列A71cの記録許容画素を決定するマスクパターン、803dがノズル列A71dの記録許容画素を決定するマスクパターンである。個々のマスクパターンにおいて、グレーで示した画素(ON)が対応するノズルのドット記録を許容する画素、白で示した画素(OFF)がドット記録を許容しない画素を示している。これら4つのマスクパターンそれぞれが25%の記録許容率となっており、互いに補完の関係を有している。ドット配置ノズル列展開部B400は、予めROM A42に格納されているこのようなマスクパターンを読み出し、当該マスクパターンと量子化部B300から出力されたがドットデータとの間でAND処理を行う。その結果、ドットデータ802は、ノズル列A71aのドットデータ804a、ノズル列A71bのドットデータ804b、ノズル列A71cのドットデータ804c、ノズル列A71dのドットデータ804dに分配される。すなわち、ドットデータ802の全ては、A71a、A71b、A71c、A71dのいずれかによって記録される。左上の画素(ノズル位置1の第1カラム)は、ドットデータ804a〜804dの全てにおいてドット非記録(0)になっており、いずれのノズル列によってもドットは記録されない。尚、本実施例では、803a〜803dに示すように互いに補完関係にあるマスクパターンを用いたが、同一画素に対して複数のノズルからインクを吐出するようなマスクパターンを用いてもよい。
【0023】
その後、各ノズル列のドットデータは、プリント部B500に送られ、対応するノズル列によって、インクの吐出が実行される。左上の画素(ノズル位置1の第1カラム)については、いずれのノズル列によっても記録は行われない。一方、このようなドットデータはインク濃縮計算部B600にも送られる。
【0024】
インク濃縮計算部B600では、ドット配置ノズル列展開部B400が生成したドットデータに基づいて、該当するノズルのインク濃縮積算値Cを取得する。本明細書において、インク濃縮積算値Cとは、各ノズル内のインクの濃縮の程度を示すパラメータであり、その値が大きいほどインクの濃縮度が高い、つまりインクが濃縮していることを表している。記録動作開始直前には、記録ヘッドのメンテナンス処理によって十分な予備吐出が行われるので、いずれのノズル列でもインク濃縮は起こっておらず、第1カラムを処理する際に用いられるインク濃縮積算値(初期値)は0とする。
【0025】
本例の左上の画素のようにデータが非記録(0)の場合、該当するノズルのインクは、1回の非吐出分だけインク濃縮が進行する。よって、インク濃縮計算部B600は、現在のインク濃縮積算値Cに1を加算する(C=C+1)。一方、データが記録(1)である場合、該当するノズルのインクは、1回の吐出分だけインク濃縮が緩和する。よって、インク濃縮計算部B600は、その緩和量すなわちインク濃縮積算値のマイナス変化量ΔCを、インク濃縮積算値変化量計算関数またはインク濃縮積算値変化量計算テーブルを用いて取得し、これを現在のインク濃縮積算値Cに加算する(C=C+ΔC)。以下インク濃縮積算値変化量計算関数またはインク濃縮積算値変化量計算テーブルについて説明する。
【0026】
図5は1つのノズルにおけるインク濃縮積算値と実際のインク濃縮の程度の関係を示す図である。横軸は、本実施例におけるインク濃縮積算値Cである。非記録画素が連続する状況において、インク濃縮積算値Cは非吐出時間あるいは連続した非記録画素数に相当する。縦軸はインク濃縮倍率である。本例におけるインク濃縮倍率とは、インク濃縮が起こっていない状態で記録されたドットの光学濃度(OD、Optical Density)に対する、インク濃縮が起こっている場合の光学濃度(OD)の倍率を示す値である。すなわちインク濃縮が起こっていない場合(インク濃縮積算値C=0の場合)は、インク濃縮倍率は1である。
【0027】
図において、実線は、あるインクにおいて、複数のインク濃縮積算値Cに対応するインクを用い、連続して2ドットを記録した場合の、1発目のインク濃縮倍率を示している。インク濃縮積算値Cが大きくなるほど、インク濃縮倍率が高くなっていることが判る。一方、破線は実線と同条件で連続ドットを記録した場合の、2発目のドットのインク濃縮倍率を示している。1発目と同様、インク濃縮積算値が大きくなるほどインク濃縮倍率は高くなっているが、その傾きは1発目に比べて十分小さい。すなわち、インク濃縮積算値Cがどのような値であっても、1発目の吐出によってインク濃縮倍率は、かなり低減する。しかし、図からも判るように、完全にもとのインク濃縮倍率(=1)に戻るわけではない。
【0028】
例えば、インク濃縮積算値がCeのインクを用いて2回連続で吐出動作を行った場合、記録媒体に形成される1ドット目のインク濃縮倍率はPeで、2ドット目のインク濃縮倍率はPe´である。ここで、2ドット目のPe´のインク濃縮倍率に対応する1ドット目のインク濃縮積算値は、CeよりΔCだけ減少したCe´となる。つまり、インク濃縮積算値がCeのインクを用いて1回の吐出動作を行った場合、インク濃縮積算値はΔCだけ下がると考えることが出来る。なお、このようなインク濃縮積算値の変位量ΔCは、図5のようなインク濃縮積算値Cとインク濃縮倍率の関係を予め調べておくことにより、それぞれのインク濃縮積算値Cに応じた値を求めておくことが出来る。
【0029】
例えば、図5のように、5点(0、Cb、Cc、Cd、Ce)のインク濃縮積算値に対するインク濃縮倍率が分かっている場合、各点の座標からΔCを取得する関数を以下のように用意することが出来る。
注目画素のデータが0(非記録)の場合
ΔC=1
注目画素のデータが1(記録)で、且つインク濃縮積算値Cが0≦C<Cbの場合、
ΔC=(−1)×(m1×C+n1)
注目画素のデータが1(記録)で、且つインク濃縮積算値CがCb≦C<Ccの場合、
ΔC=(−1)×(m2×C+n2)
注目画素のデータが1(記録)で、且つインク濃縮積算値CがCc≦C<Cdの場合、
ΔC=(−1)×(m3×C+n3)
注目画素のデータが1(記録)で、且つインク濃縮積算値CがCd≦Cの場合、
ΔC=(−1)×(m4×C+n4)
ここで、m1〜m4およびn1〜n4は、図5の各点の座標から算出できる正の値である。この場合、本実施例のインク濃縮計算部B600は、現時点でのインク濃縮積算値Cと注目画素のデータに応じて上記式よりΔCを求め、新たなインク濃縮積算値C=C+ΔCを算出する。
【0030】
なお、以上では、複数ポイントの測定結果を直線で補完した関数をもとに、変化量ΔCを求めるための上記計算式を作成したが、例えは複数の測定ポイントを曲線で近似して、インク濃縮積算値からインク濃縮積算値の変化量ΔCを求める式を作成しても良い。
【0031】
また、このようなインク濃縮積算値Cと注目画素の記録データに対応図けられたΔCの値は、予めルックアップテーブルに記憶しておくことも出来る。
【0032】
図4は、インク濃縮積算値CからΔCの値を取得するためにインク濃縮計算部B600が参照するルックアップテーブルの一例を示す図である。図において、記録データが非記録(0)の場合は、インク濃縮積算値の変化量ΔCはインク濃縮積算値によらず、ΔC=1となる。一方、記録データが記録(1)の場合は、インク濃縮積算値の変化量ΔCは0または負の値となる。このようなルックアップテーブルを予め用意しておくと、上述した式を用いてΔCを算出する形態に比べて、インク濃縮計算部B600での処理時間を短くすることが出来る。
【0033】
ルックアップテーブルで用意するインク濃縮積算値の数(縦の水準の数)が、大きすぎる場合には、水準を間引いてルックアップテーブルのサイズを小さくしても良い。例えばインク濃縮積算値をビットシフトして2進数の桁数を少なくした数値を使用することにより水準数を少なくしても良い。また別のルックアップテーブルを用いてインク濃縮積算値の水準をより少ない数値へまとめる変換を行い、その変換された数値をインク濃縮積算値変化量計算テーブルの水準に使用することにより水準数を少なくすることも出来る。この場合、変化量ΔCの変化が大きい領域すなわち比較的インク濃縮積算値が小さい領域では、上記水準の間引きは少なく抑えることが好ましい。逆に、変化量ΔCの変化が小さい領域すなわち比較的インク濃縮積算値が大きい領域では、上記水準の間引きを大きくすることが出来る。
【0034】
図1に戻り、次の処理を説明する。上述した方法により、インク濃縮計算部B600が算出した新たなインク濃縮積算値C=C+ΔCは、インク濃縮積算値保持手段B700に格納される。図8の左上の画素の例では、インク濃縮積算値Cはいずれのノズルでも初期値の0、記録データが0で変化量ΔC=1であるので、新たなインク濃縮積算値C=0+1=1となる。インク濃縮積算値保持手段B700は、最新のインク濃縮積算値Cをノズル列ごとに格納する。
【0035】
ここで、画像補正部B200における画像補正方法を詳しく説明する。
【0036】
図7は、画像の入力値と記録媒体に記録される画像濃度(明度)の関係を示した図である。横軸は入力値を示しているが、ここでは右に行くほど明度が高い、すなわち画像入力部B100に入力される多値の濃度データの信号値が小さいことを示している。また、縦軸は、記録媒体上に記録される画像の明度を示し、値が高いほど画像が明るい、すなわち濃度が低いことを示している。
【0037】
また、図7では、濃縮倍率が異なる3種類のインクを用いた場合それぞれの、入力値と画像明度の関係を示している。C1は、インク濃縮倍率が1.0、すなわち濃縮が起こっていない正常なインクを用いた場合の、入力値と明度の関係を示している。これに対し、C2は濃縮倍率が1.2であるインクを用いた場合、またC3は濃縮倍率が1.4であるインクを用いた場合の、入力値と明度の関係をそれぞれ示している。いずれの濃縮倍率においても、入力値が暗いすなわち画像入力部B100に入力される信号値が高いほど、記録媒体に記録される画像の明度が低く(すなわち濃度が高く)なっている。また、インク濃縮倍率が高いほど、各入力値に対する明度は低く(すなわち濃度は高く)なっている。
【0038】
本実施例では、濃縮倍率がどのような値のインクであっても、濃縮倍率が1.0と同様の軌跡C1となるように、インク濃縮倍率の値に応じて、入力信号値に補正をかける。具体的には、濃縮倍率が1.4のインクに対し信号値iが入力された場合、そのままの信号値では画像明度はd3となってしまうが、これを軌跡C1と同じd1とするために、入力信号iを、軌跡C3で画像明度をd1とする信号値i´に変換する。すなわち、Δi=i´−iが画像補正部B200で入力信号値に対して必要な補正量となる。
【0039】
なお、インク濃縮積算値Cとインク濃縮倍率の関係は、既に図5のグラフによって取得可能である。よって、図7に示したような入力値と画像明度(あるいは濃度)の関係を、様々なインク濃縮倍率について調べておけば、インク濃縮積算値と入力画像信号値の組み合わせから、適量の補正値Δiが得られるようなルックアップテーブルを作成することが出来る。
【0040】
図6は、本実施例の画像補正部が参照する上記ルックアップテーブルの一例を示す図である。図において、縦軸はA71a、A71b、A71c、A71dの4列のノズルのうち、同一ノズル位置(同一カラム位置)の4ノズルのインク濃縮積算値の平均値(インク濃縮積算平均値)を示している。また、横軸は、画像補正部B200に入力される0〜255で表される濃度信号を示している。画像補正部B200は、インク濃縮積算値保持手段B700に保持されている、同じカラム位置で異なるノズル列に含まれる4ノズルのインク濃縮積算値からその平均値を求め、これをインク濃縮積算平均値とする。そして、図6のルックアップテーブルを参照しながら、このように求めたインク濃縮積算平均値と画像入力部B100から入力される画像信号の組み合わせに応じて、補正量Δiを取得する。さらに、取得した補正量Δiを入力画像信号iから減算することにより、補正後の信号値i´を得る。
【0041】
このような補正後の信号値i´を用いて量子化部B300が量子化を行いながら、ここの画素に対し画像処理を進めていくことにより、記録媒体にはインク濃縮が起こっていないインクで画像を記録した場合と同等の画像濃度が表現される。
【0042】
なお、図6に示したルックアップテーブルについても、その水準数が多すぎる場合には、図4で説明したルックアップテーブルと同様に、変化量の少ない領域でインク濃縮積算平均値の水準値を間引いてもよい。
【0043】
これまで説明した画像処理の流れを図16に示すフローチャートを用いて説明する。まず、ステップS1において、画像補正部B200は、画像入力部B100から注目画素(第1画素)に対応する多値の濃度データ(入力信号i)を取得する。
【0044】
次に、ステップS2において、インク濃縮積算値保持手段B700に格納されたインク濃縮積算値とインク濃縮積算平均値(第1パラメータ)を取得する。このインク濃縮積算値とインク濃縮積算平均値は、注目画素を記録可能な4ノズルそれぞれに対応している。この4ノズルは、カラム方向の位置が同じノズルであり、同一ノズル位置のノズルである。
【0045】
ステップS3において、ステップS1で取得した濃度データと、ステップS2で取得したインク濃縮積算値平均とに基づき、図6に示すルックアップテーブルを参照して濃度データを補正するための補正値(補正値Δi)を決定する(第1生成工程)。そして、ステップS3で決定した補正値を用いて注目画素の濃度データを補正し、量子化部B300に出力する(ステップS4)。
【0046】
量子化部B300では、ステップS4において補正された注目画素の多値の濃度データを量子化してドットの記録・非記録を示す吐出データを生成し(第2生成工程)、ドット配置ノズル列展開部B400へ出力する(ステップS5)。そして、ドット配置ノズル列展開部B400において、マスクパターンを用いて受信した2値データに基づいて注目画素を記録する4つのノズルにそれぞれ対応する4つのデータを生成する。その後、プリント部B500及びインク濃縮計算部B600にそれぞれ出力する(ステップS6)。
【0047】
ステップS7では、インク濃縮計算部B600において、4つノズルそれぞれに対して、注目画素の記録においてインクドットを吐出したか否かに基づいて図4に示すルックアップテーブルを参照し、インク濃縮積算値の変化量(ΔC)を取得する。そして、ステップS1で取得した各ノズルのインク濃縮積算値に、変化量ΔCをそれぞれ加算することにより、注目画素を記録することにより変化した各ノズルのインク濃縮度合いを示すインク濃縮積算値(第2パラメータ)を算出する。つまり、注目画素に隣接し、注目画素の次に、この4ノズルを用いて記録される画素(第2画素)に対する処理に用いるインク濃縮積算値を算出する(第3生成工程)。
【0048】
ステップS8では、ステップS7で算出したノズル毎のインク濃縮積算値に基づいて、4ノズルのインク濃縮積算平均値を算出し、算出した値をインク濃縮積算値保持手段B700に格納する。
【0049】
最後に、ステップS9において注目画素が記録すべき画素の最終画素であるか否かを判断し、最終画素である場合には処理を終了する。一方、最終画素ではない場合は、注目画素の次にこの4ノズルで記録される画素に対して上記ステップS1からステップS8の処理を行い、最終画素に対する処理を行うまでこの処理を続ける。
【0050】
図9(a)および(b)は、本実施例の具体的な効果を説明するための図である。図9(a)は罫線パターンであり、y方向に延在する複数の罫線が、x方向に比較的長い間隔をおいて並列配置している。このような罫線パターンを記録する場合、y方向に配列する個々のノズルは、x方向に搬送される記録媒体に対し、所定間隔で1ドットの吐出を繰り返す。
【0051】
図9(b)は、図9(a)のような記録を行った場合の、記録媒体上の画素位置と、1つのノズルのインク濃縮積算値Cの関係を示した図である。記録開始時、インク濃縮積算値Cは初期値の0であるが、非記録画素が連続するにつれて徐々に増大する。そして、最初の記録画素に到達すると1回分の吐出が行われ、インク濃縮積算値Cは一気に減少する。その後、再び非記録画素の連続によってインク濃縮積算値は徐々に上昇する。
【0052】
このような周期的な吐出動作を続けて行った場合、もし1回の吐出でインク濃縮積算値が十分に0まで下がれば、インク濃縮積算値は破線で示したような軌跡を辿る。既に説明した特許文献1では、このような軌跡を辿ることを前提に画像処理を行っている。しかし、本例のように、記録画素の数に比べて非記録画素の連続数が十分に多い場合には、増大したインク濃縮積算値は1回の吐出では0まで戻らず、インク濃縮積算値は実線で示した軌跡のようになる。このような場合であっても、特許文献1の構成では、記録直後の画素に対して、濃縮していないインクと同様の画像処理を行ってしまうので、罫線パターンの濃度が徐々に高くなったり、或いは濃縮度が高まりすぎて吐出不良を起こしたりなどの懸念が生じる。これに対し、本実施例を採用すれば、その時々で正確なインク濃縮積算値Cを取得し、この値に見合った補正量で個々の画素に画像処理を施すことが出来るので、適切な濃度の罫線パターンを安定して記録することが可能となる。
【0053】
なお、図1の説明では、量子化処理を行った後、各ノズル列に対応した2値のマスクパターンを使用してドットデータを各ノズル列に振り分けたが、本実施例はこの構成に限定されるものではない。インク濃縮計算部B600が、各ノズル列に対応付けられた2値データに基づいて、個々のノズルのインク濃縮積算値を算出することが出来れば、本実施例は有効であり、量子化や各ノズル列へのデータの振り分け方法は、特に限定されるものではない。例えば、各ノズル列に対応するディザパターンを用意し、多値データを各ノズル列の2値データに一括変換することも出来る。
【0054】
また、以上では各吐出基板に4列のノズル列が配列した構成について説明したが、もちろん本発明は5列以上(N列)のノズル列を有する構成にも対応できるし、1つのノズル列のみ備える記録ヘッドの場合にも対応できる。N列のノズル列で記録を行う場合、画像補正部B200は、注目画素の記録に関わるN個のノズルのインク濃縮積算値に基づいて、各入力画像データを補正する。ノズル列が1列の場合にはインク濃縮積算値は各行に対し1つとなるので、注目画素に対応するインク濃縮積算平均値の取得(図16のステップS1)および、注目画素の次の画素のための積算平均値の算出(図16のステップS8)の処理は省略される。インク濃縮積算値はそのままの状態で画像補正処理B200で使用することができる。
【0055】
以上説明したように本実施例によれば、フルライン型の記録ヘッドを用いたインクジェット記録装置において、個々のノズルの非記録データ(0)と記録データ(1)の配置から、時々のインク濃縮積算値を正確に取得し、その値に応じて濃度データに補正をかける。従来は、注目画素に対してインクが吐出されればインクの濃縮が解消したと判断されていた。しかし、本発明によれば、ノズル内のインクの濃縮の度合いを示すインク濃縮積算値というパラメータを用いることによって、注目画素の記録によってノズル内のインクの濃縮の程度がどのように変化するかを詳細に知ることができる。このインク濃縮積算値は、図4に示すように、ノズル内のインクの濃縮の度合いが相対的に高い場合(インク濃縮積算値の値が高い場合)には、インク滴を吐出しても0にならない。これにより、各画素の記録によるパラメータの変化を注目画素の次に記録する画素の補正に反映させることができる。そして、吐出の履歴に応じて変化するインク濃縮に適切に対応した画像処理を高い精度で行うことが可能となり、濃度変化の無い安定した画像を出力することが可能となる。
【0056】
尚、本実施例では、図16のステップS5からステップS8において、注目画素の多値の濃度データを量子化して生成した2値データと、インク濃縮積算値とに基づいて変化量を取得するためのルックアップテーブルを備える形態について説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、注目画素の多値の濃度データとインク濃縮積算値とに基づいて変化量を取得するためのルックアップテーブルを備える形態であってもよい。例えば、ノズル列が1列のみの場合には、注目画素を記録可能なノズルが1ノズルのみであるため、多値データからノズルの吐出・非吐出が判断可能である。このため、量子化処理を行わずに多値の濃度データに基づいて変化量を取得することができる。
【0057】
(実施例2)
本実施例では、画像入力部に入力される画像解像度よりも、記録装置の記録解像度が高い場合の画像処理について説明する。本実施例では、図2で示した記録装置と図3で示したノズル解像度が1200dpiの記録ヘッドを用い、入力される多値の画像データの解像度は600dpiである。すなわち、入力される画像データにおける1画素(600dpi×600dpi)に対して、それぞれ1200dpi×1200dpiの4画素のデータとなるように量子化される。そして、この4画素のデータの記録には、同一ノズル位置のノズルが2列分、つまり8ノズル用いられるため、濃縮積算平均値を求める場合は8ノズルの濃縮積算値の平均を求める。
【0058】
以下、図10および図11を用いて本実施例の画像処理を説明する。図10は本実施例の画像処理の構成を説明するためのブロック図である。また、図11は図10で示す画像処理によって先頭部分の入力画像データが、処理される工程を具体的に説明するための図である。
【0059】
図11において、111は、画像入力部B100が受信した入力画像データの先頭部分である。本実施例において、この段階の1画素は、記録解像度の2×2画素に相当する。111では、y方向のノズル位置1〜ノズル位置8およびx方向のカラム位置1カラム〜8カラムに対応する4×4の画素領域を示しており、各画素はシアンの入力画像データi=63の信号値を有している。このような入力画像データiに対し、図10に示す各ブロックは、実施例1と同様、図の左上の画素からx方向に1画素ずつ順に処理して行く。
【0060】
入力された画像データ(i)は、まず画像補正部B200によって所定の補正処理が施される。具体的な補正方法は実施例1と同様である。すなわち、予め用意されているルックアップテーブルを参照し、インク積算値保持手段B700に格納されている積算値と画像入力部B100から入力される画像信号の組み合わせに応じて補正量Δiを取得し、入力画像信号iを信号値i´に変換する。この際、本実施例の画像補正部B200が処理の対象とする1画素領域は、記録解像度の2×2画素領域に相当する。よって、本実施例の画像補正部B200は、2ノズル×4列分すなわち8ノズル分のインク濃縮積算値から、インク濃縮積算平均値を算出する。
【0061】
本実施例の量子化部B300は、入力された多値データをレベル0〜レベル4の5値に量子化する。量子化方法としては多値誤差拡散法やディザ法など広く知られた方法を採用することが出来る。112は、量子化部B300によって多値のデータ(64)が5値に量子化された結果を示している。ここでは、4×4画素の全てについて、量子化の結果はレベル1になっている。
【0062】
量子化部B300から出力された5値データはドット配置紙面展開部B800に入力され、2×2画素内におけるドットパターンに変換される。
【0063】
図12は、それぞれのレベルに対応するドットの配置を説明するための模式図である。入力データの画素領域は、出力データの2画素×2画素の領域に相当し、0〜4の値は、ドットの記録(1)或いは非記録(0)を示す2値データに変換される。
【0064】
例えば量子化値がレベル1の場合、2×2画素の中の1つの画素だけにドットが配置される。この場合、その配置パターンは4通りを用意することが出来る。そして、レベル2およびレベル3では2通り、レベル4では1通りの配置パターンを用意することが出来る。本実施例では、同じレベル値に対するこのような複数のパターンは、x方向に順番に繰り返されて使用される。図11の113は、ドット配置紙面展開部B800によって変換された後のドットパターンを示している。
【0065】
ドット配置紙面展開部B800からの出力データは、ドット配置ノズル列展開部B400に入力される。ドット配置ノズル列展開部B400での処理は実施例1と同様である。すなわち、114a〜114dに示したマスクパターンの夫々と、ドットパターン113の間でAND処理を行い、ノズル列A71a〜A71dの夫々に対応したドットパターン115a〜115dを得る。
【0066】
ドット配置ノズル列展開部B400から出力される各ノズル列のドットデータは、インク濃縮計算部B600に送られ、実施例1と同様、ノズルごとにインク濃縮積算値を算出し、これをインク濃縮積算値保持手段B700に格納する。
【0067】
そして、次の注目画素の補正処理を行う際、画像補正部B200は、注目画素の領域に対応する8ノズル(2ノズル×4ノズル列)分のインク濃縮積算値から、インク濃縮積算平均値を算出し、これを用いて入力画像信号iを信号値i´に変換する。
【0068】
本実施例によれば、実施例1と同様に個々のノズルに対するインク濃縮積算値を取得しながらも、その値を用いて、記録解像度よりも低い解像度の画像データに補正をかけることが出来る。よって、実施例1と同様の効果を得ることが出来、濃度変化の無い安定した画像を出力することが可能となる。
【0069】
(実施例3)
本実施例では、シリアル型のインクジェット記録装置を適用する。
【0070】
図13(a)および(b)は、本実施例で使用するシリアル型インクジェット記録装置の内部構成を説明するための斜視図である。図13(a)は本体構成図であり、図13(b)は、記録カートリッジの構成図である。
【0071】
記録装置の外装部材内に収納されたシャーシM3019は、所定の剛性を有する複数の板状金属部材によって構成されて記録装置の骨格を成すものであり、以下に説明する各機構を保持する。自動給送部M3022は、記録媒体を装置本体内へと自動的に給送する。搬送部M3029は、自動給送部M3022から1枚ずつ送出される記録媒体を所定の記録位置へと導くと共に、その記録位置から排出部M3030へと記録媒体を導く。矢印yは、記録媒体の搬送方向(副走査方向)であり、記録ヘッド部Hのノズル並び方向でもある。記録位置に搬送された記録媒体は、x方向に移動しながらインクを吐出する記録ヘッド部Hによって所望の記録が行われる。回復部M5000は、記録ヘッドHに対し、所定の回復処理を行う。紙間調整レバーM2015は、記録ヘッド部Hの吐出口面と記録媒体との距離を調整するためのレバーである。
【0072】
キャリッジM4001は、キャリッジ軸M4021によって矢印xの主走査方向に移動可能に支持されている。キャリッジM4001には、インクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドカートリッジH1000が着脱可能に搭載される。
【0073】
図13(b)を参照するに、記録ヘッドカートリッジH1000は、吐出を行うための記録素子を備えた記録ヘッド部HとインクタンクホルダH1001から構成されている。インクタンクH1900のそれぞれは、記録ヘッドカートリッジH1001に対し、図のように着脱可能になっており、それぞれのタンクから、対応するノズル列へインクを供給する。本実施例では、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの4色のインクを用い、各色のインクを吐出するための1列ずつのノズル列を持つ記録ヘッド構成とする。
【0074】
本実施例における記録ヘッドにおいて、同色を吐出するノズルは、y方向に所定のピッチで配列されており、互いに異なる色のインクを吐出するノズル列は、x方向に並列されている。
【0075】
キャリッジM4001には、キャリッジM4001上の所定の装着位置に記録ヘッドカートリッジH1001を案内するためのキャリッジカバーM4002が設けられている。さらに、キャリッジM4001には、記録ヘッドカートリッジH1001のタンクホルダーと係合して、記録ヘッドカートリッジH1001を所定の装着位置にセットさせるヘッドセットレバーM4007が設けられている。ヘッドセットレバーM4007は、キャリッジM4001の上部に位置するヘッドセットレバー軸に対して回動可能に設けられており、記録ヘッドカートリッジH1001と係合する係合部には、ばね付勢されるヘッドセットプレート(不図示)が備えられている。そのばね力によって、ヘッドセットレバーM4007は、記録ヘッドカートリッジH1001を押圧しながらキャリッジM4001に装着する。キャリッジH4001に搭載された記録ヘッドカートリッジH1001は、メイン基板からフレキシブルケーブルE0012を経由して記録に必要なヘッド駆動信号を得る。
【0076】
キャリッジM4001をx方向に走査しつつ記録データに従って各ノズルからインクを記録媒体へ吐出する記録主走査と、記録媒体をy方向に搬送する搬送動作とを交互に行うことによって、記録媒体に画像を記録する。
【0077】
図14は、本実施例の記録装置が実行する4パスのマルチパス記録方法を説明する図である。P0001は記録ヘッドを示し、ここでは簡単のため16個のノズルを有するものとする。4パスのマルチパス記録の場合、16個のノズルは図のように第1〜第4の4つのノズルブロックに分割され、各ブロックには4つずつのノズルが含まれている。P0002はマスクパターンを示し、各ノズルの記録許容エリアを黒塗りで示している。各ノズルブロックが記録するパターンは互いに補完の関係にあり、これらを重ね合わせると4×4の記録画素に対応した領域の記録が完成される構成となっている。
【0078】
P0003〜P0006で示した各パターンは、記録走査を重ねていくことによって画像が完成されていく様子を示している。各記録走査が終了するたびに、記録媒体はy方向にブロック幅分ずつ搬送される。よって、記録媒体の同一領域(各ノズルブロックの幅に対応する領域)は4回の記録走査によって画像が完成される構成となっている。
【0079】
図15は、本実施例の画像処理を説明するためのブロック図である。本実施例も、実施例2と同様に、記録装置の記録解像度が画像入力部に入力される画像解像度の2倍である場合の画像処理について説明する。また、マルチパス記録の第1記録走査から第4記録走査は同一方向で行うものとし、各画素の画像処理は実際に記録を行う順および方向に1画素ずつ行っていく。
【0080】
図15において、第2実施例で説明した図10と異なる点は、ドット配置ノズル列展開部B400が、ドット配置マルチパス展開部B900に変更されている点である。すなわち、実施例2では、ドット配置紙面展開部B800が作成したドットデータを、4列のノズル列に分配したが、本実施例では4回の記録走査すなわち4つのノズルブロックに分配する。
【0081】
本実施例の画像補正部B200は、2ノズル×4ブロック分すなわち8ノズル分のインク濃縮積算値から、インク濃縮積算平均値を算出する。更に、予め用意されているルックアップテーブルを参照し、上記インク濃縮積算平均値と画像入力部B100から入力される入力された濃度データ(i)の組み合わせに応じて補正量Δiを取得し、入力画像信号iを信号値i´に変換する。
【0082】
本実施例の量子化部B300およびドット配置紙面展開部B400は、実施例2と同様である。
【0083】
ドット配置マルチパス展開部B900は、図14のP0002や図11の114a〜114dのようなマスクパターンを用い、ドット配置紙面展開部B800が作成したドットデータを、4つのノズルブロックに分配する。このように生成されたドットデータは記録ヘッドの各ブロックに宛がわれ、夫々所定の記録走査で記録される。
【0084】
ドット配置マルチパス展開部B900から出力される各ブロックのドットデータは、インク濃縮計算部B600に送られ、上記実施例と同様、ノズルごとにインク濃縮積算値が算出されて、インク濃縮積算値保持手段B700に格納される。
【0085】
そして、次の注目画素の補正処理を行う際、画像補正部B200は、注目画素の領域に対応する8ノズル分(2ノズル×4ブロック)のインク濃縮積算値から、インク濃縮積算平均値を算出し、これを用いて入力画像信号iを信号値i´に変換する。
【0086】
以上ではノズル列を4つのブロックに分割し、4パスのマルチパスを行う場合を例に説明してきたが、もちろん本発明はノズル列を5ブロック以上(Nブロック)に分割したNパス以上のマルチパス記録にも対応できるし、1パス記録を行う場合にも対応できる。Nパス記録を行う場合、画像補正部B200は、注目画素の記録に関わるN個のノズルのインク濃縮積算値に基づいて、各入力画像データを補正する。1パス記録の場合にはインク濃縮積算値は各行に対し1つとなるので、複数のインク濃縮積算値の平均の計算は省略され、インク濃縮積算値はそのままの状態で画像補正処理B200で使用することができる。
【0087】
本実施例によれば、シリアル型の記録装置においてマルチパス記録を行う場合において、個々のノズルに対するインク濃縮積算値を取得しながらも、その値を用いて、記録解像度よりも低い解像度の画像データに補正をかけることが出来る。よって、上記実施例と同様の効果を得ることが出来、濃度変化の無い安定した画像を出力することが可能となる。
【0088】
なお、以上では、注目画素の記録に係る複数のノズルのインク濃縮積算値の平均値を用いて画像補正処理を行う構成で説明した。しかし、本発明はこのような構成に限定されるものではない。注目画素の記録に係る複数のノズルのインク濃縮積算値が反映されるようなパラメータであれば、画像補正処理に利用することが出来る。例えば、複数のノズルのインク濃縮積算値の和やその他所定の関数から得られる値を用いても良い。
【0089】
また、以上では、インク濃縮積算平均値と入力画像データiの値から、補正量Δiを求めるルックアップテーブル(図6)を用意したが、本発明は無論このような構成に限定されるものでもない。ルックアップテーブルを用意する場合には、インク濃縮積算平均値と入力画像データiから、補正後の画像データi´を直接取得できるようなルックアップテーブルを用意することも出来る。また、これらルックアップテーブルを用いることなく、インク濃縮積算平均値と入力画像データを入力することにより、補正後のデータが算出できるような関数を予め用意しておくことも出来る。図4で示したテーブルについても同様である。現在のインク濃縮積算値Cと記録データから、インク濃縮積算値の変化量ΔCを求めるテーブルでは無く、これら2つのパラメータから直接補正後のインク濃縮積算値Cが取得可能なテーブルにしてもよい。
【0090】
いずれにせよ、個々のノズルの吐出回数に該当する2値データより、個々のノズルのインク濃縮の程度を示すインク濃縮積算値のようなパラメータを取得し、これを用いて個々のノズルが記録に関わる画像データに補正を行う構成が実現されれば本発明の範疇である。
【0091】
尚、本発明は、量子化処理により2値のドットデータを生成する前に、多値データに基づいて、複数回の走査にそれぞれ対応するデータを生成する形態でもよい。例えば、信号値が100である画像を2回の走査で記録する2パス記録を行う場合、1回目の走査に対応するデータを50、2回目の走査に対応するデータを50と分配する。そして、それぞれのデータを量子化して2値データを生成し、図16を用いて説明した処理を、各走査のデータに対してそれぞれ行う形態でもよい。
【符号の説明】
【0092】
B100 画像入力部
B200 画像補正部
B300 量子化部
B400 ドット配置ノズル列展開部
B500 プリント部
B600 インク濃縮計算部
B700 インク濃縮積算値保持手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルを備えた記録ヘッドと、記録媒体と、の相対走査により前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置のための画像処理方法であって、
前記記録媒体上の第1画素に対応する多値データと、前記第1画素を記録するノズルが前記第1画素を記録するときの前記ノズルのインクの濃縮度合いを示す第1パラメータと、を取得する取得工程と、
前記第1画素に対応する多値データと前記第1パラメータとに基づいて、補正された多値データを生成する第1生成工程と、
前記補正された多値データに基づいて、前記ノズルからのインクの吐出または非吐出を示す吐出データを生成する第2生成工程と、
前記第1パラメータと前記吐出データとに基づいて、前記第1画素に隣接する画素であって、前記第1画素の次に前記ノズルによって記録される第2画素を記録するときの前記ノズルのインク濃縮度合いを示す第2パラメータを生成する第3生成工程と
を有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項2】
前記第1生成工程において、前記第1画素に対応する多値データと前記第1パラメータとに基づいて補正値を決定し、当該補正値で前記第1画素に対応する多値データを補正することにより前記補正された多値データを生成することを特徴とする請求項1に記載の画像処理方法。
【請求項3】
前記第1生成工程において、前記第1パラメータが示す前記ノズルのインクの濃縮度合いが相対的に高い場合に生成される前記補正値は、前記第1パラメータが示すインクの濃縮度合いが相対的に低い場合に生成される前記補正値よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載の画像処理方法。
【請求項4】
前記第2生成工程により生成された吐出データに基づいて前記記録媒体に画像を記録する記録工程をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の画像処理方法。
【請求項5】
前記第2生成工程により生成された吐出データに基づいて前記記録媒体に画像を記録する記録工程をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の画像処理方法。
【請求項6】
前記記録ヘッドは、前記第1画素を複数のノズルで記録し、前記取得工程において、前記複数のノズルそれぞれに対して前記第1パラメータを取得することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の画像処理方法。
【請求項7】
前記第1生成工程において、前記複数のノズルそれぞれの第1パラメータの平均値を算出し、前記第1画素に対応する多値データと、前記平均値とに基づいて、前記補正された多値データを生成することを特徴とする請求項6に記載の画像処理方法。
【請求項8】
前記第2生成工程において、前記補正された多値データの解像度は、前記吐出データの解像度よりも低いことを特徴とする請求項6に記載の画像処理方法。
【請求項9】
前記第3生成工程は、前記複数のノズルそれぞれに対して前記第2パラメータを生成し、前記複数のノズルそれぞれの前記第2パラメータの平均値を算出する算出工程をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の画像処理方法。
【請求項10】
インクを吐出する複数のノズルを備えた記録ヘッドと、記録媒体と、の相対走査により前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置のための画像処理装置 であって、
前記記録媒体上の第1画素に対応する多値データと、前記第1画素を記録するノズルが前記第1画素を記録するときの前記ノズルのインクの濃縮度合いを示す第1パラメータと、を取得する取得手段と、
前記第1画素に対応する多値データと前記第1パラメータとに基づいて、補正された多値データを生成する第1生成手段と、
前記補正された多値データに基づいて、前記ノズルからのインクの吐出または非吐出を示す吐出データを生成する第2生成手段と、
前記第1パラメータと前記吐出データとに基づいて、前記第1画素に隣接する画素であって、前記第1画素の次に前記ノズルによって記録される第2画素を記録するときの前記ノズルのインク濃縮度合いを示す第2パラメータを生成する第3生成手段と
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項11】
インクを吐出する複数のノズルを備えた記録ヘッドと、記録媒体と、の相対走査により前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置のための画像処理方法であって、
前記記録媒体上の第1画素に対応する多値データと、前記第1画素を記録するノズルが前記第1画素を記録するときの前記ノズルのインクの濃縮度合いを示す第1パラメータと、を取得する取得工程と、
前記第1画素に対応する多値データと前記第1パラメータとに基づいて、補正された多値データを生成する第1生成工程と、
前記第1パラメータと前記補正された多値データとに基づいて、前記第1画素に隣接する画素であって、前記第1画素の次に前記ノズルによって記録される第2画素を記録するときの前記ノズルのインク濃縮度合いを示す第2パラメータを生成する第2生成工程と
を有することを特徴とする画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−250530(P2012−250530A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−94791(P2012−94791)
【出願日】平成24年4月18日(2012.4.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】