説明

画像形成装置

【課題】熱源(ヒータ34)により加熱された定着部材(定着ローラ32)を用いてトナー像を記録媒体に定着させる画像形成装置において、記録媒体の切替えに伴って発生する定着部材(定着ローラ32)の表面温度のオーバーシュート現象を抑止する。
【解決手段】記録媒体の切替えに伴って温度設定部63によって新たな目標温度範囲が設定された場合に、温度検出部61により検出される定着部材(定着ローラ32)の表面温度の変化率を算出し、当該変化率が所定値を超えるとき、もしくは、表面温度の二階微分値が正であるときには、現在の表面温度が目標温度範囲より低くても、通電制御部64は熱源(ヒータ34)への通電を行わないように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー像を熱によって記録媒体に定着させる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置は、通常、(1)感光体ドラムを一様に均一に帯電させる帯電工程と、(2)感光体ドラムの表面を露光する露光工程と、(3)露光された部分の電荷を消滅させることにより静電潜像を形成してトナーを付着させトナー像を形成する現像工程と、(4)トナー像を記録媒体(印刷用紙等)に転写する転写工程と、(5)加熱や圧力等によりトナー像を記録媒体に定着させる定着工程と、を実行することにより記録媒体に画像を形成(印刷)する。
【0003】
定着工程においては、トナー像が付着した記録媒体を加熱及び加圧する定着器(特に、加熱する定着部材)の温度が、記録媒体の種類や印刷速度に応じて設定される所定の温度範囲内に維持されるように、ヒータやハロゲンランプ等の熱源の通電制御が行なわれる。
【0004】
従来の定着部材の温度制御方法として最も一般的なものは、定着部材の表面温度を温度検出素子を用いて検出し、検出した表面温度と目標温度との差に応じて熱源の点灯デューティ(電源をオンしている時間の比率)を制御するものであった。また、特許文献1では、装置が省電力モードから通常モードへ移行して定着部材がウォームアップされるときの加熱特性を測定し、その加熱特性を用いて点灯デューティを補正する技術が提案されている。
【特許文献1】特開2005−338634号公報(段落「0006」、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した従来の定着部材の温度制御方法では、例えば、ネットワークプリンタにおいて、印刷中に記録媒体の切替えが発生して目標温度範囲が以前よりも高く設定された場合には、以前の目標温度範囲で印刷される最終の記録媒体が定着部材を通過した直後から、熱容量の影響で必ず定着部材の温度が上昇するが、その上昇中に検出された表面温度が新たに設定された目標温度範囲より低いときには、定着部材の温度を上昇させるウォームアップ処理が実行されるため、表面温度が目標温度範囲を超えてしまうオーバーシュート現象が発生することがあった。
【0006】
もしもこのオーバーシュート中に記録媒体にトナーを定着させてしまうと、定着性能が劣化したりカラー特性が変化したりするので、従来は定着部材の表面温度が下がって目標温度範囲に入るまで待った後に印刷を行っていた。そのために印刷待ち時間が増大してしまうという不都合があった。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、記録媒体の切替えに伴って発生する定着部材の表面温度のオーバーシュート現象の発生を抑止することにより、印刷待ち時間を短縮することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の画像形成装置においては、熱源により加熱される定着部材と、前記定着部材の温度を検出する温度検出部と、記録媒体の種類に対応して設定された目標温度範囲内に、前記温度検出部により検出される温度を維持するよう前記熱源に対する供給電力を制御する通電制御部とを有する画像形成装置において、前記通電制御部は、前記記録媒体の種類の切替えに対応して前記目標温度範囲が以前よりも高く設定されてから、前記温度検出部により検出される温度の変化率(温度変化率)が所定値を下回るまで、前記熱源に電力供給を行わないよう制御するようにした。
【0009】
さらに、本発明の他の画像形成装置においては、熱源により加熱される定着部材と、前記定着部材の温度を検出する温度検出部と、記録媒体の種類に対応して設定された目標温度範囲内に、前記温度検出部により検出される温度を維持するよう前記熱源に対する供給電力を制御する通電制御部とを有する画像形成装置において、前記通電制御部は、前記記録媒体の種類の切替えに対応して前記目標温度範囲が以前よりも高く設定され、熱容量の影響で定着部材の温度が上昇しているときに、前記温度検出部により検出される温度の変化率の変化率、即ち、二階微分値が0以下となるまで、前記熱源に電力供給を行わないよう制御するとともに、前記二階微分値が0以下となったとき、前記温度検出部により検出される温度とその変化率とにより予測された、前記記録媒体の到着予定時刻における前記定着部材の最大温度に基づいて、前記熱源に対する供給電力を制御するようにした。
【発明の効果】
【0010】
本発明の画像形成装置によれば、記録媒体の切替えに伴う定着部材の表面温度のオーバーシュート現象の発生を抑止できるので、印刷待ち時間を短縮することができる。
【0011】
さらに、本発明の他の画像形成装置によれば、記録媒体の到着予定時刻における定着部材の最大温度を予測して熱源に対する供給電力を制御するので、印刷待ち時間をより短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[実施形態1]
図1は、本発明による画像形成装置の実施形態1に係るプリンタ1が有する機構部品の断面構造図である。
【0013】
図1に示されるように、プリンタ1は、機構的には主に、媒体カセット3、4と、画像形成部11、12、13、14と、転写ベルトユニット20と、定着器30と、ピックアップローラ40、41、レジストローラ対42、43、排出ローラ対44を含む媒体搬送機構と、を備えて構成され、更に、記録媒体の搬送を検知するための書き出しセンサ50、排出センサ51、スタックセンサ52と、これら各部を制御する制御部601(図3参照)が付加され構成される。制御部601の詳細は後記する。
【0014】
図1において、記録媒体2は印刷前の用紙やOHP等、画像が印刷される媒体である。媒体カセット3は、前記した記録媒体2を収納しているトレイである。媒体カセット4は、プリンタ1に付属された媒体カセットである。記録媒体5は、記録媒体2とは異なる種類の媒体であり、記録媒体2とはサイズもしくは種類が異なる用紙やOHP等が想定され、媒体カセット4に収納されている。記録媒体7は、印刷が完了して排出された記録媒体である。
【0015】
画像形成部11、12、13、14は、それぞれ、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの現像剤を代表とするトナー像を形成するユニットである。
【0016】
転写ベルトユニット20は、転写ローラ21、22、23、24を内蔵している。転写ローラ21、22、23、24は、画像形成部11、12、13、14と転写ベルトユニット20の間を記録媒体2、5が通過しているときに、この記録媒体2、5にトナー像を転写するローラである。定着器30は、転写されたトナー像を記録媒体2、5に定着させるユニット部品であり、プリンタ1から取り外し可能である。
【0017】
定着器30は、図2にその内部構成が斜視図で示されるように、温度検出素子31と、定着部材としての定着ローラ32と、加圧ローラ33と、を備えて構成される。定着ローラ32は、ハロゲンランプに代表される熱源としてのヒータ34を内蔵し、加圧ローラ33に圧接され装着されている。また、定着ローラ32及び加圧ローラ33は、不図示のギア等を有しており、図示しないユニット駆動ギアにより回転駆動される。
本実施形態では、定着部材の一例として、定着ローラ32を用いて説明するが、定着部材は熱源が内蔵された無端形状ベルトであってもよい。また、加圧ローラ33側も、無端形状ベルトとこのベルトの内側から定着部材側へ押圧する押圧部材を組み合わせたものであってもよい。
【0018】
温度検出素子31は、定着ローラ32の表面温度を検出するために、定着ローラ32の近傍もしくは定着ローラ32に接触した状態で設置される。温度検出素子31として、温度により抵抗値が変化する、例えばサーミスタを用い、後記する温度検出部61(図3参照)は、A/D(Analog to Digital)変換された電圧信号を取り込むことによって定着ローラ32の表面温度を検出する。
【0019】
説明を図1に戻す。ピックアップローラ40は、媒体カセット3から記録媒体2を引き出すためのローラであり、ピックアップローラ41は、媒体カセット4から記録媒体5を引き出すためのローラである。また、レジストローラ対42は、記録媒体2、5を挟んで互いに圧接して設けられ、レジストローラ対43は、記録媒体2、5を挟んで互いに圧接して設けられている。排出ローラ対44は、定着が完了した記録媒体2、5を排出するローラであり、互いに圧接して設けられている。
【0020】
書き出しセンサ50、排出センサ51、スタックセンサ52は、いずれも記録媒体2、5の各搬送経路における通過を認識するメカセンサである。
尚、記録媒体が定着部材を通過したことを検知するセンサとしてのスタックセンサ52は、記録媒体2、5が、装置から排出されたことを認識するためのメカセンサであるが、書き出しセンサ50もしくは排出センサ51による検出結果に遅延時間を加えることで代用可能であり、必須ではない。
【0021】
図3は、本発明の実施形態1に係るプリンタ1に収容されている制御部601の内部構成を示すブロック図である。
図3に示されるように、制御部601は、例えば、メモリ内蔵のマイクロプロセッサで構成され、温度検出部61と、温度変化率算出部62と、温度設定部63と、通電制御部64と、により構成される。前記した温度検出部61と、温度変化率算出部62と、温度設定部63と、通電制御部64は、いずれもマイクロプロセッサがメモリに記録されたプログラムを逐次読み出し実行することにより、以下に説明するそれぞれが有する機能を実行する。
【0022】
温度検出部61は、電圧と温度との関係が予め設定登録されている電圧・温度変換テーブルを保持しており、温度検出素子31によって検出された電圧を温度に変換し、当該温度を定着ローラ32の表面温度として温度変化率算出部62へ出力する。温度変化率算出部62は、温度検出部61から出力された現在の温度と直前に出力された温度とから温度変化率を算出して通電制御部64へ出力する。温度設定部63は、記録媒体の種類や印刷速度毎に目標とすべき温度が予め設定登録された目標温度テーブルを保持しており、印刷命令中に含まれる記録媒体の種類や印刷速度を認識し、それらに対応する目標温度並びに上限及び下限温度から成る目標温度範囲を目標温度テーブルから読み取り、この目標温度及び目標温度範囲を通電制御部64へ出力する。
【0023】
通電制御部64は、温度検出部61により出力される現在の温度と、温度設定部63により出力される目標温度範囲とを比較し、現在の温度が目標温度範囲よりも低い場合は目標温度に近づくようにヒータ34の通電をONして、定着ローラ32の表面温度を上昇させるウォームアップ処理を行う。また、通電制御部64は、現在の温度が目標温度範囲よりも高い場合は、目標温度に近づくようにヒータ34の通電をOFFして、定着ローラ32の表面温度を下降させるクールダウン制御を行う。
また、通電制御部64は、温度変化率算出部62から出力される温度変化率を監視し、この温度変化率が所定値以上である場合には、定着ローラ32の温度が目標温度範囲より低くても熱源(ヒータ34)への通電を行わないように制御する。
【0024】
図4は、図3に示した制御部601の動作を示すフローチャートである。以下、図4に示すフローチャートを参照しながら、制御部601の動作について詳細に説明する。
制御部601は、まず、温度設定部63が印刷命令の有無を判定し(ステップS401)、印刷命令が無い場合は(ステップS401“No”)、通電制御部64の通電制御モードを待機制御モードに移行させる(ステップS402)。
一方、印刷命令が有る場合は(ステップS401“Yes”)、温度設定部63が、目標温度テーブルを参照して、印刷する条件に該当する目標温度(例えば、Tm1)と上限及び下限温度から成る目標温度範囲を読み出し、その目標温度及び目標温度範囲を通電制御部64へ出力する(ステップS403)。
【0025】
次に、通電制御部64は、温度検出部61によって検出される現在の定着ローラ32の表面温度が、温度設定部63から出力された目標温度範囲内に存在して印刷可能な状態にあるか否かを判定する(ステップS404)。ここで、印刷不可であると判定された場合(ステップS404“No”)、通電制御部64は、定着ローラ32の表面温度が前記目標温度範囲内に入るまで、ウォームアップまたはクールダウン処理を繰り返し実行し(ステップS405)、定着ローラ32の表面温度が前記目標温度範囲内に入って印刷可能であると判定されると、通電制御部64を印刷制御モードに移行させて印刷処理を実行する(ステップS406)。この印刷制御モードにおいては、通電制御部64は、一連の記録媒体への定着作業が完了するまでの間、例えば、現在と過去の定着ローラ32の表面温度を監視してPID(Proportional-Integral-Derivative)制御により熱源(ヒータ34)の点灯デューティを制御して、表面温度を前記範囲内に維持する。
【0026】
印刷処理の実行が終了すると、温度設定部63は、次の印刷命令の有無を判定し(ステップS407)、次の命令が無い場合(ステップS407“No”)、通電制御部64を待機制御モードに移行させ(ステップS408)、最初に戻って次の印刷命令を待つ。
一方、次の印刷命令が有る場合(ステップS407“Yes”)、温度設定部63は、記録媒体の種類や印刷速度の変更に伴う目標温度の切替えの有無を判定し(ステップS409)、目標温度の切替えが無い場合(ステップS409“No”)は、ステップS406に戻って通電制御部64を印刷制御モードに移行させる。目標温度の切替えが有る場合(ステップS409“Yes”)には、スタックセンサ52の出力を監視して最終記録媒体が排出されたことを確認したら、新たな目標温度(例えば、Tm2)と目標温度範囲を通電制御部64へ出力する(ステップS410)。
【0027】
次に、温度変化率算出部62は、温度検出部61により検出された現在の温度と直前の温度とから温度変化率を算出して通電制御部64へ出力し、通電制御部64は、温度変化率算出部62から出力された温度変化率が所定値(St)未満であるか否かを判定する(ステップS411)。ここで、所定値未満でないと判定された場合(ステップS411“No”)、通電制御部64は、ヒータ34の通電をOFFし(ステップS412)、定着ローラ32の表面温度がオーバーシュートするのを防ぐ。
一方、温度変化率が所定値(St)未満であると判定された場合(ステップS411“Yes”)、通電制御部64は、ステップS404に戻って前記した処理を実行する。
【0028】
図5は、本発明の実施形態1に係る画像形成装置(プリンタ1)の動作例を示すタイムチャートであり、印刷開始から目標温度の切替えが発生して印刷が完了するまでの、(a)定着ローラ32の表面温度、(b)定着ローラ32の表面温度変化率、(c)ヒータ34の通電信号、(d)スタックセンサ52の出力信号、(e)通電制御部64の通電制御モード、のそれぞれが示されている。
【0029】
図5のタイムチャートにおいて、時刻T201で、印刷命令により通電制御部64は待機制御モードから印刷制御モードへ移行する。
ここでは、温度設定部63によって出力される目標温度Tm1は、待機状態中の目標温度と同じく例えば170℃であったものと仮定する(図4のステップS403)。時刻T201では、温度検出部61により検出された現在の温度が、目標温度Tm1を基準に設定される上限温度(例えば185℃)と下限温度(例えば160℃)から成る目標温度範囲内に存在するため直ちに印刷制御モードに移行して一連の記録媒体に対する印刷処理が実行される(図4のステップS406)。
【0030】
次に、時刻T202で温度設定部63が次の印刷命令に対応して目標温度の切替えを行い、通電制御部64に目標温度Tm2(例えば180℃)を設定したものとする(図4のステップS410)。
温度変化率算出部62は、温度検出部61により検出された直前の温度と現在の温度とから温度変化率を算出して通電制御部64へ出力し、通電制御部64は、温度変化率算出部62から出力された温度変化率が所定値St(例えば、1℃/s)未満であるか否かを判定する(図4のステップS411)。この例では所定値St(1℃/s)を超えているため、熱源(ヒータ34)に対する通電をOFFする(図4のステップS412)。即ち、通電制御部64は、目標温度Tm2より現在の温度が低くてもヒータ34に通電を行なわないように制御する。
【0031】
次に、時刻T203で、温度変化率算出部62が算出した温度変化率が所定値St(1℃/s)未満であると判定された場合、検出された温度が目標温度範囲内にあるか否かを判定し(図4のステップS404)、この例では、現在の温度が目標温度範囲内にあるので、通電制御部64は印刷制御モードに移行して印刷処理が実行され(図4のステップS406)、時刻T204でトナー像が転写された記録媒体2、5が定着器30に搬入され、熱と圧力によって記録媒体2、5にトナーが定着される。
【0032】
以上説明したように、温度変化率が所定値(St)を上回っている時刻T202から時刻T203までの間、通電制御部64が、ヒータ34に対する通電をOFFすることにより、定着ローラ32の表面温度のオーバーシュートを抑止している。
【0033】
[実施形態2]
本発明による画像形成装置の実施形態2に係るプリンタの機構と定着部の機構は、図1及び図2に示した前記実施形態1に係るプリンタ1と同一であるので、重複する部分は説明を省略し、前記実施形態1との違いを中心に説明する。
【0034】
図6は、本発明による画像形成装置の実施形態2に係るプリンタに収容されている制御部602の内部構成を示すブロック図である。図6と図3とを比較して分かるように、図6に示した制御部602は、図3に示した前記実施形態1に係る制御部601に、温度変化率比較演算部65を付加した構成となっている。この温度変化率比較演算部65は、温度変化率算出部62が直前に算出した温度変化率と現在の温度変化率とから、温度変化率の変化率、即ち、表面温度の二階微分値を算出して通電制御部64へ出力する機能を有する。また、通電制御部64は、この温度変化率比較演算部65から出力される前記二階微分値を用いてヒータ34の制御を行う。その他の構成要素に関しては前記実施形態1と同様であるので説明を省略する。
【0035】
制御部602の動作は、図4に示した制御部601の動作の一部を変更したものとなる。図7には、変更部分のフローチャートのみを示している。以下、図4及び図7に示すフローチャートを参照しながら、制御部602の変更部分の動作について詳細に説明する。
【0036】
図4のステップS410において、目標温度がTm2に変更されると、次に、通電制御部64は、温度変化率比較演算部65から出力される表面温度の二階微分値が0以下か否かを判定する(ステップS701)。前記の値が0以下でなければ(ステップS701“No”)、その値が0以下になるまでクールダウン処理を繰り返し実行する(ステップS702)。また前記の値が0以下であれば(ステップS701“Yes”)、通電制御部64は、温度検出部61により検出される現在の温度と、温度変化率算出部62から出力される現在の温度変化率と、から、記録媒体が定着器30に到達する時点での、定着ローラ32の表面温度の最大値を予測し、その値が目標温度範囲内にあるか否かを判定する(ステップS703)。即ち、通電制御部64は、定着ローラ32の表面温度の温度変化率の上昇が終わるのを待ってから印刷可能性の判定を行う。
【0037】
このとき、温度変化率の上昇が終わるのを待つ理由は、現在の温度変化率から所定時間経過後の最大温度を予測する際に、実際の温度の方が高くなってしまうことがないようにするためである。
【0038】
そして、予測した表面温度の最大値が目標温度範囲内になければ(ステップS703“No”)、その値が目標温度範囲内に入るまでウォームアップまたはクールダウン処理を繰り返し実行する(ステップS704)。また、予測した表面温度の最大値が目標温度範囲内にあれば(ステップS703“Yes”)、印刷可能な状態にあると判定して印刷制御モードに移行して印刷処理を実行し(図4のステップS406)、以後同様の処理を繰り返す。
【0039】
尚、印刷可能性を判定するにあたっては、定着ローラ32の現在の温度と、温度変化率とから、記録媒体が定着器30に到達する時点の最大温度を予測する代わりに、事前に計測された定着ローラ32の時間軸に対する温度変化特性を利用して最大温度を予測してもよい。また、過去と現在の温度変化率から未来の温度変化率を予測して印刷可能性を判定する方法もあるが、ここでは、未来の温度変化率を予測する処理を省き、制御を簡素化している。
【0040】
図8は、本発明の実施形態2に係る画像形成装置の動作例を示すタイムチャートであり、印刷開始から目標温度の切替えが発生して印刷が完了するまでの、(a)定着ローラ32の表面温度、(b)定着ローラ32の表面温度変化率、(c)定着ローラ32の表面温度の二階微分値、(d)ヒータ34の通電信号、(e)スタックセンサ52の出力信号、(f)通電制御部64の通電制御モード、のそれぞれが示されている。
【0041】
図8のタイムチャートにおいて、制御部602は、まず、時刻T301で温度設定部63が目標温度の切替えを行い、通電制御部64に目標温度Tm2(例えば180℃)を設定したものとする(図4のステップS410)。
【0042】
次に、通電制御部64は、温度変化率比較演算部65によって算出される表面温度の二階微分値が0以下ではないので、クールダウン処理を行い(図7のステップS702)、時刻T302で前記二階微分値が0以下になった時点で、記録媒体2、5が定着器30に搬入されるときの表面温度の最大値を予測し、その値が目標温度範囲の上限温度(例えば195℃)以下であると判定されるため(ステップS703“Yes”)、通電制御モードを印刷制御モードに移行して直ちに印刷処理を開始する(図4のステップS406)。
【0043】
その後、時刻T303で定着器30にトナー像が転写された記録媒体2、5が搬入され、熱と圧力によって定着される。
【0044】
以上説明したように、通電制御部64が、表面温度の二階微分値が正となっている時刻T301から時刻T302までの間、クールダウン処理を実行してヒータ34に対する通電をOFFすることにより、定着ローラ32の表面温度のオーバーシュートを抑止している。
【0045】
尚、前記した図3及び図6に示す制御部601及び602が有する機能は、すべてをソフトウェアによって実現しても、あるいは少なくともその一部をハードウェアで実現してもよい。
【0046】
例えば、通電制御部64が、温度検出部61により検出された表面温度の変化率を算出し、当該温度変化率が所定値以上のときには、定着ローラ32の表面温度が目標温度範囲に到達していなくてもヒータ34への通電を行わないように制御するデータ処理は、1または複数のプログラムによりコンピュータ上で実現してもよく、少なくともその一部をハードウェアで実現してもよい。
【0047】
また、前記した本発明の実施形態1及び実施形態2に係る画像形成装置では、プリンタへの適用例を説明したが、プリンタに限らず、MFP(Multi Function Peripheral)、ファクシミリ、複写装置にも同様に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施形態1に係る画像形成装置(プリンタ)の断面構造図である。
【図2】画像形成装置(プリンタ)が有する定着部の構造を示す斜視図である。
【図3】実施形態1に係る制御部の内部構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態1に係る制御部の動作を示すフローチャートである。
【図5】実施形態1に係る画像形成装置(プリンタ)の動作を示すタイムチャートである。
【図6】実施形態2に係る制御部の内部構成を示すブロック図である。
【図7】実施形態2に係る制御部の動作を示すフローチャートである。
【図8】実施形態2に係る画像形成装置(プリンタ)の動作を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0049】
1 プリンタ(画像形成装置)
2,5,7 記録媒体
30 定着器
32 定着ローラ(定着部材)
34 ヒータ(熱源)
52 スタックセンサ(センサ)
61 温度検出部
62 温度変化率算出部
63 温度設定部
64 通電制御部
65 温度変化率比較演算部
601,602 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源により加熱される定着部材と、
前記定着部材の温度を検出する温度検出部と、
記録媒体の種類に対応して設定された目標温度範囲内に、前記温度検出部により検出される温度を維持するよう前記熱源に対する供給電力を制御する通電制御部と
を有する画像形成装置において、
前記通電制御部は、
前記記録媒体の種類の切替えに対応して前記目標温度範囲が以前よりも高く設定されてから、前記温度検出部により検出される温度の変化率が所定値を下回るまで、前記熱源に電力供給を行わないよう制御する
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記記録媒体が前記定着部材を通過したことを検知するセンサを備え、
前記通電制御部は、
前記センサにより先行する記録媒体が前記定着部材を通過したことを検知したとき、後続の記録媒体の種類に対応する前記目標温度範囲を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
熱源により加熱される定着部材と、
前記定着部材の温度を検出する温度検出部と、
記録媒体の種類に対応して設定された目標温度範囲内に、前記温度検出部により検出される温度を維持するよう前記熱源に対する供給電力を制御する通電制御部と
を有する画像形成装置において、
前記通電制御部は、
前記記録媒体の種類の切替えに対応して前記目標温度範囲が以前よりも高く設定されてから、前記温度検出部により検出される温度の二階微分値が0以下となるまで、前記熱源に電力供給を行わないよう制御する
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
前記通電制御部は、
前記記録媒体の種類の切替えに対応して前記目標温度範囲が以前よりも高く設定された後に、前記温度検出部により検出される温度の二階微分値が0以下となったとき、
前記温度検出部により検出される温度とその変化率とにより予測された、前記記録媒体の到着予定時刻における前記定着部材の最大温度に基づいて、
前記熱源に対する供給電力を制御する
ことを特徴とする請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記記録媒体が前記定着部材を通過したことを検知するセンサを備え、
前記通電制御部は、
前記センサにより先行する記録媒体が前記定着部材を通過したことを検知したとき、後続の記録媒体の種類に対応する前記目標温度範囲を設定する
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−113256(P2010−113256A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287264(P2008−287264)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(591044164)株式会社沖データ (2,444)
【Fターム(参考)】