説明

画像形成装置及び画像形成システム

【課題】印刷データの展開終了を待機する際に適切な動作を行うことが可能な画像形成装置を提供する。
【解決手段】次のページの印刷を開始するために必要な印刷データの展開を終了するまでの展開待ち期間の長さを予測し、その展開待ち期間の長さに基づいて、展開待ち期間中に、印刷手段を印刷時と消費電力が同じかあるいは印刷時よりも消費電力が小さい第1待機状態に移行させるか、印刷手段を第1待機状態よりも消費電力が小さい第2待機状態に移行させるかを判断し、その判断に従って展開待ち期間における動作を切り替える。これにより、印刷データの展開終了を待機する際に、状況に応じて適切な動作を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置及び画像形成システムに関し、特に印刷データをビットマップデータに展開し、展開されたデータにより印刷を行う画像形成装置及び画像形成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ページプリンタなどの画像形成装置として、コンピュータ等から受信した印刷データをページ毎にビットイメージに展開し、展開が終了したページのデータを印刷部により順次印刷するものが知られている。こうした画像形成装置では、ページの途中で印刷を停止できないため、前のページの印刷が終了したときに次のページの印刷データの展開が終了していない場合には、そのページの展開が終了するまでの間、印刷動作を停止することがある(特許文献1参照)。なお、各ページの印刷データの展開にかかる時間は、各ページの印刷データの内容等によって異なることが知られている。
【0003】
ここで、従来の画像形成装置では、印刷動作を中断して印刷データの展開終了を待機する際に、印刷部を駆動するための駆動モータを駆動し続ける動作を行うものと、駆動モータを一旦停止する動作を行うものとがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−323618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、展開終了を待機する際に、上述のいずれの動作を行うことがユーザにとってより望ましいかは状況によって異なる可能性があり、従来では、そうした状況に柔軟に対応することができなかった。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、印刷データの展開終了を待機する際に適切な動作を行うことが可能な画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための手段として、第1の発明に係る画像形成装置は、印刷データをビットマップデータに展開する展開手段と、前記展開手段により展開されたビットマップデータの印刷を行う印刷手段と、次のページの印刷を開始するために必要な印刷データの展開を前記展開手段が終了するまでの展開待ち期間の長さを予測する予測手段と、前記予測手段により予測された前記展開待ち期間の長さに基づいて、前記展開待ち期間中に、前記印刷手段を印刷時と消費電力が同じかあるいは印刷時よりも消費電力が小さい第1待機状態に移行させるか、前記印刷手段を前記第1待機状態よりも消費電力が小さい第2待機状態に移行させるかを判断する判断手段と、前記展開待ち期間中に、前記判断手段の判断に従って前記印刷手段を前記2つの待機状態のうちの一方に移行させる制御手段と、を備える。
【0007】
第1の発明によれば、次のページの印刷を開始するために必要な印刷データの展開を終了するまでの展開待ち期間の長さを予測し、その展開待ち期間の長さに基づいて、展開待ち期間中に、印刷手段を印刷時と消費電力が同じかあるいは印刷時よりも消費電力が小さい第1待機状態に移行させるか、印刷手段を第1待機状態よりも消費電力が小さい第2待機状態に移行させるかを判断し、その判断に従って展開待ち期間における動作を切り替える。これにより、印刷データの展開終了を待機する際に、状況に応じて適切な動作を行うことができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記判断手段は、前記展開待ち期間の長さを閾値と比較した結果に基づいて前記判断を行う。
第2の発明によれば、展開待ち期間の長さを閾値と比較した結果に基づいて、第1待機状態へ移行させるか第2待機状態へ移行させるかの判断を行う。
【0009】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記判断手段は、前記印刷手段を前記第1待機状態に移行させる場合と前記第2待機状態に移行させる場合とについて、少なくとも前記印刷手段を前記待機状態に移行させてから次の印刷を開始するまでを含んだ期間における消費電力量の大小に関する条件を用いて前記判断を行う。
【0010】
第3の発明によれば、第1待機状態に移行させる場合と第2待機状態に移行させる場合の、少なくとも印刷手段を待機状態に移行させてから次の印刷を開始するまでを含んだ期間における消費電力量の大小に関する条件を用いていずれの待機状態に移行させるかを判断する。これにより、少なくとも待機状態に移行してから印刷を開始するまでの消費電力の大きさに基づいて、いずれの待機状態にさせれば良いかを判断し、動作を切り替えることができる。
【0011】
第4の発明は、第3の発明において、前記判断手段は、前記第1待機状態及び前記第2待機状態のうち、前記期間における消費電力量が小さくなる方の待機状態に移行させるように前記判断を行う。
第4の発明によれば、第1待機状態及び第2待機状態のうち、消費電力量が小さくなる方の動作が行われるように判断を行う。これにより、電力の消費を抑えることができる。
【0012】
第5の発明は、第1から第4のいずれか一つの発明において、前記印刷手段を駆動する駆動手段を備え、前記制御手段は、前記第1待機状態においては前記駆動手段による前記印刷手段の駆動を継続し、前記第2待機状態においては前記駆動手段による駆動を停止する。
【0013】
第6の発明は、第5の発明において、前記判断手段は、前記印刷手段の稼働量が大きくなる程、優先して前記第2待機状態に移行させるように前記判断を行う。
【0014】
第6の発明によれば、印刷手段の稼働量が大きくなる程、優先して第2待機状態に移行させるように判断を行う。これにより、印刷手段の構成部品の劣化が進んだ場合などには、印刷手段の駆動を停止する第2待機状態に優先的に移行されるため、部品の劣化の進行を抑制することができる。
【0015】
第7の発明は、第1から第6のいずれか一つの発明において、前記予測手段は、前記展開手段における展開処理の負荷に関わる処理条件を用いて前記展開待ち期間の長さを予測する。
【0016】
第7の発明によれば、展開処理の負荷に関わる処理条件を用いて展開待ち期間の長さを予測する。例えば、印刷データのサイズ、解像度(画素数)、色数(カラー・モノクロ・グレースケール等)など、展開処理の負荷に関わる処理条件を用いて、展開待ち期間の長さを予測することで、精度良い予測を行うことができる。
【0017】
第8の発明は、第1から第7のいずれか一つの発明において、前記印刷手段は、印刷温度にて熱定着を行う定着手段を備え、前記制御手段は、前記第1待機状態においては前記定着手段を前記印刷温度と同じかそれより低い第1温度で維持し、前記第2待機状態においては前記定着手段を前記第1温度よりも低い温度とする。
【0018】
第9の発明に係る画像形成システムは、印刷データを生成する生成手段と、前記生成手段から取得した印刷データをビットマップデータに展開する展開手段と、前記展開手段により展開されたビットマップデータの印刷を行う印刷手段と、次のページの印刷を開始するために必要な印刷データの展開を前記展開手段が終了するまでの展開待ち期間の長さを予測する予測手段と、前記予測手段により予測された前記展開待ち期間の長さに基づいて、前記展開待ち期間中に、前記印刷手段を印刷時と消費電力が同じかあるいは印刷時よりも消費電力が小さい第1待機状態に移行させるか、前記印刷手段を前記第1待機状態よりも消費電力が小さい第2待機状態に移行させるかを判断する判断手段と、前記展開待ち期間中に、前記判断手段の判断に従って前記印刷手段を前記2つの待機状態のうちの一方に移行させる制御手段と、を備える。
【0019】
第9の発明によれば、次のページの印刷を開始するために必要な印刷データの展開を終了するまでの展開待ち期間の長さを予測し、その展開待ち期間の長さに基づいて、展開待ち期間中に、印刷手段を印刷時と消費電力が同じかあるいは印刷時よりも消費電力が小さい第1待機状態に移行させるか、印刷手段を第1待機状態よりも消費電力が小さい第2待機状態に移行させるかを判断し、その判断に従って展開待ち期間における動作を切り替える。これにより、印刷データの展開終了を待機する際に、状況に応じて適切な動作を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、次のページの印刷を開始するために必要な印刷データの展開を終了するまでの展開待ち期間の長さを予測し、その展開待ち期間の長さに基づいて、展開待ち期間中に、印刷手段を印刷時と消費電力が同じかあるいは印刷時よりも消費電力が小さい第1待機状態に移行させるか、印刷手段を第1待機状態よりも消費電力が小さい第2待機状態に移行させるかを判断し、その判断に従って展開待ち期間における動作を切り替える。これにより、印刷データの展開終了を待機する際に、状況に応じて適切な動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態1におけるプリンタの概略構成を示す図
【図2】プリンタとコンピュータの電気的構成を簡略に示すブロック図
【図3】展開実行処理を示すフローチャート
【図4】展開実行処理及び印刷実行処理の進行例を示す図
【図5】印刷実行処理を示すフローチャート
【図6】展開待ち期間以降におけるモータ群の消費電力量の変化を例示するグラフ
【図7】定着ローラの表面温度の変化を示すグラフ
【図8】展開待ち時間と印刷部の消費電力量との関係を示すグラフ
【図9】実施形態2における印刷実行処理の一部を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0022】
<実施形態1>
次に本発明の実施形態1について図1から図8を参照して説明する。
【0023】
(プリンタの全体構成)
図1は、本実施形態のプリンタ10(画像形成装置の一例)の概略構成を示す図である。このプリンタ10は、いわゆる直接転写タンデム方式のカラーレーザプリンタである。なお、以下の説明では、同図における左側を前方とする。
【0024】
プリンタ10は、本体ケーシング11を備えており、その本体ケーシング11内の底部には、複数の用紙12(被記録媒体の一例)を積載可能な供給トレイ13が設けられている。供給トレイ13に積載された用紙12は、給紙ローラ14によりレジストローラ15へ送り出され、レジストローラ15により印刷部16のベルトユニット17上に搬送される。
【0025】
印刷部16(印刷手段の一例)は、ベルトユニット17、4つの露光部23、4つのプロセス部26、定着器33などを備えている。
【0026】
ベルトユニット17は、前側に配置されたベルト支持ローラ18と、後側に配置されたベルト駆動ローラ19との間に、環状のベルト20を張架した構成となっている。ベルト20は、ベルト駆動ローラ19の回転によって図1の時計周り方向に循環移動し、ベルト20上面に静電吸着した用紙12を後方に搬送する。ベルト20の内側には、後述する各プロセス部26の感光ドラム30とベルト20を挟んで対向する位置に転写ローラ21が設けられている。
【0027】
ベルトユニット17の上側には、4つのプロセス部26が前後に並んで配置され、さらに各プロセス部26の上側には、露光部23が前後に並んで配置されている。各露光部23は、スキャナモータ24により回転駆動されるポリゴンミラーや、レンズ、ミラー等を用いて、光源から出射したレーザ光Lを対応する感光ドラム30の表面に走査する。
【0028】
各プロセス部26は、マゼンタ、シアン、イエロー、及びブラックの各色のトナーを収容するトナー収容室27や、供給ローラ28、現像ローラ29、感光ドラム30、帯電器31等を備えている。
【0029】
トナー収容室27内のトナーは、供給ローラ28の回転により現像ローラ29に供給され、供給ローラ28と現像ローラ29との間で正に摩擦帯電される。感光ドラム30の表面は、帯電器31により一様に正帯電された後、露光部23からのレーザ光Lにより露光され、そこに静電潜像が形成される。次いで、現像ローラ29の回転により、現像ローラ29上のトナーが感光ドラム30の表面に供給され、静電潜像がトナー像として可視化される。その後、感光ドラム30上のトナー像は、用紙12が感光ドラム30と転写ローラ21との間を通過する間に、転写ローラ21に印加される転写バイアス電圧によって用紙12に転写される。
【0030】
定着器33(定着手段の一例)は、金属製の定着ローラ34と、定着ローラ34の内部に設けられたハロゲンランプ35と、用紙12を定着ローラ34側に押圧する加圧ローラ36と、定着ローラ34表面の温度を検知する温度センサ37とを備えている。定着器33は、転写されたトナー像が転写された用紙12を加熱してトナー像を紙面に定着させる。定着後の用紙12は、本体ケーシング11の上面に設けられた排出トレイ39上に排出される。
【0031】
(プリンタ及びコンピュータの電気的構成)
図2は、プリンタ10と、このプリンタ10にネットワークを介して接続されたコンピュータ60の電気的構成を簡略に示すブロック図である。
【0032】
プリンタ10は、CPU41、ROM42、RAM43、NVRAM(不揮発性メモリ)44、ネットワークインターフェイス45を備えている。ROM42には、後述する展開実行処理や印刷実行処理など、このプリンタ10の各種の動作を実行するためのプログラムが記憶されている。CPU41(展開手段、予測手段、判断手段、制御手段の一例)は、ROM42から読み出したプログラムに従って、その処理結果をRAM43またはNVRAM44に記憶させながら各部の制御を行う。ネットワークインターフェイス45は、通信回線58を介して外部のコンピュータ60等に接続され、相互にデータ通信が可能となっている。
【0033】
また、プリンタ10は、表示部47及び操作部48を備えている。表示部47は、ディスプレイやランプ等を備え、各種の設定画面や装置の動作状態等を表示することが可能である。操作部48は、複数のボタンを備え、ユーザが各種の指示を入力することが可能である。
【0034】
さらに、既述の印刷部16は、ベルト駆動ローラ19を駆動するベルトモータ50、感光ドラム30及び現像ローラ29を駆動するプロセスモータ51、定着ローラ34を駆動する定着モータ52を備えている。以下の説明では、これらのモータ50〜52と既述のスキャナモータ24とを合わせてモータ群55(駆動手段の一例)という。このモータ群55に含まれる各モータ24,50〜52は、それぞれCPU41によって供給されるPWM(Pulse Width Modulation)信号等に基づいて制御される。
また、CPU41は、定着器33の温度センサ37からの検知信号を受けて、ハロゲンランプ35のオン・オフを切り替えることで、定着ローラ34の表面温度を制御する。
【0035】
一方、コンピュータ60(情報処理装置の一例)は、CPU61、ROM62、RAM63、ハードディスクドライブ64、キーボードやポインティングデバイスからなる操作部65、ディスプレイ等からなる表示部66、通信回線58に接続されるネットワークインターフェイス67等を備えている。ハードディスクドライブ64には、印刷用の画像データを作成するためのアプリケーションソフトや、プリンタ10を制御するためのプリンタドライバなどの各種プログラムが記憶されている。
【0036】
(プリンタの動作)
コンピュータ60において、ユーザがプリンタ10に対応するプリンタドライバを起動させ、印刷条件の設定等を行った後、印刷の実行指示を入力すると、CPU61は、プリンタドライバによって印刷データを生成し、その印刷データをネットワークインターフェイス67を介してプリンタ10に送信する。この印刷データは、例えばPDL(Page Description Language)データであって、ユーザによって設定された印刷条件の設定値や、画像データなどを含んでいる。
【0037】
プリンタ10のCPU41は、印刷データをネットワークインターフェイス45を介してRAM43上に受信すると、その印刷データを印刷ジョブとして印刷キューに登録する。そして、印刷キューに1つまたは複数の印刷ジョブが登録されると、CPU41は、登録された各印刷ジョブに対し、登録順に展開実行処理と印刷実行処理とを並列的に実行する。
【0038】
図3は、展開実行処理を示すフローチャートである。CPU41は、図3に示す展開実行処理において、対象となる印刷ジョブに対応する印刷データに含まれる1ページ分の印刷データ(例えばPDLデータ)をRAM43上でビットマップデータに展開する展開処理を行う(S101)。続いて、展開処理が済んでいないページの印刷データが存在した場合(S102:Yes)には、S101に戻って、次のページの印刷データについて展開処理を行う。印刷データに含まれる全てのページについて、展開処理が終了した場合(S102:No)には、この展開実行処理を終了する。
【0039】
図4は、展開実行処理及び印刷実行処理の進行例を示す図である。同図に示すように、展開実行処理では、1ページ目(P1)の展開処理が終われば2ページ目(P2)の展開処理を開始する、というように、1ページずつ順に続けて展開処理を行う。以下に述べる印刷実行処理では、展開処理と同じ順序で1ページずつ印刷処理を行う。各ページの印刷処理はそのページの展開処理が終了した後に開始される。このため、前のページの印刷が終了して次のページの印刷が可能な状態になったときに、その次のページの展開処理が終了していない場合には展開待ち期間が発生する。また、印刷部16が停止状態や展開待ち期間等の待機状態から印刷処理を開始する際には、例えば、定着器の温度を印刷温度まで上昇させたり、停止状態のモータ群を印刷時の速度まで加速したり、あるいはそれらの温度や速度の安定を待ったりする印刷準備動作を必要に応じて行う印刷準備期間が設けられる。
【0040】
図5は、印刷実行処理を示すフローチャートである。CPU41は、図5に示す印刷実行処理を開始すると、まず1ページ目の展開処理が終了するのを待機する(S201)。このときCPU41は、例えば印刷部16のモータ群55を停止させた状態とし、定着ローラ34の表面温度を後述する第2待機温度に維持した状態で待機する。そして、1ページ目の展開処理が終了すると(S201:Yes)、印刷部16により展開された1ページ目の印刷データの印刷を行う(S202)。より詳細には、CPU41は、モータ群55を加速して印刷時の速度で定常回転させ、定着ローラ34の表面温度を印刷温度まで加熱する印刷準備期間を経てから印刷を開始する。
【0041】
続いてCPU41は、次のページが存在するかを判断し(S203)、存在しない場合(S203:No)、即ち印刷ジョブの全てのページの印刷が終了した場合には、この印刷実行処理を終了する。
また、次のページが存在する場合(S203:Yes)には、その次のページの展開処理が終了したかを判断し(S204)、展開処理が既に終了している場合(S204:Yes)には、そのページの印刷を行う(S205)。即ち、この場合には、展開処理の終了を待つための展開待ち期間が発生しないため、前のページの印刷が終了した後、続けて次のページの印刷を開始することができる。CPU41は、S205にて1ページ分の印刷を行った後、S203に戻る。
【0042】
また、CPU41は、次ページの展開処理が終了していない場合(S204:No)、即ち展開処理が終了するまでの展開待ち期間が発生する場合には、その展開待ち期間の長さである展開待ち時間を予測する(S206)。ここでは、例えば、印刷データのサイズ、解像度(画素数)、色数(カラー・モノクロ・グレースケール等)など、展開処理の負荷に関わる各種の処理条件を用いて、1ページ分の展開処理にかかる時間を求め、その値からそのページの展開処理を開始してからの経過時間を差し引くことで展開待ち時間を算出する。また、残りのデータ量と処理済みのデータ量との比に、そのページの展開処理を開始してからの経過時間を掛け合わせることで展開待ち時間を求めても良い。また、特にネットワークインターフェイス45を介しての印刷データの受信に時間がかかるような場合には、データの転送速度に基づいて印刷データの転送に要する時間を求め、その値を用いて展開待ち時間を求めても良い。
【0043】
ここで、CPU41は、印刷部16を第1待機状態及び第2待機状態のいずれか一方に移行させる。第1待機状態では、印刷部16のモータ群55、即ちベルトモータ50、プロセスモータ51、定着モータ52、スキャナモータ24を全て印刷時と同じ速度で回転駆動した状態に維持する。これにより、モータ群55とギア機構を介して連結されるベルト駆動ローラ19、感光ドラム30、定着ローラ34、ポリゴンミラー等の各部が印刷時の速度で回転した状態に維持される。また、第2待機状態では、モータ群55を停止させる。これにより、モータ群55に連結されるベルト駆動ローラ19等の各部の動作も停止する。
【0044】
図6は、展開待ち期間以降におけるモータ群55の消費電力量の変化を例示するグラフである。展開待ち期間に第1待機状態に移行する場合(図6の実線)は、モータ群55を一定速度で駆動し続けるために、時間の経過とともにほぼ一定の割合でモータ群55の消費電力量が増加する。その後、印刷準備期間を経て印刷動作を開始しても、モータ群55の消費電力(グラフの傾き)はあまり変化しない。
【0045】
また、展開待ち期間に第2待機状態に移行する場合(図6の二点鎖線)には、モータ群55の消費電力量がほぼ0になる。そして、展開待ち期間が例えば図中のTの時点で終了し印刷準備期間に入ると、モータ群55の駆動が開始され、消費電力量が増加する。ここでは、モータ群55や、その駆動対象となるベルト駆動ローラ19、感光ドラム30、定着ローラ34、ポリゴンミラー、さらにそれらを連結するギア機構等の各部を静止状態から印刷時の速度まで加速させるために、定速回転時よりも消費電力(グラフの傾き)が大きくなる。特に、静止状態のモータ群55の回転を開始する際には、前述の各部間に動摩擦力よりも大きな静止摩擦力が作用することから、より消費電力が大きくなる。
【0046】
このため、展開待ち時間Tがある値よりも小さい場合には、第1待機状態に移行した場合より第2待機状態に移行した場合の方が、印刷開始までのモータ群55による消費電力量が大きくなり、展開待ち時間Tがある値よりも大きい場合には、第1待機状態に移行した場合より第2待機状態に移行した場合の方がモータ群55による消費電力量が小さくなる。
【0047】
図7は、定着ローラ34の表面温度の変化を示すグラフである。CPU41は、第1待機状態においては、定着ローラ34の表面温度を印刷温度よりも低い第1待機温度に維持する。より詳細には、CPU41は、温度センサ37により検出される定着ローラ34の表面温度がある目標範囲内に収まるように、ハロゲンランプ35のオン・オフを交互に切り替えて制御する。また、第2待機状態では、定着ローラ34の表面温度を第1待機温度よりもさらに低い第2待機温度に維持する。従って、第2待機状態では、第1待機状態に比べてハロゲンランプ35による消費電力、より正確には平均の消費電力が小さくなる。
【0048】
CPU41は、展開待ち期間が終了し印刷準備期間に入ると、定着ローラ34の表面温度を印刷温度まで上昇させる。展開待ち期間から印刷開始時までのハロゲンランプ35における消費電力量は、第1待機状態に移行した場合と第2待機状態に移行した場合とで異なり、また展開待ち期間の長さによって異なる。なお、第1待機状態では、定着ローラ34の表面温度を印刷温度に維持しても良い。また、第2待機状態では、定着ローラ34の表面温度を目標とする温度に維持せず、ハロゲンランプ35を定常的にオフとしても良い。この場合、定着ローラ34の表面温度は、時間の経過に伴って第2待機温度より低い環境温度に近づくことになる。
【0049】
図8は、展開待ち時間と印刷部16の消費電力量との関係を示すグラフである。ここでいう印刷部16の消費電力量とは、展開待ち期間の開始時から印刷準備期間を経て印刷の開始時までの期間における消費電力量であって、モータ群55の消費電力量と定着器33(ハロゲンランプ35)の消費電力量とを含んだ印刷部16全体の消費電力量である。
【0050】
同図に示すように、展開待ち期間において第1待機状態に移行した場合の印刷部16の消費電力量は、概ね展開待ち時間に比例する。これに対し、第2待機状態に移行する場合の印刷部16の消費電力量は、展開待ち時間がT0より小さい場合には、既述の印刷準備期間における電力の消費等の影響により、第1待機状態に移行する場合よりも大きくなる。展開待ち期間がT0である場合には、第1待機状態に移行する場合と第2待機状態に移行する場合とで消費電力量が等しくなる。そして、展開待ち時間がT0より大きい場合には、第2待機状態に移行する場合の方が第1待機状態に移行する場合よりも消費電力量が小さくなる。
【0051】
本印刷実行処理では、上述のように、第1待機状態に移行する場合と第2待機状態に移行する場合の消費電力量の大小関係が入れ替わる時間T0を、いずれの待機状態へ移行するかを判断するための閾値とする。なお、この閾値T0は、予め測定や計算によって求められ、ROM42やNVRAM44に記憶されたものを用いる。
【0052】
図5に示すように、CPU41は、S206にて展開待ち時間を予測した後、その展開待ち時間と閾値T0とを比較する(S207)。そして、展開待ち時間が閾値T0より小さい場合(S207:Yes)には、印刷部16を第1待機状態に移行する(S208)。また、展開待ち時間が閾値T0と同じかそれ以上である場合(S207:No)には、印刷部16を第2待機状態に移行する(S209)。そして、処理中のページの展開処理の終了を待機し(S210)、展開処理が終了した場合(S210:Yes)には、S205に進み、印刷準備期間を経た後、そのページの印刷を行う。印刷が終了した後は、S203に戻り全てのページが印刷されるまで同様の動作を繰り返す。
【0053】
(本実施形態の効果)
以上のように本実施形態によれば、次のページの印刷を開始するために必要な印刷データの展開を終了するまでの展開待ち期間の長さを予測し、その展開待ち期間の長さに基づいて、展開待ち期間中に、印刷手段を印刷時と消費電力が同じかあるいは印刷時よりも消費電力が小さい第1待機状態に移行させるか、印刷手段を第1待機状態よりも消費電力が小さい第2待機状態に移行させるかを判断し、その判断に従って展開待ち期間における動作を切り替える。これにより、印刷データの展開終了を待機する際に、状況に応じて適切な動作を行うことができる。
【0054】
また、第1待機状態に移行させる場合と第2待機状態に移行させる場合の、少なくとも印刷部16を待機状態に移行させてから次の印刷を開始するまでを含んだ期間における消費電力量の大小に関する条件を用いていずれの待機状態に移行させるかを判断する。これにより、少なくとも待機状態に移行してから印刷を開始するまでの消費電力の大きさに基づいて、いずれの待機状態にさせれば良いかを判断し、動作を切り替えることができる。
【0055】
さらに、第1待機状態及び第2待機状態のうち、消費電力量が小さくなる方の動作が行われるように判断を行う。これにより、電力の消費を抑えることができる。
【0056】
また、展開処理の負荷に関わる処理条件を用いて展開待ち期間の長さを予測する。例えば、印刷データのサイズ、解像度(画素数)、色数(カラー・モノクロ・グレースケール等)など、展開処理の負荷に関わる処理条件を用いて、展開待ち期間の長さを予測することで、精度良い予測を行うことができる。
【0057】
<実施形態2>
次に本発明の実施形態2について図9を参照して説明する。
図9は、印刷実行処理の一部を示すフローチャートである。本実施形態の印刷実行処理は、図5のフローチャートのS206〜S210の処理を図9の処理で置き換えたものである。なお、その他の処理や構成は、上記実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0058】
CPU41は、S206にて展開待ち時間を予測した後、全てのプロセス部26の稼働量が所定の基準以下であるかを判断する(S301)。ここでは、例えば、CPU41が印刷動作を行う度に各プロセス部26毎の印刷枚数をNVRAM44に記憶させておき、その印刷枚数が基準枚数以下であるかを判断する。全てのプロセス部26の稼働量が基準以下である場合(S301:Yes)には、閾値T1に既述の閾値T0と同じ値をセットする(S302)。また、稼働量が基準を超えるプロセス部26が存在する場合(S301:No)には、閾値T0に所定量α(正の値)を減算した値を閾値T1とする(S303)。
【0059】
そして、CPU41は、展開待ち時間が閾値T1より小さいかを判断し(S304)、閾値T1より小さい場合(S304:Yes)には、印刷部16を第1待機状態に移行し(S208)、閾値T1と同じかそれより大きい場合(S304:No)には、第2待機状態に移行する(S209)。即ち、稼働量が基準を超えるプロセス部26が存在する場合には、そうでない場合に比べて第2待機状態に移行されやすくなる。
【0060】
本実施形態によれば、印刷部16の稼働量が大きくなる程、優先して第2待機状態に移行させるように判断を行う。これにより、感光ドラム30など印刷部16の構成部品の劣化が進んだ場合などには、印刷部16の駆動を停止する第2待機状態に優先的に移行されるため、部品の劣化の進行を抑制することができる。
【0061】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0062】
(1)上記実施形態では、本発明を画像形成装置に適用したものを示したが、本発明は、図2に示すように、プリンタ10(画像形成装置)とコンピュータ60(情報処理装置)とを備えた画像形成システムにも適用することができる。この場合、例えば、コンピュータ60側のCPU61(生成手段の一例)が、プリンタ10からネットワークインターフェイス67を介して取得した情報に基づいて、次のページの印刷を開始するために必要な印刷データの展開が終了するまでの展開待ち期間の長さを予測する処理や、あるいは展開待ち期間の長さに基づいて展開待ち期間中に、印刷部16を第1待機状態に移行させるか、第2待機状態に移行させるかを判断する処理等を行っても良い。
【0063】
(2)上記実施形態では、電子写真方式で直接転写タイプのカラープリンタを示したが、本発明は、例えば、中間転写タイプや、4サイクルタイプなどの他のタイプの画像形成装置にも適用でき、また、インクジェット方式など、定着器を備えていない他の方式の画像形成装置にも適用できる。さらに本発明は、カラー印刷機能を備えていない画像形成装置にも適用することができる。また、印刷ジョブとして、例えば、ファクシミリで受信したデータの印刷、原稿読取装置から読み取った原稿画像データの印刷(コピー)、外部の記憶媒体から取得したデータの印刷(ダイレクトプリント)を実行する画像形成装置などにも本発明を適用することができる。
【0064】
(3)上記実施形態では、展開処理が終了した後に印刷準備動作(モータ群の加速や定着器の加熱等)を開始するものを示したが、展開処理終了の予測時間に合わせて印刷準備動作を展開処理が終了する前に開始することで、処理の迅速化を図っても良い。また、このような印刷準備動作には、モータ群の回転速度や定着器の温度が安定するのを待つ動作を含めることができる。
【0065】
(4)例えば、第2待機状態ではモータ類を第1待機状態より低速で駆動するなど、第1待機状態及び第2待機状態の動作は適宜変更することができる。
(5)第1待機状態と第2待機状態とを切り替える条件は適宜変更することができる。例えば、展開待ち時間がある範囲内なら第2待機状態に移行し、その範囲外なら第1待機状態に移行するようにしても良く、その逆としても良い。また、同条件として消費電力量に関わらないような条件を用いることもできる。
【符号の説明】
【0066】
10…プリンタ
16…印刷部
33…定着器
41…CPU
55…モータ群
60…コンピュータ
61…CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷データをビットマップデータに展開する展開手段と、
前記展開手段により展開されたビットマップデータの印刷を行う印刷手段と、
次のページの印刷を開始するために必要な印刷データの展開を前記展開手段が終了するまでの展開待ち期間の長さを予測する予測手段と、
前記予測手段により予測された前記展開待ち期間の長さに基づいて、前記展開待ち期間中に、前記印刷手段を印刷時と消費電力が同じかあるいは印刷時よりも消費電力が小さい第1待機状態に移行させるか、前記印刷手段を前記第1待機状態よりも消費電力が小さい第2待機状態に移行させるかを判断する判断手段と、
前記展開待ち期間中に、前記判断手段の判断に従って前記印刷手段を前記2つの待機状態のうちの一方に移行させる制御手段と、
を備える画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成装置において、
前記判断手段は、前記展開待ち期間の長さを閾値と比較した結果に基づいて前記判断を行う、画像形成装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の画像形成装置において、
前記判断手段は、前記印刷手段を前記第1待機状態に移行させる場合と前記第2待機状態に移行させる場合とについて、少なくとも前記印刷手段を前記待機状態移行から次の印刷を開始するまでを含んだ期間における消費電力量の大小に関する条件を用いて前記判断を行う、画像形成装置。
【請求項4】
請求項3に記載の画像形成装置において、
前記判断手段は、前記第1待機状態及び前記第2待機状態のうち、前記期間における消費電力量が小さくなる方の待機状態に移行させるように前記判断を行う、画像形成装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の画像形成装置において、
前記印刷手段を駆動する駆動手段を備え、
前記制御手段は、前記第1待機状態においては前記駆動手段による前記印刷手段の駆動を継続し、前記第2待機状態においては前記駆動手段による駆動を停止する、画像形成装置。
【請求項6】
請求項5に記載の画像形成装置において、
前記判断手段は、前記印刷手段の稼働量が大きくなる程、優先して前記第2待機状態に移行させるように前記判断を行う、画像形成装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の画像形成装置において、
前記予測手段は、前記展開手段における展開処理の負荷に関わる処理条件を用いて前記展開待ち期間の長さを予測する、画像形成装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の画像形成装置において、
前記印刷手段は、印刷温度にて熱定着を行う定着手段を備え、
前記制御手段は、前記第1待機状態においては前記定着手段を前記印刷温度と同じかそれより低い第1温度で維持し、前記第2待機状態においては前記定着手段を前記第1温度よりも低い温度とする、画像形成装置。
【請求項9】
印刷データを生成する生成手段と、
前記生成手段から取得した印刷データをビットマップデータに展開する展開手段と、
前記展開手段により展開されたビットマップデータの印刷を行う印刷手段と、
次のページの印刷を開始するために必要な印刷データの展開を前記展開手段が終了するまでの展開待ち期間の長さを予測する予測手段と、
前記予測手段により予測された前記展開待ち期間の長さに基づいて、前記展開待ち期間中に、前記印刷手段を印刷時と消費電力が同じかあるいは印刷時よりも消費電力が小さい第1待機状態に移行させるか、前記印刷手段を前記第1待機状態よりも消費電力が小さい第2待機状態に移行させるかを判断する判断手段と、
前記展開待ち期間中に、前記判断手段の判断に従って前記印刷手段を前記2つの待機状態のうちの一方に移行させる制御手段と、
を備える画像形成システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−11387(P2011−11387A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155778(P2009−155778)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】