説明

画像合成方法と装置

【課題】ハレーションが発生し得る対象物を撮影し、ハレーションがなくかつ本来の輝度値の大小関係を維持する画像を合成することができる画像合成方法と装置を提供する。
【解決手段】対象物の所望の範囲においてハレーションが発生し得ない最短露出時間と、少なくとも一部にハレーションが発生し得る最長露出時間との間で、露出時間を変化させて対象物の複数の元画像を撮影し、複数の元画像から所望の範囲のすべての画素について、対象物の同一位置における画素の露出時間と輝度値の関係を示す露出輝度線Iを求め、カメラのダイナミックレンジ内において、露出時間が短い場合の高輝度値の点Hと、露出時間が長い場合の低輝度値の点Lとを結び極値を持たない輝度設定線Gを設定し、所望の範囲を構成するすべての画素について、輝度設定線Gと各画素の露出輝度線Iとの交点を求めて、その交点の輝度値Bをその画素の輝度値として対象物の合成画像を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハレーションが発生し得る対象物を撮影し、ハレーションがなくかつ本来の輝度値の大小関係を維持する画像を合成する画像合成方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
明暗差の大きい対象物や金属面に強い光線を受ける対象物などを、デジタルカメラやビデオカメラで撮影すると、撮影した画像の一部にハレーションが発生し、ハレーション部分及びその周辺の画像品質が大幅に低下することがある。
【0003】
なお、本出願において、ハレーション(Halation)とは、カメラによって写真や映像を撮影する際に、カメラのダイナミックレンジ、すなわちカメラで撮影可能な輝度値を超え、画像を表示できずに白く表示されることを意味する。
【0004】
従来、ハレーションが発生する場合には、(1)そのまま計測する、(2)対象物の姿勢や位置、または照明の位置を変えるなどしてハレーションが発生しないようにする、(3)ダイナミックレンジの高いカメラを利用する、などの手段がとられていた。
【0005】
しかし、(1)そのまま計測する場合、ハレーションを発生してしまい、ハレーション部分及びその周辺では、画像認識に必要であるエッジやテクスチャの情報が失われてしまう。また、ハレーションを発生しないように露出時間を短くすると、全体が黒つぶれをおこし、画像処理ができなかった。
また、(2)の場合、対象物や照明の位置や姿勢を変更するため、手間と時間がかかる。また周囲の環境によっては位置や姿勢を変更できない問題があった。
さらに(3)の場合、ダイナミックレンジが高くても限界があり、限界を超えた強い光に対してはハレーションを発生してしまう。また最適な露出時間を調整する必要があり、周囲の環境光の変化によって影響を受ける問題があった。
【0006】
そこで、ハレーションの影響を低減して対象物を撮影する手段として、特許文献1〜4が既に提案されている。
【0007】
特許文献1の手段は、照明装置の前に第1の偏光フィルターを設置し、カメラの前にも第2の偏光フィルターを設置して、偏光の角度を第1偏光フィルターと第2偏光フィルターとで90度違わせることで、照明の光がカメラに入射できないようにし、ハレーションを防ぐものである。
【0008】
特許文献2の手段は、露出の異なる画像を撮影し、ハレーション部分を検出し、その部分に他の露出時間の画像をはめ込み、周囲の境界部分を平滑化処理によってぼかすものである。
【0009】
特許文献3の手段は、車のライトによるハレーションを対象としたもので、ハレーション部分の低周波成分を除去することで、ハレーションを除去し、対象物の視認性を向上させるものである。
【0010】
特許文献4の手段は、初期状態における画像情報に基づいて輝度の最も高い点を検出し、この点がダイナミックレンジよりも高い場合、この点がダイナミックレンジの高域にくるように、絞り部を調整して採光量を低減し、この状態で第1の画像情報を得、この第1の画像情報に基づいてダイナミックレンジの低域における点を検出し、この点がダイナミックレンジの高域にくるように、絞り部を調整して採光量を増加し、この状態で第2の画像情報を得、第1および第2の画像情報に基づいて画像処理を行い、第1の画像情報のダイナミックレンジの低域および第2の画像情報の高域を境界として、第1および第2の画像情報の輝度分布を合成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平01−074676号公報、「パターン認識装置」
【特許文献2】特開2009−10566号公報、「写真画像のダイナミックレンジを拡大する方法及び撮影装置」
【特許文献3】特開2004−289786号公報、「撮影装置」
【特許文献4】特開平3−83175号公報、「画像撮影方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1の手段は、対象物が鏡面反射の物体であれば効果的であるが、その他の物体では効果が薄れる。また自然光に対してハレーションが発生する場合には対処できない。さらに偏光フィルターなどの部品を取り付ける手間がかかる問題がある。
【0013】
特許文献2の手段は、平滑化処理によってエッジが含まれる場合、ぼけてしまう可能性がある。また、ハレーションは発生していないがハレーションにごく近い部分と、ハレーションを発生している箇所を比較すると、本来の輝度値の大小関係が成り立たない可能性がある。
【0014】
特許文献3の手段は、ハレーションの中に撮影対象が若干写っていることが条件になっている。そのため、完全な白とびの状況では対応できない。
【0015】
特許文献4の手段は、画像を撮影してから次に撮影するときの光量の条件を決めているため、遅くなる可能性がある。また、すべて自動で行う場合には絞りを調整する機構が必要である。また、絞りを変えるため、被写界深度が変わる問題点がある。
【0016】
本発明は上述した従来の問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、明暗差の大きい対象物や金属面に強い光線を受ける対象物など、ハレーションが発生し得る対象物を撮影し、ハレーションがなくかつ本来の輝度値の大小関係を維持する画像を合成することができる画像合成方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、対象物の所望の範囲においてハレーションが発生し得ない最短露出時間と、少なくとも一部にハレーションが発生し得る最長露出時間との間で、露出時間を変化させて前記対象物の複数の元画像を撮影し、
前記複数の元画像から、前記所望の範囲を構成するすべての画素について、対象物の同一位置における画素の露出時間と輝度値の関係を示す露出輝度線を求め、
カメラのダイナミックレンジ内において、露出時間が短い場合の高輝度値の点と、露出時間が長い場合の低輝度値の点とを結ぶ連続する輝度設定線を設定し、
前記所望の範囲を構成するすべての画素について、前記輝度設定線と各画素の露出輝度線との交点を求めて、その交点の輝度値をその画素の輝度値として対象物の合成画像を作成する、ことを特徴とする画像合成方法が提供される。
【0018】
本発明の実施形態によれば、前記輝度設定線を、前記最短露出時間で最大輝度値の高輝度点と、前記最長露出時間で最小輝度値の低輝度点とを結ぶ極値を持たず、連続な単調減少である直線又は曲線に設定する。
【0019】
また、別の実施形態によれば、前記輝度設定線を、前記複数の元画像中において最大輝度値を有する最短露出時間の高輝度点と、前記最長露出時間で最小輝度値の低輝度点とを結ぶ極値を持たず、連続な単調減少である直線又は曲線に設定する。
【0020】
また、本発明の実施形態によれば、前記露出輝度線を、輝度値が露出時間に比例するようにフィッティングする。
【0021】
また本発明によれば、対象物の所望の範囲においてハレーションが発生し得ない最短露出時間と、最長露出時間との間で、露出時間を変化させて前記対象物の複数の元画像を撮影するカメラと、
前記複数の元画像から対象物の合成画像を合成する画像処理装置とを備え、
該画像処理装置により、前記複数の元画像から、前記所望の範囲を構成するすべての画素について、対象物の同一位置における画素の露出時間と輝度値の関係を示す露出輝度線を求め、
カメラのダイナミックレンジ内において、露出時間が短い場合の高輝度値の点と、露出時間が長い場合の低輝度値の点とを結ぶ連続する輝度設定線を設定し、
前記所望の範囲を構成するすべての画素について、前記輝度設定線と各画素の露出輝度線との交点を求めて、その交点の輝度値をその画素の輝度値として対象物の合成画像を作成する、ことを特徴とする画像合成装置が提供される。
【発明の効果】
【0022】
上記本発明の方法と装置によれば、輝度設定線を、カメラのダイナミックレンジ内において、露出時間が短い場合の高輝度値の点と、露出時間が長い場合の低輝度値の点とを結んで設定するので、輝度設定線上のすべての点は、カメラのダイナミックレンジ内にあり、ダイナミックレンジを超えるハレーションは発生しない。
【0023】
また、この輝度設定線は極値を持たないので、露出時間の増加に対して常に輝度値が低下する。従って、前記所望の範囲を構成するすべての画素について、前記輝度設定線と各画素の露出輝度線との交点を求めて、その交点の輝度値をその画素の輝度値として対象物の合成画像を合成することにより、ハレーションがなくかつ本来の輝度値の大小関係を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による画像合成装置の全体構成図である。
【図2】本発明の方法の全体フロー図である。
【図3】元画素中の各画素の露出時間と輝度値の関係図である。
【図4】輝度設定線の設定方法の第1、第2の実施形態の説明図である。
【図5】露出輝度線の設定方法の第1、第2の実施形態の説明図である。
【図6】輝度設定線の設定方法の第3、第4の実施形態の説明図である。
【図7】本発明の方法の別の全体フロー図である。
【図8】図7に対応する露出時間と輝度値の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施例を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0026】
図1は、本発明による画像合成装置の全体構成図である。
本発明の画像合成装置10は、ハレーションが発生し得る対象物1を撮影し、ハレーションがなく、かつ本来の輝度値の大小関係を維持する合成画像3を合成するものである。
【0027】
この図において、本発明の画像合成装置10は、カメラ12と画像処理装置14を備える。
カメラ12は、シャッター速度、すなわち露出時間が可変なデジタルカメラ又はビデオカメラであり、対象物1を撮影しCCD又はCMOSにより、デジタル画像2を出力する。以下、かかるデジタル画像2を「元画像」と呼ぶ。
画像処理装置14は、記憶装置14aと演算装置14bを備えたコンピュータであり、複数の元画像2から対象物1の合成画像3を合成するようになっている。画像処理装置14は、記憶装置14aと演算装置14bを用いて、後述する本発明の方法を実施するようになっている。
合成画像3は、例えば画像表示装置16で表示される。
【0028】
以下、上述したカメラ12と画像処理装置14を用いた本発明の画像合成方法を説明する。
【0029】
図2は、本発明の方法の全体フロー図である。この図において、本発明の方法は、元画像撮影ステップS1、露出輝度線算出ステップS2、輝度設定線設定ステップS3、及び合成画像作成ステップS4を有する。
【0030】
元画像撮影ステップS1では、カメラ12を用いてハレーションが発生し得る対象物1を、露出時間を変えて複数の元画像2を撮影する。
すなわち、ステップS11において、対象物1の所望の範囲においてハレーションが発生し得ない最短露出時間Tminと、少なくとも一部にハレーションが発生し得る最長露出時間Tmaxと、撮影枚数Nを設定する。次に、ステップS12において、露出時間TiをTminからTmaxまで順次変化させて、N枚の元画像2を撮影し、元画像メモリAiにそれぞれ格納する。
【0031】
対象物1の所望の範囲は、その一部でも全部でもよい。
最短露出時間Tminは、例えばカメラ12の可能な最高速度(例えば1/10000sec=0.1msec)であるが、ハレーションがどこにも発生し得ない限りで、それ以外の任意の露出時間であってもよい。
最長露出時間Tmaxは、例えばカメラ12の可能な最低速度(例えば1sec=1000msec)であるが、少なくとも一部にハレーションが発生し得る限りで、それ以外の任意の露出時間であってもよい。
【0032】
元画像2の撮影枚数Nは、最短露出時間Tminと最長露出時間Tmaxを含む少なくとも2枚であるが、中間の露出時間に対応する1枚以上を含むのが好ましい。また、露出時間Tiは、最長露出時間Tmaxと最短露出時間Tminの間に等比級数的に定めるのが好ましいが、それ以外であってもよい。
また撮影時のカメラ12の絞りは、最短露出時間Tminから最長露出時間Tmaxで撮影された元画像2の少なくとも一部に認識可能な画像があるように設定する。
【0033】
図3は、元画素中の各画素の露出時間と輝度値の関係図である。
カメラ12で撮影した元画像2において、元画像中の任意の画素A,B,C,D,Eの露出時間tと輝度値B(x、y)の関係はこの図のようになる。
露出輝度線算出ステップS2では、対象物1の同一位置(x、y)における各画素の露出時間tと輝度値Bの関係I(以下「露出輝度線」と呼ぶ)を算出する。露出輝度線Iは、元画像2中の画素の位置(x、y)毎に、B1(x、y)=f(t)・・・(1)で与えられる。ここで、関数f(t)は元画像2中の画素の位置(x、y)毎に異なる。
【0034】
輝度設定線設定ステップS3では、カメラ12のダイナミックレンジ内において、露出時間が短い場合の高輝度値の点Hと、露出時間が長い場合の低輝度値の点Lとを結び、かつ極値を持たない線G(以下、「輝度設定線」と呼ぶ)を算出する。輝度設定線Gは、輝度値B2=g(t)・・・(2)で与えられる。ここで、関数g(t)は露出時間tで一意的に決まる。
輝度設定線Gは、図3においては、露出時間t(横軸)を対数表示する片対数グラフ(縦軸:輝度)において右下がり(傾きが負)の直線であり、ハレーション部分N(ダイナミックレンジを超える部分)と交差しないように設定する。
なお、輝度設定線Gは、直線に限定されず、極値(最大値、最小値)を持たない限りで、曲線であってもよい。
【0035】
次に、合成画像作成ステップS4では、所望の範囲を構成するすべての画素について、ステップS41において輝度設定線Gと各画素の露出輝度線Iとの交点を求める。次いで、ステップS42においてその交点の輝度値B(x、y)をその画素の輝度値Bとして採用し、採用した輝度値で対象物の合成画像Bを合成する。さらにステップS43において、合成画像3を画像表示装置16に出力する。
すなわち、図3において、輝度設定線Gと各画素の露出輝度線Iとの交点を求めて、そのときの輝度値Bをその画素の輝度値として採用する。この処理をすべての画素について行うことにより、ハレーションを発生していない画像Bが合成できる。
【0036】
図4は、輝度設定線の設定方法の第1、第2の実施形態の説明図である。
この図において、第1実施形態の輝度設定線G1は、取得した元画像データの中で[x,y]=[最も短い露出時間(元画像データ1の露出時間),255(8ビット画像時)]と[x,y]=[最も長い露出時間(データ13の露出時間)、0]の2点を通るように設定する。すなわち、この例で高輝度点H1は、最短露出時間で最大輝度値の点である。
この輝度設定線G1の設定方法は単純であるが、合成画像の最大輝度値が255(8ビット画像において)になるとは限らない。
【0037】
図4において、第2実施形態の輝度設定線G2は、輝度値が255(8ビット画像時)になる画素が出現する最も短い露出時間Taを探索し、[x,y]=[Ta、255(8ビット画像時)]と[x,y]=[最も長い露出時間、L1]の2点を通るように設定する。
すなわち、この例で高輝度点H1は、複数の元画像中において最大輝度値を有する最短露出時間の点であり、低輝度点L1は、最長露出時間で最小輝度値の点である。
輝度設定線G2の設定方法は、確実に合成画像の最大輝度値が255になり、傾きも急であるため、輝度設定線G1よりもコントラストの強い画像が得られる。
【0038】
図5は、露出輝度線の設定方法の第1、第2の実施形態の説明図である。
横軸を露出時間t、縦軸を輝度Bとする対数表示でないグラフにおいて、露出輝度線Iは、露出時間と光量が比例することから、輝度B=at(aは比例定数)という直線になる。そこで、第1実施形態の露出輝度線の設定方法では、得られた画像からこの形(直線)にフィッティングする。図5はこのグラフを対数表示に変換した図に相当する。
【0039】
第2実施形態の露出輝度線の設定方法では、各露出時間の区間ごとに輝度B=clog(t)+b(Ej<t≦Ej+1)の形に対数表示のグラフ上で直線近似をする。言い換えれば、第1実施形態の露出輝度線の設定方法では、露出輝度線がなめらかな曲線となり、第2実施形態の露出輝度線の設定方法では、露出輝度線は複数の元画像を撮影した露出時間の各区間で折れ線となる。
このとき、区間の片方がハレーションを発生している際は図5中の区間F2のように正しくない直線になる。そこで、1つ前の区間F1の直線を延長するのがよい。
【0040】
なお、上述したように、本発明の方法では露出時間tを変えてイメージセンサへ入る光量を変えているが、被写界深度内に入っている範囲(ピントの合っている範囲)で絞りを変えてもよい。また、ノイズの影響が大きくなるが、ゲインを変えてもよい。また、これらを組み合わせてイメージセンサに入力する光量を変えてもよい。
【0041】
図6は、輝度設定線の設定方法の第3、第4の実施形態の説明図である。
上述した例では、輝度設定線Gは直線になっているが、曲線でもかまわない。この場合、曲線のとり方によって、コントラストの強弱を設定できる。
例えば、図6の輝度設定線G3の場合は、明るいところのコントラストが小さく、暗いところとのコントラストが大きくなる。一方、輝度設定線G4の場合は、明るいところのコントラストが大きく、暗いところのコントラストが小さくなる。
なお、輝度設定線Gは、必ず極値(最大値、最小値)を持たないように設定する。すなわち、輝度設定線は、露出時間が短い高輝度点Hと、露出時間が長い低輝度点Lとを結ぶので、必ず右下がりの線であり、かつ極値を持たないので、画素間の輝度値Bの大小関係が入れ替わることはない。
【0042】
入力画像と出力画像のビット深度は異なってもかまわない。例えば、入力画像が8bitの場合、輝度値は0〜255の整数値をとる。しかし、輝度設定線との交点は整数値ではなく小数になるため、8bit画像に出力すると小数点以下部分の情報が失われてしまうが、出力画像を16bitにすると小数点部分の情報を残すことができる。また、このようにしてビット深度の高い画像に合成画像を保存しておけば、明るい部分や暗い部分などの任意の明るさの画像を低ビット深度の画像に変換することもできる。
【0043】
上述のようにビット深度の高い画像に合成した場合、8bit以上の色数が必要になる場合がある。このような画像を表示する際に、ディスプレイの性能が不足する場合がある。近年のディスプレイは8bit以上の色数に対応できるが、ディザリングを用いることで、さらに深いビット深度の画像を表示できるようになる。
【0044】
カメラはカラーカメラでもよい。この場合、RGBの成分ごとに本発明の方法を適用しても、HSV成分ごとに適用してもよい。
【0045】
上述した本発明の方法を行うと、コントラストの低下を招く。そこで、輝度設定線の設定方法で、輝度設定線G2による設定方法の場合には画像内のうち、必要領域から輝度設定線を算出するのがよい。
この方法により、必要領域外はハレーションが発生する可能性があるが、必要領域におけるハレーションを確実に防止できる。
【0046】
一回の撮影ではノイズの影響が強い。そこで同じ露出時間で複数回撮影した画像の平均値を各露出時間での輝度値とすることで、ノイズを低減させることもできる。
【0047】
露出輝度線は上述したように、直線B=at(aは比例定数)の形になる。そこで、得られた画像からこの式にフィッティングして露出輝度線を求めることもできる。
【0048】
また、イメージセンサを複数用意し、ハーフミラーやプリズムなどを用いて、レンズから入力される光を、それぞれのイメージセンサに照射できるような構造を持つカメラを用いてもよい。
この場合には同時に露光するため、移動物体に対しても本発明の方法を適用できる。ただし、移動体の速度や最大露出時間によってはブレが生じる。露出時間を短くし、ゲインを変えれば、高速の移動物体に対しても本発明の方法を適用できる。
【0049】
また、カメラをアレイ状に並べた構造を持つカメラを用いてもよい。各カメラでそれぞれの露出時間を設定すれば、上述したように、本発明の方法を適用するのに必要な撮影時間が最大露出時間と等しくなる。また、各カメラでレンズの絞りを調整して撮影することで、露出時間を高速に設定でき、移動物体に対しても本発明の方法を適用できる。
【0050】
図7は、本発明の方法の別の全体フロー図である。また、図8は、図7に対応する露出時間と輝度値の関係図である。
【0051】
図7の方法では、図中の各区間ごとに撮影し、露出輝度線を算出し、輝度設定線との交点を計算する。この方法により撮影した結果の画像のメモリは2枚分だけで足りるようになる。
例えば、図7において、本発明の方法はT1〜T6の各ステップからなる。
【0052】
(1) ステップT1,T2において、区間i=0とi=1の画像を撮影し、それぞれの画像を画像A1と画像A2とする。
(2) ステップT3において、画像A1,A2から区間i=0とi=1の間の露出輝度線を計算する。
(3) 図8では、画素Aはこの区間で輝度設定線とは交わらない。他の画素についても同様である。従ってこの区間での演算を終える。
(4) ステップT2〜T3において、次の区間の演算の準備を行う。ステップT5において、画像A2のメモリの参照先と画像A1のメモリの参照先を交換する。このようにすることで、時間をかけずに画像A2を画像A1に移動することができる。
【0053】
(5) ステップT2において、画像A2にi=2における画像を撮影して格納する。
(6) 同様に画像A1,A2の画像から区間i=1とi=2における露出輝度線を計算する。ここでも輝度設定線と交差する点はないので、画像A2の画像をA1に移動する。
(7) (4)〜(6)を繰り返す。
このように繰り返すと、図8で画素Aは区間i=3とi=4で露出輝度線と輝度設定線が交わる。
(8) ステップT4において、このときの交点の座標(輝度値)を合成画像Bの画素Aの輝度値として出力する。
(9) 以降の計算では、画素Aの計算を省略することで高速化ができる。
(10) T6において、合成画像Bを画像表示装置16に出力する。
【0054】
上述した本発明の方法と装置によれば、輝度設定線Gを、カメラのダイナミックレンジ内において、露出時間が短い場合の高輝度値の点Hと、露出時間が長い場合の低輝度値の点Lとを結んで設定するので、輝度設定線G上のすべての点は、カメラのダイナミックレンジ内にあり、ダイナミックレンジを超えるハレーションは発生しない。
また、この輝度設定線Gは極値を持たないので、露出時間tの増加に対して常に輝度値Bが低下する。従って、所望の範囲を構成するすべての画素について、輝度設定線Gと各画素の露出輝度線Iとの交点を求めて、その交点の輝度値Bをその画素の輝度値として対象物の合成画像3を合成することにより、ハレーションがなくかつ本来の輝度値Bの大小関係を維持することができる。
【0055】
従って、本発明の方法と装置は、以下の効果を有する。
(1) 合成画像にハレーションが発生しなくなる。
(2) 位置や姿勢を変更する必要はなく、手間がかからない。また、周囲の環境にも影響されにくい。
(3) 対象が鏡面反射である必要はない。また、自然光にも対応できる。
(4) 本発明では、確実にハレーションは発生せず、露出時間を変えることができれば、限界はない。また、最適な露出時間を設定する必要がない。さらに、周囲の環境光の変化に対して強い。
(5) 平滑化処理などは実施しないので、撮影した画像のエッジが鮮明であれば、合成画像のエッジがぼけることはない。また輝度設定線(輝度設定線)は、露出時間が短い高輝度点と、露出時間が長い低輝度点とを結ぶので、必ず右下がりの線であり、かつ極値を持たないので、画素間の輝度値の大小関係が入れ替わることはない。
(6) ハレーションのため撮影対象が完全な白とびになっていても、露出時間を小さくして写すことができれば、本発明によりハレーション部分の再現ができる。
(7) あらかじめ、露出時間を決めて撮影するので反応が早い。露出時間を変更する場合には特殊な機構は必要ない。露出時間を変更するので被写界深度は変わらない。
【0056】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1 対象物、2 元画像、3 合成画像、
10 画像合成装置、12 カメラ、
14 画像処理装置、
14a 記憶装置、14b 演算装置、
16 画像表示装置、
H 高輝度点、L 低輝度点、
I 露出輝度線、G 輝度設定線



【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の所望の範囲においてハレーションが発生し得ない最短露出時間と、最長露出時間との間で、露出時間を変化させて前記対象物の複数の元画像を撮影し、
前記複数の元画像から、前記所望の範囲を構成するすべての画素について、対象物の同一位置における画素の露出時間と輝度値の関係を示す露出輝度線を求め、
カメラのダイナミックレンジ内において、露出時間が短い場合の高輝度値の点と、露出時間が長い場合の低輝度値の点とを結ぶ連続する輝度設定線を設定し、
前記所望の範囲を構成するすべての画素について、前記輝度設定線と各画素の露出輝度線との交点を求めて、その交点の輝度値をその画素の輝度値として対象物の合成画像を作成する、ことを特徴とする画像合成方法。
【請求項2】
前記輝度設定線を、前記最短露出時間で最大輝度値の高輝度点と、前記最長露出時間で最小輝度値の低輝度点とを結ぶ極値を持たず、連続な単調減少である直線又は曲線に設定する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像合成方法。
【請求項3】
前記輝度設定線を、前記複数の元画像中において最大輝度値を有する最短露出時間の高輝度点と、前記最長露出時間で最小輝度値の低輝度点とを結ぶ極値を持たず、連続な単調減少である直線又は曲線に設定する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像合成方法。
【請求項4】
前記露出輝度線を、輝度値が露出時間に比例するようにフィッティングする、ことを特徴とする請求項1に記載の画像合成方法。
【請求項5】
対象物の所望の範囲においてハレーションが発生し得ない最短露出時間と、最長露出時間との間で、露出時間を変化させて前記対象物の複数の元画像を撮影するカメラと、
前記複数の元画像から対象物の合成画像を合成する画像処理装置とを備え、
該画像処理装置により、前記複数の元画像から、前記所望の範囲を構成するすべての画素について、対象物の同一位置における画素の露出時間と輝度値の関係を示す露出輝度線を求め、
カメラのダイナミックレンジ内において、露出時間が短い場合の高輝度値の点と、露出時間が長い場合の低輝度値の点とを結ぶ連続する輝度設定線を設定し、
前記所望の範囲を構成するすべての画素について、前記輝度設定線と各画素の露出輝度線との交点を求めて、その交点の輝度値をその画素の輝度値として対象物の合成画像を作成する、ことを特徴とする画像合成装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−44927(P2011−44927A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192124(P2009−192124)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】