説明

画像処理装置及びその制御方法

【課題】 レンズの周辺光量落ちの影響が被写体の追尾結果に与える影響を低減し、精度のよい被写体追尾を実現する画像処理装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】 基準画像と、比較先画像における探索領域を構成する複数の部分画像との相関度に基づいて、比較先画像での被写体領域を探索して被写体追尾を行う。基準画像と部分画像との相関度を算出する前に、基準画像と部分画像における、画素の最大輝度値が予め定められた同一の輝度値となるように、各画素の輝度値を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置及びその制御方法に関し、特には複数の画像間で被写体を追尾可能な画像処理装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像間の相関演算を利用した被写体追尾の精度を向上させるために、画像の明るさの違いを補正してから画像間の相関演算を行うことが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1では、類似度を算出する2つの画像について、複数のブロックに分割した後、各ブロックの輝度平均値から、基準領域として設定されたブロックの平均輝度値を減じてから、画像間の輝度及び色差の類似度を算出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−015548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
撮像レンズには、結像面においてレンズの光軸から離れるほど光量が低下する周辺光量落ち(シェーディング)という特性がある。そのため、被写体がレンズの光軸付近(撮像画像の中央付近)で撮像された画像と、レンズの周辺(撮像画像の周辺)で撮像された画像とで被写体追尾処理を行う場合、画像の全体的な明るさに変化が無くても、被写体の明るさが変化する場合がある。この場合、正しい追尾ができないおそれがある。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、日が当たっている場合と当たっていない場合のように類似度を算出する2つの画像の明るさが全体的に大きく変わった場合への対処を想定したものである。特許文献1の方法では、レンズの周辺光量落ちが被写体追尾結果に与える影響を低減することはできない。
【0007】
本発明はこのような従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、レンズの周辺光量落ちの影響が被写体の追尾結果に与える影響を低減し、精度のよい被写体追尾を実現する画像処理装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的は、比較元画像の部分画像である基準画像を比較先画像で探索することにより被写体追尾を行う画像処理装置であって、基準画像と、比較先画像における、基準画像に対応する領域の部分画像を含む複数の部分画像の各々とについて、各画素の輝度値を補正する補正手段と、補正手段が補正した複数の部分画像のうち、補正手段が補正した基準画像との相関度が最も高いものを比較先画像における被写体領域として選択する選択手段と、を有し、補正手段は、基準画像および複数の部分画像の各々について、画素の最大輝度値が予め定められた同一の輝度値となるように、各画素の輝度値を補正することを特徴とする画像処理装置によって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レンズの周辺光量落ちの影響が被写体の追尾結果に与える影響を低減し、精度のよい被写体追尾を実現する画像処理装置及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る画像処理装置の一例としてのデジタルカメラの構成例を示すブロック図。
【図2】図1における被写体追尾部の構成例を示すブロック図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るデジタルカメラにおける、被写体追尾処理を説明するためのフローチャート。
【図4】本発明の実施形態における比較元画像、比較先画像、基準画像および部分画像を説明するための模式図。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るデジタルカメラにおける、補正実行判定処理を説明するためのフローチャート。
【図6】本発明の第1の実施形態に係るデジタルカメラにおける、補正実行判定処理の具体例を説明するための模式図。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るデジタルカメラにおける、補正画像生成処理を説明するためのフローチャート。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るデジタルカメラにおける、ゲインの決定処理を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
以下、添付図面を参照して、本発明の例示的な実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る画像処理装置の一例としてのデジタルカメラ100の構成例を示すブロック図である。
【0012】
(デジタルカメラ100の構成)
図1において、撮像レンズ103はフォーカスレンズとその駆動機構を含み、駆動機構はシステム制御部50の制御に従ってフォーカスレンズを駆動する。シャッター101は絞り機能を備えたメカニカルシャッターである。撮像部22は、光学像を電気信号に変換するCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサである。A/D変換器23は、撮像部22から出力されるアナログ画像信号をデジタル画像データに変換するために用いられる。バリア102はカメラ100の未使用時に撮像レンズ103の前面を覆うことにより、撮像レンズ103の汚れや破損を防止する。バリア102は電動であっても手動であってもよい。
【0013】
画像処理部24は、A/D変換器23が出力する画像データ又はメモリ制御部15が出力する画像データに対し、画素補間、縮小といった所定のリサイズ処理や色変換処理を実行する。また、画像処理部24では、撮像した画像データを用いて輝度やコントラストなどを求める所定の演算処理を行う。システム制御部50は、これらの演算結果に基づいて絞りやフォーカスレンズを駆動して、自動露光制御(AE)や自動焦点検出(AF)を実現する。画像処理部24では更に、撮像した画像データに対して所定の演算処理を行ってホワイトバランスゲインを算出して画像データに適用するAWB(オートホワイトバランス)処理も行う。
【0014】
A/D変換器23の出力する画像データは画像処理部24及びメモリ制御部15を介して、或いは、メモリ制御部15を介してメモリ32に直接書き込まれる。メモリ32は、撮像部22によって得られA/D変換器23によりデジタルデータに変換された画像データや、表示部28に表示するための画像データを格納する。メモリ32は、所定枚数の静止画像や所定時間の動画像および音声を格納するのに十分な記憶容量を備えている。
【0015】
また、メモリ32は画像表示用のメモリ(ビデオメモリ)を兼ねている。D/A変換器13は、メモリ32に格納されている表示用の画像データをアナログ信号に変換して表示部28に供給する。こうして、メモリ32に書き込まれた表示用の画像データはD/A変換器13を介して表示部28により表示される。表示部28は、LCD等の表示器上に、D/A変換器13からのアナログ信号に応じた表示を行う。
【0016】
不揮発性メモリ56は、電気的に消去・記録可能なメモリであり、例えばEEPROM等が用いられる。不揮発性メモリ56には、システム制御部50の動作用の定数、プログラム等が記憶される。ここでいう、プログラムとは、本実施形態にて後述する各種フローチャートを実行するためのプログラムのことである。
【0017】
システム制御部50は、例えばCPUやマイクロプロセッサであってよく、不揮発性メモリ56に記録されたプログラムを実行して各機能ブロックを制御することによりカメラ100全体の機能を実現する。システムメモリ52は例えばRAMであり、システム制御部50は動作用の定数、変数、不揮発性メモリ56から読み出したプログラム等をシステムメモリ52に展開する。また、システム制御部50はメモリ32、D/A変換器13、表示部28等を制御することにより表示制御も行う。
【0018】
モード切替スイッチ60、第1シャッタースイッチ62、第2シャッタースイッチ64、操作部70はシステム制御部50に各種の動作指示を入力するための操作手段である。
【0019】
モード切替スイッチ60は、システム制御部50の動作モードを静止画記録モード、動画記録モード、再生モード等のいずれかに切り替える。第1シャッタースイッチ62は、いわゆる半押し(撮像準備指示)でONとなり第1シャッタースイッチ信号SW1を発生する。第1シャッタースイッチ信号SW1により、AF(オートフォーカス)処理、AE(自動露出)処理、AWB(オートホワイトバランス)処理、EF(フラッシュプリ発光)処理等の動作を開始する。
【0020】
第2シャッタースイッチ64は、いわゆる全押し(撮像指示)でONとなり、第2シャッタースイッチ信号SW2を発生する。システム制御部50は、第2シャッタースイッチ信号SW2により、撮像部22からの信号読み出しから記録媒体25に画像データを書き込むまでの一連の撮像処理の動作を開始する。
【0021】
操作部70の各操作部材は、表示部28に表示される種々の機能アイコンを選択操作することなどにより、場面ごとに適宜機能が割り当てられ、各種機能ボタンとして作用する。機能ボタンとしては、例えば終了ボタン、戻るボタン、画像送りボタン、ジャンプボタン、絞込みボタン、属性変更ボタン等がある。例えば、メニューボタンが押されると各種の設定可能なメニュー画面が表示部28に表示される。利用者は、表示部28に表示されたメニュー画面と、4方向ボタンやSETボタンとを用いて直感的に各種設定を行うことができる。
【0022】
電源制御部80は、電池検出回路、DC−DCコンバータ、通電するブロックを切り替えるスイッチ回路等により構成され、電池の装着の有無、電池の種類、電池残量の検出を行う。また、電源制御部80は、その検出結果及びシステム制御部50の指示に基づいてDC−DCコンバータを制御し、必要な電圧を必要な期間、記録媒体25を含む各部へ供給する。
【0023】
電源部30は、アルカリ電池やリチウム電池等の一次電池やNiCd電池やNiMH電池、Li電池等の二次電池、ACアダプター等からなる。電源スイッチ72は、電源部30からカメラ100への電源供給をON/OFFする。インタフェース18はメモリカードやハードディスク等の記録媒体25にアクセスするためのインターフェースである。
【0024】
被写体追尾部200は、メモリ32から読み出した2つ(2フレーム)の画像データに対し、後述する被写体追尾処理を適用する。
【0025】
図2は被写体追尾部200の構成例を示すブロック図である。切り出し部201は、メモリ32から読み出した2フレーム分の画像データから、相関演算に用いる複数の領域の画像データを切り出す。補正値算出部202は、切り出し部201が切り出した複数の領域の画像データ等を用いて補正値を算出する。補正部203は、補正値算出部202が算出した補正値を用いて、切り出し部201が切り出した複数の領域の画像データを補正する。相関演算部204は、補正部203が補正した複数領域の画像データを用い、2フレームの画像の相関度を表す情報として、例えば累積絶対値誤差(SAD:Sum of Absolute Difference)を求める。また相関演算部204は、相関演算を複数回繰り返し、その中から最もSADが小さい(相関度が高い)画像データと、その画像データの画像中の位置(座標)をメモリ32に書き込む。
【0026】
なお、図1においては、画像処理部24及び被写体追尾部200を独立した機能ブロックとして記載しているが、その一部又は全部をシステム制御部50がソフトウェア的に実現してもよい。
【0027】
(被写体追尾処理)
被写体追尾部200における被写体追尾処理の詳細を、図3及び図4を参照して説明する。ここでは、例えばデジタルカメラ100が撮像スタンバイ状態において表示部28を電子ビューファインダとして機能させるために、撮像部22で動画像を撮像し、動画像の各フレームが、メモリ32のビデオメモリ領域に順次書き込まれているものとする。あるいは、記録媒体25に記録されている動画ファイルから再生されている各フレームであってもよい。
【0028】
まず、S100でシステム制御部50は、操作部70を通じた座標の指定を受け付ける。例えばユーザは、表示部28に表示されている動画像を見ながら、追尾したい被写体を指定する。指定は例えば操作部70に含まれる、表示部28のタッチパネルを用いて被写体領域(例えば顔領域)を指定したり、被写体領域の中心を指定したり、任意の方法で行うことができる。システム制御部50は、指定された座標を基準画像切り出し座標として記憶する。なお、座標の指定が1点であれば、指定された座標を中心とした所定の形状及び大きさの領域を特定する座標を基準切り出し座標とする。基準切り出し座標は例えば矩形領域の1組の対角頂点の座標であってよい。
【0029】
S101で切り出し部201は、メモリ32のビデオメモリ領域から、現在(座標指定時に)表示されている画像データを比較元画像データとして読み出し、メモリ32の別の領域に書き込む。
【0030】
図4(a)に示すように比較元画像300の読み出しが完了すると、S102で切り出し部201が比較元画像300のうち、被写体領域302aに対応する基準画像切り出し座標303に対応する基準画像305(図4(c))を切り出す。そして、切り出し部201は基準画像305をメモリ32に保存する。
【0031】
S103で、切り出し部201は、メモリ32のビデオメモリ領域から比較先画像301(図4(b))を読み出し、別の領域に書き込む。比較先画像301は、例えば動画像において比較元画像300の次に撮像されたフレームであってよい。ここでは、比較元画像300が撮像されてから比較先画像301が撮像されるまでの間に、被写体領域302aが被写体領域302bに移動している。
【0032】
S104で切り出し部201は、比較先画像301から、基準画像切り出し座標303に対応する座標304cを中心として、その周囲に隣接する同一サイズの領域を特定する部分画像切り出し座標304a〜iを決定する。そして、切り出し部201は、部分画像切り出し座標304a〜iに対応する9つの部分画像306a〜i(図4(d))を切り出す。切り出し部201は、部分画像切り出し座標304a〜iと部分画像306a〜iをメモリ32に保存する。部分画像切り出し座標は、個々の部分画像306a〜iを特定可能な座標値である。
【0033】
なお、基準画像305と部分画像306a〜iは同サイズとする。例えば図4に示すように、基準画像305および部分画像306a〜iをn画素×n画素(nは予め定めた3以上の整数)の正方形領域とする。そして、基準画像305と対応する部分画像306eを中心とする、3n×3n画素の領域(探索領域)を9等分した領域を部分画像306a〜iとする。なお、切り出す部分画像の大きさや数は、動画のフレームレートもしくは比較元画像と比較先画像の撮像タイミングの差(時間差)に応じて決定することができる。つまり、一般的と考えられる移動速度の被写体が、いずれかの部分画像に含まれるように部分画像の切り出し範囲を決定する。
【0034】
部分画像306a〜iの切り出しが完了すると、S105で補正値算出部202が、メモリ32に保存された基準画像切り出し座標303、部分画像切り出し座標304a〜iおよびゲインマップを用いて補正実行判定を行う。
【0035】
ゲインマップは、撮像レンズ103の周辺光量落ち特性を示す情報である。具体的には、撮像レンズ103の周辺光量落ちを補正するための最大ゲインを、撮像レンズ103の視野もしくは撮像部22内の座標と対応付けて記憶した情報である。図6(a)に、ゲインマップ500の例を模式的に示す。図6(a)においてゲインマップ500は、撮像レンズ103の視野もしくは撮像部22の画素領域を複数の領域501〜505に分割し、個々の領域とゲイン1,2,4,8,16とを対応付けた構成を有している。なお、一般に撮像レンズ103の周辺光量落ちは光軸を中心として上下方向、左右方向にそれぞれ対称的な分布を有する。そのため、例えば視野もしくは画素領域を上下又は左右に2等分した範囲、あるいは光軸を中心として上下左右に4等分した範囲の1つについて、領域とゲインとを対応付けたゲインマップがあれば足りる。図6(a)では、上下に2分割した範囲の下半分についてのゲインマップ500を示している。
【0036】
ゲインマップ500は、撮像レンズ103の周辺光量落ち特性に基づいて予め記憶しておくことができる。なお、ゲインマップ500は撮像レンズ103の周辺光量落ちが撮像画像に与える影響を厳密に補正するためのものではない。本実施形態では、基準画像と、相関を求める補正部分画像との間に、周辺光量落ちに起因し、かつ補正すべき明るさの差がありそうかどうかを大まかに判断するために用いる。従って、周辺光量落ちの相対的な程度を、レンズ光軸からの複数の略同心円領域ごとに大まかに示したもので足りる。その結果、撮像レンズ103の種類に応じてゲインマップを保存する場合も、例えば中心からの距離の範囲と対応するゲインとの組み合わせを複数組有すればよく、ゲインマップ当たりのデータ量は少ない。
【0037】
また、ゲインは、視野もしくは画素領域の中央に対応する領域501に対する値を1(補正無し)とした場合の値が対応付けられている。図6(a)に例示したゲインマップ500は単なる例示であり、分割する領域の数、形状、大きさについては、適宜変更可能である。
【0038】
次に、図5に示すフローチャート及び図6を参照して、S105における補正実行判定処理についてさらに説明する。図5に示す処理は、基準画像切り出し座標303(基準画像305)と部分画像切り出し座標304(部分画像306a〜306i)の各々との組み合わせにについて実施する。
【0039】
まず、補正値算出部202は、基準画像切り出し座標303と部分画像切り出し座標(ここでは304hとする)に対応する最大ゲインがいずれも1か判別する(S1051)。両者の最大ゲインが1であれば、補正値算出部202はそれら切り出し座標(に対応する画像)に対する補正は行わないと決定する。
【0040】
一方、いずれかの最大ゲインが1でなければ、補正値算出部202は、判別の対象である部分画像切り出し座標と基準画像切り出し座標とが、ゲインマップの同じ領域に存在するか(又は両者の最大ゲインが等しいか)判別する(S1052)。両者がゲインマップの同じ領域に存在しない場合(両者の最大ゲインが異なる場合)、補正値算出部202は基準画像および判別の対象である部分画像切り出し座標に対応する部分画像を補正すると判定する(S1054)。補正値算出部202は、補正する切り出し座標又は画像の補正実行判定フラグをONとする。
【0041】
S1052において、部分画像切り出し座標と基準画像切り出し座標とがゲインマップの同じ領域に存在している(両者の最大ゲインが等しい)場合、補正値算出部202は、最大ゲインが予め定められたしきい値より大きいかどうか判別する(S1053)。そして、部分画像(および基準画像)切り出し座標の最大ゲインが予め定められたしきい値より大きい場合、補正値算出部202は基準画像および判別の対象である部分画像切り出し座標に対応する部分画像を補正すると判定する(S1054)。補正値算出部202は、補正する切り出し座標又は画像の補正実行判定フラグをONとする。
【0042】
部分画像(および基準画像)切り出し座標の最大ゲインが予め定められたしきい値以下の場合、補正値算出部202は部分画像切り出し座標に対応する部分画像と基準画像を補正しないと判定する(補正実行判定フラグはOFFのまま)。なお、画像切り出し座標が複数の領域にまたがっている場合、補正値算出部202は最も小さい最大ゲインを、その切り出し座標についての最大ゲインとしてメモリ32に保存する。
【0043】
例えば図6(a)では、基準画像切り出し座標303が、最大ゲインが1の領域501内にあるため、補正値算出部202は基準画像305を補正しないと判定する。図6(b)では、基準画像切り出し座標303および部分画像切り出し座標304hが、共に最大ゲインが2の領域502にあり、かつ最大ゲインが、予め用意したしきい値(ここでは4とする)よりも小さい。そのため、基準画像と部分画像とに信号レベルの差はなく、補正値算出部202は両画像を補正しないと判定する。
【0044】
図6(c)では、基準画像切り出し座標303および部分画像切り出し座標304iの両方が最大ゲインが1の領域501内になく、かつそれぞれ最大ゲインが異なる領域内にある。この場合、補正値算出部202は、信号レベルを統一するために両画像を補正すると判定する。
【0045】
図6(d)は基準画像切り出し座標303および部分画像切り出し座標304hの両方が最大ゲインが8の領域504内にあるが、領域504の最大ゲインは予め用意したしきい値の4よりも大きい。そのため、補正値算出部202は両画像の信号レベルを上げるために、両画像を補正すると判定する。
【0046】
補正実行判定が完了すると、S106で補正部203が、S105の補正実行判定に基づいて、基準画像305と部分画像306a〜iのうち補正実行判定フラグがONであるものを補正して、生成した補正基準画像と補正部分画像をメモリ32に保存する。なお、補正実行判定より補正しないと判定された場合は、基準画像305もしくは部分画像306a〜iをそのまま補正基準画像もしくは補正部分画像とする。
【0047】
ここで、図7に示すフローチャートを参照して、S106における補正画像生成処理について詳細に説明する。
基準画像305と部分画像306a〜iのうち、補正を実行すると判定された(補正実行判定フラグがONである)ものに対して、図7に示す処理を適用して補正画像を生成する。ここでは、一例として基準画像305を補正する場合を説明する。
【0048】
S1061で補正値算出部202は、基準画像305に含まれる画素の最大輝度値を検出する。そして、S1062で補正値算出部202は、次式(1)を用いてゲインを算出する。
【数1】

【0049】
ここで式(1)において、Gainはゲイン、Ydata_maxは輝度データがとり得る最大値、YmaxはS1061で検出した基準画像305の最大輝度値である。例えば輝度が8bitの数値で表現される場合、Ydata_maxは255となる。
【0050】
S1063で補正部203は、S1062で算出したゲインを用いて基準画像305の信号レベルを補正して補正基準画像を生成する。補正基準画像は基準画像305と同じ画素サイズとし、補正基準画像の各画素における輝度値は、基準画像305の対応する各画素における輝度値に、ゲインを乗算して求める。
【0051】
以上、一連の処理によって補正基準画像を生成する。補正部204は、部分画像306a〜306iに対しても同様にして補正部分画像を生成する。なお、上述のように、補正実行判定フラグがOFFの画像については、補正を行なわずに、元の画像をそのまま補正後の画像として保存する。
【0052】
このように、本実施形態では、
・相関度を求める2つの画像(基準画像と部分画像)の少なくとも一方が、周辺光量落ちに起因して所定以上の輝度低下していると考えられる場合に、
相関度を求める2つの画像(基準画像と部分画像)の両方を、画素の最大輝度が予め定められた同一の輝度値となるよう、各画素の輝度値を補正する。なお、ここでは輝度データの取りうる最大値となるように補正したが、輝度レベルを正規化することができれば必ずしも最大値でなくてもよい。ただし、被写体追尾の精度を向上させるという観点からは、画素の輝度値が補正前よりも小さくならないように補正後の最大輝度値を決定することが有利である。
【0053】
このような補正を行ってから補正基準画像と補正部分画像との相関度を算出することにより、画像全体の明るさに変化が無く、周辺光量落ちによって画像間で被写体の明るさが変わった場合でも、精度のよい被写体追尾が可能となる。
【0054】
図3に戻って、補正画像の生成が完了すると、S107で相関演算部204が、S106で生成した補正基準画像と補正部分画像の相関値として、例えば次式(2)の演算式で表されるSAD値を算出する。
【数2】

【0055】
式(2)において、SADは補正基準画像と補正部分画像間の相関値を、Y1_HVは補正部分画像における画素(H,V)の輝度値を、Y2_HVは補正基準画像における画素(H,V)における輝度値をそれぞれ示す。また、Hは画像の水平方向における座標、Vは垂直方向における座標をそれぞれ示す。また、式(1)により得られるSADは、値が小さい程、両画像が似ている(相関が高い)ことを示し、値が大きい程両画像が似ていない(相関が低い)ことを示す。
【0056】
相関演算が終了すると、S108に移り、部分画像306a〜iのうち、相関値を求めていないものが残っているかどうかを判定する。相関値を見算出の部分画像が残っている場合、その部分画像の1つに対してS104からの処理を適用する。
【0057】
部分画像306a〜iの全てに対して相関値を求めていれば、S109で相関演算部204が、部分画像306a〜iのうち、基準画像305との相関が最も高いもの(SAD値が最も小さいもの)を、基準画像305(移動した被写体領域)として選択する。そして、相関演算部204は、対応する部分画像切り出し座標と部分画像306のいずれかをメモリ32に保存する。例えば、図4の例では、部分画像306iが選択される。
【0058】
これにより、比較元画像300の基準画像305に対応する被写体を、比較先画像301において追尾することができる。なお、ここでは最初に設定した探索領域での処理のみを説明したが、例えば、相関度が所定の閾値以上の部分画像が存在しない場合には、異なる位置の探索領域を設定して、基準画像305と相関度が所定の閾値以上の部分画像を探索してもよい。相関度が所定の閾値以上の部分画像が見つかるまで、比較先画像301における探索領域を順次移動させるようにしてもよい。
【0059】
部分画像の選択が完了すると、S110でシステム制御部50は、操作部70から被写体追尾処理の終了指示があったか否か判定する。終了指示があった場合には被写体追尾処理を終了する。終了指示がなければ、S112において、相関演算部204は、S109で選択した部分画像切り出し座標304a〜i又は部分画像306a〜iのいずれかを、新たな基準画像切り出し座標303又は基準画像305として、メモリ32に保存する。新たな基準画像切り出し座標303又は基準画像305の保存が完了すると、S103からの処理を繰り返す。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、相関度を求める基準画像と部分画像の少なくとも一方が、周辺光量落ちに起因して所定以上の輝度低下していると考えられる場合に、基準画像と部分画像の両方について、画像内の最大輝度が予め定められた同一の輝度値となるように各画素の輝度値を補正する。
そして、このような補正を行ってから補正基準画像と補正部分画像との相関度を算出することにより、画像全体の明るさに変化が無く、周辺光量落ちによって画像間で被写体の明るさが変わった場合でも、精度のよい被写体追尾が可能となる。
【0061】
(変形例)
なお、本実施形態においては、基準画像と部分画像との組み合わせ毎に、補正を行うか否かを判定した。しかし、補正を行うか否かの判定を行わずに、全ての基準画像及び部分画像に対して輝度の補正を適用するようにしてもよい。このような構成によっても、同様の効果を実現することができる。
【0062】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る画像処理装置について説明する。本実施形態の画像処理装置は、被写体追尾処理の詳細以外は第1の実施形態に係る画像処理装置(デジタルカメラ)と同様であってよい。従って、被写体追尾処理の相異点のみを説明する。
【0063】
より具体的には、本実施形態のデジタルカメラにおける被写体追尾処理は、図3に示したフローチャートにおいて、補正実行判定処理S105を省略し、補正画像生成処理S106の処理におけるゲインの決定処理を簡略化したものである。本実施形態では、基準画像切り出し座標303および部分画像切り出し座標304a〜iの全てに対してゲインを適用する。そして、各々の切り出し座標に適用するゲインとして、各々の切り出し座標が存在する、ゲインマップ500中の領域に関連付けられたゲインを使用する。
【0064】
例えば、図8(a)に示すように、基準画像切り出し座標303がゲインマップ500において、最大ゲインが2の領域502に存在する場合、補正値算出部202は基準画像305のゲインを2と決定する。
【0065】
一方、図8(b)では、基準画像切り出し座標303がゲインマップ500において、最大ゲインが4の領域503と最大ゲインが8の領域504の両方に存在している。この場合、補正値算出部202は値が小さい最大ゲインを採用し、ゲインを4と決定する。補正値算出部202は、部分画像切り出し座標304a〜iについても同様にゲインを決定する。
【0066】
そして、補正部203は、基準画像305と部分画像306a〜iの対応する各画素の輝度値にゲインを乗算して補正基準画像と補正部分画像を求める。以下、第1の実施形態で説明したように補正基準画像と補正部分画像との組み合わせについて相関演算部204で相関を算出し、補正部分画像を選択する。
【0067】
本実施形態では、第1の実施形態ほどの追尾精度向上ではないが、簡便な方法でゲインを決定することができ、周辺光量落ちに起因する追尾精度の低下を抑制することが可能であり、ゲインの算出に要する計算負荷を軽減したい場合に有効である。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【0069】
(その他の実施形態)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比較元画像の部分画像である基準画像を比較先画像で探索することにより被写体追尾を行う画像処理装置であって、
前記基準画像と、前記比較先画像における、前記基準画像に対応する領域の部分画像を含む複数の部分画像の各々とについて、各画素の輝度値を補正する補正手段と、
前記補正手段が補正した前記複数の部分画像のうち、前記補正手段が補正した前記基準画像との相関度が最も高いものを前記比較先画像における被写体領域として選択する選択手段と、を有し、
前記補正手段は、前記基準画像および前記複数の部分画像の各々について、画素の最大輝度値が予め定められた同一の輝度値となるように、各画素の輝度値を補正することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記補正手段が、前記基準画像および前記複数の部分画像の各々について、画素の最大輝度値が、輝度データの取りうる最大値となるように、各画素の輝度値を補正することを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記比較元画像及び比較先画像を撮像した撮像レンズの周辺光量落ち特性を示す情報を用いて、前記基準画像と前記複数の部分画像の各々とについて、前記補正手段による補正を行うか否かを判定する判定手段をさらに有し、
前記補正手段は、前記基準画像と前記複数の部分画像のうち、前記判定手段により補正を行うと判定された画像に対して前記補正を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記撮像レンズの周辺光量落ち特性を示す情報が、前記撮像レンズの視野を分割した複数の領域の各々と、周辺光量落ちを補正するための最大ゲインとを対応付けた情報であり、
前記判定手段は、前記基準画像と前記複数の部分画像の各々との組み合わせについて、前記基準画像と前記部分画像とが前記複数の領域のうち同じ領域に存在するが、該領域に対応付けられた前記最大ゲインが予め定めたしきい値を超える場合に、前記基準画像と該部分画像に対して補正を行うと判定することを特徴とする請求項3記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記比較元画像及び比較先画像を撮像した撮像レンズの視野を分割した複数の領域の各々と、周辺光量落ちを補正するための最大ゲインとを対応付けた情報を記憶する記憶手段をさらに有し、
前記補正手段は、前記基準画像および前記複数の部分画像の各々について、画素の最大輝度値が予め定められた同一の輝度値となるように各画素の輝度値を補正する代わりに、前記複数の領域のうち前記基準画像と前記複数の部分画像が存在する領域に対応付けられた前記最大ゲインを用いて各画素の輝度値を補正することを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項6】
比較元画像の部分画像である基準画像を比較先画像で探索することにより被写体追尾を行う画像処理装置の制御方法であって、
前記画像処理装置の補正手段が、前記基準画像と、前記比較先画像における、前記基準画像に対応する領域の部分画像を含む複数の部分画像の各々とについて、各画素の輝度値を補正する補正工程と、
前記画像処理装置の選択手段が、前記補正工程において補正された前記複数の部分画像のうち、前記補正工程において補正された前記基準画像との相関度が最も高いものを前記比較先画像における被写体領域として選択する選択工程と、を有し、
前記補正工程において前記補正手段は、前記基準画像および前記複数の部分画像の各々について、画素の最大輝度値が予め定められた同一の輝度値となるように、各画素の輝度値を補正することを特徴とする画像処理装置の制御方法。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−235305(P2012−235305A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102341(P2011−102341)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】